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特許7590618導電性インキおよびその製造方法、導電性印刷物、導電体およびその製造方法、ならびに電子デバイス
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  • 特許-導電性インキおよびその製造方法、導電性印刷物、導電体およびその製造方法、ならびに電子デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】導電性インキおよびその製造方法、導電性印刷物、導電体およびその製造方法、ならびに電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20241119BHJP
   C09D 11/02 20140101ALI20241119BHJP
   C09D 11/10 20140101ALI20241119BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20241119BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H01B1/22 A
C09D11/02
C09D11/10
C09D11/52
H05K1/09 A
H05K1/09 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2024126985
(22)【出願日】2024-08-02
【審査請求日】2024-08-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 忠司
(72)【発明者】
【氏名】佐久 惟
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-231059(JP,A)
【文献】特開2016-146319(JP,A)
【文献】国際公開第2012/029650(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
C09D 11/02
C09D 11/10
C09D 11/52
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粒子と、樹脂とを含み、可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材への印刷に用いられる導電性インキであって、
前記銀粒子は、連鎖状であって、粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である、導電性インキ。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子のタップ密度が1.3g/cm以上、1.6g/cm以下である、導電性インキ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子の比表面積(BET法)が3.5m/g以上、5.5m/g以下である、導電性インキ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子のレーザー回折法による体積基準の積算分率における累積50%に相当する粒径(平均粒径D50)が4.5μm以上、6.5μm以下である、導電性インキ。
【請求項5】
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子の前記結晶子サイズ(nm)に対する前記銀粒子のレーザー回折法による体積基準の積算分率における累積50%に相当する粒径(平均粒径D50;μm)の比が0.12以上、0.30以下である、導電性インキ。
【請求項6】
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記樹脂は、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及び熱可塑エラストマーからなる群の中から選ばれる1種または2種以上を含む、導電性インキ。
【請求項7】
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子は、前記結晶子サイズが25nm以上、30nm以下の銀粒子(A1)と、前記結晶子サイズが30nm超、50nm以下の銀粒子(A2)と、を含む混合物である、導電性インキ。
【請求項8】
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子は、比表面積(BET法)が4m/g超、6m/g以下の銀粒子(B1)と、比表面積(BET法)が2m/g以上、4m/g以下の銀粒子(B2)と、を含む混合物である、導電性インキ。
【請求項9】
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子の含有量は、前記導電性インキ全量(固形分量)に対し、70質量%以上、90質量%以下である、導電性インキ。
【請求項10】
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
スクリーン印刷に用いられる、導電性インキ。
【請求項11】
請求項1または2に記載の導電性インキを用いた導電性印刷物。
【請求項12】
可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材と、当該基材上に印刷された請求項1または2に記載の導電性インキとを備える、導電体。
【請求項13】
請求項12に記載の導電体を備える、電子デバイス。
【請求項14】
銀粒子と、樹脂とを含み、可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材への印刷に用いられる導電性インキの製造方法であって、
前記銀粒子と、前記樹脂とを混合する工程を含み、
前記銀粒子は、連鎖状であって、粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である、導電性インキの製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の導電性インキの製造方法であって、
前記混合する工程において、
前記結晶子サイズが25nm以上、30nm以下の銀粒子(A1)と、前記結晶子サイズが30nm超、50nm以下の銀粒子(A2)と、前記樹脂とを混合する、導電性インキの製造方法。
【請求項16】
導電体の製造方法であって、
可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材上に、請求項1または2に記載の導電性インキを印刷する工程と、
前記印刷により得られた印刷膜を乾燥することで導電性膜を得る工程と、
を含む、導電体の製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の導電体の製造方法であって、
前記導電性インキを印刷する工程においてスクリーン印刷法を用いる、導電体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性インキおよびその製造方法、導電性印刷物、導電体およびその製造方法、ならびに電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀粒子やカーボン粒子等の導電性粒子を、バインダー樹脂および溶剤などとともに混練してペースト状とした導電性インキが知られる。かかる導電性インキを基材などに印刷することで所望の回路を簡便かつ高精度に作成することができる。
ここで、特許文献1(特開2022-99275号公報)に開示されるような従来の導電性インキは、基材に印刷した後に焼結処理を行うことで、インキ被膜中の媒体(インキ溶媒)を蒸発乾燥させるとともに導電性粒子を固めている。
【0003】
一方で、伸縮性を有する基材と組み合わせて使用できる導電性インキの開発が着目されている。この場合、導電性インキは、基材の伸縮に追従できるものであり、伸長時、収縮時のいずれにおいても良好な導電性が得られることが求められる。
【0004】
例えば、特許文献2(特開2023-93906号公報)には、伸長時の樹脂のクラックの発生を抑制することによる繰り返し伸縮耐性などを得るために、重量平均分子量が20,000以上500,000以下である、エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を主体とするブロック共重合体(E)と、導電性微粒子(F)と、を含む導電性組成物であって、前記導電性微粒子(F)の含有率が、導電性組成物に含まれる全固形分量に対して、60~95質量%であり、前記導電性微粒子(F)のうち、連鎖状銀粉(f1)の含有率が、前記導電性組成物の全固形分に対して、20質量%以上70質量%未満であり、前記連鎖状銀粉(f1)のタップ密度が2.0g/cm以下である、導電性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-99275号公報
【文献】特開2023-93906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される導電性インキは焼結処理を伴うものであるため、仮に伸縮性基材に適用した場合であったとしても導電性インキが伸縮に追従できず、良好な導電性を維持することができなかった。
【0007】
本発明者は、可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材への印刷に用いられる導電性インキの開発に着目した。
ここで、導電性インキは、伸縮等により、導電性粒子の電気的連鎖が途切れない範囲でバインダー樹脂が変形することで導電性が維持されるよう構成される。一方で、導電性インキは、伸長時と収縮時によって導電性が変動(抵抗値の値が変化)し、また、繰り返し伸縮されることによっても、導電性が低下することが知られる。
そこで、特許文献2に開示される技術は、導電性組成物を用いた試験片(ストレッチャブル導電材)の初期の抵抗値と、伸縮を1000回繰り返したのちの非伸縮の状態で測定した抵抗値とを対比し、繰り返し伸縮耐性に優れた導電性インキを得ることに着目している。
【0008】
しかしながら、導電性インキが用いられる実際の電子部品では許容できる導電性(抵抗値)の幅が決まっているにもかかわらず、従来の導電性インキでは、伸長時の抵抗値と、収縮時の抵抗値の差分の変化について十分な検討はなされていなかった。
そこで、本件発明者は、導電性インキの伸長時の抵抗値と、収縮時の抵抗値の差分が繰り返し伸縮により大きくなるのを抑制して良好な導電安定性を得るという新たな課題に着目した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、導電性インキの抵抗値と、繰り返し伸縮時の伸長時と収縮時の抵抗値の差分の変化を小さくして良好な導電安定性を得るべく鋭意検討を行ったところ、連鎖状の銀粒子を用い、かつ銀微粒子の粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズを制御することが有効であることを知見し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明によれば、以下の導電性インキおよびこれに関する技術が提供される。
【0011】
[1] 銀粒子と、樹脂とを含み、可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材への印刷に用いられる導電性インキであって、
前記銀粒子は、連鎖状であって、粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である、導電性インキ。
[2] [1]に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子のタップ密度が1.3g/cm以上、1.6g/cm以下である、導電性インキ。
[3] [1]または[2]に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子の比表面積(BET法)が3.5m/g以上、5.5m/g以下である、導電性インキ。
[4] [1]乃至[3]いずれか一つに記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子のレーザー回折法による体積基準の積算分率における累積50%に相当する粒径(平均粒径D50)が4.5μm以上、6.5μm以下である、導電性インキ。
[5] [1]乃至[4]いずれか一つに記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子の前記結晶子サイズ(nm)に対する前記銀粒子のレーザー回折法による体積基準の積算分率における累積50%に相当する粒径(平均粒径D50;μm)の比が0.12以上、0.30以下である、導電性インキ。
[6] [1]乃至[5]いずれか一つに記載の導電性インキにおいて、
前記樹脂は、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及び熱可塑エラストマーからなる群の中から選ばれる1種または2種以上を含む、導電性インキ。
[7] [1]乃至[6]いずれか一つに記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子は、前記結晶子サイズが25nm以上、30nm以下の銀粒子(A1)と、前記結晶子サイズが30nm超、50nm以下の銀粒子(A2)と、を含む混合物である、導電性インキ。
[8] [1]乃至[7]いずれか一つに記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子は、比表面積(BET法)が4m/g超、6m/g以下の銀粒子(B1)と、比表面積(BET法)が2m/g以上、4m/g以下の銀粒子(B2)と、を含む混合物である、導電性インキ。
[9] [1]乃至[8]いずれか一つに記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子の含有量は、前記導電性インキ全量(固形分量)に対し、70質量%以上、90質量%以下である、導電性インキ。
[10] [1]乃至[9]いずれか一つに記載の導電性インキにおいて、
スクリーン印刷に用いられる、導電性インキ。
[11] [1]乃至[10]いずれか一つに記載の導電性インキを用いた導電性印刷物。
[12] 可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材と、当該基材上に印刷された[1]乃至[10]いずれか一つに記載の導電性インキとを備える、導電体。
[13] [12]に記載の導電体を備える、電子デバイス。
[14] 銀粒子と、樹脂とを含み、可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材への印刷に用いられる導電性インキの製造方法であって、
前記銀粒子と、前記樹脂とを混合する工程を含み、
前記銀粒子は、連鎖状であって、粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である、導電性インキの製造方法。
[15] [14]に記載の導電性インキの製造方法であって、
前記混合する工程において、
前記結晶子サイズが25nm以上、30nm以下の銀粒子(A1)と、前記結晶子サイズが30nm超、50nm以下の銀粒子(A2)と、前記樹脂とを混合する、導電性インキの製造方法。
[16] 導電体の製造方法であって、
可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材上に、[1]乃至[10]いずれか一つに記載の導電性インキを印刷する工程と、
前記印刷により得られた印刷膜を乾燥することで導電性膜を得る工程と、
を含む、導電体の製造方法。
[17] [16]に記載の導電体の製造方法であって、
前記導電性インキを印刷する工程においてスクリーン印刷法を用いる、導電体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、伸縮されたとしても良好な導電安定性が得られる導電性インキを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の導電性安定の評価における引張試験の伸縮サイクルで測定された非伸長時と伸長時の抵抗値を順に結んだグラフ図である。
図2】比較例2の導電性安定の評価における引張試験の伸縮サイクルで測定された非伸長時と伸長時の抵抗値を順に結んだグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。また、数値範囲の下限値及び上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値及び上限値と任意に組み合わせられる。
【0015】
本明細書に例示する各成分及び材料は、特に断らない限り、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0017】
本明細書において、銀粒子の結晶子サイズは、CuKα線を線源とした粉末X線回折法による測定から、面指数(1,1,1)面ピークの半値幅β(rad)を求め、以下の、Scherrerの式(1)を用いて算出される値とする。
D=Kλ/(βcosθ) (1)(但し、K;Scherrer定数、λ;使用X線の波長)
D:結晶子サイズ
K:Scherrer定数=0.94
λ:使用X線の波長、CuKα線 0.154nm
θ:ブラッグ角(rad)
【0018】
本明細書において、銀粒子の比表面積は、BET法により測定される値とする。
【0019】
本明細書において、銀粒子の平均粒径D50は、JIS R 1629:1997に準拠した粒子のレーザー回折散乱法による体積基準の積算分率における累積50%に相当する粒径をいう。溶媒には蒸留水を使用し、装置標準付属の試料循環器で粉末を超音波で分散処理をした後、粒子径を測定する。
【0020】
本明細書において、銀粒子のタップ密度は、容量20cmのセル容器に銀粉を15g投入し、タップストロークを10mm、タッピング回数を1500回したときの嵩(体積)から測定される値とする。装置としては、機能型粉体物性測定器 マルチテスターMT-1000(セイシン企業社製)を用いることができる。
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
<導電性インキ>
本実施形態の導電性インキは、銀粒子と、樹脂とを含み、可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材への印刷に用いられ、前記銀粒子は、連鎖状であって、粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である。これにより、本実施形態の導電性インキを用いた導電性印刷物の伸長時および収縮時のいずれにおいても良好な導電性が得られる。
【0023】
かかる理由の詳細は明らかではないが、次のように推測される。
まず、伸縮性導電性インキ中の導電粒子は焼結されず、バインダー樹脂とともに伸縮性基材に追従できるように設計されている。
しかし、従来の導電性インキを用いた導電性印刷物を長期にわたり繰り返し伸縮させて使用した場合、伸長によって導電粒子とバインダー樹脂とが剥離してボイド(真空ボイド)が発生し、さらに伸縮を繰り返した際には、当該ボイドも伸ばされる結果、導電粒子間の接点が離れ、抵抗値が大きくなる傾向があった。
これに対し、本発明者らは鋭意検討を行ったところ、特定結晶子サイズの連鎖状の銀粒子を用いることで、上記のボイドの発生を効果的に抑えることができ、収縮時と伸長時のいずれにおいても安定した導電性が保持されることを見出した。
すなわち、銀粒子を特定の結晶子サイズの連鎖状とすることで、銀粒子同士の粒子間の凝集力が働くため、収縮時と伸長時のいずれにおいても銀粒子間の接点を維持しやすくなることにより、ボイドの発生が抑制される結果、低体積抵抗率を得つつも、良好な導電安定性が得られ、両者のバランスを高水準に実現できると考えられる。
【0024】
本実施形態において、導電性インキ中の銀粒子は粒子群であり、後述する銀粒子の物性は粒子群の平均値である。
【0025】
(連鎖状)
本実施形態において、導電性インキに含まれる銀粒子は、連鎖状である。連鎖状とは、粒子が連なってある程度凝集した状態であり、連鎖する方向、長さ、数などは特に限定されない。また連鎖状の銀粒子としては、一連に連鎖するもの、分岐を有するもののいずれであってもよいが、中でも樹枝状に分岐しているものが好ましい。また、多数の凝集塊が集まる葡萄の房状であってもよい。
銀粒子が、連鎖状であることは、走査型電子顕微鏡により確認することができる。
【0026】
(結晶子サイズ)
銀粒子の粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズは、25nm以上、37nm以下である。
これにより、導電性インキの伸長時と、収縮時とで導電性が変化する程度を低減でき、その結果、良好な導電安定性が得られる。
【0027】
銀粒子の結晶子サイズは、好ましくは26nm以上であり、より好ましくは27nm以上である。
一方、銀粒子の結晶子サイズは、好ましくは36nm以下であり、より好ましくは35nm以下である。
銀粒子の結晶子サイズを上記下限値以上とすることで、銀粒子の導電性を向上できる。
一方、銀粒子の結晶子サイズを上記上限値以下とすることで、銀粒子間に存在する樹脂の変形・変動を抑制できるため、樹脂の変形・変動によって生じるボイドを低減でき、伸長に対する良好な導電性を保持しやすくなる。
【0028】
(タップ密度)
本実施形態において、連鎖状の銀粒子は多数の凝集塊が集まり葡萄の房状であることから、嵩高い傾向があるため、銀粒子のタップ密度が低いことは、銀粒子が嵩高い傾向にあり、銀粒子が連鎖状であることを意図する。
銀粒子のタップ密度は、好ましくは1.3g/cm以上であり、より好ましくは1.4g/cm以上である。
一方、銀粒子のタップ密度は、好ましくは1.6g/cm以下であり、より好ましくは1.5g/cm以下である。
銀粒子のタップ密度を上記下限値以上とすることで、導電性インキ中での銀粒子の密度が向上し、導電性を向上しやすくなる。一方、銀粒子のタップ密度を上記上限値以下とすることで、伸縮に対する銀粒子の追従性が得られ、良好な導電安定性が得られる。
【0029】
(比表面積)
銀粒子の比表面積は、好ましくは3.5m/g以上であり、より好ましくは3.6m/g以上である。
一方、銀粒子の比表面積は、好ましくは5.5m/g以下であり、より好ましくは5.4m/g以下である。
銀粒子の比表面積を上記下限値以上とすることで、伸縮時のボイドの発生を抑制でき、導電安定性を向上できる。一方、銀粒子の比表面積を上記上限値以下とすることで、体積抵抗率の上昇を抑制することができる。
【0030】
(平均粒径D50)
銀粒子の平均粒径D50は、好ましくは4.5μm以上であり、より好ましくは4.6μm以上である。
一方、銀粒子の平均粒径D50は、好ましくは6.5μm以下であり、より好ましくは6.3μm以下である。
銀粒子の平均粒径D50を上記下限値以上とすることで、良好な導電安定性を保持しつつ、導電性を向上できる。
一方、銀粒子の平均粒径D50を上記上限値以下とすることで、体積抵抗率の上昇を抑制し、良好な導電性を保持できる。
【0031】
また本実施形態において、銀粒子の前記結晶子サイズ(nm)に対する前記銀粒子のレーザー回折法による体積基準の積算分率における累積50%に相当する粒径(平均粒径D50;μm)の比(平均粒径D50(μm)/結晶子サイズ(nm))が、好ましくは0.12~0.30であり、より好ましくは0.13~0.25であり、さらに好ましくは0.14~0.22である。
当該比(平均粒径D50(μm)/結晶子サイズ(nm))を上記下限値以上とすることによりボイドの発生が抑えられ、導電安定性が得られる。
一方、比(平均粒径D50(μm)/結晶子サイズ(nm))を上記上限値以下とすることにより安定した導電性が得られる。
【0032】
上記の結晶子サイズ、比表面積、タップ密度、平均粒径D50となる銀粒子を実現するためには、銀粒子の種類を選択すること等が重要となる。例えば、結晶子サイズが異なる銀粒子を複数選択したり、比表面積が異なる銀粒子を複数選択したり、各種銀粒子の含有量を調整することが好ましい。
【0033】
また、銀粒子は、結晶子サイズが25nm以上、30nm以下の銀粒子(A1)と、結晶子サイズが30nm超、50nm以下の銀粒子(A2)と、を含む混合物であってもよい。これにより、導電性と追従性のバランスを高度に制御でき、より高い導電安定性が得られる。
また、結晶子サイズが異なる銀粒子を用いることで、伸長時に銀粒子(A2)の隙間を埋めるように銀粒子(A1)が作用し、銀粒子同士の接点を補完し合い、良好な導電性が得られやすくなる。
【0034】
この場合、銀粒子(A1)の結晶子サイズは、より好ましくは26nm以上、29nm以下であり、さらに好ましくは、27nm以上、28nm以下である。
銀粒子(A2)の結晶子サイズは、より好ましくは35nm以上、45nm以下であり、さらに好ましくは結晶子サイズが39nm以上、41nm以下である。
【0035】
また、銀粒子(A1)と銀粒子(A2)の質量割合(銀粒子(A1):銀粒子(A2))は、90:10~30:70であることが好ましく、80:20~40:60であることがより好ましく、75:25~50:50であることがさらに好ましい。
【0036】
また、銀粒子は、比表面積が4m/g超、6m/g以下の銀粒子(B1)と、比表面積が2m/g以上、4m/g以下の銀粒子(B2)と、を含む混合物であってもよい。
これにより、導電性と追従性のバランスを高度に制御でき、より高い導電安定性が得られる。
【0037】
この場合、銀粒子(B1)の比表面積は、より好ましくは5.2m/g以上、5.6m/g以下である。
銀粒子(B2)の比表面積は、より好ましくは2.1m/g以上、2.8m/g以下であり、さらに好ましくは2.3m/g以上、2.5m/g以下である。
【0038】
また、銀粒子(B1)と銀粒子(B2)の質量割合(銀粒子(B1):銀粒子(B2))は、90:10~30:70であることが好ましく、80:20~40:60であることがより好ましく、75:25~50:50であることがさらに好ましい。
【0039】
銀粒子の含有量は、導電性インキ全量(固形分量)に対し、好ましくは、70質量%以上、90質量%以下であり、より好ましくは75質量%以上、85質量%以下であり、さらに好ましくは78質量%以上、82質量%以下である。
銀粒子の含有量を、上記下限値以上とすることにより、伸長時の導通を保持できる。一方、銀粒子の含有量を、上記上限値以下とすることにより、伸長時の印刷膜のクラック発生を抑制できる。
【0040】
[樹脂]
樹脂を用いることで、導電性インキの取扱性を向上し、所望の印刷物を得られやすくする。また、導電性インキに伸縮性を付与することができる。
【0041】
樹脂としては、可塑性または伸縮性を有すれば特に限定されず、導電性インキとして公知のものを用いることができる。具体的に、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂及び熱可塑エラストマーからなる群の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。なかでもアクリル樹脂が好ましい。
【0042】
(その他)
また、本実施形態の導電性インキは、上記銀粒子、および樹脂以外に、用途等に応じて、溶媒、フィラー、顔料、シランカップリング剤、レベリング剤、チキソトロピック剤、及び消泡剤等の公知の添加剤をさらに含むことができる。
【0043】
[製造方法]
本実施形態の導電性インキの製造方法は、上記の銀粒子と、樹脂と、その他の任意の成分とを、混合する工程を含む。当該銀粒子は、連鎖状であって、粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である。
また、銀粒子として、結晶子サイズが25nm以上、30nm以下の銀粒子(A1)と、結晶子サイズが30nm超、50nm以下の銀粒子(A2)とを用い、樹脂とともに混合してもよい。
また、上記の銀粒子として、比表面積が4m/g超、6m/g以下の銀粒子(B1)と、比表面積が2m/g以上、4m/g以下の銀粒子(B2)とを用い、樹脂とともに混合してもよい。
【0044】
混合方法は、特に限定されないが、例えば、流星型撹拌機、ディソルバー、ビーズミル、ライカイ機、三本ロールミル、回転式混合機、又は二軸ミキサー等の公知の混合機に投入し、混合することができる。
【0045】
[特性、用途]
本実施形態の導電性インキは、伸縮および可撓に対する良好な導電安定性が得られるため、伸縮性および可撓性の少なくとも一方を有する基材への印刷に用いられることが好適である。
また、印刷方法としては、スクリーン印刷に用いられることが好適である。
【0046】
上記の伸縮性および可撓性の少なくとも一方を有する基材は、一部または全体において、伸長および収縮できるものであったり、折り曲げ、折り畳みが可能であるものをいう。なかでも、伸縮や折り曲げ、折り畳みが繰り返しできるものが好ましい。
当該基材としては、フィルム、シート、生地、帯、繊維、織物、不織布、編み物などに加工された樹脂材料;ニトリルゴム、スチレンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、ブチルゴム、および天然ゴムなどの架橋されたゴム材料;紙類;可動部を有する各種部材等が例示できる。
樹脂材料は、具体的には、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)及びシクロオレフィンポリマー等が挙げられる。
【0047】
<導電性印刷物、導電体、電子デバイス>
また、上記導電性インキを用いることで導電性印刷物、伸縮性および可撓性の少なくとも一方を有する基材と、当該基材上に印刷された上記の導電性インキとを備える導電体、および導電体を備える電子デバイスを得ることができる。
導電性印刷物は、被印刷体上に、上記の導電性インキを用いた印刷層を少なくとも備えるものである。被印刷体としては、上記の伸縮性および可撓性の少なくとも一方を有する基材を用いることができる。これにより、良好な導電安定性が得られる。
【0048】
また、本実施形態の導電体の製造方法は、伸縮性および可撓性の少なくとも一方を有する基材上に、上記の導電性インキを印刷する工程と、前記印刷により得られた印刷膜を乾燥することで導電性膜を得る工程と、を含むものである。
【0049】
本実施形態の導電性インキは、焼結処理が施されていないため、可撓性および伸縮性の少なくとも一方を有する基材に対し、良好に追従でき、導電性を維持できる。そのため、耐熱性が低い基材にも適用することができ、導電性印刷物の設計の自由度を高められる。
乾燥は、加熱、送風により行われることが好ましく、加熱温度は80~150℃、加熱時間は10~120分とすることが好ましい。
【0050】
印刷方法としては、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ステンシル印刷法、スクリーンオフセット印刷法、ディスペンサー印刷法、グラビアオフセット印刷法、反転オフセット印刷法、およびマイクロコンタクト印刷法の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられるが、中でも、スクリーン印刷に用いられることが好適である。
スクリーン印刷法においては、例えば、300~650メッシュの微細なメッシュのスクリーンを用いることができる。
【0051】
印刷膜の膜厚は、目的とする導電性等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、例えば、0.5μm以上20μm以下としてもよく、1μm以上15μm以下としてもよい。
【0052】
導電体は、それ自体が製品であってもよいし、部材として用いてもよい。導電体は、例えば、配線、電極などの製品や、電磁波シールド層、放熱層などの部材として利用できる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0054】
次に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0055】
<実施例および比較例>
以下の原料を用いて、導電性インキを調製し、各評価を行った。
[原料]
(銀粒子)
・以下の表1に示す物性を有する銀粒子1~4を準備した。
【0056】
【表1】
【0057】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂1:アクリル系ブロック共重合体(MAM)「クラリティ(登録商標)」(クラレ社製)
【0058】
[導電性インキの作製]
表2に示す割合(質量部)となるように、バインダー樹脂をブチルカルビトールアセテートに溶解させたところに、銀粒子を加え、自転・公転ミキサーで予備混合した。その後、さらに3本ロールミルで混練した。
【0059】
また、走査型電子顕微鏡を用いて導電性インキを観察したところ、いずれの導電性インキにおいても、銀粒子は連鎖状であることが確認された。
【0060】
[評価]
(体積抵抗率)
(i)得られた各導電性インキをガラス基材(スライドガラス;76mm×52mm×1.3mm)にスクリーン印刷により塗工した。塗工後100℃で30分熱処理を行った。印刷膜は膜厚40~50μmとした。
その後、印刷膜について、ロレスタ(Loresta-GP MCP-T610、日東精工アナリテック社製)を用いて4探針法により体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
(導電安定性)
(ii)得られた各導電性インキをポリウレタンフィルム(伸縮性基材:大倉工業社製、ES85、厚さ100μm)上に7号ダンベル試験片の形状に乾燥後の厚さが20μmとなるよう印刷し、印刷後に100℃で80分乾燥を行い、印刷膜を得た。印刷膜形成部をパンチで打ち抜き、これを試験片(7号ダンベル試験片形状)とした。
抵抗計(RM3545、日置電機社製)を接続させた引張試験機(Stency、アクロエッジ社製)を用いて、当該試験片に引張試験を行いながら、当該試験片の抵抗値(Ω)を測定した。
引張試験は50mm/minで20%伸長させた後、50mm/minで除荷する伸縮サイクルを100回繰り返した。
各伸縮サイクルにおいて、非伸長時(除荷状態:初期抵抗値)から20%伸長時(最大抵抗値)への抵抗値(Ω)の変動幅(変動抵抗値:ΔΩ(nは1~100の整数))を測定し、伸縮サイクルの繰り返しにおける変動幅(変動抵抗値:ΔΩ(nは1~100の整数))の変化について評価した。試験片を伸縮に馴染ませるため、1サイクル目は予備引張とした。その後、2サイクル目、100サイクル目の初期抵抗値(Ω)、最大抵抗値(Ω)、変動抵抗値(ΔΩ)については表2に結果を示した。さらに、一例として、図1に、実施例1の導電性安定の評価における引張試験の伸縮サイクルで測定された非伸長時と伸長時の抵抗値を順に結んだグラフ図、図2に、比較例2の導電性安定の評価における引張試験の伸縮サイクルで測定された非伸長時と伸長時の抵抗値を順に結んだグラフ図をそれぞれ示した。
【0062】
(iii)また、2~100回目の伸縮サイクル間での変動抵抗値(ΔΩ)の上昇率A(%)を以下の式により求めた。結果を表2に示す。
上昇率A(%)=(ΔΩ100/ΔΩ)×100
また、一例として、図1に、実施例1の引張試験について、2回目の伸縮サイクルでの変動抵抗値(変動幅)ΔΩと、100回目の伸縮サイクルでの変動抵抗値(変動幅)ΔΩ100を示した。図2に、比較例2の引張試験について、2回目の伸縮サイクルでの変動抵抗値(変動幅)ΔΩと、100回目の伸縮サイクルでの変動抵抗値(変動幅)ΔΩ100を示した。
【0063】
(ボイドの観察)
(iv)上記の導電安定性の評価で行われた伸縮サイクル100回後の試験片の印刷膜の断面について走査型電子顕微鏡(5000倍)により観察した。さらに、試験片を20%延伸させた状態で固定し、伸長方向に対して平行に切断したときの断面について、走査型電子顕微鏡(5000倍)による観察を行った。
これらの観察結果について、以下の基準にしたがい評価した。
・基準
有:少なくともいずれか一方の観察において、ボイドが観察された
無:いずれの観察においても、ボイドが観察されなかった
【0064】
【表2】
【要約】
【課題】伸縮されたとしても良好な導電安定性が得られる導電性インキを提供する。
【解決手段】本発明の導電性インキは、銀粒子と、樹脂とを含み、可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材への印刷に用いられるものであって、前記銀粒子は連鎖状であって、粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である。
【選択図】なし
図1
図2