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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】伝動ベルト及びその製造方法並びに心線
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/08 20060101AFI20241119BHJP
   F16G 1/28 20060101ALI20241119BHJP
   D06M 13/395 20060101ALI20241119BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20241119BHJP
   B29D 29/00 20060101ALI20241119BHJP
   B29C 65/02 20060101ALI20241119BHJP
   B29C 65/48 20060101ALI20241119BHJP
   D06M 13/11 20060101ALN20241119BHJP
【FI】
F16G1/08 A
F16G1/28 E
D06M13/395
D06M13/513
B29D29/00
B29C65/02
B29C65/48
D06M13/11
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024520932
(86)(22)【出願日】2024-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2024013782
【審査請求日】2024-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2023068338
(32)【優先日】2023-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上月 潤二
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-275303(JP,A)
【文献】特開2008-82538(JP,A)
【文献】特開2020-158947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/08
F16G 1/28
D06M 13/395
D06M 13/513
B29D 29/00
B29C 65/02
B29C 65/48
D06M 13/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー製のベルト本体に心線が埋設された伝動ベルトであって、
前記心線は、エポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物とを含有する第1処理剤に浸漬されて加熱された後、シランカップリング剤の水溶液の第2処理剤に浸漬されて加熱される接着処理が施されている伝動ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
前記ベルト本体がポリウレタン組成物で形成されている伝動ベルト。
【請求項3】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
前記心線がカーボン繊維で形成されている伝動ベルト。
【請求項4】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
前記エポキシ化合物がポリグリセロールポリグリシジルエーテルを含む伝動ベルト。
【請求項5】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
前記第1処理剤における前記エポキシ化合物の含有量が3質量%以上9質量%以下である伝動ベルト。
【請求項6】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
前記ブロックドイソシアネート化合物が、NCO基がメチルエチルケトンオキシムでブロックされた4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを含む伝動ベルト。
【請求項7】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
前記第1処理剤における前記ブロックドイソシアネート化合物の含有量が6質量%以上12質量%以下である伝動ベルト。
【請求項8】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
前記第1処理剤における前記ブロックドイソシアネート化合物の含有量が前記エポキシ化合物の含有量よりも多い伝動ベルト。
【請求項9】
請求項8に記載された伝動ベルトにおいて、
前記第1処理剤における前記ブロックドイソシアネート化合物の含有量の前記エポキシ化合物の含有量に対する質量比が1.1以上2以下である伝動ベルト。
【請求項10】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
前記心線に対する前記第1処理剤の固形分付着量が、前記心線の質量に対して2質量%以上10質量%以下である伝動ベルト。
【請求項11】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
前記シランカップリング剤がアミノ系シランカップリング剤を含む伝動ベルト。
【請求項12】
請求項11に記載された伝動ベルトにおいて、
前記シランカップリング剤がアミノ系シランカップリング剤である3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及び/又は、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランを含む伝動ベルト。
【請求項13】
請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、
前記心線に対する前記第2処理剤の固形分付着量が、前記心線の質量に対して1質量%以上6質量%以下である伝動ベルト。
【請求項14】
伝動ベルトのエラストマー製のベルト本体に埋設される心線であって、
エポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物とを含有する第1処理剤に浸漬されて加熱された後、シランカップリング剤の水溶液の第2処理剤に浸漬されて加熱される接着処理が施された心線。
【請求項15】
エラストマー製のベルト本体に心線が埋設された伝動ベルトの製造方法であって、
前記心線に接着処理を施す心線接着処理工程を備え、
前記心線接着処理工程は、
前記心線を、エポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物とを含有する第1処理剤に浸漬して加熱する第1処理ステップと、
前記第1処理ステップの後、前記心線を、シランカップリング剤の水溶液の第2処理剤に浸漬して加熱する第2処理ステップと、
を含む伝動ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルト及びその製造方法並びに心線に関する。
【背景技術】
【0002】
伝動ベルトのベルト本体に埋設される心線には、ベルト本体との接着のための接着処理が施される。例えば特許文献1には、伝動ベルト等に用いるゴム補強用炭素繊維について、炭素繊維束を、ウレタン樹脂を主成分とする第1浴液で処理した後、多核クロロフェノール化合物を含有するRFL系接着剤の第2浴液で処理することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-241502号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明は、エラストマー製のベルト本体に心線が埋設された伝動ベルトであって、前記心線は、エポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物とを含有する第1処理剤に浸漬されて加熱された後、シランカップリング剤の水溶液の第2処理剤に浸漬されて加熱される接着処理が施されている。
【0005】
本発明は、伝動ベルトのエラストマー製のベルト本体に埋設される心線であって、エポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物とを含有する第1処理剤に浸漬されて加熱された後、シランカップリング剤の水溶液の第2処理剤に浸漬されて加熱される接着処理が施されている。
【0006】
本発明は、エラストマー製のベルト本体に心線が埋設された伝動ベルトの製造方法であって、前記心線に接着処理を施す心線接着処理工程を備え、前記心線接着処理工程は、前記心線を、エポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物とを含有する第1処理剤に浸漬して加熱する第1処理ステップと、前記第1処理ステップの後、前記心線を、シランカップリング剤の水溶液の第2処理剤に浸漬して加熱する第2処理ステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】実施形態に係る歯付ベルトの一片の斜視図である。
図1B】実施形態に係る歯付ベルトの一部分の縦断面図である。
図2A】実施形態に係る歯付ベルトの製造方法の第1の説明図である。
図2B】実施形態に係る歯付ベルトの製造方法の第2の説明図である。
図2C】実施形態に係る歯付ベルトの製造方法の第3の説明図である。
図3】接着試験片の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0009】
図1A及びBは、実施形態に係る歯付ベルトBを示す。実施形態に係る歯付ベルトBは、噛み合い伝動ベルトであり、例えば工作機械、印刷機械、繊維機械、射出成形機等の高負荷伝動用途に好適に用いられる。歯付ベルトBのベルト長さは、例えば500mm以上3000mm以下である。ベルト幅は、例えば10mm以上200mm以下である。ベルト厚さ(最大)は、例えば3mm以上20mm以下である。
【0010】
実施形態に係る歯付ベルトBは、ポリウレタン組成物で形成されたエラストマー製のエンドレスの歯付ベルト本体11を備える。歯付ベルト本体11は、断面横長矩形の平帯部111と、その内周側に一体に設けられた複数の歯部112とを有する。複数の歯部112は、ベルト長さ方向に一定ピッチで間隔をおいて設けられている。
【0011】
歯部112の側面視の歯形としては、例えば両側が外側に円弧状に膨出したSTS歯形や台形歯形等が挙げられる。歯部112の歯数は、例えば30個以上400個以下である。歯幅(ベルト長さ方向の最大寸法)は、例えば2mm以上10mm以下である。歯高さは、例えば2mm以上8mm以下である。配設ピッチは、例えば8mm以上14mm以下である。
【0012】
歯付ベルト本体11を形成するポリウレタン組成物は、ウレタンプレポリマーに、硬化剤、可塑剤等の配合剤が配合された液状のウレタン組成物が加熱及び加圧されて硬化したものである。
【0013】
ウレタンプレポリマーは、イソシアネート成分とポリオール成分との反応により得られる末端に複数のNCO基を有する比較的低分子量のウレタン化合物である。イソシアネート成分としては、例えばトリレン2,4-ジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられる。ポリオール成分としては、例えばポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)等が挙げられる。ウレタンプレポリマーは、単一のウレタン化合物で構成されていても、複数のウレタン化合物が混合されて構成されていても、どちらでもよい。
【0014】
硬化剤としては、例えば1,4-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノトルエン、1,5-ナフタレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)などのアミン化合物等が挙げられる。硬化剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。アミン化合物の硬化剤は、硬化剤中のNH基のモル数のウレタンプレポリマー中のNCO基のモル数に対する比であるα値(NH基/NCO基)が0.70以上1.10以下となるように配合されていることが好ましい。
【0015】
可塑剤としては、例えばジブチルフタレート(DBP)やジオクチルフタレート(DOP)などのジアルキルフタレート;ジオクチルアジペート(DOA)などのジアルキルアジペート;ジオクチルセバケート(DOS)などのジアルキルセバケート等が挙げられる。可塑剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。可塑剤の配合量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して例えば3質量部以上20質量部以下である。
【0016】
なお、その他の配合剤としては、例えば着色剤、消泡剤、安定剤等が挙げられる。
【0017】
歯付ベルト本体11を形成するポリウレタン組成物の硬度は、例えば70°以上100°以下である。このポリウレタン組成物の硬度は、JISK7312:1996に基づいて測定される。
【0018】
実施形態に係る歯付ベルトBは、歯付ベルト本体11の平帯部111に心線12が埋設されている。心線12の外径Dは、例えば0.4mm以上2.7mm以下である。
【0019】
心線12は、高い耐久性を得る観点から、撚り糸であることが好ましい。心線12を構成する撚り糸としては、片撚り糸、諸撚り糸、ラング撚り糸が挙げられる。撚り糸の心線12は、S撚り糸が用いられても、Z撚り糸が用いられても、それらの両方が用いられても、いずれでもよい。
【0020】
心線12を形成する繊維材料としては、無機繊維では、例えばカーボン繊維、ガラス繊維、金属繊維等が挙げられ、有機繊維では、例えば脂肪族ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリビニルアルコール繊維等が挙げられる。心線12は、高い耐久性を得る観点から、これらのうちのカーボン繊維で形成されていることが好ましい。
【0021】
心線12は、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられている。心線12は、S撚り糸及びZ撚り糸の2本で構成され、それらが二重螺旋を形成するように設けられていてもよい。心線12は、ベルト幅方向に間隔をおいて並行に延びるように配置されることとなるが、このとき、心線12のベルト幅10mm当たりの本数は、例えば3本/10mm以上16本/10mm以下である。
【0022】
心線12は、エポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物とを含有する水性液体の第1処理剤に浸漬されて引き上げられて加熱された後、シランカップリング剤を含有する水性液体の第2処理剤に浸漬されて引き上げられて加熱される接着処理が施されている。
【0023】
第1処理剤が含有するエポキシ化合物としては、例えばグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ化合物は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、グリセロールポリグリシジルエーテルを含むことがより好ましい。
【0024】
エポキシ化合物のエポキシ当量は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、好ましくは140以上160以下、より好ましくは145以上155以下である。エポキシ化合物の全塩素含量は、同様の観点から、好ましくは5質量%以上15質量%以下、より好ましくは8質量%以上12質量%以下である。
【0025】
第1処理剤におけるエポキシ化合物の含有量は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、好ましくは3質量%以上9質量%以下、より好ましくは5質量%以上7質量%以下である。
【0026】
第1処理剤が含有するブロックドイソシアネート化合物は、イソシアネート化合物のNCO基がブロック化剤でブロックされたものである。
【0027】
ブロックドイソシアネート化合物を構成するイソシアネート化合物としては、例えば4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレン2,4-ジイソシアネート(TDI)、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリアリールポリイソシアネート等が挙げられる。
【0028】
ブロック化剤としては、例えばメチルエチルケトンオキシム(MEKO)、アセトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;ε-カプロラクタム、バレロラクタムなどのラクタム類;フェノール、クレゾール、レゾルシンなどのフェノール類等が挙げられる。
【0029】
ブロックドイソシアネート化合物を構成するイソシアネート化合物は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。ブロック化剤は、同様の観点から、オキシム類が好ましく、メチルエチルケトンオキシム(MEKO)がより好ましい。ブロックドイソシアネート化合物は、同様の観点から、NCO基がMEKOでブロックされたMDIを含むことが好ましい。
【0030】
ブロックドイソシアネート化合物の解離温度は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下である。
【0031】
第1処理剤におけるブロックドイソシアネート化合物の含有量は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、好ましくは6質量%以上12質量%以下、より好ましくは8質量%以上10質量%以下である。第1処理剤におけるブロックドイソシアネート化合物の含有量は、エポキシ化合物の含有量よりも多いことが好ましい。第1処理剤におけるブロックドイソシアネート化合物の含有量のエポキシ化合物の含有量に対する質量比(ブロックドイソシアネート化合物の含有量/エポキシ化合物の含有量)は、同様の観点から、好ましくは1.1以上2以下、より好ましくは1.4以上1.6以下である。
【0032】
第1処理剤は、エポキシ化合物及びブロックドイソシアネート化合物以外に、エポキシ化合物の硬化剤や界面活性剤等を含有していてもよい。
【0033】
第1処理剤の固形分濃度は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、好ましくは5質量%以上25質量%以下、より好ましくは10質量%以上20質量%以下である。
【0034】
心線12を第1処理剤に浸漬した後の加熱温度(加熱炉内の設定温度)は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、好ましくは140℃以上200℃以下、より好ましくは160℃以上180℃以下である。加熱時間は、同様の観点から、好ましくは300秒以上720秒以下、より好ましくは420秒以上600秒以下である。
【0035】
心線12に対する第1処理剤の固形分付着量は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、心線12の質量に対し、好ましくは2質量%以上10質量%以下、より好ましくは3質量%以上6質量%以下である。
【0036】
第2処理剤が含有するシランカップリング剤としては、例えばアミノ系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、メタクリル酸系シランカップリング剤、メルカプト及びサルファ系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、イソシアネート系シランカップリング剤等が挙げられる。
【0037】
アミノ系シランカップリング剤としては、例えば3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0038】
エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0039】
ビニル系シランカップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
メタクリル酸系シランカップリング剤としては、例えば3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0041】
メルカプト及びサルファ系シランカップリング剤としては、例えば3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0042】
ウレイド系シランカップリング剤としては、例えば3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
イソシアネート系シランカップリング剤としては、例えば3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0044】
シランカップリング剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、アミノ系シランカップリング剤を含むことがより好ましく、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及び/又は、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランを含むことが更に好ましい。
【0045】
第2処理剤におけるシランカップリング剤の含有量は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、好ましくは3質量%以上15質量%以下、より好ましくは8質量%以上12質量%以下である。
【0046】
第2処理剤は、シランカップリング剤以外に、その他の成分を含有していてもよい。
【0047】
第2処理剤の固形分濃度は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、、好ましくは3質量%以上15質量%以下、より好ましくは8質量%以上12質量%以下である。
【0048】
心線12を第2処理剤に浸漬した後の加熱温度(加熱炉内の設定温度)は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、好ましくは210℃以上270℃以下、より好ましくは230℃以上250℃以下である。加熱時間は、同様の観点から、好ましくは300秒以上720秒以下、より好ましくは420秒以上600秒以下である。
【0049】
心線12に対する第2処理剤の固形分付着量は、心線12の歯付ベルト本体11への高い接着性を得る観点から、心線12の質量に対し、好ましくは1質量%以上6質量%以下、より好ましくは2質量%以上4質量%以下である。
【0050】
実施形態に係る歯付ベルトBは、歯付ベルト本体11におけるベルト厚さ方向の心線12の埋設位置よりも内周側にベルト長さ方向に沿って不織布13が埋設されている。不織布13は、一枚で構成されていても、複数枚で構成されていても、どちらでもよい。
【0051】
不織布13は、歯付ベルト本体11を形成するポリウレタン組成物を含んで、側面視において層を形成するように設けられている。不織布13の歯部112に対応する部分は、側面視において内周側に膨出するように歯部112に入り込んでベルト厚さ方向に厚く広がっている。不織布13の歯部112間に対応する部分は、心線12に接触してベルト厚さ方向に薄く圧縮されている。
【0052】
不織布13を構成する繊維材料としては、例えばナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリケトン繊維、カーボン繊維等が挙げられる。不織布13は、成形前に予め液状の接着剤に浸漬した後に乾燥させる等の接着処理が施されていることが好ましい。
【0053】
以上の構成の実施形態に係る歯付ベルトBによれば、心線12が、エポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物とを含有する第1処理剤に浸漬されて加熱された後、シランカップリング剤を含有する第2処理剤に浸漬されて加熱される接着処理が施されていることにより、心線12のエラストマー製の歯付ベルト本体11への高い接着性を得ることができる。
【0054】
次に、実施形態に係る歯付ベルトBの製造方法について説明する。
【0055】
実施形態に係る歯付ベルトBの製造方法は、歯付ベルト本体11を形成するための液状のウレタン組成物を調製するウレタン組成物調製工程、心線12に接着処理を施す心線接着処理工程、及び不織布13に接着処理を施す不織布接着処理工程とを備える。
【0056】
ウレタン組成物調製工程では、ウレタンプレポリマーに、硬化剤、可塑剤等の配合剤を配合して液状のウレタン組成物を調製する。
【0057】
心線接着処理工程では、ディップ装置を用いて心線12の接着処理を行う。ディップ装置では、上流側に繰出ボビン取付部及び下流側に巻取ボビン取付部がそれぞれ設けられているとともに、それらの間の心線走行経路の上流側に処理剤槽及び下流側に加熱炉がそれぞれ設けられている。
【0058】
第1処理ステップでは、接着処理前の心線12を巻いたボビンを繰出ボビン取付部及び空のボビンを巻取ボビン取付部にそれぞれ取り付け、処理剤槽に第1処理剤を充填するとともに、加熱炉内を所定の設定温度に昇温する。繰出ボビン取付部に取り付けたボビンから心線12を繰り出し、それを心線走行経路に通して巻取ボビン取付部に取り付けたボビンに巻き付ける。繰出ボビン取付部から巻取ボビン取付部に向かって心線12を走行させる。これにより、心線12を、処理剤槽において、エポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物とを含有する第1処理剤に浸漬し、それを引き上げて加熱炉に導入して加熱した後、巻取ボビン取付部のボビンに連続的に巻き取る。その第1処理ステップ後の心線12を巻いたボビンを巻取ボビン取付部から取り外す。この第1処理ステップは、1回だけ行っても、複数回繰り返し行っても、どちらでもよい。
【0059】
第2処理ステップでは、第1処理ステップ後の心線12を巻いたボビンを繰出ボビン取付部及び空のボビンを巻取ボビン取付部にそれぞれ取り付け、処理剤槽の第1処理剤を第2処理剤に入れ替えるとともに、加熱炉内を所定の設定温度に変更する。繰出ボビン取付部に取り付けたボビンから心線12を繰り出し、それを心線走行経路に通して巻取ボビン取付部に取り付けたボビンに巻き付ける。繰出ボビン取付部から巻取ボビン取付部に向かって心線12を走行させる。これにより、心線12を、処理剤槽において、シランカップリング剤を含有する第2処理剤に浸漬し、それを引き上げて加熱炉に導入して加熱した後、巻取ボビン取付部のボビンに連続的に巻き取る。その第2処理ステップ後の心線12を巻いたボビンを巻取ボビン取付部から取り外す。この第2処理ステップも、1回だけ行っても、複数回繰り返し行っても、どちらでもよい。
【0060】
不織布接着処理工程では、不織布13を液状の接着剤に浸漬した後に乾燥させる接着処理を行う。
【0061】
以上の各部材の準備後、図2Aに示すように、円柱状の内金型21に接着処理した不織布13を被せ、その上から接着処理した心線12を螺旋状に巻き付ける。このとき、内金型21の外周には、断面が歯部112に対応した形状の軸方向に延びる凹溝22が周方向に間隔をおいて一定ピッチで設けられているとともに、各凹溝22間に軸方向に延びる突条23が構成されていることから、不織布13及び心線12を、それらが突条23で支持されるように設ける。
【0062】
次いで、図2Bに示すように、内金型21を円筒状の外金型24の中に収容する。このとき、内金型21と外金型24との間に歯付ベルト本体成形用のキャビティCが構成される。
【0063】
続いて、図2Cに示すように、密閉したキャビティCに液状のウレタン組成物を注入して充填するとともに加熱する。このとき、ウレタン組成物が流動して硬化することによりポリウレタン組成物の歯付ベルト本体11が形成される。また、凹溝22では歯部112が形成される。心線12は、その歯付ベルト本体11に接着して埋設される。さらに、不織布13は、ウレタン組成物が含浸して硬化するとともに、歯付ベルト本体11に接着して埋設される。以上のようにして、歯付ベルト本体11、心線12、及び不織布13が複合一体化して円筒状のベルトスラブSが成型される。
【0064】
最後に、内金型21及び外金型24からベルトスラブSを脱型し、それを輪切りすることにより実施形態に係る歯付ベルトBが得られる。
【0065】
なお、上記実施形態では、歯付ベルト本体11、心線12、及び不織布13で構成された歯付ベルトBとしたが、特にこれに限定されるものではなく、歯付ベルト本体の内周側の歯部側表面、及び/又は、歯付ベルト本体の外周側の背面に補強布が設けられていてもよい。
【0066】
上記実施形態では、歯付ベルト本体11がポリウレタン組成物で形成された歯付ベルトBとしたが、特にこれに限定されるものではなく、歯付ベルト本体が架橋ゴム組成物で形成されていてもよい。その場合、心線12には、第2処理ステップの後、RFL水溶液に浸漬した後に加熱するRFL処理ステップ及び/又はゴム糊に浸漬した後に加熱するゴム糊処理ステップを行ってもよい。
【0067】
上記実施形態では、伝動ベルトとして歯付ベルトBを示したが、特にこれに限定されるものではなく、平ベルト、Vベルト、Vリブドベルト等であってもよい。
【実施例
【0068】
(心線)
以下の実施例1乃至4及び比較例の接着処理を施した心線を作製した。それぞれの構成は表1にも示す。
【0069】
<実施例1>
心線として、フィラメント径が7μmのカーボン繊維の12000本のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸を準備した。
【0070】
エポキシ化合物のグリセロールポリグリシジルエーテル(エポキシ当量:141、全塩素含量:9質量%)を5.91質量%、ブロックドイソシアネート化合物のNCO基がMEKOでブロックされたMDI(解離温度:120℃以上)を8.88質量%、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤を0.07質量%、界面活性剤を0.15質量%、及び水を85質量%をそれぞれ含有する固形分濃度が15質量%の水系の第1処理剤を調製した。
【0071】
アミノ系シランカップリング剤の3-アミノプロピルトリエトキシシランを5質量%及び水を95質量%をそれぞれ含有する固形分濃度が5質量%の水系の第2処理剤を調製した。
【0072】
心線に対し、第1処理剤に浸漬して加熱する第1処理ステップと、その後の第2処理剤に浸漬して加熱する第2処理ステップとの接着処理を施した。このとき、第1処理ステップでの加熱温度は170℃及び加熱時間は470秒とした。第2処理ステップでの加熱温度は240℃及び加熱時間は470秒とした。そして、得られた接着処理を施した心線を実施例1とした。
【0073】
<実施例2>
第2処理剤として固形分濃度が10質量%のものを用いたことを除いて実施例1と同様にして得られた接着処理を施した心線を実施例2とした。
【0074】
<実施例3>
第2処理剤のアミノ系シランカップリング剤としてN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランを用いたことを除いて実施例1と同様にして得られた接着処理を施した心線を実施例3とした。
【0075】
<実施例4>
第2処理剤として固形分濃度が10質量%のものを用いたことを除いて実施例3と同様にして得られた接着処理を施した心線を実施例4とした。
【0076】
<比較例>
第2処理ステップを行わなかったことを除いて実施例1乃至4と同様にして得られた接着処理を施した心線を比較例とした。
【0077】
なお、エポキシ化合物及びブロックドイソシアネート化合物並びにアミノ系シランカップリング剤の全てを含有する一液の処理剤の調製を試みたが、ゲル化してしまったため接着処理に用いることができるものを得ることはできなかった。
【0078】
【表1】
【0079】
(ウレタン組成物)
イソシアネート成分をTDI及びポリオール成分をPTMGとするウレタンプレポリマー100質量部に対して、硬化剤のMOCA16.58質量部及び着色剤1.6質量部を配合した液状のウレタン組成物Aを調製した。
【0080】
(試験方法及び結果)
実施例1乃至4及び比較例のそれぞれの接着処理を施した心線について、図3に示すような接着試験片Tを作製した。この接着試験片Tは、ウレタン組成物Aを硬化させることにより、厚さ5mm及び10mm角のポリウレタン組成物のウレタンブロック片Uを形成するとともに、その中央に短尺に切断した心線Vを、その一方の先端部が厚さ方向に貫通するように埋設させたものである。
【0081】
そして、引張試験機を用い、接着試験片Tのウレタンブロック片Uを一方のチャックに取り付けるとともに、心線Vを他方のチャックに取り付け、雰囲気温度25℃において、引張速度500mm/分として、ウレタンブロック片Uから心線Vを引き抜くのに要する引抜力を測定し、それを心線Vの埋設長さ5mmで除して1mm当たりの引抜接着力を算出した。試験結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、伝動ベルト及びその製造方法並びに心線の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0083】
B 歯付ベルト(伝動ベルト)
C キャビティ
S ベルトスラブ
T 接着試験片
U ウレタンブロック片
V 心線
11 歯付ベルト本体
111 平帯部
112 歯部
12 心線
13 不織布
21 内金型
22 凹溝
23 突条
24 外金型
【要約】
伝動ベルト(B)は、エラストマー製のベルト本体(11)に心線(12)が埋設されている。心線(12)は、エポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物とを含有する第1処理剤に浸漬されて加熱された後、シランカップリング剤を含有する第2処理剤に浸漬されて加熱される接着処理が施されている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3