(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】肺サーファクタントプロテインDの測定方法、測定キット、モノクローナル抗体及び細胞
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20241119BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20241119BHJP
G01N 33/545 20060101ALI20241119BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241119BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20241119BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20241119BHJP
C12N 5/20 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 501A
G01N33/545 A
C12M1/34 F
C07K16/18
C07K17/00
C12N5/20
(21)【出願番号】P 2024545107
(86)(22)【出願日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2024011227
【審査請求日】2024-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2023046633
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NITE BP-03825
【微生物の受託番号】NITE BP-03826
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】廣田 次郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 知
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼畑 智宏
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 真波
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-114162(JP,A)
【文献】特許第7352915(JP,B2)
【文献】国際公開第2023/145915(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/145916(WO,A1)
【文献】永江尚人,肺サーファクタント蛋白質D(SP-D)の血清濃度測定キットの開発,医学と薬学,1996年10月,Vol.36 No.4,Page.803-808
【文献】秋野豊明,肺サーファクタントの生化学 -アポ蛋白質をめぐる新たな展開-,日本胸部疾患学会雑誌,1992年12月,Vol.30 No.Dec 増刊号,Page.5-14
【文献】黒木由夫,肺サーファクタント蛋白質-SP-AとSP-D-,臨床化学,2003年,Vol.32,Page.216-226
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/543
G01N 33/545
C12M 1/34
C07K 16/18
C07K 17/00
C12N 5/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺サーファクタントプロテインDを含む試料と、抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体を担持させた不溶性担体とを接触させる工程と、
前記肺サーファクタントプロテインDと少なくとも2つの前記抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体との複合体を検出する工程と、を含み、
前記不溶性担体は、前記抗肺サーファクタントプロテインD抗体として一種の抗体のみが担持されて
おり、
前記検出する工程において3量体の肺サーファクタントプロテインDが検出されない、
肺サーファクタントプロテインDの測定方法。
【請求項2】
前記不溶性担体がラテックス粒子である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記不溶性担体が平板状であり、
前記複合体が前記不溶性担体に担持されている前記抗肺サーファクタントプロテインD抗体と、前記抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体と標識物とを含む標識抗体とを含む、請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
前記試料が血清または血漿である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項5】
前記肺サーファクタントプロテインDが3量体の肺サーファクタントプロテインDである基本ユニットを少なくとも1つ含み、
1つの前記基本ユニットに対し、前記抗肺サーファクタントプロテインD抗体が1つのみ結合する、請求項1~4のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項6】
前記検出する工程において、前記基本ユニットが2つ以上会合した肺サーファクタントプロテインDを検出する、請求項
5に記載の測定方法。
【請求項7】
抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体が担持されている不溶性担体を含む第1試薬と、前記抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体と標識物とを含む標識抗体を含む第2試薬と、を含
み、
3量体の肺サーファクタントプロテインDを検出しない、
肺サーファクタントプロテインDの測定キット。
【請求項8】
前記不溶性担体と前記標識物とが同一の物質である、請求項
7に記載の測定キット。
【請求項9】
3量体の肺サーファクタントプロテインDに結合するモノクローナル抗体であって、
1つの前記3量体の肺サーファクタントプロテインDに対し、1つのみが結合する、モノクローナル抗体。
【請求項10】
12量体以上の肺サーファクタントプロテインDに少なくとも2つが結合する、請求項
9に記載のモノクローナル抗体。
【請求項11】
請求項
9又は
10に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項12】
独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター特許微生物寄託センターに、受託番号NITE BP-03825又は受託番号NITE BP-03826として受託された、ハイブリドーマ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺サーファクタントプロテインDの測定方法、測定キット、モノクローナル抗体及び細胞に関する。
本願は、2023年3月23日に日本に出願された特願2023-046633号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
肺サーファクタントは、肺のII型肺胞上皮細胞より産生及び分泌されるタンパク質である。肺サーファクタントは、肺胞表面の表面張力を弱めることで肺胞を膨らみやすくし、呼吸やガス交換を助ける働きがある。
【0003】
肺サーファクタントは、肺サーファクタントプロテイン-A(以降、SP-Aと記載することがある。)、肺サーファクタントプロテイン-B(以降、SP-Bと記載することがある。)、肺サーファクタントプロテイン-C(以降、SP-Cと記載することがある。)及び肺サーファクタントプロテイン-D(以降、SP-Dと記載することがある。)を含む。SP-A及びSP-Dは、親水性糖タンパク質である。SP-A及びSP-Dは、生体防御作用を有しており、特異脂質と結合する。SP-B及びSP-Cは、疎水性タンパク質であり、リン脂質と会合する。
【0004】
SP-Dの測定は、間質性肺炎の鑑別、活動性の指標及び予後予測において有用である。またSP-Dは、間質性肺炎の治療が効果的であると速やかに減少することから、治療経過観察にも用いられる。血液中のSP-Dの測定は、例えば非特許文献1に記載のように、2種の抗体を用いたサンドイッチELISA(Enzyme-linked Immnosorbent Assay)により行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Preston E. Bratcher et al., Factors Influencing the Measurement of Plasma/Serum Surfactant Protein D Levels by ELISA PLOS ONE, November 2014, Volume 9, Issue 11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SP-Dは、生体内で3量体から36量体、若しくはそれ以上の幅広い多量体を形成することが知られている。血液中のSP-Dの多量体の分布は、試料提供者の体質や病態により異なる。一方で、これまでのサンドイッチELISA等によるSP-Dの測定方法では、多量体を構成する単量体の数の変化(例えば、12量体から36量体への変化)に伴いエピトープが集中してアビディティが変動したり、エピトープの露出面が変化したりすることで、抗体と各多量体のSP-Dとの反応性が異なることがある。そのため、SP-Dの多量体の分布が異なると、SP-Dの定量値が変化する場合がある。
【0007】
本発明の目的は、肺サーファクタントプロテインDの多量体を構成する単量体数の多寡によらず正確な定量が可能である肺サーファクタントプロテインDの測定方法、測定キット、及びこれらに用いられるモノクローナル抗体並びにこの抗体を生産するハイブリドーマを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、以下を包含する。
[1]肺サーファクタントプロテインDを含む試料と、抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体を担持させた不溶性担体とを接触させる工程と、
前記肺サーファクタントプロテインDと少なくとも2つの前記抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体との複合体を検出する工程と、を含み、
前記不溶性担体は、前記抗肺サーファクタントプロテインD抗体として一種の抗体のみが担持されている、肺サーファクタントプロテインDの測定方法。
[2]前記不溶性担体がラテックス粒子である、[1]に記載の測定方法。
[3]前記不溶性担体が平板状であり、
前記複合体が前記不溶性担体に担持されている前記抗肺サーファクタントプロテインD抗体と、前記抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体と標識物とを含む標識抗体とを含む、[1]に記載の測定方法。
[4]前記試料が血清または血漿である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の測定方法。
[5]前記肺サーファクタントプロテインDが3量体の肺サーファクタントプロテインDである基本ユニットを少なくとも1つ含み、
1つの前記基本ユニットに対し、前記抗肺サーファクタントプロテインD抗体が1つのみ結合する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の測定方法。
[6]前記検出する工程において3量体の肺サーファクタントプロテインDが検出されない、[1]~[5]のいずれか一項に記載の測定方法。
[7]前記検出する工程において、前記基本ユニットが2つ以上会合した肺サーファクタントプロテインDを検出する、[1]~[6]のいずれか一項に記載の測定方法。
[8]抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体が担持されている不溶性担体を含む第1試薬と、前記抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体と標識物とを含む標識抗体を含む第2試薬と、を含む肺サーファクタントプロテインDの測定キット。
[9]前記不溶性担体と前記標識物とが同一の物質である、[8]に記載の測定キット。
[10]3量体の肺サーファクタントプロテインDに結合するモノクローナル抗体であって、1つの前記3量体の肺サーファクタントプロテインDに対し、1つのみが結合する、モノクローナル抗体。
[11]12量体の肺サーファクタントプロテインDに少なくとも2つが結合する、[10]に記載のモノクローナル抗体。
[12][10]又は[11]に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
[13]独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE BP-03825又は受託番号NITE BP-03826として寄託された、ハイブリドーマ。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、多量体の肺サーファクタントプロテインDを構成する単量体数の多寡によらず正確な定量が可能である肺サーファクタントプロテインDの測定方法、測定キット、及びこれらに用いられるモノクローナル抗体並びにこの抗体を生産する細胞を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】抗SP-Dモノクローナル抗体と生体試料由来のSP-Dとの反応性を示すグラフである。
【
図2】Genscript社製のrSP-Dをゲル濾過クロマトグラフィーで分析した際のクロマトグラムである。
【
図3】R&D社製のrSP-D及びGenscript社製のrSP-Dをゲル濾過クロマトグラフィーで分析した際のクロマトグラムである。
【
図4】実施例2における分析5で得られた各フラクションのSP-D濃度測定値を示すグラフである。
【
図5】比較例3における分析5で得られた各フラクションのSP-D濃度測定値を示すグラフである。
【
図6】比較例4における分析5で得られた各フラクションのSP-D濃度測定値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<肺サーファクタントプロテインDの測定方法>
【0012】
本発明の一態様における肺サーファクタントプロテインD(以降、SP-Dと記載する)の測定方法は、SP-Dを含む試料と、抗SP-Dモノクローナル抗体を担持させた不溶性担体とを接触させる工程と、前記SP-Dと少なくとも2つの前記抗SP-Dモノクローナル抗体との複合体を検出する工程と、を含み、前記不溶性担体は、前記抗SP-D抗体として一種の抗体のみが担持されている。
【0013】
以下に本発明の一態様におけるSP-Dの測定方法について説明する。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも例示に過ぎず、実施形態で明示しない種々の変形例や技術の適用は排除されない。すなわち、本実施形態をその趣旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができる。
【0014】
(試料)
本明細書における「試料」としては、主に生体由来の体液を挙げることができる。試料としては、血液、血清、血漿及び羊水が挙げられ、血清及び血漿が好ましい。試料を採取する対象は、ヒト又は動物(例えば、サル、イヌ、又はネコ)を含み、好ましくはヒトである。試料は、対象からの試料そのものであってもよく、採取した試料に通常行われる希釈又は濃縮等の処理を行ったものであってもよい。なお、本発明に用いられる試料の採取や調製を行う者は、本発明の測定方法を行う者と同一人物でもよく、別人物であってもよい。また、本発明の測定方法に用いられる試料は、本発明の測定方法の実施時に採取又は調製されたものでもよく、予め採取又は調製され保存されたものであってもよい。
【0015】
(SP-D)
SP-Dは、モノマーであるが、モノマー3つが会合している3量体を形成する。本明細書では、この3量体を基本ユニットと記載することがある。SP-Dは、基本ユニットが4つ会合して12量体を形成する。さらに、この12量体が更に会合して36量体等を形成する。本明細書において、SP-Dの多量体とは基本ユニットが2つ以上会合して形成されたものを示す。SP-Dの多量体は、基本ユニットが4つ以上会合したものであることが好ましい。本明細書において、単にSP-Dと記載している場合、単量体、3量体及び各多量体のSP-Dを含む総称を意味する。
【0016】
(モノクローナル抗体)
本明細書において、「モノクローナル抗体」とは、単一の抗体産生細胞に由来するハイブリドーマから得られた抗体又は抗体分子を意味する。本発明の測定方法では、本発明の効果が得られる限りにおいて、このモノクローナル抗体の機能を有する抗体断片も使用することができる。モノクローナル抗体の機能を有する抗体断片としては、例えば、モノクローナル抗体の酵素的消化により得られる前記モノクローナル抗体のFab部分を含む機能性断片、遺伝子組換えによって作製される前記モノクローナル抗体のFab部分を含む機能性断片、及びファージディスプレイ法で作製されたscFvを含む機能性断片等が挙げられる。
【0017】
(モノクローナル抗体の調製方法)
本発明の一態様におけるモノクローナル抗体は、抗原(免疫原ともいう)として、SP-Dをリン酸緩衝生理食塩水などの溶媒に溶解し、この溶液を非ヒト動物に投与して免疫することにより調製できる。必要に応じて前記溶液に適宜のアジュバントを添加した後、エマルジョンを用いて免疫を行ってもよい。アジュバントとしては、油中水型乳剤、水中油中水型乳剤、水中油型乳剤、リポソーム、水酸化アルミニウムゲルなどの汎用されるアジュバントのほか、生体成分由来のタンパク質又はペプチド性物質などを用いてもよい。例えば、フロイントの不完全アジュバント又はフロイントの完全アジュバントなどを好適に用いることができる。アジュバントの投与経路、投与量、投与時期は特に限定されないが、抗原を免疫する動物において所望の免疫応答を増強できるように適宜選択することが望ましい。
【0018】
免疫に用いる動物の種類も特に限定されないが、哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウシ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、アルパカ、マウス、又はラットが好ましく、より好ましくはマウス又はラットを用いることができる。動物の免疫は、一般的な手法に従って行えばよく、例えば、抗原の溶液、好ましくはアジュバントとの混合物を動物の皮下、皮内、静脈、又は腹腔内に注射することにより行うことができる。免疫応答は、一般的に免疫される動物の種類及び系統によって異なるので、免疫スケジュールは使用される動物に応じて適宜設定することが望ましい。抗原投与は、最初の免疫後に何回か繰り返し行うことが好ましい。
【0019】
本発明のモノクローナル抗体を得るために、引き続き以下の操作が行われることができるが、これらに限定されることはない。モノクローナル抗体それ自体の製造方法については当業界で周知されており、かつ汎用されている。よって当業者は、前記の抗原を用いることによって本発明のモノクローナル抗体を調製することが可能である(例えばAntibodies,A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1988) 第6章などを参照のこと)。
【0020】
最終免疫後、免疫した動物から抗体産生細胞である脾臓細胞あるいはリンパ節細胞を摘出し、高い増殖能を有する骨髄腫由来の細胞株と細胞融合することによりハイブリドーマを作製することができる。細胞融合には抗体産生能(質及び量)が高い細胞を用いることが好ましい。また骨髄腫由来の細胞株は、融合する抗体産生細胞の由来する動物と適合性があることがより好ましい。細胞融合は、当該分野で公知の方法に従って行うことができる。例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いた方法、又は電流を利用する方法などを採用することができる。得られたハイブリドーマは、本分野の汎用の条件に従って増殖させることができる。産生される抗体の性質を確認しつつ、所望のハイブリドーマを選択することができる。ハイブリドーマのクローニングは、例えば限界希釈法や軟寒天法などの周知の方法により行うことが可能である。
【0021】
クローニング工程後、産生されるモノクローナル抗体とSP-Dとの結合能をELISA、RIA法、又は蛍光抗体法などの方法を用いてアッセイすることができる。これらの操作により、選択されたハイブリドーマが所望の性質を有するモノクローナル抗体を産生するか否かを確認することができる。
【0022】
前記のようにして選別されたハイブリドーマを大量培養することにより、所望の特性を有するモノクローナル抗体を製造することができる。大量培養の方法は特に限定されないが、例えば、ハイブリドーマを適宜の培地中で培養してモノクローナル抗体を培地中に産生させる方法、及び哺乳動物の腹腔内にハイブリドーマを注射して増殖させ、腹水中にモノクローナル抗体を産生させる方法などを挙げることができる。
【0023】
本発明の抗SP-Dモノクローナル抗体は、Genscript社製の組換えヒトSP-Dを免疫原とし、Balb/cマウス又はF344/Jc1ラットに対し皮下免疫及び腹腔免疫して得られた細胞由来の抗体であることが好ましい。例えば、抗SP-Dモノクローナル抗体は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2023年2月14日に、それぞれ受託番号NITE BP-03826及び受託番号NITE BP-03825として受託されたハイブリドーマから産生されるS21208及びS21202であることが好ましく、S21208であることがより好ましい。
【0024】
本発明におけるSP-Dの測定方法において、SP-Dと結合するモノクローナル抗体は、1種類のみ、すなわち同一のアミノ酸配列の抗SP-Dモノクローナル抗体のみであり、かつサンドイッチ系を構築する。本明細書において、サンドイッチ系とは、被検出物質、すなわちSP-Dを少なくとも2つのモノクローナル抗体で挟みこむ方法である。
【0025】
サンドイッチ系を構築する場合、少なくとも2つの抗SP-Dモノクローナル抗体のうち少なくとも1つは、固相抗体であり、少なくとも1つは、標識抗体であることが好ましい。本明細書において、固相抗体とは、固相、すなわち不溶性担体上に直接的又は間接的に固相化されたモノクローナル抗体を意味する。本明細書において、標識抗体とは、後述する当業者に周知慣用の標識物質で直接的又は間接的に標識されているモノクローナル抗体を意味する。本発明において、固相抗体と標識抗体とは、同一種、すなわち同一のアミノ酸配列の抗SP-Dモノクローナル抗体である。
【0026】
抗SP-Dモノクローナル抗体は、3量体のSP-D(つまり、基本ユニット)に1つの抗SP-Dモノクローナル抗体のみが結合する。このメカニズムとして、エピトープが基本ユニットの1ヶ所に集中しており、1つ目の抗体が結合すると、2つ目の抗体が1つ目の抗体によって立体障害を受けてエピトープに近づけないことが考えられる。したがって基本ユニットを2つの抗SP-Dモノクローナル抗体によりサンドイッチすることができず、複合体を形成することができない。よって、本実施形態の測定方法において3量体のSP-Dを検出することができない。
【0027】
一方で基本ユニットが2つ以上含まれるSP-D、例えば12量体及び36量体等のSP-Dは、異なる2つの基本ユニットそれぞれに異なる2つの抗SP-Dモノクローナル抗体が結合することができる。よって、本実施形態の測定方法では、12量体及び36量体等の基本ユニットが2つ以上含まれるSP-Dを検出することができる。
【0028】
固相抗体は、不溶性担体にモノクローナル抗体を物理的に吸着させる、又は化学的に結合(適当なスペーサーを介してよい)させることにより製造することができる。不溶性担体としては、ポリスチレン樹脂などの高分子基材、ガラスなどの無機基材、又はセルロースやアガロースなどの多糖類基材などからなる固相を用いることができる。不溶性担体の形状は特に限定されず、平板状(例えば、マイクロプレート及びメンブレン)、ビーズ若しくは粒子状(例えば、ラテックス粒子及び磁性粒子)、又は筒状(例えば、試験管)など任意の形状を選択できる。
【0029】
本発明のSP-Dの測定方法に使用されるモノクローナル抗体と直接的に結合可能な標識抗体を用いることにより、SP-Dの量を測定することもできる。本明細書では、本発明のモノクローナル抗体に結合し、且つ標識物質を結合させた抗体を二次抗体と称する。この二次抗体を用いて、標識物質を本発明のモノクローナル抗体に間接的に結合させてもよい。
【0030】
標識物質が発するシグナルの強さや標識物質の凝集による濁度を測定して、試料中のSP-Dの量を測定することができる。標識抗体を調製するための標識物質としては、例えば金属錯体、酵素、不溶性粒子、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン、放射性同位体、金コロイド粒子、又は着色ラテックスが挙げられる。標識物質とモノクローナル抗体との結合法としては、当業者に利用可能な物理吸着、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、又は過ヨウ素酸法を用いることができる。ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)又はアルカリホスファターゼ(ALP)などの酵素を標識物質として用いる場合には、その酵素の特異的基質を用いて酵素活性を測定することができる。例えば、酵素がHRPの場合には、O-フェニレンジアミン(OPD)又は3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を用いることができ、ALPの場合にはp―ニトロフェニル・ホスフェートを用いて酵素活性を測定することができる。ビオチンを標識物質として用いる場合には、モノクローナル抗体をビオチンで標識し、酵素、色素、又は蛍光標識(好ましくはHRP)で標識したアビジン又はストレプトアビジンを反応させることもできる。
【0031】
本明細書において、抗原や抗体を固相に物理的あるいは化学的に担持させることあるいは担持させた状態を「固定化」又は「固相化」と表現することがある。また、「分析」、「検出」、又は「測定」という用語は、SP-Dの定量を含む。
【0032】
本発明におけるSP-Dの測定方法は、抗原と抗体の反応を利用して、試料の中に含まれるSP-Dの濃度を測定する方法である。本発明におけるSP-Dの測定方法としては、酵素免疫測定法(ELISA)及びラテックス免疫比濁法(LTIA法)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の免疫測定方法は、好ましくは、LTIAである。
【0033】
本発明のSP-Dの測定方法は、インビボ又はインビトロの免疫測定方法であってもよい。また、感度を増強するために、増感剤を使用することもできる。本発明のSP-Dの測定方法において、抗SP-Dモノクローナル抗体と試料を測定系に添加する順序は、本発明の効果が得られる限りにおいて、限定されることはない。すなわち、抗SP-Dモノクローナル抗体を、試料の添加前に、試料の添加と同時に、又は試料の添加の後に、測定系に添加することができる。
【0034】
以下、採用する測定方法毎に、測定の手順及び原理を説明する。下記は、本発明の一実施形態における測定の手順及び原理を単に例示するものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0035】
下記の免疫測定方法の各々において、モノクローナル抗体の固相への固定化の方法、モノクローナル抗体と標識物質との結合方法及び標識物質の種類等の具体的な方法は、前述のものを含め、当業者に周知の方法を制限なく使用することができる。
【0036】
(ラテックス免疫比濁法)
ラテックス免疫比濁法とは、ラテックス粒子表面に担持された抗SP-Dモノクローナル抗体とSP-Dとが結合することによって生じるラテックス粒子の凝集を利用した免疫測定方法である。ラテックス粒子としては、体外診断薬に一般的に用いられているラテックス粒子であれば特に制限されない。凝集反応測定時のラテックス粒子の濃度、ラテックス粒子の平均粒径等は、感度又は性能に応じて適宜設定することができる。本発明のSP-Dの測定方法として、ラテックス免疫比濁法を使用する場合の測定手順及び原理は、以下のとおりである。
(1)抗SP-Dモノクローナル抗体が担持されたラテックス粒子と試料と接触させる。
(2)試料中のSP-Dが少なくとも2つの抗SP-Dモノクローナル抗体と複合体を形成し、ラテックス粒子が凝集する。
(3)試料に近赤外光(例えば波長600nm)を照射して、吸光度の測定又は散乱光の測定を行う。測定値に基づき、SP-Dの濃度を求める。
【0037】
本発明のSP-Dの測定方法としてラテックス免疫比濁法を使用する場合、ラテックス粒子は、不溶性担体であり且つ標識物質として作用する。ラテックス粒子に担持されるSP-Dと結合するモノクローナル抗体は、1種類のみ、すなわち同一のアミノ酸配列の抗SP-Dモノクローナル抗体のみである。
【0038】
測定装置としては、生化学自動分析装置(例えば日立社製、日立自動分析装置3500)を用いることができる。
【0039】
(ELISA)
本明細書においてELISAとは、試料中に含まれる被検出物質であるSP-Dを、抗SP-Dモノクローナル抗体を利用して捕捉した後に、酵素反応を利用して検出する方法を意味する。固相はプレート(イムノプレートともいう)が好ましい。標識としては、HRP又はALPを使用することができる。本発明のSP-D測定方法として、サンドイッチELISAを使用する場合の測定手順及び原理は、以下のとおりである。
(1)抗SP-Dモノクローナル抗体を固定化した固相に試料を接触させ、試料中のSP-Dが抗SP-Dモノクローナル抗体、つまり固相抗体と結合する。
(2)標識した抗SP-Dモノクローナル抗体、すなわち標識抗体を固相に添加して反応させると、標識抗体がSP-Dに結合して固相抗体-SP-D-標識抗体の複合体、すなわちサンドイッチを形成する。
(3)洗浄後、標識物質を発色させ吸光度を測定する。
【0040】
測定した標識物質の量に応じて、試料中のSP-Dの量を測定することができる。
【0041】
サンドイッチELISA法において、二次抗体を用いることもできる。二次抗体を用いることにより、反応が増幅され、検出感度を高めることができる。二次抗体は、下記の例の場合は、抗SP-Dモノクローナル抗体を特異的に認識する抗体である。二次抗体を用いる場合、以下の手順(1)~(5)を採用することができる。
(1)抗SP-Dモノクローナル抗体を固定化した固相に試料を添加した後インキュベートし、試料を除去して洗浄する。
(2)抗SP-Dモノクローナル抗体を添加してインキュベート及び洗浄を行う。
(3)さらに酵素標識した二次抗体を添加してインキュベートを行う。
(4)基質を加えて発色させる。
(5)プレートリーダー等を用いて発色を測定することによりSP-Dの量を測定する。
【0042】
本発明のSP-Dの測定方法としてELISAを使用する場合、SP-Dと結合する固相抗体と標識抗体は、同一種、すなわち同一のアミノ酸配列の抗SP-Dモノクローナル抗体である。
【0043】
上記の態様によれば、多量体のSP-Dを構成する単量体数の多寡によらず、正確なSP-Dの定量が可能である。
【0044】
<測定キット>
本発明の一態様におけるSP-Dの測定キットは、抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体が担持されている不溶性担体を含む第1試薬と、前記抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体と標識物とを含む標識抗体を含む第2試薬と、を含む。
【0045】
不溶性担体と標識物とは、同一の物質であってもよく、ラテックス粒子であってもよい。不溶性担体に担持されているSP-Dモノクローナル抗体と、標識抗体のSP-Dモノクローナル抗体は、同一種、つまり同一のアミノ酸配列の抗体である。
【0046】
SP-Dモノクローナル抗体は、3量体の肺サーファクタントプロテインDに結合し、1つの3量体の肺サーファクタントプロテインDに対し、1つのみが結合する。少なくとも2つのSP-Dモノクローナル抗体は、12量体又は36量体のSP-Dと結合する。
【0047】
SP-Dモノクローナル抗体、不溶性担体、標識物及び標識抗体については、上述の通りであり、その内容を適用することができる。
【0048】
本発明の一態様におけるSP-Dの測定キットは、SP-Dの測定に使用される標準抗原物質、精度管理用抗原試料といった、他の検査試薬及び検体希釈液の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0049】
なお、以上説明した、本発明のモノクローナル抗体の調製方法、本発明のモノクローナル抗体をコードする核酸分子、この核酸分子を含むベクター又はプラスミド、この核酸分子やベクター又はプラスミドを含む細胞、本発明の抗体を産生するハイブリドーマ等も、本発明の対象となる。
【実施例】
【0050】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例に限定されるものではない。
【0051】
<モノクローナル抗体の調製>
Genscript社製の組換えヒトSP-D(以下、rSP-D)を免疫原とした。rSP-Dを、初回免疫はFreund’s Complete Adjuvant (Difco Laboratories)、2回目免疫以降はFreund’s Incomplete Adjuvant (Difco Laboratories)と1:1で混合して用いた。Balb/cマウス又はF344/Jclラットに対し、初回免疫は25μg、2回目免疫以降20μg(PBSで希釈)の免疫原量を用い、隔週で皮下免疫を継続した。3回免疫実施後に抗原固相化ELISAにより血中抗体力価を評価した。十分な力価上昇の確認できた個体については、解剖の1~3日前にPBSで希釈した免疫原を腹腔免疫した。その後、脾臓細胞、腸骨リンパ節細胞及び鼠頸部リンパ節細胞を回収し、電気融合法によりミエローマ細胞SP2/0と融合した。融合細胞(すなわちハイブリドーマ)は、96wellプレートで培養し、融合から7又は8日後に培養上清を回収した。その後、後述する抗原固相化ELISAによるスクリーニングを実施し、rSP-Dに反応性を示す株を選択した。なお、スクリーニング前日に培地交換を行った。
【0052】
<抗SP-D抗体のスクリーニング>
ELISA用96穴プレート(NUNC442404)にrSP-D(1μg/mL in PBS)を50μL/wellとなるよう分注し、室温で2時間静置した。PBSTを400μL/wellとなるよう用いて3回洗浄後、ブロッキング液(1%BSA-PBST)を100μL/wellとなるよう分注し、室温で1時間あるいは4℃で終夜静置した。ブロッキング液を除去後、細胞培養上清と1000及び10000倍希釈の抗血清をそれぞれ50μL/wellとなるよう分注し、室温で1時間静置した。PBSTで3回洗浄後、Goat anti-Mouse IgG(H+L)PAb-HRP(SouthernBiotech社製,9500倍希釈)又はGoat anti-Rat IgG(H+L)PAb-HRP(SouthernBiotech社製,8500倍希釈)を50μL/wellとなるよう分注し、室温で1時間静置した。PBSTで3回洗浄後、OPD発色液を50μL/wellとなるよう分注し、室温で10分間静置した。停止液を50μL/wellとなるよう分注し、反応停止後、プレートリーダーで測定した(Abs.492nm)。これにより、rSP-Dに反応性を示す抗体を選抜した。獲得した抗SP-Dモノクローナル抗体を表1に示す。
【0053】
【0054】
<分析例1> 抗SP-Dモノクローナル抗体の特異性確認
ELISA用96穴プレート(NUNC442404)にrSP-D、組換えヒトサーファクタントA(SP-A)、組換えヒトCollectin Liver1(CLL1)及び組換えヒトMannan-Binding Lectin(MBL)抗原の混合液(各1μg/mL in PBS)を50μL/wellとなるよう分注し、室温で2時間静置した。PBSTを50μL/wellとなるよう用いて3回洗浄後、ブロッキング液(1%BSA-PBST)を100μL/wellとなるよう分注し、室温で1時間あるいは4℃で終夜静置した。ブロッキング液を除去後、表2に示す各抗SP-Dモノクローナル抗体溶液(5μg/mL)をそれぞれ50μL/wellとなるよう分注し、室温で1時間静置した。PBSTで3回洗浄後、Goat anti-Mouse IgG(H+L)PAb-HRP(SouthernBiotech社製,1031-05、9500倍希釈)又はGoat anti-Rat IgG(H+L)PAb-HRP(SouthernBiotech社製,3050-15、8500倍希釈)を50μL/wellとなるよう分注し、室温で1時間静置した。PBSTで3回洗浄後、OPD発色液を50μL/wellとなるよう分注し、室温で10分間静置した。停止液を50μL/wellとなるよう分注し、反応停止後、プレートリーダーで測定した(Abs.492nm)。各ウェルの測定値から、抗SP-Dモノクローナル抗体を分注せずに測定したウェルの測定値を減算して検出値を算出した結果を表2に示す。いずれの抗SP-Dモノクローナル抗体もrSP-Dのみに強く反応し、SP-D以外の抗原との反応性は全くないか極めて低かった。
【0055】
【0056】
<分析例2> 抗SP-Dモノクローナル抗体と生体試料由来のSP-Dとの反応性評価
Octet(Sartorius、Red384)を用い、分子間相互作用測定により抗SP-Dモノクローナル抗体と羊水中に含まれる生体由来SP-Dとの反応性を評価した。Biotin Labeling Kit-NH2(同仁化学研究所)で定法通りにビオチン化した抗SP-Dモノクローナル抗体をストレプトアビジンセンサーに結合させ、ブロッキング処理を行った。1%BSAを含むPBST(ツイーン(登録商標)入りリン酸緩衝食塩水)で5倍希釈した羊水、又は、1μg/mL又は10μg/mLに調整したrSP-Dと抗SP-Dモノクローナル抗体との反応性を評価した。結果を
図1に示す。
図1に示す通り、獲得したすべての抗SP-Dモノクローナル抗体がrSP-D及び羊水中の生体由来SP-Dと反応した。
【0057】
<分析例3> サンドイッチELISAによる生体試料由来SP-D検出
獲得した抗SP-Dモノクローナル抗体を組み合わせて、血清中のSP-Dを検出可能か検討した。ELISA用プレートの各ウェルにPBSで5μg/mLに調製した固相抗体としての抗SP-Dモノクローナル抗体を50μL/wellとなるよう分注し、室温で2時間静置した。各ウェルを5mMの塩化カルシウムを含むTBST(洗浄液)が400μL/wellとなるよう用いて3回洗浄し、各ウェルに1%BSA/TBST(ブロッキング液)を100μL/wellとなるよう分注して室温で1時間静置した。各ウェルからブロッキング液を除去し、各ウェルに血清を5mMの塩化カルシウムを含む1%BSA/TBSTでSP-D濃度が100ng/mLになるように希釈した溶液を50μL/wellとなるよう分注して室温で1時間静置した。各ウェルを洗浄液が400μL/wellとなるよう用いて3回洗浄し、Biotin Labeling Kit-NH2(同仁化学研究所)で定法通りにビオチン化したビオチン化抗SP-Dモノクローナル抗体を5mMの塩化カルシウムを含む1%BSA/TBSTで0.2μg/mLに調製した溶液を50μL/wellとなるようそれぞれ分注し、室温で1時間静置した。各ウェルを洗浄液が400μL/wellとなるよう用いて3回洗浄後、5mMの塩化カルシウムを含むTBSで0.2μg/mLに調製したHRP-Streptavidinを50μL/wellとなるよう分注し、室温で30分間静置した。洗浄液3回洗浄後、OPD発色液を50μL/wellとなるよう分注し、室温で10分間静置した。停止液を50μL/wellとなるよう分注し、プレートリーダーで波長492nmの吸光度を測定した。
【0058】
吸光度が0.1未満の抗体組合せを-、0.1以上0.5未満のモノクローナル抗体組合せを+、0.5以上1.0未満のモノクローナル抗体組合せを++、1.0以上のモノクローナル抗体組合せを+++とした結果を表3に示す。同じモノクローナル抗体同士の組合せを含む、複数の抗体組合せで血清中のSP-Dを検出可能であった。特に、S21202、S21205及びS21208抗体を組み合わせた場合に生体試料由来のSP-Dを高感度に検出可能であった。
【0059】
【0060】
<分析例4> rSP-Dの多量体分布解析1
TBSで平衡化したSuperdex 200 Increase 10/300GLカラム(Cytiva)に、Genscript社製のrSP-Dを55μg含む溶液をそれぞれ添加し、流速0.7mL/分でゲルろ過クロマトグラフィーを実施した。その際のUV吸光度を記録した。100μLの5%BSAを含むTBSを予め分注したチューブに、400μLずつ溶出液を分取した。分取後のフラクションはよく混合後、分注して-30℃で保存した。
【0061】
図2に、Genscript社製のrSP-Dをゲル濾過クロマトグラフィーで分析した際のクロマトグラムを示す。主に、12量体のSP-Dはフラクション14、3量体のSP-Dはフラクション23で溶出した。
【0062】
<抗SP-Dモノクローナル抗体によるrSP-Dゲルろ過フラクションの検出1>
抗SP-Dモノクローナル抗体S21208、S21205及びS21202を用いて、S21208固相―S21208液相(実施例1)、S21202固相―S21202液相(実施例2)、S21205固相―S21208液相(比較例1)、S21202固相―S21205液相(比較例2)の四つのELISA系を用い、以下に記載の手順で分析例4で得られた各フラクションのrSP-Dを測定した。
【0063】
ELISA用プレートにPBSで5μg/mLに調製した固相抗体を50μL/wellとなるよう分注し、室温で2時間静置した。5mMの塩化カルシウムを含むTBSTが400μL/wellとなるよう用いて3回洗浄後、1%BSA/TBST(ブロッキング液)を100μL/wellとなるよう分注し、室温で1時間静置した。ブロッキング液を除去後、5mMの塩化カルシウムを含む1%BSA/TBSTで1000倍希釈した分析例4で得られた各フラクションを50μL/wellとなるよう分注し、室温で1時間静置した。洗浄液が400μL/wellとなるよう用いて3回洗浄後、Biotin Labeling Kit-NH2(同仁化学研究所)で定法通りにビオチン化したビオチン化抗体を5mMの塩化カルシウムを含む1%BSA/TBSTで0.2μg/mLに調製した溶液を50μL/wellとなるよう分注し、室温で1時間静置した。洗浄液が400μL/wellとなるよう用いて3回洗浄後、5mMの塩化カルシウムを含むTBSで0.2μg/mLに調製したHRP-Streptavidinを50μL/wellとなるよう分注し、室温で30分間静置した。洗浄液が400μL/wellとなるよう用いて3回洗浄後、OPD発色液を50μL/wellとなるよう分注し、室温で10分間静置した。停止液を50μL/wellとなるよう分注し、プレートリーダーで波長492nmの吸光度を測定した。
【0064】
これらの結果を表4に示す。同一の抗SP-Dモノクローナル抗体でSP-Dをサンドイッチ検出する実施例1及び2においては、フラクション14に含まれる12量体のSP-Dを検出した一方で、フラクション23に含まれる3量体のSP-Dを検出しなかった。異なる抗SP-Dモノクローナル抗体2種を用いてSP-Dをサンドイッチ検出する比較例1及び2においては、12量体、3量体いずれのSP-Dも検出可能であった。以上の結果から、同一の抗SP-Dモノクローナル抗体でSP-Dをサンドイッチ検出することによって、3量体よりも大きい量体のSP-Dのみを検出可能であることが分かった。
【0065】
【0066】
<分析例5> rSP-Dの多量体分布解析2
分析例4と同様の方法でR&D社製又はGenscript社製のrSP-Dのゲル濾過クロマトグラフィーを実施した。217μgのrSP-Dをゲル濾過クロマトグラフィーに供した。
【0067】
図3に、R&D社製のrSP-D及びGenscript社製のrSP-Dをゲル濾過クロマトグラフィーで分析した際のクロマトグラムを示す。主に、36量体以上のSP-Dはフラクション8、12量体のSP-Dはフラクション12、3量体のSP-Dはフラクション20で溶出した。R&D社製のrSP-Dは、36量体以上のSP-Dが、Genscript社製のrSP-Dは、12量体のSP-Dが主たる構成物であった。以降、R&D社製のSP-Dを分析した際にn番目に溶出したフラクションをフラクションRn、Genscript社製のSP-Dを分析した際にn番目に溶出したフラクションをフラクションGnとする。36量体以上のSP-Dが多く含まれるフラクションR8のUV吸光度は24.68mAU、12量体のSP-Dが多く含まれるフラクションG12のUV吸光度は11.53mAUであった。rSP-Dのタンパク質濃度は、UV吸光度と比例するため、フラクションR8中の36量体以上のSP-Dと、フラクションG12中の12量体のSP-Dのタンパク質量比は2.14:1である。
【0068】
<rSP-Dゲルろ過フラクションの検出2>
抗SP-Dモノクローナル抗体S21208、S21205及びS21202を用いて、S21208固相―S21208液相(実施例1)、S21205固相―S21208液相(比較例1)、S21202固相―S21205液相(比較例2)の三つのELISA系を用い、<抗SP-Dモノクローナル抗体によるrSP-Dゲルろ過フラクションの検出1>と同様の手順により分析例5で得られた各フラクションのrSP-Dを測定した。
【0069】
これらの結果を表5に示す。同一の抗SP-Dモノクローナル抗体でSP-Dをサンドイッチ検出する実施例1では、36量体以上のSP-Dが含まれるフラクションR8を測定した際の吸光度と12量体のSP-Dが含まれるフラクションG12を測定した際の吸光度との比は、2.76:1であり、ゲルろ過クロマトグラフィーにおける36量体以上のSP-Dと12量体のSP-Dとのタンパク質量比である2.14:1と同等であった。また、実施例1は、フラクションG20に含まれる3量体のSP-Dを検出しなかった。
【0070】
異なる抗SP-Dモノクローナル抗体2種を用いてSP-Dをサンドイッチ検出する比較例1及び2においては、3量体のSP-Dを検出可能であった。一方で、36量体以上のSP-Dが含まれるフラクションR8を測定した際の吸光度と12量体のSP-Dが含まれるフラクションG12を測定した際の吸光度の比はそれぞれ1:0.87、1:0.44であり、ゲル濾過クロマトグラフィーにおけるSP-Dの多量体それぞれのタンパク質の量比を反映していなかった。より具体的には、ゲル濾過クロマトグラフィーの結果からタンパク質の量が36量体以上のSP-Dよりも少ないはずである12量体のSP-Dが含まれるフラクションを測定した吸光度の方が36量体以上のSP-Dが含まれるフラクションを測定した際の吸光度より高くなった。
【0071】
以上の結果から、同一の抗SP-Dモノクローナル抗体で12量体以上のSP-Dをサンドイッチ検出すると、SP-Dの多量体における基本ユニットの数に依らず、実際のタンパク質の量を反映した測定が可能であると考えられた。
【0072】
【0073】
<SP-D測定用LTIA試薬の調製>
1)第一試薬
第一試薬として下記の組成の溶液を調製した。
100mM MES-NaOH (pH6.0)
500mM NaCl
0.5% BSA
【0074】
2)抗ヒトSP-Dモノクローナル抗体感作ラテックス粒子溶液
平均粒子径317nm、臨界凝集濃度280mMの1%ポリスチレンラテックス溶液(積水メディカル社製)(10mM MOPS緩衝液)に、等量の10mM MOPS緩衝液で0.35mg/mLに希釈した抗SP-D抗体溶液を添加して4℃、2時間攪拌した。その後、等量の0.5%BSAを含む10mM MOPS緩衝液を添加して4℃、1時間攪拌し、抗ヒトSP-Dモノクローナル抗体感作ラテックス溶液を作製した。
【0075】
3)第二試薬
3-1)実施例2
2)に記載の手順で調製したS21208抗体感作ラテックス粒子溶液の波長600nmにおける吸光度が6.0Abs.となるように5mM MOPS-NaOH(pH7.0)緩衝液で希釈して第二試薬とした。
【0076】
3-2)比較例3
2)に記載の手順で調製したS21205抗体感作ラテックス粒子溶液の波長600nmの吸光度が3.0Abs.、S21208抗体感作ラテックス粒子溶液の波長600nmにおける吸光度が6.0Abs.となるように5mM MOPS-NaOH(pH7.0)緩衝液と抗体感作ラテックス粒子溶液とを混合して第二試薬とした。
【0077】
<SP-D測定試薬によるrSP-Dゲルろ過フラクションの定量>
1)LTIA試薬による測定方法
第一試薬と第二試薬とを組み合わせ、生化学自動分析装置(日立社製、日立自動分析装置3500)を用いて、以下の手順により分析例5で得られた各フラクション中のSP-D濃度を測定及び算出した(実施例2及び比較例3)。各フラクション5μLに第一試薬を120μLずつ加えて、37℃、5分間加熱した。第二試薬を40μLずつ添加して攪拌した。5分間の吸光度変化を、主波長570nm、副波長800nmにて測定した。既知濃度の組み換えSP-D(R&D社)測定時の単位時間における吸光度変化量を横軸に、組み換えSP-D濃度を縦軸にプロットして作成した検量線を用いて、各フラクション中のSP-D濃度を算出した。
【0078】
2)CL SP-D「ヤマサ」NX(ヤマサ醤油株式会社、既認証体外用診断薬(以下、既認証試薬とする))による測定方法
既認証試薬の添付文書に従って分析例5で得られた各フラクションを測定した(比較例4)。既認証試薬の添付文書によると、当該試薬は、異なる2種類の抗ヒトSP-Dマウスモノクローナル抗体を用いた化学発光酵素免疫測定法を原理として、血清中のSP-Dを測定する試薬である。
【0079】
表6は、分析5で得られたフラクションR8、R12及びR20を用いたときのSP-D濃度測定値を示す。
図4は、実施例2における分析5で得られた各フラクションのSP-D濃度測定値を示すグラフである。
図5は、比較例3における分析5で得られた各フラクションのSP-D濃度測定値を示すグラフである。
図6は、比較例4における分析5で得られた各フラクションのSP-D濃度測定値を示すグラフである。
【0080】
実施例2では、実施例1のELISAと同様にゲル濾過クロマトグラフィーにおける36量体以上のSP-Dと12量体のSP-Dのタンパク質量比(2.14:1)と同等の量比でSP-Dを検出した。また実施例2では3量体のSP-Dを含むフラクションG20の測定値と、ゲル濾過クロマトグラフィーにおいてフラクションG20よりもタンパク質含有量が低く測定されているフラクションG18の測定値とが同等であり、実施例2は3量体のSP-Dを実質的には検出しないと考えられた。
【0081】
一方、異なる抗体2種を用いた比較例3及び比較例4ではゲル濾過クロマトグラフィーの結果とは異なり、36量体以上のSP-Dを含むフラクションR8の測定値よりも12量体のSP-Dを含むフラクションG12の測定値の方が低く算出された。また、比較例3及び比較例4は、いずれも3量体のSP-Dを含むフラクションG20測定時にフラクションG18を測定した際よりも高い測定値を示し、3量体のSP-Dを検出していた(
図5、6)。以上より、同一抗体を用いてSP-Dをサンドイッチ検出する場合、LTIA試薬によってもSP-Dの多量体における基本ユニットの数に依らず、実際のタンパク質の量を反映した測定が可能であった。
【0082】
【産業上の利用可能性】
【0083】
上記態様によれば、多量体の肺サーファクタントプロテインDを構成する単量体数の多寡によらず正確な定量が可能である肺サーファクタントプロテインDの測定方法、測定キット、及びこれらに用いられるモノクローナル抗体並びにこの抗体を生産する細胞を提供することができる。
【0084】
[受託番号]
NPMD NITE BP-03825
NPMD NITE BP-03826
なお、NPMDは、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)を示すアクロニムである。
【要約】
この肺サーファクタントプロテインDの測定方法は、肺サーファクタントプロテインDを含む試料と、抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体を担持させた不溶性担体とを接触させる工程と、前記肺サーファクタントプロテインDと少なくとも2つの前記抗肺サーファクタントプロテインDモノクローナル抗体との複合体を検出する工程と、を含み、前記不溶性担体は、前記抗肺サーファクタントプロテインD抗体として一種の抗体のみが担持されている。