(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 41/10 20060101AFI20241120BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20241120BHJP
F16D 41/06 20060101ALI20241120BHJP
F16D 41/067 20060101ALI20241120BHJP
F16D 63/00 20060101ALI20241120BHJP
F16D 65/16 20060101ALI20241120BHJP
F16D 67/02 20060101ALI20241120BHJP
F16D 127/06 20120101ALN20241120BHJP
F16D 127/10 20120101ALN20241120BHJP
【FI】
F16D41/10
B60N2/90
F16D41/06 D
F16D41/067
F16D63/00 R
F16D65/16
F16D67/02 K
F16D127:06
F16D127:10
(21)【出願番号】P 2020201464
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【氏名又は名称】田下 明人
(74)【代理人】
【識別番号】100143454
【氏名又は名称】立石 克彦
(72)【発明者】
【氏名】高野 敦司
(72)【発明者】
【氏名】大矢 悠生
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/178801(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/10
B60N 2/90
F16D 41/06
F16D 41/067
F16D 63/00
F16D 65/16
F16D 67/02
F16D 127/06
F16D 127/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されるトルクを入力部材から回動伝達部材を介して出力部材へ伝達して出力するとともに、前記入力部材に入力されるトルクがなくなると前記出力部材の回動を規制する車両シート用のブレーキ装置であって、
前記入力部材は、
入力されるトルクに応じて回動するレバー部材と、
前記レバー部材の回動範囲を制御するガイド片が形成される底部と円筒部とを有するように有底円筒状に形成されるカバーと、
を備え、
前記出力部材は、
出力軸と、
前記出力軸に同軸的に連結されて外周面に複数のカム面が形成されるブレーキカムと、
内周面と当該内周面に対向する前記複数のカム面とによってカム面ごとに一対のくさび形空間が形成されるように配置されるリングと、
前記くさび形空間に入り込むことで前記リングと前記ブレーキカムとの相対回動を規制するためのブレーキローラーと、
前記ブレーキローラーを前記くさび形空間に向けて付勢する付勢部材と、
を備え、
前記回動伝達部材は、前記入力部材の回動に応じて回動することで、前記付勢部材による付勢力に抗して前記ブレーキローラーを前記くさび形空間から離脱させるとともに、前記ブレーキカムを回動させるように形成され、
前記円筒部は、複数の延出部間にスリットが介在
し、かつ、前記底部から離れるほど前記スリットの周方向幅が広くなるように形成されて、前記複数の延出部の内周面側に前記リングが圧入された状態で当該リングの外周面に
対して前記延出部にて周方向に溶接固定され
、溶接部分での前記延出部の周方向長さが前記スリットの周方向幅に対して2倍程度となるように設定されることを特徴とするブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両シート用のブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両シートに配設されて、車両シートの姿勢調整等において入力部材から出力部材に伝達されるトルクを制御するブレーキ装置に関する技術として、例えば、下記特許文献1に開示されるシート高さ調整クラッチが知られている。このシート高さ調整クラッチは、シートブラケットに設けられるハイト機構に対して操作レバーの操作による入力トルクを入力部材、遊星歯車機構及び出力側部材等を介して伝達することで、シートクッションの高さを調整するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記シート高さ調整クラッチは、出力側カムのカム面との間でくさび形空間を構成するためのリング部材が、入力側ハウジングに圧入固定されるように構成されている。具体的には、リング部材は、その外周面が入力側ハウジングの第2円筒部の複数の角部に合わせた角部を同数有した形状をしており、これらの角部を利用して入力側ハウジングに圧入固定される。
【0005】
しかしながら、上述のように外周面に形成される複数の角部を利用してリング部材を入力側ハウジングに圧入する構成では、圧入時にリング部材が入力側ハウジングの剛性に負けて変形してしまう場合がある。このようなリング部材の変形のためにその内周面まで変形してしまうと、上記くさび形空間が形成できずにトルク伝達に影響を及ぼす可能性がある。このため、例えば、リング部材を入力側ハウジングに隙間ばめにて溶接する構成にすると、隙間の大きさによっては溶接強度が不足する可能性があり、隙間が無いようにリング部材と入力側ハウジングとを組み付けて溶接する構成にすると、必要な寸法精度が高くなるために製造コストが高くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、圧入状態のリングとカバーとの溶接に関して必要な溶接強度を確保しつつリングに作用する圧入力を低減し得る構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載の請求項1の発明は、
入力されるトルクを入力部材(20)から回動伝達部材(40)を介して出力部材(30)へ伝達して出力するとともに、前記入力部材に入力されるトルクがなくなると前記出力部材の回動を規制する車両シート用のブレーキ装置(10)であって、
前記入力部材は、
入力されるトルクに応じて回動するレバー部材(21)と、
前記レバー部材の回動範囲を制御するガイド片(22c)が形成される底部(22a)と円筒部(22f)とを有するように有底円筒状に形成されるカバー(22)と、
を備え、
前記出力部材は、
出力軸(35)と、
前記出力軸に同軸的に連結されて外周面に複数のカム面(32a)が形成されるブレーキカム(32)と、
内周面(31a)と当該内周面に対向する前記複数のカム面とによってカム面ごとに一対のくさび形空間が形成されるように配置されるリング(31)と、
前記くさび形空間に入り込むことで前記リングと前記ブレーキカムとの相対回動を規制するためのブレーキローラー(33)と、
前記ブレーキローラーを前記くさび形空間に向けて付勢する付勢部材(34)と、
を備え、
前記回動伝達部材は、前記入力部材の回動に応じて回動することで、前記付勢部材による付勢力に抗して前記ブレーキローラーを前記くさび形空間から離脱させるとともに、前記ブレーキカムを回動させるように形成され、
前記円筒部は、複数の延出部(22g)間にスリット(22h)が介在し、かつ、前記底部から離れるほど前記スリットの周方向幅が広くなるように形成されて、前記複数の延出部の内周面側に前記リングが圧入された状態で当該リングの外周面に対して前記延出部にて周方向に溶接固定され、溶接部分での前記延出部の周方向長さが前記スリットの周方向幅に対して2倍程度となるように設定されることを特徴とする。
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明では、カバーは、レバー部材の回動範囲を制御するガイド片が形成される底部と円筒部とを有するように有底円筒状に形成され、円筒部は、複数の延出部間にスリットが介在するように形成されて、これら複数の延出部の内周面側にリングが圧入された状態で当該リングの外周面に溶接固定される。
【0009】
このように、複数の延出部間にスリットが介在するように円筒部が形成されることで、円筒部の内周面側にリングが圧入される際には、各延出部がそれぞれ外側に拡がるように変形するため、リングに作用する圧入力を低減することができる。この圧入力は、延出部の周方向長さを短くするほど小さくなり、その一方で延出部の周方向長さを長くするほど溶接可能範囲が広くなって溶接強度を高めやすくなる。このため、求められる仕様等に応じて延出部の周方向長さを適切に設定することで、圧入状態のリングとカバーとの溶接に関して必要な溶接強度を確保しつつリングに作用する圧入力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るブレーキ装置が適用された車両用シート装置を示す側面図である。
【
図2】ブレーキ装置を入力側から見た斜視図である。
【
図3】ブレーキ装置を出力側から見た斜視図である。
【
図5】ブレーキ装置を入力側から見た側面図である。
【
図6】ブレーキ装置を出力側から見た側面図である。
【
図8】
図5に示すX1-X1断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図9】
図4に示すX2-X2断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図10】
図4に示すX3-X3断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図11】
図4に示すX4-X4断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図15】
図15(A)は、回動伝達部材の規制部と第2ローラーとの接触状態が維持された状態を説明する説明図であり、
図15(B)は、
図15(A)の状態とは異なる第2ローラーと規制部との接触状態が維持された状態を説明する説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る車両シート用のブレーキ装置が適用された車両用シート装置の一実施形態について図を参照して説明する。
図1に示すように、車両用シート装置100は、主に、車両フロアBに対して前後に摺動可能なシートレール101と、このシートレール101上にシートブラケット(図示略)等を介して取り付けられるシートクッション102と、このシートクッション102に対して傾動可能に支持されるシートバック103とを備えている。シートクッション102の一方の側部には本発明に係る車両用シート用のブレーキ装置(クラッチ装置)10が配設されており、このブレーキ装置10には、操作レバー104が連結されている。
【0012】
このブレーキ装置10は、シートブラケットに設けられる公知のハイト機構(出力側機構)に対して操作レバー104による入力トルクを入力部材及び出力部材等を介して伝達することで、シートクッション102の高さを任意に調整する役割を果たす。
【0013】
すなわち、ブレーキ装置10は、操作レバー104の操作に応じて入力部材から入力されるトルクを出力部材へ伝達して出力するとともに、入力部材に入力されるトルクがなくなると出力部材の回動が規制されて入力部材のみ中立位置側に戻るように構成されている。このため、ブレーキ装置10は、操作レバー104が水平な中立位置Nでは、シートクッション102の高さを維持するように出力部材が回動不能に固定される。
【0014】
また、ブレーキ装置10は、シートクッション102の高さを上昇させるために操作レバー104が上方向Uへ揺動操作されると、この揺動操作に応じた入力トルクが入力部材及び出力部材を介して上記ハイト機構に伝達される。これにより、シートクッション102の高さが上昇する。そして、入力トルクがなくなると、出力部材はその回動角度を維持し、入力部材は操作レバー104とともに中立位置側に戻るため、上昇したシートクッション102の高さが維持される。
【0015】
一方、ブレーキ装置10は、シートクッション102の高さを下降させるために操作レバー104が下方向Dへ揺動操作されると、この揺動操作に応じた入力トルクが入力部材及び出力部材を介して上記ハイト機構に伝達される。これにより、シートクッション102の高さが下降する。そして、入力トルクがなくなると、出力部材はその回動角度を維持し、入力部材は操作レバー104とともに中立位置側に戻るため、下降したシートクッション102の高さが維持される。
【0016】
次に、ブレーキ装置10の構成について、図を用いて説明する。
図2~
図11に示すように、ブレーキ装置10は、レバー部材21、カバー22、ウェーブワッシャ23、第1カム24、6個の第1ローラー25、3個の第1スプリング26、2つのワッシャ27,28を有する入力部材20と、リング31、第2カム32、10個の第2ローラー33、5個の第2スプリング34、ピニオンギヤ35、フリクションスプリング36を有する出力部材30と、回動伝達部材40及びブッシュ50と、ブラケット60とを備え、入力部材20及び出力部材30は回動伝達部材40を介して同軸的に配置されている。
【0017】
まず、入力部材20を構成する各部品について説明する。
レバー部材21は、締結部材として機能する3つのタッピングネジ110を利用して操作レバー104に締結されるもので、操作レバー104の揺動操作による入力トルクを第1カム24等に伝達する役割を果たす。なお、
図8では、便宜上、操作レバー104及びタッピングネジ110を二点鎖線にて図示している。
【0018】
このレバー部材21は、
図2、
図5及び
図7に示すように、平板状であって、円弧状の底縁21bと底縁21bに連なるように対向する一方の側縁21c及び他方の側縁21dとからなる凹部21aが、外縁に対して内方に凹むように3つ設けられて形成される。本実施形態における「平板状」とは、表裏面が平行な板状の素材を加工することで得られる形状であって、一部に凸凹が設けられる形状を含むものとする。各凹部21aは、同じ形状であって周方向にて等間隔に位置するように配置されている。また、レバー部材21の中央には、第1カム24が係合する係合孔21eが形成され、この係合孔21eを中心に、タッピングネジ110を固定するための貫通孔21fが3つ形成されている。
【0019】
図7及び
図8に示すように、カバー22は、底部となる側壁部22aと円筒部22fとを備えるように略有底円筒状に形成される入力側カバーであって、側壁部22aの中央には、後述する第1カム24の係合突部24bが挿通する貫通孔22bが形成されている。この貫通孔22bは、第1カム24の回動時に係合突部24bが接触しないように形成されている。また、貫通孔22bの周囲には、3つのガイド片22cと、3つの挿通孔22dと、3つの規制部22eが設けられている。
【0020】
各ガイド片22cは、レバー部材21の回動範囲を制御するもので、周方向にて等間隔となる位置にて、側壁部22aの一部を入力側に切り起こすようにして形成されている。ガイド片22cは、上記回動範囲の一端までレバー部材21が回動した時に一方の側縁21cに当接し、上記回動範囲の他端までレバー部材21が回動した時に他方の側縁21dに当接するように形成されている。本実施形態では、
図5に示すように、各凹部21aは、上記中立位置では、底縁21bの中央部分にてガイド片22cに対向するように配置されている。これにより、中立位置から回動範囲の一端までのレバー部材21の回動角度と回動範囲の他端までのレバー部材21の回動角度とが同じ角度になる。
【0021】
各挿通孔22dは、レバー部材21の回動に伴って移動するタッピングネジ110に接触しないように長孔状であって、ガイド片22cの切り起こし部分に連なるように形成されている。
【0022】
各規制部22eは、周方向にて等間隔であって、後述する一対のカム面24aにそれぞれ対応する第1ローラー25間に位置するように、側壁部22aの一部を出力側に切り起こして形成されている(
図9参照)。
【0023】
円筒部22fは、複数の延出部間にスリットが介在するように円筒状に形成されている。より具体的には、円筒部22fは、6つの延出部22gと6つのスリット22hとがそれぞれ等間隔に位置し、各延出部22gの内周面側にリング31が圧入されるように形成されている。また、各スリット22hは、同じ形状であって、側壁部22aから離れるほど開口幅が広くなるように形成されている。本実施形態では、圧入力の低減と必要な溶接強度の確保との両立を図るため、溶接部分での各延出部22gの周方向長さがスリット22hの周方向幅に対して2倍程度となるように設定されている。
【0024】
図8に示すように、ウェーブワッシャ23は、カバー22の側壁部22aと第1カム24との双方に対して軸方向の付勢力を与えるように配置されている。このようにウェーブワッシャ23が配置されることで、軸方向のガタが抑制されるため、第1カム24と回動伝達部材40との内面上下位置の安定化や第2ローラー33の作動安定化等を図ることができる。
【0025】
図7及び
図9に示すように、第1カム24は、その外周面に、一対のカム面24aが等間隔にて3か所設けられており、各カム面24aは、後述する回動伝達部材40の内周面41aとの間で6か所のくさび形空間を形成するように配置されている。第1カム24の中央には、カバー22の貫通孔22bを挿通した状態でレバー部材21の係合孔21eに係合する係合突部24bが入力側に突出するように設けられている。また、第1カム24の外周面には、溝部24cが等間隔にて3か所設けられており、各溝部24cは、レバー部材21に締結されたタッピングネジ110がそれぞれ入り込むように形成されている(
図9参照)。
【0026】
各第1ローラー25は、略円筒状に形成される入力側ローラーであって、その径が、第1カム24のカム面24aと回動伝達部材40の内周面41aとにより形成される一対の対向するくさび形空間内にて正逆回動可能とするための遊びを有するように配置されている。そして、
図9に示すように、一対のカム面24aに対してそれぞれ対応する第1ローラー25間には、カバー22の規制部22eが位置している。
【0027】
第1スプリング26は、コイルバネ状の付勢部材であって、
図9に示すように、一端側にて第1ローラー25を規制部22eに向けて付勢し、他端側にて異なる第1ローラー25を異なる規制部22eに向けて付勢するように配置されている。
【0028】
ワッシャ27は、第1ローラー25及び第1スプリング26とカバー22の側壁部22aとの間に介在するように配置されており、伸縮する第1スプリング26と側壁部22aとの接触を防止するとともに第1ローラー25の軸方向入力側への移動を抑制するように機能する。
【0029】
ワッシャ28は、第1ローラー25及び第1スプリング26と回動伝達部材40の側壁部42との間に介在するように配置されており、伸縮する第1スプリング26と側壁部42との接触を防止するとともに第1ローラー25の軸方向出力側への移動を抑制するように機能する。
【0030】
次に、出力部材30を構成する各部品について説明する。
図2~
図4に示すように、リング31は、その外周面にてブレーキ装置10の外郭の一部を構成する円環状の部材である。このリング31は、
図10に示すように、その内周面31aと当該内周面31aに対向する第2カム32のカム面32aとによってカム面32aごとにくさび形空間が形成されるように配置されている。また、リング31は、その外周面にてカバー22における各延出部22gの内周面側に圧入されるように形成されている。
【0031】
図12(A)(B)に示すように、第2カム32は、その外周面に、一対のカム面32aが等間隔にて5か所設けられており、各カム面32aは、リング31の内周面31aとの間で10か所のくさび形空間を形成するように配置されている(
図10参照)。第2カム32の中央には、ピニオンギヤ35が同軸的に係合するための係合孔32bが形成されている。また、第2カム32の入力側の端面には、5つの係合凸部32cが、周方向にて等間隔に位置するように配置されている。なお、第2カム32は、「ブレーキカム」の一例に相当し得る。
【0032】
各第2ローラー33は、略円筒状に形成されており、その径が、第2カム32のカム面32aとリング31の内周面31aとにより形成される一対の対向するくさび形空間内にて正逆回動可能とするための遊びを有するように配置されている。そして、
図10に示すように、一対のカム面32aにそれぞれ対応する第2ローラー33間に、後述する回動伝達部材40の規制部42cが位置している。なお、第2ローラー33は、「ブレーキローラー」の一例に相当し得る。
【0033】
第2スプリング34は、コイルバネ状の付勢部材であって、
図10に示すように、一端側にて第2ローラー33を規制部42cに向けて付勢し、他端側にて異なる第2ローラー33を異なる規制部42cに向けて付勢するように配置されている。
【0034】
図7及び
図8に示すように、ピニオンギヤ35の入力側には、第2カム32の係合孔32bに係合する係合突起35aが形成されるとともに、この係合突起35aから同軸的に延出するように円柱部35bが形成されている。なお、ピニオンギヤ35は、「出力軸」の一例に相当し得る。
【0035】
図7及び
図8に示すように、フリクションスプリング36は、係合孔36aにて第2カム32の係合孔32bとともにピニオンギヤ35の係合突起35aに係合するように配置されている。このフリクションスプリング36は、ピニオンギヤ35が回動する際にリング31の内周面31aに摺接することで、ピニオンギヤ35に対して逆回動方向の付勢力を付与するように機能する。
【0036】
次に、入力部材20から入力されるトルクを出力部材30へ伝達するための回動伝達部材40及びブッシュ50について説明する。
図13(A)(B)に示すように、回動伝達部材40は、円筒部41及び側壁部42を備え、略有底円筒状に形成されている。円筒部41は、その内周面41aにて、第1カム24の各カム面24aと対向することで、上記くさび形空間を形成するように配置されている(
図11参照)。
【0037】
側壁部42には、その中央にピニオンギヤ35の円柱部35bが挿通する貫通孔42aが形成されるとともに、貫通孔42aを基準として周方向にて等間隔に5つの係合孔42bが形成されている。各係合孔42bは、
図11に示すように、第2カム32の係合凸部32cがそれぞれ周方向にて所定の隙間を介して挿通するように形成されている。
【0038】
各係合孔42bの外縁側には、それぞれ出力側に延出する規制部42cが、係合孔42bの形成時の切り起こしを利用して設けられる。各規制部42cは、周方向にて等間隔であって、第2カム32の一対のカム面24aにそれぞれ対応する第2ローラー33間に位置するように形成されている(
図10参照)。なお、
図10では、便宜上、規制部42cが第2ローラー33に接触しないように図示している。
【0039】
図14に示すように、ブッシュ50は、軸方向にスリット53が形成される略円筒状のブッシュ本体部51とフランジ部52とを備えるように構成されている。ブッシュ本体部51は、外周面51aや内周面51bを構成する板面に樹脂コーティングが施された金属製の板材を円筒状に曲げるようにして成形される。このブッシュ本体部51は、外力が作用しない状態では、内周面51bでの内径がピニオンギヤ35における円柱部35bの外径よりも僅かに小さくなり、円柱部35bの外周面に組み付けた状態では、外周面51aにて回動伝達部材40の貫通孔42aの内周面に摩擦接触するように形成される。
【0040】
このように構成されるブッシュ50は、ブッシュ本体部51の内周面51bにて円柱部35bの外周面に組み付けた状態にて、ブッシュ本体部51の外周面51aにて回動伝達部材40の貫通孔42aの内周面に摩擦接触するように配置されている。このように配置されるブッシュ50により、回動伝達部材40がピニオンギヤ35に対して相対回動する場合に、回動伝達部材40に対してその相対回動を抑制するような摩擦力がブッシュ50を介して作用する。
【0041】
ブラケット60は、リング31及び第2カム32等を出力側から覆うカバー部材であって、ピニオンギヤ35が貫通する貫通穴61が中央部に形成され、シートクッション102に連結するための連結穴62が一方の端部と他方の端部とに計3つ形成されている。
【0042】
このように構成されるブレーキ装置10では、カバー22は、各延出部22gの内周面側にリング31が圧入された状態で当該リング31の外周面に溶接固定される。具体的には、リング31の入力側端面から所定距離L(例えば、2mm:
図4参照)離れた位置にて、各延出部22gでの周方向溶接長さが回転軸を基準とする所定角度(例えば、30°)となるように、溶接固定される。なお、溶接方法としては、例えば、レーザー溶接やTIG溶接を採用することができる。また、
図4では、溶接部分Wを太線にて図示している。
【0043】
次に、上記のように構成されるブレーキ装置10における入力部材20及び出力部材30等の作動について、
図15(A)(B)を参照して説明する。
操作レバー104が操作されていない状態では、異なる第1スプリング26によってそれぞれ付勢された2つの第1ローラー25が1つの規制部22eに対して異なる方向から押圧された状態で、レバー部材21及び第1カム24は上記中立位置に位置する。
【0044】
そして、操作レバー104に対する操作力に応じてその操作レバー104が中立位置Nから上方向U又は下方向Dへ揺動操作されると、レバー部材21及び第1カム24が上記揺動操作に応じた方向に回動する。その際、一対のカム面24aにおいて、回動方向側のカム面24aに対応する第1ローラー25がそのカム面24aによって形成されるすきま空間に入り込むことでロック状態となり、そのすきま空間を形成する回動伝達部材40も第1カム24とともに回動する。その一方で、他方のカム面24aに対応する第1ローラー25は、第1スプリング26によって規制部22eに押圧される状態が維持される。
【0045】
上述のように回動する回動伝達部材40の規制部42cによって回動方向に押圧された第2ローラー33がくさび形空間から離脱することで、リング31に対する第2カム32の相対回動の規制が解除される。このため、規制部42cは、入力部材20の回動に応じて回動伝達部材40が回動する際に、第2スプリング34による付勢力に抗して第2ローラー33をくさび形空間から離脱させるように機能する。
【0046】
そして、回動伝達部材40の係合孔42bに入り込んでいる第2カム32の係合凸部32cが係合孔42bの外縁に押圧されるようにして、第2カム32が回動伝達部材40とともに回動するとともに、この第2カム32に係合するピニオンギヤ35が回動する。このため、係合孔42bは、第2ローラー33がくさび形空間から離脱した状態にて、係合凸部32cを回動方向に押圧することで第2カム32を回動させるように機能する。
【0047】
これにより、入力部材20から入力された入力トルクが出力部材30のピニオンギヤ35等を介して上記ハイト機構に伝達されることとなる。このように、回動伝達部材40とともにピニオンギヤ35が回動する際、回動伝達部材40の貫通孔42aの内周面とピニオンギヤ35の円柱部35bの外周面との間に介在するブッシュ50も一体となって回動するため、ブッシュ50に摩擦力が生じることはない。
【0048】
そして、上記操作力が解除されることで上記入力トルクがなくなると、カム面24aから力を受けていた第1ローラー25が、第1スプリング26の付勢力によって規制部22eに押圧されるように元の位置に戻る。このため、上述のように元の位置に戻ろうとする第1ローラー25によって、回動伝達部材40に対して操作時とは逆方向に回動させようとする力が作用する。このとき、回動伝達部材40は、貫通孔42aにてブッシュ50の外周面51aに摩擦接触しているため、回動伝達部材40の上述のような逆方向への回動が抑制される。これにより、上記入力トルクがなくなった後も、
図15(A)に示すように、回動伝達部材40の規制部42cと第2ローラー33との接触状態が維持されるので、回動伝達部材40が前回と同じ方向に回動し始めてから規制部42cにて第2ローラー33に接触するまでの作動遊びをなくすことができる。
【0049】
なお、前回と逆方向に操作レバー104を操作すると、最初の操作時には規制部42cが回動方向の第2ローラー33に接触していないため作動遊びがあるが、続く同じ回動方向への操作時には、
図15(B)に示すように、規制部42cが
図15(A)の状態とは異なる第2ローラー33に接触しているため、作動遊びをなくすことができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係るブレーキ装置10では、カバー22は、レバー部材21の回動範囲を制御するガイド片22cが形成される側壁部22aと円筒部22fとを有するように有底円筒状に形成され、円筒部22fは、複数の延出部22g間にスリット22hが介在するように形成されて、これら複数の延出部22gの内周面側にリング31が圧入された状態で当該リング31の外周面に溶接固定される。
【0051】
このように、複数の延出部22g間にスリット22hが介在するように円筒部22fが形成されることで、円筒部22fの内周面側にリング31が圧入される際には、各延出部22gがそれぞれ外側に拡がるように変形するため、リング31に作用する圧入力を低減することができる。この圧入力は、延出部22gの周方向長さを短くするほど小さくなり、その一方で延出部22gの周方向長さを長くするほど溶接可能範囲が広くなって溶接強度を高めやすくなる。このため、求められる仕様等に応じて延出部22gの周方向長さを適切に設定することで、圧入状態のリング31とカバー22との溶接に関して必要な溶接強度を確保しつつリング31に作用する圧入力を低減することができる。
【0052】
また、上述のように円筒部22fに複数のスリット22hが設けられることで、スリット22hを設けない場合と比較して、カバーの軽量化、すなわち、ブレーキ装置10の軽量化を図ることができる。
【0053】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記実施形態等に限定されるものではなく、例えば、以下のように具体化してもよい。
(1)カバー22の円筒部22fは、6つの延出部22gと6つのスリット22hとがそれぞれ等間隔に位置するように形成されることに限らず、2~5又は7つ以上の延出部とスリットとが等間隔に位置するように形成されてもよいし、複数の延出部とスリットとが等間隔でない状態にて位置するように形成されてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10…ブレーキ装置
20…入力部材
21…レバー部材
22…カバー
22a…側壁部(底部)
22c…ガイド片
22f…円筒部
22g…延出部
22h…スリット
30…出力部材
31…リング
31a…内周面
32…第2カム(ブレーキカム)
32a…カム面
33…第2ローラー(ブレーキローラー)
34…第2スプリング(付勢部材)
35…ピニオンギヤ(出力軸)
40…回動伝達部材
100…車両用シート装置