(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】ゴム被覆ワイヤの製造方法および装置
(51)【国際特許分類】
B29C 48/92 20190101AFI20241120BHJP
B29C 48/154 20190101ALI20241120BHJP
B29C 48/34 20190101ALI20241120BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/154
B29C48/34
(21)【出願番号】P 2021011734
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】永島 未佳
(72)【発明者】
【氏名】光真坊 誠
(72)【発明者】
【氏名】松本 芳晃
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-152647(JP,A)
【文献】特開2005-138467(JP,A)
【文献】特開2004-345312(JP,A)
【文献】特開平06-231634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/92
B29C 48/154
B29C 48/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
前記ゴム粘度指標として、前記未加硫ゴムの粘度、硬度、前記ゴム押出機の内部圧力、前記ゴム押出機のスクリューの駆動に要するトルクのうちの少なくとも1つを用いる請求項1に記載のゴム被覆ワイヤの製造方法。
【請求項3】
前記被覆厚さが前記目標値の許容範囲に所定時間維持される安定期間を経過した後は、前記未加硫ゴムを通過した直後に外径センサにより前記ゴム被覆ワイヤの外径を検知して、前記目標値に対応する前記ゴム被覆ワイヤの外径の目標値と前記外径センサにより検知された外径データとを前記制御部により比較して、この比較結果に基づいて前記制御部により前記加温機構を制御して前記未加硫ゴムを被覆する時点での前記ワイヤの外周面の温度を調整することで、前記外径センサにより検知される外径データを前記外径の前記目標値に近づける制御を行う請求項1または2に記載のゴム被覆ワイヤの製造方法。
【請求項4】
ゴム押出機と、前記ゴム押出機から押し出された未加硫ゴムの中にワイヤを通過させるワイヤ移動機構とを有して、前記未加硫ゴムの中に通過させた後の前記ワイヤの外周面に前記未加硫ゴムが被覆されるゴム被覆ワイヤの製造装置において、
前記未加硫ゴムについて
、前記ワイヤに対する被覆厚さを目標値にする
相関関係として、ゴム粘度指標と前記未加硫ゴムを被覆する時点での前記ワイヤの外周面の温度との予め把握されている相関関係が入力される制御部と、前記ワイヤの外周面に前記未加硫ゴムを被覆する前に前記ゴム粘度指標を取得するデータ取得部と、前記未加硫ゴムが被覆される時点での前記ワイヤの外周面の温度を調整する加温機構とを備えて、
前記相関関係と前記データ取得部により取得された前記ゴム粘度指標とに基づいて、前記制御部により前記被覆厚さを前記目標値にする前記ワイヤの外周面の温度の適正値が算出されて、前記制御部が加温機構を制御することにより、前記未加硫ゴムを被覆する時点での前記ワイヤの外周面の温度を、算出した前記適正値に調整した状態にして、このワイヤを前記ゴム押出機から押し出された前記未加硫ゴムの中に通過させることを特徴とするゴム被覆ワイヤの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム被覆ワイヤの製造方法および装置に関し、さらに詳しくは、ワイヤの外周面を被覆する未加硫ゴムの被覆厚さをより安定して目標値にすることができるゴム被覆ワイヤの製造方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどのゴム製品を製造する場合に、ワイヤの外周面を未加硫ゴムにより被覆したゴム被覆ワイヤが使用されている。ゴム被覆ワイヤは例えば、ゴム押出機から押し出された未加硫ゴムの中にワイヤを通過させることで製造される。このゴム被覆ワイヤでの未加硫ゴムの被覆厚さは、製造条件、未加硫ゴムの種類やロットの違いなど、様々な要因によってばらつきが生じる。
【0003】
この未加硫ゴムの被覆厚さを安定させるために、未加硫ゴムを通過した直後のゴム被覆ワイヤの外径を検知して、この検知した外径データと予め設定された目標外径とを比較した結果に基づいて、未加硫ゴムを通過する直前のワイヤの温度を調整することが提案されている(特許文献1参照)。ワイヤの温度を変化させるとワイヤの外周面に対する未加硫ゴムの付着量が変化するので、ワイヤの温度を適切に制御することで被覆厚さを目標値にすることが可能になる。
【0004】
しかしながら、ワイヤの移動経路において、ゴム被覆ワイヤの外径を検知する位置(検知位置)は、ワイヤを加温する位置(加温位置)の下流側にある。そのため、ゴム被覆ワイヤの外径を検知した時点で検知位置と加温位置との間に延在しているゴム被覆ワイヤの範囲に対しては、検知した外径データに基づいて温度を変化させた状態にして未加硫ゴムの中を通過させることができない。このように従来提案されている方法では、ゴム被覆ワイヤには検知した外径データを反映させて被覆厚さを適切に調整できない範囲が存在するため、被覆厚さをより安定して目標値にするには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ワイヤの外周面を被覆する未加硫ゴムの被覆厚さをより安定して目標値にすることができるゴム被覆ワイヤの製造方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のゴム被覆ワイヤの製造方法は、ゴム押出機から押し出された未加硫ゴムの中にワイヤを継続的に通過させることにより、前記ワイヤの外周面に前記未加硫ゴムを被覆するゴム被覆ワイヤの製造方法において、前記未加硫ゴムについて、前記ワイヤに対する被覆厚さを目標値にする相関関係として、ゴム粘度指標と前記未加硫ゴムを被覆する時点での前記ワイヤの外周面の温度との相関関係を予め把握して制御部に入力しておき、前記相関関係と前記ワイヤの外周面に前記未加硫ゴムを被覆する前に把握した前記ゴム粘度指標とに基づいて、前記制御部により前記被覆厚さを前記目標値にする前記ワイヤの外周面の温度の適正値を算出し、加温機構により、前記未加硫ゴムを被覆する時点での前記ワイヤの外周面の温度を、算出した前記適正値に調整した状態にして前記ゴム押出機から押し出された前記未加硫ゴムの中に前記ワイヤを継続的に通過させることを特徴とする。
【0008】
本発明のゴム被覆ワイヤの製造装置は、ゴム押出機と、前記ゴム押出機から押し出された未加硫ゴムの中にワイヤを通過させるワイヤ移動機構とを有して、前記未加硫ゴムの中に通過させた後の前記ワイヤの外周面に前記未加硫ゴムが被覆されるゴム被覆ワイヤの製造装置において、前記未加硫ゴムについて、前記ワイヤに対する被覆厚さを目標値にする相関関係として、ゴム粘度指標と前記未加硫ゴムを被覆する時点での前記ワイヤの外周面の温度との予め把握されている相関関係が入力される制御部と、前記ワイヤの外周面に前記未加硫ゴムを被覆する前に前記ゴム粘度指標を取得するデータ取得部と、前記未加硫ゴムが被覆される時点での前記ワイヤの外周面の温度を調整する加温機構とを備えて、前記相関関係と前記データ取得部により取得された前記ゴム粘度指標とに基づいて、前記制御部により前記被覆厚さを前記目標値にする前記ワイヤの外周面の温度の適正値が算出されて、前記制御部が加温機構を制御することにより、前記未加硫ゴムを被覆する時点での前記ワイヤの外周面の温度を、算出した前記適正値に調整した状態にして、このワイヤを前記ゴム押出機から押し出された前記未加硫ゴムの中に通過させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、前記被覆厚さに前記未加硫ゴムの粘度が大きく影響することに着目して、この粘度の変動に密接に関わる指標を前記ゴム粘度指標(粘度を含む)として使用する。そして、前記ゴム粘度指標と、前記未加硫ゴムを被覆する時点での前記ワイヤの外周面の温度との2項目を利用して、前記被覆厚さを目標値にする前記ゴム粘度指標と前記温度との相関関係を予め把握する。そして、前記相関関係と前記ワイヤの外周面に前記未加硫ゴムを被覆する前に把握した前記ゴム粘度指標とに基づいて、前記被覆厚さを前記目標値にする前記温度の適正値を算出する。前記ワイヤは、前記未加硫ゴムを被覆する時点で、前記温度が前記適正値になるように前記加温機構によって調整した状態にされて、前記ゴム押出機から押し出された前記未加硫ゴムの中に継続的に通過される。そのため、前記ワイヤの全長に渡って前記被覆厚さが前記目標値になるように適切に調整され、前記被覆厚さをより安定して目標値にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のゴム被覆ワイヤの製造装置を側面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1の製造装置を平面視で例示する説明図である。
【
図3】製造されたゴム被覆ワイヤを横断面視で例示する説明図である。
【
図4】ゴム被覆ワイヤの外径(被覆厚さ)とワイヤの外周面の温度との関係を例示するグラフ図である。
【
図5】ゴム被覆ワイヤの外径(被覆厚さ)を目標値にするための未加硫ゴムの粘度とワイヤ外周面の温度との相関関係を例示するグラフ図である。
【
図6】未加硫ゴムの粘度とヘッドの内部圧力との関係を例示するグラフ図である。
【
図7】ゴム被覆ワイヤの外径(被覆厚さ)を目標値にするためのゴム押出機のヘッド圧力とワイヤ外周面の温度との相関関係を例示するグラフ図である。
【
図8】未加硫ゴムの粘度と硬度との関係を例示するグラフ図である。
【
図9】未加硫ゴムの粘度とスクリューの駆動に要するトルクとの関係を例示するグラフ図である。
【
図10】本発明を適用して製造されるゴム被覆ワイヤの外径(被覆厚さ)の経時変化を例示する説明図である。
【
図11】従来技術によって製造されるゴム被覆ワイヤの外径(被覆厚さ)の経時変化を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のゴム被覆ワイヤの製造方法および装置を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1、
図2に例示する本発明のゴム被覆ワイヤの製造装置1(以下、製造装置1という)を用いて、
図3に例示するゴム被覆ワイヤWrが製造される。ゴム被覆ワイヤWrは、スチール製のワイヤWの外周面に未加硫ゴムRが被覆されたものである。ワイヤWの外径d
0は既知なので、ゴム被覆ワイヤWrの外径dが判明すれば、ゴム被覆ワイヤWrでの未加硫ゴムRの被覆厚さhも判明する。即ち、被覆厚さh=(外径d-外径d
0)/2である。ゴム被覆ワイヤWrは、例えば円環状に形成されてタイヤの構成部材であるビードコアとして使用される。
【0013】
図11に例示するように、製造されたゴム被覆ワイヤWrの外径d(被覆厚さh)は、同じ製造設備を用いて同じ条件で製造しても、未加硫ゴムRのロットの違いなど、様々な要因によってばらつきが生じる。
図11では、外径d、被覆厚さhの目標値がそれぞれGd、Gh、目標値に対する許容範囲がAWとして記載されている。尚、この許容範囲AWは、ゴム被覆ワイヤWrの部材としての許容範囲よりも厳しい、製造工程上の許容範囲である。ワイヤWの移動速度は実質的に一定にする。
【0014】
特に、製造工程を開始する時や未加硫ゴムRのロットの切換時などの時点T
1から所定時間経過する時点T
2までの初期期間TFでは、外径d(被覆厚さh)の変動が大きくなる。初期期間TFが経過した後の安定期間TSになって、外径d(被覆厚さh)の変動は小さくなって安定する。従来方法でゴム被覆ワイヤWrを製造すると、
図11に例示するように外径d(被覆厚さh)の変動が大きくなり、初期期間TFが長くなる。そこで本発明では、外径d(被覆厚さh)の変動をより小さくするとともに、初期期間TFをより短くして早期に安定期間TSになるように工夫をしている。
【0015】
この製造装置1の実施形態は、ワイヤWが巻き付けられてストックされているリール4と、未加硫ゴムRを押出すゴム押出機2と、ゴム被覆ワイヤWrを巻き取るドラム5と、ゴム粘度計7aおよび圧力センサ7bと、加温機構8と、温度センサ9と、制御部11とを備えている。回転駆動されるドラム5は、ワイヤWをリール4からドラム5に向かって移動させるワイヤ移動機構として機能する。この実施形態ではドラム5の外周面に周方向全周に連続するフランジ部5aが突設されている。
【0016】
ゴム粘度計7aおよび圧力センサ7bは、後述するゴム粘度指標PNを取得するデータ取得部として機能する。この実施形態では製造装置1はさらに、フェスツーン部6と、ゴム被覆ワイヤWrの外径を検知する外径センサ10を備えている。
【0017】
ゴム押出機2は、シリンダ本体2aとシリンダ本体2aの内部に配置されたスクリュー2bとシリンダ本体2aの先端に取り付けられたヘッド3とを有している。ヘッド3には、ワイヤ入口3a、ワイヤ出口3b、オーバーフロー出口が形成されている。ワイヤ入口3aとワイヤ出口3bとは対向する位置に配置されている。
【0018】
駆動モータ2cにより回転駆動されるスクリュー2bは、シリンダ本体2aの内部に投入された未加硫ゴムRをヘッド3に向かって移動させつつ熱入れをしてヘッド3の内部に押し出す。このゴム押出機2は、所謂、クロスヘッドタイプになっている。ヘッド3の内部には未加硫ゴムRが充填されて、余分な未加硫ゴムRはオーバーフロー出口から排出される。
【0019】
ヘッド3は、リール4からドラム5までのワイヤWの移動経路の途中に配置されていて、リール4から繰り出されたワイヤWはワイヤ入口3aを通じてヘッド3の内部に入り、ワイヤ出口3bを通じてヘッド3の内部から出る。このようにリール4から繰り出されたワイヤWは、未加硫ゴムRが充填されているヘッド3を貫通することで未加硫ゴムRの中を通過して、その外周面に未加硫ゴムRが付着する。そのため、ワイヤWはヘッド3を貫通して移動することにより、ゴム被覆ワイヤWrになってワイヤ出口3bからドラム5に向かって移動する。
【0020】
この実施形態の製造装置1は、ヘッド3からドラム5までの経路の途中にフェスツーン部6を有している。フェスツーン部6は、対向配置された駆動ローラ6aと支持ローラ6bとを備えている。支持ローラ6bは、駆動ローラ6aに対して近接離反可能に設置されている。ヘッド3を貫通することで製造されたゴム被覆ワイヤWrは、駆動ローラ6aおよび支持ローラ6bに掛け回された後に、ドラム5に向かって移動する。回転駆動される駆動ローラ6aによってワイヤW(ゴム被覆ワイヤWr)は、リール4からドラム5に向かって移動するので、駆動ローラ6aもワイヤ移動機構として機能する。尚、駆動ローラ6aはフェスツーン部6に設置することに限定されず、別の位置に設置することもできる。例えば、フェスツーン部6を互いの間隔を変動可能な一対の支持ローラ6bで構成し、駆動ローラ6aをフェスツーン部6とゴム押出機2(ヘッド3)との間およびフェスツーン部6とドラム5との間に設置することもできる。
【0021】
リール4からドラム5までのワイヤWの移動経路長さは、支持ローラ6bが駆動ローラ6aに対して近接移動した場合は短くなり、支持ローラ6bが駆動ローラ6aに対して離反移動した場合は長くなる。したがって、駆動ローラ6aに対する支持ローラ6bの近接離反移動によって移動経路長さが調節される。そのため、ドラム5によるゴム被覆ワイヤWrの巻き取りが停止した場合でも、移動経路長さを長くすることで、ゴム押出機2による未加硫ゴムRの押出しを中断することなく、ゴム被覆ワイヤWrを製造し続けることが可能になっている。
【0022】
データ取得部として機能するゴム粘度計7aおよび圧力センサ7bが取得するのは、ゴム粘度指標PNのデータである。ゴム粘度指標PNとは、未加硫ゴムRの粘度の変動に密接に関係し、粘度変動に大きく起因するゴム物性上、或いは、設備上の指標であり、未加硫ゴムRの粘度そのものも含まれる。具体的なゴム粘度指標PNとしては、未加硫ゴムRの粘度PNa、硬度PNb、未加硫ゴムRを押出す際のゴム押出機2の内部圧力PNc、或いは、スクリュー2bを回転駆動させるために要する駆動トルクPNdを用いることができる。ゴム粘度指標PNは、これら4項目(PNa、PNb、PNc、PNd)のうちの少なくとも1項目を用いればよく、この実施形態では、未加硫ゴムRの粘度PNaまたはゴム押出機2の内部圧力PNcが用いられる。
【0023】
データ取得部7a、7bは、ワイヤWの外周面に被覆される前の時点で未加硫ゴムRのゴム粘度指標PNを把握する。このゴム粘度計7aは、ゴム押出機2に投入される前の未加硫ゴムRの粘度PNaを取得する。ゴム粘度計7aとしては例えば、ムーニー粘度計などの公知の粘度計を用いることができる。或いは、ゴム押出機2にゴム粘度を把握する機能を装備して、ゴム押出機2の中の未加硫ゴムRの粘度PNaを把握するゴム粘度計を用いることもできる。ゴム粘度計7aにより把握された粘度PNaのデータは制御部11に入力される。
【0024】
この圧力センサ7bは、ヘッド3に取り付けられていてヘッド3の内部圧力PNcを取得する。圧力センサ7bには公知の様々な仕様の圧力センサを用いることができる。シリンダ本体2aの内部圧力PNcを把握する圧力センサ7bを用いることもできる。圧力センサ7bにより把握された内部圧力PNcのデータは制御部11に入力される。
【0025】
ゴム粘度指標PNとして未加硫ゴムRの硬度PNbを採用する場合は、公知のゴム硬度計をデータ取得部として使用する。そして、このゴム硬度計は、ゴム押出機2に投入される前の未加硫ゴムRの硬度PNbを取得する。
【0026】
ゴム粘度指標PNとしてスクリュー2bを回転駆動させるために要する駆動トルクPNdを採用する場合は、スクリュー2bを回転駆動する際の駆動モータ2cの消費電力を検知する電力計などをデータ取得部として用いる。そして、この電力計は、未加硫ゴムRをシリンダ本体2aの内部でヘッド3に向かって移動させている時の駆動モータ2cの消費電力を検知して、検知された消費電力量に基づいて駆動トルクPNdが把握される。データ取得部により取得された硬度PNb、駆動トルクPNdのデータは制御部11に入力される。
【0027】
加温機構8は、未加硫ゴムRが被覆される時点でのワイヤWの外周面が適正値Gtになるように加温する。加温機構8としては例えば、公知の高周波加熱装置や電熱ヒータなどの非接触タイプを用いることが好ましい。
【0028】
温度センサ9は、未加硫ゴムRが被覆される直前のワイヤWの外周面の温度t、即ち、未加硫ゴムRが実質的に被覆される時点での温度tを検知する。温度センサ9としては公知の非接触タイプを用いることが好ましい。温度センサ9により検知された温度tのデータは制御部11に入力される。
【0029】
外径センサ10は、ワイヤ出口3b近傍に配置されていて、ヘッド3を貫通した直後のゴム被覆ワイヤWrの外径dを検知する。外径センサ10としては非接触タイプの変位センサなどを用いることができる。外径センサ10により検知された外径dのデータは制御部11に入力される。
【0030】
制御部11は製造装置1を制御する。したがって、スクリュー2b(駆動モータ2c)、ドラム5、フェスツーン部6、加温機構8の稼働動作は、制御部11によって制御される。制御部11にはコンピュータが使用される。制御部11には、上述した様々なデータの他に、スクリュー2b、駆動ローラ6aおよびドラム5の回転速度、ヘッド3を貫通するワイヤWrの移動速度などのデータが入力される。
【0031】
さらに制御部11には、被覆厚さh(外径d)を目標値Gh(Gd)にする未加硫ゴムRのゴム粘度指標PNと、未加硫ゴムRを被覆する時点でのワイヤWの外周面の温度tとの相関関係CRが入力される。制御部11は入力されたデータを用いて種々の演算を行う。
【0032】
本発明は、被覆厚さhに未加硫ゴムRの粘度PNaが大きく影響することに着目して創作されている。一般的には粘度PNaが小さくなると通過するワイヤWの外周面に対する未加硫ゴムRの付着量が増大して被覆厚さhが大きくなり、粘度がPNaが大きくなるとこの付着量が減少して被覆厚さhが小さくなる傾向がある。また、粘度PNaは高温になると小さくなり、低温になると大きくなる傾向がある。
【0033】
そこで、粘度が異なる複数の未加硫ゴムRを用意し、それぞれをゴム押出機2に投入してゴム被覆ワイヤWrを製造する。その際に、未加硫ゴムRを被覆する時点のワイヤWの外周面の温度tだけを実質的に異ならせ、製造したゴム被覆ワイヤWrの外径dを測定する。これにより、
図4に例示するデータが得られる。Da、Db、Dcはそれぞれ異なる粘度P
1、P
2、P
3の未加硫ゴムRのデータであり、
図4では単純化のため直線で示しているが曲線の場合もある。
【0034】
外径d、被覆厚さhの目標値をそれぞれGd、Ghとすると、
図4のDa、Db、Dcのデータから、目標値にするための温度tの適正値がta、tb、tcとして判明する。尚、目標値は外径dと被覆厚さhの少なくともいずれか一方に対して設定される。
【0035】
図4のデータを用いることで、
図5に例示するように、外径d(被覆厚さh)を目標値にする未加硫ゴムRの粘度PNaと未加硫ゴムRを被覆する時点のワイヤWの外周面の温度tとの相関関係CRが把握できる。この相関関係CRが制御部11に入力、記憶されて、ゴム被覆ワイヤWrを製造する際に利用される。
【0036】
ゴム粘度指標PNである硬度PNb、内部圧力PNc、駆動トルクPNdは、粘度PNaの変動に密接に関係し、高い相関関係があるので、粘度PNaから推定することが可能である。そこで、事前テストを行って、
図6に例示するように、粘度PNaと内部圧力PNcとの相関関係を把握する。ゴム押出機2の内部にある未加硫ゴムRの粘度PNaが高い程、未加硫ゴムRを押出すにはヘッド3やシリンダ本体2aの内部圧力PNcは高くなる傾向がある。
【0037】
図5と
図6のデータを使用して、
図5のデータの横軸を粘度PNaから内部圧力PNcに変換することで
図7のデータを得ることができる。即ち、外径d(被覆厚さh)を目標値にする内部圧力PNcと未加硫ゴムRを被覆する時点のワイヤWの外周面の温度tとの相関関係CRが把握できる。
図7に例示する相関関係CRを制御部11に入力、記憶して、ゴム被覆ワイヤWrを製造する際に利用することもできる。
【0038】
硬度PNbについても同様に、事前テストを行って、
図8に例示するように、粘度PNaと硬度PNbとの相関関係を把握する。未加硫ゴムRの粘度PNaが高い程、硬度PNbは高くなる傾向がある。そこで、
図5と
図8のデータを使用して、
図5のデータの横軸を粘度PNaから硬度PNbに変換することで、
図7と同様のデータを得ることができる。即ち、外径d(被覆厚さh)を目標値にする硬度PNbと未加硫ゴムRを被覆する時点のワイヤWの外周面の温度tとの相関関係CRが把握できる。この相関関係CRを制御部11に入力、記憶して、ゴム被覆ワイヤWrを製造する際に利用することもできる。
【0039】
駆動トルクPNdについても同様に、事前テストを行って、
図9に例示するように、粘度PNaと駆動トルクPNdとの相関関係を把握する。ゴム押出機2の内部にある未加硫ゴムRの粘度PNaが高い程、未加硫ゴムRを押出すには駆動トルクPNdは高くなる傾向がある。そこで、
図5と
図9のデータを使用して、
図5のデータの横軸を粘度PNaから駆動トルクPNdに変換することで、
図7と同様のデータを得ることができる。即ち、外径d(被覆厚さh)を目標値にする駆動トルクPNdと未加硫ゴムRを被覆する時点のワイヤWの外周面の温度tとの相関関係CRが把握できる。この相関関係CRを制御部11に入力、記憶して、ゴム被覆ワイヤWrを製造する際に利用することもできる。
【0040】
次に、この製造装置1を用いてゴム被覆ワイヤWrを製造する手順の一例を説明する。
【0041】
図1、
図2に例示するゴム押出機2に未加硫ゴムRを投入して、駆動モータ2cによりスクリュー2bを回転させて、シリンダ本体2aの内部に投入した未加硫ゴムRをヘッド3の内部に押出す。未加硫ゴムRについては、ワイヤWに対する被覆厚さhを目標値Gh(換言するとゴム被覆ワイヤWrの外径dを目標値Gd)にするゴム粘度指標PNと未加硫ゴムRを被覆する時点でのワイヤWの外周面の温度tとの相関関係CRが予め把握されていて、制御部11に入力されている。ワイヤWの先端部分は、ワイヤ入口3aおよびワイヤ出口3bを通じてヘッド3を貫通させて、フェスツーン部6およびドラムに5に掛け回しておく。
【0042】
駆動ローラ6aおよびドラム5を回転駆動させることで、リール4からワイヤWを繰り出してヘッド3の内部に充填されている未加硫ゴムRの中を通過させる。ワイヤWが加温機構8を通過する際に、ワイヤWの外周面は加温機構8によって加温され、加温された状態でワイヤWはヘッド3の内部に入る。未加硫ゴムRの中を通過する際にワイヤWの外周面には未加硫ゴムRが付着するので、ヘッド3を通過したワイヤWの外周面は未加硫ゴムRに被覆されてゴム被覆ワイヤWrが製造されることになる。製造されたゴム被覆ワイヤWrは、外径センサ10、フェスツーン部6を順次、通過してドラム5に移動して巻き取られる。ワイヤW(ゴム被覆ワイヤWr)の移動速度は実質的に一定にすることが望ましい。
【0043】
この実施形態では、ゴム押出機2に投入する前に未加硫ゴムRの粘度PNaがゴム粘度計7aにより把握されていて、粘度PNaのデータが制御部11に入力されている。そこで制御部11は、
図5に例示する相関関係CRと、入力された粘度PNaのデータとに基づいて、被覆厚さhを目標値GhにするワイヤWの外周面の温度tの適正値Gtを算出する。適正値Gtは例えば、50℃~100°程度である。
【0044】
そして、制御部11は加温機構8による加温温度を制御して、未加硫ゴムRを被覆する時点でのワイヤWrの外周面の温度tを、算出した適正値Gtに調整した状態する。加温機構8とヘッド3との離間距離が大きい場合は、加温機構8からヘッド3に移動する間にワイヤWの外周面の温度tが変化する。そのため、加温機構8からヘッド3に移動する間での温度tの変化を予め見込んでおき、この温度tの変化を考慮して加温機構8はワイヤWを加温する。例えば、加温機構8からヘッド3に移動する間で温度tが2℃低下する条件下では、加温機構8によりワイヤWの外周面の温度tを適正値Gt+2℃に加温する。これにより、ワイヤWがヘッド3の内部に入る時の外周面の温度tを適正値Gtにできる。
【0045】
ワイヤ入口3aの近傍では温度センサ9により、ヘッド3の内部に入る直前のワイヤWの外周面の温度tが検知され、その温度データは制御部11に逐次入力される。この入力された温度データに基づいて、制御部11は、ワイヤWがヘッド3の内部に入る時点、即ち、未加硫ゴムRを被覆する時点でのワイヤWの外周面の温度tが適正値Gtであるか否かを確認する。検知された温度データが適正値Gtと許容範囲を超えて乖離している場合は、この温度データと適正値Gtとの差に基づいて、制御部11は加温機構8による加温温度を調整して、温度センサ9により検知される温度データが適正値Gtに近づけるようにする。
【0046】
その結果、ワイヤWを外周面の温度tが適正値Gtに調整された状態で、ゴム押出機2から押し出された未加硫ゴムRの中に継続的に通過させる。これにより、ゴム被覆ワイヤWrが連続的に製造される。
【0047】
ゴム粘度指標PNに内部圧力PNcを採用する場合は、ワイヤWをリール4からヘッド3を貫通させてゴム被覆ワイヤWrを製造中に、圧力センサ7bにより内部圧力PNcを把握する。把握された内部圧力PNcのデータは制御部11に入力される。制御部11は、
図7に例示する相関関係CRと把握したゴム内部圧力PNcのデータとに基づいて、被覆厚さhを目標値GhにするワイヤWの外周面の温度tの適正値Gtを算出する。その後、加温機構8によりワイヤWに対する加温温度を制御して、ゴム被覆ワイヤWrを製造する手順は上述したとおりである。
【0048】
ゴム粘度指標PNに硬度PNb、駆動トルクPNdを採用する場合は、既述したようにそれぞれに対応するデータ取得部を用いてデータを把握する。制御部11は、
図7に例示する相関関係CRと把握したゴム内部圧力PNcのデータとに基づいて、被覆厚さhを目標値GhにするワイヤWの外周面の温度tの適正値Gtを算出する。その後、加温機構8によりワイヤWに対する加温温度を制御して、ゴム被覆ワイヤWrを製造する手順は上述したとおりである。
【0049】
このように本発明では、ゴム粘度指標PNと、未加硫ゴムRを被覆する時点でのワイヤWの外周面の温度tとの2項目を利用する。即ち、被覆厚さhに対する影響具合が大きい2項目の相関関係CRを用いることで、未加硫ゴムRを被覆する時点でのワイヤWの外周面の温度tを精度よく適正値Gtになるように調整できる。そして、ワイヤWの外周面を適正値Gtの加温状態にして未加硫ゴムRの中にワイヤWを継続的に通過させるので、ワイヤWの全長に渡って被覆厚さhを適切に調整することが可能になる。
【0050】
その結果、被覆厚さh(ゴム被覆ワイヤWrの外径d)をより安定して目標値Ghにすることが可能になる。即ち、製造条件のうち、上述したワイヤWの外周面の温度tだけを調整することで、
図10に例示するように、ゴム被覆ワイヤWrの製造工程での外径d(被覆厚さh)の変動を、従来方法に比して小さくできる。また、ゴム被覆ワイヤWrの製造工程を開始する時や未加硫ゴムRのロットの切換時などの時点T
1から外径d(被覆厚さh)の変動が小さくなる時点T
2までの初期期間TFを、従来方法に比して短くすることができる。そのため、外径d(被覆厚さh)が目標値Gd(Gh)の許容範囲AWに維持される安定期間TSがより早期に到来し、高品質のゴム被覆ワイヤWrを安定して製造できる。未加硫ゴムRの被覆不良などの不具合品の発生が抑制されるので生産性向上にも寄与する。
【0051】
この実施形態では、フェスツーン部6が、ドラム5によるゴム被覆ワイヤWの巻き取り速度に応じて、ゴム被覆ワイヤWrを滞留させることにより、リール4から繰り出したワイヤWを、移動させ続けてゴム被覆ワイヤWrの製造を中断することなく継続させることができる。したがって、ゴム押出機2による未加硫ゴムRの押出しを中断することがなく、基本的に一定の押出し条件で未加硫ゴムRをヘッド3の内部に押し出すことが可能になる。押出し条件が変化すると、押し出された未加硫ゴムRの物性が変動するが、この実施形態では、押出し条件を変えず未加硫ゴムRを押出し続けることができるので、安定した品質のゴム被覆ワイヤWrを製造するには有利になる。
【0052】
上述したゴム被覆ワイヤWrを製造する手順は、常時行ってもよいが、例えば上述した初期期間TFに限定して行うこともできる。即ち、
図10に例示する被覆厚さh(外径d)が目標値Gh(Gd)に所定時間維持される安定期間TSを経過した後は、別の手順によってゴム被覆ワイヤWrを製造してもよい。この安定期間TSは、事前テストなどを行って適切な時間を予め設定すればよい。
【0053】
この別の手順を説明する。
図10に例示するように、被覆厚さhが目標値Ghの許容範囲AWに所定時間維持される安定期間TSを経過した時点T
3からは、データ取得部に代えて外径センサ10を利用する。ワイヤWがヘッド3の内部に充填された未加硫ゴムRを通過した直後に外径センサ10によりゴム被覆ワイヤWrの外径を検知する。制御部11には、被覆厚さhの目標値Ghに対応する外径dの目標値Gdが入力されている。
【0054】
外径センサ10は通過するゴム被覆ワイヤWrの外径dを検知し、検知した外径dのデータは逐次、制御部11に入力される。制御部11は、外径センサ10により検知された外径dのデータと目標値Gdとを比較する。その比較結果に基づいて、ワイヤWに対する加温機構8による加温温度を調整する。
【0055】
図4に例示するように、ワイヤWの外周面の温度tと外径dとの相関関係が把握されている。そこで、この相関関係と外径センサ10により検知された外径dのデータとに基づいて、加温機構8を制御して未加硫ゴムRを被覆する時点でのワイヤWの外周面の温度tを調整する。このようにして、外径センサ10により検知される外径dのデータを目標値Gdに近づけるように加温機構8によるワイヤWに対する加温温度を制御して、ゴム被覆ワイヤWrを製造する。
【符号の説明】
【0056】
1 ゴム被覆ワイヤの製造装置
2 ゴム押出機
2a シリンダ本体
2b スクリュー
2c 駆動モータ
3 ヘッド
3a ワイヤ入口
3b ワイヤ出口
4 リール
5 ドラム(ワイヤ移動機構)
5a フランジ部
6 フェスツーン部
6a 駆動ローラ(ワイヤ移動機構)
6b 支持ローラ
7a ゴム粘度計(データ取得部)
7b 圧力センサ(データ取得部)
8 加温機構
9 温度センサ
10 外径センサ
11 制御部
W ワイヤ
Wr ゴム被覆ワイヤ
R 未加硫ゴム