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特許7590716酸素低減型混和材料、及びコンクリート生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】酸素低減型混和材料、及びコンクリート生成方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/00 20060101AFI20241120BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20241120BHJP
   C04B 22/02 20060101ALI20241120BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20241120BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C04B24/00
C04B18/10 B
C04B18/10 Z
C04B22/02
C04B28/02
B28C7/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020142289
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038014
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-08-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年8月1日に発行された令和2年度土木学会全国大会第75回年次学術講演会講演概要集にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】河合 慶有
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 淳
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0000179(US,A1)
【文献】特開2002-321962(JP,A)
【文献】国際公開第2013/128553(WO,A1)
【文献】特開2001-261404(JP,A)
【文献】特開平01-164746(JP,A)
【文献】特開2001-294471(JP,A)
【文献】特表平05-508607(JP,A)
【文献】特開2018-203582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
B28C 7/00-7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系硬化体を得るための材料に配合される混和材料であって、
抗酸化作用を有する抗酸化剤を含み、
前記抗酸化剤は、アロエの粉末である、
ことを特徴とする酸素低減型混和材料。
【請求項2】
セメント系硬化体を得るための材料に配合される混和材料であって、
抗酸化作用を有する抗酸化剤を含み、
前記抗酸化剤は、アロエの抽出液である、
ことを特徴とする酸素低減型混和材料。
【請求項3】
前記抗酸化剤が、さらに水素水を含む、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の酸素低減型混和材料。
【請求項4】
還元剤をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の酸素低減型混和材料。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の前記酸素低減型混和材料が配合されたコンクリートを生成する方法であって、
前記抗酸化剤の種類に応じて、前記酸素低減型混和材料の配合量を含むコンクリートの配合設計を行い、
配合設計で設計された配合量の前記酸素低減型混和材料を含む材料を混錬することで、コンクリートを生成する、
ことを特徴とするコンクリート生成方法。
【請求項6】
酸素低減型混和材料が配合されたコンクリートを生成する方法であって、
前記酸素低減型混和材料は、抗酸化作用を有する抗酸化剤を含み、
前記抗酸化剤の抗酸化作用を確認する試験工程と、
前記抗酸化剤の種類に応じて、前記酸素低減型混和材料の配合量を含むコンクリートの配合設計を行う配合設計工程と、
配合設計で設計された配合量の前記酸素低減型混和材料を含む材料を混錬することで、コンクリートを生成する工程と、を備え、
前記試験工程では、蒸留水に前記抗酸化剤を混入したうえで攪拌し、静置した後の該蒸留水に含まれる溶存酸素量を確認し、
前記配合設計工程では、前記試験工程の結果、溶存酸素低減率が50%以上となった前記抗酸化剤を採択し、該抗酸化剤を含む前記酸素低減型混和材料を用いて配合設計を行う、
ことを特徴とするコンクリート生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンクリートやモルタル、グラウト材などセメントを含む材料が硬化することで得られる構造物や部材(以下、「セメント系硬化体」という。)に関するものであり、より具体的には、セメント系硬化体を得るための材料に配合される混和材料と、これを用いてコンクリートを生成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは鋼材とともに最も重要な建設材料のひとつであり、ダム、トンネル、橋梁といった土木構造物や、集合住宅、オフィスビルなどの建築構造物をはじめ、様々な構造物に用いられている。土木構造物や建築構造物をコンクリート造とする場合、内部に鉄筋を含む鉄筋コンクリート構造物(以下、「RC(Reinforced Concrete)構造物」という。)とされることが多い。このRC構造物は、あらかじめ工場等で製作されて所定の場所まで運搬されることもあるが、一般的な土木構造物や建築構造物の場合、所定の場所(現場)で直接構築される。いずれにしろ、セメントと水、骨材等を練り混ぜた状態のコンクリート(フレッシュコンクリート)を、鉄筋が組み立てられた型枠の中に打込み、コンクリートの硬化を待って型枠を取り外すことでRC構造物は構築される。
【0003】
主にコンクリートと鉄筋で構成されるRC構造物は、コンクリートが引張力に対して脆弱であることから、この引張力は鉄筋が負担し、コンクリートは圧縮力を負担する。したがって、劣化に伴いコンクリートが圧縮力を負担できなくなるか、あるいは劣化に伴って鉄筋が引張力を負担できなくなると、そのRC構造物は当初の要求性能のうち耐荷性能を失うこととなる。これまで種々のRC構造物の破壊メカニズムが解明されており、そのうち鉄筋の腐食に関する研究も数多く取り組まれてきた。
【0004】
コンクリートは、セメントの水和反応によって水酸化カルシウムが生成され、その一部が細孔溶液中に溶出する。そして健全なコンクリートの細孔には、この水酸化カルシウム水溶液で満たされている。水酸化カルシウム水溶液は強アルカリ(pH12~13)を示し、このような高アルカリ環境下では鉄筋表面に不動態被膜と呼ばれる酸化物の層が形成されることが知られており、この不動態被膜がコンクリート中の鉄筋の腐食を防いでいるわけである。
【0005】
ところが、海水や凍結防止剤などからの飛来塩分がコンクリート内部に浸透することによって、あるいは海砂や海砂利など塩分を含む材料を使用したことによって、コンクリート内に許容値以上の塩化物イオン(Cl)を含むこともある。この場合、不動態被膜が塩化物イオンによって破壊されてしまい、その結果、コンクリート中に含まれる水と酸素により鉄筋の腐食が進行する「塩害」が生ずる。
【0006】
また、塩害と同様、「中性化」による鉄筋の腐食も問題視されている。自動車等の排気ガス中の亜硫酸ガス(SO)や、亜硫酸ガスを含んだ酸性雨、あるいは近年増加傾向にあるといわれる大気中の二酸化炭素濃度が原因で、コンクリート内に許容値以上の二酸化炭素が入り込むことがある。この二酸化炭素と水酸化カルシウムが反応することによってコンクリート内は高アルカリから中性という環境に変化するが、中性環境(pH11未満)では不動態被膜が破壊されることが知られており、その結果、コンクリート中の水と酸素により鉄筋の腐食が進行するわけである。
【0007】
コンクリートの塩害や中性化によって鉄筋表面の不動態被膜が破壊されると、下記に示す式1と式2の反応が生じる。
Fe→Fe2++2e (式1)
1/2O+HO+2e→2OH (式2)
【0008】
そして、式1で生じた鉄イオン(Fe2+)は式2で生じた水酸化物イオン(2OH)と反応し、式3~式5に示すようにいわゆる赤錆(Fe)が発生する。
Fe2++20H→Fe(OH) (式3)
Fe(OH)+1/40+1/2HO→Fe(OH) (式4)
Fe(OH)→1/2Fe+3/2HO (式5)
【0009】
従来、鉄筋の腐食を防ぐためには、鉄筋表面の不動態被膜が破壊されないように、つまりコンクリートの塩害や中性化等が生じないような対策が講じられることが主流であった。しかしながら、コンクリートの塩害や中性化等を防止する従来の対策は、一般的に手間やコストがかかるうえ、長期にわたって防止することは著しく困難であるといった問題を抱えている。
【0010】
そこで、鉄筋表面の不動態被膜が破壊されることは甘受しつつも鉄筋の腐食を防ぐ対策が考えられる。例えば、特許文献1では、上記した式2の反応を防ぐことに着目し、コンクリート内の酸素(2O)量を低減することによって鉄筋の腐食を防ぐ技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第6716331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1は、好気性微生物と還元剤を含む混和材料を使用することによってRC構造物内の酸素量を低減するものであり、鉄筋表面の不動態被膜が破壊され、さらに式1の反応が生じたとしても、式2の反応に必要な酸素量が与えられないためそれ以上の反応が生じることがなく、結果的に、鉄筋の腐食を防ぐことができるわけである。
【0013】
このように特許文献1は、特殊な混和材料を配合するだけで、つまり大きな手間やコストを要することなく、しかも長期にわたって効果的に鉄筋の腐食を防ぐことができる。ところが、好気性微生物はそれほど容易に調達できるものではなく、調達のためにやや手間やコストがかかることが難点であった。
【0014】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち鉄筋表面の不動態被膜が破壊された場合でも鉄筋の腐食を抑制することができる技術を提供することであって、特許文献1に示す混和材料よりも容易に調達することができる混和材料と、これを用いたコンクリート生成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、抗酸化作用を有する抗酸化剤を混和材料として利用し、抗酸化剤が酸素を消費あるいは吸収することでセメント系硬化体内の酸素の低減を図る、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0016】
本願発明の酸素低減型混和材料は、セメント系硬化体を得るための材料に配合される混和材料であって、抗酸化作用を有する抗酸化剤を含むものである。ここで抗酸化作用とは、活性酸素やフリーラジカルによって生じる酸化作用を打ち消す作用のことである。また、活性酸素とは反応性の高い酸素分子のことであって、フリーラジカルとは通常はペアを組んでいる電子が不対になって反応性が高く不安定な原子・分子団のことである。そして、抗酸化剤がセメント系硬化体内で生じる酸化作用を抑制することによって、鉄筋表面の不動態被膜が破壊された場合でも鉄筋の腐食を防ぐことができる。
【0017】
本願発明の酸素低減型混和材料は、植物由来である抗酸化剤を含むものとすることもできる。この場合、生姜又はアロエの粉末や、バガス、もみ殻、ヤシの実又はトウモロコシの燃焼灰を、抗酸化剤として用いることもできる。
【0018】
本願発明の酸素低減型混和材料は、粉砕された貝殻(あるいは貝殻の燃焼灰)を抗酸化剤として用いることもできる。
【0019】
本願発明の酸素低減型混和材料は、水素水を抗酸化剤として用いることもできる。
【0020】
本願発明の酸素低減型混和材料は、さらに還元剤を含んだものとすることもできる。
【0021】
本願発明のコンクリート生成方法は、本願発明の酸素低減型混和材料が配合されたコンクリートを生成する方法である。まず、抗酸化剤の種類に応じて酸素低減型混和材料の配合量を含むコンクリートの配合設計を行い、そして配合設計で設計された配合量の酸素低減型混和材料を含む材料を混錬することでコンクリートを生成する。
【発明の効果】
【0022】
本願発明の酸素低減型混和材料、及びコンクリート生成方法には、次のような効果がある。
(1)不動態被膜が破壊されたとしても鉄筋腐食を抑制することができることから、必ずしもコンクリートの塩害対策や中性化対策を行う必要がない。その結果、従来技術に比して鉄筋腐食対策における手間やコストを軽減することができる。
(2)不動態被膜が破壊されるまでの間、さらに破壊された後も鉄筋の腐食を抑制することができるため、従来技術に比して長期にわたって鉄筋の腐食を防ぐことができる。
(3)生姜茎やアロエといった植物、もみ殻やバガスといった植物殻、スイショウガイや青柳などの貝殻、あるいは高炉スラグといった産業副産物などを抗酸化剤として利用することができるため、特許文献1が示す混和材料よりも容易に調達することができ、その結果、コンクリートの生成にかかるコストも軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本願発明のコンクリート生成方法の主な工程を示すフロー図。
図2】酸素低減型混和材料を投入した溶液の溶存酸素量を計測した結果図。
図3】20±2℃の室内で還元水素水生成器にて水素水を生成し、24時間経過後に溶存酸素量を計測した結果図。
図4】抗酸化剤を含む溶液中にΦ9mmの鉄筋を浸漬し、掃引速度を1.0mV/secとしてカソード分極曲線を計測した結果図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願発明の酸素低減型混和材料、及びコンクリート生成方法の実施の例を図に基づいて説明する。
【0025】
1.定義
本願発明の実施形態の例を説明するにあたって、はじめにここで用いる用語の定義を示しておく。
【0026】
(セメント系材料とセメント系硬化体)
コンクリートやモルタル、グラウト材などセメントを含む材料であって、硬化する前の状態のものを、便宜上ここでは「セメント系材料」ということとする。コンクリートであれば、セメントと水、細骨材、粗骨材、混和材料(混和材と化学混和剤)の混錬物がセメント系材料であり、モルタルであれば、セメントと水、細骨材、混和材料の混錬物がセメント系材料である。またセメント系材料は時間の経過とともに硬化していく特性があり、例えばコンクリートは水とセメントが反応(水和反応)することによって内部温度が上昇するとともにその強度も増し、そして硬化していく。既に説明したとおり、セメント系材料が硬化した状態のものを、便宜上ここでは「セメント系硬化体」ということとする。
【0027】
(抗酸化作用)
抗酸化作用とは、活性酸素やフリーラジカルによる酸化作用を抑制し、あるいは打ち消す作用のことである。なお、活性酸素は反応性の高い酸素分子のことであり、フリーラジカルは通常はペアを組んでいる電子が不対になって反応性が高く不安定な原子や分子団のことである。
【0028】
活性酸素は微量であれば人体に有用な働きをするが、大量に生成されると過酸化脂質を作り出し、動脈硬化やがん、老化、免疫機能の低下などを引き起こすことが知られている。そこで、このような症状を抑えるために抗酸化作用を有する物質の摂取が勧められることもある。抗酸化作用を有する物質としては、体内で合成される体内合成抗酸化物質のほかに、ポリフェノールとカロテノイドがある。このうちポリフェノールとしては、ブルーベリーなどに含まれるアントシアニン、大豆に含まれるイソフラボンやサポニン、ゴマの成分が変化してできるセサミノール、そばに含まれるルチン、緑茶のカテキンと発酵茶(紅茶・ウーロン茶など)のテアフラビンの総称であるタンニンなどが挙げられる。一方、カロテノイドとしては、緑黄色野菜や果物など多くの食品に含まれるβ-カロテンやリコピン、えびやかになど甲殻類や、さけ、ますなど魚類がもつアスタキサンチンなどを挙げることができる。
【0029】
このように抗酸化作用は、動脈硬化やがんといった病気の予防や、老化の抑制(アンチエイジング)などを目的として利用されるのが一般的であった。本願発明者らは、異なる技術分野で利用されている「抗酸化作用」に着目し、セメント系硬化体内の酸素量を低減することによって既述した式2の反応を抑制し、これにより鉄筋の腐食を抑制するという発想を得た。なお、抗酸化作用を有する材料のことを、便宜上ここでは「抗酸化剤」ということとする。
1/2O+HO+2e→2OH (式2)
【0030】
2.酸素低減型混和材料
次に、本願発明の酸素低減型混和材料について詳しく説明する。なお、本願発明のコンクリート生成方法は、本願発明の酸素低減型混和材料を用いてコンクリートを生成する方法である。したがって、まずは本願発明の酸素低減型混和材料について説明し、その後に本願発明のコンクリート生成方法について説明することとする。
【0031】
本願発明の酸素低減型混和材料は、セメント系材料の混和材料として添加されるものであって、抗酸化剤を含むものである。なお、抗酸化剤そのものを酸素低減型混和材料とすることもできるし、還元剤など他の物質と抗酸化剤を組み合わせたものを酸素低減型混和材料とすることもできる。
【0032】
抗酸化剤は、抗酸化作用を有する物質であれば上記したポリフェノールとカロテノイドなどあらゆるものを用いることができる。特に本願発明では、農産物や海産物の加工により生じる副産物(食物殻や貝殻など)、あるいは産業副産物を抗酸化剤として有効利用するとよい。以下、本願発明の酸素低減型混和材料として特に適した抗酸化剤を例示する。
【0033】
まず抗酸化剤として、植物や食物殻といった植物由来の物質を用いることができる。そして植物の例としては生姜(特に生姜茎)やアロエを挙げることができ、食物殻の例としてはバガスやもみ殻、ヤシの実、トウモロコシを挙げることができる。生姜やアロエといった植物は、粉末として利用することもできるし、植物から抽出される抽出液として利用することもできる。一方、バガスやもみ殻など食物殻は、燃焼した後に得られる灰(以下、「燃焼灰」という。)として利用するとよい。
【0034】
抗酸化剤としては、貝殻を用いることもできる。そして貝殻の例としては、ボウガイやバカガイ、スイショウガイ、ミドリガイ、ホタテガイ、牡蠣、青柳、タマサルボウガイ、ハイガイ、ツヅレキンチャクガイを挙げることができる。これら貝殻は、食物殻と同様、燃焼灰として利用するとよい。
【0035】
そのほか抗酸化剤としては、産業廃棄物を用いることもできる。そして産業廃棄物の例としては、木廃材の焼却灰や、高炉スラグ、ボトムアッシュ、フライアッシュ、石材廃棄物、天然ゼオライト、火山性軽石を挙げることができる。さらに、後述する実験結果によればガラス廃棄物の粉体や水素水も溶存酸素低減効果があることが確認できるため、やはり抗酸化剤として用いることができる。
【0036】
既述したように、還元剤と抗酸化剤を組み合わせたものを酸素低減型混和材料とすることもできる。還元剤は、セメント系硬化体の内部にある酸化性物質と反応して還元能力を発揮する物質であり、鉄筋よりも酸化されやすい物質が用いられる。これにより、既述した式1の反応を抑制することができるわけである。
Fe→Fe2++2e (式1)
【0037】
還元剤としては、高炉スラグや製鋼スラグ、電気炉還元スラグの粉末、鉄(II)イオン、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、ナトリウムアマルガム、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、スズ(II)イオン、亜硫酸塩、ヒドラジン、亜鉛アマルガム、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAH)、シュウ酸(C)、ギ酸(HCOOH)などを例示することができる。なお、これらは単独で用いることもできるし、あるいは2以上を組み合わせて用いることもできる。
【0038】
3.コンクリート生成方法
続いて、本願発明のコンクリート生成方法について図1を参照しながら説明する。なお、本願発明のコンクリート生成方法は、ここまで説明した本願発明の酸素低減型混和材料を用いてコンクリートを生成する方法である。したがって酸素低減型混和材料で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明のコンクリート生成方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.酸素低減型混和材料」で説明したものと同様である。
【0039】
図1は、本願発明のコンクリート生成方法の主な工程を示すフロー図である。まず、図1に示すようにコンクリート材料(つまり、セメント系材料)の配合設計を行う(Step10)。具体的には、目的とする圧縮強度やスランプ、空気量が得られるように、各材料の単位量、水セメント比、粗骨材の最大寸法、細骨材率などを決定する。このとき、コンクリートの生成場所の環境を考慮したうえで、すなわちその場所で調達しやすいことも条件に加えたうえで抗酸化剤を選択するとよい。そして、選択した抗酸化剤の種類に応じて、抗酸化剤の配合量(単位量)を含むコンクリートの配合設計を行う。
【0040】
コンクリート材料の配合設計を行うと、実際にその配合設計に基づいてコンクリート材料を混錬し、フレッシュコンクリートを生成する(Step20)。そして、アジテータ車などよってフレッシュコンクリートを現地(現場)まで搬送し、事前に組み立てられた鉄筋と型枠にフレッシュコンクリートを打込む(Step30)。適切な養生を経た後、型枠を取り外すと硬化したコンクリート(セメント系硬化体)が得られる。
【0041】
4.実験結果
以下、本願発明の効果を確認するために本願の発明者らが実施した実験結果について説明する。
【0042】
図2は、26±2℃の室内で300mLの蒸留水に所定量の酸素低減型混和材料を投入し、攪拌~静置した後、溶液の溶存酸素量を計測した結果図である。なお、この実験では酸素低減型混和材料を単独の抗酸化剤としている。また、表のうち「種別」は上記した抗酸化剤の種別(植物、植物殻、貝殻、産業廃棄物)であり、「形状」は抗酸化剤を利用する際の形状(粉末、焼却灰、粉体、抽出液)であり、「液固比」は蒸留水と抗酸化剤との体積比である。
【0043】
図2を見ると、例えば「生姜」を抗酸化剤(つまり、この場合は酸素低減型混和材料)として用いたケースでは、蒸留水の酸素濃度が5.08mg/Lであったところ生姜の抗酸化作用によって酸素濃度が0.03mg/Lまで低減しており、すなわち1リットルあたりの酸素量が5.05g減少し、溶存酸素低減率は99.4%となっている。なお、ここで低減された酸素は、抗酸化剤である生姜によって消費あるいは吸収されたものと考えられる。
【0044】
図2に示す抗酸化剤の例では、生姜の溶存酸素低減率99.4%をはじめ、いずれも高い溶存酸素低減率を示しており、少なくとも半分以上の酸素が低減されている。したがって、図2に示す抗酸化剤を酸素低減型混和材料として用いることによって、セメント系硬化体内の酸素は減少し、その結果、鉄筋の腐食を抑制することが理解できる。
【0045】
図3は、20±2℃の室内で還元水素水生成器にて水素水を生成し、24時間経過後に溶存酸素量を計測した結果図である。この図を見ると、当初水素水の酸素濃度が8.87mg/Lであったところ水素水の抗酸化作用によって酸素濃度が4.74mg/Lまで低減しており、すなわち1リットルあたりの酸素量が4.13g減少し、溶存酸素低減率は46.6%となっている。このケースも、半分近く酸素が低減されることから、水素水も抗酸化剤、すなわち本願発明の酸素低減型混和材料として用いることができる。
【0046】
さらに発明者らは、抗酸化剤を含む溶液中にΦ9mmの鉄筋を浸漬し、掃引速度を1.0mV/secとしてカソード分極曲線を計測している。その結果を図4に示す。なお、バガスの溶液ともみ殻の溶液は、300mLの蒸留水にそれぞれ液固比が16:1となるように混和した溶液であり、水素水は、還元水素生成器にて生成した水素水である。この図を見ると、バガスともみ殻を混和した溶液、そして水素水ともに、鉄筋のカソード分極曲線が蒸留水よりも左下側に位置している。これは、抗酸化剤を含まない状況よりも腐食速度が低減していることを意味し、すなわちこの点からも抗酸化剤が鉄筋の腐食を抑制することが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本願発明の酸素低減型混和材料、及びコンクリート生成方法は、様々なコンクリート構造物のほか、間詰め用や補修用のモルタル、あるいはプレストレス導入のためシース内に注入するグラウト材など、あらゆるセメント系硬化体に利用することができる。本願発明が、社会インフラストラクチャーを支えるRC構造物の高品質化や長寿命化に資することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
図1
図2
図3
図4