(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】三白草分画物を含む薬学組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/78 20060101AFI20241120BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241120BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
A61K36/78
A61P1/04
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2022578876
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 KR2021007582
(87)【国際公開番号】W WO2021256865
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0073480
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492521
【氏名又は名称】ファルマコバイオ,インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】515261066
【氏名又は名称】キョンギ、ユニバーシティー、インダストリー、アンド、アカデミア、コーオペレイション、ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KYONGGI UNIVERSITY INDUSTRY & ACADEMIA COOPERATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】シン,クァン-スン
(72)【発明者】
【氏名】ノ,ヤン-クック
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0142213(KR,A)
【文献】特開2021-031424(JP,A)
【文献】国際公開第2011/099665(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0008975(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0090737(KR,A)
【文献】特表2004-520294(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0085415(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A23L 33/00-33/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S1)三白草を50~90体積%エタノール水溶液によって抽出する段階、
(S2)前記抽出後、残った残渣に精製水を加え、70~100℃で加熱、
(S3)前記(S2)段階の結果物を酵素処理する段階、
(S4)前記(S3)段階の結果物のうち残渣を除去して濾過する段階、
(S5)(S4)段階の濾過液にエタノールを添加し、沈殿物を形成する段階、および
(S6)沈殿物を回収する段階を含み、
前記酵素は、ポリガラクツロナーゼ(polygalacturonase)、ペクチンリアーゼ(pectin lyase)またはこれらの混合物である、
炎症性腸疾患に有用な三白草分画物の製造方法。
【請求項2】
前記S1段階のエタノール水溶液は、60~80体積%エタノール水溶液である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(S5)段階は、濾過液を濃縮し、濃縮液より多くのエタノールを添加し、混合液を撹拌して沈殿物を形成する段階である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記製造方法は、(S6)段階後に沈殿物を濃縮して凍結乾燥する段階をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
(S1)三白草を50~90体積%エタノール水溶液によって抽出する段階、
(S2)前記抽出液を濾過して濃縮する段階、
(S3)濃縮液をレジン充填カラムに通過させ、レジンに吸着されるか否かによって成分を分離する段階、
(S4)前記レジンに吸着された成分のうち、水とエタノール濃度勾配によって20~40体積%エタノール水溶液区間において溶出される成分を回収する段階を含み、
前記レジンは、スチレン(Styrene)とDVB(Divinyl benzene)の共重合体の多孔性合成吸着剤、または非イオン性脂肪族アクリル高分子の多孔性合成吸着剤である、
炎症性腸疾患に有用な三白草分画物の製造方法。
【請求項6】
前記S1段階のエタノール水溶液は、60~80体積%エタノール水溶液である、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、三白草(Saururus chinensis)活性分画物の製造方法に関する。本発明は、また特定の製造方法によって製造された三白草分画物を含む薬学組成物に関する。本発明は、また、特定の製造方法によって製造された三白草分画物の炎症性腸疾患の治療のための医薬用途に関する。
【0002】
本特許出願は、2020年06月17日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2020-0073480号に対して優先権を主張し、上記特許出願の開示事項は、本明細書に参照として組み込まれる。
[背景技術]
【0003】
炎症反応の 調節不全(dysregulation)は、慢性炎症を誘発し、リウマチ関節炎、粥状動脈硬化症および喘息などの様々な病気を引き起こす恐れがある。大腸炎は、大腸に炎症が発生する疾患として、炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease;IBD)、過敏性大腸炎症候群(irritable bowel syndrome,IBS)などを含む。炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease,IBD)は、潰瘍性大腸炎(ulcerativecolitis,UC)とクローン病(Crohn’s disease,CD)に代表される。世界的に炎症性腸疾患の有病率は、増加傾向であり、西欧よりは、アジア国家における増加率が一層高い。炎症性腸疾患は、一生管理が必要な慢性疾患である。
【0004】
IBD患者の粘膜生検は、炎症性サイトカイン(pro-inflammatory cytokine)、ケモカイン(chemokine)、および細胞間接着分子(ICAM-1(Intercellular Adhesion Molecule 1))の発現増加および粘液(mucous)損失、上皮細胞間のタイトジャンクション(tight junction)減少を示している。現在、炎症性腸疾患の治療に使用される代表的な薬剤としては、5-アミノサリチル酸(5-aminosalicylic acid)、副腎皮質ホルモン剤(corticosteroid)、免疫調節剤(immunomodulator)、腫瘍壊死因子抑制剤(anti-tumor necrosis factor-α agent,anti TNF-α)などがある。これらは、互いに異なる作用機序を通じて効果を示すため、臨床指針に従って段階的に使用されているが、根本的な治療剤と見なすことは難しく、様々な副作用が報告されている。
【0005】
炎症性腸疾患の最近の治療目標として台頭されているのは、粘膜治癒(mucosal healing)である。炎症性腸疾患の患者の最大の特徴は、大腸のムチン生成が低下されているということである。粘膜層の不在によって細菌が腸上皮細胞に直接到達することとなり、これらが深刻な炎症反応を引き起こす(Johansson, M. E.(2014) Mucus layers in inflammatory bowel disease.Inflammatory bowel diseases 20, 2124-2131)。根本的な腸機能改善のためには、粘膜生成が回復されなければならず、腸上皮細胞間のタイトジャンクションの堅固性も非常に重要である。したがって、最近、粘膜生成に対する研究が活発に進められている。それ故に、IBD治療と健康な腸機能を維持するためには、炎症抑制と粘液層の正常な回復、腸上皮細胞のタイトジャンクションの堅固性回復がまともに行われなければならない。しかしながら、現在、炎症性腸疾患に効果的な治療剤はなく、ただ症状緩和剤だけが処方されている実情であり、患者はますます増加しつつあり、このような要求に合う治療剤の開発が急がれる状況である。
【0006】
一方、三白草(サンパクソウ、Saururus chinensis)は、ドクダミ科(Sauraceae)に属する多年生草本として民間では全草または根、葉が様々な効果があるものと知られている。
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、三白草を用いた炎症性腸疾患の治療、改善または予防用薬学、もしくは健康機能食品組成物を提供することである。
【0008】
本発明が解決しようとする他の課題は、炎症性腸疾患の治療、改善または予防効果に優れた三白草抽出物、もしくは分画物の製造方法を提供することである。
【0009】
本発明が解決しようとする別の課題は、特定の製造方法によって製造された三白草分画物の医薬用途を提供することである。
【0010】
本発明が解決しようとするまた別の課題は、上記三白草を用いた炎症性腸疾患の治療、改善または予防用薬学組成物を、これを必要とする個体へ投与する段階を含む炎症性腸疾患の治療方法を提供することである。
[課題を解決するための手段]
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、
【0012】
(S1)三白草を50~90体積%エタノール水溶液によって抽出する段階、
【0013】
(S2)上記抽出後に残った残渣に精製水を加えて70~100℃、好ましくは80~100℃、より好ましくは90~100℃で加熱する段階、
【0014】
(S3)上記(S2)段階の結果物を酵素処理する段階、
【0015】
(S4)抽出物のうち、残渣を除去して濾過する段階、
【0016】
(S5)(S4)段階の濾過液にエタノールを添加して沈殿物を形成する段階、および
【0017】
(S6)沈殿物を回収する段階を含む、
【0018】
炎症性腸疾患に有用な三白草分画物(SCEP2)の製造方法(方法1)を提供する。
【0019】
本発明による上記方法1において、上記酵素は、三白草に存在する活性多糖成分が分離できる役割を果たし、好ましくは、ペクチナーゼ(pectinaseまたはpolygalacturonase)、ペクチンエステラーゼ(pectinesterase)、ペクチンリアーゼ(pectin lyase)、アラビナナーゼ(arabinanase)、キシラナーゼ(xylanase)、ベータグルカナーゼ(beta-glucanase)およびセルラーゼ(cellulase)を含む群の中から選択される1種以上の酵素を単独または混合して使用することができる。より好ましくは、上記酵素は、ポリガラクツロナーゼ(polygalacturonase)、ペクチンリアーゼ(pectin lyase)またはこれらの混合物であることがあり、さらに好ましくは、上記酵素は、ポリガラクツロナーゼ(polygalacturonase)およびペクチンリアーゼ(pectin lyase)の混合物である。
【0020】
たとえば、商用酵素であるPectinex(登録商標) Ultra SP-L(polygalacturonase)、Pectinex(登録商標) Ultra MASH(pectin lyase)、Rapidase C80Max(pectinase、arabinanase)、Viscozyme L(endo-1,3(4)-beta-glucanase,Xylanase,cellulase,hemicellulase,arabinanase)、Pectinex 5XL(pectin lyase,polygalacturonase,pectinesterase)などからなる群より選択される1種または2種以上の酵素を単独または混合して使用することができ、より好ましくは、Pectinex(登録商標) Ultra SP-LおよびPectinex(登録商標) Ultra MASHをそれぞれ単独で使用するか、または混合して使用することである。
【0021】
上記酵素処理は、三白草重量部に対して酵素0.05~5重量部を添加して行うことができるが、上記酵素量が0.05重量部未満であれば、酵素量が少なすぎて三白草に存在する活性多糖の回収率が減少し、酵素量が5重量部を超過すれば、過度な酵素作用によって活性多糖の効能を低下させる可能性があって好ましくない。
【0022】
上記酵素処理の際、反応時間は、6~96時間であることが好ましく、12~72時間がより好ましい。酵素処理の際、温度およびpHは、酵素別の最適条件下で処理するのが最も高い回収率の活性多糖成分が得られて好ましい。上記酵素処理の反応時間が6時間未満であれば、酵素に処理される時間が短すぎて回収率が減少し、96時間を超過すれば、過度な酵素処理によって活性多糖の効能を低下させる可能性があって好ましくない。
【0023】
本発明による上記方法1において、好ましくは、上記S5段階は、濾過液を濃縮し、濃縮液より多い(好ましくは、2~8倍体積比の)エタノールを添加し、混合液を撹拌して沈殿物を形成させる段階である。本段階において、沈殿物は、反応液を静置して形成することができる。
【0024】
本発明による上記方法1において、上記S6段階の沈殿物を回収する段階は、たとえば、遠心分離して行うことができる。回収された沈殿物は、濃縮して凍結乾燥した後に医薬品の製造のための原料として使用することができる。
【0025】
本発明は、また
【0026】
(S1)三白草を50~90体積%エタノール水溶液によって抽出する段階、
【0027】
(S2)上記抽出液を濾過して濃縮する段階、
【0028】
(S3)濃縮液をレジン充填カラムに通過させ、レジンに吸着されるか否かによって成分を分離する段階、
【0029】
(S4)上記レジンに吸着された成分のうち、水とエタノール濃度勾配によって溶出される成分を回収する段階を含む、
【0030】
炎症性腸疾患に有用な三白草分画物(SCESII-1)の製造方法(方法2)を提供する。
【0031】
より具体的には、上記3つの分画は、次のように得られる。
【0032】
1分画(SCESII-1):20~40体積%(好ましくは30%)エタノールによって溶出を開始し、回収される溶出液が約1.5~2.5(好ましくは2倍)の充填体積になれば、回収を中断し、60~80体積%(好ましくは70%)エタノールによって溶出溶媒を変更する。60~80体積%エタノールによって溶出溶媒を変更する前までの分画である。好ましくは、溶出液を常温で単位時間当り1倍の充填体積(bed volume,BV)が流れる流速で流して溶出液を回収する。
【0033】
2分画(SCESII-2):60~80体積%(好ましくは70%)エタノールによって溶出し、これを回収する。溶出液が約1.5~2.5(好ましくは2倍)の充填体積(BV)になれば、回収を中断し、100%エタノールによって溶出溶媒を変更する。
【0034】
3分画(SCESII-3):100%エタノールによって溶出を開始し、これを回収する。溶出液が約2.5~3.5(好ましくは3倍)の充填体積(BV)になるまで回収する。
【0035】
本発明は、また、
【0036】
(S1)三白草を50~90体積%エタノール水溶液によって抽出する段階、
【0037】
(S2)上記抽出液を濾過して濃縮する段階、
【0038】
(S3)濃縮液をレジンによって極性に応じて分離する段階、
【0039】
(S4)上記レジン分離の際、カラムに吸着されない成分を回収する段階を含む、炎症性腸疾患に有用な三白草分画物(SCESII-4)の製造方法(方法3)を提供する。
【0040】
三白草抽出物は、抗酸化、抗がん、抗炎症などの様々な效果があると知らされていたが、本発明者らが確認した結果、通常の三白草抽出物は、炎症性腸疾患にほとんど効果がなかった。しかしながら、特異にも特定の製造方法によって得られた三白草分画物が通常の三白草抽出物とは違い、炎症性腸疾患の治療または改善に驚くべき効果を発揮した。本発明者らは、特定の製造方法によって製造された三白草活性分画物が、DSSによって誘導されたマウスの大腸炎治療効果、抗炎症、ムチン生成能力増加、腸上皮細胞のタイトジャンクション堅牢性の強化などの効果を示すことを確認し、DSSによって炎症性腸疾患が誘導された大腸組織の検査を通じて炎症性腸疾患の治療に有用であることを確認し、本発明を完成した。また、本発明による特定の製造方法によって製造された三白草分画物は、炎症性サイトカインTNF-α、IL-1β、IL-6などの活性を阻害することを確認することにより、本発明の完成に至った。
【0041】
三白草は、ドクダミ科(Saururaceae)に属する三白草(サンパクソウ、Saururus chinensis)を使用することができる。
【0042】
好ましくは、本発明による上記方法1~3において、エタノール水溶液は、60~80体積%エタノール水溶液である。より好ましくは、本発明による上記方法1~3において、エタノール水溶液は、65~75体積%エタノール水溶液である。
【0043】
本発明による上記方法2および3において、好ましくは、S1段階において回収される残渣をS1段階の抽出条件によって同様に抽出して抽出液を回収し、この抽出液をS1段階の抽出液と合わせて使用することができる。
【0044】
本発明による上記方法2および3において、好ましくは、レジンとしては、スチレン(Styrene)とDVB(Divinyl benzene)共重合体のハイポーラス型 (High Porous Type)合成吸着剤(たとえば、Amberlite XAD-2,Amberlite XAD-4,Amberlite XAD-16N,Amberlite XAD-1180N,TRILITE(登録商標) GSH-20,TRILITE GSP-25 TRILITE GSP-50,TRILITE GSP-07,DIAION HP20)、非イオン性の脂肪族アクリル高分子の多孔性合成吸着剤(たとえば、Amberlite XAD-7HP)などを使用することができる。本発明による方法2および3において、好ましくは、上記レジンとしては、DIAION社のHP20が使用される。
【0045】
本発明による三白草分画物は、医薬品の原料として使用するに適合するように、残存する低級アルコールおよび有機溶媒を除去するために減圧乾燥、噴霧乾燥、または凍結乾燥などの通常の乾燥方法を用いて粉末状に製造することができる。具体的には、上記三白草分画物は、濃縮された液状であってもよく、凍結乾燥された粉末状であってもよい。本発明の一実施形態によれば、本発明による三白草分画物は、濃縮された液状の軟調エキスであってもよい。
【0046】
本発明は、また、本発明による上記方法1~3のいずれか一つの方法によって得られた、三白草分画物を含む薬学または健康機能食品組成物を提供する。
【0047】
本発明は、さらに、本発明による上記方法1~3のいずれか一つの方法によって得られた、三白草分画物を含む炎症性腸疾患予防、治療または改善用薬学、もしくは健康機能食品組成物を提供する。
【0048】
本発明において、用語「炎症性腸疾患」は、腸管に炎症を引き起こす疾患を総称する用語であり、具体的に小腸および/または大腸における免疫体系の調節異常による慢性再発性炎症疾患の可能性がある。上記炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎、クローン病、および過敏性大腸炎症候群(irritable bowel syndrome,IBS)などを含む。
【0049】
本発明の薬学または健康機能食品組成物は、炎症性腸疾患を予防または治療するための通常の方法によって経口投与用剤型、たとえば、錠剤、トローチ剤(troches)、ロゼンジ剤(lozenge)、水溶性または油性懸濁液、粉末または顆粒、エマルジョン、ハードまたはソフトカプセル、シロップまたはエリキシル剤(elixirs)などに製剤化することができる。
【0050】
錠剤およびカプセルなどの剤型に製剤化するためには、ラクトース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、乳糖、微結晶セルロースなどの賦形剤、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの結合剤、リン酸二カルシウム、クロスポビドンなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ポリエチレングリコールワックスなどの滑沢剤が含まれることがある。カプセル剤型の場合は、上記で言及した物質以外に、脂肪油などの液体担体が含まれることもある。
【0051】
さらに、本発明の組成物は、非経口で投与することができ、非経口投与は、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射または胸部内注射の注入方式によることができる。非経口投与用剤型に製剤化するためには、上記組成物を安定剤または緩衝剤とともに水で混合して溶液に製造し、これをアンプルまたはバイアルの単位投与型に製剤化することができる。
【0052】
本発明による薬学または健康機能食品組成物の投与量は、治療または予防学的に十分な効果を示すための有効な量でなければならない。「有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/危険比率で疾患を予防または治療するのに十分な量を意味し、有効容量水準は、製剤化方法、患者の状態および体重、患者の性別、年齢、疾患の程度、薬物形態、投与経路および期間、排泄速度、反応感応性などのような要因に応じ、当業者によって様々に選択される場合がある。有効量は、当業者に認識されているように、処理の経路、賦形剤の使用および他の薬剤と併用できる可能性によって変わる場合がある。
【0053】
本発明による三白草分画物の投与量または服用量は、患者の年齢、身体的条件、体重などによって多様化することができるが、一般的に10~100mg/kg(体重)/1日の範囲内で投与することが好ましい。そして、1日の有効投入量の範囲内で1日に1回または1日に数回に分けて投入することができる。
【0054】
本発明による健康機能食品組成物は、様々な食品に含まれて摂取することができる。たとえば、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲み物、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料、ビタミン複合剤などに含まれて摂取することができる。
【0055】
本発明は、また、本発明による特定の製造方法によって製造された三白草分画物の薬学的または予防学的に必要な有効な量を炎症性腸疾患の治療、予防または改善が必要な個体に投与する段階を含む炎症性腸疾患の治療、予防または改善方法を提供する。好ましくは、上記の個体は人間である。
[発明の効果]
【0056】
本発明は、炎症性腸疾患の治療、改善または予防に有用な三白草分画物の製造方法を提供する。本発明は、さらに、本発明の製造方法によって製造された三白草分画物を有効成分として含む炎症性腸疾患の治療、改善または予防用薬学、もしくは健康機能食品組成物を提供する。
[図面の簡単な説明]
【0057】
本明細書に添付される次の図は、本発明の好ましい実施例を例示するものであり、前述の発明の内容とともに本発明の技術思想を一層理解させる役割を果たすものであるため、本発明は、そのような図に記載された事項だけに限定して解釈してはならない。
【0058】
[
図1]三白草(Saururus chinensis)分画物を製造する過程を概略的に示す。
[
図2aおよび
図2b]三白草分画物の投与後の腸炎症モデル評価の10日目のマウス大腸の長さを評価した結果である(n=8)。
[
図3]三白草分画物の投与後の大腸の組織学的変化を観察した結果である。
[
図4]三白草分画物の投与後の大腸組織内のTNF-αの評価結果である。
[
図5]三白草分画物の投与後の大腸組織内のMPOの評価結果である。
[
図6]三白草分画物の投与後の腸炎症モデルのパイエル板細胞(Peyer’s patches cell)によるsIgA分泌能および関連サイトカイン(cytokine)誘導能を評価した結果である。
[
図7]三白草の活性成分分画物の腸内粘液分泌細胞(LS 174T,a human intestinal goblet cell line)に及ぼす効果を評価した結果である。
[発明を実施するための形態]
【0059】
以下、本発明の理解を助けるために実施例などを挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、様々な異なる形態に変形することができ、本発明の範囲が下記実施例に限定されるものと解釈されてならない。本発明の実施例は、本発明が属する分野において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0060】
〔三白草分画物の製造〕
【0061】
【0062】
〔実施例1:三白草熱水抽出物(SCW)の製造〕
【0063】
乾燥粉砕した三白草に20倍体積の精製水を混合し、100℃で2時間抽出した。抽出後、抽出布を用いて残渣を除去した後、抽出液をワットマン(Whatman)No.2濾紙(filter paper)で濾過した。濾過液を減圧濃縮器を用いて濃縮した後、凍結乾燥して三白草熱水抽出物(SCW)を製造した。
【0064】
〔実施例2:様々な三白草有機溶媒抽出物(SCE、SCESII-1、SCESII-2、SCESII-3、SCESII-4)の製造〕
【0065】
乾燥粉砕した三白草に70%(v/v)エタノール水溶液10倍体積を混合し、70℃で2時間抽出した。抽出布で濾過した後、濾過された残渣を同様の条件でさらに抽出した。抽出液をワットマンNo.2濾紙で濾過した後、減圧濃縮器を用いて濃縮した。これを70%エタノール抽出物濃縮液SCEと命名した。SCE抽出物を合成樹脂HP20が充填されたカラムに通過させた。レジンに吸着されない成分を精製水を用いてすべて回収し、この成分をSCESII-4と名称した。次の段階においてレジンに吸着された成分を精製水~30体積%エタノール、30~70体積%エタノール、70~100体積%エタノールの順に溶出し、溶出溶媒の極性に応じて回収した。これを先に溶出された手順に従ってSCESII-1、SCESII-2、SCESII-3と名称した。
【0066】
〔実施例3:三白草粗多糖SCEP1、活性多糖SCEP2および低分子糖SCES分画物の製造〕
【0067】
三白草を70%エタノール水溶液によって抽出し、残った残渣に再び20倍体積の精製水を混合し、100℃で2時間撹拌した。酵素(Pectinex(登録商標) Ultra SP-LとPectinex(登録商標) Ultra MASHの1:1重量比)を添加し、55℃で72時間撹拌しながら反応させた。酵素反応液を100℃で30分間不活化した。抽出布を用いて残渣を除去した後、抽出液をワットマンNo.2濾紙で濾過した。この濾過液を粗多糖SCEP1と名称した。この濾過液を濃縮した後、濃縮液の4倍体積のエタノールを添加して30分間撹拌した後、常温で24時間静置して沈殿物を形成させた。沈殿液を遠心分離し、それぞれ沈殿物と上澄液を回収した。回収した沈殿物を濃縮した後、凍結乾燥して三白草SCEP2活性多糖分画物を製造し、上澄液を濃縮した後、凍結乾燥して三白草SCES低分子糖分画物を製造した。
【0068】
〔実験例1:腸炎症モデルにおける炎症抑制効果の評価〕
【0069】
三白草の活性成分分画物による腸炎症発生抑制および治療効果に関する研究を行った。BALB/cマウスモデルにデキストラン硫酸ナトリウム(DSS、dextran sodium sulfate)を有して炎症性腸疾患を誘導した。実験のためにBALB/cマウス8週齢の雄を100匹購入し、ランダムに9グループに分けた。マウスに急性大腸炎を誘発させるために飲用水にDSSを5%に溶解してBALB/cマウスに7日間自由給水し、正常対照群(NT:Nottreated)は飲用水を自由給水した。DSS給水1日後、正常対照群および5%DSSを単独摂取した陰性対照群(NC:Negative Control)は蒸留水を、試料群はそれぞれの試料を下記表1に記載された用量を蒸留水に溶解し、9日間1日1回経口投与した。
【0070】
【0071】
大腸炎の誘発程度(disease activity index、DAI)は、2日間隔で体重減少、軟便、血便程度および肛門の血液有無を肉眼で確認し、下記表2に作成された点数を基に計算した。
【0072】
計算式:
【0073】
DAI=減量スコア (weight loss score)+便の硬さスコア (stool consistency score)+ 便中の血 (blood in stool score)+ アナル血のスコア (blood in anus score)
【0074】
疾患活動指数 (Disease activity index,DAI) の指標のスクリーニングのシステム
【0075】
【0076】
評価結果を下記表3に示した。
【0077】
【0078】
それぞれの投与群のDAI変化を測定した結果、正常対照群を除くすべての群は2日目からDAI点数が増加したが、低分子活性物質分画物SCESII-1および活性多糖分画分SCEP2においては、8日目にDAI点数が陰性対照群(NC)より有意に低く示され、大腸炎抑制効果があることを確認した。一方、他の分画物と三白草水抽出物においては効果がほとんどなかった。
【0079】
DAIは、体重、便の状態、血痕程度などを因子として測定することであるため、DAIがより重要な評価要素となる場合がある。
【0080】
実験10日目にマウスを犠牲にして大腸および小腸の長さと脾臓の重さを測定して評価した。その結果を
図2に総合して示した。
【0081】
マウスを犠牲にして大腸の長さを測定した結果、5%DSSを単独で摂取したNCは、DSSを摂取していない陰性対照群より大腸の長さが約32%減少したが、低分子活性分画物SCESII-I 、SCESII-4、および活性多糖分画分SCEP2は、正常群のNTと比較するとほぼ同様の長さに回復した。これは陰性対照群と比較して画期的に大腸炎が好転されたことを示している。特に、三白草由来の活性多糖分画分SCEP2、および低分子活性分画物SCEII-Iは、マウス間の大腸の長さが非常に類似しており、実験の信頼度が高いと考えられていた。これに対し、三白草水抽出物、酒精抽出物などを含む他の抽出物または分画物の実験群は、NCと類似した大腸の長さを示すか、微細な回復を示して、効果がないことを確認した。
【0082】
特に、5%DSS単独摂取群(NC)は、すべてのマウスにおいて便が軟便となり、血便が観察された反面、活性多糖分画分SCEP2は、便の状態がNCよりは軟便とならず、3匹マウスにおいては潜血だけが観察された。これは三白草由来の活性多糖が大腸炎に対する治療効果が優れていることを示す結果である。上記結果を総合してみると、活性多糖分画分SCEP2、および低分子活性分画物SCEII-Iは、DAI点数が5%DSSを単独で摂取した陰性対照群(NC)とは異なり、正常水準に回復し、大腸の長さが相対的に長くなったことから大腸炎抑制活性を有することが確認された。
【0083】
〔実験例2:三白草分画物投与後の大腸の組織学的変化観察〕
【0084】
剖檢後、組織検査を行うために摘出した大腸を10%ホルムアルデヒド(formaldehyde)溶液に固定させた後、一般的な組織処理過程を経てパラフィン包埋した。包埋された各組織は、ミクロトーム(microtome(Leica,Wetzlar,Germany))で5.0μm薄切りした後、アルシアンブルー染色(alcian blue staining)を行い、各薄片をカナダバルサム(canadian balsam)処理して光学顕微鏡(Olympus BX53 microscope(Olympus Corp.,Tokyo,Japan))で観察した。その結果を
図3に示した。
【0085】
図3に示すように、デキストラン硫酸ナトリウムを処理した群において、炎症による組織損傷が激しく、炎症は粘膜まで続いており、腸腺全体と上皮細胞の損傷が激しく起きた。しかしながら、活性多糖分画分SCEP2、低分子活性分画物SCEII-I、および低分子活性分画物SCEI-4を投与した群においては、格段に回復された組織所見を発見することができた。
【0086】
〔実験例3:三白草分画物投与後の大腸組織内のMPOおよびTNF-αの評価〕
【0087】
大腸炎誘発大腸組織においてTNF-αおよびミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase(MPO))の分析を行った。結腸組織サンプルを溶解バッファー(lysis buffer(Intron,Seoul,Korea))に入れ、ホモジナイザー(homogenizer(Scilogex,Rockyhill,CT,USA))を使用して磨砕した。これを10,000rpm、4で20分間遠心分離して上澄液を回収し、TNF-αおよびMPO含量を製造業者の指針に従ってELISAキットを使用して測定した。その結果を
図4および5に示した。
【0088】
その結果、活性多糖分画分SCEP2および低分子活性分画物SCESII-1の場合、非常に優秀に主要炎症誘発因子TNF-αの生成が減少した。それだけでなく、マクロファージ活性化に関与するMPOの生成抑制の場合、多糖分画分SCEP2、および低分子活性分画物SCESII-1、3が著しく抑制することを確認した。
【0089】
〔実験例4:腸炎症モデルのパイエル板細胞によるsIgA分泌能および関連サイトカイン誘導能評価〕
【0090】
62-1週齢のC3H/HeNマウスを6匹ずつグループに分けた後、三白草分画物を20日間に計10回(1回/2日)経口投与した。マウスのパイエル板細胞を回収した後、96ウェルプレート(well plate)に3日間培養して、経口投与によって活性化されたパイエル板細胞が生産するsIgAをELISA法で分析した。経口投与が終了されたマウスの小腸を摘出して糞便(feces)を回収して、sIgAの生産能はELISAで分析した。その結果を
図6に示した。
【0091】
評価結果、slgAの生成が活性多糖分画分SCEP2、粗多糖SCEP1、低分子活性分画物SCESII-1、および低分子活性分画物SCESII-4において増加することを確認した。
【0092】
〔実験例5:三白草活性分画物の経口投与によって糞便において誘導されたSCFA生産能の評価〕
【0093】
経口投与が終了されたマウスの盲腸を回収し、最終濃度が1g/mLになるように80%メタノールで希釈した後、0.45μmシリンジフィルタで濾過してDBFFAPキャピラリーカラム(capillary column)が装着されたガスクロマトグラフィー(gas chromatography(GC))を通じて5種の短鎖脂肪酸(acetic acid,propionic acid,butyric acid,valeric acidおよびheptanoic acid)の生産能を確認した。その結果を以下の表4に示した。
【0094】
糞便における活性多糖分画分SCEP2、および低分子活性分画物SCESII-1は、濃度依存的にSCFAの生成量が増加することを確認した。陽性対照群のスルファサラジンは、むしろSCFAの生産量が減少した。
【0095】
【0096】
〔実験例6:三白草活性成分分画物の腸内粘液分泌細胞(LS 174T、a human intestinal goblet cell line)に及ぼす効果〕
【0097】
BALB/cマウスを7日間5%DSSを含む水を提供し、8日間実験サンプルを経口投与した。実験動物を犠牲にして組織分析を行った。大腸を、切片を10%ホルマリン溶液(formalin)によって固定した後、パラフィンを満たした。セクションは5μmの厚さで用意した後、アルシアンブルー(AB)染色薬で染色した。そしてカナダバルサムによってマウントした。各スライドは光学顕微鏡を使用して観察した(40X magnification)。イメージはMetaMorph software(Molecular Devices,Sunnyvale,CA,USA)を使用して分析した。その結果を
図7に示した。
【0098】
その結果、活性多糖分画分SCEP2、低分子活性分画物SCESII-I、および低分子活性分画物SCEI-4の場合、DSSを処理していない正常群と比較すると、ゴブレット(Goblet)細胞から分泌されるムチン((Mucin)(アルシアンブルーによって青く染色される))生成量が正常群と類似して回復されていることを確認した。
[産業上利用可能性]
【0099】
本発明は、三白草から製造した特定の分画物を有効成分として含む炎症性腸疾患の予防、治療または改善用組成物およびその製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【
図1】三白草(Saururus chinensis)分画物を製造する過程を概略的に示す。
【
図2a】三白草分画物の投与後の腸炎症モデル評価の10日目のマウス大腸の長さを評価した結果である(n=8)。
【
図2b】三白草分画物の投与後の腸炎症モデル評価の10日目のマウス大腸の長さを評価した結果である(n=8)。
【
図3】三白草分画物の投与後の大腸の組織学的変化を観察した結果である。
【
図4】三白草分画物の投与後の大腸組織内のTNF-αの評価結果である。
【
図5】三白草分画物の投与後の大腸組織内のMPOの評価結果である。
【
図6】三白草分画物の投与後の腸炎症モデルのパイエル板細胞(Peyer’s patches cell)によるsIgA分泌能および関連サイトカイン(cytokine)誘導能を評価した結果である。
【
図7】三白草の活性成分分画物の腸内粘液分泌細胞(LS 174T,a human intestinal goblet cell line)に及ぼす効果を評価した結果である。