(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】素線切れ検出方法および素線切れ検出システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/82 20060101AFI20241120BHJP
H02G 1/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
G01N27/82
H02G1/00
(21)【出願番号】P 2024128793
(22)【出願日】2024-08-05
【審査請求日】2024-08-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】522262670
【氏名又は名称】アルビト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【氏名又は名称】野本 裕史
(74)【代理人】
【識別番号】100220423
【氏名又は名称】榊間 城作
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 直二
(72)【発明者】
【氏名】村井 弘道
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-274351(JP,A)
【文献】特開2005-249677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
H02G 1/00-1/02
G01R 31/00-31/74
G01R 33/00-33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線を含んで構成される電力線における素線切れを検出する方法であって、
第1磁界を発生させる磁界発生器を前記電力線の近傍に配置する第1工程と、
前記第1磁界と、前記素線に流れる電流によって生じる第2磁界と、の合成磁界
であって、前記第1磁界と前記第2磁界とが打ち消し合って合成磁界が小さくなる領域での合成磁界を磁気センサで検知する第2工程と、
検知された前記合成磁界に基づいて、素線切れを検出する第3工程と、を備える方法。
【請求項2】
前記第1工程における配置は、前記磁界発生器および前記磁気センサを移動させることにより、既に合成磁界を検知した位置とは別の位置に配置することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記移動させることは、前記磁界発生器および前記磁気センサを、前記電力線に沿って移動させることである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記移動させることは、前記磁界発生器および前記磁気センサを、前記電力線の周りを移動させることである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第3工程では、検知された前記合成磁界と閾値とに基づいて、素線切れを検出する、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
複数の素線を含んで構成される電力線における素線切れを検出するシステムであって、
前記電力線の近傍に配置される、第1磁界を発生させる磁界発生器と、
前記第1磁界と、前記素線に流れる電流によって生じる第2磁界と、の合成磁界
であって、前記第1磁界と前記第2磁界とが打ち消し合って合成磁界が小さくなる領域での合成磁界を検知する磁気センサと、
検知された前記合成磁界に基づいて、素線切れを検出する検出手段と、を備えるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素線切れ検出方法および素線切れ検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ヨリ電線内部の素線切れを検出する方法が開示されている。特許文献2には、複数本の導体素線を撚り合わせた電線における撚合導体の何れかの導体素線の欠陥を検知する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4263545号公報
【文献】特許第4286693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、精度よく電力線の素線切れを検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
例示として、以下の解決手段が提供される。
【0006】
[1]
複数の素線を含んで構成される電力線における素線切れを検出する方法であって、
第1磁界を発生させる磁界発生器を前記電力線の近傍に配置する第1工程と、
前記第1磁界と、前記素線に流れる電流によって生じる第2磁界と、の合成磁界を磁気センサで検知する第2工程と、
検知された前記合成磁界に基づいて、素線切れを検出する第3工程と、を備える方法。
【0007】
[2]
前記第1工程における配置は、前記磁界発生器および前記磁気センサを移動させることにより、既に合成磁界を検知した位置とは別の位置に配置することを含む、[1]に記載の方法。
【0008】
[3]
前記移動させることは、前記磁界発生器および前記磁気センサを、前記電力線に沿って移動させることである、[2]に記載の方法。
【0009】
[4]
前記移動させることは、前記磁界発生器および前記磁気センサを、前記電力線の周りを移動させることである、[2]に記載の方法。
【0010】
[5]
前記第2工程では、前記第1磁界と前記第2磁界とが打ち消し合って合成磁界が小さくなる領域での合成磁界を検出する、[1]乃至[4]のいずれかに記載の方法。
【0011】
[6]
前記第3工程では、検知された前記合成磁界と閾値とに基づいて、素線切れを検出する、[1]乃至[5]のいずれかに記載の方法。
【0012】
[7]
複数の素線を含んで構成される電力線における素線切れを検出するシステムであって、
前記電力線の近傍に配置される、第1磁界を発生させる磁界発生器と、
前記第1磁界と、前記素線に流れる電流によって生じる第2磁界と、の合成磁界を検知する磁気センサと、
検知された前記合成磁界に基づいて、素線切れを検出する検出手段と、を備えるシステム。
【発明の効果】
【0013】
精度よく電力線の素線切れを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3A】電力線100の近傍に磁界発生器10を配置した状態を模式的に示す図。
【
図3B】x=x0における電力線100の鉛直断面と、発生する磁界を模式的に示す図。
【
図3C】x=x0における電力線100の鉛直断面と、発生する磁界を模式的に示す図。
【
図4】素線切れ検出システムの概略構成を示すブロック図。
【
図5】
図4に示す素線切れ検出システムを用いた素線切れ検出方法の一例を示すフローチャート。
【
図6A】磁界発生器10の移動の一例を模式的に示す図。
【
図6B】
図6Aの磁気センサ11によって検知される合成磁界を模式的に示す図。
【
図7A】磁界発生器10の移動の別の例を模式的に示す図。
【
図7B】
図7Aの磁気センサ11によって検知される合成磁界を模式的に示す図。
【
図8】複数の磁界発生器10を移動させる例を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0016】
図1は、電力線100の構成を模式的に示す図である。図示のように、電力線100は複数本(7本を例示しているが、実際は数十~数百のこともある。)の素線1a~1gを含んで構成される。素線1a~1gは互いに絶縁されておらず、撚り線状となっている。説明の便宜上、電力線100は水平方向に延びているものとし、その一端(
図1の左端)をx軸の原点に設定する。また、電力線100の中心を通る直線を基準として回転方向のθ軸を定める。
【0017】
素線1a~1gに電流が流れると、電力線100の周囲に磁界が発生する。素線1a~1gのいずれかがどこかで断線すると、断線した箇所において、他の素線に電流が乗り移ることとなる。その結果、電流の向きが変化し、発生する磁界が変化する。よって、磁界の変化を検知することで、素線切れを検出することが考えられる。
【0018】
図2Bおよび
図2Cは、
図2Aに示すx=x0における鉛直断面図であり、
図2Bは素線切れがない状態を、
図2Cは素線1aが切れている状態を模式的に示している。
図2Bでは、x=x0における鉛直断面において、電力線100が発生させる磁界B1は7本の素線1a~1gに電流が流れることに起因する。一方、
図2Cでは、x=x0において素線1aに流れていた電流が他の素線1b~1gに乗り移るため、電流の向きが変化する。よって、x=x0における鉛直断面で電力線100が発生させる磁界B1’は、理論上は
図2Bにおける磁界B1とは異なる。そのため、磁界B1と磁界B1’の差異に基づいて断線が生じていることを検出できる。
【0019】
しかし、発明者らがシミュレーションを行ったところ、この差異は検知するのが現実的には困難であるほど小さいことが分かった。その理由は、1本の素線が断線したとしても、それによる電流の向きの変化は小さく、したがって磁界の変化も相対的には小さいためである。
【0020】
そこで、発明者らは、
図3Aに示すように、電力線100の近傍に磁界発生器10(補助磁極)を配置することに想到した。磁界発生器10が発生させる磁界は、電力線100が発生させる磁界より弱くてもよいし、同程度でもよい。
【0021】
図3Bは、磁界発生器10が配置されたx=x0における電力線100の鉛直断面と、発生する磁界を模式的に示す図であり、電力線100が発生させる磁界B1も、磁界発生器10が発生させる磁界B2も、時計回りの方向である場合を示している。この場合、電力線100と磁界発生器10との間の領域(一点鎖線で示す領域)において、磁界B1,B2が互いに打ち消し合い、合成磁界が弱くなる。すなわち、合成磁界は電力線100からの磁界B1よりも小さい。
【0022】
図3Cは、磁界発生器10が配置されたx=x0における電力線100の鉛直断面と、発生する磁界を模式的に示す図であり、電力線100が発生させる磁界B1は時計回りの方向であり、磁界発生器10が発生させる磁界B3は反時計回りの方向である場合を示している。この場合、磁界発生器10よりも電力線100の径方向外側の領域(一点鎖線で示す領域)において、磁界B1,B3が互いに打ち消し合い、合成磁界が弱くなる。すなわち、合成磁界は電力線100からの磁界B1よりも小さい。
【0023】
合成磁界が弱くなる領域においては、いずれかの素線が断線した場合の電力線100からの磁界の変化は相対的に大きくなり、検知が可能となる。以下、具体的な素線切れ検出方法およびシステムを説明する。
【0024】
図4は、素線切れ検出システムの概略構成を示すブロック図である。素線切れ検出システムは、磁界発生器10と、磁気センサ11と、検出部30とを備えている。
【0025】
磁界発生器10は、例えば直流電源とコイルから構成され、コイルに電流を流すことにより磁界を発生させる。直流電源の向きを変えることで、磁界の向きも反転する。
【0026】
磁気センサ11は、例えば磁気抵抗センサやホールセンサであり、磁界を検知する。孫線切れ検出において、磁気センサ11は、磁界発生器10からの磁界と、素線切れ検出対象の電力線100からの磁界の合成磁界を検知する。より具体的には、磁気センサ11は合成磁界が弱くなる領域(
図3Bおよび
図3Cの一点鎖線で示す領域)における合成磁界を検知する。そして、磁気センサ11は、検知された合成磁界に対応した電気信号を、無線接続あるいは有線接続された検出部30に出力する。
【0027】
磁界発生器10および磁気センサ11を1つの筐体に収容するなどにより、素線切れ検出装置20を構成してもよい。この場合、磁気センサ11が合成磁界を検知できるような位置関係で、磁界発生器10および磁気センサ11が配置される。
【0028】
検出部30は、磁気センサ11によって検知された合成磁界に基づいて、素線切れの有無を検出する。具体例として、検出部30は、検知された合成磁界と予め定めた閾値とに基づいて、素線切れの有無を検出する。より具体的には、検出部30は検知された磁界が閾値以下である場合、素線切れと判断してよい。あるいは、検出部30は、ある位置で検知された磁界と、別の位置で検知された磁界との差が閾値を超える場合、素線切れと判断してよい。また、検出部30は、既知である素線切れがない場合の合成磁界と、検知された合成磁界との差が閾値を超える場合、素線切れと判断してよい。
【0029】
図5は、
図4に示す素線切れ検出システムを用いた素線切れ検出方法の一例を示すフローチャートである。
【0030】
まず、磁界発生器10を電力線100の近傍に配置する(ステップS1)。そして、磁気センサ11は、磁界発生器10からの磁界と、素線1a~1fに流れる電流によって生じる磁界と、の合成磁界を検知する(ステップS2)。一例として、電力線と直交する面における合成磁界が検知される。そして、検出部30は、検知された合成磁界に基づいて、素線切れを検出する(ステップS3)。
【0031】
そして、別の位置での素線切れを検出すべく、磁界発生器10(必要に応じて、磁気センサ11も)を移動させ、既に合成磁界を検知した位置とは別の位置に配置する(ステップS1)。この移動は、手動で行ってもよいし、移動機構(不図示)を用いて移動させてもよい。
【0032】
以降、各位置における素線切れを検出し、必要な範囲の素線切れ検出が完了した場合(ステップS4のYES)、処理を終了する。
【0033】
なお、
図6Aに示すように、磁界発生器10の移動は、θ軸方向を固定し、素線切れ検出装置20をx軸方向に(電力線100に沿って)移動させことであってよい。この場合の磁気センサ11によって検知される合成磁界を
図6Bに模式的に示す。ある位置x1において検知される合成磁界が閾値TH以下となることから、この位置x1において素線切れが生じていることを検出部30が検出する。
【0034】
また、
図7Aに示すように、磁界発生器10の移動は、x軸方向を固定し、素線切れ検出装置20をθ軸方向に(電力線100の周りを)移動させることであってよい。この場合の磁気センサ11によって検知される合成磁界を
図7Bに模式的に示す。ある角度θ1において検知される合成磁界が閾値TH以下となることから、この角度θ1において素線切れが生じていることを検出部30が検出する。
【0035】
もちろん、x軸方向およびθ方向の両方に磁界発生器10および磁気センサ11を移動させて素線切れ検出を行ってもよい。
【0036】
また、複数の磁界発生器10を用いてもよい。例えば、
図8Aに示すように、θ=0度、90度、180度および270度に対応する位置に配置される4つの磁界発生器10を用い、これらをx軸方向に移動させてもよい。
【0037】
このように、本実施形態では、電力線100の近傍に磁界発生器10を配置して合成磁界を検知するため、より精度よく電力線100の素線切れを検出できる。
【0038】
本明細書で述べた各機能部の任意の一部または全部をプログラムによって実現するようにしてもよい。本明細書で言及したプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に非一時的に記録され得る。
【0039】
そのようなプログラムはコンピュータにインストールされるもの(いわゆるネイティブアプリ)であってもよい。その場合、プログラムは、インターネットなどの通信回線(無線通信も含む)を介してコンピュータにダウンロードされてもよいし、コンピュータにインストールされた状態で頒布されてもよい。
【0040】
あるいは、プログラムはウェブブラウザ上で動作するもの(いわゆるウェブアプリ)であってもよい。その場合、コンピュータは、マークアップ言語ファイル(例えばHTMLファイル)に記述されたプログラムをサーバから受信し、ウェブブラウザによって実行されてもよい。
【0041】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形例を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態には限定されるものではない。例えば、各実施形態の一部のみを取り出した発明や、複数の実施形態を組み合わせた発明も当然に想定される。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【0042】
例えば、本明細書において1台の装置(あるいは部材、以下同じ)として説明されるもの(図面において1台の装置として描かれているものを含む)を複数の装置によって実現してもよい。逆に、本明細書において複数の装置として説明されるもの(図面において複数の装置として描かれているものを含む)を1台の装置によって実現してもよい。あるいは、ある装置に含まれるとした手段や機能の一部または全部が、他の装置に含まれるようにしてもよい。また、「システム」とは、1台の装置から構成されてもよいし、2以上の装置ら構成されてもよい。
【0043】
また、本明細書に記載された事項の全てが必須の要件というわけではない。特に、本明細書に記載され、特許請求の範囲に記載されていない事項は任意の付加的事項ということができる。
【0044】
また、本明細書および特許請求の範囲における「手段」との語は、特に断らない限り、それ自体がハードウェア(あるいはハードウェアによって実現される機能)を意味しており、人間(あるいは人間の精神活動)を含むものではない。
【0045】
なお、本出願人は本明細書の「先行技術文献」欄の文献に記載された文献公知発明を知っているにすぎず、本発明は必ずしも同文献公知発明における課題を解決することを目的とするものではないことにも留意されたい。本発明が解決しようとする課題は本明細書全体を考慮して認定されるべきものである。例えば、本明細書において、特定の構成によって所定の効果を奏する旨の記載がある場合、当該所定の効果の裏返しとなる課題が解決されるということもできる。ただし、必ずしもそのような特定の構成を必須の要件とする趣旨ではない。
【符号の説明】
【0046】
1a~1g 素線
10 磁界発生器
11 磁気センサ
20 素線切れ検出装置
30 検出部
100 電力線
【要約】
【課題】精度よく電力線の素線切れを検出する。
【解決手段】複数の素線を含んで構成される電力線における素線切れを検出する方法であって、第1磁界を発生させる磁界発生器を前記電力線の近傍に配置する第1工程と、前記第1磁界と、前記素線に流れる電流によって生じる第2磁界と、の合成磁界を磁気センサで検知する第2工程と、検知された前記合成磁界に基づいて、素線切れを検出する第3工程と、を備える方法が提供される。
【選択図】
図5