(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】シミュレーション装置および方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
G05B23/02 R
(21)【出願番号】P 2020146634
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517085907
【氏名又は名称】株式会社江守情報
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】松岡 研一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康央
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 麻衣
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-21032(JP,A)
【文献】特開平3-233702(JP,A)
【文献】特開平3-179502(JP,A)
【文献】特開平8-86490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象プロセスをモデル化したシミュレーションモデルと、前記シミュレーションモデルの入力値および出力値と前記シミュレーションモデルのパラメータ値との関係をモデル化したパラメータ推定モデルとを記憶するように構成された第1の記憶部と、
前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記シミュレーションモデルに入力されるプロセス値と前記パラメータ値との組を、少なくともパラメータ値を変化させながら擬似的に複数組生成するように構成されたデータ生成部と、
前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記データ生成部によって生成されたパラメータ値が前記シミュレーションモデルに設定された状態で、前記データ生成部によって生成されたプロセス値が入力されたときの前記シミュレーションモデルの出力値をプロセス値とパラメータ値の組毎に計算し、シミュレーションの実行時に、外部から取得したプロセス値の現在値を入力とする前記シミュレーションモデルの出力値を計算するように構成されたシミュレーション部と、
前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記データ生成部によって生成されたプロセス値とパラメータ値と、これらプロセス値とパラメータ値とに対する前記シミュレーションモデルの出力値とを学習用データとして記憶するように構成された第2の記憶部と、
前記学習用データを用いて前記パラメータ推定モデルの学習を行うように構成された学習部と、
シミュレーションの実行前に、前記プロセス値の現在値とこのプロセス値の過去の実績値とを入力とする前記パラメータ推定モデルの出力であるパラメータ値を計算し、このパラメータ値を前記シミュレーションモデルに設定するように構成されたパラメータ設定部とを備え
、
前記シミュレーションモデルは、予測対象プロセス値の現在値と前記予測対象プロセス値に影響を与える関連プロセス値の将来時刻における予測値とを入力とし、将来時刻における前記予測対象プロセス値の予測値を出力とするものであり、
前記データ生成部は、前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値と前記パラメータ値との組を、少なくともパラメータ値を変化させながら擬似的に複数組生成し、
前記シミュレーション部は、前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記データ生成部によって生成された前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値とが入力されたときの前記シミュレーションモデルの出力値を計算し、シミュレーションの実行時に、外部から取得した前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値とを入力とする前記シミュレーションモデルの出力値を計算し、
前記パラメータ設定部は、シミュレーションの実行前に、外部から取得した前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の現在値と前記予測対象プロセス値の過去の実績値とを入力とする前記パラメータ推定モデルの出力であるパラメータ値を計算し、このパラメータ値を前記シミュレーションモデルに設定することを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
シミュレーションモデルの入力値および出力値と前記シミュレーションモデルのパラメータ値との関係をモデル化したパラメータ推定モデルの学習時に、前記シミュレーションモデルに入力されるプロセス値と前記パラメータ値との組を、少なくともパラメータ値を変化させながら擬似的に複数組生成する第1のステップと、
前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記第1のステップで生成されたパラメータ値が前記シミュレーションモデルに設定された状態で、前記第1のステップで生成されたプロセス値が入力されたときの前記シミュレーションモデルの出力値をプロセス値とパラメータ値の組毎に計算する第2のステップと、
前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記第1のステップによって生成されたプロセス値とパラメータ値と、これらプロセス値とパラメータ値とに対する前記シミュレーションモデルの出力値とを学習用データとして記憶する第3のステップと、
前記学習用データを用いて前記パラメータ推定モデルの学習を行う第4のステップと、
シミュレーションの実行前に、外部から取得したプロセス値の現在値とこのプロセス値の過去の実績値とを入力とする前記パラメータ推定モデルの出力であるパラメータ値を計算し、このパラメータ値を前記シミュレーションモデルに設定する第5のステップと、
シミュレーションの実行時に、前記プロセス値の現在値を入力とする前記シミュレーションモデルの出力値を計算する第6のステップとを含
み、
前記シミュレーションモデルは、予測対象プロセス値の現在値と前記予測対象プロセス値に影響を与える関連プロセス値の将来時刻における予測値とを入力とし、将来時刻における前記予測対象プロセス値の予測値を出力とするものであり、
前記第1のステップは、前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値と前記パラメータ値との組を、少なくともパラメータ値を変化させながら擬似的に複数組生成するステップを含み、
前記第2のステップは、前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記第1のステップによって生成された前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値とが入力されたときの前記シミュレーションモデルの出力値を計算するステップを含み、
前記第5のステップは、シミュレーションの実行前に、外部から取得した前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の現在値と前記予測対象プロセス値の過去の実績値とを入力とする前記パラメータ推定モデルの出力であるパラメータ値を計算し、このパラメータ値を前記シミュレーションモデルに設定するステップを含み、
前記第6のステップは、シミュレーションの実行時に、外部から取得した前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値とを入力とする前記シミュレーションモデルの出力値を計算するステップを含むことを特徴とするシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象プロセスをモデル化したシミュレーションモデルを用いて将来時刻におけるプロセス値を予測するシミュレーション装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種プラントにおけるプロセスに関するシミュレーションを行うシミュレーション装置が用いられている(特許文献1、特許文献2参照)。実際のプラントにおいては、運転状態情報(運転プロセス変数値)は、設置されている限られたセンサ(圧力センサ、温度センサ、流量センサ等)からしか得ることができないが、シミュレーション装置によれば、任意のプラント装置(配管、熱交換器、タンク、制御弁等)におけるプロセス情報を得ることができ、将来の運転状態を推定するだけでなく、プラント内の任意位置におけるプロセス変数を間接的に測定する推定センサとしても有効利用することができる。
【0003】
シミュレーション装置の適用例としては、例えば圧縮機の吐出圧力、吐出温度、圧縮機駆動用モータ電力消費量を予測するというものがある。このような圧縮機は、冷凍機の冷媒サーキットなどに使用されており、吐出温度、吐出圧力、モータ電力消費量の予測は、冷媒サーキットの設計もしくは、運転時の予防保全(特に、電力消費量予測値と実績のずれは圧縮機効率変化を間接的に示し、圧縮機経年劣化あるいは異常を示唆することになる)に不可欠である。
【0004】
図9は圧縮機の動作を模式的に示す図である。圧縮機100は、モータ101の駆動力によってプロセスガスを圧送する。
図10は圧縮機100の吐出圧力と吐出温度と圧縮機モータ電力消費量とを予測するシミュレーションを説明する図である。このシミュレーションでは、現在の吐出圧力Y1(t)と、現在の吐出温度Y2(t)と、現在の圧縮機モータ電力消費量Y3(t)と、現在のガス流量X1(t)と、現在の吸込圧力X2(t)と、現在の吸込温度X3(t)と、吐出圧力と吐出温度と圧縮機モータ電力消費量とを予測したい将来時刻におけるガス流量の予測値X1(t+1)と、圧縮機効率とを、圧縮機100をモデル化した圧縮機モデル200に入力して、将来時刻における吐出圧力の推定値Y1(t+1)と吐出温度の推定値Y2(t+1)と圧縮機モータ電力消費量の推定値Y3(t+1)とを得る。
【0005】
吐出圧力、吐出温度、圧縮機モータ電力消費量を推定するためには、調整パラメータとして圧縮機効率を設定する必要がある。しかしながら、圧縮機効率は計測することができないため、この圧縮機効率の設定値によって吐出圧力、吐出温度、圧縮機モータ電力消費量の推定精度が低下する可能性があった。
このようなパラメータの設定の問題は圧縮機のシミュレーションに限らず、他のシミュレーションにおいても同様に発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-55299号公報
【文献】特開2019-21032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、パラメータの設定によって左右される予測精度の低下を回避し、予測精度を向上させることができるシミュレーション装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシミュレーション装置は、対象プロセスをモデル化したシミュレーションモデルと、前記シミュレーションモデルの入力値および出力値と前記シミュレーションモデルのパラメータ値との関係をモデル化したパラメータ推定モデルとを記憶するように構成された第1の記憶部と、前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記シミュレーションモデルに入力されるプロセス値と前記パラメータ値との組を、少なくともパラメータ値を変化させながら擬似的に複数組生成するように構成されたデータ生成部と、前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記データ生成部によって生成されたパラメータ値が前記シミュレーションモデルに設定された状態で、前記データ生成部によって生成されたプロセス値が入力されたときの前記シミュレーションモデルの出力値をプロセス値とパラメータ値の組毎に計算し、シミュレーションの実行時に、外部から取得したプロセス値の現在値を入力とする前記シミュレーションモデルの出力値を計算するように構成されたシミュレーション部と、前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記データ生成部によって生成されたプロセス値とパラメータ値と、これらプロセス値とパラメータ値とに対する前記シミュレーションモデルの出力値とを学習用データとして記憶するように構成された第2の記憶部と、前記学習用データを用いて前記パラメータ推定モデルの学習を行うように構成された学習部と、シミュレーションの実行前に、前記プロセス値の現在値とこのプロセス値の過去の実績値とを入力とする前記パラメータ推定モデルの出力であるパラメータ値を計算し、このパラメータ値を前記シミュレーションモデルに設定するように構成されたパラメータ設定部とを備え、前記シミュレーションモデルは、予測対象プロセス値の現在値と前記予測対象プロセス値に影響を与える関連プロセス値の将来時刻における予測値とを入力とし、将来時刻における前記予測対象プロセス値の予測値を出力とするものであり、前記データ生成部は、前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値と前記パラメータ値との組を、少なくともパラメータ値を変化させながら擬似的に複数組生成し、前記シミュレーション部は、前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記データ生成部によって生成された前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値とが入力されたときの前記シミュレーションモデルの出力値を計算し、シミュレーションの実行時に、外部から取得した前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値とを入力とする前記シミュレーションモデルの出力値を計算し、前記パラメータ設定部は、シミュレーションの実行前に、外部から取得した前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の現在値と前記予測対象プロセス値の過去の実績値とを入力とする前記パラメータ推定モデルの出力であるパラメータ値を計算し、このパラメータ値を前記シミュレーションモデルに設定することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のシミュレーション方法は、シミュレーションモデルの入力値および出力値と前記シミュレーションモデルのパラメータ値との関係をモデル化したパラメータ推定モデルの学習時に、前記シミュレーションモデルに入力されるプロセス値と前記パラメータ値との組を、少なくともパラメータ値を変化させながら擬似的に複数組生成する第1のステップと、前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記第1のステップで生成されたパラメータ値が前記シミュレーションモデルに設定された状態で、前記第1のステップで生成されたプロセス値が入力されたときの前記シミュレーションモデルの出力値をプロセス値とパラメータ値の組毎に計算する第2のステップと、前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記第1のステップによって生成されたプロセス値とパラメータ値と、これらプロセス値とパラメータ値とに対する前記シミュレーションモデルの出力値とを学習用データとして記憶する第3のステップと、前記学習用データを用いて前記パラメータ推定モデルの学習を行う第4のステップと、シミュレーションの実行前に、外部から取得したプロセス値の現在値とこのプロセス値の過去の実績値とを入力とする前記パラメータ推定モデルの出力であるパラメータ値を計算し、このパラメータ値を前記シミュレーションモデルに設定する第5のステップと、シミュレーションの実行時に、前記プロセス値の現在値を入力とする前記シミュレーションモデルの出力値を計算する第6のステップとを含み、前記シミュレーションモデルは、予測対象プロセス値の現在値と前記予測対象プロセス値に影響を与える関連プロセス値の将来時刻における予測値とを入力とし、将来時刻における前記予測対象プロセス値の予測値を出力とするものであり、前記第1のステップは、前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値と前記パラメータ値との組を、少なくともパラメータ値を変化させながら擬似的に複数組生成するステップを含み、前記第2のステップは、前記パラメータ推定モデルの学習時に、前記第1のステップによって生成された前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値とが入力されたときの前記シミュレーションモデルの出力値を計算するステップを含み、前記第5のステップは、シミュレーションの実行前に、外部から取得した前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の現在値と前記予測対象プロセス値の過去の実績値とを入力とする前記パラメータ推定モデルの出力であるパラメータ値を計算し、このパラメータ値を前記シミュレーションモデルに設定するステップを含み、前記第6のステップは、シミュレーションの実行時に、外部から取得した前記予測対象プロセス値の現在値と前記関連プロセス値の予測値とを入力とする前記シミュレーションモデルの出力値を計算するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、擬似的に生成したプロセス値とパラメータ値とシミュレーションモデルとを用いてパラメータ推定モデルを学習し、シミュレーションの実行前に、学習済みのパラメータ推定モデルにプロセス値の現在値と過去の実績値とを入力してパラメータ値を計算し、このパラメータ値をシミュレーションモデルに設定することにより、シミュレーションの予測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施例に係るシミュレーション装置の学習動作を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の実施例における学習用データ生成の過程を説明する図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例に係るシミュレーション装置のシミュレーション動作を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の実施例におけるパラメータ推定モデルを用いたパラメータ値計算の過程を説明する図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例におけるシミュレーションの過程を説明する図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例におけるシミュレーションの具体例を説明する図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例に係るシミュレーション装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、圧縮機の動作を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、圧縮機の吐出圧力と吐出温度と圧縮機モータ電力消費量とを予測するシミュレーションを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施例に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。シミュレーション装置は、モデル記憶部1(第1の記憶部)と、シミュレーション部2と、データ蓄積部3と、データ生成部4と、学習用データ記憶部5(第2の記憶部)と、学習部6と、パラメータ設定部7とを備えている。
【0017】
モデル記憶部1には、対象プロセスをモデル化した、ソフトウェア的に構築された数学モデルであるシミュレーションモデル10と、シミュレーションモデル10の入力値および出力値とシミュレーションモデル10のパラメータ値との関係をモデル化した、ソフトウェア的に構築された数学モデルであるパラメータ推定モデル11とが記憶されている。
【0018】
まず、パラメータ推定モデル11を学習する動作について説明する。
図2は本実施例のシミュレーション装置の学習動作を説明するフローチャートである。
データ生成部4は、シミュレーションモデル10に入力されるプロセス値Y1
p(t),,,Ym
p(t),X1
p(t),,,Xn
p(t),X1
p(t+1),,,Xn
p(t+1)とシミュレーションモデル10のパラメータ値α
pとの組を、プロセス値とパラメータ値のうち少なくともパラメータ値を変化させながら複数組生成する(
図2ステップS100)。
【0019】
プロセス値Y1p(t),,,Ymp(t)(mは1以上の整数)は、予測対象プロセス値の現在値を疑似的に生成したものであり、圧縮機シミュレーションの例では吐出圧力と吐出温度と圧縮機モータ電力消費量の現在値である。プロセス値X1p(t),,,Xnp(t)(nは1以上の整数)は、予測対象プロセス値に影響を与える関連プロセス値の現在値を疑似的に生成したものであり、圧縮機シミュレーションの例ではガス流量と吸込圧力と吸込温度の現在値である。プロセス値X1p(t+1),,,Xnp(t+1)は、関連プロセス値の将来時刻における予測値を疑似的に生成したものであり、圧縮機シミュレーションの例ではガス流量の予測値である。パラメータ値αpは、シミュレーションモデル10に設定されるパラメータ値の一時的な値であり、圧縮機シミュレーションの例では圧縮機効率である。
【0020】
プロセス値については、想定し得る所定の入力範囲内で変化させるようにすればよい。同様に、パラメータ値については、想定し得る所定のパラメータ範囲内で変化させるようにすればよい。
【0021】
データ生成部4は、プロセス値Y1p(t),,,Ymp(t),X1p(t),,,Xnp(t),X1p(t+1),,,Xnp(t+1)とパラメータ値αpとの組を、パラメータ値のみを変化させながら、あるいはプロセス値とパラメータ値の両方を変化させながら複数組生成する。
【0022】
シミュレーション部2は、シミュレーションモデル10にパラメータ値α
pが設定された状態で、プロセス値Y1
p(t),,,Ym
p(t),X1
p(t),,,Xn
p(t),X1
p(t+1),,,Xn
p(t+1)が入力されたときのシミュレーションモデル10の出力値Y1(t+1),,,Ym(t+1)を、プロセス値とパラメータ値の組毎に計算する(
図2ステップS101)。出力値Y1(t+1),,,Ym(t+1)は、圧縮機シミュレーションの例では将来時刻における吐出圧力と吐出温度と圧縮機モータ電力消費量の予測値である。
【0023】
学習用データ記憶部5は、プロセス値Y1
p(t),,,Ym
p(t),X1
p(t),,,Xn
p(t),X1
p(t+1),,,Xn
p(t+1)とパラメータ値α
pと、これらに対応するシミュレーションモデル10の出力値Y1(t+1),,,Ym(t+1)とを学習用データとして記憶する(
図2ステップS102)。こうして、プロセス値とパラメータ値と出力値との組からなる学習用データが複数組生成される。この学習用データ生成の過程を
図3に示す。
【0024】
次に、学習部6は、学習用データ記憶部5に記憶されている学習用データに含まれるプロセス値Y1
p(t),,,Ym
p(t),X1
p(t),,,Xn
p(t),X1
p(t+1),,,Xn
p(t+1)と出力値Y1(t+1),,,Ym(t+1)とをパラメータ推定モデル11の入力変数とし、これらプロセス値と出力値とに対応するパラメータ値α
pをパラメータ推定モデル11の出力変数として、目的とする出力変数が得られるようにパラメータ推定モデル11の機械学習を行う(
図2ステップS103)。
以上で、学習動作が終了する。なお、機械学習の方法は周知の技術であるので、詳細な説明は省略する。
【0025】
図4は本実施例のシミュレーション装置のシミュレーション動作を説明するフローチャートである。データ蓄積部3には、対象のプラントから過去に取得したプロセス値Y1,,,Ym,X1,,,Xnが蓄積されている。
【0026】
シミュレーションの実行前に、パラメータ設定部7は、
図5に示すように対象のプラントから取得した予測対象プロセス値の現在値Y1(t),,,Ym(t)と関連プロセス値の現在値X1(t),,,Xn(t)と、データ蓄積部3に蓄積されている過去の予測対象プロセス値の実績値Y1(t-1),,,Ym(t-1)と過去の関連プロセス値の実績値X1(t-1),,,Xn(t-1)とが入力されたときのパラメータ推定モデル11の出力値αを計算する(
図4ステップS200)。
【0027】
つまり、関連プロセス値の現在値X1(t),,,Xn(t)と予測対象プロセス値の実績値Y1(t-1),,,Ym(t-1)と関連プロセス値の実績値X1(t-1),,,Xn(t-1)とは、過去の時点におけるシミュレーションモデル10の入力値に相当する。予測対象プロセス値の現在値Y1(t),,,Ym(t)は、過去の時点におけるシミュレーションモデル10の出力値に相当する。関連プロセス値の現在値は、圧縮機シミュレーションの例ではガス流量の現在値X1(t)と吸込圧力の現在値X2(t)と吸込温度の現在値X3(t)である。関連プロセス値の実績値は、圧縮機シミュレーションの例ではガス流量の過去の実績値X1(t-1)と吸込圧力の過去の実績値X2(t-1)と吸込温度の過去の実績値X3(t-1)である。予測対象プロセス値の実績値は、圧縮機シミュレーションの例では吐出圧力の実績値Y1(t-1)と吐出温度の実績値Y2(t-1)と圧縮機モータ電力消費量の実績値Y3(t-1)である。予測対象プロセス値の現在値は、圧縮機シミュレーションの例では吐出圧力の現在値Y1(t)と吐出温度の現在値Y2(t)と圧縮機モータ電力消費量の現在値Y3(t)である。したがって、これらの値をパラメータ推定モデル11に入力すれば、パラメータ値αを計算することが可能である。
プロセス値の実績値が計測された過去の時点と現時点との時間間隔は、現時点とプロセス値を予測したい将来時刻との時間間隔に等しい。
【0028】
パラメータ設定部7は、パラメータ推定モデル11を用いて計算したパラメータ値αをシミュレーションモデル10に設定する(
図4ステップS201)。
【0029】
パラメータ値αの設定後、シミュレーション部2は、予測対象プロセス値の現在値Y1(t),,,Ym(t)と関連プロセス値の現在値X1(t),,,Xn(t)を取得すると共に、関連プロセス値の予測値X1(t+1),,,Xn(t+1)を取得する。現在値Y1(t),,,Ym(t),X1(t),,,Xn(t)はプラントのセンサ等から取得できる。予測値X1(t+1),,,Xn(t+1)は、外部の予測システム(例えば気象予測システム)から取得することができる。そして、シミュレーション部2は、予測対象プロセス値の現在値Y1(t),,,Ym(t)と関連プロセス値の現在値X1(t),,,Xn(t)と関連プロセス値の予測値X1(t+1),,,Xn(t+1)とが入力されたときのシミュレーションモデル10の出力値Y1(t+1),,,Ym(t+1)を計算する(
図4ステップS202)。
【0030】
こうして、
図6に示すように将来時刻における予測値Y1(t+1),,,Ym(t+1)を得ることができる。
図6を圧縮機シミュレーションについて具体的に記述すれば、
図7のようになる。
【0031】
本実施例では、擬似的に生成したプロセス値とパラメータ値とシミュレーションモデルとを用いてパラメータ推定モデルを学習し、シミュレーションの実行前に、学習済みのパラメータ推定モデルにプロセス値の現在値と過去の実績値とを入力してパラメータ値を計算し、このパラメータ値をシミュレーションモデルに設定することにより、シミュレーションの予測精度を向上させることができる。
【0032】
なお、本実施例で説明した全てのプロセス値を用いることは本発明の必須の構成要件ではない。例えば関連プロセス値の現在値を必要としない構成であってもよい。この場合、シミュレーションモデル10は、予測対象プロセス値の現在値と関連プロセス値の予測値とを入力とする。データ生成部4は、予測対象プロセス値の現在値と関連プロセス値の予測値とパラメータ値との組を擬似的に複数組生成する。シミュレーション部2は、パラメータ推定モデル11の学習時に、データ生成部4によって生成された予測対象プロセス値の現在値と関連プロセス値の予測値とが入力されたときのシミュレーションモデル10の出力値を計算する。パラメータ設定部7は、外部から取得した予測対象プロセス値の現在値と関連プロセス値の現在値と予測対象プロセス値の過去の実績値とを入力とするパラメータ推定モデル11の出力を計算する。
【0033】
本実施例で説明したシミュレーション装置は、CPU(Central Prodessing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図8に示す。
【0034】
コンピュータは、CPU300と、記憶装置301と、インタフェース装置(I/F)302とを備えている。I/F302には、プラントの管理装置や予測システムなどが接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明のシミュレーション方法を実現させるためのプログラムは記憶装置301に格納される。CPU300は、記憶装置301に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、プロセスシミュレーション技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…モデル記憶部、2…シミュレーション部、3…データ蓄積部、4…データ生成部、5…学習用データ記憶部、6…学習部、7…パラメータ設定部、10…シミュレーションモデル、11…パラメータ推定モデル。