(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】養殖装置及び養殖方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/51 20170101AFI20241120BHJP
【FI】
A01K61/51
(21)【出願番号】P 2024084330
(22)【出願日】2024-05-23
【審査請求日】2024-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504227305
【氏名又は名称】中村 俊政
(73)【特許権者】
【識別番号】520475470
【氏名又は名称】株式会社Cultivo
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊政
【審査官】小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-348664(JP,A)
【文献】特開平08-056524(JP,A)
【文献】特開2007-190014(JP,A)
【文献】特開平11-137118(JP,A)
【文献】特開平7-008132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アワビを飼育する飼育海水を満たした飼育水槽と、
前記飼育水槽に給送するために前記飼育海水を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽から前記飼育水槽に前記飼育海水を給送する給水管と、
前記給水管を通じて給送される前記飼育海水に酸素を供給する酸素供給装置と、
前記給水管に接続され、前記飼育水槽内において前記飼育海水を供給する槽内給水管と、
前記槽内給水管を水平に支持する支持手段と、
前記アワビが付着する、長手方向に直交する方向の断面が略コの字状の育成器と、
を備え、
前記槽内給水管は、上部に前記飼育海水を吐出する吐出孔を複数有し、
前記槽内給水管上に載置された籠の底部に前記育成器を開口部が下方に向くように設置
し、
前記育成器と前記籠の底部との間に、略半円筒形状の退避部材を開口部が下方に向くように設置したことを特徴とする養殖装置。
【請求項2】
商用電力系統から供給された電力によって、前記貯留槽から前記飼育水槽に前記飼育海水を給送するポンプと、
前記商用電力系統の停電時に前記ポンプに電力を供給する非常用電源と、
通常時は、前記飼育水槽の下部に開口する吸水口から吸水した前記飼育海水を排出する第1の流路と該第1の流路を開閉する第1バルブと、
前記吸水口から吸水した前記飼育海水を前記貯留槽に供給する第2の流路と該
第2の流路を開閉する第2バルブと、
前記停電時に、前記吸水口の位置を前記飼育水槽の高さ方向の中央部に切り替える切替手段と、
を備え、
前記停電時には、前記切替手段によって、前記吸水口の前記位置を前記飼育水槽の前記中央部に切り替え、前記第1バルブを閉じ、前記第2バルブを開くことを特徴とする請求項1に記載の養殖装置。
【請求項3】
請求項1に記載の養殖装置を用いた養殖方法であって、
前記開口部と反対側の壁面に開設された孔を塞ぐように餌を配置することを特徴とする養殖方法。
【請求項4】
請求項
1に記載の養殖装置を用いた養殖方法であって、
前記飼育水槽を遮光した状態で前記アワビを飼育し、
前記飼育水槽を遮光した状態から、少なくとも前記育成器に光を照射することにより、前記育成器に付着した前記アワビを前記退避部材へ移動させることを特徴とする養殖方法。
【請求項5】
前記アワビの貝殻脈に基づいて該アワビの生育状態を管理する請求項
3又は4に記載の養殖方法。
【請求項6】
請求項1に記載の養殖装置を用いた養殖方法であって、
前記飼育水槽において前記アワビの飼育に用いられた前記飼育海水を、排水部によって海に排出する前に、一時貯留部に一時的に貯留することを特徴とする養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アワビ、クロアワビ、エゾアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ、トコブシ等のアワビ類(以下、単に「アワビ」という。)の稚貝の成長を著しく促進させることができる養殖装置及び養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、アワビ、クロアワビ、エゾアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ、トコブシ等のアワビ類の貝は天然の海域においては潮通しがよくて、きれいな環境で生息している。
【0003】
かかるアワビ類の貝を陸上で養殖する技術は、特許文献1ないし3等により開示されている。
【0004】
従来の養殖技術は、養殖環境を天然の環境に近づけることを主目的とする技術であった。そして、飼育水槽内をエアレーション、給水圧、水中ポンプ等を使用して、空気による曝気によって溶存酸素量を確保していた。しかし、そのような方法では、あわびが嫌う振動や音が発生するため、アワビの成長を促すことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-119169号公報
【文献】特開2003-125668号公報
【文献】特開2004-135562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、アワビの成長を促進し、短期間で出荷可能な大型のアワビを生産することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明は、
アワビを飼育する飼育海水を満たした飼育水槽と、
前記飼育水槽に給送するために前記飼育海水を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽から前記飼育水槽に前記飼育海水を給送する給水管と、
前記給水管を通じて給送される前記飼育海水に酸素を供給する酸素供給装置と、
前記給水管に接続され、前記飼育水槽内において前記飼育海水を供給する槽内給水管と、
前記槽内給水管を水平に支持する支持手段と、
前記アワビが付着する、長手方向に直交する方向の断面が略コの字状の育成器と、
を備え、
前記槽内給水管は、上部に前記飼育海水を吐出する吐出孔を複数有し、
前記槽内給水管上に載置された籠の底部に前記育成器を開口部が下方に向くように設置することを特徴とする養殖装置である。
【0008】
これによれば、アワビが付着した育成器の、下方に向けられた開口部から、籠を介して育成器の下方に設置された槽内給水管の吐出孔から高濃度の酸素が溶存した飼育海水を供給し、断面略コの字状の育成器の中空内部に滞留させることができ、アワビが嫌う振動や
音を発生させることもないので、アワビの成長を促進し、短期間で出荷可能な大型のアワビを生産することができる。また、アワビが成長することにより、育成器を配置した籠の重量が増しても、槽内給水管が傾くことがないので、アワビに偏りなく飼育海水を供給することができる。
【0009】
また、本発明において、
前記育成器と前記籠の底部との間に、略半円筒形状の退避部材を開口部が下方に向くように設置してもよい。
【0010】
これによれば、飼育時に遮光された飼育水槽において、少なくとも育成器に光を照射することにより、光を嫌うアワビを、育成器から光が遮られた退避部材の中空内部へ簡単に移動させることができるので、育成器からアワビを損傷させることなく剥離させることができる。
【0011】
また、本発明において、
商用電力系統から供給された電力によって、前記貯留槽から前記飼育水槽に前記飼育海水を給送するポンプと、
前記商用電力系統の停電時に前記ポンプに電力を供給する非常用電源と、
通常時は、前記飼育水槽の下部に開口する吸水口から吸水した前記飼育海水を排出する第1の流路と該第1の流路を開閉する第1バルブと、
前記吸水口から吸水した前記飼育海水を前記貯留槽に供給する第2の流路と該第2の流路を開閉する第2バルブと、
前記停電時に、前記吸水口の位置を前記飼育水槽の高さ方向の中央部に切り替える切替手段と、
を備え、
前記停電時には、前記切替手段によって、前記吸水口の前記位置を前記飼育水槽の前記中央部に切り替え、前記第1バルブを閉じ、前記第2バルブを開くことを特徴とするようにしてもよい。
【0012】
これによれば、通常時には、飼育水槽の下部に堆積した糞等を含む汚れた飼育海水を排出する流路として利用できる流路を含む配管を、停電時には、飼育水槽の高さ方向の中央部の清浄な飼育海水を貯留槽に供給することができ、海水の取水ができない停電時でも、飼育水槽と貯留槽との間で清浄な飼育海水を循環させ、飼育水槽への飼育海水の給送を継続させることができる。
【0013】
また、本発明は
前記養殖装置を用いた養殖方法であって、
前記開口部と反対側の壁面に開設された孔を塞ぐように餌を配置することを特徴とする。
【0014】
これによれば、育成器が開口部と反対側の壁面に孔を有する場合でも、孔を塞ぐように餌を配置することで、高濃度酸素が溶存した飼育海水が育成器内により滞留することとなるので、アワビの採餌力が高まり、より成長が促進される。
【0015】
また、本発明は、
前記養殖装置を用いた養殖方法であって、
前記飼育水槽を遮光した状態で前記アワビを飼育し、
前記飼育水槽を遮光した状態から、少なくとも前記育成器に光を照射することにより、前記育成器に付着した前記アワビを前記退避部材へ移動させることを特徴とする。
【0016】
これによれば、飼育時に遮光された飼育水槽において、少なくとも育成器に光を照射することにより、光を嫌うアワビを、育成器から光が遮られた退避部材の中空内部へ簡単に移動させることができるので、育成器からアワビを損傷させることなく剥離させることができる。
【0017】
また、本発明において、
前記アワビの貝殻脈に基づいて該アワビの生育状態を管理してもよい。
【0018】
これによれば、貝殻脈によってアワビの年齢が判断できるので、養殖されるアワビの生育状態を的確に把握することができる。
【0019】
また、本発明は、
前記養殖装置を用いた養殖方法であって、
前記飼育水槽において前記アワビの飼育に用いられた前記飼育海水を、排水部によって海に排出する前に、一時貯留部に一時的に貯留することを特徴とする。
【0020】
これによれば、飼育海水に用いられる海水にアオサ等の海藻類の胞子が含まれる場合に、養殖装置におけるアワビの養殖のための飼育海水の酸素濃度や温度が、アオサ等の海藻類にとっても良好な成育環境となり、また、アワビの糞等が、アオサの肥料ともなることによって、アオサの成育が促進される。さらに、飼育水槽から排出される飼育海水を海に排出する前に一時貯留槽に一時的に貯留することにより、アオサ等の海藻類を増殖させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アワビの成長を促進し、短期間で出荷可能な大型のアワビを生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本実施例に係る養殖装置の全体構成図である。
【
図2】
図2は、本実施例に係る飼育水槽における給水管の配置を示す平面図である。
【
図3】
図3は、本実施例に係る、飼育水槽の概略構成を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施例に係るシェルターを示す図である。
【
図6】
図6は、本実施例に係る、餌が投与された状態のシェルターを示す図である。
【
図7】
図7は、本実施例に係る養殖設備の全体構成を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、本実施例に係る養殖装置の停電時の配管構成を示す図である。
【
図9】
図9は、本実施例に係る養殖装置の停電時の他の配管構成を示す図である。
【
図10】
図10は、本実施例に係る養殖装置における剥離方法に係る構成を説明する図である。
【
図11】
図11は、本実施例に係る剥離方法によるアワビの剥離例を示す図である。
【
図13】
図13は、本実施例に係る養殖方法の効果を示すアワビの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態の一例について説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明
の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0024】
実施例1に係る養殖装置1について
図1を参照して説明する。なお、以下の実施例では、アワビ、クロアワビ、エゾアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ等アワビ類の稚貝を養殖する場合で説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施例に係るアワビ類稚貝を養殖する養殖装置1を構成するブロック図である。
【0026】
図1に示すように、アワビ類の稚貝を飼育する養殖装置1は、主として、飼育水槽100とストック水槽200を含んで構成される。飼育水槽100及びストック水槽200が、それぞれ本発明の飼育水槽及び貯留槽に相当する。
【0027】
海水に処理を施し飼育用海水を生成し、生成された飼育用海水は、ストック水槽200に一時貯留される。このストック水槽200の水中に設置された水中圧送ポンプ201により、生成された飼育用海水が、飼育水槽100内に給送される。水中圧送ポンプ201は、本発明のポンプに相当する。
【0028】
飼育水槽100及びストック水槽200は、いずれも略直方体形状であり、耐海水性の材料、例えばプラスチック、特にFRPあるいは塩化ビ二-ル樹脂等によって形成されている。また、養殖装置1を構成する各配管としては、例えば、塩化ビニール樹脂製の配管を用いることができる。
【0029】
ストック水槽200には、外部から給水管203によって海水が供給される。アワビの飼育には、アワビにとって致命傷となる筋委縮症を予防するために紫外線殺菌を施した海水や、水質安定のために濾過した海水を使用することが一般的に行われている。しかし、このような高価な仕組みを採用すると、育成コストが上昇するため、事業性の観点から好ましくない。この実施例に係る養殖装置1では、試験的に海から直接取水した海水でアワビを育成しても、独自の技術により採餌力を維持し、同等の成長が認められることから、生海水を使用することができる。ただし、飼育水温は採餌力を大きく左右する。特に夏場の27度以上の水温は要注意なので、その防止のためには井戸掘削による低温状態が安定している地下海水の利用が望ましい。このような地下海水を利用することは、赤潮によるアワビの斃死防止にもなる。
【0030】
ストック水槽200には、貯留される海水水面S1が所定の水位を超えた場合に、ストック水槽200外に排出するためにオーバーフロー排水管202が設けられている。
【0031】
ストック水槽200から、飼育水槽100に飼育海水を給送する給水管300の途中には、海水量をコントロールするコック320が配置されている。このコック320には、酸素送液ホース420を接続する接続パイプ321が設けられている。酸素発生装置401は、海水の逆流を防止する逆止弁411、412が設けられた酸素送液ホース410を介して、酸素送液量を調整するフロート式の送液調整器402に接続されている。送液調整器402は、途中に逆止弁421が設けられた酸素送液ホース420によって、コック320の接続パイプ321に接続されている。このように、酸素発生装置401によって発生した酸素は送液調整器402によって送液量を調整され、コック320の接続パイプ321を介して、給水管300を流れる海水の流水圧力によって給水管300に引き込まれる。供給された酸素は、飼育水槽100に供給される海水に溶解する。これによって、飼育水槽100には、酸素濃度の高い加工海水が供給される。給水管300が本発明の給水管に相当する。また、コック320、酸素送液ホース410及び420、逆止弁411、412及び421、送液調整器402及び酸素発生装置401を含んで、本発明の酸素
供給装置が構成される。
【0032】
自然海水の溶存酸素量は8.2mg/L(リットル)程度だが、最近の環境悪化により4mg/Lから7mg/Lとさらに低い傾向にある。一般に高濃度酸素は生物の生育に寄与することが分かっているので、飼育海水の溶存酸素量は9mg/Lから16mg/Lの範囲で採餌力を見ながら操作する。
【0033】
酸素発生装置401から送られる酸素量は、例えば、3L/分とすることができる。5Lの表示器で常に3Lと表示されているかを確認するのが望ましい。酸素発生装置401から送られる酸素量が0Lと表示されている場合には、トラブルが発生しているので、確認が必要である。このようなトラブルの原因としては、例えば、ストック水槽200から飼育海水を給送する給水管300に固定されたコック320とホースとの接続部に塩の結晶ができる可能性がある。この結晶が酸素の送液を止める結果として、酸素発生装置401の表示が0Lとなる場合がある。このような現象が生じている場合には、酸素送液ホース420を接続パイプ321から外し、中の塩を抜き取る必要がある。
【0034】
酸素送液トラブルが発生すると酸欠が起こり、アワビが斃死に至るので、毎日の管理が求められる。
【0035】
図2は、飼育水槽100を上方から見た平面図である。飼育水槽100は、加工海水を供給する給水管301~304、305~308の延長方向に沿って、中央部に配置された中央壁101によって大きく2つに分けられている。給水管301~304、305~308が、本発明の槽内給水管に相当する。
【0036】
アワビには伝染性の筋委縮症という致命傷があり、生き残っても成長の鈍化や繁殖後の稚貝にも悪影響を及ぼすことが判明している。対策として、大型水槽を避け、上述のように飼育水を分離するために水槽内部を分断する仕切りとなる中央壁101を設置している。これは自然海水利用時の赤潮での死滅対策にもなる。
【0037】
図2に示すように、飼育水槽100では、中央壁101によって分割されたそれぞれの水槽の長手方向に沿って高濃度の酸素が溶解した飼育海水を給送する4本ずつ計8本の給水管301、302、303及び304並びに305、306、307、308が配置されている。それぞれの給水管301~308の、ストック水槽200に接続される側と逆側の端部には、ソケットによってドレイン抜き301a~308aが連結されている。
【0038】
図3は、飼育時の飼育水槽100の概略構成を、中央壁101に直交する方向の断面で示した図である。
【0039】
図1及び
図3に示すように、各給水管301~308は、長手方向の複数個所において、支持部材110によって上方から支持されている。この支持部材110は、一端に形成されたリング状の支持部111と、この支持部111から直線状に延びる棒状部112とを含むステンレス製の加工部品である。棒状部112の他端は、後述するアングル120にナット110aで固定できるようねじが切られている。給水管301~308の延長方向と直交する方向の、飼育水槽100の端壁部102の上面の縁部103にかけ渡されるように、ステンレス製のL字状のアングル120が設置されている。アングル120は、給水管301~308の延長方向に複数本設置されており、アワビが飼育される籠130に対して、給水管301~308の延長方向の前後において、支持部材110によって給水管301~308を支持できるように配置されている。アングル120は、飼育水槽100の、給水管301~308の延長方向に直交する方向の端壁部102側の縁部103にボルト103aによって固定され、同様に、中央壁101の上面にボルト101aによ
って固定されている。支持部材110が本発明の支持手段に相当する。また、支持部材110にアングル120等を含めて本発明の支持手段を構成することもできる。
【0040】
このように、複数の支持部材110によって、給水管301~308は、飼育水槽100の高さ方向の略中央部に水平に支持される。給水管301~308の上面には、給送された高濃度酸素海水を吐出するための吐出孔310が、給水管301~308の延長方向に沿って複数個開設されている。そして、給水管301~308の上部にアワビを飼育するための籠130が載置される。籠130は、並列された4本の給水管301~304及び305~308にそれぞれ亘るように、給水管301~308の延長方向に沿って複数個載置される。このような、給水管301~308と籠130の配置により、高濃度酸素を含む清浄な水が、どの籠130にも給水管301~308から上向きに均等に噴出される。この方式により、飼育水槽底部140の汚物との混濁を防止でき、高濃度酸素とともにアワビの採餌力を向上させ、成長を加速することができる。吐出孔310が本発明の吐出孔に相当する。また、籠130が本発明の籠に相当する。
【0041】
図4に示すように、籠130は、塩ビパイプ131で骨組みされ、そこにネトロン網132を被覆することで上方に開口する立方体形状となっている。
【0042】
籠130の底部133には、
図1に示すように、長手方向に直交する横断面が略コの字状のシェルター150が、給水管301~308の延長方向に直交する方向に延びるように配置される。
図5に示すように、シェルター150は開口部153が下方に向けて開口し、側方及び上方が閉塞する中空の直方体形状をなす。ここでは、給水管301~308の延長方向に8個のシェルター150が並べて配置される。シェルター150の上面151には、複数個の円形孔152が開設されている。シェルター150が本発明の育成器に相当する。また、開口部153が本発明の開口部に相当し、上面151が本発明の開口部と反対側の壁面に相当する。また、円形孔152が本発明の孔に相当する。
【0043】
シェルター150を下方に開口するように配置することにより、籠130の下方に配置された給水管301~308の上部に配置された吐出孔310から吐出される高濃度酸素海水が開口部153からシェルター150内に供給される。開口部153から供給された高濃度酸素海水はシェルター150内部を循環し、シェルター150内面に付着したアワビに供給される。
【0044】
アワビが成長し、体重が増加することにより、高濃度酸素海水を給送する給水管301~308が傾くと、高濃度酸素海水の安定供給が阻害される可能性がある。これに対して、上述のように、支持部材110で給水管301~308を支持することにより、どの籠130に対しても平行を保つことができるので、どの籠130に対しても高濃度酸素海水を均等に供給することができる。
【0045】
また、シェルター150を下方に開口するように配置することにより、糞を飼育水槽底部104に落下させ、シェルター150内に貯めておかないようにできる。
【0046】
アワビ養殖によく用いられる半円状のシェルターではアワビの吸着面が均等にならず、アワビの採餌力が低下する。これに対して、横断面コの字状で、平面から構成される角状のシェルター150においては、接着面が平で吸着が安定するため、アワビの採餌力が増す。また、アワビは自分の住処となるシェルター内には排泄をせず、外部に移動後に排泄をする。シェルター150の上面の円形孔152や両端の開口部155は、そのようなアワビの移動のための配慮である。
【0047】
図1に示すように、飼育水槽100の上部100aは、給水管301~308上に載置
された籠130に配置されたシェルター150内においてアワビが飼育される領域である。これに対して、飼育水槽100の下部100bは、糞や残餌160の腐敗物等を含む比重の重い汚れた海水が沈殿する領域である。
【0048】
飼育水槽100の下部100bは、糞や残餌160の腐敗物等から亜硝酸ガスが発生して滞留する領域でもある。排泄物は比重が重いために飼育水槽底部104に沈殿するが、エアレーションによる酸素供給下では汚物が混濁し、アワビにストレスを与えてしまう。また、エアレーションはその振動がアワビにストレスを与えて採餌力を低下させてしまう。上述のように、飼育水槽100の上部100aに籠130を配置し、籠130の底部133から飼育水槽底部104との距離を離すことにより、汚物の混濁を防ぎ、水の清浄さを保つことができる。さらに、エアレーションによる振動を与えることがないので、この点からもアワビの成長を促進することができる。
【0049】
アワビの飼育下では、水替え後2日で排泄物が飼育水槽底部104に沈殿し始め、その腐敗を経て、アワビの死亡につながる亜硝酸ガスが4、5日後に発生する。その後、飼育水槽底部104に白色のカビ状のものが発現するとシェルター内にも充満し始め、アワビは全く採餌しなくなる。この段階のアワビは苦しさから上部への移動を始めるので飼育水槽100の清掃を行うが、洗浄には海水中の細菌を殺菌するために水道水を用いる。
【0050】
図1、
図3及び
図6に示すように、本実施例では、餌となるワカメ、コンブ等の海藻170をシェルター150の上面151の円形孔152に挿入して、この円形孔152を塞ぐようして投与している。この方法により、シェルター150の上面151の円形孔152が塞がれるので、シェルター150の中空内部154に高濃度酸素海水が滞留し、また、海藻170がアワビに触れるようになることで趣向性が高まり、摂餌力が向上するのみならず、摂餌する時間も長くなり成長につながる。
【0051】
また、発明者により、摂餌中には、アワビは生活時よりも多くの酸素量を求めていることが確認できたので、酸素量を多くすることによってもアワビの成長を促進することができる。酸素送液濃度は、上限17mLから下限10mLの範囲で制御することが好ましい。
【0052】
稚貝の飼育時にも同じようにアワビが海藻170に触れるように投与することによって成長を促進することができる。稚貝の飼育時には、上方に開口するようにシェルター150を配置し、中空内部154に海藻170を入れることにより、稚貝に触れさせることができる。
【0053】
夜行性であるアワビは自然界においても月夜なら採餌しない性質がある。この性質を利用し完全暗室での飼育により採餌量を上げることで成長スピードが加速する。
【0054】
アワビにストレスを与え採餌を妨害する要因には音もある。音は、飼育水槽100が設置された建屋内の屋根に当たる雨音や屋外設置の水槽に掛けるシートのはためき音などがそれにあたる。それらに対する防音対策によりアワビの採餌は活発さを維持できるので、成長スピードが増す。
【0055】
(養殖設備の全体構造)
図7は、陸上養殖設備1000の全体構造を示す模式図である。
図1に示した養殖装置1は、主として、1組の飼育水槽100及びストック水槽200を含んで構成される。陸上養殖設備1000は、複数の養殖装置1を組み合わせて運用することができる。
図7では、各養殖装置の飼育水槽100、ストック水槽200及び酸素発生装置401に接続される配管の構成は、それぞれ
図1に示したところと同様であるた
め配管構造は適宜省略している。陸上養殖設備1000に含まれる養殖装置1の台数及び組み合わせ、それぞれの配置については、
図7に示す構成に限定されるものではなく、適宜設計することができる。以下、各養殖装置を区別する場合には、A~F等の符号を付して説明する。
【0056】
図7に示す陸上養殖設備1000は、上下2段からなり、上下に複数の養殖装置1を配置している。ここでは、上段に、養殖水槽100A、ストック水槽200A及び酸素発生装置401Aを含む養殖装置1A、養殖水槽100B、ストック水槽200B及び酸素発生装置401Bを含む養殖装置1B、養殖水槽100C、ストック水槽200C及び酸素発生装置401Cを含む養殖装置1Cを配置している。また、下段に、養殖水槽100D及びストック水槽200Dを含む養殖装置1D、養殖水槽100E及びストック水槽200Eを含む養殖装置1E、養殖水槽100F及びストック水槽200Fを含む養殖装置1Fを配置している(養殖水槽100D~100Fの図示は省略している。)。なお、陸上養殖設備1000では、上段の養殖装置1Aの酸素発生装置401Aを、下段の養殖装置1Dと共有している。同様に、上段の養殖装置1Bの酸素発生装置401Bを、下段の養殖装置1Eと共有し、上段の養殖装置1Cの酸素発生装置401Cを、下段の養殖装置1Fと共有している。
【0057】
屋外に配置されたポンプから、設備給水管210を通じて、陸上養殖設備1000に海水が供給される。設備給水管210は、陸上養殖設備1000内において、下段に海水を供給する下段給水管211と上段に海水する上段給水管212に分岐する。上段給水管212には、ストック水槽200A~200Cにそれぞれ海水を供給する給水管203A~203Cが接続される。下段給水管211には、ストック水槽200D~200Fにそれぞれ海水を供給する給水管203D~203Fが接続される。
【0058】
上段に設置されたストック水槽200A~200Cに接続されたオーバーフロー排水202A~202Cは、上段排水管222を通じて排水口に接続される。同様に、下段に設置されたストック水槽200D~200Fに接続されたオーバーフロー排水202D~202Fは、下段排水管221を通じて排水口に接続される。
【0059】
(停電時対応)
図8を参照して、停電時における飼育方法について説明する。
【0060】
図8は、停電時における飼育水槽100とストック水槽200との配管構造を示す図である。
図8は、排水外側配管の場合を示す。
【0061】
ここでは、架台190上に設置された飼育水槽100の飼育水槽底部104に開口する開口部104aと、ストック水槽200とが配管500によって接続される。開口部104aに接続された配管501には、開口部104aから飼育水槽100の外部に出たところで分岐する配管502が接続されている。この配管502の端部には、バルブ521が設けられている。このバルブ521は、通常は閉じておき、飼育水槽底部104を全部洗浄する際に、このバルブ521を開くと全排水バルブとして機能する。開口部104aが本発明の給水口に相当する。
【0062】
開口部104aに接続された配管501には、上述の配管502の分岐部分を経て、上方に延びた後に屈曲して下方に延びるU字配管503が接続されている。U字配管503の屈曲部503aは、その中空内部の上端が、飼育水槽100に貯められた水の水面S2と一致する高さとなるように配置されている。
【0063】
下方に延びたU字配管503はT字ソケット504を介して2つに分岐し、一方の配管
505の端部505aがストック水槽200の上面から給水するように開口している。この配管505の途中には、バルブ522が設けられている。このバルブ522は、停電時に開かれ、飼育水槽100からストック水槽200へ水を給送する循環式バルブである。配管501、U字配管503、T字ソケット504及び配管505が本発明の第2の流路に相当し、バルブ522が本発明の第2バルブに相当する。
【0064】
他方の配管506は、通常は全排水に用いられる配管であり、その途中にバルブ523が設けられている。このバルブ523は通常の全排水時には開放されており、停電時にこのバルブ523を閉じることにより、循環式配管として機能することになる。配管501、U字配管503、T字ソケット504及び配管506が本発明の第1の流路に相当し、バルブ523が本発明の第1バルブに相当する。
【0065】
図8に示す養殖装置1における停電時の制御手順を詳細に説明する。
【0066】
通常の飼育時には、全排水のバルブ523を閉じておく。この時バルブ511及びバルブ512も閉じておく。
【0067】
飼育水槽100内を洗浄するために全排水する時には、バルブ523を開く。この時は、バルブ521及びバルブ522は閉じておく。
【0068】
通常の飼育時には、停電時を除き、バルブ521及びバルブ522は閉めておく。
【0069】
そして、停電時には、バルブ522を開き、配管を循環式にする。
【0070】
水中圧送ポンプ201は、通常は商用電力系統から電力の供給を受けている。停電時には小型発電機を作動させて、ストック水槽200の水中圧送ポンプ201を稼働させて、飼育水槽100内の給水管301~308には、ストック水槽200から給水されている。小型発電機が本発明の非常用電源に相当する。
【0071】
停電時には、飼育水槽底部104の開口部104aにパイプ530を接続し、給水位置を飼育水槽底部104から、高さ方向の中央部に変更する。このとき、接続されたパイプ530の上端は、飼育水槽100の上部100aの海水を循環水として使用できる位置に開口するので、飼育水槽底部104に留まる糞等160を含んだ海水が循環式の配管に吸い込まれることがない。ここでは、パイプ530が、本発明の切替手段に相当し、接続されたパイプ530の端部が、本発明の吸水口に相当する。
【0072】
図9は、
図9における停電時における飼育水槽100とストック水槽200との配管構造について、U字配管503部分を飼育水槽100内に配置した場合の構造を示す。
【0073】
ここでは、U字配管503の端部503bは、飼育水槽底部104に開口している。端部503bは、差替パイプ503cの一端に接続される。差替パイプ503cの他端にはソケットを介して、上方に延びたのちに屈曲して下方に延びる配管503dが接続されている。U字配管503の屈曲部503aは、その中空内部の上端が飼育水槽100に貯められた水の水面S2と一致するように配置されている。ここでは、端部503bが本発明の給水口にと相当する。また、U字配管503が、本発明の第1流路及び第2流路の一部を構成するのは、
図8の配管構成の場合と同様である。
【0074】
下方に延びたU字配管503の端部503eは、飼育水槽底部104の開口部104aから飼育水槽100外に延びている。飼育水槽100外に延びたU字配管503の端部503eには、
図8に示したようにストック水槽200に給水するための配管が接続される
ので、説明を省略する。
【0075】
図9に示した配管構造では、通常時の全排水時には、U字配管503全体を飼育水槽100から抜き取り、飼育水槽100に飼育海水を貯める時には、
図9に示すように飼育水槽100内の開口部104aにU字配管503に差し込む。汚れた飼育海水は糞等により比重が重くなるので、飼育水槽底部104に沈殿する飼育海水を抜くことにより、飼育海水の水質汚染を抑制することができる。
【0076】
図9に示した配管構造では、停電時には、端部503b及び差替パイプ503cを取り外す。差替パイプ503cを取り外すと、U字配管503の端部は、高さ方向の中央部の、飼育水槽100の上部100aの海水を循環水として使用できる位置に開口するので、飼育水槽底部104に留まる糞等を含んだ海水が循環式の配管に吸い込まれることがない。ここでは、端部503b及び差替パイプ503cが、本発明の切替手段に相当する。
【0077】
このような配管構造では、排水のために
図8に示したバルブ521を必要とない。常に飼育水槽底部104の飼育水を排出するので、水質汚染の分離が可能となる。この配管構造では、エアレーションによる海水攪拌では海水分離ができずアワビにストレスを与えるが、このようなエアレーションが不要となる。
【0078】
(剥離方法)
光を嫌うアワビを上述のように完全暗室で育成すると、光の照射によりアワビは急いで逃げる。自然海にアワビを放流する場合等に、シェルターに付着しているアワビをアルコール1パーセントの海水を用いて剥離させる方法が通常行われているが、アワビの保護膜が焼けて傷害を受け斃死する例が多いことが知られている。以下に説明するように、アワビが光を嫌う性質を利用することにより、アルコールによる剥離に比べ、アワビの保護膜を損傷させることなく剥離でき、斃死を防げる。
【0079】
図10は、アワビの上述の性質を応用した養殖方法を説明する図である。上述したように角状のシェルター150の中空内部154にアワビが付着している。このシェルター150の下に、略半円筒形状の別シェルター180を設置する。別シェルター180は、下方に開口するように複数個を並列させて配置する。シェルター150及び別シェルター180が設置された室内を明るくすると、別シェルター180の中空内部181が影となって暗くなる。このため、光を嫌うアワビ2は、
図11に示すように別シェルター180の半円筒形の内面182に重なりあって移動する。アワビ2が付着する場合には平面しか好まないことが知られているが、上述のようなシェルター150及び別シェルター180の配置と、光を嫌う習性を利用することにより、アワビ2は光がない半円筒形の別シェルター180の内面182に急速に移動する。別シェルター180をそのまま放流でき、力による剥離でアワビ2を弱らせることも防げる。ここでは、別シェルター180が、本発明の退避部材に相当する。
【0080】
半円筒形の別シェルター180としては、雨樋を切断して利用することができる。
【0081】
(貝殻脈による年齢判断)
発明者によって、水温が26度以上の夏場ではアワビの採餌は行われず、貝殻脈(「貝殻真珠層脈」ともいう。)が橙色に染まり、経年ごとに発現することが判明した。つまり、橙色の貝殻脈1本が1年齢を示すことになる。これにより、従前貝殻を洗浄し、裏面の真珠層によって行っていた年齢判断が不要となる。
【0082】
上述の貝殻脈は、アワビの貝殻3の内側から光を照らすと、貝殻脈がより鮮明に現れるので、年齢の判断が容易になる。
図12(A)は、6年目まで成長した体重300gのア
ワビの貝殻3を示し、
図12(B)は同じ貝殻3の内側から照明によって照らした状態を示す。
図12(B)では、橙色の貝殻脈3aをより鮮明に認識することができる。
【0083】
このような年齢判断方法を用いて、本実施例に係る養殖装置1及び養殖方法によって生産したクロアワビの例を
図13に示す。
図13の左側に示したのが、本実施例に係る養殖装置1及び養殖方法によって生産したクロアワビ21及び22であり、
図13の右側に示したのが比較例としての韓国産のエゾアワビ23及び24である。本実施例に係る養殖装置1及び養殖方法によって生産したクロアワビ21及び22は、破線で囲った貝殻脈21a及び22aの数が2本しかないことから判断して、年齢が1.5~2年であり、体重は250g~300gとなっている。これに対して、比較例のエゾアワビ23及び24は、貝殻脈23a及び24aの数から判断して年齢が4~5年であり、体重は100g未満となっている。
【0084】
本実施例に係る養殖装置1及び養殖方法によれば、飼育期間中の成長促進力が大きく、夏期間中前後に成長し、何回も夏を迎えなくともよく、大型のクロアワビを短期間で出荷できることが、このような年齢判断方法を用いることによっても確認できた。このように、貝殻脈による年齢判断方法により、養殖されるアワビの生育状態を管理することができる。
【0085】
本実施例に係る養殖装置1及び養殖方法によって飼育されたアワビは、通常のアワビよりも触覚が長く、活力もあり、貝殻の外側に可食部分がはみ出すように進化している。母貝として種苗生産すると、進化した稚貝の誕生となり生産に期待が持たれる。
【0086】
上述の養殖装置1を用いた養殖方法では、ストック水槽200に海水を取り込む際に、海水中で存在するアオサの胞子を取り込むことがある。アオサの胞子は、ストック水槽200から海水とともに飼育水槽100に送られる。この過程で、アオサの胞子を含む海水には高濃度の酸素が供給される。また、飼育水槽100内には、アオサの養分となる窒素等が存在することから、ストック水槽200に取り込まれ、飼育水槽100に送られる。飼育水槽100においてアワビ養殖に用いられた海水、又は、一旦、飼育水槽100から排水された後に流水として飼育水槽100に再度給水されてアワビ養殖に用いられた海水を排水部によって飼育水槽100から海に排水される前に、陸上で一時的に留める一時貯留部を設け、その後に、一時貯留部から排水を海に戻すようにしてもよい。一時貯留部は、例えば、コンクリートやアスファルトの地盤に高さ4cm程度の壁で囲って形成することができるが、このような構成に限られない。排水部としては、飼育水槽100内の飼育海水を、排水管又は排水口を通じて自重により、又は、排水ポンプを用いて吸引することにより排出する構成を採用することができるがこれに限られない。ここでは、排水部及び一時貯留部が、本発明の排水部及び一時貯留部に相当する。
【0087】
アワビ養殖に用いられる飼育海水は季節に応じて水温が制御されるために、自然海水とは異なる温度に変化する。このため、飼育海水中に漂流するアオサの胞子は成長のステージが早くなり、短期間で芽胞体に成長する。自然海では、アオサの胞子は漂流し増殖ができないため、浅い磯にのみ付着する。アワビ養殖では、飼育水槽100にアワビの糞が蓄積されるので、飼育水槽100を洗浄した排水には、この糞が含まれることとなる。すなわち、アワビ養殖に用いられられた飼育海水には良質のアオサを成育させるための肥料が含まれる。このため、上述のように、アワビ養殖に用いた飼育海水を排出前に一時貯留部を陸上に設け、これを経て海に排出することにより、成長が促進されたアオサの種が海に放出されることとなり、自然海の磯焼け対策に効果を発揮する。アワビ養殖過程を利用して陸上で成長したアオサは、温度刺激により、多くの胞子体を発生させる。季節に応じた排水の放出により、アオサが常に発生し、多量のアオサを増殖させることができる。季節に応じて、発生するアオサの種類は異なり、雨が降るとボタンアオサ、冬になると糸状のア
オサ、温度が上昇すると平アオサ、フクロアオサ等に変化する。アオサはウニにとっても良質の餌となり、身が美しい色で詰まったウニとなる。また、カサゴ、バリ、クロ、イスズミ、チヌ、アジゴ等の多くの魚にとってもアオサは良質の餌となる。アワビ養殖の養殖過程を利用したエコロジカルなアオサの増殖は添加物もなく安心して使用できるおkとから、食用品としても利用でき、乾物として保存もできる。アオサは、海苔の加工品と同様な活用も可能であり、海苔の不作時の代替品として活用も期待できる。さらに、ウニの養殖の餌とする場合には、コストがかからずに大量に確保できるという利点もある。
【符号の説明】
【0088】
1 養殖装置
100 飼育水槽
200 貯留槽
300 給水管
301~308 槽内給水管
150 シェルター
110 支持部材
【要約】
【課題】アワビの成長を促進し、短期間で出荷可能な大型のアワビを生産する。
【解決手段】アワビを飼育する飼育海水を満たした飼育水槽と、前記飼育水槽に給送するために前記飼育海水を貯留する貯留槽と、前記貯留槽から前記飼育水槽に前記飼育海水を給送する給水管と、前記給水管を通じて給送される前記飼育海水に酸素を供給する酸素供給装置と、前記給水管に接続され、前記飼育水槽内において前記飼育海水を供給する槽内給水管と、前記槽内給水管を水平に支持する支持手段と、前記アワビが付着する、長手方向に直交する方向の断面が略コの字状の育成器と、を備え、前記槽内給水管は、上部に前記飼育海水を吐出する吐出孔を複数有し、前記槽内給水管上に載置された籠の底部に前記育成器を開口部が下方に向くように設置する養殖装置。
【選択図】
図1