(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】調光装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
G02F1/13 505
(21)【出願番号】P 2024112393
(22)【出願日】2024-07-12
【審査請求日】2024-07-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591212718
【氏名又は名称】株式会社正興電機製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】503361813
【氏名又は名称】学校法人 中村産業学園
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】早田 茂敏
(72)【発明者】
【氏名】苣木 雄一
(72)【発明者】
【氏名】福田 枝里子
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-507784(JP,A)
【文献】特開2004-302192(JP,A)
【文献】特開2016-109953(JP,A)
【文献】特開2006-064832(JP,A)
【文献】国際公開第2014/051002(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/075774(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/065925(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13,1/137-1/141
G02F 1/15-1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配設される一対の第1透明基板及び第2透明基板と、
前記第1透明基板及び前記第2透明基板の対向面である内側面にそれぞれ付設される一対の第1透明電極及び第2透明電極と、
前記第1透明電極及び前記第2透明電極が対向している対向空間に形成され、高分子及び液晶分子を含む液晶層と、
前記第1透明電極及び前記第2透明電極間に印加する電圧に応じて、前記液晶層
における前記液晶分子の配向がランダムになっている電圧OFF状態又は
前記液晶層における前記液晶分子の配向が揃っている電圧ON状態に切り替える電圧印加手段と、
前記第1透明基板及び前記第2透明基板の外側面に、互いに異なる偏光方向となるように対向して配設される一対の第1偏光素子及び第2偏光素子とを備え、
前記液晶層
に含まれる前記液晶分子が、前記
電圧ON状態及び
電圧OFF状態におい
て、ヘイズ値が
20%以下となる程度に光学異方性が小さい液晶分子であることを特徴とする調光装置。
【請求項2】
対向して配設される一対の第1透明基板及び第2透明基板と、
前記第1透明基板及び前記第2透明基板の対向面である内側面にそれぞれ付設される一対の第1透明電極及び第2透明電極と、
前記第1透明電極及び前記第2透明電極が対向している対向空間に形成され、高分子及び液晶分子を含む液晶層と、
前記第1透明電極及び前記第2透明電極間に印加する電圧に応じて、前記液晶層における前記液晶分子の配向がランダムになっている電圧OFF状態又は前記液晶層における前記液晶分子の配向が揃っている電圧ON状態に切り替える電圧印加手段と、
前記第1透明基板及び前記第2透明基板の外側面に、互いに異なる偏光方向となるように対向して配設される一対の第1偏光素子及び第2偏光素子とを備え、
前記液晶層における液晶ドメインサイズが、前記液晶層が白濁状態を維持するための液晶ドメインサイズの最小値より小さいか、又は、前記液晶層が白濁状態を維持するための液晶ドメインサイズの最大値より大きいことを特徴とする調光装置。
【請求項3】
対向して配設される一対の第1透明基板及び第2透明基板と、
前記第1透明基板及び前記第2透明基板の対向面である内側面にそれぞれ付設される一対の第1透明電極及び第2透明電極と、
前記第1透明電極及び前記第2透明電極が対向している対向空間に形成され、高分子及び液晶分子を含む液晶層と、
前記第1透明電極及び前記第2透明電極間に印加する電圧を電圧OFF状態又は電圧ON状態に切り替える電圧印加手段と、
前記第1透明基板及び前記第2透明基板の外側面に、互いに異なる偏光方向となるように対向して配設される一対の第1偏光素子及び第2偏光素子とを備え、
前記液晶分子が螺旋構造を有しており、
前記高分子が、前記螺旋構造に配置された液晶分子の光学異方性の方向に沿った状態に形成された液晶性モノマーを重合したものであり、
前記電圧OFF状態において、前記液晶層を透過する光の偏光方向が回転し、前記電圧ON状態において、前記液晶層を透過する光の偏光方向が維持されることを特徴とする調光装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の調光装置において、
前記液晶層に非液晶性モノマーが混在していることを特徴とする調光装置。
【請求項5】
請求項
3又は4に記載の調光装置において、
前記電圧印加手段が、前記第1透明電極及び前記第2透明電極間に電圧を印加した場合に、前記液晶分子の配向性が揃い、前記液晶層を透過する光の前記偏光方向が維持され、
前記第1透明電極及び前記第2透明電極間に電圧を印加しない場合に、前記液晶分子の螺旋構造により、前記液晶層を透過する光の前記偏光方向が前記螺旋構造に応じて回転することを特徴とする調光装置。
【請求項6】
請求項
3又は4に記載の調光装置において、
前記液晶分子の螺旋構造における選択反射現象が、可視光の波長を避けるように前記液晶分子の前記螺旋構造のピッチp(μm)が設定されていることを特徴とする調光装置。
【請求項7】
請求
項6に記載の調光装置において、
前記ピッチp(μm)と前記液晶層の厚さd(μm)との関係が、4≦(d/p)≦15であることを特徴とする調光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明状態と遮光状態とを切り替える調光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスや車載用の調光素子として高分子分散型液晶素子(以下、PDLCという)が実用化されている。PDLCは、光の散乱状態と透過状態とを切り替えることで白濁状態と透明状態とを切り替える機能を有しており、例えばカーテンやブラインド、パーテーション、プロジェクタスクリーンなどに利用されている。
【0003】
ここで、特に自動車用のサンルーフやオフィスビルの窓では、明る過ぎる太陽光を遮光する一方で、見通しが良くなるような透明度が望まれる。しかしながら、通常のPDLCは、光の散乱/透過を切り替えることができるものの、透過する光を遮光する機能を有するものではない。例えば、特許文献1には、一対の偏光板を用いることで、電圧を印加していない状態では、一方の偏光板で偏光された光が混合膜で散乱し偏光が乱され、その状態で他方の偏光板を通過することで通過光が白濁を呈し、電圧を印加している状態では、一方の偏光板で偏光された光がそのまま混合膜を通過するため、他方の偏光板を通過できず黒色となることが記載されている。
【0004】
また、遮光素子としては、SPD素子やエレクトロクロミック素子等が一般的に知られている。これ以外にも、遮光する機能を実現できる液晶分子として、ゲストホスト液晶やTN液晶なども一般的に知られている。さらに、発明者らによりPDLCと二色性色素を使った素子の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示す技術では、電圧を印加している状態では遮光を実現することができるものの、電圧を印加していない状態では白濁となってしまうため、透明状態を形成することができない。
【0007】
SPD素子やエレクトロクロミック素子は、応答速度が遅く、色が青いといった種々の問題があり、実用化の範囲が限定的となってしまう。
【0008】
ゲストホスト液晶は、優れた光学特性を示すが、内部が液体であることからフィルム化する場合には、液だれ、液漏れ、押しや曲げに弱いなどの構造上の問題が生じてしまう。また、内部に添加されている二色性色素の耐候性が弱いという問題があり、フィルム化するのが困難であるという問題がある。TN液晶についても、遮光性能を有するものの、PDLCでは不要な配向処理が必要であったり、ゲストホスト液晶と同様にフィルム化や大型化が困難であるという問題がある。
【0009】
PDLCと二色性色素を使った素子については、基本状態(電圧が印加されない初期状態)が散乱であるため濁りがあり、また、遮光性を高くするためには、二色性色素の濃度を高くする必要があるため、透明状態と遮光状態とで十分なコントラストが取れなくなってしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、液晶層におけるヘイズ値及び透過光の偏光面を調整することで、高性能に遮光状態と透明状態との切り替えを実現することができる調光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る調光装置は、対向して配設される一対の第1透明基板及び第2透明基板と、前記第1透明基板及び前記第2透明基板の対向面である内側面にそれぞれ付設される一対の第1透明電極及び第2透明電極と、前記第1透明電極及び前記第2透明電極が対向している対向空間に形成され、高分子及び液晶分子を含む液晶層と、前記第1透明電極及び前記第2透明電極間に印加する電圧に応じて、前記液晶層を一の状態又は当該一の状態とは異なる他の状態に切り替える電圧印加手段と、前記第1透明基板及び前記第2透明基板の外側面に、互いに異なる偏光方向となるように対向して配設される一対の第1偏光素子及び第2偏光素子とを備え、前記液晶層は、前記一の状態及び他の状態において低ヘイズ値が維持されるものである。
【0012】
このように、本発明に係る調光装置においては、PDLCの外側に、互いに異なる偏光方向となるように偏光素子が対向して配設されており、印加する電圧に応じて状態変化する液晶層は、一の状態及び他の状態において低ヘイズ値が維持されるため、液晶層が一の状態であっても他の状態であっても光が透過する状態となり、これに偏光素子が作用することで光を透過したり遮光することとなり、透明状態と遮光状態(黒色状態)とを切り替えることができるという効果を奏する。
【0013】
また、液晶層には高分子が混在していることから、液だれなどを生じることがなく、大型化、フィルム化を容易に実現することが可能になるという効果を奏する。さらに、応答性能、遮蔽性能、耐候性能などがいずれも高いものとなるため、非常に高性能な調光装置を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る調光装置の構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る調光装置の作用を説明する図である。
【
図3】光学異方性が大きい場合と小さい場合の液晶分子の配向状態を示す模式図である。
【
図4】可視光において液晶分子のドメインサイズとヘイズとの関係を示す図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る調光装置における液晶層の構造のイメージを表す模式図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る調光装置の作用を説明する図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る調光装置においてカイラル構造の最適化に関する説明図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る調光装置においてカイラル構造の最適化に関する実験結果を示す図である。
【
図9】
図5に示す液晶層に非液晶性モノマーが混在する状態のイメージを表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る調光装置について、
図1ないし
図4を用いて説明する。本実施形態に係る調光装置は、高分子と液晶分子とを混合した高分子分散型液晶素子であるPDLCと偏光素子とを用いて、透明状態と遮光状態(黒色状態)とを切り替えるものである。
【0016】
図1は、本実施形態に係る調光装置の構造を示す模式図である。調光装置1は、対向して配設される一対の第1透明基板10a及び第2透明基板10bと、第1透明基板10a及び第2透明基板10bの対向面である内側面にそれぞれ付設される一対の第1透明電極11a及び第2透明電極11bと、第1透明電極11a及び第2透明電極11bが対向している対向空間に形成され、高分子30及び液晶分子21(ドメイン20を形成)を含む液晶層12と、第1透明電極11a及び第2透明電極11b間に印加する電圧に応じて、液晶層12を一の状態又は当該一の状態とは異なる他の状態に切り替える電圧印加部14と、当該電圧印加部14による電圧のON/OFFを制御する制御部15と、第1透明基板10a及び第2透明基板10bの外側面に、互いに異なる偏光方向となるように対向して配設される一対の第1偏光素子13a及び第2偏光素子13bとを備える。
【0017】
一般的に実用化されているPDLCの場合は、制御部15により第1透明電極11a及び第2透明電極11b間に電圧が印加されないOFF状態に制御されると、液晶層12における液晶分子21の配向がランダムになっているため、高分子30と液晶分子21との屈折率に差が生じ、液晶層12は入射光が拡散して白濁状態となる。一方、制御部15により第1透明電極11a及び第2透明電極11b間に電圧が印加されるON状態に制御されると、液晶層12における液晶分子21の配向が、第1透明基板10a及び第2透明基板10bの面に垂直な方向に揃って配向し、高分子30と液晶分子21との屈折率の差が小さくなることで、液晶層12は入射光が直射光として透過して透明状態となる。
【0018】
本実施形態に係る調光装置1においては、液晶層12のヘイズ値は低く調整されており、例えば、ヘイズ値が20%以下となるような構造となっている。つまり、上述した一般的なPDLCとは異なり、液晶層12において、電圧が印加される場合でも印加されない場合でも透明の状態(例えば、少なくとも調光装置1を介して反対側を透かして視認することが可能な程度の透明の状態)が維持されるものとなっている。
【0019】
第1偏光素子13a及び第2偏光素子13bは、それぞれ第1透明基板10a及び第2透明基板10bの外側面に配設されており、この偏光方向は90度異なるように配設されている。例えば、第1偏光素子13aは第1偏光の光を透過させ、第2偏光素子13bは第1偏光とは異なる(例えば90度異なる)方向の第2偏光の光を透過させるような機能を有する。すなわち、太陽光や照明光のようなランダムな偏光の入射光Xが
図1に示すように調光装置1に入射された場合、第1偏光素子13aにより第1偏光の光のみが第1透明基板10a及び第1透明電極11aを透過して液晶層12に入射される。液晶層12を出射した光は、第2透明電極11b及び第2透明基板10bを透過し、第2偏光の光のみが第2偏光素子13bを透過して出射光Yとして出射される。
【0020】
なお、第1偏光素子13a及び第2偏光素子13bは、例えば、偏光板(反射型、円又は楕円偏光板を含む)、配向膜、偏光フィルター、これらと位相差板等の光学補償フィルムとの組み合わせ、遮熱フィルム他光学フィルムとの組み合わせなどで構成するようにしてもよい。また、偏光板付きのディスプレイを用いた場合は、第1偏光素子13a又は第2偏光素子13bのいずれか一方を備える構成としてもよい。
【0021】
また、第1透明基板10a及び第2透明基板10bは、例えば、ガラス、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)など、リタデーションが小さいフィルムで構成されることが望ましい。
【0022】
図2は、本実施形態に係る調光装置の作用を説明する図である。
図2(A)は電圧を印加しないOFF状態の場合の作用を示し、
図2(B)は電圧を印加したON状態の場合の作用を示している。
図2(A)において、例えばランダムな偏光の入射光Xが入射されるとする。入射光Xは、第1偏光素子13aを透過することで、一の偏光(ここでは、第1偏光とする)の成分の光になる。このとき、入射光Xのうち第1偏光の成分である略50%が第1偏光素子13aを透過する。なお、
図2において、実線の両方向矢印は偏光方向を概念的に表したものであり、一点鎖線の矢印は光の進行方向を概念的に表したものである。つまり、
図2(A)において、第1偏光素子13aを透過した入射光Xは、略50%の第1偏光の光となり、光の進行方向はそのまま直進である。
【0023】
第1偏光素子13aを透過した光は、液晶層12を透過する際にランダムに配向している液晶分子21の光学異方性により、散乱や屈折などが起こってランダムな偏光になるが、上述したように液晶層12のヘイズ値は例えば20%以下と低くなっているため、当該液晶層12において拡散する光は抑えられる。すなわち、液晶層12を透過する光の偏光方向は乱れてランダムになるものの、進行方向は直進性が維持されやすくなっている。そして、液晶層12から出射された光のうち他の偏光(ここでは、第2偏光とし、第2偏光素子13bが第2偏光を透過する偏光素子であるとする)の成分のみが第2偏光素子13bを透過し、出射光Yとして出射される。液晶層12から出射された光は、上述したように拡散が抑えられているため、直進性が高く調光装置1は透明状態となる。このとき、出射光Yは、液晶層12から出射された光のうちの略50%(液晶層12で均等に拡散した場合)の成分の光となる。
【0024】
図2(B)において、例えばランダムな偏光の入射光Xが入射されるとする。入射光Xは、第1偏光素子13aを透過することで、一の偏光(第1偏光)の成分の光になる。このとき、入射光Xのうち第1偏光の成分である略50%が第1偏光素子13aを透過する。液晶層12では、液晶分子21の配向が揃っているため、透過する光の偏光方向を維持しながら直進する。そして、液晶層12から出射された第1偏光の光は、第2偏光のみを透過する第2偏光素子13bで遮蔽されるため、調光装置1は黒色状態となる。
【0025】
このように、本実施形態に係る調光装置1においては、液晶層12におけるヘイズ値が、第1透明電極11a及び第2透明電極11b間に電圧が印加されている場合、及び、印加されていない場合のいずれの場合においても低くなるような構成となっているため、第1透明基板10a及び第2透明基板10bの外側面に、互いに異なる偏光方向となるように第1偏光素子13a及び第2偏光素子13bを備えることで、透明状態と黒色状態(遮光状態)とを実現することが可能となる。
【0026】
ここで、液晶層12におけるヘイズ値を低くする手法について具体的に説明する。液晶層12のヘイズ値を低くする手法の具体例として、例えば光学異方性(Δn)が小さい液晶分子21を用いることが挙げられる。
図3は、光学異方性が大きい場合と小さい場合の液晶分子の配向状態を示す模式図である。
図3(A)は、一般的に知られている典型的なPDLCに用いられるΔnが大きい液晶分子21を示し、
図3(B)は、本実施形態に適用されるΔnが小さい液晶分子21を示している。
図3(A)において、左が液晶分子21の配向が揃った場合(電圧が印加された場合)を示し、右が液晶分子の配向が揃っていない(電圧が印加されていない場合)を示している。
図3(A)から明らかなように、Δnが大きいため、配向が揃っている場合は光が直進性を維持して透過するが、配向が揃っていない場合は光が散乱、屈折を繰り返すことで拡散する状態となる。すなわち、従来から一般的に実用化されているPDLCの液晶層は、電圧が印加されない状態でより白く白濁させるために、このようなΔnが大きい液晶分子21を用いて構成されている。
【0027】
これに対して、
図3(B)は、本実施形態に係る調光装置1に適用可能な液晶分子21の構成を示している。
図3(B)においても、左が液晶分子21の配向が揃った場合(電圧が印加された場合)を示し、右が液晶分子の配向が揃っていない(電圧が印加されていない場合)を示している。
図3(B)から明らかなように、Δnが小さいため、配向が揃っている場合も配向が揃っていない場合も光の拡散が抑えられ、直進性を維持して透過する。つまり、光学異方性Δnが小さい液晶分子21を用いることで、液晶層12のヘイズ値が低くなり、
図2に示したような作用を実現することが可能となる。
【0028】
液晶層12のヘイズ値を低くする手法の他の具体例として、液晶分子21のドメイン20のサイズを調整することが挙げられる。
図4は、可視光において液晶分子のドメインサイズとヘイズとの関係を示す図である。一般的に実用化されている従来のPDLCの場合は、電圧が印加されていない場合において、白濁の度合いをできるだけ濃くする(すなわち、ヘイズを大きくする)ことが重要となっている。つまり、
図4におけるグラフのピーク付近に該当するようなドメインサイズとなるように調整されている。
【0029】
一方で、本実施形態に係る調光装置1においては、電圧が印加されていない状態でもできるだけ透明状態とする(すなわち、ヘイズを小さくする)ことが重要となっている。そのため、本実施形態に適用するドメイン20のサイズを、
図4のグラフの斜線に示すように、液晶層12に電圧が印加されない場合に白濁状態が維持される基準となるヘイズ値Hに対応するドメインサイズの最小値Dminより小さくするか、又は、ドメインサイズの最大値Dmaxより大きくする。つまり、電圧が印加されない状態でもヘイズ値が小さくなるため、
図2に示したような作用を実現することが可能となる。
【0030】
なお、上記のいずれの場合においても、第1透明電極11a及び第2透明電極11b間に電圧を印加した場合は、液晶層12が透明状態になることを前提としている。
【0031】
このように、本実施形態に係る調光装置1においては、対向して配設される一対の第1透明基板10a及び第2透明基板10bと、第1透明基板10a及び第2透明基板10bの対向面である内側面にそれぞれ付設される一対の第1透明電極11a及び第2透明電極11bと、第1透明電極11a及び第2透明電極11bが対向している対向空間に形成され、高分子30及び液晶分子21を含む液晶層12と、第1透明電極11a及び第2透明電極11b間に印加する電圧に応じて、液晶層12を一の状態(透明状態)又は当該一の状態とは異なる他の状態(黒色状態、遮光状態)に切り替える電圧印加部14と、第1透明基板10a及び第2透明基板10bの外側面に、互いに異なる偏光方向となるように対向して配設される一対の第1偏光素子13a及び第2偏光素子13bとを備え、液晶層12は、一の状態及び他の状態において低ヘイズ値が維持されるため、制御部15による電圧印加部14の制御に応じて、調光装置1を透明状態と黒色状態(遮光状態)とに切り替えることができる。
【0032】
また、液晶層12には高分子が混在していることから、液だれなどを生じることがなく、大型化、フィルム化を容易に実現することが可能になる。さらに、応答性能、遮蔽性能、耐候性能などがいずれも高いものとなるため、非常に高性能な調光装置を実現することができる。
【0033】
また、液晶層12に含まれる液晶分子が、光学異方性が小さい液晶分子とするか、又は、液晶層12における液晶分子21のドメインサイズが、液晶層12が白濁状態を維持するためのドメインサイズの最小値Dminより小さいか、もしくは、液晶層12が白濁状態を維持するためのドメインサイズの最大値Dmaxより大きくすることで、液晶層12を低ヘイズ値にすることができ、調光装置1を透明状態と黒色状態(遮光状態)とに切り替えることができる。
【0034】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る調光装置について、
図5及び
図6を用いて説明する。本実施形態に係る調光装置1は、第1の実施形態に係る調光装置1と同様に透明状態と黒色状態(遮光状態)とを切り替える機能を実現するが、液晶層12の構造が異なるものとなっている。なお、本実施形態において第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0035】
本実施形態に係る調光装置1の液晶層12は、高分子30と液晶分子21とを含む構造となっているが、液晶分子21がカイラル構造を有することでコレステリック効果により液晶層12を透過する光の偏光方向を回転させる。このとき、高分子30は液晶性モノマーを材料として形成される。つまり、液晶分子21がカイラル剤によりカイラル構造を有すると共に、液晶性モノマーが液晶分子21の光学異方性の方向に沿った状態に形成され、この液晶性モノマーを重合処理して高分子30が形成されている。
【0036】
図5は、本実施形態に係る調光装置における液晶層の構造のイメージを表す模式図である。
図5に示すように、液晶分子21はカイラル剤によりカイラル構造を形成しており、液晶性モノマーは、
図5の一点鎖線で示すように、マクロ的に見ると分子同士が繋がって繊維のように形成されている。
図5に示す調光装置1では、配向膜を有する構成ではないため、点線領域に示すように第1透明電極11a及び第2透明電極11bの表面における面内(電極面を水平方向とした場合の水平面内)の液晶分子21の配向状態は揃っていない。しかしながら、液晶分子21の近傍をミクロ的に見ると、液晶性モノマーの光学異方性も液晶分子21の光学異方性も水平方向(上記に示したように電極面を水平方向とする)に揃った状態となっている。つまり、液晶層12を透過する光は屈折や散乱が発生しにくくなっており、光は直進的に進む。
【0037】
また、液晶層12を透過する光は、液晶分子21のカイラル構造により偏光方向が回転する構造となっている。
図5の一点鎖線で示す液晶性モノマーは、紫外線や熱などの重合処理により硬化されて高分子30を形成し、第1透明電極11a及び第2透明電極11b間に電圧を印加した場合には、液晶分子21の配向のみが変化することとなる。
【0038】
なお、カイラル構造の捻れ具合は、第1偏光素子13a及び第2偏光素子13bのそれぞれの偏光方向のずれに合致するのが望ましく、カイラル剤の混合量である程度調整されるようにしてもよい。例えば、第1偏光素子13a及び第2偏光素子13bの偏光方向が90度ずれて配置されている場合は、捻れ回転数+90度のカイラル構造となるように調整されるのが望ましい。
【0039】
上述したように、
図5に示すような液晶層12の構造においては、液晶分子21近傍において、当該液晶分子21と高分子30とが同じ水平方向を向いた状態となっているため、屈折や散乱が発生しにくく光の直進性が維持される。すなわち、一般的に知られている典型的なPDLCの場合は、屈折率が一様な高分子の中に異方性を有する液晶分子が混合されているため、液晶分子が屈折率の差が大きい方向に配向した場合に、屈折や散乱が強く出て白濁する。これに対して、本実施形態に係る液晶層12の場合は、上述したように液晶分子21と高分子30とが同じ方向に配向した状態となっているため、どの方向から見ても屈折率差が小さく、屈折や散乱が発生しないため、透過する光の直進性が維持され透明状態を実現する。
【0040】
図6は、本実施形態に係る調光装置の作用を説明する図である。
図6(A)は電圧を印加しないOFF状態の場合の作用を示し、
図6(B)は電圧を印加したON状態の場合の作用を示している。
図6(A)において、例えばランダムな偏光の入射光Xが入射されるとする。入射光Xは、第1偏光素子13aを透過することで、一の偏光(ここでは、第1偏光とする)の成分の光になる。このとき、入射光Xのうち第1偏光の成分である略50%が第1偏光素子13aを透過する。第1偏光素子13aを透過した光は、液晶層12を透過する際に、上述したように直進性を維持しつつ(屈折や拡散をする光を抑えつつ)、偏光方向が液晶分子21のカイラル構造により所定角度(ここでは、捻れ回転数+略90度)回転して他の偏光(ここでは、第2偏光とする)の成分の光になる。そして、液晶層12から出射された第2偏光の成分の光が、そのまま第2偏光素子13b(第1偏光素子13aと偏光方向が90度ずれた状態で設置されているとする)を透過して出射光Yとして出射される。液晶層12から出射された光は、直進性が高く調光装置1は透明状態となる。
【0041】
つまり、
図2の場合には、液晶層12に入射した光が屈折や拡散などを繰り返してランダムな偏光になり、最終的に第2偏光素子13bを透過する出射光Yは、液晶層12から出射された光の略50%(液晶層12で均等に拡散した場合)の成分に低減されるが、本実施形態の場合は、液晶層12において偏光方向が捻れ回転数+90度回転することで、その多くの成分が第2偏光素子13bを透過することが可能となっている。
【0042】
図6(B)において、例えばランダムな偏光の入射光Xが入射されるとする。入射光Xは、第1偏光素子13aを透過することで、一の偏光(第1偏光)の成分の光になる。このとき、入射光Xのうち第1偏光の成分である略50%が第1偏光素子13aを透過する。液晶層12では、液晶分子21の螺旋構造が引き延ばされるように配向が揃うため、透過する光の偏光方向を維持しながら直進する。すなわち、第1偏光の光がそのまま透過して出射される。そして、液晶層12から出射された第1偏光の光は、第2偏光のみを透過する第2偏光素子13bで遮光されるため、調光装置1は黒色状態となる。
【0043】
ここで、上述したカイラル構造の最適化について説明する。カイラル構造を形成する場合は、調光装置1の色づきを抑えるために2つの制約条件を満たすことが望ましい。第1条件は、
図7(A)に示すような螺旋のピッチpμm(波長)に応じた選択反射現象(特定の波長のみ反射する現象)において、可視光の波長を避けることである。仮に、選択反射の波長が可視光になると、調光装置1が色づいてしまうこととなる。すなわち、λ=np>0.78μm(nは液晶分子21の平均屈折率(常光屈折率noと異常光屈折率neとの平均値))で示されるように、λが可視光(約380nm~770nm程度)よりも長波長となるようなpに設定する第1条件を満たすことが望ましい。
【0044】
また、第2の条件は、
図7(B)に示すような液晶層12の厚さdμmを上記のピッチpとの関係で、第1偏光素子13a及び第2偏光素子13bを通した場合の色づきがなくなるように最適値とするのが望ましい。
【0045】
上記第1の条件及び第2の条件を踏まえて、本実施形態における最適なd/pの値を実験により求めた。
図8は、実験結果を示す図である。
図8において、液晶層20を直交する偏光板で挟み、下からライトを当てて撮像している。
図8(A)は、屈折率差Δn=0.166の液晶分子21を用い、d/pを0.5~17の間で可変させた場合の液晶層20の色づき具合を示す結果であり、
図8(B)は、屈折率差Δn=0.097の液晶分子21を用い、d/pを1~13の間で可変させた場合の液晶層20の色づき具合を示す結果である。
【0046】
図8(A)及び
図8(B)に示すように、d/pが小さくなるほど直交偏光板下で長い波長(赤系)成分の透過が優勢となり、次第にd/pを大きくすることで赤系成分の優勢は解消され、いずれ短い波長(青系)成分の透過が優勢となることが明確である。なお、図面の都合上、実験結果をグレースケールで示しているが、実際には
図8に記載している通り
図8(A)及び
図8(B)のいずれにおいても、上段側にある結果については赤~黄色を呈しており、下段側にある結果については白~薄い水色を呈している。これらの結果から、
図8(A)においては、d/pが6~15程度の場合に適当な色づきとなり、
図8(B)においては、d/pが4~13程度の場合に適当な色づきとなった。つまり、本実施形態に係る調光装置においては、d/pが4~15程度となるようにピッチp及び液晶層12の厚さdが設定されることで、色づきがなくなる(白に近くなる)ことがわかった。このことから、まず液晶分子21を特定することでΔnが決定し、それに伴いピッチpの下限値が決まる。ピッチpが決まると、色づきが最適となるような液晶層20の厚さdの範囲が決まるため、その範囲内となる厚さdを特定することができる。
【0047】
なお、
図5に示す液晶層12の構造に、さらに非液晶性モノマーを添加する構造としてもよい。
図9は、
図5に示す液晶層に非液晶性モノマーが混在する状態のイメージを表す模式図である。
図9に示すように、カイラル構造を維持できる範囲で非液晶性モノマーを添加することにより、第1透明電極11a及び第2透明電極11b間の接着力強化や、電圧印加部14による駆動電圧の低電圧化が可能となる。
【0048】
このように、本実施形態に係る調光装置においては、電圧を印加しない状態において、液晶層12を透過する光の偏光方向が回転するため、液晶層12を出射する光が第2偏光素子13bを透過可能となり、透過率を上げることができる。
【0049】
また、高分子30が、螺旋構造に配置された液晶分子21の光学異方性の方向に沿った状態に形成された液晶性モノマーを重合したものであるため、液晶層12を透過する光が、電圧を印加しない状態で直進性が維持され、且つ、偏光方向を回転して第2偏光素子13bを透過させることが可能となるため、透明度を高くしつつ、多くの光を透過することができる。
【0050】
さらに、電圧印加部14が、第1透明電極11a及び第2透明電極11b間に電圧を印加した場合に、液晶分子21の配向性が揃い、液晶層12を透過する光の偏光方向が維持され、第1透明電極11a及び第2透明電極11b間に電圧を印加しない場合に、液晶分子21の螺旋構造により、液晶層12を透過する光の偏光方向が螺旋構造に応じて回転するため、電圧を印加した場合は透明度及び透過率が高い状態を実現することができると共に、電圧を印加しない場合は黒色(遮光)状態を確実に実現することができる。
【0051】
さらにまた、配向膜を不要とすることで構造を簡素化することができる。また、PDLCによる散乱がない状態を実現することで透明状態と黒色状態とを切り替え可能にすると共に、第1偏光素子13a及び第2偏光素子13bの特徴を活かした高い遮蔽性とコントラストを実現することができる。
【0052】
さらにまた、液晶分子21の螺旋構造における選択反射現象が、可視光の波長を避けるように液晶分子21の螺旋構造のピッチp(μm)が設定され、当該ピッチp(μm)と液晶層20の厚さdμmとの関係が、4≦(d/p)≦15であるため、液晶装置1の透明状態において色づけがなされることを防止し、高品質な透明状態を実現することができる。
【符号の説明】
【0053】
X 入射光
Y 出射光
1 調光装置
10a 第1透明基板
10b 第2透明基板
11a 第1透明電極
11b 第2透明電極
12 液晶層
13a 第1偏光素子
13b 第2偏光素子
14 電圧印加部
15 制御部
20 ドメイン
21 液晶分子
30 高分子
【要約】
【課題】液晶層におけるヘイズ値及び透過光の偏光面を調整することで、高性能に遮光状態と透明状態との切り替えを実現することができる調光装置を提供する。
【解決手段】対向して配設される一対の第1透明基板10a及び第2透明基板10bと、各透明基板10a,10bの対向面である内側面にそれぞれ付設される一対の第1透明電極11a及び第2透明電極11bと、各透明電極11a,11bが対向している対向空間に形成され、高分子30及び液晶分子21を含む液晶層12と、各透明電極11a,11b間に印加する電圧に応じて、液晶層12を一の状態又は他の状態に切り替える電圧印加部14と、各透明基板10a,10bの外側面に、互いに異なる偏光方向となるように対向して配設される一対の第1偏光素子13a及び第2偏光素子13bとを備え、液晶層12は、一の状態及び他の状態において低ヘイズ値が維持される。
【選択図】
図1