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特許7590748二次電池の負極用新規高分子バインダー組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】二次電池の負極用新規高分子バインダー組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20241120BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241120BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20241120BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241120BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241120BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/36 E
H01M10/052
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020083527
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2021180083
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-05-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「特殊機能高分子バインダー/添加剤を用いたリチウムイオン2次電池用高性能電極系の創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松見 紀佳
(72)【発明者】
【氏名】バダム ラージャシェーカル
(72)【発明者】
【氏名】グプタ アグマン
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-045517(JP,A)
【文献】特開2020-027746(JP,A)
【文献】特表2018-538675(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150311(WO,A1)
【文献】特開2020-021656(JP,A)
【文献】Kwon Tae-woo, et.al,The emerging era of supramolecular polymeric binders in silicon anodes,Chemical Society Review ,英国,2018年02月07日,47,2145
【文献】Sai Gourang Patnaik, Raman Vedarajan and Noriyoshi Matsumi,BIAN based functional diimine polymer binder for high performance Li ion batteries,Journal of Materials Chemistry A,The Royal Society of Chemistry,2017年08月11日,5,17909-17919
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/1395
H01M 4/134
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物と、ポリアクリル酸又はフィチン酸のいずれか、グラファイト又は還元型酸化グラフェンのいずれかと、シリコンとを含む二次電池の負極用高分子バインダー組成物。
【化1】
上記式(I)中、R1及びR2は、水素原子、炭素数1~の飽和炭化水素鎖からなる群から選ばれるいずれかの置換基であり、nは17の整数を表す。
【請求項2】
前記式(I)で表される化合物は、下記式(II)で表される化合物からなる群から選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池の負極用高分子バインダー組成物。
【化2】
上記式中、R1及びR2は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、nは17の整数を表す。
【請求項3】
前記式(I)又は(II)で表される化合物は、下記式(III)~(VII)で表される化合物からなる群から選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の二次電池の負極用高分子バインダー組成物。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
上記式(III)~(VII)で表される化合物中、nは17の整数を表す。
【請求項4】
前記ポリアクリル酸は、3,000~500,000の数平均分子量を有することを特徴とする、請求項1に記載の二次電池の負極用高分子バインダー組成物。
【請求項5】
前記式(I)~(VII)のいずれかで表される化合物の数平均分子量は、3,500~4,500であることを特徴とする、請求項に記載の二次電池の負極用高分子バインダー組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の二次電池の負極用高分子バインダー組成物と、負極活物質と、導電材とを溶媒中で分散混合させてスラリーを調製し、前記スラリーを集電体上に塗工し、乾燥させて作製した二次電池用負極。
【請求項7】
前記二次電池用負極は、20~45重量%の負極活物質であるシリコンと、10~20重量%の導電材であるアセチレンブラックと、10~35重量%のグラファイト又は還元型酸化グラフェンとを含み、さらにバインダー材を含むシリコン負極であることを特徴とする、請求項に記載の二次電池用負極。
【請求項8】
前記シリコン負極は、上記式(III)~(VII)で表される高分子化π-共役系高分子、及びポリアクリル酸をさらに含むことを特徴とする、請求項に記載の二次電池用負極。
【請求項9】
前記シリコン負極は、グラファイト又は還元型酸化グラフェン:シリコン:アセチレンブラック:上記高分子化π-共役系高分子:ポリアクリル酸=28~32:23~27:18~22:18~22:1~9(重量%)を含むことを特徴とする、請求項に記載の二次電池用負極。
【請求項10】
前記請求項1~のいずれかに記載の二次電池の負極用高分子バインダー組成物を含むスラリーを調製し、前記スラリーで負極中に形成された自己修復性マトリックス。
【請求項11】
前記自己修復性マトリックスは、下記式(IX)で表される水素結合を有する化合物であることを特徴とする、請求項10に記載の自己修復性マトリックス。
【化8】
【請求項12】
請求項6~9のいずれかに記載の負極を備える二次電池。
【請求項13】
前記二次電池は、負極中に二次電池の負極用高分子バインダー組成物を備えることを特徴とする、請求項12に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の負極用新規高分子バインダー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の化学反応により電気を作る化学電池は、使い切りタイプの一次電池、充放電を繰り返すことができる二次電池、及び燃料電池に大別される、これらのうち、充放電を繰り返すことができる二次電池は、モバイル機器をはじめ、非常用の蓄電池など、種々の用途に用いられている。ここで、二次電池は、蓄電池又は充電池と呼ばれることがある。
【0003】
従来は、ニッケル・カドミウム二次電池が長く使用されてきたが、小型、軽量でハイパワーなニッケル・リチウム二次電池(以下、「リチウムイオン電池」ということがある。)が開発され、携帯電話、ノートパソコン等の電源の主流となった。ニッケルイオン電池では、正極材として「コバルト酸リチウム」と、負極材として黒鉛を、そして電解液としては有機系ものが一般的に使用される。ニッケルコバルト酸リチウムの中に含まれるリチウムイオン(正イオン)の移動によって放充電を実現する。
リチウムイオン電池は、電圧とエネルギー密度とが高く、メモリー効果が発生しないことに加え、コンパクトなパッケージングが可能である等、優れた点が多いことから、現在汎用される二次電池としては主流の座を占めている。
【0004】
二次電池を構成する部材の中でも、正極、負極、及び電解質等の部材は常に脚光を浴び、活発な基礎研究が展開されてきた。その一方、リチウムイオン二次電池用バインダー(図1)としては、長きにわたってポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」と略すことがある。)が広範に用いられてきたが、新規バインダーに関しては、近年、論文数こそ増加しているものの、十分に検討されているとはいえない状態である。
また、次世代リチウムイオン電池用高容量シリコン系負極用の架橋型ポリアクリル酸バインダーが知られている(Organic Square 55, 2016)。
【0005】
また、従来の商用のリチウムイオンニ次電池用負極の活物質としてはグラファイトが多年にわたり用いられてきたが、放電容量は高くても300mAhg-1程度にとどまっていた。一方で、シリコンの理論容量は、現在負極活物質として主に使われている黒鉛の約10倍(4200 mAhg-1)と大きいことが知られており、黒鉛負極をシリコン負極に置き換えることが期待されている。こうした技術として、ポリアクリル酸等のバインダーを活用した技術が提案されている(非特許文献1参照。以下、「従来技術1」という。)。
【0006】
さらに、リチウムイオン電池においては、バインダーが「電極活物質を接着する」役割を担うことが知られている。負極では、バインダーは、炭素材料その他の活物質と集電体である銅箔その他の金属箔とを結合させている。こうしたバインダーとして、フッ化ビニリデン樹脂が長く使用されてきた。負極表面上の被膜(Solid Electrolyte Interphase、以下、「SEI」ということがある)の形成においては、バインダーが重要な役割を有することが知られており、シリコン負極用バインダーとして、共役系高分子を利用することも報告されている(非特許文献2参照。以下、「従来技術2」という。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Review article: DOI: 10.1039/c7cs00858a
【文献】S. G Pa111aik, R. Vedarajan, N. Matswni, J. Mater. Chem. A, 5, 17909-17919 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術1は、シリコン負極のリチウム化及び脱リチウム化の際の容積変化(300%)に起因する従来のバインダー(PVDF等)の欠点を改善するための候補となるポリマーバインダーの化学構造等を詳細に紹介したものである。しかし、シリコンを負極材料として使用する場合に問題とされていた、下記の点に関しては解が提供されていない。
【0009】
第1の問題は、純粋なシリコンは導電性が低く、電池材料としては使えないことである。このため、一酸化ケイ素もしくは二酸化ケイ素、又はシリコンに導電性を与えるためにドーピングを行い、不純物半導体(nまたはp型)にした材料とすることも提案されている。シリコンの導電性の低さを補うために、主にカーボン系材料が導電助剤として使用されている。
【0010】
電池体積は規格で定められているため、導電助剤の増量は活物質の減量に直結し、電池容量の低下を招く。この問題を回避するためには、導電助剤をすべてのシリコン粒子に付着させるとともに、導電助剤同士の距離を極力小さくして接触する構造を構築しなければならないという問題がある。現在のところ、安定的に高容量な充放電サイクルを産業的に供する系は見いだされておらず、産業的にはグラファイトに10-20wt%のシリコンを添加して、400-500mAhg-lを実現する段階にとどまっている。
【0011】
従来技術2は、従来のPVDFバインダーを含む電極と比べて、出力における電気化学的性能、サイクリング挙動及びspecific capacityが有意に向上したビスイミノアセナフテンキノン(BIAN)-フルオレンポリマーをバインダーとして提供したという点では優れた発明である。しかし、シリコン電極の上記のような体積変化によって生じる問題を解決するためには、さらに改善の余地があった。
第2の問題は、リチウムイオンの挿入・脱離が、シリコン粒子を膨張・収縮させるため、電極の体積を変動させるということである。電極の体積の変動は、黒鉛系負極を使用した場合でも生じるが、シリコン系負極を使用した場合には変動の度合いが大きく、充放電を繰り返すことによって、シリコン粒子が破砕され、負極の導電ネットワークが寸断される、又は集電体から負極が剥離するといった問題がある。
【0012】
こうした問題を解決するために、新たなバインダー材料が求められている。そして、その設計に際しては、電極活物質との混和性がよく、集電体へのフィルム形成能が高く、接着性が高いフィルムを形成することができ、電極活物質との界面抵抗が低く、電気化学的に安定であり、良好な固体電解質界面(SEI)の形成を補助できること、といった種々の性質を有することを検討する必要がある。
【0013】
したがって、安定的に高容量な充放電サイクルを産業的に供する系を実現すること、及びのために必要とされる上記のような性質を有する新たなバインダー材料に対する高い社会的要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の発明者等は、以上のような状況の下で鋭意研究を重ね、新たなバインダー材料としてビスイミノアセナフテキノン(以下、「BIAN」と略すことがある。)構造を有するπ-共役系高分子を合成し、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明の一の態様は、下記式(I)で表される化合物と、ポリアクリル酸又はフィチン酸、グラファイト又は還元型酸化グラフェンのいずれかと、シリコンとを含む二次電池の負極用高分子バインダー組成物である。
【0015】
【化1】
【0016】
ここで、上記式(I)中、R1及びR2は、水素原子、炭素数1~の飽和炭化水素鎖からなる群から選ばれるいずれかの置換基であり、nは17の整数を表す。
【0017】
前記式(I)で表される化合物は、下記式(II)で表される化合物からなる群から選ばれるいずれかの化合物であることが好ましい。
【0018】
【化2】
【0019】
上記式中、R1及びR2は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、nは17の整数を表す。
【0020】
ここで、前記式(I)又は(II)で表される化合物は、下記式(III)~(VII)で表される化合物からなる群から選ばれるいずれかの化合物であることが好ましく、下記式(III) ~(VII)で表される化合物中、nは17の整数を表す。
【0021】
【化3】
【0022】
【化4】
【0023】
【化5】
【0024】
【化6】
【0025】
【化7】
【0027】
また、前記ポリ酸は、ポリアクリル酸又はフィチン酸であることが好ましく、前記ポリアクリル酸は、3,000~500,000の数平均分子量を有する化合物であることが好ましい。前記式(I) ~(VII)のいずれかで表される化合物は、ビスイミノアセナフテキノン骨格を有するジハライド化合物とジエチニルフルオレン誘導体との重合体であることが好ましい。また、これらの化合物の数平均分子量は、3,500~4,500であることが好ましい。
【0028】
本発明の別の態様は、上述した二次電池の負極用高分子バインダー組成物と、負極活物質と、導電材とを溶媒中で分散混合させてスラリーを調製し、前記スラリーを集電体上に塗工し、乾燥させて作製した二次電池用負極である。
【0029】
ここで、前記二次電池用負極は、20~45重量%の負極活物質であるシリコンと、10~20重量%の導電材であるアセチレンブラックと、10~35重量%のグラファイト又は還元型酸化グラフェンとを含むシリコン負極であることが好ましい。
【0030】
前記シリコン負極は、上記高分子化π-共役系高分子、及びポリアクリル酸をさらに含むことが好ましく、グラファイト:シリコン:アセチレンブラック:上記高分子化π-共役系高分子:ポリアクリル酸=28~32:23~27:18~22:18~22:1~9(重量%)を含むことが好ましい。
【0031】
本発明のさらに別の態様は、上述した二次電池の負極用高分子バインダー組成物を含むスラリーを調製し、前記スラリーで負極中に形成された自己修復性マトリックスである。ここで、前記自己修復性マトリックスは、下記式(IX)で表される水素結合を有する化合物であることが好ましい。本明細書中において「自己修復性」とは、力学的に生じた構造的損傷を水と結合ネットワークの再形成により修復できることと定義する。
【0032】
【化9】
【0033】
本発明のさらに別の態様は、上述した負極を備える二次電池である。ここで、前記二次電池は、負極中に二次電池の負極用高分子バインダー組成物を備えるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明のバインダー組成物によれば、上記バインダー組成物に含まれるビスイミノアセナフテキノン(BIAN)構造を有するπ-共役系高分子が、バインダーとして求められるグラファイトとの相互作用、NMPへの溶解性、上記集電体との相互作用等の面で、従来のバインダーよりも格別に有利な効果を発揮する。
【0035】
また、本発明のバインダー組成物を使用することにより、負極を保護するための自己修復性マトリックスが提供される。このマトリックスは、シリコン電極の体積変動によって破断した導電ネットワークの自己修復を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、バインダーとしての水素結合ポリマーであるポリ(BIAN)-ポリ(アクリル酸)の三次元構造(A)、及び前記ポリマーの成分であるポリ(BIAN)(B)及びポリアクリル酸(以下、「PAA」と略すことがある。)(C)の構造を示す図である。
図2図2は、金属電極としての4つの可能性を示す模式図である。(I)Li金属での表面プレーティング、(II)Liの過飽和、(III)平衡アロイ形成、(IV)Li-金属アロイの固体状態アモルファス化という態様での電気化学的リチウム化を示す。
図3図3は、BP-コポリマー(上記化学式(III)で表される化合物)/PAAバインダーを有する実行セル(performing cells)のCV及びEISプロファイルを示すグラフ(ナイキストプロット)である。
【0037】
図4図4は、バインダーとしてBP-コポリマー/PAAを含むアノードハーフセルのCVプロファイルを示すグラフである。
図5図5は、バインダーとしてポリ(BIAN)-PAAを有するグラファイト-シリコンコンポジット(セル1)の放電量を示すグラフである。(A)は通常の放電容量、(B)は活性なアノード物質中のケイ素含有量に基づいて計算した放電容量である。
図6図6は、セル1のときに、バインダーとしてPAAのみを使用した場合、及びBIAN-PAAバインダーを使用した場合のプロファイルの比較結果1を示すグラフである。(A)は通常の放電容量、(B)は活性なアノード物質中のケイ素含有量に基づいて計算した放電容量である。
【0038】
図7図7は、サイクリング前((A1)~(A3))及び335サイクリング後((B1)~(B3))の負極電極の表面を示す電子顕微鏡像(その1)である。
図8図8は、サイクリング前((A1)~(A3))及び335サイクリング後((B1)~(B3))の負極電極の表面を示す電子顕微鏡像(その2)である。
図9図9は、バインダーとしてポリ(BIAN)-PAAを有するグラファイト-シリコンコンポジット(セル2)の放電量を示すグラフ(その1)である。(A)は通常の放電容量、(B)は活性なアノード物質中のケイ素含有量に基づいて計算した放電容量である。
【0039】
図10図10は、バインダーとしてポリ(BIAN)-PAAを有するグラファイト-シリコンコンポジットを含む電極(セル2)の放電量(その2)である。(A)は通常の放電容量、(B)は活性なアノード物質中のケイ素含有量に基づいて計算した放電容量である。
図11図11は、ポジション1のときのサイクリング前((A1)~(A3))及び320サイクリング後((B1)~(B3))の負極電極の表面を示す電子顕微鏡像(その1)である。
図12図12は、ポジション1のときのサイクリング前((A1)~(A3))及び320サイクリング後((B1)~(B3))の負極電極の表面を示す電子顕微鏡像(その2)である。
【0040】
図13図13は、BP-コポリマー及びGSiBP_PAAのスラリーを銅箔上に塗工した後の電極物質のFT-IRのクロマトグラム(その1)である。
図14図14は、BP-コポリマー及びGSiBP_PAAのスラリーを銅箔上に塗工した後の電極物質のFT-IRのクロマトグラム(その2)である。
図15図15は、ファブリケーション後のアノードハーフセルのEISプロファイル及びCVを示すグラフである。
図16図16は、BP-コポリマー/PAAをバインダーとして含むアノードハーフセルのCVプロファイルである。
【0041】
図17図17は、ポリ(BIAN)-PAAをバインダーとして含むrGO-シリコンコンポジット電極の放電量を示すグラフである。(A)は通常の放電容量、(B)は活性なアノード物質中のケイ素含有量に基づいて計算した放電容量である。
図18図18は、rGO-Si系システム中におけるPAAのみのバインダーとBIAN-PAAバインダーのプロファイルを示すグラフである。(A)は通常の放電容量、(B)は活性なアノード物質中のケイ素含有量に基づいて計算した放電容量である。
【0042】
図19図19は、ファブリケーション後のアノードハーフセルのEIS プロファイル及びCVのプロファイルを示す図である。
【0043】
図20図20は、BP-コポリマー/PAAバインダーを含むアノードハーフセルのCVプロファイルを示す図である。
図21図21は、BIAN-PAA及びフィチン酸をバインダーとして含むグラファイト-シリコン電極の放電量を示すグラフである。(A)は通常の放電容量、(B)は活性なアノード物質中のケイ素含有量に基づいて計算した放電容量である。
図22図22は、フィチン酸系システムの場合のPAAのみのバインダー及びBIAN-PAAバインダーのプロファイルの比較結果を示すグラフである。(A)は通常の放電容量、(B)は活性なアノード物質中のケイ素含有量に基づいて計算した放電容量である。
【0044】
図23図23は、バインダーとしてBIAN-PAAを含有する高シリコン含量セルの性能を評価した結果をしたグラフである。(A)は通常の放電容量、(B)は活性なアノード物質中のケイ素含有量に基づいて計算した放電容量である。
図24図24は、バインダーとしてBIAN-PAAを含有するシリコンのみ含有セル(グラファイト不含)の性能を評価した結果を示すグラフである。(A)は通常の放電容量、(B)は活性なアノード物質中のケイ素含有量に基づいて計算した放電容量である。
図25図25は、低BIAN-PAAバインダー含量(15 wt %)セルの性能を評価した結果を示すグラフである。(A)は通常の放電容量、(B)は活性なアノード物質中のケイ素含有量に基づいて計算した放電容量である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、下記式(I)で表される化合物と、ポリアクリル酸又はフィチン酸、グラファイト又は還元型酸化グラフェンのいずれかと、シリコンとを含む二次電池の負極用高分子バインダー組成物である。
【0046】
【化10】
【0047】
上記式(I)中、R1及びR2は、水素原子、炭素数1~の飽和炭化水素鎖からなる群から選ばれるいずれかの置換基であり、nは17の整数を表す。
前記式(I)で表される化合物は、下記式(II)で表される化合物からなる群から選ばれるいずれかの化合物であることが、負極を作製したときに、高い性能を有しつつ、上記負極の体積変化による容量低下を防ぐことができることから好ましい。
【0048】
【化11】
【0049】
上記式中、R1及びR2は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、nは17の整数を表す。
また、前記式(I)又は(II)で表される化合物は、下記式(III)~(VII)で表される化合物(以下、「高分子化π-共役系高分子」ということがある。)からなる群から選ばれるいずれかの化合物であることが、負極を作製したときに、高い性能を有しつつ、上記負極の体積変化による容量低下を防ぐことができることから好ましい。下記式(III) ~(VII)で表される化合物中、nは17の整数を表す。
【0050】
【化12】
【0051】
【化13】
【0052】
【化14】
【0053】
【化15】
【0054】
【化16】
【0056】
前記ポリ酸は、効果的な水素結合形成ができることからポリアクリル酸又はフィチン酸であることが好ましく、前記ポリアクリル酸は、3,000~500,000の数平均分子量を有することが、十分な力学特性を与えることから好ましい。
【0057】
前記式(I)~(VII)のいずれかで表される化合物は、ビスイミノアセナフテキノン骨格を有するジハライド化合物とジエチニルフルオレン誘導体との重合体であることが、好ましい。また、前記式(I)~(VII)のいずれかで表される化合物の数平均分子量は、3,500~4,500であることが、好ましい。
【0058】
本発明の二次電池の負極用高分子バインダー組成物と、負極活物質と、導電材とを溶媒中で分散混合させることによってスラリーを調製し、前記スラリーを集電体上に塗工し、乾燥させ、二次電池用負極を作製することができる。なお、上記スラリーの粘度を所望のものとするために、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)その他の増粘剤を、本発明のバインダーの特性を損なわない範囲で適宜添加することもできる。
【0059】
上記溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」と略すことがある。)、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルスルホキシド、ヘキサメチルスルホルアミド、およびメチルエチルケトン等の有機溶媒を、単独で、又は混合して使用することができる。また、必要に応じて、各種分散剤、界面活性剤、安定剤等を添加してもよい。
【0060】
重量あたりの電池容量が黒鉛に比べて格段に大きいことから、上記負極活物質はシリコン系化合物であることが好ましい。本明細書において「シリコン系の負極活物質」とは、充放電の際にリチウムイオンと反応するシリコンおよびシリコン化合物をいう。例えば、冶金グレードシリコン(二酸化珪素を炭素で還元して作製されるシリコン)、工業グレードシリコン(上記冶金グレードシリコンに対して酸処理又は一方向凝固等処理を行い、不純物を低減したシリコン)、高純度結晶シリコン(シリコンを反応させて得られたシランから作製されるシリコンで、単結晶、多結晶、アモルファス等、種々の結晶状態が知られている)等を挙げることができる。
【0061】
ここで、前記二次電池用負極は、20~45重量%の負極活物質であるシリコンと、10~20重量%の導電材であるアセチレンブラックと、10~35重量%のグラファイト又は還元型酸化グラフェンとを含むシリコン負極であることが、高い放電容量及び導電性の向上を実現できることから好ましい。
【0062】
前記シリコン負極は、上記の高分子化π-共役系高分子、及びポリアクリル酸をさらに含むことが、負極マトリックスの導電性と自己修復能に基づく耐久性の点から好ましい。そして、前記シリコン負極は、グラファイト:シリコン:アセチレンブラック:上記高分子化π-共役系高分子:ポリアクリル酸を、28~32:23~27:18~22:18~22:1~9(重量%)の比率で含むようにすることが、負極マトリックスの導電性と、自己修復能に基づく耐久性とが一層向上することから好ましい。
【0063】
本発明のバインダーを含む負極は、以下のようにして調製することができる。例えば、N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」と略すことがある。)溶媒中に、所望の比率でグラファイト又は還元型酸化グラフェン(以下、「rGO」と略すことがある。)、シリコンナノパウダー、上記BIAN-p-フェニレンコポリマーバインダー、PAAバインダー、アセチレンブラックを含む組成物を分散させてスラリーとし、これを所望の金属箔上に塗工して作製することができる。
【0064】
上記組成物中に含まれる各化合物の比率は、例えば、グラファイト又はrGOが約25~約35wt%、シリコンナノパウダーが約10~約20 wt%、BIAN-p-フェニレンコポリマーバインダーが約15~約25 wt%、PAAバインダーが約2~7 wt%、アセチレンブラックが約15~約25 wt%とすることができる。集電体を構成する金属箔としては、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、チタン及びステンレス等の箔を使用することができる。
【0065】
上記箔への塗工は、グラビア法、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法等によって行うことができる。均質で厚みの一定した板状に塗工できることから、ドクターブレード法を採用することが好ましい。塗工で得られた均質で厚みの一定した電極からNMP溶媒を完全に除去するために、この電極を真空中、例えば、約80~約95℃にて、約10~15時間乾燥させ、その後、例えば、約70~約90℃にて、所望の厚さ、例えば、約60~約90μmになるようにロールプレスする。このようにして得られた電極を、パンチを用いて所望の大きさの円盤に打ち抜き、あらかじめ作製しておいた正極との間にセパレータを挟んで筐体に格納し、電気化学試験用のコイン型電池を作製する。
【0066】
また、本願発明においては、上記二次電池の負極用高分子バインダー組成物を調製し、これを上述した溶媒中に分散させてスラリーとし、このスラリーを用いて負極を形成することにより、前記負極中に自己修復性マトリックスを形成させることができる。ここで、前記溶媒としては、例えば、構成成分の溶解性がよく、分散性が高いことからNMPを好適に使用することができる。また、スラリーを塗工する箔としては、上述した箔を使用することができるが、銅箔を使用することがコスト面からから好ましい。
【0067】
本発明の自己修復性を有するマトリックスは、例えば、上記のようにして調製した本発明のバインダーを含む負極を形成する際に、同時に形成される。そして、前記自己修復性マトリックスは、下記式(IX)で表される水素結合を有する化合物であることが、負極マトリックスの導電性と自己修復能に基づく耐久性とを付与することから好ましい。自己修復性マトリックスが形成されることにより、シリコンを用いた負極の体積変化で負極表面が荒れることが防止され、本発明のバインダーを含む負極を備えるセルのサイクリング数を向上させることができる。
【0068】
【化18】
【0069】
(実施例1)グラファイト-シリコンコンポジット系アノードハーフセルの作製
N-パラフェニレン-PAA (20wt%-5wt%) ポリマーをバインダーとして用いた上記ハーフセルを下記のようにして作製した。
(1)スラリーの調製
電極活物質として、グラファイト(Merk社製)の超微粉末を使用した。導電性添加剤として、平均粒径40 nmのバッテリーグレードのアセチレンブラック(以下、「AB」と略すことがある。)を使用した。負極用組成物は総重量で100g調製した。この組成物に含まれる各成分の比率は、グラファイト30 wt%、シリコンナノパウダー(粒径は100 nm未満) 25 wt%、BIAN-p-フェニレンコポリマーバインダー20 wt%、及びPAAバインダー5 wt%並びにアセチレンブラック20 wt%とした。
この組成物50gを100mLのN-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」と略すことがある。)溶媒中に懸濁させて、スラリーを調製した。下記表1に示す組成のスラリーも同様に作製した。
【0070】
【表1】
*1:還元型酸化グラフェン *2:アセチレンブラック
【0071】
(2)負極の調製
次いで、上記スラリーを幅220mm、厚さ20μmの電解銅箔の片面に対して、塗布幅200mm、塗布厚70μmとなるようにドクターブレードを用いて塗布し、電極を作製した。
上記電極を真空中、90℃にて12時間乾燥させ、NMP溶媒を完全に除去した。さらに、上記電極を80℃にて厚さ70μmになるようにロールプレスし、小さな円盤(直径15mm)に打ち抜き、本発明の負極電極とした。この負極電極は、作製後直ちに測定に供した。
【0072】
(3)正極の調製
金属リチウムを正極として使用した。その後、負極と同じ大きさの円盤に打ち抜き、正極電極を調製した。
【0073】
(4)非水電解液の調製
アルゴンガスを充填したグローブボックス内で、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(v/v)の混合溶液に、LiPF6を1.0 Mとなるよう溶解させ、非水電解液を調製した。
【0074】
(5)リチウムイオン二次電池(コインセル)の作製
上記のように作製した負極電極、正極電極、非水電解液、及び厚さ30μmのポリプロピレン製微多孔質フィルムのセパレータを用いて、性能評価用のコイン型リチウムイオン二次電池(非水電解質二次電池)を作製した。
【0075】
(6)リチウム-シリコンアロイにおける充電量の計算
(6-1)電気化学的に駆動される固体アモルファスの場合
Li21Si5アロイのシリコンの理論最大キャパシティは4200 mAhg-1であることが報告されている(P. Limthongkul et al. / Acta Materialia 51 (2003) 1103-1113 Huggins RA, Nix WD. Ionics 2000;6:57.を参照されたい)。また、リチウム‐シリコンアロイを電気化学的な固体状態でアモルファス化することは、室温で十分に可能であることが確認されている(P. Limthongkul et al. によって2003年に報告されている)。
そこで、下記表2に示す組成(Li/Siモル比)を有する電極の充電量を測定した。
【0076】
【表2】
【0077】
(6-2)本発明のバインダー組成物を用いた時に期待される理論充電量
本発明のポリ(BIAN)-PAAポリマーバインダーとグラファイト/シリコンコンポジットを用いた場合の理論充電量をを、グラファイト(LiC6)の理論充電量である372 mAhg-1に基づいて求めた。すなわち、Li15Si4 アロイは、3569 mAhg-1に相当することから、作製した電極の理論的充電量は、1423 mAhg-1、すなわち、(0.333 × 3569) + (0.666 × 372)となった。
【0078】
(実施例2)実行セル(performing cells)の性能評価
(1)実行セル(performing cells)を用いたEISプロファイル
実施例1で作製したコイン型二次電池(実行セル)を用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV)及び電気化学インピーダンス(Electrochemical Impedance Spectroscopy:以下、「EIS」と略すことがある。)プロファイルを測定した。
【0079】
(VSP ポテンショスタット(Bio-Logic Science Instruments))を用いて、負極/負極対称モデルセルのEISを測定した。周波数範囲は65 kHz~10 mHz、振幅電圧は± 5 mV、周辺温度は25℃とした。結果を図3に示す。
図3に示されるように、この測定結果では、実装後及びCV後のいずれにおいてもナイキスト線図上で円弧を描いた後に、直線的な上昇を示していた。
【0080】
(2)実行セル(performing cells)を用いたCVプロファイル
次いで、シリコン-グラファイト系負極用のポリ(BIAN)-PAA系バインダー(本発明のバインダー)のサイクリックボルタンメトリー試験によって、上記バインダーの電気化学特性を評価した。サイクリックボルタンメトリー試験には、VSP ポテンショスタット(Bio-Logic Science Instruments) を使用した。図4にサイクリックボルタングラムを示す。サイクル1では不可逆的な電極の分解が観察された。また、サイクル2~4では、グラファイトからの脱リチウム化に対応するピーク及びシリコンからのLi+の脱アロイ化による脱リチウム化に対応するピークが観察された。
【0081】
(3)実行セル(performing cells)を用いた放電量及びクーロン効率の測定
次に、クーロン効率を含めた充放電特性評価は、Electrofield ABE 1024を用いて行った。結果を図5(A)に示す。その結果、上記ポリ(BIAN)-PAA系バインダーを含むグラファイト‐シリコンコンポジット電極では、335サイクル後の可逆容量は230 mAhg-1 であった。また、クーロン効率は100%付近でほぼ一定であった。このことから、本発明の負極を用いると、充電に要した電気量(Ah)に対して有効に取り出せた放電電気量が多いことが示された。また、活物質としてのシリコンの量に対する335サイクル後(図5(B))の可逆容量は470 mAhg-1 であった。
【0082】
(実施例3)セルを用いた性能評価-1
(1)放電量及びクーロン効率の測定
PAAのみのバインダーを含むセルを対照とし、上記ポリ(BIAN)-PAA系バインダーを含むセルの放電容量及びクーロン効率を測定した。測定条件は実施例2と同様とした。結果を図6(A)に示す。25サイクル以降の放電容量の低下を見ると、上記ポリ(BIAN)-PAA系バインダーを含むセルと明確な差異が見られた。また、活物質としてのシリコンの量に対する放電量でも同じ傾向が示された(図6(B))。
【0083】
(2)サイクリング前後における電極表面の変化
サイクリング前後における電極表面の変化を図7に示す。3つのセルのサイクリング前の電極表面の状態を示す電子顕微鏡像を(A1)~(A3)として示す。上記(1)で評価に使用した335サイクリング後の状態を示す電子顕微鏡像を(B1)~(B3)として示す。拡大率は、(A3)及び(B3)がそれぞれ300倍、(A2)及び(B2)がそれぞれ600倍、(A1)及び(B1)がそれぞれ2,000倍である。
サイクリング後の電極表面(ポジション1)は、本発明のバインダーを含む負極電極(A1)及び(B1)と比べて、対照では電極の容量の変化によって大きな変化が認められた(図7の(A2)、(A3)及び同図(B2)、(B3))。
【0084】
また、上記電極表面の別のポジションについても、図7と同様に、サイクリング前後(サイクリング前及び335サイクリング後)の状態を示す電子顕微鏡像を得た(図8(A1)~(B3)参照)。これらの電子顕微鏡像も、図7と同様の結果を示した。
【0085】
(実施例4)セルを用いた性能評価-2
(1)放電量及びクーロン効率の測定
別のセルを用いて上記実施例3と同様の性能評価を行った。結果を図9に示す。このセルの場合、325サイクル後の可逆容量は510 mAhg-1であった(図9(A))。また、活物質としてのシリコンの量に対する可逆容量は、325サイクル後で1122 mAhg-1であった(図9(B))。また、図10に対照(PAAのみを含むバインダーを含むセル)と上記ポリ(BIAN)-PAA系バインダーを含むセルとを比較した結果を示す。実施例3と同様の傾向が示された。
【0086】
(2)サイクリング前後における電極表面の変化
サイクリング前後における電極表面の変化を図11及び12に示す。いずれの図面においても、3つのセルのサイクリング前の電極表面の状態を示す電子顕微鏡像を(A1)~(A3)として示す。上記(1)で評価に使用した320サイクリング後の状態を示す電子顕微鏡像を(B1)~(B3)として示す。各像の拡大率は図7と同じである。サイクリング後の電極表面(ポジション1)及び(ポジション2)ではいずれも、サイクリング後に表面が大きく変化していることが観察された。
【0087】
(3)銅箔上にスラリーを塗工したときのBP-コポリマー及び電極物質のFT-IRの結果
図13に及び14に銅箔上にスラリーを塗工したときのBP-コポリマー及び電極物質のFT-IRの結果を示す。図13にはポリBIANのFT-IRの結果を、また、図14にはPAAのFT-ITの結果をそれぞれ示す。ポリBIANではC-Nストレッチが観察された。これに対し、PAAではC=Oストレッチが観察された。
【0088】
(実施例5)バインダーの組成の検討-1
BIAN-パラフェニレン-PAA (20wt% - 5wt%)ポリマーをバインダーとして含む負極を含むグラファイト-シリコンコンポジット(以下、「rGO-Siコンポジット」ということがある。)でハーフセルを作製し、性能を評価した。
【0089】
(1)EISプロファイル測定
負極は、グラファイトに代えてrGOを使用した以外は、上記と同様にして作製した。上記実施例2と同様の条件でファブリケーション後及びCV後のEISプロファイルを測定した結果を図15に示す。ファブリケーション後とCV後のプロファイルには大きな相違があり、サイクリング後の界面抵抗の向上が見られた。
【0090】
CVプロファイルも実施例2と同様の条件で測定した。結果(サイクリックボルタングラム)を図16に示す。サイクル1では不可逆的な電極の分解と、部分的な電極の分解が観察された。また、サイクル2~4は、ほぼ同じボルタングラムが得られた。
【0091】
(2)放電容量及びクーロン効率の測定
実施例3と同様にして、ポリ(BIAN)-PAAをバインダーとして含むrGO-Siコンポジットを用いた場合の放電容量及びクーロン効率を測定した。結果を図17に示す。ポリ(BIAN)-PAAをバインダーとして含むrGO-シリコンコンポジット電極の放電量は、330サイクル後750 mAhg-1であった(図17(A))。活物質としてのシリコンの量に対する放電量は、330サイクル後1,500 mAhg-1を超えていた(図17(B))。
【0092】
また、rGO-Si系システム中におけるPAAのみを含むバインダーを使用したセルと、BIAN-PAAを含むバインダーを使用したセルとの放電容量及びクーロン効率を図18に示す。BIAN-PAAを含むバインダーを使用したセルが、高い放電容量を示した。
【0093】
(実施例6)バインダーの組成の検討-2
BIAN-パラフェニレン-PAA (20wt%-5wt%)ポリマー及びフィチン酸を含グラファイト-シリコンコンポジットを負極とした点を以外は上記と同様にしてハーフセルを作製し、その性能を測定した。
【0094】
(1)EISプロファイル及びCV
BP-コポリマー/PAAバインダーを含むセルのEISプロファイルを図19に示す。この結果から、界面抵抗の向上が示された。また、CVの結果を図20に示す。
【0095】
(2)放電容量及びクーロン効率の測定
上記と同様の条件下に、BIAN-PAA及びフィチン酸をバインダーとして含むグラファイト-シリコン電極の放電量を測定した。400サイクル後の放電容量は、750 mAhg-1 であった。また、活物質としてのシリコンの量に対する放電容量は400サイクル後1,600 mAhg-1を超えていた。
【0096】
(3)PAAを対照とした時の放電容量の比較
対照として、PAAのみを含むバインダーを使用した負極を使用した。上記ポリ(BIAN)及びフィチン酸を含む負極は、高い放電容量を示した(図21(A))。活物質としてのシリコンの量に対する放電容量を図21(B)に示す。このプロファイルは図21(A)に示したものと同様であった。
【0097】
(4)負極のケイ素含有量の検討―1
45wt%Si、10wt%グラファイト、25wt%バインダー及び20wt%アセチレンブラックを含む負極の放電容量及びクーロン効率を上記と同様にして測定した。結果を図22(A)及び(B)に示す。クーロン効率は100%前後に維持され、また、放電容量は300サイクルまでは500mAhg-1以上であった(図22(A))。活物質としてのシリコンの量に対する放電容量も同様であった(同図(B))。
【0098】
(5)負極のケイ素含有量の検討―2
55wt%Si、25wt%バインダー及び20wt%アセチレンブラックを含む負極の放電容量及びクーロン効率を上記と同様にして測定した。結果を図23(A)及び(B)に示す。クーロン効率は100%前後に維持され、また、放電容量は120サイクルまでは400mAhg-1以上であった(図23(A))。活物質としてのシリコンの量に対する放電容量も同様であった(同図(B))。
【0099】
(6)負極のケイ素含有量の検討―3
40wt%Si、25wt%グラファイト、20wt%アセチレンブラック及び15wt%バインダーを含む負極の放電容量及びクーロン効率を上記と同様にして測定した。結果を図24(A)及び(B)に示す。クーロン効率は100%前後に維持され、また、放電容量は210サイクルまで400mAhg-1以上であった(図24(A))。活物質としてのシリコンの量に対する放電容量も同様であった(同図(B))。
【0100】
(6)BP-コポリマーのみを含むバインダーを使用した負極
BP-コポリマーのみを含むバインダーを使用した負極の放電容量及びクーロン効率を上記と同様にして測定した。結果を図25(A)及び(B)に示す。クーロン効率は100%前後に維持され、また、放電容量は200サイクルまでは1,000mAhg-1以上であった(図25(A))。活物質としてのシリコンの量に対する放電容量も同様であった(同図(B))。
【0101】
以上より、本発明のバインダーを使用することによって、高い放電容量を有し、クーロン効率のよい負極を作製できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、二次電池の分野で有用である。
図1
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