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特許7590752被覆樹脂剥離液、被覆樹脂剥離用処理液及び被覆樹脂剥離処理方法
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  • 特許-被覆樹脂剥離液、被覆樹脂剥離用処理液及び被覆樹脂剥離処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】被覆樹脂剥離液、被覆樹脂剥離用処理液及び被覆樹脂剥離処理方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/12 20060101AFI20241120BHJP
   H01F 5/04 20060101ALI20241120BHJP
   H01F 41/10 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
H02G1/12 087
H01F5/04 Q
H01F41/10 C
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020143958
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2021108531
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019239559
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597127719
【氏名又は名称】株式会社三若純薬研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼鳥 正重
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕一
(72)【発明者】
【氏名】宮田 壮一郎
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-027071(JP,A)
【文献】特開2001-310959(JP,A)
【文献】特開平10-097081(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100595(WO,A1)
【文献】特開2013-211991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/12
H01F 5/04
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体線及び前記導体線を被覆する被覆樹脂を有する絶縁導電線から前記被覆樹脂を剥離させる被覆樹脂剥離液であって、
無機アルカリ(A)と、
炭素数1~10のアルカノールアミン(B)と、水(C)と、沸点が100℃以上であり、炭素数が2~6である非プロトン性極性溶媒(D)と、を含み、
前記無機アルカリ(A)が、前記被覆樹脂剥離液中、0.4質量%以上4質量%以下含まれ、
前記アルカノールアミン(B)が、前記被覆樹脂剥離液中、15質量%以上60質量%以下含まれることを特徴とする被覆樹脂剥離液。
【請求項2】
前記無機アルカリ(A)が、前記被覆樹脂剥離液中、0.4質量%以上3質量%以下含まれる請求項1に記載の被覆樹脂剥離液。
【請求項3】
前記被覆樹脂剥離液中、前記無機アルカリ(A)が0.4質量%以上3質量%以下、
前記アルカノールアミン(B)が15質量%以上60質量%以下、
前記水(C)が2質量%以上40質量%以下、
前記非プロトン性極性溶媒(D)が20質量%以上80質量%以下、含まれる請求項2に記載の被覆樹脂剥離液。
【請求項4】
更に、沸点が100℃以上であり、炭素数2~6且つ1~3価の直鎖若しくは分岐のアルコール、及び、炭素数2~8且つ1価~3価の芳香族アルコール、のうち少なくとも1以上のアルコール系溶媒(E)を含む請求項1乃至3の何れか一項に記載の被覆樹脂剥離液。
【請求項5】
前記(A)成分、(B)成分,(C)成分及び(D)成分の合計を100質量%とした場合、前記アルコール系溶媒(E)成分が20質量%以上50質量%以下である請求項4記載の被覆樹脂剥離液。
【請求項6】
前記被覆樹脂がポリアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエステルアミドイミド樹脂の中から選択される1以上である請求項5に記載の被覆樹脂剥離液。
【請求項7】
導体線及び前記導体線を被覆する被覆樹脂を有する絶縁導電線から前記被覆樹脂を剥離させる被覆樹脂剥離液であって、
炭素数1~10のアルカノールアミン(B)と、水(C)、沸点が100℃以上であり、炭素数が2~6である非プロトン性極性溶媒(D)と、を含み、
前記アルカノールアミン(B)を15質量%以上70質量%以下、前記水(C)を4質量%以上18質量%以下、前記非プロトン性極性溶媒(D)を20質量%以上80質量%以下を含み、
前記被覆樹脂は、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエステルアミドイミド樹脂の中から選択される1以上であることを特徴とする被覆樹脂剥離液。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の被覆樹脂剥離液を含む剥離処理層と、
高級脂肪族炭化水素を含むオイル状成分を含み、前記剥離処理層と分離して前記剥離処理層上に配される蒸散防止層と、を備えることを特徴とする被覆樹脂剥離用処理液。
【請求項9】
前記蒸散防止層は前記剥離処理層の成分の合計を100質量%とする場合、0.5質量%以上10質量%以下である請求項8に記載の被覆樹脂剥離用処理液。
【請求項10】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の被覆樹脂剥離液、又は、請求項1乃至3の何れか一項に記載の被覆樹脂剥離液を備える請求項8又は9に記載の被覆樹脂剥離用処理液を用いた被覆樹脂剥離処理方法であって、
前記導体線の材料が銅、銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金であり、
前記被覆樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエステルアミドイミド樹脂の中から選択される1以上であり、
75℃以上120℃以下の前記被覆樹脂剥離液中に前記絶縁導電線を浸漬し、前記導体線を露出させ、
前記導体線の材料が異なる場合においても、更に前記被覆樹脂の種類が異なる場合においても、1種類の前記被覆樹脂剥離液を使用することを特徴とする被覆樹脂剥離処理方法。
【請求項11】
請求項4乃至6の何れか一項に記載の被覆樹脂剥離液、又は、請求項4乃至6の何れか一項に記載の被覆樹脂剥離液を備える請求項8又は9に記載の被覆樹脂剥離用処理液を用いた被覆樹脂剥離処理方法であって、
前記導体線の材料が銅、銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金であり、
前記被覆樹脂がポリアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエステルアミドイミド樹脂の中から選択される1以上であり、
75℃以上120℃以下の前記被覆樹脂剥離液中に前記絶縁導電線を浸漬し、前記導体線を露出させ、
前記導体線の材料が異なる場合においても、更に前記被覆樹脂の種類が異なる場合においても、1種類の前記被覆樹脂剥離液を使用することを特徴とする被覆樹脂剥離処理方法。
【請求項12】
請求項7に記載の被覆樹脂剥離液、又は、請求項7に記載の被覆樹脂剥離液を備える請求項8又は9に記載の被覆樹脂剥離用処理液を用いた被覆樹脂剥離処理方法であって、
前記導体線の材料が銅、銅合金であり、
前記被覆樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエステルアミドイミド樹脂の中から選択される1以上であり、
75℃以上120℃以下の前記被覆樹脂剥離液中に前記絶縁導電線を浸漬し、前記導体線を露出させ、
前記導体線の材料が異なる場合においても、更に前記被覆樹脂の種類が異なる場合においても、1種類の前記被覆樹脂剥離液を使用することを特徴とする被覆樹脂剥離処理方法。
【請求項13】
請求項10乃至12の何れか一項に記載の最初の被覆樹脂剥離処理方法を実施した後、最初の処理後、又は更に処理を行った場合はその処理後において残存する被覆樹脂剥離液を続けて使用することを特徴とする被覆樹脂剥離処理方法。
【請求項14】
請求項4乃至6の何れか一項に記載の被覆樹脂剥離液、又は、請求項4乃至6の何れか一項に記載の被覆樹脂剥離液を備える請求項8又は9に記載の被覆樹脂剥離用処理液を用いた被覆樹脂剥離処理方法であって、
前記導体線の材料が銅、銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金であり、
前記被覆樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエステルアミドイミド樹脂の中から選択される1以上であり、
75℃以上120℃以下の前記被覆樹脂剥離液中に前記絶縁導電線を浸漬し、前記導体線を露出させ、
前記導体線の材料が異なる場合においても、更に前記被覆樹脂の種類が異なる場合においても、1種類の前記被覆樹脂剥離液を使用することができるとともに、前記被覆樹脂が溶解剥離されるので剥離した樹脂を回収することもなく、その処理後において、残存する被覆樹脂剥離液を続けて使用することを特徴とする被覆樹脂剥離処理方法。
【請求項15】
請求項10乃至12の何れか一項に記載の被覆樹脂剥離処理方法において、前記覆樹脂剥離用処理液中に前記絶縁導電線を浸漬し、前記導体線を露出させ、露出された導体線を回収して露出された前記導体線を再利用することを特徴とする被覆樹脂剥離処理方法。
【請求項16】
請求項13又は14に記載の被覆樹脂剥離処理方法において、
前記被覆樹脂剥離液の温度が75℃以上95℃以下であり、前記露出された導体線を回収して露出された前記導体線を再利用し、
更に、最初の被覆樹脂剥離処理方法を75℃以上95℃以下にて実施した後、最初の処理後、又は更に処理を行った場合はその処理後において残存する被覆樹脂剥離液を続けて再使用し、
その最初の使用後の被覆樹脂剥離液を95℃で3時間加熱しその加熱減量が加熱前に対して1.6%以下であることを特徴とする被覆樹脂剥離処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁導電線から被覆樹脂を剥離させる被覆樹脂剥離液、被覆樹脂剥離用処理液及び被覆樹脂剥離処理方法、更に絶縁導電線を構成する導体線の再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、絶縁導電線の導体線を絶縁被覆するための被覆樹脂として、ポリビニルホルマール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂等が用いられる。中でも、耐熱性に優れる被覆樹脂として、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド及びポリイミド等の繰り返し単位にイミド基、アミド基及びエステル基をそれぞれ含む樹脂が知られている。このような絶縁導電線は、所定の電気機器において、通常、両端部(先端部)の被覆樹脂を除去し、導体線を露出させ、電気的接続機能を果たすように用いられる。耐熱性の絶縁導電線では、導体線を露出させる際に、例えば半田付けする程度の加熱処理では、ポリイミド等の被覆樹脂を容易に除去できない問題がある。
【0003】
そこで、導体線を露出させる一般的な方法の1つとして、剥離刃を用いたり、レーザ光線を照射したりして、絶縁導電線の被覆樹脂を除去する物理的な剥離方法が知られている。また、被覆樹脂の剥離処理液を用い、絶縁導電線を剥離処理液に浸漬して被覆樹脂を除去し易くする化学的な剥離方法も知られている。特許文献1,2は、絶縁導電線の被覆樹脂を剥離するための化学的な剥離方法及び被覆除去処理液について記載しており、特許文献3は、特許文献2の技術において被覆樹脂を特にポリイミド樹脂に限定した方法及び被覆除去処理液を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-164213号公報
【文献】特開2013-27071号公報
【文献】特開2013-211991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
処理液を用いて被覆樹脂を化学的に剥離する方法は、剥離刃やレーザ照射部を備えた装置を用いて被覆樹脂を物理的に除去する方法と比較すれば、被覆樹脂処理設備が簡易で済む点で好ましい。また、化学的な剥離方法は、複数本の絶縁導電線を処理液に浸漬させて一度に被覆樹脂を剥離できるので、生産性の点でも優れている。しかしながら、以下に説明するとおり、生産性に寄与する点で、更なる改善の余地を残すという問題がある。
【0006】
特許文献1には、従来の方法として、「ポリアミドイミド系やポリイミド系の耐熱エナメル線は、50~90℃の水酸化ナトリウム水溶液や400~450℃程度のアルカリ混合溶融バスを用いて剥離する」方法を挙げる記載がある(第1頁右欄第16行)。また、「加熱の際にアルカリ微粒子が飛散し、コイルやリード線部分の絶縁皮膜上に付着するおそれがある。このような付着があると、長期間にわたり皮膜への経時的な腐食が進行し、絶縁性能の低下やコイルの層間短絡のなどの原因となるおそれが大きい」点が指摘されている(第2頁左欄第3行)。
このように、被覆樹脂剥離処理液として高温の水酸化ナトリウム水溶液やアルカリ溶融バスを用いる場合は、処理液の扱いに慎重さを要するため取り扱い性が悪い。この点で、特許文献1の処理液には、生産性を損ねるものであるという弊害がある。
【0007】
特許文献2は、樹脂被覆に対して貧溶媒である上層液21と、所定条件下でpHが9以上であり樹脂被覆を膨潤又は溶解させる溶媒である下層液22との、少なくとも2層に分かれる被覆樹脂処理液を開示する。具体的には、実施例に、樹脂被覆がポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルホルマール樹脂及びエポキシアクリル樹脂である場合に、以下の1)~4)の作業手順で被覆樹脂を除去した結果が開示されている([0039])。
1)被覆除去処理液20に集合導体10を浸漬し、
2)所定時間経過後に集合導体10を被覆除去処理液20から引き上げ、
3)下層液22に浸かり膨潤した先端部分10aの樹脂被覆11bを剥離させ、
4)剥離した樹脂被覆11bを除去して導体線12のみを露出させる。
具体的に特許文献2の[0032]には、被覆樹脂を膨潤させることを実質的に前提とする剥離処理に関する技術が記載されている。
【0008】
特許文献3は、被覆樹脂としてポリイミドを限定し、特許文献2同様の被覆樹脂処理液を開示する。評価用の被覆除去処理液中、被覆樹脂を剥離するための下層液の成分は、特許文献2と同様、70~80%程度の極性溶媒中に、中和剤とされるモノエタノールアミン又はジエタノールアミンを含むものである。特許文献2同様の端末処理方法に従って、樹脂被覆銅導線の先端を被覆除去処理液に浸漬し、3分間浸漬した後に圧縮空気を吹き付け、膨潤被覆を除去したうえで剥離状態を評価したことが開示されている。
このように、特許文献2,3では、被覆樹脂剥離処理液として有機系の剤を含む有機系溶媒を用いるため、特許文献1の処理液と比較すると、取り扱い性の点では改善される。しかし、膨潤させた被覆樹脂を後で拭い取る作業を要する点で、一層生産性を改善できる処理液が期待される。
【0009】
また、このように膨潤した被覆樹脂を拭い取る場合、露出する導体線と残余の被覆樹脂端部との境界が雑に乱れ易くなる。部分的に絶縁性を損ない、導体線を接続する電気的接点として安全性に支障をきたすおそれが生じる。安全性を損なわず、且つ、生産性を改善できる処理液が期待される。
【0010】
また、特許文献2では、剥離対象の樹脂に応じてpH調整した被覆除去処理液を用いており、特許文献3では、ポリイミド樹脂中のアニオン性又はカチオン性の極性基に応じて中和剤を添加して調整した被覆除去処理液を用いている。つまり、特許文献2,3では、それぞれ剥離対象とする樹脂の種類が異なり、樹脂毎に成分を微調整した被覆除去処理液が用いられると考えられる。樹脂毎に被覆除去処理液の成分微調整を要する場合、それぞれに応じた被覆除去処理液の準備を要する点で、一層生産性を改善できる処理液が期待される。
【0011】
また、マグネットワイヤーでは、巻線の占有率を高めるために平角線が多用される。丸線を一軸方向から圧延して成形した平角線では、圧延方向の一方の一対の対向面は平坦であっても、他方の一対の対向面は、緩やかなR形状を残して成形される場合がある。このような場合、被覆樹脂を物理的に除去する処理方法では、導体線までも切削しないように種々のR形状に対応する剥離刃を準備したり、レーザ光線の照射角度を調整したり、度々の部品交換や装置調整を要する点で、生産性が悪くなる。従って、マグネットワイヤーの被覆樹脂除去処理では、被覆除去処理液を用いた化学的な処理方法が強く望まれるという実情がある。
なお、以下、本明細書で「マグネットワイヤー」は、電気機器の巻線用の絶縁導電線を意味する用語として用いる。
【0012】
本発明は、上記の各問題点に鑑み、絶縁導電線の被覆樹脂を化学的に剥離するための処理液において、被覆樹脂を除去する生産性改善に寄与する被覆樹脂剥離液、被覆樹脂剥離用処理液及び被覆樹脂剥離処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下のとおりである。
〔1〕導体線及び前記導体線を被覆する被覆樹脂を有する絶縁導電線から前記被覆樹脂を剥離させる被覆樹脂剥離液であって、
無機アルカリ(A)と、
炭素数1~10のアルカノールアミン(B)と、
水(C)と、を含むことを特徴とする被覆樹脂剥離液。
〔2〕前記無機アルカリ(A)が、前記被覆樹脂剥離液中、5質量%以下含まれ、
前記アルカノールアミン(B)が、前記被覆樹脂剥離液中、15質量%以上90質量%以下含まれる前記〔1〕に記載の被覆樹脂剥離液。
〔3〕 前記アルカノールアミン(B)が、〔モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン及びN-(2-アミノエチル)プロパノールアミン〕の中から選択される1以上を含む前記〔1〕又は〔2〕に記載の被覆樹脂剥離液。
〔4〕更に、沸点が100℃以上であり且つ炭素数2~6の非プロトン性極性溶媒(D)を含む前記〔1〕乃至〔3〕の何れかに記載の被覆樹脂剥離液。
前記非プロトン性極性溶媒(D)は、単位として(cal/ml)0.5で表される4.3以上のハンセン極性パラメータ、2.0以上5.6以下のハンセン水素結合パラメータを有するものとすることができる。
〔5〕導体線及び前記導体線を被覆する被覆樹脂を有する絶縁導電線から前記被覆樹脂を剥離させる被覆樹脂剥離液であって、
炭素数1~10のアルカノールアミン(B)と、
水(C)と、
沸点が100℃以上であり、炭素数が2~6である非プロトン性極性溶媒(D)と、を含むことを特徴とする被覆樹脂剥離液。
〔6〕前記非プロトン性極性溶媒(D)が、(ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)から選択される1以上を含む前記〔4〕又は〔5〕に記載の被覆樹脂剥離液。
〔7〕更に、沸点が100℃以上であり、炭素数2~6且つ2~3価の直鎖若しくは分岐のアルコール、及び、炭素数2~8且つ1価~3価の芳香族アルコール、のうち少なくとも1以上のアルコール系溶媒(E)を含む前記〔1〕乃至〔6〕の何れかに記載の被覆樹脂剥離液。
〔8〕前記導体線の横断面形状が円形又は四角形である前記〔1〕乃至〔7〕の何れかに記載の被覆樹脂剥離液。
〔9〕前記絶縁導電線が、単独線からなる単独型絶縁導電線、又は複数の前記絶縁導電線を備える集合型絶縁導電線である前記〔1〕乃至〔8〕の何れかに記載の被覆樹脂剥離液。
〔10〕前記絶縁導電線がマグネットワイヤーであり且つ前記単独型絶縁導電線であり、前記導体線が平角線である前記〔9〕に記載の被覆樹脂剥離液。
〔11〕前記被覆樹脂がポリアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエステルアミドイミド樹脂の中から選択される1以上である前記〔1〕乃至〔10〕の何れかに記載の被覆樹脂剥離液。
〔12〕前記被覆樹脂がポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエステルアミドイミド樹脂の中から選択される1以上であり、前記被覆樹脂剥離液が前記被覆樹脂を溶解剥離させる溶解剥離型である前記〔11〕に記載の被覆樹脂剥離液。
〔13〕前記被覆樹脂がポリアセタール系樹脂であり、前記被覆樹脂剥離液が前記被覆樹脂を膨潤剥離させる膨潤剥離型である前記〔11〕に記載の被覆樹脂剥離液。
【0014】
〔14〕前記〔1〕乃至〔12〕の何れかに記載の被覆樹脂剥離液を含む剥離処理層と、
高級脂肪族炭化水素を含むオイル状成分を含み、前記剥離処理層と分離して前記剥離処理層上に配される蒸散防止層と、を備えることを特徴とする被覆樹脂剥離用処理液。
【0015】
〔15〕前記〔1〕乃至〔13〕の何れかに記載の被覆樹脂剥離液又は前記〔14〕に記載の被覆樹脂剥離用処理液を用いた被覆樹脂剥離処理方法であって、
75℃以上120℃以下の前記被覆樹脂剥離液中に前記絶縁導電線を浸漬し、
前記導体線を露出させることを特徴とする被覆樹脂剥離処理方法。
〔16〕前記浸漬する時間が60分以内である前記〔15〕に記載の被覆樹脂剥離処理方法。
〔17〕更に、前記被覆樹脂剥離液の上に、高級脂肪族炭化水素を含むオイル状成分を含む蒸散防止層を設ける前記〔15〕又は〔16〕に記載の被覆樹脂溶解処理方法。
〔18〕最初の被覆樹脂剥離処理方法を実施した後、最初の処理後、又は更に処理を行った場合はその処理後において残存する被覆樹脂剥離液を続けて使用する前記〔15〕乃至〔17〕の何れか一項に記載の被覆樹脂剥離処理方法。
〔19〕前記導体線の材料が銅、銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金であり、
前記被覆樹脂がポリアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエーテルイミド樹脂の中から選択される1以上であり、
前記導体線の材料が異なる場合においても、更に前記被覆樹脂の種類が異なる場合においても、1種類の前記被覆樹脂剥離液を使用する前記〔15〕乃至〔18〕の何れかに記載の被覆樹脂剥離処理方法。
〔20〕前記〔1〕乃至〔13〕の何れか一項に記載の被覆樹脂剥離液又は前記〔14〕に記載の被覆樹脂剥離用処理液であって、75℃以上120℃以下に加熱された前記被覆樹脂剥離液又は前記被覆樹脂剥離用処理液中に前記絶縁導電線を浸漬し、前記導体線を露出させ、露出された導体線を回収して露出された前記導体線を再利用することを特徴とする、絶縁導電線を構成する導体線の再利用方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の被覆樹脂剥離液によれば、絶縁導電線を前記剥離液又は前記剥離用処理液に浸漬するだけで、被覆樹脂を容易に溶解又は膨潤剥離をすることができ、生産性向上に寄与することができる。しかも、剥離液又は前記剥離用処理液の境界面において、剥離されないで残る被覆樹脂の端縁部と、被覆樹脂の端部から露出する導電線と、が明確に境界されるものとなる。また、本剥離液等によれば、樹脂又は金属の種類が異なるどんな絶縁導電線であっても剥離液等を変えることもなく、被覆樹脂を容易に溶解又は膨潤剥離をすることができる。また、更に、溶解型剥離液等においては、樹脂が溶解されるのでこの樹脂部分を回収する必要がなく大変便利である。
高級脂肪族炭化水素を含むオイル状成分を含み、前記剥離処理層と分離して前記剥離処理層上に配される蒸散防止層を備える被覆樹脂剥離用処理液においては、前記被覆樹脂剥離用処理液に含まれる成分の蒸散を低減できる。従って、処理液においては処理液成分組成の変動を少なくでき、長時間の使用又は繰り返し使用においても安定した性能を確保できる。
また、前記被覆樹脂剥離液又は前記被覆樹脂剥離用処理液を用いた被覆樹脂剥離処理方法においては、絶縁導電線を前記剥離液又は前記剥離用処理液に浸漬するだけで、被覆樹脂を溶解又は膨潤剥離をすることができるので、簡便な方法で且つ安価に前記導体線を露出させることができる。
更に、最初の被覆樹脂剥離処理方法を実施した後、最初の処理後、又は更に処理を行った場合はその処理後において残存する被覆樹脂剥離液を続けて使用する場合は、使用済みの前記剥離液又は前記剥離用処理液を繰り返し使用することができる。従って、この場合は大変、便利であり、費用的にも大変有用である。特に、蒸散防止層を備える被覆樹脂剥離用処理液においては、処理液成分組成の変動を少なくできるので、この繰り返し使用に極めて有用である。
また、前記被覆樹脂剥離液又は前記被覆樹脂剥離用処理液を用いれば、大型の機械設備を用いて物理的・機械的に被覆樹脂を剥奪したり、また樹脂を焼いたりしなくても、前記絶縁導電線を浸漬するだけで、前記絶縁導電線を構成する前記導体線を容易に露出させることができる。従って、本剥離液等を用いれば露出された導体線を回収しこれを容易に再利用することができる。更に、本剥離液等を用いれば、被覆樹脂又は金属の種類が異なるどんな絶縁導電線であっても剥離液等を変えることもなく、容易に導電線の再利用ができる。また、本溶解型剥離液等を用いれば被覆樹脂が溶解されるので、この樹脂部分を分別回収する必要がなく導電線の回収は極めて容易である。
更に、前記方法において、処理温度を75~120℃としているが、これに限らず80~110℃、80~100℃、80~98℃、85~110℃、85~100℃、85~98℃程度とすることができる。高温の場合は処理時間を短くできるし、比較的低温の場合は含有する水の蒸散を少なくでき安定した組成物を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本被覆樹脂剥離液を用い被覆樹脂を溶解する処理態様を説明する図である。
図2】同じく、被覆樹脂溶解処理後の絶縁導電線の先端部を説明する図である。
図3】実施例に係る絶縁導電線としてマグネットワイヤーを説明する図である。
図4】絶縁導電線として単独型絶縁導電線及び集合型絶縁導電線を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の被覆樹脂剥離液について更に詳細に説明する。
[被覆樹脂剥離液]
本発明の被覆樹脂剥離液(図1に示す本実施形態の被覆樹脂剥離液Lを参照)は、導体線12及び導体線12を被覆する被覆樹脂11を有する絶縁導電線10から被覆樹脂11を剥離させる被覆樹脂剥離液Lであって、無機アルカリ(A)と、炭素数1~10のアルカノールアミン(B)と、水(C)と、を含むことを特徴とする。
また、他の本発明の被覆樹脂剥離液は、導体線及び前記導体線を被覆する被覆樹脂を有する絶縁導電線から前記被覆樹脂を剥離させる被覆樹脂剥離液であって、炭素数1~10のアルカノールアミン(B)と、水(C)と、沸点が100℃以上であり且つ炭素数が2~6である非プロトン性極性溶媒(D)と、を含むことを特徴とする。
【0019】
また、前記無機アルカリ(A)と、炭素数1~10のアルカノールアミン(B)と、水(C)とを含む被覆樹脂剥離液に、更に非プロトン性極性溶媒(D)を含むものとすることができる。更に、炭素数1~10のアルカノールアミン(B)と、水(C)と、非プロトン性極性溶媒(D)とを含む被覆樹脂剥離液に、更に前記無機アルカリ(A)を含むものとすることができる。
また、本被覆樹脂剥離液Lにおいては、3成分を含む前記各被覆樹脂剥離液L又は4成分を含む前記各被覆樹脂剥離液Lに、更に、所定のアルコール系溶媒(E)を含んでいてもよい。
なお、以下、無機アルカリ(A)を「A成分」、アルカノールアミン(B)を「B成分」、水(C)を「C成分」、非プロトン性極性溶媒(D)を「D成分」、アルコール系溶媒(E)を「E成分」とも表記する。
【0020】
本実施形態の被覆樹脂剥離液Lを用いて被覆樹脂11を剥がす絶縁導電線10の種類は、導体線12を覆う被覆樹脂11を有する電線であれば特に限定されない。絶縁導電線10としては、例えば、電力送電用電線、制御用及び通信用ケーブル及び各種電気機器用電線等を挙げることができ、特に、車載用インダクタやモータ等の配線及び巻線に用いるマグネットワイヤー101aであり、小型且つ電流容量に耐える耐熱性が求められるものであれば好ましい。
【0021】
絶縁導電線10の外形状は、特に限定されず、丸線であってもよいし、四角線であってもよい。また、絶縁導電線10は、1本の絶縁導電線10である単独線からなる単独型絶縁導電線101であってもよいし(図4(c)参照)、複数の絶縁導電線10を備える集合型絶縁導電線102であってもよい(図4(a)(b)参照)。絶縁導電線が単独型絶縁導電線のマグネットワイヤー101aであれば、その導体線12として、巻線の占有率を高めるために平角線が多用される(図3参照)。
絶縁導電線が、集合型絶縁導電線102であったり、単独型絶縁導電線であってもマグネットワイヤー101aのように平角線状であったりする場合は、これらは、通常、剥離刃やレーザー光線を用いた被覆樹脂の物理的剥離が困難な特殊な電線形態又は形状である。例えば、集合型絶縁導電線102では、1本状の絶縁導電線10に解いたうえで1本ずつ被覆樹脂を物理的に剥離し、又はマグネットワイヤー101aでは、少なくとも角部に不可避的にR形状を残す導体線の外形に沿って剥離刃を宛がう作業を要する。本被覆樹脂剥離液は、絶縁導電線を被覆樹脂剥離液に浸漬させることで、化学的作用によって被覆樹脂を剥離し容易に除去できるため、これら特殊な電線形態又は形状の絶縁導電線の被覆樹脂剥離処理に用いられる場合、特に好ましい。
【0022】
導体線としては、その材料は、通電するための導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、銅、アルミニウム、鉄、白金及び銀等であればよい。導体線の材料は、一種類の金属であってもよいし合金であってもよいが、導電性の観点からは銅及び銅合金が好ましく、軽量化の観点からはアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。導体線12の外形状は特に限定されず、その横断面形状が円形の導体線であってもよいし(図4参照)、四角形の導体線であってもよいし及び不定形であってもよい。導体線は、例えば相当する横断面円形に換算して、その直径が、0.1~5mm程度の範囲内にあるものを用いることができる。
【0023】
被覆樹脂11の種類は、特に限定されない。この被覆樹脂は、例えば、各種の基のうち、加水分解性のあるエステル基、ウレタン基、アミド基又はイミド基を備えるものが好ましい。
具体的には、被覆樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ポリアリレート等のポリエステル系樹脂;多価イソシアネート化合物と、ポリオール、ポリエステル、エポキシ及びポリウレタンポリオール化合物等との反応により得られる熱可塑性ポリウレタン、これらを架橋した熱硬化性ポリウレタン等のポリウレタン系樹脂;6-ナイロン,11-ナイロン,12-ナイロン,66-ナイロン若しくは610ナイロン等の脂肪族ナイロン及びMXD6-ナイロン等の芳香族ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリカーボネート;ポリホルマール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリアセタール系樹脂;塩素化ポリエーテル、ポリフェニレンエーテル等のポリエーテル系樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイト;ポリイミド系樹脂;フェノール樹脂;エポキシ樹脂;ジアリルフタレート及びポリアクリレート等の側鎖にエステル結合を有する樹脂;ポリホルムアミド等の側鎖にアミド結合を有する樹脂;等が挙げられる。
また、被覆樹脂は、上記樹脂に係る共重合体やグラフト重合体であってもよく、例えば、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエーテルイミド樹脂等が挙げられる。
被覆樹脂は、これらを変性したものであってもよく、これらから選択される1以上であれば好ましい。
【0024】
被覆樹脂は、上記の中でも、ポリアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエステルアミドイミド樹脂の中から選択される1以上であれば、好ましい。
【0025】
上記好ましい樹脂の中でも、被覆樹脂がポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエステルアミドイミド樹脂の中から選択される1以上であれば、特に好ましい。絶縁導電線の被覆樹脂がこれら特に好ましいものであれば、耐熱性が要求される絶縁導電線に適するとともに、被覆樹脂剥離液によって被覆樹脂を溶解剥離させることができる。
【0026】
また、上記好ましい樹脂の中でも、被覆樹脂がポリアセタール系樹脂であり、ポリホルマール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールから選択される1以上であれば、特に好ましい。絶縁導電線の被覆樹脂がこれら特に好ましいものであれば、巻取り時に耐摩擦性が要求されるマグネットワイヤー用の絶縁導電線に適するとともに、被覆樹脂剥離液によって被覆樹脂を溶解又は膨潤剥離させることができる。
【0027】
或いは、被覆樹脂は、二重の被覆であってもよく、例えば、内層のポリエステルイミドに外層のポリアミドイミド又はポリアミドを上塗りしたもの等を挙げることができる。
また、被覆樹脂の厚さは、特に限定されないが、例えば0.05~0.8mm程度の範囲内にある塗膜状であるものを好ましい剥離対象とする。導体線に被覆樹脂を被覆する方法は、例えば、塗布によるディッピング加工や、電着塗布する電着加工によって行える。
【0028】
被覆樹脂剥離液L中に含まれる成分について、以下更に詳細に説明する。
[無機アルカリ(A)]
無機アルカリ(A)は、水(C)中で解離するものであればよく、主鎖の切断作用を促進するように働くものであれば好ましい。無機アルカリ(A)は、アルカリ金属の水酸化物又は炭酸塩等として添加され、被覆樹脂剥離液L中にイオンとして分散される。本明細書で「無機アルカリ」は、アルカリ金属の水酸化物やその炭酸塩であったり、被覆樹脂剥離液L中に分散されたアルカリイオン状態であったり、各状態を含む用語として適宜に用いる。
無機アルカリ(A)としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等から選ばれる1つ以上を挙げることができる。中でも、被覆樹脂の剥離性向上の観点から、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムから選ばれる1つ以上であれば好ましく、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方が特に好ましい。
【0029】
無機アルカリ(A)の含有割合は、特に限定されないが、成分A、成分B及び成分Cの全量を100質量%(以下、単に%という。)、上限が30%以下、好ましくは25%以下とすることができる。A成分が30%を超えて含まれると、被覆樹脂剥離液Lを扱う上で留意を要することがある。
更に、更に成分Dを含む成分A~成分Dの全量を100%とした場合、A成分の含有割合は、前記の如く、30%以下、好ましくは25%以下とすることもできるが、その上限が10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、更に3%以下、更に好ましくは2%以下とすることができる。
総じて、無機アルカリ(A)の含有割合は、大きいと、被覆樹脂を剥離するためには有利に作用し得るが、イオン化傾向が大きな導体線材料に対しては影響が生じる場合があると考えられる。そのために、無機アルカリ(A)の含有割合は、少な目にとどめることが好ましいが、これに限らず、剥離効果を犠牲にしないために特に3%以下程度とすることができる。
【0030】
また、A成分の含有割合は、成分A、成分B及び成分Cの3成分の場合でも、これにD成分を加えた4成分の場合でも、その下限が0.4%以上、好ましくは0.5%以上、更に好ましくは0.8%以上、或いは、1%以上、更には2%以上であってもよい。無機アルカリ(A)の含有割合の下限がこの範囲にあれば、被覆樹脂の結合官能基を切断する物質量を維持し結合官能基を切断作用する反応を促進できる。
【0031】
前記A成分の含有割合は、上記いずれの上下限の組合せも用いることができる。
特に好ましい組み合わせとしては、前記3成分の場合は1~30%、好ましくは2~25%の範囲にあればよく、前記4成分の場合は、0.4~10%、より好ましくは0.4~6%、更に好ましくは0.5~4%、更に好ましくは0.6~4%、更に好ましくは0.8~3%、更に好ましくは0.8~2%とすることができる。
無機アルカリ(A)の含有割合が大きい場合、被覆樹脂を容易に剥離できるため好ましい。また、無機アルカリ(A)の含有割合が少ない場合は、金属への影響を少なくできるので好ましい。
【0032】
[アルカノールアミン(B)]
本実施形態の炭素数1~10のアルカノールアミン(B)は、アルカン骨格を有しヒドロキシ基を結合するアミンであり、一般式〔N・R・R・R〕として表される。但し、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素、直鎖若しくは分岐の炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6の直鎖若しくは分岐のアルキルアルコールであり、R、RおよびRの少なくとも1つは、アルキルアルコールである。
被覆樹脂剥離液Lがアルカノールアミン(B)を含む場合、エステル基、イミド基及びアミド基等の切断作用が進むと考えられるため、被覆樹脂溶解後の残余の被覆樹脂端縁部と露出する導体線との境界明確性がより確実に維持される。
【0033】
アルカノールアミン(B)は、特に限定されないが、第1級又は第2級アミンが好ましい。R,R,Rは水素及びアルキル基のいずれか1つ以上からなり、また、アルキルアルコールの炭素数は、特に限定されないが、水(C)に容易に混和する観点から、好ましくは6以下、より好ましくは4以下とすることができる。
具体的には、アルカノールアミン(B)は、Rがエタノールである第1級のアルカノールアミン〔NH・R〕であれば、モノエタノールアミン;
同様にRがエタノールである第2級のアルカノールアミン〔NH・R・R〕であれば、N-メチルエタノールアミン、N-プロピルエタノールアミン、N-イソプロピルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン及びジエタノールアミン;
アルキルアルコールが、プロパノール、ブタノール、ペンタノール及びヘキサノール等々である場合も、以下同様に例示でき、アルカノールアミン(B)は、これらの中から選択される1以上であればよい。
【0034】
これらのうち、アルカノールアミン(B)は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン及びN-(2-アミノエチル)プロパノールアミンの中から選択される1以上であれば好ましく、特に、モノエタノールアミン及びジエタノールアミンであれば好ましい。
【0035】
B成分の含有割合は、特に限定されないが、A成分、B成分及びC成分の合計を100%とした場合、90%以下、好ましくは60%以下とすることができる。
また、A成分、B成分、C成分及びD成分を含む場合、又は更にE成分を含む場合、B成分の含有割合は、それらの成分の合計が100%のとき、50%以下、好ましくは40%以下、更に好ましくは38%以下とすることができる。アルカノールアミン(B)が90%を超えて含まれると、相対的に水(C)の含有割合が少なくなることから、被覆樹脂剥離液L中に無機アルカリ(A)が溶けにくくなる傾向があり、また、B成分の含有割合を抑えることで、剥離液の安全上の取扱いをよくできる。
【0036】
また、B成分の含有割合は、A成分、B成分及びC成分の合計を100%とした場合、30%以上、好ましくは40%以上とすることができる。。
A成分、B成分、C成分及びD成分を含む場合、又は更にE成分を含む場合、B成分の含有割合は、10%以上、好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上とすることができる。アルカノールアミン(B)の含有割合が10%より少ないと、被覆樹脂の結合官能基切断に寄与する物質量が少なくなる傾向が考えられる。
【0037】
前記B成分の含有割合は、上記いずれの上下限の組合せも用いることができるが、好ましい組み合わせとしては、A成分、B成分及びC成分を含みこれらの合計を100%とした場合、30~90%、好ましくは40~90%とすることができる。また、A成分、B成分、C成分及びD成分を含みこれらの合計を100%とする場合、B成分の含有割合は、10~80%、10~60%、好ましくは10~50%、10~40%、更に好ましくは15~40%とすることができる。また、A成分、B成分、C成分、D成分及びE成分を含みこれらの合計を100%とする場合10~50%、好ましくは15~40%、更に好ましくは20~40%とすることができる。
また、A成分、B成分、C成分及びD成分を含む場合、又は更にE成分を含む場合のいずれの場合において、A成分、B成分、C成分及びD成分の合計を100%とする場合、B成分の含有割合は、10~80%、好ましくは10~60%、更に好ましくは15~60%、更に好ましくは20~60%、更に好ましくは10~50%、更に好ましくは15~50%、更に好ましくは20~50%とすることができる。
【0038】
[水(C)]
水(C)の種類は、特に限定されず、例えば、蒸留水であっても、水道水であっても、イオン交換水であっても、いずれでもよい。
被覆樹脂剥離液Lが水を含む場合、処理液中に無機アルカリ(A)を速やかに溶解及び分散できる。また、水(C)を含むことによって、無機アルカリ(A)及びアルカノールアミン(B)による加水分解作用を促進できると考えられる点で、好ましい。水(C)を含むことは、被覆樹脂の種類にもよるが、アルカリ水溶液中でその結合官能基を切断作用することによって、被覆樹脂を溶解させるための被覆樹脂剥離処理に要する時間短縮に寄与できる。
【0039】
水(C成分)の含有割合は、特に限定されない。
A成分、B成分及びC成分の場合その合計を100%としたとき、C成分の含有割合は上限が50%以下、40%以下、好ましくは35%以下とすることができる。A成分、B成分、C成分及びD成分を含む場合、又は更にE成分を含む場合のいずれの場合において、各4成分又は5成分の合計を100%とする場合、C成分の含有割合は、その上限が40%以下、好ましくは35%以下、25%以下、15%以下、更に好ましくは10%以下程度であればよい。水(C)が40%以下であると、他成分の含有割合とのバランスを図ることができる。
【0040】
また、水(C)の含有割合は、A成分、B成分及びC成分の場合その合計を100%としたとき、下限が8%以上、好ましくは10%以上程度であればよい。A成分、B成分、C成分及びD成分を含む場合、又は更にE成分を含む場合のいずれの場合において、各4成分又は5成分の合計を100%とする場合、C成分の含有割合は、その下限が1%以上、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上とすることができるし、また10%以上、20%以上とすることもできる。。
水(C)の含有割合の下限は、他成分の含有割合とのバランスを図りながら及び被覆樹脂剥離液Lの使用方法を考慮して見通す必要がある。例えば、被覆樹脂剥離液L中の無機アルカリ(A)の含有割合が5質量%以下で極少ない場合、これに応じて2質量%以上程度であればよい。また、被覆樹脂剥離液Lを加熱しながら剥離処理を行う場合、他の成分よりも相対的に水(C)の沸点が低いために、その含有割合は、被覆樹脂剥離液Lを繰り返し用いる間に経時変化しやすい。例示した上記の水(C)の含有割合は、処理時に上記範囲にあればよく、処理前(加熱前)の水(C)の含有割合は、予め蒸散を見込んで上記値よりも大きくても構わない。
【0041】
被覆樹脂剥離液L中の水(C成分)の含有割合は、上記いずれの上下限の組合せも用いることができる。その好ましい組み合わせとしては、A成分、B成分及びC成分の合計を100%とした場合、8~40%、好ましくは10~35%とすることができる。また、C成分の含有割合は、A成分、B成分、C成分及びD成分、又は更にE成分を含む場合、これらの成分の合計を100%とする場合、2~40%、好ましくは2~35%、より好ましくは2~25量%、更に好ましくは2~15%とすることができる。
【0042】
前記A成分、B成分及びC成分の好ましい含有割合の組み合わせは、A成分、B成分及びC成分の合計を100%とした場合、A成分が1~30%、B成分が30~90%及びC成分が8~40%、更に好ましくは、A成分が2~25%、B成分が40~86%及びC成分が10~35%とすることができる。
前記のように無機アルカリ(A)、アルカノールアミン(B)及び水(C)の含有割合の組み合わせが好ましければ、被覆樹脂剥離液Lは、所定の被覆樹脂を溶解剥離させる溶解剥離型の被覆樹脂剥離液として好ましく作用する。剥離されないで残る被覆樹脂の端縁部と、被覆樹脂の端部から露出する導電線との境界明確性が担保されるため、被覆樹脂を化学的に剥離処理する作業において、生産性向上に寄与することができる。
【0043】
[非プロトン性極性溶媒(D)]
本被覆樹脂剥離液Lが非プロトン性極性溶媒(D)を含む場合、非プロトン性極性溶媒(D)は、沸点が100℃以上であり、上記無機アルカリ(A)、アルカノールアミン(B)及び水(C)を溶解及び混和する炭素数2~6の範囲内のものであれば好ましい。非プロトン性極性溶媒(D)の極性及び非プロトン性は、所定の溶解度パラメータに基づいて特定され、即ち、非プロトン性極性溶媒(D)は、単位として(cal/ml)0.5で表される4.3以上のハンセン極性パラメータ、2.0以上5.6以下のハンセン水素結合パラメータを有する。
被覆樹脂剥離液Lが非プロトン性極性溶媒(D)を含む場合、無機アルカリ(A)由来のカチオンへの溶媒和効果によって、被覆樹脂の繰り返し単位を接続する結合部分である官能基に求核的に作用する剤(例えばOH)の自由度が高められると考えられる。例えば、被覆樹脂が、ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂及びポリエステル樹脂等であれば、その主鎖中のイミド基、アミド基及びエステル基等の結合部切断を支援でき、速やかに被覆樹脂を被覆樹脂剥離液L中に溶解させるため、特に被覆樹脂を溶解剥離させる場合に、これら高耐熱性の被覆樹脂剥離処理に要する時間を短縮できる。
【0044】
ここで、ハンセン溶解度パラメータ(δ)の値は、分散性(δ)、極性(δ)及び水素結合性(δ)に基づいて算出される。ハンセン溶解度パラメータは、通常、(MPa)0.5又は(cal/ml)0.5のいずれかの単位によって表されるが、本明細書では、「(cal/ml)0.5」を用いるものとする。
種々の溶媒一覧のパラメータ値は、インターネット(http://www.stenutz.eu/chem/solv24.php?sort=1)に開示されている。沸点が100℃以上、且つ、上記パラメータ値に基づいて特定される非プロトン性極性溶媒(D)を例示すると、硫酸ジエチル、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」とも記す)、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」とも記す)、N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」とも記す)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(以下、「DMI」とも記す)、オキソラン-2-オン(γ-ブチルラクトン)及びチオラン-1-オキシド、ニトロメタン及びピリジン等を挙げることができる。
非プロトン性極性溶媒(D)は、具体的には、上記の中から選択される1以上であればよいが、好ましくは、窒素原子及び硫黄原子のいずれかを含むDMSO、NMP、DMF及びN,N-ジメチルアセトアミドから選択される1以上であればよく、特に、NMP、DMF及びDMSOが好ましい。
【0045】
非プロトン性極性溶媒(D)が上記の中から選択される1以上である場合は、無機アルカリ(A)由来のアルカリ水溶液のみよりなる処理液よりも、被覆樹脂を穏やかに剥離乃至溶解し且つ溶解処理する時間を同等に維持できる。また、非プロトン性極性溶媒(D)は、無機アルカリ(A)水溶液やアルカノールアミン(B)と均一に混和する点や、沸点が100℃以上で比較的高いため、剥離処理時の温度を高くすることで被覆樹脂の溶解速度を大きくでき得る点において、好ましい。
【0046】
非プロトン性極性溶媒(D)の含有割合は、特に限定されないが、A成分、B成分、C成分及びD成分の場合又は更にE成分を含む場合、これらの成分の合計を100%とするとき、80%以下、好ましくは60%以下とすることができ、また40%以下とすることができる。更に、A成分、B成分、C成分及びD成分の場合又は更にE成分を含む場合、これらの成分の合計を100%とするとき、このD成分の含有割合は、10%以上、好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上、更に好ましくは28%以上とすることができる。前記上下限は適宜組み合わせて使用することができる。
被覆樹脂剥離液L中に含まれる非プロトン性極性溶媒(D)の含有割合は、他成分や他溶媒との混和性、穏やかに被覆樹脂を剥離処理する速度向上の観点から判断される。被覆樹脂剥離液L中、非プロトン性極性溶媒(D)の含有割合が多過ぎると、求核剤との反応活性が低い結合官能基を有する被覆樹脂を剥離処理する場合、他成分の含有割合とのバランスが悪くなる。非プロトン性極性溶媒(D)の含有割合が少な過ぎると、求核剤との反応活性が高い結合官能基を有する被覆樹脂を剥離処理する場合、穏やか且つ速やかに被覆樹脂を剥離処理する効果が得られにくくなる。被覆樹脂の結合官能基によっては、その官能基と求核剤との反応活性が高かったり低かったりするので、非プロトン性極性溶媒(D)の含有割合のバランスを適宜に図ることで、種々の被覆樹脂に対応する被覆樹脂剥離液Lの汎用性を高めることができる。
【0047】
前記D成分の含有割合は、上記いずれの上下限の組合せも用いることができるが、好ましい組み合わせとしては、A成分、B成分、C成分及びD成分の場合、又は、B成分、C成分及びD成分の場合、それらの合計を100%とした場合、20~80%、好ましくは25~80%とすることができ、また、20~60%、25~60%、20~40%、25~40%、28~40%とすることができる。
【0048】
更にA成分、B成分、C成分、D成分及びE成分の合計を100%とした場合、前記D成分の含有割合は、25~35%、好ましくは25~28%とすることができる。
【0049】
前記A成分、B成分、C成分及びD成分の各成分の好ましい含有割合の組み合わせは、A成分、B成分、C成分及びD成分の合計を100%とした場合、A成分が0.5~8%、B成分が10~80%、C成分が2~40%及びD成分が15~80%、好ましくは、A成分が0.8~6%、B成分が15~75%、C成分が2~35%及びD成分が15~77%、より好ましくは、A成分が0.8~5.5%、B成分が20~70%、C成分が2~30%及びD成分が20~77%、更に好ましくは、A成分が0.8~4%、B成分が20~70%、C成分が2~20%及びD成分が20~60%とすることができる。
無機アルカリ(A)、アルカノールアミン(B)、水(C)及び非プロトン性極性溶媒(D)それぞれの含有割合の組み合わせが好ましければ、被覆樹脂剥離液Lは、所定の被覆樹脂を溶解剥離させる溶解剥離型の被覆樹脂剥離液として好ましく作用する。例えば、被覆樹脂が、ポリイミド系樹脂、ポリイミドアミド樹脂及びポリエステル系樹脂等であれば、被覆樹脂剥離液L中の非プロトン性極性溶媒(D)は、アルカリ加水分解による、その主鎖中のイミド基、アミド基及びエステル基等の結合部切断作用を支援でき、速やか且つ穏やかに被覆樹脂を被覆樹脂剥離液L中に溶解させるため、特に被覆樹脂を溶解剥離させる場合に、これら高耐熱性の被覆樹脂剥離処理に要する時間を短縮できる。従って、被覆樹脂を化学的に剥離処理する作業において、一層生産性向上に寄与することができる。
【0050】
A成分、B成分、C成分及びD成分の特に好ましい含有割合の組み合わせとして、A成分及びC成分の含有量が少ない場合があり、この場合のA成分、B成分、C成分及びD成分の合計を100%としたとき、これらの各成分のうちのA成分が0.5~5%、B成分が15~50%、C成分が2~12%及びD成分が20~80%、好ましくはA成分が0.8~3%、B成分が15~40%、C成分が2~10%及びD成分が25~80%、より好ましくはA成分が0.9~2%、B成分が22~40%、C成分が2~8%及びD成分が25~45%とすることができる。
(A)成分~(D)成分中の(A)成分~(D)成分の含有割合の組み合わせが上記範囲内にあれば、被覆樹脂剥離液L中の無機アルカリ水溶液の含有割合を少なく抑えることができるため、特に、イオン化傾向が大きい導体線材料(例えばアルミニウム)を用いた絶縁導電線の被覆樹脂剥離処理を好ましく行うことができる。また、被覆樹脂剥離液Lは、溶解型剥離型の処理液として好ましく作用し、ポリエステルに加えてポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミド等の耐熱性被覆樹脂を速やか且つ穏やかに剥離処理できる。
前記B成分、C成分及びD成分の各成分の好ましい含有割合の組み合わせは、B成分、C成分及びD成分の合計を100%とした場合、B成分が15~70%、C成分が3~20%及びD成分が20~80%、好ましくは、B成分が15~65%、C成分が4~18%及びD成分が20~80%とすることができる。
【0051】
[アルコール系溶媒(E)]
本実施形態のアルコール系溶媒(E)は、特に限定されないが、沸点が100℃以上であり、炭素数2~6且つ1~3価の直鎖若しくは分岐のアルコール、及び、炭素数2~8且つ1価~3価の芳香族アルコール、のうち少なくとも1以上であれば、好ましい。
被覆樹脂剥離液Lがアルコール系溶媒(E)を含むと、導体線の材料が無機アルカリ(A)水溶液に対して高い反応性を有するものである場合、水(C)と比較すれば、導体線が溶出する反応を抑制できると考えられる。
また、求核剤との反応活性が相対的に低い官能基(例えばエーテル)を結合部に含む被覆樹脂を剥離処理する場合、アルコール系溶媒(E)の水素結合作用による溶媒和効果によって被覆樹脂を膨潤させ、導体線の表面から離間させるように剥離できる。求核剤との反応活性が高い結合官能基を有する被覆樹脂を剥離処理するときには、この樹脂を溶解剥離できるとともに、必ずしも溶解剥離によらずに膨潤させて剥離処理できるため、種々の被覆樹脂に対応する被覆樹脂剥離液Lの汎用性を高めることができる。
【0052】
具体的には、アルコール系溶媒(E)が直鎖又は分岐のアルコールであれば、2-メトキシエタノール(メチルセロソルブ)、2-エトキシエタノール(エチルセロソルブ)、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-1-プロパノール、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2,3-プロパントリオール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール等;
芳香族アルコールであれば、ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコール、ベンゼンジメタノール、メチルベンジルアルコール等;
芳香族アルコールがフェノール骨格を有するものであれば、フェノール、ジヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシベンゼン、メトキシフェノール、ジメトキシフェノール、エトキシフェノール、メチルフェノール(クレゾール)、ジメチルフェノール、エチルフェノール、メチルレゾルシノール、エチルレゾルシノール、メチルトリヒドロキシベンゼン、エチルトリヒドロキシベンゼン等;が挙げられる。
【0053】
アルコール系溶媒(E)は、上記の中から選択される1以上であればよいが、好ましくは、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、フェノール、カテナール、フロログルシノール、クレゾール及びベンジルアルコールから選択される1以上であればよく、特に、2-メトキシエタノール、プロピレングリコール、エチレングリコール、フェノール及びベンジルアルコールが好ましい。
【0054】
アルコール系溶媒(E成分)の含有割合は、特に限定されないが、A成分、B成分、C成分、D成分及びE成分の合計を100%としたとき、この上限が50%以下、45%以下、好ましくは40%以下とすることができる。。また、E成分の含有割合は、この下限が5%以上、好ましくは10%以上、更に好ましくは18%以上とすることができる。。上記上下限の各組合せを用いることができる。
アルコール系溶媒(E)の含有割合が下限値より少ないと、アルカリ水溶液の成分割合が相対的に大きくなる結果、導体線の材料によっては、剥離処理後の導体線表面にその溶出生成物が残り、接触抵抗を増大させる虞がある。アルコール系溶媒(E)の含有割合が上限値より大きいと、アルカリ水溶液の成分割合が相対的に小さくなる結果、アルカリ水溶液によって分解作用する被覆樹脂に対して剥離効果が抑制される虞がある。
【0055】
被覆樹脂剥離液L中のアルコール系溶媒(E)の含有割合は、上記いずれの上下限の組合せも用いることができるが、好ましい組み合わせとしては、A成分、B成分、C成分、D成分及びE成分の合計を100%とした場合、5~50質量%、好ましくは10~45質量%、より好ましくは18~40%とすることができる。
また、前記A成分~E成分の5成分の質量合計の100%に対応し且つ求核剤との反応活性が低い結合官能基を有する被覆樹脂を剥離処理する場合、23~32%の程度の範囲とすることができる。
【0056】
E成分の好ましい含有割合は、上記の好ましい含有割合の組み合わせを有するA成分~D成分の質量合計を100質量部とした場合、E成分が10~80質量部、好ましくは20~80質量部、更に好ましくは20~70質量部とすることができる。
前記の場合、導体線の材料が無機アルカリ(A)水溶液に対して反応性を有するものであっても、被覆樹脂剥離液中に導体線が溶出する反応を抑制できる。しかも、被覆樹脂剥離液Lは、所定の種類の被覆樹脂を溶解剥離させる溶解剥離型の剥離液として好ましく作用するとともに、他の所定の種類の被覆樹脂に対してはこれを主に膨潤剥離させる膨潤剥離型の剥離液としても好ましく作用できる。
或いは、種々の被覆樹脂に対応する被覆樹脂剥離液Lの汎用性の観点から、アルコール系溶媒(E)の特に好ましい含有割合は、上記の好ましい含有割合の組み合わせを有するA成分~D成分の質量合計100%に対して、アルコール系溶媒(E)が24~52%、好ましくは26~50%、更に好ましくは28~48%とすることができる。この場合、被覆樹脂剥離液Lは、具体的にポリエステル、ポリアミドイミド及びポリイミドの被覆樹脂に対して溶解剥離型の剥離液として好ましく作用するとともに、ポリビニルホルマールの被覆樹脂に対してはこれを主に膨潤剥離させる膨潤剥離型の剥離液としても好ましく作用できる。これら被覆樹脂に対応する被覆樹脂剥離液Lの汎用性が、確実に高められ、被覆樹脂を化学的に剥離処理する作業において、一層生産性向上に寄与することができる。
【0057】
(その他の配合成分)
被覆樹脂剥離液Lは、上記した成分の他に、有機酸又は無機酸、特に好ましくは有機酸を含んでもよい。好ましい有機酸としては、ギ酸、フェノール及び複数の水酸基を備えるフェノール類化合物(例えばフロログルシノール)等を挙げることができる。尚、無機酸としてはリン酸又はメタンスルホン酸等を挙げることができる。
被覆樹脂剥離液Lが有機酸を含むと、被覆樹脂が必ずしも求核剤との反応活性が高い結合官能基を有さない場合であっても、膨潤させながら剥離処理することを支援できる。この場合、各種の被覆樹脂に対する被覆樹脂剥離液Lの汎用性を一層確実に高めることができる。また、前記有機酸又は無機酸、特に有機酸を含む場合は、ポリアセタール系樹脂(ポリホルマール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等)の剥離に効果を発揮する。尚、ギ酸、フェノールを100%含む剥離液においては、これ単独でもポリアセタール系樹脂の剥離を行うことができる。
【0058】
また、被覆樹脂剥離液Lは、上記した成分の他に、導体線腐食防止剤や界面活性剤を含んでいてもよい。例えば、導体線の材料が銅であればベンゾトリアゾール等の腐食防止剤、導体線の材料がアルミニウムであればキレスビットAL等の腐食防止剤を挙げることができる。また、界面活性剤としてアニオン系、ニノオン系、カチオン系又は両性系のものが例示され、このうち、ノニオン系のものが好ましい。
【0059】
[被覆樹脂剥離用処理液]
上述した本被覆樹脂剥離液Lを用い、図1に示すように、被覆樹脂剥離用処理液Lが調整される。被覆樹脂剥離用処理液Lは、被覆樹脂剥離液Lを含む剥離処理層Lと、高級脂肪族炭化水素を含むオイル状成分(F)を含み、剥離処理層Lと分離して剥離処理層L上に配される蒸散防止層Lと、を有することを特徴とする。被覆樹脂剥離用処理液Lは、被覆樹脂剥離液Lにオイル状成分(F)を混合して得られる。
【0060】
剥離処理層Lは、上記被覆樹脂剥離液Lを主成分とし、上記各剥離成分を含む極性溶媒相を形成する。即ち、剥離処理層Lは、剥離成分として少なくとも無機アルカリ(A)、アルカノールアミン(B)、水(C)を含み、好ましくは、非プロトン性極性溶媒(D)及びアルコール系溶媒(E)等を同一相中に含むものである。被覆樹脂剥離液Lの含有割合は、剥離処理層L中ほぼ100%であっても構わない。
【0061】
蒸散防止層Lは、高級脂肪族炭化水素を含むオイル状成分(F)を主成分とする非極性溶媒相を形成する。オイル状成分(F)の含有割合は、蒸散防止層L中ほぼ100%であっても構わない。蒸散防止層Lは、被覆樹脂剥離用処理液Lを加温して使用する際に剥離処理層L中の上記各剥離成分(A)~(E)の蒸散を防止したり、又は、処理後に剥離されないで残る被覆樹脂の端縁部と被覆樹脂の端部から露出する導電線との境界を明確にするために設けられる。
オイル状成分(F)は、例えば、炭素数が20以上の高級脂肪族炭化水素のうち、常温で液体、非揮発性、水に不溶であるものがよく、具体的には、ホワイト油、白色鉱油、ミネラルオイル等の流動パラフィンと総称されるオイルを挙げることができる。
【0062】
被覆樹脂剥離用処理液Lは、オイル状成分(F)が剥離処理層Lの上面(図1中、被覆樹脂剥離液Lの液面S参照)をシールするようにその上層に配置し、剥離成分の蒸散を防止する蒸散防止層Lを備える。剥離処理層Lの剥離成分中、特に沸点が低い水(C)の蒸散を防止できるため、被覆樹脂の剥離処理するために、被覆樹脂剥離用処理液Lを加熱して用いる場合であっても、水(C)が目減りすることを防止できる。被覆樹脂剥離液Lの被覆樹脂溶解能力及び膨潤能力が維持され、剥離処理を行う度に剥離成分の度々の追加を要さず、被覆樹脂剥離用処理液Lをそのまま繰り返し用いることができる点、及び作業環境の安全性が高められる点で、好ましい。
【0063】
被覆樹脂剥離用処理液L中、剥離処理層L:蒸散防止層Lの質量比は、剥離処理層L「100」に対して、蒸散防止層Lが「0.5~15」、好ましくは「0.7~10」、更に好ましくは「0.9~8」程度であればよい。蒸散防止層Lの割合が下限値より少ないと、蒸散防止効果又は境界明確化効果が抑制されかねず、上限値より多いと、オイル状のベタ付きが強調されて被覆樹脂剥離用処理液Lの取り扱い性が損なわれかねない。
【0064】
[被覆樹脂溶解処理方法、又は導体線の再利用方法における被覆樹脂溶解処理方法]
図1及び図2に示すように、上述した被覆樹脂剥離液Lを用いて絶縁導電線10の被覆樹脂11を溶解処理する方法は、例えば以下1)~5)のように行える。
1)75℃以上120℃以下に被覆樹脂剥離液Lを加熱し、この中に被覆樹脂11で覆われた絶縁導電線10の一部分(通常は先端部)を浸漬する。
2)浸漬時間は、30分以内を目安とする。
3)被覆樹脂剥離液L中に浸漬する被覆樹脂11が溶解する
4)被覆樹脂11に覆われていた導体線12が露出する。
5)被覆樹脂剥離液L中から絶縁導電線10を取り出す。
取り出した絶縁導電線10は、露出する導体線12の一部(図2の導体線先端部12a参照)に対して溶け残りの樹脂成分を拭う等の作業を要さずに、用いることができる。
【0065】
被覆樹脂剥離液L(或いは、被覆樹脂剥離用処理液L)を加熱する際、被覆樹脂剥離液Lの温度の下限値は、通常は75℃以上、好ましくは80℃以上、更に好ましくは85℃以上とすることができる。同じく上限値の目安は、適宜、目的、所望の効果及び用途に応じて、120℃、110℃、100℃以下、98℃以下、97℃以下、又は95℃以下とすることができる。そして、この処理温度は前記下限値又は上限値の種々の組み合わせとすることができる。被覆樹脂剥離液Lの温度が好ましい範囲内であれば、絶縁導電線10を被覆樹脂剥離液L中で剥離処理する浸漬時間を短縮しながら、加熱による被覆樹脂剥離液Lの熱劣化を防ぐことができる。例えば、被覆樹脂剥離液Lを80~110℃、80~100℃、80~98℃、80~97℃、85~110℃、85~100℃、85~98℃、85~97℃、90~110℃、90~100℃、90~98℃、90~97℃とすることができる。前記の場合、20~30分以内、特に20分以内の浸漬時間で被覆樹脂11を溶解剥離又は膨潤剥離することができる。なお、被覆樹脂剥離液Lの温度が高い方が処理時間を短縮でき、また、それが低い方は処理時間が長くなるものの、被覆樹脂剥離液Lを繰返し用いる回数を多くできる。また、処理温度を高めの85~120℃、85~110℃、90~120℃、90~110℃又は95~120℃又は95~110℃とする場合、処理時間を5~20分程度、更に5~15分程度とすることもできる。
【0066】
(蒸散防止層)
本被覆樹脂溶解処理方法では、好ましくは、被覆樹脂剥離液Lの上に、高級脂肪族炭化水素を含む上記オイル状成分(F)を含む水の蒸散防止層Lを設けてもよい(図1参照)。つまり、剥離処理を開始する前に、上記被覆樹脂剥離用処理液Lを予め用意して、これを直接加熱する方法でも構わないが、剥離処理を行うときに、被覆樹脂剥離液L中に、オイル状成分(F)を添加する方法であっても構わない。被覆樹脂溶解処理方法において、このように蒸散防止層を設けるタイミングは、特に限定されないが、水の蒸散をなるべく多く防止するために、被覆樹脂剥離液Lを加熱する前であれば好ましい。なお、被覆樹脂剥離液Lの上に1度蒸散防止層を設ければ、その後、この被覆樹脂剥離液Lを繰り返し用いる度に、オイル状成分(F)の添加を要さない。即ち、最初の被覆樹脂剥離処理方法を実施した後、最初の処理後において残存する被覆樹脂剥離液Lを続けて使用してもよい。
このように、本被覆樹脂剥離処理方法は、絶縁導電線の被覆樹脂を化学的に剥離するための処理液において、被覆樹脂を除去する生産性改善に寄与することができる。
【0067】
また、本被覆樹脂剥離処理方法において、導体線の材料が異なる場合において、更に被覆樹脂の種類が異なる場合においても、1種類の被覆樹脂剥離液Lを使用してもよい。従って、本被覆樹脂剥離処理方法は、絶縁導電線の被覆樹脂を化学的に剥離するための処理液において、被覆樹脂を除去する生産性改善に寄与することができる。
異なる導体線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金を挙げることができ、この中から選択される異なる材料よりなる導体線を用いた絶縁導電線を、複数本同時に剥離処理してもよい。
異なる被覆樹脂の種類としては、ポリアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリエーテルイミド樹脂を挙げることができ、この中から選択される1つの被覆樹脂を用いた絶縁導電線を、複数本同時に剥離処理してもよい。
【実施例
【0068】
以下、本発明の実施例を説明する。
〔試験例A〕
本試験例は、表1に示す剥離液を用いて下記の試験方法により試験を行い、その試験結果を表2に示す。
(絶縁導電線10)
まず、図1に示すように、繰り返し単位に少なくともイミド基又はエステル基を含む被覆樹脂11によって導体線12の周面が覆われる平角線状の絶縁導電線10を準備した。絶縁導電線10の形状は、導体線12の外形状の略相似大形であり、導体線12の横断面は、やや弧状に膨出する一対のR状短辺121rを有する略長方形状であった。
導体線12の材料としては、銅とアルミニウムの2種類を用いた。被覆樹脂11の材料としては、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂及びポリイミド樹脂の3種類を用いた。各被覆樹脂11の厚みは、約0.5(mm)であった。
絶縁導電線10は、図3に示すように、エッジワイズに捲回しマグネットワイヤー101aとして用いられるものであり、本実施例の評価試験を行うために、長手方向に所定長を切り出したものを用いた。
【0069】
(被覆樹脂剥離液L)
次に、被覆樹脂剥離液を組成する成分として以下のものを用いた。成分(A)のKOHは、48質量%の水溶液として調製した。成分(B)のモノエタノールアミンは、予め水分を10質量%含むものであった。リン酸は、予め水分を15質量%含むものであった。下記の各成分を加えて混合し、No.1~14の被覆樹脂剥離液Lを調製した。各被覆樹脂剥離液L中に含まれる成分及びその含有割合を表1に示した。
(1)無機アルカリ(A):
KOH
(2)アルカノールアミン(B):
モノエタノールアミン(MEA)
(3)水(C):
KOH水溶液、リン酸水溶液及びモノエタノールアミンに予め含まれる水分(C)と、被覆樹脂剥離液Lに別途添加した添加水(C)とを含む。
(4)非プロトン性極性溶媒(D):
N-メチルピロリドン(NMP)
ジメチルスルホキシド(DMSO)
(5)アルコール系溶媒(E):
プロピレングリコール(PG)
ベンジルアルコール(BzA)
(6)オイル状成分(F):
モレスコホワイト(MORESCO社製)
(7)アルミニウム腐食防止剤
キレスビットAL(キレスト社製)
(8)有機酸
リン酸
【0070】
【表1】
【0071】
(被覆樹脂溶解処理方法)
図1に示すとおり、上記のようにして得られたNo.1~14の被覆樹脂剥離液Lをそれぞれ容器中に注ぎ、予め調温したオイルバスに浸漬させて95℃まで加熱し、そのまま当該温度に維持した。この際、No.4,7~10,13の被覆樹脂剥離液Lには、加熱前に、質量比で、被覆樹脂剥離液L「100」に対して、モレスコホワイトを「1」加えた。そして、絶縁導電線10の一端の先端部(図1中、符号11aに対応する)を、静置した上記容器中のNo.1~14の各被覆樹脂剥離液Lに浸漬した。各被覆樹脂剥離液Lに接触する被覆樹脂先端部11aが剥離するまで最大1時間を目安として、そのまま絶縁導電線10を浸漬させた。
【0072】
(剥離性評価)
No.1~14の被覆樹脂剥離液L中に浸漬した被覆樹脂先端部11aが剥離するに至るまでの状態を観察し、被覆樹脂の剥離性に関して以下の評価を行った。
〈剥離処理に要する浸漬時間〉
被覆樹脂先端部11aが剥離した後に、図2に示すように、露出する導体線先端部12aと被覆樹脂11の端縁部11bとの境界が明確であり且つ被覆樹脂先端部11aが被覆樹脂剥離液L中に溶解する剥離態様で除去されるに至ることを「溶解剥離」とする判定を行った。「溶解剥離」するまで被覆樹脂溶解処理に要した浸漬時間に関して以下の基準に基づいて評価した。また、No.1~11の被覆樹脂剥離液Lを用いた場合を実施例1~11、No.12~14の被覆樹脂剥離液Lを用いた場合を比較例1~3として、被覆樹脂剥離処理を行った剥離性評価の結果を表3に示した。

◎:30分以内の浸漬時間で「溶解剥離」又は「膨潤剥離」した
〇:1時間以内の浸漬時間で「溶解剥離」又は「膨潤剥離」した
×:1時間の浸漬時間を超えても被覆樹脂を除去できなかった。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示されるとおり、No.1~11の被覆樹脂剥離液Lを用いた実施例1~11では、絶縁導電線10の各被覆樹脂11を溶解剥離できることが解った。表1に示すとおり、No.1~11の被覆樹脂剥離液Lは、無機アルカリ(A)としてKOH、アルカノールアミン(B)としてモノエタノールアミン及び水(C)を含むものであった。対して、No.12の被覆樹脂剥離液Lは、無機アルカリ(A)及びアルカノールアミンに代えてリン酸を含むものであり、No.13,14の被覆樹脂剥離液Lは、無機アルカリ(A)を含まないものであった。結果、No.12~14の被覆樹脂剥離液Lを用いた比較例1~3では、被覆樹脂11を溶解する能力を有さないことが解った。
【0075】
実施例1~11によれば、被覆樹脂11が、繰り返し単位を接続する結合部としてエステル基、アミド基及びイミド基等の官能基を含むものであれば、被覆樹脂剥離液L中に浸漬される被覆樹脂11は、水(C)中に溶解する無機アルカリ(A)とともにアルカノールアミン(B)によっても、加水分解により主鎖中の結合部が切断され、分子量が低下し、更には分解に至ると考えられる。実施例1~11のポリアミドイミド、ポリエステル及びポリイミドの被覆樹脂11に対しては、被覆樹脂剥離液Lは、溶解剥離型として作用すると考えられる。このように、実施例1~11では、被覆樹脂11を膨潤させながら被覆樹脂11と導体線12の表面との相互作用を弱めて引き剥がす剥離を前提としないため、被覆樹脂剥離液L中に浸漬されなかった被覆樹脂11の端縁部11bの形状は、被覆樹脂剥離液Lの液面Sとの接触ラインSLに沿ってそのまま水平に残るものであり(図1,2参照)、被覆樹脂溶解後に露出する導体線先端部12aと残余の被覆樹脂11の端縁部11bとの明確な境界が一層確実に維持された。元の被覆樹脂先端部11aは、導体線先端部12aの表面に溶け残ったり、或いは膨潤しながら導体線先端部12aの表面から斑な凹凸状に浮き上がったりしなかった。これらを除去する作業が必要無かったので、絶縁導電線10の被覆樹脂11を化学的に除去する作業において、被覆樹脂剥離処理の生産性を高めることができた。
【0076】
具体的には、本実施例の被覆樹脂剥離液Lを用いて被覆樹脂11を剥離処理した場合、95℃の被覆樹脂剥離液L中に絶縁導電線10の一部分を浸漬し、20分以内の浸漬時間で被覆樹脂先端部11aを溶解し、導体線先端部12aを露出させることができた。
【0077】
また、本実施例に係る絶縁導電線10は、マグネットワイヤー101aであり、導体線12は、マグネットワイヤー101aと同様に平角線である。
従って、マグネットワイヤーの被覆樹脂用途に適した組成の樹脂に特化して、被覆樹脂剥離液に対する溶解性を調節できた。ポリイミドやポリアミドイミド等のポリイミド系樹脂及びポリエステル系樹脂は、種々の用途に応じて骨格や組成が異なるものであるため、用途に応じた組成毎に、被覆除去処理液に対する剥離性も相違すると考えられる。例えば、マグネットワイヤーの被覆樹脂として用いられるポリイミド系樹脂及びポリエステル系樹脂の組成は、ワイヤーの捲回作業に耐える可撓性、導体線との熱膨張差に起因して生じる応力への耐性等の特定の要求物性に適すべき点で特殊なものであり、これに適した被覆樹脂剥離液Lを調整できた。
また、絶縁導電線が、通常、剥離刃やレーザー光線を用いた物理的剥離が困難な導体線形状として代表的な平角線を絶縁被覆したものであっても、化学的に被覆樹脂を溶解処理することによって、容易にこれを取り去ることができた。
【0078】
〔試験例B〕
本試験例は、表3に示す剥離液を用いて前記試験例Aと同様の方法で試験を行い、その試験結果を表4に示す。
(絶縁導電線10)
被覆樹脂11の材料として、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂及びポリビニルホルマール樹脂、即ちポリイミド樹脂に代えてポリビニルホルマール樹脂を用いて合計3種類の被覆樹脂を試験したこと以外は〔試験例A〕同様の絶縁導電線10を用いた。
【0079】
(被覆樹脂剥離液L,被覆樹脂剥離用処理液L
また、被覆樹脂剥離液Lを組成する成分として、新たに下記のものを用いた。即ち、アルコール系溶媒(E)としてフェノール及びフロログルシノールを用い、並びにギ酸を用いたこと以外は〔試験例A〕同様に、No.15~25の被覆樹脂剥離液Lを調製した。各被覆樹脂剥離液L中に含まれる成分及びその含有割合を表3に示した。
(1)アルコール系溶媒(E):
フェノール
フロログリシノール
(2)有機酸
ギ酸
【0080】
【表3】
【0081】
(被覆樹脂剥離用処理液L
No.18~20の上記各被覆樹脂剥離液Lに、〔試験例A〕と同じオイル状成分(F)を添加し、被覆樹脂剥離液Lを含む剥離処理層Lと、オイル状成分(F)を含み剥離処理層Lと分離して剥離処理層L上に配される蒸散防止層Lと、を有するNo.18~20の被覆樹脂剥離用処理液Lを調合した(図1参照)。各被覆樹脂剥離用処理液Lにおいて、剥離処理層Lは被覆樹脂剥離液Lであり、蒸散防止層Lはオイル状成分(F)であった。被覆樹脂剥離液L:モレスコホワイトの質量比は、No.18~20の各被覆樹脂剥離液L「100」に対してモレスコホワイトが「6」であり、それぞれ同じであった。なお、以下、No.18~20の「被覆樹脂剥離用処理液L」を、適宜に、それぞれのNo.の「被覆樹脂剥離液L」としても記す。
【0082】
(被覆樹脂剥離処理方法)
〔試験例A〕同様に、被覆樹脂剥離処理を行った。即ち、No.15~25の被覆樹脂剥離液L(或いは、No.18~20の被覆樹脂剥離用処理液L)を、95℃まで加熱し、そのまま当該温度に維持した。尚、試験例21―4、24―1の場合は加熱温度を100℃とした。そして、各被覆樹脂剥離液Lに接触する被覆樹脂先端部11aが剥離するまで、最大1時間を目安として、そのまま絶縁導電線10を浸漬させた。
【0083】
(剥離性評価)
No.15~25の被覆樹脂剥離液L中に浸漬した被覆樹脂先端部11aが剥離するに至るまでの状態を観察し、被覆樹脂の剥離性に関して以下の評価を行った。
〈1.剥離態様〉
被覆樹脂11の剥離した後に、〔試験例A〕同様に、露出する導体線先端部12aと被覆樹脂11の端縁部11bとの境界が明確であり且つ被覆樹脂先端部11aが被覆樹脂剥離液L中に溶解する剥離態様で除去されるに至ることを「溶解剥離」とし、露出する導体線先端部12aと被覆樹脂11の端縁部11bとの境界が明確であり且つ被覆樹脂11が被覆樹脂剥離液L中で膨潤しながらそのまま導体線の表面から浮き上がるように剥がれることで除去されるに至ることを「膨潤剥離」とする判定を行った。「溶解剥離」及び「膨潤剥離」するまで被覆樹脂溶解処理に要した時間に関して以下の基準に基づいて評価した。また、No.15~20の被覆樹脂剥離液Lを用いた場合を試験例15~20、No.21~25の被覆樹脂剥離液Lを用いた場合を試験例21~25として、被覆樹脂剥離処理を行った剥離性評価の結果を表4に示した。

◎:30分以内の浸漬時間で「溶解剥離」した
:30分以内の浸漬時間で「膨潤剥離」した
○:1時間以内の浸漬時間で「溶解剥離」又は「膨潤剥離」した
×:1時間の浸漬時間を超えても被覆樹脂を除去できなかった。
【0084】
【表4】
【0085】
表4に示されるとおり、No.15~20の被覆樹脂剥離液Lを用いた試験例15~20では、絶縁導電線10のポリアミドイミド、ポリエステル及びポリビニルホルマールの各被覆樹脂11を溶解剥離及び膨潤剥離できることが解った。表3に示したとおり、No.15~20の被覆樹脂剥離液Lは、無機アルカリ(A)としてKOH、アルカノールアミン(B)としてモノエタノールアミン、水(C)、非プロトン性極性溶媒(D)としてNMP、アルコール系溶媒(E)としてベンジルアルコール又はフェノールを含むものであった。
【0086】
試験例15~20によれば、被覆樹脂11の結合官能基が、エステル基、アミド基及びイミド基のいずれかを含むポリアミドイミド及びポリエステルであれば、〔試験例A〕同様に、被覆樹脂剥離液L中に浸漬される被覆樹脂11は、水(C)中に溶解する無機アルカリ(A)とともにアルカノールアミン(B)によっても、加水分解により鎖中の結合部が切断され、分子量が低下し、更には分解に至ると考えられる。
被覆樹脂11がポリビニルホルマールであり、結合官能基が、アルデヒドに酸触媒下でアルコールを縮合させて得られるアセタール基を含むものであれば、アセタール基は、水(C)や温和な酸の存在下で元のアルデヒド及びアルコールに平衡を戻すと考えられる。ポリビニルホルマールが、元のアルコールとアルデヒドに戻ると、被覆樹脂剥離液L中の水(C)やアルコール系溶媒(E)による溶媒和が進行し、被覆樹脂は、鎖を解きながら導体線の表面から剥がれて「膨潤剥離」できるものと考えられる。試験例15~20に係るポリビニルホルマールの被覆樹脂11に対しては、被覆樹脂剥離液Lは、膨潤剥離型として作用すると考えられる。実際に、ポリビニルホルマールの被覆樹脂は、膨潤しながら導体線先端部12aの表面から斑な凹凸状に浮き上がる剥離態様ではなかった。
【0087】
試験例21より、KOH、MEA及び水を表示の含有割合で含むNo.21の被覆樹脂剥離液Lは、ポリアミドイミド及びポリエステルである被覆樹脂に対して「溶解剥離型」として作用することが分かった。
試験例22より、KOH、MEA、水、NMP、BzA及びフェノール(46.2質量%)を表示の含有割合で含むNo.22の被覆樹脂剥離液Lは、ポリエステル及びポリビニルホルマールである被覆樹脂に対して「溶解剥離型」として作用し、ポリアミドイミドである被覆樹脂に対して「溶解剥離型」として作用し得ることが分かった。
試験例23より、KOH、MEA、水、NMP、BzA及びフェノール(10.0質量%)を表示の含有割合で含むNo.23の被覆樹脂剥離液Lは、ポリエステルである被覆樹脂に対して「溶解剥離型」として作用し、ポリビニルホルマールである被覆樹脂に対して「膨潤剥離型」として作用し、ポリイミドアミドである被覆樹脂に対して「溶解剥離型」として作用し得ることが分かった。
試験例24より、KOH、MEA、水、NMP、BzA及びフロログルシノール(24.6質量%)を表示の含有割合で含むNo.24の被覆樹脂剥離液Lは、ポリビニルホルマールである被覆樹脂に対して「膨潤剥離型」として作用し、ポリイミドアミドである被覆樹脂に対しては剥離し難いことが分かった。
試験例25より、ギ酸を100質量%含むNo.25の被覆樹脂剥離液Lは、ポリビニルホルマールである被覆樹脂に対して「膨潤剥離型」として作用し、ポリイミドアミドである被覆樹脂に対しては剥離し難いことが分かった。また、フェノールのみを含む剥離液(No.26)の場合も、ポリビニルホルマールである被覆樹脂に対して「膨潤剥離型」として作用した(試験例26)。
総じて、各試験例21~25の被覆樹脂剥離液Lは、被覆樹脂がポリアミドイミド及びポリエステルであれば「溶解剥離型」として、ポリビニルホルマールであれば主に「膨潤剥離型」として作用する傾向が認められ、ポリアミドイミド、ポリエステル及びポリビニルホルマールのうちのいずれかの被覆樹脂を剥離できることが分かった。
【0088】
上記のとおり、試験例21より、被覆樹脂がポリアミドイミド及びポリエステルであれば、これら樹脂は、(A)~(C)の各成分を含むNo.21の被覆樹脂剥離液Lによって、溶解剥離されることが解る。他方、非プロトン性極性溶媒(D)及びアルコール溶媒(E)を含まないNo.21の被覆樹脂剥離液Lは、ポリビニルホルマールの被覆樹脂を溶解剥離及び膨潤剥離することが難しいことが解る。別途の実験確認により、ポリビニルホルマールは、NMP100%溶液に対して全く剥がれる兆候がなく、フェノール100%溶液に対して完全に剥離することが分かっている。従って、ポリビニルホルマールをも剥離できるように被覆樹脂剥離液Lの汎用性を高めるためには、被覆樹脂剥離液Lがアルコール系溶媒(E)を含むこと、及び、その含有割合に留意が必要であると考えられる。
表示のとおり、試験例15~20に係るNo.15~20の被覆樹脂剥離液L((A)成分~(E)成分及び有機酸の合計質量を100%とする)では、アルコール系溶媒(E)の含有割合Zの数値は、20<Z≦35の範囲にあったが、試験例22~24に係るNo.22~24の被覆樹脂剥離液Lでは、Z>35であった。
以上より、各種の被覆樹脂に対する被覆樹脂剥離液Lの汎用性を一層確実に高めるためには、被覆樹脂剥離液L中にアルコール系溶媒(E)を含み、その含有割合は、((A)成分~(E)成分及び有機酸の合計質量100%中20%以上、好ましくは、23%以上であり、35%を超えないことが要点であることが解った。換言すれば、無機アルカリ(A)、アルカノールアミン(B)、水(C)及び非プロトン性極性溶媒(D)の合計質量を100%とするとき、アルコール系溶媒(E)が20~35%、好ましくは22~33%の範囲にある試験例15~20のNo.15~No.20の被覆樹脂剥離液Lは、ポリアミドイミド及びポリエステルの被服樹脂に対して溶解剥離型として作用するとともに、ポリビニルホルマールの被覆樹脂に対して膨潤剥離型として作用し、各種の被覆樹脂に対する汎用性を確実に高められる処理液であることが解った。
【0089】
〔試験例C〕
本試験例は、表5に示す被覆樹脂剥離用処理液(No.27~35)を用いて、No.27、28及び29の剥離液であって被覆樹脂がポリエステルである場合の実施例27、28及び29-2のときの剥離液の処理温度を85℃で行ったこと以外は、前記試験例Aと同様の方法で試験を行い、その試験結果を表6に示す。No.27~29の剥離液はアルカノールアミン(B)、水(C)及び非プロトン性極性溶媒(D、NMP)の3成分である。No.30~35の剥離液は無機アルカリ(A)、アルカノールアミン(B)、水(C)及び非プロトン性極性溶媒(D、DMSO単独液又はNMPとDMSOの混合液)の4成分である。いずれの処理液においてもモレスコホワイトを使用していない。被覆樹脂11の材料として、表6に示すように、試験例1と同様のポリアミドイミド樹脂又はポリエステル樹脂を用いた。
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
被覆樹脂剥離処理方法は試験例Aと同様に行った。処理温度はNo.30~35の剥離液の場合は、試験例Aと同様の95℃にて行ったが、No.27~29の剥離液の場合は85℃にて行った。
剥離性評価は、試験例Aと同様に行った。この剥離性評価の基準は試験例Aと同様の下記に示すものである。
◎:30分以内の浸漬時間で「溶解剥離」した
○:1時間以内の浸漬時間で「溶解剥離」した
×:1時間の浸漬時間を超えても被覆樹脂を除去できなかった。
【0093】
アルカノールアミン(B)、水(C)及び非プロトン性極性溶媒(D、NMP)の3成分系のNo.27~29の剥離液は、表6に示すように、前記No.13の3成分系の場合と同様に、優れた剥離性を示した。また、No.27~29の剥離液は、処理温度が85℃であり実施例A及び実施例Bの場合よりも10℃低いにも係わらず、優れた剥離性を示した。
また、無機アルカリ(A)、アルカノールアミン(B)、水(C)及び非プロトン性極性溶媒(D)の4成分系のNo.30、32~35(DMSO)及び31(NMP及びDMSOの混合液)の剥離液は、表6に示すように、極性溶媒としてNMPを用いたNo.4~10及び16~20、更に、極性溶媒としてDMSOを用いたNo.3の場合と同様に、優れた剥離性を示した。
【0094】
〔試験例D〕
本試験例は、試験例Cにおける、表5に示す被覆樹脂剥離用処理液No.27及び28(85℃で加熱)を、加熱後の処理液を再利用できるか否か、即ち、処理液の重量が減少するか否かについて試験を行った。この試験は、前記No.27及び28の処理液を、95℃のバスでスクリュー瓶の蓋を外して加熱をして、その場合の加熱減量を測定した。この試験結果は以下の通りである。
(1)No.27の処理液;
(a)試験例Cの後の処理液の重量;24.68gの場合;
それから95℃にて3時間後:24.20g(減少0.12g、減少率:1.6%)、同5時間後:23.77g(減少0.83g、減少率:3.4%)。
(2)No.28の処理液;
(a)試験例Cの後の処理液の重量;24.82gの場合;
それから95℃にて1時間後:24.81g(減少0.01g、減少率:0.0%)、、3時間後:24.44g(減少0.38g、減少率:1.5%)、同5時間後:24.35g(減少0.47g、減少率:1.9%)、同7時間後:24.02g(減少0.800g、減少率:3.2%)。
前記No.27及び28の処理液において、95℃、3時間の処理後であっても重量減少率がスタート時に比べて約1.5%程度しか減少していない。また、No.28の処理液において、95℃、1時間の処理後においては重量減少率がほぼ0%であった。従って、前記No.27及び28の処理液の減少率は極めて少ないものであった。実際の95℃での加熱時間は5~30分程度と考えられ、実用的には同じ処理液を使用後に繰り返し使用しても優れた剥離性は維持されると考えられる。また、樹脂種類及び金属種類の組み合わせによって、通常時間(10分~1時間程度)では目的の剥離性が得られにくい場合は、更に長時間の処理を安心して行うことができる。
【0095】
本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。例えば、電気を通電させる接点を形成するために絶縁導電線10の先端部を本被覆樹脂剥離液Lに浸漬させて、被覆樹脂先端部11aを剥離処理する使用方法について説明したが、他の使用方法でも構わない。被覆電線のリサイクルシステムが知られているところ(特開2014-29817等参照)、絶縁導電線10全体を本被覆樹脂剥離液Lに浸漬させて、被覆樹脂11全部を剥離させて、係るリサイクルシステムに応用することができる。具体的には、全部の被覆樹脂11を溶解剥離及び膨潤剥離させることで絶縁導電線10から導体線12を取り出し、取り出した導体線12をリサイクル金属材料として用いることができる。本リサイクルシステムに使用する、絶縁導電線、被覆樹脂剥離液、被覆樹脂及び剥離条件等については、前記本発明の説明において使用する前記の各記述を適用することができる。
また、前記絶縁導電線関係に限らず、他用途に用いられる樹脂被覆金属体においても前記と同様に適用できる。例えば、自動車用部品関係、家庭電化製品の部品関係及び半導体部品関係、電気電子部品関係、日用品関係等の樹脂被覆金属体に広く適用される。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、絶縁導電線から前記被覆樹脂を溶解又は剥離させる被覆樹脂除去・剥離分野、絶縁導電線から導体線を露出させ又は再利用する分野、使用済絶縁導体線という廃棄物の処理分野、有用な導体線金属を回収する分野等に利用される。
【符号の説明】
【0097】
10 :絶縁導電線
101 :単独型絶縁導電線
101a:マグネットワイヤー
102 :集合型絶縁導電線
11 :被覆樹脂
11a :被覆樹脂先端部
11b :端縁部
12 :導体線
12a :導体線先端部
L :被覆樹脂剥離液
:被覆樹脂剥離用処理液
:剥離処理層
:蒸散防止層
図1
図2
図3
図4