(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】害虫用薬剤付着器
(51)【国際特許分類】
A01M 1/20 20060101AFI20241120BHJP
A01M 1/02 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
A01M1/20 A
A01M1/02 A
(21)【出願番号】P 2020161956
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉丸 勝郎
(72)【発明者】
【氏名】藤村 晃大
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-073144(JP,A)
【文献】特開2012-001531(JP,A)
【文献】特開2020-010664(JP,A)
【文献】国際公開第2020/070368(WO,A1)
【文献】国際公開第92/022200(WO,A1)
【文献】特開2011-016770(JP,A)
【文献】特開平09-202703(JP,A)
【文献】特開2004-154017(JP,A)
【文献】特開2019-069923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/20
A01M 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズメバチを誘引する誘引部と、
前記誘引部から分離して設けられ、前記誘引部に誘引された前記
スズメバチの体表に対して昆虫成長抑制剤を付着させる薬剤付着部とを備え
た害虫用薬剤付着器であって、
前記薬剤付着部は、前記昆虫成長抑制剤を含浸した含浸体で構成され、
前記含浸体は、前記害虫用薬剤付着器の外部に露出し、
前記誘引部は、前記スズメバチが喫食する液状の喫食成分を吸引する吸液材を有し、
前記吸液材は、前記害虫用薬剤付着器の外部に露出し、
前記含浸体は、前記吸液材における前記害虫用薬剤付着器の外部に露出した部分の周囲に配置され、
前記吸液材の上面が前記含浸体の上面よりも高くなっていることを特徴とする害虫用薬剤付着器。
【請求項2】
請求項
1に記載の害虫用薬剤付着器において、
前記喫食成分は少なくとも糖類を含んでいることを特徴とする害虫用薬剤付着器。
【請求項3】
請求項
2に記載の害虫用薬剤付着器において、
前記誘引部は、遅効性の殺虫成分を含んでおり、
前記殺虫成分と前記喫食成分とは混合されていることを特徴とする害虫用薬剤付着器。
【請求項4】
請求項
1に記載の害虫用薬剤付着器において、
前記含浸体は、前記吸液材における前記害虫用薬剤付着器の外部に露出した部分を囲むように形成されていることを特徴とする害虫用薬剤付着器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫を誘引し、誘引した害虫に所定の薬剤を付着させる害虫用薬剤付着器に関する。
【背景技術】
【0002】
昆虫にも社会性を持ったものが存在することは従来から知られている。例えばスズメバチやシロアリは、集団を形成し、その集団の中に女王を頂点とした階層を作って生活しており、このような人間の生活形態に似た社会的構造を持った昆虫は社会性昆虫と呼ばれている。ただし、社会性昆虫の一集団は実質的に家族集団であると言え、人間の社会とは異なる面もある。
【0003】
上述した社会性昆虫の中には害虫となり得る昆虫としてスズメバチ等が存在しており、スズメバチのような社会性を持った害虫を防除する方法の1つとして、ベイト(毒餌)剤が知られている。すなわち、スズメバチの成虫にベイト剤を巣まで持ち帰らせることで、該ベイト剤が巣内の他の成虫または幼虫に分け与えられる結果、巣全体を壊滅させることができる。この種のベイト剤においては、虫に喫食させるための喫食成分が配合されている。
【0004】
例えば特許文献1には、スズメバチ用のベイト剤の喫食成分として、動物性のたんぱく質を用いることが開示されている。また、特許文献1には、ミツバチの幼虫の喫食餌料が花粉などの植物性のタンパク質であるのに対して、スズメバチのような有害なハチの幼虫の喫食餌料はイモムシなどの動物性のタンパク質であるので、この違いを利用して、喫食餌料として動物性のタンパク質を用いることにより、養蜂業においてスズメバチのような有害なハチ対策を行う時の選択的な害虫駆除剤とすることが可能であるとの記載がある。
【0005】
また、特許文献2には、スズメバチ用のベイト剤の別の喫食成分として、水に溶かしたショ糖や果糖を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-63346号公報
【文献】特表平9-512435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1のベイト剤はスズメバチの成虫が喫食することを狙ったものではなく、そのスズメバチの成虫によって巣に運び入れられた後、幼虫に喫食されることによって効果を発揮するものである。このように、特許文献1のベイト剤ではスズメバチの成虫は直接的には駆除されないので、すぐにでも駆除したいという要求の高い危険なスズメバチの成虫を素早く駆除できるものではなかった。
【0008】
一方、特許文献2の喫食成分であるショ糖は、スズメバチの成虫が喫食する成分である。従って、特許文献2のようにショ糖を喫食成分とするベイト剤であれば、スズメバチの成虫が巣に持ち帰り、更に他の成虫に分け与えるので、巣の成虫を直接的に駆除できるという利点がある。
【0009】
しかし、スズメバチの幼虫は主に動物性たんぱく質を喫食するところ、ショ糖を喫食成分とする特許文献2のベイト剤を成虫が巣に持ち帰ったとしても、幼虫が必ず喫食するとは考えにくい。その場合には、幼虫に対する駆除効果が現れないことになる。
【0010】
このように、従来のベイト剤においては、スズメバチのような社会性昆虫の成虫と幼虫の両方を確実に駆除することができていなかった。これは、成虫と幼虫の両方が喫食するベイト剤を実現するのが難しいということが要因の1つと考えられる。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、昆虫の社会性を利用することで、幼虫に喫食させなくても十分な駆除効果が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、第1の発明は、害虫を誘引する誘引部と、前記誘引部に誘引された害虫に対して昆虫成長抑制剤を付着させる薬剤付着部とを備えていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、害虫が誘引部に誘引されると、薬剤付着部により昆虫成長抑制剤が害虫に付着する。昆虫成長抑制剤が付着した害虫が幼虫であれば、当該幼虫の脱皮や羽化が阻害されて死に至る。また、昆虫成長抑制剤が成虫に付着した場合、その成虫が例えば巣に戻って幼虫に接触することで、昆虫成長抑制剤が幼虫に付着する。これにより、誘引部に誘引されない幼虫も死に至る。
【0014】
第2の発明は、前記誘引部は、社会性昆虫の成虫の誘引効果を有するものであることを特徴とする。
【0015】
すなわち、昆虫成長抑制剤は成虫に対しては効果が無い薬剤なので、成虫に付着させても駆除効果はほとんど見込めないが、本構成のように社会性昆虫を誘引することにより、昆虫成長抑制剤を成虫の体表に付着させて巣に持ち帰らせた後、成虫が幼虫を世話する際に、昆虫成長抑制剤を幼虫に付着させることができる。これにより、巣の幼虫が死に至る。
【0016】
第3の発明は、前記誘引部は、害虫が喫食する喫食成分を含んでいることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、誘引部が喫食成分を含んでいるので、害虫に喫食成分を喫食させ、その間に薬剤付着部によって昆虫成長抑制剤を害虫に付着させることができる。
【0018】
第4の発明は、前記喫食成分は少なくとも糖類を含んでいることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、例えばスズメバチのような危険な害虫に喫食成分を喫食させることができるので、昆虫成長抑制剤をスズメバチに付着させることができる。
【0020】
第5の発明は、前記誘引部は、遅効性の殺虫成分を含んでおり、前記殺虫成分と前記喫食成分とは混合されていることを特徴とする。
【0021】
すなわち、成虫が喫食成分を喫食すると、その喫食成分に遅効性の殺虫成分が混合されているので、殺虫成分も喫食することになる。成虫が喫食した殺虫成分を巣の他の成虫を分け与えた場合には、巣の成虫を駆除することができる。一方、上述したように、成虫に付着した昆虫成長抑制剤によって巣の幼虫の羽化を阻止し、死に至らしめることができる。したがって、巣全体を壊滅させることができる。
【0022】
第6の発明は、前記薬剤付着部は、昆虫成長抑制剤を含浸した含浸体で構成されており、前記含浸体は、前記害虫用薬剤付着器の外部に露出していることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、害虫が含浸体に接触し易くなり、害虫が含浸体に接触しただけで、害虫に昆虫成長抑制剤を付着させることができる。
【0024】
第7の発明は、前記誘引部は、害虫が喫食する液状の喫食成分を吸引する吸液材を有しており、前記吸液材は、前記害虫用薬剤付着器の外部に露出しており、前記含浸体は、前記吸液材における前記害虫用薬剤付着器の外部に露出した部分の周囲に配置されていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、吸液材によって吸引された喫食成分を害虫が喫食する際に、その吸液材の周囲に含浸体が配置されているので、害虫が含浸体に接触し易くなる。これにより、害虫に昆虫成長抑制剤が付着する確率が高まり、害虫の駆除効果がより一層向上する。
【0026】
第8の発明は、前記含浸体は、前記吸液材における前記害虫用薬剤付着器の外部に露出した部分を囲むように形成されていることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、吸液材を囲むように含浸体が配置されることになるので、害虫に昆虫成長抑制剤が付着する確率がより一層高まる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、誘引された害虫に対して昆虫成長抑制剤を付着させることができるので、殺虫成分を含んだ喫食材を幼虫に喫食させなくても十分な駆除効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係る害虫用駆除器を上方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る害虫用駆除器1の斜視図である。
図2及び
図3にも示すように、害虫用駆除器1は、害虫用ベイト剤A(
図2に示す)と、害虫用ベイト剤Aが収容される容器2と、フード4とを備えている。
【0032】
害虫用ベイト剤Aは、殺虫成分と、喫食成分と、益虫用の忌避成分とを含有した液状のものである。殺虫成分としては、害虫による喫食性に悪影響が無い(害虫に対する忌避性が無い)殺虫剤を用いることができる。更に、遅効性の殺虫剤であれば好ましい。遅効性の殺虫剤とは、害虫に接触したり、害虫が喫食した際に、直ちにノックダウンに至ったり、死に至ることなく、接触または喫食後、所定時間は行動が可能であるが、所定時間を経過した頃から死に至る殺虫剤である。
【0033】
上記所定時間とは、害虫が殺虫剤に接触または殺虫剤を喫食した後、当該害虫が巣に帰ることが可能な時間であり、好ましくは、巣に帰った後、幼虫の世話をしたり、他の成虫に接触するまでの時間を含む。例えば、スズメバチを対象害虫とした場合、上記所定時間は数十分~数時間程度である。また、ゴキブリを対象害虫とした場合も同様に、上記所定時間は数十分~数時間程度である。なお、この所定時間は、害虫用ベイト剤Aに配合する殺虫成分の濃度によって、ある程度調整することが可能である。すなわち、巣に帰った害虫を比較的早く死に至らしめたい場合は殺虫成分の濃度を濃く設定し、巣に帰った害虫を比較的長く活動させたい場合は殺虫成分の濃度を薄く設定すればよい。この他、殺虫成分の濃度は、対象とする害虫の種類や、使用シーン等に応じて適宜設定することができる。
【0034】
喫食性に悪影響が無く、かつ遅効性の殺虫剤としては、例えばフィプロニルのようなフェニルピラゾール系殺虫剤、カルバリル、プロポキスル等のカーバメート系殺虫剤、ジノテフラン、クロチアニジン、イミダクロプリド等のネオニコチノイド系殺虫剤、ホウ酸などを挙げることができるが、これらに限定されない。これらの中ではフィプロニルが好ましい。
【0035】
害虫用駆除器1による駆除の対象害虫は、例えばスズメバチやゴキブリ等の社会性害虫であるが、これら害虫以外にも社会性を持ち、かつ、人間に害を及ぼす害虫を対象害虫とすることができる。よって、これら対象害虫に対して遅効性の殺虫効果を持った殺虫剤を殺虫成分として含んでいればよい。殺虫成分には、1種または2種以上の遅効性の殺虫剤を含有させることができる。2種以上の遅効性の殺虫剤を含有させる場合、それらを混合して用いることができる。尚、社会性害虫とは、集団を形成し、その集団の中に階層を作って生活する害虫である。このような害虫の中には、成虫が幼虫の世話をしたり、成虫同士が触れあったりするものもいる。
【0036】
喫食成分は、害虫が喫食する成分で構成されており、少なくとも糖類を含む喫食成分を使用することができる。糖類は、例えば単糖類、二糖類及び多糖類のうち、任意の1つのみを喫食成分として使用することができるし、任意の2つ以上を混合して喫食成分として使用することもできる。喫食成分として使用可能な単糖類としては、例えばブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース等を挙げることができる。喫食成分として使用可能な二糖類としては、例えばショ糖(スクロース)、麦芽糖(マルトース)、乳糖(ラクトース)等を挙げることができる。喫食成分として使用可能な多糖類としては、グリコシド結合によって単糖分子が多数重合した物質を挙げることができ、例えばデンプン等である。
【0037】
益虫用の忌避成分は、益虫が忌避し、害虫が忌避しない成分であればよく、例えばエタノールを挙げることができる。益虫用の忌避成分としてエタノールが含まれていることにより、益虫であるミツバチに対して忌避効果が発揮される一方、害虫であるスズメバチに対して忌避効果が殆ど発揮されず、むしろエタノールはスズメバチに対して誘引効果を発揮する。
【0038】
害虫用ベイト剤Aは、殺虫成分と、喫食成分と、益虫用の忌避成分とを混合することによって得ることができる。害虫用ベイト剤Aには、例えば水(イオン交換水)等が含有されていてもよい。また、害虫用ベイト剤Aには、例えば、ポリエチレングリコール、界面活性剤、酢酸、乳酸、プロピン酸ナトリウム等のうち、任意の1つまたは任意の2つ以上が含有されていてもよい。
【0039】
害虫用ベイト剤Aの実施例としては、害虫用ベイト剤Aを100gとしたとき、殺虫成分であるフィプロニルが0.003g以上0.010g以下、ポリエチレングリコールが0.05g以上0.10g以下、界面活性剤(tween20)が0.1g以上0.5g以下、果糖ブドウ糖液糖が10g以上25g以下、酢酸が0.03g以上0.10g以下、乳酸が0.03g以上0.10g以下、プロピン酸ナトリウムが0.50g以上0.15g以下、残部をイオン交換水とすることができる。ポリエチレングリコールや界面活性剤は、省略してもよい。酢酸および乳酸は、スズメバチへの誘引性を向上させるために配合されているが、省略してもよい。
【0040】
益虫用の忌避成分であるエタノールは、害虫用ベイト剤Aに含まれる糖類を発酵させることによって害虫用ベイト剤A内に生成されるので、上記実施例の配合量としては記載していない。例えば、ドライイーストを上記実施例に係る害虫用ベイト剤Aに混入させることで、害虫用ベイト剤A内でアルコール発酵が進み、糖が分解されてエタノールと二酸化炭素が生成される。これにより、エタノールを含む害虫用ベイト剤Aができる。このときに生成されたエタノールにより、益虫用の忌避成分が構成される。
【0041】
つまり、害虫用ベイト剤Aの使用前の段階では、害虫用ベイト剤Aにエタノールが含まれていなくてもよい。このエタノールを含まない害虫用ベイト剤Aを初期ベイト剤、アルコール非含有ベイト剤と呼ぶこともできる。例えば、使用開始時にエタノールを含まない害虫用ベイト剤Aにドライイーストを加えることで、その後、エタノールを含む害虫用ベイト剤Aとなる。アルコール発酵は糖が残っている限り継続されるので、使用開始後、長期間に亘ってエタノールを含有する害虫用ベイト剤Aとすることができる。尚、自然界には酵母が存在しており、ドライイーストを加えなくても自然に発酵が生じることもあるので、ドライイーストの添加は必須ではない。
【0042】
また、アルコール発酵を行うことなく、予め害虫用ベイト剤Aにエタノールを添加しておいてもよい。また、予め害虫用ベイト剤Aにエタノールを添加した上で、アルコール発酵を行ってもよい。
【0043】
益虫用の忌避成分の濃度は、害虫用ベイト剤Aの5質量%以上とすることができる。益虫用の忌避成分の濃度を害虫用ベイト剤Aの5質量%以上とすることで、特にミツバチの忌避効果を高めることができる。ミツバチの忌避試験について、以下に説明する。
【0044】
(ミツバチの忌避試験)
直径が10cm、長さが20cmの透明なガラスリングを用意し、そのガラスリングの一方の端部にミツバチの通過が不可能な金網を取り付け、その金網におけるガラスリングの内側に2cm×4cmの脱脂綿を置いた。脱脂綿には、以下の各供試剤を充分量(2g程度)染み込ませたものを用意した。ガラスリングに1匹のミツバチを入れた後、透明なフタによってガラスリングの他方の端部を塞いだ。フタによってガラスリングの他方の端部を塞いでから1時間観察を行い、ガラスリング内のミツバチが脱脂綿から喫食した時間と回数を測定した。
【0045】
供試剤は以下に示す通りである。
【0046】
第1供試剤 砂糖水
第2供試剤 エタノール2.5質量%の砂糖水
第3供試剤 エタノール5質量%の砂糖水
第4供試剤 エタノール10質量%の砂糖水
第5供試剤 エタノール15質量%の砂糖水
第6供試剤 乳酸0.06質量%の砂糖水
第7供試剤 酢酸0.06質量%の砂糖水
【0047】
【0048】
試験結果は表2に示す。表2では、平均喫食時間と、平均喫食回数を示しており、それぞれ2回の反復試験を行った結果の平均値を記載している。平均喫食時間は、1時間あたり何秒間喫食動作を行ったかを示している。平均喫食回数は、1時間あたり何回喫食動作を行ったかを示している。
【0049】
【0050】
エタノールを含有していない砂糖水である第1供試剤では、平均喫食時間が37秒、平均喫食回数が9回であったのに対し、エタノール2.5質量%の砂糖水である第2供試剤では、平均喫食時間が27.5秒、平均喫食回数が7.5回であり、時間及び回数ともに大幅に減少している。特に、エタノール5質量%の砂糖水である第3供試剤では、平均喫食時間が7秒、平均喫食回数が0.5回であり、ミツバチに対して極めて高い忌避効果が得られている。
【0051】
(スズメバチの誘引試験)
次に、スズメバチの誘引試験について説明する。この誘引試験は、広島県廿日市市の山林に近い所で行った。供試剤は、上記実施例として記載している害虫用ベイト剤Aである。害虫用ベイト剤Aを100gとしたとき、殺虫成分であるフィプロニルが0.003g以上0.010g以下、ポリエチレングリコールが0.05g以上0.10g以下、界面活性剤(tween20)が0.1g以上0.5g以下、果糖ブドウ糖液糖が10g以上25g以下、酢酸が0.03g以上0.10g以下、乳酸が0.03g以上0.10g以下、プロピン酸ナトリウムが0.50g以上0.15g以下、残部をイオン交換水としている。
【0052】
この害虫用ベイト剤Aにドライイーストを適量加えてアルコール発酵を進行させ、エタノールを発生させた状態で試験を行った。尚、この害虫用ベイト剤A中のエタノール濃度は、発酵の進行速度とエタノールの揮発速度とのバランスによって決まるため必ずしも一定ではないが、通常の使用環境(スズメバチの巣作りが行われる季節の外気温)であれば発酵のピーク時に10質量%以上に達し、その後、発酵によって糖類が消費され終わるまで少なくとも5質量%以上の濃度が長期間にわたって維持される。すなわち、ミツバチに対して忌避効果が得られるエタノール濃度が長期間にわたって維持される。
【0053】
上記範囲内にある実施例を複数種用意し、それぞれについて複数回誘引試験を行った。各試験時間は3時間とした。
【0054】
試験結果は、スズメバチの飛来回数が平均4.5回(3時間)であり、1回あたり平均喫食時間は4分44秒という長時間であった。つまり、エタノールの濃度が5質量%以上であっても、スズメバチはそれを忌避することなく、むしろエタノールに誘引されており、しかもそれを好んで喫食しているといえる。
【0055】
(容器2の構成)
次に、容器2の構成について説明する。
図4に示すように、容器2は、カップ状部材20と、蓋部材21と、吸液材22と、含浸体23とを備えている。カップ状部材20は、上方に開放された樹脂製部材で構成されており、有底の円筒状をなしている。カップ状部材20の水平方向の断面は、上へ行くほど大きくなっている。害虫用ベイト剤Aはカップ状部材20の内部に収容される。蓋部材21は、カップ状部材20の開放部分を上方から覆うことが可能に形成された樹脂製部材で構成されている。蓋部材21をカップ状部材20の上部に嵌合させることにより、蓋部材21とカップ状部材20とを一体化することができる。
【0056】
蓋部材21の外周縁部は略円形である。蓋部材21におけるカップ状部材20の上部よりも径方向外側に位置する部分は、外周縁部に近づくほど下に位置する傾斜面部21aで構成されている。傾斜面部21aは、平面視で円環状をなしており、周方向に連続している。この傾斜面部21aには、例えば階段状の段部、シボ模様等を形成してもよい。傾斜面部21aは省略してもよいし、水平面部であってもよい。
【0057】
図2及び
図4に示すように、蓋部材21における傾斜面部21aよりも内側には、凹状部21bが形成されている。凹状部21bは、平面視で円環状をなしており、周方向に連続している。凹状部21bを環状溝と呼ぶこともできる。また、蓋部材21の中央部には、上下方向に貫通する貫通孔21cが形成されている。貫通孔21cは略円形とすることができるが、多角形状であってもよい。
【0058】
さらに、蓋部材21の中央部には、貫通孔21cの周縁部から上下両方向に延びる縦壁部21dが形成されている。貫通孔21cの周縁部から上へ延びる縦壁部21dにより、凹状部21bの内方と貫通孔21cの内方とが区画されている。また、貫通孔21cの周縁部から下へ延びる縦壁部21dは所定長さを有しており、後述する吸液材22を位置決めする部分でもある。
【0059】
吸液材22は、繊維を柱状に成形してなるものであり、毛細管現象によって液体を吸引、吸収可能に構成されている。この実施形態では、吸液材22が円柱状をなしているが、これに限らず、板状であってもよいし、水平方向の断面が多角形の柱状であってもよい。吸液材22を吸液芯と呼ぶこともできる。吸液材22の下端部はカップ状部材20の底部近傍に達しており、カップ状部材20に収容されている害虫用ベイト剤A中に位置している。一方、吸液材22の上端部は縦壁部21dから上方へ突出しており、吸液材22の少なくとも上端面22aは害虫用薬剤付着器1の外部に露出している。また、吸液材22の上下方向中間部は、貫通孔21cに挿通された状態で縦壁部21dによって倒れないように保持されている。吸液材22の上端部は縦壁部21dから上方へ突出していなくてもよく、縦壁部21dの上端と同程度の高さに位置していてもよい。
【0060】
吸液材22は、害虫を誘引する誘引部である。すなわち、吸液材22は、害虫用ベイト剤Aを吸引して毛細管現象によって上端面22aまで運ぶ部材であることから、喫食成分を含むとともにエタノールも含んでおり、上述したように社会性昆虫であるスズメバチの誘引効果を有する。吸液材22と害虫用ベイト剤Aとにより、上記誘引部を構成することができる。
【0061】
また、吸液材22が害虫用ベイト剤Aを吸引するものであることから、吸液材22は、遅効性の殺虫成分も含む部分である。また、吸液材22は、忌避成分を空気中に蒸散させる部分であることから蒸散部でもある。尚、吸液材22とは別にエタノールを含浸する部材を設け、それを蒸散部としてもよい。
【0062】
含浸体23は、昆虫成長抑制剤を含浸している。昆虫成長抑制剤(IGR: Insect Growth Regulator)は、昆虫の変態や脱皮に関連しているホルモンのバランスを狂わせることによって、昆虫の脱皮や羽化を阻害し、その結果、昆虫を死に至らせる殺虫剤である。本実施形態で使用可能な昆虫成長抑制剤の例としては、例えばエトキサゾール、ピリプロキシフェン、メトプレン、ハイドロプレン、ジフルベンズロン等を挙げることができる。これらの中でも、ハチを駆除対象とする場合はエトキサゾールが好ましい。
【0063】
この含浸体23は、誘引部である吸液材22に誘引された害虫に対して昆虫成長抑制剤を付着させる薬剤付着部を構成する部材である。害虫用駆除器1は、含浸体23を備えているので、昆虫成長抑制剤を害虫に付着させることが可能な害虫用薬剤付着器でもあると言える。含浸体23には、昆虫成長抑制剤を溶剤に溶解させた溶液を含浸させることもできる。また、含浸体23には、昆虫成長抑制剤以外の液体を含浸させてもよい。含浸体23に含浸させる昆虫成長抑制剤の量は、特に限定されるものではないが、害虫用駆除器1を屋外に設置した状態で、例えば1ヶ月以上持続する程度の量に設定できる。
【0064】
含浸体23は、例えば吸液材22と同様な繊維を成形した部材で構成することができ、蓋部材21の凹状部21bに嵌まる円環状をなしている。含浸体23は、凹状部21bに嵌められた状態で蓋部材21によって保持され、この状態で少なくとも上面が害虫用薬剤付着器1の外部に露出している。含浸体23は、蓋部材21に対して水平方向の位置決めがなされているとともに、凹状部21bの底面によって下方から支持されていて、高さ方向についてもそれ以上、下方向へ変位しないようになっている。
【0065】
凹状部21bに嵌められた含浸体23は、吸液材22における害虫用薬剤付着器1の外部に露出した部分(上端面22a)の周囲に配置されている。より具体的には、含浸体23は、吸液材22における害虫用薬剤付着器1の外部に露出した部分を囲むように環状に形成されている。また、含浸体23と吸液材22の上部とは接近している。例えばスズメバチの成虫が喫食動作によって吸液材22の上部に口を接触させたとき、脚や手が含浸体23の上面に接触するように、含浸体23と吸液材22との距離が設定されている。したがって、吸液材22に誘引された害虫が吸液材22の喫食成分を喫食しようとして容器2にとまると、害虫の脚や手、胴体等が含浸体23に接触し易くなるとともに、接触する可能性を高めることができる。これにより、吸液材22に誘引された害虫に、昆虫成長抑制剤を付着させることができる。尚、含浸体23は、環状でなくてもよく、例えば吸液材22の上端面22aの周方向に断続して設けられていてもよい。含浸体23と吸液材22とは水平方向に並んで設けられていてもい。また、含浸体23の上面が吸液材22の上端面22aよりも低くてもよいし、含浸体23の上面が吸液材22の上端面22aよりも高くてもよい。
【0066】
(フード4の構成)
フード4は、必要に応じて設けることができる。フード4の材料としては、例えば樹脂製のフィルムまたはシート材や、耐水性を有する紙を挙げることができる。フード4は環状に形成されており、その下に位置する部分には、カップ状部材20を差し込むことが可能な差し込み孔4aが上下方向に貫通するように形成されている。
図2に示すように、差し込み孔4aの径は、カップ状部材20の下部の外径よりも大きく、かつ、上部の外径よりも小さく設定されており、カップ状部材20を差し込み孔4aに差し込んだ状態でフード4に保持できる。
【0067】
フード4の上側は、蓋部材21の真上に位置しており、蓋部材21との間に害虫が侵入可能な空間を形成している。この空間は、水平方向に開放されており、誘引された害虫が容易に侵入することができるようになっている。フード4の上側によって吸液材22及び含浸体23を覆うことができるので、屋外に設置した際に雨等が吸液材22及び含浸体23にかかるのを抑制できる。
【0068】
フード4には、害虫用駆除器1を吊り下げるための吊り下げ部4bが上方へ突出するように設けられている。この吊り下げ部4bには、糸や針金等を通すことができ、これにより、害虫用駆除器1を木の枝や、竿に吊り下げて使用することができる。
【0069】
(害虫駆除キット)
図5は、害虫駆除キット100を示すものである。害虫駆除キット100は、袋101に収容されて密封された害虫用ベイト剤Aと、容器2と、フード4と、袋102に収容されて密封されたドライイーストとを備えている。袋101、102、容器2及びフード4は、1つの包装用の箱(図示せず)に収容することができる。
【0070】
使用時には、容器2の蓋部材21を開けて害虫用ベイト剤Aを袋101からカップ状部材20に移し、またドライイーストを袋102からカップ状部材20に移す。これにより、アルコール発酵が始まってエタノールが生成される。その後、蓋部材21を閉めて吸液材22を害虫用ベイト剤Aに漬ける。
【0071】
尚、害虫駆除キット100の構成はこれに限らず、例えば害虫用ベイト剤Aを容器2内に予め収容しておき、蓋部材21の天面をフィルム(図示せず)等によって閉塞することで密閉しておいてもよい。これにより、害虫用ベイト剤Aの袋101を省略できる。この場合、使用時には、前記フィルムを剥がして蓋部材21の貫通孔21cを露出させ、当該貫通孔21cを介してドライイーストを容器20内に移した後、吸液材22を貫通孔21に挿入する。
【0072】
また、含浸体23は、使用開始する前まで凹状部21b内で密封しておくことができる。例えば、フィルム(図示せず)によって凹状部21bを閉塞しておくことで、含浸体23を外気に曝すことなく保存可能である。使用開始時にそのフィルムを剥がすことで、含浸体23を露出させることができる。
【0073】
(害虫駆除方法)
次に、上記のように構成された害虫用駆除器1を使用した害虫駆除方法について説明する。害虫用ベイト剤Aを容器2に収容した害虫用駆除器1を屋外に設置する。設置場所は特に限定されるものではなく、山林であってもよいし、住宅地であってもよい。また、害虫用駆除器1を吊り下げて設置してもよいし、台や机の上、地面等に置いて設置してもよい。害虫用駆除器1は、アルコール発酵によってエタノールが生成され続けるので、害虫用ベイト剤A中のエタノール濃度を所定以上に保つことができる。
【0074】
害虫用駆除器1を設置すると、吸液材22によって害虫が誘引される。このとき、上述したようにエタノールによっても害虫が誘引されるので、害虫の誘引効果を高めることができる。一方、ミツバチはエタノールを忌避するので、益虫であるミツバチが誘引されることは殆ど無い。
【0075】
ここで、害虫用ベイト剤Aに含まれる糖類はスズメバチ成虫の喫食成分であるから、例えばスズメバチ成虫が誘引された場合の喫食性は良好である。誘引されたスズメバチ成虫が害虫用ベイト剤Aを喫食することにより、当該成虫の体内に殺虫成分が取り込まれる。ここで、殺虫成分を遅効性の殺虫剤とすることにより、スズメバチ成虫は即座には死なず、巣まで帰ることができる。
【0076】
一方、先ほどのスズメバチ成虫が喫食動作によって吸液材22の上部に口を接触させたとき、脚や手が含浸体23の上面に接触するので、昆虫成長抑制剤が体に付着する。従ってこのスズメバチ成虫は、昆虫成長抑制剤を体に付着させたまま、巣まで帰ることになる。
【0077】
巣に帰ったスズメバチ成虫は、喫食した害虫用ベイト剤Aを、巣の他の成虫に分け与えると考えらえる。害虫用ベイト剤Aには遅効性の殺虫成分が含まれているから、巣の他の成虫も、遅効性の殺虫成分を体内に取り込むことになる。
【0078】
一方で、スズメバチの幼虫は、主に動物性タンパク質を喫食する。害虫用ベイト剤Aに動物性タンパク質は含まれていないから、巣に帰った前述のスズメバチ成虫が、害虫用ベイト剤Aを巣の幼虫にも分け与えることは考えにくい。しかしながら、前述のスズメバチ成虫の体には、昆虫成長抑制剤が付着している。このスズメバチ成虫が幼虫の世話をすることにより、幼虫の体に昆虫成長抑制剤が付着する。これにより、幼虫は正常に羽化することができなくなり、最終的に死に至る。従って、この駆除方法における昆虫成長抑制剤は、幼虫用の殺虫成分であると言うことができる。
【0079】
そして、前述のスズメバチ成虫は、遅効性の殺虫剤を喫食しているので、やがて死に至る。このスズメバチ成虫から害虫用バイト剤Aを分け与えられた巣の他の成虫も同様である。従って、この駆除方法における遅効性の殺虫剤は、成虫用の殺虫成分であると言うことができる。
【0080】
このように、本実施形態の害虫駆除方法により、スズメバチの巣全体を駆除することができる。
【0081】
尚、誘引された害虫がスズメバチ以外の場合であっても、害虫用バイト剤Aに含まれる糖類は多くの害虫が好む喫食成分であるから、喫食性が良好であり、この喫食成分と共に殺虫成分も喫食する。これにより、スズメバチ以上の害虫に対しても駆除効果が良好に発揮される。また、当該害虫が害虫用ベイト剤Aの一部を巣に持ち帰って他の害虫に与えれば、巣に対する駆除効果も発揮される。
【0082】
さらに、スズメバチ以外の害虫であっても、吸液材22に誘引されると、その近傍に含浸体23が配置されているので、含浸体23に接触し易くなり、含浸体23に含浸されている昆虫成長抑制剤が害虫に付着する。昆虫成長抑制剤が付着した害虫が幼虫であれば、当該幼虫の脱皮や羽化が阻害されて死に至る。また、昆虫成長抑制剤が成虫に付着した場合、その成虫が例えば巣に戻って幼虫に接触することで、昆虫成長抑制剤が幼虫に付着する。これにより、誘引部に誘引されない幼虫も死に至る。
【0083】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、糖類を含む喫食成分と、益虫が忌避する忌避成分とを含有しているので、特に社会性を持った害虫を素早く駆除しながら、益虫への悪影響を極めて小さくすることができる。
【0084】
また、誘引された害虫に対して昆虫成長抑制剤を付着させることができるので、殺虫成分を含んだ喫食材を幼虫に喫食させなくても十分な駆除効果を得ることができる。
【0085】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明は、例えばスズメバチのような害虫を駆除する場合に利用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 害虫用駆除器(害虫用薬剤付着器)
2 容器
22 吸液材
23 含浸体
100 害虫駆除キット
A 害虫用ベイト剤