(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】断熱用組成物、断熱物品および断熱材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/14 20060101AFI20241120BHJP
C08K 7/22 20060101ALI20241120BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20241120BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241120BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241120BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241120BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C08L101/14
C08K7/22
C08K7/02
C09D201/00
C09D5/00 Z
C09D7/61
B32B27/18 Z
(21)【出願番号】P 2021207162
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】510163396
【氏名又は名称】オゾンセーブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 孝太郎
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-158901(JP,A)
【文献】国際公開第2020/208756(WO,A1)
【文献】特開2008-030311(JP,A)
【文献】特開2017-082152(JP,A)
【文献】特開2014-009261(JP,A)
【文献】特開平10-129128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29B 11/16、15/08-15/14
B32B 27/18
C08J 3/00-3/28、5/04-5/10、5/24、
9/00-9/42、99/00
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質粉末および中空粉末の少なくとも一方を含む低密度粉末材料と、水溶性高分子溶液とを含み、
前記低密度粉末材料と前記水溶性高分子溶液との混合割合が、水溶性高分子溶液の体積をVa、低密度粉末材料の体積をVbとしたとき、Va:Vb=1:2~1:5であ
り、
前記低密度粉末材料の平均粒径が2~25μmであり、かつ、比表面積が400m
2
/g以上であり、
ここで、低密度粉末とは、25℃、1気圧の条件下で0.5g/cm
3
未満となる粉末である、断熱用組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子溶液は、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、デンプン、水性ウレタンからなる群より選択される少なくとも1つの水溶性高分子を含み、その水溶性高分子の濃度が0.5~50質量%である、請求項1記載の断熱用組成物。
【請求項3】
25℃での粘度が500~100,000mPa・sである、請求項1
または2に記載の断熱用組成物。
【請求項4】
さらに、繊維材料を含有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の断熱用組成物。
【請求項5】
前記繊維材料は、ガラス繊維、アルミナ繊維、セラミック繊維、カーボン繊維、ポリイミド繊維、およびポリアミド繊維の少なくとも1つ以上である、請求項4に記載の断熱用組成物。
【請求項6】
前記繊維材料を、前記低密度粉末材料100質量部に対して、1~10質量部含有する、請求項
4または5に記載の断熱用組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の断熱用組成物の凍結乾燥体を含む、断熱物品。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の断熱用組成物を、基体の表面に塗布または型に流し込む成形工程と、
前記成形工程により得られた、前記断熱用組成物を凍結させる凍結工程と、
前記凍結工程により得られた凍結された前記断熱用組成物を、真空乾燥させる真空乾燥工程と、
を有する断熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱用組成物、断熱物品、および上記断熱用組成物を用いた断熱材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、食品などの冷蔵製品および冷凍製品は、輸送時の品質の劣化を防ぐため、冷蔵、冷凍条件以外の環境では、通常、断熱性を有する発泡スチロール容器や発泡ウレタン等の断熱材を付与した段ボール箱のような、断熱容器に収納されて運搬される(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような断熱容器は、収納される製品と比して嵩高であるため、製品の運送コストがかさむ、という問題があった。また、製品自体とは別に断熱容器を用意し、製品を収納・梱包することが必須であり、運送手順が煩雑化する要因となっていた。
【0004】
一方、製品を高温状態で比較的長時間保つ容器が必要とされる場面も多い。このような容器は、通常、使用時に外部が高温とならず、使用者が素手で触れられることも同時に要求される場合が少なくない。このような容器としては、保温性を持たせるため、発泡スチロール等の嵩高の素材の容器や、側壁が積層構造を有する紙容器等が使用されている。側壁が積層構造を有する紙容器としては、例えば特許文献2のように、側壁の積層内部に空気の層を有するものが知られている。いずれにしても、内側の容積に比して、全体が嵩高であり、容器自体の運送時、収納時のスペースを多大に要するものであった。
【0005】
また、他の分野において、設備関連(建築、プラント、車体等)では、内壁を構成する基材の裏面側に熱発泡性ポリマー等の断熱材層を設けることで基材内部の断熱性を向上させる技術が知られている(例えば特許文献3)。しかし、従来の断熱材層は、より高い断熱効果を持たせるために一定以上の厚みを持たせる必要があり、内部の容積が制限されたり、基材の運搬コストが増大したり、する問題があった。
【0006】
上記のように、各分野における従来の断熱材は、多くが嵩高の形態であるため、運搬効率、収納効率を下げる要因となっていた。また、使用される素材も、ガラスウール、断熱ボード、発泡ウレタン、発泡スチロール等に限られており、その厚みと構造上の脆弱性により、微細な加工、成形が困難であり、ボックス状の断熱容器や、比較的大型の基材等、使用される対象が限られていた。
【0007】
このような問題に対して、本発明者らは、従来よりも嵩が低く、かつ、加工性に優れ、微細構造にも適用可能な断熱材として、低密度粉末材料と水溶性高分子溶液とを所定の割合で含有する断熱用塗料、該断熱用塗料を用いる断熱方法および断熱シート材を提供している(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-147577号公報
【文献】特開2000-247377号公報
【文献】特開平7-48881号公報
【文献】特開2013-100406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、優れた断熱材が種々知られているが、さらに上記公知の材料とは異なる材料で形成され、良好な断熱性能を有する断熱材料があると、製品のバリエーションを豊富にすることができ好ましい。
【0010】
そこで、本発明は、加工性に優れ、微細構造にも適用可能な断熱材であって、断熱性能が良好な断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、鋭意検討の結果、主に水溶性接着剤として使用される、水溶性高分子溶液と低密度粉末材料とを所定の割合で混合した組成物を用いることで、良好な断熱性を有する断熱材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の断熱用組成物は、多孔質粉末および中空粉末の少なくとも一方を含む低密度粉末材料と、水溶性高分子溶液とを含み、前記低密度粉末材料と前記水溶性高分子溶液との混合割合が、水溶性高分子溶液の体積をVa、低密度粉末材料の体積をVbとしたとき、Va:Vb=1:2~1:5である。
本発明の断熱物品は、上記断熱用組成物の凍結乾燥体を含む。
【0013】
本発明の断熱材の製造方法は、上記断熱用組成物を、基体の表面に塗布または型に流し込む成形工程と、前記成形工程により得られた、前記断熱用組成物を凍結させる凍結工程と、前記凍結工程により得られた凍結された前記断熱用組成物を、真空乾燥させる真空乾燥工程と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本実施の形態の断熱用組成物および断熱材の製造方法によれば、加工性に優れ、断熱性能が良好な断熱材を提供できる。また、その厚みを抑えた断熱材とすることもでき、この場合、低嵩でありながら、断熱性の良好な断熱材を提供できる。
【0015】
本実施の形態の断熱物品によれば、本実施の形態の断熱材を有しているため、良好な断熱性能を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例で用いた断熱容器の概略構成を示す側断面図である。
【
図2】実施例で用いた他の断熱容器の概略構成を示す(a)側断面図と(b)平面図である。
【
図3】
図1の断熱容器に、高温試験用の温度測定器を収容した図である。
【
図4】実施例2および比較例1の測定温度の変化を示すグラフである。
【
図5】
図2の断熱容器に、低温試験用の温度測定器を収容した図である。
【
図6】実施例2および比較例2の測定温度の変化を示すグラフである。
【
図7】実施例1および比較例3の測定温度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の断熱用組成物、断熱物品、および上記断熱用組成物を用いた断熱材の製造方法について、それぞれ一実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
<断熱用組成物>
本実施の形態の断熱用組成物は、多孔質粉末および中空粉末の少なくとも一方を含む低密度粉末材料と、水溶性高分子溶液とを含んでなる断熱用組成物である。以下、各成分について説明する。
【0019】
(水溶性高分子溶液)
本実施の形態において、使用される水溶性高分子溶液は、溶媒として精製水等を用い、その溶媒に溶質として水溶性高分子を溶解してなる溶液である。すなわち、この種の溶剤系塗料で従来よく使用されていた有機溶剤に高分子化合物を溶解したものとは異なる。
【0020】
精製水や精製水にポリビニルアルコール(PVA)を溶解したPVA水溶液に、メチルシリケートや臨界乾燥ゲル等のシリカ等を投入すると、該シリカ等が液面上部に保持されたままとなり、この状態は1週間以上保たれる。したがって、低密度粉末材料は、水溶性高分子溶液中に溶解、懸濁等が生じにくい。そのため、水溶性高分子を使用することによって、低密度粉末材料の立体構造の崩壊等により断熱効果が低減することは抑制される。
【0021】
これに対して、後述の多孔質または中空の低密度粉末材料を有機溶剤と混合する場合、その低密度粉末材料の種類によっては、メチルシリケートや臨界乾燥ゲル等のシリカ等が溶剤中で粉末の存在が視認できなくなり(いわゆる溶解したような状態(透明)となり)、有機溶媒に低密度粉末材料を懸濁して生成した塗料においては、十分な断熱効果が見られないことを、本発明者らは既に確認している(上記特許文献4参照)。
【0022】
また、低密度粉末としてゼオライトまたは炭酸カルシウムを使用して有機溶剤と混合した場合、溶剤が粉末中に浸潤しやすく、断熱用組成物として調製するためには、粉末含有量を減じなければならないことも確認している。この原因は明らかではないが、溶剤が、表面張力の低さ等の要因により、粉体の孔に入り込みやすいためと推察される。断熱用組成物中の低密度粒子の量を減じることとなれば、その断熱効果を十分に奏することは困難となってしまう。
【0023】
一方、PVA水溶液(5~20質量%)においてはこのような現象は見られず、ゼオライトまたは炭酸カルシウムの十分量との混合が可能であり、十分な断熱効果を奏することが可能である。
【0024】
上記の事象より、低密度粉末を含有する断熱用組成物としての性能を十分に奏するためには、有機溶剤ではなく、水性溶液(特に後述の水溶性高分子溶液)の使用が特に適していることを既に見出しているが、本実施の形態は、その他の形態としても、良好な断熱材を形成し得る断熱用組成物を見出したものである。
【0025】
本実施の形態に使用される水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル、デンプン、水性ウレタンが挙げられる。特に、ポリビニルアルコールが、後述する紙、布、不織布等のシート材に対して広く親和性が高く、塗布が容易であること、塗布後の乾燥時間が比較的短いことから、好適に使用可能である。
【0026】
水溶性高分子としてポリビニルアルコールを使用する場合、その分子量が10,000~200,000、特に50,000~150,000のものを使用することが好ましい。分子量が低すぎれば、安定した塗膜が形成しづらく、また、分子量が高すぎれば、所望の水溶液を調製することが困難となる。
【0027】
また、水溶性高分子溶液における水溶性高分子の濃度は、0.5~50質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、0.5~5質量%がさらに好ましい。
【0028】
(低密度粉末材料)
本実施の形態に使用する低密度粉末材料は、多孔質粉末および中空粉末の少なくとも一方を含むものであり、この低密度粉末材料は、断熱材における断熱効果を発揮させるための主要な材料である。なお、本明細書において「低密度粉末」とは、粉末の状態で、25℃、1気圧の条件下で0.5g/cm3未満、特に0.15g/cm3未満となるものを指す。
【0029】
本実施の形態に使用する低密度粉末材料としては、例えば、シリカ、メチルシリケート、アルミナ、シリカ・アルミナ、セラミック、ゼオライト、炭酸カルシウム、ジルコニア等の公知の材質から成る多孔質または中空の粉末を使用できる。
【0030】
特に、メチルシリケートモノマーを常圧乾燥または臨界乾燥でエアロゲル化したものが、低密度での製造が容易であること、ナノレベルでの多孔構造または中空構造を比較的容易に形成し得ること、水溶液中で崩壊しにくいこと、などから、好適に使用可能である。
【0031】
この低密度粉末材料は、多孔率の程度にかかわらず、素材自体の熱伝導率が0.15W/(m・K)以下、特に、0.1W/(m・K)以下、さらには0.06~0.018W/(m・K)のものを使用することが好ましい。
【0032】
低密度粉末材料として多孔質の低密度粉末を使用する場合、その多孔率は50.0~99.8%、特に70~99.8%、さらに86~99.8%とすることが好ましい。
【0033】
また、低密度粉末材料の構造にかかわらず、その平均粒径は、2~25μm、特に5~23μm、さらには8~17μmとすることが好ましい。組成物に含まれる低密度粉末材料の粒径が25μm以上であると、断熱材の形成にあたって低密度粉末材料の分散状態を良好に維持できない場合があり、また、2μm以上であると、断熱材に包含される空気の量が少なくなってしまい、十分な断熱効果が得られなくなる場合がある。
【0034】
低密度粉末材料は、比表面積が400m2/g以上、特に500~1000m2/g、さらに600~1000m2/gのものを使用することが好ましい。比表面積を上げることで、多孔質粉末を使用する場合には多孔率を高くすることができ、中空粒子を使用する場合は粒子内に内包される空気量を多くすることができる。また、比表面積が大きい低密度粉末材料を使用することで、断熱材全体の質量を軽減することもできる。
【0035】
本実施の形態の断熱用組成物は、上記の水溶性高分子溶液と、低密度粉末材料とを、体積比で1:2~1:5の割合、好ましくは1:3~1:4の割合で混合することで製造することができる。低密度粉末の配合量が多すぎれば、流動性が悪く、塗布や流し込みによる断熱材の形成がしづらくなり、また、少なすぎれば、本実施の形態の目的である断熱効果が十分に得られなくなってしまう。
【0036】
(繊維材料)
本実施の形態において、さらに、繊維材料を用いることもできる。この繊維材料は任意成分である。
【0037】
繊維材料としては、得られる断熱材の構造補強材として機能する繊維材料ものであれば特に限定されず、無機繊維および有機繊維のいずれも用いることができる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維、セラミック繊維、カーボン繊維等が挙げられる。有機繊維としては、例えば、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維等の樹脂繊維等が挙げられる。このような繊維材料を含有させることで、得られる断熱材の強度を向上させることができる。
【0038】
ここで用いる繊維材料としては、例えば、その繊維の直径が1~5μmが好ましく、3~5μmがより好ましい。また、繊維の長さが、1~5mmが好ましく、3~5mmがより好ましい。なお、ここで繊維に関する直径および長さは、繊維材料に含まれる繊維の算術平均値である。
【0039】
繊維の直径が小さすぎると、凝集しやすくなるため、断熱用組成物の粘度上昇を招き成膜性が低下するおそれがあり、直径が大きすぎると、補強効果が小さくなり、成膜性や耐熱性が低下したり、熱の伝達経路が形成されて熱伝導率が大きくなり断熱性が低下したり、するおそれがある。
【0040】
また、繊維が短すぎると、補強効果が小さくなり、成膜性や耐熱性が低下するおそれがあり、繊維が長すぎると、凝集しやすくなるため、断熱用組成物の粘度上昇を招き成膜性が低下するおそれがあり、また、熱の伝達経路が形成されて熱伝導率が大きくなり断熱性が低下するおそれがある。
【0041】
この繊維材料の含有量は、低密度粉末100質量部に対して、1~10質量部配合することが好ましく、2~8質量部がより好ましい。10質量部を超えると、凝集しやすくなるため、断熱用組成物の粘度上昇を招き成膜性が低下したり、熱の伝達経路が形成されて熱伝導率が大きくなり断熱性が低下したり、するおそれがあり、1質量部未満であると、補強効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0042】
上記のように、本実施の形態における断熱用組成物は、上記した低密度粉末材料と水溶性高分子溶液とを所定の割合で混合し、必要に応じて繊維成分を配合することにより得ることができる。この断熱用組成物は、後述する方法で断熱材を形成するのに用いられるもので、通常、液状の組成物として調製される。
【0043】
液状の組成物として得られた断熱用組成物は、後述するように、例えば、基材への塗布や、型への流し込みにより、断熱材を形成できる。
【0044】
この断熱用組成物の粘度は、断熱材を所望の形状に形成できるものであれば特に限定されない。例えば、断熱用組成物を塗料として用いる場合、その粘度は、500~100,000mPa・sとするのが好ましく、塗膜の膜厚が10μmのときの室温自然乾燥時の乾燥時間が、室温自然乾燥で2時間以下であることが好ましい。このような構成とすることで、当該塗料は、接着剤としても使用可能となる。なお、本明細書における「粘度」は、全て25℃での粘度を示すものとする。
【0045】
本実施の形態の断熱用組成物を塗料として用いる場合、目的とする物品に塗料層の厚さが2~200μmとなるように塗布することが好ましい。この塗料は、液状の水溶液であるため、目的物が微細な構造を有する場合であっても容易に塗布でき、断熱効果を付することができる。このとき、塗料層の厚さが2~200μmとなるようにシート材に塗布すると、断熱シート材を形成できる。この断熱シート材を、包装材としたり、目的の物品に貼付したりすることで、目的の物品に対して断熱効果を付与することができる。
【0046】
本実施の形態の断熱用組成物は、上記した低密度粉末材料として、多孔質粉末及び中空粉末のうち少なくとも一方を含んでいる。断熱用組成物中にこのような粉末が含まれることで、形成される断熱材中に空気が含ませることができ、この内部の空気により断熱効果を生じさせることができる。
【0047】
また、本実施の形態の断熱用組成物は、このような低密度の粉末を使用することにより、塗料全体の質量を軽減させることもできる。この観点からは、多孔質粉末を使用した場合、より多孔性の高い粒子を使用することが好ましく、より比表面積の高いものを使用することが好ましい。
【0048】
本実施の形態の断熱用組成物は、上記説明した性能面に加えて、有機溶剤を用いることなく得ることができるため、人体への影響が懸念されるものではなく、食品、医薬品の包装や、住宅用建材としての用途にも適用可能である。また、本実施の形態の塗料は、樹脂製品等に塗布してもその製品を腐食させることもなく、良好な断熱効果を奏することができる。すなわち、本実施の形態における断熱用組成物は、安全面、環境面でも有利な組成物である。
【0049】
<断熱材の製造方法>
次に、上記断熱用組成物を用いて断熱材を製造する方法について説明する。
【0050】
まず、断熱用組成物を用いて、断熱性を付与する対象となる基体の表面に塗布したり、断熱材成形用の型に流し込んだりして、断熱材組成物を断熱材形状とする(成形工程)。
【0051】
この成形工程において、基体に塗布する際には、その塗膜の厚さは特に限定されないが、例えば、2~200μmが好ましく、5~50μmがより好ましく、5~25μmがさらに好ましい。
【0052】
このとき、具体的には、断熱用組成物の粘度は、500~100,000mPa・s、特に10,000~30,000mPa・sとすることが好ましい。粘度が高すぎても低すぎても、上記の厚さの塗料層を形成することが困難となるためである。
【0053】
また、成形用型に流し込む際には、用いる成形型は所望の形状に成形できるものであれば特に限定されるものではない。このとき、断熱性組成物の粘度は、成形型内に十分に充填可能な粘度であればよい。
【0054】
上記した基体および成形型は、そのまま、後述するような冷凍乾燥工程に付されるため、冷凍時に問題が生じないような材質で形成されたものが好ましく、例えば、金属製、樹脂製、木製等で形成された基体および成形型が使用できる。
【0055】
次いで、塗布または流し込みにより断熱材形状にした断熱用組成物を、冷却により断熱用組成物を凍結させる(凍結工程)。この凍結は、水溶性高分子溶液の溶媒が凍結する温度まで冷却するものであり、溶媒は通常水が用いられ、例えば、-5~-80℃に冷却して行うことが好ましい。このとき、急速に冷却することが好ましく、例えば、温度が30分以内に最大氷結晶生成帯(マイナス5℃~マイナス1℃)を通過するように凍結することが好ましい。このように急速に冷凍することで、低密度粉末材料が分散状態を維持でき、また、断熱材の製造効率を向上できる。
【0056】
上記冷却により、溶媒において氷の結晶が生成する。氷の結晶は、最初に結晶の核が生成し、ついで、この核が成長して得られる。このとき、低密度粉末材料が均一に分散した状態で凍結されるのが好ましい。
【0057】
次いで、凍結させた断熱用組成物を、減圧状態で乾燥(真空乾燥)させる(乾燥工程)。この乾燥工程において、断熱用組成物中の凍っている溶媒(水分)は、昇華して、断熱用組成物から除去され、低密度粉末材料同士は水溶性高分子により接着、結合される。そして、除去された溶媒(水分)の存在していた箇所は空間として残るため、低密度粉末材料間が多孔状となった断熱材(凍結乾燥体)が得られる。
【0058】
乾燥工程における乾燥条件としては、公知の条件で行うことができ、通常、減圧下、常温または加熱して、凍結された断熱用組成物の乾燥を行う。例えば、4~100Paの減圧条件で、常温~60℃の温度となるようにする。また、このときの乾燥時間は、断熱用組成物の表面積や構造物の大きさにより適宜調整でき、所望の乾燥状態となるように設定すればよく、例えば、1分~48時間が好ましく、4時間~36時間がより好ましく、18時間~30時間がより好ましい。
【0059】
このようにして得られる断熱材は、低密度粉末材料自体と、上記した除去された水分に対応する多孔状の空間とが、共に断熱性に寄与するため、極めて良好な断熱性能を有するものとなる。
【0060】
本実施の形態の断熱用組成物および断熱材の製造方法によれば、微細な構造を有する物品や、耐溶剤性の低い物品に対しても適用可能であり、これらの物品にも断熱効果を付与することができる。
【0061】
<断熱物品>
本実施の形態の断熱物品は、上記説明した断熱用組成物を用い、上記のように凍結乾燥して得られる断熱材(凍結乾燥体)を含むものである。
【0062】
このようにして得られる断熱材は、上記したように、低密度粉末材料が水溶性高分子により結合され、かつ、上記除去された水分に対応した多孔状の構造を有し、良好な断熱性能を有する。
【0063】
この断熱物品は、全部が上記断熱材のみで構成されていてもよいし、その一部が上記断熱材で構成されていてもよい。一般には、目的の物品を包装したり、目的の物品に添付したりして、断熱物品の一部に上記断熱材(凍結乾燥体)を有するようにする。
【0064】
このような断熱物品としては、例えば、容器の内周または外周に断熱材を形成した構成である断熱容器、内容器と外容器とからなる容器であって、その内容器と外容器の間に上記断熱材を有する構成となる断熱容器や、シート材の上に所定の厚さの断熱材が形成されている積層構造の断熱シート、などが挙げられる。上記断熱材は、外部雰囲気と接触しないように設けられることが好ましい。
【0065】
この断熱物品としては、例えば、従来、別途断熱容器に収納して運送されてきた冷蔵・冷凍製品について、製品自体に断熱性を付与することが可能となる。また、断熱容器に冷蔵・冷凍製品を収納して使用する場合においても、該断熱容器の嵩を減じることが可能であり、運送効率を上げることができる。
【0066】
また、保温性の包装容器として、内容物の容積に比して、従来よりも容器自体の嵩が低い断熱性包装容器を製造することが可能である。
【0067】
また、例えば住宅用の壁紙裏面に本実施の形態の断熱用組成物を塗布することにより、低嵩の断熱材を裏面に設け、壁に断熱性を付与することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本実施の形態の断熱用組成物について、実施例を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明がこの実施例の記載に限定して解釈されるものでないことは言うまでもない。
【0069】
〔実施例1〕
1質量%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液100mLと低密度粉末としてエアロゲル22.5g(300mL)とを、ミキサーを用いて均一に混合して断熱用組成物1を調製した(配合比率(体積比)は、水溶性高分子溶液:低密度粉末=1:3)。ここで、低密度粉末はシリカ粉末(英徳市埃力生亜太電子有限会社製、品名:エアロゲル、密度0.0125~0.018g/cm3、平均粒径5μm、比表面積650m2/g)、PVAはJC33(日本酢ビ・ポパール株式会社製、商品名)を使用した。調製した断熱用組成物1の粘度は10,000mPa・sであった。
【0070】
この断熱用組成物1を、直径が5cmの筒状容器の内壁部および内側底部と、筒状容器の蓋の内側に、それぞれ厚さが1cmとなるように型を配置して流し込み、断熱用組成物を備えた筒状容器を形成した。
【0071】
これを冷凍庫で-15℃、2日間冷却し、断熱用組成物を凍らせた。その後、-0.1MPa(ゲージ圧)、常温の条件で、1週間真空乾燥させて、断熱材を有する断熱容器1Aを製造した。
図1にこの断熱容器の概略構成を示す側断面図を表している。
【0072】
ここで、断熱容器1Aは、断熱材2が形成された円筒状の容器3およびその蓋3aからなり、蓋を閉じると、断熱容器1Aの内部は、周囲を断熱材2で覆われた空間になっている。
【0073】
さらに、断熱用組成物1を、内側の寸法が100mm×100mm×100mmの成形型に収容し、その中央に、上方から直径が65mmの円柱体を深さ75mmまで差し込むように配置した。
【0074】
これを冷凍庫で-15℃、2日間冷却し、断熱用組成物を凍らせた。その後、-0.1MPa(ゲージ圧)、常温の条件で、1週間真空乾燥させて、得られた凍結乾燥体を、上記成形型から取り出し、円柱体を外して、円柱状の収容部を有する断熱材のみからなる断熱容器1Bを製造した。
【0075】
ここで、
図2に示したように、断熱容器1Bは、断熱材2のみで形成されており、その上部中央に開口した収容部を有している。
【0076】
〔実施例2〕
実施例1と同様に、1質量%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液100mLと低密度粉末としてエアロゲル22.5g(300mL)とを混合し、さらに、ポリイミド繊維1gを加え、ミキサーを用いて均一に混合して断熱用組成物2を調製した(配合比率(体積比)は、水溶性高分子溶液:低密度粉末=1:3)。
ここで、ポリイミド繊維は、平均繊維長1cm、平均繊維径12μmを使用した。
【0077】
この断熱用組成物2を、直径が5cmの筒状容器の内壁部および内側底部と、筒状容器の蓋の内側に、それぞれ厚さが2cmとなるように型を配置して流し込み、断熱用組成物を備えた実施例1と同一形状の筒状容器を形成した。
【0078】
これを冷凍庫で-15℃、2日間冷却し、断熱用組成物を凍らせた。その後、-0.1MPa(ゲージ圧)、常温の条件で、1週間真空乾燥させて、断熱材を有する断熱容器2Aを製造した。
図1にこの断熱容器の概略構成を示す側断面図を表している。
【0079】
さらに、断熱用組成物2を、内側の寸法が100mm×100mm×100mmの容器に収容し、その中央に、上方から直径が65mmの円柱体を深さ75mmとなるように配置した。
【0080】
これを冷凍庫で-15℃、2日間冷却し、断熱用組成物を凍らせた。その後、-0.1MPa(ゲージ圧)、常温の条件で、1週間真空乾燥させて、得られた凍結乾燥体を、上記容器から取り出し、円柱体を外して、円柱状の収容部を有する断熱材のみからなる断熱容器2Bを製造した。
【0081】
ここで、
図2に示したように、断熱容器2Bは、断熱材2のみで形成されており、その上部中央に開口した収容部を有している。
【0082】
〔比較例1〕
比較例1として、上記断熱容器2Aの断熱材を設けなかった容器C1を用意した。
【0083】
〔比較例2〕
比較例2として、断熱材として断熱容器2Bと同一形状のスタイルフォーム(発泡ポリスチル)製の断熱容器C2Bを用意した。
【0084】
〔比較例3〕
比較例3として、上記実施例1とは、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液と低密度粉末の配合比率(体積比)を、水溶性高分子溶液:低密度粉末=1:1とした以外は、同様の操作により得られる断熱用組成物C3を調製した。
【0085】
さらに、断熱用組成物C3を用いた以外は、断熱容器2Bの製造と同一の操作により、円柱状の収容部を有する断熱材のみからなる断熱容器C3Bを製造した。
【0086】
<試験例>
〔高温側試験〕
実施例2で製造した断熱容器2Aの内部に、温度計51を収容し、蓋をして内部を密閉した。温度計51が、土台52に固定され、断熱容器2Bの内部雰囲気の温度を計測できるようになっている(
図3参照)。
【0087】
これを、オートクレーブ(株式会社東邦技研製、商品名:SUN-1500)を用いて、室温(23℃)から20分かけて136℃に加熱し、136℃の加熱状態を20分間維持し、その後、100℃強の加熱状態とし、これを20分維持し、その後室温まで冷却するようにして、その温度変化を測定した。
【0088】
上記試験における温度計の温度変化について、その結果を
図4に示した。
図4では、破線が比較例1、実線が実施例2を示している。
【0089】
図4の結果からわかるように、比較例1は、上記オートクレーブの加熱温度に追従して温度が変動しているのに対し、実施例2の断熱材を用いた場合、上記オートクレーブの加熱温度に対して、温度変動が緩やかで、特に一旦加熱した後に室温まで戻しても、その加温状態を維持していることがわかる。この結果から、本実施の形態の断熱材組成物を用いて得られた断熱材が良好な断熱性能を有していることがわかった。
【0090】
〔低温側試験1〕
実施例2で製造した断熱容器2Bの内部に、温度計の周囲を凍らせた試験用凍結体を収容し(
図5参照)、これをクーラーボックスに収容、蓋をして内部を密閉した。
図5は、断熱容器2Bの内部に、試験用凍結体を収容している状態を示した概略構成図である。ここで、試験用凍結体は缶容器を用い、この缶容器の内部に水を注ぎ、その中央に温度計51を配置した状態で凍らせ、温度計51の周囲に氷53を形成したものである。この試験用凍結体は、直径65mm、高さ75mmの円柱状である。
これを、常温(23℃)で放置して、その温度変化を測定した。
【0091】
上記試験における温度計の温度変化について、その結果を
図6に示した。
図6では、破線が比較例2、実線が実施例2を示している。
【0092】
図6の結果からわかるように、比較例2は、氷が溶けるまで22時29分程度、常温になるまで46時間22分程度、かかって温度が変動しているのに対し、実施例2では、氷が溶けるまで31時間22分程度、常温になるまで50時間22分程度、かかって温度変動している。実施例2と比較例2では、氷が溶けるまでの差が8時間53分程度、常温になるまでの差が4時間程度と、本実施例の断熱材が、従来公知の断熱材と比べて良好な断熱性能を有していることがわかった。
【0093】
〔低温側試験2〕
比較例3で得られた断熱容器C3Bと、上記断熱容器1Bとに、上記低温側試験1と同様に、各容器の中央に試験用凍結体を収容し、これをクーラーボックスに収容し、蓋をして内部を密閉した。
【0094】
これを、常温(23℃)で放置して、その温度変化を測定した。その結果を
図7に示した。
図7では、破線が比較例3、実線が実施例1を示している。
【0095】
図7の結果からわかるように、比較例3は、氷が溶けるまで29時20分程度かかっているのに対し、実施例1では、氷が溶けるまで30時間48分程度かかっている。実施例1と比較例3では、氷が溶けるまでの差が1時間28分程度と、本実施例の断熱材が、比較例の断熱材と比べて良好な断熱性能を有していることがわかった。
【0096】
また、比較例3では、PVAの割合が相対的に多いため、樹脂組成物の流動性は良好であったが、凍結乾燥体の加工性については、実施例1よりも劣っていた。一方、実施例1の断熱容器は、加工性も良好で、断熱性能も高いものであった。
【0097】
以上より、本実施の形態で示した、断熱用組成物を用いた断熱物品は、断熱性能が極めて良好であり、また、その製造も容易であり、優れたものであることがわかった。
【0098】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態または実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本実施の形態に係る断熱用組成物、断熱物品および断熱材の製造方法は、医薬品(ワクチン等含む)、食品、建築等の安全・環境面での配慮を要する分野での温度管理や、電子基板、赤外線センサー、磁気センサー等の電気部品の熱対策など、幅広い分野に適用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1A,1B…断熱容器、2…断熱材、3…容器、3a…蓋、51…温度計、52…土台、53…氷