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特許7590774リポソームドキソルビシン製剤、リポソームドキソルビシン製剤の製造方法、および薬剤としてのリポソームドキソルビシン製剤の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】リポソームドキソルビシン製剤、リポソームドキソルビシン製剤の製造方法、および薬剤としてのリポソームドキソルビシン製剤の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20241120BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20241120BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20241120BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K31/704
A61K47/24
A61K47/28
A61P35/00
A61P35/04
A61P15/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021575405
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-25
(86)【国際出願番号】 EP2020067196
(87)【国際公開番号】W WO2020254633
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】19181524.0
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520223745
【氏名又は名称】インノメディカ・ホールディング・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】INNOMEDICA HOLDING AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハルプヘル,シュテファン・ヨナタン
(72)【発明者】
【氏名】ハルプヘル,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】マテュイ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ブショーア,パトリック
【審査官】関 景輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-536247(JP,A)
【文献】米国特許第09895313(US,B1)
【文献】国際公開第2013/125237(WO,A1)
【文献】特表2013-539402(JP,A)
【文献】特表2007-533737(JP,A)
【文献】Clinical Cancer Research,1999年,5,pp.3645-3652
【文献】Mol. Pharmaceutics,2014年,11,pp.560-567
【文献】Biochimica et Biophysica Acta,2012年,1818,pp.2801-2807
【文献】Pharmaceutics,2013年,5,pp.542-569
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/127
A61K 31/704
A61K 47/24
A61K 47/28
A61P 35/00
A61P 35/04
A61P 15/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームドキソルビシン製剤であって、前記リポソームの脂質二重層は、
・ホスファチジルコリン、
・コレステロール、
・ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートを少なくとも含み、ここで、
前記リポソームは、Cryo-TEMにより測定される平均相対円形度が少なくとも0.99であり、10パーセンタイルが少なくとも0.98であり、ここにおいて円形度は下記式によって計算され、
【数1】

ここにおいて、前記リポソームは、動的光散乱により測定される平均直径が30~70nmである、および/または
前記リポソームは、cryo-TEMにより取得される画像に基づいて測定される平均直径が20~50nmである、リポソームドキソルビシン製剤。
【請求項2】
前記脂質二重層は、合成ホスファチジルコリン、コレステロール、およびDSPE-PEGからなる、請求項1に記載のリポソームドキソルビシン製剤。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートは、前記脂質二重層の外側層上にのみ位置している、請求項1または2に記載のリポソームドキソルビシン製剤。
【請求項4】
前記脂質二重層中のポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートの相対量は、少なくとも2モル%である、請求項1~のいずれか1項に記載のリポソームドキソルビシン製剤。
【請求項5】
薬物対総脂質重量比は、0.01~0.10である、請求項1~のいずれか1項に記載のリポソームドキソルビシン製剤。
【請求項6】
封入されているドキソルビシン結晶は、平均繊維幅が5~15nmであり、および/または平均繊維長さが15~40nmである、請求項1~のいずれか1項に記載のリポソームドキソルビシン製剤。
【請求項7】
前記リポソームはHEPES緩衝液中に分散している、請求項1~のいずれか1項に記載のリポソームドキソルビシン製剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のリポソームドキソルビシン製剤の製造方法であって、
a)有機溶媒中において、ホスファチジルコリン、およびコレステロールを提供する工程と、
b)水性液体を添加する工程と、
c)超音波処理によりリポソーム形成を生じさせる工程と、
e)PEG化によりリポソームを修飾する工程と、
f)前記リポソーム中にドキソルビシンを充填する工程とを含み、
ここにおいて工程b)で添加される前記水性液体は140~160mMの硫酸アンモニウム水溶液であり、
ここにおいて工程c)が、
前記リポソームの、動的光散乱により測定される平均直径が、30~70nmとなるように、および/または
前記リポソームの、cryo-TEMにより測定される平均直径が、20~50nmとなるように実施される、方法。
【請求項9】
工程c)に続いて、
d)ろ過によりリポソームを分離する工程が行われる、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が押出工程も薄膜水和工程も含まない、請求項またはに記載の方法。
【請求項11】
工程f)に続いて、工程g)ろ過による滅菌が行われる、請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
薬剤として使用するための、請求項1~のいずれか1項に記載のリポソームドキソルビシン製剤。
【請求項13】
子宮平滑筋肉腫の処置において薬剤として使用するための請求項12に記載のリポソームドキソルビシン製剤。
【請求項14】
皮膚付属器がんの処置において薬剤として使用するための請求項12に記載のリポソームドキソルビシン製剤。
【請求項15】
前記処置が前記製剤の静脈内投与を含む、請求項1214のいずれか1項に記載の医学的適応症の処置において使用するための、請求項1~のいずれか1項に記載のリポソームドキソルビシン製剤。
【請求項16】
前記リポソームドキソルビシン製剤は、DLSによって測定される多分散指数が、0.15以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のリポソームドキソルビシン製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソームドキソルビシン製剤、リポソームドキソルビシン製剤の製造方法、および薬剤として使用するためのリポソームドキソルビシン製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、少なくとも1つの脂質二重層を有する球状のベシクルである。リポソームは、1つのベシクルがこれよりも小さな1つ以上のベシクルを含有する多胞性リポソームであってもよい。リポソームは、中心に水溶液を有し、これが、脂質二重層の形態をとる疎水性の膜に囲まれている。
【0003】
多様な薬物、特に非経口投与される薬物について、薬物送達のためのリポソームの使用が提案されている。リポソームは、投与された薬物を長期間にわたって制御「デポ」放出することができ、遊離薬物の血中濃度の制限により薬物の副作用を低減できる。また、リポソームは、組織における薬物の分布および取り込みを、治療に有利となるように変化させることができ、さらに、薬物投与回数を減らせるために、療法の利便性を増大させることができる。たとえば、リポソームは、封入されている活性成分を、腫瘍細胞および炎症部位を含む疾患部位に直接輸送することができる。活性成分は、処置部位においてリポソームから直接放出され得る。その結果、活性成分の必要投薬量が少なくて済み、その結果として副作用が制限される。
【0004】
リポソームは、活性成分を作用部位へと移動させることができる。リポソームの膜は生体膜と構造が類似しているため、リポソームは細胞膜と一体化し得る。一体化すると、リポソームの内容物が細胞内に流出し、そこで活性成分が作用し得る。薬物担体システムとしてのリポソームの使用により、各活性成分の投与に伴う、かつ活性成分の高い全身性吸収に関係する副作用を低減し得る。活性成分は、所望の標的部位において蓄積され得る。リポソーム二重層の成分は、肝臓および/または脾臓において代謝され得る。
【0005】
がんを処置するための薬物送達システムの開発は特に重要である、というのは、がんの処置における薬剤は細胞増殖抑制性または細胞毒性を有するものが多いためである。健康な組織への放出を防止することが望まれている。
【0006】
リポソーム組成物を使用して、封入されている治療薬が送達されている。たとえば、Doxil(登録商標)(欧州ではCaelyx(登録商標))は、卵巣がんなどのがんを処置するために使用されるドキソルビシンを封入したPEG化リポソーム製剤である。ドキソルビシンのような弱両親媒性の塩基を、膜両側のイオン勾配を利用してリポソーム中に充填し得る(たとえば、Nichols et al. (1976) Biochim. Biophys. Acta 455:269-271; Cramer et al (1977) Biochemical and Biophysical Research Communications 75(2):295-301を参照)。この充填方法は一般的には遠隔充填とよばれ、典型的には、イオン化性アミン基を有する薬物を用い、これを、内側が低く外側が高いイオン勾配(多くの場合はpH勾配)を有するように調製したリポソームの懸濁液に添加することによって、充填する。
【0007】
こうしたリポソームにより薬物充填PLD(PEG化リポソームドキソルビシン)が間質液中に血管外遊出した後に関しては、薬物放出を律しているプロセスについてはほとんど分かっていない。薬物を保持しているアンモニウム/プロトン勾配の漸進的な喪失、リポソームのリン脂質に対するホスホリパーゼによる酵素分解、および/またはスカベンジャーであるマクロファージによるエンドサイトーシスが、薬物放出に寄与している可能性があると考えられている(Barenholz, (2012) J Control Release. 160(2): 117-34)。
【0008】
リポソーム封入ドキソルビシンは、がんの処置において有効であることが立証されている。しかしながら、腫瘍蓄積、細胞毒性、および腫瘍重量低減効率をさらに改善し得る。
【0009】
リポソーム封入ドキソルビシンは、非封入ドキソルビシンよりも心毒性が低いことが立証されている。しかしながら、当技術分野において周知されるリポソーム封入ドキソルビシンは、一般的には手足症候群として知られる手掌足底発赤知覚不全(PPE)などの重症の副作用を引き起こす(たとえば、Gabizon et al (1994) Cancer Research 54:987-992; Solomon et al. (2008) Clinical Lymphoma and melanoma 1:21-32を参照)。PPEは発赤、圧痛、および皮膚剥離を生じ、これらは不快感、さらには痛みを生じることもある。4週間毎に50mg/mを投与した臨床試験において、Doxil(登録商標)で処置した患者の50.6%が手足症候群を発病した。この副作用罹患率のために、Doxil(登録商標)の投与可能量は、同じ処置計画における遊離ドキソルビシンと比較して制限されている。また、当技術分野において周知されるリポソーム封入ドキソルビシンは、好中球減少症などの血液学的副作用を依然として引き起こしている。
【0010】
いくつかのドキソルビシン充填型リポソームが、Hongら(Clin Cancer Res (1999) 5:3645-3652)および米国US9895313により周知されている。しかしながら、こうしたリポソームは、異なる製造プロセスによって、すなわち、一方は薄膜水和および押出しの組み合わせによって、他方は水混和性有機溶媒中の脂質溶液と水溶液とを特殊設計されたマルチポート混合チャンバ内で混合することによって、それぞれ得たものである。Hongの教示に従ってリポソーム調製のために実施された比較試験により、示されている粒子径65~75nmは再現不可能であることが示された。その代わりに、約114nmという粒子径が得られた。また、いずれの開示も、リポソームの円形度、そのサイズ分布、または充填されたドキソルビシン結晶の形状およびサイズについては記載していない。しかしながら、研究されたリポソームの調製についての教示からは250mMという硫酸アンモニウム濃度が示されており、これは、Weiらの出版物(Wei et al. (2018) ACS Omega 3:2508-2517)によれば、顕著なアスペクト比を有するリポソームを示唆するものである。同出版物によれば、PEG化リポソームドキソルビシン(PLD)中における安定的なナノ結晶化を助けるために必要なリポソーム内硫酸アンモニウム最低濃度は200mMであり、このような結晶を有していないまたは結晶の結晶性が不十分であるPLDは、急速かつ二相性のドキソルビシン放出を示す。
【0011】
したがって、化学的および物理的に安定でありかつ腫瘍蓄積、細胞毒性、および腫瘍重量低減効率が改善されたドキソルビシン送達のためのリポソーム製剤が、依然として必要とされている。また、治療有効性を損なうことなくPPEなどの好ましくない副作用を低減することも、依然として必要とされている。さらに、好適なリポソーム製剤を製造するための高効率、高信頼性、および高費用対効果の方法も必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、こうした必要性に対処して、がんの処置のための改善されたリポソームドキソルビシン製剤を提供することである。本発明の別の目的は、このようなリポソームドキソルビシン製剤の製造方法を提供すること、および薬剤としてのこのようなリポソームドキソルビシンの使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述される問題は、独立項に記載の特徴を有するリポソームドキソルビシン製剤、リポソームドキソルビシン製剤の製造方法、およびリポソームドキソルビシン製剤の薬剤としての使用によって解決された。
【0014】
本発明は、リポソームドキソルビシン製剤であって、リポソームの脂質二重層は、
・ホスファチジルコリン、好ましくは1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、
・コレステロール、
・ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲート、好ましくはDSPE-PEG2000を少なくとも含み、ここで、
リポソームは、DLSによって測定される平均直径が30~70nm、好ましくは40~65nmである、または
リポソームは、Cryo-TEMにより取得される画像に基づいて測定される平均直径が20~50nm、好ましくは30~40nmである、リポソームドキソルビシン製剤に関する。
【0015】
「リポソームドキソルビシン製剤」は、ドキソルビシンをリポソーム中に封入して含む組成物を意味する。特に、この製剤はドキソルビシン塩酸塩を含む。ドキソルビシンは、がんの処置に関して当技術分野において周知されているアントラサイクリントポイソメラーゼII阻害剤である。その化学名は、(8S,10S)-10-[(3-アミノ-2,3,6-トリデオキシ-α-L-lyxo-ヘキソピラノシル)オキシ]-8-グリコリル-7,8,9,10-テトラヒドロ-6,8,11-トリヒドロキシ-1-メトキシ-5,12-ナフタセンジオン塩酸塩である。リポソームドキソルビシン製剤で処置できる疾患は、急性白血病、乳がん、ホジキン疾患、非ホジキンリンパ腫、および肉腫を含む、特定のがんである。特に好ましくは、この薬剤は、転移性乳がん、進行性卵巣がん、カポジ肉腫、および多発性骨髄腫の処置を目的とする。
【0016】
安定性と、リポソームからの薬物放出の位置および速度とを決定する主な因子の1つは、リポソーム脂質膜の組成である。その他の因子としては、組成物中におけるリポソームのサイズおよび形態、ならびにリポソーム中に封入されているドキソルビシン結晶の形態が挙げられる。
【0017】
本発明の目的において、脂質二重層中のホスファチジルコリンは、DDPC、DLPC、DMPC、DPPC、DSPC、DOPC、POPC、およびDEPC、またはこれらの混合物のうちのいずれであってもよい。最も好ましくは、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)である。
【0018】
Caelyx(登録商標)およびDoxil(登録商標)は、本質的に、完全水添大豆ホスファチジルコリンHSPCに基づく。HSPCは下記構造式を有する。
【0019】
【化1】
【0020】
式中、m、nは14または16である。天然物(大豆)から得られるため、HSPCは、完全合成型の分子と比べて、構造均質性が低い。そのため、HSPCは、脂質二重層中での配列時における脂肪酸鎖の高密度充填には比較的適さず、したがって、所望のサイズのリポソームの形成にも比較的適さない。同じことがリポソーム製剤にもあてはまる、というのは、脂質二重層中のリン脂質の量が、異なるホスファチジルコリンを混合したもの、たとえば1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)と1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)とを混合したものからなるためである。したがって、脂質二重層のために使用されるホスファチジルコリン(PC)の総量のうち少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも99重量%、より好ましくは100重量%がDSPCであるということが、本発明の目的にとって特に好ましい。
【0021】
ホスファチジルコリンに加えてコレステロールも含むリポソームは、改善された循環寿命、薬物動態、および治療特徴を有する。これらは生体適合性であり、生分解される。
【0022】
ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートは、好ましくは、メトキシポリエチレングリコール(MPEG)(より具体的にはN-(カルボニル-メトキシポリエチレングリコール2000))-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンナトリウム塩(MPEG2000-DSPE)である。ポリエチレングリコール(PEG)コンジュゲート脂質に基づいて膜表面を修飾すると、たとえば肝臓および脾臓中での貪食細胞によるリポソーム捕獲が回避されることにより、血液循環能力が改善されることが知られている。
【0023】
本発明に係るリポソームドキソルビシン製剤中におけるリポソームは、動的光散乱DLSにより測定される平均直径が30~70nm、好ましくは40~65nmである、および/または当該リポソームは、cryo-TEMにより測定される平均直径が20~50nm、好ましくは30~40nmである。
【0024】
「動的光散乱(DLS)により測定」とは、脂質濃度20~30mg/mlの試料をPBSまたはMQ HO中に19倍希釈して機器の減衰定数である約6に到達させたものに対してDLSを行なったことを意味する。DLSは、マルバーンゼータサイザーナノデバイス(Malvern Zetasizer Nano device)を用いて、25℃、散乱角0゜にて測定した。機器制御およびデータ分析は、マルバーンのゼータサイザーソフトウェア(バージョン7.11)を用いて行なった。粒子径(流体力学的直径)は以下のストークス・アインシュタインの式を用いて求めた。
【0025】
【数1】
【0026】
式中、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、ηは分散剤粘度、Dは拡散係数である。粘度はゼータサイザーソフトウェアを用いて求め、0.8872cPであった。分散剤屈折率は1.330であった。Dは、適切なアルゴリズムに自己相関関数をフィッティングすることによって得た。キュムラント分析は、DLS実験により生じた自己相関関数を分析して平均粒子径(Z-ave)および多分散指数(PDI)を得るための簡単な方法である。計算は、ISO13321(1996)およびISO22412(2008)中に定義される。DLS実験からの一次結果は、粒子径の強度分布である。強度分布は、散乱強度にしたがって自然に重み付けされる。サイズ分布は、対数的に間隔をあけて示される様々なサイズクラス(X軸)に対する、粒子による散乱光の相対強度(Y軸)のプロットとして示される。測定には、パス長が10mmで透明な使い捨てゼータセルを使用した。
【0027】
「Cryo-TEMにより取得される画像に基づいて測定」とは、試料を極低温透過電子顕微鏡法に供したことを意味する。リポソーム試料を適宜希釈し、acc電圧200kVでオングリッド(フォルムバールおよびカーボン)にてガラス化および調製した。cryoTEM JEOL JEM-2100FおよびTVIPS TemCam F415MPカメラを倍率20’000倍、40’000倍、80’000倍で用いて画像を取得した。粒子特定およびサイズ決定は、Vironova Analyzer Software(Vironova、スウェーデン)を使用する半自動式画像処理によって行なった。簡潔には、同じ倍率にて無作為に複数の画像をインポートした。画像境界の内側に全体が含まれいて膜がはっきりしているリポソーム粒子のみを検出した。特定した対象物を、球径、円形度、ユニラメラ性について分析した。すべての画像を同じ閾値および設定にて一括で処理して、各試料につき、分析対象粒子の数として1560~1178個に対応する5~18枚の画像を蓄積した。平均値の標準偏差は約10nmである。
【0028】
必ずというわけではないが、通常、本発明に係る製剤中のリポソームは、いずれの方法で測定しても、上述されるサイズ数値範囲内であり得る。Cryo-TEMにより測定される直径サイズは、一般的に、DLSによって測定される直径サイズよりも小さい。他にも要因はあるが、とりわけ、この点は、cryo-TEM画像中ではPEG鎖が視認不可能であることと、流体力学半径がDLSには影響するがcryo-TEMイメージングには影響しないこととに起因する。
【0029】
先行技術からの開示と比べると、本明細書中において開示されるリポソームドキソルビシン製剤では、驚くべきことに、前者よりも著しく低いリポソーム内硫酸アンモニウム濃度において既に、安定で非常に均一なドキソルビシン結晶繊維が形成されるということが見出された。
【0030】
理論に拘束されるものではないが、現在のところ、硫酸アンモニウム濃度が高い方が多量のドキソルビシンを充填でき、結果としてリポソーム内のドキソルビシン結晶が大きくなると考えられている。こうしたドキソルビシン結晶は、そのサイズおよび剛性のためにリポソームの内部を拡張し、最終的にはリポソームの形状が完全球から著しく外れることになる。また、粒子が様々に拡張することによって、長軸と短軸とが出現し、これが、たとえば、このようなPEG化リポソームドキソルビシン粒子の極低温透過電子顕微鏡(cryo-TEM)画像中で観察され得る。そして、言うまでもなく、このような粒子は、高度な均質性、すなわち狭い粒子径分布および/または高い円形度を特徴とするものではない。しかしながら、こうした特性は、以下にさらに詳細に記載されるように、本明細書中において開示されるリポソームドキソルビシン製剤の薬物動態および副作用プロファイルに対してプラスの影響を及ぼす。
【0031】
上述される組成および上述されるようなサイズを有する本発明に係るリポソームは、当技術分野において周知されるものよりも安定であることを示すことができた。このような小さな直径を有するリポソームは大きなものと比較してオプソニン化される速度が遅くその度合いも小さく、細網内皮系による除去も遅い。また、リポソームが大きくなる程、他のリポソームまたは粒子と融合または相互作用する可能性も高くなる。
【0032】
その結果、本発明に係るリポソームドキソルビシン製剤は、腫瘍増殖の防止においてより効果的であることが立証された。腫瘍中により多くのドキソルビシンが蓄積し、肝臓中でより容易に蓄積および除去される。また、in vitroアッセイにおける細胞毒性も高くなる。本発明に係るリポソームドキソルビシン製剤は、Doxil(登録商標)およびCaelyx(登録商標)製剤と比較して血清漏出が少ないが、細胞による取り込みが良好である。ヒトにおける血清半減期は、当技術分野において周知されるリポソームドキソルビシン製剤の場合と比べて著しく高い。当該製剤は、関連する標的領域において、所与の用量で、より高い薬物エクスポジション(drug exposition)をもたらす。Doxil(登録商標)およびCaelyx(登録商標)の代わりに本発明に係る製剤を使用することによって、PPEおよび好中球減少症などの有害作用を大幅に低減することができる。
【0033】
有効性の改善および有害作用の低減といった利点が、以下の実施例において説明される。
【0034】
好ましくは、上述されるようなリポソームドキソルビシン製剤において、脂質二重層は、本質的に、合成ホスファチジルコリン、好ましくは構造上均一な型の合成ホスファチジルコリン、コレステロール、およびDSPE-PEGからなる。特に好ましくは、脂質二重層は、本質的に、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、コレステロール、およびDSPE-PEGからなる。特に、脂質二重層の少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも99重量%、より好ましくは100%が、合成ホスファチジルコリン、好ましくは構造上均一な型の合成ホスファチジルコリン、コレステロール、およびDSPE-PEGのみからなる。上述されるとおり、均質な脂質二重層組成は、脂肪酸部位の高密度充填にとって有利である。したがって、均質な脂質二重層は、ベシクルの安定性を改善する。
【0035】
好ましくは、製剤中のリポソームの脂質二重層中におけるホスファチジルコリン対コレステロールの重量比は、50:50~70:30、好ましくは55:45~65:35、より好ましくは60:40である。
【0036】
好ましくは、リポソームドキソルビシン製剤において、リポソームは、Cryo-TEMにより取得される画像に基づいて測定される平均相対円形度が少なくとも0.99であり、
10パーセンタイルが少なくとも0.98であり、
好ましくは、5パーセンタイルが少なくとも0.98であり、
より好ましくは、5パーセンタイルが少なくとも0.98でありかつ2パーセンタイルが少なくとも0.96である。
【0037】
リポソームのベシクル形態は、上述されるとおりに判断される(「cryo-TEMにより取得される画像に基づいて測定」を参照)。円形度は下記式によって計算される。
【0038】
【数2】
【0039】
製剤中におけるリポソームの平均円形度値が高いことは、ベシクルの安定性をさらに支持し、ドキソルビシン療法によるPPEおよび好中球減少症などの副作用を低減する。理論に拘束されるものではないが、だ円体形状であると、そのサイズおよび脂質組成と相まって、標的でない位置で医薬品が時期尚早に放出され得る。このようなだ円体形状は、認可済の医薬品であるCaelyx(登録商標)およびDoxil(登録商標)に特徴的である。
【0040】
好ましい一実施形態において、リポソームドキソルビシン製剤は、DLSによって測定される多分散指数が0.15以下、好ましくは0.10以下、より好ましくは0.09以下である。したがって、このようなリポソームは本質的に単分散性である。測定は上述されるとおりに行なわれる(「動的光散乱により測定」を参照)。0.15以下という多分散指数は、当技術分野において周知されるリポソーム製剤の多分散指数よりも優れている。当技術分野において周知される、押出し、ホモジナイズ、および超音波処理という工程によって得られるリポソーム製剤は、典型的には、多分散指数が0.2~0.4である(Gim Ming Ong et al., Evaluation of Extrusion Technique for Nanosizing Liposomes, Pharmaceutics 2016 (8) 36, p. 5)。本質的に単分散性であるリポソーム製剤は、再現性目的および工業規模製造にとって有益であり、販売承認基準に準拠している。
【0041】
好ましくは、当該リポソームはユニラメラ型であり、内部区画を1つ有する。本発明に係るリポソーム製剤のリポソームは、好ましくは、少なくともその90%、より好ましくは少なくともその97%がユニラメラ型である。リポソーム分散物が均質なサイズを有し、円形であり、かつユニラメラ型であることにより、製造プロセスが制御されかつ工業的にスケーラブルとなる。
【0042】
上述される製剤中において、ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲート、好ましくはDSPE-PEGは、本質的に脂質二重層の外側層上にのみ位置し得る。
【0043】
本発明のコンテクストにおいて、「本質的に外側層上にのみ」とは、製剤中のリポソームの脂質二重層の内側層中における、ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲート、好ましくはDSPE-PEGの量が、0.1モル%未満、好ましくはさらには0.01モル%未満、より好ましくは0.0モル%であることを指す。ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートが本質的に存在しないことは、以下に記載される事後修飾PEG化法を適用することによって確認できる。
【0044】
リポソームの内部表面上に位置するPEG-脂質は効果的でなく、リポソームのサイズを必要以上に大きくし、その加水分解物は膜透過性を増大させ得る。
【0045】
好ましくは、脂質二重層中におけるポリエチレングリコール-脂質コンジュゲート、好ましくはDPE-PEGの相対量は、少なくとも2モル%、好ましくは少なくとも3モル%、より好ましくは4モル%~6モル%である。内側層がポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートを本質的に含まないことにより、結果として、製剤中のリポソームの外側層上におけるポリエチレングリコール-脂質コンジュゲート、好ましくはDSPE-PEGの相対量が最大で12モル%となる。ベシクルの血液循環安定性および生体適合性をさらに改善するために、外側面中に含まれるポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートの相対量が高いことが有効であると立証されている。表面修飾されたリポソームは代謝または除去されにくいことが分かっている。
【0046】
注目するべきことに、脂質二重層中にポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートを比較的に多量に含み、ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲート、好ましくはDSPE-PEGが本質的に脂質二重層の外側層上にのみ位置しているリポソームドキソルビシン製剤は、リポソームのサイズおよび形態とは独立して、それ自体が有利な概念である。したがって、この態様は、上述される記載内容との組み合わせでも適用できるが、さらにはそれ自体のみでも適用できる。
【0047】
したがって、本発明の一態様は、リポソームドキソルビシン製剤であって、リポソームの脂質二重層が、
・ホスファチジルコリン、好ましくは1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、
・コレステロール、
・ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲート、好ましくはDSPE-PEG2000を少なくとも含み、ここで、
脂質二重層中のポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートの相対量が、少なくとも2モル%、好ましくは少なくとも3モル%、より好ましくは4モル%~6モル%であり、ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートが、本質的に脂質二重層の外側層上にのみ位置している、リポソームドキソルビシン製剤に関する。
【0048】
また、上述される段落中に記載されるとおり、ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートを、脂質二重層中に、本質的に脂質二重層の外側層上にのみ、比較的多量に含み、さらに、任意のその他の特徴または本明細書中に記載される有利な特徴の組み合わせ、特にリポソームのサイズおよび/または形態に関する特徴を有するような、リポソームドキソルビシン製剤も好ましい。
【0049】
本発明の好ましい一実施形態において、製造後に6か月間、好ましくは12か月間保存した後の本発明に係るリポソームドキソルビシン製剤中のリポソームについて、動的光散乱により測定される平均直径は、30~70nm、好ましくは40~65nmであり、および/または、当該リポソームについて、cryo-TEMにより取得される画像に基づいて測定される平均直径は、20~50nm、好ましくは30~40nmである。
【0050】
特に好ましくは、製造から6か月後、好ましくは12か月後の製剤中のリポソームの平均直径は、製造直後の製剤中のリポソームの平均直径と本質的に同じである。DLSによって測定される直径のばらつきは、製造後の12か月間、±5nmを超えず、好ましくは±2nmを超えず、特に好ましくは±1nmを超えない。DLSによって測定される多分散指数のばらつきは、±0.05を超えず、好ましくは±0.02を超えず、特に好ましくは±0.01を超えない。
【0051】
したがって、本発明に係るリポソームは特に安定である。リポソームのサイズが制御可能かつ長期持続性であることは、製造、保存、保管寿命、および患者安全性といった目的にとって有益である。
【0052】
当該製剤は、薬物対総脂質重量比が0.01~0.10、好ましくは0.03~0.07であってよい。比較として、Doxil(登録商標)の総脂質含有量は16mg/mLに近く、ドキソルビシン濃度は2mg/mLである。その結果、Doxil(登録商標)の薬物対脂質比は0.138:1(重量:重量)となる。薬物対脂質比が低い方が、リポソームをより小さくかつより球状に製造できる点で有利である。このような形態は、さらに、有害作用の低減にも寄与する。それに加えて、実施例中で示されるように、所与の用量での患者の薬物エクスポジションは維持される、またはさらには増大する。
【0053】
好ましくは、封入されているドキソルビシン結晶は、平均長さが15~40nm、好ましくは18~37nm、より好ましくは25~35nmであり、および/または平均結晶幅が5~15nm、好ましくは6~12nm、より好ましくは7~11nmである。結晶の長さおよび幅は、cryo-TEMにより得られる一連の高倍率画像から手作業で測定される。当該寸法は、当技術分野において周知される類似組成よりも小さい。
【0054】
さらに好ましくは、封入されているドキソルビシンは、リポソーム1つあたりの繊維の平均数が1~6、好ましくは2~5、より好ましくは3~4である。繊維の数は、Cryo-TEMにより得られる一連の高倍率画像から手作業で求めた。結晶1つあたりの個々の繊維(高密度ノード(nodes))の数を誘導することができた。注目するべきことに、ドキソルビシン結晶はらせん状のコンフォメーションを有し、回転1つあたりの個々の繊維の数は変動し得る。正確な提示を得るために、ドキソルビシン結晶の回転1つにつき1つの測定値をとった。当該数値は、当技術分野において周知される類似組成よりも小さい。
【0055】
結晶の寸法が小さく結晶1つあたりの繊維の数が少ないことは、リポソームをより小さくかつより球状に製造できる点で有利である。このような形態は、さらに、有害作用の低減にも寄与する。それに加えて、実施例中で示されるように、所与の用量での患者の薬物エクスポジションは維持される、またはさらには増大する。
【0056】
注目するべきことに、リポソーム中に封入されているドキソルビシン結晶の繊維の幅および長さが比較的小さいリポソームドキソルビシン製剤は、リポソームのサイズおよび形態とは独立して、それ自体が有利な概念である。
【0057】
したがって、上述される記載内容との組み合わせでも適用できるがそれ自体のみでも適用できる本発明の一態様は、リポソームドキソルビシン製剤であって、リポソームの脂質二重層が、
・ホスファチジルコリン、好ましくは1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、
・コレステロール、
・ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲート、好ましくはDSPE-PEG2000を少なくとも含み、ここで、
封入されているドキソルビシン結晶の平均繊維幅が5~15nm、好ましくは6~12nm、より好ましくは7~11nmであり、および/または平均繊維長さが15~40nm、好ましくは18~37nm、より好ましくは25~35nmである、リポソームドキソルビシン製剤に関する。
【0058】
また、上述される段落中に記載されるとおり、繊維の幅および長さが比較的小さく、さらに、任意のその他の特徴または本明細書中に記載される有利な特徴の組み合わせ、特にリポソームのサイズおよび/または形態に関する特徴を有するような、リポソームドキソルビシン製剤も好ましい。
【0059】
好ましくは、当該製剤は、好ましくは濃度10mMにて、HEPES緩衝液中に分散しており、これによりpH値が6.8となる。この溶液は0.9%のNaClを含有していてよい。当技術分野において周知されるリポソーム製剤は、ヒスチジンおよび糖の群(ミオセットラクトース(myocet lactose)、ドキシルスクロース(doxil sucrose))に基づく緩衝液中に分散している。本実施形態においては、製剤をスクロース不含有とし得るため、バイオバーデンのリスクを低減できる。また、製造後の滅菌ろ過も可能となる。以下に記載されるとおり、この態様により、高い費用対効果での製造が促進される。
【0060】
製剤中にドキソルビシン以外の活性成分を封入できる可能性がある。たとえば、放出時に相乗効果を示す活性成分を含めるまたは封入することができる。また、少なくとも1種の活性成分がリポソーム二重層中に含まれ、別の少なくとも1種の活性成分が同じリポソームの中に封入されてもよい。用語「活性成分」は、薬理学的活性薬物およびプロドラッグを含み得る。プロドラッグは、投与後に代謝されて薬理学的活性薬物となる薬または化合物である。
【0061】
活性成分は、小さなまたは大きな有機または無機分子、核酸、核酸アナログおよび誘導体、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質、抗体およびその抗原結合断片、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、脂質、グリコサミノグリカン、生体材料から得られる抽出物、ならびにこれらの任意の組み合わせからなる群より選択され得る。
【0062】
リポソームは、充填されているかいないかにかかわらず、それ自体が活性成分であってもよい。
【0063】
上述される記載内容との組み合わせでも適用できるがそれ自体のみでも適用できる本発明の別の一態様によれば、リポソームドキソルビシン製剤と共にリポソームドセタキセル製剤を投与することが特に有利である。ドセタキセルは、がん、特に乳がん、非小細胞肺がん、前立腺がん、胃腺癌、頭頸部がんの処置において使用される化学療法薬である。ドセタキセルはTaxotereの名称で販売され、これは、ドセタキセルを溶媒中にて三水和物として含有する。ドセタキセルの化学名は、[(1S,2S,3R,4S,7R,9S,10S,12R,15S)-4-アセチルオキシ-1,9,12-トリヒドロキシ-15-[(2R,3S)-2-ヒドロキシ-3-[(2-メチルプロパン-2-イル)オキシカルボニルアミノ]-3-フェニルプロパノイル]オキシ-10,14,17,17-テトラメチル-11-オキソ-6-オキサテトラシクロ[11.3.1.03,10.04,7]ヘプタデカ-13-エン-2-イル]ベンゾエートである。
【0064】
当技術分野において、特定種類のがんの処置のためにドキソルビシン投与とドセタキセル投与とを組み合わせることが示唆されている。しかしながら、今回、本発明者らにより、リポソームドキソルビシン製剤およびリポソームドセタキセル製剤の併用投与がプラスの作用を有することが分かった。さらに、個々のリポソームがこれら2種の薬物物質を同時に含むようなリポソーム製剤を投与すると当該作用がさらに顕著となることも分かった。このような実施形態においては、個々のリポソームがその内部水性区画中に親水性のドキソルビシンを封入しており、脂質二重層の層と層の間に(疎水性特性を有する)ドセタキセルが位置している。
【0065】
したがって、特に好ましくは、
水性内部区画中にドキソルビシンを含み、
脂質二重層中にドセタキセルを含む個々のリポソームを、リポソームドキソルビシン製剤が含む。
【0066】
特に好ましくは、当該製剤は、本質的に、水性内部区画中にドキソルビシンを含み脂質二重層中にドセタキセルを含む個々のリポソームからなる、すなわち、活性物質の組み合わせを有するリポソームの量が少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%である。
【0067】
好ましくは、水性内部区画中にドキソルビシンを含み脂質二重層中にドセタキセルを含む個々のリポソームを含むリポソームドキソルビシン製剤は、本明細書中に記載されるとおりの有利な特性、すなわち、サイズ、円形度、二重層組成、安定性、表面修飾などを有する。また、好ましくは、このようなリポソームドキソルビシン製剤が、薬剤として、好ましくは本明細書中に示される医学的状態の処置における薬剤として、使用される。しかしながら、注目するべきことに、個々のリポソーム中におけるドキソルビシンおよびドセタキセルの組み合わせは、それ自体が有利な概念である。
【0068】
本発明のさらなる一態様は、リポソーム、好ましくは先に記載されるリポソームの製造方法である。方法は、
a)有機溶媒中において、ホスファチジルコリン、好ましくは1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、およびコレステロールを提供する工程と、
b)水性液体を添加する工程と、
c)超音波処理によりリポソーム形成を生じさせる工程と、
d)任意に、ろ過によりリポソームを分離する工程と、
e)PEG化によりリポソームを修飾する工程と、
f)リポソーム中にドキソルビシンを、好ましくは遠隔充填技術により充填する工程とを含み、
工程c)が、
リポソームの、動的光散乱により測定される平均直径が、30~70nm、好ましくは40~65nmとなるように、および/または
リポソームの、cryo-TEMにより測定される平均直径が、20~50nm、好ましくは30~40nmとなるように実施されることを特徴とする。
【0069】
この方法によれば、安定性の値が大幅に改善され、バイオアベイラビリティが大幅に改善され、毒性が低減されたリポソームを得ることができる。空のリポソームは穏やかな超音波処理プロセスにおいて製造され、ここで脂質は自然にリポソームとなる。このリポソームは、安定剤を添加しなくても、その自然の形状にて長期間安定である。リポソームのサイズ分布は、様々な時点で測定され、本質的に一定であった。この小さなサイズも経時的に一定であることが分かった。
【0070】
好ましくは、工程a)において使用される有機溶媒は、エタノール、メタノール、クロロホルム、およびこれらの混合物からなる群より選択される。最も好ましくは、たとえば99.99%超の無水のエタノールまたはメタノールなどの、高純度の有機溶媒が使用される。さらにより好ましくは、薄膜水和は不要である。
【0071】
使用される脂質は、こうした有機溶媒中への溶解度が良好である。高純度の有機溶媒を使用することによって、リポソーム中への不純物の混入が回避される。
【0072】
工程b)において使用される水性液体は、水、水性緩衝液、水性グリシン溶液からなる群より選択され得る。好ましくは、たとえばPBS(10mM リン酸塩、pH7.2~7.4、0.9% NaCl)などの、生理食塩濃度の水性緩衝液を使用できる。また、150mM 硫酸アンモニウム、150nM 酢酸カルシウム、150mM 酢酸マグネシウム、150mM 酢酸マンガン、150mM 塩化鉄、または150mM 硫酸銅といった水性緩衝液も使用できる。
【0073】
硫酸アンモニウム水溶液、好ましくは140~160mMの硫酸アンモニウム水溶液、より好ましくは150mMの硫酸アンモニウム水溶液を使用することが好ましい。上記数値範囲内の濃度であれば、工程f)における制御遠隔充填が可能であり、薬物対総脂質重量比0.01~0.1、好ましくは0.04~0.6のリポソームドキソルビシン製剤を送達するのに好適である。生理食塩濃度は、リポソームの内側を体内の生理的条件に近づけるために提供できる。
【0074】
工程c)における超音波処理は、好ましくは、少なくとも60μmの振幅で少なくとも1時間行なう。超音波処理は最長24時間にわたって行なう。
【0075】
分離工程d)を行なう場合には、遠心分離、ろ過、フィールドフローフラクショネーション(FFF)、透析、クロマトグラフィー法、好ましくはゲル浸透クロマトグラフィーによって行なってよい。
【0076】
リポソームは、有機溶媒、塩、および/または界面活性剤などの、混合液の残留物質から分離される。
【0077】
リポソーム分布は、好ましくは少なくともその95%がユニラメラ型であり、好ましくは少なくともその97%がユニラメラ型であり、より好ましくは少なくともその98%がユニラメラ型である。好ましくは、リポソームは、cryo-TEMにより測定される平均相対円形度が少なくとも0.99であり、10パーセンタイルが少なくとも0.98であり、好ましくは5パーセンタイルが少なくとも0.98である。さらにより好ましくは、5パーセンタイルが少なくとも0.98であり、2パーセンタイルが少なくとも0.96である。ユニラメラ性および円形度はいずれも、上述される通りに測定される。本発明に係るリポソーム製剤において、クライオ透過電子顕微鏡法により測定される、球状リポソームと壊れた粒子および/または凝集体との比率は、重量%にて、9:1よりも高い。
【0078】
工程e)において、リポソーム分散物はPEG化により修飾される。
「PEG化」はポリエチレングリコール修飾を意味し、これは事後修飾法として行なわれる。慣習的には、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG-脂質を1つの混合物に溶解して粗製リポソームとし、以降でこれを、押出しによってサイズを小さくする。この方法は事前修飾法とよばれる。これとは対照的に、事後修飾法を適用する場合には、ホスファチジルコリンおよびコレステロールから構成される空のリポソームを溶媒中で調製し、次いで、適切な膜を通して押し出す。事後修飾法の改変法においては、PEG誘導体化リン脂質を、予め形成したリポソームの希薄懸濁液中に、リポソーム成分の融解温度に近い温度において添加する。この技術は「事後挿入」とも称され、PEG誘導体化リン脂質の挿入は、主として、膜脂質とPEG誘導体化リン脂質の疎水性部位との疎水性相互作用によって駆動される。好ましくは、PEG化は、60゜~70℃、好ましくは65℃において行なわれる。この方法は、Nakamura, K.(Comparative studies of polyethylene glycol-modified liposomes prepared using different PEG-modification methods; Biochim Biophys Acta, 1818 (2012) 2801-2807)中に詳細に記載される。好ましくは、DSPE-MPEG2000が使用される。事後修飾法の別の改変法においては、反応性基(これは、リポソーム構成要素上に存在する相補的な反応性基と反応できる)を含有するPEG部位を共有結合させることによって、リポソーム表面のPEG修飾がなされる。予め形成したリポソームの表面にPEGなどの部位を結合するための様々な異なる方法が周知されており、これらには、グルタルアルデヒドによる第1級アミンの架橋、カルボニル-アミン結合形成、活性化エステルと第1級アミンとの反応によるアミド結合形成、ジスルフィド結合形成、マレイミド-チオール付加反応によるチオエステル結合形成、およびヒドラジン結合形成が含まれる。さらに、「クリック」ケミストリーという用語でよく概括されるものなどの様々な双直交アプローチが存在し、これらによれば、化学選択性、水性媒体中での穏やかな反応条件、および副生成物がほとんどまたは全く含まれない良好な収量が可能となる。リポソーム表面を修飾するために利用されてきたクリックケミストリー反応の例には、銅(I)に触媒されるヒュスゲン1,3-双極子環化付加(CuAAC)、環の歪みにより促進される銅フリークリック反応、シュタウディンガーライゲーション、およびテトラジン/trans-シクロオクテン逆電子要請型Diels-Alder環化付加(IEDDA)が含まれ、詳細は下記中に記載される:Nag, O. K.; Surface Engineering of Liposomes for Stealth Behavior; Pharmaceutics; 5 (2013) 542-569。いずれの改変法においても、PEG脂質の添加は、水溶液中で好ましくは実施されるリポソーム形成/最小化工程の後でのみ行なわれる。したがって、DSPE-PEGが本質的に脂質二重層の外側層上にのみ位置しているPEG化リポソームが得られる。
【0079】
当該方法は、平均直径が50nm未満であり高い円形度を有し、安定傾向の強い、小さく均質のリポソームが得られるという利点を有する。本発明のさらに好適な態様は、製造コストの削減、製造工程数の削減であり、これによって大量生産が促進される。
【0080】
工程f)において、遠隔充填技術によりドキソルビシンがリポソーム中に充填される。
「遠隔充填」は、リポソーム内の水相中にドキソルビシンを充填するための1つのアプローチを意味する。遠隔充填は、予め形成しておいたリポソームに適用される。このようなリポソーム製剤においては、膜内外での硫酸アンモニウム勾配が確立され、リポソーム内側の水性部分中における[(NHSO]濃度の方が外側の媒体中における[(NHSO]濃度よりも大幅に高い。この勾配は、ドキソルビシンなどの両親媒性弱塩基性薬物を、リポソーム二重層(ここで結晶様の析出物を形成する)の反対側に移動させる駆動力としての役割を果たす。このアプローチはBarenholzによって最初に創出され、当技術分野において周知されている(参照:Barenholz, Y.C.; Doxil(R) - The first FDA-approved nano-drug: Lessons learned; J. Control. Release 2012, 160, 117-134)。
【0081】
好ましくは、当該方法は押出工程を含まず、薄膜水和工程も含まない。
「押出し」は、規定の孔径を有する膜にリポソーム製剤を通過させる、従来のリポソーム調製技術を意味する。押出プロセスは、当技術分野において、リポソーム製造に最適な方法であるとされている(Gim Ming Ong et al., Evaluation of Extrusion Technique for Nanosizing Liposomes, Pharmaceutics 2016 (8) 36; Perrie et al., Manufacturing Methods for Liposome Adjuvants, in; Vaccine Adjuvants: Methods and Protocols, Methods in Molecular Biology, vol. 1494, 2017)。しかしながら、押出工程は高コストであり、ベシクル形態値が低くなるため、リポソームの質も低くなる。
【0082】
「薄膜水和」は、たとえば丸底フラスコ中において、有機溶媒を除去することによって薄い脂質膜を作製する工程を伴う、従来のリポソーム調製法を意味する。分散媒の添加および撹拌により、不均質なリポソームが形成される。典型的には、より小さなリポソームからなるより均質な製剤を得るために、薄膜水和の後に、ポリカーボネート膜を通す押出しが行われる。薄膜水和は、押出しよりもさらに高コストである。
【0083】
超音波処理により製造される本発明に係るリポソーム製剤は、従来技術によって得ることができるリポソームよりも、多分散性が低く、より安定で、分解しにくいことが分かった。また、当該リポソームは、押出プロセスで得られるものと比較して、直径が小さく円形度が高い。
【0084】
好ましくは、上述される方法の工程に続いてさらにもう1つ、工程g)が行われる。工程g)は、ろ過による滅菌を含む。
【0085】
「ろ過による滅菌」は、存在し得る不純物および細菌菌体を保持させるための孔径0.22μm以下の滅菌フィルタに、完成したリポソーム製剤を通すことを意味する。
【0086】
ろ過による滅菌により、GMPに準拠したリポソームドキソルビシン製剤製造が可能となり、これによれば、滅菌ろ過以前の工程を必ずしも滅菌条件下で実施しなくてもよい。これは特に費用対効果が高い。しかしながら、ろ過による滅菌を行なうためには、製剤を、たとえばHEPES緩衝液中に分散させるなどといったように、糖の群を含まない保存緩衝液中に分散させることが前提条件である。
【0087】
先に記載されるリポソームドキソルビシン製剤は、具体的にはがんの処置において使用するための、より具体的には固形腫瘍、転移性乳がん、進行性卵巣がん、カポジ肉腫、および多発性骨髄腫の処置において使用するための、薬剤として使用され得る。
【0088】
先に記載されるリポソームドキソルビシン製剤は、特に子宮平滑筋肉腫の処置において使用され得る。
【0089】
先に記載されるリポソームドキソルビシン製剤は、特に皮膚付属器がん(adnexal skin cancer)の処置において使用され得る。
【0090】
リポソームドキソルビシン製剤は、がんの処置において、静脈内投与され得る。
静脈内注射のためには、リポソームが、溶解または懸濁された形態であってよい。製剤の量は、1m(体表)あたり1~100mlの範囲内であってよく、用量に依存する。注射液は、安定化剤などのさらなる成分を含んでよい。また、塩、特に塩化ナトリウム、またはアルコール、好ましくはエタノールなどの、生理的に適合する成分を含んでもよい。
【0091】
本発明のさらなる一態様は、先に記載される方法により得ることのできる先に記載されるリポソームである。
【0092】
以下の実施例を用いて、本発明がさらに説明される。実施例は本発明の範囲の限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1a】本発明に係るリポソームドキソルビシン製剤の、cryo-TEMにより測定される形態およびサイズ分布を示す。
図1b】本発明に係るリポソームドキソルビシン製剤の、cryo-TEMにより測定される形態およびサイズ分布を示す。
図2a】Caelyx(登録商標)製剤の、cryo-TEMにより測定される形態およびサイズ分布を示す。
図2b】Caelyx(登録商標)製剤の、cryo-TEMにより測定される形態およびサイズ分布を示す。
図3】本発明に係るリポソームドキソルビシン製剤の異なる実施形態についての、DLSによって測定されるサイズ分布を、Caelyx(登録商標)製剤と比較して示す。
図4a】本発明に係るリポソームドキソルビシン製剤(4a)の、cryo-TEMにより測定される円形度分布を、Caelyx(登録商標)製剤(4b)と比較して示す。
図4b】本発明に係るリポソームドキソルビシン製剤(4a)の、cryo-TEMにより測定される円形度分布を、Caelyx(登録商標)製剤(4b)と比較して示す。
図5a】本発明に係るドキソルビシン結晶(5a、5b)の、cryo-TEMにより測定される幅の測定値を、Caelyx(登録商標)製剤(5c)と比較して示す。
図5b】本発明に係るドキソルビシン結晶(5a、5b)の、cryo-TEMにより測定される幅の測定値を、Caelyx(登録商標)製剤(5c)と比較して示す。
図5c】本発明に係るドキソルビシン結晶(5a、5b)の、cryo-TEMにより測定される幅の測定値を、Caelyx(登録商標)製剤(5c)と比較して示す。
図6a】本発明に係るドキソルビシン結晶(6a、6b)の、cryo-TEMにより測定される長さの測定値を、Caelyx(登録商標)製剤(5c)と比較して示す。
図6b】本発明に係るドキソルビシン結晶(6a、6b)の、cryo-TEMにより測定される長さの測定値を、Caelyx(登録商標)製剤(5c)と比較して示す。
図6c】本発明に係るドキソルビシン結晶(6a、6b)の、cryo-TEMにより測定される長さの測定値を、Caelyx(登録商標)製剤(5c)と比較して示す。
図7a】cryo-TEMイメージングに基づいて測定したリポソーム1つあたりのドキソルビシン繊維の数をクラス別に並べて示し、図7aは本発明に係るドキソルビシン製剤について示し、図7bはCaelyx(登録商標)製剤について示す。
図7b】cryo-TEMイメージングに基づいて測定したリポソーム1つあたりのドキソルビシン繊維の数をクラス別に並べて示し、図7aは本発明に係るドキソルビシン製剤について示し、図7bはCaelyx(登録商標)製剤について示す。
図8】比較のために投与した3種の製剤(CALYX、TLD-1、遊離DXR)について、肝臓および腫瘍における経時的なドキソルビシンの蓄積を示す。
図9】比較のための3種のドキソルビシン製剤(CALYX、TLD-1、遊離DXR)についての、MTSの吸収に基づくin vitro細胞毒性研究を示す。
図10a】比較のための3種のドキソルビシン製剤(CALYX、TLD-1、遊離DXR)についての、ルシフェラーゼ発光に基づくin vitro細胞毒性研究を示す。
図10b】比較のための3種のドキソルビシン製剤(CALYX、TLD-1、遊離DXR)についての、ルシフェラーゼ発光に基づくin vitro細胞毒性研究を示す。
図10c】比較のための3種のドキソルビシン製剤(CALYX、TLD-1、遊離DXR)についての、ルシフェラーゼ発光に基づくin vitro細胞毒性研究を示す。
図11】実施例1のリポソームドキソルビシン製剤の投与下における経時的な腫瘍増殖(MDA-MB231)についての比較研究の結果を示す。
図12a】実施例1のリポソームドキソルビシン製剤の投与下における経時的な腫瘍増殖(A2780)についての比較研究の結果を示す。
図12b】実施例1のリポソームドキソルビシン製剤の投与下における経時的な腫瘍増殖(A2780)についての比較研究の結果を示す。
図13】実施例1のリポソームドキソルビシン製剤の投与下における経時的な腫瘍増殖(4T1)についての比較研究の結果を示す。
図14】実施例1のものを含む比較のための3種のドキソルビシン製剤についての、マウスにおけるin-vivo生存研究の結果を示す。
図15a】実施例1のリポソームドキソルビシン製剤について、経時的(12か月間)に安定性を測定した際の、サイズおよび多分散性についての結果を示す。
図15b】実施例1のリポソームドキソルビシン製剤について、経時的(12か月間)に安定性を測定した際の、サイズおよび多分散性についての結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0094】
実施例1:TLD-1の生成
1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンおよびコレステロールを重量比60:40で提供し、99.99%超の無水エタノール中に溶解した。この溶液を滅菌水中の硫酸アンモニウムの150mM水溶液中で68℃において水和させた。当該溶液を振幅60μmにて24時間にわたって超音波処理して、粗製リポソームを得た。次いで、リポソーム懸濁液にPSPE-MPEG2000水溶液を添加し、65℃において30分間加熱して、所望のPEG-脂質量5mol%(脂質二重層の外側の層中でのPEG-脂質量10mol%に相当)を有するPEG化リポソームを得た。遠隔充填技術によってリポソーム中にドキソルビシンHClを充填して、DXR/総脂質重量比0.05を達成した。充填されていないDXRを、重力沈殿およびろ過によって除去した。タンジェンシャルフローろ過によりリポソーム分散物を洗浄し、バッファー交換を行なって、NaClを0.9重量%含む10mMのHEPES緩衝液中へのリポソームの分散を達成した。
【0095】
本実施例中に記載されるとおりに得たリポソームドキソルビシンは、以降で、「TLD」、「TLD-1」、または「Talidox」と称され得る。
【0096】
遊離ドキソルビシンは、比較用製剤として適用される場合は常に、実施例中および図中において、「Doxo」、「DXR」、「DX」、「ドキソルビシン」と称され得る。
【0097】
比較例
市販のCaelyx(登録商標)を購入した。cryo-TEM測定のために、Caelyx(登録商標)をHEPESバッファー(NaCl、pH6.8)中に10倍希釈した。
【0098】
実施例2:サイズ測定
上述される方法によって得たリポソームのサイズ測定をcryo-TEMおよびDLSによって行なって、結果を、市販のCaelyx(登録商標)製剤についての対応する測定値と比較した。
【0099】
図1aは、実施例1において得た製剤の、高倍率(80’000倍)での代表的な画像を示す。図1bは、測定したサイズ分布ヒストグラムを示す。図2aは、比較用のCaelyx(登録商標)製剤の、高倍率(80’000倍)での代表的な画像を示す。図2bは、測定したサイズ分布ヒストグラムを示す。
【0100】
CryoTEM測定を以下のように行なった:実施例1および比較例のリポソーム試料をガラス化した。acc電圧200kVでオングリッド(フォルムバールおよびカーボン)にて、試料を調製した。cryoTEM JEOL JEM-2100FデバイスおよびTVIPS TemCam F415MPカメラを倍率40,000倍で用いて、画像を取得した。粒子特定およびサイズ決定は、Vironova Analyzer Software(Vironova、スウェーデン)を使用する半自動式画像処理によって行なった。簡潔には、同じ倍率にて無作為に複数の画像をインポートした。画像境界の内側に全体が含まれいて膜がはっきりしているリポソーム粒子のみを検出した。特定した対象物を、球径、円形度、ユニラメラ性について分析した。すべての画像を同じ閾値および設定にて一括で処理して、各試料につき、分析対象粒子の数として1560~1178個に対応する5~18枚の画像を蓄積した。平均値の標準偏差は約10nmである。
【0101】
図1bは、実施例1のリポソーム製剤のサイズ分布を示す。分析した画像の数は5枚であった。分析した粒子の数は1560個であった。平均直径は35.61nm、標準偏差は7.42nmであった。測定された最小の直径は24.81nm、測定された最大の直径は103.35nmであった。均質性Z試験により、サンプリングの均質性の測定尺度として1.01が得られ、これは、当該分析に含まれるすべての画像が、同じ平均サイズを有する粒子の群を含んでいたことを示す。
【0102】
図2bは、比較例のリポソーム製剤のサイズ分布を示す。分析した画像の数は18であった。分析した粒子の数は1178であった。平均直径は70.26nm、標準偏差は13.41nmであった。測定された最小の直径は32.52nm、測定された最大の直径は159.09nmであった。均質性Z試験により、サンプリングの均質性の測定尺度として3.15が得られ、これは、当該分析に含まれるすべての画像が、同じ平均サイズを有する粒子の群を含んでいたわけではなかったことを示す。
【0103】
実施例1のリポソーム製剤は、さらに、cryoTEM分析において、壊れた粒子の数が10%未満であり、粒子凝集体およびクラスタは示さなかった。
【0104】
図3は、実施例1および比較例のリポソーム製剤の、動的光散乱(DLS)により測定されるサイズを示す。いずれの試料も、PBSまたはMQ HO中に10倍希釈し、マルバーン製ゼータサイザーデバイスを用いて、25℃、散乱角0゜にて測定した。TLD-1(実施例1)は平均直径が60.5(±4.7nm)nm、多分散指数が0.084±0.038であった。Caelyx(登録商標)はDLS測定において平均直径が85.0nmであった。注目するべきことに、動的光散乱によって測定した値はcryoTEMイメージングによって得られる値よりもわずかに高く、これは、PEG化された表面は、cryoTEMにより検出できないが、DLSにはリポソームの流体力学半径の一部として含まれるためである。
【0105】
実施例3:円形度の測定
実施例1および比較例のリポソーム製剤の円形度をCryo-TEMによって測定した。結果が、実施例1については図4a中に、比較例については図4b中に提示される。試料の調製および測定は、先に記載される通りに行なった。
【0106】
実施例1については、粒子の平均円形度は0.99、相対的標準誤差は0.03%、平均標準偏差は0.01であった。50パーセンタイルは1.00、10パーセンタイルは0.98、5パーセンタイルは0.98、2パーセンタイルは0.96と測定された。均質性Z試験により、サンプリングの均質性の測定尺度として1.19が得られ、これは、当該分析に含まれるすべての画像が、同じ平均サイズを有する粒子の群を含んでいたことを示す。
【0107】
比較例については、粒子の平均円形度は0.99、相対的標準誤差は0.06%、平均標準偏差は0.02であった。50パーセンタイルは1.00、10パーセンタイルは0.97、5パーセンタイルは0.95、2パーセンタイルは0.92と測定された。均質性Z試験により、サンプリングの均質性の測定尺度として6.10が得られ、これは、当該分析に含まれるすべての画像が、同じ平均サイズを有する粒子の群を含んでいたわけではなかったことを示す。
【0108】
したがって、市販のCaelyx(登録商標)は、製剤中のリポソームの円形度が低い。たとえば、Caelyx(登録商標)中のリポソームの10%は、円形度がせいぜい0.97またはそれ以下である。
【0109】
実施例1のリポソーム製剤は、さらに、cryoTEM測定において、充填率(ドキソルビシンでの充填)が少なくとも80%、ユニラメラ率が98%であった。
【0110】
実施例4:結晶寸法、および結晶1つあたりの繊維の数
実施例1および比較例のリポソーム製剤の寸法をCryo-TEMにより測定した。幅測定の結果が、実施例1については図5aおよび図5b中に、比較例については図5c中に提示される。長さ測定の結果が、実施例1については図6aおよび図6b中に、比較例については図6c中に提示される。試料の調製および測定は、先に記載される通りに行なった。結晶の長さおよび幅は、Cryo-TEMにより得た一連の高倍率画像から手作業で測定した。
【0111】
実施例1については、平均結晶幅は9.57nmで標準偏差は2.78nm(測定数は140、画像12枚を分析)、平均結晶長さは27.36nmで標準偏差は9.15nm(測定数は289、画像5枚を分析)であった。比較例については、平均結晶幅は17.45nmで標準偏差は4.60nm(測定数は60、画像21枚を分析)、平均結晶長さは47.77nmで標準偏差は15.33nm(測定数は105、画像5枚を分析)であった。
【0112】
リポソーム1つあたりの繊維の量を、Cryo-TEMにより得た一連の高倍率画像から求めた。リポソーム1つあたりの個々の繊維(高密度ノード)の数を、手作業で誘導することができた。ドキソルビシン結晶がらせん状のコンフォメーションを有していて回転1つあたりの個々の繊維の数が変動し得るという理由から、正確な提示を得るために、回転1つにつき1つの測定値をとった。
【0113】
実施例1についてのクラス比率は、図7a中に示される。比較例についてのクラス比率は、図7b中に示される。x軸はクラス数(1~12)を示し、このクラス数はドキソルビシン結晶中の個々の繊維の数を示す。
【0114】
実施例1においては、結晶1つあたりの繊維数が3というのが、最もよく見られるコンフォメーションであった。個々の繊維数が1、7、またはそれ以上であるような結晶は観察されなかった。当該データセット中に含まれるすべてのドキソルビシン結晶について測定した個々の繊維間の平均間隔は2.6nmであった。
【0115】
比較例においては、結晶1つあたりの繊維数が7というのが、最もよく見られるコンフォメーションであった。個々の繊維数が1、2、3、12、またはそれ以上であるような結晶は観察されなかった。当該データセット中に含まれるすべてのドキソルビシン結晶について測定した個々の繊維間の平均間隔は2.7nmであった。
【0116】
したがって、市販のCaelyx(登録商標)は、製剤中のリポソームの円形度が低い。たとえば、Caelyx(登録商標)中のリポソームの10%は、円形度がせいぜい0.97またはそれ以下である。
【0117】
実施例1のリポソーム製剤は、さらに、cryoTEM測定において、充填率(ドキソルビシンでの充填)が少なくとも80%、ユニラメラ率が98%であった。
【0118】
実施例5:マウスにおける腫瘍蓄積
実施例1のリポソームドキソルビシン製剤(「TLD-1」)、市販のCaelyx(登録商標)(「CAELYX」)、および遊離ドキソルビシン(アドリブラスチン「遊離ドキソルビシン」)を、3.5mg/kgの量でマウス(無胸腺ヌードFoxn1nuマウス)に投与した。4時間後または16時間後に、HPLC分析によって総ドキソルビシン量を検出するためにマウスを犠牲死させた。
【0119】
図8は、比較のために投与した3種の製剤について肝臓および腫瘍における経時的なドキソルビシンの蓄積を示す。バーは平均および標準偏差を表す(n=3)。
【0120】
腫瘍におけるTLD-1の蓄積は、遊離ドキソルビシンの蓄積の約4倍であり、CAELYX(登録商標)の2倍であった。16時間までの血清半減期については、CAELYXとTLD-1とは同等である。しかしながら、肝臓における蓄積およびクリアランスはTLD-1の方が効率が高い。
【0121】
実施例6:in vitro細胞毒性
TLD-1、CAELYX、および遊離ドキソルビシン(「DX」)のin vitro細胞毒性を、96ウェルプレート中に細胞10’000個/ml(100ml/ウェル)にて播種したA2780細胞において測定した。播種から24時間後に、異なる濃度のドキソルビシン製剤で細胞を処置した。
【0122】
図9は、細胞に10、50、100、500、1000、5000、および10’000ng/mlの濃度を添加した際の結果を示す。処置から72時間後に、MTS比色分析成分((3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム)「MTS」)を添加して生細胞を着色した。さらに3時間後、吸光度を測定した。図から分かるように、添加した濃度のいずれにおいても、TLD-1で処置した試料の吸光度は、CAELYXで処置した試料の吸光度よりも明らかに低かった。したがって、TLD-1の細胞毒性の方が高く、どちらかというと遊離ドキソルビシンに類似する。
【0123】
図10a~図10cは、5、50、500、5000、25’000、および50’000ng/mlの濃度を添加した際の結果を示す。ルシフェラーゼ基質の存在下において細胞を処置し、生細胞の発光を経時的(処置から6、24、48、73時間後)に測定した。チャートから分かるように、48時間後において、TLD-1で処置した試料の発光はCAELYXで処置した試料の発光よりも明らかに低かった。この作用は、72時間後にはさらにより顕著になった。したがって、TLD-1の細胞毒性の方が高く、どちらかというと遊離ドキソルビシンに類似する。
【0124】
血清漏出研究:TLD-1およびCaelyx(登録商標)が遊離ドキソルビシンをRPMI(細胞培地) +/-10% FCS培地中に経時的にどの程度放出するのかを調べるために、実験を行なった。TLD-1およびCAELYXのそれぞれを、RPMI培地 +/-10% FBS中、37゜において、金属ビーズ浴中にて、遮光して72時間インキュベートした後で、当該培地中の遊離ドキソルビシンを測定した。遊離ドキソルビシンおよびリポソームドキソルビシンを、HPLCサイズ排除クロマトグラフィーによって478nmにおいて検出した(これにより、タンパク質由来のバックグラウンド吸収を回避)。リポソームドキソルビシンはコンジュゲートして凝集体になっているため、遊離ドキソルビシンのピークよりも後ろに現れる。これは、遊離DX(アドリブラスチン)コントロール試料からの値と比較することによって確認した。ピーク曲線下面積の比較分析を行なった(リポソームdoxo 対 遊離doxo)。実験から、TLD-1およびCaelyxはいずれも、in-vitro実験で使用した培地中で37゜において72時間にわたり曝露しても安定であることが分かった。溶液中の遊離DXの割合は、TLD-1のインキュベートでは4%未満、Caelyx(登録商標)のインキュベートでは6%未満であった。概して、TLD-1の漏出はCaelyxの漏出よりも少なかった。このことから、in-vitro細胞毒性アッセイにおいて見られた高い作用は、培地中への遊離ドキソルビシンの漏出によるものではなく、細胞取込みの増大によるものであることが示される。
【0125】
実施例7:腫瘍増殖
プラセボ製剤、TLD-1、およびCAELYXをマウスに投与し、腫瘍のサイズに対する作用を経時的に測定することによって、in vivoにおける腫瘍増殖に対する作用を調べた。
【0126】
図11は、この試験の結果を示す。MDA-MB231細胞株を注入したマウス(マウス5匹/製剤)に、空のリポソーム、遊離ドキソルビシン、Caelyx(登録商標)、およびTLD-1を定期的に投与した。各矢印は、3.5mg/kg体重の用量での注射を示す。TLD-1の作用(腫瘍重量の増加として測定、μg)は、処置開始3日後で既にCaelyx(登録商標)の作用よりも明らかに良好であり、26日間にわたって良好であった。
【0127】
図12aおよび図12bは、類似する別の試験設定の結果を示す。A2780細胞株を注入したマウス(マウス5匹/製剤)に、PBS、遊離ドキソルビシン、Caelyx(登録商標)、およびTLD-1を定期的に投与した。図12aについては、実施例1中のものに類似する製剤を投与したが、実施例1とは異なり、超音波処理は、DLSによって測定される平均リポソーム直径が86.78nm、同じく多分散指数が0.117に達するような条件下のみにおいて行なった。図12bについては、実施例1の製剤、すなわちDLSによって測定される平均直径が64.87nmであり多分散指数が0.168であるリポソームを投与した。各矢印は、3.5mg/kg体重の用量での注射を示す。図12a中に提示される試験の間、規格を外れる平均直径(70nm超)を有するTLD-1が腫瘍増殖に及ぼす作用はCaelyx(登録商標)での処置に比べて劣ることが分かり、規格に従うTLD-1の作用は、処置開始19日後には既にCaelyxの作用よりも明らかに良好であり、さらに12日間にわたって良好であった(腫瘍重量の増加として測定、μg)。
【0128】
図13は、類似する別の試験設定の結果を示す。4T1腫瘍を埋め込んだマウス(マウス5匹/製剤)に、生理食塩水、Caelyx(登録商標)、およびTLDを定期的に投与した。TLD-1の作用は、処置開始12日後に、Caelyxの作用よりも明らかに良好であった(腫瘍サイズの増加として測定、mm)。
【0129】
図14は、生理食塩水、Caelyx(登録商標)、またはTLD-1(実施例1に係る、マウス5匹/製剤)のそれぞれで処置したマウスのin-vivo生存研究を示す。TLD-1で処置したマウスの60%が30日目まで、40%のマウスが34日目まで生存した。一方、Caelyx(登録商標)で処置した群のマウスは、100%が26日目には既に死んでいた。
【0130】
実施例8:その他の研究
実施例1のリポソームドキソルビシン製剤(TLD-1)およびCaelyx(登録商標)についてのその他の比較研究を行なった。これらには、動物モデルにおける副作用研究および有効性研究も含まれていた。実施例1については、副作用研究に加えて、ヒトにおける血清半減期および曲線下面積(AUC)の研究も含まれていた。
【0131】
血清半減期研究はヒト血清中において行なわれており、Caelyxはヒト血清中における半減期が74時間であるという記録がある。現在のところ、ヒトにおけるTLD-1の血清半減期は、患者5人から推定され、約100時間である。また、TLD-1の血清半減期データの曲線下面積(AUC)は、対応する用量のCaelyx(登録商標)よりも大きいことが分かり、このことは、所与の用量についてより高い薬物エクスポジションが達成されていることを意味する。TLD-1(30mg/m2)で処置した患者の薬物エクスポジションは、用量が異なるにもかかわらず、Caelyx(登録商標)(37mg/m2)で処置した患者の薬物エクスポジションよりも高い。
【0132】
有害作用研究がラットにおいて行なわれている。ラットにて行なわれた毒性学研究において、皮膚毒性、特にPPE(たとえば手足症候群)について調べられた。TLD-1の投与は、6mg/kg(統計学的有意差がないためオスとメスのデータを一緒にプールした)という高濃度であっても、皮膚毒性、特にPPEを促進しなかった。同様に、ラットにて行なわれた毒性学研究において、好中球減少症についても調べられた(好中球の数により)。TLD-1を投与した際には、6mg/kg(統計学的有意差がないためオスとメスのデータを一緒にプールした)という高濃度であっても、好中球数は有意には変動しなかった。
【0133】
実施例9:安定性の結果
図15aおよび図15bは、本発明に係るリポソーム製剤の、DLSによって測定される経時的なサイズおよび多分散安定性を示す。リポソーム製剤は、上述される方法(実施例1)によって得た。pH値6.5~6.8、温度4℃のHEPES緩衝液中に、リポソーム製剤を保存した。サイズの変動は、作製から12か月間にわたり、±1nmを超えなかった。DLSによって測定される多分散指数の変動は±0.01を超えなかった。
【0134】
実施例10:臨床試験の結果
臨床研究は目下実施中であり、その中で、これまでのところ、実施例1のリポソームドキソルビシン製剤(TLD-1)が、進行固形腫瘍患者12人に対して使用されている(Clinical Cancer Researchのためにスイスのグループが実施、試験番号SAKK65/16)。試験は、非盲検、シングルアーム、多施設、ファースト・イン・ヒューマン、第1相試験として設計された。この試験の主な目的は、TLD-1について、進行固形腫瘍患者における最大耐量(MTD)および第2相の推奨用量(RP2D)を特定することであった。この試験のさらなる目的は、TLD-1の安全性、予備的な抗腫瘍活性、および薬物動態を評価することであった。
【0135】
この研究の中間報告によると、TLD-1は、進行型で前処置済の固形腫瘍患者において3週間毎に45mg/mという用量を上限として安全に投与できる。この用量はCaelyx(登録商標)よりも多く、後者のMTDは4週間毎に50mg/mである。さらに、TLD-1の望ましくない副作用の回数および重症度は、Caelyx(登録商標)よりも低かった。具体的には(TLD-1 対 Caelyx(登録商標))、臨床的に顕著ではない吐き気(8.3%未満 対 38.5%)、嘔吐(8.3%未満 対 24.3%)、脱毛症(0% 対 13.4%)、または心毒性が観察され、骨髄抑制はまれかつ軽度であった(8.3% 対 25.6%)。予想されない毒性の報告はなかった。
【0136】
仮定として(これに制限されるわけではないが)、Caelyx(登録商標)を含む従来のドキソルビシンのリポソーム製剤と比較してTLD-1では副作用の観察が少なかったのは、患者に投与したドキソルビシン充填型リポソームが比較的小さなリポソームサイズおよび高い均質性を有するためである、特に、リポソーム中のドキソルビシン結晶繊維が顕著な円形度、低い多分散性、および高い均一性(長さおよび幅)を有するためである、と考えられる。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図5c
図6a
図6b
図6c
図7a
図7b
図8
図9
図10a
図10b
図10c
図11
図12a
図12b
図13
図14
図15a
図15b