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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】みりん及びみりん粕の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/08 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
C12G3/08 102
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022131802
(22)【出願日】2022-08-22
(65)【公開番号】P2023035924
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2021141230
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】397068067
【氏名又は名称】相生ユニビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(72)【発明者】
【氏名】村松 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉本 智章
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-204293(JP,A)
【文献】特開2005-185169(JP,A)
【文献】特開2006-197897(JP,A)
【文献】特開平04-135480(JP,A)
【文献】特開2002-218966(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0032524(KR,A)
【文献】河辺達也、ほか,シリーズ・醸造の基本技術 みりん(1),醸協,1998年,93(10),799-806
【文献】本みりんの貯蔵と抗酸化性について,日本醸造協会誌,2011年,547-555
【文献】現役蔵人が語る。話題の遠心分離機、その特徴は? | 日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」,インターネット,2016年05月30日,URL: http://jp.sake-times.com/think/study/sake_g_enshimbunri
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
J-Stage
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸米と、米麹と、焼酎又はアルコールを主体とするみりん原料を容器内で攪拌する工程を含み、前記容器が水平断面円形の筒状でその中心部鉛直方向に配置した回転軸に前記容器内径の40%以上でかつ前記容器内高さの40%以上の大きさの攪拌翼を取り付けた容器内で攪拌し、糖化熟成してみりん醪を得る工程と、
前記みりん醪を、遠心分離によって、ペースト状固形分を含むみりん粕とそれ以外のみりん原液とに分離する工程と、
前記分離工程によって分離されたみりん原液をろ過してみりんを得る工程
を有することを特徴とするみりん及びみりん粕の製造方法。
【請求項2】
前記分離工程がスクリュウデカンタ形遠心分離機によってなされる請求項1に記載のみりん及びみりん粕の製造方法。
【請求項3】
前記分離工程が前記みりん醪から粒径1000μm以上のペースト状固形分を含むみりん粕を分離する請求項1又は2に記載のみりん及びみりん粕の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はみりん及びみりん粕の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
みりんおよびみりん粕は、蒸米と米麹と焼酎又はアルコールを主体とするみりん原料を糖化熟成してみりん醪(もろみ)を得、このみりん醪を圧搾ろ過して液状のみりんと、その残りの固形部分としてのみりん粕に分離生成される。伝統的なみりん粕は、みりん液を含むペースト状の固形部分であって、米由来の溶け残り成分なので、米の繊維質やタンパク質、脂質、澱粉質が多く含まれていて、その他に分離しきれなかったみりん液自体や、麹の持つ酵素も残っている。みりん粕は、これらの旨味や甘味、酵素などを利用して古くから野菜や肉や魚などの漬け床などに使用したり、「こぼれ梅」と呼んでそのまま食べたりして親しまれてきた。
【0003】
みりん醪を液状のみりんとペースト状のみりん粕に分離する方法としては、みりん醪を布製の袋に入れ、その袋に圧力をかけることで、布の繊維を通る液体部分と通らない固体部分に分離する圧搾ろ過によるものが一般的である。
【0004】
三河地方伝統のみりん及びみりん粕の製造方法では、みりん醪の固液分離方法として「佐瀬式」と呼ばれる醪圧搾機が使用されてきた。醪を布製の袋に入れ、その袋を積み重ねた上から圧力をかけることで、布袋の繊維を通る液体部分と通らない固体部分に分離する圧搾ろ過で、昔ながらのこの圧搾方法では人手や時間がかかるわりに製造量を増やすことができない問題があった。しかしながら、効率は悪いものの、この製法で得られたみりん粕は、みりん液の含有率が高く、米粒の形が残ったものとなり、漬け床などに使用するにも、そのまま食べるにも、みりんのおいしさや米粒の触感を感じて楽しめるものとなっていた。
【0005】
一方、近年になって、みりん製造の効率化を図るため機械式自動圧搾機が普及したが、みりんの回収率アップが優先され、粕側にみりんの液体部分が殆ど残らなくなるまで高い圧力をかけるようになったため、そこでできるみりん粕は、みりん液成分の少ない、米粒の形状が潰れてなくなったものが製造されるようになった(参考文献:森田日出夫著「みりんの知識」p.93)。
【0006】
また、みりん製造方法としては、原料となる米に米粉を使用することで米澱粉の分解効率を向上させたり(特許文献1、特許文献2)、圧搾時に過剰な圧力をかけて液体部分が粕に殆ど残らないように圧搾したりして製造効率を上げるものが報告されている。
【0007】
しかしながら、そのような方法で製造されたみりん粕は、米粒の全く無い粕になったり、液体部分が殆どない粉末状になっていたりして、上述したような伝統的な食用みりん粕の用途には向かず、廃棄されてしまうという問題があった。また、圧搾ろ過による分離では、固液分離にかかる時間が長時間になるだけでなく、固液分離後に布に貼り付いたみりん粕を回収するのに多くの人手と時間を割く必要があり問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-39364号公報
【文献】特公昭63―51673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は前記の点に鑑みなされたもので、本発明の方法によれば、みりん製造の効率化を図ると同時に、みりん液の含有率が高く、米粒の形が残り、漬け床などに使用するにも、そのまま食べるにも、みりんのおいしさや米粒の触感を感じて楽しめる、価値ある有用なみりん粕を得ることができる製造方法を提供するものである。とりわけ、この発明は、有用な食用みりん粕製品を得るものであるが、みりん液自体の収率を損ねることなく、同時に廃棄粕を減少させることで自然や環境に優しく食品ロスを実現する、エコな技術を目指すものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、請求項1の発明は、蒸米と、米麹と、焼酎又はアルコールを主体とするみりん原料を容器内で攪拌する工程を含み、前記容器が水平断面円形の筒状でその中心部鉛直方向に配置した回転軸に前記容器内径の40%以上でかつ前記容器内高さの40%以上の大きさの攪拌翼を取り付けた容器内で攪拌し、糖化熟成してみりん醪を得る工程と、前記みりん醪を、遠心分離によって、ペースト状固形分を含むみりん粕とそれ以外のみりん原液とに分離する工程と、前記分離工程によって分離されたみりん原液をろ過してみりんを得る工程を有することを特徴とするみりん及びみりん粕の製造方法に係る。
【0011】
また、請求項2の発明は、前記分離工程がスクリュウデカンタ形遠心分離機によってなされる請求項1に記載のみりん及びみりん粕の製造方法に係る。
【0012】
また、請求項3の発明は、前記分離工程が前記みりん醪から粒径1000μm以上のペースト状固形分を含むみりん粕を分離する請求項1又は2に記載のみりん及びみりん粕の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係るみりん及びみりん粕の製造方法によれば、蒸米と、米麹と、焼酎又はアルコールを主体とするみりん原料を容器内で攪拌する工程を含み、前記容器が水平断面円形の筒状でその中心部鉛直方向に配置した回転軸に前記容器内径の40%以上でかつ前記容器内高さの40%以上の大きさの攪拌翼を取り付けた容器内で攪拌し、糖化熟成してみりん醪を得る工程と、前記みりん醪を、遠心分離によって、ペースト状固形分を含むみりん粕とそれ以外のみりん原液とに分離する工程と、前記分離工程によって分離されたみりん原液をろ過してみりんを得る工程を有することより、以下の効果を有する。
すなわち、みりん醪に遠心力を作用させると、みりん液分とみりん粕に比重差があること、みりん粕の粒子径が十分に大きいことにより、みりん液分とみりん粕とを分離できる。遠心分離機による分離は、条件を設定すれば自動的に分離できるので人手がかからず短時間で分離作業を終えることができ効率化を図ることができる。また、分離の際、みりん醪に従来の圧搾のような過剰な圧力がかからないので米粒が潰れることも少ない。さらに、みりん粕側に液体部分が残るように分離条件を設定できるので、所望の性状の有用な食用みりん粕を容易に製造することができる。
また、遠心分離による分離では、みりん醪に圧力による余計な熱が加わることもないため製品の風味を損なうことがなく、ろ過のように高い圧力でろ布を通さないのでろ布の匂いがみりんに移ることもない。
【0015】
とりわけ、この発明によれば、前記みりん醪を得る糖化熟成工程が、前記みりん原料を容器内で攪拌する工程を含み、前記容器が水平断面円形の筒状でその中心部鉛直方向に配置した回転軸に前記容器内径の40%以上でかつ前記容器内高さの40%以上の大きさの攪拌翼を取り付けたことにより、容器内の前記みりん醪の全体をムラなく攪拌できる。従来、みりん醪の攪拌(所謂「櫂入れ」)は、熟練した作業者の経験と勘に頼るところが多い、人手で行う重労働だったが本発明により人手によることなく自動制御でき効率化を図ることができる。さらに、回転翼を緩やかに回転させることにより、米粒が程よく残ったみりん醪を造ることができ、前記分離工程で分離されるみりん粕に大きな米粒を残すことがより可能となる
さらに、この発明によれば、前記分離工程によって分離されたみりん粕以外の液分である、みりん原液をろ過してみりんを得るので、残滓が少なくなり、みりん液の製品収率が良い。そして、ここで生成される廃棄分(ロス)は大きく減少する。
【0016】
また、請求項2の発明は、前記分離工程がスクリュウデカンタ形遠心分離機によってなされることより、より効果的かつ効率よくみりん醪の遠心分離を行うことができる。
【0017】
請求項3の発明は、前記分離工程が前記みりん醪から粒径1000μm以上の固形分を含むみりん粕を分離することより、みりん粕の利用者や喫食者は1000μm以上の米粒を確実に米粒と認識することができ、粒の大きい部分と他の部分との食感の違いを楽しむことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の一実施例を示す概略工程図である。
図2】みりん醪の遠心分離前の粒度分布図である。
図3】遠心分離後の液状のみりん原液の粒度分布図である。
図4】従来の機械式圧搾ろ過製法の概略工程図である。
図5】従来の佐瀬式圧搾ろ過製法の概略工程図である。
図6図4の製法によって得られたみりんの粒度分布図である。
図7】表2で示した遠心加速度実験に使用したみりん醪の粒度分布図である。
図8】表2で示した遠心加速度4000Gの遠心分離後のみりん原液の粒度分布図である。
図9】同じく表2の遠心加速度3500Gの遠心分離後のみりん原液の粒度分布図である。
図10】同じく表2の遠心加速度3000Gの遠心分離後のみりん原液の粒度分布図である。
図11】同じく表2の遠心加速度2000Gの遠心分離後のみりん原液の粒度分布図である。
図12】同じく表2の遠心加速度1000Gの遠心分離後のみりん原液の粒度分布図である。
図13】実施例2の製造装置の攪拌翼の概略断面図である。
図14】実施例2の攪拌翼で攪拌して製造したみりん醪の粒度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示す概略工程図を用いてこの発明の製法について詳述すると、この発明は、蒸米と、米麹と、焼酎又はアルコールを主体とするみりん原料を糖化熟成してみりん醪Mを得る工程と、前記みりん醪Mを、遠心分離によって、ペースト状固形分を含むみりん粕12とそれ以外のみりん原液11とに分離する工程と、前記分離工程によって分離されたみりん原液11をろ過してみりん21を得る工程を有する。
【0021】
みりん原料に用いられる原料米としては、蒸したもち米やうるち米等を用いることができる。焼酎は甲類及び乙類のいずれでもよい。また、必ずしも焼酎に限られるものではなく、エチルアルコール類でもよい。米麹はうるち米を蒸した蒸し米に適宜の種麹を接種し、製麹したものを用いる。米麹に加えて適宜酵素を併用してもよい。
【0022】
原料米、焼酎、米麹等の原料を適量ずつ計量し熟成槽に投入し、混合して、好適な温度条件のもと糖化熟成してみりん醪Mを得る。このみりん醪Mを、次述する遠心分離機にて液体成分と固体成分に遠心分離することで本発明のみりん粕12が得られる。
【0023】
遠心分離機は、遠心力を利用して液体中に含まれる比重の異なる物質を分離する装置で、遠心沈降タイプと、デカンタタイプと、遠心脱水機タイプとに大別することができる。本発明に使用できる遠心分離機としては、遠心沈降タイプとデカンタタイプが望ましく、醪に圧力がかかる遠心脱水機タイプは適していない。
遠心沈降タイプとデカンタタイプではどちらのタイプであっても本発明の遠心分離機として使用できる。より精密に粒子径ごとの分離(所謂「分級」)が必要なら遠心沈降タイプが適しているし、大量の醪をより短時間で分離するのであればデカンタタイプが適している。本発明では後述するように、スクリュウデカンタ形遠心分離機を実施例として用いた。
【0024】
前記糖化熟成工程では、麹の持つ酵素によって蒸米の澱粉質が糖に分解される。仕込み当初大きかった蒸米の米粒は糖化熟成が進むにつれ小さくなっていく。糖化後のみりん醪Mは、分解されて小さくなった米粒と、あまり分解されていない大きな米粒とが混在した状態になっている。具体的には図2の粒度分布図のように、粒径500μm以上の大きいものと、100μmから300μmの中くらいものと、100μm以下の微細なものが混在した状態になっている。本発明による製法では、この大きな米粒を不必要な圧力によって潰すことなく液体成分と固体成分に分離することができる。そして、遠心分離機により醪に作用させる遠心力を調節することにより、例えば醪中の粒径500ないし1000μm以上の適宜の粒径の米粒を選択的にみりん粕側に分離することができる。これにより、製造されるみりん粕には米粒の形が残り、見た目でも食感でも楽しむことができる。
【0025】
本発明の遠心分離機による製法によれば、上述した従来の佐瀬式のように人手や時間がかからず効率よく分離することができるだけでなく、分離の際に余計な圧力がかからないので、みりん粕に含まれる米粒の形が残ったまま分離でき、粕中のみりんの含有率も高くなるので、みりん粕の価値を残したまま製造の効率化を図ることが可能となる。
【0026】
本発明の製法によれば、上述したようなみりん粕製造の効率化と高品質化が図れるだけでなく、みりん自体の製造の効率化と高品質化も図ることができる。
【実施例
【0027】
[実施例1]
もち米2700kgを蒸して、甲類焼酎(アルコール濃度は42%(v/v))2111L、別途製麹した米麹360kgを混合して30℃で3週間糖化熟成したみりん醪M5500Lを遠心分離機にて遠心分離した。使用した遠心分離機は、スクリュウデカンタ形遠心分離機(IHI社製)で、遠心加速度は3500G、処理量3t/時で、2時間処理をし、液体成分のみりん原液11を5100Lとペースト状固形分を含むみりん粕12を500kg得た。遠心分離する前のみりん醪の粒度分布図は前記した図2であり、遠心分離後の液状のみりん原液11の粒度分布を測定すると図3の通りである。遠心分離により1000μm以上の大きな粒子がみりん原液11側に無くなっているのが確認できた。(なお、粒度分布計は2mm以上の粒子は測定できない。)また、遠心分離により得られたみりん粕12を確認すると、米粒の形が残っているのが視認でき、程よくみりん液が含まれた状態であるのが確認できた。
【0028】
次いで、前記遠心分離によって得られたみりん原液11を5100Lろ過して4600Lのみりん液21と400kgの固形の残渣22(廃棄分)を得た。
本実施例では、上述した実施例の製法で作ったみりん原液11を、ろ過機にて清澄な液にろ過してみりん21を製造する。これにより透明度の高いみりんが得られる。ろ過機としては、フィルターろ過でもよいし、上記佐瀬式のろ過でも機械式自動圧搾機でもよい。また、ろ過の際、ろ過助剤を使用すれば効率よくろ過することができる。ろ過助剤として珪藻土やセルロース製剤など一般的なろ過助剤を用いてもよい。
【0029】
[比較例1]
機械式圧搾ろ過製法
実施例1のみりん醪M5500Lを従来の機械式圧搾ろ過機で圧搾ろ過して、4500Lのみりん液31と0.9tのみりん粕32を得た。図6の粒度分布図から解るように、機械式圧搾ろ過による場合には、強い力で圧搾されるので、みりん液31は約300μm以下の細かい粒子の液体となり、一方のみりん粕32は液部分がない粉末状となる。
【0030】
[比較例2]
佐瀬式圧搾ろ過製法
実施例1のみりん醪M5500Lを従来の佐瀬式圧搾ろ過機で圧搾ろ過して、4300Lのみりん液41と1.2tのみりん粕42を得た。
【0031】
次の表1に、実施例1と比較例1,2の機械式圧搾と佐瀬式圧搾によって得たみりんとみりん粕(残滓)を対比して示す。
【0032】
【表1】
【0033】
ここで、みりん醪Mを固液分離するための遠心加速度について実験例とともに説明する。
(a)実験方法
みりん醪Mを、遠心機用チューブ5本に、1本当たり約18.5ml(約21.5g)に分注し、遠心分離機にかけた。遠心分離後直ちにデカンテーションにより固体成分と液体成分に分け、それぞれの重量を測定した。液体部分は、さらにろ過により不溶性固形分を分離し、その重量を測定した。
(b)実験器具
・遠心分離:KUBOTAテーブル遠心機、スイングロータST-504M
遠心機用チューブ(50ml)
・ろ過分離:ろ過布(みりん製造時の圧搾分離用の布、ロート)
(c)遠心条件
遠心加速度が4000G、3500G、3000G、2000G、1000Gとなるように条件を調整した。
使用した実験機器では、遠心チューブに18.5mlの液を入れたとき、液面までの回転半径(Ra)が118mm、チューブ底までの回転半径(Rb)が157mmとなる。
次式に当てはめるとチューブ内の平均遠心加速度が計算できる。
平均遠心加速度(G)=1.118×平均半径((Ra+Rb)÷2)×回転数rpm×10-6
計算すると、4000Gとなる回転数は5100rpm、3500Gとなる回転数は4800rpm、3000Gが4400rpm、2000Gが3600rpm、1000Gが2500rpmとなった。
よって、回転数を5100rpm、4800rpm、4400rpm、3600rpm、2500rpm、時間を5分で実験した。
(d)実験結果
遠心加速度4000G、3500G、3000G、2000G、1000Gでの実験結果は次の表2の通りであった。
【0034】
【表2】
【0035】
(e)考察
遠心分離によって分けた遠心後のみりん原液11とみりん粕12の重量は、各遠心Gによって大きな差がないが、2000G以下ではみりん原液11とみりん粕12(遠心粕)とを完全に分離しきれず粕側が多くなる傾向がみられた。
遠心加速度の違いは、遠心分離後のみりん原液11に含まれる固形の粕成分(=残滓)の量に違いがみられた。
3000G、3500G、4000Gでは、遠心分離により、みりん醪M中の固形のみりん粕12の多くを分離できているために、遠心後のみりん原液11に固形成分の粕(残滓)が殆ど残っていないが、1000G、2000Gでは遠心分離により、みりん醪M中の固形のみりん粕12の多くを分離できていないために、遠心後のみりん原液11に固形成分が多く残っていた。
【0036】
上の実験例による醪及び遠心分離後のみりん原液の粒度分布図を遠心加速度4000G、3500G、3000G、2000G、1000G別に図8図13に示した。
【0037】
本発明で得られたみりん液とみりん粕について、10名の被験者に実際に評価してもらった。みりんについて調理した料理の、味、香り、料理全体の評価結果を表3に示した。みりん粕については、そのまま食べて評価してもらった結果を表4に示した。なお、評価については、10名の被験者により官能評価を行った。本実施例では評価を1から5の5段階評価で評価し、5が良、3が普通、1が不良である。表3及び表4中の数値は10名の被験者による5段階評価の平均値である。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
上の表3の結果より、本実施例のみりん液21は他社のみりんよりも醸造香や複雑な旨味が感じられること、及び、米の甘さや、まろやかさ等がよいことが認められた。また、表4の結果より、本実施例のみりん粕12についても従来のみりん粕と比べて、大きな米粒が残っているため、見た目でも食感でも楽しむことができるだけでなく、おいしさについても評価が高いことが認められた。
【0041】
(実施例2)
実施例2は、蒸したもち米2700kgと、甲類焼酎(アルコール濃度は42%(v/v))2111Lと、米麹360kgを混合するところまでが実施例1と同じで、糖化熟成する際に攪拌翼を回転させて攪拌する点が異なる。
【0042】
図13は原料を糖化熟成させるタンク(本発明の「容器」)に取り付けられる攪拌翼Bの概略図である。タンクの中心部鉛直方向に回転軸Sが配置され、その回転軸Sにはタンク内径の40%以上で、かつタンク内高さの全体として40%以上の大きさの攪拌翼Bが取り付けられている。この実施例では具体的には50%以上でタンク内径2400mmに対し攪拌翼幅1440mmで、タンク内高さ3590mmに対し上下で2255mmの大きさの攪拌翼Bが取り付けられている。本発明の攪拌翼は、図14のように回転軸を中心に左右に分かれていてもよいし、上下に分けてさらに回転軸に対して角度を変えて取り付けてもよい。実施例では直角に交差して取り付けられている。
【0043】
実施例の攪拌翼Bを回転させると、原料をタンク内全体にわたって流動させることができるので、みりん醪Mを効率よく上下に至るスムーズな循環流によって攪拌することができるだけでなく、仕込みごとのみりん醪Mの状態を安定させることができる。みりん醪Mの状態が安定すると、後の遠心分離により分離されるみりん原液11及びみりん粕12の状態も安定し、一定の品質を保つのが容易になる。
【0044】
図15は、本実施例2の攪拌翼の回転による攪拌製法のみりん醪Mの粒度分布図である。図2の従来のみりん醪Mの粒度分布図と比較すると、粒子径の大きいものが多く残っていることがわかる。このみりん醪Mを固液分離したみりん原液12のエキス分は実施例1のエキス分と大差なかったので、比較的大きな粒子を残したまま澱粉質の糖化が進んだのだと考えられる。もろみの段階で大きな米粒が残っていれば遠心分離後のみりん粕12により大きな米粒を残すことがより容易になる。従来のように人手がかかる櫂入れをしなくても本発明のみりん及びみりん粕の製造ができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上の通り、本発明のみりん及びみりん粕の製造方法は、みりん粕製造の効率化と高品質化が図れるだけでなく、みりん自体の製造の効率化と高品質化も図ることができ、有用な食用みりん粕製品が得られる。そのため、従来のみりん及びみりん粕の製造方法の代替として有望である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14