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特許7590785ヒト化抗IL-4Rα単一ドメイン抗体及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】ヒト化抗IL-4Rα単一ドメイン抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/24 20060101AFI20241120BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241120BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241120BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241120BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241120BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241120BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241120BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20241120BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241120BHJP
   A61P 5/16 20060101ALI20241120BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241120BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C07K16/24
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/46
C12P21/08
A61P11/06
A61P17/00
A61P37/08
A61P19/02
A61P17/02
A61P11/00
A61P7/06
A61P37/06
A61P1/04
A61P27/02
A61P31/06
A61P13/12
A61P9/00
A61P29/00
A61P5/16
A61K47/68
A61K39/395 Y
A61K39/395 D
A61K39/395 U
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022580486
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 CN2021077649
(87)【国際公開番号】W WO2022121118
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】202011445635.4
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522500387
【氏名又は名称】南京融捷康生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】REGENECORE BIOTECH CO., LTD
【住所又は居所原語表記】Building 07, 16 Tree-House, Tanmi Rd., Jiangbei New Area Nanjing, Jiangsu 210000, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】蘇 志鵬
(72)【発明者】
【氏名】張 雲
(72)【発明者】
【氏名】孟 巾果
(72)【発明者】
【氏名】王 樂飛
(72)【発明者】
【氏名】姚 堯
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111690066(CN,A)
【文献】特表2016-535093(JP,A)
【文献】特表2019-525743(JP,A)
【文献】特表2019-533719(JP,A)
【文献】国際公開第2019/158728(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組み合わせの1つを含むヒト化抗IL-4Rα単一ドメイン抗体:
a)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるCDR3、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるFR1、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるFR2、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるFR3及び配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるFR4;
b)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるCDR3、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるFR1、配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるFR2、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるFR3、及び配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるFR4;
c)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるCDR3、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるFR1、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるFR2、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるFR3、及び配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるFR4;
d)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるCDR3、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるFR1、配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるFR2、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるFR3、及び配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるFR4;
e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるCDR3、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるFR1、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるFR2、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるFR3、及び配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるFR4;又は
f)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるCDR2、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるCDR3、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるFR1、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるFR2、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるFR3、及び配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるFR4
【請求項2】
CDR1のアミノ酸配列は配列番号3に示され、CDR2のアミノ酸配列は配列番号12に示され、CDR3のアミノ酸配列は配列番号18に示され、FR1のアミノ酸配列は配列番号2に示され、FR2のアミノ酸配列は配列番号11に示され、FR3のアミノ酸配列は配列番号15に示され、FR4のアミノ酸配列は配列番号21に示されることを特徴とする、請求項1に記載のヒト化抗IL-4Rα単一ドメイン抗体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体を含むことを特徴とする、融合タンパク質。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体を含むことを特徴とする、二重特異性抗体。
【請求項5】
抗IL-5単一ドメイン抗体を更に含む、請求項に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
前記二重特異性抗体が配列番号24で示される、請求項に記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
請求項のいずれかに記載の二重特異性抗体をコードし、配列番号23で示されるヌクレオチド配列を有する核酸分子。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体、請求項に記載の融合タンパク質、又は請求項のいずれかに記載の二重特異性抗体の、疾患を治療するためのIL-4Rαを標的とする薬物の調製における使用。
【請求項9】
前記疾患は喘息、アレルギー性皮膚炎、湿疹、関節炎、疱疹、慢性特発性蕁麻疹、硬皮症、肥厚性瘢痕、慢性閉塞性肺疾患、アトピー性皮膚炎、特発性肺線維症、川崎病、鎌状赤血球症、グレーブス病、シェーグレン症候群、自己免疫性リンパ増殖症候群、自己免疫性溶血性貧血、バレット食道、自己免疫性ぶどう膜炎、結核、及び腎疾患から選択されることを特徴とする、請求項に記載の使用。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体、請求項に記載の融合タンパク質、又は請求項のいずれかに記載の二重特異性抗体と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含むことを特徴とする、疾患を治療するための薬物。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体をコードすることを特徴とする、単離された核酸分子。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸分子を含むベクター又は組換え細胞。
【請求項13】
組換え細胞を培養し、培養産物から前記単一ドメイン抗体を単離精製して得るステップを含み、前記組換え細胞は請求項11に記載の核酸分子を含む組換え発現ベクターを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の技術分野に関し、特に、ヒト化抗IL-4Rα単一ドメイン抗体及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の2型炎症反応は2型ヘルパーT細胞(T helper 2,TH2)によって起こされる。このような2型炎症反応は統一的な特徴を持つため、アレルギー性疾患と呼ばれ、例えば、喘息やその他の様々な炎症性疾患がある。従来の炎症抑制方法では、一般に、疾患の苦痛を抑えるために広スペクトルの免疫抑制剤を使用するか、又はTH2細胞の下流産物、例えばIgEを特異的に標的とする標的薬を使用して疾患を治療していた。従来の治療方法に比べて、TH2細胞から分泌される2型サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13)を標的とする治療方法は、既に様々な免疫性疾患の治療において大きな潜在力を示し、患者はより良い治療効果が得られる。喘息患者におけるIL-4、IL-5又はIL-13を標的とした治療方法では期待外れの臨床結果がいくつか出た後、研究者は個人化された方法を用い、その結果、「アレルギー」表現型を示す喘息の亜型において治療効果を得ていた。最近、治療効果はより広範な喘息患者にも広がっている。このことから、シグナル伝達経路における重要な上流ドライバーが適切に阻害されたならば、2型炎症は重症喘息患者に密接に関連していることが分かる。また、IL-4及びIL-13を同時に抑制することは、通常喘息と併発する疾患、例えばアトピー性皮膚炎及び鼻ポリープ等の慢性副鼻腔炎において治療効果を示しており、重要な「ドライバー経路」を標的とすることは多くのアレルギー性疾患において治療効果が得られるという仮説が支持されている。
【0003】
アレルギー性疾患は世界的に蔓延してきており、疫学的研究により、食物アレルギー、鼻結膜炎、アトピー性皮膚炎及び喘息の罹患率は上昇してきている。アレルギーは、遺伝的要因と環境要因の複雑な相互作用によって発生する無害な抗原(アレルゲン)に対する全身性の2型炎症反応である。該反応は最終的に免疫グロブリンE(IgE)の産生と様々な炎症性免疫反応の増加につながる。重症度は軽度の危害から生命を脅かす危険性のあるものまで、患者によって異なることがあり、単一又は複数の臓器系及び組織が関係している。アレルギー性疾患は、その独特の臓器・組織症状によって全く異なるように見えることがあり、通常は異なる医学専門分野の臨床医により治療を行っている。しかし、多くアレルギー性疾患が同時に又は進行的に発症する(即ち「トピー性行進」)傾向から、これらの疾患には共通の潜在的なドライバーを持つ可能性が示唆されている。これらの考えに沿って、2型ヘルパーT細胞媒介性の2型炎症反応は喘息とアトピー性皮膚炎(肺と皮膚でそれぞれ異なる組織特異的な表現を示している流行性の高い2つの慢性疾患)の両方においても重要であることが以前から知られていた。
【0004】
2型経路モジュレーターを用いた初期の臨床研究はやや期待外れであったが、アレルギー性喘息患者の臨床データ(バイオマーカーによって同定される)から、インターロイキン5(IL-5)及び共受容体を有する姉妹サイトカインIL-4とIL-13(図1)という3つの特定の2型サイトカインの重要な役割が裏付けられた。IL-5特異的ヒト化モノクローナル抗体(mAb)メポリズマブ(グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)社開発)を用いた治療は、喘息及び鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎(CSwNP)患者の一部に有効性を示した。また、完全ヒト化IL-4受容体サブユニットα(IL-4Rα)阻害抗体(dupilumab,Regeneron/Sanofi社開発)を用いてIL-4及びIL-13のシグナル伝達を同時に阻害することは、アトピー性皮膚炎、CSwNP及び喘息という3つのアレルギー性疾患において治療効果が確認された。これらの最新の臨床データにより、重要な中心である「ドライバー」を標的とすることは、様々な臓器特異的臨床所見を特徴とするアレルギー性疾患に対する実質的な治療効果が期待できるという興味深い可能性が示唆されている。今こそ、アレルギー性疾患を定義・分類し、一般的な免疫経路に応じて治療方法を調整すべき時期が来ている。
【0005】
2型炎症が支配的になることはアレルギー性疾患の重要なドライバーである。抗原の型と環境要因及び潜在的な遺伝要因が相まって、様々なサイトカインの放出に影響を与えることにより、固有の免疫細胞及びリンパ系細胞は2型炎症プロセスを誘発又は広めることになる。環境刺激のあるバリア界面では、例えばIL-25、IL-33及び胸腺間質リンホポエチン(TSLP)のような上皮由来のサイトカインは2型免疫反応を開始したり、又は既存の2型炎症を増幅したりすることができる。これらの上流メディエーターは自然細胞による2型サイトカインの産生を刺激するとともに、CD4+TH2細胞へのナイーブT細胞の分極にも寄与する。THリンパ球サブセットは、特定のサイトカインに関連する免疫応答及び各サブセットに固有の炎症メディエーターによって分類され、例えば、TH1細胞はインターフェロン-γ(IFNγ)を産生し、TH2細胞はIL-4、IL-5及びIL-13を産生し、TH9細胞はIL-9を産生し、TH17細胞はIL-17A、IL-17F、IL-21及びIL22を産生し、TH22細胞はIL-22を産生し、調節性T細胞(TREG)はIL-10を産生することができる。その他の作用では、TH2細胞がB細胞の増殖を誘導して次に抗体型切り替えの段階を経ることにより、循環IgEは高レベルになる。したがって、IgEはTH2細胞活性化の重要な下流バイオマーカーである。IgEは好塩基球及び肥満細胞に見られる高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合し、これらの細胞におけるIgEの架橋は細胞の活性化及び様々な炎症メディエーターの脱顆粒につながる。これらの炎症性メディエーターにはヒスタミン、プロスタグランジン及びその他の炎症誘発性サイトカイン(例えばIL-4、IL-5及びIL-13)が含まれるため、2型反応が増幅される。下気道では、このような2型炎症性環境は、好酸球の増加、粘液の産生及び平滑筋の収縮を起こす。これらのプロセスは寄生虫感染を排除するための重要な防御的免疫機能であるが、無害な抗原又はアレルゲンに対して病理学的役割を有するため、アレルギーを起こす。
【0006】
従来から定義されたアレルギー性疾患(喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎及び結膜炎を含む)に加え、様々な原因不明の疾患にも2型の臨床的特徴(最も顕著なのは好酸球増加症及び/又は高血清IgEレベル)が見られ、このような疾患としては、慢性特発性蕁麻疹、CSwNP及び好酸球性食道炎が含まれる。
【0007】
一部のアレルギー性疾患(例えばアレルギー性鼻炎)には抗ヒスタミン薬と特異的免疫療法の併用がよく効くのに対し、より重度のアレルギー性疾患(例えばアトピー性皮膚炎及び喘息)には非特異的免疫抑制が主な治療手段であるが、どちらでも、異常な炎症反応が進行して疾患症状が伝播する。広範囲に作用する免疫抑制剤を全身的に使用して(例えばコルチコステロイド、シクロスポリンA、メトトレキセート、アザチオプリン又はミコフェノール酸モフェチルを経口もしくは静脈注射によって投与する)炎症を軽減することは、重症の症状を緩和するのに有効である。これらの薬剤の免疫抑制活性は転写因子等の下流メディエーターを標的とすることで生じる。例えば、コルチコステロイドはグルココルチコイド受容体に結合し、炎症を推進する核因子-κB(NF-κB)等の重要な転写因子の発現を抑制する。シクロスポリンAはカルシニューリン阻害剤であり、T細胞の活性化と増殖に必要なIL-2の産生を防止することができる(活性化T細胞の転写因子核因子(NFAT)による)。但し、シクロスポリンAとコルチコステロイドの広範な作用機序により、全身的な免疫抑制療法は多面発現効果をもたらすことがあるため、例えば、体液貯留、耐糖能異常、高血圧、筋力低下、胃腸耐性不良、潜在的な骨損失、視床下部-下垂体-副腎軸の抑制及び感染に対する感受性の増加など、毒性を起こしている。局所投与(即ち吸入薬、局所的な点滴、鼻内噴霧又はクリーム)はこれらの免疫抑制剤の副作用を軽減することができるが、局所的な免疫抑制はこれらの疾患のより重症な形態を治療するのに不十分である。したがって、より特異的な治療方法の必要性はなお多大である。
【0008】
炎症を抑えるために暴力的な手段を用いても、どの免疫経路が病気を引き起こし、伝達しているのかについての知見は得られない。例えば、広範に作用する薬物シクロスポリンAは乾癬とアトピー性皮膚炎の治療に有効である。一方、乾癬とアトピー性皮膚炎において、腫瘍壊死因子(TNF)を特異的に標的とすることの臨床効果が異なるため、この2つの皮膚疾患は異なる駆動経路を有することが分かる。TNF阻害剤は乾癬の治療薬として承認されているが、アトピー性皮膚炎(2型炎症駆動疾患の1つ)における持続的な有効性はまだ証明されていない。
【0009】
オマリズマブ(Omalizumab(Xolair,Novartis/Genentech))は2型炎症の最終メディエーター及び肥満細胞と好塩基球脱顆粒の有効なトリガーIgEを標的とすることで、アレルギー性疾患においてより特異的な免疫抑制を誘導する。このIgE特異的ヒト化モノクローナル抗体は喘息の規制承認を受けた初めてのモノクローナル抗体治療法であるが、アトピー性皮膚炎に対しては効果がない。オマリズマブは遊離血清IgEのレベルを低下させ、そして上記新規の抗炎症メカニズムによって、増悪を軽減できる効果を示したが、1秒間の強制呼気量(FEV1)、即ち、肺機能の測定における強制呼気量はほとんど改善されていない。オマリズマブは合併症CSwNPの症状も改善でき、抗ヒスタミン薬に抵抗性の慢性特発性蕁麻疹の治療薬としても承認されている。ピボタル試験では、オマリズマブは掻痒及び疾患活動エンドポイントの面に有意な改善を示した。一方、アトピー性皮膚炎では、血清遊離IgEレベルの低下は良好な臨床応答を得るのに不十分である。オマリズマブで中度アトピー性皮膚炎患者を16週間治療した結果、疾患エンドポイント(湿疹面積、重症度指数(EASI)、及び研究者による総合評価)は改善されなかった。また、治療を受けた患者の掻痒スコアはプラセボ群に比べて若干悪化している。これらの結果から、2型炎症駆動の疾患においても、疾患調節因子は一律でTH2経路の最終産物IgEとなるわけではないことが分かる。
【0010】
様々なアレルギー性疾患において最適な治療効果を得るためには、下流メディエーターではなく、2型炎症経路の重要な上流ドライバーを標的とすることが必要となり得る。この目的のために、3つの重要な2型サイトカインであるIL-4、IL-5及びIL-13はアレルギー性炎症疾患の共通結節の候補として有望である。
【0011】
IL-4はTH2型反応を駆動する重要な分化因子である。IL-4はTH2サブセットへのT細胞の分化を引き起こし、IL-5、IL-9、IL-13、TARC及び好酸球ケモカイン等の2型関連サイトカイン及びケモカインの産生を誘導する。B細胞では、IL-4はIgEへのアイソタイプ切り替えを誘導する。インビトロで、IL-4は2型ヘルパーT細胞へのTHナイーブT細胞の分化を促進する。インビボで、IL-4の欠乏により、寄生虫感染に対する2型サイトカインの産生が阻害される。一方、IL-4はIFNγ産生、マクロファージ細胞の活性化に関連するTH1型応答を負に調節し、それによって、2型応答に対する免疫学的極性化が維持される。
【0012】
IL-4とIL-13は2型免疫の有効なメディエーターであり、それらの受容体発現パターンに関連する機能は重複しつつ異なっている。IL-4とIL-13のアミノ酸相同性は25%しかないが、これらのサイトカインは共通の受容体部分IL-4Rαを共有し、該受容体は独特の補助鎖に結合してシグナル伝達を誘導する。IL-4Rαは造血細胞及び非造血細胞のいずれにも発現しているが、異なる細胞種における補助鎖の発現の差異から、それらの機能的差異が明らかになっている(図1)。1型受容体はIL-4Rαと共通のγ鎖からなり、後者は造血細胞のみに存在する。2型受容体複合体はIL-4RαとIL-13Rα1からなり、後者は、例えば、ケラチノサイト、毛包、表皮皮脂腺と汗腺、鼻及び気管支上皮細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞等の多くの非造血細胞に存在する。IL-4は1型及び2型受容体複合体を介してシグナル伝達するが、IL-13は2型受容体複合体のみを介してシグナル伝達する。これは、IL-13がそれ自身の主要な結合鎖(IL-13Rα1)に結合するのに対して、IL-4が主にIL-4Rαに結合するためである。
【0013】
なお、2つのサイトカインは異なる効力とシグナル伝達動態を有する。IL-4とIL-4Rαの高結合はγ鎖又はIL-13Rα1の結合の親和性(KD)に依存しないが、IL-4Rαの存在はIL-13とIL-13Rα1の結合の親和性を高める(KDは10mMから30pMになる)。また、IL-4の2型受容体は活性化された細胞内シグナル伝達に関与する時間経過がIL-13よりも速い。寄生虫感染とアレルギーのマウスモデルにおいて、サイトカインノックアウトと過剰発現の表現型によってIL-4とIL-13の生理学的差異を分析したが、これらの表現型を慎重に検査すると、IL-4はTH2細胞分化、B細胞成長、アイソタイプクラス切り替え(特にIgE)の開始及び好酸球動員の中心となる媒介であるという仮説が支持されている。IL-13はこれらの炎症誘発プロセスにおいてある程度の重複性を有するが、IL-13は杯細胞過形成及び平滑筋収縮の媒介において他の役割も有し、それは2型受容体複合体の独特の発現パターン及び局所的なサイトカイン産生に関連している可能性がある。
【0014】
IL-4とIL-13のどちらもB細胞に対する活性によってIgE産生を媒介する。マウスのIL-4又はIL-13をノックアウトすると、アレルゲンチャレンジに対するIgE産生に重大な欠陥が生じる。IL-4はアイソタイプ切り替えとB細胞成長を開始・促進できるが、IL-13も活性化ヒトB細胞に結合できる証拠があり、これによりIL-13がIgE産生の持続に寄与することが示唆されるとともに、遺伝子ノックアウトマウスで観察された表現型は解釈されている。
【0015】
IL-4、IL-5及びIL-13は2型炎症組織及び血液好酸球の増加を促進できる。IL-5は効果的な好酸球サイトカインであり、骨髄の成長と分化、生存と動員、及び骨髄から血液への移行に関与している。IL-5はサイトカイン特異的サブユニット受容体IL-5Rαに結合し、後者は共有のシグナルサブユニットβ鎖と複合体を形成する。顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-SCF)とIL-3もβ鎖シグナル伝達を必要とする。IL-5Rαは好酸球及び好酸球前駆細胞に高度に発現し、好塩基球にも存在する。IL-5がない場合(遺伝子ノックアウトの場合又はIL-5特異的抗体による治療後)、アレルゲンチャレンジに対する血液及び組織の好酸球応答は抑止される。
【0016】
2型上流サイトカインの産生は、上皮由来サイトカインIL-25、IL-33及びTSLPによって発現を促進することができ、組織損傷やアレルゲン曝露後にバリア界面で放出することがある。これらの上皮由来サイトカインの様々な自然細胞種(例えば、2型自然リンパ系細胞と肥満細胞)に対する活性は、IL-4、IL-5及びIL-13の産生を誘導することができ、TH2型応答を促進することもできる。特に、IL-33は「alarmin」(細胞又は組織損傷のシグナル)として機能すると、ナイーブT細胞をTH2細胞に分極させ、既存の2型反応を増幅することができる。IL-33はまた、IL-25とともに自然リンパ系細胞における高レベルの2型サイトカイン、特にIL-5とIL-13の産生を誘導する。TSLPは、好塩基球、単核球及びナチュラルキラーT細胞におけるサイトカインの産生を促進し、また樹枝状細胞を活性化してTH2細胞をプライミング及び活性化する。
【0017】
以上より、IL-4、IL-5及びIL-13は多面発現効果を有し、2型免疫反応を調整し、2型及びTH2経路活性化マーカーを駆動する上で異なる役割、即ち、IgE産生や好酸球増加の役割を果たしている。前臨床データから、喘息とアトピー性皮膚炎の両方とも2型炎症のこれらのメディエーターによって駆動されることを証明する強力な証拠が示されている。IL-4、IL-5及びIL-13の3種類の2型サイトカインを全て過剰発現させたトランスジェニックマウスは、高血清IgEレベル、皮膚及び肺への広範な細胞浸潤(好酸球とリンパ球を含む)、皮膚肥厚及び気道上皮肥大という誇張の2型反応を特徴とする喘息様の肺疾患とアトピー性皮膚炎様の皮膚疾患を自発的に発症した。さらなる研究により、IL-4とIL-13はそれぞれ独立に、類似した病態を引き起こすのに十分であることが示される。これらの前臨床データは、IL-4とIL-13が重要な近位疾患ドライバーであることを示唆している。
【0018】
また、ヒト化抗体は、主に非ヒトモノクローナル抗体を遺伝子クローニング及びDNA組換え技術で改変、再発現した抗体をいい、そのアミノ酸配列の大部分はヒト由来の配列に置き換えられ、親モノクローナル抗体の親和性と特異性が実質的に保持されるとともに、異種性が低減され、ヒトでの使用に有利である。しかし現在のところ、IL-4Rαを標的とするラクダ科単一ドメイン抗体のヒト化抗体は欠如している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的はヒト化抗IL-4Rα単一ドメイン抗体及びその使用を提供することである。本発明で提供される抗IL-4Rα単一ドメイン抗体はヒト化によって改変されており、親和性及び腫瘍細胞増殖阻害効果が保持されるとともに、免疫副作用が効果的に低減される。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は下記のように実現される。
【0021】
一態様において、本発明は、CDR1、CDR2及びCDR3を含む相補性決定領域とFR1、FR2、FR3及びFR4を含むフレームワーク領域とを有するヒト化抗IL-4Rα単一ドメイン抗体を提供する。
【0022】
CDR1のアミノ酸配列は配列番号3に示され、CDR2のアミノ酸配列は配列番号12に示され、CDR3のアミノ酸配列は配列番号18に示される。
【0023】
FR1のアミノ酸配列は配列番号2に示され、FR2のアミノ酸配列は配列番号4~11のいずれかから選択され、FR3のアミノ酸は配列番号13~17のいずれかから選択され、FR4のアミノ酸配列は配列番号20又は21に示される。
【0024】
本発明の発明者は配列番号22のラクダ由来抗IL-4Rα単一ドメイン抗体を基に、適切な位置で科学的且つ合理的にヒト化によって改変することで、親和性及び腫瘍細胞増殖阻害効果が保持され、免疫副作用が効果的に低減されたヒト化抗IL-4Rα単一ドメイン抗体を得た。
【0025】
上記各相補性決定領域と各フレームワークは、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順序で連結されて本発明の単一ドメイン抗体の一次配列構造を形成する。
【0026】
代替的実施形態において、FR2のアミノ酸配列は配列番号11に示され、FR3のアミノ酸配列は配列番号15に示され、FR4のアミノ酸配列は配列番号21に示される。
【0027】
他のヒト化単一ドメイン抗体に比べて、該実施形態の単一ドメイン抗体はより高い親和性とより低い免疫副作用を有し、より優れた技術的効果を示している。
【0028】
さらなる態様において、本発明は、上記に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体を含む、融合タンパク質を提供する。
【0029】
本発明で提供される単一ドメイン抗体は、異なる目的を達成するために他の任意のタンパク質又は物質と融合することができ、例えば、検出を容易にする目的で蛍光タンパク質、酵素又は放射性元素等に結合し、又は例えば、より良い治療の目的でIL-4Rαの媒介に関連する疾患を治療する薬物分子と融合する。該単一ドメイン抗体と融合するタンパク質の種類は、実際のニーズ又は目的に応じて当業者により合理的に選択でき、得られた融合タンパク質は全て、単一ドメイン抗体と融合する物質の種類にかかわらず、本発明の保護範囲に属する。
【0030】
さらなる態様において、本発明は、上記に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体を含む二重特異性抗体を提供する。
【0031】
本発明で提供される単一ドメイン抗体の配列又はその構造に基づき、当業者であれば、それを他の特異性抗体と融合して2つ以上の抗原に特異的に結合可能な二重特異性抗体又は多重特異性抗体を得ることに容易に想到でき、これは当業者であれば容易に実現できることである。したがって、融合する抗体にかかわらず、上記のように得られた二重特異性抗体は全て本発明の保護範囲に属する。
【0032】
さらなる態様において、本発明は、上記に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体、上記に記載の融合タンパク質、又は上記に記載の二重特異性抗体の、疾患を治療するためのIL-4Rαを標的とする薬物の調製における使用を提供する。
【0033】
本発明で提供される単一ドメイン抗体、融合タンパク質及び二重特異性抗体は、IL-4Rαを治療標的とするいかなる疾患にも適用可能であり、喘息、アレルギー性皮膚炎、湿疹、関節炎、疱疹、慢性特発性蕁麻疹、硬皮症、肥厚性瘢痕、慢性閉塞性肺疾患、アトピー性皮膚炎、特発性肺線維症、川崎病、鎌状赤血球症、グレーブス病、シェーグレン症候群、自己免疫性リンパ増殖症候群、自己免疫性溶血性貧血、バレット食道、自己免疫性ぶどう膜炎、結核、及び腎疾患を含むが、これらに限定されない。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、上記に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体、上記に記載の融合タンパク質、又は上記に記載の二重特異性抗体と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む、疾患を治療するための薬物を提供する。
【0035】
上記薬学的に許容可能な賦形剤とは、例えば、希釈剤、充填剤、結合剤、湿潤剤、吸収促進剤、界面活性剤、崩壊剤、吸着担体、潤滑剤等の薬学分野の薬学的賦形剤である。また、風味剤、甘味剤等の他の賦形剤を加えてもよい。つまり、前記賦形剤は希釈剤、充填剤、結合剤、湿潤剤、吸収促進剤、界面活性剤、崩壊剤、吸着担体、潤滑剤、風味剤、甘味剤のうちの1種又は2種以上であり、当業者は必要に応じて合理的に選択することができる。
【0036】
さらなる態様において、本発明は、上記に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体をコードする単離された核酸分子を提供する。
【0037】
説明すべきことは、本発明の開示内容に基づき、当業者は本分野の一般的な技術により上記単一ドメイン抗体及び融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子を容易に得ることができ、また、コードの縮重のため、該ポリ核酸分子は可変であり、その具体的な塩基配列は様々な可能性が存在し、よって、ポリ核酸分子の変化に関わらず、本発明の単一ドメイン抗体又は融合タンパク質をコードできれば、該核酸分子は本発明の保護範囲に属する点である。
【0038】
さらなる態様において、本発明は、上記に記載の核酸分子を含むベクター又は組換え細胞を提供する。
【0039】
さらなる態様において、本発明は、上記に記載の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体を調製する方法を提供し、該方法は、組換え細胞を培養し、培養産物から前記単一ドメイン抗体を単離精製して得るステップを含み、前記組換え細胞は上記に記載の核酸分子を含む組換え発現ベクターを含む。
【0040】
説明すべきことは、本発明の単一ドメイン抗体、融合タンパク質及び抗体の調製は化学合成法によって実現されてもよいし、遺伝子工学技術又はその他の方法により実現されてもよい点である。本発明に記載の単一ドメイン抗体、融合タンパク質又は抗体は全て、その調製方法にかかわらず、本発明の保護範囲内にある。
【0041】
本発明の実施例の技術的解決手段をより明瞭に説明するために、以下において、実施例に用いられる図面について簡単に説明する。以下の図面はただ本発明の一部の実施例を示すため、範囲を限定するものと見なしてはならなく、当業者であれば、創造的な労力を要することなく、これらの図面に基づいて他の関連図面に想到し得ることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】IL4/IL-13及びIL-5シグナル伝達経路の模式図である。
図2】ヒト化後の抗IL-4Rαモノクローナル抗体4E9のいくつかのクローンの配列の比較結果である。
図3】異なるヒト化4E9抗体クローンがIL-4により誘導されるTF-1増殖を中和する実験結果である。
図4】好ましいヒト化4E9抗体クローンがIL-13により誘導されるTF-1増殖を中和する実験結果である。
図5】IL-4Rα/IL-5二重特異性抗体4E9V10-2B3V2がIL-4RαとIL-4の結合を阻害する実験結果(ELISA)である。
図6】IL-4Rα/IL-5二重特異性抗体4E9V10-2B3V2がIL-5RとIL-5の結合を阻害する実験結果(ELISA)である。
図7】IL-4Rα/IL-5二重特異性抗体4E9V10-2B3V2がIL-4により誘導されるTF-1増殖を中和する実験結果である。
図8】IL-4Rα/IL-5二重特異性抗体4E9V10-2B3V2がIL-13により誘導されるTF-1増殖を中和する実験結果である。
図9】IL-4Rα/IL-5二重特異性抗体4E9V10-2B3V2がIL-5により誘導されるTF-1増殖を中和する実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の実施例の目的、技術的解決手段及び利点をより明確にするために、以下に本発明の実施例における技術的解決手段を明確に、完全に説明する。実施例に具体的な条件が明記されていない場合、通常の条件又はメーカーが推奨する条件に従って実行する。製造者の記載がない試薬又は装置は全て、市販で入手できる一般的な製品である。
【実施例
【0044】
以下において、本発明の特徴及び性能を実施例によりさらに詳しく説明する。
[実施例1]ヒト化による改変
配列番号22の抗IL-4Rα単一ドメイン抗体4E9(4E9-V0と名づける)を基にヒト化による改変を行った。
【0045】
ヒト化して改変されたヒト化単一ドメイン抗体(それぞれ4E9 V1~V14と名づける)の配列を表1に示し、部分ヒト化抗体配列の比較結果を図2に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
[実施例2]IL-4又はIL-13により誘導されるTF1細胞増殖のヒト化単一ドメイン抗体による中和の測定
(1)回復後に3~4代継代したTF-1細胞を10000個/ウェルで96ウェルプレートに播種した。
【0048】
(2)異なるTab、表1内のヒト化単一ドメイン抗体を10μg/mLの溶液として製剤化し、5倍段階希釈した。
【0049】
(3)段階希釈したTab抗体(中国特許出願番号CN202010576200.7、発明の名称「抗IL-4Rαの単一ドメイン抗体、並びにその使用及び薬物」に記載された方法を参考にして取得される)及びヒト化単一ドメイン抗体とEC80濃度のIL-4又はIL13(中国特許出願番号CN202010576200.7、発明の名称「抗IL-4Rα単一ドメイン抗体、並びにその使用及び薬物」に記載された方法を参考にして取得される)とを1:1で混合し、混合液を調製した。EC80の定義として、EC80は即ち80%最大効果濃度(concentration for 80% of maximal effect,EC80)であり、最大効果の80%を引き出すことができる濃度を意味する。
【0050】
(4)前工程の混合液を細胞培養溶液と等量で細胞培養ウェルに加えた。
【0051】
(5)72hインキュベーションした後、発光細胞生存率アッセイで細胞生存率を測定した。
【0052】
(6)測定結果に基づいて、異なるヒト化単一ドメイン抗体がIL-4又はIL13により誘導されるTF-1細胞増殖を中和するEC50濃度を計算した。EC50は即ち半数最大効果濃度(concentration for 50% of maximal effect,EC50)であり、最大効果の50%を引き出すことができる濃度を意味する。結果を表2、表3及び図3図4に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
結果として、全てのヒト化抗体配列の中で、細胞増殖効果に対する中和能力が最も高いのは4E9-V10抗体であり、そのEC50は0.27nMであり、最も効果が低いのは4E9-V1であり、ある程度の中和効果を持つのは4E9-V6、4E9-V8、4E9-V12及び4E9-V13であることが示される。
【0056】
[実施例3]示差走査法によるヒト化単一ドメイン抗体の熱安定性の測定
実験方法
(1)8連チューブ又は96ウェルPCRプレートに0.1mg/mLの上記ヒト化単一ドメイン抗体溶液を45μL加え、次いで5μLの100×Sypro orange色素を加え、この時最終色素濃度は5×となった。各試料を3回繰り返し、1×PBSをブランクとして使用した。
(2)実験タイプはMelt curveであり、レポーター基はROXであり、クエンチャー基はNoneであり、昇温プログラムは25℃5minであり、走査範囲は25~95℃であり、昇温速度は1%(約1℃/min)であった。
(3)融解曲線の一次導関数の最大値に対応する温度は該タンパク質に対応する変性温度(Tm値)となった。
【0057】
実験結果を表4に示す。
【表4】
【0058】
結果として、全てのヒト化単一ドメイン抗体の中で、4E9-V13の熱安定性は最も高く、4E9-V3の熱安定性は最も低くて検出されず、4E9-V10の熱安定性は全ての抗体の中で3位であることが示される。
【0059】
[実施例4]ヒト化単一ドメイン抗体の親和性測定
SD緩衝液の調製
ウシ血清アルブミンとTween20の質量分率(又は体積分率)がそれぞれ0.1%と0.02%になるように、適量のウシ血清アルブミンとTween20を1×PBS(pH7.4)に溶解した。SD緩衝液を用いてIL-4Rα結合分子(上述した部分ヒト化単一ドメイン抗体)を10μg/mLの濃度に調製した。
【0060】
抗原作業溶液の調製
SD緩衝液で抗原を200nMに調製後、2倍段階希釈し、5つの濃度勾配を設け、それに加えて、SD緩衝液のブランク対照を設定した。
【0061】
再生液の調製
濃度0.1Mのグリシンストック溶液を適量取り、脱イオン水で10倍に希釈して均一に混合し、再生液を得た。
【0062】
実験手順
Octet 96及び専用のコンピュータソフトウェアData Acquisitonを起動し、75%エタノールをレンズクリーニングペーパーに適量付けて収集プローブの底面と側面をクリーニングし、機器を15min以上ウォームアップした。Sensorのプリウェットについて、実験開始前にSensorをSD緩衝液に10分以上浸して使用に備え、次いでベースライン→抗体→ベースライン→抗原結合→抗原解離→センサ再生の手順で実験操作を行うように機器プログラムを設定した。実験結果を表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
KDは親和性定数であり、単位はモル(M)である。
Kaは結合速度定数であり、単位はモル時間の逆数(1/Ms)である。
Kdは解離速度定数であり、単位は時間の逆数である。
はフィット度合、つまり実測曲線とフィット曲線がどれだけ一致しているかを示すものである。Rが1に近いほど、フィット値が実測値に近くなる。本システムでは、Rは少なくとも0.95よりも大きいものとする。
はシステムで測定した値を反映する統計的パラメータである。Xは3よりも小さいものとし、Xが小さいほど測定値の信頼性が高くなる。
その他の誤差値は対応するパラメータの誤差値であり、対応するパラメータより1桁(10倍)小さいか、それより小さいものとする。
【0065】
結果として、4E9-V6と4E9-V10はKD値が最も低く、抗原親和性が最も高いことが示される。
【0066】
上記結果並びに細胞の抗体機能測定結果及び理化学分析の結果に基づき、全てのヒト化配列の中で、4E9-V10は総合効果が最も高いヒト化単一ドメイン抗体であり、この総合効果は発明者には予想し得なかったものであった。以下の実施例では4E9-V10を用いて試験した。
【0067】
[実施例5]抗IL-4Rα/IL-5タンパク質の二重特異性単一ドメイン抗体のFc融合抗体の真核生物発現ベクターの構築
(1)コドン最適化されたヒト化抗IL-4Rα単一ドメイン抗体(4E9V10)の遺伝子配列(配列番号23の1~345位)及びヒト化抗IL-5単一ドメイン抗体(2B3V2と名づける)の遺伝子配列(配列番号23の1069~1434位)を合成し、配列合成の方式によって、それぞれベクターRJK-V4-3(中国特許出願番号CN202010576200.7、発明の名称「抗IL-4Rαの単一ドメイン抗体、並びにその使用及び薬物」に記載の方法を参考にして取得される)に導入した。
【0068】
(2)構築された組換え真核生物発現ベクターをDH5α大腸菌に形質転換し、培養してプラスミドを大量に抽出し、内毒素を除去した。
【0069】
(3)大量に抽出したプラスミドを配列決定して同定した。
【0070】
(4)同定された抗IL-4Rα抗体配列を、抗IL-5抗体配列を含む真核生物発現ベクターにサブクローニングした。具体的な操作としては、制限酵素XbaI及びBamHIで抗IL-4Rα抗体配列をそれが位置する真核生物発現ベクターから切断し、同じ制限酵素粘着末端を有する抗IL-5抗体配列を含む真核生物発現ベクターにライゲートして、形質転換し、そして配列決定により同定した。配列決定したクローンに対してプラスミドを大量に抽出し、内毒素を除去した。さらに、抽出したプラスミドを配列決定して同定した。同定された組換えベクターを、後続の真核細胞トランスフェクション発現のために調製した。抗IL-4Rα/IL-5タンパク質の二重特異性単一ドメイン抗体の真核生物発現ベクターを得た。抗IL-4Rα/IL-5タンパク質の二重特異性単一ドメイン抗体(アミノ酸配列は配列番号24に示され、対応する遺伝子配列は配列番号23である)を4E9V10-2B3V2と名づけ、4E9V10-Fc領域-2B3V2の3つの部分を含む。4E9V10はアミノ末端(配列番号24における1~115位)にあり、Fc領域は配列番号24における116~356位であり、2B3V2はカルボキシ末端(配列番号24における357~478位)にある。
【0071】
[実施例6]
抗IL-4Rα/IL-5タンパク質二重特異性単一ドメイン抗体を懸濁ExpiCHO-S細胞中、中国特許出願番号CN202010576200.7、発明の名称「抗IL-4Rα単一ドメイン抗体、並びにその使用及び薬物」に記載されたアッセイ方法で発現させた。
【0072】
[実施例7]
抗IL-4Rα/IL-5タンパク質二重特異性単一ドメイン抗体を懸濁293F細胞中、中国特許出願番号CN202010576200.7、発明の名称「抗IL-4Rα単一ドメイン抗体、並びにその使用及び薬物」に記載されたアッセイ方法で発現させた。
【0073】
[実施例8]
抗IL-4Rα/IL-5タンパク質二重特異性単一ドメイン抗体を中国特許出願番号CN202010576200.7、発明の名称「抗IL-4Rα単一ドメイン抗体、並びにその使用及び薬物」に記載されたアッセイ方法で精製した。
【0074】
[実施例9] 二重特異性単一ドメイン抗体を用いた受容体リガンド結合阻害の測定
(1)受容体タンパク質(IL-4Rα又はIL-5R)をタンパク質希釈液で1μg/mLに希釈し、4℃で一晩コーティングした。
【0075】
(2)プレートを洗浄し、5%脱脂乳を用いて37℃で封鎖した。
【0076】
(3)ビオチンに結合するリガンドタンパク質(IL-4又はIL-5)をEC80濃度の2倍に希釈し、抗体を開始濃度の2倍に希釈し、5倍段階希釈した。リガンドタンパク質と希釈した抗体(dupilumab、4E9V10-2B3V2、4E9-V0又は2B3(配列番号25))及びhIgGをそれぞれ1:1で新しい調剤プレートに移して均一に混合した。
【0077】
(4)プレートを洗浄し、希釈したリガンドタンパク質/抗体混合物をELISAプレートに移して、デュプリケートで37℃でインキュベートした。
【0078】
(5)プレートを洗浄し、希釈したStreptavidin[HRP]を加え、37℃でインキュベートした。
【0079】
(6)プレートを洗浄し、単一成分TMBを加え、室温且つ暗所で発色させた。
【0080】
(7)停止液を加え、直ちに450nmの波長で異なるウェル試料の値をマイクロプレートリーダーで読み取り、OD450と記した。EC50をプロットすることによって計算した。4E9-V0、IL-5に対する非ヒト化単一ドメイン抗体2B3、dupilumab、reslizumab、hIgGを対照とし、結果をそれぞれ表6と表7、図5図6に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
結果として、ヒト化二重特異性抗体は、非ヒト化抗体に比べると、IL-4/IL-4Rα又はIL-5/IL-5R受容体リガンド結合を阻害する阻害効果が劣らず、僅かな優位性があったことが示される。また、ヒト化二重特異性抗体は、対応する市販薬に比べると、阻害能力はほぼ同等であり、同様に僅かな優位性がある。
【0084】
[実施例10]IL-4又はIL-13により誘導されるTF1細胞増殖の二重特異性単一ドメイン抗体による中和の測定
測定方法は実施例2を参照する。
【0085】
測定結果を表8、表9及び図7、8に示す。
【0086】
【表8】
【0087】
【表9】
【0088】
結果として、ヒト化二重特異性抗体は、非ヒト化抗体に比べると、IL-4により誘導されるTF-1細胞増殖を中和する阻害効果が劣らず、僅かな優位性があったことが示される。また、ヒト化二重特異性抗体は、対応する市販薬に比べると、阻害能力はほぼ同等である。
【0089】
[実施例11]ヒト組換えIL-5タンパク質により誘導されるTF1細胞増殖及びツール抗体(Tab)による増殖中和の測定
A.ヒト組換えIL-5タンパク質により誘導されるTF1細胞増殖の測定
(1)回復後に3~4代継代したTF-1細胞を10000個/ウェルで96ウェルプレートに播種した。
(2)ヒトIL-5タンパク質を最大濃度500ng/mLの溶液として製剤化し、5倍段階希釈した。
(3)段階希釈したIL-5タンパク質溶液を細胞培養溶液と等量で細胞培養ウェルに加えた。
(4)72hインキュベーションした後、発光細胞生存率アッセイで細胞生存率を測定した。
(5)測定結果に基づいて、IL-5がTF-1細胞増殖を誘導するEC80濃度を計算した。計算結果は2.96ng/mLであった。
【0090】
B.ヒトIL-5により誘導されるTF1細胞増殖のTabによる中和の測定
(1)回復後に3~4代継代したTF-1細胞を10000個/ウェルで96ウェルプレートに播種した。
(2)Tabを10μg/mLの溶液として製剤化し、5倍段階希釈した。
(3)段階希釈したTabと増殖実験で得られたEC80濃度のIL-5を1:1で混合し、混合液を調製した。
(4)混合液を細胞培養溶液と等量で細胞培養ウェルに加えた。
(5)72hインキュベーションした後、発光細胞生存率アッセイで細胞生存率を測定した。
(6)測定結果に基づいて、TabがIL-5により誘導されるTF-1細胞増殖を中和するEC50濃度を計算した。
【0091】
[実施例12]IL-5により誘導されるTF1細胞増殖のヒト化二重特異性単一ドメイン抗体による中和の測定
(1)回復後に3~4代継代したTF-1細胞を10000個/ウェルで96ウェルプレートに播種した。
(2)Tab及び前記ヒト化二重特異性単一ドメイン抗体を10μg/mLの溶液として製剤化し、5倍段階希釈した。
(3)段階希釈したTab、ヒト化抗体をそれぞれ実施例13-Aで得られたEC80濃度のIL-5タンパク質と1:1で混合し、混合液を調製した。
(4)混合液を細胞培養溶液と等量で細胞培養ウェルに加えた。
(5)72hインキュベーションした後、発光細胞生存率アッセイで細胞生存率を測定した。
(6)測定結果に基づいて、異なる単一ドメイン抗体がIL-5により誘導されるTF-1細胞増殖を中和するEC50濃度を計算した。実験結果を表10と図9に示す。
【0092】
【表10】
【0093】
結果として、ヒト化二重特異性抗体は、非ヒト化抗体に比べると、IL-5により誘導されるTF-1細胞増殖を中和する阻害効果が劣らず、僅かな優位性があったことが示される。また、ヒト化二重特異性抗体は、対応する市販薬に比べると、阻害能力はほぼ同等である。
【0094】
[実施例13]
ヒト化二重特異性抗体の親和性動態測定を、実施例4に示される測定方法で行った。測定結果を表11に示す。
【0095】
【表11】
【0096】
結果として、IL4Rα及びIL-5を標的とする二重特異性抗体の親和性はそれぞれ2つの抗原と共に測定した。対応する親和性はいずれも1nM以下であった。
【0097】
以上、本発明の基本原理、主な特徴及び本発明の利点を示して説明した。本発明は上記実施例に限定されるものではなく、上記実施例及び明細書の記載は本発明の原理を説明するためのものに過ぎず、本発明の精神と範囲を逸脱しない限り、本発明に様々な変形及び改良を行うことができ、これら変形や改良は全て本発明の保護範囲内にあることが当業者に自明である。本発明の保護範囲は添付した特許請求の範囲及びその同等物によって定義される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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