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特許7590787ヒドロゲル組成物、その製造方法及びヒドロゲル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】ヒドロゲル組成物、その製造方法及びヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/02 20060101AFI20241120BHJP
   C08J 3/075 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C08F299/02
C08J3/075 CEY
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023034515
(22)【出願日】2023-03-07
(65)【公開番号】P2024074217
(43)【公開日】2024-05-30
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】111144287
(32)【優先日】2022-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】519452046
【氏名又は名称】怡定興生醫股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】劉 大佼
(72)【発明者】
【氏名】葉 修鋒
(72)【発明者】
【氏名】尹 心怡
(72)【発明者】
【氏名】廖 怡君
(72)【発明者】
【氏名】徐 英華
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2023-545300(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第116173290(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第115245591(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111743784(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第114146226(CN,A)
【文献】特表2022-551482(JP,A)
【文献】特表2020-533287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 299/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ヒアルロン酸と、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートと、水とを含むヒドロゲル組成物であって、前記ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、前記変性ヒアルロン酸の含有量は1重量%~7重量%であり、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートの含有量は43重量%~49重量%であり、前記変性ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸を無水メタクリル酸で変性することによって得られ、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートの平均分子量は1kDa~10kDaであることを特徴とする、ヒドロゲル組成物。
【請求項2】
ヒアルロン酸の繰り返し単位のモル数に対する無水メタクリル酸のモル数の比は、1~10であることを特徴とする、請求項1に記載のヒドロゲル組成物。
【請求項3】
前記ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートの平均分子量は、4kDa~8kDaであることを特徴とする、請求項1に記載のヒドロゲル組成物。
【請求項4】
ヒアルロン酸の平均分子量は、1kDa~200kDaであることを特徴とする、請求項1に記載のヒドロゲル組成物。
【請求項5】
前記ヒドロゲル組成物は、光開始剤を更に含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のヒドロゲル組成物。
【請求項6】
ヒドロゲル組成物の製造方法であって、
ステップ(a):ヒアルロン酸を無水メタクリル酸で変性して変性ヒアルロン酸を得るステップ、及び
ステップ(b):前記変性ヒアルロン酸と、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートと、水とを混合して前記ヒドロゲル組成物を得るステップ
を含み、
前記ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、前記変性ヒアルロン酸の含有量は1重量%~7重量%であり、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートの含有量は43重量%~49重量%であり、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートの平均分子量は1kDa~10kDaであることを特徴とする、方法。
【請求項7】
ヒアルロン酸の繰り返し単位のモル数に対する無水メタクリル酸のモル数の比は、1~10である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(a)において、ヒアルロン酸を無水メタクリル酸で変性するとき、反応時間は20時間~30時間であり、反応温度は0℃~8℃であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
ヒドロゲルであって、請求項1~4のいずれか一項に記載のヒドロゲル組成物から形成されることを特徴とする、ヒドロゲル
【請求項10】
前記ヒドロゲルのヤング率は、450MPa超であることを特徴とする、請求項9に記載のヒドロゲル
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組成物、その製造方法、及び材料に関し、特に、ヒドロゲル組成物、その製造方法、及びヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは、アクアゲルとも呼ばれ、分散媒体として水を有するゲルであり、高い親水性と、三次元ネットワークの架橋構造とを有する。この架橋構造により、ヒドロゲルは水中で素早く吸収及び膨潤し、この膨潤状態を消滅することなく大量の水を保持できる。ヒドロゲルによって保持される水の量は、架橋度と密接に関係しており、架橋度が高いほど、ヒドロゲルに保持される水の量が少ない。高い水吸着及び高保水の材料として、ヒドロゲルは広範囲の用途を有する。例えば、ヒドロゲルは、オムツ、生理用品、又はフェイシャルマスクなどの生活必需品に応用でき;廃水処理又は空気濾過などの産業分野に適応用でき;火傷用手当用品、薬剤送達キャリア又はグラフトなどの生物医薬分野に応用できる。
【0003】
概して、水溶性又は親水性ポリマーは、化学的又は物理的架橋反応によりヒドロゲルを形成できる。ポリマーの供給源の違いに応じて、ヒドロゲルは、天然ポリマーヒドロゲルと合成ポリマーヒドロゲルとに分類される。天然ポリマーヒドロゲルは、天然ポリマー(例えば、デンプン、セルロース又はヒアルロン酸(HA)などの多糖類、及びコラーゲン又はポリリジンなどのポリペプチド)から形成され、合成ポリマーヒドロゲルは、合成ポリマー(例えば、アルコール、並びにアクリル酸、及びポリアクリル酸又はポリアクリルアミドなどのその誘導体)から形成される。特に、豊富な原材料供給源と生体適合性に優れるという利点から、生物医学的分野における天然ポリマーヒドロゲルの応用は、産業界及び学界における研究の焦点となっている。
【0004】
HAは、卓越した親水性と保水性を有することに加え、軟骨組織、体液、又は上皮組織中に広く存在し、それにより、卓越した生体適合性を有する。したがって、HAは、天然ポリマーヒドロゲルの原材料として極めて好適である。しかし、HAの高い粘度特性により、HAの型への射出及び均一な充填は困難であることから、種々の要求に適合する特異な形状に成形できない。更に、HAは水に素早く溶解するという特性を有することから、HAによって形成されたヒドロゲルは、不安定で容易に溶解し、その機械的特性は現実の要求に適合せず、これは生物学的分野における応用性を制限する。
【0005】
上記のHAの欠点に対して、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)とHAとを混合し、その後ヒドロゲルを形成するという技術的手段が開発されている。具体的には、PEGDAの光架橋特性を用いて三次元ネットワークを有する架橋構造を形成し、これがヒドロゲルの主構造として機能して、HAの水溶解度を制限でき、それによってヒドロゲルの機械的強度及び安定性を改善する。しかし、実用的応用における機械的特性に対する要求に適合するためには、約6キロダルトン(kDa)などの比較的高い平均分子量を有するPEGDAを原材料として採用する必要がある。この場合、平均分子量が高いPEGDAとHAとの存在は排除体積効果を生じ、この効果がPEGDAとHAとの2つの間の相溶性(compatibility)を低下させ、更にはHAを沈殿しやすくし、それによってヒドロゲルのフォローアップ用途を大きく制限する。
【0006】
したがって、PEGDAとHAとが良好な相溶性を有するようにしてHA沈殿を防止するだけでなく、実用的応用における要求に適合するための改善された機械的特性も有する、PEGDAとHAとを原材料として採用したヒドロゲルの研究開発がなおも必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来技術における上記問題を考慮して、本発明の目的は、PEGDAとHAとを含むヒドロゲル組成物を提供することであり、原材料、すなわち、PEGDA及びHAは、HAの沈殿を防ぐ優れた相溶性を有し、これは、ヒドロゲルの形成時のフォローアップ用途に有益である;同時に、本発明のヒドロゲル組成物によって形成されたヒドロゲルは、450MPa超のヤング率など、改善された機械的特性を有し、これは実用的応用における要求に適合でき、その結果応用性が増大する。
【0008】
本発明の別の目的は、ヒドロゲル組成物を提供することであり、当該ヒドロゲル組成物によって形成されたヒドロゲルは、良好な膨潤能力、すなわち、素早い水吸着及び保水の特性を有する。
【0009】
本発明の更に別の目的は、ヒドロゲル組成物を提供することであり、当該ヒドロゲル組成物によって形成されたヒドロゲルは、良好な生体適合性を有することから、当該ヒドロゲルを生物医学的分野に応用できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は、ヒドロゲル組成物を提供し、当該組成物は、変性HAと、PEGDAと、水とを含み;ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、変性HAの含有量は1重量パーセント(重量%)~7重量%であり、PEGDAの含有量は43重量%~49重量%であり;変性HAは、HAを無水メタクリル酸で変性することで得られ;PEGDAの平均分子量は、1kDa~10kDaである。
【0011】
無水メタクリル酸で変性したHA及び平均分子量が高いPEGDAを原材料として採用することと、加えて、変性HA及びPEGDの含有量を特定の範囲内に制御することによって、本発明のヒドロゲル組成物はHA沈殿を生じない。すなわち、上記の2つの原材料が良好な相溶性を有することで、ヒドロゲル組成物は更にヒドロゲルを形成できる;同時に、本発明のヒドロゲル組成物によって形成されたヒドロゲルは、改善された機械的特性、良好な膨潤能力、及び良好な生体適合性という利点を有する。
【0012】
本発明によると、上記HAは二糖類のポリマーを示し、β-1-3グルコシド結合で連結したN-アセチル-D-グルコサミンとD-グルクロン酸とを含む。HAの分子式は(C1421NO11であり、HAの繰り返し単位は次式(a)で表される。
【0013】
【化1】
式(a)
【0014】
本発明によると、「変性HAは、HAを無水メタクリル酸で変性することで得られ」という上記記載は、無水メタクリル酸がHAと反応した後、メタクリレート基がHAのヒドロキシ基に連結していることを示す。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態において、HAを無水メタクリル酸で変性して変性HAを得る場合、HAの繰り返し単位のモル数に対する上記無水メタクリル酸のモル数の比は、1~10であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、HAの繰り返し単位のモル数に対する上記無水メタクリル酸のモル数の比は、1~4であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、HAの繰り返し単位のモル数に対する上記無水メタクリル酸のモル数の比は、1~3であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、HAの繰り返し単位のモル数に対する上記無水メタクリル酸のモル数の比は、2~3であってもよい。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態において、変性HAにおけるメタクリレート基の比率は20%~55%であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、変性HAにおけるメタクリレート基の比率は20%~50%であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、変性HAにおけるメタクリレート基の比率は20%~40%であってもよい。具体的には、上記「変性HAにおけるメタクリレート基の比率」は、H-核磁気共鳴(H-NMR)によって分析及び測定される。すなわち、測定されたメタクリレート基の水素原子(ケミカルシフトδは約5.56及び6.06であり;水素原子の数は2である)の全積分値を、測定されたHAの主鎖の水素原子(ケミカルシフトδは約3.0~4.5であり;水素原子の数は10である)の全積分値で除算することで、上記「変性HAにおけるメタクリレート基の比率」が得られる。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、変性HAの含有量は2.5重量%~7重量%であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、変性HAの含有量は2.5重量%~5重量%であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、変性HAの含有量は4重量%~6重量%であってもよい。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、PEGDAの含有量は43重量%~47.5重量%であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、PEGDAの含有量は45重量%~47.5重量%であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、PEGDAの含有量は44重量%~46重量%であってもよい。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、水の含有量は40重量%~60重量%であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、水の含有量は44重量%~56重量%であってもよい。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、変性HAの含有量は2.5重量%~5重量%であってもよく、PEGDAの含有量は45重量%~47.5重量%であってもよく、HAの繰り返し単位のモル数に対する上記無水メタクリル酸のモル数の比は1~3であってもよい。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、変性HAの含有量は4重量%~6重量%であってもよく、PEGDAの含有量は44重量%~46重量%であってもよく、HAの繰り返し単位のモル数に対する上記無水メタクリル酸のモル数の比は1~3であってもよい。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、変性HAの含有量は4重量%~6重量%であってもよく、PEGDAの含有量は44重量%~46重量%であってもよく、HAの繰り返し単位のモル数に対する上記無水メタクリル酸のモル数の比は2~3であってもよい。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、PEGDAの平均分子量は4kDa~8kDaであってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、PEGDAの平均分子量は5kDa~7kDaであってもよい。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、HAの平均分子量は1kDa~200kDaであってもよい。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態において、HAの平均分子量は1kDa~100kDaであってもよい。
【0026】
好ましくは、ヒドロゲル組成物は、光開始剤を更に含んでもよい。光開始剤は、光曝露後にモノマー重合、架橋、及び硬化を示す化合物であってもよい。例えば、光開始剤は、限定するものではないが、フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム(LAP)、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(Irgacure TPOの名称もある)、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(Irgacure 2959の名称もある)、又はエオシンYであってもよい。より好ましくは、光開始剤はLAPであってもよい。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、光開始剤の含有量は0.2重量%~0.8重量%であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、ヒドロゲル組成物の全重量を基準にして、光開始剤の含有量は0.4重量%~0.6重量%であってもよい。
【0028】
更に、本発明は、ヒドロゲル組成物の製造方法も提供し、当該方法は、ステップ(a):HAを無水メタクリル酸で変性して変性HAを得るステップ;及びステップ(b):変性HAと、PEGDAと、水とを混合してヒドロゲル組成物を得るステップを含み、ここで、ヒドロゲル組成物の総重量を基準として、変性HAの含有量は1重量%~7重量%であり、PEGDAの含有量は43重量%~49重量%であり;PEGDAの平均分子量は、1kDa~10kDaである。
【0029】
HAを無水メタクリル酸で変性して変性HAを予め得ることと、次いで、変性HAと平均分子量が高いPEGDAを原材料として混合すること、加えて、変性HA及びPEGDの含有量を特定の範囲内に制御することによって、調製されたヒドロゲル組成物はHA沈殿を生じない、すなわち、原材料が良好な相溶性を有し、その結果、ヒドロゲル組成物は更にヒドロゲルを形成でき、同時に、ヒドロゲルは、改善された機械的特性、良好な膨潤能力、及び良好な生体適合性という利点を有する。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップ(a)において、HAの繰り返し単位のモル数に対する上記無水メタクリル酸のモル数の比は1~10であってもよく;本発明のいくつかの実施形態において、HAの繰り返し単位のモル数に対する上記無水メタクリル酸のモル数の比は1~4であってもよく;本発明のいくつかの実施形態において、HAの繰り返し単位のモル数に対する上記無水メタクリル酸のモル数の比は1~3であってもよく;本発明のいくつかの実施形態において、HAの繰り返し単位のモル数に対する上記無水メタクリル酸のモル数の比は2~3であってもよい。
【0031】
好ましくは、ステップ(a)において、HAを無水メタクリル酸で変性するとき、反応時間は20時間~30時間であってもよく、反応温度は0℃~8℃であってもよい。より好ましくは、ステップ(a)において、HAを無水メタクリル酸で変性するとき、反応時間は20時間~30時間であってもよく、反応温度は0℃~5℃であってもよい。
【0032】
更に、本発明は、上記の本発明のヒドロゲル組成物から形成されたヒドロゲルも提供する。本発明のヒドロゲルは、改善された機械的特性、良好な膨潤能力、及び良好な生体適合性という利点を有し、その結果、ヒドロゲルを、種々の分野、特に生物医学的分野において、広く応用できる。
【0033】
好ましくは、ヒドロゲルは450MPa超のヤング率を有する。より好ましくは、ヒドロゲルは450MPaを超え700MPa以下のヤング率を有する。更により好ましくは、ヒドロゲルは480MPa以上且つ700MPa以下のヤング率を有する。
【0034】
好ましくは、ヒドロゲルの極限引張強度は(UTS)は13MPa超である。より好ましくは、ヒドロゲルの極限引張強度は13MPaを超え18MPa以下である。更により好ましくは、ヒドロゲルの極限引張強度は15MPa以上且つ18MPa以下である。更により好ましくは、ヒドロゲルの極限引張強度は17MPa以上且つ18MPa以下である。
【0035】
本明細書において、「下端値~上端値」で表される範囲は、特記のない限り、その範囲が下端値以上且つ上端値以下であることを示す。例えば、「含有量は1重量%~7重量%である」は、含有量が「1重量%以上且つ7重量%以下」であることを示す。
【0036】
本開示のその他の目的、利点及び新規特徴は、添付の図面と併用したときに、以下の詳細な説明から、より明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】調製実施例4の変性HAのH-NMRの結果である。
図2】実施例3Aのヒドロゲルの細胞生存率試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以後、実施形態の数種の調製方法を例示して、本発明の実施を説明する。当業者は、本明細書の内容に従って、本発明の利点及び効果を容易に実現できる。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明を実施又は適用するために様々な修正及び変形を行うことができる。
【0039】
試薬の説明
1.HA:キユーピー株式会社から購入;平均分子量は約7kDa
2.PEGDA:Sigma-Aldrichから購入;平均分子量は約6kDa
3.無水メタクリル酸:Sigma-Aldrichから購入
4.LAP:Sigma-Aldrichから購入
5.N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC):Duksan Pure Chemicals Co.,Ltd.から購入
【0040】
調製実施例1~4(PE1~PE4):変性HA
0.5モルのHAと約10ミリリットル(mL)の脱イオン水とを二口丸底フラスコに入れた後、4℃の環境に終夜置き、HAを脱イオン水に完全に溶解させた。次に、約6.7mLのDMACを上記二口丸底フラスコに加えた。その後、下の表1に記載の無水メタクリル酸のモル数と、HAの繰り返し単位のモル数との比の違いに応じて、適量の無水メタクリル酸を上記二口丸底フラスコに加え、その後、この溶液を均一に混合した。次に、0.5モル濃度(M)のNaOHを上記混合溶液に滴定のために加え、混合溶液のpH値を約8~9の範囲内に4時間制御した。次いで、上記混合溶液を4℃環境に置き、反応を約20時間連続的に撹拌した。
【0041】
反応完了後、適量の塩化ナトリウムを溶液に添加して、その濃度を0.5Mとした。次に、溶液を体積比1:9でエタノールと混合して沈殿を生じさせた。次いで、沈殿をエタノールですすいで未反応物を除去し、沈殿を脱イオン水に溶解して粗生成物を得た。次に、粗生成物を脱イオン水中で3日間透析して精製し、その後、凍結乾燥して調製実施例1~4の変性HAを得た。
【0042】
【表1】
【0043】
更に、メタクリレート基がPE1~PE4の変性HAに含まれていることを確認するため、説明のための一例として、PE4の変性HAをH-NMR分光計(製造業者:Varian,Inc.;型式:VNMRS 700MHz)で分析した。PE4の変性HAのH-NMRの結果を図1に示す。用いたd-溶媒はDOであった。図1によると、約1.86ppm(すなわち、図1の標識b)、並びに5.56ppm及び6.06ppm(すなわち、図1の標識f)における明らかなケミカルシフトのピークは、メタクリレート基がHAの構造に実際に連結していることを立証でき、変性HAの化学構造は、次式(b)で表された。更に、メタクリレート基の水素分子の全積分値とHAの主鎖の水素原子の全積分値との間の比を計算することで、PE4の変性HAにおけるメタクリレート基の比率が約54.1%であるという結果が得られた。
【0044】
【化2】
式(b)
【0045】
実施例1~5(E1~E5):ヒドロゲル組成物
下の表2に記載の組成及び含有量に従い、適量のPE1~PE4の変性HA、PEGDA及び脱イオン水を用意し、次いで均一に混合して、実施例1~5のヒドロゲル組成物を得た。
【0046】
比較例1(CE1):PEGDA溶液
下の表2に従い、適量のPEGDA及び脱イオン水を均一に混合して、比較例1のPEGDA溶液を得た。PEGDA溶液の全重量を基準にして、PEGDAの含有量は50重量%であり、残りは脱イオン水であった。
【0047】
比較例2(CE2):HA/PEGDA溶液
下の表2に従い、適量のHA(未変性HA)、PEGDA及び脱イオン水を均一に混合して、比較例2のHA/PEGDA溶液を得た。HA/PEGDA溶液の全重量を基準にして、HAの含有量は5重量%であり、PEGDAの含有量は45重量%であり、残りは脱イオン水であった。
【0048】
比較例3及び4(CE3及びCE4):ヒドロゲル組成物
下の表2に記載の組成及び含有量に従い、適量のPE2の変性HA、PEGDA及び脱イオン水を用意し、次いで均一に混合して、比較例3及び4のヒドロゲル組成物を得た。比較例3及び4のヒドロゲル組成物と、実施例1~5のヒドロゲル組成物との間の主な違いは、変性HA及びPEGDAの含有量が異なることであった。
【0049】
【表2】
【0050】
分析1:原材料の相溶性の評価
E2~E5のヒドロゲル組成物及びCE2のHA/PEGDA溶液を、この分析に用いた。具体的には、同量のE2~E5のヒドロゲル組成物とCE2のHA/PEGDA溶液とを採用し、それぞれ、同条件で異なる容器に入れた。
【0051】
次に、各群の透明度を裸眼で観察した結果、明らかな沈殿、すなわち、HA沈殿がCE2のHA/PEGDA溶液で観察された。すなわち、CE2のHA/PEGDA溶液は、明らかに原材料の相溶性が低かった。他方、E2~E5のヒドロゲル組成物では明らかな沈殿は認められなかった。これはE2~E5のヒドロゲル組成物は全て、原材料の相溶性が良好であったことを示す。更に、E5のヒドロゲル組成物は透明性に最も優れ、したがって原材料の相溶性が最も優れていた。
【0052】
結果として、HAとPEGDAとの直接混合がHA沈殿を生じるという従来技術の問題とは異なり、本発明のヒドロゲル組成物は、無水メタクリル酸で変性されたHAを採用し、次いでPEGDAと混合することで、原材料の相溶性が増強され、PEGDA中でのHA沈殿の問題が解決された。
【0053】
実施例1A~5A(E1A~E5A):ヒドロゲル
実施例1A~5Aは、それぞれE1~E5のヒドロゲル組成物を採用し、次いで、光開始剤として、LAPを、含有量が約0.5重量%に達するように適量加えた。次に、各群のヒドロゲル組成物を型に入れ、紫外線(光源は、波長390ナノメートル(nm)のLEDであり、光出力は約5ワットであった)に約30秒間曝露して、ヒドロゲル組成物に架橋反応とその後の硬化を起こさせて、実施例1A~5Aのヒドロゲルを得た。
【0054】
比較例1A~4A(CE1A~CE4A):ヒドロゲル
比較例1A~4Aの製造工程は、E1A~E5Aの工程とほぼ同じであった。主な違いは、比較例1A~4Aはそれぞれ、CE1のPEGDA溶液、CE2のHA/PEGDA溶液、CE3及びCE4のヒドロゲル組成物を採用したことであった。その後の製造工程は、E1A~E5Aの工程と同じであり、比較例1A~4Aのヒドロゲルを得た。
【0055】
分析2:機械的特性の評価
E1A~E5A及びCE1A~CE4Aのヒドロゲルを、この分析に用いた。具体的には、E1A~E5A及びCE1A~CE4Aのヒドロゲルを長さ約30ミリメートル(mm)、幅約3mm、高さ約0.5mmの試料に切断した。次に、各試料をElectroForce(登録商標)3200 Series III機械的特性試験機に載せ、225ニュートン(N)のロードセル及び0.08ミリメートル/分(mm/分)の延伸速度という条件を試験に選択した。次いで、各群のヤング率及び極限引張強度の結果を得て、下の表3に記載した。ヤング率は、応力-ひずみ曲線の線形弾性部分の傾きを計算することで得た。これは、力を加えた後の物体の変形し難さを示す。簡単に述べると、ヤング率が高いほど、力を加えた後に物体が変形し難い。極限引張強度は、物体が破断まで伸張されたときに測定された力であった。
【0056】
【表3】
【0057】
上記表3の結果に従い、E1A~E5Aのヒドロゲルのヤング率は450MPa超であった。更に、PEGDA溶液から形成されたCE1Aのヒドロゲル、又はHA/PEGDA溶液から形成されたCE2Aのヒドロゲルと比較した場合、E1A~E5Aのヒドロゲルは明らかに高いヤング率を有した。すなわち、本発明は、無水メタクリル酸で変性したHAを採用し、次いでPEGDAと混合してヒドロゲルを形成することから、ヒドロゲルは、実際にはより優れた機械的強度を有する。
【0058】
CE3A及びCE4Aの結果と更に比較すると、CE3A及びCE4Aのヒドロゲルも無水メタクリル酸で変性したHAを採用し、次いでPEGDAと混合したが、CE3Aのヒドロゲルについては、変性HAの含有量は10重量%であり、PEGDAの含有量は40重量%であり;CE4Aのヒドロゲルについては、変性HAの含有量は15重量%であり、PEGDAの含有量は35重量%であった。すなわち、CE3A及びCE4Aの原材料の含有量は、本発明で主張されている特定の範囲に適合していなかった。したがって、CE3Aのヒドロゲルのヤング率はわずか378.79MPaであり、CE4Aのヒドロゲルのヤング率はわずか74.39MPaであり、E1A~E5Aのヒドロゲルのヤング率よりも明らかに悪かった。
【0059】
更に、極限引張強度の結果については、E1A~E5Aのヒドロゲルは全て13MPa超であり、E1A~E5AのヒドロゲルはCE1Aに近い、又は上回りさえする極限引張強度を有した。更に、CE2A~CE4Aと比較したときに、E1A~E5Aのヒドロゲルの方が明らかに高い極限引張強度を有した。
【0060】
従って、本発明は、無水メタクリル酸で変性したHAとPEGDAとを原材料として採用し、更には上記原材料の含有量を特定の範囲内に制御することから、本発明のヒドロゲルは、実際により良好なヤング率の結果と、近い又はより優れる極限引張強度の結果とを有した。すなわち、本発明のヒドロゲルは、実際に、改善された機械的特性を有した。
【0061】
分析3:膨潤能力の評価
E1A~E5Aのヒドロゲルをこの分析に用いた。具体的には、E1A~E5Aのヒドロゲルを、直径約15mm、厚さ約0.5mmの円柱形試料に切断した。次に、試料を5mLの脱イオン水に浸漬し、試料を脱イオン水に30秒、3分、5分、10分、15分、20分、30分及び60分浸漬したときに、試料の重量を測定した。その後、異なる浸漬時間で測定した試料重量を、水に浸漬する前の試料重量と比較し、異なる時間にわたって水に浸漬した後の各群の膨潤率を得て、それを用いて各群のヒドロゲルの膨潤能力を評価した。異なる群について、異なる時間にわたって水に浸漬した後の膨潤率の結果を、下の表4に記載した。膨潤率は、次式によって得た:[(水浸漬後の試料重量-水浸漬前の試料重量)/水浸漬前の試料重量×100%]
【0062】
【表4】
【0063】
上記表4の記載の結果によると、E1A~E5Aのヒドロゲルは全て、約5分の水浸漬後に200%超の膨潤率を有した。加えて、更に長い時間(約10分~60分)水に浸漬したとき、E1A~E5Aのヒドロゲルはなおも200%超の膨潤率を維持し、その膨潤率は、ほぼ固定値であった。これは、E1A~E5Aのヒドロゲルが、急速な水吸着と長時間の保水という特性を有することを示した。従って、本発明のヒドロゲルは、実際に良好な膨潤能力を有した。
【0064】
分析4:生体適合性の評価
E3Aのヒドロゲルをこの分析に採用し、PrestoBlueの試薬を細胞生存率の試験に使用して、生体適合性を評価した。具体的には、E3Aのヒドロゲルを脱イオン水に浸漬して、その膨潤率を固定値に到達させた後、直径約6mm、厚さ約0.5mmの円柱形試料に切断した。次に、滅菌のため、試料を濃度30%のエタノールに浸漬した後、紫外線環境下に置いた。その後、試料を取り出してリン酸塩緩衝液で洗浄し、次いで96ウェルの細胞培養皿に入れた後、200マイクロリットル(μL)のHam’s F12培地を添加した。同時に、HIG-82細胞(ウサギの膝関節の滑膜から単離した細胞)を約5×10cell/mLの細胞濃度で別の96ウェル細胞培養皿に入れ、次いで約5%COの環境中、約37℃で1日培養した。次いで、Ham’s F12培地に浸漬した試料を取り出した後、HIG-82細胞を培養した96ウェル細胞培養皿に添加し、その後1日培養した。
【0065】
上記培養の完了後、Ham’s F12培地を96ウェル細胞培養皿から除去し、次いで100μLのPrestoBlue溶液(体積比1:9でHam‘s F12と混合したPrestoBlue試薬)を添加し、次いで約5%COの環境中、約37℃で1.5時間培養した。次に、PrestoBlue溶液を取り出して固相酵素免疫測定法(ELISA)リーダー(製造業者:Molecular Devices;型式:SpectraMax M2)で分析して、波長570nm及び600nmにおける吸光度を測定して、PrestoBlueの還元率を計算した。PrestoBlueの還元率が高いほど、細胞生存率が高く、試料の生体適合性も優れる。E3Aの結果を図2に示す;ここで、いかなる処理も行わないHIG-82細胞を対照群として設定し、各群は5回の反復実験の結果であった。PrestoBlueの還元率は次式によって得た。式中、試験群は試料を用いて処理した上記の群を表し、対照群、及び陰性群は、上記と同じ実験工程を経たがHIG-82細胞を含有しなかった群を表す。
【0066】

RED:還元型PrestoBlue(赤)の濃度
OX:酸化型PrestoBlue(青)の濃度
εOXλ570:波長570nmにおける酸化型PrestoBlueのモル吸光係数
εOXλ600:波長600nmにおける酸化型PrestoBlueのモル吸光係数
εREDλ570:波長570nmにおける還元型PrestoBlueのモル吸光係数
εREDλ600:波長600nmにおける還元型PrestoBlueのモル吸光係数
A:試験群(培地、試料、細胞及びPrestoBlue試薬を含有)の吸光度
A’:陰性対照(培地、試料、及びPrestoBlue試薬を含有)の吸光度
【0067】
図2によると、E3A及び対照群のPrestoBlueの還元率はほぼ同じであった。これはE3Aと対照群の細胞生存率がほぼ同じであったことを示す。すなわち、E3Aのヒドロゲルは、細胞に対して毒性、感染性、又は細胞を刺激して炎症させて細胞死を引き起こす物質を放出しなかった。したがって、本発明のヒドロゲルは、実際に良好な生体適合性を有した。
【0068】
要約すると、本発明は、変性HAと、平均分子量が高いPEGDAとを原材料として採用し、原材料の含有量を制御することで、原材料の相溶性に優れるヒドロゲル組成物を得ることができる。同時に、ヒドロゲル組成物がヒドロゲルを形成した後、ヒドロゲルは、良好な機械的特性、良好な膨潤能力、及び良好な生体適合性を同時に有し、その結果、ヒドロゲルを、特に生物医学的分野などの多数の分野に応用でき、それにより、高い開発の可能性と価値を有する。
【0069】
これまで、本発明の多数の特徴及び利点を、本発明の構造及び特徴の詳細と合せて説明してきたが、本開示は例証にすぎない。詳細、特に形状、サイズ、及び部品の配置の事項において、本付の特許請求の範囲が表現される、用語の幅広い一般的な意味によって示される十分な範囲まで、本発明の原理の範囲内で変更が加えられてもよい。
図1
図2