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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】車両の運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20241120BHJP
   B60W 30/08 20120101ALI20241120BHJP
【FI】
G08G1/16 D
B60W30/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020073277
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021170243
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香園 和也
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-174055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G01C 21/00 - 21/36
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両前方の周囲環境情報を取得する周囲環境情報取得部と、
前記周囲環境情報取得部で取得した前記周囲環境情報に基づいて、前記自車両が走行する道路と該道路前方の交差点で交差する交差路を走行する交差車両とを認識する交差車両認識部と、
前記自車両の前記交差点に進入する時刻と前記交差車両の該交差点に進入する時刻とを比較して、該自車両と該交差車両との衝突予測を行う衝突予測演算部と、
前記衝突予測演算部で前記自車両と前記交差車両との衝突が予測された場合、前記自車両に対して衝突回避動作を実行させるか否かを判定する衝突回避動作判定部と、
前記周囲環境情報取得部で取得した前記周囲環境情報に基づいて、前記自車両前方を走行する前方車両であって、前記交差点に進入する該前方車両を認識する前方車両認識部と
を備え、
前記衝突回避動作判定部は、前記前方車両認識部にて前記自車両よりも先に前記交差点に進入する前記前方車両が認識された場合、該前方車両の前記交差点に進入するタイミングを求め、該タイミングが所定値以内の場合は前記自車両に対しての前記衝突回避動作は不要と判定する
車両の運転支援装置において、
前記前方車両認識部で認識する前記前方車両は、前記自車両直前の先行車であり、前記交差点に進入するタイミングは前記自車両と前記先行車との車間距離から求め、
前記衝突回避動作判定部は、前記タイミングが前記所定値以内であっても、前記先行車の車速が予め設定した低速判定車速よりも低い場合、前記衝突回避動作を実行させると判定する
ことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項2】
自車両前方の周囲環境情報を取得する周囲環境情報取得部と、
前記周囲環境情報取得部で取得した前記周囲環境情報に基づいて、前記自車両が走行する道路と該道路前方の交差点で交差する交差路を走行する交差車両とを認識する交差車両認識部と、
前記自車両の前記交差点に進入する時刻と前記交差車両の該交差点に進入する時刻とを比較して、該自車両と該交差車両との衝突予測を行う衝突予測演算部と、
前記衝突予測演算部で前記自車両と前記交差車両との衝突が予測された場合、前記自車両に対して衝突回避動作を実行させるか否かを判定する衝突回避動作判定部と、
前記周囲環境情報取得部で取得した前記周囲環境情報に基づいて、前記自車両前方を走行する前方車両であって、前記交差点に進入する該前方車両を認識する前方車両認識部と
を備え、
前記衝突回避動作判定部は、前記前方車両認識部にて前記自車両よりも先に前記交差点に進入する前記前方車両が認識された場合、該前方車両の前記交差点に進入するタイミングを求め、該タイミングが所定値以内の場合は前記自車両に対しての前記衝突回避動作は不要と判定する
車両の運転支援装置において、
前記前方車両認識部で認識する前記前方車両は、前記交差点に接近する対向車であり、前記交差点に進入するタイミングは前記自車両が該交差点に進入する時刻と該対向車が該交差点に進入する時刻との差分から求める
ことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項3】
前記衝突回避動作判定部は、前記対向車の前記交差点に進入する時刻に対して前記自車両の前記交差点に進入する時刻が予め設定した時間よりも遅い場合、前記衝突回避動作を実行させると判定する
ことを特徴とする請求項2記載の車両の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交差点に進入しようとする自車両と、この交差点に交差路から進入しようとする交差車両とが出会い頭に衝突する可能性があると予測した場合であっても、自車両よりも先に交差点に進入する前方車両が検出された場合、この前方車両と自車両との位置関係に応じて衝突回避動作を行うかどうかを判定するようにした車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの車両において運転支援装置が搭載されている。この運転支援装置において実行される制御の1つに衝突被害軽減ブレーキ(AEB:Autonomous Emergency Braking)制御がある。AEB制御は、自車両が他の車両や障害物と衝突(干渉を含む)する可能性があると判定した場合、運転者に対して警報し、更には強制的にブレーキ制御の介入を行い、衝突を回避しようとするものである。
【0003】
この他の車両には、自車両の直前を走行する先行車、対向車線から自車両の進行方向と交差する方向へ進路変更しようとする対向車が含まれ、更に、交差車両も含まれる。交差車両は自車両が走行している走行路に交差点で交差する道路(交差路)を、自車両の走行路方向へ進行している車両である。運転支援装置は、自車両と交差車両とが、交差点において出会い頭に衝突する可能性があると判定した場合に、AEB制御を実行させる。
【0004】
しかし、運転支援装置が、自車両と交差車両とが交差点において衝突する可能性があると判定した際に、一律にAEB制御を実行させると、運転者に煩雑感を覚えさせてしまう場合がある。
【0005】
例えば、自車両の前方を先行車が走行している場合、自車両に接近する交差車両が検出されても、交差車両の運転者は、先ず、自車両よりも先に交差車両を認識することになる。従って、先行車が交差点を通過する状況にあれば、自車両が交差車両と出会い頭に衝突する可能性は低くなる。そのため、例えば、特許文献1(特許第5773069号公報)には、自車両の前方に先行車が検出されている場合、AEB制御を非作動とし、運転者に与える煩雑感を軽減するようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5773069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した文献に開示されている技術では、自車両の前方に先行車が検出された場合、交差車両の有無に拘わらずAEB制御を一律に非作動としている。
【0008】
しかし、自車両が先行車に追従して走行している場合であっても、自車両が交差車両と衝突する可能性があるかどうかの判断が難しい状況がある。すなわち、例えば、自車両が先行車に追従して優先道路を走行中に、交差車両が交差路から交差点に進入しようとしている場合で、先行車と自車両との車間距離が比較的広いと、自車両と先行車との間に交差車両が割り込んで来る可能性がある。
【0009】
このような状況において、AEB制御を予め非作動とした場合、運転者に対する注意喚起が十分に機能せず、更に、交差点における出会い頭の衝突を有効に回避することが困難となる可能性がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、交差点での出会い頭の衝突を有効に回避することができると共に、不要な衝突回避動作を制限して運転者に与える煩雑感を軽減させることのできる車両の運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、自車両前方の周囲環境情報を取得する周囲環境情報取得部と、前記周囲環境情報取得部で取得した前記周囲環境情報に基づいて、前記自車両が走行する道路と該道路前方の交差点で交差する交差路を走行する交差車両とを認識する交差車両認識部と、前記自車両の前記交差点に進入する時刻と前記交差車両の該交差点に進入する時刻とを比較して、該自車両と該交差車両との衝突予測を行う衝突予測演算部と、前記衝突予測演算部で前記自車両と前記交差車両との衝突が予測された場合、前記自車両に対して衝突回避動作を実行させるか否かを判定する衝突回避動作判定部と、前記周囲環境情報取得部で取得した前記周囲環境情報に基づいて、前記自車両前方を走行する前方車両であって、前記交差点に進入する該前方車両を認識する前方車両認識部とを備え、前記衝突回避動作判定部は、前記前方車両認識部にて前記自車両よりも先に前記交差点に進入する前記前方車両が認識された場合、該前方車両の前記交差点に進入するタイミングを求め、該タイミングが所定値以内の場合は前記自車両に対しての前記衝突回避動作は不要と判定する車両の運転支援装置において、前記前方車両認識部で認識する前記前方車両は、前記自車両直前の先行車であり、前記交差点に進入するタイミングは前記自車両と前記先行車との車間距離から求め、前記衝突回避動作判定部は、前記タイミングが前記所定値以内であっても、前記先行車の車速が予め設定した低速判定車速よりも低い場合、前記衝突回避動作を実行させると判定する。
本発明は、自車両前方の周囲環境情報を取得する周囲環境情報取得部と、前記周囲環境情報取得部で取得した前記周囲環境情報に基づいて、前記自車両が走行する道路と該道路前方の交差点で交差する交差路を走行する交差車両とを認識する交差車両認識部と、前記自車両の前記交差点に進入する時刻と前記交差車両の該交差点に進入する時刻とを比較して、該自車両と該交差車両との衝突予測を行う衝突予測演算部と、前記衝突予測演算部で前記自車両と前記交差車両との衝突が予測された場合、前記自車両に対して衝突回避動作を実行させるか否かを判定する衝突回避動作判定部と、前記周囲環境情報取得部で取得した前記周囲環境情報に基づいて、前記自車両前方を走行する前方車両であって、前記交差点に進入する該前方車両を認識する前方車両認識部とを備え、前記衝突回避動作判定部は、前記前方車両認識部にて前記自車両よりも先に前記交差点に進入する前記前方車両が認識された場合、該前方車両の前記交差点に進入するタイミングを求め、該タイミングが所定値以内の場合は前記自車両に対しての前記衝突回避動作は不要と判定する車両の運転支援装置において、前記前方車両認識部で認識する前記前方車両は、前記交差点に接近する対向車であり、前記交差点に進入するタイミングは前記自車両が該交差点に進入する時刻と該対向車が該交差点に進入する時刻との差分から求める。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自車両と交差車両とが交差点で出会い頭に衝突すると予測し、しかも、前方車両が認識されない場合は通常の衝突回避動作が実行されるため交差点での出会い頭の衝突を有効に回避することができる。一方、自車両と交差車両とが交差点で出会い頭に衝突すると予測した場合であっても、前方車両が認識された場合は、この前方車両と自車両との交差点に進入するタイミングに応じて衝突回避動作を実行するか否かを判定するようにしたので、不要な衝突回避動作が制限され、運転者に与える煩雑感を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】運転支援装置の全体概略構成図
図2】交差車両衝突判定処理ルーチンを示すフローチャート(その1)
図3】交差車両衝突判定処理ルーチンを示すフローチャート(その2)
図4】交差車両が左側の非優先道路から交差点に進入する場合の自車両の対応を示す説明図
図5】交差車両が右側の非優先道路から交差点に進入する場合の自車両の対応を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1に示すように自車両Mに搭載されている運転支援装置は、走行制御部1と周囲環境情報取得部としての周囲環境認識ユニット2と道路地図データベース3とブレーキ駆動部4と警報装置5とを有している。
【0015】
走行制御部1は、周知の追従車間距離制御(ACC:Adaptive Cruise Control)、車線維持(ALK:Active Lane Keep)制御以外に、AEB(Autonomous Emergency Braking)制御を実行する。AEB制御は、自車両Mが他の車両や障害物と衝突(干渉を含む)する可能性があると判定した場合に、警報装置5を作動させて運転者に報知し、必要な場合にはブレーキ駆動部4を強制的に作動させて、衝突を回避するものである。尚、走行制御部1で実行するACC制御、ALK制御は、従来と同様の制御であるため説明を省略する。又、AEB制御おいて制御対象となる他の車両としては、先行車P、対向車O、交差車両Iがあるが、先行車Pや対向車Oに対するAEB制御は従来と同様であるため説明を省略する。尚、この先行車Pと対向車Oとが、本発明の前方車両に相当する。
【0016】
従って、以下においては、走行制御部1で実行する機能として交差車両Iに対するAEB制御に特化して説明する。尚、交差車両Iとは、自車両Mが走行している走行路(自車走行路)に交差点で交差する道路(交差路)を、自車走行路の方向へ進行している車両である。
【0017】
又、周囲環境認識ユニット2は、周囲環境センサ2aと周囲環境認識部2bとを備えている。この周囲環境センサ2aは、自車両M周囲の環境をセンシングして周囲環境情報を取得するもので、自車両Mの前部、前部コーナ、フロントガラス内側等に、1つ或いは複数配置されている。この周囲環境センサ2aは、超音波レーダ、ミリ波レーダ、ライダ(LiDAR:Light Detection and Rangingus)、メインカメラとサブカメラとからなるステレオカメラ、及び単眼カメラの内の1つからなり、或いはこれら各デバイスの中から2つ以上を組合せて構成されている。
【0018】
又、周囲環境認識部2bは、周囲環境センサ2aで取得した周囲環境情報に基づき自車両Mの周囲を走行する、自動車、自動二輪車、自転車等の車両(周囲車両)や、道路標識、路面標示等を、周知のパターンマッチングなどの手法を用いて認識する。そして、この周囲環境認識部2bで認識した車両情報を走行制御部1へ出力する。
【0019】
更に、道路地図データベース3はHDD等の大容量記憶媒体であり、道路地図情報3aが記憶されている。この道路地図情報3aには、静的情報として車線データ(車線数、車線幅データ、車線中央位置座標データ、車線の進行方位角データ、制限速度等)、道路データ(交差点、優先道路、非優先道路等)、路上建造物データ(信号機、道路標識等)が含まれている。
【0020】
又、この走行制御部1の入力側には、周囲環境認識部2b、道路地図データベース3以外に、複数の測位衛星から発信される測位信号を受信するGNSS(Global Navigation Satellite System)受信部11等が接続されている。
【0021】
この走行制御部1、周囲環境認識部2bは、CPU,RAM,ROM等を備える周知のマイクロコンピュータ、及びその周辺機器で構成されており、ROMにはCPUで実行するプログラムやベースマップ等の固定データ等が予め記憶されている。
【0022】
又、ブレーキ駆動部4と警報装置5とは、走行制御部1の出力側に接続されている。ブレーキ駆動部4は、各車輪に設けたブレーキキャリパのホイールシリンダにブレーキ液圧を供給して、ブレーキを強制的に作動させる。一方、警報装置5は運転者に対して警告を報知するもので、音声スピーカを通じて聴覚的に、或いはディスプレイを通じて視覚的に報知する。
【0023】
又、走行制御部1には、交差車両Iを検出した際のAEB制御を実行する機能として、交差車両衝突回避演算部6を備えている。この交差車両衝突回避演算部6は、自車位置推定部6a、交差車両認識部6b、衝突予測演算部6c、前方車両認識部6d、衝突回避動作判定部としてのAEB動作判定部6eを備えている。
【0024】
自車位置推定部6aは、GNSS受信部11で受信した測位信号に基づき自車両Mが走行している位置情報(緯度、経度、高度)を取得し、道路地図情報3aの道路地図上にマップマッチングして自車両Mの現在位置(自車位置)を推定する。更に、自車両Mの位置情報に基づき、道路地図情報3aを参照し、或いは周囲環境認識ユニット2の周囲環境認識部2bで認識した周囲環境情報に基づいて自車両Mが走行している車線(自車走行路)前方の交差点情報を取得する。そして、この交差点情報に基づき、交差点に到達するまでの時間(交差点到達時間)TLMを求め、これに現在時刻Tnを加算して、当該交差点に進入する時刻(交差点進入時刻)TMを算出する。
【0025】
交差車両認識部6bは、周囲環境認識ユニット2の周囲環境認識部2bで取得した車両情報に基づき、或いは路車間通信によって、自車走行路に交差点で交差する道路(交差路)を交差点方向へ走行する交差車両Iが検出されたか否かを調べる。
【0026】
衝突予測演算部6cは、交差車両認識部6bで、自車走行路の交差点方向に走行する交差車両Iが検出された場合、交差車両Iの交差点進入時刻TIを算出し、自車両Mの交差点進入時刻TMと比較して、出会い頭の衝突の可能性があるか否かを調べる。
【0027】
前方車両認識部6dは、衝突予測演算部6cで自車両Mと交差車両Iとが出会い頭に小とする可能性があると判定した場合、周囲環境認識部2bで取得した車両情報に基づいて、自車両Mの直前を走行する先行車P、及び対向車線を上述した交差点方向へ走行している対向車Oが検出されたか否かを調べる。
【0028】
AEB動作判定部6eは、衝突予測演算部6cで自車両Mと交差車両Iとが出会い頭に衝突する可能性があると判定した場合、自車両Mが交差点に進入する前に警報装置5を駆動させて運転者に衝突する可能性があることを報知し、自車両Mの減速を促す。又、出会い頭に衝突する可能性が高い場合は、ブレーキ駆動部4を動作させて、強制的に減速させ、更には停車させることで交差車両Iとの衝突を回避させる。
【0029】
その際、AEB動作判定部6eは、前方車両認識部6dで先行車P、或いは対向車Oが検出され、先行車P或いは対向車Oが所定の制御介入解除条件を満足している場合は、ブレーキ駆動部4を非動作とする。その結果、自車両Mは強制的に減速されることなく交差点を通過する。
【0030】
上述した交差車両衝突回避演算部6で実行される交差車両衝突判定処理は、具体的には図2図3に示す交差車両衝突判定処理ルーチンに従って処理される。尚、以下においては、便宜的に左側通行が規定されている道路を例示して説明する。従って、右側通行が規定されている道路では、左側を右側と読み替えて適用する。
【0031】
ここで、ステップS1~S5の処理が自車位置推定部6aで実行する機能、ステップS6~S9の処理が交差車両認識部6bで実行する機能、ステップS10,S11の処理が衝突予測演算部6cで実行する機能、ステップS12,S13の処理が前方車両認識部6dで実行する機能、ステップS14~S19の処理がAEB動作判定部6eで実行する機能に相当する。
【0032】
このルーチンでは、先ず、ステップS1で、自車両Mの走行中における現在位置(自車位置)の位置情報(緯度、経度、高度)を、GNSS受信部11で受信した測位信号に基づいて時系列で取得する。そして、取得した位置情報を道路地図情報3aの道路地図上にマップマッチングして、刻々と変化する自車両Mの現在位置(自車位置)を推定すると共に、自車両Mが走行している走行路(自車走行路)、及び進行方向を特定する。
【0033】
次いで、ステップS2へ進み、道路地図情報に基づき、自車両Mが走行している自車走行路の現在位置から前方の所定位置(数百[m])に交差点があるか否かを調べる。そして、交差点が検出された場合は、ステップS3へ進む。又、交差点が検出されない場合はルーチンを抜ける。
【0034】
次いで、ステップS3へ進むと、交差点で自車走行路と交差する道路(交差路)に対して、自車走行路が優先道路か否か、及び交差点に信号機が設置されているか否かを調べる。自車走行路が優先道路か否か、及び信号機が設置されているか否かは、道路地図情報に記憶されている交差点情報、或いは周囲環境認識ユニット2の周囲環境認識部2bで認識した周囲環境情報に基づいて判定する。
【0035】
そして、自車走行路が優先道路で、且つ交差点に信号機が設置されていないと判定した場合はステップS4へ進む。又、自車走行路が非優先道路の場合、すなわち、交差路が優先道路の場合、或いは交差点に信号機が設置されている場合は、ルーチンを抜ける。交差点に信号機が設置されている場合、交差車両Iは信号機の現示(青信号や赤信号)に従うため、出会い頭の衝突は発生し難いと考えられる。
【0036】
ステップS4へ進むと、自車両Mの交差点進入時刻TMを求める。ここで、交差点は2つ以上の道路が交わる領域を云う。例えば、図4図5に示すように、十字路の場合は、互いの道路幅で区画された領域が交差点となる。
【0037】
交差点進入時刻TMの求め方は種々知られているが、例えば、先ず、自車位置から交差点までの距離LMを自車速VMで除算して、交差点に到達するまでの時間(交差点到達時間)TLMを求める(TLM=LM/VM)。そして、この交差点到達時間TLMに現在時刻Tnを加算して交差点進入時刻TMを算出する(TM←TLM+Tn)。
【0038】
尚、自車速VMは、自車両Mに設けられている車速センサ(図示せず)で検出する。又、距離LMは、道路地図上にマップマッチングした自車両Mから道路地図上に設定されている交差点までの道のり距離を計測して求める。この場合、周囲環境認識ユニット2の周囲環境認識部2bで取得した周囲環境情報で交差点が認識できる場合は、この周囲環境情報に基づいて、距離LMを求めるようにしても良い。或いは、周囲環境認識ユニット2の周囲環境認識部2bで取得した周囲環境情報で交差点が認識できる場合、周囲環境情報に基づいて距離LMを求めるようにしても良い。
【0039】
次いで、ステップS5へ進み、交差点到達時間TLMと第1判定時間Tm1とを比較する。この第1判定時間Tm1は、交差点の手前での警報・AEB制御の介入時間を判定する閾値であり、例えば、5~8[sec]である。そして、TLM≦Tm1の場合はステップS6へ進む。又、TLM>Tm1の場合はルーチンを抜ける。
【0040】
ステップS6へ進むと、交差点に進入する交差車両Iが検出されたか否かを、周囲環境認識ユニット2の周囲環境認識部2bで取得した周囲環境情報に基づいて調べる。交差点付近の自車走行路側から交差路を目視できる場合は、当然、自車両Mに搭載されている周囲環境センサ2aから交差路側を認識することが可能である。又、交差点に至る道路に歩道が併設されている場合、この歩道を通して自車両Mの周囲環境センサ2aから交差路側を認識することができる。尚、交差路に進入する交差車両Iを、路車間通信を通じて認識するようにしても良い。
【0041】
そして、交差車両Iが認識された場合はステップS7へ進む。又、交差車両Iが認識されない場合は、ルーチンを抜ける。ステップS7へ進むと、交差車両Iが何れの交差道路から交差点に向かっているかを、交差車両Iを認識した位置情報の時系列的な変化(移動方向)から調べる。
【0042】
そして、交差車両Iが自車走行路側、すなわち左側の交差路から進入すると判定した場合は、ステップS8へ進み、交差車両進入フラグFIをクリアして(FI←0)、ステップS10へ進む。又、対向車線側、すなわち、右側の交差路から進入すると判定した場合は、ステップS9へ分岐し、交差車両進入フラグFIをセットして(FI←1)、ステップS10へ進む。
【0043】
ところで、図4図5に示すように、交差点が十字路の場合、交差車両Iが交差点に進入した後の進行方向は、直進、右折、及び左折の何れかとなる。図4に示すように、交差車両Iが左側の交差路から交差点に進入しようとする場合は、交差車両Iが何れの方向へ進行しようとしても自車両Mと出会い頭に衝突する可能性がある。これに対し、図5に示すように、交差車両Iが右側の交差路から交差点に進入して左折しようとする場合、自車両Mと出会い頭に衝突することはない。従って、自車両Mが交差点に進入するよりも前に、交差車両Iは左折すると判断できれば、ステップS9からそのままルーチンを抜けるようにしても良い。
【0044】
ステップS10へ進むと、交差車両Iの交差点進入時刻TIを求める。尚、このとき検出されている交差車両Iは、自車走行路側の交差路を走行する交差車両I(図4参照)と対向車線側の交差路(図5参照)を走行する交差車両Iとの双方が対象となっている。
【0045】
この交差点進入時刻TIを算出するには、先ず、上述した自車両Mの交差点進入時刻TMと同様に、交差車両Iの現在位置から交差点まで距離LIを交差車両Iの車速VIで除算して、交差点到達時間TLIを求める(TLI←LI/VI)。そして、この交差点到達時間TLIに現在時刻Tnを加算して交差点進入時刻TIを算出する(TI←TLI+Tn)。
【0046】
尚、この距離LIは、道路地図上にマップマッチングした交差車両Iの現在位置から道路地図上に設定されている交差点までの道のり距離を計測して求める。又、交差車両Iの車速VIは、時系列で検出した交差車両Iの移動量から求める。
【0047】
次いで、ステップS11へ進み、自車両Mの交差点進入時刻TMと交差車両Iの交差点進入時刻TIとの差分の絶対値|TI-TM|と、衝突判定時間Tm2とを比較する。この衝突判定時間Tm2は、自車両Mと交差車両Iとが出会い頭に衝突する可能性がある時間幅(例えば、3~8[sec])であり、予め実験等から求めて設定されている。
【0048】
そして、その差分の絶対値|TI-TM|が衝突判定時間Tm2以内の場合(|TI-TM|≦Tm2)、出会い頭衝突の可能性があると判定し、ステップS12へ進む。又、交差点進入時刻TM,TIの差分の絶対値|TI-TM|が衝突判定時間Tm2を超えている場合(|TI-TM|>Tm2)、自車両Mは交差車両Iと衝突することなく交差点を通過できると判定し、ルーチンを抜ける。
【0049】
図4に示すように、交差点における出会い頭の衝突は、両車両M,Iの交差点進入時刻TM,TIが同時刻の場合ばかりでなく、何れか一方の車両が他方の車両よりもやや速く交差点に飛び出した場合も発生する。
【0050】
次いで、ステップS12へ進むと、自車両M直前の前方に先行車Pが認識されているか否かを調べる。そして、先行車Pが認識(検出)されていない場合はステップS13へ分岐する。又、先行車Pが認識されている場合はステップS14へ進む。ステップS14では、先行車Pが予め設定した車間距離Lm(図4参照)内で認識されているか否かを調べる。
【0051】
この車間距離Lmは、自車両Mが交差点を通過する際に、交差車両Iが先行車Pの交差点通過を認識して、この先行車Pの通過と後続の自車両Mの通過を待たせるための距離で、15~45[m]程度である。先行車Pが存在しているか否か、及び、先行車Pとの車間距離は周囲環境認識ユニット2の周囲環境認識部2bで取得した周囲環境情報に基づいて調べる。尚、自車両Mと先行車Pとの車間距離が、本発明の交差点に進入するタイミングに相当する。
【0052】
そして、車間距離Lm内に先行車Pが検出された場合、ステップS15へ進む。又、車間距離Lmより離れた位置で先行車Pが検出された場合は、先行車Pが存在しない状態と同じであるため、ステップS13へ戻る。
【0053】
ステップS15へ進むと、先行車Pの車速(先行車速)VPと低速判定車速Voとを比較する。先行車Pが低速で走行している場合、交差車両Iは、先行車Pと自車両Mとの間に割り込まれる可能性がある。そのため、VP≦Voの場合は、先行車Pが検出されていても、AEB制御による介入を解除することなく、ステップS19へジャンプする。一方、VP>Voの場合は、自車両Mの通過を待つと予想されるため、AEB制御による介入を不要と判定し、ルーチンを抜ける。従って、結果的に衝突回避動作は解除されたことになる。
【0054】
又、ステップS12或いはステップS14からステップS13へ進むと、対向車線に交差点方向へ接近する対向車Oが存在するか否かを調べる。対向車Oの接近は、周囲環境認識ユニット2の周囲環境認識部2bで取得した車両情報に基づいて判定する。或いは、交差点付近に設けられた路側機との路車間通信により接近する対向車Oを検出するようにしても良い。
【0055】
そして、対向車Oが検出された場合はステップS16へ進む。又、対向車Oが検出されない場合はステップS19へジャンプする。ステップS16へ進むと、交差車両進入フラグFIを参照し、FI=0の、交差車両Iが自車走行路側の交差路から進入する場合は、ステップS19へジャンプする。対向車Oが検出された場合であっても、図5に一点鎖線で示すように、交差車両Iが自車走行路側の交差路から交差点に進入する場合は、自車両Mとの出会い頭の衝突の可能性があるため、AEB制御による介入を解除することなく、ステップS19へジャンプする。
【0056】
又、FI=1の、交差車両Iが対向車線側の交差路から進入する場合はステップS17進む。ステップS17では、対向車Oの交差点進入時刻TOを算出する。この交差点進入時刻TOを算出するには、先ず、対向車Oの現在位置から交差点まで距離LOを、対向車Oの車速(対向車速)VOで除算して、交差点到達時間TLOを算出する(TLO←LO/VO)。そして、この交差点到達時間TLOに現在時刻Tnを加算して交差点進入時刻TOを求める(TO←TLO+Tn)。
【0057】
対向車Oを周囲環境認識ユニット2の周囲環境認識部2bで取得した車両情報に基づいて認識している場合、自車両Mと対向車Oとの相対車速から対向車速VOを算出する。更に、交差点までの距離LOは、道路地図上にマップマッチングした対向車O現在位置から道路地図上に設定されている交差点までの道のり距離を計測して求める。尚、路車間通信によって交差点までの距離LO、及び対向車速VOを取得するようにしても良い。
【0058】
その後、ステップS18へ進み、自車両Mの交差点進入時刻TMと対向車Oの交差点進入時刻TOとの差分(TM-TO)と交差車両待機時間Tm3とを比較する。尚、この差分(TM-TO)が、本発明の交差点に進入するタイミングに相当する。又、TM-TO=0は、自車両Mと対向車Oとが交差点に同時に進入するタイミングである。
【0059】
対向車線側の交差路から交差点に進入しようとする交差車両Iの運転者は、図5に示すように、先ず、対向車Oの接近を認識し、この対向車Oが交差点に到達するまでの時間(タイミング)を目測する。そして、交差車両Iの運転者は、対向車Oが到達する前に交差点に進入できるか、対向車Oの通過を待って交差点に進入するかを判断する。従って、対向車Oが自車両Mよりも先に交差点に進入し、その後、所定時間内に自車両Mが交差点に進入するタイミングでは、交差車両Iが対向車Oの通過を待っているため、自車両Mと交差車両Iとが出会い頭で衝突することはない。従って、交差車両待機時間Tm3は、自車両Mが対向車Oに遅れて交差点に進入しても交差車両Iが飛び出すことのない許容時間であり、予め実験等に基づいて設定されている。
【0060】
そして、対向車Oが自車両Mと同時か、交差車両待機時間Tm3が経過する前に交差点に進入すると判定した場合(0≦TM-TO≦Tm3)、交差車両Iとの出会い頭の衝突はないと推定し、警報・AEB制御の介入は不要と判定して、ルーチンを抜ける。すなわち、このような状況では、交差車両Iは対向車Oが交差点を通過し、且つ、自車両Mが通過するまで待機すると推定できる。或いは、少なくとも自車両Mとの衝突はないと考えられる。従って、結果的に、衝突回避動作は解除されたことになる。
【0061】
一方、対向車Oが交差点に進入した時刻に遅れて自車両Mが交差点に進入し、その遅れ時間が交差車両待機時間Tm3を超えている場合(TM-TO>Tm3)、自車両Mと交差車両Iと出会い頭に衝突する可能性があると判定し、ステップS19へ進む。
【0062】
そして、ステップS13,S15,S16,S18の何れかからステップS19へ進むと、走行制御部1に対して、警報・AEB制御の介入、すなわち、衝突回避動作を指令してルーチンを抜ける。
【0063】
走行制御部1では、AEB動作判定部6eから警報・AEB制御介入の指令を受けると、先ず、警報装置5を駆動させて、運転者に対して出会い頭の衝突の可能性が高い旨を報知する。その後、自車両Mの交差点進入時刻TMと交差車両Iの交差点進入時刻TIとに基づいて衝突予測時刻を算出し、この衝突予測時刻に応じたブレーキアシスト量を求め、運転者による衝突回避操作(主に、ブレーキ操作)では衝突回避が困難と判定した場合、ブレーキ駆動部4を強制的に動作させて、運転者の衝突回避操作をアシストする。これにより、自車両Mと交差車両Iとの出会い頭の衝突を有効に回避することができる。
【0064】
一方、ステップS11で、交差車両Iと出会い頭の衝突の可能性があると判定した場合であっても、自車両M前方の所定車間距離Lm内を先行車Pが走行し(ステップS14)、或いは対向車線を走行する対向車Oが交差点に進入すると判定した場合は(ステップS18)、警報による報知やAEB制御が介入されず、結果的に衝突回避動作が解除される。
【0065】
すなわち、自車両Mが交差点に進入するよりも前に先行車Pや対向車Oが交差点に進入する状況では、交差点に進入しようとする交差車両Iの運転者は先行車Pや対向車Oの通過を待つだろうと考えられるため、自車両Mと出会い頭で衝突する可能性は低いと考えられる。又、先行車Pや対向車Oが交差点に進入する前に、交差車両Iが無理に交差点に進入して右左折、或いは直進しようとした場合には、先行車Pや対向車Oが衝突回避動作を行うと考えられる。
【0066】
このように、本実施形態による走行制御部1は、自車両Mの交差点進入時刻TMと交差車両Iの交差点進入時刻TIとを比較して、出会い頭に衝突する可能性が高い場合には、衝突回避動作を行うようにしたので、出会い頭の衝突を有効に回避することができる。更に、両車両M,Oの出会い頭での衝突の可能性が高いと判定した場合であっても、先行車Pや対向車O等の周囲車両が、自車両Mよりも先に交差点を通過する場合には、衝突回避動作を実行させないようにしたので、運転者に与える煩雑感を軽減させることができる。
【0067】
ところで、周囲環境センサ2aが、超音波レーダ、ミリ波レーダ、ライダの場合、反射パルス(反射光)を受信することで物標を検出する。この反射パルス(反射光)は周囲環境センサ2aに直接受信されるもの以外に、壁面等の障害物に反射されて受信される二次反射がある。この二次反射を周囲環境センサ2aが受信することで入射直前に反射した壁面を透過した方向に、実在しない虚像(ゴースト)である物標が存在すると誤認識される。
【0068】
例えば、周囲環境センサ2aで検出した交差車両Iがゴーストの場合、衝突予測演算部6cは、ゴーストである交差車両Iが自車両Mと交差点で出会い頭に衝突する可能性があると誤判定してしまう。しかし、このような状況であっても、本実施形態では、自車両Mの直前を走行する先行車Pや対向車Oの交差点に進入するタイミングに応じて衝突回避動作を実行するか否かを判定している。
【0069】
そして、先行車Pや対向車Oの存在により自車両Mが交差車両Iと出会い頭に衝突することはないと判定した場合は、自車両Mに対して警報による報知やAEB制御の介入が行われない。従って、交差車両Iがゴーストか否かの判定を行う必要がなく、その分、交差車両衝突回避演算部6における処理負担を軽減させることができる。
【0070】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば、片側二車線以上の道路において、先行車が路側帯側の第1車線を走行しており、自車両が第1車線に隣接する第2車線を走行している場合においても、第1車線を走行する先行車を、自車両Mの直前を走行する先行車Pとして交差車両衝突回避演算部6での制御を適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…走行制御部、
2…周囲環境認識ユニット、
2a…周囲環境センサ、
2b…周囲環境認識部、
3…道路地図データベース、
3a…道路地図情報、
4…ブレーキ駆動部、
5…警報装置、
6…交差車両衝突回避演算部、
6a…自車位置推定部、
6b…交差車両認識部、
6c…衝突予測演算部、
6d…前方車両認識部、
6e…AEB動作判定部、
11…GNSS受信部、
FI…交差車両進入フラグ、
I…交差車両、
LI,LM,LO…距離、
Lm…車間距離、
M…自車両、
O…対向車、
P…先行車、
TLI,TLM,TLO…交差点到達時間、
TM,TI,TO…交差点進入時刻、
Tm2…衝突判定時間、
Tm3…交差車両待機時間、
Tn…現在時刻、
VI…(交差車両の)車速、
VM…自車速、
VO…対向車速、
VP…先行車速、
Vo…低速判定車速
図1
図2
図3
図4
図5