(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】食品のマイクロ波熟成方法およびマイクロ波熟成装置
(51)【国際特許分類】
A23L 5/30 20160101AFI20241120BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20241120BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20241120BHJP
A23F 5/02 20060101ALI20241120BHJP
A23G 1/02 20060101ALI20241120BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20241120BHJP
A21D 15/04 20060101ALI20241120BHJP
C12G 3/022 20190101ALI20241120BHJP
C12G 3/00 20190101ALI20241120BHJP
A23C 9/123 20060101ALI20241120BHJP
A23C 19/00 20060101ALI20241120BHJP
A23L 7/104 20160101ALI20241120BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20241120BHJP
A23L 11/00 20210101ALI20241120BHJP
A23L 11/50 20210101ALI20241120BHJP
A23F 3/00 20060101ALI20241120BHJP
A21D 13/41 20170101ALN20241120BHJP
A21D 10/02 20060101ALN20241120BHJP
A23C 19/14 20060101ALN20241120BHJP
A23L 2/38 20210101ALN20241120BHJP
A23L 15/00 20160101ALN20241120BHJP
【FI】
A23L5/30
A23L13/00 A
A23L17/00 A
A23F5/02
A23G1/02
A23L7/109 B
A21D15/04
C12G3/022 119N
C12G3/00
A23C9/123
A23C19/00
A23L7/104
A23L19/00 A
A23L11/00 A
A23L11/50 107
A23L11/50 108
A23F3/00
A21D13/41
A21D10/02
A23C19/14
A23L2/38 J
A23L15/00 Z
(21)【出願番号】P 2020077650
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019085219
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月15~16日に北九州国際会議場で開催された第12回日本電磁波エネルギー応用学会シンポジウムで発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月28~30日にパシフィコ横浜で開催されたMWE2018マイクロウェーブ展で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年2月19~22日に東京ビッグサイトで開催された第47回国際ホテル・レストラン・ショーで発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年4月17~19日に東京ビッグサイトで開催された第44回食肉産業展2019で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(72)【発明者】
【氏名】曽我 博文
(72)【発明者】
【氏名】國井 勝之
(72)【発明者】
【氏名】香川 英二
(72)【発明者】
【氏名】小川 翼
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/004597(WO,A1)
【文献】特開平08-252082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香り、味、食感のおいしさの要素を構成する成分がバランスよく存在するとともに各成分間の物理的、化学的、生理的相互作用が食品に固有の微妙な風味を形成させるように熟成感を向上させる食品のマイクロ波熟成方法であって、該風味が酵素および/または微生物および/または食塩の働きによって形成される食品を対象とし、マイクロ波の照射は、食品内部の加熱と冷気の送風による食品表面の冷却とを同時に行いながら、
食品の内部温度を25℃以下とするとともに、食品の表面温度よりも内部温度の方を高くし
、かつ、
前記食品が、肉類、魚卵、乳製品、コーヒー豆、カカオ、麺類、パン類、酒類、および発酵食品からなる群より選ばれる食品である場合は、食品の内部温度を5℃以上とし、
前記食品が、野菜類である場合は、食品の内部温度を15℃以上とし、
前記食品が、果物類である場合は、食品の内部温度を20℃以上とすることで、熟成感が向上するまでにかかる時間を短縮することを特徴とする、マイクロ波熟成方法。
【請求項2】
食品の内部温度を5℃以上、食品の表面温度を5℃未満かつ食品の表面温度と内部温度との温度差を3℃以上となるように、マイクロ波の照射および冷気の送風を行う、請求項1に記載のマイクロ波熟成方法。
【請求項3】
前記食品が、真子、チーズ、ヨーグルト、サワークリーム、発酵バター、納豆、テンペ、コーヒー豆、カカオ、塩こうじ、味噌、醤油、みりん、酢、麺生地、パスタ生地、ピザ生地、日本酒、焼酎、ビール、甘酒、ワイン、鰹節、くさや、塩辛、鮒寿司、アンチョビ、サラミ、紅茶、碁石茶、ウーロン茶および発酵茶からなる群より選ばれる、請求項1
または2に記載のマイクロ波熟成方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のマイクロ波熟成方法に用いるための
肉類、魚卵、乳製品、
コーヒー豆、カカオ、野菜類、果物類、麺類、パン類、酒類、および発酵食品からなる群より選ばれる食品用マイクロ波熟成装置であって、
前記食品を収納する熟成室と、
前記熟成室内に照射されるマイクロ波を発振するマイクロ波発振部と、
前記熟成室内の空気を冷却する冷却器と、
制御部とを備え
、
前記制御部は、食品の内部温度が25℃以下となるとともに、前記食品の表面温度よりも内部温度が高くなるように、かつ、
前記食品が肉類、魚卵、乳製品、コーヒー豆、カカオ、麺類、パン類、酒類、および発酵食品からなる群より選ばれる食品である場合は、食品の内部温度を5℃以上となるように、前記食品が野菜類である場合は、食品の内部温度を15℃以上となるように、また、前記食品が果物類である場合は、食品の内部温度を20℃以上となるように、前記マイクロ波発振部の動作を制御する、マイクロ波熟成装置。
【請求項5】
前記熟成室の内壁には、マイクロ波は遮断し、空気は透過させる多数の微小開口が多数設けられている請求項
4に記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項6】
前記熟成室の複数の内壁のそれぞれに、前記微小開口が多数設けられている請求項
5に記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項7】
前記熟成室が、複数の熟成室からなる請求項
4ないし
6のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項8】
前記制御部が、熟成時に、食品の表面温度を5℃未満
になるように前記冷却器および/または送風ファンの動作を自動制御する請求項
4ないし7のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項9】
前記制御部が、熟成時に、食品の表面温度と内部温度との温度差を3℃以上となるように前記マイクロ波発振部、前記冷却器および送風ファンの動作を自動制御する請求項
4ないし
8のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項10】
前記マイクロ波発振部は、熟成時に、マイクロ波を1時間以上照射する請求項
4ないし
9のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項11】
前記制御部は、熟成時に、前記マイクロ波発振部にマイクロ波を一定時間照射することとマイクロ波の照射を一定時間停止することとを繰り返させる請求項
4ないし
10のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項12】
UVランプをさらに備える請求項
4ないし
11のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項13】
前記魚卵、乳製品
、野菜類、果物類、麺類、パン類、酒類、および発酵食品からなる群より選ばれる食品が、真子、チーズ、ヨーグルト、サワークリーム、発酵バター、納豆、テンペ
、塩こうじ、味噌、醤油、みりん、酢、麺生地、パスタ生地、ピザ生地、日本酒、焼酎、ビール、甘酒、ワイン、鰹節、くさや、塩辛、鮒寿司、アンチョビ、サラミ、紅茶、碁石茶、ウーロン茶および発酵茶からなる群より選ばれる、請求項
4ないし
12のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を照射して熟成感が向上するまでにかかる時間を短縮して食品を熟成させるマイクロ波熟成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、牛肉を一定期間熟成させることで牛肉のうま味などを増大させた、いわゆる熟成肉が広く知られるようになり、その需要が増大している。牛肉を熟成させる場合には、本来40℃程度で熟成することがうま味などを引き出す点から好ましいが、菌の増殖による腐敗を抑制するために、通常は、1℃などの低温で熟成が行われている(特許文献1参照)。
【0003】
一方、マイクロ波は、極性基を持つ分子や双極子モーメントの大きな化合物を直接加熱する。例えば、農作物の乾燥・蒸留では、マイクロ波が農産物の内部の水を直接加熱し、細胞壁を内部から破砕することで、乾燥効率や有用成分の抽出の点で優れている。内部から加熱するため、伝導による熱影響が小さい。例えば、生葉の乾燥に用いた場合、内部のビタミンC等の栄養成分の熱分解が少なく、栄養価にとんだ乾燥葉を得ることが可能である。また、植物内部が加熱されるために、成分の抽出が容易で、例えば、藍葉中に含まれる有用成分、トリプタントリンをマイクロ波照射下で溶媒抽出すると迅速に抽出できる(特許文献2)ことが知られている。
また、マイクロ波照射装置として、釜の内部構造を対象物の性状、量にあわせて変更可能とし、撹拌機能を有することで多用途に用いることができるマイクロ波照射装置(特許文献3)が知られており、さらに、互いに向かい合わない複数方向からマイクロ波を照射し、回転反射盤を使用することで、マイクロ波の干渉を抑制し、高い均熱性を確保したマイクロ波照射装置(特許文献4)では、被照射物の温度を測定することが可能な複数のセンサの検出値に基づき、3個の照射部から照射されるマイクロ波の出力を制御することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-123057号公報
【文献】特開2009-149596号公報
【文献】特開2014-196896号公報
【文献】国際公開第2015/199005号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
牛肉の熟成に限らず熟成対象の食材は広がりを見せており、食品の熟成市場が拡大するにつれて、各種食品に対して広く適用できるきわめて有用な食品の熟成方法が求められている。従来、通常、熟成風味は、原材料を混合し加熱工程を経た後、一定時間放置すること、すなわち熟成期間を経ることにより得られるものである。熟成期間を経ることによって、例えば酢カドや塩カドなどのカドばった味や臭いをまろやかにしてコクや香ばしさが引き立てられた状態の風味である好ましい熟成風味の飲食品が得られるものである。従来技術では、熟成が完成するまでに長時間(長い場合には90~180日)を要してしまうという問題があった。また、熟成期間が長くなるほど、低温でも菌による腐敗が表面から進み、その分、表面をそぎ落とすトリミングの量が多くなり、歩留まりが悪くなるという問題があった。熟成が完成するまでにかかる時間を短縮する。
【0006】
本発明は、香り、味、食感の総合されたものがその食品固有の風味であり、おいしさに対してこれらの要素がその食品に固有の割合で役割を持ち、さらにこれらの要素を構成する成分がバランスよく存在するとともに各成分間の物理的、化学的、生理的相互作用が食品の微妙な風味を形成させるように熟成感を向上させ、かつ、熟成にかかる時間を短縮することができ、歩留まりの改善を図ることができるマイクロ波熟成方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、マイクロ波熟成方法によって、長期の熟成期間を経なくとも、熟成感を向上させて各食品に固有の全体としてまとまりのある風味の飲食品にすることを目的とする。さらにまた、マイクロ波熟成装置を採用した熟成操作によって、うま味成分を十分に醸成できる熟成方法を提供することを目的とする。
【0007】
食品中の蛋白、脂肪、炭水化物等が酵素、菌類、塩類等の作用によって腐敗することなく適度に分解して、風味を構成する香り、味、食感および色調、化学成分等が変化する食品の熟成方法を、魚卵、発酵食品、醸造製品、菓子類のほか、チーズなどの乳製品、コーヒー豆などの豆類、野菜類、果実類、麺類、パン類等の処理方法として各種食品において広範に適用することを目的とする。より具体的には、例えば、清酒、ワイン等の醸造酒を含む醗酵食品について、品質を損なうことなく短期に熟成を完了する熟成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)ないし(3)のマイクロ波熟成方法を要旨とする。
(1)香り、味、食感のおいしさの要素を構成する成分がバランスよく存在するとともに各成分間の物理的、化学的、生理的相互作用が食品に固有の微妙な風味を形成させるように熟成感を向上させる食品のマイクロ波熟成方法であって、該風味が酵素および/または微生物および/または食塩の働きによって形成される食品を対象とし、マイクロ波の照射は、食品内部の加熱と冷気の送風による食品表面の冷却とを同時に行いながら、食品の内部温度を25℃以下とするとともに、食品の表面温度よりも内部温度の方を高くし、かつ、前記食品が、肉類、魚卵、乳製品、コーヒー豆、カカオ、麺類、パン類、酒類、および発酵食品からなる群より選ばれる食品である場合は、食品の内部温度を5℃以上とし、前記食品が、野菜類である場合は、食品の内部温度を15℃以上とし、前記食品が、果物類である場合は、食品の内部温度を20℃以上とすることで、熟成感が向上するまでにかかる時間を短縮することを特徴とする、マイクロ波熟成方法。
(2)食品の内部温度を5℃以上、食品の表面温度を5℃未満かつ食品の表面温度と内部温度との温度差を3℃以上となるように、マイクロ波の照射および冷気の送風を行う、上記(1)に記載のマイクロ波熟成方法。
(3)前記食品が、真子、チーズ、ヨーグルト、サワークリーム、発酵バター、納豆、テンペ、コーヒー豆、カカオ、塩こうじ、味噌、醤油、みりん、酢、麺生地、パスタ生地、ピザ生地、日本酒、焼酎、ビール、甘酒、ワイン、鰹節、くさや、塩辛、鮒寿司、アンチョビ、サラミ、紅茶、碁石茶、ウーロン茶および発酵茶からなる群より選ばれる、上記(1)または(2)に記載のマイクロ波熟成方法。
【0009】
また、本発明は、以下の(4)ないし(13)の魚卵、乳製品、コーヒー豆、カカオ、野菜類、果物類、麺類、パン類、酒類、および発酵食品からなる群より選ばれる食品用マイクロ波熟成装置を要旨とする。
(4)上記(1)または(2)に記載のマイクロ波熟成方法に用いるための肉類、魚卵、乳製品、コーヒー豆、カカオ、野菜類、果物類、麺類、パン類、酒類、および発酵食品からなる群より選ばれる食品用マイクロ波熟成装置であって、前記食品を収納する熟成室と、前記熟成室内に照射されるマイクロ波を発振するマイクロ波発振部と、前記熟成室内の空気を冷却する冷却器と、制御部とを備え、前記制御部は、食品の内部温度が25℃以下となるとともに、前記食品の表面温度よりも内部温度が高くなるように、かつ、前記食品が肉類、魚卵、乳製品、コーヒー豆、カカオ、麺類、パン類、酒類、および発酵食品からなる群より選ばれる食品である場合は、食品の内部温度を5℃以上となるように、前記食品が野菜類である場合は、食品の内部温度を15℃以上となるように、また、前記食品が果物類である場合は、食品の内部温度を20℃以上となるように、前記マイクロ波発振部の動作を制御する、マイクロ波熟成装置。
(5)前記熟成室の内壁には、マイクロ波は遮断し、空気は透過させる多数の微小開口が多数設けられている上記(4)記載のマイクロ波熟成装置。
(6)前記熟成室の複数の内壁のそれぞれに、前記微小開口が多数設けられている上記(5)に記載のマイクロ波熟成装置。
(7)前記熟成室が、複数の熟成室からなる上記(4)ないし(6)のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
(8)前記制御部が、熟成時に、食品の表面温度を5℃未満になるように前記冷却器および/または前記送風ファンの動作を自動制御する上記(4)ないし(7)のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
(9)前記制御部が、熟成時に、食品の表面温度と内部温度との温度差を3℃以上となるように前記マイクロ波発振部、前記冷却器および前記送風ファンの動作を自動制御する上記(4)ないし(8)のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
(10)前記マイクロ波発振部は、熟成時に、マイクロ波を1時間以上照射する上記(4)ないし(9)のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
(11)前記制御部は、熟成時に、前記マイクロ波発振部にマイクロ波を一定時間照射することとマイクロ波の照射を一定時間停止することとを繰り返させる上記(4)ないし(10)のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
(12)UVランプをさらに備える上記(4)ないし(11)のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
(13)前記魚卵、乳製品、野菜類、果物類、麺類、パン類、酒類、および発酵食品からなる群より選ばれる食品が、真子、チーズ、ヨーグルト、サワークリーム、発酵バター、納豆、テンペ、塩こうじ、味噌、醤油、みりん、酢、麺生地、パスタ生地、ピザ生地、日本酒、焼酎、ビール、甘酒、ワイン、鰹節、くさや、塩辛、鮒寿司、アンチョビ、サラミ、紅茶、碁石茶、ウーロン茶および発酵茶からなる群より選ばれる、上記(4)ないし(12)のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【発明の効果】
【0010】
香り、味、食感の総合されたものがその食品固有の風味であり、おいしさに対してこれらの要素がその食品に固有の割合で役割を持ち、さらにこれらの要素を構成する成分がバランスよく存在するとともに各成分間の物理的、化学的、生理的相互作用が食品の微妙な風味を形成させるように熟成感を向上させることのできる食品を対象とし、食品の熟成方法の熟成期間を短縮することができる。
本発明によれば、長期の熟成期間を経なくとも、長期熟成によって得られる熟成風味を有する、全体としてまとまりのある風味の飲食品を調製することができる。熟成中に、食品の表面温度よりも内部温度を高くすることができるため、熟成期間を短縮することができるとともに、食品表面における菌の増殖を抑制し、トリミングの量を低減することができる。このように、短時間で低コストに飲食品の風味を向上することができることは本発明の優れた点である。
食品中の蛋白、脂肪、炭水化物等が酵素、菌類、塩類等の作用によって腐敗することなく適度に分解して、香り、味、食感、色調、化学成分等が変化する食品の熟成方法を、発酵食品、醸造製品、菓子類のほか、肉、魚、果実等の処理方法として各種食品において広範に適用することができる。例えば、みそ、醤油、酒など醸造食品において風味に寄与している呈味性ある低分子ペプチドおよびアミノ酸類によって飲食品の風味向上をチェックして飲食品の熟成感を向上させたことを確認することができる。また、漬物類や塩蔵品などは本来要素の食塩を使用するが、食品の熟成を促進することで、塩蔵品や漬物の塩辛味をやわらげ、味の濃さや深み、丸みのある風味を出すなど食品に対する風味改良効果を引き出すことができ、それは官能検査で確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。
【
図2】第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。
【
図3】第3実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。
【
図4】第3実施形態に係るキャビティの構成図である。
【
図5】参考例1における、マイクロ波を連続照射した場合における、熟成日数ごとのアミノ酸含量の測定結果を示す表である。
【
図7】参考例2における、熟成条件ごとのアミノ酸含量の測定結果を示す表である。
【
図9】参考例3における、熟成条件ごとのグルタミン酸含量の測定結果を示すグラフである。
【
図10】参考例4における官能試験の試験条件を説明するための図である。
【
図11】参考例4における官能試験の試験結果を示すグラフである。
【
図12】実施例1における焼成前のピザ生地の伸長抵抗力の測定結果を示す図である。
【
図13】実施例2における焼成後のピザ生地の応力の一次微分値の測定結果を示す図である。
【
図14】実施例6における甘酒の官能試験の試験結果を示すグラフである。
【
図15】実施例7におけるヨーグルト飲料の官能試験の試験結果を示すグラフである。
【
図16】実施例9における塩こうじの熟成後の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[熟成対象食品]
本発明は、香り、味、食感の総合されたものがその食品固有の風味であり、おいしさに対してこれらの要素がその食品に固有の割合で役割を持ち、さらにこれらの要素を構成する成分がバランスよく存在するとともに各成分間の物理的、化学的、生理的相互作用が食品の微妙な風味を形成させるように熟成感を向上させることができる食品を対象とする。
【0013】
具体的には、風味が酵素および/または微生物および/または食塩の働きによって形成される食品、より具体的には魚卵、チーズなどの乳製品、コーヒー豆などの豆類、野菜類、果物類、麺類、パン類、ワインなどの酒類、および発酵食品(味噌や醤油などの発酵調味料を含む)からなる群より選ばれる食品を対象とする。
【0014】
好ましくはカラスミなどの真子、チーズ、ヨーグルト、サワークリーム、発酵バター、納豆、テンペ、コーヒー豆、カカオ、塩こうじ、味噌、醤油、みりん、酢、麺生地、パスタ生地、ピザ生地、日本酒、焼酎、ビール、甘酒、ワイン、鰹節、くさや、塩辛、鮒寿司、アンチョビ、サラミ、紅茶、碁石茶(登録商標)、ウーロン茶、発酵茶が例示される。上記に掲げるリストは、単に、本発明が広い分野で応用できることの説明に過ぎないもので、本発明の適用を、ここに掲げた食品に限定するものではない。
すなわち、本発明は、マイクロ波の照射による食品内部の加熱と冷気の送風による食品表面の冷却とを同時に行いながら、食品の表面温度よりも内部温度の方を高くして行うことを特徴としており、各種食品の大規模熟成に広く適用することができるが、食品表面を冷却する点ですぐれており、獣肉をはじめ鳥肉、魚類、貝類、エビ、カニ類といった魚介類、ハム、ソーセージ、竹輪、かまぼこといった練り製品、鳥獣肉、魚介類、野菜類の塩蔵品、素干、煮干、塩干、焼干、調味干といった干物類、および生干類、漬物類、和洋生菓子、生ケーキ類、果実、野菜類、各種発酵食品、醸造製品等に好適である。
さらに、味噌、醤油、みりん、酢、塩、砂糖などの原料を適宜混合し、必要に応じて加熱後、時間をおいて風味を熟成させるような和風調味料、水産加工品、畜産加工品、調理食品など熟成感の向上や改善などが望まれる食品であればいずれもが対象となり、短時間で長期熟成した時に得られるような好ましい味や香りの飲食品にすることが可能である。本発明の熟成方法は、長期を必要とする熟成風味向上ができるだけ短期間で求められる飲食品の大量生産に有利に適用可能である。
【0015】
そのような食品における、香り、味、食感のおいしさの要素を構成する成分がバランスよく存在するとともに各成分間の物理的、化学的、生理的相互作用が食品に固有の微妙な風味を形成させるように熟成感を向上させる食品のマイクロ波熟成方法であって、該風味が酵素および/または微生物および/または食塩の働きによって形成される食品を対象とし、マイクロ波の照射による食品内部の加熱と冷気の送風による食品表面の冷却とを同時に行いながら、食品の表面温度よりも内部温度の方を高くして行うことを特徴とする。
【0016】
[熟成のメカニズム等]
風味が酵素および/または微生物および/または食塩の働きによって形成される食品とは、風味を構成する香り、味、食感およびさらに色調、化学成分等が変化する食品であり、微生物の働きで美味しくなった食べ物である発酵食品とか、発酵作用を利用してアルコール飲料(酒類)やその他の食品(主に液状の調味料)を製造する醸造製品とかがある。
一般に、発酵食品(醸造食品)は、醗酵後一定期間の熟成をさせた後、製品として出荷される。発酵食品とか醸造食品にはたくさんの食品があり、日本酒、焼酎、醤油、味噌などが例示される。醸造食品の種類によって異なる麹菌を使うこともよく知られている。日本酒にはデンプンを糖にする酵素が強い麹菌、味噌にはタンパク質を分解して旨味となるアミノ酸を作る酵素の強い麹菌が使われる。すなわち、日本酒では、黄麹菌(Aspergillus oryzae)の胞子を種麹として、蒸した米にふりかけ約2日間培養することで酵素が生産される。麹菌の繁殖に応じて繊細なコントロールが要求される、酒造りにおいて重要な工程である。モロミの発酵工程では、麹に貯えられた酵素の力で米のデンプンを分解し、アルコール発酵に必要なブドウ糖を供給する。同時に、米のタンパク質も酵素によってアミノ酸へと分解され、酒の風味を形成する。また、乳酸菌が乳酸を作って酵母の生育を助ける。
例えば、清酒、ワイン等の醸造酒においては醗酵終了後、低温熟成タンク内に貯蔵し、6ヶ月程度の熟成を行なった後、風味、アルコール度数等の調整を行い出荷している。このような醸造(醗酵)食品において、低温で貯蔵するのは、成分の酸化等により、風味の劣化、着色等の品質劣化が生じるためである。日本酒の劣化臭のことを老香(ひねか)と言いうが、この老香が発生する原因は酒に含まれる酵素が影響しており、貯蔵中や瓶詰め後高温で保存することによって顕著に現われる香りを言う。老香は、熟成が変に進み過ぎてしまったような香りであり、古酒などに感じられる「熟成香」に近い香りであり、心地良くないと判断されれば「老香」、心地良いと判断されれば「熟成香」になる。こうした嗜好品における評価に境界があるとは言えない。
【0017】
一種類の微生物の働きによってできる食べ物としては、パンや、ビール、納豆などがあり、味噌や醤油は、日本酒と同じで、カビ、酵母、細菌の共同作業でできあがる。ヨーグルトは乳酸菌や酵母が働いて牛乳から作られる。チーズも乳酸菌が働くが、ブルーチーズやカマンベールチーズは、カビによって風味や食感の違うチーズになっている。昔はチーズを固める酵素(レンネット)を牛から取っていたが、現在ではその酵素はケカビというカビから作っている。それから、パンが膨らむのは酵母と小麦に含まれるタンパク質の働きである。キノコも微生物であり、食品としてそのまま食べている。
【0018】
熟成野菜、熟成果物について、まず、野菜の熟成方法に、干す、オイル漬け、寝かせる、塩漬けなどがある。塩漬けで熟成させるには、使う野菜を切る、容器に野菜を詰める、塩分(塩分濃度5%を容器の半分ほど入れる、容器を密封して1週間ほど常温で寝かせるというのが基本的な操作である。漬物やザワークラウトと同じ手順である。
従来、漬物は、野菜などを食塩、醸造酢、砂糖、味醂、醤油、調味料などを混合した調味剤と共に漬込むなどの方法によって製造されている。いわゆる浅漬の漬物の製造方法であり、浅漬は簡易な製造方法で短期間に得られ、野菜の鮮度、色、形などが生かせ、新鮮味を有している。一方、野菜類の漬物として、酸味や風味が豊かな古漬やぬか漬は、微生物による発酵などによって、長期間にわたって漬込みを行なう方法によって熟成感を深め、手間をかけて製造されている。浅漬においては、古漬やぬか漬のような熟成感を得ることは難しいとされている。同様に、賞味期間が短く、漬け込み時間の短い調味梅干などでも、熟成感を得ることは難しい。短期間に、しかも簡便な方法で漬物の熟成感を増強する方法として、発酵食品の熟成感を増強できる本発明のマイクロ波熟成方法がある。いわゆる浅漬けであっても、古漬やぬか漬の風味を有する漬物を短時間で製造できる。また、最近では、黒にんにくと呼ばれる、にんにくを熟成発酵させた食品が知られるが、にんにくは発酵が始まると、生にんにく中の硫黄成分が化学反応により亜硫酸ガスが発生するため、にんにくを熟成発酵するためには、臭いはクリアしなければならない大きな問題点である。本発明は、黒にんにくの製造にも適用できる。
次に、果物について、収穫後に行う果物の追熟や熟成は、果物の美味しさを損なうこととも紙一重の操作であり、少し間違えれば腐敗してしまう可能性があり、いずれの食品における熟成も温度や湿度、酸素、時間の管理が非常に微妙で難しいため日々研究、改良がなされている。追熟とは収穫した果実をさらに成熟させることを指し、果物のなかにも追熟しなければ美味しくないものはたくさんある。追熟は科学的にも説明できる行為で、特定の性質を持つ果物において行われる。メロン、キウイフルーツ、西洋梨、すもも、バナナは追熟する果物である。この種の果実は樹上で果実が出来上がった時点で中の種子は成熟状態にあり、周りの果肉にも十分な栄養が行渡っているが、それを蓄えた状態にして果肉自体は成熟しないように成長をストップさせている。その後適当な時間をおいて果肉に蓄えられたデンプンが分解されグルコースやフルクトース(甘みが感じられる)となり、細胞壁を繋げているペクチンが分解され果肉がやわらかくなる。加えて芳香成分が放出され、はじめて甘くてやわらかく香り高い果物となる。追熟させない果物に対して追熟同様の操作を行うことで、その果物をより美味しく食することができる。
【0019】
また、食品の熟成に乾燥工程を経るものも少なくない。従来から、鮭を始めとする魚類を塩水に漬け込んだ塩水漬け食品が市場に提供されている。この塩水への漬け込みは、腐敗の進行を防止しつつ品質の劣化を防止して、品質の向上を図るためである。常温下および低温下での塩水への漬け込みは、塩分による腐敗の進行は防止できるとしても限界があり、長時間の塩水への漬け込み、熟成ができない。そこで、従来、食品を0℃から氷結点までの氷温度領域で未凍結状態に保持させて、熟成する熟成方法が採用されている。この食品の熟成方法によれば、食品の腐敗の進行を防止しながら熟成を行うことができる。本発明は、マイクロ波熟成装置における冷風乾燥の乾燥処理速度が早く、工業的乾燥に適していると言う特性を活かしながら、乾燥の進行に伴なって「うま味成分」が十分に醸成されないと言う問題点を改善するものである。乾燥によってうま味成分を多量に含む表面層を増すことができるが、自然の冷風乾燥の場合は長時間を必要とするという欠点を大幅に改善することができる。肉類、生ケーキ類、魚介類といった腐敗しやすい食品も、腐敗せしめることなくきわめて衛生的に熟成することができ、食品衛生上も本発明方法は非常にすぐれている。
本発明の方法によれば、この冷風が食品を濡らしたり加湿したりすることがないので、食品の外観、品質が損われることがなく、物理的にも生物的にもクリーンな状態で食品は熟成される。本発明の熟成方法は、どのような食品に対しても適用できることが1つの大きな特徴となっている。
【0020】
本発明のマイクロ波熟成方法に用いるための魚卵、乳製品、豆類、野菜類、果物類、麺類、パン類、酒類、および発酵食品からなる群より選ばれる食品用マイクロ波熟成装置について図面を見ながら説明する。
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1は、ドライエイジングおよびウェットエイジングが可能な装置であり、
図1に示すように、冷却部10、マイクロ波発振部20、マイクロ波熟成部30、制御部40、およびUVランプ50を備える。マイクロ波熟成装置1は、冷却部10の内部にマイクロ波熟成部30、制御部40、およびUVランプ50を内蔵している。本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1において、熟成の対象となる食品は、魚卵、乳製品、豆類、野菜類、果物類、麺類、パン類、酒類、および発酵食品からなる群より選ばれる食品である。
【0021】
冷却部10は、冷却部10の内部空間を冷気により冷却する装置である。冷却部10は、
図1に示すように、冷却器11、第1ファン12、冷却室13、および不図示の冷却室扉14を有している。本実施形態では、冷却器11が外部との熱交換を行うことで冷気を発生させ、発生した冷気を第1ファン12により冷却部10の内部の冷却室13内に送風する。これにより、冷却室13内を低温とすることがきできる。なお、後述するように、熟成させる食品の表面温度が内部温度よりも低くなるように、制御部40により、マイクロ波発振部20等の動作や冷却室13内の温度が適宜制御されている。また、ユーザは、冷却室扉14を開くことで、冷却室13内に設置されているマイクロ波熟成部30に、熟成させる食品を出し入れすることができる。
【0022】
マイクロ波発振部20は、食品Mに照射するためのマイクロ波を発振する。マイクロ波発振部20として、マグネトロンを使用した発振器を用いることもできるが、本実施形態では、マグネトロンと比べて高い周波数および出力安定度が得られる、半導体素子を用いたソリッドステート方式の発振器を用いる。マイクロ波発振部20は、周波数を2.4~2.5GHzの間で連続的に変化させて、マイクロ波を発振する。マイクロ波発振部20で発振されたマイクロ波は、ケーブル21を介して、マイクロ波熟成部30の照射口31から照射される。なお、マイクロ波の周波数を2.4~2.5GHzの間で連続的に変化させることでマイクロ波熟成部30での電磁界の分布が均一化されるため、食品Mにも均一な分布でマイクロ波が照射され、食品Mの均一加熱(均一熟成)を促進することができる。
【0023】
マイクロ波熟成部30は、
図1に示すように、照射口31、第2ファン32、熟成室33、および不図示の熟成室扉34を備える。ユーザは、熟成室扉34を開けることで、熟成を行う食品Mを熟成室33に出し入れすることができる。
【0024】
熟成室33は、内面(内壁)の全ての面にマイクロ波を反射するための反射板が設置されたキャビティである。熟成室33の上部内面には、マイクロ波発振部20により発振されたマイクロ波を、熟成室33内に照射する照射口31が設置されている。本実施形態においては、照射口31に、小型で利得が高いパッチアンテナ(平面アンテナ)が取り付けられ、これによりマイクロ波発振部20により発振されたマイクロ波が熟成室33内に照射される。熟成室33には、テフロン(登録商標)やポリプロピレンなどのマイクロ波透過性材により構成された任意の形状の棚を設置してもよい。またステンレスなどの金属材料を使用する場合は、間隔が20mm以上の格子状の棚や、直径20mm以上の開口部を持つパンチングメタル形状の棚を設置しても良い。
【0025】
第2ファン32は、冷却室13内の冷気を熟成室33に送風する。第2ファン32は、ドライエイジングに適した風量(たとえば0.5~10.0m/秒)で送風を行うことができるものを採用することができる。なお、ウェットエイジングでは、第2ファン32を停止させることも可能である。本実施形態では、
図1に示すように、第2ファン32が熟成室33の外側に取り付けられており、第2ファン32が取り付けられた熟成室33の側壁には、第1微小開口35が設けられている。第1微小開口35は、マイクロ波の波長よりも短い大きさで開口されており、たとえば本実施形態では、第1微小開口35の大きさを直径10mm以下としている。第1微小開口35により、熟成室33内に照射されたマイクロ波は遮断され、第2ファン32により送風された冷気のみが通過される。また、第1微小開口35と対向する熟成室33の側壁には、第1微小開口35と同様の径の、第2微小開口36が設けられている。第2微小開口36により、熟成室33に照射されたマイクロ波は遮断されるが、食品Mとの熱交換により温められた熟成室33内の空気が、第2微小開口36を通過して、冷却室13内へと排出される。第1微小開口35および第2微小開口36を、1または複数の側壁の大部分を占める面積に設け、通気性を高めてもよい。また、熟成室33を第1微小開口35および第2微小開口36が予め形成されたパンチングメタルを用いて構成することもでき、このようなパンチングメタルとして、φ10mmのステンレス板を用いることもできる。
【0026】
制御部40には、熟成させる食品Mの表面温度および内部温度がそれぞれ所定の温度となるように温度制御を行うプログラムが組み込まれている。具体的には、制御部40は、マイクロ波発振部20、冷却器11、第1ファン12、第2ファン32の動作を制御することで、マイクロ波発振部20によるマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32の風量を制御して温度制御を行う。たとえば、制御部40は、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力を高くすることで食品Mの内部温度を高くすることができ、また、冷却器11による冷気の温度を低くし、あるいは、第1ファン12および第2ファン32の風量を高くすることで食品Mの表面温度を低くすることができる。
【0027】
また、制御部40は、マイクロ波発振部20によるマイクロ波の発振を制御することができる。たとえば、制御部40は、マイクロ波発振部20を一定の出力値および一定の周波数に固定して発振させる固定照射に加えて、短い周期(たとえば数ミリ秒周期)でマイクロ波発振部20に発振と停止とを繰り返させる間欠照射や、マイクロ波発振部20の周波数を経時的に変化させる掃引照射や、マイクロ波発振部20の出力値を経時的に変化させる連続照射を行わせることができる。また、制御部40は、マイクロ波の照射のON-OFFを一定時間(たとえば数時間)ごとに切り替えるように(間欠照射の場合は、間欠照射を行う期間と間欠照射を行わない期間とを一定時間ごとに切り替えるように)、マイクロ波発振部20を制御する構成とすることもできる。たとえば、制御部40は、マイクロ波を3時間照射した後、マイクロ波の照射を3時間停止し、同様に、マイクロ波の照射と停止とを3時間ごとに、たとえば熟成期間である7日間ずっと繰り返すように、マイクロ波発振部20を制御することができる。
【0028】
また、制御部40は、食品Mの内部温度や表面温度を測定する温度センサ(例えば、マイクロ波環境下においても接触式で温度計測が可能な蛍光式光ファイバー温度計(安立計器株式会社製)や、非接触により赤外線や可視光線の強度を測定する放射型温度センサ)と接続し、温度センサの計測結果に基づいて、適宜温度制御を行う構成とすることもできる。
さらに、制御部40は、予め試験により、食品Mの重量および水分量と、食品Mの表面温度および内部温度を所定の温度とするための、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32の風量との関係を記憶しておき、熟成室33内に設置された重量計や非接触式の水分計から得た食品Mの重量や水分量に応じて、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32の風量を制御する構成とすることもできる。この場合、制御部40は、操作ボタンやタッチパネル等の入力装置を備えており、食品の種類(たとえば、魚卵、乳製品、豆類、野菜類、果物類、麺類、パン類、酒類、および発酵食品など)や大きさなどの熟成対象食品情報を入力することで食品の表面温度が内部温度よりも高くなるような制御を自動で行うことが開示される。
【0029】
ここで、マイクロ波は誘電加熱により食品内部まで加熱するため、マイクロ波熟成部30でマイクロ波を照射した場合、食品Mの表面に加えて食品Mの内部まで加熱することができる。食品Mの内部を温めることで食品Mの熟成を促進することができるが、食品Mの表面を温めることは食品Mの表面に付着した菌の増殖を促すこととなる。これに対して、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、冷却機構、すなわち、冷却部10および第2ファン32の動作により食品Mの表面を冷却することで、食品Mの表面に付着した菌の増殖を抑制することができる。
【0030】
特に、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、加熱機構(マイクロ波発振部20およびマイクロ波熟成部30)による食品Mの加熱と、冷却機構(冷却部10および第2ファン32)による食品Mの表面の冷却とを同時に行い、かつ、制御部40の制御により、食品Mの内部温度が表面温度よりも高くなるように、加熱機構および冷却機構の動作が制御されている。より具体的には、制御部40は、食品Mの内部温度が5℃以上、かつ、食品Mの表面温度が5℃未満となるように、温度制御を行い、より好適には、食品Mの内部温度と表面温度との差が3℃以上となるように、マイクロ波発振部20の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32による風量を制御する。これにより、マイクロ波熟成装置1では、食品Mの熟成時に、食品Mの熟成を促進することができるとともに、食品Mの表面の菌の増殖を抑制することができる。食品Mを熟成している間中、マイクロ波を連続して照射する必要はなく、少なくとも1時間以上(好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上)、マイクロ波の照射が行なわれる構成とすることができる。
【0031】
UVランプ50は、紫外線を発生させる装置である。本実施形態では、冷却室13や熟成室33を循環する冷気に紫外線を照射することで、冷気中に浮遊する菌を殺菌することができ、食品Mの表面や冷却室13や熟成室33に存在する菌の増殖をより抑制することができる。また、熟成室33の一部(少なくともUVランプ50側の一部)の壁部において紫外線が通過する構成としたり、UVランプ50を熟成室33に直接設置したりすることもでき、その場合は、食品Mの熟成中に、UVランプ50で発生させた紫外線を、熟成室33内に置かれた食品Mの表面に照射することができる。このように、熟成中に、紫外線を食品Mの表面に直接照射することで、食品Mの表面に存在する菌の増殖をより抑制することができる。なお、制御部40は、UVランプ50の動作も制御することができる。たとえば、制御部40は、熟成を開始したタイミングまたは熟成室扉34を(開けた後に)閉じたタイミングから、一定時間(たとえば数時間)、UVランプ50に紫外線を照射させるように制御を行うことができる。
【0032】
以上のように、本実施形態に係るマイクロ波熟成方法では、マイクロ波発振部20から照射されたマイクロ波による食品内部の加熱と、冷却部10および第2ファン32による食品表面の冷却とを同時に行うことで、食品Mの表面に存在する菌の増殖を抑制しながら、食品Mの熟成を促進することができる。すなわち、従来では、食品Mを低温下(たとえば1℃)において熟成させることで、食品Mの表面に存在する菌の増殖を抑制しながら熟成を行っていたが、マイクロ波を照射していないため、食品Mの内部温度も表面温度と同じ温度となり、熟成に時間がかかってしまう(たとえば30日~180日程度)という問題があった、また、低温でも菌による腐敗が表面から進むため、熟成に時間がかかるとその分、表面をそぎ落とすトリミングの量が多くなり、歩留まりが悪くなるという問題があった。しかしながら、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、食品Mにマイクロ波を照射しながら熟成することで、食品Mの内部を表面と同じく均一に加熱することができるため、マイクロ波発振部20による食品内部の加熱と、冷却部10および第2ファン32による食品表面の冷却とを同時に行うことで、食品Mの表面温度を低くしたまま、食品Mの内部温度だけを高くすることができる。これにより、従来と比べて、食品Mの表面に存在する菌の増殖を抑制することができるとともに、食品の熟成を促進することができる。
【0033】
また、本実施形態に係るマイクロ波熟成方法によれば、肉類や魚介類に限らず、魚卵、乳製品、豆類、野菜類、果物類、麺類、パン類、酒類、および発酵食品においても、香り、味、食感のおいしさの要素を構成する成分がバランスよく存在するとともに各成分間の物理的、化学的、生理的相互作用が食品に固有の微妙な風味を形成させるように熟成感を向上させることができ、熟成感が向上するまでにかかる時間を短縮することができる。
【0034】
≪第2実施形態≫
続いて、第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置1aについて説明する。
図2は、第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置1aの一例を示す構成図である。第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置1aでは、
図2に示すように、熟成室33の熟成室扉34がチョーク構造を有し、外部から開閉可能となっていること以外は、第1実施形態に係るマイクロ波熟成装置1と同様である。第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、説明を割愛する。
【0035】
図2に示すように、第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置1aでは、熟成室33の熟成室扉34が直接外部から開閉できるようになっている。また、第2実施形態では、マイクロ波が外部に漏洩することを防止するために、熟成室33の熟成室扉34は、チョーク構造を有している。なお、チョーク構造は公知の構造とすることができる。
【0036】
このように、第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置1aでは、外部から直接、熟成室33内に食品Mの出し入れを行うことができる。また、第2実施形態では、熟成室扉34にチョーク構造を備えることで、外部へのマイクロ波の漏洩を有効に防止することができる。
【0037】
≪第3実施形態≫
続いて、第3実施形態に係るマイクロ波熟成装置1bについて説明する。
図3は、第3実施形態に係るマイクロ波熟成装置1bの一例を示す斜視図であり、
図4は、第3実施形態に係るマイクロ波熟成部30aの一例を示す斜視図である。
図3に示すように、冷却部10は2つの冷却室13を有し、各冷却室13内にはマイクロ波熟成部30a(熟成室33)がそれぞれ設置されている。
【0038】
マイクロ波熟成部30aは、
図4(A)に示すように、網皿37により熟成室33が上下に分かれた二段構造となっており、食品Mを上下それぞれ載置することができる。また、第3実施形態に係るマイクロ波熟成部30aでは、
図4(B)に示すように、各段の背面に第2ファン32が取り付けられており、第2ファン32の動作により冷却室13内の冷気が熟成室33内に送風される。また、マイクロ波熟成部30aの両側面の大部分には微小開口36が開けられており、冷却室13から熟成室33の内部に送風され食品Mと熱交換を行った空気が、微小開口36から冷却室13へと排出されることで、食品Mの表面温度を効率良く低くすることができる。
【0039】
また、第3実施形態において、マイクロ波熟成部30aの前面は開口となっており、開口の縁部には、チョーク構造38が形成されている。
図3に示すように、冷却室13の冷却室扉は、熟成室33の熟成室扉34と兼用されており、チョーク構造38によりマイクロ波が外部に漏洩することを有効に防止することができる。扉面をパンチングメタル板と透明な板の2重構造とする事で、マイクロ波の漏洩防止と断熱機能を有したまま、熟成室33内部の食品Mの熟成進行度等を、扉を開けずに確認できる構造にしても良い。透明な板の材質は特に制限はなく、例えばガラスやポリカーボネイト樹脂等が良い。また、透明な板を空気層ができるように、2枚重ねた構造にすることで断熱機能が向上した構造とすることができる。
【0040】
第3実施形態においては、マイクロ波熟成部30aの上面に、照射口31と照明部39とが配置されている。照射口31は、第1実施形態と同様に、熟成室33内にマイクロ波を照射する。また、照明部39は、熟成室33内を照明するLED光源を有し、たとえば熟成室扉34が開かれた場合に、熟成室33内を照明する。
【0041】
以上のように、第3実施形態に係るマイクロ波熟成装置1bは、冷却室13および熟成室33をそれぞれ2つずつ有するため、一度に熟成できる食品Mの量を多くすることができる。また、熟成室33は上下二段に分かれており、各段について第2ファン32を備えることで、熟成させる食品Mの量が多い場合でも、食品Mの表面温度を適切に低くすることができる。さらに、第3実施形態では、市販の冷蔵庫を冷却部10として利用することができるため、製造コストを低減することもできる。
【0042】
≪参考例≫
発明者は、本発明に係るマイクロ波熟成装置による食品の熟成効果を確認するために、以下の試験を行った。具体的には、第1実施形態に係るマイクロ波熟成装置1と同様の構成の試作機を製作し、各試験を行った。なお、以下の参考例1~3では、牛モモ肉約300g(参考例4では約700g)をマイクロ波熟成部に入れて100W以下のマイクロ波により照射して試験を行った。また、冷却部10の内部の温度は-2℃、牛モモ肉表面の温度は-1~+2℃、牛モモ肉内部の温度は+8℃となるように、マイクロ波発振器のマイクロ波の出力、冷却器の冷気の温度、第1ファンおよび第2ファンの風量を制御して試験を行った。第2ファンの風量は、0.5~1.0m/秒の範囲で制御した。
【0043】
(参考例1)
まず、マイクロ波を熟成9日目まで連続して照射し、熟成日数ごとにアミノ酸含有量を測った。その計測結果を
図5および
図6に示す。
図5は、実施例1における熟成日数ごとのアミノ酸含有量の測定結果であり、
図6は、
図5に示す測定結果のグラフである。アミノ酸総量に着目すると、当初(0日)のアミノ酸総量は375.4mg/100gであり、熟成6日目のアミノ酸総量は745.9mg/100gであり、熟成9日目のアミノ酸総量は1128.1mg/100gとなった。これらの結果から分かるように、マイクロ波を牛モモ肉に照射することで、アミノ酸総量が、熟成6日間で約2倍、熟成9日間で約3倍まで増加した。
【0044】
(参考例2)
次いで、参考例2では、(A)熟成前の牛モモ肉、(B)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉、(C)7日間の熟成においてマイクロ波を熟成開始から6時間だけ照射した牛モモ肉、(D)7日間の熟成においてマイクロ波を熟成開始から20時間だけ照射した牛モモ肉について、7日間熟成後のアミノ酸含有量((A)については熟成前の牛モモ肉のアミノ酸含有量)を測定した。
図7は実施例2における上記(A)~(D)のアミノ酸含有量の測定結果であり、
図8は、
図7に示す測定結果のグラフである。
【0045】
アミノ酸総量に着目した場合、
図7および
図8に示すように、(A)熟成前の牛モモ肉に対して、(B)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉では、アミノ酸総量が44.9mg/100g増加した。一方、(A)熟成前の牛モモ肉に対して、(C)7日間の熟成においてマイクロ波を6時間だけ照射した牛モモ肉では、アミノ酸総量が96.5mg/100g増加し、(D)7日間の熟成においてマイクロ波を20時間だけ照射した牛モモ肉では、アミノ酸総量が232.5mg/100g増加した。このように、(B)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた場合と比べて、(C)7日間の熟成においてマイクロ波を6時間だけ照射した場合、および(D)7日間の熟成においてマイクロ波を20時間だけ照射した場合では、それぞれ、アミノ酸総量が大幅に増加することが分かった。また、マイクロ波の照射時間が長いほど、アミノ酸総量が大きくなる傾向にあることが分かった。
【0046】
(参考例3)
次に、マイクロ波を照射しない通常の熟成方法と、マイクロ波を照射した本発明に係る熟成方法とにおける、グルタミン酸の含有量を、7日間熟成させた場合の熟成日数ごとに測定した測定結果を、
図9に示す。グルタミン酸は、うま味に関連するアミノ酸であり、牛肉のうま味を示す指標ともなる。なお、通常の熟成方法において熟成させた牛肉と、本実施形態に係るマイクロ波を照射させて熟成させた牛肉とは、肉の種類が異なるため、
図9に示すように、熟成当初のグルタミン酸の含有量は異なっている。
【0047】
図9に示すように、マイクロ波を照射した場合には、マイクロ波を照射しない場合と比べて、グルタミン酸の含有量は大幅に増加した。具体的には、マイクロ波を照射しない従来の熟成方法では7日間熟成でグルタミン酸の含有量が1.52倍となったが、マイクロ波を照射した本実施形態に係る熟成方法では7日間熟成でグルタミン酸の含有量が2.60倍と大幅に増加した。また、マイクロ波を照射した場合には、熟成期間が経つほど、グルタミン酸の増加量(増加幅)が多くなる傾向にあることが分かった。
【0048】
(参考例4)
次に、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉と、(F),(G)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉とについて、官能試験を行った。
図10は、参考例4における各サンプルの熟成条件を説明するための図である。
図10に示すように、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉では、冷却室の温度が-2℃、牛モモ肉の表面温度が2℃、牛モモ肉の内部温度が8℃となるように温度制御して熟成を行った。また、マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉のうち、(F)は、冷却室の温度が-2℃、牛モモ肉の表面温度が‐2℃、牛モモ肉の内部温度が-2℃となるように温度制御して熟成を行い、(G)は、冷却室の温度が8℃、牛モモ肉の表面温度が8℃、牛モモ肉の内部温度が8℃となるように温度制御して熟成を行った。
【0049】
図11に、実施例4の官能試験の結果を示す。なお、当該官能試験は、一般社団法人 食肉科学技術研究所において専門家3名により実施した。また、当該官能試験においては、熟成させていない牛モモ肉を基準(ゼロ点)とし、不快臭、異味、熟成風味、コク、うま味、ジューシーさ、やわらかさ、総合の各項目について、-3点から+3点の7段階評価を行った。なお、
図11における評価点は、3名の専門家の評価点の平均値を示している。
【0050】
その結果、熟成をしていない牛モモ肉(基準)に比べて、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉、および、(F),(G)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉において、熟成風味、コク、うま味、ジューシーさが高くなり、総合評価も高くなった。また、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉と、(F),(G)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉とを比べると、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉では、コク、うま味、ジューシーさ、軟らかさがより高く評価され、総合評価もより高くなった。特に、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉では、熟成をしていない牛モモ肉(基準)に比べて、コクやうま味が、大幅に高い評価となった。
【0051】
このように、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉では、(F),(G)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉と比べて、官能的にも、コク、うま味、ジューシーさ、軟らかさが増し、牛モモ肉が美味しくなることが分かった。
【0052】
なお、参考例4で熟成させた(E)~(G)の牛モモ肉については、細菌検査が行われ、E.Coli数が30未満(100g当り)、腸内細菌科菌群数が10未満(cfu/g)であることが確認された。
【実施例】
【0053】
本発明に係るマイクロ波熟成装置で熟成できる食品は、参考例1ないし4において示した、牛肉に限定されず、食品中の蛋白、脂肪、炭水化物等が酵素、菌類、塩類等の作用によって腐敗することなく適度に分解して、風味を構成する香り、味、食感および色調、化学成分等が変化する食品の熟成方法に適用することもできることについて、以下の実施例で説明する。本発明の技術的範囲はそれらの実施例の記載に限定されるものではない。それらの実施例には様々な変更、改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
熟成後に評価する食品の熟成感は、風味、呈味を中心とした概念であるコク味に関するものであり、コク味の中でも、まとまり、ひろがり、厚みが強まったものを熟成感があると評価される。まとまりとは、味にカドがなく整っており、まろやかな状態と評価し、ひろがりとは、口腔内に風味、呈味がひろがる状態と評価し、厚みとは、味のベースとしてしっかりとした味を感じる状態と評価され、各食品に固有の評価基準で示される。
【0055】
(実施例1)
ピザ生地の熟成
マイクロ波を連続照射して6時間熟成させたピザ生地と、マイクロ波を照射せずに8日熟成させたピザ生地と、ピザ生地を成形した直後の熟成させていないピザ生地とについて、物性測定を行った。
具体的には、小麦粉、水、塩、および天然酵母を混合し、そぼろ状に2時間かけてまとめ、10~30分放置しながら練り込みを続けた。最後に練りを行った後、それぞれをラップまたは真空パックしたものを原料(成形した直後の熟成させていないピザ生地)とした。また、生成した原料にマイクロ波を連続照射しながら、冷却室の温度が0℃、生地の内部温度が10℃となるように温度制御して6時間熟成することで、マイクロ波を連続照射して6時間熟成させたピザ生地を得た。さらに、比較のため、生成した原料にマイクロ波を照射せずに、冷却室の温度が0℃、生地の内部温度が0℃となるように温度制御して8日熟成を行い、マイクロ波を照射せずに8日熟成させたピザ生地を得た。得られたピザ生地はそれぞれ150gとなるように分取し成形した。
【0056】
マイクロ波を連続照射して6時間熟成させたピザ生地と、マイクロ波を照射せずに8日熟成させたピザ生地と、ピザ生地を成形した直後の熟成させていないピザ生地とについて、エキステンソグラフ(ブラベンダ-社製)を用いて、焼成前のピザ生地の伸長抵抗力の測定を行った。
図12は、焼成前のピザ生地の伸長抵抗力の測定結果を示す図であり、(A)はマイクロ波を照射せずに8日熟成させたピザ生地、(B)はマイクロ波を連続照射して6時間熟成させたピザ生地、(C)はピザ生地を成形した直後の熟成させていないピザ生地を示す。
図12に示すように、(B)のマイクロ波を連続照射して6時間熟成させたピザ生地では、(C)のピザ生地成形直後の熟成させていないピザ生地と比べて、エネルギーおよび伸長抵抗力の最大値が大幅に小さくなり、(A)のマイクロ波を照射せずに8日熟成させたピザ生地と同等のエネルギーおよび伸長抵抗力となった。このことから、(B)のマイクロ波を連続照射して6時間熟成させたピザ生地では、たった6時間の熟成により、(A)のマイクロ波を照射せずに8日熟成させたピザ生地と同等の生地が得られることが分かった。
【0057】
さらに、マイクロ波を連続照射して6時間熟成させたピザ生地と、マイクロ波を照射せずに8日熟成させたピザ生地と、ピザ生地を成形した直後の熟成させていないピザ生地とについて、400~450℃の薪釜で2分間加熱した後のピザ生地の応力を測定し、測定した応力の一次微分値を算出した。
図13は、測定した応力の一次微分値を示すグラフであり、(A)はマイクロ波を照射せずに8日熟成させたピザ生地、(B)はマイクロ波を連続照射して6時間熟成させたピザ生地、(C)はピザ生地を成形した直後の熟成させていないピザ生地を示す。また、
図13に示す例では、図に示す対象時間において、応力の一次微分値がマイナスとなった平均回数をカウントした。焼成後のピザ生地の応力の一次微分値がマイナスとなる回数が少ないということは、それだけ応力の変化が少ないということであり、焼成後のピザ生地の弾性が高く、もっちりとしているものと考えられる。
図13に示す例では、(A)のマイクロ波を照射せずに8日熟成させたピザ生地においては、応力の一次微分値がマイナスとなった平均回数は1回であり、(B)のマイクロ波を連続照射して6時間熟成させたピザ生地において、応力の一次微分値がマイナスとなった平均回数は4回であり、(C)のピザ生地を成形した直後の熟成させていないピザ生地において、応力の一次微分値がマイナスとなった平均回数が10回であった。このことから、(B)のマイクロ波を連続照射して6時間熟成させたピザ生地は、(C)のピザ生地を成形した直後の熟成させていないピザ生地よりももっちり感が多く、6時間の熟成で、(A)のマイクロ波を照射せずに8日熟成させたピザ生地にもっちり感が近づくことが分かった。
【0058】
(実施例2)
モッツァレラチーズの熟成
市販のモッツァレラチーズを原料とした。マイクロ波を連続照射して、表面温度を5℃、内部温度を15℃として、5日熟成させたモッツァレラチーズと、マイクロ波を照射せずに、表面温度および内部温度を5℃として、5日熟成させたモッツァレラチーズとについて、遊離L-グルタミン酸の濃度を測定した。具体的には、チーズ約30gに蒸留水200mlを添加し、ミキサーでホモジナイズして、得られた懸濁液を遠心管に全量移し、8000rpmで15分間遠心分離を行った。遠心分離後、上清を取り出し、定容したものを試料液として、遊離L-グルタミン酸の濃度を測定した。なお、遊離L-グルタミン酸の濃度は、L-グルタミン酸測定キット「ヤマサ」NEO(ヤマサ醤油株式会社製)を使用して測定した。
【0059】
L-グルタミン酸の測定手順は、
(1)調製した試料液、上記L-グルタミン酸測定キットに含まれるL-グルタミン酸標準液、蒸留水を各試験管に10μLずつ分注し、
(2)上記L-グルタミン酸測定キットに含まれるR1酵素試薬液を各試験管に450μLずつ分注して混和し、20℃~30℃で20分間静置し、
(3)上記L-グルタミン酸測定キットに含まれるR2酵素試薬液を各試験管に450μLずつ分注して混和し、20℃~30℃で20分間静置した後、蒸留水を対照にして555nmの吸光度を測定した。
(4)また、試料の色が吸光度に影響する場合があるため、試料色検体として試料10μLに蒸留水900μLを分注して混和し、20℃~30℃で20分間静置した後、蒸留水を対照にして555nmの吸光度を測定した。
(5)測定した吸光度に基づいて、各試料の遊離L-グルタミン酸の濃度を下記式1に基づいて算出した。
L-グルタミン酸(mg/L)の濃度=(A-B-R)÷(S-R)×250×希釈倍率 …(1)
なお、上記式1において、Aは試料の吸光度、SはL-グルタミン酸標準液の吸光度、Rは蒸留水の吸光度、Bは試料色の吸光度である。
【0060】
L-グルタミン酸の測定結果を下記表1に示す。下記表1に示すように、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置を用いて熟成させた実施例のモッツァレラチーズでは、低温インキュベーターを用いて12℃で熟成させた比較例のモッツァレラチーズと比べて、4倍程度、遊離L-グルタミン酸の濃度が高くなることが分かった。
【表1】
【0061】
さらに、マイクロ波を連続照射して3日熟成させたモッツァレラチーズと、マイクロ波を照射せずに3日熟成させたモッツァレラチーズについて、社外の専門家1名により官能試験を行った。それぞれのモッツァレラチーズについて試食した結果、実施例のモッツァレラチーズでは、熟成によって、モッツァレラチーズと同じ容器に入れられた水にホエーが溶け出したものと考えられ、熟成前後でモッツァレラチーズの弾力が全く異なっているとの評価が得られた。
【0062】
(実施例3)
枝豆の熟成
実施例3では、枝豆、枝豆(黒豆)および枝豆(冷凍)について、マイクロ波照射による熟成試験を行った。具体的には、500g程度の枝豆を鞘のままシャーレに入れ、枝豆の内部温度を測定するために鞘のままの枝豆のうちの1粒に熱電対を挿入した。そして、冷却室の温度が10℃、枝豆の内部温度が25℃となるように温度制御を行いながら、マイクロ波を連続照射して1日または2日熟成させた。また、比較のため、マイクロ波を照射せずに、冷却室の温度が10℃、枝豆の内部温度が10℃となるように温度制御を行いながら、1日または2日熟成させた。そして、熟成させた各枝豆のサンプルについて、ショ糖やアラニン、グルタミン酸の含有量について分析を行った。なお、分析は一般財団法人日本食品分析センターが実施し、ショ糖は高速液体クロマトグラフィー、遊離アラニンおよび遊離グルタミン酸はアミノ酸自動分析法で測定した。下記表2に、各サンプルの熟成条件と結果を示す。
【表2】
【0063】
上記表2に示すように、鞘に入ったままの枝豆において、表面温度を10℃、内部温度を25℃として1日熟成させた場合、ショ糖は24%増加し、アラニンは11%減少し、グルタミン酸が109%増加した。また、同様に2日熟成させた場合、ショ糖が47%増加し、アラニンは71%増加し、グルタミン酸が310%増加した。さらに、上記表2に示すように、枝豆(黒豆)では、鞘に入ったままの状態で、表面温度を10℃、内部温度を25℃として、1日熟成させた結果、熟成前と比べて、ショ糖が75%増加し、アラニンが200%増加し、グルタミン酸が288%増加した。
【0064】
また、表には示していないが、鞘から取り出した豆の状態で、表面温度を0℃、内部温度を15℃として、1日熟成させた結果、熟成前と比べて、ショ糖が15%増加し、アラニンが32%増加し、グルタミン酸が31%増加した。さらに、鞘に入ったままの枝豆において、表面温度を0℃、内部温度を15℃として、3日熟成させた場合に、熟成前と比べて、1日目で分析したサンプルでは、ショ糖に変化がなく、アラニンは33%減少するが、グルタミン酸が20%増加した。また、3日目で分析したサンプルでは、ショ糖が15%増加し、アラニンは29%減少し、グルタミン酸が80%増加した。
【0065】
(実施例4)
ポンカンの熟成
実施例4として、マイクロ波を連続照射して3日熟成させたポンカン(熟成開始前は未熟)と、マイクロ波を照射せずに3日熟成させたポンカン(熟成開始前は未熟)とについて、化学分析を行った。具体的には、外皮を付けたままの未熟のポンカン1個を半分に割り、一方のポンカンに熱電対を挿入した。そして、冷却室の温度が-5℃、ポンカンの内部温度が20℃となるように温度制御(温度条件1)を行い、マイクロ波を連続照射して3日熟成させた。また、冷却室の温度が-20℃、ポンカンの内部温度が25℃となるように温度制御(温度条件2)を行い、マイクロ波を連続照射して3日熟成させた。さらに、比較のため、マイクロ波を照射せずに、冷却室の温度が0℃、ポンカンの内部温度が0℃となるように温度制御して、3日熟成を行った。
【0066】
それぞれのポンカンを冷凍保存し、ショ糖、ブドウ糖、果糖の糖類の分析と、香気成分の分析とを行った。なお、分析は公益財団法人かがわ産業支援財団が実施し、ショ糖、ブドウ糖、果糖は高速液体クロマトグラフィー、香気成分はヘッドスペースGC/MS法で測定した。分析条件を下記に説明する。
【0067】
〈分析条件〉
GC-MS(HS)装置:GCMS-QP2010 + HS-20
ヘッドスペースサンプラー条件
オーブン温度:50℃
サンプルライン温度:150℃
トランスファーライン温度:150℃
バイアル加圧用ガス圧力:50kPa
バイアル保温時間:20分 〈GC条件〉
GCカラム:DB-5(長さ30m,0.25mm I.D.,df=1.00μm)
注入モード:スプリット(1:50)
制御モード:圧力一定(100kPa)
カラムオーブン温度:50℃(3分)→10℃/分→150℃→20℃/分→250℃(10分)
〈MS条件〉
インターフェース温度:250℃
イオン源温度:200℃
イオン化法:EI
測定モード:Scan
MS測定時間:開始時間1.5分→終了時間29分
MS測定範囲:開始m/z=41.00、終了m/z=700.00
【0068】
ショ糖、ブドウ糖、果糖の糖類の分析結結果を下記表3に示す。
【表3】
【0069】
上記表3に示すように、未熟なポンカンを用いて、表面温度を-20℃、内部温度を20℃とした温度条件1において3日熟成させた結果、比較例と比べて、マイクロ波を照射した実施例では、果糖が11%、ブドウ糖が14%、ショ糖が4%増加した。また、表面温度を-5℃、内部温度を25℃とした温度条件2において3日熟成させた結果、比較例と比べて、マイクロ波を照射した実施例では、ショ糖は僅かに減少したものの、果糖が20%増加し、ブドウ糖が21%増加した。
【0070】
また、香気成分の分析をヘッドスペースGC/MS法で行った結果、未熟なポンカンを用いて、表面温度を-20℃、内部温度を20℃とした温度条件1でマイクロ波を照射しながら3日熟成させたポンカンでは、ピーク面積の間に有意差のあるものは認められなかったが、表面温度を-5℃、内部温度を25℃とした温度条件2でマイクロ波を照射しながら3日熟成させたポンカンでは、冷却室の温度が0℃、ポンカンの内部温度が0℃としてマイクロ波を照射せずに3日熟成したポンカン(比較例)と比べて、Ethyl acetate,Propanoate <ethyl->,Isoamylalcohol,2-Methyl-1-butanol,Butyrate <2-methyl-, ethyl->の成分が多く含まれていた。しかしながら、L-Linalolについては、比較例に対して減少した。詳細な作用機序は不明であるが、熟成によるものと考えられる。
【0071】
(実施例5)
味噌の熟成
実施例5では、市販の熟成前の味噌(商品名「仕込み味噌」、たちばな本舗製)を原料として熟成試験を行った。マイクロ波を連続照射して、表面温度を0℃、内部温度を10℃として、24日熟成させた味噌と、マイクロ波を照射せずに、表面温度および内部温度を0℃として、24日熟成させた味噌とについて、遊離L-グルタミン酸の濃度を測定した。具体的には、味噌約1gに蒸留水50mlを添加し、ミキサーでホモジナイズして、得られた懸濁液を遠心管に全量移し、8000rpmで15分間遠心分離を行った。遠心分離後、上清を取り出し、定容したものを試料液として、遊離L-グルタミン酸の濃度を測定した。なお、遊離L-グルタミン酸の濃度は、L-グルタミン酸測定キット「ヤマサ」NEO(ヤマサ醤油株式会社製)を使用して測定した。L-グルタミン酸の測定結果、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置を用いて熟成させた味噌では、低温インキュベーターを用いて0℃で熟成させた比較例の味噌と比べて、36%程度、遊離L-グルタミン酸の濃度が高くなることが分かった。
【0072】
(実施例6)
甘酒の熟成
実施例6では、市販の甘酒(商品名「ほんまもんの甘酒」、田舎い~なぁかんぱにー製)を原料として熟成試験を行った。マイクロ波を連続照射して、表面温度を0℃、内部温度を10℃として、24時間熟成させた甘酒(実施例)と、マイクロ波を照射せずに、表面温度および内部温度を5℃として、24時間熟成させた甘酒(比較例)とについて、官能検査を実施した。なお、各サンプルは、各45ml(大さじ3)程度をプラスチックコップに入れ、口すすぎ用のミネラルウォーターとともに供した。また、官能試験は、一般財団法人おいしさの科学研究所において、食経験豊かな10名のパネルにより行った。
【0073】
具体的には、マイクロ波を照射しないで24時間熟成させた比較例の甘酒を対照として、マイクロ波を照射して24時間熟成させた実施例の甘酒の「甘味」および「とろみ」について比較評価してもらった。また、比較例の甘酒と実施例の甘酒とをそれぞれ総合的に評価してもらい「おいしい」と感じた方を選択してもらった。さらに、各パネルに各甘酒について自由にコメントしてもらった。
【0074】
図14は、マイクロ波を照射しないで24時間熟成させた比較例に対する、マイクロ波を照射して24時間熟成させた実施例の「甘味」および「とろみ」についての官能検査の結果を示す図であり、「甘味」および「とろみ」について、比較例に対して、「強い」、「やや強い」、「比較例と同じ」、「やや弱い」、「弱い」の5段階で評価した結果を示す。
図14に示すように、「甘味」は比較例に比べて「強い」や「やや強い」など強く感じる人の割合が多かった。一方、「とろみ」は比較例に比べて「やや弱い」と感じる人の割合が多かった。また、パネル10名のうち7名は、比較例の甘酒よりも、実施例の甘酒の方がおいしいと選択した。さらに、マイクロ波を連続照射した実施例の甘酒に対するコメントとして、「少し後になっても甘味が出てくる。」、「奥深い甘味を感じた。」、「さらっとしている気がする。」などの感想が得られた。
【0075】
(実施例7)
ヨーグルト飲料の熟成
市販のヨーグルト飲料(商品名「明治プロビオヨーグルトR-1ドリンクタイプ」、株式会社明治製)を原料として熟成試験を行った。具体的には、マイクロ波を連続照射して、表面温度を0℃、内部温度を10℃として、1時間熟成させたヨーグルト飲料(実施例)と、マイクロ波を照射せずに、表面温度および内部温度を5℃として、1時間熟成させたヨーグルト飲料とについて、官能検査を実施した。なお、官能試験は一般財団法人おいしさの科学研究所において、食経験豊かな10名のパネルにより行った。まず比較例を対照として、実施例のヨーグルト飲料の「酸味」、「甘味」、「口当たり」について比較評価した。さらに、各パネルに各ヨーグルト飲料について自由にコメントしてもらった。なお、サンプルは、各45ml(大さじ3)程度をプラスチックコップに入れ、口すすぎ用のミネラルウォーターとともに供した。
【0076】
図15は、マイクロ波を照射せずに1時間熟成させた比較例に対する、マイクロ波を照射しながら1時間熟成させた実施例の「酸味」、「甘み」、「口あたり」についての官能検査の結果を示す図である。
図15に示すように、「口あたり」は熟成前後で違いは認められなかったものの、「甘味」は比較例に比べて「やや強い」と感じる人の割合が多かった。一方、「酸味」は比較例に比べて「弱い」や「やや弱い」と感じる人の割合が多かった。また、マイクロ波を連続照射して1時間熟成させた実施例に対するコメントとして、「酸味は控えめで飲みやすい。」、「飲んですぐ甘味を感じ、後味にもやや残る。」、「口当たりがまろやかなので甘味がやや強く感じた。」などの感想が得られた。
【0077】
(実施例8)
カラスミの製造
実施例8では、生のボラの卵(真子)1.2kgを1Lのソミュール液または粉末の岩塩に漬け、表面温度を0℃、中心温度を10℃となるようにマイクロ波を照射した。なお、ソミュール液は、水1Lに塩30g、白コショウ10粒、玉ねぎスライス、レモンスライス、しょうがスライス、ローリエを加え、煮出したものを冷まして使用した。マイクロ波を照射後、真子をさらに白ワインに1~2日間浸漬した。真子を取り出して重しをし、2日間で20~30%の水分を抜いた。さらに、表面温度を0℃、中心温度を10℃となるように風量を0~0.5m/sの範囲で調整しながら、3~4日間マイクロ波を照射し、カラスミを得た。なお、この工程はマイクロ波照射と天日干しを併用しても良い。得られたカラスミを試食した結果、マイクロ波を照射しながら熟成させたカラスミでは、3~4日間の熟成で、3年熟成のカラスミと同等のカラスミが得られることが分かった。このように、マイクロ波を照射しながらカラスミを熟成させることで、熟成期間を短縮できることに加えて、衛生面においても有利な効果が得られる。
【0078】
(実施例9)
塩こうじの製造
実施例9では、市販の生こうじ(商品名「津久茂こうじ」、津久茂発酵所)五合および食塩150gを700mlの水に漬け、塩こうじの熟成試験を行った。マイクロ波を連続照射して、表面温度を0℃、内部温度を10℃として、24時間熟成させた塩こうじ(実施例)と、マイクロ波を照射せずに、表面温度および内部温度を5℃として、24時間熟成させた塩こうじ(比較例)とについて、比較を行った。
【0079】
図16は、熟成後の塩こうじの状態を示した図であり、(A)はマイクロ波を照射せずに表面温度および内部温度を5℃として、24時間熟成させた塩こうじ(比較例)、(B)はマイクロ波を連続照射して、表面温度を0℃、内部温度を10℃として、24時間熟成させた塩こうじ(実施例)を示す。
図16に示すように、(B)のマイクロ波を連続照射して、表面温度を0℃、内部温度を10℃として、24時間熟成させた塩こうじ(実施例)では、(A)のマイクロ波を照射せずに表面温度および内部温度を5℃として、24時間熟成させた塩こうじ(比較例)と比べて、米こうじが吸水しふやけており、熟成はほぼ完了していた。塩こうじは一般に常温で1週間(夏)~2週間(冬)で完成することから、(B)のマイクロ波を連続照射して、表面温度を0℃、内部温度を10℃として、24時間熟成させた塩こうじ(実施例)では、たった24時間の熟成により、1週間~2週間熟成させた塩こうじと同等の塩こうじが得られることが分かった。
【0080】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0081】
たとえば、上述した実施形態に加えて、活性炭フィルターを熟成室33または冷却室13内にさらに備える構成とすることができる。活性炭フィルターにより熟成室33または冷却室13の臭いを除去することができる。
【符号の説明】
【0082】
1,1a,1b…マイクロ波熟成装置
10…冷却部
11…冷却器
12…第1ファン
13…冷却室
20…マイクロ波発振部
21…ケーブル
30,30a…マイクロ波熟成部
31…照射口
32…第2ファン
33…熟成室
34…熟成室扉
35…第1微小開口
36…第2微小開口
37…網皿
38…チョーク構造
39…照明部
40…制御部
50…UVランプ