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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】色素増感太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
H01G9/20 307
H01G9/20 119
H01G9/20 111B
H01G9/20 113B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020113491
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022012012
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅子 ひかり
(72)【発明者】
【氏名】染井 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】福島 岳行
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-256470(JP,A)
【文献】特開2014-199788(JP,A)
【文献】特開2014-229434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に設けられた第1の電極層と、
前記第1の電極層の上に設けられ、色素と電解質とを含む発電層と、
前記発電層の上面の少なくとも一部と、前記発電層の側面の少なくとも一部と、に設けられた反射層と、
前記反射層の上に設けられた第2の電極層と、
を有し、
平面視において、前記発電層の前記上面の一部が前記反射層からはみ出ていることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記発電層の厚さが0.5μm~6.5μmであることを特徴とする請求項1に記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
断面視において前記反射層と前記第1の電極層とが接しており、断面視において前記反射層と前記第1の電極層とが接している部分の長さが0.1μm~50μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
前記発電層は、複数の第1の粒子を含み、
前記反射層は、複数の第2の粒子を含み、
前記複数の第1の粒子の平均粒径よりも、前記複数の第2の粒子の平均粒径が大きいことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
前記第2の粒子の平均粒径は50nm~600nmであることを特徴とする請求項4に記載の色素増感太陽電池。
【請求項6】
複数の前記側面の少なくとも一部が、前記反射層で覆われずに露出していることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項7】
前記反射層は、前記発電層の前記上面と前記側面の全面を覆うことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項8】
前記側面の少なくとも一部が前記上面の垂線に対して傾斜していることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項9】
前記反射層は、第1の厚さを有する第1の部分と、前記第1の厚さよりも小さい第2の厚さを有する第2の部分とを有することを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項10】
前記上面と前記側面の少なくとも一方に凹凸が設けられたことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項11】
前記反射層は複数の粒子を含み、
前記発電層と前記反射層との界面において、前記発電層側に前記粒子が0.3μm以上入り込んだことを特徴とする請求項10に記載の色素増感太陽電池。
【請求項12】
基材と、
前記基材の表面に設けられた第1の電極層と、
前記第1の電極層の上に設けられ、色素と電解質とを含む発電層と、
前記発電層の上面と側面の少なくとも一部に設けられた反射層と、
前記反射層の上に設けられた第2の電極層と、を有し、
前記基材に対する平面視で、前記基材の側面、前記第1の電極層の側面、前記第2の電極層の側面が略同じ位置にあり、
前記第1の電極層の側面から前記第2の電極層の側面まで封止樹脂層で封止されていることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項13】
前記基材に対する平面視において、前記第1の電極層の側面の位置まで前記発電層が設けられていることを特徴とする請求項12に記載の色素増感太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン系の太陽電池に代わる新たな太陽電池として色素増感太陽電池が注目されている。色素増感太陽電池は、屋内光等の低照度の光に対する発電量がシリコン系の太陽電池よりも多いという特徴を有しており、様々な分野への応用が期待されている。
【0003】
色素増感太陽電池においては、入射光の利用効率を高めて発電量を増加させるための様々な構造が提案されている。例えば、発電層の上面に反射層を形成することにより、発電層を通った光を反射層で反射させて発電層に戻し、発電層の発電量を高める構造が提案されている(特許文献1)。
【0004】
更に、反射層を発電層の上面の一部にのみ形成することにより発電層を反射層から表出させ、表出した部分の発電層に電解質を充填し易くした構造も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-119189号公報
【文献】特開2014-199788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
但し、このように反射層を形成しただけでは色素増感太陽電池の発電量は十分には向上しない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、色素増感太陽電池の発電量を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る色素増感太陽電池は、基材と、前記基材の表面に設けられた第1の電極層と、前記第1の電極層の上に設けられ、色素と電解質とを含む発電層と、前記発電層の上面と側面の少なくとも一部に設けられた反射層と、前記反射層の上に設けられた第2の電極層とを有することを特徴とする。
【0009】
上記色素増感太陽電池において、前記発電層の厚さが0.5μm~6.5μmでもよい。
【0010】
上記色素増感太陽電池において、断面視において前記反射層と前記第1の電極層とが接しており、断面視において前記反射層と前記第1の電極層とが接している部分の長さが0.1μm~50μmでもよい。
【0011】
上記色素増感太陽電池において、前記発電層は、複数の第1の粒子を含み、前記反射層は、複数の第2の粒子を含み、前記複数の第1の粒子の平均粒径よりも、前記複数の第2の粒子の平均粒径が大きくてもよい。
【0012】
上記色素増感太陽電池において、前記第2の平均粒径は50nm~600nmでもよい。
【0013】
上記色素増感太陽電池において、平面視において、前記発電層の前記上面の一部が前記反射層からはみ出てもよい。
【0014】
上記色素増感太陽電池において、複数の前記側面の少なくとも一部が、前記反射層で覆われずに露出してもよい。
【0015】
上記色素増感太陽電池において、前記反射層は、前記発電層の前記上面と前記側面の全面を覆ってもよい。
【0016】
上記色素増感太陽電池において、前記側面の少なくとも一部が前記上面の垂線に対して傾斜してもよい。
【0017】
上記色素増感太陽電池において、前記反射層は、第1の厚さを有する第1の部分と、前記第1の厚さよりも小さい第2の厚さを有する第2の部分とを有してもよい。
【0018】
上記色素増感太陽電池において、前記上面と前記側面の少なくとも一部との少なくとも一方に凹凸が設けられてもよい。
【0019】
上記色素増感太陽電池において、前記反射層は複数の粒子を含み、前記発電層と前記反射層との界面において、前記発電層側に前記粒子が0.3μm以上入り込んでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、色素増感太陽電池の発電量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)は第1実施形態に係る色素増感太陽電池の製造途中の平面図(その1)であり、(b)は(a)のI-I線に沿う断面図である。
図2】(a)は第1実施形態に係る色素増感太陽電池の製造途中の平面図(その2)であり、(b)は(a)のI-I線に沿う断面図である。
図3】(a)は第1実施形態に係る色素増感太陽電池の製造途中の平面図(その3)であり、(b)は(a)のI-I線に沿う断面図である。
図4】(a)は第1実施形態に係る色素増感太陽電池の製造途中の平面図(その4)であり、(b)は(a)のI-I線に沿う断面図である。
図5】(a)は第1実施形態に係る色素増感太陽電池の製造途中の平面図(その5)であり、(b)は(a)のI-I線に沿う断面図である。
図6】(a)は第1実施形態に係る色素増感太陽電池の製造途中の平面図(その6)であり、(b)は(a)のI-I線に沿う断面図である。
図7】(a)は第1実施形態に係る色素増感太陽電池の製造途中の平面図(その7)であり、(b)は(a)のI-I線に沿う断面図である。
図8】(a)は第1実施形態に係る色素増感太陽電池の製造途中の平面図(その8)であり、(b)は(a)のI-I線に沿う断面図である。
図9】第1実施形態に係る色素増感太陽電池の使用時の断面図である。
図10図10は、第1実施形態において発電層の側面を上面に対して傾斜させたことで得られる効果について説明するための断面図である。
図11】(a)~(c)は、第1実施形態に係る発電層と反射層の各々の平面レイアウトの例について示す平面図(その1)である。
図12】(a)~(c)は、第1実施形態に係る発電層と反射層の各々の平面レイアウトの例について示す平面図(その2)である。
図13図12(b)の例に係る色素増感太陽電池20の斜視図である。
図14図12(c)の例に係る色素増感太陽電池20の斜視図である。
図15】(a)~(d)は、第1実施形態における発電層と反射層の各々の厚さの例を示す断面図である。
図16図15(a)~(d)の結果に基づいて、長さWと厚さaによって色素増感太陽電池の発電量がどのように変わるのかを模式的に示す図である。
図17】チタン粒子の粒径と、酸化チタン粒子で反射される光の強度との関係について示す模式図である。
図18】第2実施形態に係る色素増感太陽電池の断面図である。
図19】(a)~(d)は、第3実施形態に係る色素増感太陽電池の断面図である。
図20】第4実施形態に係る色素増感太陽電池の断面図である。
図21】実施例において長さWと厚さaとを変えたときの色素増感太陽電池の発電量を調査して得られた図(その1)である。
図22】実施例において長さWと厚さaとを変えたときの色素増感太陽電池の発電量を調査して得られた図(その2)である。
図23】実施例において長さWと厚さaとを変えたときの色素増感太陽電池の発電量を調査して得られた図(その3)である。
図24】実施例において長さWと厚さaとを変えたときの色素増感太陽電池の発電量を調査して得られた図(その4)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
本実施形態に係る色素増感太陽電池について、その製造方法を追いながら説明する。図1(a)、図2(a)、図3(a)、図4(a)、図5(a)、図6(a)、図7(a)、及び図8(a)は、本実施形態に係る色素増感太陽電池の製造途中の平面図である。また、図1(b)、図2(b)、図3(b)、図4(b)、図5(b)、図6(b)、図7(b)、及び図8(b)は、図1(a)、図2(a)、図3(a)、図4(a)、図5(a)、図6(a)、図7(a)、及び図8(a)の各々のI-I線に沿う断面図である。
【0023】
まず、図1(a)、(b)に示すように、透明基板10として平面視で正方形状のガラス基板を用意する。その透明基板10の一辺の長さは5mm~40mm、例えば10mmである。また、透明基板10の厚さは0.1mm~3mm、例えば1.1mmである。なお、ガラス基板に代えて透明なプラスチック板を透明基板10として使用してもよい。
【0024】
次いで、透明基板10の上に透明電極層(第1の電極層)11としてITO(Indiumm Tin Oxide)層を0.1μm~0.5μmの厚さに形成する。なお、ITO層に代えて、FTO(Fluorine doped Tin Oxide)層、酸化亜鉛層、インジウム-錫複合酸化物層と銀層との積層膜、及びアンチモンがドープされた酸化錫層のいずれかを透明電極層11として形成してもよい。
【0025】
更に、透明電極層11の上にチタンアルコキシドから調整したアルコール溶液を塗布し、そのアルコール溶液を加熱して乾燥させることにより、逆電子移動防止層12を5nm~0.1μm程度の厚さに形成する。本工程における乾燥温度は特に限定されず、450℃~650℃、例えば550℃に加熱することにより逆電子移動防止層12を形成する。
【0026】
なお、透明基板10の角の一部領域10aには逆電子移動防止層12を形成せずに透明電極層11が露出した状態にする。その一部領域10aは、発電層の面積に対して0.2%~5.6%の面積であり、例えば2%の領域である。一部領域10aの形状は特に限定されない。
【0027】
次いで、図2(a)、(b)に示すように、逆電子移動防止層12の上に第1の酸化チタンペースト13aを1μm~20μm、例えば5μmの厚さにスクリーン印刷法により形成する。その第1の酸化チタンペースト13aとして、ここでは日揮触媒化成製のPST-30NRDを採用する。第1の酸化チタンペースト13aに含まれる酸化チタン粒子の平均粒径は5nm~50nm、例えば20nmである。また、透明基板10の上での第1の酸化チタンペースト13aの印刷面積は、0.01cm~4cm、例えば0.98cmとする。なお、第1の酸化チタンペースト13aは上記に限定されず、エチルセルロース等の溶媒に酸化チタン粒子を混錬しペーストを第1の酸化チタンペースト13aとして採用し得る。
【0028】
次に、図3(a)、(b)に示すように、第1の酸化チタンペースト13aの上に第2の酸化チタンペースト14aとして日揮触媒化成製のPST-400Cをスクリーン印刷法により形成する。第2の酸化チタンペースト14aの厚さは特に限定されないが、ここではその厚さを0.3μm~100μm、例えば42μmとする。更に、透明基板10の上での第2の酸化チタンペースト14aの印刷面積は、0.011cm~4.1cm、例えば1cmとする。なお、第1の酸化チタンペースト13aと同様に、エチルセルロース等の溶媒に酸化チタン粒子を混錬しペーストを第2の酸化チタンペースト14aとして使用してもよい。
【0029】
また、第2の酸化チタンペースト14aに含まれる酸化チタン粒子の平均粒径は、第1の酸化チタンペースト13aにおける平均粒径よりも大きい50nm~600nm、例えば400nmである。なお、酸化チタンの粒径は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で一つの画像に80~150結晶粒程度入るように倍率を調整し、合計で400結晶粒以上となるように複数枚の写真を得て、写真上の結晶粒全数について計測してFeret径を用いればよい。また、その平均値を平均粒径とすればよい。
【0030】
なお、透明基板10の一部領域10aには第1の酸化チタンペースト13aと第2の酸化チタンペースト14aを形成せずに透明電極層11が露出した状態にする。
【0031】
次に、図4(a)、(b)に示すように、第1及び第2の酸化チタンペースト13a、14aの各々を加熱することにより有機物を蒸散させ、第1及び第2の酸化チタンペースト13a、14aをそれぞれ発電層13と反射層14にする。各酸化チタンペースト13a、14aの加熱条件は特に限定されない。本実施形態では各酸化チタンペースト13a、14aを450℃~650℃、例えば600℃の温度に加熱する。また、加熱時間は、10分~120分、例えば30分とする。
【0032】
これにより、発電層13の上面13pと側面13qの各々が反射層14で覆われた構造が得られる。また、塗布法で形成した発電層13においては側面13qが上面13pの垂線Gに対して傾斜しており、これにより発電層13の中央から端部13rに向かうにつれて発電層13が薄くなる。なお、この例では発電層13の複数の側面13qの全てに反射層14を形成したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、複数の側面13qのうちの一部の側面13qのみに反射層14を形成してもよい。更に、発電層13を円柱状にして側面13qを一つのみとし、その側面13qの一部のみに反射層14を形成してもよい。
【0033】
なお、本実施形態ではこのように各酸化チタンペースト13a、14aから発電層13と反射層14を形成したが、発電層13と反射層14の材料はこれに限定されない。例えば、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、Cr、及びNbのいずれかの酸化物の半導体粒子から発電層13と反射層14の各々を形成してもよい。更に、SrTiOやCaTiO等のペロブスカイト型酸化物の粒子で発電層13と反射層14の各々を形成してもよい。
【0034】
続いて、図5(a)、(b)に示すように、色素を含む溶媒15に発電層13と反射層14とを浸漬し、発電層13と反射層14の各々に色素を吸着させる。その溶媒15として、ここではトルエンに色素としてMK-2を溶解させた溶媒を使用する。また、溶媒15の温度は0℃~80℃、例えば50℃とし、浸漬時間は10分~12時間、例えば1時間とする。なお、発電層13に含まれる酸化チタン粒子の方が反射層14に含まれる酸化チタン粒子よりも平均粒径が小さいため、発電層13には微細な隙間が多数生じる。その結果、発電層13に吸着する色素の量は、反射層14に吸着する色素の量よりも多くなる。
【0035】
なお、色素は上記に限定されず、金属錯体色素や有機色素を色素として用いてもよい。このうち、金属錯体色素としては、例えば、ルテニウム-シス-ジアクア-ビピリジル錯体、ルテニウム-トリス錯体、ルテニウム-ビス錯体、オスミウム-トリス錯体、オスミウム-ビス錯体等の遷移金属錯体がある。また、亜鉛-テトラ(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン、鉄-ヘキサシアニド錯体も金属錯体色素の一例である。
【0036】
また、有機色素としては、例えば、9-フェニルキサンテン系色素、クマリン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、テトラフェニルメタン系色素、キノン系色素、アゾ系色素、インジゴ系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、及びカルバゾール化合物系色素等がある。
【0037】
次に、図6(a)、(b)に示すように、反射層14の上に固体電解質前駆体16を1μL~50μL、例えば20μL程度滴下することにより、反射層14を介して発電層13に固体電解質前駆体16を浸透させる。その固体電解質前駆体16として、本実施形態ではヨウ素、1、3-ジメチルイミダゾリウムヨージド(DMII)、アセトニトリル、分子量100万のポリエチレンオキシドを均一になるように混合した溶液を使用する。
【0038】
その後、発電層13を加熱することにより固体電解質前駆体16に含まれる余剰のアセトニトリルを揮発させ、固体電解質が含侵した発電層13を得る。なお、その加熱条件は特に限定されないが、50℃~150℃、例えば100℃の温度に発電層13を加熱する。また、加熱時間は1分~60分、例えば30分である。その後に、発電層13を室温に戻す。なお、その固体電解質は反射層14にも含まれる。但し、前述のように発電層13に含まれる酸化チタン粒子の方が反射層14に含まれる酸化チタン粒子よりも平均粒径が小さいため、発電層13には微細な隙間が多数生じる。そのため、発電層13に含まれる固体電解質の量は、反射層14に含まれる固体電解質の量よりも多くなる。
【0039】
なお、固体電解質前駆体16に含まれる電解質はDMIIに限定されない。例えば、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等のヨウ素塩であって、室温付近で固体状態にある塩や溶融状態にある常温溶融塩をイオン液体として使用し得る。そのような常温溶融塩としては、例えば、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムヨージド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヨージド(BMII)、1-エチル-ピリジニウムヨージド等のヨウ化4級アンモニウム塩化合物等がある。
【0040】
次に、図7(a)、(b)に示すように、表面にスパッタ法で白金層が形成されたチタン箔を正極板(第2の電極層)17として用意する。ここでは正極板としてチタン箔を用いたが、正極板17の層構造は特に限定されるものではない。そして、その正極板17の白金層側を反射層14に密着させる。このとき、減圧雰囲気中又は真空中で反射層14に正極板17を密着させることにより、反射層14と正極板17との間に気泡が入るのを防止できる。なお、正極板17の材料としては、上記の白金の他に、パラジウム、ロジウム、及びインジウム等の触媒機能を有する金属もある。また、グラファイトで正極板17を形成してもよい。更に、白金を担持したカーボン、インジウム-錫複合酸化物、アンチモンがドープされた酸化錫、及びフッ素がドープされた酸化錫で正極板17を形成してもよい。その他の材料としては、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフエン)(PEDOT)、及びポリチオフェン等の有機半導体がある。
【0041】
正極板17の形と大きさは特に限定されないが、ここでは透明基板10の一部領域10aを除いた正方形状の正極板17を使用する。また、正極板17の一辺の長さは0.11mm~2.1mm、例えば10mmとし、正極板17の厚さは5μm~10μm、例えば100μmとする。
【0042】
続いて、図8(a)、(b)に示すように、透明基板10と正極板17の各側面に紫外線硬化樹脂を塗布し、更に紫外線の照射で紫外線硬化樹脂を硬化させることにより封止樹脂層19を形成する。なお、紫外線硬化樹脂を塗布してから紫外線を照射するまでの時間が長すぎると、紫外線硬化樹脂が発電層13に浸入してその表面を覆ってしまう。これを防ぐために、紫外線硬化樹脂を塗布してから10分以内に紫外線を照射するのが好ましい。
【0043】
以上により、本実施形態に係る色素増感太陽電池20の基本構造が完成する。この色素増感太陽電池20においては透明電極層11が負極として機能し、発電層13に充填された固体電解質に含まれるヨウ化物イオン(I)と三ヨウ化物イオン(I )が、透明電極層11と正極板17との間で電子を伝導する担い手となる。また、走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡などの各種顕微鏡で反射層14を含む発電層13の断面の端部を観察したとき、透明電極層11と反射層14が接触していることを確認できる。
【0044】
更に、本実施形態では、上記のように第2の酸化チタンペースト14aに含まれる酸化チタン粒子の平均粒径が、第1の酸化チタンペースト13aに含まれる酸化チタン粒子の平均粒径よりも大きい。これを反映して、反射層14に含まれる酸化チタン粒子の平均粒径は、発電層13に含まれる酸化チタン粒子の平均粒径よりも大きくなる。その結果、反射層14の光反射率が発電層13の光反射率よりも大きくなる。
【0045】
図9は、色素増感太陽電池20の使用時の断面図である。図9に示すように、実使用下においては、透明基板10を介して発電層13に光Lを入射する。これにより発電層13に吸着している色素が励起状態となり、色素から酸化チタン粒子に電子が移動する。そして、発電層13に含まれるヨウ化物イオン(I)と三ヨウ化物イオン(I )を伝って電子が正極板17に移動し、これにより発電が行われる。
【0046】
また、本実施形態では、反射層14の酸化チタン粒子が光Lを散乱する散乱体として機能するため、光Lが反射層14で反射して再び発電層13に戻る。その結果、反射層14がない場合と比較して発電層13が光Lに曝される機会が増え、発電層13の発電効率が高まる。
【0047】
特に、このように酸化チタン粒子で反射層14を形成したことにより、図6(b)の工程で複数の酸化チタン粒子の隙間を固体電解質前駆体16が流通するようになり、発電層13に固体電解質前駆体16を浸透させるのが容易となる。
【0048】
しかも、この例では反射層14の酸化チタン粒子の平均粒径を発電層13におけるよりも大きくした。これにより、反射層14の複数の酸化チタン粒子の間の隙間が広がり固体電解質前駆体16が流通し易くなると共に、反射層14の酸化チタン粒子による光の散乱強度が強くなり、反射層14における光の反射率を向上させることができる。
【0049】
更に、本実施形態では発電層13の上面13pと側面13qの各々の全面に反射層14を形成したため、上面13pと側面13qのいずれかの一部のみに反射層14を形成する場合よりも多くの光Lに発電層13が曝され、発電層13の発電効率を一層高めることができる。
【0050】
また、この例では側面13qを上面13pに対して傾斜させたが、これにより次のような効果も得られる。
【0051】
図10は、発電層13の側面13qを上面13pに対して傾斜させたことで得られる効果について説明するための断面図である。図10に示すように、光Lが側面13qに入射した場合を考える。この場合、光Lは、側面13qで反射した後に面内方向に沿って進行する。そのため、色素増感太陽電池20に光Lの当たらない影がある場合でも、その影における発電層13にも光Lが侵入し、発電層13の略全体を光Lに曝すことができる。
【0052】
次に、発電層13と反射層14の各々の平面レイアウトの例について説明する。図11(a)~(c)及び図12(a)~(c)は、本実施形態に係る発電層13と反射層14の各々の平面レイアウトの例について示す平面図である。
【0053】
図11(a)は、発電層13の全面を反射層14で覆った場合の平面図である。これにより発電層13の全ての側面13qと上面13pの全面で光Lが反射するため、上記のように発電層13の発電量を高めることができる。
【0054】
図11(b)、(c)は、発電層13の上面13pの一部が反射層14からはみ出た場合の平面図である。発電層13の上面13pの一部が反射層14からはみ出るとは、平面視で見たときに発電層13の上面13pの全面に反射層14が形成されていない状態を示し、発電層13の上面13pの一部を反射層14が覆って、発電層13の上面13pのほかの一部を反射層14が覆っていないことを示す。このように反射層14から上面13pがはみ出ていると、図6(b)の工程で発電層13に直接的に固体電解質前駆体16を浸透させることができ、発電層13に含侵する固体電解質前駆体16の量を増やすことができる。これにより発電層13内の電子伝導子を増やすことができ、電子伝導を円滑にすることができる。
【0055】
図12(a)~(c)は、発電層13と反射層14の各々の中心を相互にずらした場合の平面図である。この場合も、図11(a)の例と同様に発電層13の発電量を高めることができる。
【0056】
図13は、図12(b)の例に係る色素増感太陽電池20の斜視図である。また、図14は、図12(c)の例に係る色素増感太陽電池20の斜視図である。図13及び図14に示すように、これらの例では発電層13の上面が反射層14で覆われており、かつ発電層13の複数の側面のうちの一つの側面が反射層14で覆われずに露出する。このように発電層13の側面が露出していると、図6(b)の工程で当該側面から固体電解質前駆体16が入るので、発電層13に電解質前駆体16を浸入させるのが容易となり、発電層13に含侵する固体電解質前駆体16の量を増やすことができる。これにより発電層13内の電子伝導子を増やすことができ、電子伝導を円滑にすることができる。
【0057】
ところで、発電層13における発電量は、発電層13と反射層14の各々の厚さによって変わると考えられる。
【0058】
図15(a)~(d)は、発電層13と反射層14の各々の厚さの例を示す断面図である。図15(a)は、発電層13の厚さaを大きくし、かつ反射層14の厚さを小さくした場合の断面図である。このように反射層14の厚さを小さくすると、反射層14を透過する光Lが増えるため、反射層14から発電層13に戻る光Lが減る。
【0059】
一方、このように反射層14の厚さを小さくすると、断面視で反射層14と逆電子移動防止層12とが接している部分の長さWが小さくなる。これにより固体電解質前駆体16が反射層14を浸透し易くなり、側面13qから発電層13に至る固体電解質前駆体16の量が増える。
【0060】
図15(b)は、発電層13の厚さaを大きくし、かつ反射層14の厚さも大きくした場合の断面図である。このように反射層14を厚くすると、反射層14で反射する光Lが増え、反射層14から発電層13に戻る光Lが増える。
【0061】
但し、このように反射層14を大きくしたことで長さWが大きくなり、固体電解質前駆体16が反射層14を浸透し難くなる。
【0062】
図15(c)は、発電層13の厚さaを小さくし、かつ反射層14も薄くした場合の断面図である。このように反射層14の厚さを小さくすると、図15(a)の場合と同様に反射層14から発電層13に戻る光Lが減る。また、発電層13を小さくしたことで、発電層13に含浸する固体電解質前駆体16の量も減る。
【0063】
図15(d)は、発電層13の厚さaを小さくし、かつ反射層14を厚くした場合の断面図である。このように反射層14を厚くすることで、反射層14で反射する光Lの量を増やすことができる。
【0064】
しかし、反射層14を厚くしたことで長さWが大きくなり、固体電解質前駆体16が反射層14を浸透し難くなる。しかも、発電層13の厚さaが小さいため、発電層13に含浸する固体電解質前駆体16の量も減る。
【0065】
以上のように、幅Wと発電層13の厚さaによって、発電層13に戻る光Lの量と、発電層13に含浸する固体電解質前駆体16の量が変わる。そして、これらの要素によって色素増感太陽電池20の発電量も変わる。
【0066】
図16は、図15(a)~(d)の結果に基づいて、長さWと厚さaによって色素増感太陽電池20の発電量がどのように変わるのかを模式的に示す図である。
【0067】
図16に示すように、発電層13における固体電解質前駆体16の含浸量は、厚さaを小さくしたり長さWを大きくしたりすると減少する。また、反射層14から発電層13に戻る光の量は、長さWを大きくすることにより増加する。これにより、本実施形態のように反射層14を形成した場合に発電量を高めるには、厚さaと長さWを適度な範囲Rに収めるのが好ましい。
【0068】
特に、厚さaを0.5μm~6.5μmとし、かつ長さWを0.1μm~50μmとすることにより色素増感太陽電池20の発電量を効果的に高めることができる。なお、厚さaを0.5μm~3μmの範囲とするのがより好ましい。この範囲内において厚さaが薄くなるほど光の透過率は大きくなり、反射層14で反射される光が増加する。このため、厚さaが薄いほど反射層がない場合と比較して発電量が高くなる。ただし、発電能を保つため、発電層13の厚さは0.5μm以上の範囲とするのが好ましい。また、長さWを15μm~50μmの範囲とするのが好ましい。反射層14の幅Wが厚いほど、反射層14を透過する光は減少し、反射される光は増加する。このため、反射層14の幅Wが厚いほど反射層14がない場合と比較して発電量は高くなる。ただし、反射層14が厚くなるほど、反射層14に電解質の浸透が阻害されるため、電解質は発電層13に浸透し難くなる。発電能を保つには幅Wの上限を50μmとするのが好ましい。
【0069】
なお、反射層14における反射率は、反射層14に含まれる酸化チタン粒子の粒径にも依存する。
【0070】
図17は、酸化チタン粒子の粒径と、酸化チタン粒子で反射される光の強度Iとの関係について示す模式図である。図17に示すように、酸化チタン粒子による光の後方散乱の強度Iは酸化チタン粒子の粒径によって変わる。特に、色素の吸収波長が400nm~700nmの場合、粒径が70nm以下の場合には粒径が大きいほど波長が400nm~700nmの光についての後方散乱の強度Iが大きくなり、粒径が70nmを超えると粒径が小さいほど後方散乱の強度Iが小さくなる。ただし、粒径が大きいほど、光の遮断率は大きくなる。そこで、酸化チタン粒子の粒径を50nm~600nmの範囲とすることにより後方散乱の強度Iと光の遮断率を高め、発電層13における発電量を高めるのが好ましい。より好適には、酸化チタン粒子の粒径を300nm~600nmにするのが好ましい。300nm~600nmの範囲に関しては、光の遮断による発電層13への光反射の効果が大きくなり、粒径の大きな範囲において発電量は向上する。ただし、粒径が600nm以上では後方散乱の強度Iは低くなり、発電に寄与する光の反射は少なくなるため、600nm以下の粒径が好ましい。
【0071】
(第2実施形態)
図18は、第2実施形態に係る色素増感太陽電池30の断面図である。なお、図18において第1実施形態で説明したのと同じ要素には第1実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0072】
図18に示すように、本実施形態においては発電層13の側面13qから間隔をおいて封止樹脂層19を設ける。そして、封止樹脂層19と側面13qとの間に固体電解質前駆体16を充填し、該固体電解質前駆体16を加熱してアセトニトリルを揮発させることにより固体電解質31とする。
【0073】
(第3実施形態)
図19(a)~(d)は、第3実施形態に係る色素増感太陽電池40の断面図である。なお、図19(a)~(d)において第1及び第2実施形態と同じ要素にはこれらの実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。また、図19(a)~(d)においては、図が煩雑になるのを避けるため、正極板17と封止樹脂層19とを省いている。
【0074】
図19(a)~(d)に示すように、本実施形態においては、反射層14が、第1の厚さT1を有する第1の部分14fと、第1の厚さT1よりも小さい第2の厚さT2を有する第2の部分14gとを備える。
【0075】
第2の部分14gにおいては第1の部分14fよりも厚さが小さいため、第2の部分14gを介して固体電解質前駆体16が発電層13に浸透し易くなる。そのため、発電層13に含浸する固体電解質の量を増やすことができ、発電層13における発電効率を高めることができる。
【0076】
(第4実施形態)
図20は、第4実施形態に係る色素増感太陽電池50の断面図である。なお、図20において、第1~第3実施形態と同じ要素にはこれらの実施形態におけるのと同じ符号を付し、以下ではその説明を省略する。
【0077】
図20に示すように、本実施形態においては、発電層13の上面13pと側面13qの各々に凹凸が設けられる。本実施形態における凹凸とは発電層13の反射層14に向かって凸の部分と反射層14の発電層13に向かって凹の部分の差が0.3~0.5μmの範囲であることとする。凹凸の形成方法は特に限定されない。例えば、反射層14に含まれる酸化チタン粒子を反映して上面13pと側面13qの各々には自然に粗化面となるが、その粗化面をそのまま凹凸として利用してもよい。この場合、走査型電子顕微鏡で一つの画像に発電層13と反射層14の界面に存在する反射層14の酸化チタン粒子が50粒以上入るように倍率を調整したときに、一つ以上の酸化チタン粒子が凸凹の差0.3μm以上発電層14に入り込んだ構造となる。これに代えて、発電層13を形成した後の上面13pと側面13qの各々を粗化することにより凹凸を形成してもよい。
【0078】
これにより上面13pと側面13qの各々で光Lが乱反射するため、乱反射した光Lで発電層13の各部が発電をするようになり、発電層13の発電効率を高めることができる。
【実施例
【0079】
以下、実施例として、第1実施形態に係る色素増感太陽電池20を作製し、特性について調べた。発電層13の材料である第1の酸化チタンペースト13aとして日揮触媒化成製のPST-30NRDを用いた。また、反射層14の材料である第2の酸化チタンペーストとして14a日揮触媒化成製のPST-400Cを用いた。
【0080】
図21図24は、長さWと厚さa(図15(a)~(d)参照)とを変えたときの色素増感太陽電池20の発電量を調査して得られた図である。なお、その調査では、第1の比較例と第2の比較例の発電量も調べた。第1の比較例では、反射層14を形成しなかった。また、第2の比較例では、発電層13の上面13pのみに反射層14を形成し、側面13qには反射層14を形成しなかった。
【0081】
また、実施例において、断面視で相対する側面13qの一方のみに反射層14を形成した場合と、相対する側面13qの両方に反射層14を形成した場合の各々について発電量を調査した。
【0082】
図21図24に示すように、発電層13の上面および側面に反射層14を設けることで、色素増感太陽電池20の発電量を効果的に高めることができた。また、厚さaを0.5μm~6.5μmとし、かつ長さWを0.1μm~50μmとすることで、第1の比較例の103%以上の発電量を得ることができた。
【符号の説明】
【0083】
10 透明基板
10a 一部領域
11 透明電極層
12 逆電子移動防止層
13 発電層
13a 第1の酸化チタンペースト
13f 下層
13g 上層
13p 上面
13q 側面
13r 端部
14 反射層
14a 第2の酸化チタンペースト
14f 第1の部分
14g 第2の部分
14p 酸化チタン粒子
14q 色素
15 溶媒
16 固体電解質前駆体
17 正極板
19 封止樹脂層
31 固体電解質
20、30、40、50 色素増感太陽電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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