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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】構造体及びチャック
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/16 20060101AFI20241120BHJP
   B25B 1/02 20060101ALN20241120BHJP
【FI】
B23B31/16 D
B25B1/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020166100
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2021059005
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2019183820
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】西宮 民和
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-008209(JP,A)
【文献】特開平10-061647(JP,A)
【文献】実開昭57-111459(JP,U)
【文献】特開昭53-115436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B31/00-33/00
B23Q 3/00- 3/154
B23Q 3/16- 3/18
B25B 1/00-11/02
B21D37/00-37/20
F16B23/00-43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機械に装着して使用する構造体であって、
上物治具と、第1及び第2の固定部材と、規制部材とを備え、
前記産業機械は、前記上物治具を着脱させる着脱領域に第1の空間を有し、
前記上物治具は、第2の空間を有し、
前記第1の固定部材は、前記第1の空間に収容可能に構成され、
前記第2の固定部材は、前記第2の空間に収容可能に構成され、
前記第1及び第2の固定部材の螺合度合いを調節することで、前記上物治具を前記着脱領域に対して着脱可能に構成され、
前記規制部材は、
フランジ部を備え、
前記螺合度合いを緩め続けると、前記フランジ部が前記第1の固定部材に当接して、前記上物治具と前記第1の固定部材とのさらなる離間を規制するように構成され
前記規制部材が前記第1の固定部材に収容されるように構成されるもの。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体において、
前記規制部材が前記第2の固定部材の端部に設けられ、前記第2の固定部材とともに移動するように構成されるもの。
【請求項3】
請求項1に記載の構造体において、
前記規制部材が前記上物治具に設けられ、前記上物治具とともに移動するように構成されるもの。
【請求項4】
産業機械に装着して使用する構造体であって、
上物治具と、第1及び第2の固定部材と、規制部材とを備え、
前記産業機械は、前記上物治具を着脱させる着脱領域に第1の空間を有し、
前記上物治具は、第2の空間を有し、
前記第1の固定部材は、前記第1の空間に収容可能に構成され、
前記第2の固定部材は、前記第2の空間に収容可能に構成され、
前記第1及び第2の固定部材の螺合度合いを調節することで、前記上物治具を前記着脱領域に対して着脱可能に構成され、
前記規制部材は、
フランジ部を備え、
前記螺合度合いを緩め続けると、前記フランジ部が前記上物治具に当接して、前記上物治具と前記第1の固定部材とのさらなる離間を規制するように構成されるもの。
【請求項5】
請求項4に記載の構造体において、
前記規制部材は、
前記第1の固定部材に設けられ、
前記上物治具が前記第1の固定部材に対して移動する場合に、この移動方向において前記第1の固定部材とともに定位置に留まるように構成されるもの。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1つに記載の構造体において、
前記螺合度合いを緩めると、前記上物治具が前記産業機械の着脱領域から強制的に離間するように構成されるもの。
【請求項7】
請求項6に記載の構造体において、
前記上物治具が係止部材をさらに備え、
前記螺合度合いを緩めると、前記第2の固定部材の一端が前記係止部材を介して前記上物治具を押圧し、これにより、前記上物治具が前記産業機械の着脱領域から強制的に離間するように構成されるもの。
【請求項8】
請求項6に記載の構造体において、
弾性部材をさらに備え、
前記弾性部材は、前記螺合度合いを緩めると前記上物治具が前記産業機械の着脱領域から強制的に離間するように、付勢するもの。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか1つに記載の構造体において、
前記規制部材は、
ストッパピンであり、
前記上物治具と前記第1の固定部材との相対移動を、前記ストッパピンの延在方向の並進移動のみに限定するように構成されるもの。
【請求項10】
請求項1~請求項9の何れか1つに記載の構造体において、
前記上物治具は、さらに両端面を備え、
前記螺合度合いを緩めた状態で前記両端面を把握して本構造体を移動させる場合に、前記上物治具と、前記第1及び第2の固定部材との相対位置が維持されるもの。
【請求項11】
請求項1~請求項10の何れか1つに記載の構造体において、
前記産業機械は、ボデーの正面でワークを把握するチャックであり、
前記産業機械の着脱領域は、前記チャックの径方向に開閉可能に構成される複数のマスタージョーであり、
前記上物治具は、前記マスタージョーに着脱可能に構成される複数のトップジョーであり、
前記第1の固定部材は、逆T字形状を有するTナットであり、前記第1の空間は、前記逆T字形状を有し且つ前記Tナットを収容するT溝であり、
前記第2の固定部材は、ボルトであり、前記第2の空間は、前記ボルトを貫通させる貫通孔であり、
前記Tナットにボルト穴が設けられ、前記ボルトが前記ボルト穴に螺合可能に構成されるもの。
【請求項12】
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、
請求項11に記載の構造体を備え、これが着脱可能に構成されるもの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体及びチャックに関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械等の分野において、加工対象に合わせて所定の上物治具(当該産業機械の一部とも解する)を産業機械に対して着脱する場面がある。例えば、特許文献1には、ボデーの正面でワークを把握するチャックが開示されており、このようなチャックでは、ワークに合わせて上物治具であるトップジョーを交換する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-086005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チャックに限らず、上物治具の取り付けにあたっては、互いにオスメスのネジ構造を有する1組の固定部材(第1及び第2の固定部材)を螺合させて行う。逆に取り外す際には、かかる螺合を緩めることでなされる。このような着脱に際して、作業時間を短縮するために上物治具と、1組の固定部材とをすべてばらばらにするのではなく、なるべく、これらを一体的に構造体として取り扱うことが好ましい。
【0005】
しかしながら、不慣れな作業者によれば、誤って又はなるべく一体的に取り扱うのが好ましいことを知らずに、上物治具と1組の固定部材とをすべてばらばらにしてしまうことがある。
【0006】
本発明では上記事情を鑑み、不慣れな作業者でも誤ってすべての構成部品に分解することなく、その少なくとも一部を一体的に取り扱わせることで、円滑に上物治具を着脱することができる構造体を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、産業機械に装着して使用する構造体が提供される。この構造体は、上物治具と、第1及び第2の固定部材と、規制部材とを備える。産業機械は、上物治具を着脱させる着脱領域に第1の空間を有する。上物治具は、第2の空間を有する。第1の固定部材は、第1の空間に収容可能に構成される。第2の固定部材は、第2の空間に収容可能に構成される。第1及び第2の固定部材の螺合度合いを調節することで、上物治具を着脱領域に対して着脱可能に構成される。規制部材は、フランジ部を備える。螺合度合いを緩め続けると、フランジ部が第1の固定部材に当接して、上物治具と第1の固定部材とのさらなる離間を規制するように構成される。
【0008】
本発明に係る構造体は、フランジ部を備えた規制部材を具備する。このため、螺合度合いを緩め続けると、フランジ部が他の部材に当接して、上物治具と第1の固定部材との離間が規制されるので、不慣れな作業者でも誤ってすべての構成部品に分解することがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係るチャックの斜視図。
図2】第1の実施形態に係るチャックの正面図。
図3図2におけるA-A断面図。
図4】[図4A]マスタージョーの正面斜視図、[図4B]マスタージョーの背面斜視図。なお、図面においては実際には、Fig.4A及びFig.4Bとして記載されているが、明細書中では「Fig.」に代えて「図」として表記するものとする。以下同様である。
図5】[図5A]トップジョーの正面斜視図、[図5B]トップジョーの背面斜視図。
図6】[図6A]第1の実施形態に係る構造体の正面斜視図、[図6B]第1の実施形態に係る構造体の背面斜視図。
図7】第1の実施形態に係る構造体の分解図。
図8】[図8A]第1の実施形態に係る構造体の正面図。[図8B図8AにおけるB-B断面図。
図9】[図9A]第2の実施形態に係る構造体の正面斜視図、[図9B]第2の実施形態に係る構造体の背面斜視図。
図10】[図10A]第2の実施形態に係る構造体の正面図、[図10B図10AにおけるC-C断面図。
図11】[図11A]第3の実施形態に係る構造体の正面斜視図、[図11B]第3の実施形態に係る構造体の背面斜視図。
図12】[図12A]第3の実施形態に係る構造体の正面図、[図12B図12AにおけるD-D断面図。
図13】[図13A]第4の実施形態に係る構造体の正面斜視図、[図13B]第4の実施形態に係る構造体の背面斜視図。
図14】[図14A]第4の実施形態に係る構造体の正面図、[図14B図14AにおけるE-E断面図。
図15】バイスタイプの治具を示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組合せ可能である。以下、簡単のため、構造体を着脱する一例として、産業機械がボデーの正面でワークを把握するチャックである場合について説明する。
【0011】
1.第1の実施形態
第1節では、第1の実施形態に係る構造体ST及びチャック1について説明する。図1は、第1の実施形態に係るチャック1の斜視図を示している。図2は、第1の実施形態に係るチャック1の正面図を示している。図3は、図2におけるA-A断面図を示している。
【0012】
産業機械であるチャック1は、ボデー2と、着脱領域と、この着脱領域に取り付けられる構造体STとを備える。換言すると、ボデーの正面でワークを把握するチャック1は、構造体STを備え、これが着脱可能に構成されるものといえる。具体的には、着脱領域とは、チャックの径方向(後述)に開閉可能に構成される複数のマスタージョー3である。また、構造体STは、上物治具と、第1及び第2の固定部材と、規制部材8とを備える。上物治具とは、マスタージョー3に着脱可能に構成される複数のトップジョー4である。第1の固定部材は、逆T字形状を有するTナット5であり、第2の固定部材は、トップジョーボルト6である。以下、これら具体的な構成要素についてさらに詳述する。
【0013】
<ボデー2>
ボデー2は、その正面が回転軸Rに直交するように、その背面側が旋盤等の産業機械(工作機械)に固定されて用いられる。以下の説明で方向を示す際、適宜、この向きに従って、正面側、背面側、回転軸方向(回転軸Rが延在する方向)、周方向(回転軸Rの回りの方向)、径方向(回転軸Rを中心とするその半径の方向)等を用いる。ボデー2は、その正面において径方向に沿って設けられたガイド溝21を備え、マスタージョー3がガイド溝21に収容される。また、ボデー2の内部には、回転軸方向に沿って移動可能なプランジャ22が設けられている。
【0014】
<マスタージョー3>
本実施形態では、3つのマスタージョー3を有するものとして説明しているが、ワークを加工する内容に最適化して選定したチャック1の種類によっては、一対の、又は4つ以上のマスタージョー3を有するものとして実施してもよい。特に、チャック1は、正面(図2参照)からみて3等分した位置ごとにマスタージョー3が配置されていることに留意されたい。これらは同一のため、その内の一箇所のみについて説明するものとする。以後、マスタージョー3に対応するトップジョー4、Tナット5、トップジョーボルト6等についても同様である。
【0015】
図1及び図3に示されるように、マスタージョー3は、ボデー2におけるガイド溝21に収容されている。これによりマスタージョー3は、ガイド溝21に沿って径方向に開閉可能に構成される。具体的には、プランジャ22の回転軸方向の並進移動がマスタージョー3の径方向の並進移動に変換可能であるように、ボデー2の内部の構成要素が連関的に配置されている。かかる内部の構成要素については特に限定されるものではない。
【0016】
図4Aは、マスタージョー3の正面斜視図を示し、図4Bは、マスタージョー3の背面斜視図を示している。すなわち、チャック1は、トップジョー4を着脱させるマスタージョー3に第1の空間を有する。第1の空間とは、逆T字形状を有し且つTナット5を収容するT溝31である。これによりTナット5がマスタージョー3におけるT溝31に対して挿入可能に構成される。また、マスタージョー3は、山及び谷が交互に連続してなるセレーション35を有する。セレーション35のピッチの値は、例えば、0.5~5.0mmであり、後述のトップジョー4におけるセレーション45のピッチと同一になるように構成されている。
【0017】
<トップジョー4>
図5Aは、トップジョー4の正面斜視図を示し、図5Bは、トップジョー4の背面斜視図を示している。トップジョー4は、把握面40を備え、マスタージョー3上に取り付けられることで所望の作業対象であるワーク(不図示)を把握面40により把握可能に構成される。本実施形態では、トップジョー4は、把握面40が中心側に近い位置に成形された状態を示している。一方、大きいワークに合わせて把握面40を外周側に成形することもできる。
【0018】
トップジョー4は、第2の空間を有する。第2の空間とは、トップジョーボルト6を貫通させる貫通孔41である。より詳細には、トップジョー4は、その正面から背面に連なるトップジョーボルト6を挿通させるための貫通孔41を有している。また、トップジョー4は、その背面視において廻り止め部材71(ピン)を挿入させるためのピン穴43を有している。さらに、トップジョー4の両端面42の一方には、トップジョーボルト6の挿通方向(回転軸方向)に略垂直方向に沿って、係止部材72(ピン)を挿入させるピン穴44が2つ設けられている。なお、数は特に限定されるものではない。これらについては再度説明する。
【0019】
また、図5Bに示されるように、トップジョー4は、セレーション35とピッチの値が等しいセレーション45を有する。すなわち、チャック1は、セレーション35,45の山と谷を互いに噛み合わせて、ピッチ単位で、その相対位置を調節することができる。山及び谷が連続する方向が、トップジョー4の位置を調節する調節方向となる。セレーション35,45によってマスタージョー3とトップジョー4の相対位置を確定させた後、後述のTナット5にトップジョーボルト6を締めていくことで、マスタージョー3に対するトップジョー4の相対位置を固定することができる。
【0020】
<Tナット5及びトップジョーボルト6>
図6Aは、第1の実施形態に係る構造体STの正面斜視図を示し、図6Bは、第1の実施形態に係る構造体STの背面斜視図を示している。図7は、第1の実施形態に係る構造体STの分解図を示している。Tナット5は、T溝31に収容可能に構成される。そして、Tナット5にボルト穴51が設けられ、トップジョーボルト6がボルト穴51に螺合可能に構成される。また、トップジョーボルト6は、貫通孔41に収容可能に構成される。
【0021】
まとめると、トップジョーボルト6がトップジョー4における貫通孔41に挿通され且つTナット5におけるボルト穴51に緩く螺合されることで、予めトップジョー4、Tナット5及びトップジョーボルト6が略一体化された状態(後述の構造体ST)が実現される。この状態からTナット5をマスタージョー3におけるT溝31に挿入するとともに、トップジョーボルト6をボルト穴51に対してさらに締めることで、トップジョー4がマスタージョー3に固定される。
【0022】
すなわち、Tナット5及びトップジョーボルト6の螺合度合いを調節することで、トップジョー4をマスタージョー3に対して着脱可能に構成されることに留意されたい。また、このような着脱に際して、構造体STが一体的な交換ユニットとして取り扱われる。
【0023】
図8Aは、第1の実施形態に係る構造体STの正面図を示し、図8Bは、図8AにおけるB-B断面図を示している。構造体STにおいては、トップジョーボルト6が1本であり、これによって、構造体STとして一体化されていることに留意されたい。そのため、螺合度合いの調節時に、トップジョーボルト6周りにトップジョー4が回転してしまうおそれがある。これを防止するため、第1の実施形態では、構造体STが廻り止め部材71をさらに備える。Tナット5にはピン穴52が設けられ、廻り止め部材71は、トップジョー4及びTナット5にそれぞれ設けられたピン穴43,52にまたがって延在し、これにより、螺合度合いを調節する際にトップジョー4がTナット5に対してトップジョーボルト6周りに回転しないように構成される。
【0024】
また、構造体STにおいては、トップジョー4が係止部材72をさらに備える。そして、螺合度合いを緩めると、トップジョーボルト6が係止部材72を介してトップジョー4を押圧し、これにより、トップジョー4がマスタージョー3から強制的に離間するように構成される。このような構成により、螺合度合いをある程度緩めた状態であっても、Tナット5に対するトップジョー4の相対位置関係が安定する。すなわち、螺合度合いに応じてTナット5に対するトップジョー4の相対位置関係が再現性を有して決まる。つまり好ましくは、螺合度合いに比例してトップジョー4とTナット5との互いの距離が決まるものである。また、このような係止部材72を備えることで、トップジョーボルト6を緩めた際に、トップジョーボルト6がトップジョー4から分離されること、すなわち構造体STが分解されることを防ぐことができる。
【0025】
さらに、トップジョーボルト6のボルトヘッド61(図7参照)は、その奥側に六角部62を有し、その手前側に内径把握可能な把握部63を有する(図8A及び図8B参照)。なお、手前及び奥については設計事項であって、逆にしてもよい。かかる箇所を、作業者が、例えば、内径把握可能な専用器具を用いて把握することができる。
【0026】
<規制部材8>
図6及び図8Bに示されるように、第1の実施形態に係る構造体STにおいては、規制部材8がトップジョーボルト6の軸側の端部65に設けられ、トップジョーボルト6とともに移動するように構成される。そして、規制部材8は、フランジ部81と、軸部82とを備える。Tナット5とトップジョーボルト6との螺合度合いを緩め続けると、フランジ部81がTナット5に当接して、トップジョー4とTナット5とのさらなる離間を規制するように構成される。ここでは一例として、規制部材8は、螺合度合いがさらに緩むことを防止するように構成される。具体的には、フランジ部81は、トップジョーボルト6が螺合しているボルト穴51よりも大きな外径を有する。このため、螺合度合いが緩まってトップジョー4とTナット5とが一定の距離以上離間しようとすると、規制部材8におけるフランジ部81が、ボルト穴51の周辺縁51aと当接して、これ以上の移動が規制される。
【0027】
係止部材72及び規制部材8を含むこのような構成によれば、不慣れな作業者であっても、着脱に際して誤って構造体STをすべての構成部品ごとに分解することなく少なくとも一部を一体的に取り扱うことができる。また作業者は、螺合度合いを緩めた状態で構造体STを円滑に移動させることができ、これによって安定な着脱が可能になる。さらには、着脱に必要な最低限度の距離だけ緩めるように規制部材8を構成すればよく、螺合作業の手間が省ける。
【0028】
<位置決め機構9>
さらに、構造体STには、位置決め機構9が設けられる。位置決め機構9は、トップジョー4の両端面42に配置される。位置決め機構9は、板状部材91と、ボルト92とから構成される。板状部材91は、長孔95を有し、長孔95の長手方向がトップジョー4の調節方向に一致するように設けられている。ボルト92を長孔95に挿通させて所望の位置でトップジョー4におけるボルト穴46にネジ止めすることによって、板状部材91がトップジョー4に固定される。
【0029】
板状部材91の端部91bには、トップジョー4からマスタージョー3に向かう方向に板状突出片93(当接部)が張り出し、マスタージョー3の端面32と当接可能に構成される。図6A及び図6Bにおいては、板状突出片93は板状部材91に対して折れ曲がって形成されているが、あくまでも一例でありこの限りではない。板状突出片93がマスタージョー3の端面32と当接可能に構成されれば、どのような形状であってもよい。
【0030】
2.第2の実施形態
第2節では、第2の実施形態に係る構造体ST及びチャック1について説明する。ただし、第1の実施形態に係る構造体ST及びチャック1との共通部分についてはその説明を省略する。
【0031】
図9Aは、第2の実施形態に係る構造体STの正面斜視図を示し、図9Bは、第2の実施形態に係る構造体STの背面斜視図を示している。図10Aは、第2の実施形態に係る構造体STの正面図を示し、図10Bは、図10AにおけるC-C断面図を示している。
【0032】
第2の実施形態に係る構造体STは、第1の実施形態に係る構造体STの規制部材8を別の態様としたものである。特に、規制部材8がトップジョー4に設けられ、トップジョー4とともに移動するように構成されることに留意されたい。
【0033】
具体的には、図10Bに示されるように、構造体STにおいては、規制部材8がストッパピンとして実施されている。ここでは、2つのストッパピンであることに留意されたい。このようなストッパピンとして実施される規制部材8は、フランジ部81と、軸部82とを備える。規制部材8は、Tナット5に設けられた2つのピン穴53に収容され、その軸部82の端部がトップジョー4と螺合されている。そして、トップジョー4とTナット5との相対移動を、規制部材8(ストッパピン)の延在方向(すなわち、チャック1に係る回転軸方向)の並進移動のみに限定するように構成される。したがって、第2の実施形態に係る構造体STは、第1の実施形態において具備されていた廻り止め部材71を必要とせず、これを有しない。換言すると、トップジョー4とTナット5とが、かかる延在方向以外については、精密に位置合わせがなされていることとなる。
【0034】
さらに、Tナット5とトップジョーボルト6との螺合度合いを緩め続けると、フランジ部81がTナット5に当接して、トップジョー4とTナット5とのさらなる離間を規制するように構成される。具体的には、フランジ部81は、軸部82が挿通されているピン穴53よりも大きな外径を有する。このため、螺合度合いが緩まってトップジョー4とTナット5とが一定の距離以上離間しようとすると、規制部材8におけるフランジ部81が、ピン穴53の周辺縁53aと当接して、これ以上の移動が規制される。このような構成によって、不慣れな作業者であっても、着脱に際して誤って構造体STを構成部品ごとに分解することなく一体的に取り扱うことができる。
【0035】
また、構造体STにおいては、トップジョー4は、さらに両端面42を備える。そして、螺合度合いを緩めた状態で両端面42を把握して構造体STを移動させる場合に、トップジョー4と、Tナット5及びトップジョーボルト6との相対位置が維持されることに留意されたい。
【0036】
このような構成によれば、不慣れな作業者であっても、両端面42を手等で把握することで、着脱に際して誤って構造体STをすべての構成部品ごとに分解することなく少なくとも一部を一体的に取り扱うことができる。また作業者は、螺合度合いを緩めた状態で構造体STを円滑に移動させることができ、これによって安定な着脱を可能とする。
【0037】
3.第3の実施形態
第3節では、第3の実施形態に係る構造体ST及びチャック1について説明する。ただし、第1及び第2の実施形態に係る構造体ST及びチャック1との共通部分についてはその説明を省略する。
【0038】
図11Aは、第3の実施形態に係る構造体STの正面斜視図を示し、図11Bは、第3の実施形態に係る構造体STの背面斜視図を示している。図12Aは、第3の実施形態に係る構造体STの正面図を示し、図12Bは、図12AにおけるD-D断面図を示している。
【0039】
図12Bに示されるように、第3の実施形態に係る構造体STは、第2の実施形態に係る構造体STと同様に、ストッパピンである規制部材8を備える。規制部材8は、トップジョー4とTナット5とのさらなる離間を規制するように構成される。一方、第2の実施形態に係る構造体STが具備していた係止部材72に代え、弾性部材であるバネ74をさらに備える。バネ74は、螺合度合いを緩めるとトップジョー4がマスタージョー3から強制的に離間するように付勢することに留意されたい。
【0040】
具体的には、規制部材8の周囲にバネ74が巻きつけられた状態で、ピン穴53に収容されている。バネ74は自然長よりも縮まった状態で収容されており、Tナット5とトップジョーボルト6との螺合状態を緩めることで、トップジョー4がマスタージョー3から強制的に離間するように付勢している。
【0041】
第3の実施形態においても、螺合度合いを緩めた状態で両端面42を把握して構造体STを移動させる場合に、トップジョー4と、Tナット5及びトップジョーボルト6との相対位置が維持されることに留意されたい。
【0042】
このような構成によれば、不慣れな作業者であっても、両端面42を手等で把握することで、着脱に際して誤って構造体STをすべての構成部品ごとに分解することなく少なくとも一部を一体的に取り扱うことができる。本実施形態では、トップジョー4及びTナット5を一体的に取り扱うことができる。また作業者は、螺合度合いを緩めた状態で構造体STを円滑に移動させることができ、これによって安定な着脱を可能とする。
【0043】
4.第4の実施形態
第4節では、第4の実施形態に係る構造体ST及びチャック1について説明する。ただし、第1~第3の実施形態に係る構造体ST及びチャック1との共通部分についてはその説明を省略する。
【0044】
図13Aは、第4の実施形態に係る構造体STの正面斜視図を示し、図13Bは、第4の実施形態に係る構造体STの背面斜視図を示している。図14Aは、第4の実施形態に係る構造体STの正面図を示し、図14Bは、図14AにおけるE-E断面図を示している。
【0045】
図14Bに示されるように、第4の実施形態に係る構造体STは、第2及び第3の実施形態に係る構造体STと同様に、ストッパピンである規制部材8を備える。一方、第2及び第3の実施形態に係る構造体STとは異なり、規制部材8がTナット5に設けられる。すなわち、規制部材8は、フランジ部81と、軸部82とを備え、軸部82の少なくとも一部である先端部82aがTナット5に固定されていればよい。具体的には例えば、Tナット5にボルト穴54が設けられるとともに、規制部材8の先端部82aにはネジが切られている。そして、ボルト穴54の周辺縁54aと軸部82の途中に設けられたフランジ部83とが当接するまでネジである先端部82aをボルト穴54に螺合させることで、規制部材8がTナット5に固定される。
【0046】
また、第4の実施形態に係る構造体STは、第1~第3の実施形態と同様に、螺合度合いを緩めると、トップジョー4がマスタージョー3から強制的に離間するように構成されている。ここでは一例として、第3の実施形態に係る構造体STのように、弾性部材であるバネ74が採用されている。バネ74は、螺合度合いを緩めるとトップジョー4がマスタージョー3から強制的に離間するように付勢する。バネ74の態様については、第3の実施形態と略同様であってよい。そして、規制部材8は、トップジョー4がTナット5に対して移動する場合に、この移動方向においてTナット5とともに定位置に留まるように構成される。
【0047】
また、第4の実施形態では、螺合度合いを緩め続けると、フランジ部81が上物治具の一例であるトップジョー4に当接して、トップジョー4とTナット5とのさらなる離間を規制するように構成される。具体的には、フランジ部81は、軸部82が挿通されているピン穴43よりも大きな外径を有する。このため、螺合度合いが緩まってトップジョー4とTナット5とが一定の距離以上離間しようとすると、規制部材8におけるフランジ部81が、ピン穴43の周辺縁43aと当接して、これ以上の移動が規制される。このような構成によって、不慣れな作業者であっても、着脱に際して誤って構造体STをすべての構成部品ごとに分解することなく少なくとも一部を一体的に取り扱うことができる。
【0048】
第4の実施形態においても、螺合度合いを緩めた状態で両端面42を把握して構造体STを移動させる場合に、トップジョー4と、Tナット5及びトップジョーボルト6との相対位置が維持されることに留意されたい。
【0049】
このような構成によれば、不慣れな作業者であっても、両端面42を手等で把握することで、着脱に際して誤って構造体STをすべての構成部品ごとに分解することなく少なくとも一部を一体的に取り扱うことができる。本実施形態では、トップジョー4及びTナット5を一体的に取り扱うことができる。また作業者は、螺合度合いを緩めた状態で構造体STを円滑に移動させることができ、これによって安定な着脱を可能とする。
【0050】
5.変形例
前述の各実施形態を以下の態様によって実施することもできる。
(1)産業機械は、チャック1に限定されるものではなく、構造体STが例えば、マシニングセンタや5軸加工機等で使用するセレーションを採用した把持具として実施されてもよい。ここでは、バイスタイプの治具の例を説明する。図15は、バイスタイプの治具を示した斜視図である。同図に示す例は、治具本体3aに、把握ジョーの固定部4aと、把握ジョーの可動部4bと、固定ジョー4cとが装着されている。この例の場合、固定部4aと、可動部4bと、Tナット5とを含む構造体STが実施され、固定ジョー4cと、Tナット5とを含む他の構造体STがさらに実施されている。かかる場合も、作業者は、両端面42を手等で把握することで、着脱に際して誤って構造体STをすべての構成部品ごとに分解することなく少なくとも一部を一体的に取り扱うことができる。
(2)産業機械本体だけでなく保管用のストッカに対して、同様の構造で構造体STを着脱してもよい。かかる場合も、作業者は、両端面42を手等で把握することで、着脱に際して誤って構造体STをすべての構成部品ごとに分解することなく少なくとも一部を一体的に取り扱うことができる。
(3)前述の実施形態に係る構造体STによれば、安定な着脱が期待されることから、作業者による手作業に代えて、ロボットが着脱作業を自動で行うように実施してもよい。あるいは、作業者がトルクレンチや六角棒スパナの他、インパクトレンチやナットランナーなどの自動工具を使用するように実施してもよい。
(4)第1及び第2の実施形態では、係止部材72としてピンを採用しているが、ピンに代えてトメ輪を使用してもよい。あるいは、トップジョー4とTナット5との間に不図示のナットを入れてトップジョーボルト6に固定してもよい。
(5)第2及び第3の実施形態では、安定性を考慮して、複数である2本のストッパピンを採用しているが、回転を防止する廻り止め機能を持たせれば、1本のストッパピンで実施してもよい。
(6)第4の実施形態において、トップジョーボルト6と、規制部材8との配置を逆にして実施してもよい。
【0051】
6.結言
このように、不慣れな作業者でも誤って構成部品に分解することなく、円滑に上物治具を着脱することができる構造体STが提供される。
【0052】
次に記載の各態様で提供されてもよい。
前記構造体において、前記規制部材が前記第2の固定部材の端部に設けられ、前記第2の固定部材とともに移動するように構成されるもの。
前記構造体において、前記規制部材が前記上物治具に設けられ、前記上物治具とともに移動するように構成されるもの。
産業機械に装着して使用する構造体であって、上物治具と、第1及び第2の固定部材と、規制部材とを備え、前記産業機械は、前記上物治具を着脱させる着脱領域に第1の空間を有し、前記上物治具は、第2の空間を有し、前記第1の固定部材は、前記第1の空間に収容可能に構成され、前記第2の固定部材は、前記第2の空間に収容可能に構成され、前記第1及び第2の固定部材の螺合度合いを調節することで、前記上物治具を前記着脱領域に対して着脱可能に構成され、前記規制部材は、フランジ部を備え、前記螺合度合いを緩め続けると、前記フランジ部が前記上物治具に当接して、前記上物治具と前記第1の固定部材とのさらなる離間を規制するように構成されるもの。
前記構造体において、前記規制部材は、前記第1の固定部材に設けられ、前記上物治具が前記第1の固定部材に対して移動する場合に、この移動方向において前記第1の固定部材とともに定位置に留まるように構成されるもの。
前記構造体において、前記螺合度合いを緩めると、前記上物治具が前記産業機械の着脱領域から強制的に離間するように構成されるもの。
前記構造体において、前記上物治具が係止部材をさらに備え、前記螺合度合いを緩めると、前記第2の固定部材の一端が前記係止部材を介して前記上物治具を押圧し、これにより、前記上物治具が前記産業機械の着脱領域から強制的に離間するように構成されるもの。
前記構造体において、弾性部材をさらに備え、前記弾性部材は、前記螺合度合いを緩めると前記上物治具が前記産業機械の着脱領域から強制的に離間するように、付勢するもの。
前記構造体において、前記規制部材は、ストッパピンであり、前記上物治具と前記第1の固定部材との相対移動を、前記ストッパピンの延在方向の並進移動のみに限定するように構成されるもの。
前記構造体において、前記上物治具は、さらに両端面を備え、前記螺合度合いを緩めた状態で前記両端面を把握して本構造体を移動させる場合に、前記上物治具と、前記第1及び第2の固定部材との相対位置が維持されるもの。
前記構造体において、前記産業機械は、ボデーの正面でワークを把握するチャックであり、前記産業機械の着脱領域は、前記チャックの径方向に開閉可能に構成される複数のマスタージョーであり、前記上物治具は、前記マスタージョーに着脱可能に構成される複数のトップジョーであり、前記第1の固定部材は、逆T字形状を有するTナットであり、前記第1の空間は、前記逆T字形状を有し且つ前記Tナットを収容するT溝であり、前記第2の固定部材は、ボルトであり、前記第2の空間は、前記ボルトを貫通させる貫通孔であり、前記Tナットにボルト穴が設けられ、前記ボルトが前記ボルト穴に螺合可能に構成されるもの。
ボデーの正面でワークを把握するチャックであって、前記構造体を備え、これが着脱可能に構成されるもの。
もちろん、この限りではない。
【0053】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0054】
1 :チャック
2 :ボデー
21 :ガイド溝
3 :マスタージョー
31 :T溝
32 :端面
4 :トップジョー
41 :貫通孔
42 :両端面
5 :Tナット
51 :ボルト穴
6 :トップジョーボルト
72 :係止部材
74 :バネ
8 :規制部材
81 :フランジ部
82 :軸部
ST :構造体
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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