(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】電解処理用金属電極、その電極を用いた電解処理装置と被処理水の浄化方法
(51)【国際特許分類】
C25F 7/00 20060101AFI20241120BHJP
C02F 1/463 20230101ALI20241120BHJP
C25F 1/00 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C25F7/00 S
C02F1/463
C25F1/00 A
(21)【出願番号】P 2020196133
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健二
(72)【発明者】
【氏名】今田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 厚
(72)【発明者】
【氏名】古藤 慶彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】茂庭 忍
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-057744(JP,A)
【文献】特開2003-300082(JP,A)
【文献】特開2003-024943(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0122636(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0086609(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/46-1/48
C25F1/00-7/02
C25B11/00-11/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を滞留させる電解槽と、
前記被処理水に、少なくとも一部が浸漬される複数の金属電極と、
電源装置とを具備し、
前記金属電極の少なくともひとつが、複数の、
前記被処理水に浸漬される側の末端側の長さが異なり、均一な厚さの板状金属材料を積み重ねて密着させた
、階段状の構造を有し、
前記金属電極の、前記被処理水に浸漬される部分の長さ方向に垂直方向の断面積が、
前記階段状の構造により、末端側に向かって単調減少するくさび型形状を有し、
前記金属電極の長さをD1、断面積が単調減少する領域の長さをD2、前記板状金属材料の積み重ねにより形成された階段状の部分を1つの平面とした場合の先端部分の角度αとしたとき、
10°<α<45°および
1<D1/D2<2
を満たし、かつ
前記複数の金属電極のうち、少なくとも2つが前記電源に接続される接続電極である電解処理装置。
【請求項2】
前記金属電極が、同一の幅を有する板状金属材料を積み重ねて密着させた構造を有する、請求項1に記載の電解処理装置。
【請求項3】
前記金属電極が、アルミニウム、鉄、亜鉛、ニッケル、マグネシウム、およびそれらを含む合金からなる群から選択される金属材料を少なくとも1種含む、請求項1または2に記載の電解処理装置。
【請求項4】
前記金属電極の前記被処理水に浸漬される部分の金属組成が均一である、請求項1~3いずれか1項に記載の電解処理装置。
【請求項5】
前記複数の金属電極の少なくともひとつが、前記電源装置に接続されていない非接続電極であり、前記非接続電極が前記くさび型形状を有する金属電極である、請求項
1~4のいずれか1項に記載の電解処理装置。
【請求項6】
不純物を含む被処理水に、複数の金属電極を浸漬させ、前記複数の金属電極のうち、少なくとも2つの電極を通電させることにより不純物を除去する、被処理水の浄化方法であって、
前記金属電極の少なくともひとつが、複数の、
前記被処理水に浸漬される側の末端側の長さが異なり、均一な厚さの板状金属材料を積み重ねて密着させた
、階段状の構造を有し、
前記金属電極の、前記被処理水に浸漬される部分の長さ方向に垂直方向の断面積が、
前記階段状の構造により、末端側に向かって単調減少するくさび型形状を有し、かつ
前記金属電極の長さをD1、断面積が単調減少する領域の長さをD2、前記板状金属材料の積み重ねにより形成された階段状の部分を1つの平面として考えた場合の先端部分の角度αとしたとき、
10°<α<45°および
1<D1/D2<2
を満たす、浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水処理工程における電解処理用の電極とその電極を用いた電解処理装置ならびに被処理水の浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水処理工程などにおいて、水質を向上させるための方法として、アルミニウムや鉄などの電極を陽極とし、被処理水を電解し、被処理水中に溶存しているイオンなどの不純物を除去する、電解凝集法(Electro Coagulation)が知られてる。この方法では、被処理水中に浸漬された陽極と陰極との間に通電すると、犠牲電極とも呼ばれる陽極から金属イオンが溶出し、この金属イオンが水酸化物となって被処理水中の他の溶存物質と結合して凝集し、沈殿を形成する。この結果、被処理水中の溶存物質が沈殿物として除去できるものである。しかし、このような方法では、一般的に陽極は処理の進行に伴って消耗していく。
【0003】
一般的に、電極は板状または棒状の形状を有しており、理想的には、電解処理に際して電極の面部位ではその表面が均一に溶出し、また、電極の末端部分から溶出していくので、電極のすべてが溶解するまで長期間に渡って使用できる。しかし、実際には被処理水の流動や析出物の影響によって、意図しない部分で溶出が集中的に起こることがある。このような場合、溶出の集中した部分において電極の破断が起こり、電解回路における所定の電流や電圧が保てず、システムが停止することもある。したがって、電極の破断が起こった場合には予期せぬ短期間で犠牲電極を交換する必要が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第823,671号明細書
【文献】米国特許第1,0287,189号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、上記のような課題に鑑みて、電解処理を長時間行っても破断がおこりにくく、容易かつ安価に形成できる、電解処理用金属電極、ならびにそれを用いた電解処理装置および電解処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態による金属電極は、
被処理水の電解処理に用いられる金属電極であって、
前記金属電極の、前記被処理水に浸漬される部分の、長さ方向または巾方向のいずれかに垂直方向の断面積が、末端側に向かって単調減少するくさび型形状を有するものであることを特徴とするものである。
【0007】
また、実施形態による電解処理装置は
被処理水を滞留させる電解槽と、
前記被処理水に、少なくとも一部が浸漬される複数の金属電極と、
電源装置とを具備し、
前記金属電極の少なくともひとつが
前記金属電極が、前記被処理水に浸漬される部分の、長さ方向または巾方向のいずれかに垂直方向の断面積が、末端側に向かって単調減少するくさび型形状を有し、かつ
前記複数の金属電極のうち、少なくとも少なくとも2つが前記電源に接続される接続電極であることを特徴とするものである。
【0008】
また、実施形態による被処理水の浄化方法は、
不純物を含む被処理水に、複数の金属電極を浸漬させ、前記複数の金属電極のうち、少なくとも2つの電極を通電させることにより不純物を除去する、被処理水の浄化方法であって、
前記金属電極の少なくともひとつが
前記金属電極が、前記被処理水に浸漬される部分の、長さ方向または巾方向のいずれかに垂直方向の断面積が、末端側に向かって単調減少するくさび型形状を有するものであることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図14】一実施形態に係る電解処理システムの概念図。
【
図15】比較例1における金属電極の状態を示す写真。
【
図16】比較例2における金属電極の状態を示す写真。
【
図17】実施例1における金属電極の状態を示す写真。
【
図18】実施例2における金属電極の状態を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態について、図面を用いて詳細に説明すると以下の通りである。
【0011】
なお、本明細書記載の「均一」とは、全く変動がないこと、または実質的に変動がないことを意味する。具体的には、厚さ、幅、長さなどの寸法が均一であるとは、それらの寸法を部位ごとに測定した場合の平均値と最頻値との差が±5%以下であることを意味する。また、組成などの割合が均一であるとは、混合物や合金などにおいて、特定成分の含有率を部位ごとに測定した場合の平均値と最頻値との差が±5%以下であることを意味する。
【0012】
図1は、実施形態による電解処理装置100の概念図である。電解槽101の内側に、陽極102と陰極103とが配置され、陽極102と陰極103には、それらに通電するための電源装置104が、導線105aおよび105bを介して接続されている。陽極102と陰極103は、電解槽101に処理液101aが導入されたときに、少なくともその一部が処理液に浸漬される位置に配置される。
【0013】
この電解処理装置は、陽極102に、実施形態による、くさび型形状を有する金属電極を備えるが、それ以外は従来知られている電解処理装置と同様の構成とすることができる。
【0014】
陽極102として用いられる金属電極は、くさび型形状を有している。一般的に電解処理に用いられる電極は、均一な幅および厚さを有する板状電極、または四角柱や円柱状の棒状電極である。実施形態によるくさび型形状を有する金属電極は、電解処理をする対象となる被処理水に浸漬される部分が、幅または厚さが均一ではなく、長さ方向または巾方向のいずれかに垂直方向の断面積が、末端側に向かって単調減少する形状を有している。
【0015】
なお、実施形態において末端側というのは、一般的には、金属電極が電源に接続される側とは反対側である。例えば、棒状の金属電極を被処理水に浸漬して電解処理を行う場合、典型的には電極を鉛直方向に設置する。そして、下方を被処理水中に水没させ、被処理水に水没していない上方の一箇所で電源と接続する。このような場合、被処理水に水没している側の端部、電源に接続されている部分から最も遠い端部、または鉛直方向の最下端が末端となる。また、金属電極が電解槽の側面から挿入されるような場合、すなわち、金属電極が鉛直方向に設置されていない場合には、電源に接続されている部分から最も遠い端部が末端部となる。金属電極は、後述するように、電源と接続せずに用いられる場合もあるが、その場合においても、被処理水に水没している側の端部、または鉛直方向の最下端が末端となる。
【0016】
例えば、
図2に、一実施形態による金属電極の斜視図を示す。この金属電極は、全体的に厚さが均一であるが、最も大きな面積を有する面が台形である。つまり、長方形の平面の端部斜めに切り落とされた形状を有しており、平面的に見ると、鋭角の先端部分を有していて、その先端部分に向かって幅が狭くなっていく形状となっている。そして、この先端部分側を末端側とすると、この電極の長さ方向に垂直方向の断面積は、末端側に向かって単調に減少する。幅が一定の部分では断面積は変化しないが、本明細書においてはそのような場合も含めて「末端側に向かって単調減少する」という。すなわち、この用語は「末端側に向かって増加しない」ことを意味する。
【0017】
なお、本実施形態において「長さ方向」とは、電極の投影面積が最大となる方向から見た場合の断面に外接する、最小面積の矩形の長辺に平行な方向をいう。また、「巾方向」は、その長さ方向に垂直な方向のうちのひとつをいう。したがって、板状または棒状の金属電極においては、一般的にその最も長い辺に平行な方向が長さ方向となる。また金属電極の形状が円柱状または円錐状などの場合には、一般的に柱または錐の高さ方向が長さ方向となる。
【0018】
図2に示される金属電極は、長さ方向の長さD1が、巾方向の長さD3よりも長く、縦長の形状であり、深い電解槽に適用するのが好ましいものである。
【0019】
図3には、他の実施形態による金属電極の斜視図を示す。この金属電極は、
図2の金属電極に対して、図面の縦方向(巾方向)の長さD1が、図面の横方向(長さ方向)の長さD3よりも短く、横長の形状であり、浅い電解槽に適用するのが好ましいものである。
【0020】
図4には、他の実施形態による金属電極の斜視図を示す。この金属電極は、全体的に幅が均一であり、最も大きな面積を有する面は長方形である。そして、その長方形の面に接続する側面が台形形状であり、その側面が鋭角の先端部分を有していて、その先端部分に向かって厚さが薄くなっていく形状となっている。つまり、この金属電極は幅が均一であり、長さ方向に垂直方向の厚さが、末端側に向かって単調減少する形状を有している。言い換えると、
図4の金属電極は片刃くさび状の形状を有している。
【0021】
図5には、他の実施形態による金属電極の斜視図を示す。この金属電極は、全体的に幅が均一であり、最も大きな面積を有する側面は五角形形状を有し、この側面が鋭角の先端部分を有している。言い換えると、
図5の金属電極は両刃くさび状の形状を有している。このような場合、先端部分の断面形状は対称、すなわち二等辺三角形であることが理想的であるが、非対称であってもよい。
【0022】
図6には、他の実施形態による金属電極の斜視図を示す。この金属電極は、板状または棒状の材料の一端の4辺が面取りされ、四角錐形状を有している。
【0023】
図7には、他の実施形態による金属電極の斜視図を示す。この金属電極は、ひとつの面(側面)が台形形状である点で、
図2に示された金属電極と共通しているが、その側面に垂直な方向(長さ方向)の長さに対して、図面の縦方向(巾方向)の長さが短くなっている。すなわち、この金属電極は、幅が均一であり、巾方向に垂直方向の厚さが、末端側に向かって単調減少する形状を有している。
【0024】
図8には、他の実施形態による金属電極の斜視図を示す。
図8に示される金属電極は、
図2に示された金属電極に対して、先端部分が切り落とされた形状を有している。
【0025】
図9には、他の実施形態による金属電極の斜視図を示す。この金属電極は、円柱状の材料の一端が円錐状に成形された形状を有している。
【0026】
図10には、他の実施形態による金属電極の斜視図を示す。この金属電極は、円柱状の材料の一端が斜めに切り落とされた形状を有している。
【0027】
なお、一般に「くさび型形状」と呼ばれる典型的な形状は、
図4または5に示されるような形状であるが、実施形態において「くさび型形状」というのは、「長さ方向または巾方向のいずれかに垂直方向の断面積が、末端側に向かって単調減少する」形状であり、前述した形態をすべて包含するものである。
【0028】
ここに例示したような、長さ方向または巾方向のいずれかに垂直方向の断面積が、末端側に向かって単調減少するくさび型形状を有する金属電極を電解処理に用いると、幅の狭い部分、厚さの薄い部分、先端部分が優先的に溶出していき、先端部分から浸食を受けていく。その結果、幅の広い部分または厚さの厚い部分が局所的に浸食を受けにくくなって、電極の破断が抑制されると考えられる。
【0029】
また、金属電極をこのようなくさび型形状をすることで、溶出した金属が水酸化物になって沈殿すると同時に、電極表面に析出して付着した水酸化物等が電極表面からはがれやすく、脱落しやすくなるので、より電極の破断を抑制することができる。
【0030】
これらのくさび型形状を有する金属電極は、いずれも実施形態による効果を得られるものであるが、特に
図2、3、7、または10に示される構造は、板状、方形状、または柱状の材料を長さ方向または巾方向に対して斜めの方向で切断することで容易に製造できるので好ましい。特に、ひとつの原材料を2つに切断することで、2つの金属電極を2つ製造することも容易である。なお、このような場合、切断前の材料の長さ方向または巾方向は、一般に金属電極の長さ方向または巾方向に一致する。
【0031】
また、実施形態による金属電極は、
図11に示すように、複数の、均一な厚さの板状金属材料を積み重ねて密着させた構造とすることで、くさび型形状を実現するものであってもよい。このような形状は、例えば長さ方向に垂直方向の断面積が、末端側に向かって、段階的に単調減少する形状を有しているものである。このような構造は、板状の金属材料を重ねるだけで製造できるので製造が容易である。板状材料を積み重ねた後、加熱溶融して一体化することで、板状材料の間の抵抗値を下げることができ、また電解処理時に不要な浸食を受けにくくなるので好ましい。しかし、板状材料が十分に平滑であれば、相互に密着するだけで十分な効果が得られる上、製造コストも抑制できるので、必ずしも加熱溶融して一体化させる必要は無く、重ね合わせて固定化させられればよい。
【0032】
なお、実施形態による、くさび型形状を有する金属電極の形状は、その電極を適用しようとする電解処理装置、より具体的には電解槽の形状も考慮することが好ましい。すなわち、電解槽の深さが深い場合には幅が狭く、電解槽の深さ方向に長い形状が好ましく、電解槽が浅い場合には幅が広く電解槽の深さ方向に短い形状が好ましい。例えば、
図2、4、5、6、8~11に示された電極は電解槽が深い場合に、
図3および7の電極は電解槽が浅い場合に好ましく適用される。
【0033】
例えば
図2または3に示される、厚さが一定であり、断面積が先端部分に向かって単調減少する金属電極の場合、先端部分の角度αは、一般に10~60°の範囲から選ばれるのが好ましい。ただし、電解槽が相対的に深い場合、すなわち金属電極の被処理液に浸漬される部分の長さが長い場合には角度αは小さく、電解槽が相対的に浅い場合、すなわち被処理液に浸漬される部分の長さが短い場合には角度αは大きいことが好ましい。これは、被処理液に浸漬される部分の長さが長い場合に、幅が一定である部分が長いと、その途中で破断する可能性が高いからである。
【0034】
より具体的には、金属電極の長さをD1、断面積が単調減少する領域の長さ、つまり金属電極の幅が変化する部分の長さをD2、金属電極の幅をD3とすると、
(a)D3≦D1の場合
好ましくは10°<α<45°、より好ましくは10°<α<25°であり、
好ましくは1<D1/D2<2、より好ましくは1.25<D1/D2<2であり、
(b)D1≦D3の場合
好ましくは45°<α<75°、より好ましくは10°<α<60°であり、
好ましくは 1<D1/D2<2、より好ましくは1.25<D1/D2<2である。
【0035】
また、
図4または7に示される、幅が一定であり、先端部分に向かって厚さがうすくなり、断面積が先端部分に向かって単調減少する金属電極の場合も、その側面の形状について、上記と同じ形状が採用されることが好ましい。ただし、このような場合には、一般的に電極の厚さD3’がD1より大きくなることはなく、
好ましくは10°<α<45°、より好ましくは10°<α<30°であり、
好ましくは1<D1/D2<2、より好ましくは1.25<D1/D2<2である。
【0036】
図11に示される、板状材料を積み重ねた構造を有する金属電極においても同様である。このような場合板状材料の積み重ねにより形成された階段状の部分を1つの平面として考えて角度αを決定する。この場合においても、
好ましくは10°<α<45°、より好ましくは10°<α<30°であり、
好ましくは1<D1/D2<2、より好ましくは1.25<D1/D2<2である。
【0037】
図5に示される、断面が両刃くさび状である形状を有する電極は、その先端部分の角度αは10~120°であることが好ましい。そして、この場合も、電解槽が深い場合と、浅い場合とで、αおよびD1/D2の最適値が異なる。具体的には、
(a)D3≦D1の場合
好ましくはα<45°、より好ましくは10°<α<45°であり、
好ましくはD1/D2<1.5、より好ましくは1.25<D1/D2<1.5であり、
(b)D1≦D3の場合
好ましくはα<120°、より好ましくは45°<α<120°であり、
好ましくは D1/D2<5、より好ましくは2<D1/D2<5である。
【0038】
図5に示されるような、断面が両刃くさび状である形状を除き、D1/D2は2を超えない(D1/D2<2)であることが好ましい。D1/D2が2を超えると、断面積が小さい部分が多すぎるため、D1の半分より末端側で浸食が生じ破断の可能性が生じるので好ましくない。
【0039】
なお、実施形態による金属電極は、電解処理をする際に被処理水に浸漬される部分の金属組成が均一であることが好ましい。一般的な電解処理において、電極の破断が起こるのは、電極の中間部分に浸食が起こりやすい部分があるためと考えられる。実施形態においては、その浸食が起こりやすい部分を、金属電極の先端部などに限定することで電極の破断を抑制しているが、金属組成が不均一であったり、金属組成の異なる材料を接合したりすると、浸食部位の制御が困難になる。したがって、被処理液に接触しない部分には、例えば導線の接合材料や、金属電極保持材料を接合することは可能であるが、被処理液に接触する部分の金属組成は均一にすることが好ましい。
【0040】
金属電極を構成する金属は、電解処理の条件などに応じて適切に調整することができるが、例えば、アルミニウム、鉄、亜鉛、ニッケル、マグネシウム、およびそれらを含む合金からなる群から選択される金属材料を少なくとも1種含むことが好ましい。これらのうち、アルミニウム、亜鉛、またはそれらのいずれかを含む合金が入手の容易さの観点から好ましい。
【0041】
実施形態による電解処理装置は、上記の実施形態による金属電極を陽極として具備するものである。そして、実施形態による電解処理装置はこの金属電極以外は従来の電解処理装置と同様の構成とすることができる。
【0042】
電源装置104は、たとえば直流の電力を供給するものである。そして、その陽極側に実施形態による金属電極102が導線105aを介して接続され、陰極側に従来知られている任意の電極103が導線105bを介して接続される。被処理液101aに浸漬された電極102と103との間に電流が発生し、電気分解によって被処理液中のイオン等が沈殿物として除去される。
【0043】
電源装置104は交流の電力を供給するものであってもよい。この場合、2つの電極は、陽極の機能と陰極の機能とを奏するので、2つの内の少なくとも一方、好ましくは両方の電極が、実施形態による電極であることが好ましい。このようにすることで、一方の電極のみが破断することを回避でき、理想的には同時に寿命を迎えることが可能になる。
【0044】
実施形態による電解処理装置において、金属電極は、その先端部分側が被処理水に浸漬される。一般的に、電解処理において、金属電極は長さ方向が鉛直方向となるように配置される(例えば
図1)。そして、電極には、一般的には導線を介して電源が接続されるが、導線の接続位置は、浸漬された先端部と反対側とされるのが一般的である。したがって、実施形態においていう、「金属電極の末端部分」は、導線の接続位置とは反対側の端部となるのが普通であり、また、金属電極に不要な重力がかからないように、長さ方向が鉛直方向となるように配置することが好ましいが、例えば電解槽の側面から槽内に金属電極を挿入する構造としてもよい。
【0045】
また、金属電極全体のうち、電気分解による反応に寄与するのは、被処理液に浸漬された部分である。被処理液に浸漬されない部分(
図1において、被処理液の液面から上に露出している部分)は、いかなる形状であってもよい。例えば、棒状の金属材料の両端に、実施形態による金属電極を備えており、一端を使用した後、もう一端を使用できるようにしてあったり、一端に導線接続用の部材が設けられていてもよい。
【0046】
また、電気分解による反応する部分が被処理液に浸漬する部分だけであり、使用による破断が起こりえるのもその部分に限られる。したがって、前記したD1、D2、およびD3の関係は、D1(電極の長さ方向の長さ)をD1’(電極の被処理液に浸漬される部分の長さ)に置き換えて、前述と同様の関係を有することが好ましい。言い換えると、前記したD1、D2、およびD3の関係は、金属電極のほぼ全部が被処理液に浸漬された場合の関係に対応する。
【0047】
また、実施形態による金属電極は、一般的には電源装置に導線を介して接続されるが、導線に接続しない電極として用いることもできる。すなわち
図12に示すように、陽極102と陰極103との間に、それらと離間して、非接続電極106を配置することができる。このような装置においては、非接続電極106は、被処理液中で液中電流の中継ぎの機能を奏する。このような装置において、非接続電極に、実施形態による金属電極を用いることもできる。
【0048】
また、実施形態による電解処理装置は、実施形態による電極を複数個含むことができる。例えば
図13に示すように、複数の陽極と複数の陰極とを交互に配置した構成を採用し、陽極として実施形態による金属電極を、陰極として例えば炭素電極を用いることで、効率的な電解処理を行うことができる。
【0049】
また、実施形態による金属電極、または電解処理装置は、被処理水を浄化するための消化システムに組み合わせることができる。
図14にそのシステムの概念図を示す。
【0050】
このシステムは、プラントなどの廃液の処理を行うことができるものである。まず、被処理液210は被処理液タンク201を介して間接的に、または廃液の排出源から直接、調整タンク202に供給される。調整タンクでは、被処理液が電解処理を行うのに適したpHおよび伝導度に調整される。pHを調整するタンクと伝導度を調整するタンクはそれぞれ独立していてもよい。
【0051】
pHおよび伝導度が調整された被処理液は、実施形態による電解装置100によって電解処理に付される。この電解処理によって、被処理液中に含まれていたイオン等が凝集物として被処理液中に析出する。
【0052】
凝集物を含む被処理液は、次いで固液分離される。固液分離には、例えば、サイクロン式沈殿槽203を用いることができる。この処理によって析出した凝集物211の大部分が被処理液から除去される。
【0053】
次いで被処理液は例えば逆浸透膜装置204によって、固液分離で除去できなかった凝集物、塩類、イオン等の残留物を含む濃縮液212が除去され、浄化された浄化水213が排出される。
【0054】
各槽の間には、必要に応じてポンプP1~P4が設けられるが、各槽の高低差などを利用してポンプを省略することも可能である。
【0055】
実施形態を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0056】
[比較例1]
不純物を含む被処理液に、アルミニウム製の長方形板状電極を2つ浸漬し、それら電極間に通電して電解処理を行った。
電解処理に伴い、溶出した金属が水酸化物になって沈殿すると同時に、電極表面に析出する現象がみられた。そのまま通電を続けると、電極表面に析出した部分には次第に電気が流れにくくなり、析出の少ない部分に電流が集中する。この結果、その部分の電極の溶出が優先的に進む。
図15は、電解処理を行った後の電極の状態を示す写真である。この写真から、使用前には等方的な形状(長方形)であっても、使用によって非等方的に侵食を受けることがわかる。さらに使用を継続した場合には、浸食が多い部分で破断が起こる。
【0057】
[比較例2]
電極の材料をアルミニウムから亜鉛に変更して、比較例1と同様に電解処理を行った。亜鉛はアルミニウムより溶出速度が速いため、電極の消耗が早くなる。
図16に、使用時間を変更した場合の電極の形状変化を示す写真である。写真の左側端が被処理液に浸漬された先端部である。この写真において、最下段が使用前であり、上側にあるほど使用時間が長い。この写真から、先端部は速く消耗しているが、それ以外の部分においても不規則な消耗部分がみられる。そして、最終的には最上段に示した電極のように破断が起こり、先端部は被処理液中に落下してしまった。
【0058】
[実施例1]
実施形態による、亜鉛製金属電極を準備した。厚さが均一な長方形(帯状)の金属板を、斜めに切断することによって、
図2に示されたくさび型形状を有する電極を準備した。この電極を、3.5時間の電解処理に2回使用した。1回目、および2回目の使用後の状態を
図17に示す。この写真から、くさび型形状を有する金属電極は先端部から優先的に溶出していることがわかる。したがって、一般的な長方形の電極のような、電極の破断が起こることがないことがわかる。
【0059】
[実施例2]
実施形態による、アルミニウム製電極を準備した。厚さが均一である、薄いアルミニウム板を複数準備し、それらを重ね合わせ、密着させることで
図11に示されたくさび型形状を有する電極を準備した。この例において、アルミニウム板は相互に圧着されているだけである。
【0060】
この電極を用いて電解処理を行った。使用後の電極の状態は
図18に示す通りであった。角部はやや丸みをおび、露出した部分から溶出したことがわかった。アルミニウム板が相互に密着した、露出していない部分は変化がなかった。このことから、露出表面のみにおいて溶出が起こること、実質的に
図2に示される形状の金属電極と同様の作用をすることが確認できた。
【0061】
以上の通り、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
100 電解処理装置
101a 被処理液
102 陽極
103 陰極
104 電源装置
105a、105b 導線
106 非接続電極
201 被処理液タンク
202 調整タンク
203 サイクロン式沈殿槽
204 逆浸透膜装置
210 被処理液
211 凝集物
212 濃縮液
213 浄化水
P1、P2、P3、P4 ポンプ