(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】支持体、ゼオライト膜複合体、ゼオライト膜複合体の製造方法、および、分離方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/10 20060101AFI20241120BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20241120BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20241120BHJP
B01D 69/04 20060101ALI20241120BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20241120BHJP
C01B 39/04 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
B01D69/10
B01D53/22
B01D69/00
B01D69/04
B01D71/02
B01D71/02 500
C01B39/04
(21)【出願番号】P 2020548086
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2019030538
(87)【国際公開番号】W WO2020066298
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2018183966
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】深草 祐一
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-231123(JP,A)
【文献】特開2007-90233(JP,A)
【文献】国際公開第2007/105407(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
C01B 37/00-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト膜の支持に用いられる多孔質の円筒状の支持体であって、
長手方向に延びる中心軸を中心とする略円筒面状の内側面と、
前記内側面の周囲を囲む略円筒面状の外側面と、
を備え、
前記内側面と前記外側面との間の径方向の距離である支持体厚さの周方向における最大値Aおよび最小値Bは、長手方向の
全長に亘って、0.09≦(A-B)/(A+B)≦0.3を満たす。
【請求項2】
請求項
1に記載の支持体であって、
長手方向の少なくとも一部において、前記最大値Aおよび前記最小値Bは0.18≦(A-B)/(A+B)≦0.3を満たす。
【請求項3】
請求項
2に記載の支持体であって、
長手方向の全長に亘って、前記最大値Aおよび前記最小値Bは0.18≦(A-B)/(A+B)≦0.3を満たす。
【請求項4】
請求項1ないし
3のいずれか1つに記載の支持体であって、
前記最大値Aおよび前記最小値Bは、長手方向の少なくとも一部において(A-B)/(A+B)≦0.2を満たす。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか1つに記載の支持体であって、
長手方向の前記少なくとも一部における前記内側面の平均半径Xおよび真円度Yは、Y/X≦0.5を満たす。
【請求項6】
請求項1ないし
5のいずれか1つに記載の支持体であって、
セラミック焼結体により形成される。
【請求項7】
ゼオライト膜複合体であって、
請求項1ないし
6のいずれか1つに記載の支持体と、
前記支持体上に形成されたゼオライト膜と、
を備える。
【請求項8】
請求項
7に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜を構成するゼオライトの最大員環数は8以下である。
【請求項9】
請求項
7または
8に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の膜厚は1μm以下である。
【請求項10】
請求項
7ないし
9のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記支持体厚さが前記最大値Aである部分における前記ゼオライト膜の膜厚a、および、前記支持体厚さが前記最小値Bである部分における前記ゼオライト膜の膜厚bは、|a-b|/((a+b)/2)≦10%を満たすことを特徴とするゼオライト膜複合体。
【請求項11】
ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
a)種結晶を準備する工程と、
b)請求項1ないし
6のいずれか1つに記載の支持体上に前記種結晶を付着させる工程と、
c)水熱合成により前記種結晶からゼオライトを成長させて前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、
を備える。
【請求項12】
分離方法であって、
d)請求項
7ないし
10のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体を準備する工程と、
e)複数種類のガスまたは液体を含む混合物質を前記ゼオライト膜複合体に供給し、前記混合物質中の透過性が高い物質を、前記ゼオライト膜複合体を透過させることにより前記混合物質から分離する工程と、
を備える。
【請求項13】
請求項
12に記載の分離方法であって、
前記混合物質は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜の支持に用いられる支持体、当該支持体を備えるゼオライト膜複合体およびその製造方法、並びに、当該ゼオライト膜複合体を利用した混合物質の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してゼオライト膜複合体とすることにより、ゼオライトの分子篩作用を利用した特定の分子の分離や分子の吸着等の用途について、様々な研究や開発が行われている。
【0003】
例えば、特開平9-71481号公報(文献1)では、ゼオライト膜の支持体として利用されるセラミック支持体が開示されている。また、特開2012-66241号公報(文献2)および国際公開第2007/105407号(文献3)には、円筒状のセラミック支持体の外側面上に、水熱合成によりゼオライト膜が形成されたゼオライト膜複合体が開示されている。
【0004】
ところで、円筒状のセラミック支持体(以下、単に「支持体」と呼ぶ。)は、一般的に押出成形および表面研磨により作製される。具体的には、まず、所定の原料を混練して調製した坏土が金型に供給され、円筒状に成形されつつ金型から押し出される。続いて、金型から押し出された略円筒状の成形体が焼成され、その後、外側面の断面形状が略真円となるように焼成体の外側面が研磨されることにより、上記支持体が形成される。
【0005】
当該円筒状の支持体の作製では、坏土を金型に供給する際の供給速度のばらつき等により、支持体の径方向の厚さが周方向においてばらつくおそれがある。また、支持体の径方向の厚さのばらつきは、外側面研磨時の研磨量の偏り等に起因して生じる場合もある。具体的には、部材の金型からの押し出し時に、円筒状の成形体が重力により側方に広がって、外側面および内側面の断面形状が横長の略楕円形となることがある。この場合、外側面の断面形状を真円に近づけるために、支持体の側方の研磨量は上下の研磨量よりも大きくなる。その結果、支持体の側方の厚さは、上下の厚さよりも薄くなる。
【0006】
このような厚さのばらつきを有する円筒状の支持体上にゼオライト膜を形成しようとすると、支持体表面に種結晶を塗布する際に、単位面積当たりの塗布量のばらつきが大きくなり、ゼオライト膜の膜厚の均一性が低下する。したがって、緻密で薄いゼオライト膜を歩留まりよく形成することが難しい。しかしながら、緻密で薄いゼオライト膜を形成するために、支持体の厚さのばらつきをどの程度まで抑制する必要があるか、という観点での検討は行われていない。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ゼオライト膜の支持に用いられる多孔質の円筒状の支持体に向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る支持体は、長手方向に延びる中心軸を中心とする略円筒面状の内側面と、前記内側面の周囲を囲む略円筒面状の外側面と、を備える。前記内側面と前記外側面との間の径方向の距離である支持体厚さの周方向における最大値Aおよび最小値Bは、長手方向の全長に亘って、0.09≦(A-B)/(A+B)≦0.3を満たす。これにより、ゼオライト膜の膜厚の均一性を向上することができる。
【0008】
好ましくは、長手方向の少なくとも一部において、前記最大値Aおよび前記最小値Bは0.18≦(A-B)/(A+B)≦0.3を満たす。
より好ましくは、長手方向の全長に亘って、前記最大値Aおよび前記最小値Bは0.18≦(A-B)/(A+B)≦0.3を満たす。
【0009】
好ましくは、前記最大値Aおよび前記最小値Bは、長手方向の少なくとも一部において(A-B)/(A+B)≦0.2を満たす。
【0010】
好ましくは、長手方向の前記少なくとも一部における前記内側面の平均半径Xおよび真円度Yは、Y/X≦0.5を満たす。
【0011】
好ましくは、支持体はセラミック焼結体により形成される。
【0012】
本発明は、ゼオライト膜複合体にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体は、上述の支持体と、前記支持体上に形成されたゼオライト膜と、を備える。
【0013】
好ましくは、前記ゼオライト膜を構成するゼオライトの最大員環数は8以下である。
【0014】
好ましくは、前記ゼオライト膜の膜厚は1μm以下である。
好ましくは、前記支持体厚さが前記最大値Aである部分における前記ゼオライト膜の膜厚a、および、前記支持体厚さが前記最小値Bである部分における前記ゼオライト膜の膜厚bは、|a-b|/((a+b)/2)≦10%を満たす。
【0015】
本発明は、ゼオライト膜複合体の製造方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体の製造方法は、a)種結晶を準備する工程と、b)上述の支持体上に前記種結晶を付着させる工程と、c)水熱合成により前記種結晶からゼオライトを成長させて前記支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、を備える。
【0016】
本発明は、分離方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る分離方法は、d)上述のゼオライト膜複合体を準備する工程と、e)複数種類のガスまたは液体を含む混合物質を前記ゼオライト膜複合体に供給し、前記混合物質中の透過性が高い物質を、前記ゼオライト膜複合体を透過させることにより前記混合物質から分離する工程と、を備える。
【0017】
好ましくは、前記混合物質は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0018】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図4】ゼオライト膜複合体の製造の流れを示す図である。
【
図5】製造途上のゼオライト膜複合体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、ゼオライト膜複合体1の断面図である。
図2は、ゼオライト膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。ゼオライト膜複合体1は、多孔質の支持体11と、支持体11上に形成されゼオライト膜12とを備える。
図1では、ゼオライト膜12を太線にて描いている。
図2では、ゼオライト膜12に平行斜線を付す。また、
図2では、ゼオライト膜12の膜厚を実際よりも厚く描いている。
【0021】
支持体11は、円筒状の部材である。支持体11は、ガスおよび液体を透過可能な多孔質部材である。支持体11は、長手方向(すなわち、
図1中の左右方向)に延びる中心軸J1を中心とする略円筒面状の内側面113と、内側面113の周囲を囲む略円筒面状の外側面112とを備える。なお、中心軸J1とは、内側面113に外接するように配設した仮想的な円筒の中心軸である。中心軸J1を中心とする径方向(以下、単に「径方向」とも呼ぶ。)において、外側面112は、内側面113の外側に位置し、内側面113の周囲を囲む。外側面112には、ゼオライト膜12が形成される。ゼオライト膜12は、支持体11の外側面112を略全面に亘って被覆する。以下の説明では、内側面113の径方向内側の略円柱状の空間を、「内側流路111」と呼ぶ。
【0022】
支持体11の長さ(すなわち、
図1中の左右方向の長さ)は、例えば10cm~200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm~30cmである。支持体11の内側面113と外側面112との間の径方向の距離(以下、「支持体厚さ」とも呼ぶ。)は、例えば0.1mm~10mmである。支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~5.0μmであり、好ましくは0.2μm~2.0μmである。
【0023】
支持体11の材料は、表面にゼオライト膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々な物質(例えば、セラミックまたは金属)が採用可能である。本実施の形態では、支持体11はセラミック焼結体により形成される。支持体11の材料として選択されるセラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。本実施の形態では、支持体11は、アルミナ、シリカおよびムライトのうち、少なくとも1種類を含む。
【0024】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0025】
ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は、好ましくは、支持体11の他の部位の平均細孔径よりも小さい。このような構造を実現するために、支持体11は多層構造を有する。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができ、それぞれは同じでもよいし異なっていてもよい。支持体11の平均細孔径は、水銀ポロシメータ、パームポロメータ、ナノパームポロメータ等によって測定することができる。
【0026】
支持体11の平均細孔径は、例えば0.01μm~70μmであり、好ましくは0.05μm~25μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の細孔径の分布について、D5は例えば0.01μm~50μmであり、D50は例えば0.05μm~70μmであり、D95は例えば0.1μm~2000μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の気孔率は、例えば25%~50%である。
【0027】
図3は、支持体11の長手方向に垂直な断面(すなわち、中心軸J1に垂直な断面)を示す図である。
図3では、支持体11の内側面113と外側面112との間の径方向の距離が、周方向において最大となる位置を矢印にて示し、当該位置の支持体厚さを、支持体厚さの最大値Aとする。また、支持体11の内側面113と外側面112との間の径方向の距離が、周方向において最小となる位置を矢印にて示し、当該位置の支持体厚さを、支持体厚さの最小値Bとする。
【0028】
支持体11では、中心軸J1に垂直な一の断面における支持体厚さの最大値Aおよび最小値Bは、「(A-B)/(A+B)≦0.3」を満たす。換言すれば、最大値Aおよび最小値Bの当該関係は、支持体11の長手方向の少なくとも一部において満たされる。好ましくは、最大値Aおよび最小値Bの当該関係は、支持体11の長手方向の全長に亘って(すなわち、長手方向の各断面において)満たされる。
【0029】
また、好ましくは、支持体厚さの最大値Aおよび最小値Bは、支持体11の長手方向の少なくとも一部において、「(A-B)/(A+B)≦0.2」を満たす。さらに好ましくは、支持体厚さの最大値Aおよび最小値Bの当該関係は、支持体11の長手方向の全長に亘って(すなわち、長手方向の各断面において)満たされる。
【0030】
支持体11では、中心軸J1に垂直な上記一の断面における内側面113の平均半径Xおよび真円度Yは、「Y/X≦0.5」を満たす。換言すれば、平均半径Xおよび真円度Yの当該関係は、支持体11の長手方向の少なくとも一部において満たされる。好ましくは、平均半径Xおよび真円度Yの当該関係は、支持体11の長手方向の全長に亘って(すなわち、長手方向の各断面において)満たされる。支持体11の一の断面における平均半径Xは、当該断面における最大半径と最小半径との算術平均である。真円度Yは、JIS-B-0621に準拠して求められる。具体的には、当該断面において、内側面113である略円形(すなわち、円形形体)を2つの同心の幾何学的円で挟み、当該2つの幾何学的円の間隔が最小となる場合における当該2つの幾何学的円の半径の差を、真円度Yとする。
【0031】
ゼオライト膜12は、細孔を有する多孔膜である。ゼオライト膜12は、複数種類の物質が混合した混合物質から、分子篩作用を利用して特定の物質を分離する分離膜として利用可能である。ゼオライト膜12では、当該特定の物質に比べて他の物質が透過しにくい。換言すれば、ゼオライト膜12の当該他の物質の透過速度は、上記特定の物質の透過速度に比べて小さい。
【0032】
ゼオライト膜12の膜厚は、例えば0.05μm~30μmであり、好ましくは0.1μm~20μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmである。当該ゼオライト膜12の膜厚とは、欠陥部を除くゼオライト膜12全体における、支持体11表面からゼオライト膜12表面までの距離の最小値(すなわち、最小膜厚)である。以下の説明においても同様である。本実施の形態では、ゼオライト膜12の膜厚は、1μm以下である。また、ゼオライト膜12の平均膜厚は、好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下であり、より好ましくは2μm以下である。ゼオライト膜12を厚くすると分離性能が向上する。ゼオライト膜12を薄くすると透過速度が増大する。ゼオライト膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0033】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトとしては、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO4)の中心に位置する原子(T原子)がSiのみ、もしくは、SiとAlとからなるゼオライト、T原子がAlとPとからなるAlPO型のゼオライト、T原子がSiとAlとPとからなるSAPO型のゼオライト、T原子がマグネシウム(Mg)とSiとAlとPとからなるMAPSO型のゼオライト、T原子が亜鉛(Zn)とSiとAlとPとからなるZnAPSO型のゼオライト等を用いることができる。T原子の一部は、他の元素に置換されていてもよい。
【0034】
分離膜12を構成するゼオライトの最大員環数がnである場合、n員環細孔の短径と長径の算術平均を平均細孔径とする。n員環細孔とは、酸素原子がT原子と結合して環状構造をなす部分の酸素原子の数がn個である細孔である。ゼオライトが、nが等しい複数のn員環細孔を有する場合には、全てのn員環細孔の短径と長径の算術平均をゼオライトの平均細孔径とする。このように、ゼオライト膜の平均細孔径は当該ゼオライトの骨格構造によって一義的に決定され、国際ゼオライト学会の“Database of Zeolite Structures”[online]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>に開示されている値から求めることができる。
【0035】
ゼオライト膜12の平均細孔径は、好ましくは0.2nm以上かつ0.8nm以下であり、より好ましくは、0.3nm以上かつ0.6nm以下であり、さらに好ましくは、0.3nm以上かつ0.5nm以下である。ゼオライト膜12の平均細孔径は、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径よりも小さい。
【0036】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトの種類は特に限定されないが、CO2の透過量増大および分離性能向上の観点から、当該ゼオライトの最大員環数は、8以下(例えば、6または8)であることが好ましい。ゼオライト膜12は、例えば、DDR型のゼオライトである。換言すれば、ゼオライト膜12は、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「DDR」であるゼオライトにより構成されたゼオライト膜である。この場合、ゼオライト膜12を構成するゼオライトの固有細孔径は、0.36nm×0.44nmであり、平均細孔径は、0.40nmである。
【0037】
ゼオライト膜12は、例えば、AEI型、AEN型、AFN型、AFV型、AFX型、BEA型、CHA型、ERI型、ETL型、FAU型(X型、Y型)、GIS型、LEV型、LTA型、MEL型、MFI型、MOR型、PAU型、RHO型、SAT型、SOD型等のゼオライト膜であってもよい。
【0038】
ゼオライト膜12は、例えば、ケイ素(Si)を含む。ゼオライト膜12は、例えば、Si、アルミニウム(Al)およびリン(P)のうちいずれか2つ以上を含んでいてもよい。ゼオライト膜12は、アルカリ金属を含んでいてもよい。当該アルカリ金属は、例えば、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)である。ゼオライト膜12がSi原子を含む場合、ゼオライト膜12におけるSi/Al比は、例えば1以上かつ10万以下である。当該Si/Al比は、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは100以上であり、高ければ高いほど好ましい。後述する原料溶液中のSi源とAl源との配合割合等を調整することにより、ゼオライト膜12におけるSi/Al比を調整することができる。
【0039】
次に、
図4を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1の製造の流れの一例について説明する。ゼオライト膜複合体1が製造される際には、まず、支持体11が形成される(ステップS11)。具体的には、まず、セラミック粒子、無機結合体、水、分散剤および増粘剤が混練されることにより、支持体11の原料となる坏土が作製される。続いて、当該坏土が押出成形されることにより、略円筒状の成形体が形成される。次に、当該成形体が焼成されることにより、略円筒状の焼成体が得られる。そして、焼成体の外側面が研磨されることにより支持部材が形成される。その後、支持部材の外側面上に、支持部材よりも細孔径が小さいセラミック多孔膜である中間層が形成され、当該中間層上にさらに細孔径が小さいセラミック多孔膜である表層が形成されることにより、多層構造を有する支持体11が形成される。
【0040】
上述の坏土の作製では、例えば、セラミック粒子(本実施の形態では、アルミナ粒子)100質量部に対して、無機結合材0.1質量部~50質量部(本実施の形態では、20質量部)が添加される。当該アルミナ粒子の平均粒径は、例えば1μm~200μmであり、本実施の形態では50μmである。上述の成形体の焼成温度は、例えば1000℃~1800℃であり、本実施の形態では1250℃である。上述の成形体の焼成時間は、例えば0.1時間~100時間であり、本実施の形態では1時間である。
【0041】
焼成体の外側面の研磨加工は、例えば、ベルト式研磨機を使用して、ダイヤモンドの固定砥粒からなる固定砥石砥粒を用いたベルトセンタレス方式で行う。当該研磨加工における研磨方法、および、研磨加工に使用する研磨機の種類は、様々に変更されてよい。上述の中間層および表層は、例えば、厚さ数μm~数百μmのアルミナ多孔膜である。中間層および表層の形成は、例えば、濾過成膜法により行われる。中間層および表層は、他の方法により形成されてもよい。中間層の平均細孔径は、例えば0.1μm~10μmであり、本実施の形態では0.5μmである。表層の平均細孔径は、例えば0.01μm~5μmであり、本実施の形態では0.1μmである。
【0042】
続いて、ゼオライト膜12の製造に利用される種結晶が準備される(ステップS12)。種結晶は、例えば、水熱合成にてDDR型のゼオライトの粉末が生成され、当該ゼオライトの粉末から取得される。当該ゼオライトの粉末はそのまま種結晶として用いられてもよく、当該粉末を粉砕等によって加工することにより種結晶が取得されてもよい。なお、ステップS12は、ステップS11と並行して、または、ステップS11よりも前に行われてもよい。
【0043】
次に、支持体11の外側面112上に種結晶を付着させる(ステップS13)。ステップS13では、例えば、濾過法により種結晶を支持体11に付着させる。具体的には、まず、中心軸J1が上下方向に平行になるように立てられた支持体11の下端開口が液密にシールされ、上端開口には液密な材質からなる略円筒状の開口部材83が液密に取り付けられる。続いて、
図5に示すように、種結晶を分散させた溶液81が貯溜されている貯溜槽80に、支持体11が下端側(すなわち、シール部材82が取り付けられている側)から挿入され、当該溶液81中に浸漬される。支持体11の上端に取り付けられた開口部材83の上端開口部は溶液81の液面よりも上側に位置し、支持体11の外側面112は溶液81中に位置する。これにより、当該溶液81の溶媒は、
図5中において左右方向を向く矢印にて示すように、支持体11の外側面112から支持体11を透過して内側流路111へと移動する。一方、当該溶液81中の種結晶は、支持体11を透過することなく、支持体11の外側面112上に残置されて外側面112に付着する。これにより、種結晶付着支持体が作製される。
【0044】
ステップS13が終了すると、種結晶が付着された支持体11が溶液81から引き上げられて乾燥される。種結晶が付着した乾燥後の支持体11は、原料溶液に浸漬される。原料溶液は、例えば、Si源および構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)等を、溶媒に溶解・分散させることにより作製する。原料溶液の溶媒には、水やエタノール等のアルコールを用いてもよい。原料溶液に含まれるSDAは、例えば有機物である。SDAとして、例えば、1-アダマンタンアミンを用いることができる。
【0045】
そして、水熱合成により当該種結晶を核としてDDR型のゼオライトを成長させることにより、支持体11上にDDR型のゼオライト膜12が形成される(ステップS14)。水熱合成時の温度は、好ましくは120~200℃であり、例えば160℃である。水熱合成時間は、好ましくは10~100時間であり、例えば30時間である。
【0046】
水熱合成が終了すると、支持体11およびゼオライト膜12を純水で洗浄する。洗浄後の支持体11およびゼオライト膜12は、例えば80℃にて乾燥される。支持体11およびゼオライト膜12を乾燥した後に、ゼオライト膜12を加熱処理することによって、ゼオライト膜12中のSDAをおよそ完全に燃焼除去して、ゼオライト膜12内の微細孔を貫通させる(ステップS15)。これにより、上述のゼオライト膜複合体1が得られる。
【0047】
上述のゼオライト膜複合体1の製造では、支持体11において支持体厚さに大きなばらつきが存在すると、ステップS13における種結晶の付着量にばらつきが生じる。具体的には、支持体11のうち支持体厚さが薄い部分では、上記溶液の溶媒が支持体11を透過する際の抵抗が小さいため、溶媒の透過量が多くなり、外側面112に付着する種結晶の量も多くなる。一方、支持体厚さが厚い部分では、溶媒が支持体11を透過する際の抵抗が大きいため、溶媒の透過量が少なくなり、外側面112に付着する種結晶の量も少なくなる。その結果、ゼオライト膜複合体1において、支持体厚さが薄い部分ではゼオライト膜12が厚くなり、支持体厚さが厚い部分ではゼオライト膜12が薄くなるため、ゼオライト膜12の膜厚にばらつきが生じる。
【0048】
表1は、ゼオライト膜複合体1における支持体11の支持体厚さのばらつきと、ゼオライト膜12の膜厚のばらつきとの関係を示す。実施例1~7の略円筒状の支持体11の外径は20mmであり、長手方向の長さは15cmである。比較例1の支持体においても同様である。実施例1~3のゼオライト膜12、および、比較例1のゼオライト膜は、DDR型ゼオライト膜である。実施例4~5のゼオライト膜12は、CHA型ゼオライト膜である。実施例6~7のゼオライト膜12は、AEI型ゼオライト膜である。
【0049】
実施例1~7のゼオライト膜複合体1、および、比較例のゼオライト膜複合体は、上述のステップS11~S15に示す製造方法と概ね同様の製造方法により製造した。詳細な製造条件等を以下に示す。
【0050】
実施例1~3のDDR型のゼオライト膜12の製造では、ステップS13では、水に分散させたDDR型ゼオライトの種結晶の濃度が0.1質量%となるように調製した種付け用スラリー液を、上述の溶液81として利用した。そして、種結晶が付着した支持体11を、所定条件(室温、風速5m/秒、10分)で通風乾燥させた。ステップS14では、30重量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)88.0gと、エチレンジアミン(富士フイルム和光純薬株式会社製)6.59gと、1-アダマンタンアミン(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)1.04gと、純水104.4gとを混合して、上述の原料溶液を調製した。また、ゼオライト膜12は、130℃の熱風乾燥機中で10時間水熱合成を行うことにより形成した。SDAの除去は、ゼオライト膜12が形成された支持体11を、電気炉において450℃で50時間加熱することにより行った。比較例1のDDR型ゼオライト膜の製造についても同様である。
【0051】
実施例4~5のCHA型のゼオライト膜12の製造では、ステップS12において、Y型ゼオライトの構造転換法、または、アルミノシリケート水溶液の水熱合成等によりCHA型ゼオライトの種結晶を作製した。ステップS13では、水に分散させたCHA型ゼオライトの種結晶の濃度が0.1質量%となるように調整した種付け用スラリー液を、上述の溶液81として利用した。そして、種結晶が付着した支持体11を、所定条件(室温、風速5m/秒、10分)で通風乾燥させた。ステップS14では、30重量%シリカゾル(商品名:スノーテックスS、日産化学株式会社製)21.3gと、水酸化カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.90gと、アルミン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)1.18gと、25質量%N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムヒドロキシド水溶液(セイケム株式会社製)3.58gと、純水173.1gとを混合して、上述の原料溶液を調製した。また、ゼオライト膜12は、160℃の熱風乾燥機中で30時間水熱合成を行うことにより形成した。SDAの除去は、ゼオライト膜12が形成された支持体11を、550℃で10時間加熱することにより行った。
【0052】
実施例6~7のAEI型のゼオライト膜12の製造では、ステップS12において、アルミノフォスフェート水溶液の水熱合成等によりAEI型ゼオライトの種結晶を作製した。ステップS13では、水に分散させたAEI型ゼオライトの種結晶の濃度が0.1質量%となるように調整した種付け用スラリー液を、上述の溶液81として利用した。そして、種結晶が付着した支持体11を、所定条件(室温、風速2m/秒~7m/秒、30分)で通風乾燥させた。ステップS13では、当該種付け用スラリー液の付与および通風乾燥を2回行った。ステップS14では、アルミニウムトリイソプロポキシド(関東化学株式会社製)4.72gと、35質量%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)30.71gと、85%リン酸(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)8.41gと、純水156.17gとを混合して、上述の原料溶液を調製した。また、ゼオライト膜12は、150℃で30時間水熱合成を行うことにより形成した。SDAの除去は、ゼオライト膜12が形成された支持体11を、400℃で10時間加熱することにより行った。
【0053】
【0054】
表1中の支持体厚さのばらつきは、支持体11の一の断面における上述の「(A-B)/(A+B)」である。すなわち、当該支持体厚さのばらつきは、支持体11の一の断面における支持体厚さの最大値Aと最小値Bとの差を、最大値Aと最小値Bとの和で除算した値である。当該値が大きい程、支持体厚さのばらつきが大きい。
【0055】
表1中の膜厚のばらつきは、支持体11の当該断面において、支持体厚さが最大値Aである部分におけるゼオライト膜12の膜厚をaとして、支持体厚さが最小値Bである部分におけるゼオライト膜12の膜厚をbとして、膜厚aと膜厚bとの差の絶対値を、膜厚aと膜厚bとの算術平均で除算した値(すなわち、「|a-b|/((a+b)/2)」)である。表1中では、当該値を百分率で示している。当該値が大きい程、ゼオライト膜12の膜厚のばらつきが大きい。
【0056】
上述の支持体厚さの最大値Aおよび最小値B、並びに、膜厚aおよび膜厚bは、支持体11を中心軸J1に垂直な面で切断し、切断により生じた断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察することにより求めた。
【0057】
比較例1に示すように、支持体厚さのばらつき「(A-B)/(A+B)」が0.3よりも大きい場合、DDR型のゼオライト膜12の膜厚のばらつき「|a-b|/((a+b)/2)」は10%よりも大きくなった。一方、実施例1~3に示すように、支持体厚さのばらつき「(A-B)/(A+B)」が0.3以下である場合、DDR型のゼオライト膜12の膜厚のばらつき「|a-b|/((a+b)/2)」は10%以下であった。
【0058】
CHA型のゼオライト膜12についても同様に、支持体厚さのばらつき「(A-B)/(A+B)」が0.3以下である場合、ゼオライト膜12の膜厚のばらつき「|a-b|/((a+b)/2)」は10%以下であった(実施例4~5)。また、AEI型のゼオライト膜12についても同様に、支持体厚さのばらつき「(A-B)/(A+B)」が0.3以下である場合、ゼオライト膜12の膜厚のばらつき「|a-b|/((a+b)/2)」は10%以下であった(実施例6~7)。
【0059】
次に、
図6および
図7を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1を利用した混合物質の分離について説明する。
図6は、分離装置2を示す図である。
図7は、分離装置2による混合物質の分離の流れを示す図である。
【0060】
分離装置2では、複数種類の流体(すなわち、ガスまたは液体)を含む混合物質をゼオライト膜複合体1に供給し、混合物質中の透過性が高い物質を、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより混合物質から分離させる。分離装置2における分離は、例えば、透過性が高い物質を混合物質から抽出する目的で行われてもよく、透過性が低い物質を濃縮する目的で行われてもよい。
【0061】
当該混合物質(すなわち、混合流体)は、複数種類のガスを含む混合ガスであってもよく、複数種類の液体を含む混合液であってもよく、ガスおよび液体の双方を含む気液二相流体であってもよい。
【0062】
分離装置2では、20℃~400℃におけるゼオライト膜複合体1のCO2の透過量(パーミエンス)は、例えば100nmol/m2・s・Pa以上である。また、20℃~400℃におけるゼオライト膜複合体1のCO2の透過量/CH4漏れ量比(パーミエンス比)は、例えば100以上である。当該パーミエンスおよびパーミエンス比は、ゼオライト膜複合体1の供給側と透過側とのCO2の分圧差が1.5MPaである場合のものである。
【0063】
混合物質は、例えば、水素(H2)、ヘリウム(He)、窒素(N2)、酸素(O2)、水(H2O)、水蒸気(H2O)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物、アンモニア(NH3)、硫黄酸化物、硫化水素(H2S)、フッ化硫黄、水銀(Hg)、アルシン(AsH3)、シアン化水素(HCN)、硫化カルボニル(COS)、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0064】
窒素酸化物とは、窒素と酸素の化合物である。上述の窒素酸化物は、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素ともいう。)(N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素(N2O4)、五酸化二窒素(N2O5)等のNOX(ノックス)と呼ばれるガスである。
【0065】
硫黄酸化物とは、硫黄と酸素の化合物である。上述の硫黄酸化物は、例えば、二酸化硫黄(SO2)、三酸化硫黄(SO3)等のSOX(ソックス)と呼ばれるガスである。
【0066】
フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄の化合物である。上述のフッ化硫黄は、例えば、二フッ化二硫黄(F-S-S-F,S=SF2)、二フッ化硫黄(SF2)、四フッ化硫黄(SF4)、六フッ化硫黄(SF6)または十フッ化二硫黄(S2F10)等である。
【0067】
C1~C8の炭化水素とは、炭素が1個以上かつ8個以下の炭化水素である。C3~C8の炭化水素は、直鎖化合物、側鎖化合物および環式化合物のうちいずれであってもよい。また、C2~C8の炭化水素は、飽和炭化水素(すなわち、2重結合および3重結合が分子中に存在しないもの)、不飽和炭化水素(すなわち、2重結合および/または3重結合が分子中に存在するもの)のどちらであってもよい。C1~C4の炭化水素は、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、プロパン(C3H8)、プロピレン(C3H6)、ノルマルブタン(CH3(CH2)2CH3)、イソブタン(CH(CH3)3)、1-ブテン(CH2=CHCH2CH3)、2-ブテン(CH3CH=CHCH3)またはイソブテン(CH2=C(CH3)2)である。
【0068】
上述の有機酸は、カルボン酸またはスルホン酸等である。カルボン酸は、例えば、ギ酸(CH2O2)、酢酸(C2H4O2)、シュウ酸(C2H2O4)、アクリル酸(C3H4O2)または安息香酸(C6H5COOH)等である。スルホン酸は、例えばエタンスルホン酸(C2H6O3S)等である。当該有機酸は、鎖式化合物であってもよく、環式化合物であってもよい。
【0069】
上述のアルコールは、例えば、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、イソプロパノール(2-プロパノール)(CH3CH(OH)CH3)、エチレングリコール(CH2(OH)CH2(OH))またはブタノール(C4H9OH)等である。
【0070】
メルカプタン類とは、水素化された硫黄(SH)を末端に持つ有機化合物であり、チオール、または、チオアルコールとも呼ばれる物質である。上述のメルカプタン類は、例えば、メチルメルカプタン(CH3SH)、エチルメルカプタン(C2H5SH)または1-プロパンチオール(C3H7SH)等である。
【0071】
上述のエステルは、例えば、ギ酸エステルまたは酢酸エステル等である。
【0072】
上述のエーテルは、例えば、ジメチルエーテル((CH3)2O)、メチルエチルエーテル(C2H5OCH3)またはジエチルエーテル((C2H5)2O)等である。
【0073】
上述のケトンは、例えば、アセトン((CH3)2CO)、メチルエチルケトン(C2H5COCH3)またはジエチルケトン((C2H5)2CO)等である。
【0074】
上述のアルデヒドは、例えば、アセトアルデヒド(CH3CHO)、プロピオンアルデヒド(C2H5CHO)またはブタナール(ブチルアルデヒド)(C3H7CHO)等である。
【0075】
以下の説明では、分離装置2により分離される混合物質は、複数種類のガスを含む混合ガスであるものとして説明する。
【0076】
分離装置2は、ゼオライト膜複合体1と、封止部21と、外筒22と、シール部材23と、供給部26と、第1回収部27と、第2回収部28とを備える。ゼオライト膜複合体1、封止部21およびシール部材23は、外筒22内に収容される。供給部26、第1回収部27および第2回収部28は、外筒22の外部に配置されて外筒22に接続される。
【0077】
封止部21は、支持体11の長手方向(すなわち、
図6中の左右方向)の両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外側面を被覆して封止する部材である。封止部21は、支持体11の略円環状の当該両端面からのガスの流入および流出を防止する。封止部21は、例えば、ガラスまたは樹脂により形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。
図6中の右側の封止部21には、支持体11の内側流路111と重なる開口が設けられているため、内側流路111の右側の端部開口は、封止部21により被覆されていない。したがって、内側流路111内のガスは、当該端部開口からゼオライト膜複合体1の外部へと流出可能である。一方、
図6中の左側の封止部21には開口は設けられていないため、内側流路111の左側の端部開口からのガスの流出入は不可能である。
【0078】
外筒22は、略円筒状の筒状部材である。外筒22は、例えばステンレス鋼または炭素鋼により形成される。外筒22の長手方向は、ゼオライト膜複合体1の長手方向(すなわち、中心軸J1の向く方向)に略平行である。外筒22の外側面には供給ポート221および第1排出ポート222が設けられる。供給ポート221および第1排出ポート222は、例えば、ゼオライト膜複合体1を挟んで径方向の反対側(すなわち、周方向において180°異なる位置)に配置される。外筒22の長手方向の一方の端部(すなわち、
図6中の右側の端部)には第2排出ポート223が設けられる。供給ポート221には、供給部26が接続される。第1排出ポート222には、第1回収部27が接続される。第2排出ポート223には、第2回収部28が接続される。外筒22の内部空間は、外筒22の周囲の空間から隔離された密閉空間である。
【0079】
シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の長手方
向端部近傍において、ゼオライト膜複合体1の外側面と外筒22の内側面との間に、全周に亘って配置される
。シール部材23は、ガスが透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材23は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の外側面および外筒22の内側面に全周に亘って密着する。
図6に示す例では、シール部材23は、図中の右側の封止部21の外側面に密着し、封止部21を介してゼオライト膜複合体1の外側面に間接的に密着する。シール部材23とゼオライト膜複合体1の外側面との間、および、シール部材23と外筒22の内側面との間は、シールされており、ガスの通過はほとんど、または、全く不能である。なお、シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の長手方向の端面と外筒22との間に設けられてもよい。
【0080】
供給部26は、混合ガスを、供給ポート221を介して外筒22の内部空間に供給する。供給部26は、例えば、外筒22に向けて混合ガスを圧送するブロワーまたはポンプである。当該ブロワーまたはポンプは、外筒22に供給する混合ガスの圧力を調節する圧力調節部を備える。第1回収部27および第2回収部28は、例えば、外筒22から導出されたガスを貯留する貯留容器、または、当該ガスを移送するブロワーもしくはポンプである。
【0081】
混合ガスの分離が行われる際には、上述の分離装置2が用意されることにより、ゼオライト膜複合体1が準備される(ステップS21)。続いて、供給部26により、ゼオライト膜12に対する透過性が異なる複数種類のガスを含む混合ガスが、外筒22の内部空間に供給される。例えば、混合ガスの主成分は、CO2およびCH4である。混合ガスには、CO2およびCH4以外のガスが含まれていてもよい。供給部26から外筒22の内部空間に供給される混合ガスの圧力(すなわち、導入圧)は、例えば、0.1MPa~20.0MPaである。混合ガスの分離が行われる温度は、例えば、10℃~150℃である。
【0082】
供給部26から外筒22に供給された混合ガスは、矢印251にて示すように、ゼオライト膜複合体1の外側面へと向かう。混合ガス中の透過性が高いガス(例えば、CO2であり、以下、「高透過性物質」と呼ぶ。)は、支持体11の外側面112上に設けられたゼオライト膜12、および、支持体11を透過して支持体11の内側面113から内側流路111へと導出される。これにより、高透過性物質が、混合ガス中の透過性が低いガス(例えば、CH4であり、以下、「低透過性物質」と呼ぶ。)から分離される(ステップS22)。支持体11の内側面113から内側流路111へと導出されたガス(以下、「透過物質」と呼ぶ。)は、矢印253にて示すように、第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収される。第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収されるガスの圧力(すなわち、透過圧)は、例えば、約1気圧(0.101MPa)である。透過物質には、上述の高透過性物質以外の物質が含まれていてもよい。
【0083】
また、混合ガスのうち、ゼオライト膜12および支持体11を透過したガスを除くガス(以下、「不透過物質」と呼ぶ。)は、ゼオライト膜複合体1の外側面と外筒22の内側面との間を、図中の上側から下側へと通過し、矢印252にて示すように、第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収される。第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収されるガスの圧力は、例えば、導入圧と略同じ圧力である。不透過物質には、上述の低透過性物質以外に、ゼオライト膜12を透過しなかった高透過性物質が含まれていてもよい。
【0084】
以上に説明したように、ゼオライト膜12の支持に用いられる多孔質の円筒状の支持体11は、長手方向に延びる中心軸J1を中心とする略円筒面状の内側面113と、内側面113の周囲を囲む略円筒面状の外側面112とを備える。外側面112には、ゼオライト膜12が形成される。内側面113と外側面112との間の径方向の距離である支持体厚さの周方向における最大値Aおよび最小値Bは、支持体11の長手方向の少なくとも一部において、「(A-B)/(A+B)≦0.3」を満たす。
【0085】
当該支持体11では、このように支持体厚さのばらつきを抑制することにより、既述の通り、支持体11上に形成されるゼオライト膜12の膜厚の均一性を向上することができる。したがって、平均膜厚が薄いゼオライト膜12を形成する場合であっても、ゼオライト膜12の一部が薄くなりすぎて欠損することを防止することができる。その結果、緻密で薄いゼオライト膜12を支持体11上に形成することができる。
【0086】
支持体11では、上述のように、支持体11の長手方向の全長に亘って、支持体厚さの周方向における最大値Aおよび最小値Bは「(A-B)/(A+B)≦0.3」を満たすことが好ましい。これにより、支持体11上に形成されるゼオライト膜12の膜厚の均一性をさらに向上することができる。
【0087】
支持体11では、上述のように、支持体厚さの周方向における最大値Aおよび最小値Bは、支持体11の長手方向の少なくとも一部において、「(A-B)/(A+B)≦0.2」を満たすことが好ましく、「(A-B)/(A+B)≦0.1」を満たすことがより好ましい。これにより、支持体11上に形成されるゼオライト膜12の膜厚の均一性をさらに向上することができる。
【0088】
支持体11では、上述のように、支持体11の長手方向の全長に亘って、支持体厚さの周方向における最大値Aおよび最小値Bは「(A-B)/(A+B)≦0.2」を満たすことがさらに好ましく、「(A-B)/(A+B)≦0.1」を満たすことが特に好ましい。これにより、支持体11上に形成されるゼオライト膜12の膜厚の均一性をより一層向上することができる。
【0089】
支持体11では、上述のように、支持体11の長手方向の少なくとも一部における内側面113の平均半径Xおよび真円度Yは、「Y/X≦0.5」を満たすことが好ましく、「Y/X≦0.3」を満たすことがより好ましく、「Y/X≦0.1」を満たすことがさらに好ましい。このように、中心軸J1に垂直な内側面113の断面形状が真円に比較的近い形状であれば、支持体11の形成時に外側面112を研磨等により真円に近づける際に、支持体厚さの周方向における均一性を向上することができる。したがって、長手方向の少なくとも一部において「(A-B)/(A+B)≦0.3」を満たす支持体11を、歩留まり良く形成することができる。
【0090】
支持体11では、上述のように、支持体11の長手方向の全長に亘って、内側面113の平均半径Xおよび真円度Yは「Y/X≦0.5」を満たすことがさらに好ましく、「Y/X≦0.3」を満たすことがより好ましく、「Y/X≦0.1」を満たすことが特に好ましい。これにより、長手方向の全長に亘って「(A-B)/(A+B)≦0.3」を満たす支持体11を、さらに歩留まり良く形成することができる。
【0091】
上述のように、支持体11はセラミック焼結体により形成されることが好ましい。これにより、セラミック焼結体以外の材料により支持体が形成される場合に比べて、ゼオライト膜12と支持体11との接合強度を増大することができるため、ゼオライト膜12を安定的に支持することができる。
【0092】
ゼオライト膜複合体1は、上述の支持体11と、支持体11の外側面112上に形成されたゼオライト膜12と、を備える。これにより、高い膜厚均一性を有するゼオライト膜12を備えたゼオライト膜複合体1を提供することができる。したがって、緻密で薄いゼオライト膜12を備えたゼオライト膜複合体1を提供することもできる。換言すれば、ゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12の薄型化を実現することができる。
【0093】
上述のように、ゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12の薄型化を実現することができるため、ゼオライト膜複合体1の構造は、ゼオライト膜12の厚さ(最小膜厚)が1μm以下であるゼオライト膜複合体に特に適している。
【0094】
上述のように、ゼオライト膜12を構成するゼオライトの最大員環数は8以下であることが好ましい。これにより、ゼオライト膜12を混合物質の分離に利用した場合、分子径が比較的小さいCO2等の透過対象物質の選択的透過を好適に実現し、当該透過対象物質を混合物質から効率良く分離することができる。
【0095】
上述のゼオライト膜複合体1の製造方法は、種結晶を準備する工程(ステップS12)と、支持体11上に種結晶を付着させる工程(ステップS13)と、水熱合成により種結晶からゼオライトを成長させて支持体11上にゼオライト膜12を形成する工程(ステップS14)と、を備える。これにより、高い膜厚均一性を有するゼオライト膜12を備えたゼオライト膜複合体1を提供することができる。したがって、緻密で薄いゼオライト膜12を備えたゼオライト膜複合体1を提供することもできる。
【0096】
上述の分離方法は、上記ゼオライト膜複合体1を準備する工程(ステップS21)と、複数種類のガスまたは液体を含む混合物質をゼオライト膜12に供給し、当該混合物質中の透過性が高い物質を、ゼオライト膜複合体1を透過させることにより混合物質から分離させる工程(ステップS22)と、を備える。これにより、透過性が高い物質(すなわち、高透過性物質)を混合物質から好適に分離することができる。
【0097】
当該分離方法は、水素、ヘリウム、窒素、酸素、水、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、アンモニア、硫黄酸化物、硫化水素、フッ化硫黄、水銀、アルシン、シアン化水素、硫化カルボニル、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む混合物質の分離に特に適している。
【0098】
上述の支持体11、ゼオライト膜複合体1およびその製造方法、並びに、混合物質の分離方法では、様々な変更が可能である。
【0099】
例えば、支持体11は、必ずしもセラミック焼結体により形成される必要はなく、金属等の他の材料により形成されてもよい。また、支持体11では、内側面113の平均半径Xおよび真円度Yは「Y/X≦0.5」を必ずしも満たさなくてもよい。また、支持体11の外側面112の中心軸は、内側面113の中心軸J1と必ずしも一致している必要はなく、異なっていてもよい。
【0100】
ゼオライト膜複合体1では、ゼオライト膜12の膜厚は1μm以下には限定されず、様々に変更されてよい。また、ゼオライト膜12を構成するゼオライトの最大員環数は、8よりも大きくてもよく、8よりも小さくてもよい。
【0101】
上述の支持体11は、上記例とは異なる製造方法により製造されてもよい。例えば、外側面の研磨加工は行わなくてもよい。
【0102】
上述のゼオライト膜複合体1は、上記例とは異なる製造方法により製造されてもよい。例えば、種結晶の支持体11への付着は、上記例とは異なる手法により行われてもよい。また、ゼオライト膜12は、支持体11の内側面113上に形成されていてもよいし、支持体11の外側面112上と内側面113上の両方に形成されていてもよい。
【0103】
図6に示す分離装置2の構造は様々に変更されてよい。例えば、
図6中の左側の封止部21に、
図6中の右側の封止部21と同様に、内側流路111と重なる開口が設けられ、シールのためにシール部材23が設けられ、外筒22の左側の端面にも、第2回収部28に接続された第2排出ポート223が設けられてもよい。
【0104】
上述の分離装置2および分離方法では、上記説明にて例示した物質以外の物質が、混合物質から分離されてもよい。
【0105】
ゼオライト膜複合体1のゼオライト膜12は、必ずしも混合物質からの高透過性物質の分離に利用される必要はなく、吸着膜または浸透気化膜等、他の用途に使用されてもよい。
【0106】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0107】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の支持体は、例えば、ガス分離膜として利用可能なゼオライト膜の支持用として利用可能である。また、本発明のゼオライト膜複合体は、ガス分離膜、ガス以外の分離膜、および、様々な物質の吸着膜等としてゼオライトが利用される様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0109】
1 ゼオライト膜複合体
11 支持体
12 ゼオライト膜
112 (支持体の)外側面
113 (支持体の)内側面
A (周方向における支持体厚さの)最大値
B (周方向における支持体厚さの)最小値
J1 中心軸
S11~S15,S21~S22 ステップ