(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】偏光膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241120BHJP
B29C 55/02 20060101ALI20241120BHJP
B29C 55/06 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/02
B29C55/06
(21)【出願番号】P 2021008758
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150212
【氏名又は名称】上野山 温子
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小島 理
(72)【発明者】
【氏名】後藤 周作
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-004946(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130585(WO,A1)
【文献】特開2020-073997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C 55/02
B29C 55/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂膜を染色処理および延伸処理に供すること、および
該ポリビニルアルコール系樹脂膜
を20℃~70℃の水性溶媒
に60秒~10分浸漬させること、をこの順に含み、
波長λnmにおける該水性溶媒
への浸漬前の該ポリビニルアルコール系樹脂膜の透過率に対する
浸漬後の透過率の割合(ΔTs(λ))が、ΔTs(415)>ΔTs(470)>ΔTs(550)の関係を満たす、偏光膜の製造方法。
【請求項2】
前記水性溶媒の温度が、
30℃~65℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水性溶媒
に浸漬させるポリビニルアルコール系樹脂膜の水分率が、15重量%以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記水性溶媒
に浸漬させるポリビニルアルコール系樹脂膜の厚みが、12μm以下である、請求項
1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール系樹脂膜を染色処理および延伸処理に供することが、
長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂膜を形成して積層体とすること、および、
該積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すこと
を含む、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
ヘイズが1%以下の偏光膜の製造方法である、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置およびエレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)に代表される画像表示装置が急速に普及している。有機EL表示装置では、λ/4板を含む円偏光板を有機ELセルの視認側に配置することにより、外光反射や背景の映り込み等の問題を防ぐことが知られている(例えば、特許文献1および2)。
【0003】
その一方で、有機EL表示装置は発光のための消費電力が大きいことから、省エネルギー化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-311239号公報
【文献】特開2002-372622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、有機EL表示装置の消費電力を低減し得る偏光膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの局面によれば、ポリビニルアルコール系樹脂膜を染色処理および延伸処理に供すること、および、該ポリビニルアルコール系樹脂膜の表面に水性溶媒を接触させること、をこの順に含み、波長λnmにおける該水性溶媒との接触前の該ポリビニルアルコール系樹脂膜の透過率に対する接触後の透過率の割合(ΔTs(λ))が、ΔTs(415)>ΔTs(470)>ΔTs(550)の関係を満たす、偏光膜の製造方法が提供される。
1つの実施形態において、上記水性溶媒の温度が、20℃~70℃である。
1つの実施形態において、上記水性溶媒を接触させるポリビニルアルコール系樹脂膜の水分率が、15重量%以下である。
1つの実施形態において、上記水性溶媒を接触させるポリビニルアルコール系樹脂膜の厚みが、12μm以下である。
1つの実施形態において、上記ポリビニルアルコール系樹脂膜を染色処理および延伸処理に供することが、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂膜を形成して積層体とすること、および、該積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。
1つの実施形態において、上記製造方法が、ヘイズが1%以下の偏光膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態による偏光膜の製造方法によれば、染色処理および延伸処理を経たポリビニルアルコール(PVA)系樹脂膜を水性溶媒との接触処理に供する。これにより、少なくとも415nm~550nmの波長領域におけるPVA系樹脂膜の透過率が上昇し、波長λnmにおける水性溶媒との接触前のPVA系樹脂膜の透過率に対する接触後の透過率の割合(ΔTs(λ)=接触後のTs(λ)/接触前のTs(λ)、以下、ΔTs(λ)を「透過率の上昇率」と称する場合がある)が、ΔTs(415)>ΔTs(470)>ΔTs(550)の関係を満たす。このような製造方法で得られた偏光膜は、短波長側の光を長波長側の光よりも積極的に透過させることができる。よって、このような偏光膜を用いることにより、消費電力が大きい青色発光の量を減らした場合であっても、短波長領域の輝度の低下を抑制することができ、結果として、有機EL表示装置の省エネルギー化と高輝度化との両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】加熱ロールを用いた乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0010】
A.偏光膜の製造方法
本発明の実施形態による偏光膜の製造方法は、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂膜を染色処理および延伸処理に供すること(工程I)、および、該PVA系樹脂膜の表面に水性溶媒を接触させること(工程II)、をこの順に含み、波長λnmにおける該水性溶媒との接触前の該ポリビニルアルコール系樹脂膜の透過率に対する接触後の透過率の割合(ΔTs(λ))が、ΔTs(415)>ΔTs(470)>ΔTs(550)の関係を満たす。染色後のPVA系樹脂膜中においてヨウ素はI-、I2、I3
-、PVA-I3
-錯体、PVA-I5
-錯体等の形態で存在するところ、I-、I2およびI3
-は紫外領域(例えば、波長290nm~360nm付近)に吸収を有し、PVA-I3
-錯体およびPVA-I5
-錯体はそれぞれ、波長470nm付近および波長600nm付近に吸収を有する。よって、水性溶媒との接触前後においてΔTs(415)>ΔTs(470)>ΔTs(550)の関係が成立することは、PVA系樹脂膜中に存在する全ヨウ素に対してI-、I2、I3
-、およびPVA-I3
-錯体の占める割合が減少(換言すると、PVA-I5
-錯体の占める割合が増加)したことを示すと考えられる。
【0011】
A-1.工程I
工程Iにおいては、PVA系樹脂膜を染色処理および延伸処理に供し、これにより、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示すPVA系樹脂膜(以下、「未脱色原膜」と称する場合がある)を得る。未脱色原膜は、代表的には、偏光膜として機能し得る状態にある。
【0012】
1つの実施形態において、未脱色原膜の透過率(単体透過率:Ts)は、好ましくは41.0%以上であり、より好ましくは42.0%以上であり、さらに好ましくは42.5%以上である。一方、未脱色原膜の透過率は、好ましくは46.0%以下であり、より好ましくは45.0%以下である。未脱色原膜の偏光度は、好ましくは98.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上、さらに好ましくは99.9%以上である。一方、未脱色原膜の偏光度は、好ましくは99.998%以下である。上記透過率は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定し、視感度補正を行なったY値である。上記偏光度は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定して視感度補正を行なった平行透過率Tpおよび直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
偏光度(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
【0013】
1つの実施形態においては、12μm以下の薄型の偏光膜(未脱色原膜)の透過率は、代表的には、偏光膜(表面の屈折率:1.53)と保護層(保護フィルム)(屈折率:1.50)との積層体を測定対象として、紫外可視分光光度計を用いて測定される。偏光膜の表面の屈折率および/または保護層の空気界面に接する表面の屈折率に応じて、各層の界面での反射率が変化し、その結果、透過率の測定値が変化する場合がある。したがって、例えば、屈折率が1.50ではない保護層を用いる場合、保護層の空気界面に接する表面の屈折率に応じて透過率の測定値を補正してもよい。具体的には、透過率の補正値Cは、保護層と空気層との界面における透過軸に平行な偏光の反射率R1(透過軸反射率)を用いて、以下の式で表わされる。
C=R1-R0
R0=((1.50-1)2/(1.50+1)2)×(T1/100)
R1=((n1-1)2/(n1+1)2)×(T1/100)
ここで、R0は、屈折率が1.50である保護層を用いた場合の透過軸反射率であり、n1は使用する保護層の屈折率であり、T1は偏光膜の透過率である。例えば、表面屈折率が1.53である基材(シクロオレフィン系フィルム、ハードコート層付きフィルムなど)を保護層として用いる場合、補正量Cは約0.2%となる。この場合、測定により得られた透過率に0.2%を加算することで、表面の屈折率が1.53である偏光膜を屈折率が1.50である保護層を用いた場合の透過率に換算することが可能である。なお、上記式に基づく計算によれば、偏光膜の透過率T1を2%変化させたときの補正値Cの変化量は0.03%以下であり、偏光膜の透過率が補正値Cの値に与える影響は限定的である。また、保護層が表面反射以外の吸収を有する場合は、吸収量に応じて適切な補正を行うことができる。
【0014】
未脱色原膜の波長415nmにおける透過率(Ts415)は、例えば40%未満であり得る。
【0015】
未脱色原膜の水分率は、代表的には15重量%以下、好ましくは12重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは1重量%~5重量%である。未脱色原膜の水分率が当該範囲内であれば、工程IIにおける水性溶媒との接触の際に、溶解、シワ等の発生を防止することができる。
【0016】
未脱色原膜の厚みは、代表的には25μm以下であり、好ましくは12μm以下であり、より好ましくは1μm~12μmであり、さらに好ましくは1μm~7μm、さらにより好ましくは2μm~5μmである。
【0017】
工程Iにおいては、単層のPVA系樹脂膜を染色処理および延伸処理に供し、これにより、未脱色原膜を作製することができる。あるいは、PVA系樹脂層(PVA系樹脂膜)を含む二層以上の積層体を染色処理および延伸処理に供し、これにより、未脱色原膜を作製することもできる。二層以上の積層体を用いて作製された未脱色原膜は、水性溶媒との接触後においても、シワ等の発生を回避しつつ、優れた光学特性(代表的には、単体透過率および偏光度)を好適に維持し得る。
【0018】
A-1-1.二層以上の積層体を用いた未脱色原膜の作製
二層以上の積層体を用いた未脱色原膜の作製は、例えば、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含むPVA系樹脂膜を長尺状の熱可塑性樹脂基材との積層体の状態で染色処理および延伸処理に供することによって行われ得る。具体的には、未脱色原膜は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含むPVA系樹脂層(PVA系樹脂膜)を形成して積層体とすること、および、積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む方法により作製され得る。PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。乾燥収縮処理は、加熱ロールを用いて処理することが好ましく、加熱ロールの温度は、好ましくは、60℃~120℃である。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは、2%以上である。このような製造方法によれば、PVA系樹脂の配向度が高く、優れた光学特性を有する未脱色原膜を得ることができる。
【0019】
A-1-1-1.積層体の作製
熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を作製する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、熱可塑性樹脂基材の表面に、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成する。上記のとおり、PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。
【0020】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0021】
PVA系樹脂層の厚みは、好ましくは、3μm~40μm、さらに好ましくは3μm~20μmである。
【0022】
PVA系樹脂層を形成する前に、熱可塑性樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、熱可塑性樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0023】
熱可塑性樹脂基材の厚みは、好ましくは20μm~300μm、より好ましくは50μm~200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、後述の水中延伸処理において、熱可塑性樹脂基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
【0024】
熱可塑性樹脂基材は、好ましくは、その吸水率が0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。熱可塑性樹脂基材は、水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させることができ、高倍率に延伸することができる。一方、熱可塑性樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、製造時に熱可塑性樹脂基材の寸法安定性が著しく低下して、得られる未脱色原膜の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に基材が破断したり、熱可塑性樹脂基材からPVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。なお、熱可塑性樹脂基材の吸水率は、例えば、構成材料に変性基を導入することにより調整することができる。吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
【0025】
熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは120℃以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、100℃以下、さらには90℃以下であることがより好ましい。一方、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、上記PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、熱可塑性樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、PVA系樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。なお、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度は、例えば、構成材料に変性基を導入する、結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
【0026】
熱可塑性樹脂基材の構成材料としては、任意の適切な熱可塑性樹脂が採用され得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ノルボルネン系樹脂、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
【0027】
1つの実施形態においては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸および/またはシクロヘキサンジカルボン酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールやジエチレングリコールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0028】
好ましい実施形態においては、熱可塑性樹脂基材は、イソフタル酸ユニットを有するポリエチレンテレフタレート系樹脂で構成される。このような熱可塑性樹脂基材は延伸性に極めて優れるとともに、延伸時の結晶化が抑制され得るからである。これは、イソフタル酸ユニットを導入することで、主鎖に大きな屈曲を与えることによるものと考えられる。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸ユニットおよびエチレングリコールユニットを有する。イソフタル酸ユニットの含有割合は、全繰り返し単位の合計に対して、好ましくは0.1モル%以上、さらに好ましくは1.0モル%以上である。延伸性に極めて優れた熱可塑性樹脂基材が得られるからである。一方、イソフタル酸ユニットの含有割合は、全繰り返し単位の合計に対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。このような含有割合に設定することで、後述の乾燥収縮処理において結晶化度を良好に増加させることができる。
【0029】
熱可塑性樹脂基材は、予め(PVA系樹脂層を形成する前)、延伸されていてもよい。1つの実施形態においては、長尺状の熱可塑性樹脂基材の横方向に延伸されている。横方向は、好ましくは、後述の積層体の延伸方向に直交する方向である。なお、本明細書において、「直交」とは、実質的に直交する場合も包含する。ここで、「実質的に直交」とは、90°±5.0°である場合を包含し、好ましくは90°±3.0°、さらに好ましくは90°±1.0°である。
【0030】
熱可塑性樹脂基材の延伸温度は、ガラス転移温度(Tg)に対し、好ましくはTg-10℃~Tg+50℃である。熱可塑性樹脂基材の延伸倍率は、好ましくは1.5倍~3.0倍である。
【0031】
熱可塑性樹脂基材の延伸方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸でもよい。延伸方式は、乾式でもよいし、湿式でもよい。熱可塑性樹脂基材の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、上述の延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。
【0032】
塗布液は、上記のとおり、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む。上記塗布液は、代表的には、上記ハロゲン化物および上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。塗布液におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部である。
【0033】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。
【0034】
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコールおよびエチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた未脱色原膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0035】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0036】
上記ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化物および塩化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化リチウムが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。
【0037】
塗布液におけるハロゲン化物の量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部~20重量部であり、より好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して10重量部~15重量部である。PVA系樹脂100重量部に対するハロゲン化物の量が20重量部を超えると、ハロゲン化物がブリードアウトし、最終的に得られる未脱色原膜が白濁する場合がある。
【0038】
一般に、PVA系樹脂層が延伸されることによって、PVA系樹脂層中のポリビニルアルコール分子の配向性が高くなるが、延伸後のPVA系樹脂層を、水を含む液体に浸漬すると、ポリビニルアルコール分子の配向が乱れ、配向性が低下する場合がある。特に、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体をホウ酸水中延伸する場合において、熱可塑性樹脂基材の延伸を安定させるために比較的高い温度で上記積層体をホウ酸水中で延伸する場合、上記配向度低下の傾向が顕著である。例えば、PVAフィルム単体のホウ酸水中での延伸が60℃で行われることが一般的であるのに対し、A-PET(熱可塑性樹脂基材)とPVA系樹脂層との積層体の延伸は70℃前後の温度という高い温度で行われ、この場合、延伸初期のPVAの配向性が水中延伸により上がる前の段階で低下し得る。これに対して、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材との積層体を作製し、積層体をホウ酸水中で延伸する前に空気中で高温延伸(補助延伸)することにより、補助延伸後の積層体のPVA系樹脂層中のPVA系樹脂の結晶化が促進され得る。その結果、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる未脱色原膜の光学特性を向上し得る。
【0039】
A-1-1-2.空中補助延伸処理
特に、高い光学特性を得るためには、乾式延伸(補助延伸)とホウ酸水中延伸を組み合わせる、2段延伸の方法が選択される。2段延伸のように、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂基材の結晶化を抑制しながら延伸することができ、後のホウ酸水中延伸において熱可塑性樹脂基材の過度の結晶化により延伸性が低下するという問題を解決し、積層体をより高倍率に延伸することができる。さらには、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂を塗布する場合、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度の影響を抑制するために、通常の金属ドラム上にPVA系樹脂を塗布する場合と比べて塗布温度を低くする必要があり、その結果、PVA系樹脂の結晶化が相対的に低くなり、十分な光学特性が得られない、という問題が生じ得る。これに対して、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂を塗布する場合でも、PVA系樹脂の結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVA系樹脂の配向性を事前に高めることで、後の染色処理や延伸処理で水に浸漬された時に、PVA系樹脂の配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。
【0040】
空中補助延伸の延伸方法は、固定端延伸(たとえば、テンター延伸機を用いて延伸する方法)でもよいし、自由端延伸(たとえば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよいが、高い光学特性を得るためには、自由端延伸が積極的に採用され得る。1つの実施形態においては、空中延伸処理は、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、加熱ロール間の周速差により延伸する加熱ロール延伸工程を含む。空中延伸処理は、代表的には、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程とを含む。なお、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程の順序は限定されず、ゾーン延伸工程が先に行われてもよく、加熱ロール延伸工程が先に行われてもよい。ゾーン延伸工程は省略されてもよい。1つの実施形態においては、ゾーン延伸工程および加熱ロール延伸工程がこの順に行われる。また、別の実施形態では、テンター延伸機において、積層体端部を把持し、テンター間の距離を流れ方向に広げることで延伸される(テンター間の距離の広がりが延伸倍率となる)。この時、幅方向(流れ方向に対して、垂直方向)のテンターの距離は、任意に近づくように設定される。好ましくは、流れ方向の延伸倍率に対して、自由端延伸により近くなるように設定され得る。自由端延伸の場合、幅方向の収縮率=(1/延伸倍率)1/2で計算される。
【0041】
空中補助延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。空中補助延伸における延伸方向は、好ましくは、水中延伸の延伸方向と略同一である。
【0042】
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは2.0倍~3.5倍である。空中補助延伸と水中延伸とを組み合わせた場合の最大延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。本明細書において「最大延伸倍率」とは、積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。
【0043】
空中補助延伸の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。延伸温度は、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、延伸温度の上限は、好ましくは170℃である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。空中補助延伸後のPVA系樹脂の結晶化指数は、好ましくは1.3~1.8であり、より好ましくは1.4~1.7である。PVA系樹脂の結晶化指数は、フーリエ変換赤外分光光度計を用い、ATR法により測定することができる。具体的には、偏光を測定光として測定を実施し、得られたスペクトルの1141cm-1および1440cm-1の強度を用いて、下記式に従って結晶化指数を算出する。
結晶化指数=(IC/IR)
ただし、
IC :測定光を入射して測定したときの1141cm-1の強度
IR :測定光を入射して測定したときの1440cm-1の強度
である。
【0044】
A-1-1-3.不溶化処理
必要に応じて、空中補助延伸処理の後、水中延伸処理や染色処理の前に、不溶化処理を施す。上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与し、水に浸漬した時のPVAの配向低下を防止することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃~50℃である。
【0045】
A-1-1-4.染色処理
上記染色処理は、代表的には、PVA系樹脂層を二色性物質(代表的には、ヨウ素)で染色することにより行う。具体的には、PVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液(染色浴)に積層体を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着し得るからである。
【0046】
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~10重量部、より好ましくは0.3重量部~5重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃~50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒~5分であり、より好ましくは30秒~90秒である。
【0047】
染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる未脱色原膜の単体透過率が所望の値となるように設定することができる。このような染色条件としては、好ましくは、染色液としてヨウ素水溶液を用い、ヨウ素水溶液におけるヨウ素およびヨウ化カリウムの含有量の比を、1:5~1:20とする。ヨウ素水溶液におけるヨウ素およびヨウ化カリウムの含有量の比は、好ましくは1:5~1:10である。これにより、後述のような光学特性を有する未脱色原膜が得られ得る。
【0048】
ホウ酸を含有する処理浴に積層体を浸漬する処理(代表的には、不溶化処理)の後に連続して染色処理を行う場合、当該処理浴に含まれるホウ酸が染色浴に混入することにより染色浴のホウ酸濃度が経時的に変化し、その結果、染色性が不安定になる場合がある。上記のような染色性の不安定化を抑制するために、染色浴のホウ酸濃度の上限は、水100重量部に対して、好ましくは4重量部、より好ましくは2重量部となるように調整される。一方で、染色浴のホウ酸濃度の下限は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部であり、より好ましくは0.2重量部であり、さらに好ましくは0.5重量部である。1つの実施形態においては、予めホウ酸が配合された染色浴を用いて染色処理を行う。これにより、上記処理浴のホウ酸が染色浴に混入した場合のホウ酸濃度の変化の割合を低減し得る。予め染色浴に配合されるホウ酸の配合量(すなわち、上記処理浴に由来しないホウ酸の含有量)は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~2重量部であり、より好ましくは0.5重量部~1.5重量部である。
【0049】
A-1-1-5.架橋処理
必要に応じて、染色処理の後、水中延伸処理の前に、架橋処理を施す。上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与し、後の水中延伸で、高温の水中へ浸漬した際のPVAの配向低下を防止することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。また、上記染色処理後に架橋処理を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃~50℃である。
【0050】
A-1-1-6.水中延伸処理
水中延伸処理は、積層体を延伸浴に浸漬させて行う。水中延伸処理によれば、上記熱可塑性樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する未脱色原膜を製造することができる。
【0051】
積層体の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸が選択される。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、各段階の延伸倍率の積である。
【0052】
水中延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中に積層体を浸漬させて行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する未脱色原膜を製造することができる。
【0053】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部~10重量部であり、より好ましくは2.5重量部~6重量部であり、特に好ましくは3重量部~5重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の未脱色原膜を製造することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0054】
好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~15重量部、より好ましくは0.5重量部~8重量部である。
【0055】
延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃~85℃、より好ましくは60℃~75℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒~5分である。
【0056】
水中延伸による延伸倍率は、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは3.0倍以上である。積層体の総延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上であり、さらに好ましくは5.5倍以上である。このような高い延伸倍率を達成することにより、光学特性に極めて優れた未脱色原膜を製造することができる。このような高い延伸倍率は、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。
【0057】
A-1-1-7.乾燥収縮処理
上記乾燥収縮処理は、例えば、長尺状の熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂膜との積層体を長手方向に搬送しながら加熱することにより、幅方向に2%以上収縮させる。乾燥収縮処理においては、該PVA系樹脂膜の水分率が15重量%以下となるまで乾燥させることが好ましく、安定した外観を得る観点から、より好ましくは水分率が12重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、さらにより好ましくは1重量%~5重量%となるまで乾燥させることが好ましい。
【0058】
乾燥収縮処理は、ゾーン全体を加熱して行うゾーン加熱により行っても良いし、搬送ロールを加熱する(いわゆる加熱ロールを用いる)ことにより行う(加熱ロール乾燥方式)こともできる。好ましくは、その両方を用いる。加熱ロールを用いて乾燥させることにより、効率的に積層体の加熱カールを抑制して、外観に優れた未脱色原膜を製造することができる。具体的には、加熱ロールに積層体を沿わせた状態で乾燥することにより、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い乾燥温度であっても、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、熱可塑性樹脂基材は、その剛性が増加して、乾燥によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、加熱ロールを用いることにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。この時、積層体は、乾燥収縮処理により幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは1%~10%であり、より好ましくは2%~8%であり、特に好ましくは4%~6%である。加熱ロールを用いることにより、積層体を搬送しながら連続的に幅方向に収縮させることができ、高い生産性を実現することができる。
【0059】
図1は、乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。乾燥収縮処理では、所定の温度に加熱された搬送ロールR1~R6と、ガイドロールG1~G4とにより、積層体200を搬送しながら乾燥させる。図示例では、PVA系樹脂層の面と熱可塑性樹脂基材の面を交互に連続加熱するように搬送ロールR1~R6が配置されているが、例えば、積層体200の一方の面(たとえば熱可塑性樹脂基材面)のみを連続的に加熱するように搬送ロールR1~R6を配置してもよい。
【0060】
搬送ロールの加熱温度(加熱ロールの温度)、加熱ロールの数、加熱ロールとの接触時間等を調整することにより、乾燥条件を制御することができる。加熱ロールの温度は、好ましくは60℃~120℃であり、さらに好ましくは65℃~100℃であり、特に好ましくは70℃~80℃である。熱可塑性樹脂の結晶化度を良好に増加させて、カールを良好に抑制することができるとともに、耐久性に極めて優れた光学積層体を製造することができる。なお、加熱ロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。図示例では、6個の搬送ロールが設けられているが、搬送ロールは複数個であれば特に制限はない。搬送ロールは、通常2個~40個、好ましくは4個~30個設けられる。積層体と加熱ロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒~300秒であり、より好ましくは1~20秒であり、さらに好ましくは1~10秒である。
【0061】
加熱ロールは、加熱炉(例えば、オーブン)内に設けてもよいし、通常の製造ライン(室温環境下)に設けてもよい。好ましくは、送風手段を備える加熱炉内に設けられる。加熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、加熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御することができる。熱風乾燥の温度は、好ましくは20℃~100℃である。また、熱風乾燥時間は、好ましくは1秒~300秒である。熱風の風速は、好ましくは10m/s~30m/s程度である。なお、当該風速は加熱炉内における風速であり、ミニベーン型デジタル風速計により測定することができる。
【0062】
A-1-1-8.その他の処理
好ましくは、水中延伸処理の後、乾燥収縮処理の前に、洗浄処理を施す。上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。
【0063】
工程IIにおける未脱色原膜と水性溶媒との接触は、未脱色原膜の片面のみが水性溶媒と接触することによって行われてもよく、両面が水性溶媒と接触することによって行われてもよい。よって、1つの実施形態において、上記積層体を用いて作製された未脱色原膜は、[未脱色原膜/熱可塑性樹脂基材]の積層体のまま工程IIに供されることができる。別の実施形態において、[未脱色原膜/熱可塑性樹脂基材]の積層体の未脱色原膜表面に保護層を貼り合わせて[保護層/未脱色原膜/熱可塑性樹脂基材]の積層体を作製し、当該積層体から熱可塑性樹脂基材を剥離して[保護層/未脱色原膜]の積層体(偏光板)を作製し、得られた積層体を工程IIに供することができる。さらに別の実施形態においては、[未脱色原膜/熱可塑性樹脂基材]の積層体の基材側または[保護層/未脱色原膜]の積層体の保護層側に任意の適切な機能層(位相差層、粘着剤層等)を設けたものを工程IIに供することもできる。
【0064】
A-1-2.単層のPVA系樹脂膜を用いた未脱色原膜の作製
単層のPVA系樹脂膜を用いた未脱色原膜の作製は、自己支持性を有する(すなわち、基材による支持を必要としない)長尺状のPVA系樹脂膜を染色および延伸(代表的には、ホウ酸水溶液中でのロール延伸機を用いた一軸延伸)し、次いで、水分率が好ましくは15重量%以下、より好ましくは12重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、さらにより好ましくは1重量%~5重量%となるまで乾燥させることによって行われ得る。上記染色は、例えば、PVA系樹脂膜をヨウ素水溶液に浸漬することにより行われる。上記一軸延伸の延伸倍率は、好ましくは3~7倍である。延伸は、染色処理後に行ってもよいし、染色しながら行ってもよい。また、延伸してから染色してもよい。必要に応じて、PVA系樹脂膜に、膨潤処理、架橋処理、洗浄処理等が施される。例えば、染色の前にPVA系樹脂膜を水に浸漬して水洗することで、PVA系樹脂膜表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、PVA系樹脂膜を膨潤させて染色ムラ等を防止することができる。
【0065】
上述の通り、工程IIにおける未脱色原膜と水性溶媒との接触は、未脱色原膜の片面のみが水性溶媒と接触することによって行われてもよく、両面が水性溶媒と接触することによって行われてもよい。よって、1つの実施形態において、上記単層のPVA系樹脂膜を用いて作製された未脱色原膜は、そのまま工程IIに供されることができる。別の実施形態において、未脱色原膜の片面に保護層を貼り合わせて[保護層/未脱色原膜]の積層体を作製し、当該積層体を工程IIに供することができる。さらに別の実施形態においては、[保護層/未脱色原膜]の積層体の保護層側に任意の適切な機能層(位相差層、粘着剤層等)を設けたものを工程IIに供することもできる。
【0066】
A-2.工程II
工程IIにおいては、工程Iを経たPVA系樹脂膜(未脱色原膜)の表面に水性溶媒を接触させる。水性溶媒との接触により、I-、I2、I3
-およびPVA-I3
-錯体を形成するポリヨウ素イオンがPVA-I5
-錯体を形成するポリヨウ素イオンよりも優先的に未脱色原膜から溶出し、短波長側の透過率がより大きく上昇する結果、波長λnmにおける透過率の上昇率(ΔTs(λ))が、ΔTs(415)>ΔTs(470)>ΔTs(550)の関係を満たすことができる。
【0067】
水性溶媒としては、未脱色原膜から二色性物質(代表的には、ヨウ素)を溶出させ得る限りにおいて、任意の適切な溶媒が用いられ得る。水性溶媒は、例えば、水または水と水溶性有機溶媒との混合物であり得る。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数が1個~4個の低級モノアルコールおよびグリセリン、エチレングリコール等の多価アルコールが好ましく例示できる。
【0068】
水性溶媒との接触方法としては、特に制限されず、浸漬、噴霧、塗布等の任意の適切な方法が用いられ得る。未脱色原膜表面の全面を水性溶媒と均一に接触させる観点からは、浸漬が好ましい。
【0069】
水性溶媒との接触時間および接触時の水性溶媒の温度は、所望のTs415、Ts470およびTs550等に応じて適切に設定され得る。接触時間が長くすることまたは水性溶媒の温度を高くすることにより、透過率(特に、Ts415)が大きくなる傾向にある。接触時間は、例えば10分以下、好ましくは60秒~9分、より好ましくは60秒~4分であり得る。水性溶媒の温度は、好ましくは20℃~70℃、より好ましくは30℃~65℃、さらに好ましくは40℃~60℃であり得る。
【0070】
必要に応じて、水性溶媒との接触後に乾燥処理を行ってもよい。乾燥温度は、例えば20℃~100℃、好ましくは30℃~80℃であり得る。乾燥後の偏光膜の水分率は、代表的には15重量%以下であり、好ましくは12重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%~5重量%である。
【0071】
B.偏光膜
A項に記載の偏光膜の製造方法によって得られる偏光膜は、二色性物質(代表的には、ヨウ素)を含むPVA系樹脂フィルムで構成され、少なくとも415nm~550nmの波長領域において未脱色原膜よりも上昇した透過率を有する。具体的には、波長λnmにおける透過率の上昇率(ΔTs(λ))がΔTs(415)>ΔTs(470)>ΔTs(550)の関係を満たす。波長415nmにおける透過率の上昇率(ΔTs(415))は、例えば1.05を超え、好ましくは1.1以上であり、より好ましくは1.10~2.2であり得る。ΔTs(415)が当該範囲内であれば、消費電力が大きい青色発光の量を減らして、有機EL表示装置の省エネルギー化に寄与することができる。
【0072】
偏光膜のTs415およびTs550は、目的に応じて任意の適切な値であり得る。Ts415は、例えば40%以上、好ましくは41%以上、より好ましくは42%以上であり得、また、例えば80%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下であり得る。また、Ts550は、例えば40%以上、好ましくは42%以上、より好ましくは43%以上であり得、また、例えば70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下であり得る。
【0073】
偏光膜は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の透過率(単体透過率:Ts)は、好ましくは41%以上であり、より好ましくは42%以上であり、さらに好ましくは42.5%以上である。一方、偏光膜の透過率は、例えば65%以下であり、好ましくは50%以下であり、より好ましくは48%以下である。また、偏光膜の偏光度は、例えば40.0%以上、好ましくは90.0%以上であり、より好ましくは94.0%以上であり、さらに好ましくは96.0%以上であり、さらにより好ましくは99.0%以上であり、さらにより好ましくは99.5%以上であり、好ましくは99.998%以下である。上記透過率および偏光度は、未脱色原膜の透過率および偏光度と同様にして求められる。
【0074】
偏光膜のヘイズは、好ましくは1%以下であり、より好ましくは0.8%以下であり、さらに好ましくは0.6%以下である。ヘイズが当該範囲内であれば、高いコントラスト比を有する有機EL表示装置が得られ得る。
【0075】
偏光膜中のヨウ素濃度は、好ましくは3重量%以上であり、より好ましくは4重量%~10重量%であり、より好ましくは4重量%~8重量%である。なお、本明細書において「ヨウ素濃度」とは、偏光膜中に含まれるすべてのヨウ素の量を意味する。より具体的には、偏光膜中においてヨウ素はI-、I2、I3
-、PVA-I3
-錯体、PVA-I5
-錯体等の形態で存在するところ、本明細書におけるヨウ素濃度は、これらの形態をすべて包含したヨウ素の濃度を意味する。ヨウ素濃度は、例えば、蛍光X線分析による蛍光X線強度とフィルム(偏光膜)厚みとから算出され得る。
【0076】
偏光膜の厚みは、代表的には25μm以下であり、好ましくは12μm以下であり、より好ましくは1μm~12μmであり、さらに好ましくは1μm~7μm、さらにより好ましくは2μm~5μmである。
【実施例】
【0077】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
(1)厚み
製品名「リニアゲージ MODEL D-10HS」(尾崎製作所社製)を用いて測定した。
(2)単体透過率および偏光度
実施例および比較例で得られたPVA系樹脂膜(偏光膜または未脱色原膜)と保護層との積層体について、PVA系樹脂膜側から、紫外可視分光光度計(大塚電子社製「LPF-200」)を用いて測定した単体透過率Ts、平行透過率Tp、直交透過率Tcをそれぞれ、PVA系樹脂膜のTs、TpおよびTcとした。これらのTs、TpおよびTcは、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。なお、保護層の屈折率は1.53であり、偏光膜の保護層とは反対側の表面の屈折率は1.53であった。
得られたTpおよびTcから、下記式により偏光度Pを求めた。
偏光度P(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
また、波長415nm、470nmおよび550nmでの測定されたTsをそれぞれ、Ts415、Ts470およびTs550とした。
なお、分光光度計は、日本分光社製「V-7100」などでも同等の測定をすることが可能であり、いずれの分光光度計を用いた場合であっても同等の測定結果が得られることが確認されている。
(3)水分率
乾燥処理直後の未脱色原膜(積層体で延伸した場合、延伸基材は剥離する)を100mm×100mm以上の大きさに切り出し、電子天秤にて、処理前重量を測定する。その後120℃に保たれた加熱オーブンに2時間投入し、取り出し後の重量(処理後重量)を測定し、下記式により水分率を求めた。
水分率[%]=(処理前重量-処理後重量)/処理前重量×100
(4)ヘイズ
日本電色工業社製、製品名「ヘーズメーター(NDH-5000」を用いて、JISK7136に従って測定した。
【0078】
[実施例1-1]
1.偏光膜および偏光板の作製
厚み30μmのPVA系樹脂フィルム(クラレ製、製品名「PE3000」)の長尺ロールを、30℃水浴中に浸漬させつつ搬送方向に2.2倍に延伸した後、ヨウ素濃度0.04重量%、カリウム濃度0.3重量%の30℃水溶液中に浸漬して染色しながら、全く延伸していないフィルム(元長)を基準として3倍に延伸した。次いで、この延伸フィルムを、ホウ酸濃度3重量%、ヨウ化カリウム濃度3重量%の30℃の水溶液中に浸漬しながら、元長基準で3.3倍までさらに延伸し、続いて、ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%の60℃水溶液中に浸漬しながら、元長基準で6倍までさらに延伸し、最後に60℃に保たれたオーブンで5分の乾燥処理を施すことによって、厚み12μmの偏光膜(未脱色原膜a1)を作製した。得られた未脱色原膜a1の水分率は10.0重量%であり、単体透過率は42.5%であった。
【0079】
得られた未脱色原膜a1の片面にPVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z-200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、シクロオレフィン系フィルム(日本ゼオン社製、Zeonor、厚み:25μm)を貼り合わせて、[未脱色原膜a1/保護層]の構成を有する光学積層体を得た。なお、保護層としては、ハードコート層が設けられた保護層を用いてもよく、このような保護層としては、例えばハードコート層付シクロオレフィン系フィルム(ZEON社製、製品名「G-Film」、総厚み27μm(フィルム厚み25μm+ハードコート層厚み2μm))等が例示できる。
【0080】
上記光学積層体を45mm×50mmサイズに切断し、アクリル系粘着剤層(厚み15μm)を介して未脱色原膜側表面が露出面となるようにガラス板に貼り合わせた状態で23℃の水中に31時間浸漬した。次いで、50℃で5分乾燥することにより、[偏光膜A1/保護層]の構成を有する偏光板を得た。
【0081】
[実施例1-2]
23℃の水中に31時間浸漬する代わりに、55℃の水中に9分間浸漬したこと以外は実施例1-1と同様にして、[偏光膜A2/保護層]の構成を有する偏光板を得た。
【0082】
[実施例1-3]
23℃の水中に31時間浸漬する代わりに、60℃の水中に4分間浸漬したこと以外は実施例1-1と同様にして、[偏光膜A3/保護層]の構成を有する偏光板を得た。
【0083】
[実施例1-4]
23℃の水中に31時間浸漬する代わりに、65℃の水中に3分間浸漬したこと以外は実施例1-1と同様にして、[偏光膜A4/保護層]の構成を有する偏光板を得た。
【0084】
[比較例1]
実施例1-1と同様にして作製した[未脱色原膜a1/保護層]の構成を有する光学積層体を偏光板とした。
【0085】
[実施例2-1]
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用い、樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加したものを水に溶かし、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で縦方向(長手方向)に2.4倍に一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光板の単体透過率(Ts)が42.3%となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、約90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が約75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに接触させた(乾燥収縮処理)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は2%であった。
このようにして、樹脂基材上に水分率が4.5%であり、厚み5μmの未脱色原膜を形成し、未脱色原膜の表面にシクロオレフィン系フィルム(日本ゼオン社製、Zeonor、厚み:25μm)をUV硬化型接着剤(厚み1.0μm)により貼り合わせ、その後、樹脂基材を剥離して[未脱色原膜b1/保護層]の構成を有する光学積層体を得た。
【0086】
上記光学積層体を45mm×50mmサイズに切断し、アクリル系粘着剤層(厚み15μm)を介して未脱色原膜側表面が露出面となるようにガラス板に貼り合わせた状態で50℃の水中に9分間浸漬した。次いで、50℃で5分乾燥することにより、[偏光膜B1/保護層]の構成を有する偏光板を得た。
【0087】
[実施例2-2]
50℃の水中に9分間浸漬する代わりに、55℃の水に3分間浸漬したこと以外は実施例2-1と同様にして、[偏光膜B2/保護層]の構成を有する偏光板を得た。
【0088】
[実施例2-3]
50℃の水中に9分間浸漬する代わりに、60℃の水に2分間浸漬したこと以外は実施例2-1と同様にして、[偏光膜B3/保護層]の構成を有する偏光板を得た。
【0089】
[実施例2-4]
50℃の水中に9分間浸漬する代わりに、60℃の水に3分間浸漬したこと以外は実施例2-1と同様にして、[偏光膜B4/保護層]の構成を有する偏光板を得た。
【0090】
[比較例2]
実施例2-1と同様にして作製した[未脱色原膜b1/保護層]の構成を有する光学積層体を偏光板として用いた。
【0091】
上記実施例および比較例で得られた未脱色原膜および偏光膜について各種特性を評価した。結果を表1に示す。
【表1】
【0092】
表1から分かる通り、実施例の製造方法によれば、水との接触前後において、PVA系樹脂膜の波長λnmにおける透過率の上昇率(ΔTs(λ))がΔTs(415)>ΔTs(470)>ΔTs(550)の関係を満たし、波長415nmにおける透過率の上昇率が大きいことが分かる。このような製造方法で得られた偏光膜は、実用上許容可能な光学特性(代表的には、単体透過率および偏光度)を有し、かつ、短波長の光の透過率が増大されている。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の偏光膜は、液晶表示装置およびEL表示装置等の画像表示装置、特に、有機EL表示装置において好適に用いられ得る。