(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】吸収性物品用伸縮シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20241120BHJP
D04H 3/04 20120101ALI20241120BHJP
D06M 15/05 20060101ALI20241120BHJP
D06M 23/08 20060101ALI20241120BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20241120BHJP
A61F 13/49 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
B32B5/26
D04H3/04
D06M15/05
D06M23/08
A61F13/15 311
A61F13/49 319
A61F13/49 410
A61F13/15 355B
(21)【出願番号】P 2021019323
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新津 太一
(72)【発明者】
【氏名】大西 玲子
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 侑吾
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-112819(JP,A)
【文献】特表2014-503713(JP,A)
【文献】特開2004-250795(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0165131(US,A1)
【文献】米国特許第04657802(US,A)
【文献】特開2021-037058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 5/26
A61F 13/15-13/84
D04H 3/04
D06M 15/05
D06M 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸長性を有する不織布の一方の面に、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメントが融着によって接合されており、
前記弾性フィラメントにおける前記不織布との融着部以外の部分が露出しており、その弾性フィラメントの露出部の表面に、該弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さが付与されて
おり、
前記弾性フィラメントの露出部の粗面化率が10%以上である、吸収性物品用伸縮シート。
【請求項2】
前記弾性フィラメントの露出部の表面に微細材料が付着している、請求項
1に記載の吸収性物品用伸縮シート。
【請求項3】
伸長性を有する不織布の一方の面に、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメントが融着によって接合されており、
前記弾性フィラメントにおける前記不織布との融着部以外の部分が露出しており、その弾性フィラメントの露出部の表面に、該弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さが付与されており、
前記弾性フィラメントの露出部の表面に微細材料が付着している、吸収性物品用伸縮シート。
【請求項4】
前記弾性フィラメントの露出部の粗面化率が10%以上である、請求項
3に記載の吸収性物品用伸縮シート。
【請求項5】
前記微細材料は、200℃で溶融及び熱分解しない材料を含む、請求項3
又は4に記載の吸収性物品用伸縮シート。
【請求項6】
前記微細材料はセルロース繊維を含む、請求項3
~5の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シート。
【請求項7】
伸長性を有する不織布の一方の面に、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメントが露出した状態で接合された吸収性物品用伸縮シートの製造方法であって、
複数の紡糸ノズルから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメントを、該弾性フィラメントの固化前に原反不織布の一方の面と接触させて、該弾性フィラメントが該原反不織布の一方の面に露出した状態で融着した複合不織布を得る、複合不織布製造工程と、
前記弾性フィラメントの表面における前記原反不織布との非接触部自体に凹凸を形成する、表面粗さ付与工程と、
前記複合不織布を延伸する工程とを有
し、
前記複合不織布製造工程では、前記原反不織布を、相対向する一対のロールのうちの一方に巻き掛けながら該一対のロール間に供給するとともに、複数の紡糸ノズルから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメントを、該原反不織布と該一対のロールのうちの他方との間に供給し、
前記一対のロールのうちの他方のロール周面には所定の表面粗さが付与されており、
前記表面粗さ付与工程では、前記弾性フィラメントの固化前に該弾性フィラメントの前記非接触部に前記他方のロール周面を接触させ、
前記他方のロール周面は、200℃で溶融及び熱分解しない材料を含む、吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
【請求項8】
前記他方のロール周面はセルロース繊維を含む、請求項
7に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
【請求項9】
伸長性を有する不織布の一方の面に、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメントが露出した状態で接合された吸収性物品用伸縮シートの製造方法であって、
複数の紡糸ノズルから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメントを、該弾
性フィラメントの固化前に原反不織布の一方の面と接触させて、該弾性フィラメントが該原反不織布の一方の面に融着した複合不織布を得るとともに、該弾性フィラメントの表面における該原反不織布との非接触部に剥離シートを接触させて、該原反不織布と該剥離シートとの間に該弾性フィラメントが介在配置された積層シートを得る工程と、
前記積層シートから前記剥離シートを除去する工程と、
前記複合不織布を延伸する工程とを有し、
前記剥離シートは、200℃で溶融及び熱分解しない材料を主体とする、吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品用伸縮シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
おむつ等の吸収性物品を身体へフィットさせる観点から、吸収性物品の構成部材として2枚のシート間に糸ゴム等の弾性部材を接合してなる伸縮性のシート部材が用いられている。斯かるシート部材として、例えば特許文献1には、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメントが伸長可能な2枚の不織布の間に挟持された構成の伸縮シートが記載されている。
【0003】
また、繊維の表面に粒子を付着させて、繊維に種々の特性を付与する技術が知られている。例えば特許文献2には、繊維の表面に複数の疎水性の粒子が固着して、該粒子に起因する凸部が該繊維の表面から複数突出している構成繊維を含む不織布が記載されている。特許文献2に記載の不織布は、濡れている場合であっても湿り気を知覚させ難く、吸収性物品における着用者の肌から最も遠い側に位置する部材として有用であるとされている。
【0004】
特許文献3には、伸縮弾性を有する芯鞘型複合弾性フィラメントであって、周方向に沿って隆起した畝が繊維軸方向に多数配置され、粗表面を有するものが記載されている。特許文献3に記載の複合弾性フィラメントは、表面の摩擦係数が小さく、これを用いて構成されたストッキング等の肌に直接触れる衣料品は、その弾性によって肌に密着するにもかかわらず、ポリウレタン弾性糸のようなぬめり感はなく、快適な着用感を与えるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-30182号公報
【文献】特開2016-108714号公報
【文献】国際公開第1992/000408号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された伸縮シートは、吸収性物品をはじめとする各種の着用物品の形成材料として適用された場合に、該弾性フィラメントの作用によって優れたフィット性を示し、着用物品のずれ落ちを効果的に防止し得るものの、特に、2枚の不織布の間に弾性フィラメントが介在配置された構成の伸縮シートは、該不織布単体では通気抵抗が比較的小さいとは言え、複数の該不織布が積層された構成であるため、通気性の点で改善の余地がある。そこで、斯かる構成の伸縮シートの改良技術として、1枚の不織布の片面に複数の弾性フィラメントが露出した状態で接合された構成のものが考えられる。しかし、このような露出した弾性フィラメントを有する伸縮シートは、その製造時においては、紡糸ノズルから紡出された溶融又は軟化状態の弾性フィラメントが、該弾性フィラメントを不織布とともに引き取って両者を挟圧する一対のロールのうちの一方と接触するため、該弾性フィラメントがその一方のロールに絡め取られてしまい、設計どおりの品質が得られない、製造装置が汚染される等の不都合が生じるおそれがあり、また製造後においては、露出した弾性フィラメントが粘着性を帯びることに起因していわゆるブロッキングが生じやすく、ハンドリングや保存安定性の点で改善の余地がある。
【0007】
本発明の課題は、通気性に優れ、且つブロッキング耐性を有し保存安定性にも優れる吸収性物品用伸縮シート及びその製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、伸長性を有する不織布の一方の面に、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメントが融着によって接合されている、吸収性物品用伸縮シートである。
本発明の吸収性物品用伸縮シートの一実施形態では、前記弾性フィラメントにおける前記不織布との融着部以外の部分が露出しており、その弾性フィラメントの露出部の表面に、該弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さが付与されている。
【0009】
また本発明は、伸長性を有する不織布の一方の面に、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメントが露出した状態で接合された吸収性物品用伸縮シートの製造方法である。
本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法の一実施形態は、複数の紡糸ノズルから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメントを、該弾性フィラメントの固化前に原反不織布の一方の面と接触させて、該弾性フィラメントが該原反不織布の一方の面に露出した状態で融着した複合不織布を得る、複合不織布製造工程を有する。
本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法の一実施形態は、前記弾性フィラメントの表面における前記原反不織布との非接触部自体に凹凸を形成する、表面粗さ付与工程を有する。
本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法の一実施形態は、前記複合不織布を延伸する工程を有する。
【0010】
本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法の他の一実施形態は、複数の紡糸ノズルから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメントを、該弾性フィラメントの固化前に原反不織布の一方の面と接触させて、該弾性フィラメントが該原反不織布の一方の面に融着した複合不織布を得るとともに、該弾性フィラメントの表面における該原反不織布との非接触部に剥離シートを接触させて、該原反不織布と該剥離シートとの間に該弾性フィラメントが介在配置された積層シートを得る工程と、
前記積層シートから前記剥離シートを除去する工程と、
前記複合不織布を延伸する工程とを有する。
本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法の他の一実施形態では、前記剥離シートは、200℃で溶融及び熱分解しない材料を主体とする。
本発明の他の特徴、効果及び実施形態は、以下に説明される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通気性に優れ、且つブロッキング耐性を有し保存安定性にも優れる吸収性物品用伸縮シートが提供される。また、本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法によれば、前記吸収性物品用伸縮シートを効率的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の吸収性物品用伸縮シートの一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の吸収性物品用伸縮シートの一実施形態における弾性フィラメント及びその近傍の電子顕微鏡写真(観察倍率150倍)である。
【
図3】
図3は、本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法における複合不織布製造工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法における延伸工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法における表面粗さ付与工程の一例を模式的に示す図であり、溶融又は軟化状態の弾性フィラメントが供給される一対のロールの径方向に沿う模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法における表面粗さ付与工程の他の一例の
図5相当図である。
【
図7】
図7は、本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法の一実施形態における積層シートを得る工程の一例の
図5相当図である。
【
図8】
図8は、本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法の一実施形態における積層シートを得る工程の他の一例の
図5相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。図面は基本的に模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なる場合がある。
【0014】
図1には、本発明の吸収性物品用伸縮シートの一実施形態である伸縮シート1が示されている。伸縮シート1は、伸長性を有する不織布2の一方の面に、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメント3が融着によって接合されて構成されている。
【0015】
本実施形態の伸縮シート1は、長手方向Xと、該長手方向Xに直交する幅方向Yとを有している。長手方向Xは、伸縮シート1の製造時の流れ方向、いわゆる機械方向Machine Direction(以下「MD」とも言う。)に一致し、幅方向Yは、MDに直交するCD(Cross Direction)に一致する。
【0016】
不織布2は伸長性を有している。本実施形態では、不織布2は弾性フィラメント3の延びる方向(長手方向X)に伸長可能である。「伸長性を有する不織布」とは、具体的には例えば、下記方法により測定した不織布の伸長率(長さ変化)が30%以上である場合、当該不織布は伸長性を有すると言える。不織布2の伸長率は特に制限されないが、伸縮シート1の伸縮性の向上の観点から、好ましくは100%以上300%以下である。
【0017】
<伸長率の測定方法>
測定対象の伸縮シート1に、幅方向に延びる印を長手方向に1cmの間隔を空けて2つ付すとともに、該伸縮シート1から弾性フィラメント3を取り除き、残った不織布2から、2つの印を含む、長手方向2cm、幅1cmの平面視四角形形状を切り出して、試験片とする。なお、斯かる試験片の作製に際し、伸縮シート1から弾性フィラメント3を取り除く方法としては、不織布2は不溶で且つ弾性フィラメント3のみ可溶な有機溶媒を用い、弾性フィラメント3のみを溶解させた後、不織布2を自然乾燥させる方法が挙げられる。例えば、弾性フィラメント3が熱可塑性エラストマーのスチレン系ブロック共重合体からなり、不織布2がポリプロピレンからなる場合、前記の有機溶媒としては、トルエンを用いることができる。
試験片の長手方向を引張方向に一致させ、試験片における前記2つの印の箇所を引張試験機(オリエンテック株式会社製テンシロン引張り試験機、RTM100)のチャックに取り付ける。この際、チャック間距離は1cmとする。次いで、引張り速度100mm/分で、試験片を荷重50gまで引っ張り、該試験片の長さを測定する。そして、次式により、伸長率を計算する。
伸長率(%)=[{引っ張った後の試験片の長さ(mm)-引っ張る前の試験片の長さ(mm)}/引っ張る前の試験片の長さ(mm)×]100
【0018】
なお、測定対象の伸縮シートが吸収性物品等の他の物品の構成部材として用いられており、該伸縮シートを取り出して評価測定する場合において、該伸縮シートが、接着剤、融着などによって他の構成部材に固定されている場合には、その固定部分に有機溶媒を塗布する、コールドスプレーの冷風を吹き付ける等して、固定を解除してから取り出す。この手順は、本願明細書中の全ての測定において共通である。
【0019】
「伸長性を有する不織布」の具体例として、下記(1)及び(2)が挙げられる。
(1)不織布の構成繊維自体が伸長する形態。
(2)構成繊維自体は伸長しなくても、交点において結合していた繊維どうしが離れたり、繊維どうしの結合等により複数本の繊維で形成された立体構造が構造的に変化したり、構成繊維がちぎれたり、繊維のたるみが引き伸ばされたりして、不織布全体として伸長する形態。
【0020】
本実施形態では、不織布2は前記(2)の形態を有している。具体的には
図1に示すように、不織布2は、低目付部(低坪量部)21と、該低目付部21に比して該不織布2の形成材料(繊維)が多い高目付部(高坪量部)22とを有している。低目付部21と高目付部22とは、弾性フィラメント3の延在方向(長手方向X)に交互に配されている。低目付部21及び高目付部22は、それぞれ、弾性フィラメント3の延在方向と直交する幅方向Yに沿って延在している。低目付部21及び高目付部22は、後述する伸縮性付与工程によって、不織布2に形成される。当該伸縮性付与工程により、不織布2は、弾性フィラメント3の延在方向(長手方向X)に沿って伸長可能な伸長性を有している。
【0021】
本実施形態では、複数の弾性フィラメント3は、それぞれ、伸縮シート1の長手方向Xの全長にわたって連続し、直線状に延びている。
なお本発明では、弾性フィラメント3は互いに交差しなければよく、例えば、蛇行しながら一方向に延びていてもよい。
弾性フィラメント3は、非伸長状態で不織布2に接合されている。ここでいう「非伸長状態」とは、弾性フィラメント3に外力が一切作用していないときに最も縮んだ状態を指し、基本的には「自然状態」と同じである。
【0022】
弾性フィラメント3は、融着によって不織布2に接合されている。すなわち、弾性フィラメント3と不織布2との接合は、両者を構成する樹脂の少なくとも一方の溶融による接合であり、ホットメルト型接着剤等の接着剤を用いてなされたものではない。したがって、不織布2と弾性フィラメント3との間には接着剤が存在しない。ここでいう「接着剤が存在しない」とは、接着剤の坪量がゼロの形態のみならず、厳密には比較的少量(例えば1g/m2以下)の接着剤が存在するが、不織布2と弾性フィラメント3とを接合させ得る量ではなく実質的に接着剤が存在しないと言える形態を包含する。弾性フィラメント3と不織布2との接合強度の向上の観点から、弾性フィラメント3はその全長にわたって不織布2に融着されていることが好ましい。
【0023】
伸縮シート1は弾性フィラメント3の延びる方向(長手方向X)に沿って伸縮する。伸縮シート1の伸縮性は、弾性フィラメント3の弾性に起因して発現する。「弾性」とは、伸ばすことができ且つ伸ばした力から解放したときに収縮する性質を意味する。伸縮シート1を、弾性フィラメント3の延在方向に沿って引き伸ばすと、弾性フィラメント3及び不織布2が伸長する。そして伸縮シート1の引き伸ばしを解除すると、弾性フィラメント3が収縮し、その収縮に伴って不織布2が引き伸ばし前の状態に戻る。伸縮シート1においては、弾性フィラメント3どうしが互いに交差していないので、伸縮シート1を、弾性フィラメント3の延在方向に沿って引き伸ばしたとき、該伸縮シート1がその引き伸ばし方向と直交する方向に縮む、いわゆる幅縮みをほとんど起こさずに伸長可能である。
【0024】
伸縮シート1の坪量等は特に制限されないが、伸縮性の向上等の観点から、以下のように設定することが好ましい。
伸縮シート1の全体の坪量は、好ましくは10g/m2以上、より好ましくは20g/m2以上、そして、好ましくは70g/m2以下、より好ましくは50g/m2以下である。
不織布2における低目付部21の坪量は、好ましくは3g/m2以上、より好ましくは7g/m2以上であり、そして、好ましくは20g/m2以下、より好ましくは15g/m2以下である。
不織布2における高目付部23の坪量は、好ましくは5g/m2以上、より好ましくは10g/m2以上、そして、好ましくは50g/m2以下、より好ましくは30g/m2以下である。
【0025】
不織布2の厚みは、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上、更に好ましくは0.15mm以上、そして、好ましくは5mm以下、より好ましくは1mm以下、更に好ましくは0.5mm以下である。
不織布2の厚みの測定は、次の方法で行われる。測定対象の不織布2を含む伸縮シート1に剃刀を当て、該剃刀の上部をハンマーで叩く等して、該伸縮シート1を厚み方向に切断する。切断した伸縮シート1を平板間に挟んで該伸縮シート1に0.5cN/cm2の荷重をかけた状態で、該伸縮シート1の断面をマイクロスコープにより50~200倍の倍率で観察し、その観察視野において不織布2の厚みを測定する。測定は、伸縮シート1の断面の任意の3箇所について行い、それらの平均値を不織布2の厚みとする。
【0026】
隣り合う弾性フィラメント3どうしの間隔は、好ましくは0.4mm以上、より好ましくは0.6mm以上、そして、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下、更に好ましくは1mm以下である。
隣り合う弾性フィラメント3どうしの間隔は、測定対象の弾性フィラメント3を含む伸縮シート1を、弾性フィラメント3の延出方向と直交する方向に切断し、その切断面をマイクロスコープにより所定の倍率で観察して、その観察視野において隣り合う弾性フィラメント3どうしの間隔を測定することで実施できる。測定は、任意の100箇所で行い、それらの平均値を隣り合う弾性フィラメント3どうしの間隔とする。
【0027】
不織布2としては、例えば、エアスルー不織布、ヒートロール不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布等が挙げられる。これら不織布は、連続フィラメント又は短繊維の不織布であり得る。
不織布2の構成繊維としては、例えば、実質的に非弾性の樹脂からなる非弾性繊維を用いることができ、その場合、不織布2は、該非弾性繊維を主体とする伸長可能な繊維層となり得る。斯かる非弾性繊維としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリアミド等からなる繊維等が挙げられる。不織布2の構成繊維は、短繊維でも長繊維でもよく、親水性でも撥水性でもよい。また、芯鞘型又はサイド・バイ・サイド型の複合繊維、分割繊維、異形断面繊維、捲縮繊維、熱収縮繊維等を用いることもできる。これらの繊維は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
弾性フィラメント3は、例えば熱可塑性エラストマーやゴム等を原料とするものである。特に熱可塑性エラストマーを原料として用いると、通常の熱可塑性樹脂と同様に押出機を用いた溶融紡糸が可能であり、またそのようにして得られた弾性フィラメントは熱融着させやすいので、伸縮シートに好適である。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレン)、SIS(スチレン-イソプレン-スチレン)、SEBS(スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン)、SEPS(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン)等のスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー(エチレン系のα-オレフィンエラストマー、エチレン・ブテン・オクテン等を共重合したプロピレン系エラストマー)、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの樹脂からなる芯鞘型又はサイド・バイ・サイド型の複合繊維を用いることもできる。
【0029】
伸縮シート1は、
図1に示すように、弾性フィラメント3における不織布2との融着部以外の部分が露出している点で特徴付けられる。
本実施形態では、伸縮シート1が、1枚の不織布2と、該1枚の不織布2の一方の面配された複数の弾性フィラメント3とからなり、弾性フィラメント3における不織布2との融着部以外の部分の全体が露出している。
2枚の不織布の間に弾性フィラメントが介在配置された構成を有し、弾性フィラメントが露出していない従来の伸縮シートは、伸長時及び収縮時に不織布が抵抗となりやすく、弾性フィラメントが本来有する伸縮性が十分に活かされていないという課題があるが、伸縮シート1は、弾性フィラメント3が露出していることで、弾性フィラメント3の伸長及び収縮に伴う動きを拘束しない部分が確保されているため、斯かる課題が解決されている。したがって伸縮シート1は、前記の従来の伸縮シートに比べて伸縮性に優れており、例えば、不織布2の伸長可能な長さまで又は弾性フィラメント3の最大伸度まで伸長可能である。しかも、伸縮シート1は、弾性フィラメントが露出していない従来の伸縮シートに比べて、通気抵抗となる不織布の積層数が少ないため、通気性にも優れる。
伸縮シート1は、その優れた通気性及び伸縮性により、吸収性物品の構成部材に好適に用いることができる。例えば、伸縮シート1をおむつの外面を形成する外装体に用いることができる。斯かるおむつは、着用状態では、弾性フィラメント3が良好に収縮するので、着用者の身体に対するフィット性が良好になる。また、外装体として用いられる伸縮シート1は、その長手方向Xがおむつの胴周り方向に沿うようにおむつに組み入れられることが好ましい。斯かるおむつは、これを着用者に履かせる際、外装体が胴周り方向に良好に伸びるので、小さな力で拡げられ易く、これに起因して着用動作を行い易い。
【0030】
このように、伸縮シート1は、弾性フィラメント3が露出していることに起因して優れた通気性及び伸縮性を有するが、一方でこれに起因して、2枚の不織布の間に弾性フィラメントが介在配置された従来の伸縮シートには無い特有の課題を内在している。具体的には伸縮シート1は、粘着性を有し得る弾性フィラメント3が露出しているためにブロッキング耐性が低く、ハンドリング性や保存安定性の低さが懸念される。例えば、長尺の伸縮シートをロール状に巻回した伸縮シートロールにおいて、重なり合う伸縮シートどうしが弾性フィラメントを介して接着するいわゆるブロッキングが発生し、該ロールから伸縮シートを繰り出すことが困難になることが懸念される。
【0031】
しかしながら、伸縮シート1においては、弾性フィラメント3の露出部の表面に、該弾性フィラメント3自体の凹凸に起因する粗さが付与されており、これにより、該弾性フィラメント3の粘着性が低減され、ブロッキングなどの弾性フィラメント3が露出していることに起因する課題が解決されている。
【0032】
前記の「弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さ」とは、弾性フィラメントの表面に微細な傷が付いているなどして、該表面自体が凹凸を有していることで、該表面に粗さが付与されている(該表面が平滑ではない)ことを指す。したがって、例えば、表面が平滑で凹凸を有していない弾性フィラメントの該表面に、後述する微細材料の如き、該弾性フィラメント以外の他の物質が付着していることで、該表面が凹凸を有している場合は、「弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さ」が付与されているとは言わない。
【0033】
図2には、伸縮シート1と基本構成が同じ伸縮シートにおける弾性フィラメントの配置面の一部を撮像した電子顕微鏡写真が示されている。
図2において、斜めに横断する帯状の物体は、弾性フィラメントの露出部であり、該露出部の上下に存在する多数の繊維状物は、該弾性フィラメントが融着している不織布の構成繊維である。そして、前記弾性フィラメントの露出部の表面に存在する不規則な白い模様が、前記「弾性フィラメント自体の凹凸」であり、該表面の全域に散在している。このように、
図2に示す伸縮シートにおいては、複数の弾性フィラメントそれぞれの露出部の表面に、該弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さが付与されている。
【0034】
特許権侵害被疑製品等の物品において、該物品が備える伸縮シートにおける弾性フィラメントの露出部の表面に、前記「弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さ」が付与されているか否かの判定は、該露出部を電子顕微鏡で観察することで実施できる。その場合、撮像した電子顕微鏡写真において、弾性フィラメントの表面に
図2に示す如き不規則な模様等を確認できれば、当該物品は本発明の構成要件の1つである、「弾性フィラメントにおける不織布との融着部以外の部分が露出しており、その弾性フィラメントの露出部の表面に、該弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さが付与されている」を充足していると推定される。観察対象の伸縮シートが他の部材に接着剤等で固定されている場合は、前述した方法によりその固定を解除してから該伸縮シートを取り出し、電子顕微鏡観察に供する。また、観察対象の伸縮シートが他の部材にヒートシール等の融着によって固定され、その固定を解除することが困難な場合は、該伸縮シートにおけるその融着部以外の部分を観察対象とすればよい。
【0035】
なお、本発明品のような、「弾性フィラメントの露出部を有する伸縮シート」に対し、その弾性フィラメントの配置面(弾性フィラメントの露出部が存在する面)に不織布を配置・固定して、2枚の不織布の間に弾性フィラメントが介在配置された構成の物品とした場合、該物品は、一見すると弾性フィラメントの露出部を有さないため、弾性フィラメントの露出部を有する伸縮シートを用いたにもかかわらず、その事実が見過ごされてしまう可能性がある。しかしながら、弾性フィラメントの露出部を有する伸縮シートの実施品であるか否かは、当該伸縮シートにおける弾性フィラメントと不織布との接合部を電子顕微鏡で観察することで判別可能である。すなわち、弾性フィラメントの露出部を有する伸縮シートは、典型的には、後述する本発明の製造方法のように、溶融又は軟化状態の弾性フィラメントを、該弾性フィラメントの固化前に原反不織布の一方の面と接触させる工程を経て製造されるところ、この場合、原反不織布と溶融又は軟化状態の弾性フィラメントとの間に、該弾性フィラメントの持ち込む熱による熱融着が生じる。これに対し、弾性フィラメントの露出部を有する伸縮シートにおける弾性フィラメントの配置面に不織布を接着剤によって固定した場合には、前記熱融着は生じず、また、弾性フィラメントの非配置面側からヒートシールや超音波処理による融着を行った場合には、不織布と弾性フィラメントとの融着部分が該不織布の厚さ方向の全体にわたるように形成される。そして、当該弾性フィラメントの不織布への接合方法が前記熱融着によるものであるか、あるいは、本発明品の弾性フィラメントの配置面に不織布を配置して、接着剤又は加熱処理若しくは超音波処理による融着によって固定したものであるかは、弾性フィラメントと不織布との接合部を電子顕微鏡で観察することで容易に判別できる。
【0036】
図2に示す伸縮シートにおいては、弾性フィラメントの露出部の表面に微細材料としてセルロース繊維が付着している。このように、弾性フィラメントの露出部の表面に前記「弾性フィラメント自体の凹凸」が付与されているとともに微細材料が付着していることで、微細材料が付着していない場合と比べて該露出部の表面の凹凸の程度(表面粗さの数値)が大きくなるため、伸縮シートのブロッキング耐性、保存安定性が一層向上し得る。
【0037】
弾性フィラメントの露出部の表面における微細材料の付着面積率は、好ましくは1%以上、より好ましくは3%以上、そして、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。この微細材料の付着面積率は、弾性フィラメントの露出部の面積に対する、該露出部に存在する微細材料の総面積の割合であり、後述の<粗面化率の測定方法>に準じる方法で測定することができる。微細材料の付着面積率が低すぎると、弾性フィラメントの露出部の表面に微細材料を付着させる意義に乏しく、微細材料の付着面積率が高すぎると、伸縮シートの伸縮を伴う使用場面での微細材料の脱落を使用者に感知されるおそれがある。
【0038】
微細材料の弾性フィラメントの表面への付着手段は特に制限されず、典型的には、弾性フィラメントを構成する樹脂の溶融による融着であるが、微細材料が接着剤を介して弾性フィラメントの表面に付着していてもよい。また、微細材料の種類によっては、微細材料を構成する樹脂の溶融による融着もあり得る。
【0039】
微細材料としては、一定程度の硬度、耐摩耗性を有するものであればよく、典型的には、弾性フィラメントとは異なる材料であるが、弾性フィラメントと同じ材料でもよい。微細材料として使用可能な材料としては、例えば、セルロース繊維、プラスチック、ガラス、セラミック、カーボン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせ用いることができる。
【0040】
微細材料の形状は特に制限されず、例えば、細長い繊維状でも粒子状でもよく、粒子状の場合は例えば球状、塊状、俵状、不定形等であり得る。
繊維状の微細材料の長手方向の平均長さ(平均繊維長)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは100μm以上、そして、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である。繊維状の微細材料の平均繊維長が短すぎると、弾性フィラメントの表面に該微細材料が付着することによる効果が十分に発揮されないおそれがあり、逆に長すぎると、該微細材料が弾性フィラメントの表面から脱落しやすくなり、例えば、伸縮シートの使用中に長手方向の長さが比較的長い微細材料が弾性フィラメントの表面から脱落すると、異物が発生したと誤認されて、製品に対する信頼性が損なわれるおそれがある。
粒子状の微細材料の平均粒子径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは100μm以上、そして、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下である。
【0041】
微細材料は、典型的には、溶融又は軟化状態の弾性フィラメントに接触させることで弾性フィラメントの表面に付着させられることから、微細材料としては、溶融又は軟化状態の弾性フィラメントに接触しても変質しないものが好ましく、具体的には、200℃で溶融及び熱分解しない材料が好ましい。そのような材料として、例えば、セルロース繊維、ガラス繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせ用いることができる。セルロース繊維としては、例えば、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、針葉樹晒しサルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等の漂白された木材パルプ、コットン、麻等の天然セルロース繊維;レーヨン、リヨセル、キュプラ等の再生セルロース繊維等が挙げられる。
【0042】
弾性フィラメントの露出部の表面粗さの指標として「粗面化率」を用いることができる。粗面化率は、弾性フィラメントの露出部の面積に対する、該露出部に存在する凹凸の総面積の割合であり、下記方法により測定される。ここでいう「露出部に存在する凹凸」には、前記の「弾性フィラメント自体の凹凸」及び「微細材料の付着による凹凸」の双方が含まれる。すなわち、弾性フィラメントの露出部の粗面化率は、当該露出部に微細材料が付着していない場合は、前記「弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さ」が反映されたものとなり、当該露出部に微細材料が付着している場合は、前記「弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さ」及び「微細材料の付着による凹凸に起因する粗さ」の双方が反映されたものとなる。
【0043】
<粗面化率の測定方法>
本測定方法では、測定対象のシートにおける弾性フィラメントの露出部を該シートの厚み方向に投影した場合の投影像の面積を測定するとともに、該投影像に存在する凹凸の総面積を測定し、前者に対する後者の割合を当該露出部の粗面化率として算出する。
具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、測定対象のシートにおける弾性フィラメントの露出部を該シートの厚み方向から観察して撮像し、その撮像した画像を画像処理ソフトにより画像処理する。SEMによる観察倍率は、観察対象の弾性フィラメントの露出部における凹凸の面積を解析し得るものとし、例えば150倍程度である。
図2は、弾性フィラメントの露出部における凹凸部分の面積を解析し得る画像となり得るものである。前記画像処理ソフトとしては、例えば、汎用の画像編集・加工ソフトであるGIMP(GNU Image Manipulation Program)を用いることができる。画像処理は、撮像した画像において、弾性フィラメントの露出部に存在する凹凸(弾性フィラメント自体の凹凸、微細材料の付着による凹凸)を所定の色で着色する作業を含む。その画像における着色部の画素(ピクセル)数をカウントするとともに、該着色部を含む弾性フィラメントの露出部全体の画素数をカウントし、前者を後者で除することで粗面化率を算出する。例えば、SEMによる画像において着色部(すなわち凹凸)の画素数が21528ピクセル、該着色部を含む弾性フィラメントの露出部全体の画素数が67974ピクセルであった場合、該露出部の粗面化率は32%[=(21528/67974)×100]である。
【0044】
弾性フィラメントの露出部の粗面化率は、ブロッキングなどの該露出部に起因する課題を一層確実に解決する観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上である。弾性フィラメントの露出部の粗面化率の上限については、特に制限されないが、斯かる粗面化率が高すぎると、該露出部の粗面化加工に伴い弾性フィラメントが不織布から絡めとられてしまう可能性があることから、好ましくは75%以下、より好ましくは65%以下である。
【0045】
なお、前記微細材料の付着面積率の測定方法は、前記<粗面化率の測定方法>において弾性フィラメントの露出部の「凹凸」を「微細材料」に読み替えたものであり得る。すなわち、前記の「弾性フィラメントの露出部に存在する凹凸を所定の色で着色する作業」において、「弾性フィラメント自体の凹凸」は着色せずに「微細材料の付着による凹凸」のみを着色して、前記着色部とする。この点以外は基本的に前記<粗面化率の測定方法>と同様の方法で前記微細材料の付着面積率を測定することができる。
【0046】
次に、本発明の吸収性物品用伸縮シートの製造方法を、前述した伸縮シート1(伸長性を有する不織布2の一方の面に、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメント3が露出した状態で接合された吸収性物品用伸縮シート)の製造方法を例にとって説明する。
【0047】
伸縮シート1の製造方法は、
図3に示すように、複数の紡糸ノズル11aから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメント3を、該弾性フィラメント3の固化前に原反不織布4の一方の面と接触させて、該弾性フィラメント3が該原反不織布4の一方の面に露出した状態で融着した複合不織布5を得る工程(複合不織布製造工程)と、
図4に示すように、該複合不織布5をMDに延伸する工程(延伸工程)とを有し、該延伸工程を経ることで目的の伸縮シート1が製造される。
【0048】
原反不織布4は、本来的にMDに伸長性を有していない(低目付部21及び高目付部22を有していない)点で、伸縮シート1を構成する不織布2と異なっており、構成繊維の組成は不織布2と同じである。
【0049】
前記複合不織布製造工程の実施に使用される紡糸装置10は、
図3に示すように、溶融樹脂を紡糸ノズル11aから紡出して溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3とする紡糸ヘッド11と、紡糸ノズル11aから紡出された複数の弾性フィラメント3を原反不織布4とともに引き取る一対のロール12,13とを備えている。紡糸ノズル11aは、紡糸ヘッド11の下端にCDに沿って間欠配置されている。紡糸ヘッド11は、弾性フィラメント3の原料である弾性樹脂のチップを溶融して紡糸ヘッド11に送出する溶融押出機(図示せず)に接続されている。紡糸ヘッド11をはじめとする、紡糸装置10における紡糸処理を行う部位の基本構成は、公知のメルトブロー方式の紡糸装置から熱風噴射機構を排除した構成と同じである。一対のロール12,13のうちの一方の第1ロール12は、他方の第2ロール13に比べて直径が大きい。紡糸ヘッド11及び一対のロール12,13は、制御部(図示せず)に電気的に接続されており、該制御部によって、紡糸ヘッド11による樹脂吐出速度及び一対のロール12,13による引き取り速度を調整できるようになっている。
【0050】
前記複合不織布製造工程では、紡糸ノズル11aから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメント3を、原反不織布4とともに一対のロール12,13間に供給する。一対のロール12,13は、原反不織布4とともに、固化前の弾性フィラメント3を引き取ることで、該弾性フィラメント3をMDに延伸させる。この一対のロール12,13間にて、固化前の弾性フィラメント3と原反不織布4の一方の面とを接触させることにより、該弾性フィラメント3が該原反不織布4に融着する。斯かる融着は、固化前の弾性フィラメント3の溶融熱に起因するものである。この溶融熱によって原反不織布4の構成繊維が溶融し、該弾性フィラメント3と原反不織布4とが接合される。具体的には、原反不織布4において弾性フィラメント3の周囲に存在する繊維のみが弾性フィラメント3と融着し、それよりも離れた位置に存在する繊維は融着しない。このように原反不織布4の構成繊維の少なくとも一部が、弾性フィラメント3に融着する。接合強度をより向上させる観点から、弾性フィラメント3及び原反不織布4の構成繊維の少なくとも一部の双方が融着することが好ましい。
【0051】
前記複合不織布製造工程において、溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3と原反不織布4とが接触するまでの間、該弾性フィラメント3は延伸されて延伸方向に分子が配向する。この延伸により直径が小さくなる。弾性フィラメント3を十分に延伸させる観点及び弾性フィラメント3の糸切れを防止する観点から、紡出された弾性フィラメント3に所定温度の風(熱風又は冷風)を吹き付けて、弾性フィラメント3の温度を調整してもよい。また、弾性フィラメント3の延伸は、弾性フィラメント3を構成する樹脂組成物(弾性樹脂)の溶融状態での延伸(溶融延伸)だけでなく、その冷却過程における軟化状態の延伸(軟化延伸)であってもよい。
【0052】
繊維融着を確実にするとともに、弾性フィラメント3の形状を保持して伸縮性をより向上させる観点から、原反不織布4と接触させるときの弾性フィラメント3の温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上であり、また好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下である。原反不織布4と接触させるときの弾性フィラメント3の温度は、弾性フィラメント3を構成する樹脂組成物の融点と異なる融点を有するフィルムを用いて、その接合状態を観察することにより測定される。弾性フィラメント3と前記フィルムとが融着していれば、接合温度はフィルムの融点以上であることがわかる。
【0053】
図3に示す形態では、溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3と原反不織布4との接触は、一方向に連続する原反不織布4を一対のロール12,13のうちの第1ロール12に巻き掛けながら、一対のロール12,13間に複数の弾性フィラメント3を供給することで実施される。紡糸ノズル11aから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメント3は、対向配置された一対のロール12,13間に、互いに交差せず一方向に配列した状態で供給され、該弾性フィラメント3及び原反不織布4の双方が、一対のロール12,13によって挟圧される。この挟圧力が大きすぎると弾性フィラメント3が原反不織布4内に食い込みやすくなり、風合いが損なわれるおそれがある。前記挟圧力は、弾性フィラメント3が原反不織布4に接触する程度で足り、過度に高い挟圧力は必要とされない。
【0054】
図3に示す形態では、前記複合不織布製造工程で製造された一方向に連続する複合不織布5は、ロール状に巻回されて複合不織布ロール5Rとされ、次工程の前記延伸工程で使用される。前記延伸工程では、前記複合不織布製造工程で製造された複合不織布5、より具体的には複合不織布5を構成する原反不織布4をMDに延伸して、該原反不織布4にMDへの伸縮性を付与することで、目的の伸縮シート1を製造する。
図4には、前記延伸工程の一例として、延伸装置30を用いた延伸工程が示されている。
【0055】
延伸装置30は、一対の歯溝ロール31a,31bと、歯溝ロール31a,31bよりもMDの上流側に配され、複合不織布ロール5Rが取り付けられるロール支持軸32と、ロール支持軸32と歯溝ロール31a,31bとの間に配された一対のインフィードロール33a,33bと、歯溝ロール31a,31bよりもMDの下流側に配された一対のアウトフィードロール34a,34bとを備えている。ロール支持軸32が回転駆動することで、複合不織布ロール5Rから複合不織布5が繰り出され、繰り出された複合不織布5は、一対のインフィードロール33a,33bによって歯溝ロール31a,31b間に供給される。一対のアウトフィードロール34a,34bは、歯溝ロール31a,31b間で延伸加工された複合不織布5(伸縮シート1)を、歯溝ロール31a,31bから引き出して次工程に搬送する。延伸装置30は、一対のインフィードロール33a,33b及び一対のアウトフィードロール34a,34bそれぞれの少なくとも一方を回転駆動させるための駆動部(図示せず)を備えている。
【0056】
一対の歯溝ロール31a,31bは、その両方が駆動源によって駆動するようになっているいわゆる共回りロールでもよく、一方のみが駆動源によって駆動するようになっているいわゆる連れ回りロールでもよい。一対の歯溝ロール31a,31bそれぞれの周面には、ロール軸方向に沿って延びる歯と歯底とが周方向に沿って交互に形成されている。歯溝ロール31a,31bの歯形としては、一般的なインボリュート歯形、サイクロイド歯形が用いられ、特にこれらの歯幅を細くしたものが好ましい。一対の歯溝ロール31a,31bは、一方の歯が他方の歯間に遊挿され、他方の歯が一方の歯間に遊挿されるように、すなわち両ロール31a,31bの歯溝の噛み合い部分が形成されるように組み合わされている。延伸装置30は、一対の歯溝ロール31a,31bの一方又は双方のロール軸を上下に変位させる公知の昇降機構(図示せず)を有し、該昇降機構により両歯溝ロール31a,31b間の間隔が調整可能になされている。
【0057】
前記延伸工程では、一対の歯溝ロール31a,31bが回転されているときに両ロール31a,31bの前記噛み合い部分に複合不織布5を供給することで、該複合不織布5の原反不織布4をMD(弾性フィラメント3の延在方向)に沿って延伸する。これにより、原反不織布4に低目付部21及び高目付部22(
図1参照)が形成されてMDに沿う伸長性が付与され、複合不織布5は、MDに伸縮性を有する伸縮シート1となる。低目付部21は、前記噛み合い部分において延伸の程度が相対的に大きい領域であり、高目付部22は、該噛み合い部分において延伸の程度が相対的に小さい(典型的には、ほとんど延伸されていない)領域である。複合不織布5の延伸の程度は、一対のインフィードロール33a,33b及び一対のアウトフィードロール34a,34bそれぞれの回転速度(被加工物の搬送速度)を適宜調整することで調整可能である。前記延伸工程については、特開2008-179128号公報に記載の技術を適宜利用することができる。
【0058】
伸縮シート1の製造方法は、前記の複合不織布製造工程及び延伸工程に加えて更に、弾性フィラメント3の表面における原反不織布4との非接触部自体に凹凸を形成する表面粗さ付与工程を有している点で特徴付けられる。前記表面粗さ付与工程の実施により、伸縮シート1における複数の弾性フィラメント3それぞれの露出部の表面に、前記「弾性フィラメント3自体の凹凸に起因する粗さ」が付与される。
【0059】
前記表面粗さ付与工程は、典型的には、前記複合不織布製造工程と同時か、又は該複合不織布製造工程の後で前記延伸工程の前に実施される。後述する、溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3に他の物体の表面粗さを転写する方法(
図5~
図8参照)は、前者の具体例である。後者の具体例として、前記複合不織布製造工程を経て製造された複合不織布5において原反不織布4の一方の面に露出した状態で融着している弾性フィラメント3の露出部の表面を、所定の表面粗さを有する物体で擦るなどして、該露出部の表面に微細な凹凸(傷)を付与する方法が挙げられる。何れの方法であっても、前記表面粗さ付与工程を経て製造された複合不織布ロール5R(
図3参照)においては、弾性フィラメント3の露出部の表面に前記「弾性フィラメント3自体の凹凸に起因する粗さ」が付与されている。このため複合不織布ロール5Rは、ブロッキング耐性を有し保存安定性に優れ、
図4に示す如くに該ロール5Rから複合不織布5を繰り出す場合に繰り出しが困難になるといった不都合が生じ難い。
【0060】
前記表面粗さ付与工程の好ましい一実施形態として、溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3に、所定の表面粗さを有する物体を接触させることで、該物体の表面粗さを該弾性フィラメント3に転写する方法が挙げられる。このような、溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3に他の物体の表面粗さを転写する方法であれば、伸縮シート1の如き、弾性フィラメントが露出した伸縮シートの製造時の課題を解決することが可能である。すなわち、伸縮シート1は、弾性フィラメント3が露出しているため、前述した製造後の課題(ハンドリング性や保存安定性の低さなど)のみならず、製造時の課題も内在しており、具体的には例えば、紡糸ノズル11aから膨出された溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3が、紡糸装置10の一部である一対のロール12,13のうちの該弾性フィラメント3と接触するロール(
図3に示す形態では第2ロール13)に貼り付いて絡め取られてしまうことが懸念されるところ、前記の表面粗さを転写する方法を利用し、溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3と接触するロールとして、ロール周面に所定の表面粗さが付与されたロールを用いることで、該弾性フィラメント3と該ロール周面との接触面積が低減され、該弾性フィラメント3の貼り付きの原因であるファンデルワールス力が低減されるため、該弾性フィラメント3が該ロール周面に貼り付きにくくなり、また、該弾性フィラメント3が該ロール周面に貼り付いても剥離が比較的容易であるので、該弾性フィラメント3に該弾性フィラメント3自体の凹凸に起因する粗さを付与しつつ、伸縮シート1を効率良く製造することが可能となる。
【0061】
図5には、
図3に示す紡糸装置10において、ロール周面が平滑な第1ロール12に代えて、ロール周面に所定の表面粗さが付与された第1ロール12Aを用いた場合が示されている。この場合の伸縮シート1の製造方法においては、前記複合不織布製造工程では、原反不織布4を、相対向する一対のロール12A,13のうちの一方の第2ロール13に巻き掛けながら一対のロール12A,13間に供給するとともに、複数の紡糸ノズル11aから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメント3を、原反不織布4と一対のロール12A,13のうちの他方の第1ロール12Aとの間に供給し、前記表面粗さ付与工程では、溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3の固化前に、該弾性フィラメント3の表面における原反不織布4との非接触部に、第1ロール12Aの所定の表面粗さが付与されたロール周面を接触させる。これにより、弾性フィラメント3が第1ロール12Aのロール周面に貼り付いて絡め取られる不都合を効果的に防止しつつ、前記複合不織布製造工程を経て製造された複合不織布5における弾性フィラメント3の露出部の表面に、該弾性フィラメント3自体の凹凸に起因する粗さが付与される。
【0062】
図6には、
図3に示す紡糸装置10において、ロール周面が平滑な第2ロール13に代えて、ロール周面に所定の表面粗さが付与された第2ロール13Aを用いた場合が示されている。この場合の伸縮シート1の製造方法においては、前記複合不織布製造工程では、原反不織布4を、相対向する一対のロール12,13Aのうちの一方の第1ロール12に巻き掛けながら一対のロール12,13A間に供給するとともに、複数の紡糸ノズル11aから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメント3を、原反不織布4と一対のロール12,13Aのうちの他方の第2ロール13Aとの間に供給し、前記表面粗さ付与工程では、溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3の固化前に、該弾性フィラメント3の表面における原反不織布4との非接触部に、第2ロール13Aの所定の表面粗さが付与されたロール周面を接触させる。これにより、弾性フィラメント3が第2ロール13Aのロール周面に貼り付いて絡め取られる不都合を効果的に防止しつつ、前記複合不織布製造工程を経て製造された複合不織布5における弾性フィラメント3の露出部の表面に、該弾性フィラメント3自体の凹凸に起因する粗さが付与される。
【0063】
ロール周面に所定の表面粗さが付与されたロール12A,13Aの一例として、ロール周面に摩擦力が高められるような表面処理が施されたロールが挙げられる。前記表面処理としては、例えば、ロール周面に摩擦係数の高い素材を貼り付けること、ロール周面自体に溶射加工処理、ブラスト処理等の表面処理を施すことが挙げられる。
前記表面処理が施されたロール周面の表面粗さは、算術平均粗さRaを指標とした場合に、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、そして、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。斯かるロール周面のRaが小さすぎると、弾性フィラメントの露出部の表面に十分な凹凸形状を付与できず、逆にRaが大きすぎると、弾性フィラメントが機械的に粗さの突起間に絡めとられてしまい、伸縮シートの製造に支障をきたすおそれがある。ロール周面のRaは、汎用の表面粗さ測定器(例えば、ミツトヨ株式会社製、サーフテストSJ-500)によって測定できる。
【0064】
ロール周面に所定の表面粗さが付与されたロール12A,13Aの他の一例として、ロール周面に前述した微細材料が付着したロールが挙げられる。前記表面粗さ付与工程で溶融又は軟化状態の弾性フィラメントにこのような微細材料が付着したロール周面を接触させることで、
図2に示す伸縮シートの如き、弾性フィラメントの露出部の表面に「弾性フィラメント自体の凹凸」が付与されているとともに微細材料が付着した伸縮シートを製造することが可能となる。こうして製造された伸縮シートにおいて、弾性フィラメントの露出部の表面の「弾性フィラメント自体の凹凸」は、微細材料が付着したロール周面の凹凸が転写されて形成されたものであり、また、該弾性フィラメントの露出部の表面に付着した微細材料は、該ロール周面から脱落したものである。
【0065】
前記の「ロール周面に微細材料が付着したロール」の具体例として、ロール周面に前述した200℃で溶融及び熱分解しない材料を含むロールが挙げられる。このようなロールの具体例として、ロール周面がセルロース繊維(200℃で溶融及び熱分解しない材料)からなるコットンロールが挙げられる。コットンロールとしては、少なくともロール周面を形成する最表層がコットン層からなるものであればよく、例えば、金属ロール又はゴムロールのロール周面がコットン層で被覆されたものを用いることできる。コットンロールとしては、ショアーD硬度(JIS K7215)が75~85度、特に77~83度の範囲にあるものが好ましい。
【0066】
図7には、伸縮シート1の製造方法の他の実施形態の要部が示されている。後述の実施形態については、前述した形態(紡糸装置10、延伸装置30)と異なる構成を説明し、前述した形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。後述の実施形態において特に説明しない構成は、前述した形態についての説明が適宜適用される。
【0067】
図7に示す伸縮シート1の製造方法は、複数の紡糸ノズル11a(
図3参照)から紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメント3を、該弾性フィラメント3の固化前に原反不織布4の一方の面と接触させて、該弾性フィラメント3が該原反不織布4の一方の面に融着した複合不織布5を得るとともに、該弾性フィラメント3の表面における該原反不織布4との非接触部に剥離シート6を接触させて、該原反不織布4と該剥離シート6との間に該弾性フィラメント3が介在配置された積層シート7を得る工程(積層シート製造工程)と、該積層シート7から該剥離シート6を除去する工程と、該複合不織布5を延伸する工程(延伸工程)とを備えている。
図7には、前記積層シート製造工程の様子が記載されている。
【0068】
図7に示す前記積層シート製造工程では、一方向に連続する原反不織布4を、相対向する一対のロール12,13のうちの一方の第2ロール13に巻き掛けながら該一対のロール12,13間に供給するとともに、一方向に連続する剥離シート6を、他方の第1ロール12に巻き掛けながら該一対のロール12,13間に供給し、更に、複数の紡糸ノズル11a(
図3参照)から紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメント3を、該原反不織布4と該剥離シート6との間に供給し、該原反不織布4及び該弾性フィラメント3(複合不織布5)並びに該剥離シート6を該一対のロール12,13によって挟圧することで、一方向に連続する積層シート7を製造している。原反不織布4及び剥離シート6は、一対のロール12,13間にて固化前の弾性フィラメント3に接触することにより、該弾性フィラメント3に融着する。こうして製造された積層シート7は、複合不織布5の弾性フィラメント3の配置面の全域が剥離シート6で被覆された構成を有している。
なお、
図7に示す形態とは逆に、第1ロール12に原反不織布4を巻き掛け、第2ロール13に剥離シート6を巻き掛けてもよい。
【0069】
剥離シート6は、溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメント3に接触することから、このような高温の弾性フィラメント3に接触しても溶融せず、積層シート7からの除去が容易となるような材料を主体とするものであることが好ましく、斯かる観点から、前述した微細材料の一種である、200℃で溶融及び熱分解しない材料を主体とする。ここでいう「主体とする」とは、剥離シート6における200℃で溶融及び熱分解しない材料の含有量が、剥離シート6の全質量に対して、85質量%を超えることを意味する。剥離シート6における200℃で溶融及び熱分解しない材料の含有量は100質量%でもよい。
【0070】
剥離シート6の具体例として、セルロース繊維(200℃で溶融及び熱分解しない材料)を主体とする紙が挙げられる。剥離シート6に含有されるセルロース繊維としては、前述した微細材料として使用可能なものを用いることができる。
セルロース繊維を含む紙からなる剥離シート6の坪量は、剥離シート6に必要十分な強度を付与する等の観点から、好ましくは9g/m2以上、より好ましくは12g/m2以上、そして、好ましくは100g/m2以下、より好ましくは70g/m2以下である。
【0071】
積層シート7から剥離シート6を除去するタイミングは特に制限されず、剥離シート6を接触させた時点では溶融又は軟化状態であった弾性フィラメント3が冷却固化した後であればよい。
【0072】
積層シート7(複合不織布5と剥離シート6との積層体)からの剥離シート6の除去がスムーズに行われるようにする観点から、複合不織布5における弾性フィラメント3の配置面と剥離シート6との剥離強度は、好ましくは0.19N/25mm以下、より好ましくは0.1N/25mm以下である。斯かる剥離強度の下限は特に制限されないが、好ましくは0.005N/25mm以上である。
前記剥離強度は、剥離シート6の種類、一対のロール12,13による挟圧力等を適宜調整することで調整可能である。前記剥離強度は以下の方法で測定される。
【0073】
<剥離強度の測定方法>
評価対象の積層シート7(複合不織布5と剥離シート6との積層体)から、MDの長さ150mm、CDの長さ25mmの平面視長方形形状を切り出して試験片とする。次に、試験片の長手方向の一端部において複合不織布5と剥離シート6との層間をMDに30mm剥がして複合不織布5側と剥離シート6側とに分離し、その2つに分離した部分(引張試験機のチャックによる担持用部分)それぞれの長手方向の端部を10mmずつ引張試験機の一対のチャックに挟んで、該試験片をT字状にセットする。チャック間距離は30mmとする。そして、引張速度50mm/minで剥離を行い、最大強度を測定する。測定は3回行い、最大強度の平均値を当該評価対象の剥離強度(単位:N/25mm)とする。なお、試験片のCDの長さが25mmに満たない場合は、適当な長さで試験片を作製し、試験後の最大強度の平均値を25mm幅に換算する。また、試験片における前記担持用部分も試験片の大きさによって適宜変更してよく、例えば、前記の30mmよりも縮小しても構わない。前記引張試験機としては、例えば、株式会社島津製作所製の「オートグラフ AG-X」を用いることができる。
【0074】
積層シート7から剥離シート6を除去すると、原反不織布4に融着した弾性フィラメント3の露出部が出現するところ、この弾性フィラメント3の露出部の表面には、典型的には、前記「弾性フィラメント3自体の凹凸」が付与されているとともに、「200℃で溶融及び熱分解しない材料」(微細材料)が付着している。前者は、剥離シート6における弾性フィラメント3との接触面が有していた凹凸が転写されて形成されたものであり、後者は、積層シート7から剥離シート6を除去したときに該剥離シート6から脱落したものである。
図2に示す伸縮シートは、剥離シート6としてセルロース繊維を含む紙を使用して製造されたものであり、
図2において弾性フィラメントの表面に付着している微細材料は、紙由来のセルロース繊維である。
【0075】
図7に示す如き、剥離シート6を用いた伸縮シートの製造方法によっても、
図5及び
図6に示す如き、ロール周面に所定の表面粗さが付与されたロール12A,13Aを用いた伸縮シートの製造方法と同様に、製造時に弾性フィラメント3が一対のロール12,13のロール周面に貼り付いて絡め取られる不都合を効果的に防止しつつ、ブロッキング耐性を有し保存安定性に優れる伸縮シートを効率良く製造することができる。
【0076】
図8には、剥離シート6を用いた伸縮シートの製造方法の他の一例が示されている。
図8に示す形態では、第2ロール13よりもMDの下流側に、第3ロール14が、該第3ロール14の周面が第1ロール12の周面と対向するように配置されているとともに、両ロール13,14に無端状の剥離シート6が架け渡されており、該剥離シート6が両ロール13,14間を周回するようになされている。両ロール13,14の少なくとも一方は駆動ロールである。
【0077】
図8に示す形態では、両ロール13,14間においては、剥離シート6と弾性フィラメント3と原反不織布4とが互いに密着して積層シート7としてMDに搬送され(積層シート製造工程)、第3ロール14の位置で剥離シート6が第1ロール12から離れて所定の周回軌道に入るときに、該積層シート7から剥離シート6が除去され、残った複合不織布5(弾性フィラメント3及び原反不織布4)がMDに搬送される。弾性フィラメント3と原反不織布4とが重なった状態で厚み方向の両側から押圧される部位が、
図7に示す形態では、一対のロール12,13間のみであるのに対し、
図8に示す形態では、第2ロール13から第3ロール14にかけて架け渡された剥離シート6と第1ロール12との間であるため、
図8に示す形態の方が、
図7に示す形態に比べて、溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3が原反不織布4に密着した状態で維持される時間が長い。したがって、例えば加工速度が比較的速く、
図7に示す形態では溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3を十分に固化させることが難しい場合でも、
図8に示す形態であれば、溶融又は軟化状態の弾性フィラメント3を十分に固化させ得る。
【0078】
本発明は、前述した「弾性フィラメントの露出部の表面に該弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さを付与する」、「弾性フィラメントの露出部の表面に微細材料を付着させる」等の特徴的な構成の採用により、弾性フィラメントの露出部に起因するブロッキング等の不都合を効果的に防止し得るが、更にブロッキング防止剤を併用してもよい。
ブロッキング防止剤の使用方法の一例として、前述した伸縮シート1の製造方法において、複合不織布製造工程及び表面粗さ付与工程の後で延伸工程の前に、複合不織布5における弾性フィラメント3の配置面又はその反対側の面の全域にブロッキング防止剤を塗工する方法が挙げられる。斯かる使用方法において、ブロッキング防止剤の塗工方法としては、スプレーによる噴霧が好ましい。
ブロッキング防止剤の使用方法の他の一例として、原反不織布4にブロッキング防止剤が練り込まれた繊維を含有させる方法が挙げられる。斯かる繊維は、繊維の構成樹脂にブロッキング防止剤を練り込むことによって得られる。
伸縮シートの製造にブロッキング防止剤を使用する場合、ブロッキング防止剤の使用量(伸縮シートにおけるブロッキング防止剤の含有量)は、原反不織布100重量部に対して、好ましくは0.3重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、そして、好ましくは2重量部以下、より好ましくは1.5重量部以下である。
【0079】
ブロッキング防止剤としては、アミド化合物、シリコーン系化合物、変性シリコーン系化合物、フロン系化合物、側鎖を有する炭化水素化合物、鉱油、ワックス類等を用いることができる。
アミド化合物としては、アミンとカルボン酸からなる構造を有する化合物、又はポリアミド化合物が挙げられる。アミド化合物は、アミノ基及びカルボニル基末端を分子内に残した化合物でも、アミド基の形で封鎖された化合物の何れでもよい。具体的には、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、トリメチレンビスオクチル酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、トリオクタトリメリット酸アミド、ジステアリル尿素、ブチレンビスステアリン酸アミド、キシリレンビスステアリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、ジステアリルフタル酸アミド、ジステアリルオクタデカ二酸アミド、イプシロンカプロラクタム、及びこれらの誘導体が挙げられる。
シリコーン系化合物としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェルシリコーン等が挙げられる。
変性シリコーン系化合物としては、変性シリコーン系重合体、シリコーン系重合体等が挙げられる。なかでも、アミノ変性シリコーン、ジアミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。肌触りをより向上させる観点から、アミノ変性シリコーン又はジアミノ変性シリコーンが好ましい。
フロン系化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素化ポリマーが挙げられる。
【0080】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0081】
前述した本発明の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
<1>
伸長性を有する不織布の一方の面に、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメントが融着によって接合されており、
前記弾性フィラメントにおける前記不織布との融着部以外の部分が露出しており、その弾性フィラメントの露出部の表面に、該弾性フィラメント自体の凹凸に起因する粗さが付与されている、吸収性物品用伸縮シート。
<2>
前記弾性フィラメントの露出部の粗面化率が10%以上である、前記<1>に記載の吸収性物品用伸縮シート。
<3>
前記弾性フィラメントの露出部の粗面化率は、好ましくは20%以上、そして、好ましくは75%以下、より好ましくは65%以下である、前記<1>又は<2>に記載の吸収性物品用伸縮シート。
<4>
前記不織布と前記弾性フィラメントとの間に接着剤が存在しない、前記<1>~<3>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シート。
<5>
前記弾性フィラメントは、該弾性フィラメントの長手方向の全長にわたって前記不織布に融着されている、前記<1>~<4>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シート。
【0082】
<6>
前記弾性フィラメントの露出部の表面に微細材料が付着している、前記<1>~<5>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シート。
<7>
前記微細材料は、200℃で溶融及び熱分解しない材料を含む、前記<6>に記載の吸収性物品用伸縮シート。
<8>
前記微細材料は繊維状の微細材料を含み、該繊維状の微細材料の平均繊維長は、好ましくは1μm以上、より好ましくは100μm以上、そして、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である、前記<6>又は<7>に記載の吸収性物品用伸縮シート。
<9>
前記微細材料はセルロース繊維を含む、前記<6>~<8>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シート。
<10>
前記微細材料は粒子状の微細材料を含み、該粒子状の微細材料の平均粒子径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは100μm以上、そして、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下である、前記<6>~<9>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シート。
<11>
前記弾性フィラメントの露出部の表面における前記微細材料の付着面積率は、好ましくは1%以上、より好ましくは3%以上、そして、この好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である、前記<6>~<10>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シート。
【0083】
<12>
伸長性を有する不織布の一方の面に、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメントが露出した状態で接合された吸収性物品用伸縮シートの製造方法であって、
複数の紡糸ノズルから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメントを、該弾性フィラメントの固化前に原反不織布の一方の面と接触させて、該弾性フィラメントが該原反不織布の一方の面に露出した状態で融着した複合不織布を得る、複合不織布製造工程と、
前記弾性フィラメントの表面における前記原反不織布との非接触部自体に凹凸を形成する、表面粗さ付与工程と、
前記複合不織布を延伸する工程とを有する、吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<13>
前記複合不織布製造工程では、前記弾性フィラメントと前記原反不織布の構成繊維の少なくとも一部とを融着させる、前記<12>に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
【0084】
<14>
前記複合不織布製造工程では、前記原反不織布を、相対向する一対のロールのうちの一方に巻き掛けながら該一対のロール間に供給するとともに、複数の紡糸ノズルから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメントを、該原反不織布と該一対のロールのうちの他方との間に供給し、
前記一対のロールのうちの他方のロール周面には所定の表面粗さが付与されており、
前記表面粗さ付与工程では、前記弾性フィラメントの固化前に該弾性フィラメントの前記非接触部に前記他方のロール周面を接触させる、前記<12>又は<13>に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<15>
前記他方のロール(ロール周面に所定の表面粗さが付与されたロール)として、ロール周面に摩擦力が高められるような表面処理が施されたロールを用いる、前記<14>に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<16>
前記他方のロール(ロール周面に所定の表面粗さが付与されたロール)の算術平均粗さRaは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、そして、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である、前記<14>又は<15>に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<17>
前記他方のロール(ロール周面に所定の表面粗さが付与されたロール)として、ロール周面に微細材料が付着したロールを用いる、前記<14>~<16>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<18>
前記他方のロール周面は、200℃で溶融及び熱分解しない材料を含む、前記<14>~<17>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<19>
前記他方のロール周面はセルロース繊維を含む、前記<14>~<18>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<20>
前記他方のロール(ロール周面に所定の表面粗さが付与されたロール)として、ロール周面がセルロース繊維(200℃で溶融及び熱分解しない材料)からなるコットンロールを用いる、前記<14>~<19>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<21>
前記コットンロールとして、ショアーD硬度(JIS K7215)が好ましくは75~85度、より好ましくは77~83度の範囲にあるものを用いる、前記<20>に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
【0085】
<22>
伸長性を有する不織布の一方の面に、互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメントが露出した状態で接合された吸収性物品用伸縮シートの製造方法であって、
複数の紡糸ノズルから紡出された溶融又は軟化状態の複数の弾性フィラメントを、該弾性フィラメントの固化前に原反不織布の一方の面と接触させて、該弾性フィラメントが該原反不織布の一方の面に融着した複合不織布を得るとともに、該弾性フィラメントの表面における該原反不織布との非接触部に剥離シートを接触させて、該原反不織布と該剥離シートとの間に該弾性フィラメントが介在配置された積層シートを得る工程と、
前記積層シートから前記剥離シートを除去する工程と、
前記複合不織布を延伸する工程とを有し、
前記剥離シートは、200℃で溶融及び熱分解しない材料を主体とする、吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<23>
前記剥離シートの坪量は、好ましくは9g/m2以上、より好ましくは12g/m2以上、そして、好ましくは100g/m2以下、より好ましくは70g/m2以下である、前記<22>に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<24>
前記積層シートから前記剥離シートを除去する工程は、該剥離シートを接触させた時点では溶融又は軟化状態であった前記弾性フィラメントが冷却固化した後である、前記<22>又は<23>に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<25>
前記複合不織布における前記弾性フィラメントの配置面と前記剥離シートとの剥離強度は、好ましくは0.19N/25mm以下、より好ましくは0.1N/25mm以下、そして、好ましくは0.005N/25mm以上である、前記<22>~<24>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
【0086】
<26>
ブロッキング防止剤を使用する、前記<14>~<25>の何れか1項に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<27>
前記ブロッキング防止剤の使用量(前記伸縮シートにおける前記ブロッキング防止剤の含有量)は、前記原反不織布100重量部に対して、好ましくは0.3重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、そして、好ましくは2重量部以下、より好ましくは1.5重量部以下である、前記<26>に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
<28>
前記ブロッキング防止剤として、アミド化合物、シリコーン系化合物及び変性シリコーン系化合物から選択される1種以上を用いる、前記<26>又は<27>に記載の吸収性物品用伸縮シートの製造方法。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0088】
〔実施例1~5、比較例1~3:弾性フィラメント露出タイプの伸縮シートの製造〕
先ず、前述した紡糸装置10と同様の構成の紡糸装置を用いて、前述した剥離シートを用いた積層シート製造工程を有する製造方法により、
図1に示す伸縮シート1の中間製品である積層シート7と同様の構成の積層シート、すなわち、未延伸の複合不織布と、該複合不織布における弾性フィラメントの配置面に融着した剥離シートとからなり、且つ該複合不織布が、不織布の一方の面に互いに交差せずに一方向に延びるように配列した非伸長状態の複数の弾性フィラメントが露出した状態で融着されているものを製造した。
具体的には、弾性フィラメントの原料樹脂を溶融状態で紡糸ノズルから紡出させ、
図7に示すように、該弾性フィラメントの固化前に原反不織布の一方の面と接触させて、該弾性フィラメントが該原反不織布の一方の面に融着した複合不織布を得るとともに、該弾性フィラメントの表面における該原反不織布との非接触部に剥離シートを接触させて、該原反不織布と該剥離シートとの間に該弾性フィラメントが介在配置された積層シートを得た(積層シート製造工程)。ただし、斯かる積層シート製造工程においては、
図7に示す形態とは逆に、第1ロール12に原反不織布を巻き掛け、第2ロール13に剥離シートを巻き掛けた。紡糸ノズルにおける樹脂吐出速度は10g/min、弾性フィラメントの一対のロール12,13による引き取り速度は150m/minであった。得られた複合不織布における隣り合う弾性フィラメントどうしの間隔は0.5mmであった。
次に、各実施例及び比較例で得られた積層シートから剥離シートを除去して複合不織布を得、前述した延伸装置30と同様の構成の延伸装置を用いて該複合不織布をMDに延伸して、MDに伸縮性を有する伸縮シートを得た。
【0089】
弾性フィラメントの原料樹脂として、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)を用いた。原反不織布及び剥離シートとして、以下の何れかを用いた。以下の何れもブロッキング防止剤は使用していない。
・SB不織布1:疎水性スパンボンド不織布、坪量18g/m2、原料樹脂:ポリプロピレン(融点140~170℃)、繊維径17μm
・SB不織布2:親水性スパンボンド不織布、坪量18g/m2、原料樹脂:ポリプロピレン(融点140~170℃)、繊維径17μm
・AT不織布:親水性エアスルー不織布、坪量20g/m2、芯部原料樹脂:PET、鞘部原料樹脂:ポリエチレン(融点130℃)、繊維径16μm
・紙:坪量16g/m2、セルロース繊維(木材パルプ)100質量%
・樹脂配合紙:坪量15g/m2、セルロース繊維(木材パルプ)90質量%、合成繊維(芯部原料樹脂:PET、鞘部原料樹脂:低融点PET(融点120℃)で親水化処理されていない芯鞘型複合繊維)10質量%
【0090】
〔比較例4、5:弾性フィラメント非露出タイプの伸縮シートの製造〕
前記の弾性フィラメント露出タイプの伸縮シートの製造方法において、剥離シートに代えて原反不織布を用いた以外は該製造方法と同様にして、2枚の不織布の間に弾性フィラメントが介在配置され、該弾性フィラメントの露出部を有さない伸縮シートを製造した。
【0091】
〔評価試験〕
弾性フィラメント露出タイプの伸縮シートに関し、各実施例及び比較例の中間製品である積層シートについて、該積層シートから剥離シートを除去する際の剥離強度を前記方法により測定した。また、各実施例及び比較例で得られた弾性フィラメント露出タイプの伸縮シートにおける弾性フィラメントの露出部の表面粗さを前記方法により測定するとともに、該露出部の表面を観察し、弾性フィラメント自体の凹凸の有無、剥離シート由来の微細材料の付着の有無をそれぞれ確認した。また、各実施例及び比較例で得られた伸縮シートの通気抵抗度を下記方法により測定した。結果を下記表1に示す。
【0092】
<通気抵抗度の測定方法>
本測定方法は、カトーテック株式会社製の通気性試験機「KES-F8-AP1 AIR PERMEABILITY TESTER」(商品名)を用いて実施することができる。具体的には、測定対象のシートをその伸縮方向に最大伸度付与した伸長状態とし、前記通気性試験機を用いて常法に従って、該伸長状態のシートにおける任意の12箇所の通気抵抗度を測定し、それらの算術平均値を該シートの通気抵抗度とする。前記「最大伸度」とは、基本的には当該シートの伸度100%を意味し、伸度100%で当該シートが破壊してしまう場合は、当該シートが破壊しない範囲での最も大きい伸度を意味する。通気抵抗度の数値が大きいほど、当該シートの通気抵抗が大きく通気性が低いと評価される。
【0093】
【0094】
表1に示すとおり、各実施例は、使用した剥離シートが200℃で溶融及び熱分解しない材料(セルロース繊維)を主体としているため、該材料を含まない剥離シートを用いた比較例2、3に比べて剥離強度が小さく、積層シートから剥離シートをスムーズに剥離することができた。また、各実施例で得られた伸縮シートは、弾性フィラメントの露出部の表面に、該弾性フィラメント自体の凹凸が付与されているとともに、剥離シート由来の微細材料(セルロース繊維)が付着していて、一定以上の表面粗さが付与されていることから、ブロッキング耐性、保存安定性に優れることが明らかである。
比較例2、3は、剥離シートにおける低融点材料(例えば、融点が200℃未満、好ましくは170℃以下の材料)の含有量が比較的高いことに起因して、該低融点材料の全質量に占める弾性フィラメントと熱融着したものの割合(熱融着比率)が高すぎたために、積層シートから剥離シートを剥離できなくなったものと推察される。今回の結果を考慮すると、剥離シートにおける低融点材料の含有量は、該剥離シートの全質量に対して10質量%以下が好ましいと言える。また、剥離シートとしては、合成繊維を主体とする不織布よりも、セルロース繊維を主体とする紙、樹脂含有量が10質量%以下の樹脂配合紙が好ましいと言える。
また、実施例2と比較例4との対比、実施例3、5と比較例5との対比(不織布の種類が同じものどうしの対比)から、不織布の枚数が1枚の弾性フィラメント露出タイプの伸縮シートの方が、不織布の枚数が2枚の弾性フィラメント非露出タイプの伸縮シートに比べて、通気抵抗度が低く通気性に優れることが明らかである。
【符号の説明】
【0095】
1 伸縮シート
2 不織布
21 低目付部
22 高目付部
3 弾性フィラメント
4 原反不織布
5 複合不織布
5R 複合不織布ロール
6 剥離シート
7 積層シート
10 紡糸装置
11 紡糸ヘッド
11a 紡糸ノズル
12,12A 第1ロール
13,13A 第2ロール
14 第3ロール
30 延伸装置
31a,31b 歯溝ロール
32 ロール支持軸
33a,33b インフィードロール
34a,34b アウトフィードロール