(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】溶射ガン用ノズルおよび溶射ガン用ノズルを用いた溶射方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/12 20160101AFI20241120BHJP
B05B 7/22 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C23C4/12
B05B7/22
(21)【出願番号】P 2021031182
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真本 英光
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 克哉
(72)【発明者】
【氏名】湯地 実
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-247054(JP,A)
【文献】実開昭57-062661(JP,U)
【文献】特公昭47-024859(JP,B1)
【文献】特開2007-107082(JP,A)
【文献】特開2007-136446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00-6/00
B05B 1/00-3/18,7/00-9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークによって溶融された溶射材料を、溶射ガンの先端部に位置する筒状のノズルの内部を通過して前記ノズルの先端開口部から噴出するエアである、前記ノズルの径方向中心部に供給されるメインエアおよび前記径方向中心部よりも径方向外側から供給されるサブエアによって吹き飛ばすことにより、被溶射部材に溶射材料を塗布する溶射ガンにおけるノズルであって、
前記ノズルの内周面は、前記ノズルの後側から前記先端開口部に向かって窄まるように傾斜する傾斜部を有し、
前記傾斜部は、前記ノズルの後側から前記先端開口部に向かって、前記ノズルの内周面の周方向での位置が変化するように傾斜した、前記サブエアを案内する案内流路を有
し、
前記案内流路は、前記サブエアが前記先端開口部に向かって螺旋状に進むように、前記傾斜部の母線に対して傾斜した方向に延びる1つまたは複数の溝部として形成されており、
前記先端開口部は、前記ノズルの前方から見て、略円形状の中央部と、前記中央部の周縁から前記ノズルの径方向外側へ突出する突出部とを組み合わせた開口形状を有し、
前記突出部は、前記ノズルの前方から見て、前記案内流路の傾斜方向に沿う方向に突出している、溶射ガン用ノズル。
【請求項2】
前記案内流路は、前記傾斜部の周方向において互いに間隔をあけて並ぶ複数の溝部である、請求項1に記載の溶射ガン用ノズル。
【請求項3】
請求項1に記載の溶射ガン用ノズルを備える溶射ガンを準備するステップと、
アークによって溶射材料を溶融させるステップと、
溶融された溶射材料を、前記溶射ガン用ノズルの内部を通過して前記溶射ガン用ノズルの先端開口部から噴出するエアである、前記溶射ガン用ノズルの径方向中心部に供給されるメインエアおよび前記径方向中心部よりも径方向外側から供給されるサブエアによって吹き飛ばすことにより、被溶射部材に溶射材料を塗布するステップとを備える、溶射方法。
【請求項4】
前記溶射ガン用ノズルの前記案内流路は、前記溶射ガン用ノズルの前記傾斜部の周方向において互いに間隔をあけて並ぶ複数の溝部である、請求項
3に記載の溶射方法。
【請求項5】
アークによって溶融された溶射材料を、溶射ガンの先端部に位置する筒状のノズルの内部を通過して前記ノズルの先端開口部から噴出するエアである、前記ノズルの径方向中心部に供給されるメインエアおよび前記径方向中心部よりも径方向外側から供給されるサブエアによって吹き飛ばすことにより、被溶射部材に溶射材料を塗布する溶射ガンであって、
前記ノズルの内周面は、前記ノズルの後側から前記先端開口部に向かって窄まるように傾斜する傾斜部を有し、
前記傾斜部は、前記ノズルの後側から前記先端開口部に向かって、前記ノズルの内周面の周方向での位置が変化するように傾斜した、前記サブエアを案内する案内流路を有し、
前記案内流路は、前記サブエアが前記先端開口部に向かって螺旋状に進むように、前記傾斜部の母線に対して傾斜した方向に延びる1つまたは複数の溝部として形成されており、
前記先端開口部は、前記ノズルの前方から見て、略円形状の中央部と、前記中央部の周縁から前記ノズルの径方向外側へ突出する突出部とを組み合わせた開口形状を有し、
前記突出部は、前記ノズルの前方から見て、前記案内流路の傾斜方向に沿う方向に突出している、溶射ガン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射ガン用ノズルおよび溶射ガン用ノズルを用いた溶射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、地下に配設される鋳鉄管等の金属部材の表面を防食する必要がある場合には、その金属部材の表面に、たとえば亜鉛等の防食用金属が溶射により塗布される。防食用金属の塗布には、たとえば、アークにより防食用金属を溶融させて吹き付ける溶射ガンが用いられる。溶射ガンは、先端部同士を近接させた2本の線材状の溶射材料に給電することにより、両溶射材料にアークを発生させて各溶射材料を溶融させ、溶融した溶射材料を高速エアによって霧化させて金属部材に吹き付けることにより、金属部材の表面に防食用の金属被膜を形成する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の溶射ガンによって、たとえば、異種金属からなる2本の溶射材料を溶射した場合、異種金属が均一に混じり合わない状態で金属部材に塗布されてしまうことがあり、その場合、金属部材の防食効果が十分に発揮されない可能性があった。
【0005】
本発明は、かかる問題点に鑑みて、異種金属からなる2本の溶射材料を溶射する場合に、異種金属がより均一に混じり合うことを容易にする溶射ガン用ノズルおよび溶射ガン用ノズルを用いた溶射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る溶射ガン用ノズルは、アークによって溶融された溶射材料を、溶射ガンの先端部に位置する筒状のノズルの内部を通過して前記ノズルの先端開口部から噴出するエアである、前記ノズルの径方向中心部に供給されるメインエアおよび前記径方向中心部よりも径方向外側から供給されるサブエアによって吹き飛ばすことにより、被溶射部材に溶射材料を塗布する溶射ガンにおけるノズルであって、前記ノズルの内周面は、前記ノズルの後側から前記先端開口部に向かって窄まるように傾斜する傾斜部を有し、前記傾斜部は、前記ノズルの後側から前記先端開口部に向かって、前記ノズルの内周面の周方向での位置が変化するように傾斜した、前記サブエアを案内する案内流路を有している。
【0007】
前記案内流路は、前記傾斜部の周方向において互いに間隔をあけて並ぶ複数の溝部であることが好ましい。
【0008】
前記先端開口部は、前記ノズルの前方から見て、略円形状の中央部と、前記中央部の周縁から前記ノズルの径方向外側へ突出する突出部とを組み合わせた開口形状を有し、前記突出部は、前記ノズルの前方から見て、前記案内流路の傾斜方向に沿う方向に突出していることが好ましい。
【0009】
本発明に係る溶射方法は、前記溶射ガン用ノズルを備える溶射ガンを準備するステップと、アークによって溶射材料を溶融させるステップと、溶融された溶射材料を、前記溶射ガン用ノズルの内部を通過して前記溶射ガン用ノズルの先端開口部から噴出するエアである、前記溶射ガン用ノズルの径方向中心部に供給されるメインエアおよび前記径方向中心部よりも径方向外側から供給されるサブエアによって吹き飛ばすことにより、被溶射部材に溶射材料を塗布するステップとを備える。
【0010】
前記溶射ガン用ノズルの前記案内流路は、前記溶射ガン用ノズルの前記傾斜部の周方向において互いに間隔をあけて並ぶ複数の溝部であることが好ましい。
【0011】
前記先端開口部は、前記溶射ガン用ノズルの前方から見て、略円形状の中央部と、前記中央部の周縁から前記溶射ガン用ノズルの径方向外側へ突出する突出部とを組み合わせた開口形状を有し、前記突出部は、前記溶射ガン用ノズルの前方から見て、前記溶射ガン用ノズルの前記案内流路の傾斜方向に沿う方向に突出していることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、異種金属からなる2本の溶射材料を溶射する場合に、異種金属がより均一に混じり合うことを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルを備えた溶射ガンの構成の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルを備えた溶射ガンにおけるオリフィス部材の構成の一例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルの構成の一例を示す正面図であり、部分的に断面で示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルの構成の一例を示す図であり、
図3におけるA方向矢視図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルの構成の一例を示す図であり、
図3におけるB方向矢視図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルの構成の一例を示す、
図3におけるC-C線断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルの前端開口部の形状の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルおよび溶射ガン用ノズルを用いた溶射方法について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部同士を任意に組み合わせてもよい。また、以下に示す実施形態はあくまで例にすぎず、本発明の溶射ガン用ノズルおよび溶射ガン用ノズルを用いた溶射方法は、以下の例に限定されることはない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルを備えた溶射ガンの構成の一例を示す断面図である。
図1に示される溶射ガン1は、その先端部に溶射ガン用ノズル32(以下、ノズル32とも称する)を備えている。溶射ガン1は、たとえば、地下に配設される鋳鉄管等の金属部材の表面を防食する必要がある場合において、その金属部材の表面に、防食用金属を溶射により塗布する装置である。溶射ガン1は、アークにより防食用金属を溶融させて、図示しない金属部材(以下、被溶射部材とも称する)の表面に吹き付ける。溶射ガン1は、先端部同士を近接または接触させた2本の線材状の溶射材料2に給電することにより、両溶射材料にアークを発生させて各溶射材料2を溶融させ、溶融した溶射材料を高速エアによって霧化させて被溶射部材に吹き付けることにより、被溶射部材の表面に防食用の金属被膜(塗膜)を形成する。
【0016】
被溶射部材は、特に限定されるものではないが、たとえば、水のパイプラインにおいて使用される、管およびバルブ装置等の金属部材である。バルブ装置は、管に接続された状態で使用され、管を流れる水の流量等を調節する機能を有する。バルブ装置の種類は、特に限定されないが、たとえば、流体の流れ方向に対して直角をなす方向に弁体が摺動するタイプの仕切弁である。すなわち、被溶射部材は、管のような回転体(外観の形状が簡単である物体)であってもよいし、バルブ装置のように回転体ではない物体(外観の形状が複雑である物体)であってもよい。以下、回転体ではない物体を非回転体とも称する。また、被溶射部材の材質は、耐腐食性の高い材料であることが好ましく、たとえば鋳鉄である。
【0017】
次に、溶融した溶射材料を被溶射部材に対して吹き付ける(溶射材料を塗布する)ことが可能な溶射ガン1について、
図1~
図7を参照して説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルを備えた溶射ガンにおけるオリフィス部材の構成の一例を示す図である。
【0018】
なお、本明細書および図面において、方向FBは溶射ガン1のノズル32、およびオリフィス部材35の前後方向を表し、方向Fは前方向を表し、方向Bは後方向を表すものとする。前後方向FBは、溶射ガン1から溶射材料2を溶射する方向に沿う方向である。前方向Fは、溶射ガン1から被溶射部材に対して溶射材料2を溶射する方向である。
【0019】
図1に示される溶射ガン1は、アークによって溶融された溶射材料2を、溶射ガン1の先端部に位置する筒状のノズル32の内部を通過してノズル32の先端開口部321から噴出するエアArである、ノズル32の径方向中心部に供給されるメインエアArmおよび径方向中心部よりも径方向外側から供給されるサブエアArsによって吹き飛ばすことにより、被溶射部材に溶射材料を塗布する。
【0020】
本実施形態では、溶射ガン1は、溶融されて被溶射部材に対して吹き付けられる2本の溶射材料(一対の溶射材料)21、22と、溶射ガン1の外郭部を構成する溶射筒3と、溶射材料21、22を前方向Fへ送る送り機構4と、溶射材料21、22に対して電力を供給する図示しないアーク電源と、溶射筒3内においてノズル32内にメインエアArmを供給するメインエア供給路6と、溶射筒3内においてノズル32内にサブエアArsを供給するサブエア供給路7とを備えている。メインエアArmおよびサブエアArsは、たとえば、噴射用の圧縮ガスである。
【0021】
溶射ガン1において溶射される2本の溶射材料21、22は、互いに異なる種類の金属により構成されている。すなわち、溶射ガン1は、異種金属からなる2本の溶射材料21、22を溶射する。溶射材料21、22の材質は、特に限定されるものではないが、たとえば、2本の溶射材料21、22のうちの一方の溶射材質21は亜鉛(Zn)や亜鉛系の合金であり、他方の溶射材質22はアルミニウム(Al)やアルミニウム系の合金である。なお、2本の溶射材料21、22は、それぞれ他の材質であってもよい。
【0022】
溶射筒3は、
図1に示されるように、溶射ガン1における他の構成要素を収容するとともに、溶射筒3の先端部に形成された開口部(以下、先端開口部とも称する)321から外部へエアArを噴射する部材である。本実施形態では、溶射筒3は、筒本体31と、筒本体31よりも前方に位置して開口部321から外部へエアArを噴射するノズル32とを備えている。また、本実施形態では、溶射筒3は、前後方向FBにおいて筒本体31とノズル32との間には、複数の筒状部材(ノズルキャップ33、遮光カバー34およびオリフィス部材35)とを備えている。
【0023】
筒本体31は、
図1に示されるように、その前側において、溶射筒3における他の部材(ノズル32、ノズルキャップ33、遮光カバー34およびオリフィス部材35)を支持するように構成されている。本実施形態では、筒本体31の外周面の前端部は、遮光カバー34の後端部と係合し得るように構成されている。詳細には、筒本体31の外周面の前端部には、遮光カバー34の後端部の内周面に形成された雌ねじ部340と螺合する雄ねじ部310が形成されている。また、筒本体31の内周側の先端部には、ノズルキャップ33の後端部を支持する支持部311が形成されている。本実施形態では、支持部311は、ノズルキャップ33の後端部が全周にわたって挿入されるように当該後端部と嵌合する凹状の段差部となっている。
【0024】
ノズルキャップ33は、
図1に示されるように、ノズル32との間にサブエア供給路7を形成する部材である。すなわち、ノズルキャップ33とノズル32との間の空間S1において、サブエアArsが流通する。本実施形態では、ノズルキャップ33は、側壁部が前方向Fに向かって窄まるように傾斜している筒状の部材である。すなわち、ノズルキャップ33は、前端部および後端部において開口する円錐台状の部材である。本実施形態では、ノズルキャップ33は、ノズル32よりも後方において、ノズル32から前後方向FBに間隔をあけた状態で、互いの中心軸が同一直線上に位置するように配置されている。また、ノズルキャップ33は、ノズルキャップ33の外周面330がノズル32の内周面322と前後方向FBに間隔をあけて対向するように配置されている。これにより、ノズル32の内周面322とノズルキャップ33の外周面330との間の空間S1において、サブエアArsが流通するようになっている。本実施形態では、空間S1は、ノズルキャップ33の外周面330とオリフィス部材35の内周面とにより囲まれた、溶射ガン1の中心軸周りに環状の空間である。また、ノズルキャップ33は、側壁部の後端部において、側壁部から径方向外側に迫り出すように形成された円環状のフランジ部331を有している。フランジ部331は、筒本体31の支持部331によって支持される。詳細には、フランジ部331は、フランジ部331の厚み方向における後側部分が、筒本体31の支持部331に嵌合するように支持される。また、フランジ部331は、フランジ部331の厚み方向における前側部分において、オリフィス部材35の後端部を支持する。
【0025】
遮光カバー34は、
図1に示されるように、溶射材料21、22間でアークが発生した際に、アークの発生に伴う光を遮るものである。本実施形態では、遮光カバー34は、アークの発生に伴う光が遮光カバー34よりも後側へ進むのを遮るように構成されている。詳細には、遮光カバー34は、略円筒状に構成されており、側壁部342における後端部の内周面に、筒本体31の雄ねじ部310と螺合する雌ねじ部340を有している。また、遮光カバー34は、前側部分において、後側に向かって窄まるように傾斜する反射面341を有している。反射面341は、アークの発生に伴う光を反射して、光が遮光カバー34よりも後側へ進むのを遮ることができる。また、遮光カバー34は、反射面341よりも後側において、ノズル32によって支持される突出部343を有している。本実施形態では、突出部343は、側壁部342から径方向内側へ突出する部分であり、ノズル32に形成されたフランジ部324と係合するように構成されている。また、遮光カバー34は、オリフィス部材35との間にサブエア供給路7を形成する。すなわち、遮光カバー34とオリフィス部材35との間の空間S2において、サブエアArsが流通する。空間S2は、溶射ガン1の中心軸周りに環状に形成された空間であり、上述の環状の空間S1の外側において、空間S1とは同心円状に形成されている。本実施形態では、遮光カバー34における側壁部342の内周面と、オリフィス部材35の外周面との間の環状の空間S2において、サブエアArsが流通する。なお、本実施形態では、遮光カバー34の側壁部342には、1または複数の図示しないサブエア導入口が形成されている。このサブエア導入口には、サブエアArsを供給するエアコンプレッサ等のサブエア供給源が、チューブ等を介して接続されている。
【0026】
オリフィス部材35は、
図1に示されるように、上述の空間S1と空間S2とを連通させることにより、サブエア供給路7を形成する部材である。本実施形態では、
図2に示されるように、オリフィス部材35は略円筒状に形成されており、オリフィス部材35の周方向において互いに所定の間隔をあけて複数のオリフィス(開口部)351が形成されている。
図1に示される空間S1と空間S2とは、複数のオリフィス(開口部)351を介して連通している。オリフィス351により、サブエア供給路7を流れるサブエアArsの流速および圧力を調節することができる。また、オリフィス351の大きさ、数、位置等に応じて、空間S1および空間S2におけるサブエアArsの流れ方を調節することができる。また、本実施形態では、オリフィス部材35の内周側の後端部には、ノズルキャップ33におけるフランジ部331の前側部分が挿入されるように当該前側部分と嵌合する凹状の段差部350が形成されている。また、本実施形態では、オリフィス部材35の外周面の前側部分は、ノズル32の後端部と係合し得るように構成されている。詳細には、オリフィス部材35の外周面の前側部分には、ノズル32の後端部の内周面に形成された雌ねじ部325と螺合する雄ねじ部352(
図1および
図2参照)が形成されている。
【0027】
送り機構4は、
図1に示されるように、アーク電源から電力を供給された2本の溶射材料21、22をそれぞれ前方向Fへ送ることにより、溶射材料21、22の先端部同士をノズル32の中心軸上で会合させるように構成されている。これにより、溶射材料21、22の会合点Kにおいてアークを発生させて、アークの熱により溶射材料21、22を溶融させることができる。本実施形態では、送り機構4は、溶射材料21、22をそれぞれ会合点Kへ案内する2つのガイド部材41と、溶射材料21、22をそれぞれ前進させる図示しない駆動部とを備えている。ガイド部材41は、会合点Kに向かって直線状に延びる筒状部材である。本実施形態では、会合点Kは、ノズル3の先端開口部321よりも前方の位置とされている。すなわち、溶射材料21、22は、溶射ガン1の内部からノズル3の先端開口部321を通じて溶射ガン1よりも前方へ突出し、ノズル3よりも前方の位置において先端部同士が会合するように送られる。溶射材料21、22が先端開口部321を挿通した状態において、溶射材料21、22と先端開口部321の内周面との間には、エアArが適切に噴出できる程度の隙間が設けられている。したがって、その隙間を通じて外部へ噴出するエアArによって、溶融した溶射材料21、22を霧化させ、霧化した溶射材料21、22を被溶射部材に対して噴射することができる。前後方向FBにおける、先端開口部321から会合点Kまでの距離、すなわち、先端開口部321からの溶射材料21、22の突出長さは、溶融した溶射材料21、22を霧化させて、霧化した溶射材料21、22を被溶射材料に対して均一に噴射できるような距離であれば特に限定されないが、たとえば、3~5mm程度とされる。
【0028】
メインエア供給路6は、
図1に示されるように、高圧のメインエアArmをノズル32内に供給する通気経路である。本実施形態では、1つのメインエア供給路6が、溶射ガン1の中心軸、具体的には、溶射筒3の中心軸上に配置されている。メインエア供給路6は、たとえば、溶射筒3の中心軸に沿って直線状に延びる筒状部材である。メインエア供給路6には、メインエアArmを供給するエアコンプレッサ等のメインエア供給源が、チューブ等を介して接続されている。また、本実施形態では、メインエア供給路6は、ノズル32の内部まで延びている。すなわち、メインエア供給路6の先端部は、ノズル32の内部に位置している。
【0029】
サブエア供給路7は、
図1に示されるように、高圧のサブエアArsをノズル32内に供給する通気経路である。本実施形態では、サブエア供給路7の先端部は、メインエア供給路6の先端部の周囲を環状に囲むように配置されている。詳細には、環状の空間S1の前側の端部が、溶射ガン1の中心軸周りにメインエア供給路6の先端部の周囲を囲むように配置されている。すなわち、ノズルキャップ33の前側の端部およびオリフィス部材35の前側の端部が、ノズル32の中心軸CL周りにメインエア供給路6の先端部の周囲を囲むように配置されている。これにより、ノズル32内において、ノズル32の中心軸上にメインエアArmが導入され、ノズル32の中心軸周りにメインエアArmの周囲を囲むように、サブエアArsが供給される。
【0030】
つぎに、
図1、
図3~
図7を参照して、ノズル32の構成について説明する。
図3~
図7は、ノズル32の詳細を示す図である。すなわち、
図3は、本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルの構成の一例を示す正面図であり、部分的に断面で示す図である。
図4は、本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルの構成の一例を示す図であり、
図3におけるA方向矢視図である。
図5は、本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルの構成の一例を示す図であり、
図3におけるB方向矢視図である。
図6は、本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルの構成の一例を示す、
図3におけるC-C線断面図である。
図7は、本発明の一実施形態に係る溶射ガン用ノズルの前端開口部の形状の一例を示す図である。
【0031】
図1に示されるノズル32は、メインエア供給路6から供給されたメインエアArmと、サブエア供給路7から供給されたサブエアArsとを集合させ、集合したエアArを先端開口部321から前方向Fへ噴射する部材である。前方向Fへ噴射されたエアArにより、溶融した溶射材料21、22は霧化されて被溶射部材に吹き付けられる。
【0032】
本実施形態では、ノズル32は、
図1、
図3および
図6に示されるように、前端部および後端部においてそれぞれ開口する略円錐台状の部材である。すなわち、ノズル32は、側壁部が前方向Fに向かって窄まるように傾斜している部分を有する略筒状の部材である。
【0033】
本実施形態では、ノズル32は、ノズル32内に導入されたサブエアArs(
図1参照)の流れの向きを調節するノズル本体32aと、ノズル本体32aの後側に一体的に設けられ、ノズル本体32aの位置を固定する固定部32bとを備えている。
【0034】
本実施形態では、ノズル本体32aは、側壁部が前方向Fに向かって窄まるように傾斜している筒状の部分である。すなわち、ノズル本体32aは、前端部および後端部において開口する円錐台状の部分である。本実施形態では、固定部32bは、ノズル本体32aの後端から後方向Bへ延出する円筒状の部分である。また、本実施形態では、固定部32部の内周面には、オリフィス部材35の雄ねじ部352と螺合する雌ねじ部325が形成されている。
【0035】
ノズル32の内周面322は、ノズル32の後側から先端開口部321に向かって窄まるように傾斜する傾斜部322aを有する。本実施形態では、ノズル本体32aの内周面322が、円錐台の側面に相当する傾斜部322aを有している。傾斜部322aは、サブエアArsの流れ方向を調節する案内流路323を有している。案内流路323は、ノズル32内においてサブエアArsを所定の方向へ案内することにより、サブエアArsの進行方向を調節し、霧化された溶射材料21、22が被溶射部材の表面に均一に吹き付けられるように構成されている。すなわち、案内流路323は、ノズル32内においてサブエアArsの進行方向を調節することにより、サブエアArsおよびメインエアArmにより構成されるエアArが、霧化された溶射材料21、22を均一に混じり合わせるように構成される。
【0036】
具体的には、傾斜部322aは、ノズル32の後側から先端開口部321に向かって、ノズル32の内周面の周方向での位置が変化するように傾斜した、サブエアArs(
図1参照)を案内する案内流路323を有している。すなわち、案内流路323は、傾斜部322aの母線(円錐台の側面の母線)に対して傾斜する方向に延びている。
【0037】
本実施形態では、傾斜部322aは、前方向Fに向かって、ノズル32の内周面の周方向での位置が一定方向に変化するように傾斜した案内流路323を有している。「一定方向」とは、たとえば、前方向Fを見て右回り方向(時計回り方向)または左回り方向(反時計回り方向)である。
図1、
図3~
図6に示される例では、「一定方向」は上記右回り方向である。
【0038】
本実施形態では、傾斜部322aは、前端開口部321に向かって、ノズル32の内周面の周方向での位置が螺旋状に変化するように傾斜した案内流路323を有している。本明細書における「螺旋状」とは、3次元曲線の一種で、前方向Fを見て右回り方向(時計回り方向)または左回り方向(反時計回り方向)に回転しながら回転面に対して垂直成分のある方向(前方向F)へ移動する曲線のような形状である。
図4および
図5に示される例では、案内経路323は、案内経路323における後側の端部から前側の端部までの区間において、ノズル32の内周面の周方向での位置が周方向へ360°より小さい角度で変化するように構成されている。また、
図4および
図5に示される例では、案内流路323は、前方向Fを見て右回り方向に回転するような螺旋状に形成されている。また、
図4および
図5に示される例では、案内経路323は、前方向Fへ向かって、ノズル32の内周面の径方向での位置がノズル32の中心軸CLに近づくように傾斜している。
【0039】
本実施形態では、案内流路323は、傾斜部322aの周方向において互いに間隔をあけて並ぶ複数の溝部である。
図4~
図6に示される例では、互いに隣り合う溝部同士の間隔は、前方向Fへ向かって、次第に狭くなっている。また、互いに隣り合う溝部は、傾斜部322aの前端部、すなわち先端開口部321または先端開口部321付近において互いに接している。なお、互いに隣り合う溝部は、傾斜部322aの前端部、すなわち先端開口部321または先端開口部321付近において互いに接していなくてもよい(互いに離間していてもよい)。
図4および
図5に示される例では、案内流路323は、8つの溝部である。なお、溝部の数は8つに限定されず、1つであってもよいし、2つ以上のいずれの数であってもよい。また、本実施形態では、案内流路323の幅は、後端部から前方に向かって次第に大きくなっている。また、溝部の長手方向に対して垂直な方向における、溝部の断面形状は特に限定されるものではないが、
図6に示される例では、略U字状とされている。なお、案内流路323の幅は、後端部から前方に向かって略同じであってもよい。また、本実施形態では、案内流路323の深さは、後端部から前方に向かって次第に深くなっている。なお、案内流路323の深さは、後端部から前方に向かって略同じであってもよい。
【0040】
本実施形態では、先端開口部321は、
図7に示されるように、ノズル32の前方から見て、略円形状の中央部321aと、中央部321aの周縁からノズル32の径方向外側へ突出する突出部321bとを組み合わせた開口形状を有している。そして、突出部321bは、ノズル321の前方から見て、案内流路323の傾斜方向に沿う方向に突出している。また、突出部321bは、案内流路323の前端部である。本実施形態では、突出部321bは溝部の前端部である。
図7に示される例では、突出部321bは、溝部の断面形状の一例である略U字状に形成されている。
【0041】
つぎに、溶射ガン1を用いた溶射方法の一例について、
図1を参照して説明する。まず、溶射ガン1により、非回転体であるバルブ装置に対して溶射を行う場合について説明する。
【0042】
まず、
図1に示されるように、ノズル32を備える溶射ガン1を準備する。詳細には、送り機構4により、2本の溶射材料21、22をそれぞれ前方向Fへ送ることにより、溶射材料21、22の先端部同士をノズル32よりも前方においてノズル32の中心軸上で会合させる(ステップS1)。
【0043】
つぎに、アークによって溶射材料21、22を溶融させる。詳細には、アーク電源から溶射材料21、22に対して電力を供給することにより、溶射材料21、22の会合点Kにおいてアークを発生させて、アークの熱により溶射材料21、22を溶融させる(ステップS2)。
【0044】
つぎに、
図1に示されるように、溶融された溶射材料21、22を、ノズル32の内部を通過してノズル32の先端開口部321から噴出するエアArである、ノズル32の径方向中心部に供給されるメインエアArmおよび径方向中心部よりも径方向外側から供給されるサブエアArsによって吹き飛ばすことにより、被溶射部材に溶射材料21、22を塗布する。詳細には、メインエア供給路6からノズル32内にメインエアArmを送り込むとともに、サブエア供給路7からノズル32内においてメインエアArmの周囲にサブエアArsを送り込む。サブエアArsは、ノズル32内の傾斜部322aに形成された案内流路323に案内されて、螺旋状(スパイラル状)に前方向Fへ進みながらメインエアArmに対してさらに接近し、メインエアArmと合流して、全体として螺旋状に進む高速流となる。螺旋状の高速流であるエアArは、ノズル32の先端開口部321から前方向Fへ噴射され、溶融した溶射材料21、22を霧化させつつ十分に混合しながらバルブ装置(被溶射部材)に向かって進み、バルブ装置に吹き付けられる。これにより、バルブ装置において溶射材料21、22が吹き付けられた範囲において、溶射材料21、22が均一に塗布される。そして、溶射ガン1を、バルブ装置の周囲全体にわたって移動させながら、溶射を続けることにより、バルブ装置の外側の表面全体に溶射材料21、22が均一に塗布される(非回転体への溶射方法)。これにより、バルブ装置の外側の表面全体に、異種金属からなる防食用の金属被膜を均一に形成することができる(ステップS3)。
【0045】
つぎに、溶射ガン1により、回転体である管に対して溶射を行う場合について説明する。管に対して塗布を行う場合においても、上述のステップS1~S3と同様の処理を行う。なお、ステップS3では、管の軸心を中心として回転用ローラで管を回転させながら、溶射ガン1を管の軸方向に沿って移動させて溶射を行うことにより、管の外周面全体に溶射材料21、22を均一に塗布することができる(回転体への溶射方法)。これにより、管の外周面全体に異種金属からなる防食用の金属被膜を均一に形成することができる。
【0046】
なお、非回転体であるバルブ装置に対して塗布を行う際に、仮に、上述した回転体用の溶射方法を用いると、バルブ装置の外側の表面において、溶射材料が塗布されない部分が生じてしまう可能性がある。すなわち、回転体に対して塗布を行う上述の方法では、バルブ装置における外側の表面において、溶射ガン1から見て死角になる領域が存在する場合があり、その領域には溶射材料を吹き付けることができないからである。一方、非回転体であるバルブ装置に対して上述した非回転体用の溶射方法を用いることにより、そのような不具合を生じることなく、バルブ装置の表面全体に溶射材料21、22を均一に塗布することができる。
【0047】
上述したように、本実施形態に係る溶射ガン用ノズルおよび溶射ガン用ノズルを用いた溶射方法では、溶射ガン1のメインエア供給路6からノズル32内にメインエアArmを送り込むとともに、溶射ガン1のサブエア供給路7からノズル32内においてメインエアArmの周囲にサブエアArsを送り込むことにより、サブエアArsは、ノズル32内の傾斜部322aに形成された案内流路323に案内されて、螺旋状に前方向Fへ進みながらメインエアArmに対してさらに接近し、メインエアArmと合流して、全体として螺旋状に進む高速流となる。螺旋状の高速流であるエアArは、指向性が高く、ノズル32の先端開口部321から前方向Fへ噴射され、溶融した溶射材料21、22を十分に混合しながら被溶射部材に向かって進み、混合した溶射材料21、22を被溶射部材の表面に吹き付けることができる。これにより、被溶射部材において溶射材料21、22が吹き付けられた範囲において、溶射材料21、22を均一に塗布することができる。すなわち、異種金属からなる2本の溶射材料21、22を溶射する場合に、異種金属がより均一に混じり合うことを容易にすることができる。また、被溶射部材がバルブ装置等の非回転体である場合には、溶射ガン1を、バルブ装置等の非回転体の周囲全体にわたって移動させながら、溶射を続けることにより、バルブ装置等のように複雑な外観形状を有する被溶射部材に対して、溶射材料21、22を均一に塗布することができる。これにより、複雑な形状の被溶射材料に対して、異種金属からなる防食用の金属被膜を均一に形成することを容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 溶射ガン
2、21、22 溶射材料
3 溶射筒
31 筒本体
310 雄ねじ部
311 支持部
32 溶射ガン用ノズル
32a ノズル本体
32b 固定部
321 先端開口部
322 ノズルの内周面
322a 傾斜部
323 案内流路
324 フランジ部
325 雌ねじ部
33 ノズルキャップ
330 ノズルキャップの外周面
331 フランジ部
34 遮光カバー
340 雌ねじ部
341 反射面
342 側壁部
343 突出部
35 オリフィス部材
350 段差部
351 オリフィス
352 雄ねじ部
4 送り機構
41 ガイド部材
5 アーク電源
6 メインエア供給路
7 サブエア供給路
Ar エア
Arm メインエア
Ars サブエア
K 会合点
S1 ノズルとノズルキャップとの間の空間
S2 遮光カバーとオリフィス部材との間の空間