(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】衝立背面への気流回り込み防止整流装置
(51)【国際特許分類】
F24F 13/08 20060101AFI20241120BHJP
A47G 5/00 20060101ALI20241120BHJP
E04B 2/74 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
F24F13/08 A
A47G5/00 G
E04B2/74 561H
(21)【出願番号】P 2021077063
(22)【出願日】2021-04-30
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000138680
【氏名又は名称】株式会社ユニックス
(74)【代理人】
【識別番号】100132953
【氏名又は名称】大槻 冨有彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 功一
(72)【発明者】
【氏名】魚崎 敏
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-247192(JP,A)
【文献】特開2008-163576(JP,A)
【文献】特開2010-166899(JP,A)
【文献】特開2003-267297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 13/08
A47G 5/00
E04B 2/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内や作業場に設置される衝立の端部に装着する装置であって、
当該装置はアルミ金属繊維層とエキスパンドメタルを圧着した材料によって構成され、この材料によって気流の一定割合を不通過とさせる事によって生じる圧力損失により衝立背面への空気の回り込みを抑制または低減する機能を有することを特徴とする
衝立背面への気流回り込み防止整流装置。
【請求項2】
上記整流装置によって生じる圧力損失が、気流の流速3m/Sにおいて、250Pa以上700Pa以下であって、該装置の高さが3cm以上であることを特徴とする請求項1記載の
衝立背面への気流回り込み防止整流装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内や作業場において目隠しや風除けなどで用いられる衝立において、衝立の一方で生じた空気の流れが、衝立を乗り越えて、その背面に廻り込むことを抑制または低減する衝立端部の整流装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衝立には目隠しや風除けなどの機能があるが、風邪やインフルエンザなどのウイルス性罹患者による咳やくしゃみの拡散防止の機能が期待されるようになってきている。衝立には空気の流れを遮る機能を期待できる。しかし、気流の中に壁などの障害物を配置すると、障害物の端部で空気の流れに乱れが生じ、これにより壁を乗り越えるように壁の背面に向かう空気の流れが生じるため、その効果は限定的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
三宅裕,壁乱流の渦,ながれ22(2003)p29-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点を鑑み、流体中に配置した衝立において、衝立を乗り越えて衝立の背面に向かう空気の流れの発生を抑制、または、低減する整流装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
流体の流れの中に壁などの障害物があると、壁近傍では流体の流れに乱れが生じる。壁近傍層の流体の流れの乱れを特徴付ける構造は、低速・高速のストリークと、縦渦と呼ばれる乱流要素渦である。渦は壁近傍に強く分布する。これらの渦は平均流の強い速度勾配のために壁に対して傾斜し、上流端は壁に近接する(技術文献1)。
【0006】
本発明は、
図4aに示す様に、縦渦の上流端となる衝立2の端部に圧力損失を持つ整流装置1を配置することを特徴とし、衝立の端部に取り付けた整流装置により、その下流部に向かう僅かな空気の動きを作り、衝立近傍に発生する縦渦の発生原因のひとつである衝立背面の空気の圧力の低下を抑制し、また衝立の下流部の平均流の速度勾配を緩和し、縦渦の発生を抑制または低減することにより、衝立の一方で発生した空気の流れが衝立の背面に廻りこむ流れの発生を抑制または低減する。一方、衝立2の端部に空気を通さないアクリル板を配置した
図4bでは衝立の背面に廻りこむ流れが大きい。
【0007】
なお、
図4a、
図4bは気流射出口4から白色に着色した空気を5の方向に射出し、射出口から射出した空気の流れを、スリットレーザー光を用いて視覚化した。衝立に入射する気流の流速は3m/sとした。評価範囲6に流れ込んだ気流の面積は、本発明の整流装置(圧力損失250Pa)の場合4%、空気を通さないアクリル板の場合は14%であり、本発明の有効性が分かる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、室内や作業場において目隠しや風除けなどで用いられる衝立において、衝立の一方で生じた流体の流れが、衝立を乗り越えて、その背面に廻り込むことを抑制または低減することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】衝立端部に整流装置を取り付けた状態の断面図
【
図2】衝立端部に整流装置を取り付けた状態の正面図
【
図3】衝立端部の整流装置の効果を検証するための実施装置の断面図
【
図4a】圧力損失を有する整流装置を取り付けた場合の気流観測結果
【
図4b】アクリル板を取り付けた場合の気流観測結果
【
図5】圧力損失250Paの整流装置による気流の制御観測結果例
【発明を実施するための形態】
【0010】
<整流装置の説明>
図1及び
図2に衝立及びその端部に装着された整流装置の断面図、正面図を示す。本発明についての試験で使用した整流装置1は、奥行き120cm、幅60cmの机3の長手方向の中央に、幅60cm長さ45cmの衝立2を配置し、その上に衝立2と同じ幅の整流装置1を取り付けた。
衝立2から水平方向54cm机上面から垂直方向45cmの位置にヒトの咳を模した気流発生装置4を配置した。衝立上端部に本整流装置を取り付け、気流発生装置から白色の煙を射出し、射出口から5の方向に噴出した煙の動きを、スリットレーザー光を用いて可視化した。衝立端部に入射する気流の速度は、ヒトの咳によって発生する気流の流速を参考に3m/sとした。
【0011】
<気流の制御に有効な圧力損失>
本発明の整流装置の圧力損失を説明する。ここで言う圧力損失とは、整流装置1を気流が通過する時に生ずる抵抗によって発生するもので、圧力損失が大きい材料は気流が通過しにくい事を表す。なお、気流を全く通さない材料は圧力損失の概念はないので対象外である。
図5に試験結果の例を示す。
衝立端部に圧力損失の異なる高さ5cmの整流装置を取り付けた。取り付ける整流装置の圧力損失を250Paとした。
図5は圧力損失250Pa(気流の流速3m/s)の整流装置による流れの制御結果である。下流側の流れが
図5の矢印8が示す方向に直線的に移動したことが読み取れる。この時、評価範囲6に流れ込んだ気流の面積は、圧力損失250Paの場合は2%、圧力損失700Paの場合は1%であり、いずれも本発明の有効性が示された。なお、圧力損失が250Paより小さい場合は気流が整流装置を容易に通過してしまい、衝立の効果が無くなってしまう。一方、圧力損失が700Paより大きい場合は気流が整流装置をほとんど通過しないために衝立の背面に廻りこむ流れの発生を低減できない。
圧力損失を有する材料の例としては、天然繊維や合成繊維、金属繊維の不織布や織布、および、連続気泡多孔質材などがあげられる。本試験では、圧力損失250Paの場合は、面密度550g/m
2のアルミ金属繊維層とエキスパンドメタルを圧着した材料を使用したが、これに限定されるものではない。
【0012】
<圧力損失を持つ整流装置の形状>
本発明において有効な装置の高さを説明する。
図3に示す実施装置において、衝立2の端部に取り付ける整流装置12の高さを1cm、3cm、6cmとし、衝立下流側の空気の流れを観測した。この時の整流装置の圧力損失は250Paの材料を使用した。結果を
図6と表1に示す。高さ1cmの整流装置では衝立背面へ向かう流れが発生し、
図3に示す評価範囲6の面積の60%の範囲に気流の流れ込みが観察された。高さ3cmでは評価範囲の5%に気流の流れ込みが観察され、高さ6cmでは評価範囲の6%に気流の流れ込みが観察された。
このことから、高さ3cmと6cmの整流装置は、高さ1cmの整流装置に比して、衝立下流側への気流の流れ込みを抑制でき、整流装置の高さは3cm以上が必要である事が分かった。
【0013】
【0014】
なお、本発明の整流装置の厚みは特に指定はなく、必要な圧力損失が得られれば良い。また、上記試験は整流装置を均一な厚さ(断面形状が長方形)で行ったが、端部に向かって厚さが減少するような尖った形状(断面が三角形)でも良い。
更には、本発明の整流装置が衝立と一体構造となっている場合も有効である。
【符号の説明】
【0015】
1 衝立端部の整流装置
2 衝立
3 机上面または床面
4 気流発生装置
5 気流の噴出方向を表す矢印
6 流れ抵抗を持つ整流装置の評価範囲
7 気流噴出口から噴出された気流
8 衝立背面の気流の流れ方向を示す矢印1
9 衝立背面の気流の流れ方向を示す矢印2