IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本製鋼所の特許一覧

特許7590920逆流防止機構付きスクリュー、それを備えた射出成形装置、及び逆流防止リング
<>
  • 特許-逆流防止機構付きスクリュー、それを備えた射出成形装置、及び逆流防止リング 図1
  • 特許-逆流防止機構付きスクリュー、それを備えた射出成形装置、及び逆流防止リング 図2
  • 特許-逆流防止機構付きスクリュー、それを備えた射出成形装置、及び逆流防止リング 図3
  • 特許-逆流防止機構付きスクリュー、それを備えた射出成形装置、及び逆流防止リング 図4
  • 特許-逆流防止機構付きスクリュー、それを備えた射出成形装置、及び逆流防止リング 図5
  • 特許-逆流防止機構付きスクリュー、それを備えた射出成形装置、及び逆流防止リング 図6
  • 特許-逆流防止機構付きスクリュー、それを備えた射出成形装置、及び逆流防止リング 図7
  • 特許-逆流防止機構付きスクリュー、それを備えた射出成形装置、及び逆流防止リング 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】逆流防止機構付きスクリュー、それを備えた射出成形装置、及び逆流防止リング
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/52 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
B29C45/52
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021085927
(22)【出願日】2021-05-21
(65)【公開番号】P2022178841
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】千葉 英貴
(72)【発明者】
【氏名】國弘 大介
(72)【発明者】
【氏名】梅田 光秀
(72)【発明者】
【氏名】安江 昭
(72)【発明者】
【氏名】小屋松 博志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄介
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-237888(JP,A)
【文献】特開2004-223955(JP,A)
【文献】特開平09-029795(JP,A)
【文献】特開平11-090967(JP,A)
【文献】特開2018-069574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュー本体部と、
前記スクリュー本体部の先端に固定された押金と、
前記押金から離間して先端側に設けられたスクリューヘッドと、
前記押金と前記スクリューヘッドとを連結する連結軸と、
前記押金と前記スクリューヘッドとの間において、前記連結軸を覆うと共に軸方向にスライド自在に設けられた円筒状の逆流防止リングと、を備え、
前記逆流防止リングの外周面に、軸方向に延びた平坦状又は溝状のストライプ部が形成されており
前記ストライプ部は、前記逆流防止リングにおけるリング本体部の長手方向の全域に亘って設けられている、
射出成形装置用の逆流防止機構付きスクリュー。
【請求項2】
前記ストライプ部が、複数設けられている、
請求項1に記載の逆流防止機構付きスクリュー。
【請求項3】
前記ストライプ部は、前記逆流防止リングの円周方向に等間隔に設けられている、
請求項2に記載の逆流防止機構付きスクリュー。
【請求項4】
前記逆流防止リングは、
リング本体部と、
前記リング本体部における前記スクリューヘッド側の端面から突出して設けられ、前記スクリューヘッドと嵌合するツメ部と、を備えており、
前記逆流防止リングと前記スクリューヘッドとが連れ回り可能である、
請求項1に記載の逆流防止機構付きスクリュー。
【請求項5】
シリンダ内に収容された逆流防止機構付きスクリューによって、溶融樹脂を撹拌すると共に射出する射出機と、
前記射出機から射出された前記溶融樹脂を成形する金型と、を備えた射出成形装置であって、
前記逆流防止機構付きスクリューは、
スクリュー本体部と、
前記スクリュー本体部の先端に固定された押金と、
前記押金から離間して先端側に設けられたスクリューヘッドと、
前記押金と前記スクリューヘッドとを連結する連結軸と、
前記押金と前記スクリューヘッドとの間において、前記連結軸を覆うと共に軸方向にスライド自在に設けられた円筒状の逆流防止リングと、を備え、
前記逆流防止リングの外周面に、軸方向に延びた平坦状又は溝状のストライプ部が形成されており
前記ストライプ部は、前記逆流防止リングにおけるリング本体部の長手方向の全域に亘って設けられている、
射出成形装置。
【請求項6】
前記ストライプ部が、複数設けられている、
請求項に記載の射出成形装置。
【請求項7】
前記ストライプ部は、前記逆流防止リングの円周方向に等間隔に設けられている、
請求項に記載の射出成形装置。
【請求項8】
前記逆流防止リングは、
リング本体部と、
前記リング本体部における前記スクリューヘッド側の端面から突出して設けられ、前記スクリューヘッドと嵌合するツメ部と、を備えており、
前記逆流防止リングと前記スクリューヘッドとが連れ回り可能である、
請求項7に記載の射出成形装置。
【請求項9】
射出成形装置のスクリューに装着される円筒状の逆流防止リングであって、
外周面に、軸方向に延びた平坦状又は溝状のストライプ部が形成されており
前記ストライプ部は、当該逆流防止リングにおけるリング本体部の長手方向の全域に亘って設けられている、
逆流防止リング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆流防止機構付きスクリュー、それを備えた射出成形装置、及び逆流防止リングに関する。
【背景技術】
【0002】
逆流防止機構付きスクリューを備えた射出成形装置が知られている。例えば特許文献1には、スクリュー本体部に一体に設けられた押金とスクリューヘッドとの間に逆流防止リングがスライド自在に設けられた逆流防止機構付きスクリューが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-107558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、逆流防止機構付きスクリュー及びそれを備えた射出成形装置の開発に際し、様々な課題を見出した。
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る逆流防止機構付きスクリューは、スクリュー本体部の先端に固定された押金とスクリューヘッドとを連結する連結軸を覆うと共に軸方向にスライド自在に設けられた円筒状の逆流防止リングを備える。当該逆流防止リングの外周面に、軸方向に延びた平坦状又は溝状のストライプ部が形成されている。
【発明の効果】
【0006】
前記一実施形態によれば、優れた逆流防止機構付きスクリューを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー及びそれを備えた射出成形装置の全体構成を示す模式的断面図である。
図2】第1の実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー及びそれを備えた射出成形装置の全体構成を示す模式的断面図である。
図3】第1の実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー及びそれを備えた射出成形装置の全体構成を示す模式的断面図である。
図4】比較例に係る逆流防止リング250の詳細構成を示す斜視図である。
図5】逆流防止リング250とシリンダ10との関係を表す模式断面図である。
図6】第1の実施形態に係る逆流防止リング25の詳細構成を示す斜視図である。
図7】第1の実施形態に係る逆流防止リング25の詳細構成を示す断面図である。
図8】第2の実施形態に係る逆流防止リング25の詳細構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。
【0009】
(第1の実施形態)
<射出成形装置の全体構成>
まず、図1図3を参照して、第1の実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー及びそれを備えた射出成形装置の全体構成について説明する。図1図3は、第1の実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー及びそれを備えた射出成形装置の全体構成を示す模式的断面図である。
なお、当然のことながら、図1図3、及び以下で説明するその他の図面に示した右手系xyz直交座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、z軸正向きが鉛直上向き、xy平面が水平面であり、図面間で共通である。
【0010】
図1図3に示すように、本実施形態に係る射出成形装置は、射出機100、固定型D1、及び可動型D2を備えている。ここで、射出機100は、シリンダ10、スクリュー20、ホッパ30、及び環状ヒータ40を備えている。
図1は、射出成形装置において、金型(固定型D1及び可動型D2)のキャビティCへ溶融樹脂R2を射出する直前の様子を示している。
図2は、射出成形装置において、金型のキャビティCへの溶融樹脂R2の射出が完了した様子を示している。
図3は、射出成形装置において、金型から樹脂成形品R3を取り出した様子を示している。
【0011】
図1図3に示すように、射出機100のシリンダ10は、x軸方向に延設された筒状部材である。シリンダ10の先端部(x軸負方向側の端部)は、段階的に細くなっており、ノズル状に形成されている。図示した例では、シリンダ10の先端部が2段階で細くなっており、射出孔が設けられたシリンダ10の先端は、固定型D1に設けられた凹部に嵌め込まれ、固定型D1に固定されている。
【0012】
図1図3に示すように、スクリュー20は、x軸方向に延設され、シリンダ10に回転可能に収容されている。すなわち、スクリュー20の回転軸は、x軸に平行である。
スクリュー20は、本実施形態に係る逆流防止機構付きスクリューであって、スクリュー本体部21、押金22、スクリューヘッド23、連結軸24、及び逆流防止リング25を備える。
【0013】
また、スクリュー20の根元部すなわちスクリュー本体部21の根元部(x軸正方向側の端部)は、ピストン20aを介して回転駆動源であるモータMTに連結されている。ピストン20aは、図示しないアクチュエータによってx軸方向に移動できるため、スクリュー20もx軸方向に移動できる。図2に示すように、スクリュー20がx軸負方向に前進することによって、シリンダ10の最先端部から溶融樹脂R2が金型(固定型D1及び可動型D2)の内部に射出される。
【0014】
スクリュー本体部21は、スクリュー20の本体部である。スクリュー本体部21は、スクリュー20の根元部から先端部に亘ってx軸方向に延設されたスクリュー軸と、スクリュー軸の外周面にらせん状に設けられたスクリューブレードとを備える。
押金22は、スクリュー本体部21の先端に固定された円板状の部材である。押金22の径は、スクリュー本体部21のスクリュー軸の径よりも大きい。
【0015】
スクリューヘッド23は、押金22から離間して先端側(x軸負方向側)に設けられた円錐形状の部材である。押金22の先端側の主面中央部とスクリューヘッド23の底面中央部とが、スクリュー本体部21のスクリュー軸と同軸の連結軸24によって連結されている。すなわち、スクリューヘッド23は、スクリュー本体部21と共に回転し、かつ、スクリュー本体部21と共にx軸方向に移動する。図1に示すように、シリンダ10の先端部に蓄えられた溶融樹脂R2を、図2に示すように、円錐形状のスクリューヘッド23の側面(すなわち前面)によって押し出す。
【0016】
逆流防止リング25は、押金22とスクリューヘッド23との間において、連結軸24を覆うと共に軸方向にスライド自在に設けられた円筒状の部材である。逆流防止リング25は、図2に示す射出時に、溶融樹脂R2がスクリューヘッド23側からスクリュー本体部21側に逆流するのを防止するために設けられている。そのため、逆流防止リング25の外径は、シリンダ10の内径と同程度である。他方、逆流防止リング25の内径は、連結軸24の外径よりも大きく、溶融樹脂R2が通過できる隙間が設けられている。
【0017】
なお、当然のことながら、逆流防止リング25とシリンダ10との隙間をゼロにすることはできないため、当該隙間を介した溶融樹脂R2の逆流を完全に防止することはできない。逆流防止リング25とシリンダ10との隙間は、例えば60μm程度である。また、逆流防止リング25の詳細構成については後述する。
【0018】
ここで、図1図3を参照して、逆流防止リング25を含む逆流防止機構の動作について説明する。
図1図2に示すように、スクリュー20が前進することによって、溶融樹脂R2を射出する。その際、逆流防止リング25は押金22に略隙間なく当接し、溶融樹脂R2がスクリューヘッド23側からスクリュー本体部21側に逆流するのを防止できる。
なお、特に限定されないが、スクリュー20が前進して溶融樹脂R2を射出する際には、スクリュー20の回転は停止している。
【0019】
他方、図3に示すように、スクリュー20が後退することによって、射出するための溶融樹脂R2を計量しつつ、シリンダ10の先端部に溶融樹脂R2を蓄える。その際、逆流防止リング25はスクリューヘッド23側に移動し、逆流防止リング25と押金22との間に隙間が生じる。そのため、逆流防止リング25と連結軸24との隙間及び逆流防止リング25とスクリューヘッド23との隙間を介して、溶融樹脂R2がスクリュー本体部21側からスクリューヘッド23側に流入する。
【0020】
ホッパ30は、図1図3に示した溶融樹脂R2の原料である樹脂ペレットR1をシリンダ10の内部に投入するための筒状部材である。ホッパ30は、シリンダ10のx軸正方向側端部の上側に設けられている。
【0021】
環状ヒータ40は、シリンダ10の外周面を覆うように、シリンダ10の長手方向(x軸方向)に沿って並べて設けられている。図1図3に示した例では、ホッパ30よりも先端側(x軸負方向側)に、9個の環状ヒータ40が設けられている。複数の環状ヒータ40のそれぞれは、例えば、図示しない制御部によって個別に制御される。
なお、環状ヒータ40の個数や設置範囲は、特に限定されず、適宜決定される。
【0022】
第1の実施形態に係る射出機100では、ホッパ30から供給された樹脂ペレットR1は、シリンダ10の内部において環状ヒータ40によって加熱されつつ、回転するスクリュー20によって撹拌される。環状ヒータ40による加熱温度は、例えば200~300℃程度である。樹脂ペレットR1は、加熱されると共に、スクリュー20の根元部から先端部に向かって(x軸負方向に)押し出されることによって圧縮され、溶融樹脂R2に変化する。
【0023】
固定型D1は射出機100の先端に固定された金型である。他方、可動型D2は、図示しない駆動源によって駆動され、x軸方向にスライド移動可能な金型である。可動型D2がx軸正方向に移動し、固定型D1に当接することにより、図1に示すように、固定型D1と可動型D2との間に製造される樹脂成形品R3(図3参照)の形状に応じたキャビティCが形成される。
【0024】
次に、図2に示すように、スクリュー20をx軸負方向に前進させ、金型(固定型D1及び可動型D2)の内部すなわちキャビティCに溶融樹脂R2を充填させる。金型(固定型D1及び可動型D2)によって溶融樹脂R2が冷却され、硬化することによって、樹脂成形品R3が成形される。金型(固定型D1及び可動型D2)の温度は、例えば40~100℃程度である。
そして、図3に示すように、スクリュー20がx軸正方向に後退すると共に、可動型D2がx軸負方向に移動し、固定型D1から離型することにより、樹脂成形品R3が取り出される。
【0025】
<比較例に係る逆流防止リング250の詳細構成>
図4を参照して、比較例に係る逆流防止リング250の詳細構成について説明する。図4は、比較例に係る逆流防止リング250の詳細構成を示す斜視図である。
図4に示すように、比較例に係る逆流防止リング250は、リング本体部251及びツメ部252a、252bを備えている。
【0026】
リング本体部251は、逆流防止リング250の本体部であって、円筒形状を有する部位である。
ツメ部252a、252bは、リング本体部251におけるスクリューヘッド23側(x軸負方向側)の端面からスクリューヘッド23側に突出して、リング本体部251と一体に設けられている。換言すると、隣接するツメ部252a、252bの間に凹部(切り欠き)が設けられている。ツメ部252a、252bが、スクリューヘッド23に形成された凹部と嵌合するため、逆流防止リング250はスクリューヘッド23と連れ回りできる。
【0027】
図4に示す例では、一対のツメ部252aが対向するように設けられている。また、一対のツメ部252aの間の中央部に、一対のツメ部252bが対向するように設けられている。
また、ツメ部252aの高さ(回転軸方向の長さ)は、ツメ部252bの高さよりも大きく、ツメ部252aの幅(円周方向の長さ)は、ツメ部252bの幅よりも大きい。
さらに、ツメ部252a、252bの内周面は、リング本体部251の内周面と面一である。他方、ツメ部252a、252bの外周面は、スクリューヘッド23側に向かうにつれて、回転軸方向に傾斜している。
【0028】
ここで、図5は、逆流防止リング250とシリンダ10との関係を表す模式断面図である。上述の通り、逆流防止リング250の外径とシリンダ10の内径とは同程度であるが、図5では、逆流防止リング250とシリンダ10との隙間が誇張して描かれている。
【0029】
図5に示すように、逆流防止リング250は、シリンダ10内において、逆流防止リング250の中心軸O1を回転軸として自転しつつ、シリンダ10の中心軸O2を回転軸として公転する。このような逆流防止リング250の公転運動は、振れ回り(ホワーリング)と呼ばれる。
【0030】
ここで、逆流防止リング250の自転速度ω1は、スクリュー20の回転速度と同じである。発明者らは、図5に示すように、逆流防止リング250とシリンダ10との隙間の周期的な変化を測定することによって、逆流防止リング250の公転速度ω2を調査した。その結果、逆流防止リング250の自転速度ω1に対する公転速度ω2の比率ω2/ω1が、1/2(すなわち0.5)であることが分かった。
【0031】
この逆流防止リング250の自転速度ω1に対する公転速度ω2の比率ω2/ω1が1/2になる現象は、ジャーナル軸受において観察される「ハーフスピードホワール」に類似した現象であると推察される。このように、比較例に係る逆流防止リング250では、自転速度ω1に対する公転速度ω2の比率ω2/ω1が1/2となり、シリンダ10と逆流防止リング250とに、かじり摩耗が発生し易いという問題があった。
【0032】
<第1の実施形態に係る逆流防止リング25の詳細構成>
次に、図6図7を参照して、第1の実施形態に係る逆流防止リング25の詳細構成について説明する。図6は、第1の実施形態に係る逆流防止リング25の詳細構成を示す斜視図である。図7は、第1の実施形態に係る逆流防止リング25の詳細構成を示す断面図である。
【0033】
図6に示すように、本実施形態に係る逆流防止リング25は、図4に示すリング本体部251及びツメ部252a、252bに加え、ストライプ部253を備えている。
ここで、リング本体部251及びツメ部252a、252bの構成は図4に示した比較例に係る逆流防止リング250と同様であるため、説明を省略する。
【0034】
図6に示すように、ストライプ部253は、リング本体部251の外周面において、軸方向に延設された平坦状な部位である。ストライプ部253は、例えば機械加工によって形成される。
図6に示す例では、リング本体部251の長手方向(x軸方向)の全域に亘って延びた4本のストライプ部253が、円周方向に等間隔に設けられている。
【0035】
なお、ストライプ部253の本数は適宜決定され、単数でもよい。ストライプ部253が複数の場合、隣接するストライプ部253の間隔は等間隔でなくてもよい。また、ストライプ部253は、リング本体部251の長手方向(x軸方向)に延びていれば、リング本体部251の長手方向の一部に形成されていてもよい。さらに、ストライプ部253は、平坦状でなく溝状でもよい。
また、ストライプ部253は、リング本体部251の長手方向に沿って螺旋状に延びていてもよい。
【0036】
図7に示すように、ストライプ部253が形成された部位におけるリング本体部251の最小外半径Rsは、ストライプ部253が形成されていない部位におけるリング本体部251の外半径R(以下、単に「リング本体部251の外半径R」)よりも小さい。そのため、逆流防止リング25とシリンダ10との隙間が大きくなり、潤滑剤として機能する溶融樹脂R2が隙間に充填され易くなる。
なお、ストライプ部253の形成によって、溶融樹脂R2の逆流量は増加する。
【0037】
また、詳細には後述するように、逆流防止リング25の外周面にストライプ部253を形成することによって、逆流防止リング25の自転速度ω1に対する公転速度ω2の比率ω2/ω1が1/2よりも小さくなる。そのため、本実施形態に係る逆流防止リング25では、上述の「ハーフスピードホワール」に類似した現象を抑制できる。その結果、比較例に係る逆流防止リング250に比べ、シリンダ10と逆流防止リング25とにおけるかじり摩耗を抑制できる。
【0038】
ここで、ストライプ部253の形成による逆流防止リング25の外半径の減少率(%)を(R-Rs)/R×100と定義する。その場合、当該外半径の減少率(%)が、例えば0.05~2%となるように、ストライプ部253を形成する。より好ましくは、外半径の減少率(%)が、0.1~1%となるように、ストライプ部253を形成する。
外半径の減少率(%)を0.05%以上とすることによって、上述の通り、かじり摩耗を抑制できる。他方、外半径の減少率(%)を2%以下とすることによって、溶融樹脂R2の逆流量を抑制できる。
【0039】
以上に説明した通り、本実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー20では、逆流防止リング25の外周面に、軸方向に延びた平坦状又は溝状のストライプ部253が形成されている。そのため、逆流防止リング25の公転速度ω2が、自転速度ω1の1/2よりも小さくなり、上述の「ハーフスピードホワール」に類似した現象を抑制できる。その結果、本実施形態に係る本実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー20では、比較例に係る逆流防止リング250を用いた場合に比べ、シリンダ10と逆流防止リング25とにおけるかじり摩耗を抑制できる。
【0040】
(第2の実施形態)
<第2の実施形態に係る逆流防止リング25の詳細構成>
次に、図8を参照して、第2の実施形態に係る逆流防止リング25の詳細構成について説明する。図8は、第2の実施形態に係る逆流防止リング25の詳細構成を示す斜視図である。
図6に示す逆流防止リング25では、リング本体部251の長手方向(x軸方向)の全域に亘って延びた4本のストライプ部253が、円周方向に等間隔に設けられている。
これに対し、図8に示す逆流防止リング25では、4本のストライプ部253a及び4本のストライプ部253bが、円周方向に交互に等間隔に設けられている。
【0041】
ストライプ部(第1のストライプ部)253aは、リング本体部251のスクリューヘッド23側(x軸負方向側)の端部から長手方向(x軸方向)の中央部まで延設されている。ストライプ部(第2のストライプ部)253bは、リング本体部251のスクリュー本体部21側の端部から長手方向(x軸方向)の中央部まで延設されている。
【0042】
図8において二点鎖線で示すように、ストライプ部253a、253bは、リング本体部251の長手方向(x軸方向)において、重複するように形成されている。すなわち、ストライプ部253a、253bの長さの合計値は、リング本体部251の長さ以上である。
【0043】
本実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー20でも、逆流防止リング25の外周面に、軸方向に延びた平坦状又は溝状のストライプ部253a、253bが形成されている。そのため、逆流防止リング25の公転速度ω2が、自転速度ω1の1/2よりも小さくなり、上述の「ハーフスピードホワール」に類似した現象を抑制できる。その結果、本実施形態に係る本実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー20でも、比較例に係る逆流防止リング250を用いた場合に比べ、シリンダ10と逆流防止リング25とにおけるかじり摩耗を抑制できる。
【0044】
また、本実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー20では、逆流防止リング25におけるストライプ部253a、253bのそれぞれが、リング本体部251の長手方向中央部までしか延設されておらず、全域に亘っては延設されていない。そのため、第1の実施形態に係る逆流防止リング25を用いた場合に比べ、溶融樹脂R2がシリンダ10と逆流防止リング25と隙間を通過し難くなり、溶融樹脂R2の逆流量を抑制できる。
その他の構成は、第1の実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー20と同様であるため、説明を省略する。
【実施例
【0045】
以下、上述の実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー20を、比較例及び実施例を挙げて、詳細に説明する。しかしながら、実施形態に係る逆流防止機構付きスクリュー20は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
[比較例]
図4に示す逆流防止リング250を用いて、逆流防止機構付きスクリュー20を回転させた際の逆流防止リング250の自転速度ω1に対する公転速度ω2の比率ω2/ω1を調査した。図5に示すように、逆流防止リング250とシリンダ10との隙間の周期的な変化を測定することによって、逆流防止リング250の公転速度ω2を調査した。
また、逆流防止機構付きスクリュー20の回転を停止して、溶融樹脂R2を射出する際の溶融樹脂R2の逆流量を調査した。
【0047】
自転速度ω1に対する公転速度ω2の比率ω2/ω1の調査では、逆流防止機構付きスクリュー20の回転速度すなわち逆流防止リング250の自転速度ω1を182rpmとした。リング本体部251の外半径Rを17.5mmとし、リング本体部251の長さを26mmとした。また、逆流防止リング250(すなわちリング本体部251)とシリンダ10との隙間を60μmとした。逆流防止機構付きスクリュー20によって溶融させる樹脂には、オレフィン系熱可塑性エラストマを用いた。
【0048】
溶融樹脂R2の逆流量の調査では、シリンダ10の先端に設けられた射出孔を封鎖し、逆流防止機構付きスクリュー20を前進させた。そして、150MPaの圧力を保持しつつ、逆流防止機構付きスクリュー20の前進量を測定することによって、溶融樹脂R2の逆流量を算出した。ここで、逆流防止機構付きスクリュー20の前進量が大きい程、溶融樹脂R2の逆流量が大きくなる。
【0049】
[実施例1]
図6に示すように、逆流防止リング25のリング本体部251の外周面に軸方向に延設されたストライプ部253を形成した以外は、比較例と同様の条件で、自転速度ω1に対する公転速度ω2の比率ω2/ω1及び溶融樹脂R2の逆流量を調査した。
図6に示すように、リング本体部251の長手方向(x軸方向)の全域に亘って延びた4本の平坦状のストライプ部253を、円周方向に等間隔に設けた。
【0050】
ここで、ストライプ部253の形成による逆流防止リング25の外半径の減少量(図7におけるR-Rs)を0.10mm(100μm)とした。
従って、ストライプ部253の形成による逆流防止リング25の外半径の減少率(%)は、(R-Rs)/R×100=0.1/17.5×100=0.57%である。
【0051】
[実施例2]
逆流防止リング25のリング本体部251の外周面に形成されたストライプ部253の本数以外は、実施例1と同様の条件で、自転速度ω1に対する公転速度ω2の比率ω2/ω1及び溶融樹脂R2の逆流量を調査した。
実施例2では、リング本体部251の長手方向(x軸方向)の全域に亘って延びた8本の平坦状のストライプ部253を、円周方向に等間隔に設けた。
【0052】
なお、実施例2でも、ストライプ部253の形成による逆流防止リング25の外半径の減少量(図7におけるR-Rs)を0.10mm(100μm)とした。
従って、ストライプ部253の形成による逆流防止リング25の外半径の減少率(%)も、(R-Rs)/R×100=0.1/17.5×100=0.57%である。
【0053】
[実施例3]
逆流防止リング25のリング本体部251の外周面に形成されたストライプ部253a、253bの本数及び形状以外は、実施例1と同様の条件で、比率ω2/ω1及び溶融樹脂R2の逆流量を調査した。
実施例3では、図8に示すように、リング本体部251の外周面に4本のストライプ部253a及び4本のストライプ部253bを、円周方向に交互に等間隔に設けた。
【0054】
図8に示すように、ストライプ部253aは、リング本体部251のスクリューヘッド23側(x軸負方向側)の端部から長手方向(x軸方向)の中央部まで延設されている。ストライプ部253bは、リング本体部251のスクリュー本体部21側の端部から長手方向(x軸方向)の中央部まで延設されている。リング本体部251の長さ26mmに対し、ストライプ部253a、253bの長さを14mmとした。
【0055】
なお、実施例3でも、ストライプ部253a、253bの形成による逆流防止リング25の外半径の減少量(図7におけるR-Rs)を0.10mm(100μm)とした。
従って、ストライプ部253a、253bの形成による逆流防止リング25の外半径の減少率(%)も、(R-Rs)/R×100=0.1/17.5×100=0.57%である。
【0056】
<調査結果>
表1に比較例及び実施例1~3における逆流防止リングの自転速度ω1に対する公転速度ω2の比率ω2/ω1及び溶融樹脂R2の逆流量の調査結果をまとめて示す。表1において、溶融樹脂R2の逆流量は、所定の基準値に対する割合(%)で示されている。溶融樹脂R2の逆流量は、基準値以下(すなわち100%以下)であればよい。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、比較例では、逆流防止リング250の自転速度ω1に対する公転速度ω2の比率ω2/ω1が、0.5であった。そのため、比較例に係る逆流防止リング250では、上述の「ハーフスピードホワール」に類似した現象が発生し、シリンダ10と逆流防止リング250とに、かじり摩耗が発生し易い。
【0059】
他方、表1に示すように、実施例1及び実施例2では、逆流防止リング25の自転速度ω1に対する公転速度ω2の比率ω2/ω1が0.42であり、実施例3では、当該比率ω2/ω1が0.43であり、0.5よりも小さかった。そのため、実施例1~3に係る逆流防止リング25では、上述の「ハーフスピードホワール」に類似した現象を抑制できる。その結果、比較例に係る逆流防止リング250に比べ、シリンダ10と逆流防止リング25とにおけるかじり摩耗を抑制できる。
なお、逆流防止リング25の公転の振幅は、実施例1~3のいずれも比較例と同等であった。
【0060】
表1に示すように、溶融樹脂R2の逆流量は、比較例において最も小さく、実施例3、実施例1、実施例2の順に大きくなる。すなわち、溶融樹脂R2の逆流量については、ストライプ部253又はストライプ部253a、253bの形成により増加する。しかしながら、実施例1~3における溶融樹脂R2の逆流量は、いずれも基準値の半分以下であり、問題ない。
【0061】
ここで、実施例3に係る逆流防止リング25では、ストライプ部253a、253bのそれぞれが、リング本体部251の長手方向中央部までしか延設されておらず、全域に亘っては延設されていない。そのため、実施例3に係る逆流防止リング25では、実施例1、2に係る逆流防止リング25よりも、溶融樹脂R2がシリンダ10と逆流防止リング25と隙間を通過し難くなり、溶融樹脂R2の逆流量を抑制できたものと考えられる。
【0062】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0063】
10 シリンダ
20 スクリュー
20a ピストン
21 スクリュー本体部
22 押金
23 スクリューヘッド
24 連結軸
25 逆流防止リング
30 ホッパ
40 環状ヒータ
100 射出機
251 リング本体部
252a、252b ツメ部
253、253a、253b ストライプ部
C キャビティ
D1 固定型
D2 可動型
MT モータ
R1 樹脂ペレット
R2 溶融樹脂
R3 樹脂成形品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8