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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】被覆材、及び被膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20241120BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021086840
(22)【出願日】2021-05-24
(65)【公開番号】P2021188045
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2020090628
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川原 道生
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-013899(JP,A)
【文献】特開2019-135282(JP,A)
【文献】特開2011-212675(JP,A)
【文献】特開2000-086942(JP,A)
【文献】特開2005-225927(JP,A)
【文献】特開2006-152231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性樹脂(A)、及び鱗片状粒子(B)を含む被覆材であって、 上記水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して、上記鱗片状粒子(B)を10~200重量部含み、
上記鱗片状粒子(B)は、短径2mm超の大粒子(b1)、短径0.7mm超2mm以下の中粒子(b2)、及び短径0.7mm以下の小粒子(b3)を含み、 上記被覆材は、粘性調整剤として会合性粘性調整剤(C)を含み、 粘度が1~50Pa・s、チキソトロピーインデックス(TI値)が4以上であり、
上記被覆材は、上記鱗片状粒子(B)を除く粉粒体(E)混合比率が上記水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して5重量部以下であることを特徴とする被覆材。
【請求項2】
上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)と上記大粒子(b1)との重量比[(b2)+(b3)]/(b1)が、1以上50以下であることを特徴とする請求項1に記載の被覆材。
【請求項3】
壁面に対し、被覆材を塗付する被膜形成方法であって、 上記被覆材は、水性樹脂(A)、及び鱗片状粒子(B)を含み、 上記水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して、上記鱗片状粒子(B)を10~200重量部含み、
上記鱗片状粒子(B)は、短径2mm超の大粒子(b1)、短径0.7mm超2mm以下の中粒子(b2)、及び短径0.7mm以下の小粒子(b3)を含み、 上記被覆材は、粘性調整剤として会合性粘性調整剤(C)を含み、 粘度が1~50Pa・s、チキソトロピーインデックス(TI値)が4以上であり、
上記被覆材は、上記鱗片状粒子(B)を除く粉粒体(E)の混合比率が上記水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して5重量部以下であることを特徴とする被膜形成方法。
【請求項4】
上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)と上記大粒子(b1)との重量比[(b2)+(b3)]/(b1)が、1以上50以下であることを特徴とする請求項3に記載の被膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物や土木構造物に自然石調の美観性を付与する装飾仕上げ材料が知られている。近年、自然石特有の多彩な色彩等の意匠性を有する装飾仕上げが望まれるケースも増えている。このような材料として、例えば、特許文献1には、着色マイカおよびバインダー樹脂を含む被覆材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-224363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のように着色マイカを含む被覆材を塗装した場合、鱗片状粒子の端部が跳ね上がりを生じる場合があり、形成被膜がザラツキ感を生じる場合があった。また、鱗片状粒子どうしが部分的に重なり(密集し)やすく、模様に偏りを生じたり、隠蔽が不十分な部分が生じたり、ムラのある模様が形成されるおそれがあった。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたものであり、簡便な方法により、ザラツキ感が少なく平坦な美観性に優れる被膜を形成することができる被覆材及び被膜形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、水性樹脂、鱗片状粒子、及び特定の粘性調整剤を含む被覆材において、特定の粘性を付与することより、ザラツキ感が少なく平坦な美観性に優れる形成被膜が得られることに想到し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有するものである。
1.水性樹脂(A)、及び鱗片状粒子(B)を含む被覆材であって、 上記水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して、上記鱗片状粒子(B)を10~200重量部含み、
上記鱗片状粒子(B)は、短径2mm超の大粒子(b1)、短径0.7mm超2mm以下の中粒子(b2)、及び短径0.7mm以下の小粒子(b3)を含み、 上記被覆材は、粘性調整剤として会合性粘性調整剤(C)を含み、 粘度が1~50Pa・s、チキソトロピーインデックス(TI値)が4以上であり、
上記被覆材は、上記鱗片状粒子(B)を除く粉粒体(E)の混合比率が上記水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して5重量部以下であることを特徴とする被覆材。
2.上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)と上記大粒子(b1)との重量比[(b2)+(b3)]/(b1)が、1以上50以下であることを特徴とする1.に記載の被覆材。 3.壁面に対し、被覆材を塗付する被膜形成方法であって、 上記被覆材は、水性樹脂(A)、及び鱗片状粒子(B)を含み、 上記水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して、上記鱗片状粒子(B)を10~200重量部含み、
上記鱗片状粒子(B)は、短径2mm超の大粒子(b1)、短径0.7mm超2mm以下の中粒子(b2)、及び短径0.7mm以下の小粒子(b3)を含み、 上記被覆材は、粘性調整剤として会合性粘性調整剤(C)を含み、 粘度が1~50Pa・s、チキソトロピーインデックス(TI値)が4以上であり、
上記被覆材は、上記鱗片状粒子(B)を除く粉粒体(E)の混合比率が上記水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して5重量部以下であることを特徴とする被膜形成方法。
4.上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)と上記大粒子(b1)との重量比[(b2)+(b3)]/(b1)が、1以上50以下であることを特徴とする3.に記載の被膜形成方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ザラツキ感が少なく平坦な美観性に優れた形成被膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
<被覆材>
本発明の被覆材は、水性樹脂(A)、及び鱗片状粒子(B)を含み、さらに粘性調整剤として会合性粘性調整剤(C)を含むことを特徴とする。
【0011】
水性樹脂(A)(以下「(A)成分」という)としては、特に限定されないが、水溶性樹脂及び水分散性樹脂(樹脂エマルション)から選ばれる1種以上が好適である。樹脂の種類としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。これらは1種または2種以上で使用することができる。本発明ではアクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂が好ましい。また、これら(A)成分は架橋反応性を有するものであってもよい。架橋反応性を有する(A)成分を使用した場合は、被膜の耐水性、耐候性、耐薬品性等を向上させることができる。
【0012】
本発明では、(A)成分として、特に、アクリル樹脂が好適である。アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが樹脂骨格の主成分となるものであり、必要に応じその他のモノマーを共重合したものである。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記している。また、モノマーとは、重合性不飽和二重結合を有する化合物の総称である。
【0013】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上が使用できる。
【0014】
その他のモノマーの具体例としては、例えば、
スチレン、2-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族モノマー;
(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン、α-シアノエチル(メタ)アクリレート等のニトリル基含有モノマー;
マレイン酸アミド、(メタ)アクリルアミド、N-モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N、N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタクリレート)、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、ビニルアミド等のアミド基含有モノマー;
アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等のカルボニル基含有モノマー;
【0015】
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、イソクロトン酸、サリチル酸等のカルボキシル基含有モノマー;
アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、アミノ-n-ブチル(メタ)アクリレート、ブチルビニルベンジルアミン、ビニルフェニルアミン、p-アミノスチレン、N-メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;
グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジルフマレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、ε-カプロラクトン変性グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー;
ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;
フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン系モノマー;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有モノマー;
エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、ビニルエーテル、ビニルケトン、;等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上で使用することができる。
【0016】
その他のモノマーとして、上記アルコキシシリル基含有モノマーを使用した場合は、アクリルシリコン樹脂を得ることができる。
【0017】
(A)成分は、上記モノマーを適宜混合したモノマー群を乳化重合することにより製造することができる。重合方法としては公知の方法を採用すればよく、通常の乳化重合の他、ソープフリー乳化重合、フィード乳化重合、シード乳化重合等を採用することもできる。重合時には、乳化剤、開始剤、分散剤、重合禁止剤、重合抑制剤、緩衝剤、連鎖移動剤等を使用することができる。
【0018】
乳化剤としては、乳化重合に使用可能な各種界面活性剤が使用でき、これらは重合性不飽和二重結合を有する反応性タイプ(反応性界面活性剤)であってもよい。乳化剤としては、好ましくはアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ単独でまたは組み合わせて用いればよい。
【0019】
上記(A)成分のガラス転移温度(以下、単に「Tg」という。)は、好ましくは-50℃~50℃に設定する。Tgがこのような範囲内であれば、本発明の効果を安定して得ることができる。なお、本発明におけるTgは、Foxの計算式により求められる値である。また、上記(A)成分の平均粒子径は、好ましくは300nm以下(より好ましくは20~200nm)である。平均粒子径がこのような範囲内であれば、被膜の耐水性、耐候性、耐薬品性等を向上させることができる。なお、ここに言う平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。
【0020】
鱗片状粒子(B)(以下「(B)成分」という)は、形成被膜に優れた意匠を付与するものである。また、(B)成分は、形成被膜の薄膜化、軽量化等にも有利である。本発明では、水性樹脂(A)の固形分100重量部に対して、鱗片状粒子(B)を5~200重量部(好ましくは10~100重量部、より好ましくは15~80重量部)を含むことを特徴とする。上記範囲を満たす場合、自然石調等の意匠性を有する被膜を得ることができる。なお、本発明において「α~β」は「α以上β以下」と同義である。
【0021】
このような(B)成分としては、例えば、雲母(マイカ)、セリサイト、クレー、タルク、板状カオリン、硫酸バリウムフレーク、ガラスフレーク、アルミナフレーク、貝殻片、金属片等の無機質片、あるいはゴム片、プラスチック片、木片等が挙げられる。また、これらを基体粒子とし着色処理したものが挙げられる。着色処理としては、特に限定されないが、例えば、顔料や染料等を含む着色剤を基体粒子に被覆する(あるいは吸着させる)方法、焼成処理等を基体粒子に施す方法等が挙げられる。本発明では、着色剤で被覆処理された雲母(着色マイカ)を使用することが好適である。(B)成分は1種または2種以上(1色または2色以上)を組み合わせて使用することができ、種々の色彩を表出することができる。本発明では、着色処理された鱗片状粒子(鱗片状着色粒子)、特に着色処理された雲母(着色マイカ)を使用することが好適である。
【0022】
本発明における「鱗片状粒子」としては、その形状が鱗片状(薄片状)であれば特に限定されないが、アスペクト比(「短径/厚み」の比)が、1.5~2000(より好ましくは2~500、さらに好ましくは3~100)の粒子であることが好ましい。また、短径と長径との比(短径/長径)が0.3~1(より好ましくは0.4~1、さらに好ましくは0.5~1)であることが好ましい。鱗片状粒子の大きさが、上記範囲を満たす場合、その形状が視認されやすく、意匠として好適である。さらに、意匠層の薄膜化、軽量化等に優れた意匠層を形成することができる。なお、ここに言う「短径」、「長径」、「厚み」とは、鱗片状粒子を水平面に安定に静置させ、上から顕微鏡を用いて観察し最も短い部分の長さを「短径」、最も長い部分の長さを「長径」、底面からの最大高さを「厚み」として算出されるものである。
【0023】
本発明では、上記(B)成分として、短径2mm超の大粒子(b1)(以下「大粒子(b1)」という)を含むことが好ましい。上記大粒子(b1)を含むことにより、形成被膜に大柄意匠を効果的に付与することができる。本発明では、このような大粒子(b1)を含む場合であっても、端部の跳ね上がりを抑制することができ、ザラツキ感が少なく平坦な美観性に優れた形成被膜を形成することができる。
【0024】
さらに、上記(B)成分として、上記大粒子(b1)に加えて、短径0.7mm超2mm以下の中粒子(b2)(以下「中粒子(b2)」という)、及び短径0.7mm以下の小粒子(b3)(以下「小粒子(b3)」という)を含むことが好ましい。このように大きさの異なる(B)成分を併用することより、よりいっそうザラツキ感が少なく平坦な美観性に優れた形成被膜を形成することができるとともに、鱗片状粒子の偏りが生じにくく、模様のバランス(配置)が良好な被膜を形成することができる。これにより、自然石調等の色彩、及び大柄模様等の意匠性を付与することができる。
【0025】
本発明では、上記大粒子(b1)、上記中粒子(b2)、上記小粒子(b3)を特定重量比率で併用することが好ましく、上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)と上記大粒子(b1)との重量比[(b2)+(b3)]/(b1)が、1以上50以下(より好ましくは3以上40以下、さらに好ましくは5以上30以下)であることが好ましい。このような範囲を満たす場合、上記中粒子(b2)は、主に、形成被膜のベース模様(ベース色)として視認され、上記小粒子(b3)は、形成被膜に小柄な意匠を付与するとともに、形成被膜の隠蔽性等を付与する成分として作用する。これにより、上記大粒子(b1)の偏りが生じにくく、上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)により形成されたベース模様中に、上記大粒子(b1)による大柄模様のバランス(配置)が良好な美観性に優れた形成被膜を形成することができる。さらには、上記中粒子(b2)及び小粒子(b3)によって、上記大粒子(b1)の端部跳ね上がりを十分に抑制することができ、よりいっそうザラツキ感の少ない平坦な被膜を形成することができる。さらに、上記中粒子(b2)と小粒子(b3)との重量比(b2)/(b3)が、1以上30以下(より好ましくは1.5以上20以下、さらに好ましくは2以上10以下)であることが好ましい。このような範囲を満たす場合、上記効果を一層高めることができる。
【0026】
このような効果が得られる作用機構としては、限定されるものではないが、例えば、大粒子(b1)よりも小さい中粒子(b2)及び小粒子(b3)は、大粒子(b1)のスペーサーとして作用し、大粒子(b1)の分散性に寄与する。また、中粒子(b2)よりも小さい小粒子(b3)は中粒子(b2)のスペーサーとして作用し、中粒子(b2)の分散性に寄与する。これにより、被覆材中に分散する(B)成分は、大粒子(b1)、中粒子(b2)、及び小粒子(b3)がそれぞれ良好な分散性を保つことができるものと推察される。特に、中粒子(b2)を比較的多く含む被覆材中では、中粒子(b2)中に、大粒子(b1)と小粒子(b3)がバランス良く分散されるものと推察される。このような被覆材を塗装することによって、各粒子が偏りを生じ難く、模様のバランスが良好な被膜が形成され、粒子端部の跳ね上がりも十分に抑制することができると推察される。
【0027】
なお、本発明において(B)成分の短径は、上述のとおり、鱗片状粒子を水平面に安定に静置させた場合に最も短い部分の長さのことをいうが、上記大粒子(b1)、上記中粒子(b2)、上記小粒子(b3)は、JIS Z8801-1:2000に規定される金属製網ふるい(標準篩)を使用して篩分けして分類することができる。この場合、標準篩の目開きを「a」とすると、その対角線の長さ「L=√2a」が短径に相当するとみなすことができる。具体的に、(B)成分を100g秤量し、JIS K 0069に準拠する試験方法(手動ふるい分け)により10分間篩分けを行い、
・12メッシュ(a=1.4mm、L=2.0mm)の篩を通過しないものを大粒子(b1)、
・12メッシュ(a=1.4mm、L=2.0mm)の篩は通過するが、30メッシュ(a=0.5mm、L=0.7mm)の篩は通過しないものを中粒子(b2)、
・30メッシュ(a=0.5mm、L=0.7mm)の篩を通過するものを小粒子(b3)、
とする。
なお、大粒子(b1)の上限は、好ましくは6.5メッシュ(a=2.8mm、L=4.0mm)の篩を通過するもの(短径が4mm以下の粒子)が好ましい。一方、小粒子(b3)の下限は、好ましくは70メッシュ(a=0.21mm、L=0.3mm)の篩を通過しないもの(短径が0.3mm超の粒子)が好ましい。
【0028】
本発明において、上記(B)成分は、所望の意匠によって単色(1色のみ)または複数色を用いることができる。上記(B)成分が単色(1色のみ)の場合には、それぞれの粒子の形状に由来する模様を有する被膜を得ることができる。
【0029】
上記(B)成分が複数色の場合には、少なくとも2色以上(より好ましくは2~6色)の異なる粒子を含むことが好ましい。これにより、それぞれの粒子の形状に由来する模様を有するとともに、多彩な色彩等の意匠性を有する被膜を得ることができる。上記(B)成分を2色以上含む態様は、所望の模様(意匠)により設定することができる。本発明では、上記大粒子(b1)と上記中粒子(b2)が異色の粒子を含むことが好ましい。これにより、大柄のアクセント意匠が効果的に視認され、美観性に優れた被膜を容易に形成することができる。また、上記小粒子(b3)は、上記大粒子(b1)または上記中粒子(b2)(より好ましくは上記中粒子(b2))と同色系のものを含むことが好ましい。これにより、形成被膜に奥行き感等が付与され、美観性をよりいっそう高めることができる。
【0030】
また、上記大粒子(b1)、上記中粒子(b2)、上記小粒子(b3)は、それぞれ2色以上の粒子を含むことができる。特に、上記大粒子(b1)を2色以上含む場合には、多彩感等が向上し、よりいっそう美観性を高めることができる。また、上記中粒子(b2)を2色以上含む場合には、形成被膜のベース模様(ベース色)となる中粒子(b2’)を中粒子(b2)中に50重量%以上(より好ましくは55重量%以上)含むことが好ましい。上記中粒子(b2’)は、単色(1色のみ)、あるいは同系色(近似色・類似色)の粒子を2種以上含むこともできる。これにより、上記大粒子(b1)によるアクセント意匠が視認されやすく、美観性を高めることができる。さらに、上記小粒子(b3)を2色以上含む場合には、上記中空粒子(b2’)と同色系の形成被膜のベース模様(ベース色)となる小粒子(b3’)を小粒子(b3)中に60重量%以上(より好ましくは65重量%以上)含むことが好ましい。
【0031】
なお、上記(B)成分において、異色とは、色差(△E)が、好ましくは10以上(より好ましくは15以上)のものをいう。また、同色系(近似色・類似色)とは、色差(△E)が、好ましくは10未満(好ましくは8以下)のものをいう。なお、ここに言う色差(△E)は、色差計を用いて測定される値であり、それぞれのL*値、a*値、b*値より下記式にて算出することができる。
<式>△E={(L *1-L *2+(a *1-a *2+(b *1-b *2 0.5
式中、
*1、a *1、b *1はそれぞれ(B)成分の第1色のL、a、b
*2、a *2、b *2はそれぞれ(B)成分の第2色のL、a、b
また、(B)成分のL*、a*、b*は、ガラス板上に、ガラス面が隠蔽されるまで(B)成分を載置し、その上にPEフィルム(無色透明)を被せた面を測定することにより、算出することができる。
【0032】
なお、本発明の被覆材は、上述のとおり、(B)成分として、大粒子(b1)、中粒子(b2)、及び小粒子(b3)を併用して含む場合、(B)成分の分散性を十分に確保することができる。これにより、従来の被覆材に比べ、分散剤の添加が少ない(好ましくは被覆材中に0.1重量%以下、より好ましくは分散剤を添加しない)場合でも、良好な分散性を得ることができる。これにより、形成被膜の耐水性等においても優れた効果を発揮することができる。
【0033】
本発明では、粘性調整剤として会合性粘性調整剤(C)(以下「(C)成分」ともいう)を含むことを特徴とする。会合性粘性調整剤とは、水性媒体中で疎水性相互作用によって分子が会合することで網目構造を形成し粘性を付与する粘性調整剤のことをいい、疎水性部位と親水性部位からなる高分子である。このような(C)成分を含むことにより、上記(A)成分、上記(B)成分、及びその他成分(媒体、添加剤等)が有する疎水性基の少なくとも1つとの間で生じる疎水性相互作用や、(C)成分同士の疎水性相互作用により、粘性を向上させることができるとともに、平坦な被膜を容易に形成することができる。特に、吹付け塗装により被膜を形成した場合、上記(B)成分の端部跳ね上がりを十分に抑制することができるとともに、ザラツキ感が少なく、よりいっそう平坦な被膜を容易に形成することができる。さらに、(C)成分は、耐水性等の被膜物性の点においても有利である。
【0034】
(C)成分は、疎水性部位が、可溶性高分子、水分散性高分子、及び膨潤性高分子等の高分子と結合した疎水性基変性高分子であり、例えば、疎水変性エトキシ化ウレタン(HEUR)、疎水変性アルカリ膨潤性/可溶性エマルション(HASE)、疎水変性ヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、疎水化ポリアクリルアミド等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0035】
本発明では(C)成分として、疎水変性エトキシ化ウレタン(HEUR)(c1)(以下「(c1)成分」ともいう)を含むことが好ましい。上記(c1)成分は、例えば、二官能性の親水性ポリエーテルポリオールと疎水性化合物がウレタン結合を介して結合されたもの等であり、両末端に疎水性アルキル基等を有するものである。なお、アルキル基は分岐鎖を有することもできる。このような(c1)成分としては、具体的に、疎水変性ポリオキシエチレンウレタン樹脂、非イオン型疎水変性ポリオキシエチレンウレタンブロック共重合体等が挙げられる。このような(c1)成分を含むことにより、上記(B)成分の端部跳ね上がりの抑制効果が高まり、ザラツキ感が少なく、よりいっそう平坦な被膜を容易に形成することができる。
【0036】
さらに、本発明では、(C)成分として、上記(c1)成分と、疎水変性アルカリ膨潤性/可溶性エマルション(HASE)、疎水変性ヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、疎水化ポリアクリルアミドから選ばれる1種以上の会合性粘性調整剤(c2)(以下「(c2)成分」ともいう)を併用することが好ましい。疎水変性アルカリ膨潤性/可溶性エマルション(HASE)としては、例えば、疎水変性アルカリ可溶性エマルジョン、疎水変性ポリ(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0037】
その混合割合は(c1)/(c2)の固形分重量比で、好ましくは100/0~10/90(好ましくは98/2~30/70)である。このような場合、上記(B)成分の沈降抑制効果を高めることができる。また、塗装時には、被覆材中に(B)成分が安定的に分散しているため、塗装作業性に優れるとともに、(B)成分の偏りを生じ難く、模様のバランスが良好な被膜が形成される。
【0038】
(C)成分の混合比率は、上記(A)成分の固形分100重量部に対し、固形分換算で、好ましくは0.05~10重量部(より好ましくは0.1~8重量部)である。このような範囲を満たす場合、上記効果を十分に発揮することができる。
【0039】
なお、本発明では、粘性調整剤として、上記(C)成分以外の粘性調整剤(C’)(以下「(C’)成分」ともいう)を含むこともできる。(C’)成分としては、特に限定されず、例えば、アルカリ膨潤型粘性調整剤(ASE)、セルロース系粘性調整剤(HEC)、及びポリビニルアルコール、無機系粘性調整剤等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0040】
本発明の被覆材は、上記(A)成分、及び上記(B)成分を特定重量比で含み、さらに上記(C)成分を含むものであり、その粘度が1~50Pa・s(好ましくは5~45Pa・s、より好ましくは10~40Pa・s、さらに好ましくは13~35Pa・s)、チキソトロピーインデックス(TI値)(以下「TI値」ともいう)が4以上(好ましくは4.5~10、さらに好ましくは5~9.5、特に好ましくは5.5~9、最も好ましくは6~8.5)であることを特徴とする。このような場合、ザラツキ感の少ない平坦な被膜を形成することができる。本発明では、被覆材の粘度、及びTI値が上記範囲を満たすことにより、塗装作業性が良好であるとともに、上記(B)成分の配向性が高まり、塗装作業性、仕上り性向上の点で好適である。なお、上記粘度及びTI値は、塗装に供する(塗装時の)被覆材を測定することにより得られる値であり、塗装時に希釈が必要な場合は、希釈後の測定値である。
【0041】
一般的に、被覆材のTI値は、凹凸模様を付与する目的で2以上に設定されることがある(例えば、特開2009-056429号公報等)。これに対して、本発明は、鱗片状粒子を含む場合に、TI値を4以上と設定すること等により、ザラツキ感の少ない平坦な被膜を形成することができることを見出したものである。特に、本発明の被覆材は、吹付け塗装時に(B)成分の端部跳ね上がりが生じにくく、平坦な被膜を形成することができる。
【0042】
なお、本発明における粘度は、BH型粘度計による20rpmにおける粘度(4回転目の指針値)を測定することにより求められる値である。チクソトロピーインデックス(TI)は、BH型粘度計を用い、下記式により求められる値である。いずれも測定温度は25℃である。
<式>TI=η1/η2
(式中、η1は2rpmにおける粘度(Pa・s:2回転目の指針値)。η2は20rpmにおける粘度(Pa・s:4回転目の指針値))
【0043】
本発明の被覆材は、水への溶解度(20℃における)が10g/100g未満(好ましくは0.5~9g/100g、より好ましくは1~8g/100g)である有機溶剤(D)(以下「(E)成分」ともいう)を含むことが好ましい。このような有機溶剤(D)を含むことによって、本発明の効果をよりいっそう高めることができる。なお、本発明における水への溶解度は、水100gに溶解し得る最大質量(g)のことである。測定温度は20℃である。
【0044】
このような(D)成分としては、例えば、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、オクチレングリコール、2-エチルヘキシレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート、ベンジルアルコール等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0045】
(D)成分の含有比率は、上記(A)成分固形分100重量部に対して、1~50重量部(好ましくは3~30重量部)である。このような場合、ザラツキ感が少なく、よりいっそう平坦な被膜を容易に形成することができる。
【0046】
本発明の被覆材は、本発明の効果を害さない範囲で、上記成分に加えて粒状骨材等の粉粒体(E)(以下「(E)成分」ともいう)を含むこともできる。なお、(E)成分は、上記(B)成分とは形状が異なるものである。このような(E)成分としては、例えば、天然石粉砕物、陶磁器粉、セラミック粉、ゴム粒、金属粒、樹脂ビーズ、珪砂、長石、珪石、寒水石、ガラスビーズ等、及びこれらを着色したもの等が挙げられる。(E)成分の混合比率は、上記(A)成分の固形分100重量部に対し、好ましくは80重量部以下(より好ましくは25重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下、特に好ましくは5重量部以下)である。また、(E)成分を含まない態様も好適である。
【0047】
本発明の被覆材は、上記成分を公知の方法によって均一に混合することで製造することができるが、必要に応じて、通常被覆材に使用可能なその他の成分を混合することもできる。このような成分としては、例えば、着色顔料、体質顔料、繊維、造膜助剤、レベリング剤、カップリング剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、水等が挙げられる。
【0048】
本発明の被覆材は、媒体として水性媒体を含む水性被覆材である。また、被覆材のpHは、好ましくは7~12(より好ましくは7.5~11)である。このような範囲の場合、本発明の効果を十分に高めることができる。さらに、被覆材の不揮発分は、好ましくは10~80重量%(より好ましくは15~70重量%)である。このような範囲の場合、自然石特有の多彩な色彩等の意匠性を有し、よりいっそうザラツキ感の少ない平坦な美観性に優れる形成被膜を得ることができる。なお、不揮発分は、各成分の配合比率調整等により設定することができる。なお、水性媒体とは、主に水を含む媒体であり、必要に応じ、例えば、低級アルコール、多価アルコール、エーテル化合物、エステル化合物、アルキレンオキサイド含有化合物等の水溶性溶剤が混合されていてもよい。
【0049】
<被膜形成方法>
本発明の被覆材は、基材に対して塗付し被膜を形成するものである。基材は、建築物、土木構造物等の表面を構成するものである。このような基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、サイディングボード、押出成形板、石膏ボード、パーライト板、スレート板、合板、煉瓦、プラスチック板、金属板、ガラス、磁器タイル等が挙げられる。これら基材は、その表面に、既に被膜が形成されたものや、壁紙が貼り付けられたもの等であってもよい。
【0050】
本発明の被覆材は、例えば、刷毛、鏝、ローラー、スプレー等を用いて塗付することにより被膜を形成することができる。本発明では、スプレー塗り、ローラー塗りが好ましく、特に、スプレーを用いた吹付け塗装により被膜を形成することが好ましい。これにより、鱗片状粒子(B)の偏りが生じにくく、模様のバランス(配置)が良好で、かつザラツキ感の少ない平坦で美観性に優れた形成被膜を簡便に形成することができる。
【0051】
本発明の被覆材の塗付け量は、特に限定されないが、塗付回数1回当たり好ましくは0.05~1kg/m(より好ましくは0.1~0.8kg/m)である。また、塗付回数は、所望の意匠を形成によって設定できるが、好ましくは1~2回(より好ましくは2回)である。このような場合、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0052】
被覆材の乾燥は、好ましくは常温(0~40℃)で行えばよい。被覆材を複数回塗付する場合は、先の被覆材の被膜が乾燥した後、後の被覆材を塗付することが望ましい。
【0053】
上記方法により形成される被膜は、薄膜化、軽量化等にも有利である。本発明の被膜の厚み(乾燥膜厚)は、好ましくは50~1000μm(より好ましくは80~800μm、さらに好ましくは100~500μm)であり、その乾燥被膜重量は、好ましくはより好ましくは0.1~0.8kg/m(より好ましくは0.2~0.5kg/m)である。このように薄膜であっても、ザラツキ感が少なく平坦であり美観性に優れた意匠を得ることができる。
【0054】
また、本発明では、上記基材表面に、下塗材を塗付し着色被膜を形成した後、被覆材を塗付することが好ましい。着色被膜を形成する下塗材としては、樹脂、及び顔料を含むものが使用できる。本発明では、顔料の種類、混合比率等を調整することにより、色、光沢等を設定することができる。樹脂と顔料の混合比率は、樹脂固形分100重量部に対して、顔料が好ましくは5~500重量部(より好ましくは20~400重量部、さらに好ましくは30~300重量部)である。
【0055】
着色被膜の色調は、所望の意匠に応じて適宜設定すればよいが、本発明では、上記(B)成分の中粒子(b2)に近似した色相(共色)に設定することが好ましい。これにより、形成被膜のムラ防止効果を高めることができる。また、形成被膜によりいっそう奥行き感等を付与し、美観性に優れた複層被膜を形成することができる。
【0056】
着色被膜の色調は、上記中粒子(b2)中のベース模様(ベース色)となる中粒子(b2’)の色調との色差(△E)が20以下(好ましくは0.5~15、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1.5~10)となるように設定することが望ましい。このような場合、美観性に優れた積層被膜を得ることができる。なお、ここに言う色差(△E)は、色差計を用いて測定される値であり、それぞれのL*値、a*値、b*値より下記式にて算出することができる。
<式>△E={(L *1-L *2+(a *1-a *2+(b *1-b *2 0.5
式中、
*1、a *1、b *1は着色被膜のL、a、b
*2、a *2、b *2は中粒子(b2’)のL、a、b
なお、中粒子(b2’)のL*、a*、b*は、ガラス板上に、ガラス面が隠蔽されるまで(b2)成分を載置し、その上にPEフィルム(無色透明)を被せた面を測定することにより、算出することができる。
【0057】
下塗材の樹脂としては、上記被覆材と同様のものを使用することができる。
【0058】
下塗材の顔料としては、公知の着色顔料、体質顔料等が使用できる。このうち、着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒色酸化鉄、銅クロムブラック、コバルトブラック、銅マンガン鉄ブラック、べんがら、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、パーマネントカーミン、アントラキノンレッド、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー、クロムグリーン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、アルミニウムフレーク顔料、パール顔料、光輝性顔料等が挙げられる。これら着色顔料の1種または2種以上を用いることにより任意の色相に着色することができる。
【0059】
体質顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、寒水石、軽微性炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、珪藻土、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、珪砂、珪石粉、石英粉、樹脂ビーズ、ガラスビーズ、中空バルーン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。体質顔料の種類、混合比率等を適宜設定することにより、被覆材を所望の光沢度に調整することができる。
【0060】
本発明の下塗材は、上記成分以外に、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内において、公知の添加剤、例えば、骨材、染料、増粘剤、湿潤剤、凍結防止剤、造膜助剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒、希釈溶媒等を含むものであってもよい。下塗材は、上述の各成分を定法により均一に混合することで製造することができる。
【0061】
上記下塗材は、例えば、刷毛、鏝、ローラー、スプレー等を用いて塗付することにより着色被膜を形成することができる。下塗材の塗付け量は、特に限定されないが、塗付回数1回当たり好ましくは0.05~1kg/m(より好ましくは0.1~0.8kg/m)である。また、塗付回数は、所望の意匠を形成によって設定できるが、好ましくは1~2回(より好ましくは2回)である。このような場合、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0062】
下塗材の乾燥は、好ましくは常温(0~40℃)で行えばよく、下塗材が乾燥後、本発明の被覆材を上記方法により塗装することができる。下塗材を複数回塗付する場合は、先の下塗材の被膜が乾燥した後、後の下塗材を塗付し、乾燥後に本発明の被覆材を塗装することが好ましい。
【実施例
【0063】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0064】
(被覆材1~23)
表1、表2に示す配合に基づき、各原料を常法により混合し、pH=8.5となるように調整して被覆材1~16を製造した。
【0065】
なお、各成分は以下のものを使用した。
(A)水性樹脂
・アクリル樹脂エマルション[固形分50重量%、媒体:水]
(B)鱗片状粒子
(b1)大粒子
・(b1-1)黒色マイカ片[短径:2mm超4mm以下、短径/長径(平均値):0.95、短径/厚み(平均値):11.4]
・(b1-2)白色マイカ片[短径:2mm超4mm以下、短径/長径(平均値):0.88、短径/厚み(平均値):10.7]
・(b1-3)薄クリーム色マイカ片[短径:2mm超4mm以下、短径/長径(平均値):0.92、短径/厚み(平均値):11.5]
(b2)中粒子
・(b2-1)灰色マイカ片[短径:0.7mm超2mm以下、短径/長径(平均値):0.87、短径/厚み(平均値):10.5]
(b3)小粒子
・(b3-1)灰色マイカ片[短径:0.3mm超0.7mm以下、短径/長径(平均値):0.92、短径/厚み(平均値):11.4]
・(b3-2)白色マイカ片[短径:0.3mm超0.7mm以下、短径/長径(平均値):0.94、短径/厚み(平均値):11.0]
(C)粘性調整剤
(c1)疎水変性ポリオキシエチレンウレタン樹脂(HEUR)[固形分30重量%]
(c2)疎水変性アルカリ膨潤性アクリル樹脂エマルション(HASE)[固形分30重量%]
(C’)その他の粘性調整剤
(C’-1)アルカリ膨潤型アクリル樹脂エマルション(ASE)[固形分30重量%]
(C’-2)ヒドロキシエチルセルロース(HEC;粉末)
(D)有機溶剤
(d1)ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(水への溶解度5g/100g)
(d2)2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(水への溶解度0.09g/100g)
(その他)
・添加剤(消泡剤、紫外線吸収剤)
【0066】
(実施例1)
基材(スレート板)上に、下塗材(薄グレー)を吹付け塗装した。
次いで、表1に示す粘度及びTI値に調整(水により希釈)された被覆材1をスプレーガン(口径:5.5mm)で、塗付け量0.8kg/mで吹付け塗装し、23℃で24時間乾燥、硬化させ、模様被膜を形成したものを試験体(I)とした。
【0067】
<評価>
以下の評価を実施し、結果を表1に示す。
・質感(手触り感)
形成被膜のザラツキ感が少ないものを「A」、ザラツキ感があるものを「D」とし、A>B>C>Dの4段階で評価した。
・意匠性1(美観性)
鱗片状着色粒子の偏りが少なく、模様のバランスが良好なものを「AA」、劣るものを「D」とし、AA>A>B>C>Dの5段階で評価した。
・意匠性2(意匠安定性)
上記被覆材1を24間静置した後、塗装して模様被膜を形成したものを試験体(II)とした。試験体(I)と試験体(II)を比較して、同様の模様が得られたものを「A」、劣るものを「D」とし、A>B>C>Dの4段階で評価した。
【0068】
(実施例2~20、比較例1~3)
実施例1において、被覆材1に替えて被覆材2~23を使用した以外は、同様にして模様被膜を形成し、同様の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0069】
実施例1~20では、手触り感、及び模様バランスが良好で美観性に優れた被膜を形成することがでた。
特に、実施例3~7、10~14では、塗装作業時の被覆材の安定性に優れ、美観性に優れた意匠を有する被膜を安定的に形成することができた。さらに、実施例14においては、大中小の鱗片状粒子の偏りが少なく、模様のバランスが良好で多彩感に優れる意匠性であった。
一方、比較例1~3により得られた形成被膜は、ザラツキ感があり質感に劣るものであった。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】