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特許7590940コンクリートの強度発現時間の推定方法とその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】コンクリートの強度発現時間の推定方法とその装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20241120BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20241120BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20241120BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
G01N29/07
E21D11/10 Z
G01N33/38
E04G21/02 104
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021129770
(22)【出願日】2021-08-06
(65)【公開番号】P2023023864
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】野中 英
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-27007(JP,A)
【文献】特開昭54-37331(JP,A)
【文献】特開2018-135696(JP,A)
【文献】特開昭58-66849(JP,A)
【文献】特開2008-50765(JP,A)
【文献】米国特許第6941819(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0033553(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/00 - E04G 21/10
E21D 11/00 - E21D 19/06
E21D 23/00 - E21D 23/26
G01B 17/00 - G01B 17/08
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートが所定の圧縮強度を発現するまでの時間を推定する方法であって、
型枠内にコンクリートを打ち込むステップと、
前記型枠内に打ち込まれたコンクリートの超音波伝搬速度を計測するステップと、
前記計測された超音波伝搬速度の時間変化のデータである実データと、予め求めておいたコンクリートの圧縮強度と超音波伝搬速度との関係を表す関係式とから前記コンクリートが所定の圧縮強度を発現するまでの時間である強度発現時間を推定するステップと、を備え、
注水した時刻から前記超音波伝搬速度の変化率が不連続になった時刻までの時間を前記超音波伝搬速度の立上がり時間とし、
複数の配合のコンクリートの超音波伝搬速度の前記立上がり時間以降の時間変化のデータから算出したデータを標準データとしたときに、
前記関係式を、複数の配合のコンクリートの超音波伝搬速度の前記立上がり時間から計測した経過時間と前記経過時間における圧縮強度との関係と、前記標準データにおける前記経過時間と超音波伝搬速度との関係とから求めたことを特徴とするコンクリートの強度発現時間の推定方法。
【請求項2】
予め前記コンクリートの材齢24時間での圧縮強度を求めるとともに、
前記強度発現時間を推定するステップでは、
前記関係式における、前記材齢24時間での圧縮強度に対応する超音波伝搬速度である標準超音波伝搬速度と、前記実データにおける注水から24時間経過後の超音波伝搬速度である実測超音波伝搬速度とを用いて前記実データを補正するとともに、前記関係式から前記所定の圧縮強度に対応する超音波伝搬速度である推定用超音波伝搬速度を求めた後、前記補正された実データにおける、前記推定用超音波伝搬速度に対応する時間を求めて、この求められた時間を前記コンクリートの強度発現時間であると推定することを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの強度発現時間の推定方法。
【請求項3】
コンクリートが所定の圧縮強度を発現するまでの時間を推定する装置であって、
前記コンクリートを収納する型枠と、
送信プローブの先端部と受信プローブの先端部とが、前記型枠内に所定の距離を隔てて位置するように、前記型枠に設置されて、前記コンクリート内を伝搬する超音波の伝搬速度を計測する超音波測定器と、
前記計測された超音波伝搬速度の時間変化のデータである実データを検出する実データ検出手段と、
複数の配合のコンクリートの超音波伝搬速度の立上がり時間以降の時間変化のデータから算出したデータである標準データと、複数の配合のコンクリートの超音波伝搬速度の立上がり時間から計測した経過時間と前記経過時間における圧縮強度との関係と、前記標準データにおける前記経過時間と超音波伝搬速度との関係とを用いて求めた前記コンクリートの圧縮強度と超音波伝搬速度との関係を示す関係式とを保存する記憶手段と、
前記実データと、前記関係式とを用いて前記コンクリートが所定の圧縮強度を発現するまでの時間である強度発現時間を推定する強度発現時間推定手段と、
を備え、
前記超音波伝搬速度の立上がり時間が、注水した時刻から前記超音波伝搬速度の変化率が不連続になった時刻までの経過時間であることを特徴とするコンクリートの強度発現時間の推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートが所定の圧縮強度を発現するまでの時間を推定する方法とその装置に関するもので、特に、コンクリート内を伝搬する超音波の伝搬速度を用いて強度発現時間を推定する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シールドを用いた場所打ち支保システム(SENS;Shield ECL NATM System)においては、シールド工法により切羽の安定を保持しつつトンネルを掘削するとともに、場所打ちライニング工法により、一次覆工を行った後、二次覆工コンクリートを打設することで、トンネルを完成させるようにしている(例えば、非特許文献1参照)。
SENSでは、シールド掘進と同時に並行して打設する場所打ちコンクリートにより一次覆工を構築するため、一次覆工に用いられるコンクリート(以下、SENS用コンクリートという)には、ポンプ圧送を確実に行える流動性、練上がりから打設までの工程を考慮したフレッシュ保持性、シールド推進時における反力を得るための強度発現性などが要求されている。具体的には、流動性とフレッシュ保持性とはスランプフロー試験(JIS A 1150)、強度発現性は圧縮強度試験(JIS
A 1108)により評価する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】長谷川正明、野口守、玉井竜毅:SENS(シールドを用いた場所打ちコンクリートシステム)コンクリートの開発-北海道新幹線,津軽蓬田トンネル,コンクリート工学,pp.106-109,2011.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、SENS用コンクリートでは、シールドマシーンの反力をコンクリートよりとるため、材齢24時間の圧縮強度を15N/mm2以上、材齢28日で30N/mm2以上とすることが求められている。
しかしながら、圧縮強度試験(JIS A 1108)は、専用の機械に円柱状の試験体を挟み込み、上から圧縮力をかけ、試験体が破壊するまでの強度を測定するため、測定に時間がかかるだけでなく、強度発現時間を正確に求めるには、複数回の試験を行う必要があった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、SENS用コンクリートの強度発現性を容易にかつ効率よく推定する方法とその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、コンクリートが所定の圧縮強度を発現するまでの時間を推定する方法であって、型枠内にコンクリートを打ち込むステップと、前記型枠内に打ち込まれたコンクリートの超音波伝搬速度を計測するステップと、前記計測された超音波伝搬速度の時間変化のデータである実データと、予め求めておいたコンクリートの圧縮強度と超音波伝搬速度との関係を表す関係式とから前記コンクリートが所定の圧縮強度を発現するまでの時間である強度発現時間を推定するステップと、を備え、注水した時刻から前記超音波伝搬速度の変化率が不連続になった時刻までの時間を前記超音波伝搬速度の立上がり時間とし、複数の配合のコンクリートの超音波伝搬速度の前記立上がり時間以降の時間変化のデータから算出したデータを標準データとしたときに、前記関係式を、複数の配合のコンクリートの超音波伝搬速度の前記立上がり時間から計測した経過時間と前記経過時間における圧縮強度との関係と、前記標準データにおける前記経過時間と超音波伝搬速度との関係とから求めたことを特徴とする。
これにより、圧縮強度試験を複数回行うことなく(コンクリートの要求性能に対する試験項目である、材齢24時間での圧縮強度試験のみ行うだけでよいので)、コンクリートの強度発現時間を容易にかつ効率よく推定することができる。
なお、立上がり時間は、上記のように、注水した時刻から、超音波伝搬速度が急激に立上がる時刻までの時間である。なお、「急激に立上がる」とは、例えば、超音波伝搬速度を1分間隔で計測したとすると、立上がり時刻における超音波伝搬速度とその1分後における超音波伝搬速度との差(速度差)が最も大きくなることをいう。
また、立上がりの時刻より前の時間領域では、超音波伝搬速度は観測されないか、観測されてもきわめて小さく(50~100m/s以下)、かつ、超音波伝搬速度の変化率も立上がり時刻での変化率に比較すると極めて小さい。また、立上がりの時刻より後の時間領域でも、変化率は、立上がり時刻における変化率よりもかなり小さい。
すなわち、立上がり時刻では、超音波伝搬速度の変化率は不連続であると見做せる。
また、予め前記コンクリートの材齢24時間での圧縮強度を求めるとともに、前記強度発現時間を推定するステップでは、前記関係式における、前記材齢24時間での圧縮強度に対応する超音波伝搬速度である標準超音波伝搬速度と、前記実データにおける注水から24時間経過後の超音波伝搬速度である実測超音波伝搬速度とを用いて前記実データを補正するとともに、前記関係式から前記所定の圧縮強度に対応する超音波伝搬速度である推定用超音波伝搬速度を求めた後、前記補正された実データにおける、前記推定用超音波伝搬速度に対応する時間を求めて、この求められた時間を前記コンクリートの強度発現時間であると推定したので、コンクリートの強度発現時間を精度よく推定することができる。
【0007】
また、セメントに注水してからコンクリートが所定の圧縮強度を発現するまでの時間を推定する装置を、前記コンクリートを収納する型枠と、送信プローブの先端部と受信プローブの先端部とが、前記型枠内に所定の距離を隔てて位置するように、前記型枠に設置されて、前記コンクリート内を伝搬する超音波の伝搬速度を計測する超音波測定器と、前記計測された超音波伝搬速度の時間変化のデータである実データを検出する実データ検出手段と、複数の配合のコンクリートの超音波伝搬速度の立上がり時間以降の時間変化のデータから算出したデータである標準データと、複数の配合のコンクリートの超音波伝搬速度の立上がり時間から計測した経過時間と前記経過時間における圧縮強度との関係と、前記標準データにおける前記経過時間と超音波伝搬速度との関係とを用いて求めた前記コンクリートの圧縮強度と超音波伝搬速度との関係を示す関係式とを保存する記憶手段と、前記実データと、前記関係式とを用いて前記コンクリートが所定の圧縮強度を発現するまでの時間である強度発現時間を推定する強度発現時間推定手段とから構成したので、コンクリートの強度発現時間を精度よく推定できる装置を得ることができる。
なお、超音波伝搬速度の立上がり時間は、上記に記載した通りである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るコンクリートの強度発現時間の推定装置を示す図である。
図2】超音波の伝搬速度の時間変化と立上がり箇所を示す図である。
図3】標準データを作成するための試料の超音波伝搬速度の時間変化を示す図である。
図4】標準データの作成方法を示す図である。
図5】超音波の伝搬速度と圧縮強度との関係を示す図である。
図6】実測超音波伝搬速度の算出方法と補正データの作成方法を示す図である。
図7】コンクリートの強度発現時間の推定方法を示す図である。
図8】コンクリートの強度発現時間の推定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本実施の形態に係るコンクリートの強度発現時間の推定装置(以下、推定装置10という)を示す図で、推定装置10は、型枠11と、超音波測定器12と、実データ検出手段13と、記憶手段14と、強度発現時間推定手段15とを備える。
実データ検出手段13~強度発現時間推定手段15の各手段は、例えば、コンピュータのソフトウェア、及び、RAM等のメモリーから構成される。
型枠11は、上部が開放された平たい容器で、円筒状の側壁11aと、円盤状の底板11bと、側壁11aと底板11bとにより形成された中空部である収納空間11cとを有する。側壁11aには、後述する送信プローブ12pと受信プローブ12qとを収納するためのプローブ挿入孔11p,11qが形成されており、収納空間11cには、コンクリート1が練混ぜられた状態で打ち込まれる。
本例では、型枠11の高さ寸法をH、半径をR、収納空間11cの深さ寸法をh、半径をrとすると、h=2H/3、r=R/2とするとともに、側壁11aを構成する円筒の中心軸と収納空間11cを構成する円柱の中心軸とが一致するように収納空間11cを形成した。本例では、プローブ挿入孔11p,11qを、側壁11aの上面(底板11b側とは反対側の面)からh/2の深さの位置に、互いに対向するように、かつ、円筒の半径方向に延長するように形成している。
超音波測定器12は、送信プローブ12pを備えた送信部12aと、受信プローブ12qを備えた受信部12bと、伝搬速度計測部12cとを備え、コンクリート1の打ち込み直後から1分間隔で、注水から24時間経過するまで、超音波の伝搬速度を計測する。
送信プローブ12pと受信プローブ12qとは、送信プローブ12pの先端部と受信プローブ12qの先端部とが、収納空間11c内に露出し、かつ、所定の距離を隔てて対向するように、前記のプローブ挿入孔11p,11qに取付けられる。
伝搬速度計測部12cでは、送信部12aから送信される超音波の位相と受信部12bで受信した超音波の位相とを比較して、コンクリート1内を伝搬する超音波の伝搬速度を計測する。計測された伝搬速度は、実データ検出手段13に送られる。
【0010】
実データ検出手段13は、伝搬速度計測部12cで計測されたコンクリート1内を伝搬する超音波の伝搬速度vの時間変化のデータを検出する。
図2(a)は、超音波の伝搬速度の時間変化の一例を示す図で、横軸はセメントに注水した時刻からの経過時間t[min]で、縦軸は超音波の伝搬速度v[m/s]である。本例では、セメントへの注水と練混ぜとを、型枠11外で行い、その後、練混ぜしたコンクリート1を型枠11の収納空間11cに収納し、この収納されたコンクリート1内を伝搬する超音波の伝搬速度を、超音波測定器12を用いて計測する。
以下、この計測された超音波の伝搬速度の時間変化のデータを、実データという。
注水の直後は、コンクリート1の硬化がまだ始まっていないので、送信プローブ12pから照射された超音波はコンクリート1内で散乱され、受信プローブ12qには到達しない。すなわち、コンクリート1の凝結・硬化がある程度まで進行しないと、受信プローブ12qには超音波が観測されない。
その後、超音波の伝搬速度が急激に立上がる箇所(同図の超音波立上がり時刻)が認められた。急激に立上がる箇所としては、図2(b)に試料k1のように、v=0から急激にち上がる場合や、試料k2~k4,k6のように、v=0からある傾きで立ち上がった後、急激に立上がる場合がある。また、試料k5のように、v=0から少し立上がった後緩やかに上昇し、その後、急激に立ち上がる場合がある。この場合には、後から立上がった箇所を、超音波の伝搬速度が急激に立上がった箇所とする。
この急激に立上がる箇所が認められた時刻を立上がりの時刻といい、注水した時刻から立上がりの時刻までの経過時間を、以下、立上がりの時間という。
立上がりの時刻における超音波伝搬速度の変化率は、立上がりの時刻より前の時間領域における変化率、及び、立上がりの時刻より後の時間領域における変化率と比較して極めて大きい。すなわち、立上がり時刻では、超音波伝搬速度の変化率は不連続になる。
立上がりの時刻を求めるには、同図に示すように、超音波の伝搬速度vの大きさが500[m/s]付近になるまで計測すれば十分である。
なお、立上がり時間と超音波伝搬速度の立上がり方とはコンクリートの配合により異なるが、立上がり時間と超音波伝搬速度の立上がり方との関連性はない。
【0011】
記憶手段14には、超音波伝搬速度の時間変化のデータを標準化した標準データ14aと、コンクリートの圧縮強度と超音波伝搬速度との関係を表す関係式(以下、関係式14bという)とが保存されている。
標準データ14aは、複数の配合のコンクリートの超音波伝搬速度の立上がり時間以降の時間変化のデータを用いて算出される。
立上がり時間以降の時間変化のデータは、図2(c)に示すように、図2(a)の実データのうちの、超音波伝搬速度の立上がり時刻tx以降の時間変化のデータで、時間軸の原点をt=txにしたものである。なお、立上がり時刻txからの経過時間Tは、注水した時刻からの経過時間をtとすると、T=t-txである。
本例では、配合Aの8個の試料の超音波伝搬速度の時間変化のデータと、配合Bの7個の試料の超音波伝搬速度の時間変化のデータとから標準データ14aを求めた。配合Aと配合Bの配合条件を以下の表1に示す。
【表1】
また、配合材料は以下の通りである。
(1)セメント(C):早強ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製、密度 3.14g/cm3
(2)水(W):水道水
(3)細骨材(S);洗砂(歌棄産、表乾密度
2.60g/cm3
(4)粗骨材(G):砕石1505(峩朗産、表乾密度 2.68g/cm3
(5)界面活性剤系増粘剤(Vt):ビスコトップ400S(花王(株)製)
(6)ポリカルボン酸系高性能減水剤(SN1):高性能減水剤SN1(花王(株)製)
(7)シリコーン系消泡剤(花王(株)製)
【0012】
図3(a)は、上記の型枠11と超音波測定器12とを用いて、配合Aの試料2個と配合Bの試料5個の超音波伝搬速度の時間変化のデータを示す図で、横軸は注水からの経過時間t(min)、縦軸は超音波伝搬速度v(m/s)である。試料A11,A12と、試料B11,B12と、試料B21,B22と、試料B31とでは、それぞれ、注水時間が異なっている。
図3(b)は、配合Aの試料6個と配合Bの試料2個の超音波伝搬速度の時間変化のデータを示す図で、試料B41,B41と、試料A21,A22と、試料A31,A32と、A41,A42とでは、それぞれ、注水時間が異なっている。
図4(a)は、配合Aの試料と配合Bの試料のデータを、超音波立上がり時間から整理したもので、横軸は超音波立上がり時刻からの経過時間T(min)、縦軸は超音波伝搬速度v(m/s)である。また、Anは試料An1と試料An2との平均値で、Bnは試料Bn1と試料Bn2との平均値である(n=1~4、但し、B3=B31)。
図4(b)は、標準データ14aを示すグラフで、標準データ14aは、図4(a)に示した8本のグラフの平均値をプロットして作成される。標準データ14aのグラフの横軸は超音波立上がり時刻からの経過時間T(min)で、縦軸は超音波伝搬速度v(m/s)である。なお、図4(b)では、強度発現時間を推定する際に使用する範囲である超音波伝搬速度vがv≧3600(m/s)の範囲のみを記載した。
【0013】
関係式14bは、以下の手順で求めた。
まず、実験により、複数の配合につき、所定の時間間隔で、超音波立上がり時刻からの経過時間T(min)におけるコンクリートの圧縮強度fc(N/mm2)を測定してプロットすることで、図5(a)に示すような、超音波立上がり時刻からの経過時間T(min)とコンクリートの圧縮強度fc(N/mm2)との関係を求める。
次に、図4(b)に示した標準データのグラフ14aを用いて、図5(a)の超音波立上がり時刻からの経過時間T(min)を超音波伝搬速度v(m/s)に置き換えることで、図5(a)のデータを、図5(b)に示すような、横軸(x軸)がコンクリートの圧縮強度fc(N/mm2)で、縦軸(y軸)が超音波伝搬速度v(m/s)であるデータに変換する。その後、このコンクリートの圧縮強度fc(N/mm2)と超音波伝搬速度v(m/s)との関係をプロットしたグラフから、コンクリートの圧縮強度fc(N/mm2)と超音波伝搬速度v(m/s)との関係式14bを求める。
関係式14bは、コンクリートの圧縮強度fc(N/mm2)をx、と超音波伝搬速度v(m/s)をyとしたとき、以下の式(1)で表せる。
y=509.66・ln(x)+2719.9 ……(1)
関係式14bとデータとの相関係数は、R2=0.9189であった。
【0014】
強度発現時間推定手段15は、図1に示すように、実測超音波伝搬速度算出部15aと、標準超音波伝搬速度算出部15bと、データ補正部15cと、強度発現時間推定部15dとを備える。
実測超音波伝搬速度算出部15aは、図6(a)に示すように、実データ検出手段13で検出した実データから、注水から24時間(1440min)経過後おける超音波伝搬速度を算出してこれを実測超音波伝搬速度vkとする。同図から、vk=4073m/sが求まる。
標準超音波伝搬速度算出部15bは、図5(b)に示すように、関係式14bにおける、材齢24時間での圧縮強度に対応する超音波伝搬速度を算出し、これを標準超音波伝搬速度vmとする。本例では、材齢24時間での圧縮強度がfc=20N/mm2であったので、標準超音波伝搬速度はvm=4221m/sとなる。
データ補正部15cは、図6(b)に示すように、実測超音波伝搬速度算出部15aで算出した実測超音波伝搬速度vkと、標準超音波伝搬速度算出部15bで算出した標準超音波伝搬速度vmとを用いて、図2(a)に示した、実データを補正する。
補正後の超音波伝搬速度である修正超音波伝搬速度v’は、以下の式(2)からから算出される。
v’=(vm/vk)・v=1.0363・v ……(2)
補正された実データである補正データのグラフを図6(b)に示す。なお、同図の破線は、補正前の実データのグラフである。
強度発現時間推定部15dは、図7(a)に示すように、関係式14bから所定の圧縮強度に対応する超音波伝搬速度である推定用超音波伝搬速度vcを求めた後、図7(b)に示すように、補正データにおける上記の推定用超音波伝搬速度vcに対応する経過時間を求め、この求められた経過時間を、注水した時刻から計った当該コンクリートの所定の圧縮強度が発現されるまでの時間である強度発現時間であると推定する。
ここでは、所定の圧縮強度を15N/mm2としたので、図7(a)から求められる推定用超音波伝搬速度はvc=4100m/sとなる。したがって、図7(b)の補正データにおける推定用超音波伝搬速度vc=4100m/sに対応する経過時間(注水した時刻からの経過時間)は1237min(20.6hr)となる。
すなわち、当該コンクリート1が所定の圧縮強度である15N/mm2が発現されるまでの時間は、20.6hrであると推定される。
【0015】
次に、本発明の推定装置10を用いて、コンクリートの強度発現時間を推定する方法について、図8のフローチャートを参照して説明する。
まず、コンクリートの練混ぜ後、型枠11にコンクリート1を投入し、超音波測定器12にて、コンクリート1内を伝搬する超音波の伝搬速度を計測(ステップS10)し、図2(a)に示すような、当該コンクリート1の超音波の伝搬速度の時間変化のデータである実データを検出する(ステップS11)。
なお、コンクリート1の配合は、上述した配合Aの高性能減水剤であるSN1の添加量をC×2%からC×1.5%に変更したものである。 。
次に、実データの24時間経過後における超音波伝搬速度である実測超音波伝搬速度vkを算出する(ステップS12)とともに、関係式14bにおける、当該コンクリート1の材齢24時間圧縮強度に対応する超音波伝搬速度である標準超音波伝搬速度vmを算出する(ステップS13)。
次に、ステップS12,S13で算出された実測超音波伝搬速度vkと標準超音波伝搬速度vmとを用いて、実データを補正することで、図6(b)に示すような補正データを求める(ステップS14)。
そして、図7(a)に示すように、関係式14bから所定の圧縮強度(ここでは、fc=15N/mm2)に対応する超音波伝搬速度を求め、この求められた超音波伝搬速度を推定用超音波伝搬速度vcに設定する(ステップS15)。最後に、図7(b)に示すように、補正データにおける、推定用超音波伝搬速度vcに対応する経過時間を求め、この求められた時間を当該コンクリート1が所定の圧縮強度を発現するまでの時間、すなわち、強度発現時間であると推定する(ステップS16)。
【0016】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0017】
例えば、前記実施の形態では、24時間経過後にコンクリート1の圧縮強度fcを計測したが、圧縮強度fcの計測は注水から24時間経過後に限るものではなく、圧縮強度fcを計測する経過時間としては、注水から、コンクリート1がある程度の圧縮強度fcを有する間での時間(例えば、800min以上)であればよい。
また、前記実施の形態では、実験に使用したコンクリートの水セメント比(W/C)と細骨材比(s/a)をほぼ一定としたが、本発明はこれに限るものではなく、SENS用コンクリートとして使用されるコンクリートの水セメント比(W/C)及び細骨材比(s/a)の範囲であれば、適用可能である。
また、増粘材や高性能減水剤についても、周知のものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0018】
1 コンクリート、10 コンクリートの強度発現時間の推定装置(推定装置)、
11 型枠、11a 側壁、11b 底板、11c 収納空間、
11p,11q プローブ挿入孔、
12 超音波測定器、12a 送信部、12b 受信部、12c 伝搬速度計測部、
12p 送信プローブ、12q 受信プローブ、
13 実データ検出手段、14 記憶手段、14a 標準データ、14b 関係式、
15 強度発現時間推定手段、15a 実測超音波伝搬速度算出部、
15b 標準超音波伝搬速度算出部、15c データ補正部、
15d 強度発現時間推定部。
図1
図2
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図8