(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】浄水膜構造体
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20241120BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20241120BHJP
B01D 63/06 20060101ALI20241120BHJP
B01D 69/04 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D63/00 500
B01D63/06
B01D69/04
(21)【出願番号】P 2021165699
(22)【出願日】2021-10-07
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 高志
(72)【発明者】
【氏名】馬場 龍夫
(72)【発明者】
【氏名】日高 美彦
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 光一
(72)【発明者】
【氏名】栗波 智樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智明
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特表平03-500386(JP,A)
【文献】特開平06-086918(JP,A)
【文献】特開2004-290838(JP,A)
【文献】特開平05-200386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 63/00
B01D 63/06
B01D 69/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水から浄水を生成する浄水膜構造体であって、
第1端面と、前記第1端面の反対側の第2端面と、前記第1端面及び前記第2端面に繋がる側面とを有する柱体であり、前記原水が供給される複数のろ過セルと、前記浄水が収集される集水孔とを内部に有する多孔質体と、
前記第1端面を被覆する第1端面シールと、前記第2端面を被覆する第2端面シールと、前記側面を被覆する側面シールとを
有するシールと、
を備え、
前記複数のろ過セルは、前記第1端面から前記第2端面まで前記多孔質体を貫通し、前記第1端面シール及び前記第2端面シールそれぞれに開口し、
前記集水孔は、前記第1端面シールに開口する有底凹部であ
り、
前記第1端面シール、前記第2端面シール及び前記側面シールそれぞれは、非透水性材料によって構成され、
前記多孔質体は、前記浄水が収集される複数の集水セルと、前記複数の集水セルそれぞれの一端に連通し、かつ、前記集水孔から放射状に延びる複数の第1連通スリットとを含む、
浄水膜構造体。
【請求項2】
前記多孔質体の長手方向に垂直な短手方向に沿った断面において、前記複数の第1連通スリットは、前記集水孔を中心としてX字状に配置された4本の第1連通スリットを含む、
請求項1に記載の浄水膜構造体。
【請求項3】
前記多孔質体は、前記複数の集水セルそれぞれの他端に連通し、かつ、前記集水孔から放射状に延びる複数の第2連通スリットを含む、
請求項1に記載の浄水膜構造体。
【請求項4】
前記多孔質体の長手方向に垂直な短手方向に沿った断面において、前記複数の第2連通スリットは、前記集水孔を中心としてX字状に配置された4本の第2連通スリットを含む、
請求項3に記載の浄水膜構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、原水から浄水を生成する浄水膜構造体として、柱状の多孔質体とろ過膜とを備えるセラミック浸透気化膜が開示されている。
【0003】
柱状の多孔質体は、両端面に開口しており原水が供給される複数のろ過セルと、両端面に開口しておらず浄水が収集される複数の集水セルと、各集水セルを貫通して側面に開口するスリットとを有する。ろ過膜は、各ろ過セルの内表面に形成される。ろ過膜を透過した浄水は、多孔質体の側面及びスリットから外部に放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のセラミック浸透気化膜では、多孔質体の側面及びスリットから浄水が放出されるため、セラミック浸透気化膜全体を水密性のケーシング内に密封する必要がある。
【0006】
そのため、セラミック浸透気化膜が密封されたケーシングを実際に設置すると、ケーシングのサイズが大きいため、単位床面積当たりのろ過セル面積が小さくなってしまう。
【0007】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、単位床面積当たりのろ過セル面積を増大可能な浄水膜構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る浄水膜構造体は、原水から浄水を生成する浄水膜構造体であって、多孔質体と、シールとを備える。多孔質体は、第1端面と、第1端面の反対側の第2端面と、第1端面及び第2端面に繋がる側面とを有する柱体であり、原水が供給される複数のろ過セルと、浄水が収集される集水孔とを内部に有する。シールは、第1端面を被覆する第1端面シールと、第2端面を被覆する第2端面シールと、側面を被覆する側面シールとを有し、非透水性材料によって構成される。複数のろ過セルは、第1端面から第2端面まで多孔質体を貫通し、第1端面シール及び第2端面シールそれぞれに開口する。集水孔は、第1端面から第2端面まで多孔質体を貫通し、第1端面シールに開口する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、単位床面積当たりのろ過セル面積を増大可能な浄水膜構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図9】
図9は、浄水膜構造体の製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(浄水膜構造体1の構成)
浄水膜構造体1の構成について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1及び
図2は、浄水膜構造体1の斜視図である。
図3は、
図1のA-A断面図である。
図4は、
図1のB-B断面図である。
図5は、
図1のC-C断面図である。
図6は、浄水膜構造体1を部分的に縦方向に切断した断面図である。
図7は、浄水膜構造体1を部分的に横方向に切断した断面図である。
【0013】
浄水膜構造体1は、原水から浄水を生成するために用いられる。浄水膜構造体1は、原水が貯留された貯留槽に浸漬された状態で用いられる。
【0014】
浄水膜構造体1は、モノリス構造を有する。モノリス構造とは、長手方向に貫通した複数のセルを有する構造を意味し、ハニカム構造を含む概念である。
【0015】
浄水膜構造体1は、柱状の多孔質体10とシール20とを備える。
【0016】
1.多孔質体10
本実施形態に係る多孔質体10は、長手方向に延びる柱体である。多孔質体10の外形は特に制限されず、例えば楕円柱体、多角柱体、直方体、正方体などであってもよい。多孔質体10のサイズは特に制限されないが、例えば、長さ100~1500mm、直径10~200mmとすることができる。
【0017】
図1及び
図2に示すように、多孔質体10は、第1端面S1、第2端面S2及び側面S3を有する。第2端面S2は、第1端面S1の反対側に設けられる。側面S3は、第1端面S1及び第2端面S2に繋がる。側面S3の一端部の外縁は、第1端面S1の外縁に繋がる。側面S3の他端部の外縁は、第2端面S2の外縁に繋がる。
【0018】
図1乃至
図6に示すように、多孔質体10は、複数のろ過セル11、複数の集水セル12、複数の第1集水スリット13、複数の第2集水スリット14及び集水孔15を内部に有する。
【0019】
図6に示すように、各ろ過セル11は、第1端面S1から第2端面S2まで多孔質体10を貫通する。各ろ過セル11は、多孔質体10の長手方向に延びる。各ろ過セル11の両端は、シール20のうち後述する第1端面シール21及び第2端面シール22それぞれに開口する。よって、各ろ過セル11は、浄水膜構造体1の両端面に開口する。各ろ過セル11には、第1端面シール21側の開口及び第2端面シール22側の開口それぞれから原水が供給される。
【0020】
図3~
図5に示すように、本実施形態に係る各ろ過セル11の断面は円形である。各ろ過セル11の断面形状は特に制限されず、例えば楕円形、多角形などであってもよい。各ろ過セル11の内径(外接円径)は特に制限されないが、例えば1.0mm以上3.0mm以下とすることができる。ろ過セル11の本数及び位置は適宜設定することができる。
【0021】
図5及び
図6に示すように、各集水セル12は、多孔質体10の内部に設けられる。各集水セル12は、多孔質体10の長手方向に延びる。
図6に示すように、各集水セル12の両端は、多孔質体10の内部において、第1及び第2集水スリット13,14に連通する。各集水セル12には、多孔質体10を透過した浄水が収集される。
【0022】
図5に示すように、本実施形態に係る各集水セル12の断面は円形である。各集水セル12の断面形状は特に制限されず、例えば楕円形、多角形などであってもよい。各集水セル12の内径(外接円径)は特に制限されないが、例えば0.5mm以上3.0mm以下とすることができる。集水セル12の本数及び位置は適宜設定することができる。
【0023】
複数の第1集水スリット13は、複数の集水セル12から浄水を収集する。第1集水スリット13は、複数の集水セル12から均等に浄水を収集するために複数本設けられている。
図3及び
図6に示すように、各第1集水スリット13は、多孔質体10のうち第1端面S1側の端部の内部に設けられる。各第1集水スリット13は、多孔質体10の長手方向に垂直な短手方向に延びる。各第1集水スリット13の外縁は、第1目封止部13aによって封止されている。第1目封止部13aの外表面は、シール20のうち後述する第1端面シール21によって被覆されている。各第1集水スリット13は、1本以上の集水セル12を貫通する。
【0024】
図3に示すように、複数の第1集水スリット13は、10本の第1連通スリット131と、6本の第1非連通スリット132とを含む。
図6及び
図7に示すように、各第1連通スリット131は、集水孔15と直接連通する。各第1連通スリット131は、集水孔15に開口する。各第1非連通スリット132は、集水孔15と直接連通しない。各第1非連通スリット132は、1本以上の第1連通スリット131と直接連通する。各第1非連通スリット132は、1本以上の第1連通スリット131を介して、集水孔15と間接的に連通する。
【0025】
各第1集水スリット13の長手方向における長さは特に制限されないが、例えば多孔質体10の全長の1%以上20%以下とすることができる。第1集水スリット13の本数及び位置は、集水セル12の本数及び位置に応じて適宜設定することができる。
【0026】
複数の第2集水スリット14は、複数の集水セル12から浄水を収集する。第2集水スリット14は、複数の集水セル12から均等に浄水を収集するために複数本設けられている。
図4及び
図6に示すように、各第2集水スリット14は、多孔質体10のうち第2端面S2側の端部の内部に設けられる。各第2集水スリット14は、多孔質体10の短手方向に延びる。各第2集水スリット14の外縁は、第2目封止部14aによって封止されている。第2目封止部14aの外表面は、シール20のうち後述する第2端面シール22によって被覆されている。各第2集水スリット14は、1本以上の集水セル12を貫通する。各第2集水スリット14は、各集水セル12から浄水を収集する。
【0027】
図4に示すように、複数の第2集水スリット14は、10本の第2連通スリット141と、6本の第2非連通スリット142とを含む。
図6に示すように、各第2連通スリット141は、集水孔15と直接連通する。各第2連通スリット141は、集水孔15に開口する。各第2非連通スリット142は、集水孔15と直接連通しない。各第2非連通スリット142は、1本以上の第2連通スリット141と直接連通する。各第2非連通スリット142は、1本以上の第2連通スリット141を介して、集水孔15と間接的に連通する。
【0028】
各第2集水スリット14の長手方向における長さは特に制限されないが、例えば多孔質体10の全長の1%以上20%以下とすることができる。第2集水スリット14の本数及び位置は、集水セル12の本数及び位置に応じて適宜設定することができる。
【0029】
図6に示すように、集水孔15は、第1端面シール21に開口する有底凹部である。集水孔15は、多孔質体10の内部を長手方向に延びる。集水孔15の第2端面S2側は、パッキン15aによって封止されている。よって、本実施形態において、集水孔15の底は、パッキン15aによって形成されている。このように、集水孔15は、浄水膜構造体1の一端面側のみに開口している。第1端面シール21に形成された集水孔15の開口には、浄水排出管(不図示)を連結するためのOリング(不図示)が取り付けられる。集水孔15の開口外縁は、面取りされていることが好ましい。これによって、Oリングが取り付け易くなるとともに、Oリングを取り付ける際に開口外縁が欠けることを抑制できる。
【0030】
集水孔15は、シール20の第1端面シール21を平面視した場合、多孔質体10の第1端面S1の中央に配置される。集水孔15は、多孔質体10の軸心に沿って形成される。そして、集水孔15の周囲には、複数のろ過セル11が配置されている。
【0031】
本実施形態に係る集水孔15の断面は円形である。集水孔15の断面形状は特に制限されず、例えば楕円形、多角形などであってもよい。集水孔15の内径(外接円径)は特に制限されないが、例えば多孔質体10の外径(外接円径)の15%以上45%以下とすることができる。
【0032】
図6に示すように、集水孔15の内周面には、各第1連通スリット131及び各第2連通スリット141が開口する。集水孔15は、各第1連通スリット131及び各第2連通スリット141それぞれから浄水を収集する。集水孔15に収集された浄水は、浄水排出管を通って外部に排出される。
【0033】
ここで、
図8は、
図7の領域ARの拡大図である。
図8に示すように、多孔質体10は、基材31及びろ過層32を有する。
【0034】
基材31は、多孔質体10の本体部である。基材31には、上述した各集水セル12、各第1集水スリット13、各第2集水スリット14及び集水孔15が形成される。
【0035】
基材31は、多孔質材料によって構成される。基材31は、骨材と結合材を含有する。
【0036】
骨材としては、アルミナ、炭化珪素、チタニア、ムライト、セルベン、及びコージェライトなどを用いることができる。結合材は、骨材成分より低い温度で溶融し、骨材同士を連結させる無機酸化物材料のことである。基材31における骨材の含有率は特に制限されないが、例えば80体積%以上99体積%以下とすることができ、85体積%以上95体積%以下が好ましい。
【0037】
結合材としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等を含むアルミナ、シリカ系の無機酸化物材料を用いることができる。アルカリ金属としては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びリチウム(Li)のうち少なくとも1つを用いることができる。アルカリ金属は、酸化物の形態で存在していてもよい。アルカリ土類金属としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)のうち少なくとも1つを用いることができる。アルカリ土類金属は、酸化物の形態で存在していてもよい。結合材は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の両方を含むことが好ましい。基材31における結合材の含有率は特に制限されないが、例えば1体積%以上20体積%以下とすることができ、5体積%以上15体積%以下が好ましい。
【0038】
基材31の気孔率は特に制限されないが、例えば25%以上50%以下とすることができ、30%以上45%以下が好ましい。基材31の気孔率は、水銀圧入法によって測定できる。基材31の平均細孔径は特に制限されないが、例えば0.1μm以上50μm以下とすることができ、ろ過層32の成膜性を向上させる観点からは1μm以上10μm以下が好ましい。
【0039】
ろ過層32は、筒状に形成される。ろ過層32の内側の空間は、上述したろ過セル11である。
【0040】
本実施形態において、ろ過層32は、第1ろ過層32a及び第2ろ過層32bを有する。
【0041】
第1ろ過層32aは、基材31の内表面上に形成される。第1ろ過層32aは、基材31に用いることのできる上記多孔質材料によって構成することができる。第1ろ過層32aの平均細孔径は、基材31の平均細孔径より小さくてもよく、例えば0.005μm以上5μm以下とすることができる。第1ろ過層32aの平均細孔径は、パームポロメーターによって測定できる。第1ろ過層32aの気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。第1ろ過層32aの厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上300μm以下とすることができる。
【0042】
第2ろ過層32bは、第1ろ過層32aの内表面上に形成される。第2ろ過層32bは、基材31に用いることのできる上記多孔質材料によって構成することができる。第2ろ過層32bの平均細孔径は、第1ろ過層32aの平均細孔径より小さくてもよく、例えば0.001μm以上2μm以下とすることができる。第2ろ過層32bの平均細孔径は、パームポロメーターによって測定できる。第2ろ過層32bの気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。第2ろ過層32bの厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0043】
2.シール20
シール20は、多孔質体10の表面のうち各ろ過セル11及び集水孔15それぞれの開口以外の略全面を被覆する。シール20は、非透水性材料によって構成される。非透水性材料としては、例えばガラス、樹脂、金属、ゴムなどを用いることができる。多孔質体10の熱膨張係数との整合性を考慮すると、非透水性材料としてはガラスが好適である。
【0044】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るシール20は、第1端面シール21、第2端面シール22及び側面シール23を有する。
【0045】
第1端面シール21は、多孔質体10の第1端面S1を被覆する。ただし、第1端面シール21は、各ろ過セル11及び集水孔15を塞いでおらず、上述したとおり、第1端面シール21には各ろ過セル11及び集水孔15が開口している。
【0046】
第2端面シール22は、多孔質体10の第2端面S2を被覆する。ただし、第2端面シール22は、各ろ過セル11及び集水孔15を塞いでおらず、上述したとおり、第2端面シール22には各ろ過セル11及び集水孔15が開口している。
【0047】
側面シール23は、多孔質体10の側面S3を被覆する。側面シール23には開口が形成されない。
【0048】
このようにシール20が多孔質体10の表面全体を被覆することによって、原水が各ろ過セル11のみから内部に供給され、かつ、浄水が集水孔15のみから排出される構成が実現されている。
【0049】
(浄水膜構造体1の製造方法)
次に、浄水膜構造体1の製造方法について図面を参照しながら説明する。
【0050】
図9は、浄水膜構造体1の製造方法を説明するための模式図である。
【0051】
浄水膜構造体1の製造方法は、多孔質体10を形成する多孔質体形成工程と、シール20を形成するシール形成工程とを備える。以下、各工程について説明する。
【0052】
1.多孔質体形成工程
(1)押出成形工程
まず、基材31用の多孔質材料を準備して押出成形機50に投入する。
【0053】
次に、押出成形機50で多孔質材料を押し出すことによって、柱状の基材成形体31Xを押出成形する。基材成形体31Xは、複数のろ過セル11を形成するための複数のろ過セル用貫通孔(不図示)と、複数の集水セル12を形成するための複数の集水セル用貫通孔(不図示)と、集水孔用貫通孔15Xとを有する。
【0054】
図10は、押出成形機50の断面図である。押出成形機50は、ケース51、材料収容空間52、口金53及び押さえ板54を有する。材料収容空間52は、ケース51の内部に設けられる。材料収容空間52には、多孔質材料が収容される。口金53は、ケース51の内側に配置される。口金53の内部には、各集水セル用貫通孔及び集水孔用貫通孔15Xのパターンに対応したスリットが形成されている。口金53の前面には、凹部53aが形成されている。凹部53aには、固定板53bが収容される。固定板53bは、口金53を固定するための部材である。押さえ板54は、基材成形体31Xの断面形状及び寸法を規定するための開口部が形成された環状の部材である。
【0055】
ここで、口金53に形成された凹部53aの底面53Rは、当接面r1及び環状面r2を含む。当接面r1は、底面53Rのうち固定板53bが当接する領域である。環状面r2は、集水孔15の内壁に対応する環状の領域である。環状面r2は、全体的に平面であることが好ましい。理由は定かではないものの、環状面r2を平面とすることによって、環状面r2を傾斜面とした場合に比べて集水孔15の内壁におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0056】
(2)乾燥工程
基材成形体31Xを乾燥させる。基材成形体31Xの乾燥は、台上に載置された基材成形体31Xに熱風を吹き付けることによって強制的に乾燥させてもよいし、台上で自然乾燥させてもよい。
【0057】
基材成形体31Xを乾燥させた後、基材成形体31Xの両端を適宜切断することによって、基材成形体31Xの長さを適宜調整してもよい。
【0058】
(3)一次スリット形成工程
基材成形体31Xの第1端面に、各集水セル用貫通孔を貫通する複数の一次スリット13Xを形成する。続いて、基材成形体31Xの第2端面に、各集水セル用貫通孔を貫通する複数の一次スリット14X(不図示)を形成する。
【0059】
各一次スリット13Xは、最終的には各第1集水スリット13の一部となり、各一次スリット14Xは、最終的には各第2集水スリット14の一部となる。
【0060】
各一次スリット13X,14Xそれぞれの深さは特に制限されないが、深すぎると基材成形体31Xの両端部に変形が生じやすく、浅すぎると予め一次スリットを形成しておくメリットが薄れるので、これらを両立できる範囲に調整することが好ましい。
【0061】
(4)仮目詰め工程
基材成形体31Xの第1端面側から各一次スリット13Xに仮目詰め材料を所定深さまで押し込むことによって、各一次スリット13Xを仮目詰めする。続いて、基材成形体31Xの第2端面側から各一次スリット14Xに仮目詰め材料を所定深さまで押し込むことによって、各一次スリット14Xを所定深さまで仮目詰めする。仮目詰め材料としては、基材31用の多孔質材料を用いることができる。
【0062】
仮目詰め材料を押し込む際、各一次スリット13X,14X内にストッパ57を挿入した状態で仮目詰め材料を押し込むことが好ましい。これによって、仮目詰め材料を所定の深さまで所望の密度で充填させることができる。
【0063】
(5)基材焼成工程
基材成形体31Xを所定条件(例えば、800℃~1500℃、10時間~200時間)で焼成することによって基材31を形成する。
【0064】
(6)ろ過層形成工程
第1ろ過層32a用の多孔質材料を水と混合することによって第1ろ過層用スラリーを調製する。続いて、負圧環境下において基材31の各ろ過セル用貫通孔に第1ろ過層用スラリーを圧送することによって、各ろ過セル用貫通孔の内表面に第1ろ過層成形体を成膜する。そして、第1ろ過層成形体が成膜された基材31を所定条件(例えば、800℃~1500℃、10時間~200時間)で焼成することによって、第1ろ過層32aを形成する。
【0065】
次に、第2ろ過層32b用の多孔質材料を水と混合することによって第2ろ過層用スラリーを調製する。続いて、負圧環境下において第1ろ過層32aの内側に第2ろ過層用スラリーを圧送することによって、第1ろ過層32aの表面上に第2ろ過層成形体を成膜する。そして、第2ろ過層成形体が成膜された基材31を所定条件(例えば、800℃~1500℃、10時間~200時間)で焼成することによって、第2ろ過層32bを形成する。
【0066】
(7)二次スリット形成工程
基材31の第1端面側から切削工具を用いて各一次スリット13Xを更に深く切り込むことによって、複数の二次スリット13Yを形成する。続いて、基材31の第2端面側から切削工具を用いて各一次スリット14Xを更に深く切り込むことによって、複数の二次スリット14Y(不図示)を形成する。これによって、複数の集水セル12が基材31の内部に形成される。
【0067】
本工程では、各一次スリット13X,14Xに充填されていた仮目詰め材料は除去される。各一次スリット13X,14Xが予め形成されているため、比較的容易に各二次スリット13Y,14Yを形成することができ、工具寿命の長期化も図られる。
【0068】
(8)本目詰め工程
各二次スリット13Yのうち基材31の外表面に開口する部分に本目詰め材料を押し込むことによって、各二次スリット13Yを封止する。これによって、複数の第1集水スリット13が基材31の内部に形成される。
【0069】
続いて、各二次スリット14Yのうち基材31の外表面に開口する部分に本目詰め材料を押し込むことによって、各二次スリット14Yを封止する。これによって、複数の第2集水スリット14が基材31の内部に形成される。
【0070】
なお、本目詰め材料としては、基材31用の多孔質材料を用いることができる。
【0071】
以上の工程によって多孔質体10が完成する。
【0072】
2.シール形成工程
(1)端面シール形成工程
多孔質体10の第1端面S1に非透水性材料を塗布又は印刷することによって、第1端面シール成形体21Xを形成する。
【0073】
続いて、多孔質体10の第2端面S2に非透水性材料を塗布又は印刷することによって、第2端面シール成形体22Xを形成する。
【0074】
(2)側面シール形成工程
多孔質体10の側面S3に非透水性材料を塗布又は印刷することによって、側面シール成形体23Xを形成する。
【0075】
本工程では、多孔質体10の集水孔用貫通孔15Xに支持部材56を挿入して多孔質体10を吊り下げた状態で非透水性材料を塗布又は印刷することが好ましい。これによって、側面シール成形体23Xを全体的に均一に形成することができる。
【0076】
(3)シール焼成工程
最後に、各シール成形体21X,22X,23Xが形成された多孔質体10を所定条件(例えば、800℃~1500℃、10時間~200時間)で焼成する。その後、集水孔用貫通孔15Xの第2端面S2側をパッキン15aで封止することによって浄水膜構造体1が完成する。
【0077】
(特徴)
(1)浄水膜構造体1は、多孔質体10とシール20とを備える。多孔質体10は、原水が供給される複数のろ過セル11と、浄水が収集される集水孔15とを有する。シール20は、多孔質体10の表面のうち各ろ過セル11及び集水孔15以外の略全面を被覆する。シール20は、非透水性材料によって構成される。
【0078】
このように、シール20が多孔質体10の表面全体を被覆しているため、各ろ過セル11のみから原水を内部に供給し、かつ、集水孔15のみから浄水を排出させることができる。従って、浄水膜構造体1を水密性のケーシング内に別途密封する必要がないため、例えば貯水槽内に浄水膜構造体1を設置した場合、ケーシングを用いる必要のある場合に比べて単位床面積当たりのろ過セル面積を増大させることができる。
【0079】
(2)集水孔15は、シール20の第1端面シール21を平面視した場合、多孔質体10の第1端面S1の中央に配置され、各ろ過セル11は集水孔15の周囲に配置される。従って、単一の集水孔15を用いて各ろ過セル11から効率的に集水できるため、浄水膜構造体1の浄水効率を向上させることができる。
【0080】
(3)多孔質体10は、浄水が収集される複数の集水セル12と、複数の集水セル12を貫通する複数の第1集水スリット13とを内部に有する。従って、各集水セル12から効率的に集水できるため、浄水膜構造体1の浄水効率を向上させることができる。
【0081】
(4)複数の第1集水スリット13は、集水孔15と直接連通する第1連通スリット131を含む。これにより、第1連通スリット131を介して各集水セル12から集水孔15へ効率的に集水できるため、浄水膜構造体1の浄水効率を向上させることができる。
【0082】
(5)複数の第1集水スリット13は、集水孔15と直接連通しない第1非連通スリット132を含む。第1非連通スリット132は、第1連通スリット131と直接連通する。従って、第1連通スリット131を介して第1非連通スリット132から集水孔15へ効率的に集水できるため、浄水膜構造体1の浄水効率を向上させることができる。
【0083】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0084】
[変形例1]
上記実施形態では、
図1乃至
図7を参照しながら浄水膜構造体1の構成について説明したが、浄水膜構造体1の詳細な構成は適宜変更可能である。浄水膜構造体1は、ろ過セル11と集水孔15とを有する多孔質体10と、多孔質体10の表面を被覆するシール20とを備えていればよい。従って、浄水膜構造体1は、集水セル12、第1集水スリット13及び第2集水スリット14を備えていなくてもよい。また、ろ過セル11及び集水孔15は、それぞれ1本以上設けられていればよい。
【0085】
[変形例2]
上記実施形態において、集水孔15の第2端面S2側は、パッキン15aによって封止されることとしたが、集水孔15の第2端面S2側を封止する手法は特に限られない。
【0086】
[変形例3]
上記実施形態では、一次スリット形成工程において集水セル用貫通孔すべてに対して一次スリット13X,14Xを形成し、仮目詰め工程において一次スリット13X,14Xを仮目詰めすることとしたが、これに限られない。集水セル用貫通孔すべてに対して一次スリット13X,14Xを形成することで基材成形体31Xの強度低下が懸念される場合には、一次スリット形成工程において一部の集水セル用貫通孔に対して一次スリット13X,14Xを形成してもよい。この場合、残りの集水セル用貫通孔は開口したままになるので、ろ過層形成工程では、焼成によって蒸散する有機材料を用いて集水セル用貫通孔の開口を随時塞ぐ必要がある。
【0087】
[変形例4]
上記実施形態において、ろ過層32は、第1ろ過層32a及び第2ろ過層32bを有することとしたが、これに限られない。ろ過層32は、第1ろ過層32a及び第2ろ過層32bのうち一方のみを有していてもよいし、第1ろ過層32a及び第2ろ過層32bに加えて1以上のろ過層を更に有していてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 浄水膜構造体
10 多孔質体
S1 第1端面
S2 第2端面
S3 側面
11 ろ過セル
12 集水セル
13 第1集水スリット
14 第2集水スリット
15 集水孔
20 シール
21 第1端面シール
22 第2端面シール
23 側面シール
31 基材
32 ろ過層
32a 第1ろ過層
32b 第2ろ過層
50 押出成形機
51 ケース
53 口金
53a 凹部
53b 固定板
53R 底面
r1 当接面
r2 環状面
56 支持部材