(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】変位可能な刃具キャリアを締め付けるための機構を備えたボーリングヘッド
(51)【国際特許分類】
B23B 29/034 20060101AFI20241120BHJP
B23B 29/12 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
B23B29/034 B
B23B29/12 Z
(21)【出願番号】P 2021570167
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2020064816
(87)【国際公開番号】W WO2020239897
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-24
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518438472
【氏名又は名称】ビッグ カイザー プレツィヅィオンスヴェルクツォイク アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェノロサ クリメント,ホセ マリア
(72)【発明者】
【氏名】タールマン,ルカス
(72)【発明者】
【氏名】マーティン,マニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ローラー,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】シュテュッシ,クリストフ
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0165760(US,A1)
【文献】実開昭63-057038(JP,U)
【文献】実開昭48-105187(JP,U)
【文献】特開2007-290126(JP,A)
【文献】特表2019-512404(JP,A)
【文献】実開昭61-068805(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B29/034
B23B29/12-29/18
B23B 3/26
B23Q 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主回転軸(R)を有し、中ぐり作業中に前記主回転軸(R)周りで回転する工具本体(1)と、
前記工具本体(1)内又は前記工具本体(1)上に配置された刃具キャリア(6)と、
前記工具本体(1)に対して
変位方向に沿って前記刃具キャリア(6)を変位させるための第1のモータ(9)と、
中ぐり作業中に前記工具本体(1)に対する前記刃具キャリア(6)の変位を防ぐために、前記刃具キャリア(6)にかかる締付け力を生じさせるための締付け要素(27,55,68,81)を有する締付け機構(26)と
を備えるボーリングヘッドであって、
前記締付け機構(26)は、
当該締付け機構(26)が作動するときに及び/又はその作動状態にあるときに、エネルギー源から当該締付け機構(26)へのエネルギーの流れが生じるように、能動的に調整することができる締付け力を生じさせる能動的な締付け機構であ
り、
前記締付け機構(26)は、圧電効果に基づき、少なくとも1つのピエゾ素子(28)を備え、
前記第1のモータ(9)は、ステータ(10)とロータ(11)とを備えた電動モータであり、当該第1のモータ(9)の作動中の前記ロータ(11)の回転によって主駆動軸が規定され、この主駆動軸は前記変位方向と平行に延びており、前記締付け機構(26)は、前記ピエゾ素子(28)に作用する電圧の結果として、当該ピエゾ素子(28)の伸張によって前記刃具キャリア(6)から遠ざけられるように移動するように適合されている、ことを特徴とする、ボーリングヘッド。
【請求項2】
前記締付け機構(26)を作動させるのに必要なエネルギーを供給するために、エネルギー貯蔵装
置が設けられている、請求項1に記載のボーリングヘッド。
【請求項3】
前記エネルギー貯蔵装置が電気エネルギー貯蔵装置(22)である、請求項2に記載のボーリングヘッド。
【請求項4】
前記締付け機構(26)は、前記刃具キャリア(6)が締め付けられるアイドル状態と、前記工具本体(1)に対する前記刃具キャリア(6)の変位が可能となる作動状態とを有する、請求項1
~3のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項5】
前記締付け機構(26)は、前記刃具キャリア(6)に作用する前記締付け力が変化しないアイドル状態と、前記刃具キャリア(6)に作用する前記締付け力が増加又は減少する作動状態とを有する、請求項1
~3のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項6】
前記締付け要素は、締付けブラケット(27)の形態を有し、前記締付けブラケット(27)は、前記締付け機構(26)の
前記少なくとも1つのピエゾ素子(28)を少なくとも部分的
に取り囲み、第1の方向に沿った前記
少なくとも1つのピエゾ素子(28)の伸長が、垂直な第2の方向に沿った前記締付けブラケット(27)の収縮に変換されるようになっている、請求項1~
5のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項7】
前記締付けブラケット(27)は、前記締付け機構(26)の前記少なくとも1つのピエゾ素子(28)を完全に取り囲む、請求項6に記載のボーリングヘッド。
【請求項8】
前記締付け要素は、前記締付け機構(26)の更なる締付け要素(28)の伸長によって前記刃具キャリア(6)から遠ざけられるように構成された締付けビーム(55)の形態を有する、請求項1~
5のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項9】
前記締付け機構(26)は、前記刃具キャリア(6)にかかる締付け力を生じさせるための1つ以上の楔(69,70;81)を備え
る、請求項1~
5のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項10】
前記締付け力を増加又は減少させるために、互いに近づけられ得る又は互いに遠ざけられ得る2つの楔(69,70)を備える、請求項9に記載のボーリングヘッド。
【請求項11】
前記締付け要素(81)は、前記刃具キャリア(6)の前記変位の方向に対して平行に延びる締付け面(31)を備え、前記締付け機構(26)は、前記変位の方向に対して垂直な方向で前記締付け要素(81)にばね力を加えるばね要素(82)をさらに備え、前記締付け面(31)は、前記ばね要素(82)によって生じる前記ばね力の方向に対して傾斜している、請求項1~6
、9又は10のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項12】
前記締付け機構(26)は、少なくとも2つのレバー(78,79)を備え、前記レバー(78,79)は、互いにヒンジ結合され、前記ばね要素(82)によって前記締付け要素(81)に加えられる前記力の方向とは反対の方向に前記締付け要素(81)を変位させるために働く、請求項
11に記載のボーリングヘッド。
【請求項13】
前記締付け機構(26)は、前記刃具キャリア(6)の外面に直接作用する締付け面(31)を備え、前記締付け面(31)は、前記刃具キャリア(6)の前記外面に適合している、請求項1~
12のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項14】
前記第1のモータ(9)は、雄ねじ山を有する駆動軸(12)を有するロータ(11)を備え、前記刃具キャリア(6)は雌ねじ山を有する孔(7)を備え、又は、トルクに耐えられるように前記刃具キャリア(6)に取り付けられたナットが雌ねじ山を有し、前記駆動軸(12)の前記雄ねじ山は、前記雌ねじ山と係合し、それにより、前記第1のモータ(9)によって生じる前記ロータ(11)の回転運動が、前記工具本体(1)に対する前記刃具キャリア(6)の変位に変換される、請求項1~
13のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項15】
前記締付け機構(26)は、刃具キャリア(6)の外面に直接作用する締付け面(31)を備え、前記締付け機構(26)の保持力を向上させるために、前記締付け機構(26)の前記締付け面(31)及び/又は前記刃具キャリア(6)の前記外面は、高摩擦コーティング(61)を備える、請求項1~
14のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項16】
前記刃具キャリア(6)及び/又は前記工具本体(1)は、前記工具本体(1)に対する前記刃具キャリア(6)の前記変位を容易にするために、低摩擦コーティング(62)を備える、請求項1~
15のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項17】
前記刃具キャリア(6)及び/又は前記工具本体(1)は、前記工具本体(1)に対する前記刃具キャリア(6)の変位を避けるために、前記刃具キャリア(6)が前記工具本体(1)に接触する領域に高摩擦コーティング(62)を備える、請求項1~
16のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項18】
前記刃具キャリア(6)は、前記工具本体(1)の前記主回転軸(R)に対して横方向に沿って変位可能である、請求項1~
17のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【請求項19】
前記ボーリングヘッドは、前記第1のモータ(9)によって生じる回転運動を前記工具本体(1)に対する前記刃具キャリア(6)の変位に変換するために使用される駆動軸(12)又は駆動スピンドル(45,46)の回転位置を測定するための回転センサ(13)を備え、及び/又は、前記ボーリングヘッドは、前記工具本体(1)に対する前記刃具キャリア(6)の位置を測定するための位置センサを備える、請求項1~
18のいずれか1項に記載のボーリングヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中ぐり作業中に工具本体に対する刃具キャリアの変位を防ぐために、変位可能な刃具キャリアを締め付けるための締付け機構を備えたボーリングヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば切りくず生成金属切削に使用されるボーリングヘッドは、多くの場合、工具本体に対して径方向に変位可能な刃具キャリアを備え、刃具キャリアに取り付けられた刃具を径方向に調整することができるようになっている。このようなボーリングヘッドは、例えば、刃具が取り付けられたボーリングヘッドを回転させることにより、既存の穴を拡大するために使用される。刃具キャリアの径方向の変位により、切削径を変化させることができるだけでなく、中ぐり作業間で刃具の摩耗を補償することもできる。
【0003】
中ぐり径を調整するために、刃具キャリアの径方向の変位は、通常、使用者によって手動で行われる。この目的のため、使用者は、工具本体に対して刃具キャリアを径方向に変位させるために、刃具キャリアのねじ山付き孔と係合している調整ねじを回転させる。しかし、手動での調整は時間を要し、正確性に欠けることが多い。よって、モータ駆動式の刃具キャリア、すなわち、モータによって工具本体に対して径方向に変位させることができる刃具キャリアを有するボーリングヘッドが必要とされている。
【0004】
特許文献1には、ボーリングヘッドの刃具を径方向に変位させるためのモータ駆動式の電気アクチュエータが開示されている。しかし、この電気アクチュエータは、手動での取扱い及び中ぐり作業の中断を依然として必要とする外部装置である。
【0005】
刃具キャリアを変位させるモータを有するボーリングヘッドは、例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5に開示されている。
【0006】
特許文献6及び特許文献7などの幾つかの先行技術文献では、圧電機構によってボーリングヘッド内の刃具キャリアを電動式に径方向又は軸線方向に変位させることが提案されている。
【0007】
モータによって変位させることができる刃具キャリアに伴う課題は、特に、中ぐり作業中における工具本体内での刃具キャリアの固定にある。中ぐり作業中には、大きな力、特に大きな径方向力が、通常、刃具及び刃具キャリアに作用する。この力に起因して、刃具キャリアは径方向に変位する傾向があり、このことは、良好な中ぐり結果を得るために、あらゆる手段で防止される必要がある。中ぐり作業中のこのような望ましくない変位を防ぐためには、通常、静止した変位モータ自体の力で十分であるとはいえない。
【0008】
特許文献8及び特許文献9では、中ぐり作業中に刃具キャリアの径方向又は軸線方向の望ましくない変位を防ぐために、予荷重が加えられたばね要素が、刃具キャリアにかかる締付け力を生じさせる目的で使用されている。しかし、このような受動的な締付け機構を設けることにより、刃具キャリアの意図した変位のために、より大きな力が必要となる。この場合、変位を生じさせるためにモータを使用すると、それに応じて、より強力で大寸法のモータが必要となる。しかし、このような大寸法のモータは、より高価であるだけでなく、ボーリングヘッドの限られたスペース内に配置することをも困難にする。
【0009】
さらに、圧電能動アクチュエータの種々異なる実施形態が、特許文献10及び特許文献11に開示されていることに留意されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2017/165760号明細書
【文献】独国特許出願公開第19717172号明細書
【文献】国際公開第88/03672号
【文献】特許第3252996号公報
【文献】欧州特許出願公開第3222375号明細書
【文献】国際公開第00/62962号
【文献】米国特許出願公開第2014/0133930号明細書
【文献】米国特許第6,394,710号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2095897号明細書
【文献】独国特許出願公開第102004002249号明細書
【文献】独国特許出願公開第19643180号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明の課題は、1つには容易に変位させることができてもう1つには中ぐり作業中に工具本体に対して固定される刃具キャリアを備えたボーリングヘッドを提供することである。
【0012】
この課題は、請求項1及び19に記載のボーリングヘッドによって解決される。ボーリングヘッドの更なる実施形態は、従属請求項に提示されている。
【0013】
ようするに、本発明は、ボーリングヘッドであって、
主回転軸を有し、中ぐり作業中に主回転軸周りで回転する工具本体と、
工具本体内又は工具本体上に配置された刃具キャリアと、
工具本体に対して刃具キャリアを変位させるための第1のモータと、
中ぐり作業中に工具本体に対する刃具キャリアの変位を防ぐために、刃具キャリアにかかる締付け力を生じさせるための締付け要素を有する締付け機構と
を備える、ボーリングヘッドを提供する。
【0014】
締付け機構は、能動的に調整することができる締付け力を生じさせる能動的な締付け機構である。
【0015】
受動的な締付け機構と比較して、能動的な締付け機構は、予荷重を必要としない。結果として、刃具キャリアを変位させるための力を大幅に低減することができ、すなわち、第1のモータに関する要件がより低くなる。一方、能動的な締付け機構により、工具本体に対する刃具キャリアの望ましくない変位を防ぐために、中ぐり作業中に刃具キャリアに大きな締付け力を作用させることができる。一方、第1のモータによる工具本体に対する刃具キャリアの変位が必要な場合には、容易な変位を可能にするために、締付け機構によって刃具キャリアを解放することができる。
【0016】
よって、ボーリングヘッドは、能動的に調整することができる締付け力を生じさせる能動的な締付け機構を備える。対照的に、ばねのみで形成される締付け機構のような受動的な締付け機構では、締付け力を能動的に調整することができない。能動的な締付け機構は、通常、作動及び/又は作動停止させることができる少なくとも1つの要素を含む。能動的な締付け機構により、通常、締付け機構が作動するときに及び/又はその作動状態にあるときに、エネルギー源から締付け機構へのエネルギーの流れが生じる。よって、能動的な締付け機構を作動させるために、必要なエネルギーを供給する目的で、好ましくは、エネルギー貯蔵装置、特に1つ以上のバッテリなどの電気エネルギー貯蔵装置が設けられる。ボーリングヘッドは、好ましくは、オペレータによる及び/又はボーリングヘッドのプリント回路基板(PCB)などに実装された制御ロジックによる入力指示に基づいて、締付け力を能動的に調整するように構成されている。
【0017】
締付け機構は、好ましくは、工具本体に対する刃具キャリアの変位を可能にするように、作動するように及び/又はその作動状態になるように構成されている。さらに、締付け機構は、好ましくは、工具本体に対する刃具キャリアの変位を不能にするように、作動停止するように及び/又は作動停止状態になるように構成されている。
【0018】
工具本体の主回転軸は、ボーリングヘッドが通常の中ぐり作業中に意図されるように回転する際の基準となる軸線である。工具本体は、好ましくは、全体として一体に作られる。
【0019】
刃具キャリアは、工具を保持するように機能する。工具は、通常、切削インサートなどの刃具であり、刃具キャリアに直接取り付けることができ、又は刃具ホルダなどを介して間接的に取り付けることができる。
【0020】
特に好ましい実施形態では、刃具キャリアは、工具本体に対して横方向に変位可能であり、すなわち、刃具キャリアは、主回転軸を横切る方向に変位可能である。刃具キャリアの変位に関して、横方向は、主回転軸に対して垂直な方向と同じであってよいが、必ずしもそうである必要はない。本文脈では、横方向に沿った変位は、主回転軸に対する刃具の径方向の変位が生じ、それにより、中ぐり作業中に、変位の直接的な結果として、より大きな直径又はより小さな直径の穴が生じることを意味する。よって、多くの場合、横方向に沿った刃具キャリアの変位が、主回転軸に対して垂直な方向に沿った変位と同じであり、同じ効果を有することが好ましいが、絶対に必要というわけではない。第1のモータによって工具本体に対して刃具キャリアを変位させるように構成された方向を、本明細書では変位方向と呼ぶ。
【0021】
刃具キャリアは、通常、工具本体の開口内に配置されている。開口又は孔は、特に、貫通開口であってよい。しかし、特定の実施形態では、工具本体の外側に刃具キャリアを変位可能に取り付けることも考えられる。刃具キャリアは、好ましくは、特殊な工具を使用せずには工具本体から取り外せないように、工具本体に取り付けられている。刃具キャリアは、好ましくは、全体として一体に作られている。
【0022】
第1のモータは、好ましくは、DCモータなどの電動モータである。しかし、特定の実施形態では、第1のモータとして、圧電モータ又は液圧モータを使用することも考えられる。第1のモータは、好ましくは、少なくとも部分的に、有利には完全に、ボーリングヘッド内、特に工具本体内に組み込まれる。多くの場合、第1のモータは、ステータと、駆動軸を備えたロータとを有する。駆動軸は、トルクに耐えられるようにロータに取り付けられ、好ましい実施形態では、ロータと一体に作られる。モータの動作中にロータの回転によって、主駆動軸が規定される。
【0023】
好ましい実施形態では、第1のモータの主駆動軸は、刃具キャリアが工具本体に対して変位可能な方向に対して平行に、有利には主回転軸に対して垂直な方向に延びる。こうすることで、第1のモータによって刃具キャリアに生じる力の最適な伝達を実現することができる。これらの実施形態では、駆動軸は、好ましくは雄ねじ山を有し、刃具キャリアは、雌ねじ山を備えた孔を備える、又は、雌ねじ山を備えたナットがトルクに耐えられるように刃具キャリアに取り付けられている。駆動軸の雄ねじ山は、刃具キャリア又はナットのこの雌ねじ山と係合し、それにより、第1のモータによって生じるロータの回転運動が、工具本体に対する刃具キャリアの変位に変換されるようになっている。
【0024】
他の好ましい実施形態では、主駆動軸は、刃具キャリアが工具本体に対して変位可能な方向に対して垂直に、有利には主回転軸に対して平行に延びる。これらの実施形態には、特に比較的大型の第1のモータを使用する場合に、第1のモータをボーリングヘッドにより良好に組み込むことができるという利点がある。第1のモータによって生じる回転運動を工具本体に対する刃具キャリアの変位に変換するために、これらの実施形態では、好ましくはウォーム歯車が設けられている。歯車ユニット、特にウォーム歯車を備えた歯車ユニットを有することにより、刃具キャリアを変位させるために加えられる力を増大させることができ、言い換えれば、刃具キャリアを変位させるための同じ力を加えるために、より小さな寸法の第1のモータを使用することができる。
【0025】
特定の実施形態では、刃具キャリアは、主回転軸に対して垂直な方向に沿って見たときに、第1及び第2の端部を有し、第1の端部は、刃具の取付けのために適合されている。第1のモータは、好ましくは、第2の端部に作用して刃具キャリアを変位させる。
【0026】
他の実施形態では、刃具キャリアは、工具本体の主回転軸に沿って延びる孔を有し、孔は、刃具又は刃具ホルダを収容するように構成されている。よって、刃具又は刃具ホルダは、この場合、刃具キャリアの孔に挿入することによってボーリングヘッドに取り付けることができる。刃具キャリアの孔内での固定は、例えば、固定ねじによって行うことができる。
【0027】
刃具キャリアは、必ずしも工具本体の主回転軸に対して横方向に沿って変位可能である必要はない。また、刃具を軸方向に移動させるために、刃具キャリアを主回転軸に対して平行に変位させるように、第1のモータを構成することも可能である。
【0028】
締付け機構は、好ましくは、刃具キャリアを工具本体に対して又はボーリングヘッドの別の要素に対して締め付けるように構成されている。この目的のために、締付け機構は、好ましくは、中ぐり作業中に工具本体に対する刃具キャリアの望ましくない変位を防ぐために、刃具キャリアの外面に直接又は間接的に接触するように構成された締付け面を有する締付け要素を備える。締付け面は、相互接触面を最大化し、ひいては、締付け要素と刃具キャリアとの間に生じる摩擦を最大化するために、好ましくは、刃具キャリアの外面の対応する部分に相応した形状に形成される。
【0029】
特に好ましい有利な実施形態では、締付け機構は、刃具キャリアが締め付けられるアイドル状態と、工具本体に対する刃具キャリアの変位が可能となる作動状態とを有する。よって、刃具キャリアを解放し、工具本体に対する刃具キャリアの変位を可能にするためには、好ましくは、締付け機構の作動が必要である。締付け機構を作動させるため及び/又は締付け機構をその作動状態に維持するためには、好ましくは、例えば1つ以上のバッテリから締付け機構へのエネルギーの供給が必要である。一方、アイドル状態では、刃具キャリアは、工具本体に対して変位することができないように締付け機構によって締め付けられる。好ましくは、締付け機構をアイドル状態に保つために、エネルギーの供給は必要とされない。締付け機構は、好ましくは、作動状態にあるときにエネルギーの供給が中断された場合に、締付け機構が自動的にアイドル状態になるように設計される。被加工物の加工中に、すなわち、通常の中ぐり作業中に、締付け機構は、好ましくは、基本的にアイドル状態となるように構成されている。
【0030】
アイドル状態では刃具キャリアを締め付け、作動状態では刃具キャリアを解放する(その逆ではない)能動的な締付け機構を設けることにより、中ぐり作業に関するボーリングヘッドの安全性を大幅に向上させることができる。例えば、締付け機構へのエネルギーの供給が誤って中断されたり、バッテリの充電状態が低いことに起因して不十分になったりした場合に、中ぐり作業中に刃具キャリアが解放され、結果として、加工される被加工物が損傷したり、さらに悪いことに、作業担当者に危険が及んだりする危険性がない。
【0031】
他の好ましい実施形態では、締付け機構は、作動時に締付け力を増加又は減少させるように構成されている。よって、締付け機構の作動状態では、締付け力を、例えば、刃具キャリアを締め付ける又は解放するように変化させることができる一方、非作動(又はアイドル)状態では、締付け力を変化させない。非作動状態で締付け力が変化しなければ、特に、中ぐり作業中に、例えば、締付け機構へのエネルギーの供給が誤って中断されたり、バッテリの充電状態が低いことに起因して不十分になったりした場合に、刃具キャリアの締付けが維持されることを保証することができる。
【0032】
本発明の発展形によれば、締付け機構は、圧電効果に基づき、少なくとも1つのピエゾ素子を備える。ピエゾ素子は、圧電素子と呼ばれる場合もあり、素子に作用する電圧の結果として機械的に動く、特に伸長する素子である。圧電効果に基づく締付け機構を使用することにより、電気エネルギーを機械的な締付け力に最適かつ直接的に変換することができる。他の実施形態では、例えば、電動DCモータを代わりに使用することができる。
【0033】
本発明の別の発展形によれば、ボーリングヘッドは、締付け力を能動的に調整するための、特にDCモータの形態の第2のモータを備える。第2のモータは、好ましくは、締付け要素によって刃具キャリアに加えられる力を能動的に調整するように構成されている。
【0034】
好ましい実施形態では、締付け要素は、締付けブラケットの形態を有し、締付けブラケットは、締付け機構の更なる締付け要素を少なくとも部分的に、好ましくは完全に取り囲み、第1の方向に沿った更なる締付け要素の伸長が、垂直な第2の方向に沿った締付けブラケットの収縮に変換されるようになっている。更なる締付け要素は、特に、既に述べたように、少なくとも1つのピエゾ素子であってよい。締付けブラケットの形態の締付け要素により、アイドル状態で刃具キャリアを締め付け、作動状態で刃具キャリアを解放する、比較的小さな寸法の締付け機構を実現することができる。
【0035】
別の好ましい実施形態では、締付け要素は、締付け機構の更なる締付け要素の伸長によって刃具キャリアから遠ざけられるように構成された締付けビームの形態を有する。更なる締付け要素は、特に、既に述べたように、少なくとも1つのピエゾ素子であってよい。締付けビームの形態の締付け要素により、特に大きな締付け力を実現することが可能である。締付けビームは、好ましくは締付け面を有し、有利には刃具キャリアが変位可能な方向に対して垂直な方向に延びる。締付けビームは、好ましくは、比較的剛性が低い少なくとも1つの部分と、比較的剛性が高い少なくとも1つの部分とを有する。剛性が低い部分は、好ましくは、締付けビームが旋回可能なヒンジを形成し、剛性が高い部分は、締付け面を有する。締付けビームは全体として、有利には、更なる締付け要素によって刃具キャリアに近づけられ得る又は刃具キャリアから遠ざけられ得るレバーアームである。
【0036】
また別の好ましい実施形態では、締付け機構は、刃具キャリアにかかる締付け力を生じさせるための1つ以上の楔を備える。
【0037】
好ましい一実施形態では、締付け機構は、締付け力を増加又は減少させるために、互いに近づけられ得る又は互いに遠ざけられ得る2つの楔を備える。2つの楔を移動させるために、好ましくは、楔を貫通し、楔の対応する雌ねじと噛み合うねじ付き軸が設けられ、この雌ねじは互いに反対方向に向けられている。ねじ付き軸は、有利には、モータ、特にDCモータによって駆動される。
【0038】
さらに好ましい実施形態では、締付け要素は、刃具キャリアの変位方向に対して平行に延びる締付け面を備え、締付け機構は、好ましくは、変位方向に対して垂直な方向に締付け要素にばね力を加えるばね要素をさらに備える。本実施形態では、締付け面は、好ましくは、ばね要素によって生じるばね力の方向に対して傾斜している。このようにして、ばね要素によって生じる力が、有利には、工具本体に対して刃具キャリアを締め付けるために、傾斜面によって刃具キャリアに方向転換される。
【0039】
締付け機構は、少なくとも2つのレバーを備え、レバーは、互いにヒンジ結合され、ばね要素によって締付け要素に加えられる力の方向とは反対の方向に締付け要素を変位させるために働くことができる。レバーを移動させるために、有利には、モータ、特にDCモータが設けられている。よって、締付け機構によって生じる締付け力は、レバーを介してモータによって能動的に調整することができる。
【0040】
締付け機構によって提供されるような締付け面は、保持力を向上させるために、好ましくは、刃具キャリアの外面に適合されている。
【0041】
ボーリングヘッドは、モータによって生じる回転運動を工具本体に対する刃具キャリアの変位に変換するために使用される駆動軸又は駆動スピンドルの回転位置を測定するための回転センサを備えてもよい。代替的又は付加的に、ボーリングヘッドは、工具本体に対する刃具キャリアの位置を測定するための位置センサを備えてもよい。中ぐり作業中の刃具キャリアの意図しない回転及び/又は変位を回転センサ及び/又は位置センサによって検出することができる。
【0042】
本発明の更なる発展形によれば、刃具キャリアの外面に直接作用する締付け機構の締付け面及び/又は刃具キャリアの外面、特に、締付け面が接触する刃具キャリアの外面は、刃具キャリアに対する締付け機構の保持力を向上させるために、好ましくは高摩擦コーティングを備える。このようにして、締付け機構の締付け効果を向上させることができる。
【0043】
本発明の別の更なる発展形によれば、刃具キャリア及び/又は工具本体は、工具本体に対する刃具キャリアの変位を容易にするために、低摩擦コーティングを備える。低摩擦コーティングを設けることにより、刃具キャリアを変位させるために、より小さな寸法のモータを採用することができる。
【0044】
本発明のまた別の更なる発展形によれば、刃具キャリア及び/又は工具本体は、特に中ぐり作業中に工具本体に対する刃具キャリアの変位を避けるために、刃具キャリアが工具本体に接触する領域に高摩擦コーティングを備える。刃具キャリアが工具本体に接触する領域に高摩擦コーティングを設けることは、締付け機構の要素同士の一定の遊びによって引き起こされる変位を避けるために、特に有利である。
【0045】
刃具キャリアの外面及び/又は工具本体に高摩擦コーティング及び/又は低摩擦コーティングを施すことは、使用される締付け機構の種類に左右されることなく、手動で変位可能な刃具キャリアを有するボーリングヘッドにさえ提供することができることが分かった。特に、上述したようなコーティングは、上述したような能動的な締付け機構と組み合わせて使用することができるだけでなく、例えば渦巻きばねだけに基づく受動的な締付け機構と組み合わせて使用することもできる。さらに、説明したようなコーティングは、刃具キャリアが、例えば1つ以上の固定ねじにより手動で締め付けられ、及び/又は、例えば調整ねじにより手動で変位させられるボーリングヘッドと組み合わせて使用することもできる。
【0046】
さらに、本発明は、ボーリングヘッド、特に上記のようなボーリングヘッドであって、
主回転軸を有し、中ぐり作業中に主回転軸周りで回転する工具本体と、
工具本体内又は工具本体上に配置され、工具本体に対して変位可能である刃具キャリアと、
中ぐり作業中に工具本体に対する刃具キャリアの変位を防ぐために、刃具キャリアにかかる締付け力を生じさせるための締付け要素を有する締付け機構と
を備え、
締付け機構は、刃具キャリアの外面に直接作用する締付け面を備える、
ボーリングヘッドにも向けられる。
【0047】
締付け機構の締付け面及び/又は刃具キャリアの外面は、締付け機構の保持力を向上させるために、高摩擦コーティングを備え、及び/又は、刃具キャリア及び/又は工具本体は、工具本体に対する刃具キャリアの変位を容易にするために、低摩擦コーティングを備え、及び/又は、刃具キャリア及び/又は工具本体は、工具本体に対する刃具キャリアの望ましくない変位を避けるために、高摩擦コーティングを備える。
【0048】
特に好ましいのは、刃具キャリアが高摩擦コーティングと低摩擦コーティングとの両方を備える実施形態である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】能動的な締付け機構を備えた本発明のボーリングヘッドの第1の実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図3に示す平面II-IIに沿った、
図1のボーリングヘッドの中央断面図である。
【
図3】
図2に示す平面III-IIIに沿った、
図1のボーリングヘッドの断面図である。
【
図4】能動的な締付け機構を備えた本発明のボーリングヘッドの第2の実施形態を示す斜視図である。
【
図5】
図4のボーリングヘッドを、電子ユニットのカバーを取り外して示す斜視図である。
【
図6】
図7に示す平面VI-VIに沿った、
図4のボーリングヘッドの中央断面図である。
【
図7】
図6に示す平面VII-VIIに沿った、
図4のボーリングヘッドの断面図である。
【
図8】
図6に示す平面VIII-VIIIに沿った、
図4のボーリングヘッドの断面図である。
【
図9】能動的な締付け機構を備えた本発明のボーリングヘッドの第3の実施形態を示す部分断面/部分側面図である。
【
図10】
図9に示す平面X-Xに沿った、
図9のボーリングヘッドの部分断面図である。
【
図11】本発明のボーリングヘッドの第4の実施形態の刃具キャリア及び能動的な締付け機構を示す斜視図である。
【
図13】本発明のボーリングヘッドの第5の実施形態の刃具キャリア及び能動的な締付け機構を示す斜視図である。
【
図14】
図13に示す締付け機構及び刃具キャリアの第1の側面図である。
【
図15】
図13に示す締付け機構及び刃具キャリアの第2の側面図である。
【
図16】
図13の組み込まれた締付け機構及び刃具キャリアを備えたボーリングヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の好ましい実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図面は、本発明の好ましい実施形態を例示するためのものであり、それを限定するためのものではない。
【0051】
図1~
図3は、能動的な締付け機構を有する本発明のボーリングヘッドの第1の実施形態を示し、
図4~
図8は、その第2の実施形態を示す。第1の実施形態により、特に大径の孔の加工が可能である一方、第2の実施形態により、加工される被加工物に大きな径方向力を加えることができる。能動的な締付け機構を備えたボーリングヘッドの第3の発明実施形態を
図9~
図10に、第4の発明実施形態を
図11及び
図12に、第5の発明実施形態を
図13~
図16に示す。
図1~
図16では、機能が同一又は類似の要素が、それぞれの場合で同じ参照符号によって指定されている。
【0052】
図1に示すように、好ましいボーリングヘッドの第1の実施形態は、本質的に円筒形の工具本体1を備える。工具本体1に取り付けられ、それと一体に作られるのは、締結栓体3である。締結栓体3も円筒形であるが、工具本体1よりも小径である。締結栓体3は、中央長手方向孔4と、長手方向孔4に交差する横方向孔5とを有する。ボーリングヘッドは、当業者に知られているような形式で、締結栓体によって中ぐり盤に固定されるように構成されている。中ぐり作業中、回転運動が中ぐり盤からボーリングヘッドに伝達され、ボーリングヘッドは、結果として主回転軸Rを中心に回転する。主回転軸Rは、円筒形の工具本体1の中央長手方向軸も成す。
【0053】
締結栓体3から離れる方向に向けられた工具本体1の端面に向かう領域に、工具本体1は、横方向開口2を有する(
図2参照)。横方向開口2は、主回転軸Rに対して垂直に延びる貫通孔である。横方向開口2内には、工具本体1に対して変位可能であるが、回転不能に刃具キャリア6が配置されている。刃具キャリア6は、概して、第1及び第2の端面を備えた円筒形の外形を有する。刃具キャリア6の円筒形の外形は、工具本体1の横方向開口2と相補的であるように設計されている。
【0054】
刃具キャリア6の第1の端面には、刃具16が取り付けられる。
図2に見られるように、刃具16は、スローアウェイ切削チップの形態である。刃具16を刃具キャリア6に取り付けるために、刃具取付部17が使用され、刃具取付部17自体は、締結ねじ18によって刃具キャリア6の第1の端面に取り付けられている。この目的のために、締結ねじ18は、刃具キャリア6の中心孔7に設けられた雌ねじにねじ込まれる。中心孔7は、第1の端面から第2の端面まで、刃具キャリア6の全体を通して中央に延びる。
【0055】
工具本体1に対して刃具キャリア6を横方向に変位させるために、刃具キャリア6の第2の端面の領域で工具本体1内にモータ9が配置されている。モータ9は、工具本体1に対して所定の位置に固定され、外側のステータ10及び内側のロータ11を備えた電動DCモータである。ロータ11は、刃具キャリア6の中心孔7内に延びる駆動軸12を有する。駆動軸12は、ナット8に設けられた雌ねじ山と係合する雄ねじ山を有する。ナット8は、刃具キャリア6の中心孔7内にトルクに耐えられるように固定されている。異なる実施形態では、ナット8が刃具キャリア6と一体に作られてもよい。よって、駆動軸12を回転させることにより、駆動軸12のねじ山とナット8のねじ山との相互係合により、刃具キャリア6を横方向開口2内で横方向に変位させることができる。
【0056】
刃具キャリア6を横方向に変位させることにより、ボーリングヘッドは、異なる中ぐり径に調整することができ、また、中ぐり作業中に刃具16の摩耗を補償することができる。
【0057】
モータ9に電気エネルギーを供給するために、1つ以上のバッテリ22がバッテリ区画21に配置されている。バッテリ区画21は、締結栓体3と横方向開口2との間に配置され、工具本体1に設けられた側方開口からアクセス可能である。バッテリ区画21への開口は、カバー23によって閉じることができる。
【0058】
ロータ11の回転位置を検出するために、回転センサ13が設けられている。この目的のために、ロータ11は、工具本体1に対して固定されたデコーダプリント回路基板(PCB)に直接隣接して配置されたデコーダ磁石を有する。代替的又は付加的に、工具本体1に対する刃具キャリア6の変位位置を測定するために、位置センサが設けられてもよい。
【0059】
モータ9は、工具本体1の更なる側方開口からアクセス可能である。この開口は、カバー15によって閉じることができる。回転センサ13は、モータ9とカバー15との間に配置されている。
【0060】
中ぐり作業中の刃具キャリア6の変位を防ぐために、締付け機構26が、工具本体1の締付け区画24内に設けられている。
図2及び
図3に示す締付け機構26は、刃具キャリア6と締結栓体3との間の領域に配置されている。締付け区画24は、工具本体1に設けられた側方開口を介してアクセス可能である。この側方開口は、カバー25によって閉じることができる。
【0061】
締付け機構26は、ピエゾ素子のスタック28の形態の能動要素を備える。ピエゾ素子のスタック28は、電圧が加えられると、長手方向に伸長する。ピエゾ素子のスタック28が伸長できる方向は、刃具キャリア6の変位方向に対して平行に延びる平面内にある。本実施形態では、ピエゾ素子のスタック28の伸長方向は、刃具キャリア6の変位方向に対して垂直な方向であるが径方向ではない方向に延びる。
【0062】
図3に示すように、ピエゾ素子のスタック28は、ピエゾ素子のスタック28を完全に取り囲む締付けブラケット27内に配置されている。締付けブラケット27内のピエゾ素子のスタック28の配置は、ピエゾ素子のスタック28がその長手方向に沿って伸長すると、締付けブラケット27が同じ方向に伸長するようになっている。ピエゾ素子のスタック28の長手方向に沿った締付けブラケット27の伸長により、刃具キャリア6の変位方向に対して垂直な方向、すなわち径方向に沿った締付けブラケット27の収縮が生じる。締付けブラケット27が収縮するこの径方向は、締付け方向である。ピエゾ素子のスタック28と締付けブラケット27との両方が、締付け機構26の締付け要素である。よって、締付け機構26の非作動状態では、すなわちピエゾ素子のスタック28に電圧が加えられていない状態では、締付けブラケット27が、刃具キャリア6の外面に締付け力を作用させる。よって、締付けブラケット27には予荷重が加えられている。この締付け力によって、刃具キャリア6は、締付けブラケット27と、工具本体1の横方向開口2の範囲を画定する内面との間で締め付けられ、結果として、工具本体1に対する刃具キャリア6の変位が防止される。締付け機構26は、ピエゾ素子のスタック28に電圧を加えることによって作動状態になる。この電圧を加えた結果として、締付けブラケット27が刃具キャリア6の径方向に沿って収縮し、刃具キャリア6が締付け機構26によって解放され、工具本体1に対する変位が可能になる。
【0063】
締付けブラケット27と刃具キャリア6の外面との間には、取付けねじ39によって締付けブラケット27に取り付けられた締付けパッド30が設けられている。締付けパッド30は、刃具キャリア6の円筒形の外面に直接接触する締付け面31を有する。
【0064】
図3から分かるように、締付け面31は、刃具キャリア6の外面と相補的な丸みを帯びた形状を有する。このようにして、締付けパッド30と刃具キャリア6との間の摩擦を高めることができる。
【0065】
締付け機構26の締付け力を調整するために、調整機構32が設けられている。調整機構32は調整楔34を有する。締付けブラケット27は、この調整楔34と刃具キャリア6との間に配置されている。調整楔34は、工具本体1内で径方向に変位可能であり、調整楔34の位置に応じて、締付けブラケット27によって生じる締付け力が大きくなったり小さくなったりする。締付けブラケット27に対する調整楔の位置は、調整ねじ33及びカウンターねじ35によって調整することができる。調整楔34と締付けブラケット27との間には、取付けねじ38によって締付けブラケット27に取り付けられた調整円筒体36が設けられている。調整円筒体36は、調整ブラケット37内に配置されている。調整円筒体36を固定するために、側方ねじ40が側方から調整ブラケット37を通してねじ込まれている(
図2)。側方ねじ40は、カバー25を外せば、外部からアクセス可能である。
【0066】
モータ9及び締付け機構26を制御するために、電子ユニット19が工具本体1内に設けられている(
図1参照)。電子ユニット19は、プリント回路基板(PCB)の形態であり、例えば、プロセッサ及びデータ記憶モジュールを少なくとも備える。電子ユニット19は、工具本体1の側方開口を介してアクセス可能である。この側方開口は、カバー20によって閉じることができる(
図3)。電子ユニット19は、デスクトップコンピュータやタブレットコンピュータ、スマートフォンやスマートウォッチなどの外部デバイスとの間でデータ及び/又は制御信号を送受信するために、無線ユニットを備え得る。伝送は、例えば、Bluetooth規格によって行うことができる。
【0067】
本発明のボーリングヘッドの第2の実施形態を
図4~
図8に示し、以下で説明する。
【0068】
図1~
図3の実施形態と比較して、
図4~
図8の実施形態は、小径の孔の加工に適合されている。
【0069】
図4~
図8から分かるように、この実施形態によるボーリングヘッドも、締結栓体3を備えた工具本体1と、径方向に変位可能な円筒形の刃具キャリア6が内部に配置される横方向開口2とを備える。
図1~
図3の実施形態とは対照的に、本実施形態では、刃具が、刃具キャリア6の端面に取り付けられず、刃具ホルダを介して、刃具キャリア6を通って主回転軸Rに沿って延びるホルダ取付孔41に取り付けられる(
図6参照)。なお、
図4~
図8には、刃具ホルダ及び刃具を示していない。この目的のために、刃具ホルダは、締結栓体3とは反対側に配置される工具本体1の面に設けられた中央開口を介してホルダ取付孔41に導入される円筒形の棒状部品を有する。刃具ホルダを刃具キャリア6に固定するために、刃具キャリア6の一端にねじ込まれた締結ねじ42が設けられている。刃具キャリア6のそれぞれの端部は、カバー43によって閉じることができる。
【0070】
図4~
図8に示すようなボーリングヘッドは特に、加工部品に径方向の大きな切削力を加えるように構成されている。中ぐり作業中に刃具及び加工部品を冷却するために、ボーリングヘッドを通して刃具に冷却液を供給することができる。この目的のために、長手方向孔4は、締結栓体3と工具本体1との両方を通って延びている。中ぐり作業中の冷却液の流出を防ぐために、ボーリングヘッド内には、複数の対応するシールが設けられている。
【0071】
別の実施形態では、工具本体1は、刃具に冷却液を導くために、締結栓体3から工具本体1の端面まで刃具キャリア6の外側に延びる付加的な貫通路を有することもできる。工具本体1に別個の貫通路を設けることで、可動部品間のシールが少なくて済むという利点がある。さらに、中心に配置される長手方向孔4の代わりに、(偏心して配置された)貫通路を通して冷却液を導くことで、ピエゾ素子のスタック28を、中心に、すなわち、主回転軸Rに交差するように配置することができ、これにより、ボーリングヘッドの動作中にピエゾ素子のスタック28に作用する遠心力が最小限に抑えられるという更なる利点がもたらされる。
【0072】
横方向開口2内で刃具キャリア6を径方向に変位させるためのより大きな力を実現するために、本実施形態では、モータ9が、その回転軸が刃具キャリア6の変位方向に対して垂直に延びるように配置されている。結果として、モータ9は、工具本体1の範囲内で締結栓体3と横方向開口2との間の領域に配置されるので、比較的大きな寸法を有することができる。その上、この場合にはウォーム歯車である歯車を設けることにより、より大きな変位力が実現される。ウォーム歯車は、ウォームねじ44及びウォームホイール49を含む。
【0073】
図7に示すように、モータ9の駆動軸12には、トルクに耐えられるように第1の駆動スピンドル45が取り付けられている。第1の駆動スピンドル45は、工具本体1の主回転軸Rに対して平行に延びる。トルクに耐えられるように第1の駆動スピンドル45に取り付けられるのは、ウォームねじ44である。もちろん、第1の駆動スピンドル45とウォームねじ44とを一体に作ることもできる。第1の駆動スピンドル45及びウォームねじ44は、支持管47内に配置されている。第1の駆動スピンドル45を保持するために、複数の軸受51が支持管47内に設けられている。
【0074】
ウォームねじ44は、トルクに耐えられるように第2の駆動スピンドル46に取り付けられたウォームホイール49と係合する。もちろん、第2の駆動スピンドル46とウォームホイール49とを一体に製作することも可能である。第2の駆動スピンドル46は、歯車ハウジング50内に配置された複数の軸受48と、スピンドル締結ディスク53とによって保持されている。スピンドル締結ねじ54は、スピンドル締結ディスク53を通って第2の駆動スピンドル46の端部に達する。歯車ハウジング50は、工具本体1の横方向開口2に挿入される。
【0075】
トルクに耐えられるように第2の駆動スピンドル46に取り付けられるのは、ナット8である。ナット8は、第2の駆動スピンドル46と一体に作ることもできる。ナット8は、刃具キャリア6の中心孔に設けられた雌ねじ山と係合する雄ねじ山を有する。よって、モータ9によって生じる回転が、第1の駆動スピンドル45に伝達され、ウォーム歯車44,49を介して第2の駆動スピンドル46に伝達され、第2の駆動スピンドル46からナット8に伝達される。ナット8と刃具キャリア6とのねじ係合によって、ナット8の回転により、横方向開口2内での刃具キャリア6の変位が生じる。
【0076】
モータ9が配置された工具本体1の区画と、歯車ハウジング50及びウォーム歯車44,49が配置された横方向開口2の側方領域とは、工具本体1に設けられた共通の側方開口を介してアクセス可能である。この開口は、カバー52によって閉じることができる。カバー52は、スピンドル締結ディスク53を保持するためにも働く。
【0077】
図4~
図8の実施形態で使用されるような締付け機構26は、
図8に特によく見ることができる。
図1~
図3の実施形態の締付け機構26と同様に、本締付け機構も、電圧が加えられると伸長するピエゾ素子のスタック28を含む。しかし、刃具キャリア6に締付け力を作用させるために、締付けブラケット27の代わりに、本実施形態では締付けビーム55が設けられている。締付けビーム55は、比較的低い剛性の端部分を有し、これは、それぞれの部分における締付けビーム55のより薄い設計によって実現されている。締付けビーム55のこの端部分は、取付けねじ56によって工具本体1に取り付けられている。締付けビーム55は全体として、その端部分を中心に刃具キャリア6に対して旋回可能なレバーを形成する。締付けビーム55は、刃具キャリア6の円周に沿って、言い換えれば、刃具キャリア6の変位方向と径方向との両方に対して直交する方向に沿って延びている。
【0078】
締付けビーム55は、締付け機構26の非作動状態において、刃具キャリア6の円筒形の外面に直接当接する丸みを帯びた締付け面31を有する。結果として、刃具キャリア6は、中ぐり作業中の工具本体1に対する刃具キャリア6の変位を防ぐために、締付けビーム55と工具本体の横方向開口2の内面との間で締め付けられる。
【0079】
前述した実施形態と同様に、締付け面31の半径は、刃具キャリア6の外面に適合する。
【0080】
締付け機構26を作動させるために、電子ユニット19によって、ピエゾ素子のスタック28に電圧が加えられる。その結果、ピエゾ素子のスタック28は、伸長し、締付けビーム55を刃具キャリア6から遠ざけるように押す。ピエゾ素子のスタック28は、締付けビーム55が取付けねじ56によって工具本体1に取り付けられる端部領域とは反対側の端部領域で締付けビーム55を押す。
【0081】
ピエゾ素子のスタック28は、一端で締付けビーム55に固定的に取り付けられている。締付け機構26、特に締付けビーム55へのアクセス性は、工具本体1に設けられた側方開口によって与えられる。開口は、カバー25によって閉じることができる。カバー25又は工具本体1の内面と締付けビーム55との間には、ばね57及び第1の調整ナット58を設けることができる。ばね57は、締付け機構26の非作動状態において、刃具キャリア6に対する締付けビーム55の締付けを支援するように配置されている。ピエゾ素子のスタック28の反対側の端部と工具本体1又は更なるカバー60の内面との間には、第2の調整ナット59を設けることができる。調整ナット58,59により、刃具キャリア6に作用する締付け機構26の締付け力を調整することができる。
【0082】
刃具キャリア6に対する締付けビーム55の保持力を向上させるために、締付け面31及び/又は刃具キャリア6の外面の対応する部分は、好ましくは、高摩擦コーティング61を有する。高摩擦コーティング61は、好ましくは、溶射、特に大気圧プラズマ溶射によって、締付けビーム55及び/又は刃具キャリア6に施される。高摩擦コーティング61のための特に好ましい材料は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化チタン(TiO
2)、又はこれらの材料の組み合わせである。高摩擦コーティングは、好ましくは、
図1~
図3に示すような実施形態によるボーリングヘッドの締付けパッド30の締付け面31及び/又は刃具キャリア6の外面の対応する部分にも設けられている。
【0083】
工具本体1に対する刃具キャリア6の変位可能性を向上させるために、刃具キャリア6及び/又は工具本体1の対応する接触面は、好ましくは、低摩擦コーティング62を有する。低摩擦コーティング62のための特に好ましい材料は、タングステンを含む材料、特に、炭素と水素のマトリックスにタングステンを含む介在物を伴う材料であり、例えば、Oerlikon Balzers Coating S.A.(Bruegg,Switzerland)のBalinit(登録商標)Cなどである。低摩擦コーティング62は、好ましくは、スパッタリング成膜プロセスによって、特に反応性(カソード)スパッタリング、すなわち物理的蒸着(PVD)スパッタリングによって、刃具キャリア6及び/又は工具本体1に施される。コーティング材料がタングステンを含む場合、反応性ガスは、好ましくは炭素を含む。低摩擦コーティングは、好ましくは、
図1~
図3に示すような実施形態によるボーリングヘッドの刃具キャリア6の外面及び/又は工具本体1の対応する接触面にも設けられている。
【0084】
代替的に、コーティング62は、高摩擦コーティングとすることもできる。刃具キャリア6及び/又は工具本体1に高摩擦コーティング62を施すことは、ボーリングヘッドの動作中に工具本体1に対する刃具キャリア6の望ましくない変位を避けるために有利であり得る。このような望ましくない変位は、例えば、工具本体1内での締付け機構26の要素同士の一定の遊びによって引き起こされることがある。高摩擦コーティング62のための特に好ましい材料は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、又はこれらの組み合わせである。
【0085】
本発明のボーリングヘッドの第3の実施形態を
図9及び
図10に示す。工具本体1に対して刃具キャリア6を変位させる原理は、
図1~
図3に示す実施形態の原理と同様であるが、締付け機構26の原理は、
図4~
図8に示す実施形態の原理と同様である。
【0086】
図9に見られるように、刃具キャリア6は、主回転軸Rに沿って延びかつ刃具を備えた棒状の刃具ホルダを取り付けるためのホルダ取付孔41を有する。刃具キャリア6を横方向に変位させるために、ステータ10及びロータ11を備えたモータ9が、刃具キャリア6の端面近くで工具本体1の横方向開口2内に配置されている。雌ねじを備えたナット8が、トルクに耐えられるように刃具キャリア6の中心孔内に固定されている。
図1~
図3の実施形態と同様に、モータ9の回転運動は、ナット8の雌ねじと係合するねじ付き駆動軸を介して、刃具キャリア6の径方向の変位に変換される。
【0087】
本実施形態の締付け機構26を
図10に示す。
図8の実施形態と同様に、締付けビーム55は、締付け状態において刃具キャリア6に直接接触する締付け要素として働く。締付けビーム55は、第1の端部で、工具本体1の端面近くの領域において取付けねじ56によって工具本体1に取り付けられている。締付けビーム55の第2の端部は、ばね57によって、締付けビーム55の丸みを帯びた締付け面31が刃具キャリア6に押し付けられるように付勢されている。締付け力を解放するためには、刃具キャリアの変位方向に対して垂直な方向に延びるピエゾ素子のスタック28を作動させることができ、これにより、締付けビーム55が刃具キャリア6から遠ざかるように押される。
【0088】
本実施形態では、ピエゾ素子のスタック28が、2つの板ばねの間に配置され、板ばねは、ピエゾ素子のスタック28の長手方向延在長さの全体に沿って側方に延びる。もちろん、板ばねは、例えば単一のコイルばねによって置き換えることもできる。板ばねは、ピエゾ素子のスタック28に予荷重を作用させるために働く。このようにして、特にピエゾ素子の非作動状態において、ピエゾ素子のスタック28の望ましくない動きを避けることができる。
【0089】
図11~
図12は、本発明のボーリングヘッドの第4の実施形態による締付け機構26を示す。
【0090】
工具本体1に対して刃具キャリア6を径方向に変位させるためのモータは、
図11及び
図12に示していない。刃具キャリア6を変位させる原理は、
図1~
図10の各実施形態に関して示したような原理のいずれかに従うことができる。
図13~
図16に示す実施形態に関しても同様である。
【0091】
ボーリングヘッドの動作中に望ましくない変位を防ぐために、刃具キャリア6を締め付ける目的で、締付け機構26は、締付けジョー67,68を有する(
図11参照)。締付けジョー67,68は、両者間に隙間が形成されるように、互いに平行に配置されている。第1の締付けジョー67は、工具本体1の内面(
図11及び
図12には示していない)に当接し、第2の締付けジョー68は、刃具キャリア6の凹部75内の外面に当接している。
【0092】
図12に見られるように、締付けジョー67,68は、隙間の方を向いた傾斜面を有する。傾斜面は、締付けジョー67,68の間の隙間が、主回転軸Rに対して平行に延びる軸線に沿って中央から互いに反対方向へと広がるように形成されている。よって、
図12に示すような断面図では、締付けジョー67,68の間に形成されている隙間は、互いに反対方向へと広がる狭い中央部分を有する互いに向かい合う2つの楔の形状である。
【0093】
トルクに耐えられるようにコネクタ65を介してDCモータ63の駆動軸64に取り付けられるねじ付き軸66が、主回転軸Rに対して平行な方向に、締付けジョー67,68の傾斜面の間に形成された隙間を通って延びている。締付けジョー67,68の間には、2つの楔69,70が配置され、楔69,70を通ってねじ付き軸66が延びている。楔69,70は、締付けジョー67,68の間の隙間の狭い中央部分の上下に、それらの外形が隙間と同じ方向に広がるように配置されている。楔69,70はそれぞれ、ねじ付き貫通穴を有する。楔69,70の雌ねじは、互いに反対方向を向いている。楔69,70のねじ山と噛み合う対応する雄ねじ山が、ねじ付き軸66に設けられている。
【0094】
よって、第1の楔69が例えば左ねじであり、第2の楔70が右ねじであることで、ねじ付き軸66の第1の方向への回転により、楔69,70は互いに近づき、ねじ付き軸66の別の第2の方向への回転により、楔69,70は互いに遠ざかる、すなわち締付けジョー67,68によって形成される隙間の狭い中央部分から遠ざかることになる。第1の場合、すなわち、楔69,70が互いに遠ざかると、締付けジョー67,68が互いに近づくことができ、刃具キャリア6にかかる締付け圧力が解放される。第2の場合、すなわち、楔69,70が互いに近づくと、締付けジョー67,68が互いに遠ざかるように押され、それにより、第1の締付けジョー67が工具本体1の内面に押し付けられ、第2の締付けジョーが刃具キャリア6に押し付けられる。よって、ねじ付き軸66を回転させるためにDCモータ63を作動させることにより、刃具キャリア6にかかる締付け力を増加又は減少させることができる。ねじ付き軸66を回転させるためには、(
図11及び
図12には示していない)バッテリなどの電源からDCモータ63へのエネルギーの流れが必要である。ねじ付き軸66の自由端は、玉軸受72に保持されている。
【0095】
ねじ付き軸66の回転中に楔69,70と締付けジョー67,68との間の摩擦を最小限に抑えるために、好ましくは、針状ころ軸受71が、締付けジョー67,68の傾斜面と対応する楔69,70の傾斜面との間に設けられている。針状ころ軸受71は、ストッパ要素73によって締付けジョー67,68の間の隙間に保持されている。
【0096】
締付けジョー67,68のより良好な案内のために、また締付けジョー67,68が締付け状態で動かなくなることを避けるために、一定の弾性を有し、隙間の狭い中央部分の領域で2つの締付けジョー67,68を取り囲む、引戻しストリップ74を設けることができる。さらに、締付けジョー67,68の適切な位置合わせを確保するために、ガイドピンを設けることができる。本実施形態では、ねじ付き軸66の各側で2つの引戻しストリップ74の間にガイドピンが配置されている。ガイドピンは、第2の締付けジョー68に取り付けられ、第1の締付けジョー67に設けられた開口を通って延びている。
【0097】
図4~
図8に示す実施形態と同様に、第2の締付けジョー68には、その外面が刃具キャリア6に接触する領域に高摩擦コーティング61を施すことができる。このようにして、締付け効果を向上させることができる。刃具キャリア6の外面が工具本体1に接触する領域、特に第2の締付けジョー68とは反対側の領域には、刃具キャリア6及び/又は工具本体1に高摩擦コーティング又は低摩擦コーティング62を設けることができる。
【0098】
楔69,70及び締付けジョー67,68の傾斜面を設けるとともに、ねじ付き軸66と楔69,70との間のねじ係合により、比較的小型のDCモータ63によって、刃具キャリア6に比較的大きな締付け力を作用させることができる。締付け力は、DCモータ63が非動作状態である限り維持される。
【0099】
図13~
図16に示すような本発明のボーリングヘッドの第5の実施形態では、締付け力が能動的に調整可能である能動的な締付け機構26の更なる変形例を示す。
【0100】
締付け機構26は、締付け状態で刃具キャリア6と直接接触する締付け要素を形成する締付け片81を含む。締付け片81は、刃具キャリア6の変位方向に対して平行に延び、刃具キャリア6の円筒形の周面に形成された凹部75の領域に配置された、平坦な締付け面31を有する。
図15及び
図16に見られるように、凹部75の平坦面及び締付け片81の平坦面は、両方とも工具本体1の主回転軸Rに対して傾斜している。その傾斜した面によって、締付け片81は全体として楔を形成する。コイルばね82が、締付け片81の端面に取り付けられ、それにより、締付け片81が、締結栓体3に向かう方向に主回転軸Rに沿って押圧されるようになっている。主回転軸Rに対する締付け面31の傾斜によって、締付け片81は、ばね82によって刃具キャリア6に押し付けられる。このようにして、刃具キャリア6は、締付け片81と、刃具キャリア6の締付け片81とは反対側における工具本体1の内面との間で締め付けられる。言い換えれば、凹部75及び締付け片81の平坦な接触面の傾斜により、締付け片81と刃具キャリア6の反対側にある工具本体1の内面との間で刃具キャリア6を締め付けるため、ばね82の力の方向変換が生じる。
【0101】
傾斜した締付け面31を考慮して、締付けプロセスにおける刃具キャリア6のその長手方向軸を中心とする望ましくない回転を防ぐために、回転防止ボルト83が設けられている。回転防止ボルト83は平坦な面で、凹部75内に設けられた刃具キャリア6の平坦な外面に接触して位置している(
図13及び
図14参照)。
【0102】
前後に説明した全ての実施形態と同様に、工具本体1に対する刃具キャリア6の望ましくない変位をさらに避けるために、締付け片81及び/又は刃具キャリア6の接触面に高摩擦コーティング61を施すことができる。例えば、締付け機構26の要素同士の不可避な一定の遊びを考慮して、工具本体1に対する刃具キャリア6の望ましくない変位も避けるために、又は、例えば、中ぐり径を調整するときに、刃具キャリア6の変位を容易にするために、締付け片81の反対側にある刃具キャリア6及び工具本体1の接触面の一方又は両方が、高摩擦コーティング又は低摩擦コーティング62を有していてもよい。
【0103】
締付け力を解放するために、トルクに耐えられるようにねじ付き軸66に取り付けられた駆動軸64を有するDCモータ63が設けられている。ねじ付き軸66は、DCモータ63の回転により、刃具キャリア6の変位方向に対して平行に接続片76の変位が生じるように、接続片76の雌ねじと係合する。第1のレバー78は、第1の端部で接続片76に、第2の端部で締付け片81にそれぞれヒンジ結合されている。第1のレバー78のほぼ中央にヒンジ80が設けられ、ヒンジ80において、第2のレバー79の第1の端部が第1のレバー78に旋回可能に取り付けられている。第2のレバー79の第2の端部は、工具本体1に固定的に取り付けられた取付け部分77に旋回可能に取り付けられている。締付け片81がその解放状態にある場合、第1のレバー78及び第2のレバー79の両方は、刃具キャリア6の変位方向に対して垂直な方向に延び、工具本体1の主回転軸Rに対してほぼ平行に延びる。
【0104】
使用時に、接続片76がDCモータ63から(
図14では右に)遠ざけられると、締付け片81が、レバー78,79によって主回転軸Rに沿って締結栓体3の方に引き寄せられ、その結果、その傾斜した接触面を刃具キャリア6に接触させる。このようにして、締付け力が増大する。DCモータ63によって接続片76がDCモータ63に向かって(
図14では左に)移動させられると、レバー78,79によって締付け片81がばね82の方に押し下げられ、刃具キャリア6の締付けが解放される。このように、2つのレバー78,79は、接続片76の変位が主回転軸Rに沿った締付け片81の変位に変換されるように、一緒に「ひざ継手」として機能する。
【0105】
以上の説明から分かるように、
図13~
図16の実施形態の締付け機構26により、刃具キャリア6に作用する締付け力を、DCモータ63によって能動的に調整することができる。DCモータ63がアイドル状態であれば、締付け力は変化しない。
【0106】
レバー78,79を設けるとともに、ねじ付き軸66と接続片76との間のねじ係合により、比較的小さなDCモータ63によって、(ばね82の力に抗して)比較的大きな反力を締付け片81に作用させることができる。
【0107】
もちろん、本発明は、先に提示した実施形態に限定されるものではなく、複数の変更が可能である。例えば、ピエゾ素子のスタック28は、それぞれの実施形態の全てで、例えばDCドライブによって容易に置き換えることができる。工具本体1に対する刃具キャリア6の変位可能性は、必ずしも横方向でなくてもよく、主回転軸Rに対して平行とすることもできる。さらに、刃具キャリア6を変位させるために、モータ9は必ずしも電動モータでなくてもよく、例えば、圧電モータ又は液圧モータの形態とすることもできる。バッテリ22の代わりに、例えば、摺動接点又は誘導エネルギー伝達によって締付け機構に必要な電気エネルギーを供給するために、電気メイングリッドを使用することができる。更なる複数の変更が可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 工具本体
2 横方向開口
3 締結栓体
4 長手方向孔
5 横方向孔
6 刃具キャリア
7 中心孔
8 ナット
9 モータ
10 ステータ
11 ロータ
12 駆動軸
13 回転センサ
15 カバー
16 刃具
17 刃具取付部
18 締結ねじ
19 電子ユニット
20 カバー
21 バッテリ区画
22 バッテリ
23 カバー
24 締付け区画
25 カバー
26 締付け機構
27 締付けブラケット
28 ピエゾ素子のスタック
30 締付けパッド
31 締付け面
32 調整機構
33 調整ねじ
34 調整楔
35 カウンターねじ
36 調整円筒体
37 調整ブラケット
38 取付けねじ
39 取付けねじ
40 側方ねじ
41 ホルダ取付孔
42 締結ねじ
43 カバー
44 ウォームねじ
45 第1の駆動スピンドル
46 第2の駆動スピンドル
47 支持管
48 軸受
49 ウォームホイール
50 歯車ハウジング
51 軸受
52 カバー
53 スピンドル締結ディスク
54 スピンドル締結ねじ
55 締付けビーム
56 取付けねじ
57 ばね
58 調整ナット
59 調整ナット
60 カバー
61 高摩擦コーティング
62 高摩擦コーティング又は低摩擦コーティング
63 DCモータ
64 駆動軸
65 コネクタ
66 ねじ付き軸
67 締付けジョー
68 締付けジョー
69 左ねじ楔
70 右ねじ楔
71 針状ころ軸受
72 玉軸受
73 ストッパ要素
74 引戻しストリップ
75 凹部
76 接続片
77 取付け部分
78 第1のレバー
79 第2のレバー
80 ヒンジ
81 締付け片
82 ばね
83 回転防止ボルト
R 主回転軸