(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】酸化ニオブ粉末
(51)【国際特許分類】
C01G 33/00 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
C01G33/00 A
(21)【出願番号】P 2022044331
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2024-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2021060412
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】元野 隆二
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
(72)【発明者】
【氏名】荒木 孝文
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-292234(JP,A)
【文献】特開2005-289692(JP,A)
【文献】特開2004-143009(JP,A)
【文献】特開2005-247601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ニオブ粒子のメディアン径D50(N)と、前記酸化ニオブ粒子に
周波数28kHz、出力100W、60分間の条件で超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との比D50(N)/D50(U)が5以下であ
り、
前記酸化ニオブ粒子の比表面積SSAが0.4m
2
/g以下であり、
ゆるみ嵩密度ADとかため嵩密度TDとに基づき算出された圧縮度が25%以下であり、
前記メディアン径D50(U)が5μm以上120μm以下であることを特徴とする酸化ニオブ粉末。
【請求項2】
前記圧縮度が20%以下であることを特徴とする請求項
1に記載の酸化ニオブ粉末。
【請求項3】
請求項1、又は2に記載した酸化ニオブ粉末の製造方法であって、
ニオブが溶解した溶解液を溶媒抽出し得られたニオブ精製液に超純水を添加し、得られたニオブ希釈液を、アルカリ性水溶液に添加する逆中和法により、ニオブを含有する沈殿スラリーを生成することを特徴とする酸化ニオブ粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ニオブ希釈液が添加されるアルカリ性水溶液のpHが10以上であることを特徴とする請求項
3に記載の酸化ニオブ粉末の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ性水溶液が、アンモニア水であることを特徴とする請求項
3に記載の酸化ニオブ粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ニオブ粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ニオブ粉末は、ニオブ酸リチウム(LN)等の単結晶、蒸着ペレット、またはスパッタリングターゲット等の薄膜形成材料、光学製品、またはファインセラミックなどの原料等として広く用いられている。そして、酸化ニオブ粉末は、流動性や均一混合性が良いことが要求されている。また、一部の用途を除けば、低温での焼結しやすさや酸化ニオブ粉末以外の粉末との低温での反応のしやすさが要求されている。
【0003】
従来、上述した用途に用いられる酸化ニオブ粉末としては、例えば、平均粒径が2.0μm以下、且つBET法比表面積が5.0m2/g以上といった、比較的粒径が小さく比表面積が大きな酸化ニオブ粉末が用いられていた(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された酸化ニオブ粉末は、かため見掛け密度(TD)が0.5g/mL以下であることから、非常に嵩高(低嵩密度)であったため、凝集しやすく、流動性は満足できるレベルではなかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、流動性に優れた酸化ニオブ粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の酸化ニオブ粉末は、酸化ニオブ粒子のメディアン径D50(N)と、前記酸化ニオブ粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との比D50(N)/D50(U)が5以下であることを特徴とする。
先ず、本発明における酸化ニオブとは、一般式Nb
2O
5(五酸化ニオブ)で表されるものであるが、その酸化数の違いによる種々の酸化物も包含し、その化合物単独や、その水和物、またそのアンモニウム塩であっても包含し得るものである。
酸化ニオブ粒子のメディアン径D50(N)と、前記酸化ニオブ粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との比D50(N)/D50(U)(D50比ともいう。)が5以下であると、超音波処理の有無による平均粒径の変化が小さく、酸化ニオブ粒子が相互に融着した構造を有している。一次粒子が相互に融着した融着構造(
図1を参照)を有すると凝集が抑えられ、その結果、D50比が下限値の1、すなわち超音波分散による凝集体の分散がない状態に近づくことになる。このように融着構造を有することにより、凝集体の形成が抑制され、流動性に優れることになり、スパッタリングターゲット等の薄膜形成材料、光学製品、またはファインセラミックなどの原料として好適である。したがって、D50比は、1以上5以下であると好ましい。ここで、D50比が1とは、超音波分散による凝集体の分散が全くない理想の状態を示しているから、D50比が1に限りなく近いほどよく、例えば1.1以上や、1.2以上であってもよい。また、D50比が3以下であるとより好ましく、2以下であるとさらに好ましく、1.5以下であると特に好ましい。一方、D50比が5を超えると、上述した融着構造が十分に形成することができず、超音波照射により大きく分散するような過度な凝集体を形成していることから、流動性の低下を招いている。
【0008】
ここで、D50は体積分率にして50%に至る粒子径を示している。本発明では、粒度分布の評価方法は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製:MT3300EXII)を用いて、JIS Z 8828:2019に準じた動的光散乱法により行うものである。また、フィルタリングは行なわず、次のような超音波を用いた分散処理を実施する。
【0009】
具体的には、酸化ニオブ粒子のメディアン径D50(N)は、酸化ニオブ粉末に対し、超音波による分散処理を行わずに粒度評価を行ったメディアン径である。なお、酸化ニオブ粒子のメディアン径D50(N)は、後述する周波数、超音波照射時間未満の超音波による分散処理が行われた酸化ニオブ粒子のメディアン径D50も含まれる。一方、酸化ニオブ粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)は、酸化ニオブ粉末に対し、超音波による分散処理を行った直後に粒度評価を行ったメディアン径である。具体的に、超音波による分散処理の手順は、次の通りである。先ず、超音波による分散処理の前処理として、試料粉1mg、純水20mLを容量50mLのPP製広口瓶に投入し、当該PP製広口瓶を超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にセットする。次に、当該洗浄機の槽内床面から上5cmまでを純水で満たした状態で、周波数28kHz、出力100Wで、60分間に亘って超音波による分散処理を実施する。
【0010】
また、本発明の酸化ニオブ粉末は、前記酸化ニオブ粒子の比表面積SSAが1m2/g以下であることを特徴とする。
酸化ニオブ粒子の比表面積SSAが1m2/g以下であると、酸化ニオブ粒子が相互に融着した構造をとることから、比表面積SSAが小さくなる傾向があり、特に1m2/g以下であると、粒子間の付着力がより低減され、凝集体の形成を抑制することができるため、流動性が向上する点で好ましい。ここで、酸化ニオブ粒子の比表面積SSAの測定方法は、JIS R 1626-1996(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)の「6.2 流動法の(3.5)一点法」に準拠して測定を実施する。その際、キャリアガスであるヘリウムと、吸着質ガスである窒素の混合ガスを使用する。なお、酸化ニオブ粒子の比表面積SSAの下限値は、0m2/g超過である。酸化ニオブ粒子の比表面積SSAは、酸化ニオブ粒子がより多くの融着構造を形成するほど小さい値となり、例えば0.1m2/gや、0.2m2/gであってもよい。
【0011】
また、本発明の酸化ニオブ粉末は、比表面積SSAが0.4m2/g以下であることを特徴とする。
酸化ニオブ粒子の比表面積SSAが0m2/g超過0.4m2/g以下であると、上述するように、流動性がさらに向上する点で好ましい。また、酸化ニオブ粒子の比表面積SSAが0.3m2/g以下であるとより好ましい。
【0012】
また、本発明の酸化ニオブ粉末は、ゆるみ嵩密度ADとかため嵩密度TDとに基づき算出された圧縮度が25%以下であることを特徴とする。さらに、本発明の酸化ニオブ粉末は、圧縮度が20%以下であることを特徴とする。
ゆるみ嵩密度ADとかため嵩密度TDとに基づき算出された圧縮度が小さいほど、本発明の酸化ニオブ粉末がホッパーに投入された際、圧力が負荷された状態であっても凝集しにくいことから、ホッパーの壁に張り付きづらく、高い流動性を維持することができるため好ましい。具体的には、圧縮度が25%以下であると好ましく、20%以下であるとより好ましく、18%以下であるとさらに好ましい。ここで、圧縮度は理論上0%が理想ではあるが、10%以上や、15%以上であってもよい。
【0013】
ここで、かため嵩密度TDの測定方法は、JIS K 5101-12-2:2004(顔料測定方法)の「第12部:見掛け密度又は見掛け比容-第2節:タンプ法」に準拠してかため嵩密度の測定を実施する。また、ゆるみ嵩密度ADの測定方法は、JIS K 5101-12-1:2004(顔料測定方法)の「第12部:見掛け密度又は見掛け比容-第1節:静置法」に準拠してゆるみ嵩密度の測定を実施する。そして、ゆるみ嵩密度ADとかため嵩密度TDとに基づき算出された圧縮度は、圧縮度(%)=([かため嵩密度]-[緩み嵩密度]/[かため嵩密度])×100により算出する。
【0014】
さらに、かため嵩密度TDが1.5g/mL以上であると好ましい。かため嵩密度TDが1.5g/mL以上である酸化ニオブ粉末は圧縮度が小さい点で好ましい。また、かため嵩密度TDが2.0g/mL以上であるとより好ましく、2.1g/mL以上であるとさらに好ましく、2.3g/mL以上であると特に好ましく、2.5g/mL以上であるとまた特に好ましい。また、かため嵩密度TDは4.0g/mL以下であると好ましく、3.0g/mL以下であるとより好ましい。一方、ゆるみ嵩密度ADが0.7g/mL以上であると好ましい。ゆるみ嵩密度ADが0.7g/mL以上である酸化ニオブ粉末は、圧縮度が小さい点で好ましい。また、ゆるみ嵩密度ADが1.0g/mL以上であるとより好ましく、1.5g/mL以上であるとさらに好ましく、1.6g/mL以上であると特に好ましい。また、ゆるみ嵩密度ADは3.0g/mL以下であると好ましく、2.0g/mL以下であるとより好ましい。
【0015】
また、本発明の酸化ニオブ粉末は、前記メディアン径D50(U)が5μm以上120μm以下であることを特徴とする。
本発明の酸化ニオブ粉末は、前記メディアン径D50(U)が5μm以上120μm以下の粒径範囲において融着構造を有していると上述した分散処理による小径化が進みにくい傾向がみられる点で好ましい。
【0016】
上述した本発明の酸化ニオブ粉末は、概略的には次のようにして製造される。先ず、ニオブを含有する鉱石、合金、またはスクラップ等である原料を用意し、当該原料を振動ミルに投入して粉砕し、得られた粉砕品に対してアルカリ水溶液処理、及び鉱酸洗浄を行うことにより、フッ化水素酸により原料中のニオブを溶解し、ニオブを含有する溶解液が得られる。そして、ニオブを含有する溶解液中のフッ化水素酸の濃度、及びフッ化水素酸以外の鉱酸(例えば、硫酸)の濃度を調整することにより、ニオブ抽出用液調整液が得られる。このニオブ抽出用液調整液を4-メチル-2-ペンタノンの有機溶媒を用いて溶媒抽出にて分離精製することによりフッ化ニオブ溶液(以下、ニオブ精製液という。)が得られる。次に、ニオブ精製液に超純水を添加し、ニオブ希釈液を得る。さらに、アンモニア水に対し、当該ニオブ希釈液を添加する逆中和法により、ニオブ希釈液と当該アンモニア水とを混合し、ニオブを含有する沈殿スラリーを得る。得られた沈殿スラリーを固液分離し、固液分離した沈殿スラリーを洗浄液及び超純水により洗浄した後、圧搾することにより、沈殿ケーキが得られる。そして、沈殿ケーキを焙焼し、焙焼品を粉砕することにより、本発明の酸化ニオブ粉末が得られる。
【0017】
上述したニオブ精製液を溶媒抽出する場合、溶媒抽出で用いられる有機溶媒は、4-メチル-2-ペンタノン以外には、トリブチルホスフェートが好ましい。なお、4-メチル-2-ペンタノンは希釈せずに使用できるが、トリブチルホスフェートは石油系炭化水素等の希釈剤で希釈して使用されることが多い。
【0018】
このように溶媒抽出し分離精製されたフッ化ニオブ溶液は、当該溶液中のニオブ濃度が酸化ニオブ(Nb2O5)に換算して、50g/L~500g/Lが好ましく、70g/L~400g/Lがより好ましい。当該溶液中のニオブ濃度が酸化ニオブ(Nb2O5)に換算して、50g/L~500g/Lであると、排水量などを適切な液量内に抑えることができ、排水処理等に必要以上にコストや手間をかけることがなく、またその後の工程でフッ化ニオブ溶液と沈殿剤とを混合した際の発熱を抑えることができ、沈殿時の温度を所定の温度以下に保持することができるからである。なお、フッ化ニオブ溶液中のニオブは、H2NbOF5、またはH2NbOF7であると考えられる。ここで、溶媒抽出法により得られたフッ化ニオブ溶液の場合、過剰のフッ化水素酸が少ないことから、フッ化ニオブ溶液中のニオブの大部分はH2NbOF5であると考えられる。
【0019】
上述したニオブを含有する沈殿スラリーを得る工程、すなわち混合・沈殿工程は、ニオブが溶解した溶解液を溶媒抽出し得られたニオブ精製液に超純水を添加し、得られたニオブ希釈液を、アルカリ性水溶液に添加する逆中和法により、ニオブを含有する沈殿スラリーを生成することを特徴とする。
上述した混合・沈殿工程は、アルカリ性水溶液、例えばアンモニア水へ、ニオブ希釈液を添加する逆中和法を用いることから、アルカリ性であるアンモニア水へ、酸性であるニオブ希釈液を添加するため、高いpHを保持したまま水酸化ニオブを生成することができる。ここで、沈殿スラリーの生成に用いられる沈殿剤として、アルカリ性水溶液であるアンモニア水を用いているが、アンモニアとしては、気体状、液体状、水溶液状のものを使用できるが、取り扱い性に優れるという点で、アンモニア水溶液(アンモニア水)がより好ましい。具体的には、沈殿剤として用いられるアンモニア水は、10重量%以上が好ましく、25重量%以上がより好ましい。なお、アンモニア水以外にも、例えば苛性ソーダ、炭酸水素アンモニウム等のその他中和剤も使用してもよく、またアンモニア水と苛性ソーダ、炭酸水素アンモニウム等のその他中和剤とを併用して使用してもよい。
【0020】
また、混合・沈殿工程では、ニオブ希釈液が添加されるアルカリ性水溶液のpHが10以上であると好ましい。アルカリ性水溶液のpHが常時10以上、すなわちアルカリ性を保持したまま水酸化ニオブの生成することができ、平均粒径が大きな酸化ニオブを形成しやすい点で有利である。ここで、アルカリ性水溶液のpHが10未満であると、酸化ニオブ粒子が相互に融着した構造を形成しにくく、さらに溶液中に残留するニオブの量が増加し、沈殿物の収率が低下し、すなわち酸化ニオブの収率が低下する。一方、アルカリ性水溶液のpHが11を超えると、酸化ニオブ粒子の粒子径が大きくなりすぎて、他の粉体と混合・反応させた混合物における均一性に支障をきたすことがある。生成された沈殿スラリーの洗浄や圧搾等の工程が困難になる。なお、酸性のニオブ希釈液へ、アルカリ性水溶液を添加する正中和法では、ニオブ希釈液とアルカリ性水溶液との混合物のpHは、酸性からアルカリ性へ変化しながら水酸化ニオブが生成されるため、形成される酸化ニオブの平均粒径が大きくなりにくい。pHの測定は、沈殿槽内に卓上型pHメータ(株式会社堀場製作所製:F-71S:スタンダードToupH電極)を設置し、ニオブ希釈液添加中、及び添加後10分間撹拌中におけるニオブ希釈液とアルカリ性水溶液との混合物に対して行う。また、pHの測定は、液温が25℃に安定したことを確認し、行う。さらに、混合・沈殿工程の際、ニオブ希釈液とアルカリ性水溶液との混合物の温度を、100℃以下となるように温度調節してもよい。また、当該混合物の温度を、80℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、さらに好ましくは室温に温度調節するとよい。ここで、上記温度範囲に調節するために、蒸気やヒーターによる加熱、若しくは熱交換器や冷却ユニットを用いた冷却を実施してもよい。
【0021】
固液分離された沈殿スラリーは、洗浄液及び超純水により洗浄されることにより残存するフッ素の量を低減することができる。例えば、ろ過機を用いてろ過する場合、沈殿スラリーが投入されたろ過機内に洗浄液を通液させることによって、またはろ過ケーキと洗浄液とを、撹拌手段を備えた洗浄槽に投入して撹拌し、再度ろ過することによって洗浄することが可能である。また、ろ過機を用いず、沈殿沈降後に上澄み液を抜き出す場合、上澄み液を抜き出した後に洗浄液を入れて十分に撹拌した後、撹拌を止めて沈殿物を沈降させ、上澄み液を抜き出す方法等によって、洗浄を実施する。このような一連の洗浄作業を複数回実施する。
【0022】
洗浄液は、アンモニア性水溶液が好ましい、アンモニア性水溶液は、アンモニアまたはアンモニウムイオンを含有する水溶液であって、沈殿剤と同種の水溶液である。具体的には、5.0重量%以下のアンモニア水が好ましく、4.0重量%以下のアンモニア水がより好ましく、3.0重量%以下のアンモニア水がさらに好ましく、2.5重量%のアンモニア水が特に好ましい。5.0重量%以下のアンモニア水であると、アンモニア、アンモニウムイオンがフッ素に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。さらに、アンモニア水による洗浄後の、洗浄用の水としては、不純物が少ないほど好ましいため、超純水が好適である。
【0023】
上述した洗浄液に洗浄された沈殿スラリーが、圧搾機に投入され、圧搾されることにより、沈殿ケーキが得られる。
【0024】
圧搾されて得られた沈殿ケーキは、静置炉内に載置され、所定の加熱温度で焼成される。加熱温度は、500℃以上2,000℃以下が好ましい。加熱温度が500℃以上2,000℃以下であると、酸化ニオブ粒子の成長に十分な温度であり、且つ焼成コストを抑制することができ、また焼成により得られる焼成品が固い塊状になることがないため、粉砕の手間やコストの増加を回避することができるからである。さらに、加熱温度は、700℃以上1,500℃以下がより好ましく、900℃以上1,500℃以下がさらに好ましい。また、焼成時間は、0.5時間~72時間が好ましい。焼成時間が0.5時間~72時間であると、酸化ニオブ粒子の成長に十分な時間であり、不要なコストを抑えることができるからである。さらに、焼成時間は、0.5時間~50時間がより好ましく、0.5時間~30時間がさらに好ましい。
【0025】
焼成された酸化ニオブは、そのまま酸化ニオブ粉末として用いられる。また、焼成品を粉砕したものを酸化ニオブ粉末として用いてもよい。また、粉砕されるか否かに拘らず、焼成品を篩などによって分級した得られた篩下(微粒側)を酸化ニオブ粉末として用いてもよい。篩上(粗粒側)は再度粉砕し、分級して用いてもよい。なお、ナイロン、またはフッ素樹脂によりコーティングした鉄球等が粉砕メディアとして投入された振動篩を使用して粉砕と分級とを兼ねることも可能である。このように分級と粉砕とを兼ねることにより、焙焼後大き過ぎる酸化ニオブ粒子が存在しても除去が可能である。具体的には、篩を用いて分級する場合、目開きが150μm~1,000μmのものを用いると好ましい。150μm~1,000μmであると、篩上の割合が多くなりすぎることがなく再粉砕を繰り返すことがなく、また篩下に再粉砕が必要な酸化ニオブ粉末が分級されることがない。
【0026】
上述した本発明に係る酸化ニオブ粉末の製造方法により製造される酸化ニオブ粉末は、酸化ニオブの一次粒子が相互に融着した構造を有している。このように、酸化ニオブの一次粒子が相互に融着した構造を有することにより、平均粒径が大きくなることから酸化ニオブの一次粒子に作用する重力が大きくなるとともに、圧縮度が小さくなる。すなわち、本発明の酸化ニオブ粉末が潰れにくい粉体となっていることを示しており、圧力のかかる条件下においても、凝集体を形成しにくい、流動性の高い粉体が得られる。具体的には、酸化ニオブ粒子のメディアン径D50(N)と、前記酸化ニオブ粒子に超音波照射して得られたメディアン径D50(U)との比D50(N)/D50(U)が5以下である酸化ニオブ粉末、酸化ニオブ粒子の比表面積SSAが1m2/g以下、さらに0.4m2/g以下である酸化ニオブ粉末、ゆるみ嵩密度ADとかため嵩密度TDとに基づき算出された圧縮度が25%以下、さらに20%以下である酸化ニオブ粉末、及び前記メディアン径D50(U)が5μm以上120μm以下である酸化ニオブ粉末が好ましい。
【0027】
また、本発明に係る酸化ニオブ粉末は、炭酸リチウム粉末と混合し、ニオブ酸リチウムの粉末を製造する際、混ざりが良く、均一な反応物が得られ、反応性に優れている。この反応性の具体的な評価方法は次の通りである。先ず、酸化ニオブ粉末と炭酸リチウム粉末とを両者のモル比が1:1となるように秤量し、それらの混合物(総重量30g)をボールミル混合粉砕し、得られた混合粉末を大気雰囲気下で、焼成温度1,000℃以上1,800℃以下、焼成時間1時間以上8時間以下、焼成することにより、ニオブ酸リチウムの粉末を製造する。次に、このニオブ酸リチウム粉末をメノウ乳鉢で粉砕し、後述する粉末X線回折測定条件に従って、CuKα線を使用した粉末X線回折測定を行い、X線回折パターンを得る。そして、得られたX線回折パターンが、ニオブ酸リチウム由来のブラッグピークのみである場合はニオブ酸リチウム粉末の生成に対する反応性が良好であると評価する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の酸化ニオブ粉末は、流動性に優れ、スパッタリングターゲット等の薄膜形成材料、光学製品、またはファインセラミックなどの原料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係る実施形態の酸化ニオブ粉末の実施例1の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図2】本発明に係る実施形態の酸化ニオブ粉末の比較例1の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施形態の酸化ニオブ粉末を、製造方法を踏まえながら説明する。なお、本発明に係る実施形態の酸化ニオブ粉末は、ニオブを含有する鉱石、合金、またはスクラップ等である(以下、原料という。)。
【0031】
フッ化ニオブ溶液の調整
先ず、上述した原料、例えばニオブを含有する鉱石を振動ミルに投入して粉砕し、得られた粉砕品に対してアルカリ水溶液処理、及び鉱酸洗浄を行った後、フッ化水素酸により原料中のニオブを溶解してニオブを含有する溶解液を得た。そして、ニオブを含有する溶解液中のフッ化水素酸の濃度、及びフッ化水素酸以外の鉱酸(例えば、硫酸)の濃度を調整し、ニオブ抽出用液調整液を得た。このニオブ抽出用液調整液を4-メチル-2-ペンタノンの有機溶媒を用いて溶媒抽出方にて分離精製することによりフッ化ニオブ溶液(以下、ニオブ精製液という。)を得た。ここで、得られたフッ化ニオブ溶液中のニオブ濃度は、酸化ニオブ(Nb2O5)に換算すると、320g/L(グラム/リットル)であった。以下、フッ化ニオブ溶液に関するニオブ濃度は、全て酸化ニオブに換算した濃度である。
【0032】
実施例1:上述のようにして得られたニオブ精製液に超純水を添加することにより、酸化ニオブ換算でニオブ濃度が60g/Lになるように希釈し、ニオブ希釈液を得た。次に、沈殿槽内の25重量%アンモニア水(13.2mol/L)25Lを撹拌しながら、得られたニオブ希釈液47Lを30分かけて添加する逆中和法により、ニオブ希釈液と当該アンモニア水とを混合し、ニオブを含有する沈殿スラリーを得た(以下、混合・沈殿工程という。)。ここで、沈殿槽内の当該アンモニア水は、室温(20℃)であった。
【0033】
ここで、ニオブ希釈液が添加中の沈殿槽内のアンモニア水のpHは、常時10以上であった。また、得られたニオブを含有する沈殿スラリーのpHも10以上であった。さらに、沈殿槽内のアンモニア水に添加するニオブ希釈液は、熱交換器を通すことにより約5℃まで冷却し、当該アンモニア水中に添加した。また、沈殿槽内にはフッ素樹脂製の冷却管が設置され、管入口温度が約5℃の冷却水を流通させることにより、沈殿槽内の冷却を行った。このように冷却した結果、ニオブ希釈液の添加開始から、沈殿スラリーの沈殿終了後までの間、ニオブ希釈液と当該アンモニア水との混合物の最高温度は29℃であった。pHの測定は、沈殿槽内に卓上型pHメータ(株式会社堀場製作所製:F-71S:スタンダードToupH電極)を設置し、ニオブ希釈液添加中、及び添加後10分間撹拌中における、沈殿槽内のニオブ希釈液とアルカリ性水溶液との混合物に対して行った。また、pHの測定は、液温が25℃に安定したこと確認した後、行った。なお、ニオブ希釈液の添加終了した後、さらに30分間撹拌を継続し、撹拌終了後、3時間静置して沈殿物を沈降させて、ニオブを含有する沈殿スラリーを得た。
【0034】
沈殿槽内の上澄み液を抜取り後、沈殿槽内の沈殿スラリーを取り出し、フィルタープレスにより、固液分離した。そして、固液分離した沈殿スラリーを洗浄槽に移し、当該洗浄槽内に洗浄水を投入して30分間撹拌し、3時間静置した後、洗浄液(2.5重量%のアンモニア水)を抜き出すという一連の作業を、洗浄後の洗浄液中のフッ化物イオン濃度が100mg/L以下になるまで、複数回繰り返した。
【0035】
液中のフッ化物イオン濃度が100mg/L以下となった洗浄液を抜き取った後、超純水を投入して沈殿スラリーを洗浄し、圧搾を行い、沈殿ケーキを得た。そして、得られた沈殿ケーキを回収し、回収した沈殿ケーキを静置炉内に載置し、加熱温度約1,000℃で3時間大気焼成した(以下、焼成工程という。)。
【0036】
焼成後、得られた焙焼粉は、ボールミルにより粉砕され、粉末状とされた。ここで、ボールミルのメディアは、直径が15mm程度のウレタンコーティングされたものを使用した。さらに、目開き200μmのメッシュで篩分けを行い、篩下粉末を回収し、実施例1に係る酸化ニオブ粉末を得た。
【0037】
実施例2:この実施例では、ニオブ希釈液が、酸化ニオブ換算でニオブ濃度を40g/Lになるように希釈されたこと以外は、実施例1と同じであるから、説明を省略する。
【0038】
実施例3:この実施例では、混合・沈殿工程において、沈殿槽内のアンモニア水を10重量%(5.9mol/L)にし、容量を50Lとした以外は、実施例1と同じであるから説明を省略する。
【0039】
実施例4:この実施例では、ニオブ希釈液が、酸化ニオブ換算でニオブ濃度を20g/Lになるように希釈されたこと以外は、実施例1と同じであるから、説明を省略する。
【0040】
実施例5:この実施例では、ニオブ希釈液の添加時間を90分とした以外は、実施例1と同じであるから、説明を省略する。
【0041】
実施例6:この実施例では、ニオブ希釈液が、酸化ニオブ換算でニオブ濃度を20g/Lになるように希釈されたことと、また沈殿槽内のアンモニア水を10重量%(5.9mol/L)にし、容量を50Lとしたこと以外は、実施例1と同じであるから、説明を省略する。
【0042】
比較例1:この比較例では、ニオブ希釈液は、酸化ニオブ換算でニオブ濃度を90g/Lになるように希釈した。また、実施例1の逆中和法とは逆に、沈殿槽内のニオブ希釈液63Lを撹拌しながら、25重量%アンモニア水(13.2mol/L)30Lを10分かけて添加する正中和法により、ニオブ希釈液と当該アンモニア水とを混合し、ニオブを含有する沈殿スラリーを得た。なお、得られたニオブを含有する沈殿スラリーのpHは9.5であった。これ以外の条件は、実施例1と同じであるから、説明を省略する。
【0043】
比較例2:この比較例では、比較例1と同様に、正中和法により、ニオブ希釈液と当該アンモニア水とを混合し、ニオブを含有する沈殿スラリーを得た。さらに、実施例1と同様に、得られた沈殿スラリーを洗浄し、圧搾を行うことにより、沈殿ケーキを得た。そして、焼成工程の前に、得られた沈殿ケーキを静置炉内に載置し、加熱温度約100~200℃で12時間大気焼成した(以下、予備乾燥工程という。)。焼成工程の前に、予備乾燥された沈殿ケーキを、ターボスクリーナで分級を行った。ターボスクリーナの分級条件は、メッシュ目開き:32μm、回転周波数:90Hzであった。これ以外の条件は実施例1と同じであるから、説明を省略する。
【0044】
上述した実施例1~6、及び比較例1,2の酸化ニオブ粉末の製造条件を、以下の表1に示す。
【0045】
【0046】
そして、実施例1~6、及び比較例1、2において得られた酸化ニオブ粉末について、次のような物性を測定した。以下、測定した物性値、及びその物性値の測定方法を示すとともに、測定結果を表2に示す。
【0047】
粒度分布:粒度分布の評価は、レーザ回折・散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製:MT3300EXII)を用いて、JIS Z 8828:2019に準じた動的光散乱法により行った。また、フィルタリングは行なわず、後述する超音波を用いた分散処理を行った。なお、D50は体積分率にして50%に至る粒子径を示す。
【0048】
超音波処理:D50(N)は、酸化ニオブ粉末に対し、超音波による分散処理を行わずに粒度評価を行ったメディアン径である。一方、D50(U)は、酸化ニオブ粉末に対し、超音波による分散処理を行った直後に粒度評価を行ったメディアン径である。具体的に、超音波による分散処理の手順は、次の通りである。先ず、超音波による分散処理の前処理として、試料粉1mg、純水20mLを容量50mLのPP製広口瓶に投入し、当該PP製広口瓶を超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にセットした。次に、当該洗浄機の槽内床面から上5cmまでを純水で満たした状態で、周波数28kHz、出力100Wで、60分間に亘って超音波による分散処理を行った。
【0049】
かため嵩密度(TD):JIS K 5101-12-2:2004(顔料測定方法)の「第12部:見掛け密度又は見掛け比容-第2節:タンプ法」に準拠してかため嵩密度を測定した。
【0050】
ゆるみ嵩密度(AD):JIS K 5101-12-1:2004(顔料測定方法)の「第12部:見掛け密度又は見掛け比容-第1節:静置法」に準拠してゆるみ嵩密度を測定した。
【0051】
圧縮度:圧縮度は、次式(1)により算出した。
【0052】
【0053】
比表面積(SSA):JIS R 1626-1996(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)の「6.2 流動法の(3.5)一点法」に準拠して測定を行った。その際、キャリアガスであるヘリウムと、吸着質ガスである窒素の混合ガスを使用した。
【0054】
PFT傾き:PFT傾きとは、単軸崩壊強度(Uniconfined Failure Strength、単位:kPa)を縦軸に、最大主圧密応力(Major Principal Consolidationg Stress、単位:kPa)を横軸としたとき、当該グラフにプロットされた測定データを最小二乗法による線形フィッテイングした際の、近似曲線の傾きを表す。単軸崩壊強度と最大主圧密応力との測定は、パウダーフローテスター(ブルックフィールド社製、PET)を用いて、測定条件Standard Flow Function Testに準拠して行った。そして、最大主圧密応力の範囲は、1kPa~25kPaで5点のプロットから傾きを算出した。ここで、パウダーフローテスターの単軸崩壊強度/最大主圧密応力の傾きは、圧力により、一端が凝固された粉末の塊が如何に少ない力でほぐれるかを意味し、傾きが小さい粉末は、圧力によって、一端固まっても容易に流れやすいため、ホッパーなどでいわゆる「詰まり」が生じにくいという効果を有する。なお、ホッパーとは、生コンクリートや土砂などの粉末を仮受けし、目的の場所へ流し込むための装置であって、逆円錐形、逆四角錐形状の容器である。
【0055】
ボイド有無:酸化ニオブ粉末の一次粒子の表面に形成されたボイド(気泡)の有無を、走査電子顕微鏡(SEM)にて加速電圧1kVの条件下で、倍率5,000倍のSEM像(20μm×20μm)を5画面観察し、外接円直径1μm以下のボイドの有無を観察した。上記の観察条件下で、一次粒子の表面にボイドが1個も観察されなかった場合を「○」と、一次粒子の表面にボイドが1個以上観察された場合を「×」と評価した。ここで、本発明に係る実施形態の酸化ニオブ粉末の実施例1の走査電子顕微鏡(SEM)写真を
図1に示し、実施例1に係る酸化ニオブ粉末の一次粒子が相互に融着された構造を示す。一方、本発明に係る実施形態の酸化ニオブ粉末の比較例1の走査電子顕微鏡(SEM)写真を
図2に示し、比較例1に係る酸化ニオブ粉末の一次粒子が融着していない構造を示す。
【0056】
ホッパー詰まり試験:小型の粉末充填機(RD703-T+SU01、株式会社ナオミ製)に容量20Lのホッパーを取り付け、酸化ニオブ粉末を当該ホッパーに5kg/minで投入し、60分間連続運転時の詰まりの有無を評価した。具体的には、投入した酸化ニオブ粉末のホッパーからの排出速度が4kg/minを超える速度を保持し続けた場合を、ホッパーに詰まりが発生せず、酸化ニオブ粉末が流れ続けたと判断し「○」と評価した。一方、投入した酸化ニオブ粉末のホッパーからの排出速度が4kg/min以下となった場合を、ホッパーに詰まりが発生し、酸化ニオブ粉末に流動がなくなったと判断し「×」と評価した。
【0057】
反応性試験:酸化ニオブ粉末と、炭酸リチウム粉末とを混合し製造したニオブ酸リチウム粉末をサンプルとし、以下の粉末X線回折測定条件に従って、CuKα線を使用した粉末X線回折測定を行い、得られたX線回折パターンを確認し、反応性について評価した。サンプルであるニオブ酸リチウム粉末は、次のように製造した。先ず、酸化ニオブ粉末と炭酸リチウム粉末(和光純薬製)とを両者のモル比が1:1となるように秤量し、それらの混合物(総重量30g)をボールミル混合粉砕し、得られた混合粉末を大気雰囲気下で、焼成温度1,600℃以上1,800℃以下、焼成時間8時間焼成し、ニオブ酸リチウムの粉末を製造した。次に、このニオブ酸リチウム粉末をメノウ乳鉢で粉砕し、以下の粉末X線回折測定条件に従って、CuKα線を使用した粉末X線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。そして、得られたX線回折パターンが、ニオブ酸リチウム由来のブラッグピークのみである場合は、酸化ニオブ粉末と炭酸リチウム粉末との混ざりがよく、ニオブ酸リチウム粉末の生成に対する反応性が良好であると判断し「○」と評価した。一方、得られたX線回折パターンに、ニオブ酸リチウム由来のブラッグピーク以外、例えば五酸化ニオブ由来のピーク(2θ=22.7°±0.5°、32.7°±0.5°、およびまたは36.5°±0.5°)が1つでも混在した場合、酸化ニオブ粉末と炭酸リチウム粉末との混ざりが悪く、未反応の酸化ニオブや、炭酸リチウムが残存しており、ニオブ酸リチウム粉末の生成に対する反応性が不良であると判断し「×」と評価した。
【0058】
=粉末X線回折測定条件=
・回折装置:MiniFlex2(株式会社リガク製)
・X線管球:Cu
・管電圧・管電流:30kV、15mA
・スリット:DS-SS;1.25度、RS;0.3mm
・モノクロメータグラファイト
・測定間隔:0.01度
・計数方法:定時計数法
【0059】
【0060】
表2に示す通り、実施例1~6に係る酸化ニオブ粉末は、D50比、すなわちD50(N)/D50(U)が5以下であると、
図1に示すように、実施例1の酸化ニオブ粉末の一次粒子は相互に融着した構造を有していることから、凝集体の形成が抑制され、ホッパー詰まり試験結果が示すように、流動性の高い酸化ニオブ粉末が得られた。
【0061】
実施例1~6に係る酸化ニオブ粉末は、比表面積SSAが1m2/g以下であると、酸化ニオブ粒子間の付着力がより低減され、凝集体の形成が抑制され、ホッパー詰まり試験結果が示すように、流動性の高い酸化ニオブ粉末が得られた。
【0062】
実施例1~6に係る酸化ニオブ粉末は、ゆるみ嵩密度ADとかため嵩密度TDとに基づき算出された酸化ニオブ粉末の圧縮度が25%以下であると、実施例1~6に係る酸化ニオブ粉末が潰れにくい粉体であることを示し、ホッパーに投入されて圧力が負荷された状態であっても凝集しにくい流動性の高い酸化ニオブ粉末が得られた。
【0063】
実施例1~6に係る酸化ニオブ粉末は、超音波による分散処理を行った直後に粒度評価を行ったメディアン径であるD50(U)が5μm以上120μm以下であると、超音波による分散処理により大きく分散された比較例1、2に係る酸化ニオブ粉末と比して、大きくなる傾向が見られた。
【0064】
実施例1~6に係る酸化ニオブ粉末のパウダーフローテスターの単軸崩壊強度/最大主圧密応力の傾きは、比較例1,2に係る酸化ニオブ粉末と比して、かなり小さく、実施例1~6に係る酸化ニオブ粉末における粉末の塊は小さな力でほぐれやすい。
【0065】
また、本実施形態の酸化ニオブ粉末は、逆中和法を経て生成されており、その一次粒子が相互に融着された構造を有することから粒径が増加する共に、また圧縮度が小さく、圧力がかかる条件下であっても凝集体が形成されにくく、流動性が優れた粉体である。
【0066】
さらに、実施例1~6に係る酸化ニオブ粉末は、炭酸リチウム粉末と混ざりが良く、均一なニオブ酸リチウム粉末が得られることから、反応性にも優れている。
【0067】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る酸化ニオブ粉末は、流動性に優れていることから、スパッタリングターゲット等の薄膜形成材料、光学製品、またはファインセラミックなどの原料として好適である。