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特許7591008在庫配置最適化システム及び在庫配置最適化方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】在庫配置最適化システム及び在庫配置最適化方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/087 20230101AFI20241120BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20241120BHJP
【FI】
G06Q10/087
G06Q10/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022121462
(22)【出願日】2022-07-29
(65)【公開番号】P2024018251
(43)【公開日】2024-02-08
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸代
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正和
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 紘平
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓介
(72)【発明者】
【氏名】米重 大海
【審査官】松野 広一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-194273(JP,A)
【文献】特開2022-012801(JP,A)
【文献】特開2015-193469(JP,A)
【文献】特開2015-079318(JP,A)
【文献】国際公開第2016/135911(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/229713(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111612196(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物流倉庫におけるピッキングエリアに関する、商品の収納棚それぞれの位置とサイズ、前記収納棚に収納される商品それぞれのサイズと必要な最低在庫数たる補充点、前記収納棚で同一種の前記商品を列状に集積させる集合形態、前記商品が列状に集積された集合体の間の配置間隔、前記収納棚での前記集合体の高さと横幅方向及び奥行き方向での配置長、の制約条件の各情報を格納した記憶部と、
前記収納棚における前記商品の収納数を目的関数、前記集合体の収納先となる収納棚及び当該収納棚での配置位置と、前記集合体を構成する前記商品の積み上げ段数と前記横幅方向及び奥行き方向での配置数のそれぞれを決定変数とし、前記制約条件の下、数理最適化ソルバーによって、前記目的関数である前記収納数を最大化する、前記決定変数の各値を演算する演算部とを有し、
前記演算部は前記演算の結果に基づき、前記決定変数の各値を所定装置に出力するものである、
ことを特徴とする在庫配置最適化システム。
【請求項2】
前記演算部は、
前記収納数たる補充限度から前記補充点を減算して得た値で、過去の所定期間での前記商品の出荷総数を除算することで、前記商品の保管エリアから前記ピッキングエリアへの補充回数を算定して所定装置に出力するものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の在庫配置最適化システム。
【請求項3】
前記記憶部は、
前記制約条件の情報として、前記集合体のうち前記収納棚の開口面に面する特定部位に関して、ピッキング作業用空間の確保のため商品配置を禁止する制約条件の情報をさらに格納し、
前記演算部は、
前記商品配置を禁止する制約条件も含む前記制約条件の情報の下、前記演算を行うものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の在庫配置最適化システム。
【請求項4】
前記記憶部は、
前記制約条件の情報として、前記商品が前記配置長を超過して前記収納棚からはみだし可能な突出長の制約条件の情報をさらに格納し、
前記演算部は、
前記突出長の制約条件も含む前記制約条件の情報の下、前記演算を行うものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の在庫配置最適化システム。
【請求項5】
前記記憶部は、
前記制約条件の情報として、前記演算の結果に基づき、前記収納棚における移動が発生する商品数の上限に関する制約条件の情報をさらに格納し、
前記演算部は、
前記商品数の上限の制約条件も含む前記制約条件の情報の下、前記演算を行うものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の在庫配置最適化システム。
【請求項6】
前記演算部は、
前記制約条件それぞれが満たされる際に前記収納棚における前記商品の収納数が最大となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、前記集合体を構成する前記商品の積み上げ段数と前記横幅方向及び奥行き方向での配置数と、前記集合体の収納先となる
収納棚及び当該収納棚での配置位置、のそれぞれをスピンとし、前記制約条件用関数における変数間の感応度を前記スピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを演算するものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の在庫配置最適化システム。
【請求項7】
前記イジングモデルに関して組合せ最適化問題を解くCMOSアニーリングマシンであることを特徴とする請求項6に記載の在庫配置最適化システム。
【請求項8】
情報処理システムが、
物流倉庫におけるピッキングエリアに関する、商品の収納棚それぞれの位置とサイズ、前記収納棚に収納される商品それぞれのサイズと必要な最低在庫数たる補充点、前記収納棚で同一種の前記商品を列状に集積させる集合形態、前記商品が列状に集積された集合体の間の配置間隔、前記収納棚での前記集合体の高さと横幅方向及び奥行き方向での配置長、の制約条件の各情報を記憶部で格納し、
前記収納棚における前記商品の収納数を目的関数、前記集合体の収納先となる収納棚及び当該収納棚での配置位置と、前記集合体を構成する前記商品の積み上げ段数と前記横幅方向及び奥行き方向での配置数のそれぞれを決定変数とし、前記制約条件の下、数理最適化ソルバーによって、前記目的関数である前記収納数を最大化する、前記決定変数の各値を演算し、前記演算の結果に基づき、前記決定変数の各値を所定装置に出力する、
ことを特徴とする在庫配置最適化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、在庫配置最適化システム及び在庫配置最適化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所定条件下で所望のパラメータを最大または最小とする解を探索する、いわゆる組合せ最適化問題の概念は、作業員や装置といった各種リソースの配置や稼働スケジュールの最適化、交通渋滞解消、グローバルサプライチェーンにおける物流コスト低減、など実社会における複雑な問題にも適用されうる。
【0003】
一方、そうした問題においては解候補が爆発的に多くなるため、スーパーコンピュータや量子コンピュータなど相応の計算能力を有した計算機でなければ、当該問題を実用的な時間内に解くことが難しい。
【0004】
例えば、量子コンピュータに関連する従来技術としては、全数探索を必要とするような逆問題や組み合わせ最適化問題に対して高速演算を可能にする計算機に関し、スピンを演算における変数とし、解こうとする問題をスピン間相互作用とスピンごとに作用する局所場で設定し、また、時刻t=0において外部磁場により全スピンを一方向に向かせ、時刻t=τで外部磁場がゼロになるように外部磁場を徐々に小さくし、また、各スピンは時刻tにおける各サイトの外部磁場及びスピン間相互作用のすべての作用で決まる有効磁場に従い向きが定まるとして時間発展させ、その際、スピンの向きが有効磁場に完全に揃うのではなく、量子力学的に補正された向きとすることにより、系が基底状態をほぼ維持するようにする技術(特許文献1参照)などが提案されている。
【0005】
また、最適化問題のうち、物流倉庫における在庫等の配置最適化に関する従来技術として、物流の現場における商品の入荷から出荷までのプロセスの効率を向上させる商品配置システム、商品配置方法、及び商品配置プログラム(特許文献2参照)などが提案されている。
【0006】
この技術は、複数の商品に関する出荷データから、各前記商品についてそれぞれ複数の特徴量を取得し、ある商品について取得した各前記特徴量と、他の商品について取得した各前記特徴量と、をそれぞれ対応する前記特徴量どうしで比較して、対応する前記特徴量どうしの間の変化量を算出し、算出した前記変化量の大きさに基づいて前記複数の商品を複数の商品群へと分類するグルーピング手段と、前記出荷データから各前記商品について過去の出荷実績を取得し、取得した前記出荷実績に基づいて前記複数の商品の出荷数量を予測する出荷予測手段と、前記出荷予測手段による出荷予測に基づいて、分類された前記商品群毎の配置場所、及び前記複数の商品の配置場所を決定する配置場所決定手段と、を有する商品配置システムにかかるものである。
【0007】
また上述と同様に、物流倉庫等における商品配置の最適化に関する従来技術として、物品の補充頻度及び入替頻度を低減する物品配置最適化システム及び方法(特許文献3参照)なども提案されている。
【0008】
この技術は、システムが、複数の棚が有し複数の商品が配置される複数の間口スペースの各々について、当該間口スペースに配置されている商品の将来の指定期間における需要予測の結果としての予測出荷量を基に当該商品の推奨容量値を計算するものにかかる。当該システムは、複数の間口スペースの各々の現状容量値と推奨容量値とを基に、それぞれが商品の入れ替えが生じる間口スペースペアである一つ以上の入替ペアを決定する。各間
口スペースについて、現状容量値は、間口スペースの容量を意味する値である。各間口スペースについて、推奨容量値は、当該間口スペースに配置されている商品が指定期間において単位期間に必要と予測される間口スペース容量を意味する値である。上述の一つ以上の入替ペアの各々は、下記の条件を満たしている。(a)当該入替ペアを構成する一方の間口スペースである第1の間口スペースの現状容量値が当該第1の間口スペースの推奨容量値よりも小さい、又は、当該入替ペアを構成する他方の間口スペースである第2の間口スペースの現在容量値が当該第2の間口スペースの推奨容量値よりも大きい。(b)第2の間口スペースの推奨容量値が第1の間口スペースの現状容量値を満たす。(c)第1の間口スペースの推奨容量値が第2の間口スペースの現状容量値を満たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2016/157333
【文献】再公表2019-97694
【文献】特開2021-120891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
サプライチェーン上の物流倉庫では、日常業務として顧客からの注文が入った商品をピッキングエリアから抽出し、これを出荷する。一方、こうした抽出が順次実施されることで、ピッキングエリアの在庫数は減少していく。
【0011】
その結果、ピッキングエリアの在庫数が基準を下回って不足状態となる場合、当該商品を保管エリアからピッキングエリアに搬出し、補充限度(ピッキングエリアの最大在庫数。出荷規模に応じて人手で定義)まで当該商品の補充を行うことになる。
【0012】
ところが、出荷数に基づいて補充限度を決定しただけでは、実際のピッキングエリアの棚に当該商品を配置しきれないケースも頻出する。ピッキングエリアの棚の収容領域は当然ながら有限で、また、その形状(例:棚板の縦横比や間柱の位置など)や外部環境(例:後背部に近接した柱あり)は異なりうる。同様に、そうした棚に収容される商品の形状、サイズは、商品種ごとに様々である。
【0013】
よって、単純に当該棚の収容可能な容積を、収容対象の商品の容積で除算した数が、当該棚における当該商品の収容数とはならない。そうした場合、商品形状によっては棚に収容できずに、ピッキングエリアへの配置ができないといった事態も想定される(図1参照)。
【0014】
さらに、上述の補充限度の精度は良好とは言えず、実際の出荷と在庫のバランスが不均衡状態となりやすい問題もある。そのため、出荷量が多いにも関わらずピッキングエリアの在庫数が少ない商品や、出荷量が少ないにも関わらずピッキングエリアの在庫数が多い商品が存在するといった状況も生まれている(図2参照)。
【0015】
その結果、保管エリアからピッキングエリアへの商品補充作業が、必要以上に頻繁に発生する一方で、当該商品をピッキングエリアに持ち込んでも棚に収容しきれなかった、といった事態が生じ、当該物流倉庫全体として業務効率が大幅に低下する恐れもあった。
【0016】
そこで本発明の目的は、物流倉庫におけるピッキングエリアへの商品補充回数を最小化し、当該業務の効率化を可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する本発明の在庫配置最適化システムは、物流倉庫におけるピッキングエリアに関する、商品の収納棚それぞれの位置とサイズ、前記収納棚に収納される商品それぞれのサイズと必要な最低在庫数たる補充点、前記収納棚で同一種の前記商品を列状に集積させる集合形態、前記商品が列状に集積された集合体の間の配置間隔、前記収納棚での前記集合体の高さと横幅方向及び奥行き方向での配置長、の制約条件の各情報を格納した記憶部と、前記収納棚における前記商品の収納数を目的関数、前記集合体の収納先となる収納棚及び当該収納棚での配置位置と、前記集合体を構成する前記商品の積み上げ段数と前記横幅方向及び奥行き方向での配置数のそれぞれを決定変数とし、前記制約条件の下、数理最適化ソルバーによって、前記目的関数である前記収納数を最大化する、前記決定変数の各値を演算する演算部とを有し、前記演算部は前記演算の結果に基づき、前記決定変数の各値を所定装置に出力するものである、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の在庫配置最適化方法は、情報処理システムが、物流倉庫におけるピッキングエリアに関する、商品の収納棚それぞれの位置とサイズ、前記収納棚に収納される商品それぞれのサイズと必要な最低在庫数たる補充点、前記収納棚で同一種の前記商品を列状に集積させる集合形態、前記商品が列状に集積された集合体の間の配置間隔、前記収納棚での前記集合体の高さと横幅方向及び奥行き方向での配置長、の制約条件の各情報を記憶部で格納し、前記収納棚における前記商品の収納数を目的関数、前記集合体の収納先となる収納棚及び当該収納棚での配置位置と、前記集合体を構成する前記商品の積み上げ段数と前記横幅方向及び奥行き方向での配置数のそれぞれを決定変数とし、前記制約条件の下、数理最適化ソルバーによって、前記目的関数である前記収納数を最大化する、前記決定変数の各値を演算し、前記演算の結果に基づき、前記決定変数の各値を所定装置に出力する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、物流倉庫におけるピッキングエリアへの商品補充回数を最小化し、当該業務の効率化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】従来における棚容積と実際の商品配置の例を示す図である。
図2】従来における出荷容積と在庫容積の関係性を示すグラフである。
図3】本実施形態の在庫配置最適化システムを含むネットワーク構成図である。
図4】本実施形態における在庫配置最適化システムのハードウェア構成例を示す図である。
図5】本実施形態のタイミングチャート例を示す図である。
図6】本実施形態におけるフロー例を示す図である。
図7A】本実施形態の情報DBで保持する収納棚情報の例を示す図である。
図7B】本実施形態の情報DBで保持する商品情報の例を示す図である。
図7C】本実施形態の情報DBで保持する通路情報の例を示す図である。
図7D】本実施形態の情報DBで保持する重量・容量制限情報の例を示す図である。
図8A】本実施形態の情報DBで保持する売れ筋商品の配置制限情報の例を示す図である。
図8B】本実施形態の情報DBで保持する1列あたり商品数情報の例を示す図である。
図8C】本実施形態の情報DBで保持する最低列数情報の例を示す図である。
図8D】本実施形態の情報DBで保持する最大列数情報の例を示す図である。
図8E】本実施形態の情報DBで保持する突出条件情報の例を示す図である。
図9】本実施形態における列構造の概念例を示す図である。
図10】本実施形態における奥行き超過の概念例を示す図である。
図11】本実施形態の在庫配置最適化方法のフロー例を示す図である。
図12】本実施形態における出力画面例を示す図である。
図13】本実施形態における追加の制約条件例の概念を示す図である。
図14】本実施形態における追加の制約条件例の概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<数理最適化ソルバーとアニーリングマシンについて>
本実施形態の在庫配置最適化技術において、組合せ最適化問題の解を得るエンジンとして数理最適化ソルバーを採用している。数理最適化ソルバーには、線形計画ソルバーと量子アニーリングの各概念が包含されており、そのいずれも本実施形態に採用可能である。
【0022】
線形計画ソルバーについては、すでに述べたように幾つか一般的ツールが存在し、その適用方法も広く知られているため、ここでは、量子アニーリングの概念とその適用について説明しておく。
【0023】
上述の特許文献1にも示すように、本出願人は量子コンピューティング技術を開発し、例えば、ビッグデータに基づく全数探索問題(組合せ最適化問題の概念含む)における諸問題の解決を図ってきた。
【0024】
こうした全数探索問題に対して、一般的には量子コンピュータヘの期待が大きい。量子コンピュータは、量子ビットと呼ばれる基本素子からなり"0"と"1"を同時に実現する。そのためすべての解候補を初期値として同時に計算可能であり、全数探索を実現しうる可能性を持っている。しかし、量子コンピュータは全計算時間に亘って量子コヒーレンスを維持する必要がある。
【0025】
こういった中で注目されるようになってきたのが断熱量子計算と呼ばれる手法である(参考文献:E.Farhi,et al.,"A quantum adiabatic
evolution al gor ithm applied to random
instances of an NP-complete problem," S
cience292,472(2001).)。
【0026】
この方法は、ある物理系の基底状態が解になるように問題を変換し、基底状態を見つけることを通して解を得ようとするものである。
【0027】
問題を設定した物理系のハミルトニアンをH^pとする。但し、演算開始時点ではハミルトニアンをH^pとするのではなく、それとは別に基底状態が明確で準備しやすい別のハミルトニアンH^0とする。次に十分に時間を掛けてハミルトニアンをH^0からH^pに移行させる。十分に時間を掛ければ系は基底状態に居続け、ハミルトニアンH^pの基底状態が得られる。これが断熱量子計算の原理である。計算時間をτとすればハミルトニアンは式(1)となり、
【0028】
[式1]
【0029】
式(2)のシュレディンガー方程式に基づいて時間発展させて解を得る。
[式2]
【0030】
断熱量子計算は全数探索を必要とする問題に対しても適用可能で、一方向性の過程で解に到達する。しかし、計算過程が式(2)のシュレディンガー方程式に従う必要があるならば、量子コンピュータと同様に量子コヒーレンスの維持が必要になる。
【0031】
但し、量子コンピュータが1量子ビットあるいは2量子ビット間に対するゲート操作を繰り返すものであるのに対して、断熱量子計算は量子ビット系全体に亘って一斉に相互作用させるものであり、コヒーレンスの考え方が異なる。
【0032】
例えば、ある量子ビットヘのゲート動作を考えてみる。この時、もしその量子ビットと他の量子ビットとで相互作用があれば、それはディコヒーレンスの原因になるが、断熱量子計算ではすべての量子ビットを同時に相互作用させるので、この例のような場合にはディコヒーレンスにならない。この違いを反映して断熱量子計算は量子コンピュータに比べてディコヒーレンスに対して頑強であると考えられている。
【0033】
以上述べたように、断熱量子計算は全数探索を必要とするような難問に対して有効である。そして、スピンを演算における変数とし、解こうとする問題をスピン間相互作用とスピンごとに作用する局所場で設定する。
【0034】
時刻t=0において外部磁場により全スピンを一方向に向かせ、時刻t=τで外部磁場がゼロになるように外部磁場を徐々に小さくする。
【0035】
各スピンは、時刻tにおける各サイトの外部磁場及びスピン間相互作用のすべての作用で決まる有効磁場に従い、向きが定まるとして時間発展させる。
【0036】
その際、スピンの向きが有効磁場に完全に揃うのではなく、量子力学的に補正された向きとすることにより、系が基底状態をほぼ維持するようにする。
【0037】
また、時間発展の際に各スピンを元の向きに維持する項(緩和項)を有効磁場に加え、解の収束性を向上させる。
【0038】
本実施形態における在庫配置最適化システムとしては、上述の断熱量子計算を行うアニーリングマシンを想定するが、勿論これに限定するものではなく、組合せ最適化問題を本発明の在庫配置最適化方法に沿って適宜に解くことが可能な、数理最適化ソルバーであればいずれも適用可能である。
【0039】
なお、上述の数理最適化ソルバーとしては、例えば、CBC(COIN-OR BRAND-and-Cut)ソルバー(登録商標)、Gurobi(登録商標)、CPLEX(登録商標)、といった既存のものを想定できる。
【0040】
また、他の具体的な例としては、アニーリング方式において電子回路(デジタル回路な
ど)で実装するハードウェアだけでなく、超伝導回路などで実装する方式も含む。また、
アニーリング方式以外にてイジングモデルを実現するハードウェアでもよい。例えばレーザーネットワーク方式(光パラメトリック発振)・量子ニューラルネットワークなども含む。また、前述した通り一部の考え方が異なるものの、イジングモデルで行う計算をアダマールゲート、回転ゲート、制御NOTゲートといったゲートで置き換えた量子ゲート方式
においても、本発明を実現することができる。
【0041】
<ネットワーク構成>
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図3は、本実施形態の在庫配置最適化システム100を含むネットワーク構成図である。
【0042】
図3に示す在庫配置最適化システム100は、物流倉庫におけるピッキングエリアへの商品補充回数を最小化し、当該業務の効率化を可能とするコンピュータシステムであり、具体的には、数理最適化ソルバーを実装した情報処理装置である。例えば、当該情報処理装置が量子アニーリングのエンジンを備える場合、アニーリングマシンとなる。
【0043】
ただし、アニーリングマシンの概要は特許文献1に基づき既に述べたとおりであり、その具体的な構成や動作等の詳細については適宜省略する(以下同様)。また、アニーリング技術以外の数理最適化ソルバーを採用する場合も、既存技術を採用するため、具体的な構成や動作等の詳細については適宜省略する。
【0044】
本実施形態の在庫配置最適化システム100は、インターネットなどの適宜なネットワーク10を介して、ユーザ端末200とデータ通信可能に接続されている。
【0045】
上述のユーザ端末200は、在庫配置最適化システム100から、物流倉庫におけるピッキングエリアへの商品補充回数を最小化し、当該業務の効率化を可能とするための情報、すなわち、保管エリアからピッキングエリアの収納棚に格納する際の、当該収納棚における各商品の配置位置、配置数(列を構成する集合体での商品数といえる)、といった情報の提案を受ける端末である。
【0046】
このユーザ端末200のユーザとしては、具体的には、物流倉庫の運営事業者で、物流企業やECサイト運営企業といった組織を想定できる。
【0047】
いずれにしても、いわゆる多品種少量の商品を巨大な物流倉庫で保管し、オーダーに応じて迅速かつ確実に出荷する事業者であって、物流倉庫におけるピッキングエリアへの商品補充回数を最小化し、当該業務の効率化を図ろうとする事業者であれば、上述のユーザに該当しうる。つまり、そうした事業者の業務に関しては、本発明が適用可能であると言える。
【0048】
<ハードウェア構成>
また、本実施形態の在庫配置最適化システム100のハードウェア構成は、図4に以下の如くとなる。
【0049】
すなわち在庫配置最適化システム100は、記憶部101、メモリ103、演算部104、および通信部105、を備える。
【0050】
このうち記憶部101は、SSD(Solid State Drive)やハードディスクドライブなど適宜な不揮発性記憶素子で構成される。
【0051】
また、メモリ103は、RAMなど揮発性記憶素子で構成される。
【0052】
また、演算部104は、記憶部101に保持されるプログラム102をメモリ103に読み出すなどして実行し装置自体の統括制御を行なうとともに各種判定、演算及び制御処理を行なうCPUである。
【0053】
また、通信部105は、ネットワーク10と接続してユーザ端末200との通信処理を担うネットワークインターフェイスカード等を想定する。
【0054】
なお、在庫配置最適化システム100がスタンドアロンマシンである場合、ユーザからのキー入力や音声入力を受け付ける入力装置、処理データの表示を行うディスプレイ等の出力装置、を更に備えるとすれば好適である。
【0055】
また、記憶部101内には、本実施形態の在庫配置最適化システムとして必要な機能を実装する為のプログラム102に加えて、情報DB125が少なくとも記憶されている。ただし、この情報DB125についての詳細は後述する。
【0056】
また、プログラム102、すなわち数理最適化ソルバーとしての動作を実装するアルゴリズムは、解くべき課題である数理モデル1021の情報を保持する。この数理モデル1021は、目的関数や決定変数、制約条件など数理解析に必要な各種情報について管理者等が予め設定しておくものとなる。在庫配置最適化システム100が、アニーリングマシンとして稼働する場合、数理モデル1021はイジングモデルとなる。
【0057】
上述のように、本実施形態の在庫配置最適化システム100の一例である、イジングモデル1021を解くアニーリングマシンは、あくまでも一例であって、すでに述べたように、他の数理最適化ソルバーをプログラム102において実装し、又は外部システムから呼び出して利用し、イジングモデル1021の内容に対応した、目的関数、決定変数、及び制約条件からなる数理モデル1021を解く形態も勿論想定できる。
【0058】
なお、アニーリングマシンの概要にて述べた断熱量子計算は、別名で量子アニールとも呼ばれ、古典的な焼きなましの概念を量子力学に発展させたものである。即ち、断熱量子計算は本来古典的動作が可能で、高速性や解の正解率に関しで性能を向上させるために量子力学的効果が付加されたものとも解釈できる。そこで本発明では、演算部そのものは古典的とし、演算過程に量子力学的に定まるパラメータを導入することにより、古典的であるが量子力学的な効果を含んだ演算方法・装置を実現する。ただし、演算部を量子コンピュータで構成する形態についても勿論採用しうる。
【0059】
以上の概念に基づき、以下の例では断熱量子計算との関連性を説明しながら解としての基底状態を得る古典的アルゴリズムと、それを実現するための装置に関して述べる。
【0060】
こうした前提での在庫配置最適化システム100は、N個の変数sj (j=1,2,…,N)が-1≦sj ≦1の値域を取り、局所場gjと変数間相互作用Jij(i,j=1,2,…,N)によって課題の設定がなされる。
【0061】
また演算部104では、時刻をm分割して離散的にt=t。(t。=0)からtm(tm =τ)まで演算するものとし、各時刻tkにおける変数Sj(tk)を求めるに当たり、前時刻tk-1の変数Sj(tk-1)(i=1,2,..,N)の値と緩和項の係数9pinaあるいは9pinbを用いてBj(tk)={ΣiJijSi(tk-1)+gj+sgn(sj(tk-1))・9pina}・tk/τあるいはBj(tk)={ΣiJiJSj(tk-1)+gj+9pinb .Sj(tk-1)}・tk/τを求め、上述の変数Sj(tk)の値域が-1≦sj(tk)≦1に
なるように関数fを定めてSj(tk)=f(Bj(tk),tk)とし、時刻ステップをt=t0からt=tmに進めるにつれて上述の変数Sjを-1あるいは1に近づけ、最終的にsj<0ならば、Sjzd=-1、Sj>0ならば、Sjzd=1として解を定める。ただし、最終的な解s zdが実数であることが適切である場合は、s zdを[-1,1]を値域とする実数として解を定めてもよい。
【0062】
係数gpinbは、例えば|Jij|の平均値の50%から200%の値である。また、課題設定の局所場gjに関して、あるサイトj’に対してのみ補正項δgj’をgj’に加え、該サイトj’に対してのみgj’の大きさを大きくすることもできる。また、補正項δgj’は、例えば|Jij|の平均値の10%から100%の値である。
【0063】
続いて、量子力学的な記述から出発して古典的な形式に移行することを通して、アニーリングマシンの基本的原理を述べる。
【0064】
式(3)で与えられるイジングスピン・ハミルトニアンの基底状態探索問題はNP困難と呼ばれる分類の問題を含み、有用な問題であることが知られている(文献:F. Barahona, ”On the computational comp lex ity of Isingspin glass models,” J. Phys. A: Math. Gen. 15, 3241 (1982).)。
【0065】
[式3]
【0066】
Jij及びgjが課題設定パラメータであり、σ^はパウリのスピン行列のz成分で±1の固有値を取る。i,jはスピンのサイトを表す。イジングスピンとは値として±1だけを取りうる変数のことで、式(3)ではσ^の固有値が±1であることによりイジングスピン系となっている。
【0067】
式(3)のイジングスピンは文字通りのスピンである必要はなく、ハミルトニアンが式(3)で記述されるのであれば物理的には何でも良い。
【0068】
例えば、列として集合体を構成する商品の積み上げ段数と、収納棚の横幅方向及び奥行き方向での配置数と、上述の集合体の収納先となる収納棚及び当該収納棚での配置位置、のそれぞれをスピン±1に対応付けることや、ロジック回路のhighとlowを±1に対応付けることも可能であるし、光の縦偏波と横偏波を±1に対応付けることや0,πの位相を±1に対応付けることも可能である。
【0069】
ここで例示する方法では、断熱量子計算と同様に、時刻t=0において式(4)で与えられるハミルトニアンの基底状態に演算系を準備する。
【0070】
[式4]
【0071】
γは全サイトjに一様に掛かる外場の大きさで決まる比例定数であり、σ^jは、パウリのスピン行列のx成分である。演算系がスピンそのものであれば、外場とは磁場を意味する。
【0072】
式(4)は、横磁場を印加したことに相当し、すべてのスピンがx方向を向いた場合(γ>0)が基底状態である。問題設定のハミルトニアンはz成分のみのイジングスピン系として定義されたが、式(4)にはスピンのx成分が登場している。従って、演算過程でのスピンはイジングではなくベクトル的(ブロッホベクトル)である。t=0では式(4)のハミルトニアンでスタートしたが、時刻tの進行と共に徐々にハミルトニアンを変化させ、最終的には式(3)で記述されるハミルトニアンにしてその基底状態を解として得る。
【0073】
[式5]
【0074】
ここでσ^はパウリのスピン行列の3成分をベクトルとして表示している。基底状態はスピンが磁場方向を向いた場合で、<・>を量子力学的期待値として<σ^>=B/|B|と書ける。断熱過程では常に基底状態を維持しようとするので、スピンの向きは常に磁場の向きに追従する。
【0075】
以上の議論は多スピン系にも拡張できる。t=0ではハミルトニアンが式(4)で与えられる。これは全スピンに対して一様に磁場Bj =γが印加されたことを意味する。t>0では、磁場のx成分が徐々に弱まりBj =γ(1-t/τ)である。z成分に関してはスピン間相互作用があるために有効磁場としては式(6)になる。
【0076】
[式6]
【0077】
スピンの向きは<σ^>/<σ^>で規定できるので、スピンの向きが有効磁場に追従するならば式(7)によりスピンの向きが定まる。
【0078】
[式7]
【0079】
式(7)は量子力学的記述であるが期待値を取っているので、式(1)~(6)とは異なり古典量に関する関係式である。
【0080】
古典系では量子力学の非局所相関(量子縫れ)がないので、スピンの向きはサイトごとの局所場により完全に決まるはずであり、式(7)が古典的スピン系の振る舞いを決定する。量子系では非局所相関があるために式(7)は変形されることになるが、それに関しては後述することとし、ここでは発明の基本形態を述べるために式(7)で定まる古典系について記述する。
【0081】
図5にスピン系の基底状態を得るためのタイミングチャート(1)を示す。図5の記述は古典量に関するものなので、サイトjのスピンをσ^jではなくsjにより表した。またそれに伴い、図5の有効磁場Bjは古典量である。t=0において全サイトで右向きの有効磁場Bjが印加され、全スピンSjが右向きに初期化される。
【0082】
時間tの経過に従い、徐々にz軸方向の磁場とスピン間相互作用が加えられ、最終的にスピンは+z方向あるいは-z方向となって、スピンSjのz成分がsj=+1あるいは-1となる。時間tは連続的であることが理想であるが、実際の演算過程では離散的にして利便性を向上させることもできる。以下では離散的な場合を述べる。
【0083】
ここで例示するスピンはz成分だけでなくx成分が加わっているためにベクトル的なスピンになっている。図5からもベクトルとしての振る舞いが理解できる。ここまでy成分が登場してこなかったが、それは外場方向をxz面に取ったために外場のy成分が存在せず、従って<σ^>=0となるためである。
【0084】
演算系のスピンとしては大きさ1の3次元ベクトル(これをブロッホベクトルと呼び、球面上の点で状態を記述できる)を想定しているが、図に示す例における軸の取り方では2次元のみを考慮すればよい(円上の点で状態を記述できる)。
【0085】
またγは一定なのでBj(t)>0(γ>0)あるいはBj(t)<0(γ<0)が成り立つ。この場合、2次元スピンベクトルは半円のみで記述できることになり、[-1,1]でSjを指定すればSjの1変数で2次元スピンベクトルが定まる。従って、ここでの例では、スピンは2次元ベクトルであるが、値域を[-1,1]とする1次元連続変数として表記することもできる。
【0086】
図5のタイミングチャートでは時刻t=tkにおいてサイトごとに有効磁場を求め、その値を用いて式(8)によりt=tkにおけるスピンの向きを求める。
【0087】
[式8]
【0088】
式(8)は式(7)を古典量に関する表記に書き改めたものなので<・>の記号が付いていない。次に、t=tk+lの有効磁場をt=tkにおけるスピンの値を用いて求める。各時刻の有効磁場を具体的に書けば式(9)及び(10)となる。
【0089】
[式9]
【0090】
[式10]
【0091】
以下、図5のタイミングチャートで模式的に示した手順に従い、スピンと有効磁場を交互に求めていく。
【0092】
古典系ではスピンベクトルの大きさは1である。この場合スピンベクトルの各成分は、tanθ=Bj(tk)/Bj(tk)で定義される媒介変数θを用いてSj(tk)=sinθ、Sj(tk)=COSθと記述される。
【0093】
これを書き直せば、Sj(tk)=sin(arctan(Bj(tk)/Bj(tk)))、Sj(tk)=cos(arctan(Bj(tk)/Bj(tk)))である。
【0094】
式(9)から明らかなようにBj(tk)の変数は、tkのみであり、τとγは定数である。 従って、Sj(tk)=sin(arctan(Bj(tk)/Bj(tk)))及びSjx(tk)=cos(arctan(Bj(tk)/Bj(tk)))はBj(tk)とtkを変数とする関数としてSj(tk)=f1(Bj(tk),tk)及びSj(tk)=f2( Bj(tk),tk)のような一般化した表現もできる。
【0095】
スピンを2次元ベクトルとして記述しているので、Sj(tk)とsj(tk)の
2成分が登場しているが、Bj(tk)を式(10)に基づき決定するならばSj(tK)は必要ない。
【0096】
これは、[-1,1]を値域とするSj(tk)のみでスピン状態を記述できることに対応している。最終的な解Sjzdは、Sjzd=-1or1になる必要があり、Sj(τ)>0ならばSjzd=1、Sj(τ)<0ならばSjzd=-1とする。ただし、最終的な解s zdが実数であることが適切である場合は、s zdを[-1,1]を値域とする実数として取り出してもよい。
【0097】
図6に、上述のアルゴリズムをフローチャートにまとめたものを示す。ここでtm=τである。図6のフローチャートの各ステップs1~s9は、時間t=0からt=τに到る図5のタイミングチャートの、ある時刻での処理に対応している。すなわち、フローチャートのステップs2、s4、s6がそれぞれ、t=t1,tk+l,tmにおける上記の式(9)及び(10)に対応している。最終的な解はステップs8において、sj<0ならばSjzd=-1、Sj>0ならば、Sjzd=1とすることにより定める(s9)。ただし、最終的な解が実数であることが適切である場合は、s zdを、[-1,1]を値域とする実数として定めてもよい。なお、図6のフローでは一般的な例について示し、実数として取り出す旨の記載は省略している。
【0098】
ここまでは課題が式(3)で表現された場合に如何に解かれるかを示した。次に具体的課題が如何に局所場gjと変数間相互作用Jij(i,j=1,2,…,N)を含む式(3)で表現されるかに関して具体例を挙げて説明する。
【0099】
ここでの具体的課題すなわちイジングモデル1021は、例えば、物流倉庫におけるピッキングエリアに関する、商品の収納棚それぞれの位置とサイズ、当該収納棚に収納される商品それぞれのサイズと必要な最低在庫数たる補充点、当該収納棚で同一種の商品を列状に集積させる集合形態、当該商品が列状に集積された集合体の間の配置間隔、収納棚での集合体の高さと横幅方向及び奥行き方向での配置長、の制約条件それぞれが満たされる際に前記収納棚における前記商品の収納数が最大となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、上述の集合体を構成する商品の積み上げ段数と横幅方向及び奥行き方向での配置数と、集合体の収納先となる収納棚及び当該収納棚での配置位置、のそれぞれをスピンとし、上述の制約条件用関数における変数間の感応度をスピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを想定する。
【0100】
この場合、局所場gjは、物流倉庫におけるピッキングエリアに関する、商品の収納棚それぞれの位置とサイズ、当該収納棚に収納される商品それぞれのサイズと必要な最低在庫数たる補充点、当該収納棚で同一種の商品を列状に集積させる集合形態、当該商品が列状に集積された集合体の間の配置間隔、収納棚での集合体の高さと横幅方向及び奥行き方向での配置長、の制約条件それぞれが満たされる際に前記収納棚における前記商品の収納数が最大となる制約条件用関数、における変数の値が目的関数へ与える影響度として設定されることを想定する。
【0101】
以上のような考察を通して、(上述の目的関数の各項の間に関する)変数間相互作用Jijと局所場gjを具体的に設定し、式(3)で表されるイジングモデル1021の基底状態探索、すなわち上述の、物流倉庫におけるピッキングエリアに関する、商品の収納棚それぞれの位置とサイズ、当該収納棚に収納される商品それぞれのサイズと必要な最低在庫数たる補充点、当該収納棚で同一種の商品を列状に集積させる集合形態、当該商品が列状に集積された集合体の間の配置間隔、収納棚での集合体の高さと横幅方向及び奥行き方向での配置長、の制約条件それぞれが満たされる際に前記収納棚における前記商品の収納数が最大となる基底状態の探索を通して、商品の集合体の収納先となる収納棚及び当該収
納棚での配置位置と、当該集合体を構成する商品の積み上げ段数と横幅方向及び奥行き方向での配置数のそれぞれを特定する。
【0102】
<データ構造例>
続いて、本実施形態の在庫配置最適化システム100が用いる各種情報について説明する。図7A図7D、及び図9A図9Eに、本実施形態における情報DB125で保持する各情報の一例を示す。
【0103】
図7Aに示す、本実施形態の収納棚情報125Aは、ピッキングエリアにおける各収納棚の各出力情報を格納したテーブルである。
【0104】
ここで保持する情報としては、収納棚の識別情報をキーとして、当該収納棚のピッキングエリア内での位置、備える棚板の段数、棚板サイズ、耐荷重、一段あたりの高さ、及び周囲状況といった値を対応付けたレコードの集合体となっている。
【0105】
また図7Bに示す、本実施形態の商品情報125Bは、ピッキングエリアの収納棚に在庫し、出荷の対象となる商品の各種情報を格納したテーブルである。この商品情報は、商品の識別情報をキーに、当該商品のサイズ、容積、重量、直近の所定期間における出荷数(平均)、及び出荷数(最大)といった値を対応付けたレコードの集合体となっている。
【0106】
また図7Cに示す、本実施形態の通路情報125Cは、ピッキングエリアにおいて上述の収納棚周囲に走る通路の情報を格納したテーブルである。この通路情報は、通路の識別情報をキーに、ピッキングエリアにおける位置、幅、及び延長といった値を対応付けたレコードの集合体となっている。
【0107】
また図7Dに示す、本実施形態の重量・容量制限情報125Dは、上述の収納棚それぞれにおける、耐荷重や容量制限といった制約を格納したテーブルである。この重量・容量制限情報125Dは、収納棚の識別情報をキーに、当該収納棚の各段における耐荷重、容量制限の各値を対応付けたレコードの集合体となっている。
【0108】
また図8Aに示す、本実施形態の売れ筋商品の配置制限情報125Eは、ピッキングエリアから抽出・出荷する商品のうち一定レベル以上の出荷規模のある売れ筋商品について、その配置先としての制限を規定したテーブルである。この売れ筋商品の配置制限情報125Eは、収納棚及びその段数における、各売れ筋商品の配置可否を規定したレコードの集合体となっている。
【0109】
また図8Bに示す、本実施形態の1列あたり商品数情報125Fは、ピッキングエリアの収納棚において、各商品が集積して列構造を成す場合の、当該商品のサイズと当該収納棚のサイズ等に応じて決まる商品一列あたりの商品数の情報を格納したテーブルである。
【0110】
商品を収納棚上で集積して列構造を成す場合、図9で例示するように、収納棚の棚板上の収納空間において、その奥行き方向に、当該商品の特定面(例:ピッキング容易な面など)を収納空間開口に向けて連接配置し、また、高さ方向に例えば収納空間の高さ-5cmまで積み重ねて構成する。これらの列構造の生成ルールについても数式化し、制約条件の1つとして情報DB125で保持されることになる。図9の例では、商品Aの1列は、奥行き方向に3つ連接し、高さ方向に2段積み重ねた、計6個の商品で構成されている。
【0111】
また図8Cに示す、本実施形態の最低列数情報125Gは、ピッキングエリアの収納棚において、各商品が集積した列構造の最低数の情報を規定したテーブルである。また、図8Dに示す最大列数情報125Hは、ピッキングエリアの収納棚において、各商品が集積
した列構造の最大数の情報を規定したテーブルである。
【0112】
また図8Eに示す、本実施形態の突出条件情報125Iは、ピッキングエリアの収納棚において、各商品の列構造が当該収納棚の端部からはみだしうる長さに関する情報を規定したテーブルである。こうした突出条件情報125Iに基づいて、各商品の列構造が、収納棚の収納領域から突出してはみ出す場合、それが本テーブルで規定の許容条件を満たすか判定することになる(図10参照)。つまり、突出条件情報125Iは制約条件の1つとなる。
【0113】
なお、本実施形態における情報DB125が保持する情報は、数理モデル1021に適用する制約条件、決定変数、及び目的関数の各条件式(イジングモデル1021の場合、制約条件関数など)として構成されるものとする。また、ユーザらが各条件式の記述手法(既知)を適宜に採用して当該条件式らを生成するものとし、これを在庫配置最適化システム100が予め保持しているものとする。
【0114】
<フロー例>
以下、本実施形態における在庫配置最適化方法の実際手順について図に基づき説明する。以下で説明する在庫配置最適化方法に対応する各種動作は、在庫配置最適化システム100がメモリ等に読み出して実行するプログラムによって実現される。そして、このプログラムは、以下に説明される各種の動作を行うためのコードから構成されている。
【0115】
図11は、本実施形態における在庫配置最適化方法のフロー例を示す図である。この場合、在庫配置最適化システム100は、処理対象とする数理モデル1021(あるいはイジングモデル1021)として、収納棚における商品の収納数を目的関数、商品の集合体たる列構造の収納先となる収納棚及び当該収納棚での配置位置と、商品の列構造を構成する商品の積み上げ段数と横幅方向及び奥行き方向での配置数のそれぞれを決定変数とし、制約条件(物流倉庫におけるピッキングエリアに関する、商品の収納棚それぞれの位置とサイズ、前記収納棚に収納される商品それぞれのサイズと必要な最低在庫数たる補充点、収納棚で同一種の商品を列状に集積させる集合形態、商品が列状に集積された列状構造(集合体)の間の配置間隔、収納棚での列状構造の高さと横幅方向及び奥行き方向での配置長)の下、プログラム102が有する又は外部システムから適宜呼び出す数理最適化ソルバーによって、目的関数である収納数を最大化する、決定変数の各値を演算するものとする。
【0116】
なお、数理モデル1021としてイジングモデルを採用し、在庫配置最適化システム100が、アニーリングマシンである場合、上述の各制約条件が満たされる際に最大となる制約条件用関数に関して、上述の決定変数をスピンとし、目的関数における変数間の感応度をスピンの間の相互作用の強度として設定したモデルを演算するものとする。
【0117】
そこで、在庫配置最適化システム100は、記憶装置101の情報DB125で保持する情報から、上述の制約条件及び決定変数に対応した情報(これに基づき規定された数式含む)を抽出し、メモリ103に格納する(s10)。
【0118】
また、在庫配置最適化システム100は、s10と同様に、上述の情報DB125で保持する情報から、目的関数の情報(収納数を規定する数式)を抽出し、これをメモリ103に格納する(s11)。
【0119】
続いて、在庫配置最適化システム100は、数理最適化ソルバーに、上述の目的関数、決定変数、及び制約条件を与えて、当該目的関数である収納数を最大化する、決定変数の各値を演算する(s12)。ここで、最大化される収納数は、補充限度の最大値となる。
【0120】
次に、在庫配置最適化システム100は、s12で特定出来た補充限度
から補充点(図7Bの商品情報125Bにおける出荷数(最大)の値)を減算して得た値で、過去の所定期間での当該商品の出荷総数(図7Bの商品情報125Bにおける出荷数(平均)の値)を除算することで、当該商品の保管エリアからピッキングエリアへの補充回数を算定する(s13)。
【0121】
続いて、在庫配置最適化システム100は、ここまでで得た決定変数の値、すなわち列構造を成す商品の収納先となる収納棚及び当該収納棚での配置位置と、当該列構造を構成する商品の積み上げ段数と横幅方向及び奥行き方向での配置数のそれぞれと、上述のs13で算定した補充回数、さらには、補充限度の値を、ユーザ端末200に出力(図12参照)し(s14)、処理を終了する。
【0122】
なお、情報DB125で保持する制約条件の情報として、列構造(集合体)を成す商品のうち、収納棚の開口面に面する特定部位(例:2段目の先頭にあたる位置。図13参照)に関して、ピッキング作業用空間の確保のため商品配置を禁止する制約条件の情報をさらに保持するとしてもよい。
【0123】
その場合、在庫配置最適化システム100は、上述の商品配置を禁止する制約条件も含む制約条件の情報の下、数理最適化ソルバーによる演算を行うものとする。この場合、収納棚からの商品取り出しの障害となる商品配置を回避し、ピッキング動作が容易なものとなり、ひいては、物流倉庫におけるピッキング業務のさらなる効率化が可能となる。
【0124】
また、情報DB125で保持する制約条件の情報として、数理最適化ソルバーによる演算の結果に基づき、収納棚における移動が発生する商品数の上限に関する制約条件の情報(図14参照)をさらに保持するものとしてもよい。
【0125】
その場合、在庫配置最適化システム100は、上述の商品の移動数上限に関する制約条件も含む制約条件の情報の下、数理最適化ソルバーによる演算を行うものとする。これによれば、収納棚における既存の商品配置が変更されるケースで、作業員の負担となる商品移動の動作を適宜に抑制可能となる。ひいては、物流倉庫におけるピッキング業務のさらなる効率化が可能となる。
【0126】
以上、本発明を実施するための最良の形態などについて具体的に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0127】
こうした本実施形態によれば、物流倉庫におけるピッキングエリアへの商品補充回数を最小化し、当該業務の効率化が可能となる。
【0128】
本明細書の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。すなわち、本実施形態の在庫配置最適化システムにおいて、前記演算部は、前記収納数たる補充限度から前記補充点を減算して得た値で、過去の所定期間での前記商品の出荷総数を除算することで、前記商品の保管エリアから前記ピッキングエリアへの補充回数を算定して所定装置に出力するものである、としてもよい。
【0129】
これによれば、最大化された補充限度に基づいて最小化される補充回数の情報が出力され、物流倉庫の管理担当者等のユーザにとって、在庫配置最適化の結果と効果を明確に認識可能となる。また、当該情報に基づく在庫配置等の運用を実施することで、実際に物流倉庫におけるピッキングエリアへの商品補充回数が最小化し、当該業務の効率化が可能となる。
【0130】
また、本実施形態の在庫配置最適化システムにおいて、前記記憶部は、前記制約条件の情報として、前記集合体のうち前記収納棚の開口面に面する特定部位に関して、ピッキング作業用空間の確保のため商品配置を禁止する制約条件の情報をさらに格納し、前記演算部は、前記商品配置を禁止する制約条件も含む前記制約条件の情報の下、前記演算を行うものである、としてもよい。
【0131】
これによれば、収納棚からの商品取り出し、すなわちピッキング動作が容易なものとなり、ひいては、物流倉庫におけるピッキング業務のさらなる効率化が可能となる。
【0132】
また、本実施形態の在庫配置最適化システムにおいて、前記記憶部は、前記制約条件の情報として、前記商品が前記配置長を超過して前記収納棚からはみだし可能な突出長の制約条件の情報をさらに格納し、前記演算部は、前記突出長の制約条件も含む前記制約条件の情報の下、前記演算を行うものである、としてもよい。
【0133】
これによれば、収納棚から端部がはみだす形で商品が配置される状況、形態に適宜に対応可能となり、収納棚における商品の収納効率が向上し、補充限度がアップすることとなる。ひいては、物流倉庫におけるピッキングエリアへの商品補充回数を最小化し、当該業務のさらなる効率化が可能となる。
【0134】
また、本実施形態の在庫配置最適化システムにおいて、前記記憶部は、前記制約条件の情報として、前記演算の結果に基づき、前記収納棚における移動が発生する商品数の上限に関する制約条件の情報をさらに格納し、前記演算部は、前記商品数の上限の制約条件も含む前記制約条件の情報の下、前記演算を行うものである、としてもよい。
【0135】
これによれば、本発明を適用することで、収納棚における既存の商品配置が変更されるケースで、作業員の負担となる商品移動の動作を適宜に抑制可能となる。ひいては、物流倉庫におけるピッキング業務のさらなる効率化が可能となる。
【0136】
また、本実施形態の在庫配置最適化システムにおいて、前記演算部は、前記制約条件それぞれが満たされる際に前記収納棚における前記商品の収納数が最大となる制約条件用関数、を項として含む目的関数に関して、前記集合体を構成する前記商品の積み上げ段数と前記横幅方向及び奥行き方向での配置数と、前記集合体の収納先となる収納棚及び当該収納棚での配置位置、のそれぞれをスピンとし、前記制約条件用関数における変数間の感応度を前記スピンの間の相互作用の強度として設定したイジングモデルを演算するものである、としてもよい。
【0137】
これによれば、既存の線形計画ソルバーを採用する場合よりも、演算に必要な時間を短縮可能であり、ひいては、物流倉庫におけるピッキング業務のさらなる効率化が可能となる。
【0138】
また、本実施形態の在庫配置最適化システムにおいて、前記イジングモデルに関して組合せ最適化問題を解くCMOSアニーリングマシンであるとしてもよい。
【0139】
これによれば、イジングモデルの動作を半導体のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの素子を用いた回路で擬似的に再現し、互いに影響しあっている制約条件すなわち非線形な制約条件を踏まえた組合せ最適化問題の実用解を、室温下で効率良く求めることが可能となる。ひいては、物流倉庫におけるピッキングエリアへの商品補充回数を最小化し、当該業務のさらなる効率化が可能となる。
【符号の説明】
【0140】
10 ネットワーク
100 在庫配置最適化システム
101 記憶部
102 プログラム
1021 数理モデル
103 メモリ
104 演算部
105 通信部
125 情報DB
200 ユーザ端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9
図10
図11
図12
図13
図14