(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】反射防止層付き偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241120BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20241120BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20241120BHJP
H10K 50/86 20230101ALI20241120BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20241120BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20241120BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20241120BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B1/115
G02B1/14
H10K50/86
H10K59/10
G09F9/30 349E
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2022151163
(22)【出願日】2022-09-22
【審査請求日】2024-08-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】別府 浩史
(72)【発明者】
【氏名】松岡 秀展
(72)【発明者】
【氏名】國方 智
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-218674(JP,A)
【文献】特開2014-34701(JP,A)
【文献】特開平8-136730(JP,A)
【文献】特開2016-125121(JP,A)
【文献】特開2016-122173(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0003860(US,A1)
【文献】特開2010-243863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 1/10- 1/18
H10K50/00-99/00
G09F 9/30
C09J 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材と、前記フィルム基材の一方の主面側に設けられた反射防止層とを有する反射防止層付き偏光板の製造方法であって、
前記フィルム基材の前記一方の主面側に、2層以上の薄膜からなる前記反射防止層を成膜する工程Saと、
前記反射防止層を構成する少なくとも1つの層を成膜した後、前記層に可視光を照射し、その反射光を検出する工程Sbとを備え、
前記工程Sa及び前記工程Sbは、前記フィルム基材を一方向に搬送しながら、連続して実施され、
前記フィルム基材は、第1保護フィルム、第1接着剤層、偏光子、第2接着剤層及び第2保護フィルムをこの順に有する積層体であり、
前記第1保護フィルムと前記偏光子とは、前記第1接着剤層を介して接着されており、
前記第2保護フィルムと前記偏光子とは、前記第2接着剤層を介して接着されており、
前記第1保護フィルム及び前記第2保護フィルムは、いずれも、前記偏光子よりも幅が大きく、前記偏光子の幅方向の両端から張り出しており、
前記両端から張り出した箇所の少なくとも一部における前記第1保護フィルムと前記第2保護フィルムとの間隔が、前記偏光子の幅方向の端部を挟持する箇所における前記第1保護フィルムと前記第2保護フィルムとの間隔よりも狭い、反射防止層付き偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記工程Sbにおいて、前記反射防止層を構成する全ての層を成膜した後、前記反射防止層に可視光を照射し、その反射光を検出する、請求項1に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【請求項3】
前記工程Sbにおける前記反射光の検出結果に応じて、前記工程Saにおける前記反射防止層の成膜条件が調整される、請求項1に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【請求項4】
前記工程Sbにおいて、前記層の幅方向の複数個所に可視光を照射し、それらの反射光を検出する、請求項1に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【請求項5】
前記工程Saにおいて、前記反射防止層をスパッタ法により成膜する、請求項1に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【請求項6】
前記フィルム基材は、前記両端から張り出した箇所の幅方向の少なくとも一部において、前記第1保護フィルムと前記第2保護フィルムとを接着する第3接着剤層を更に備える、請求項1に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【請求項7】
前記第2保護フィルムは、透明フィルムと、前記透明フィルムの一方の主面側に設けられたハードコート層とを備え、
前記工程Saにおいて、前記ハードコート層の前記透明フィルム側とは反対側に前記反射防止層を成膜する、請求項1に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【請求項8】
前記フィルム基材は、前記第1保護フィルムの前記偏光子側とは反対側に設けられた粘着剤層を更に備え、
前記工程Saにおいて、前記第2保護フィルムの前記偏光子側とは反対側に前記反射防止層を成膜する、請求項1に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【請求項9】
前記フィルム基材は、前記粘着剤層の前記第1保護フィルム側とは反対側に仮着された、はく離ライナーを更に備える、請求項8に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【請求項10】
前記工程Saの前に、前記フィルム基材の前記一方の主面側にプライマー層を成膜する工程Scを更に備え、
前記工程Saにおいて、前記プライマー層の前記フィルム基材側とは反対側の主面に前記反射防止層を成膜する、請求項1に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止層付き偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置の視認側には、外光の反射による画質低下の防止、コントラスト向上等を目的として、反射防止フィルムが配置されている。反射防止フィルムは、フィルム基材上に、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体からなる反射防止層を備える。
【0003】
反射防止フィルムの一形態として、反射防止層付き偏光板(反射防止層付き偏光フィルム)が挙げられる。反射防止層付き偏光板は、偏光板の表面に反射防止フィルムを貼り合わせる方法や、偏光子の表面に保護フィルムとして反射防止フィルムを貼り合わせる方法により形成される。また、偏光板上に反射防止層を成膜することにより、反射防止層付き偏光板を形成する方法も知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
反射防止層は、薄膜の多重反射干渉を利用して、可視光の反射率を低減している。そのため、薄膜の屈折率や膜厚が変動すると、反射率や反射光の色相等の反射光特性が変化する。反射防止層の形成において、薄膜の成膜条件を厳格に管理して一定に保った場合でも、原料の特性のばらつきや、成膜環境の経時的な変動等に起因して、薄膜の膜厚や屈折率等が変動する場合がある。
【0006】
フィルム製造では、製造工程中でインライン測定を行い、その測定結果を前工程にフィードバックすることにより、フィルムの品質を一定に保持することが行われている。例えば、特許文献1では、反射防止層付き偏光板の製造工程におけるインライン検査として、インラインで反射光特性を測定し、その測定結果を薄膜の成膜条件にフィードバックしている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の技術には、反射防止層付き偏光板の反射光特性を均一に保つことについて、改善の余地が残されている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、反射光特性を均一に保つことができる反射防止層付き偏光板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<本発明の態様>
本発明には、以下の態様が含まれる。
【0010】
[1]フィルム基材と、前記フィルム基材の一方の主面側に設けられた反射防止層とを有する反射防止層付き偏光板の製造方法であって、
前記フィルム基材の前記一方の主面側に、2層以上の薄膜からなる前記反射防止層を成膜する工程Saと、
前記反射防止層を構成する少なくとも1つの層を成膜した後、前記層に可視光を照射し、その反射光を検出する工程Sbとを備え、
前記工程Sa及び前記工程Sbは、前記フィルム基材を一方向に搬送しながら、連続して実施され、
前記フィルム基材は、第1保護フィルム、第1接着剤層、偏光子、第2接着剤層及び第2保護フィルムをこの順に有する積層体であり、
前記第1保護フィルムと前記偏光子とは、前記第1接着剤層を介して接着されており、
前記第2保護フィルムと前記偏光子とは、前記第2接着剤層を介して接着されており、
前記第1保護フィルム及び前記第2保護フィルムは、いずれも、前記偏光子よりも幅が大きく、前記偏光子の幅方向の両端から張り出しており、
前記両端から張り出した箇所の少なくとも一部における前記第1保護フィルムと前記第2保護フィルムとの間隔が、前記偏光子の幅方向の端部を挟持する箇所における前記第1保護フィルムと前記第2保護フィルムとの間隔よりも狭い、反射防止層付き偏光板の製造方法。
【0011】
[2]前記工程Sbにおいて、前記反射防止層を構成する全ての層を成膜した後、前記反射防止層に可視光を照射し、その反射光を検出する、前記[1]に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【0012】
[3]前記工程Sbにおける前記反射光の検出結果に応じて、前記工程Saにおける前記反射防止層の成膜条件が調整される、前記[1]又は[2]に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【0013】
[4]前記工程Sbにおいて、前記層の幅方向の複数個所に可視光を照射し、それらの反射光を検出する、前記[1]~[3]のいずれか一つに記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【0014】
[5]前記工程Saにおいて、前記反射防止層をスパッタ法により成膜する、前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【0015】
[6]前記フィルム基材は、前記両端から張り出した箇所の幅方向の少なくとも一部において、前記第1保護フィルムと前記第2保護フィルムとを接着する第3接着剤層を更に備える、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【0016】
[7]前記第2保護フィルムは、透明フィルムと、前記透明フィルムの一方の主面側に設けられたハードコート層とを備え、
前記工程Saにおいて、前記ハードコート層の前記透明フィルム側とは反対側に前記反射防止層を成膜する、前記[1]~[6]のいずれか一つに記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【0017】
[8]前記フィルム基材は、前記第1保護フィルムの前記偏光子側とは反対側に設けられた粘着剤層を更に備え、
前記工程Saにおいて、前記第2保護フィルムの前記偏光子側とは反対側に前記反射防止層を成膜する、前記[1]~[7]のいずれか一つに記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【0018】
[9]前記フィルム基材は、前記粘着剤層の前記第1保護フィルム側とは反対側に仮着された、はく離ライナーを更に備える、前記[8]に記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【0019】
[10]前記工程Saの前に、前記フィルム基材の前記一方の主面側にプライマー層を成膜する工程Scを更に備え、
前記工程Saにおいて、前記プライマー層の前記フィルム基材側とは反対側の主面に前記反射防止層を成膜する、前記[1]~[9]のいずれか一つに記載の反射防止層付き偏光板の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、反射光特性を均一に保つことができる反射防止層付き偏光板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図4】反射防止層の成膜装置の一例を示す模式図である。
【
図5】A、B及びCは、本発明に係る反射防止層付き偏光板の製造方法の一例を示す工程別断面図である。
【
図6】実施例の成膜条件の調整前における、反射防止層からの反射光の色相を示すグラフである。
【
図7】実施例の成膜条件の調整後における、反射防止層からの反射光の色相を示すグラフである。
【
図8】比較例の成膜条件の調整前における、反射防止層からの反射光の色相を示すグラフである。
【
図9】比較例の成膜条件の調整後における、反射防止層からの反射光の色相を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0023】
まず、本明細書中で使用される用語について説明する。「屈折率」は、温度23℃の雰囲気下における波長550nmの光に対する屈折率である。層状物(より具体的には、フィルム基材、第1保護フィルム、第2保護フィルム、透明フィルム、ハードコート層、プライマー層、粘着剤層、はく離ライナー、偏光子等)の「主面」とは、層状物の厚み方向に直交する面をさす。
【0024】
「ボンバード処理」とは、所定の気体(希ガス、酸素ガス等)を導入しながらフィルム基材の表面をプラズマ処理する表面処理をさす。
【0025】
粒子の個数平均一次粒子径は、何ら規定していなければ、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトウェア(例えば、アメリカ国立衛生研究所製「ImageJ」)を用いて測定した、100個の一次粒子の円相当径(ヘイウッド径:一次粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。
【0026】
流量の単位「sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)」は、標準状態(温度:0℃、圧力:101.3kPa)における流量の単位「mL/min」である。
【0027】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰り返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
【0028】
本明細書に例示の成分や官能基等は、特記しない限り、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
以下の説明において参照する図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数、形状等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。また、説明の都合上、後に説明する図面において、先に説明した図面と同一構成部分については、同一符号を付して、その説明を省略する場合がある。
【0030】
<反射防止層付き偏光板の製造方法>
本実施形態に係る反射防止層付き偏光板の製造方法は、フィルム基材と、フィルム基材の一方の主面側に設けられた反射防止層とを有する反射防止層付き偏光板の製造方法であって、工程Saと、工程Sbとを備える。工程Saでは、フィルム基材の一方の主面側に、2層以上の薄膜からなる反射防止層を成膜する。工程Sbでは、反射防止層を構成する少なくとも1つの層を成膜した後、当該層に可視光を照射し、その反射光を検出する(インライン反射光測定)。工程Sa及び工程Sbは、フィルム基材を一方向に搬送しながら、連続して実施される。フィルム基材は、第1保護フィルム、第1接着剤層、偏光子、第2接着剤層及び第2保護フィルムをこの順に有する積層体である。第1保護フィルムと偏光子とは、第1接着剤層を介して接着されている。第2保護フィルムと偏光子とは、第2接着剤層を介して接着されている。第1保護フィルム及び第2保護フィルムは、いずれも、偏光子よりも幅が大きく、偏光子の幅方向の両端から張り出している。偏光子の幅方向の両端から張り出した箇所の少なくとも一部における第1保護フィルムと第2保護フィルムとの間隔は、偏光子の幅方向の端部を挟持する箇所における第1保護フィルムと第2保護フィルムとの間隔よりも狭い。
【0031】
本実施形態によれば、上記構成を備えるため、反射光特性を均一に保つことができる反射防止層付き偏光板の製造方法を提供できる。以下、工程Saを、「反射防止層形成工程」と記載することがある。また、工程Sbを、「インライン反射光測定工程」と記載することがある。
【0032】
以下、本実施形態に係る反射防止層付き偏光板の製造方法の詳細について、適宜図面を参照しながら説明する。まず、フィルム基材について説明する。
【0033】
[フィルム基材]
図1は、本実施形態において使用可能なフィルム基材の一例を示す断面図である。
図1に示すフィルム基材10は、第1保護フィルム11、第1接着剤層12、偏光子13、第2接着剤層14及び第2保護フィルム15をこの順に有する積層体である。第2保護フィルム15は、透明フィルム16と、透明フィルム16の一方の主面側(
図1では、透明フィルム16の第2接着剤層14側とは反対側の主面16a)に設けられたハードコート層17とを備える。第1保護フィルム11と偏光子13とは、第1接着剤層12を介して接着されている。第2保護フィルム15と偏光子13とは、第2接着剤層14を介して接着されている。第1保護フィルム11及び第2保護フィルム15は、いずれも、偏光子13よりも幅が大きく、偏光子13の幅方向の両端から張り出している。偏光子13の幅方向の両端から張り出した箇所Pの少なくとも一部における第1保護フィルム11と第2保護フィルム15との間隔D
1は、偏光子13の幅方向の端部を挟持する箇所における第1保護フィルム11と第2保護フィルム15との間隔D
2よりも狭い。
【0034】
一般に、反射防止層付き偏光板用のフィルム基材は、後述する反射防止層を成膜する際に、上記張り出した箇所Pをスリットした状態で使用される。本発明者らの検討により、上記張り出した箇所Pをスリットした状態では、反射防止層を成膜する際に、偏光子13中の水分が偏光子13の端面から蒸散しやすくなり、その結果、得られる反射防止層付き偏光板の長手方向又は幅方向に反射光特性がばらつく傾向があることが判明した。詳しくは、上記張り出した箇所Pをスリットしたフィルム基材を使用すると、偏光子13中の水分が偏光子13の端面から蒸散しやすくなり、反射防止層を成膜する際の成膜室内のガス組成(特に、偏光子13の端面近傍のガス組成)が変動しやすくなる。その結果、得られる反射防止層付き偏光板の長手方向又は幅方向において反射防止層の厚みのばらつきが大きくなる傾向がある。よって、上記張り出した箇所Pをスリットしたフィルム基材を使用すると、反射防止層の長手方向又は幅方向の厚みのばらつきが大きくなるため、反射防止層付き偏光板の長手方向又は幅方向に反射光特性(例えば、色相等)がばらつく傾向がある。
【0035】
本実施形態では、上記張り出した箇所Pの少なくとも一部における第1保護フィルム11と第2保護フィルム15との間隔D1が、偏光子13の幅方向の端部を挟持する箇所における第1保護フィルム11と第2保護フィルム15との間隔D2よりも狭いため、圧力損失により、偏光子13の端面からのガスが放出されにくくなると考えられる。このため、本実施形態では、偏光子13の端面からの水分の蒸散が抑制され、その結果、反射防止層を成膜する際の成膜室内のガス組成の変動が抑制されると推測される。これにより、後述するインライン反射光測定工程において得られた検出結果を用いた、反射防止層の成膜条件の調整が容易となるため、得られる反射防止層付き偏光板の長手方向又は幅方向において反射防止層の厚みのばらつきが小さくなる。よって、本実施形態によれば、反射防止層の長手方向又は幅方向の厚みのばらつきが小さくなるため、反射防止層付き偏光板の長手方向又は幅方向の反射光特性(例えば、色相等)のばらつきが小さくなる。従って、本実施形態によれば、反射光特性を均一に保つことができる反射防止層付き偏光板の製造方法を提供できる。
【0036】
上記間隔D
1を上記間隔D
2よりも狭くする方法としては、第1接着剤層12及び第2接着剤層14を形成するための接着剤の硬化収縮を利用する方法が挙げられる。詳しくは、第1保護フィルム11と偏光子13とを接着剤で接着しながら、第2保護フィルム15と偏光子13とを接着剤で接着する際に、接着剤の硬化収縮に伴い、第1保護フィルム11及び第2保護フィルム15の端部同士が引き寄せられる。また、偏光子13の幅方向の端部近傍において接着剤が濡れ広がる際の界面張力によっても、第1保護フィルム11及び第2保護フィルム15の端部同士が引き寄せられる。その結果、
図1に示すように、上記間隔D
1が上記間隔D
2よりも狭いフィルム基材10が得られる。
【0037】
偏光子13の端面からの水分の蒸散をより抑制するためには、
図2に示すように、両端から張り出した箇所Pの幅方向の少なくとも一部において、第1保護フィルム11と第2保護フィルム15とを接着する第3接着剤層21を更に備えるフィルム基材20を用いることが好ましい。第3接着剤層21の材料となる接着剤は、第1接着剤層12及び第2接着剤層14の材料となる接着剤と同種又は異なる種類の接着剤を使用できる。第3接着剤層21の材料となる接着剤としては、例えば、後述する第1接着剤層12の材料となる接着剤として挙げられたものを使用できる。
【0038】
偏光子13の端面からの水分の蒸散を更に抑制するためには、
図2に示すように、第3接着剤層21が、第1接着剤層12及び第2接着剤層14と一体的に形成されていることが好ましい。また、偏光子13の端面からの水分の蒸散を更により抑制するためには、
図2に示すように、偏光子13の幅方向の端面が第3接着剤層21により封止されていることが好ましい。第3接着剤層21と、第1接着剤層12及び第2接着剤層14とを一体的に形成する際は、第1保護フィルム11と偏光子13とを接着剤で接着する際、及び第2保護フィルム15と偏光子13とを接着剤で接着する際に、接着剤が上記張り出した箇所Pへ溢れ出るように接着剤の塗布量を調整すればよい。
【0039】
次に、フィルム基材10の要素について説明する。
【0040】
(第1保護フィルム11)
第1保護フィルム11は、例えば可撓性を有する透明な樹脂フィルムである。第1保護フィルム11を構成する材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアリレート樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。セルロース樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)が挙げられる。これらの材料は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。第1保護フィルム11の材料としては、透明性及び強度の観点から、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びセルロース樹脂からなる群より選択される一種が好ましく、PET、COP及びTACからなる群より選択される一種がより好ましく、TACが更に好ましい。つまり、第1保護フィルム11としては、ポリエステル樹脂フィルム、ポリオレフィン樹脂フィルム、及びセルロース樹脂フィルムからなる群より選択される一種のフィルムが好ましく、PETフィルム、COPフィルム及びTACフィルムからなる群より選択される一種のフィルムがより好ましく、TACフィルムが更に好ましい。
【0041】
第1保護フィルム11の厚みは、強度の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上である。第1保護フィルム11の厚みは、取扱い性の観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0042】
第1保護フィルム11の一方の主面又は両主面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、及びカップリング剤処理が挙げられる。
【0043】
第1保護フィルム11の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、反射防止層付き偏光板の透明性を向上させる観点から、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上100%以下である。
【0044】
(偏光子13)
偏光子13としては、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。中でも、高い偏光度を有することから、ポリビニルアルコールや、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて所定方向に配向させたポリビニルアルコール(PVA)系偏光子が好ましい。偏光子13の厚みは、例えば5μm以上100μm以下である。
【0045】
(透明フィルム16)
透明フィルム16の材料としては、第1保護フィルム11の材料として上述したものと同様の材料が好ましく用いられる。また、透明フィルム16の好ましい厚み範囲についても、上述した第1保護フィルム11の好ましい厚み範囲と同様である。なお、透明フィルム16の材料と第1保護フィルム11の材料とは、同種でもよく、互いに異なる種類でもよい。また、透明フィルム16の厚みと第1保護フィルム11の厚みは、同一でもよく、異なっていてもよい。
【0046】
(第1接着剤層12)
第1接着剤層12の材料となる接着剤としては、アクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系ポリマー、フッ素系ポリマー、ゴム系ポリマー等をベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。PVA系偏光子の接着には、ポリビニルアルコール系の接着剤が好ましく用いられる。第1接着剤層12の厚みは、例えば0.1μm以上5.0μm以下であり、好ましくは0.2μm以上3.0μm以下である。
【0047】
(第2接着剤層14)
第2接着剤層14の材料となる接着剤としては、第1接着剤層12の材料となる接着剤として上述したものと同様の接着剤が好ましく用いられる。また、第2接着剤層14の好ましい厚み範囲についても、上述した第1接着剤層12の好ましい厚み範囲と同様である。なお、第2接着剤層14の材料となる接着剤と第1接着剤層12の材料となる接着剤とは、同種でもよく、互いに異なる種類でもよい。また、第2接着剤層14の厚みと第1接着剤層12の厚みは、同一でもよく、異なっていてもよい。
【0048】
(ハードコート層17)
ハードコート層17は、反射防止層付き偏光板の硬度や弾性率等の機械的特性を高める層である。ハードコート層17は、例えば、硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)の硬化物からなる。硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、及びメラミン樹脂が挙げられる。これらの硬化性樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。ハードコート層17の硬度を高める観点から、硬化性樹脂としては、アクリル樹脂及びウレタンアクリレート系樹脂からなる群より選択される一種以上が好ましく、ウレタンアクリレート系樹脂がより好ましい。
【0049】
また、硬化性樹脂組成物としては、例えば、紫外線硬化型の樹脂組成物、及び熱硬化型の樹脂組成物が挙げられる。反射防止層付き偏光板の生産性向上の観点から、硬化性樹脂組成物としては、紫外線硬化型の樹脂組成物が好ましい。紫外線硬化型の樹脂組成物には、紫外線硬化型モノマー、紫外線硬化型オリゴマー及び紫外線硬化型ポリマーからなる群より選択される一種以上が含まれる。紫外線硬化型の樹脂組成物の具体例としては、特開2016-179686号公報に記載のハードコート層形成用組成物が挙げられる。
【0050】
また、硬化性樹脂組成物は、個数平均一次粒子径が0.5μm以上の粒子(以下、「マイクロ粒子」と記載することがある)を含有してもよい。つまり、ハードコート層17は、マイクロ粒子を含有してもよい。硬化性樹脂組成物にマイクロ粒子を配合することにより、ハードコート層17における、硬さの調整、表面粗さの調整、屈折率の調整及び防眩性の調整が可能となる。マイクロ粒子としては、例えば、金属(又は半金属)の酸化物粒子、ガラス粒子、及び有機粒子が挙げられる。金属(又は半金属)の酸化物粒子の材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、及び酸化アンチモンが挙げられる。有機粒子の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル-スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、及びポリカーボネートが挙げられる。
【0051】
ハードコート層17の防眩性を容易に調整するためには、マイクロ粒子の個数平均一次粒子径が、1.0μm以上5.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以上4.0μm以下であることがより好ましい。
【0052】
ハードコート層17の防眩性を容易に調整するためには、ハードコート層17におけるマイクロ粒子の量は、硬化性樹脂100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上、20重量部以上又は30重量部以上であってもよい。ハードコート層17におけるマイクロ粒子の量の上限は、硬化性樹脂100重量部に対して、例えば90重量部であり、80重量部であることが好ましく、70重量部であってもよい。
【0053】
また、硬化性樹脂組成物は、個数平均一次粒子径が0.5μm未満の粒子(以下、「ナノ粒子」と記載することがある)を含んでいてもよい。ハードコート層17がナノ粒子を含む硬化性樹脂組成物の硬化物からなる場合、ハードコート層17の表面に、微細な凹凸が形成され、ハードコート層17と、その上に形成される層との密着性が向上する傾向がある。
【0054】
密着性向上に寄与する微細な凹凸形状を形成する観点から、ナノ粒子の個数平均一次粒子径は、20nm以上80nm以下であることが好ましく、25nm以上70nm以下であることがより好ましく、30nm以上60nm以下であることが更に好ましい。
【0055】
ナノ粒子の材料としては、無機酸化物が好ましい。無機酸化物としては、酸化シリコン(シリカ)、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウム、酸化マグネシウム等の金属(又は半金属)の酸化物が挙げられる。無機酸化物は、複数種の(半)金属の複合酸化物でもよい。例示の無機酸化物の中でも、密着性向上効果が高いことから、酸化シリコンが好ましい。つまり、ナノ粒子としては、酸化シリコンの粒子(シリカ粒子)が好ましい。ナノ粒子としての無機酸化物粒子の表面には、樹脂との密着性や親和性を高める目的で、アクリル基、エポキシ基等の官能基が導入されていてもよい。
【0056】
ハードコート層17におけるナノ粒子の量は、硬化性樹脂100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上、20重量部以上又は30重量部以上であってもよい。ナノ粒子の量が5重量部以上であれば、ハードコート層17上に形成される層との密着性をより向上させることができる。ハードコート層17におけるナノ粒子の量の上限は、硬化性樹脂100重量部に対して、例えば90重量部であり、80重量部であることが好ましく、70重量部であってもよい。
【0057】
硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)は、例えば、上述した硬化性樹脂、及び重合開始剤(例えば光重合開始剤)を含み、必要に応じてこれらの成分を溶解又は分散可能な溶媒を含む。また、硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)は、上記成分の他に、マイクロ粒子、ナノ粒子、レベリング剤、粘度調整剤(チクソトロピー剤、増粘剤等)、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、分散剤、分散安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、界面活性剤、滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0058】
ハードコート層17の厚みは、ハードコート層17の硬度を高める観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。ハードコート層17の厚みは、反射防止層付き偏光板の柔軟性確保の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは35μm以下、更により好ましくは30μm以下である。
【0059】
(ハードコート層17の形成方法)
ハードコート層17は、例えば、透明フィルム16の一方の主面(
図1では、透明フィルム16の第2接着剤層14側とは反対側の主面16a)に、硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)を塗布し、必要に応じて溶媒の除去及び樹脂の硬化を行うことにより、形成される。透明フィルム16の一方の主面にハードコート層17を設けることにより、
図1に示すように、透明フィルム16とハードコート層17とを備える第2保護フィルム15が得られる。
【0060】
ハードコート層形成用組成物の塗布方法としては、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、スロットオリフィスコート法、カーテンコート法、ファウンテンコート法、コンマコート法等の任意の適切な方法を採用し得る。塗布後の塗膜の乾燥温度は、ハードコート層形成用組成物の組成等に応じて、適切な温度に設定すればよく、例えば、50℃以上150℃以下である。ハードコート層形成用組成物中の樹脂成分が熱硬化性樹脂である場合は、加熱によって塗膜を硬化させる。ハードコート層形成用組成物中の樹脂成分が光硬化性樹脂である場合は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することによって塗膜を硬化させる。照射光の積算光量は、好ましくは100mJ/cm2以上500mJ/cm2以下である。
【0061】
ハードコート層17と、その上に形成される層との密着性を高めるために、ハードコート層17の透明フィルム16側とは反対側の主面をボンバード処理してもよい。ボンバード処理に使用するガスとしては、希ガス(具体的には、アルゴンガス等)及び酸素ガスからなる群より選択される一種以上が好ましい。
【0062】
ハードコート層17と、その上に形成される層との密着性をより高めるためには、圧力0.1Pa以上1.0Pa以下の条件で、ハードコート層17の透明フィルム16側とは反対側の主面をボンバード処理することが好ましい。
【0063】
ハードコート層17と、その上に形成される層との密着性をより高めるためには、ボンバード処理工程における実効パワー密度は、0.01W・min/cm2・m以上であることが好ましく、0.02W・min/cm2・m以上であることがより好ましく、0.03W・min/cm2・m以上であることが更に好ましい。ボンバード処理工程におけるフィルム基材の変形を抑制するためには、ボンバード処理工程における実効パワー密度は、0.60W・min/cm2・m以下であることが好ましく、0.55W・min/cm2・m以下であることがより好ましく、0.50W・min/cm2・m以下であることが更に好ましい。なお、実効パワー密度とは、プラズマ出力のパワー密度(W/cm2)をロールトゥロール方式によるフィルムの搬送速度(m/min)で割った値である。プラズマ出力が同一でも搬送速度が大きい場合は、実効的な処理パワーは低下する。
【0064】
以上、本実施形態において使用可能なフィルム基材の例について説明したが、本発明において使用可能なフィルム基材は、上述した例に限定されない。例えば、本発明において使用可能なフィルム基材は、ハードコート層を備えていなくてもよい。フィルム基材がハードコート層を備えていない場合、第2保護フィルムとしては、例えば透明フィルムを使用できる。
【0065】
また、本発明では、
図3に示すような、第1保護フィルム11の偏光子13側とは反対側に設けられた粘着剤層31を更に備えるフィルム基材30を使用してもよい。
図3に示すフィルム基材30では、第1保護フィルム11の偏光子13側とは反対側の主面11aに粘着剤層31が設けられている。
【0066】
粘着剤層31を構成する粘着剤は、特に限定されず、例えば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、変性ポリオレフィン、エポキシ系樹脂、フッ素系樹脂、天然ゴム、合成ゴム等のポリマーをベースポリマーとする透明な粘着剤を、適宜に選択して用いることができる。粘着剤層31の厚みは、特に限定されないが、薄層性及び接着性を両立させる観点から、5μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0067】
図3に示すように、粘着剤層31の第1保護フィルム11側とは反対側の主面31aには、はく離ライナー32が仮着されていてもよい。はく離ライナー32は、例えば、反射防止層付き偏光板を画像表示セル(不図示)と貼り合わせるまでの間、粘着剤層31の表面を保護する。はく離ライナー32の構成材料としては、アクリル、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリエステル等から形成されたプラスチックフィルムが好適に用いられる。はく離ライナー32の厚みは、例えば、5μm以上200μm以下である。はく離ライナー32の表面には、離型処理が施されていることが好ましい。離型処理に使用される離型剤の材料としては、シリコーン系材料、フッ素系材料、長鎖アルキル系材料、脂肪酸アミド系材料等が挙げられる。
【0068】
[反射防止層形成工程及びインライン反射光測定工程]
次に、
図4及び
図5A~Cを参照しながら、反射防止層形成工程及びインライン反射光測定工程について説明する。
図4は、反射防止層の成膜装置の一例を示す模式図である。
図5A~Cは、反射防止層形成工程の一例を示す工程別断面図である。
【0069】
まず、反射防止層の成膜装置の一例について説明する。
図4に示す成膜装置は、フィルム基材を一方向に搬送しながら反射防止層形成工程及びインライン反射光測定工程を連続的に実施でき、かつインライン反射光測定工程における検出結果を反射防止層形成工程の成膜条件に反映させることができる成膜装置である。
図4に示す成膜装置は、第1成膜ロール281及び第2成膜ロール282を備える。各成膜ロール281及び282の周方向に沿って、隔壁で区切られた4つの成膜室(第1成膜室210、第2成膜室220、第3成膜室230及び第4成膜室240)が設けられている。各成膜室内にはカソードが設けられており、カソード214、224、234及び244は、それぞれ電源216、226、236及び246に接続されている。カソード214、224、234及び244上には、成膜ロール281及び282に対面するように、それぞれターゲット213、223、233及び243が配置されている。各成膜室210、220、230及び240には、ガス導入管が接続されており、ガス導入管の上流には、バルブ219、229、239及び249が設けられている。
【0070】
準備室250内の巻出しロール251には、フィルム基材10(
図5A参照)の巻回体がセットされている。巻出しロール251から巻出されたフィルム基材10は、第1成膜ロール281上に搬送され、第1成膜室210、第2成膜室220へと順に導かれる。第1成膜室210で、ハードコート層17の透明フィルム16側とは反対側(
図5Aでは、ハードコート層17の透明フィルム16側とは反対側の主面17a)に高屈折率層102が成膜され、第2成膜室220で、高屈折率層102上に低屈折率層103が成膜される(
図5B参照)。高屈折率層102及び低屈折率層103が成膜されたフィルム基材10は、第2成膜ロール282上に搬送され、第3成膜室230及び第4成膜室240で、高屈折率層104及び低屈折率層105が順次成膜される(
図5C参照)。なお、高屈折率層及び低屈折率層の詳細については、後述する。以上の反射防止層形成工程により、ハードコート層17の透明フィルム16側とは反対側の主面に、高屈折率層102、低屈折率層103、高屈折率層104及び低屈折率層105をこの順に有する反射防止層101が形成され、反射防止層付き偏光板100(
図5C参照)が得られる。
【0071】
反射防止層101が形成された反射防止層付き偏光板100は、巻取室260へ導かれ、巻取りロール261で巻取られ、反射防止層付き偏光板100の巻回体が得られる。
【0072】
巻取室260内には、反射防止層付き偏光板100の反射防止層101と対面するように、光照射部291及び光検出部293が配置されている。光照射部291から照射される光は、可視光を含んでいれば、白色光でもよく、単色光でもよい。光照射は、連続的でも断続的でもよい。インライン反射光測定工程では、光照射部291から、反射防止層101へ照射された光の反射光が、光検出部293で検出される。光検出部293で検出された反射光は、受光素子(図示せず)により電気信号に変換され、必要に応じて演算部273で演算が行われる。演算部273では、検出された反射光のスペクトルの算出や、特定の表色系(例えば、XYZ表色系、L*a*b*表色系等)への変換、あるいは膜厚の算出等が行われる。なお、偏光子13を含むフィルム基材10からの反射光をカットするためには、光照射部291から照射される可視光を偏光する偏光板(図示せず)を配置することが好ましい。偏光子13を含むフィルム基材10からの反射光をカットすることにより、成膜される反射防止層101の反射光特性のみを測定することができる。
【0073】
更に、演算部273では、検出された反射光の反射特性と、目的とする反射光特性との差異の判定が行われ、差異が閾値を超えた場合に、薄膜の成膜条件を変更するように、制御部275に信号を送信する。制御部275は、反射光の特性(反射率や色相等)が所定の範囲内となるように、反射防止層101の成膜条件の調整を行う。
【0074】
調整の対象となる成膜条件としては、成膜室内へのガス導入量、フィルムの搬送速度、投入電力量等が挙げられる。例えば、
図4に示す成膜装置では、制御部275が、巻出しロール251、巻取りロール261、第1成膜ロール281及び第2成膜ロール282の回転速度、電源216、226、236及び246の投入電力量、並びにガス導入管のバルブ219、229、239及び249の開度を調整することにより、各成膜室内での薄膜の成膜条件を調整できる。反射光の特性の変化は、主に薄膜の膜厚の変動に起因する。従って、各成膜室内で成膜される薄膜の膜厚が設定値に近づくように、薄膜の成膜条件の調整が行われることが好ましい。成膜条件の調整は、例えばPID制御により実行される。
【0075】
目的とする反射光特性との差異の判定を行うためには、基準となる反射光特性を予め定めておく必要がある。基準となる反射光特性は、製品の規格等により適宜に定められる。一例として、製品の規格範囲の中央を基準とする方法や、各層の設定膜厚及び屈折率から光学計算により算出される反射光スペクトル(特開2016-122173号公報の実施例参照)を基準とする方法が挙げられる。また、オフラインで測定した製品の反射光スペクトルを基準としてもよい。
【0076】
本実施形態では、偏光子13(
図5A参照)の端面からの水分の蒸散が抑制され、その結果、反射防止層101を成膜する際の成膜室内のガス組成の変動が抑制されると考えられる。これにより、インライン反射光測定工程において得られた検出結果を用いた、反射防止層101の成膜条件の調整(具体的には、ガス導入量の調整等)が容易となる。特に、本実施形態によれば、反射防止層付き偏光板の幅方向の端部においても反射光特性を許容範囲内に収めることができるため、製品として使用できる反射防止層付き偏光板の幅が大きくなる。
【0077】
反射防止層付き偏光板の幅方向の反射光特性のばらつきをより抑制するためには、光照射部291及び光検出部293を、それぞれ反射防止層101の幅方向に複数個設け、反射防止層101の幅方向の複数個所においてインライン反射光測定(可視光の照射及び反射光の検出)を行うことが好ましい。この場合、例えば、各成膜室においてフィルムの幅方向に複数個のガス導入管を設けると、フィルムの幅方向の複数箇所で、ガス導入量を個別に調整することが可能となる。反射防止層101の幅方向の複数個所においてインライン反射光測定を行うことで、反射防止層付き偏光板の長手方向及び幅方向の双方について反射光特性のばらつきを抑制することもできる。また、反射防止層付き偏光板の幅方向の反射光特性のばらつきを抑制するために、光照射部及び光検出部を備える測定ヘッドをフィルムの幅方向に移動可能に設けてもよい。
【0078】
反応性スパッタ法により反射防止層101を成膜する場合は、反射防止層101の成膜条件を調整する際、プラズマエミッションモニタリング(PEM)制御により、酸素ガス等の反応性ガスの導入量を制御することが好ましい。PEM制御では、スパッタ成膜のプラズマ発光強度を検知し、発光強度が所定の制御値(セットポイント、以下「SP」と記載することがある)となるように、反応性ガスの導入量の調整が行われる。プラズマ発光強度が一定となるようにガス導入量を自動調整することにより、遷移領域を維持して高レートでの成膜が可能となることに加えて、成膜レートを一定に保持できる。ただし、長時間連続して成膜を実施すると、ターゲットのエロージョン等の影響により、プラズマ発光強度が同一でも、成膜レートが変化する。よって、長時間の連続成膜を実施する場合に、反射防止層付き偏光板の長手方向の反射光特性の変動を抑制するためには、インライン反射光測定工程での光学特性の測定結果に基づいて、PEMのSPを適宜調整することが好ましい。
【0079】
PEM制御では、各成膜室内のスパッタ成膜の状態を制御するために、PEMによりプラズマ発光強度を常時モニタリングし、所定の範囲に設定した発光強度のSPに基づき、各成膜室内へのガス導入量がフィードバック制御される。フィルムの幅方向にPEMを複数設けることにより、それぞれのPEMにおいて個別にSPを設定することが可能となる。これにより、PEMに対応する幅方向の位置に導入されるガス導入量のバランスを調整できるため、幅方向に均一な膜厚を有する反射防止層101を成膜できる。例えば、インライン反射光測定工程において反射光を検出し、その検出結果から膜厚を算出し、その算出結果に応じてフィルムの長手方向又は幅方向で反射防止層101の膜厚が均一になるようにSPを変更することにより、フィルムの長手方向又は幅方向の反射光特性を均一に保つことができる。以下、インライン反射光測定工程において反射光を検出し、その検出結果から膜厚を算出し、その算出結果に応じてフィルムの長手方向又は幅方向で反射防止層の膜厚が均一になるようにSPを変更する一連の操作を、「フィードバック操作」と記載することがある。フィードバック操作は、例えば、反射防止層101の長手方向又は幅方向の膜厚のばらつきが許容範囲となるまで繰り返される。本実施形態によれば、反射防止層を成膜する際の成膜室内のガス組成の変動を抑制できるため、フィードバック操作の回数が少なくなる。これにより、反射防止層付き偏光板の生産性を向上できる。
【0080】
[反射防止層101]
次に、反射防止層101の詳細について説明する。反射防止層101は、2層以上の薄膜からなる。
図5Cに示す反射防止層101は、ハードコート層17側から、高屈折率層102、低屈折率層103、高屈折率層104及び低屈折率層105の4層をこの順に有する。なお、反射防止層付き偏光板の反射防止層は、反射防止層101のような4層構成に限定されず、2層構成、3層構成、5層構成、又は6層以上の積層構成であってもよい。空気界面での反射を低減するためには、反射防止層付き偏光板の反射防止層は、最外層(偏光子から最も離れた層)が低屈折率層であることが好ましい。
【0081】
一般に、反射防止層は、入射光と反射光の逆転した位相が互いに打ち消し合うように、薄膜の光学膜厚(屈折率と厚みの積)が調整される。反射防止層を、屈折率の異なる2層以上の薄膜の多層積層体とすることにより、可視光の広帯域の波長範囲において、反射率を小さくできる。
【0082】
反射防止層101を構成する薄膜の材料としては、金属(又は半金属)の酸化物、窒化物、フッ化物等が挙げられる。反射防止層101は、好ましくは、高屈折率層と低屈折率層の交互積層体であり、より好ましくは、2層以上の高屈折率層と2層以上の低屈折率層との交互積層体である。
【0083】
高屈折率層は、屈折率が、例えば1.9以上であり、好ましくは2.0以上である。高屈折率層の材料としては、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が挙げられる。中でも、酸化チタン及び酸化ニオブからなる群より選択される一種以上が好ましい。低屈折率層は、屈折率が、例えば1.6以下であり、好ましくは1.5以下である。低屈折率層の材料としては、酸化シリコン、窒化チタン、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ハフニウム、フッ化ランタン等が挙げられる。中でも酸化シリコンが好ましい。特に、高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb2O5)薄膜と、低屈折率層としての酸化シリコン(SiO2)薄膜とを交互に積層することが好ましい。低屈折率層と高屈折率層に加えて、屈折率1.6超1.9未満の中屈折率層が設けられてもよい。
【0084】
高屈折率層及び低屈折率層の膜厚は、それぞれ、5nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上150nm以下であることがより好ましい。屈折率や積層構成等に応じて、可視光の反射率が小さくなるように、各層の膜厚を設計すればよい。例えば、高屈折率層と低屈折率層の積層構成としては、フィルム基材10側から、光学膜厚20nm以上55nm以下の高屈折率層、光学膜厚35nm以上60nm以下の低屈折率層、光学膜厚65nm以上250nm以下の高屈折率層、及び光学膜厚100nm以上150nm以下の低屈折率層からなる4層構成が挙げられる。
【0085】
反射防止層101が、高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb2O5)薄膜と、低屈折率層としての酸化シリコン(SiO2)薄膜とを交互に積層させた、4層の交互積層体である場合、反射防止層101の構成としては、ハードコート層17側から、厚み5nm以上20nm以下の酸化ニオブ薄膜、厚み20nm以上60nm以下の酸化シリコン薄膜、厚み25nm以上120nm以下の酸化ニオブ薄膜、及び厚み50nm以上100nm以下の酸化シリコン薄膜をこの順に備える構成が挙げられる。
【0086】
高温耐久性に優れる反射防止層付き偏光板を得るためには、反射防止層101の厚みは、100nm以上300nm以下であることが好ましく、120nm以上280nm以下であることがより好ましく、140nm以上260nm以下であることが更に好ましく、160nm以上240nm以下であることが更により好ましい。なお、本明細書において、「反射防止層の厚み」は、反射防止層を構成する各層の厚みの合計(合計厚み)である。
【0087】
反射防止層101の成膜方法は、特に限定されず、ウェットコーティング法及びドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライコーティング法が好ましく、スパッタ法がより好ましい。生産性を高める観点から、反射防止層101の成膜方法としては、
図4に示すようなロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いて成膜する方法(ロールトゥロール方式のスパッタ法)が好ましい。スパッタ法では、アルゴン等の不活性ガス、及び必要に応じて酸素等の反応性ガスを成膜室内に導入しながら成膜が行われる。スパッタ法で酸化物膜を成膜する場合、酸化物ターゲットを用いる方法、及び金属(又は半金属)ターゲットを用いる反応性スパッタ法のいずれでも実施できる。
【0088】
酸化物ターゲットを用いて、酸化シリコン等の絶縁性の酸化物を成膜する場合、RF放電が必要であるため、成膜レートが小さく生産性が低くなる傾向がある。そのため、酸化物のスパッタ成膜は、金属ターゲットを用いた反応性スパッタ法が好ましい。反応性スパッタ法では、アルゴン等の不活性ガス及び酸素等の反応性ガスを成膜室内に導入しながら成膜が行われる。反応性スパッタ法では、金属領域と酸化物領域との中間の遷移領域となるように酸素量を調整することが好ましい。酸素量が不足する金属領域で成膜を行うと、得られる酸化物膜の酸素量が化学量論的組成に比して大幅に小さくなり、酸化物膜が金属光沢を帯びて透明性が低下する傾向がある。また、酸素量が大きい酸化物領域では、成膜レートが極端に低下する傾向がある。スパッタ成膜が遷移領域となるように酸素量を調整することにより、高レートで酸化物膜を成膜できる。反応性スパッタ法により反射防止層101を成膜する場合、上述したPEM制御により反応性ガスの導入量を制御できるため、反射防止層101の成膜条件の調整がより容易となる。反応性スパッタ法に用いるスパッタ電源としては、DC電源又はMFAC電源(周波数帯が数kHz~数MHzのAC電源)が好ましい。
【0089】
スパッタ法を実施する際のパワー密度は、例えば0.1W/cm2以上20W/cm2以下であり、好ましくは1W/cm2以上15W/cm2以下である。スパッタ法を実施する際の成膜ロールの表面温度は、例えば-25℃以上25℃以下であり、好ましくは-20℃以上0℃以下である。スパッタ法を実施する際の成膜室内の圧力は、例えば0.01Pa以上10Pa以下であり、好ましくは0.1Pa以上1.0Pa以下である。
【0090】
本実施形態に係る製造方法で得られた反射防止層付き偏光板は、例えば、液晶表示装置や有機EL表示装置等のディスプレイに用いられる。特に、ディスプレイの最表面層として用いた場合に、反射防止によるディスプレイの視認性が向上する。
【0091】
[反射防止層付き偏光板の製造方法の好ましい態様]
本実施形態において、反射光特性を更に均一に保つためには、下記条件1を満たすことが好ましく、下記条件2を満たすことがより好ましく、下記条件3を満たすことが更に好ましい。
条件1:フィルム基材が上記第3接着剤層を更に備える。
条件2:上記条件1を満たし、かつ上記第3接着剤層が上記第1接着剤層及び上記第2接着剤層と一体的に形成されている。
条件3:上記条件2を満たし、かつ偏光子の幅方向の端面が上記第3接着剤層により封止されている。
【0092】
[他の実施形態]
以上、本実施形態に係る反射防止層付き偏光板の製造方法について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、インライン反射光測定工程は、少なくとも1層の薄膜を形成した後であれば、いずれの段階で行われてもよい。例えば、第1成膜ロール281上で高屈折率層102及び低屈折率層103を形成後、光照射部297(
図4参照)から低屈折率層103へ可視光を照射し、その反射光を、光検出部299で検出することにより、反射光のインライン検出が行われてもよい。また、2箇所以上で反射光のインライン検出が行われてもよい。例えば、高屈折率層102及び低屈折率層103を形成後、光照射部297及び光検出部299により反射光のインライン検出を行い、更に、高屈折率層104及び低屈折率層105を形成後、光照射部291及び光検出部293により反射光のインライン検出を行ってもよい。このように、2箇所以上でインライン測定を行えば、成膜条件を調整するべき成膜室の判定が容易となり、より緻密な制御が可能となる。
【0093】
また、上述のように、反射防止層の形成方法はスパッタ法に限定されず、各種のドライコーティング法や、ウェットコーティング法が採用されてもよい。スパッタ法以外の方法により薄膜が形成される場合も、反射光のインライン検出結果に基づいて、薄膜の形成条件を調整することにより、反射光特性の均一性に優れる反射防止層付き偏光板が得られる。
【0094】
また、本発明の製造方法は、反射防止層形成工程の前に、フィルム基材の一方の主面側にプライマー層を成膜する工程Scを更に備えてもよい。本発明の製造方法が工程Scを更に備える場合、反射防止層形成工程において、プライマー層のフィルム基材側とは反対側の主面に反射防止層を成膜する。
【0095】
プライマー層を設けることにより、フィルム基材と反射防止層との密着性が高くなる。プライマー層の材料としては、シリコン、ニッケル、クロム、スズ、金、銀、白金、亜鉛、チタン、インジウム、タングステン、アルミニウム、ジルコニウム、パラジウム等の金属(又は半金属);これらの金属(又は半金属)の合金;これらの金属(又は半金属)の酸化物、フッ化物、硫化物又は窒化物等が挙げられる。プライマー層を構成する酸化物は、酸化インジウムスズ(ITO)等の複合酸化物でもよい。中でも、プライマー層の材料としては、無機酸化物が好ましく、酸化シリコン、酸化インジウム又はITOがより好ましく、SiOx(x<2)が更に好ましい。
【0096】
フィルム基材と反射防止層との密着性を高めつつ、プライマー層の光透過性を確保するためには、プライマー層の厚みは、0.5nm以上20nm以下であることが好ましく、0.5nm以上10nm以下であることがより好ましく、1.0nm以上10nm以下であることが更に好ましい。
【0097】
プライマー層の成膜方法は、特に限定されず、ウェットコーティング法及びドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライコーティング法が好ましく、スパッタ法がより好ましい。生産性を高める観点から、プライマー層の成膜方法としては、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いて成膜する方法(ロールトゥロール方式のスパッタ法)が好ましい。ロールトゥロール方式のスパッタ法では、長尺のフィルム基材を長手方向(MD方向)に搬送しながら、例えば、プライマー層及び反射防止層を連続成膜できる。プライマー層をスパッタ法により成膜する際は、例えば、上述した[反射防止層101]で説明した条件の中で成膜条件を適宜設定することができる。
【0098】
また、本発明に係る反射防止層付き偏光板の製造方法は、インライン反射光測定工程後に、防汚層を形成する工程を備えてもよい。防汚層の材料としては、フッ素含有化合物が好ましい。
【0099】
また、本発明に係る反射防止層付き偏光板の製造方法は、インライン反射光測定工程後に、上記偏光子の幅方向の両端から張り出した箇所をスリットする工程を備えてもよい。
【0100】
また、本発明に係る反射防止層付き偏光板の製造方法は、成膜開始時の成膜初期条件の設定等を目的として、予備成膜工程を備えてもよい。この場合、上述した反射防止層形成工程及びインライン反射光測定工程は、予備成膜工程後の本成膜工程で実施される。予備成膜工程の詳細は、例えば、特開2017-218674号公報等に記載されている。
【実施例】
【0101】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
<実施例>
[予備成膜]
まず、予備成膜について説明する。予備成膜では、厚み100μm、可視光透過率0.01%、屈折率1.65の黒色PETフィルム(1300mm幅)をロールトゥロール方式のスパッタ装置の巻出ロールにセットし、黒色PETフィルム上に、反応性スパッタ法によりプライマー層及び反射防止層を順次成膜する際の各層の成膜条件を調整した。プライマー層としては、目標厚み3.5nmのSiOx層(x<2)を成膜した。反射防止層としては、第1層:目標厚み12nmのNb2O5層(屈折率:2.33)、第2層:目標厚み28nmのSiO2層(屈折率:1.46)、第3層:目標厚み100nmのNb2O5層、及び第4層:目標厚み85nmのSiO2層をこの順に成膜した。各層(酸化物膜)を形成(成膜)する際は、アルゴンガスと酸素ガスとを成膜室内に導入しながら成膜した。
【0103】
また、プライマー層及び反射防止層の各層の成膜では、いずれも、電源をMFAC電源(周波数:40kHz)とした。プライマー層の形成には、ターゲット材料として、Siターゲットを用い、パワー密度を3W/cm2とし、成膜室内の圧力を0.4Paとした。反射防止層の第1層及び第3層の成膜では、いずれも、Nbターゲットを用い、パワー密度を13W/cm2とし、成膜室内の圧力を0.5Paとした。反射防止層の第2層及び第4層の成膜では、いずれも、Siターゲットを用い、パワー密度を8W/cm2とし、成膜室内の圧力を0.5Paとした。
【0104】
また、各層(酸化物膜)を形成(成膜)する際は、アルゴンガスの導入量及び排気量を調整することにより圧力を一定に保ちつつ、プラズマエミッションモニタリング(PEM)制御により、成膜モードが遷移領域を維持するように酸素ガスの導入量を調整した。各層の成膜条件を調整する際は、特開2017-218674号公報の段落[0124]~[0126]に記載の方法で調整を行い、各層の幅方向の膜厚分布が許容範囲となるまで、膜厚の算出とプラズマ発光強度の設定値(SP)の変更とを繰り返した。
【0105】
次に、実施例で使用したフィルム基材の作製方法について説明する。
【0106】
[フィルム基材の作製]
(ハードコート層形成工程)
100重量部の紫外線硬化型ウレタンアクリレート系モノマー(屈折率:1.51)と、14重量部のポリスチレンビーズ(屈折率:1.59、個数平均一次粒子径:3.0μm)と、5重量部のアルキルフェノン系光重合開始剤と、135重量部のトルエンと、10重量部の酢酸エチルとを混合し、固形分濃度45重量%のハードコート層形成用組成物を調製した。次いで、透明フィルムとしてのTACフィルム(厚み:80μm、屈折率:1.49)の一方の主面に、上記ハードコート層形成用組成物を塗布し、塗膜を形成した。次いで、上記塗膜を、温度80℃で2分間加熱することにより乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。これにより、TACフィルムの一方の主面に厚み5μmの防眩性ハードコート層(表面に凹凸構造を有するハードコート層)を形成し、ハードコート層付き透明フィルム(第2保護フィルム)を得た。
【0107】
(偏光板の作製工程)
別途用意した偏光子の一方の主面に、上記第2保護フィルムのTACフィルムを貼り合わせ、偏光子の他方の主面に、別途用意した第1保護フィルムとしてのTACフィルム(厚み:80μm、屈折率:1.49)を貼り合わせて、偏光板を作製した。偏光子としては、平均重合度2700かつ厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素染色しながら6倍に延伸したPVA系偏光子を用いた。また、PVA系偏光子とTACフィルムとの貼り合わせ(接着)には、アセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール樹脂(平均重合度:1200、ケン化度:98.5モル%、アセトアセチル化度:5モル%)とメチロールメラミンとを重量比3:1で含有する水溶液からなる接着剤を用い、ロール貼合機で貼り合わせた後、オーブン内で加熱乾燥させた。
【0108】
(粘着剤層付き偏光板の作製工程)
厚み38μmのはく離ライナー(シリコーン系離型剤で離型処理されたPETフィルム)を別途用意し、上記はく離ライナーの一方の主面にアクリル系粘着剤を塗布した後、温度120℃で2分間乾燥させて、はく離ライナーの一方の主面に粘着剤層を形成した。次いで、得られた粘着剤層と、上記偏光板のTACフィルム(詳しくは、ハードコート層に接していない方のTACフィルム)とを貼り合わせて、粘着剤層付き偏光板(フィルム基材)を得た。得られたフィルム基材における各層の幅は、はく離ライナー:1317mm、粘着剤層:1250mm、第1保護フィルム:1330mm、偏光子:1280mm、及び第2保護フィルム:1330mmであった。
【0109】
得られたフィルム基材では、第1保護フィルムと偏光子とが、上記接着剤の硬化物からなる第1接着剤層を介して接着されており、かつ第2保護フィルムと偏光子とが、上記接着剤の硬化物からなる第2接着剤層を介して接着されていた。また、第1保護フィルム及び第2保護フィルムは、いずれも、偏光子の幅方向の両端から張り出していた。
【0110】
また、得られたフィルム基材では、上記両端から張り出した箇所における第1保護フィルムと第2保護フィルムとの間隔が、偏光子の幅方向の端部を挟持する箇所における第1保護フィルムと第2保護フィルムとの間隔よりも狭かった。更に、得られたフィルム基材は、上記両端から張り出した箇所の幅方向の一部において、第1保護フィルムと第2保護フィルムとを接着する第3接着剤層(上記接着剤の硬化物からなる接着剤層)を備えていた。この第3接着剤層は、第1接着剤層及び第2接着剤層と一体的に形成されていた。また、偏光子の幅方向の端面は、第3接着剤層により封止されていた。
【0111】
(ボンバード処理工程)
ロールトゥロール方式のプラズマ処理装置により、圧力0.6Paかつ実効パワー密度0.34W・min/cm2・mの条件で、上記フィルム基材を搬送しながら、上記フィルム基材のハードコート層の主面(詳しくは、ハードコート層のTACフィルム側とは反対側の主面)をボンバード処理した。ボンバード処理する際は、アルゴンガス(流量:1049sccm)及び酸素ガス(流量:1sccm)を装置内に導入しながら処理した。
【0112】
[本成膜]
次に、本成膜について説明する。本成膜では、上記ボンバード処理後のフィルム基材をロールトゥロール方式のスパッタ装置の巻出ロールにセットし、上記ハードコート層の一方の主面(ハードコート層のTACフィルム側とは反対側の主面)に、上記[予備成膜]で調整された成膜条件を初期の成膜条件として、SiOx層、Nb2O5層、SiO2層、Nb2O5層及びSiO2層をこの順に成膜し(反射防止層形成工程)、得られた反射防止層のインライン反射光測定を行った(インライン反射光測定工程)。反射防止層形成工程及びインライン反射光測定工程は、フィルム基材を一方向に搬送しながら、連続して実施した。インライン反射光測定は、反射防止層(幅:1274mm)の幅方向の23箇所で実施し、得られた反射光スペクトルに基づいて、幅方向の23箇所の膜厚を算出し、膜厚が幅方向で均一となるように、プラズマ発光強度の設定値(SP)を変更した。これにより、反射防止層の成膜条件を調整した。なお、本成膜では、インライン反射光測定において、偏光子を含むフィルム基材からの反射光をカットするために、光照射部から照射される可視光を偏光するための偏光板を配置した。
【0113】
<比較例>
第1保護フィルム及び第2保護フィルムの両端部分(詳しくは、偏光子の幅方向の両端から張り出した部分)をスリットしたフィルム基材を用いたこと以外は、上記実施例と同じ方法で本成膜を行い、同様に反射防止層の成膜条件を調整した。
【0114】
<結果>
図6は、上記実施例の成膜条件の調整前(本成膜の成膜開始直後)における、反射防止層からの反射光の色相を示すグラフ(L
*a
*b
*表色系のa
*b
*色度図)である。また、
図7は、上記実施例の成膜条件の調整後(15回のフィードバック操作後)における、反射防止層からの反射光の色相を示すグラフである。また、
図8は、上記比較例の成膜条件の調整前(本成膜の成膜開始直後)における、反射防止層からの反射光の色相を示すグラフである。また、
図9は、上記比較例の成膜条件の調整後(52回のフィードバック操作後)における、反射防止層からの反射光の色相を示すグラフである。なお、
図6~
図9では、いずれも、反射光の測定個所(反射防止層の幅方向の23箇所)のうち、両端(2箇所)、中央(1箇所)、及び両端のそれぞれと中央との間の箇所(2箇所)の合計5箇所について、a
*及びb
*の値をプロットした。また、
図6~
図9において破線で示す領域は、いずれも、色相の許容範囲を示す領域である。
【0115】
図7に示すように、上記実施例では、15回のフィードバック操作で、色相が許容範囲内となった。一方、
図9に示すように、上記比較例では、52回のフィードバック操作を経ても、両端(2箇所)の色相が許容範囲内に収まらなかった。また、
図6及び
図8に示すように、上記実施例は、上記比較例よりも、成膜条件の調整前(本成膜の成膜開始直後)において幅方向の色相のばらつきが小さかった。
【0116】
以上の結果から、本発明によれば、反射光特性を均一に保つことができる反射防止層付き偏光板の製造方法を提供できることが示された。
【符号の説明】
【0117】
10、20、30 フィルム基材
11 第1保護フィルム
12 第1接着剤層
13 偏光子
14 第2接着剤層
15 第2保護フィルム
16 透明フィルム
17 ハードコート層
21 第3接着剤層
31 粘着剤層
32 はく離ライナー
100 反射防止層付き偏光板
101 反射防止層