(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】歯科インプラント用の歯肉ヒーリングアバットメント
(51)【国際特許分類】
A61C 8/00 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
(21)【出願番号】P 2022522621
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 EP2020079073
(87)【国際公開番号】W WO2021078628
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-09-28
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】522149119
【氏名又は名称】クレアデント モンタルバン
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キャンプス ジャック
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-538014(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0104756(US,A1)
【文献】特表2014-515960(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1417980(KR,B1)
【文献】特開平5-293123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00-9/00
A61C 13/00-38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工歯を設置する前にインプラント(5)に取り付けられるように構成されたヒーリングアバットメント(P)であって、ヒーリングアバットメント(P)は、Z軸に沿って整列されるとともに前記Z軸に沿って延びる締め付けネジ(4)によって連結されるフット部(1)およびヘッド部(2)を備え、フット部(1)は、インプラント(5)と協働するように構成された下部フット部分(10)と、上部フット部分(11)とを含み、ヘッド部(2)は、上部フット部分(11)と協働してヘッド部(2)をフット部(1)に取り付けるように構成された下部ヘッド部分(20)と、所定形状を有する上部ヘッド部分(21)とを含み、
ヒーリングアバットメント(P)は、少なくとも1つの基準部材(3)を備え、基準部材(3)は、少なくとも2つの次元において方向決めされた基準系(X,Y,Z)を規定し、且つ、フット部(1)と協働して、前記Z軸に沿ってフット部(1)に対して方向決めされた基準系(X,Y,Z)の複数の基本位置を規定するように構成され、基準部材(3)は、上部ヘッド部分(21)の前記所定形状に応じて前記複数の基本位置の中から少なくとも1つの最適な基本位置を選択できるように、挿入物として上部ヘッド部分(21)に移動可能に取り付けられることを特徴とする、ヒーリングアバットメント(P)。
【請求項2】
請求項1に記載のヒーリングアバットメント(P)であって、基準部材(3)は、基準系(X,Y,Z)を規定するために、前記Z軸に対して半径方向に延びる少なくとも1つの突出部分(37)を含む少なくとも1つのカラー部(31)を備える、ヒーリングアバットメント(P)。
【請求項3】
請求項2に記載のヒーリングアバットメント(P)であって、突出部分(37)は、前記Z軸に対して半径方向に延びる少なくとも1本の基準フィンガ(34,35,36)の形態である、ヒーリングアバットメント(P)。
【請求項4】
請求項
2または3に記載のヒーリングアバットメント(P)であって、カラー部(31)は、前記Z軸に対して半径方向に延びるとともに3mm未満、好ましくは2mm以下
であって、突出部分(37)よりも縮小された半径方向長さ(L38)を有する少なくとも1つの縮小部分(38)を含む、ヒーリングアバットメント(P)。
【請求項5】
請求項4に記載のヒーリングアバットメント(P)であって、縮小部分(38)は、前記Z軸の周りに90°より大きい、好ましくは150°より大きい角度範囲(α38)にわたって延びる、ヒーリングアバットメント(P)。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のヒーリングアバットメント(P)であって、基準部材(3)は、内部に締め付けネジ(4)が延びる前記Z軸周りの基準部貫通空洞(32)を有する、ヒーリングアバットメント(P)。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のヒーリングアバットメント(P)であって、上部フット部分(11)は、少なくとも1つの第1のインターロック部材(17)を備え、下部ヘッド部分(20)は、第1のインターロック部材(17)と協働してヘッド部(2)をフット部(1)に取り付けるように構成された少なくとも1つの第2のインターロック部材(24)を備え、第1のインターロック部材(17)は、前記Z軸に対して少なくとも8つの半径方向歯部を含み、第2のインターロック部材(24)は、少なくとも8つの半径方向ノッチを含み、前記半径方向ノッチは、前記半径方向歯部と協働して、前記Z軸に対して、フット部(1)とヘッド部(2)との複数の相対角度位置を規定するように構成されている、ヒーリングアバットメント(P)。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のヒーリングアバットメント(P)であって、ヘッド部(2)は、内部に締め付けネジ(4)が延びる前記Z軸周りのヘッド部貫通空洞(23)を有する、ヒーリングアバットメント(P)。
【請求項9】
インプラント(5)と、請求項1~8のいずれか1項に記載のヒーリングアバットメント(P)との組立体であって、インプラント(5)は、患者の顎骨(7)に取り付けられるように構成された取り付け端部と、患者の歯肉(6)内に延びるように構成された歯肉側端部とを含み、前記歯肉側端部は、内ネジを有するインプラントハウジングを備え、ヒーリングアバットメント(P)の下部フット部分(10)は、前記インプラントハウジング内に取り付けられ、ヒーリングアバットメント(P)の締め付けネジ(4)は、前記インプラントハウジングの前記内ネジと協働する、組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科インプラント学の分野に関し、特に、人工歯の設置のためにインプラントの周囲の歯肉を治癒させるためのアバットメントに関する。
【背景技術】
【0002】
既知の手法により、患者は、喪失歯の代わりに、インプラントシステム、すなわち、正常な咀嚼および審美的な歯列を取り戻すことを可能にする義歯を設置することができる。
【0003】
既知の手法では、インプラントシステムは、患者の顎骨に取り付けられるように構成されたインプラントと、喪失歯の露出部分と同様の外観を有する人工歯と、インプラントと人工歯との間を連結する補綴アバットメントとを備える。
【0004】
実際の使用において、インプラントは、患者の顎骨にねじ込まれるように外ネジが形成された外側円筒壁部と、インプラントハウジングを形成する内ネジ付き内側円筒壁部とを含む。補綴アバットメントは、インプラントハウジングにねじ込まれるように構成された外ネジ付きシャンクを含む。言い換えれば、外ネジ付きシャンクと内ネジ付き内側円筒壁部とが、ネジ構造によって協働してインプラント内に補綴アバットメントを取り付ける。人工歯は、締め付けネジを使用して、または使用せずに、補綴アバットメントにネジ留めまたは接着される。
【0005】
既知の手法では、インプラントシステムは、いくつかのステップによって設置される。第1のステップでは、インプラントが挿入される箇所である喪失歯の位置にて、歯肉および顎骨に穴を開ける。第2のステップでは、喪失歯の形状およびサイズに適合した人工歯を作成するために、患者の口の印象を採得する。続いて第3のステップでは、補綴アバットメントおよび人工歯を設置する。
【0006】
インプラントの設置と印象採得との間の期間は、患者によって異なるが、約3~6ヶ月であり、その期間は、インプラント周囲の歯肉の治癒と、「オッセオインテグレーション」として当業者に知られている顎骨内へのインプラントの固定とを可能にするためのものである。
【0007】
実際の使用においては、インプラントを設置する際に、インプラントハウジングにヒーリングスクリューを挿設する。ヒーリングスクリューは、補綴アバットメントと同様の外ネジ付きシャンクを有し、その外ネジ付きシャンクは、インプラントハウジング内に食物残渣が堆積することを防止し、また、歯肉が内ネジ付き内側円筒壁部のネジ山を被覆することを防止する。ヒーリングスクリューはさらに、外ネジ付きシャンクに取り付けられて、インプラント周囲の歯肉の治癒を促進するフラットヘッドを有する。たとえば患者が喫煙者である場合や骨移植後の場合など、場合によっては、オッセオインテグレーションを促進するためにカバースクリューを挿設し、のちに、ヒーリングスクリューに差し換える。審美的な目的で、カバースクリューおよびヒーリングスクリューに仮の人工歯を取り付けることがある。
【0008】
物理的にであれ光学的にであれ、印象を採得する際には、喪失歯が残した利用可能なスペースおよびその利用可能なスペース内のインプラントの位置を正確に測定するために、ヒーリングスクリューを取り外す必要がある。物理的な印象採得の場合、患者の口の型を作成する。光学的な印象採得の場合、インプラントハウジング内にトランスファ器具を挿入し、スキャナによって、利用可能なスペースおよびその利用可能なスペース内のトランスファ器具の相対位置を測定し、インプラントの位置にアクセスできるようにする。続いて、ヒーリングスクリューを再度挿設し、その後、補綴アバットメントおよび人工歯を設置するために取り外す。
【0009】
ヒーリングスクリューのこれらの全ての操作は、時間がかかり、患者にとって不快であり、且つ、「インプラント周囲炎」として当業者に知られている、インプラント箇所における歯肉および顎骨の炎症のリスクを高める。インプラント周囲炎は、インプラント箇所において歯肉の退縮を引き起こし、それによりインプラントの一部が露出したままになってしまう場合があり、そのことは、患者に痛みをもたらし、見た目が悪く、さらなる外科的処置を要する可能性がある。
【0010】
さらに、ヒーリングスクリューの欠点として、歯肉の輪郭形状が不自然な円形状になるように歯肉が治癒してしまう点があり、そのため、設置後の人工歯のエマージェンスプロファイルが不自然になり、それゆえ見栄えがしない。言い換えれば、人工歯と治癒した歯肉との間の界面は、調和のとれた凹状の外形を示さない。また、人工歯と歯肉との界面に食物が詰まりやすく、感染または他の不快症状につながる可能性がある。
【0011】
これらの欠点を克服するために、従来技術では、ヘッド部を備えたヒーリングアバットメントでヒーリングスクリューを置換することが知られており、ヘッド部は、当該ヘッド部をインプラントに接続する締め付けネジが挿入されるヘッド部ハウジングを含む。このヘッド部は、設置される人工歯に適合する歯肉の輪郭形状にて歯肉が治癒できるように選択された円錐形状を有する。さらに、このヒーリングアバットメントは、喪失歯が切歯、犬歯、小臼歯、または大臼歯であるかどうかに応じて、色で示される4つの異なる形状のものが入手可能である。光学的に印象を採得する場合、このヒーリングアバットメントは、トランスファ器具に取って代わるため、取り外される必要がない。
【0012】
また、別のヒーリングアバットメントが特許出願WO2014/158534A1から知られており、それは、インプラントハウジングに挿入されるように構成されたフット部と、適合する歯肉の輪郭形状にて歯肉が治癒できるように人工歯と同様の直径を有するヘッド部とを備える。フット部およびヘッド部はそれぞれ、インプラントハウジングの延伸方向に沿ったフット部貫通空洞およびヘッド部貫通空洞を有し、そこに締め付けネジが挿入されることで、インプラント、フット部、およびヘッド部が連結されて、ヒーリングアバットメントが形成される。さらに、ヘッド部には上部ノッチがあり、その配置および形状は、ヘッド部のサイズおよびインプラントに対する位置を示す。16個の異なるノッチの組み合わせが提案されている。光学的に印象を採得する際に、このヒーリングアバットメントがトランスファ器具に取って代わる。
【0013】
従来技術において、特許出願WO2017/085288A1もヒーリングアバットメントを教示しており、そのヘッド部が備える上面は、方向決めされた基準系を規定する縁部を有する非対称形状により、印象を採得する際に当該ヒーリングアバットメントがトランスファ器具に取って代わることを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第2014/158534号
【文献】国際公開第2017/085288号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、これらの2つのヒーリングアバットメントには、2つの顕著な欠点がある。一方では、インプラントの軸に対するそれらのヒーリングアバットメントの角度位置が正確に定められず、結果として、利用可能なスペースおよびインプラントに対して人工歯が完全には適合しない。それにより、人工歯の取り付けが難しくなり、特に、人工歯が片持ち梁状の外形を有する場合である、利用可能なスペースに対して中心からずらして歯肉に穴を開ける事例において、難しくなる。そうすると、見た目が悪くなり、上述したように、人工歯と歯肉との界面に食物が詰まることにつながる可能性がある。
【0016】
他方では、光学印象の転写を実施して最終的な歯の形状を決定するためには、色コードまたはヒーリングアバットメントのノッチを読み取り可能な業務用ソフトウェアを使用する必要がある。このことには多くの欠点があり、その理由は、専門家が、特定の業務用ソフトウェア、つまり各色または各ノッチに対応する情報が実装されているソフトウェアと、様々なヒーリングアバットメントとを用意する必要があるからである。
【0017】
本発明は、上記の欠点の少なくともいくつかを取り除くことを目指す。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、人工歯を設置する前にインプラントに取り付けられるように構成されたヒーリングアバットメントに関し、そのヒーリングアバットメントは、Z軸に沿って整列されるとともにZ軸に沿って延びる締め付けネジによって連結されるフット部およびヘッド部を備える。フット部は、インプラントと協働するように構成された下部フット部分と、上部フット部分とを含む。ヘッド部は、上部フット部分と協働してヘッド部をフット部に取り付けるように構成された下部ヘッド部分と、所定形状を有する上部ヘッド部分とを含む。
【0019】
本発明は、ヒーリングアバットメントが少なくとも1つの基準部材を備えるという点で、注目に値する。基準部材は、少なくとも2つの次元において方向決めされた基準系を規定し、且つ、フット部と協働して、Z軸に沿ってフット部に対して方向決めされた基準系の複数の基本位置を規定するように構成されている。基準部材は、上部ヘッド部分の所定形状に応じて複数の基本位置の中から少なくとも1つの最適な基本位置を選択できるように、上部ヘッド部分に対して移動可能に取り付けられる。
【0020】
有利なことに、ヒーリングアバットメントは、人工歯の形状およびサイズの決定のために印象を採得する際に、取り外しも操作もする必要がない。上部ヘッド部分に取り付けられているために操作せずとも目視できる状態にある基準部材を用いることで、人工歯を実際に決定することが可能である。それにより、インプラント周囲炎のリスクが軽減され、印象採得にかかる時間が短縮され、印象採得が患者にとってより快適になる。
【0021】
基準部材は、人工歯の形状およびサイズが正確に決定されるように、基準系を3次元において規定することが好ましい。
【0022】
本発明の一態様によれば、基準部材は、挿入物として上部ヘッド部分に取り付けられる。有利なことに、標準的な基準部材は、いずれのサイズおよび形状のヘッド部にも取り付け可能である。言い換えれば、ヘッド部が切歯や犬歯などの喪失歯に適合したサイズと形状を有する場合でも、基準部材は汎用であるため、材料とコストが節約される。
【0023】
本発明の一態様によれば、基準部材は、基準系が規定されるように、Z軸に対して半径方向に延びる少なくとも1つの突出部分を含む少なくとも1つのカラー部を備える。有利なことに、突出部分は、基準系の軸の1つを形成する角度方向に延びる。このように、基準系は、単純な方法で規定されるとともに、物理的または光学的な印象採得デバイスによって容易に読み取り可能である。
【0024】
好ましくは、突出部分の突出半径方向長さは2mmよりも大きく、3mm以上であることが好ましい。突出部分が上部ヘッド部分から突き出て患者に不快感を与えることを防ぐために、突出部分の半径方向長さは5mm未満であることが好ましい。
【0025】
好適な態様によれば、突出部分は、Z軸に対して半径方向に延びる少なくとも1本の基準フィンガの形態である。有利なことに、基準フィンガは、基準系の軸の1つを形成する角度方向を正確に規定することを可能にする。好ましくは、突出部分は、患者の口に完全に適合する人工歯が製作されるように基準系をより正確に規定するために、少なくとも2本の基準フィンガ、好ましくは3本の基準フィンガの形態である。測定における小さな不確実性は、歯のスケールにおいては、実際に患者の口にフィットしない歯の製作につながってしまう可能性がある。
【0026】
本発明の一態様によれば、基準部材は少なくとも1つのカラー部を備え、カラー部は、Z軸に対して半径方向に延びるとともに3mm未満、好ましくは2mm以下の縮小された半径方向長さを有する少なくとも1つの縮小部分を含む。縮小された半径方向長さは、0.5mmより大きいことが好ましい。実際の使用において、インプラントは、喪失歯によって形成された空洞の中心に取り付けられないことが多く、その場合、製造システムのヘッド部は中心がZ軸に対してずれて取り付けられる。縮小部分は、ヘッド部から半径方向に突き出ないように角度的に配置されることができる点で、有利である。そのような縮小部分は、患者の快適さを増し、取り付けを容易にする。
【0027】
縮小部分は、Z軸の周りに、90°より大きい角度範囲にわたって延びることが好ましい。角度範囲は、好ましくは150°より大きく、より好ましくは180°より大きい。
【0028】
基準部材のカラー部は、Z軸を横切る平面内に延びることが好ましい。
【0029】
本発明の一態様によれば、基準部材は、内部に締め付けネジが延びるZ軸周りの基準部貫通空洞を有する。有利なことに、基準部材は、ヒーリングアバットメントと一体的に取り付けられ、印象採得の際に、取り付けおよびその後の取り外しをする必要がない。
【0030】
本発明の別の態様によれば、上部フット部分は、少なくとも1つの第1のインターロック部材を備え、下部ヘッド部分は、第1のインターロック部材と協働してヘッド部をフット部に取り付けるように構成された少なくとも1つの第2のインターロック部材を備える。第1のインターロック部材は、Z軸に対して少なくとも8つの半径方向歯部を含む。第2のインターロック部材は、少なくとも8つの半径方向ノッチを含み、半径方向ノッチは、半径方向歯部と協働して、Z軸に対して、フット部とヘッド部との互いに対する複数の基本位置を規定するように構成されている。
【0031】
有利なことに、インプラントに対するヒーリングアバットメントの角度位置決めは正確かつ微細であり、それにより、ヒーリングアバットメントの設置が容易になり、患者にとってより良い審美的および機能的効果が得られる。
【0032】
好ましくは、第1のインターロック部材は、インプラントに対するヒーリングアバットメントの微細で正確な角度位置決めのために、少なくとも12本の半径方向歯部、好ましくは少なくとも18本の半径方向歯部、好ましくは少なくとも24本の半径方向歯部を含む。
【0033】
好ましくは、第2のインターロック部材は、インプラントに対するヒーリングアバットメントの微細で正確な角度位置決めのために、少なくとも12個の半径方向ノッチ、好ましくは少なくとも18個の半径方向ノッチ、好ましくは少なくとも24個の半径方向ノッチを含む。
【0034】
一態様では、ヘッド部は、内部に締め付けネジが延びるZ軸周りのヘッド部貫通空洞を有する。そのようなヘッド部は、仮の人工歯としての二重の機能を有する。したがって、仮の人工歯を挿入物としてヒーリングアバットメントに取り付けることはない。このことにより、ヒーリングアバットメントは、全体サイズが小さくなり、より安価になり、取り扱いがより簡単になる。
【0035】
一態様によれば、患者にとってのヒーリング期間全体にわたる審美的および機能的効果のために、ヘッド部は、設置される人工歯の形状およびサイズを実質的に有するように構成されたヒーリング用人工歯を形成する。
【0036】
本発明の別の態様によれば、フット部は、少なくとも1つの第3のインターロック部材を備え、基準部材は、少なくとも1つの第4のインターロック部材を含むZ軸周りの環状体を備える。第4のインターロック部材は、第3のインターロック部材と協働して、Z軸に対して、フット部と基準部材との互いに対する複数の基本位置を規定するように構成されている。そのような基準部材は、占有する体積が小さく、フット部ひいてはインプラントに対する角度位置決めが正確かつ微細である。したがって、印象転写時の人工歯の形状およびサイズの決定が正確になる。
【0037】
一態様によれば、第3のインターロック部材は、Z軸方向の少なくとも3つの軸方向歯部を含む。好ましくは、第4のインターロック部材は、軸方向歯部と協働してZ軸に対してフット部と基準部材との互いに対する複数の基本位置を規定するように構成された少なくとも3つの軸方向ノッチを含む。
【0038】
好ましくは、第3のインターロック部材は、Z軸方向の3つの軸方向歯部を含む。好ましくは、第4のインターロック部材は、3つの軸方向ノッチを含む。有利なことに、基準部材、より正確にはその基準フィンガのうちの1つの位置決めが容易になる。
【0039】
本発明はまた、インプラントと上記のヒーリングアバットメントとの組立体に関する。インプラントは、患者の顎骨に取り付けられるように構成された取り付け端部と、患者の歯肉内に延びるように構成された歯肉側端部とを含み、歯肉側端部は、内ネジを有するインプラントハウジングを備える。ヒーリングアバットメントの下部フット部分は、インプラントハウジング内に取り付けられ、ヒーリングアバットメントの締め付けネジは、インプラントハウジングの内ネジと協働する。
【0040】
本発明は、単に例として示された以下の説明を読み、非限定的な例として示された添付の図面を参照することで、よりよく理解される。図面において、同様の部材には、同一の符号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明によるヒーリングアバットメントを示す概略斜視図である。
【
図2A】本発明によるヒーリングアバットメントのフット部を示す概略斜視図である。
【
図2B】本発明によるヒーリングアバットメントのフット部を示す概略斜視図である。
【
図2C】本発明の別の実施形態によるヒーリングアバットメントのフット部を示す概略斜視図である。
【
図3A】本発明によるヒーリングアバットメントのヘッド部を示す概略斜視図である。
【
図3B】本発明によるヒーリングアバットメントのヘッド部を示す概略斜視図である。
【
図4A】本発明によるヒーリングアバットメントの基準部材を示す概略斜視図である。
【
図4B】本発明によるヒーリングアバットメントの基準部材を示す概略斜視図である。
【
図4C】本発明による基準部材のカラー部を示す概略横断面図である。
【
図4D】本発明の別の実施形態による、中心がZ軸に対してずれて取り付けられた基準部材のカラー部を示す概略横断面図である。
【
図4E】本発明の別の実施形態によるヒーリングアバットメントの基準部材を示す概略斜視図である。
【
図5】本発明によるヒーリングアバットメントの締め付けネジを示す概略斜視図である。
【
図6A】本発明によるヒーリングアバットメントの取り付け方法を示す概略斜視図である。
【
図6B】本発明によるヒーリングアバットメントの取り付け方法を示す概略斜視図である。
【
図7A】
図7Aおよび
図7Bはそれぞれ、Z軸に対してセンタリングされた取り付け位置および中心がずれた取り付け位置にある本発明によるヒーリングアバットメントを、縦断面視にて示す概略図である。
【
図7B】
図7Aおよび
図7Bはそれぞれ、Z軸に対してセンタリングされた取り付け位置および中心がずれた取り付け位置にある本発明によるヒーリングアバットメントを、縦断面視にて示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図面は、本発明の実施のために本発明を詳細に開示するものであり、もちろん、必要であれば本発明をよりよく定義するために使用することができる。
【0043】
既知の手法では、インプラントシステムは、喪失歯の代わりに患者の顎骨に取り付けられるように構成されたインプラントと、喪失歯の露出部分と同様の外観を有する人工歯と、インプラントと人工歯との間を連結する補綴アバットメントとを備える。
【0044】
既知の手法では、インプラントは、患者の顎骨に取り付けられるように構成された取り付け端部と、患者の歯肉内に延びるように構成された歯肉側端部とを含み、歯肉側端部は、補綴アバットメントと協働するように構成されたインプラントハウジングを備える。より詳細には、取り付け端部は、患者の顎骨にねじ込まれるように外ネジを備える。歯肉側端部は、内ネジを有するインプラントハウジングを備える。
【0045】
以下、人工歯および補綴アバットメントの設置前にインプラントに取り付けられるように構成された、本発明によるヒーリングアバットメントを説明する。
【0046】
図1を参照すると、本発明によれば、ヒーリングアバットメントPは、垂直なZ軸に沿って整列されるとともにZ軸に沿って延びる締め付けネジ4によって連結されるフット部1およびヘッド部2を備える。より詳細には、フット部1は、インプラント5と協働するように構成された下部フット部分と、ヘッド部2と協働するように構成された上部フット部分とを含む。ヘッド部2は、上部フット部分と協働してヘッド部2をフット部1に取り付けるように構成された下部ヘッド部分と、所定形状を有する上部ヘッド部分とを含む。
【0047】
図1をさらに参照すると、本発明によれば、ヒーリングアバットメントPは、いくつかの次元において方向決めされた基準系X,Y,Zを規定する基準部材3をさらに備える。基準部材3は、一方では、フット部1と協働して、Z軸に沿ってフット部1に対して方向決めされた基準系X,Y,Zの複数の基本位置を規定するように構成され、他方では、上部ヘッド部分の所定形状に応じて複数の基本位置の中から少なくとも1つの最適な基本位置を選択できるように、上部ヘッド部分に取り付けられる。本発明によるそのようなヒーリングアバットメントPは、印象採得が物理的か光学的かにかかわらず、人工歯の形状およびサイズの決定のために印象を採得する際に、取り外しも操作もする必要がないという利点を有する。人工歯は、実際に、操作せずとも目視できる状態にある基準部材3のみに基づいて決定される。それにより、患者の時間および快適さが保全され、さらに、インプラント周囲炎のリスクが軽減される。
【0048】
フット部1、ヘッド部2、基準部材3、および締め付けネジ4の構造的および機能的態様を、以下に順次説明する。本特許出願全体を通して、「内側」および「外側」という用語は、Z軸に対して半径方向に定義され、「下」および「上」という用語は、フット部1からヘッド部2へ方向づけられた垂直なZ軸に対して定義される。
【0049】
図2Aおよび
図2Bを参照すると、フット部1は、Z軸に沿って延び、下部フット部分10と、上部フット部分11と、締め付けネジ4が内部を貫通できるように下部フット部分10および上部フット部分11を縦方向に貫通するフット部空洞12とを含む。
図2Aおよび
図2Bの例では、下部フット部分10と上部フット部分11とは、Z軸周りの輪状部13によって分離されている。輪状部13は、Z軸に対して半径方向に突出して、ヘッド部2のための軸方向の支持体すなわちストッパとして機能し、Z軸に沿ったヘッド部2の適切な軸方向位置決めを可能にする。この輪状部13は全体サイズが小さいという利点を有するが、言うまでもなく、輪状部13を任意の支持要素で置き換えることが可能であり、また、下部フット部分10と上部フット部分11とが直接に接していることも可能である。本例では、輪状部13は、平坦な上面を有して、安定した状態でヘッド部2と協働する。輪状部13は、歯肉の形状に適合するように、Z軸に沿って下から上に向かって太くなる円錐台状の下面を有することが好ましい。
【0050】
好ましくは、
図2Aおよび
図2Bに示すように、下部フット部分10は、Z軸周りの外ネジ付き外周面を有するフット部シャンク14と、Z軸に対してフット部シャンク14の上方に取り付けられた多角形の(本例では8つの面を構成している)接続リング15とを備える。フット部シャンク14および接続リング15により、下部フット部分10は、ヒーリングアバットメントPとインプラント5との間を連結するように構成されている。より詳細には、フット部シャンク14は、インプラントハウジングのネジ山と協働してフット部1をインプラント5にねじ込むように構成されている。また、接続リング15は、インプラントハウジングの多角形の外壁部と協働してフット部1がインプラント5から緩んで外れることを防ぐように構成されており、それは「回転防止システム」として当業者に知られているものである。
図2Aおよび
図2Bの例では、接続リング15は8つの面を含むが、言うまでもなく、面の数は異なってもよい。さらに、言うまでもなく、接続リング15はいずれの回転防止システムであることも可能であり、あるいは、回転防止システムは無くてもよい。
【0051】
上部フット部分11は、第1のインターロック部材17を備え、第1のインターロック部材17は、ヘッド部2における複数の半径方向ノッチの形態である第2のインターロック部材と協働するように構成された、Z軸に対する複数の半径方向歯部を含む。有利なことに、第1のインターロック部材17および第2のインターロック部材は、フット部1へのヘッド部2の取り付けの角度調整を可能にする。言い換えれば、ヘッド部2は、フット部1に対して、様々な利用可能な基本位置にて取り付けられることができる。そのようなインターロック部材17はさらに、回転防止システムとして機能し、取り付け後のフット部1とヘッド部2との互いに対する回転運動を防止する。
図2Aおよび
図2Bの例では、半径方向歯部の数は24であり、微細な角度調整が実現される。有利なことに、ヘッド部2は、24の異なる基本位置に配置されることができ、それにより、喪失歯が患者の口内に残した利用可能なスペースに正確に適応する。言うまでもなく、半径方向歯部の数はより少ないことが可能であり、その場合、角度調整の細かさは低下し、半径方向歯部の数の下限は8本である。半径方向歯部の数はより多いことも可能であるが、それによる利益はほとんど気づかない程度であるうえに、第1のインターロック部材17の複雑さが過剰に増してしまう。さらに、
図2Aおよび
図2Bの例では、半径方向歯部は、Z軸周りの複数の三角柱の形態であり、ヘッド部2をフット部1に簡単に取り付け可能になっている。ただし、言うまでもなく、半径方向歯部は、長方形の基部を備えた円筒形などの異なる形状を有することができる。
【0052】
図2Aおよび
図2Bをさらに参照すると、好ましくは、上部フット部分11は第3のインターロック部材16をさらに備え、第3のインターロック部材16は、Z軸に沿って第1のインターロック部材17の上方に取り付けられるとともに、基準部材3をフット部1に取り付けできるようにZ軸方向の軸方向歯部を含む。第3のインターロック部材16は、回転防止システムとしても機能し、基準部材3とフット部1との互いに対する回転運動を防止する。
図2Aおよび
図2Bの例では、軸方向歯部の数は4つであり、基準部材3のための4つの利用可能な基本位置が設けられる。言うまでもなく、軸方向歯部の数は異なってもよく、基準部材3の位置決めを容易にするために、
図2Cに示すように3であることが好ましい。さらに、
図2Aおよび
図2Bの例では、軸方向歯部は、長方形の基部を備えたZ軸周りの円筒の形態であり、ヘッド部2をフット部1に簡単に取り付け可能になっている。ただし、言うまでもなく、軸方向歯部は異なる形状を有することができる。
【0053】
このように、フット部1は、インプラント5、ヘッド部2、および基準部材3に対して正確な角度方向を定めることが可能である。
【0054】
以下、
図3Aおよび
図3Bを参照して、ヘッド部2を説明する。これら2つの図に示すように、ヘッド部2は、Z軸周りの周囲形状を有し、下部ヘッド部分20と、上部ヘッド部分21と、締め付けネジ4が内部を貫通できるように下部ヘッド部分20および上部ヘッド部分21を貫通するヘッド部空洞23とを含む。
【0055】
好ましくは、
図3Aおよび
図3Bに示すように、下部ヘッド部分20は、円錐状外壁部を備え、その円錐状外壁部の周囲の凹状外形に沿って歯肉の治癒が促進されるように構成されているため、人工歯が設置された後には、人工歯と歯肉との界面が自然で審美的になる。下部ヘッド部分20の外壁部の円錐具合は、置換される喪失歯によって決まり、それがたとえば切歯、犬歯、小臼歯、または大臼歯であるかどうかに依存する。好ましくは、外壁部は、フット部1の輪状部13と連続している。
【0056】
本発明の1つの好適な態様によれば、ヘッド部2は、設置される人工歯の形状を実質的に有するように構成されたヒーリング用人工歯を形成する。ヘッド部2が歯肉の治癒機能に加えてこの機能を提供するため、仮の人工歯を追加する必要がない。さらに、上部ヘッド部分21は、審美的目的と、縁が鋭くて患者の口を傷つけるおそれを回避する目的とのために、丸みを帯びた周縁部22を備えることが好ましい。
【0057】
上述のとおり、
図3Aおよび
図3Bに示すように、下部ヘッド部分20は、複数の半径方向ノッチを含む第2のインターロック部材24を備える。このような第2のインターロック部材24は、フット部1の第1のインターロック部材17と協働して、ヘッド部2をフット部1に取り付けるとともに、ヘッド部2とフット部1との相対的な回転運動を防止するように構成される。第2のインターロック部材24の半径方向ノッチの数は、組み立てを容易にするために、第1のインターロック部材17の数と等しいことが好ましい。また、半径方向ノッチの形状は、組み立てを容易にするために、第1のインターロック部材17の半径方向歯部の形状と相補的であることが好ましい。ただし、言うまでもなく、第2のインターロック部材24の半径方向ノッチの数およびそれらの形状は、第1のインターロック部材17の半径方向歯部と相補的でない場合がある。
【0058】
以上のように、ヘッド部2は、人間工学的にフット部1上に配置されることができる。
【0059】
以下、
図4A、
図4B、および
図4Cを参照して、基準部材3を説明する。図示するように、基準部材3は、Z軸周りの周囲本体30と、本体30に取り付けられたカラー部31と、締め付けネジ4が内部を貫通できるように本体30およびカラー部31を貫通するZ軸周りの基準部空洞32とを備える。本体30は、上部フット部分11と協働するように構成されている。カラー部31は、上部ヘッド部分21に取り付けられるとともに、基準系X,Y,Zを規定するように構成される。カラー部31は、Z軸を横切る平面内に延びる。
【0060】
有利なことに、本体30と上部フット部分11との協働により、フット部1の角度位置決めを、基準部材3の角度位置決め、特に、ヒーリングアバットメントPの取り付け後に基準部材3において目視できる部分であるカラー部31の角度位置決めに連動させることができる。したがって、カラー部31によって規定された基準系X,Y,Zの向きがフット部1の向きになり、それにより、印象採得時にヒーリングアバットメントPを取り外す必要性が回避される。カラー部31を上部ヘッド部分21に取り付けることにより、さらに、方向決めされた基準系X,Y,Zにおいてヘッド部2の角度位置を規定することが可能になる。基準部材3およびヘッド部2は、協働して、最終的な人工歯が十分に決定されることを可能にする。また、基準部空洞32は、基準部材3をヒーリングアバットメントPに固定させる。
【0061】
図4Aおよび
図4Bに示すように、本体30は、円形断面を有する円筒形であり、ヘッド部空洞23に挿入できるようにヘッド部空洞23の直径よりも小さい直径を有する。さらに、本体30は第4のインターロック部材33を備え、第4のインターロック部材33は、フット部1の第3のインターロック部材16と協働して、基準部材3をフット部1に取り付けるとともに、基準部材3とフット部1との間の相対的な回転運動を防止するように構成されている。第4のインターロック部材33は、軸方向ノッチを含むことが好ましい。第4のインターロック部材33の軸方向ノッチの数は、組み立てを容易にするために、第3のインターロック部材16の軸方向歯部の数と等しい。したがって、
図4Bの例では、第4のインターロック部材33は、
図2Bの第3のインターロック部材16と協働するために4つの軸方向ノッチを備える。
図4Eの例では、第4のインターロック部材33は、
図2Cの第3のインターロック部材16と協働するために3つの軸方向ノッチを備える。また、軸方向ノッチの形状は、組み立てを容易にするために、第3のインターロック部材16の軸方向歯部と相補的であることが好ましい。ただし、言うまでもなく、第4のインターロック部材33の軸方向ノッチの数およびそれらの形状は、第3のインターロック部材16の軸方向歯部と相補的でない場合がある。
【0062】
図4Cに示すように、カラー部31は、Z軸に対して半径方向に延びる突出部分37を含み、その半径方向は、基準系X,Y,Zの方向のうちの1つを規定する。好ましくは、突出部分37は、フット部1の向きを間接的に示すために、2mmより大きい、好ましくは3mm以上の突出半径方向長さL37にわたって延びる。全体サイズが制限されるように、突出半径方向長さL37は、5mm未満である。
【0063】
また、そのような突出半径方向長さL37は、患者に不快感を与えかねず且つ製造アバットメントPの取り付けを複雑にしかねない、突出部分37のヘッド部2からの突出を防ぐ。
図4Cに示す例では、基準系X,Y,Zを規定することを簡単にするために、突出部分37は、第4のインターロック部材33の軸方向ノッチの1つと軸方向に整列されるが、そうではない場合があることは言うまでもない。
【0064】
図4Cに示す例では、カラー部31は、3つの突出部分37,39A,39Bを含み、その各々が第4のインターロック部材33の各軸方向ノッチと整列している。実際には、基準系X,Y,Zを規定するのに1つの突出部分37のみで十分であるが、他の突出部分39A,39Bによって、基準系X,Y,Zをより微細に規定でき、人工歯を可能な限り正確に決定できるようになる。言うまでもなく突出部分の数は任意であるが、3を超えると全体サイズが不必要に大きくなる。また、本例では、突出部分37を他から簡単に区別できるように、突出部分37,39A,39Bはそれぞれ異なる突出半径方向長さL37を有する。ただし、言うまでもなく、突出部分37,39A,39Bは、同じ突出半径方向長さL37を有することができる。
【0065】
より詳細には、カラー部31の突出部分37,39A,39Bは、基準フィンガ34,35,36の形態であり、好ましくは、患者が触れた時に支障を来さないように端部が丸みを帯びている。そのような形状は、半径方向を簡単に規定できる点で有利であるが、言うまでもなく、突出部分37,39A,39Bはいずれの異なる形状をも有することが可能である。特に、カラー部31は、頂点が突出部分37,39A,39Bを構成する多角形の断面を有することができる。頂点の数は、第4のインターロック部材33の軸方向ノッチの数に等しいことが可能である。また、突出部分37,39A,39Bは、区別のために、互いに異なる形状を有することができる。
【0066】
図4Cの例では、カラー部31はさらに、Z軸に対して半径方向に延びる縮小部分38を含む。縮小部分38は、有利なことに、所与の角度範囲にわたって基準部材3の全体サイズを縮小するように構成される。実際の使用においては、
図4Dに示すように、喪失歯が残したスペースの中央にインプラントが配置されない場合がある。その場合、ヘッド部2は、中心がZ軸に対してずれて延び、すなわち、ヘッド部空洞23は、ヘッド部2の中心からずれている。その場合、ヘッド部空洞32が上部ヘッド部分21の外壁部から離間する半径方向距離が最小である箇所に縮小部分38が好都合に配置されるように、基準部材3を角度的に取り付けることができる。
【0067】
縮小部分38があることにより、たとえヘッド部2の中心がZ軸に対してずれていても、基準部材3はヘッド部2から突き出ない。好ましくは、
図4Cおよび
図4Dに示すように、縮小部分38は、中心が著しくずれている場合でも効果的であるために、3mm未満、好ましくは2mm以下の縮小された半径方向長さL38を有する。好ましくは、縮小された半径方向長さL38は、0.5mmより大きい。また好ましくは、中心が著しくずれている場合でも効果的であるために、縮小部分38が延在するZ軸周りの角度範囲α38は、90°より大きく、好ましくは150°より大きく、さらに好ましくは180°より大きい。
【0068】
以下、
図5を参照して、締め付けネジ4を説明する。
図5を参照すると、締め付けネジ4は、Z軸周りの胴部40と、胴部40に取り付けられたネジ頭部41とを備える。胴部40の直径は、フット部空洞12、ヘッド部空洞23、基準部空洞32、およびインプラントハウジングの直径より小さく構成されている。それにより胴部40は、フット部空洞12、ヘッド部空洞23、基準部空洞32、およびインプラントハウジングに挿入されて、ヒーリングアバットメントPをインプラントに取り付けるように構成されている。
【0069】
好ましくは、
図5に示すように、胴部40は、インプラントハウジングにねじ込まれるように構成された外ネジ付きの第1の胴部分42と、下部フット部分10内に延びるように構成された第2の胴部分43と、フット部1の輪状部13の内径より直径が大きくて上部フット部分11内に延びるように構成された第3の胴部分44と、ヘッド部空洞23内および基準部空洞32内に延びるように構成された第4の胴部分45とを含む。ただし、言うまでもなく、胴部40は、いずれかの種類の1つの胴部分のみ、または、前述の複数の部分から選択されたもののみで構成されることができる。
【0070】
好ましくは、
図5に示すように、ネジ頭部41は、基準部材3の全体サイズが制限されるように平坦であり、締め付けネジ4がインプラントハウジングにねじ込まれて組立体が固定されるためにネジ回しなどの工具を受けるように構成された頭部くぼみ46を有する。
【0071】
以下、
図6Aおよび
図6Bを参照して、本発明によるヒーリングアバットメントPの取り付け方法を説明する。当該方法は、以下に詳述する4つの連続する取り付けステップを含む。
【0072】
第1の組み立てステップでは、フット部1を、Z軸に対して縦方向の並進移動T1によりインプラントハウジングに挿入し、続いて、接続リング15が嵌め込みによってインプラントハウジング内に係止されるまで、フット部シャンク14を、Z軸周りの回転移動R1によりインプラントハウジングにねじ込む。第1の組み立てステップの終了時には、フット部1がインプラントハウジングに固定的に取り付けられている。
【0073】
第2の組み立てステップでは、ヘッド部2を、第1のインターロック部材17と第2のインターロック部材24とが協働し且つヘッド部2がフット部1の輪状部13と接触するまで、Z軸に対して縦方向の並進移動T2をさせて、フット部1に取り付ける。ヘッド部2とフット部1との互いに対する角度方向は、正確に定められる。第2の組み立てステップの終了時には、
図7Aに示すように、ヘッド部2は、輪状部13上に載置され、Z軸に対して半径方向および接線方向に固定的にフット部1に取り付けられている。その一方で、ヘッド部2は、フット部1に対して、Z軸に沿った縦方向の並進移動が自在な状態で取り付けられている。
【0074】
第3の組み立てステップでは、フット部1の第3のインターロック部材16と基準部材3の第4のインターロック部材33とが協働するまで、縦方向の並進移動T3に従って本体30をヘッド部空洞23内に挿入することで、基準部材3をヘッド部2に取り付ける。
図7Bに示すような中心がずれた取り付けの場合に基準部材3がヘッド部2から突き出ないように、方向決めされた基準系を規定するカラー部31の方向決めは、並進移動T3の前に実施する。
図7Bの例では、縮小部分38は、上部ヘッド部分21が最小の半径方向長さを有する箇所に角度的に配置されている。第3の組み立てステップの終了時には、
図7Aおよび
図7Bに示すように、基準部材3は、Z軸に対して半径方向および接線方向に固定的にヘッド部2に取り付けられているとともに、Z軸に沿った縦方向の並進移動が自在な状態でヘッド部2に対して取り付けられている。基準部材3とフット部1との互いに対する角度方向は、正確に定められる。
【0075】
第4の組み立てステップでは、締め付けネジ4を、Z軸に対して縦方向の並進移動T4により、基準部空洞32、ヘッド部空洞23、フット部空洞12、およびインプラントハウジング内に順次挿入し、続いてZ軸周りの回転移動R4により、第1の胴部分42をインプラントハウジング内にねじ込む。第3の胴部分44が輪状部13に当接した時点で、回転移動R4は停止する。第4の組み立てステップの終了時には、
図7Aおよび
図7Bに示すように、締め付けネジ4は、ヘッド部2および基準部材3をZ軸に対して縦方向に係止している。さらに、締め付けネジ4は、インプラントハウジング内に固定的に取り付けられている。
【0076】
上述の本発明によるヒーリングアバットメントにより、歯肉の治癒が凹状の外形にて生じるため、人工歯の設置後の結果は自然で審美的である。さらに、印象採得の際にヒーリングアバットメントPを取り外す必要がないため、患者にとって時間がかかる不快な操作が回避され、インプラント周囲炎のリスクが軽減される。またさらに、基準部材3が、いずれのスキャナでも読み取り可能な方向決めされた基準系X,Y,Zを提供し、ヘッド部2が仮の人工歯として機能し、さらなる操作を必要とする当該パーツの追加が回避される。基準部材3によって規定された基準系を読み取ることにより、ユーザは、フット部1の向きを迅速、直接的、かつ正確に特定し、それにより、申し分なく配置することが可能な最終的な歯を形成できる。最後に、本ヒーリングアバットメントPには、喪失歯が残した利用可能なスペース内にヘッド部2を正確に角度位置決めできるという利点がある。