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特許7591054保護フィルム及び半導体ウエハの裏面研削方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】保護フィルム及び半導体ウエハの裏面研削方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20241120BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20241120BHJP
   B24B 7/22 20060101ALI20241120BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20241120BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20241120BHJP
   C09J 7/25 20180101ALI20241120BHJP
   C09J 7/29 20180101ALI20241120BHJP
【FI】
H01L21/304 622J
H01L21/304 631
B24B41/06 L
B24B7/22 Z
C09J7/38
C09J201/00
C09J7/25
C09J7/29
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022535380
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2021025692
(87)【国際公開番号】W WO2022009940
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2020119483
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】アールエム東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(72)【発明者】
【氏名】林下 英司
【審査官】柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/003920(WO,A1)
【文献】特開2002-069396(JP,A)
【文献】特開2019-220633(JP,A)
【文献】特開2013-077758(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192630(WO,A1)
【文献】特開2017-069489(JP,A)
【文献】国際公開第2021/157316(WO,A1)
【文献】特開2000-173961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 41/06
B24B 7/22
C09J 7/38
C09J 201/00
C09J 7/25
C09J 7/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハの回路が形成された面を固定具に吸着した状態で、該半導体ウエハの裏面を研削する際、前記回路が形成された面を保護する保護フィルムであって、
粘着剤層と、基材層と、補助層と、を有し、
前記粘着剤層は、前記半導体ウエハに貼着される層であり、
前記補助層は、前記固定具に接触される層であり、
前記半導体ウエハは、前記回路が形成された面の外周縁に段差を有し、
前記補助層の厚さをT 32 とし、前記段差の高さをHとした場合に、T 32 が100~500μmであり、Hが10~100μmであり、H≦T 32 の関係を満たすことを特徴とする保護フィルム。
【請求項2】
前記補助層は、温度25℃以上35℃以下の引張弾性率が10MPa以上200MPa以下の層である請求項1に記載の保護フィルム。
【請求項3】
前記補助層は、エラストマー性を有する熱可塑性材料を含む請求項1又は2に記載の保護フィルム。
【請求項4】
前記エラストマー性を有する熱可塑性材料は、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーの群から選ばれる1種又は2種以上を含む請求項に記載の保護フィルム。
【請求項5】
前記基材層は、温度25℃以上35℃以下の引張弾性率が5000MPa以下の層である請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の保護フィルム。
【請求項6】
前記基材層は、ポリエステル、ポリアミドの群から選ばれる1種又は2種以上を含む請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の保護フィルム。
【請求項7】
前記基材層の厚さは、10μm以上200μm以下である請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の保護フィルム。
【請求項8】
半導体ウエハの回路が形成された面に保護フィルムを貼着する貼着工程と、
前記半導体ウエハと、該半導体ウエハを吸着する固定具と、の間に、前記保護フィルムを介在させて、該保護フィルムを介して前記半導体ウエハを前記固定具に吸着する吸着工程と、
前記保護フィルムを介して前記半導体ウエハを前記固定具に吸着した状態で、該半導体ウエハの裏面を研削する研削工程と、を備え、
前記保護フィルムは、粘着剤層と、基材層と、補助層と、を有し、
前記粘着剤層は、前記半導体ウエハに貼着される層であり、
前記補助層は、前記固定具に接触される層であり、
前記半導体ウエハは、前記回路が形成された面の外周縁に段差を有し、
前記補助層の厚さをT 32 とし、前記段差の高さをHとした場合に、T 32 が100~500μmであり、Hが10~100μmであり、H≦T 32 の関係を満たすことを特徴とする半導体ウエハの裏面研削方法。
【請求項9】
前記補助層は、温度25℃以上35℃以下の引張弾性率が10MPa以上200MPa以下の層である請求項8に記載の半導体ウエハの裏面研削方法。
【請求項10】
前記補助層は、エラストマー性を有する熱可塑性材料を含む請求項8又は9に記載の半導体ウエハの裏面研削方法。
【請求項11】
前記エラストマー性を有する熱可塑性材料は、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーの群から選ばれる1種又は2種以上を含む請求項10に記載の半導体ウエハの裏面研削方法。
【請求項12】
前記基材層は、温度25℃以上35℃以下の引張弾性率が5000MPa以下の層である請求項8乃至11のうちのいずれかに記載の半導体ウエハの裏面研削方法。
【請求項13】
前記基材層は、ポリエステル、ポリアミドの群から選ばれる1種又は2種以上を含む請求項8乃至12のうちのいずれかに記載の半導体ウエハの裏面研削方法。
【請求項14】
前記基材層の厚さは、10μm以上200μm以下である請求項8乃至13のうちのいずれかに記載の半導体ウエハの裏面研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハの回路が形成された面を固定具に吸着する際に、その回路を保護するための保護フィルム、及びその保護フィルムを用いた半導体ウエハの裏面研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体部品の製造時において、半導体ウエハは、表面側に回路等が形成された後、裏面側を研削する加工が施されて薄層化される。この裏面側を研削する裏面研削方法において、半導体ウエハ110は、回路等が形成された表面111に保護フィルム130が貼着される(図9参照)。半導体ウエハ110の表面111は、該保護フィルム130を介して固定具141に吸着される。そして、保護フィルム130は、回路等を被覆することで、保護している。
上述した保護フィルム及び裏面研削方法に関する技術として、特許文献1が開示されている。特許文献1は、表面に膜層が形成され、且つ外周側面に面取り部が形成された半導体ウエハについて、切削ブレードを半導体ウエハの表面から外周縁に切り込ませつつ半導体ウエハを回転させることにより、少なくとも面取り部上の膜層を円形に切削除去する切削ステップ(トリミング加工)を備えている。
このトリミング加工を施された半導体ウエハ110は、表面111の外周縁に段差113を有している。このため、半導体ウエハ110を吸着する固定具141は、該段差113を配慮して設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-43825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような段差113を有する半導体ウエハ110は、固定具141において真空リーク等の吸着不良を起こすものがあることが分かった。この吸着不良は、例えば、トリミング加工の場合、加工精度の限界等による段差113の寸法や形状のばらつき等に起因して発生すると考えられる。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、吸着不良の発生を抑制することができる保護フィルム及び半導体ウエハの裏面研削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題点を解決する手段として、本発明は以下の通りである。
[1]請求項1に記載の発明は、半導体ウエハの回路が形成された面を固定具に吸着した状態で、該半導体ウエハの裏面を研削する際、前記回路が形成された面を保護する保護フィルムであって、
粘着剤層と、基材層と、補助層と、を有し、
前記粘着剤層は、前記半導体ウエハに貼着される層であり、
前記補助層は、前記固定具に接触される層であり、
前記半導体ウエハは、前記回路が形成された面の外周縁に段差を有することを要旨とする。
[2]請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記補助層は、温度25℃以上35℃以下の引張弾性率が5MPa以上150MPa以下の層であることを要旨とする。
[3]請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記補助層は、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーの群から選ばれる1種又は2種以上を含むことを要旨とする。
[4]請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の発明において、前記補助層の厚さは、100μm以上500μm以下であることを要旨とする。
[5]請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の発明において、前記基材層は、温度25℃以上35℃以下の引張弾性率が5000MPa以下の層であることを要旨とする。
[6]請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の発明において、前記基材層は、ポリエステル、ポリアミドの群から選ばれる1種又は2種以上を含むことを要旨とする。
[7]請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の発明において、前記基材層の厚さは、10μm以上200μm以下であることを要旨とする。
【0007】
[8]請求項8に記載の発明は、半導体ウエハの回路が形成された面に保護フィルムを貼着する貼着工程と、
前記半導体ウエハと、該半導体ウエハを吸着する固定具と、の間に、前記保護フィルムを介在させて、該保護フィルムを介して前記半導体ウエハを前記固定具に吸着する吸着工程と、
前記保護フィルムを介して前記半導体ウエハを前記固定具に吸着した状態で、該半導体ウエハの裏面を研削する研削工程と、を備え、
前記保護フィルムは、粘着剤層と、基材層と、補助層と、を有し、
前記粘着剤層は、前記半導体ウエハに貼着される層であり、
前記補助層は、前記固定具に接触される層であり、
前記半導体ウエハは、前記回路形成面の外周縁に段差を有することを要旨とする。
[9]請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記補助層は、温度25℃以上35℃以下の引張弾性率が5MPa以上150MPa以下の層であることを要旨とする。
[10]請求項10に記載の発明は、請求項8又は9に記載の発明において、前記補助層は、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーの群から選ばれる1種又は2種以上の熱可塑性材料を含むことを要旨とする。
[11]請求項11に記載の発明は、請求項8乃至10のうちのいずれかに記載の発明において、前記補助層の厚さは、100μm以上500μm以下であることを要旨とする。
[12]請求項12に記載の発明は、請求項8乃至11のうちのいずれかに記載の発明において、前記基材層は、温度25℃以上35℃以下の引張弾性率が5000MPa以下の層であることを要旨とする。
[13]請求項13に記載の発明は、請求項8乃至12のうちのいずれかに記載の発明において、前記基材層は、ポリエステル、ポリアミドの群から選ばれる1種又は2種以上の熱可塑性材料を含むことを要旨とする。
[14]請求項14に記載の発明は、請求項8乃至13のうちのいずれかに記載の発明において、前記基材層の厚さは、10μm以上200μm以下であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の保護フィルム及び半導体ウエハの裏面研削方法によれば、吸着不良の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の保護フィルムを説明する拡大した正断面図である。
図2】本発明に係る半導体ウエハを説明する正断面図である。
図3】本発明に係る半導体ウエハのトリミング加工を説明する正断面図である。
図4】本発明の半導体ウエハの裏面研削方法で貼着工程を説明する正断面図である。
図5】本発明の半導体ウエハの裏面研削方法で吸着工程を説明する正断面図である。
図6】本発明の半導体ウエハの裏面研削方法で研削工程を説明する正断面図である。
図7】本発明で別形態の半導体ウエハの研削工程を説明する正断面図である。
図8】本発明に係る別形態の半導体ウエハを説明する正断面図である。
図9】従来の半導体ウエハの吸着方法を説明する正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、図面を参照しながら説明する。ここで示す事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要で、ある程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0011】
[1]保護フィルム
本発明の保護フィルムは、半導体ウエハの回路が形成された面を固定具に吸着した状態で、該半導体ウエハの裏面を研削する際、前記回路が形成された面を保護するものである。
保護フィルムは、粘着剤層と、基材層と、補助層と、を有している(図1参照)。
粘着剤層は、半導体ウエハに貼着される層である。
補助層は、固定具に接触される層である。
本発明における半導体ウエハは、回路が形成された面の外周縁に段差を有する半導体ウエハである。
このような形状の半導体ウエハは、外周縁に段差を有するため、裏面を研削する際、外周縁に段差を有さない半導体ウエハに比べて、固定具に吸着される面(回路が形成された面であり、保護フィルムが貼着される面)の該固定具への吸着面積が少なくなる場合がある。
よって、本発明における半導体ウエハは、回路が形成された面の外周縁に段差を有することから、固定具に吸着される面(回路が形成された面)の該固定具への吸着面積が減じられた半導体ウエハともいえる。
以下、半導体ウエハにおいて、回路が形成された面を「非研削面」、裏面研削方法に係る薄層化で研削される面を「研削面」ともいう。
【0012】
具体的に、図1に示すように、保護フィルム30は、基材層31と、該基材層31の一面側(図1中で下面側)に設けられた補助層32と、該基材層31の他面側(図中で上面側)に設けられた粘着剤層33と、を有している。
この保護フィルム30は、裏面研削方法に係る貼着工程において、粘着剤層33側を半導体ウエハ10の非研削面11に向けて使用される。この粘着剤層33は、半導体ウエハ10の非研削面11に貼着される(図4参照)。
【0013】
また、保護フィルム30は、裏面研削方法に係る吸着工程において、補助層32側を固定具41に向けて使用される。この補助層32は、固定具41に接触されて、該固定具41に吸着される(図5参照)。
補助層32は、半導体ウエハ10の非研削面11の表面形状と、固定具41の表面形状とに対応し、これらに倣って弾性変形する。即ち、補助層32は、弾性変形することにより、半導体ウエハ10の固定具41への吸着を補助する(図6参照)。
【0014】
加えて、保護フィルム30の基材層31は、裏面研削方法の貼着工程で、粘着剤層33により、半導体ウエハ10の非研削面11に貼着される。この基材層31は、裏面研削方法の研削工程において、半導体ウエハ10の非研削面11を被覆し、該非研削面11に形成された回路を保護する。
【0015】
保護フィルム30の形状は、特に限定されない。保護フィルム30は、例えば、平面視で円形状、正方形状等とすることができる。
保護フィルム30の平均厚さは、特に限定されない。具体的に、保護フィルム30の平均厚さは、好ましくは150~1000μm、より好ましくは175~950μm以上、さらに好ましくは200~750μmとすることができる。
尚、平均厚さは、互いに2cm以上離れるように選択された10ヶ所のフィルムの実測厚さの平均値であるものとする。
【0016】
以下、保護フィルム30の各層について説明する。
(1)基材層
基材層31は、半導体ウエハ10の非研削面11に形成された回路の保護を目的として設けられる層である。また、基材層31は、保護フィルム30の取り扱い性や機械的特性等を向上させる層である。
基材層31に使用される材料は、裏面研削方法の研削工程で、外力に耐え得る機械的強度を有するのであれば、特に限定されない。
通常、基材層31の材料には、合成樹脂のフィルムが使用される。
【0017】
上述の合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等のポリオレフィン;エチレン・酢酸ビニル共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等のポリアミド;ポリアクリレート;ポリメタアクリレート;ポリ塩化ビニル;ポリエーテルイミド;ポリアクリロニトリル;ポリカーボネート;ポリスチレン;アイオノマー;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリフェニレンエーテル等から選択される1種または2種以上の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0018】
基材層31は、上述した合成樹脂の中でも、ポリエステル、ポリアミドの群から選ばれる1種又は2種以上を含むものが好ましい。それらを含む場合、保護フィルム30の取り扱い性を好適にすることができる。
上述の合成樹脂中には添加剤を添加することができる。添加剤としては、可塑剤、軟化剤(鉱油等)、充填剤(炭酸塩、硫酸塩、チタン酸塩、珪酸塩、酸化物(酸化チタン、酸化マグネシウム)、シリカ、タルク、マイカ、クレー、繊維フィラー等)、酸化防止剤、光安定化剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤等が例示される。これら添加剤は、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0019】
基材層31の材料に使用されるフィルムは、延伸の有無を問わない。フィルムには、無延伸フィルム、一軸延伸フィルムや二軸延伸フィルム等の延伸フィルムの何れも使用することができる。特に、延伸フィルムは、機械的強度の向上の観点で有用である。
また、上述のフィルムは、単層フィルム、複数の層を有する多層フィルムの何れも使用することができる。
基材層31には、表面処理されたフィルムを使用することが好ましい。その場合、補助層32等との接着性の向上を図ることができる。表面処理の具体例として、コロナ処理、プラズマ処理、アンダーコート処理、プライマーコート処理等が挙げられる。
基材層31の厚さは、特に限定されない。この基材層31の厚さT31図1参照)は、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~150μm、さらに好ましくは30~100μmである。該厚さの範囲は、基材層31が良好な特性を得ることができるという観点による。
【0020】
ここで、基材層31及び補助層32の引張弾性率は、動的粘弾性測定装置(DMA)により、25℃から35℃まで測定して得られたデータから各温度のデータを読み取ることで得られる。測定条件は、サンプルサイズを幅10mm、チャック間の長さ20mmとし、周波数1Hz、昇温速度5℃/分である。
以下では、基材層31の引張弾性率について、25℃の値をE’31(25)、35℃の値をE’31(35)とし、25℃以上35℃以下の各温度の値をE’31(t)とする。
また、補助層32の引張弾性率について、25℃の値をE’32(25)、35℃の値をE’32(35)とし、25℃以上35℃以下の各温度の値をE’32(t)とする。
【0021】
基材層31の引張弾性率は、通常、E’31(t)≦5000MPaである。即ち、25℃≦t≦35℃の温度範囲において、基材層31の引張弾性率は、常に5000MPa以下である。従って、E’31(25)≦5000MPa、E’31(35)≦5000MPaである。
また、通常、E’31(t)>E’32(t)である。即ち、25℃≦t≦35℃の温度範囲において、基材層31の引張弾性率は、常に補助層32の引張弾性率より高い。その高さの程度は限定されないが、E’31(t)は、E’32(t)より、20~4850MPa高いことが好ましく、700~4850MPa高いことがより好ましい。
【0022】
従って、t=25℃において、基材層31の引張弾性率と、補助層32の引張弾性率と、の差(E’31(25)-E’32(25))は、20MPa≦E’31(25)-E’32(25)≦4850MPaが好ましく、700MPa≦E’31(25)-E’32(25)≦4850MPaがより好ましい。
同様に、t=35℃において、基材層31の引張弾性率と、補助層32の引張弾性率と、の差(E’31(35)-E’32(35))は、20MPa≦E’31(35)-E’32(35)≦4850MPaが好ましく、700MPa≦E’31(35)-E’32(35)≦4850MPaがより好ましい。
【0023】
基材層31の引張弾性率と、補助層32の引張弾性率とは、上述の関係を有している。
半導体ウエハ10の固定具41への吸着時において、基材層31は、その引張弾性率が補助層32の引張弾性率よりも常に高いことから、半導体ウエハ10の非研削面11の回路を保護するべく、該非研削面11を被覆する形状を保持する(図5参照)。
一方、補助層32は、その引張弾性率が基材層31の引張弾性率よりも常に低いことから、弾性変形する。この補助層32の弾性変形について、基材層31側となる裏層部分は、基材層31に倣った形状となり、固定具41側となる表層部分は、固定具41の表面形状に倣った形状となる(図5参照)。
【0024】
(2)補助層
補助層32は、裏面研削方法の吸着工程で、半導体ウエハ10の固定具41への吸着を補助することを目的として設けられる層である。
具体的に、補助層32は、段差13を有する半導体ウエハ10の表面形状と、固定具41の表面形状と、の双方に応じて弾性変形することが可能な層である(図5参照)。そして、弾性変形した補助層32により、半導体ウエハ10の固定具41への吸着が補助される。
補助層32は、引張弾性率を低くした場合、柔軟性が高まる。この場合、半導体ウエハ10の非研削面11と、固定具41(チャックテーブル等)との表面形状に対する補助層32の追従性を向上させることができる。
また、補助層32は、引張弾性率を高くした場合、硬度が高まる。この場合、補助層32の固定具41(チャックテーブル等)への貼りつきが抑制され、補助層32と固定具41との着脱性を向上させることができる。
【0025】
補助層32の引張弾性率は、好ましくは、5MPa≦E’32(t)≦150MPaである。即ち、25℃≦t≦35℃の温度範囲において、補助層32の引張弾性率は、5MPa以上150MPa以下である。この場合、補助層32は、裏面研削方法を実施する環境温度下で、十分な弾性(力学的な伸縮性)を発揮することができる。
この引張弾性率は、より好ましくは、6MPa≦E’32(t)≦120MPaである。さらに好ましくは、7MPa≦E’32(t)≦80MPaである。特に好ましくは、8MPa≦E’32(t)≦60MPaである。とりわけ好ましくは、9MPa≦E’32(t)≦45MPaである。
【0026】
補助層32に使用される材料は、特に限定されない。補助層32の材料は、樹脂が好ましく、樹脂のなかでも、十分な弾性(力学的な伸縮性)を有する樹脂がより好ましく、エラストマー性を有する熱可塑性材料を含む樹脂が特に好ましい。
エラストマー性を有する熱可塑性材料は、ハードセグメント及びソフトセグメントを有したブロック共重合体からなってもよく、ハードポリマーとソフトポリマーとのポリマーアロイからなってもよく、これらの両方の特性を有したものであってもよい。
熱可塑性材料料としては、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0027】
補助層32の材料が上述の熱可塑性材料を含む樹脂の場合、熱可塑性材料料の割合は、補助層32を構成する樹脂全体に対して、好ましくは40~100質量%、より好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%とすることができる。即ち、補助層32を構成する樹脂は、上述の熱可塑性材料のみからなってもよい。
また、上述の熱可塑性材料のなかでも、エチレン酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニルの含量に応じて弾性の調整が可能であることから、特に好ましい。エチレン酢酸ビニル共重合体中における酢酸ビニルの含量は、重合体全体を100質量%とした場合に、好ましくは4~30質量%、より好ましくは5~25質量%、さらに好ましくは8~20質量%である。
補助層32の厚さは、特に限定されない。この補助層32の厚さT32図1参照)は、好ましくは100~500μm、より好ましくは100~400μm、さらに好ましくは100~250μmである。該厚さの範囲は、十分に弾性変形が可能な程度の猶予を維持するという観点による。
また、補助層32の厚さT32は、半導体ウエハ10の厚さ方向における段差13の高さH(図2参照)に比べ、通常、1.0倍以上であり(H≦T32)、好ましくは1.5倍以上(1.5×H≦T32)、さらに好ましくは2.0倍以上(2.0×H≦T32)である。
【0028】
(3)粘着剤層
粘着剤層33は、裏面研削方法に係る貼着工程で、半導体ウエハ10の非研削面11に貼着されることを目的として設けられる層である。
具体的に、粘着剤層33は、基材層31の非研削面11側の面(図1中で上面)に、粘着剤等を塗布又は積層して形成することができる。
【0029】
粘着剤層33に使用される粘着剤等は、特に限定されない。
この粘着剤等として、例えば、(メタ)アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、エネルギー線硬化型粘着剤、あるいはアクリル系、エポキシ系、シリコーン系接着剤などが挙げられる。
【0030】
粘着剤層33の粘着力は、特に限定されない。
この粘着力は、0.1~10N/25mmであることが好ましい。粘着力は、より好ましくは0.2~9N/25mm、さらに好ましくは0.3~8N/25mmである。
該粘着力の範囲は、半導体ウエハとの良好な接着性を確保しつつ、剥離時に半導体ウエハへの糊残りを抑制できるという観点による。
なお、この粘着力は、JIS Z0237に準拠して測定されるシリコンウエハに対する粘着力である。具体的には、温度23℃、相対湿度50%の環境下にて、シリコンウエハの表面に貼着し、60分間放置した後、シリコンウエハの表面から剥離するときの測定値である。
【0031】
粘着剤層33の厚さは、特に限定されない。
この粘着剤層33の厚さT33図1参照)は、好ましくは1~50μm、より好ましくは2~45μm、さらに好ましくは3~40μmである。該厚さの範囲は、好適な粘着力を発揮しつつ糊残りなく剥離できるという観点による。
【0032】
なお、保護フィルム30の粘着剤層33は、半導体ウエハ10へ貼着される時点で、基材層31の非研削面11側の面に設けられていればよい。
例えば、基材層31と補助層32との積層体を予め用意しておき、この積層体を半導体ウエハ10に貼着する直前で、積層体又は半導体ウエハ10に粘着剤等を塗布又は積層し、さらに前記積層体と半導体ウエハ10とを貼り合わせることにより、粘着剤層33を形成することができる。
【0033】
(4)その他の層
保護フィルム30は、上述の各層を有する構成に限らず、他の層を有する構成とすることができる。
【0034】
他の層として、例えば、図8に例示されたバンプ15を有する半導体ウエハ10の場合に、バンプ15による凹凸形状を吸収する凹凸吸収層が挙げられる。
凹凸吸収層は、非研削面11側となる基材層31の一面、特に基材層31と粘着剤層33との間に積層し形成することができる。この凹凸吸収層の材料は、流動性又は可塑性の発現による凹凸吸収性を有するものであれば、特に限定されない。この材料として、例えばアクリル系樹脂、オレフィン系樹脂およびエチレン・極性モノマー共重合体等が挙げられる。
凹凸吸収層の厚さは、バンプ15による凹凸形状に対する凹凸吸収性を発揮できる厚さであれば、特に限定されない。該厚さは、好ましくは20μm以上、より好ましくは80μm以上、さらに好ましくは170μm以上である。
【0035】
また、非研削面11側となる基材層31の一面、特に基材層31と粘着剤層33との間には、上記補助層32と同じ構成の層を設けることができる。この場合、保護フィルム30は、貼着された半導体ウエハ10の反りを防止することができる。
【0036】
更に、他の層として、例えば、粘着剤層33との界面強度を向上する界面強度向上層、粘着剤層33の表面への低分子量成分の移行を抑制する移行防止層、保護フィルム30の帯電を防止する帯電防止層等が挙げられる。
上述した他の層は、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0037】
[2]半導体ウエハ
本発明に供される半導体ウエハは、半導体部品の製造に供されるものであり、その一面(非研削面)に回路が形成されたものであれば、材料、形状について特に限定されない。通常、半導体ウエハは、珪素(シリコン)を材料に用いて円板状に形成されている(図2参照)。
この半導体ウエハは、回路が形成された面(非研削面)とは反対側になる裏面(研削面)を研削して薄層化される。
【0038】
本発明の保護フィルムは、半導体ウエハの薄層化に係る裏面研削方法で使用される。この保護フィルムが用いられる半導体ウエハは、回路が形成された面(非研削面)の外周縁に段差を有さないものを用いることができるが、回路が形成された面(非研削面)の外周縁に段差を有するものにも好適に用いることができる。
即ち、半導体ウエハは、裏面を研削する際、非研削面を保護するべく、該非研削面に保護フィルムが貼着される。保護フィルムが貼着された半導体ウエハは、その保護フィルムが貼着された面(非研削面)側が、真空吸引等によって固定具に固定される。
半導体ウエハの非研削面に保護フィルムが貼着されて固定具に固定される際、非研削面の外周縁に段差を有する半導体ウエハは、非研削面の外周縁に段差を有さない半導体ウエハに比べて、非研削面の固定具への吸着面積が少なくなる場合がある。このように、回路が形成された面(非研削面)の外周縁に段差を有し、非研削面の固定具への吸着面積が少なくなった半導体ウエハにも、本発明の保護フィルムは、好適に用いることができる。
よって、本発明における半導体ウエハは、回路が形成された面の外周縁に段差を有することから、固定具に吸着される面(回路が形成された面)の該固定具への吸着面積が減じられた半導体ウエハともいえる。
【0039】
具体的に、半導体ウエハ10は、図2に示すように、板状に形成されている。半導体ウエハ10の非研削面11には、回路が形成されている。この半導体ウエハ10は、研削面12を研削することにより、所望の薄さに薄層化される(図6参照)。
また、本発明は、図7に示すように、DBG(Dicing Befor Griding)やSDBG(Stealth Dicing Befor Griding)における研削面12の研削に使用することもできる。
半導体ウエハ10は、面取り処理により、非研削面11又は研削面12から外側面に至る部位にそれぞれ円弧面14を有している。トリミング加工では、それら円弧面14のうち、非研削面11側の円弧面14が、切削されて除去される(図3参照)。このトリミング加工された半導体ウエハ10は、非研削面11の外周縁に凹状の段差13を有している(図2参照)。
【0040】
ここで、上述のトリミング加工について説明する。
トリミング加工で使用されるトリミング装置20としては、図3に示すような、半導体ウエハ10を真空吸引により吸着するチャックテーブル21と、トリミングブレード22と、を備えるものが例示される。
トリミング加工時において、半導体ウエハ10は、研削面12がチャックテーブル21に吸着されて、該チャックテーブル21に固定されている。
トリミング加工は、半導体ウエハ10が吸着固定されたチャックテーブル21を回転させながら、半導体ウエハ10の非研削面11の外周縁にトリミングブレード22を押し当てることによって行われる。
トリミング加工された半導体ウエハ10は、トリミングブレード22によって非研削面11側の円弧面14が切削除去されることにより、非研削面11の外周縁に凹状の段差13が形成される。
【0041】
上述のトリミング加工に起因する段差13は、半導体ウエハ10の径方向における幅Wが、好ましくは1~10mm、より好ましくは2~8mm、特に好ましくは3~7mmである(図2参照)。
また、この段差13は、半導体ウエハ10の厚さ方向における高さHが、好ましくは10~100μm、より好ましくは20~80μm、特に好ましくは30~70μmである(図2参照)。
【0042】
尚、上記段差13は、上述のトリミング加工で生じたものに限定されない。トリミング加工によるもの以外に、非研削面11の外周縁に段差13を有する半導体ウエハ10として、以下構成の半導体ウエハ10が挙げられる。
図8に示す半導体ウエハ10は、非研削面11上にバンプ15が複数形成されることで、非研削面11側の外周縁に段差13が生じている。
また、特に図示しないが、上記段差を有する半導体ウエハとして、非研削面上に多層膜が形成されたウエハも挙げられる。
【0043】
上述した段差13について、幅W及び高さHは、それぞれ、中心角で10~90度間隔置きになるように選択された4ヶ所の段差の実測幅及び実測高さの平均値であるものとする。
また、本発明において、半導体ウエハ10が有する段差13には、トリミング加工に起因する段差と、更にバンプや多層膜の形成に起因する段差とを含むものとする。
具体的に、バンプや多層膜の形成に起因する段差13は、外周縁から半導体ウエハ10の径方向における幅Wが1~30mmの範囲内において、高低差(半導体ウエハ10の厚さ方向における高さH)が10~300μmのもの、ということができる(図8参照)。
【0044】
本発明の保護フィルムを活用する半導体ウエハ10は、どのようなものであってもよい。この半導体ウエハ10として、特にチャックテーブル等の固定具に対する吸着面積が減じられたウエハが、有用である。
吸着面積が減じられた半導体ウエハ10として、特に、トリミング加工されたウエハが挙げられる。このトリミング加工された半導体ウエハ10は、非研削面11の外周縁がトリミングされ(切り掛かれ)、段差13が設けられたことにより、固定具41(チャックテーブル等)に対する吸着面積が減じられている。
ここで、上記「吸着面積」とは、固定具41による吸着力を作用させることができる面積を示す。
【0045】
詳しくは、トリミング加工された半導体ウエハ10は、非研削面11の外周縁が凹状に切り掛かれることによって形成された段差13を有している。この半導体ウエハ10の非研削面11において、段差13と段差13以外の部分とは、固定具41に対して同一面上で接触することはない。このため、固定具41による吸着力は、段差13において作用し難い又は作用しなくなっている。
ここで、半導体ウエハ10の非研削面11における実際の吸着面積ar1は、半導体ウエハ10の平面積ar2から、段差13に該当する部分の平面積を除いた値とする(図2参照)。
つまり、非研削面11の外周縁に段差13を有する半導体ウエハ10は、平面積ar2よりも小さな吸着面積ar1に対してのみ、固定具41の吸着力が作用する状態となっている。
換言すると、半導体ウエハ10は、非研削面11の外周縁に段差13を有することによって、非研削面11の固定具41に対する吸着面積ar1が、半導体ウエハ10(非研削面11)の平面積ar2から減じられた半導体ウエハといえる。
【0046】
[3]裏面研削方法
本発明の半導体ウエハの裏面研削方法は、貼着工程と、吸着工程と、研削工程と、を備える。
貼着工程は、半導体ウエハの回路が形成された面に保護フィルムを貼着する工程である。
吸着工程は、半導体ウエハと、該半導体ウエハを吸着する固定具と、の間に、保護フィルムを介在させて、該保護フィルムを介して半導体ウエハを固定具に吸着する工程である。
研削工程は、保護フィルムを介して半導体ウエハを固定具に吸着した状態で、該半導体ウエハの裏面を研削する工程である。
保護フィルムは、粘着剤層と、基材層と、補助層と、を有している。
粘着剤層は、半導体ウエハに貼着される層である。
補助層は、固定具に接触される層である。
本発明における半導体ウエハは、回路が形成された面の外周縁に段差を有する半導体ウエハである。このような形状の半導体ウエハは、外周縁に段差を有するため、裏面を研削する際、外周縁に段差を有さない半導体ウエハに比べて、固定具に吸着される面(回路が形成された面であり、保護フィルムが貼着される面)の該固定具への吸着面積が少なくなる場合がある。
よって、本発明における半導体ウエハは、回路が形成された面の外周縁に段差を有することから、固定具に吸着される面(回路が形成された面)の該固定具への吸着面積が減じられた半導体ウエハである。
【0047】
具体的に、裏面研削方法は、上記半導体ウエハ10の裏面を研削することにより、該半導体ウエハ10を薄層化するための方法である。
この裏面研削方法は、図5及び図6に示すような、半導体ウエハ10を吸着して固定する固定具41と、半導体ウエハ10の研削面12を研削する研削具42と、を備える加工装置40を使用して行われる。
また、裏面研削方法では、半導体ウエハ10の裏面を研削する際、非研削面11に形成された回路を保護するため、上記保護フィルム30が使用される。
この保護フィルム30は、上述したように、基材層31と、補助層32と、粘着剤層33と、を有している。
そして、半導体ウエハ10は、上述したように、非研削面11(回路が形成された面)の外周縁に段差13を有しており、固定具41に対する非研削面11の吸着面積が減じられている。
以下、貼着工程、吸着工程、及び研削工程の各工程について説明する。
【0048】
(1)貼着工程
貼着工程は、上述の保護フィルム30を半導体ウエハ10に貼着することを目的とする工程である。
図4に示すように、貼着工程において、保護フィルム30は、半導体ウエハ10の非研削面11に貼着される。
貼着工程において、保護フィルム30は、半導体ウエハ10の非研削面11の凹凸形状、特に外周部の段差13を覆うようにして、該半導体ウエハ10の非研削面11に貼着される。
さらにまた、保護フィルム30と、半導体ウエハ10の非研削面11と、の間には、接着剤層等の樹脂を介在させることができる。この場合、介在させた樹脂により、半導体ウエハ10の非研削面11を、より確実に保護することができる。
尚、貼着工程では、保護フィルム30を半導体ウエハ10に貼着するための方法及び装置について、特に限定されない。該方法及び該装置には、既存のものを使用することができる。
【0049】
(2)吸着工程
吸着工程は、上述の保護フィルム30が貼着された半導体ウエハ10を固定具41に吸着することを目的とする工程である。
この吸着工程によって、半導体ウエハ10の非研削面11と、半導体ウエハ10を吸着する固定具41と、の間に、保護フィルム30が介在されて、該保護フィルム30を介して該半導体ウエハ10が固定具41に吸着される。
【0050】
具体的には、図5に示すように、上記貼着工程で保護フィルム30が貼着された半導体ウエハ10は、非研削面11が固定具41側を向くようにして、固定具41に吸着される。
この吸着工程における保護フィルム30の補助層32において、固定具41側の表層部分は、固定具41の表面形状に倣って弾性変形する。
つまり、保護フィルム30の補助層32は、非研削面11の表面形状に影響されることなく、特に、段差13のばらつき等に影響されて不確定になる吸着面積ar1と関わりなく、固定具41に対する吸着面積ar3を、固定具41の表面の面積ar4と略同じサイズに保持するように、弾性変形する。
【0051】
換言すると、保護フィルム30は、弾性変形可能な補助層32を有することにより、段差13等といった半導体ウエハ10の表面形状に影響されることなく、固定具41に対して確実に吸着される吸着面積ar3を保持することができる。
このため、半導体ウエハ10は、保護フィルム30が補助層32を有することにより、段差13に起因した吸着不良の発生を抑制される。
よって、本発明の保護フィルム30は、トリミング加工で生じた段差13を有する半導体ウエハ10の裏面研削方法で、特に有用なものとなる。
【0052】
(3)研削工程
研削工程は、半導体ウエハ10の研削面12を研削することにより、該半導体ウエハ10を薄層化することを目的とする工程である。
図6に示すように、研削工程において、半導体ウエハ10は、上述の吸着工程で固定具41に吸着された状態を保ちつつ、その研削面12に研削具42が当接される。
加工装置40において、研削具42は、半導体ウエハ10の厚さ方向に伸びる軸心を回転中心として、回転自在に構成されているとともに、半導体ウエハ10の厚さ方向に移動自在に構成されている。また、加工装置40において、固定具41は、その中心を軸心として、回転自在に構成されている。
そして、研削具42及び固定具41がそれぞれ回転されつつ、研削具42が移動することによって研削面12に研削具42が当接された状態が保たれることにより、該研削面12が研削されて、半導体ウエハ10が薄層化される。
【0053】
また、本発明は、DBGやSDBGの裏面研削で使用することもできる。
即ち、図7に示すように、DBGやSDBGにおいて、半導体ウエハ10は、非研削面11に、DBGであれば複数のハーフカット部17、SDBGであれば複数の改質層17を有している。
この半導体ウエハ10は、加工工程で研削面12が研削されて薄層化されるとともに、各ハーフカット部17又は各改質層17で複数のチップ10Aに分離して個片化される。
【実施例
【0054】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
[保護フィルム]
保護フィルム30として、12インチ用のものを使用した。
保護フィルム30の構成、基材層31、補助層32は、以下の通りである。
(1)基材層31
材質:ポリエチレンテレフタレートフィルム、E’31(25):4726MPa、E’31(35):4581MPa。
厚さ:50μm。
(2)粘着剤層33
材質:紫外線硬化型アクリル系粘着剤
厚さ:20μm。
(3)補助層32
〈実施例1〉
材質:エチレン酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニルの含量:19%)、E’32(25):21MPa、E’32(35):17MPa。
厚さ:120μm。
〈実施例2〉
材質:エチレン酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニルの含量:9%)、E’32(25):40MPa、E’32(35):34MPa。
厚さ:120μm。
〈実施例3〉
材質:エチレン酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニルの含量:9%)、E’32(25):40MPa、E’32(35):34MPa。
厚さ:160μm。
〈比較例1〉
補助層32を設けなかった。
【0055】
[半導体ウエハ]
回路が設けられた半導体ウエハ10として、以下のものを用いた。
(1)諸元
直径:300mm。
厚さ:810μm。
材質:珪素(シリコン)。
(2)段差13
幅Wを5mm、高さHを50μmに設定して、トリミング加工を行い、段差13を形成した(図2参照)。
【0056】
[裏面研削方法]
(1)貼着工程
テープ貼着機(日東精機製の品番「DR-3000II」)を用意し、半導体ウエハ10の非研削面11に、保護フィルム30を貼着し、余剰部分を切除して、実施例1~3及び比較例1の試料を得た。
【0057】
(2)吸着工程
加工装置(ディスコ社製の品番「DGP8760」)を用意し、実施例1~3及び比較例1の各試料を固定具41に吸着させ、吸着不良の有無を観測した。
この観測については、各試料をそれぞれ3回、固定具41に吸着させ、吸着不良の発生回数を測定することとした。
観測の結果、実施例1~3は、吸着不良が全く発生しなかった。
一方、比較例1は、3回の吸着全てで吸着不良が発生した。
上記の結果から、補助層32を有する保護フィルム30によって、吸着不良を防止できることが示された。
【0058】
(3)研削工程
上記(2)の吸着工程で、吸着不良が全く発生しなかった。実施例1~3について、上記の加工装置を使用し、研削工程を実施した。
この研削工程については、各試料をそれぞれ3枚、裏面研削し、ウエハ割れ等の不良の発生数を測定することとした。
その結果、実施例1~3は、ウエハ割れ等の不良が発生しなかった。
上記の結果から、補助層32を有する保護フィルム30によって、研削工程時のウエハ割れ等の不良の発生を防止できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の保護フィルムは、半導体部品製造の用途において広く用いられる。特に、外周縁に段差が生じた半導体ウエハにおいて、固定具への吸着不良を好適に抑制できる特性を有するため、生産性に優れた部品製造を行うために好適に利用される。
【符号の説明】
【0060】
10;半導体ウエハ、
11;非研削面(回路が形成された面)、
12;研削面、
13;段差、
14;円弧面、
15;バンプ、
17;ハーフカット部又は改質層
20;トリミング装置、
21;チャックテーブル、
22;トリミングブレード、
30;保護フィルム、
31;基材層、
32;補助層、
33;粘着剤層、
40;加工装置、
41;固定具、
42;研削具。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9