(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】高角度液体電子断層撮影のためのデバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20241120BHJP
【FI】
G01N23/046
(21)【出願番号】P 2022538287
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 EP2020087220
(87)【国際公開番号】W WO2021123305
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-12-05
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522244654
【氏名又は名称】ウニベルシダッド レイ フアン カルロス
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD REY JUAN CARLOS
(73)【特許権者】
【識別番号】522244665
【氏名又は名称】ナノメガス エスピーアールエル
【氏名又は名称原語表記】NANOMEGAS SPRL
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カサブランカ、 イエス ゴンザレス
(72)【発明者】
【氏名】ニコロポウロス, スタブロス
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-103387(JP,A)
【文献】特表2013-535795(JP,A)
【文献】国際公開第2015/134575(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/046
H01J 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過電子線機器において液体媒体中の試料から高角度傾斜断層撮影データを取得するための方法であって、
液体セルデバイスの液体アクセス可能容積内に液体媒体中の前記試料を導入することであって、前記液体セルデバイスは、
対向する第1および第2の本体表面(102、103)と、前記第1および第2の本体表面間に視線(105)を提供し、開口部(104)を通る前記視線(105)に沿って平行に投影される視認可能領域(111)を確立する開口部(104)とを備える本体(101)と、
前記本体(101)によって囲まれ、少なくとも部分的に前記開口部(104)内に含まれる液体アクセス可能容積(106)であって、前記液体セルデバイスの実質的に垂直な回転軸(108)と前記視線との交点(107)を含む、液体アクセス可能容積と、
前記回転軸(108)から実質的に等距離に配置され、それらの共通の表面法線に沿って見たときに少なくとも実質的に重なって、それらの共通の表面法線に沿って測定したギャップによって互いから離間し、各々の膜が、前記液体アクセス可能容積の少なくとも一部を囲むために前記開口部を覆って密閉するように構成された、少なくとも実質的に平面で平行な第1および第2の電子透過膜(109、110)と、を備え、
前記液体アクセス可能容積(106)の一部分を通る前記投影視認可能領域(111、211、218、219)は、前記第1および第2の膜(109、110)の前記共通の表面法線に実質的に平行に見たときには実質的に最大となり、液体セルが前記共通の表面法線に対して平行な方向から60度まで、前記回転軸を中心として回転すると、少なくとも10μm
2前後となるものであり、
前記液体セルデバイスを前記透過電子線機器内に導入することと、
前記液体アクセス可能容積内の前記試料を、前記透過電子線機器で生成された入射電子線に曝露することと、
少なくとも120度の角度範囲にわたって、前記液体セルデバイスを前記回転軸周りで傾斜させている間に前記試料からデータを取得することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記液体アクセス可能容積(106)の一部分を通る前記投影視認可能領域(111、211、218、219)は、前記液体セルが、前記第1および第2の電子透過膜(109、110)の前記共通の表面法線から70度まで、前記回転軸を中心として回転すると、少なくとも10μm
2前後となり、
少なくとも140度の角度範囲にわたって、前記液体セルデバイスをその回転軸周りで傾斜させている間に前記試料からデータを取得することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体アクセス可能容積(106)の一部分を通る前記投影視認可能領域(111、211、218、219)は、前記液体セルが、前記共通の表面法線から、それぞれ60度または70度まで、前記回転軸を中心として回転すると、少なくとも100μm
2前後となる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記データは、EDSデータ、または、回折、撮像、またはEELSデータを含む、前記試料を透過した電子から取得したデータを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
断層像再構成が前記データに適用されて、前記試料の少なくとも一部分の3次元内部構造を明らかにする、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記試料の実質的な部分が、前記データ取得中は十分な不動性を維持することを保証する前記第1および第2の電子透過膜の間のギャップを有して、信頼性の高い断層像再構成を可能とする液体セルデバイスを選択することをさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記試料は、多数の結晶を含み、前記方法は、前記多数の結晶が、少なくとも実質的にランダムな配向分布を有することを保証する第1および第2の電子透過膜の間のギャップを有する液体セルデバイスを選択することをさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
透過電子線機器において、液体媒体中の試料から高角度範囲の傾斜断層撮影データを取得するための液体セルデバイスであって、
少なくとも実質的に平面かつ平行な対向する第1および第2の本体表面(102、103)と、前記第1および第2の本体表面間に視線(105)を提供し、開口部(104)を通る前記視線(105)に沿って平行に投影される視認可能領域(111)を確立する開口部(104)とを備える本体(101)と、
前記本体(101)によって囲まれ、少なくとも部分的に前記開口部(104)内に含まれる液体アクセス可能容積(106)であって、前記液体セルデバイスの実質的に垂直な回転軸(108)と前記視線との交点(107)を含む、液体アクセス可能容積と、
前記回転軸(108)から実質的に等距離に配置され、それらの共通の表面法線に沿って見たときに少なくとも実質的に重なって、それらの共通の表面法線に沿って測定したギャップによって互いから離間している、少なくとも実質的に平面で平行な第1および第2の電子透過膜(109、110)と、を備え、
前記第1および第2の電子透過膜の前記共通の表面法線は、前記第1および第2の本体表面の表面法線に実質的に平行であり、
各々の膜は、前記開口部を覆って密閉し、前記液体アクセス可能容積の少なくとも一部を囲み、
各々の膜は、実質的に類似した形状およびサイズを有しており、液体セル回転軸に垂直な平面との交線に垂直な方向に沿って測定した幅と、前記液体セル回転軸に垂直な平面との交線に平行な方向に沿って測定した長さとを有し、前記幅は、前記長さより小さく、少なくとも実質的に長方形の窓を形成している前記液体セルデバイスであって、 前記本体は、単体として形成され、
前記液体アクセス可能容積は、前記本体の前記外側表面上の少なくとも2つの密閉可能な開口を通ってアクセス可能であり、
前記少なくとも実質的に長方形の窓の幅は、10μm前後から90μm前後の間であり、
前記少なくとも実質的に長方形の窓の長さは、300μm前後から2000μm前後の間であり、
前記本体対向第1および第2の表面(102、103)は、100μm前後から200μm前後の間だけそれらの共通の表面法線に沿って離間しており、
前記窓のギャップは、5000ナノメートル前後より小さい、ことを特徴とする、液体セルデバイス。
【請求項9】
前記液体アクセス可能容積(106)の一部分を通る前記投影視認可能領域(111、211、218、219)は、前記液体セルが、前記共通の表面法線から、60度または70度まで、回転軸を中心として回転すると、少なくとも100μm
2前後となる、請求項8に記載の液体セルデバイス。
【請求項10】
前記液体セルデバイスの前記回転軸は、前記第1および第2の本体表面から実質的に等距離にある、請求項8または9に記載の液体セルデバイス。
【請求項11】
前記第1および第2の本体表面の前記開口部は、等しい大きさで、等角である、内側に傾斜した平面壁からなる対称的なプロファイルを有する、請求項10に記載のセルデバイス。
【請求項12】
前記第1の窓と直交して交差するように配置された第2の実質的に長方形の窓をさらに備える、請求項8~11のいずれかに記載の液体セルデバイス。
【請求項13】
前記第1の長手の窓と平行且つ隣接して配置された第2の実質的に長方形の窓をさらに備える、請求項8~12のいずれかに記載の液体セルデバイス。
【請求項14】
基準窓をさらに備える、請求項8~13のいずれかに記載の液体セルデバイス。
【請求項15】
少なくとも実質的に平面で平行に対向する第1および第2の本体表面を含む前記本体は、シリコンで構成されている、請求項8から14のいずれかに記載の液体セルデバイス。
【請求項16】
前記液体セルデバイスは、請求項8~15のいずれかに記載のものである、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、透過電子線機器を使用した液体媒体中の試料の調査に関し、特に、当該機器において当該試料から断層撮影データを得るためのデバイスおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子線断層撮影では、本質的に2次元のデータを取得し、数学的に再構成して試料の3次元内部構造および組成を明らかにする。
【0003】
特に、所謂「傾斜断層撮影」では、透過電子線機器内の試料から、一連の本質的に2次元のデータセットを、試料の傾斜を変えながら取得し、数学的モデルを再構成してその試料の3次元内部構造を明らかにする。
【0004】
傾斜断層撮影では、傾斜軸に平行な再構成数学的モデルの分解能は、2次元のデータセットの分解能によってのみ制限されるが、傾斜軸に垂直、すなわち、電子線機器の光軸に沿った分解能は、主に、データ取得間の試料の傾斜間隔のサイズと、データが取得される全試料傾斜範囲によって制限される。特に、信頼性の高い傾斜断層撮影は、全傾斜範囲が少なくとも120度必要であることがわかっている。例えば、M.クドリャショフ(M. Kudryashev)著、第10章第3節、細胞イメージングにおける断層像再構成の分解能:電子断層撮影およびそれに関連する技術(シュプリンガー誌2018年);P.A:ペンクゼック(P.A:Penczek)およびJ.フランク(J. Frank)著第9章第4節、細胞内の構造を3次元で可視化するための電子線断層撮影方法における断層像再構成において、フーリエ情報の欠落が分解能に与える影響(シュプリンガー誌2005年、第2版)を参照のこと。
【0005】
断層像再構成には、特定のタイプの透過電子線機器/採用した動作モードにより取得され、例えば、撮像または回折モードで動作する透過電子顕微鏡(TEM)または走査型透過電子顕微鏡(STEM)、または専用電子回折計(ED)など、および特定のタイプのデータおよびデータ取得モード、例えば、エネルギー分散型X線(EDX)検出器を使用したX線分光データ、電子エネルギー損失分光計(EELS)を使用したエネルギー損失データ、異なる電子検出器構成を使用した回折または撮像データ、電子バイプリズムまたは他のホログラフィック機能を使用したホログラフィックデータなど、異なるタイプのデータを使用してもよい。従って、適切に装備され、操作される機器で行われる傾斜断層撮影を含む透過電子線断層撮影は、化学的組成、化学的結合状態、電場および磁場などを含む、内部の3次元の微細な原子レベルの構造についての情報を明らかにすることができる。例えば、シュプリンガー誌の顕微鏡検査のハンドブック(シュプリンガー誌2019年)R.K.リアリ(R.K.Leary)およびP.A.ミッドグレイ(P.A. Midgley)著第26章、材料科学における電子断層撮影、1279~1329頁を参照されたい。
【0006】
従来の透過電子線機器の高真空環境は、固体で真空に安定した試料のみの調査が可能である。その結果、透過電子線機器においては、液体媒体中に自然に存在する試料、特に生体試料の断層撮影の調査を含むほとんどの調査が、多くの場合、複雑で時間がかかる試料作製工程、例えば、脱水、固定、染色などを必要とし、試料作製のアーチファクトが導入されやすいという問題があった。
【0007】
ナノ粒子を含む液体試料の脱水を容易にするためのデバイスが開発されている。このようなデバイスを使用して、液体媒体中のナノ粒子、例えば、血液中の血球が毛細管現象により一対の電子透過膜の間に導入され、蒸発によって液体媒体は除去されて、例えば、血球などのナノ粒子を電子透過膜で支持された状態で残し、そのデバイスを従来の電子線機器に搭載する。例えば、米国特許出願第20150194288A1(国立衛生研究所およびマテリアル・アナリシス・テクノロジー(US)株式会社)参照のこと。
【0008】
液体媒体中に自然に存在する試料の他の調査は、データ取得の間、試料を迅速に冷却して液体窒素に近い温度で固相に維持する、所謂、クライオマイクロスコピーに依存していた。クライオマイクロスコピーは、特別に適合した設備が必要であり、実装するには必然的に複雑で高価となる。
【0009】
液体媒体中の生体および非生体試料の調査の中には、透過電子線機器におけるデータ取得中、試料が液体媒体の中に維持される、所謂液体セルデバイスで行われて来たものもある。「オープン型」液体セルデバイス(例えば、米国特許出願第20120120226A1(ヴァンダービルト大学)参照)は、データ取得中、液体を循環させることが可能であり、また任意で、データ取得中、電気化学処理を施すことが可能である。オープン型液体セルデバイスは、従来の透過電子線機器と共に使用することができるが、特別に適合された試料ホルダ(標本ホルダとも称する)を必要とする。一方、「クローズ型」液体セルデバイスは、対象の試料を含む液体媒体を充填し、密閉して、標準的な試料ホルダを使用して従来の透過電子線機器に導入することができる。例えば、米国特許第7,807,979号(国立清華大学2010年)参照のこと。
【0010】
透過機器において電子線断層撮影が広く、長年使用され、液体セルデバイスが透過電子線機器においてますます普及しているにもかかわらず、液体媒体中の試料の、傾斜断層撮影を含む透過電子線断層撮影はほとんど行われず、限られた成功しか収めていない。
【0011】
例えば、マルチェロ(Marchello)他による、ブラウン単一粒子分析によるフェリチンの4D液相電子顕微鏡法(コーネル大学ライブラリ(2019年7月7日))には、液体媒体中で並進および回転ブラウン運動をする単一粒子を、液体セルデバイスを傾斜させることなく順次撮像する技術が記載されている。その結果、その粒子の異なる方位から得たTEM画像を数学的に結合して粒子の構造を3Dで表現する。例えば、
図1を参照のこと。 ディアナリー(Dearnaley)他、ナノレター第19巻10号、6734~6741頁(2019年)は、傾斜が全角度範囲でわずか90°(または±45°)に過ぎないクローズ型液体セルデバイス内の液体媒体内の試料のTEM画像の取得について説明している。この液体セルデバイスは、プラスチックフィルムでコーティングされたCuグリッド上で定位置に固定された窒化シリコン(SiN)膜を含むシリコンチップで特別に構築され、液体媒体中の生体試料を支持する。この配列を利用して、宿主の細菌に付着したバクテリオファージの画像を取得し、断層像再構成を用いてその内部の3次元構造を明らかにしている。6735頁右欄から6736頁左欄参照のこと。ただし、距離分解能には本質的に限界がある。
【0012】
カラクリナ(Karakulina)他がナノレター第18巻10号の6286~6291頁(2018年)で、電極と一対の電子透過性SiN膜を備えた市販のオープン型液体セルデバイス内の有機電解質中に浸漬したLiFePO4粒子から、全有効傾斜範囲が60°にわたってTEM回折データを取得することについて記載している。しかし、恐らくは、ブラウン運動によるデータ取得中のLiFePO4粒子の運動と有機電解質の変位に起因すると思われる取得回折データの劣化により、有効液体セルデバイス/試料の全傾斜範囲がわずか35°まで減少した。6287頁の右欄から6288頁の左欄を参照のこと。カラクリナ他の液体セルデバイスを使用して取得した画像データは、すべて、全有効傾斜範囲がわずか60°(または±30°)であることから、信頼性の高い断層像再構成には不十分であると考えられる。
【0013】
台湾のビオ・マーテック社は、本明細書では、商品名「Kキット」と称する、毛細管現象によって液体媒体を間に導入可能な100~5000nmの一定のギャップによって離間された一対の平行電子透過性SiN膜を支持するシリコン体を備えるクローズ型液体セルデバイスを提供している。これは、上述した米国特許出願第20150194288 A1の血液試料の脱水および検査のための、Kキットと同様であり、また、同じく上述した米国特許第7,807,979号に記載の液体媒体中の試料の観察のための、液体セルデバイスと同様である。例えば、http://www.bioma-tek.com/bioma-tek/en/technology.php?act=view&no=30を参照のこと。しかしながら、Kキットは、本質的に全試料傾斜範囲がわずか80°(または±40°)前後に限定されるため、Kキット液体セルデバイスから取得した撮像データに基づく3次元の数学的再構成は、いずれも、その信頼性が低くなる。
【0014】
米国特許出願第20120120226 A1では、提供される全試料傾斜範囲がわずか70°(または±35°)前後の別のオープン型液体セルデバイスを記載しており、この出願人自身が、許容できないほど低い距離分解能の断層撮影データしか生成できないことを認めている(パラグラフ[00176]参照)。米国特許出願第20120120226 A1は、代わりに、液体媒体中の生体試料から断層撮影傾斜データを取得する手段として、迅速な試料傾斜を伴う高速データ取得を提案している(同上)。120°(または±60°)まで、またはそれを越えるだけの高角度範囲にわたって試料が傾斜している間にデータ取得が可能なカスタムメイドまたは市販のクローズ型またはオープン型の液体セルデバイスについては報告されていない。
【0015】
透過電子線機器内の液体媒体中の試料から信頼性の高い、120°より大きい全角度傾斜範囲にわたる高角度傾斜断層撮影データを得るためのデバイスおよび方法を開発することは有益となるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、透過電子線機器において高角度断層撮影データを取得するために、液体媒体中の試料を作製するためのデバイスおよび方法を提供することである。
【0017】
本発明の目的は、高角度、すなわち、120度を越える全傾斜範囲にわたる断層撮影データを透過電子線機器内の液体媒体中の試料から取得するためのデバイスおよび方法を提供することにある。
【0018】
本発明のさらなる目的は、従来技術に変わる選択肢を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
したがって、上記の目的および他の幾つかの目的は、本発明の第1の態様において、高角度範囲の断層撮影データを透過電子線機器内の液体媒体中の試料から取得するための液体セルデバイスを提供することによって達成できることを意図したものであり、液体セルデバイスは、対向する第1および第2の本体表面と、その第1および第2の本体表面の間に視線を提供する開口部とを備えた本体と、本体によって囲まれ、少なくとも部分的にその開口部の中に含まれている液体アクセス可能容積と、を含む。液体アクセス可能容積は、視線と液体セルデバイスの実質的に垂直な回転軸との間の交点を含み、回転軸から実質的に等距離に配置された、実質的に平行な第1および第2の電子透過膜を有し、各々の膜は、開口部を覆って、液体セルデバイスの外表面の一部を形成する外表面と、液体アクセス可能容積に当接する、対向する内表面を有する。
【0020】
本発明の第1の態様に係るデバイスは、第1および第2の膜、第1および第2の本体表面、および開口部は、液体セルデバイスが、少なくとも120度の角度範囲内で回転軸周りを回転する間、液体アクセス可能容積の一部を通る視線が、少なくとも10μm2の投影視認可能領域上に維持され、視認可能領域が、実質的に角度範囲の中点において最大となるとともに、角度範囲の端点において最小となるように構成されていることをさらに特徴とする。
【0021】
液体セルデバイスとは、透過電子線機器において、液体媒体中の試料を真空環境から隔離し、データを試料から取得することができるオープン型またはクローズ型のセルを意味する。
【0022】
液体媒体中の試料は、液体媒体中に浸漬された試料(単数または複数)と、液体媒体中に懸濁液を形成している試料(単数または複数)とを含む。
【0023】
高角度範囲とは、少なくとも120度の角度範囲を意味する。
【0024】
電子線機器とは、電子線を試料に照射し、その結果、相互作用データを得ることができる任意の機器を意味し、TEM、STEM、電子回折計などが含まれる。STEMには、STEMモードで動作するTEMも含まれる。 このような機器は、通常60kV以上、典型的には100~300kV、場合によっては1MV前後の高い電圧で作動する。
【0025】
断層撮影データとは、透過電子線機器において、試料の内部構造を明らかにするための断層像再構成に使用するために、角度範囲にわたって異なる試料回転(本明細書では試料傾斜とも呼ぶ)で取得できる任意のデータを意味する。
【0026】
高角度範囲または高角度断層撮影データとは、少なくとも120度の角度範囲にわたって取得された断層撮影データを意味する。
【0027】
データとは、透過電子線機器において試料から取得できるあらゆるタイプのデータを意味し、回折データ、撮像データなど、明視野、暗視野を問わず、並行して取得されるデータ、または、エネルギー分散型X線検出器、電子エネルギー損失分光計、明視野または暗視野検出器などのいずれを使用して取得されたものであろうと、電子プローブが試料上を走査する際に、連続して取得されるデータが含まれる。また、電子バイプリズムや電子線ホログラフィに適した他のデバイスを用いて取得したホログラフィックデータも含まれる。
【0028】
試料とは、透過電子線機器での細菌、細胞、ウイルス、有機物、または無機物、結晶または非結晶を含む、生物学的調査に適した、あらゆる物体(単数または複数)を意味する。試料は、液体媒体中に浸漬または懸濁した多数の固体または半固体粒子から構成され、フィラメントのような任意の形状の粒子を含むことができる。試料は、ナノメートルサイズの物体や、液体セルデバイス内の液体媒体中に導入して収容できるサイズまでの任意の尺度の物体(単数または複数)を含むこともできる。
【0029】
液体媒体とは、試料を保持または懸濁させることができる任意の適切な有機または無機の液体を意味する。
【0030】
本体とは、液体媒体を機器の真空から隔離する膜を包含する液体セルデバイスの本体を意味する。本体は必ずしも一体に形成されている必要はなく、異なる2つの部分に分離可能であってもよく、その部分を分離したときに電子透過膜の間に液体媒体を導入することができる。
【0031】
対向する第1および第2の本体表面とは、本体の反対側にある表面を意味する。
【0032】
第1および第2の本体表面の間に視線を供給する開口部とは、開口部壁による放射線の反射がないと仮定し、膜または膜の間の液体媒体/試料による、あらゆる可能な放射線の吸収/屈折をも差し引いて、可視光の概念的光線のような、第1の本体表面に入射する、直線的に伝搬する概念的平行光線の領域の少なくとも一部が開口部を通過し、第2の本体表面から出る開口部を意味する。
【0033】
液体アクセス可能容積とは、試料を含む液体媒体を導入することができる物理的な空間または領域のことである。液体アクセス可能容積は、液体セルデバイスの外部の空間から隔離されるように密閉可能であってもよいし、高角度範囲断層撮影データの取得中に液体セルデバイスの外部にある液体媒体が液体アクセス可能容積を通って循環されることを許容してもよい。この容積は、本体の外表面に設けられた開口(単数または複数)につながるチャネル(単数または複数)を介して毛細管現象により液体にアクセスすることができ、または本体を2つ以上の部分に一時的に分離するなどの他の手段によりアクセスすることができる。
【0034】
本体によって囲まれた液体アクセス可能容積とは、本体によって囲まれ、支持されているが、完全に囲まれていない液体アクセス可能容積を意味し、液体アクセス可能容積の少なくとも一部分は、自立した、本明細書では電子透過膜とも呼ばれる第1および第2の膜によって境界が定められており、液体アクセス可能容積は、本体の外表面の開口(単数または複数)につながるチャネル(単数または複数)によって本体の外部に接続されていてもよい。
【0035】
開口部内に少なくとも部分的に含まれるとは、液体アクセス可能容積が、開口部を超えて、1本以上のチャネルを通って、本体表面の1つ以上の開口まで、本体の内部まで延びていてもよいことを意味する。
【0036】
視線と実質的に垂直な回転軸の交点を含むとは、当該交点がその容積内に存在することを意味する。
【0037】
回転軸とは、例えば、標本ホルダに取り付けられ、透過電子線機器に搭載されると、液体セルデバイスが、その周りで回転できる(本明細書では傾斜できるとも称する)軸を意味する。回転軸は、必ずしも液体セルデバイスの質量中心と交差している必要はない。
【0038】
電子透過膜とは、透過電子線機器で通常使用される電圧範囲、60kVから300kV、機器によっては1MVまで加速された電子に対して十分な透過性を持ち、高角度断層撮影データの収集が可能な膜を意味する。十分な電子透過性は、機器の動作電圧や入射電子エネルギーに応じてだけでなく、機器の構成、取得するデータのタイプ、特定の液体媒体や試料の特定の調査の要件によって作り上げられている。特定の膜の電子透過性の度合いは、その膜を構成する材質や厚さによって異なる。例えば、多くの断層撮影用途に適した電子透過膜は、SiNで構成され、30nm前後、または10~50nmの厚さを有していてもよい。
【0039】
外表面および対向する内表面を有する膜とは、少なくとも、その端部で支持された自立部分、または電子透過性部分を含む膜を意味する。
【0040】
少なくとも実質的に平面であるとは、少なくとも電子透過膜の内表面および外表面で圧力が等しくなったときに、少なくとも実質的に平面であることを意味する。
【0041】
膜の自立部分、または電子透過性部分は、外表面または内表面が開口部壁または本体表面に当接しているまたは固定されているか、または本体自体の内部まで延びている膜材料の領域によって境界が定められており、開口部壁または本体表面に当接しているまたは固定されている、または本体の内部まで延びている箇所では、少なくとも実質的に平面でなくてもよい。一方、膜の自立部分、または電子透過性部分、すなわち、液体セルデバイスの外表面の部分を形成する外表面および液体アクセス可能容積に当接する対向する内表面を有する膜の部分は、少なくとも実質的に平面のままである。
【0042】
液体セルデバイスの外表面の一部を形成する外表面と、液体アクセス可能容積に当接する対向する内表面を覆う、および有するとは、各電子透過膜が、開口部幅全体を覆って液体が開口部を通るのを防いでおり、それにより、第1および第2の電子透過膜は、必要に応じてセルが密閉され、透過電子線機器に搭載されると、協働して、液体アクセス可能容積を当該機器の真空環境から隔離するようになっていることを意味する。
【0043】
構成されるとは、互いに相対的なサイズ、形状、および配置を意味する。
【0044】
投影視認可能領域とは、液体アクセス可能容積の少なくとも一部を通る視線に沿って平行に投影された、すなわち拡大されない領域を意味する。ここでいう投影とは、上記のように直線的に伝搬する概念的平行光線によって形成されるものであり、大幅に拡大される場合もあるような、透過電子線機器で実際に投影される領域ではない。
【0045】
投影視認可能領域が少なくとも10μm2の投影視認可能領域上に維持されるとは、液体セルが少なくとも120度の角度範囲内で回転軸を中心に回転している間、投影視認可能領域が10μm2上に維持されることを意味する。
【0046】
液体セルデバイスが少なくとも120度の角度範囲内で回転軸を中心に回転している間、少なくとも10μm2の投影視認可能領域上に維持することができる液体セルデバイスを提供することの利点は、液体アクセス可能容積内の液体媒体に導入可能な試料の典型的なサイズを念頭に置いて、当該デバイスが、液体媒体中の試料の代表的および/または統計的に有意な領域上で高角度範囲の断層撮影データを取得することができる点である。
【0047】
投影視認可能領域が角度範囲の中点で実質的に最大となるとは、角度範囲の中点が、液体アクセス可能容積と交差する視線の長さが最小となる方位に近いということを意味する。第1および第2の電子透過膜が平行に配置されていれば、最大投影視認可能領域は、第1および第2の膜の表面法線に沿った視線に対応する。また、角度範囲が第1および第2の膜の表面法線に対して対称に配置されていれば、角度範囲の端点における視認可能領域の極小値は等しくすることができる。
【0048】
高角度範囲にわたる断層撮影データを取得する液体セルデバイスを提供する利点には、
サンプリングを行う逆格子空間の割合が増加した結果、液体セルデバイスが単斜晶相または他の低対称性結晶相などのような低対称性構造の回折によって、信頼性の高い構造決定を得るのに適していることと、一般に、このような高角度範囲データに基づいて、3次元数学的再構成の精度および信頼性が向上し、数学的再構成が実際の試料内部構造により密接に対応するようになることが含まれる。このような液体セルデバイスから得られる高角度範囲データに基づく数学的再構成は、投影アーチファクトをより効果的に克服することが可能である。
【0049】
本発明の別の態様では、角度範囲が、少なくとも140度である。
【0050】
少なくとも140度の角度範囲で断層撮影データを取得するのに適した液体セルデバイスを提供する利点は、断層像再構成による試料の内部構造を変化させる能力が向上することである。
【0051】
本発明の別の態様では、維持された投影視認可能領域は、少なくとも100μm2である。
【0052】
液体セルデバイスが少なくとも120度、または少なくとも140度の角度範囲内で回転軸を中心に回転している間、少なくとも100μm2の投影視認可能領域上に維持することができる液体セルデバイスを提供することの利点は、液体アクセス可能容積内の液体媒体に導入可能な試料の典型的なサイズを念頭に置いて、液体媒体中の試料の代表的および/または統計的に有意な領域上で高角度範囲の断層撮影データを取得するのに適している点である。
【0053】
本発明の別の態様では、第1および第2の電子透過膜は、少なくとも互いに対して実質的に平行であり、少なくとも実質的に類似した形状およびサイズであり、それらの共通の表面法線に沿って見たときに、それらの共通の表面法線に沿って測定したギャップによって互いから離間するようにして、少なくとも実質的に重なっている。
【0054】
少なくとも互いに実質的に平行とは、平行に近い、または平行であることを意味する。
【0055】
少なくとも実質的に類似した形状およびサイズであるとは、近いまたは同じ形状およびサイズを有する電子透過膜を意味する。
【0056】
それらの共通の表面法線に沿って見たときに、それらの共通の表面法線に沿って測定したギャップによって互いから離間するようにして、少なくとも実質的に重なっている電子透過膜とは、それらの内部表面が均一な距離だけギャップによって離間され、それぞれの電子透過膜内部表面の実体のない部分のみが他の膜の内部表面の部分に対面しないように整列されている電子透過膜を意味する。
【0057】
本発明の別の態様では、第1および第2の電子透過膜は、液体セルデバイスの回転軸に垂直な平面との交線に垂直な方向に沿って測定した幅と、液体セルデバイスの回転軸に垂直な平面との交線に平行な方向に沿って測定した長さとを有し、幅は、長さより小さい。
【0058】
幅と長さを有する電子透過膜とは、少なくとも実質的に長方形の形状を有する電子透過膜を意味し、長方形の電子透過膜または長方形内に実質的に限定されている電子透過膜を含み、例えば、1つ以上の角が丸くなった電子透過膜や1つ以上の内向きまたは外向きに反った側面を有する電子透過膜が含まれる。
【0059】
液体セルデバイスの回転軸に垂直な平面との交線に平行な方向に沿って測定した第1および第2の電子透過膜の長さがその幅よりも大きいことの利点は、所与の電子透過膜面積に対して、液体セルデバイスをその回転軸に対してより高角度に傾けても、十分に大きな投影視認可能領域を維持できることである。
【0060】
液体セルデバイスの回転軸に垂直な平面との交点に平行な方向に沿って測定した第1および第2の電子透過膜の長さがそれらの幅よりも大きいことの別の利点は、所与の電子透過膜領域に対して、電子透過膜幅が対応して減少すれば、試料を含む液体媒体と透過電子線機器の真空環境との圧力差によって生じる電子透過膜の過度な外方への膨らみを十分低減でき、試料を含むほぼ均一な厚さの液体媒体を提供できるということである。
【0061】
試料を含むほぼ均一な厚さの液体媒体を提供する液体セルデバイスの利点には、使用可能な高角度範囲の断層撮影データを取得する能力が向上すると、第1および第2の膜の間のギャップを、高い信頼性で選択することができる点が挙げられる。
【0062】
本発明の別の態様では、第1および第2の電子透過膜は、それらと液体セルデバイスの回転軸に垂直な平面との交点に垂直な方向に沿って測定した、90μm以下の幅と、液体セルデバイスの回転軸に垂直な平面とのそれらの交点に平行な方向に沿って測定した、少なくとも350μmの長さとを有する。
【0063】
幅が90μm以下、長さが少なくとも350μmとなるように整形された第1および第2の電子透過膜を有する液体セルデバイスの利点は、電子透過膜がデータ取得中の過度の膨らみを防止するのに十分に幅狭であり、かつ高角度範囲での傾斜を可能にするのに十分に長いことである。
【0064】
本発明の別の態様において、第1および第2の電子透過膜、開口部および液体アクセス可能容積は、第1および第2の膜の長さに垂直な方向に沿って延びる、対向する延長部分をさらに含む。
【0065】
このような垂直の電子透過膜の延長部分を有し、延長して交差した膜と同じ長さの、交差直交電子透過膜を形成できる液体セルデバイスの利点は、このような液体セルデバイスが、電子透過膜および直交延長部分の交差領域に位置する液体媒体中の試料の同じ部分から、直交回転軸に沿って断層撮影データを取得するのに適しているという点である。
【0066】
本発明の別の態様では、液体セルデバイスは、本体から延び、液体アクセス可能容積を液体接続する少なくとも1つの開口を含む取り外し可能な充填部分をさらに備える。
【0067】
取り外し可能な充填部分の利点は、試料を含む液体媒体で電子透過膜の外表面に望ましくない被覆を誤って施す危険なしに、液体セルデバイスを充填することができることである
【0068】
上記の目的およびいくつかの他の目的は、本発明の別の態様において、透過電子線機器における高角度断層撮影データの取得のために液体媒体中の試料を作製する方法を提供することによって得られることをさらに意図しており、この方法は、上記のように液体セルデバイスの液体アクセス可能容積に液体媒体中の試料を導入することを含んでいる。
【0069】
上記のような液体セルデバイスに試料を含む液体媒体を導入する利点としては、実質的に試料の不動性を保証する電子透過膜ギャップを選択できること、結晶試料の場合には、実質的にランダムな配向分布を保証できること、などが挙げられる。実質的な不動性により、あらゆるタイプのデータが高角度範囲の電子断層撮影に使用し易くなる一方、実質的にランダムな配向により、特に対称性の低い構造の回折分析が容易になる。
【0070】
この方法の別の態様は、液体セルデバイスを透過電子線機器に導入することと、液体アクセス可能容積内の試料を、透過電子線機器で生成された入射電子線に曝露することと、少なくとも120度の角度範囲にわたって、液体セルデバイスをその回転軸周りで回転させている間に試料からデータを取得することと、を含む。
【0071】
高角度領域で断層撮影データを取得する利点には、割合が増加した逆格子空間でのサンプリングの結果、単斜晶相または他の低対称性結晶相などのような低対称性構造の回折によって、より信頼性の高い構造決定がなされ、一般に、このような高角度範囲データに基づいて、3次元数学的再構成の精度および信頼性が向上し、数学的再構成が実際の試料内部構造により密接に対応するようになることが挙げられる。高角度範囲データに基づく数学的再構成は、投影アーチファクトをより効果的に克服することが可能である
【0072】
他の態様では、取得されるデータはX線EDSデータであるか、または試料を透過した電子から取得され、回折、撮像、EELSデータ、または光線と試料の相互作用から得られる任意の他の信号を含み、断層像再構成に使用可能である。
【0073】
具体的には、試料を透過した電子から収集されたデータは、明視野(「BF」)検出器、環状暗視野(「ADF」)検出器、またはHAADF(「高角度環状暗視野」)検出器(それぞれBF、ADFまたはHAADF検出器が収集した散乱角度の範囲に対応する二次元検出器の領域から信号を集積させることにより、BF、ADFまたはHAADF検出器として機能するように構成された、適切な配置の二次元検出器を含む)を使用して取得したデータを含むことができる。例えば、エネルギーフィルタや電子バイプリズムなどを併用し、試料を透過した電子からデータを取得することもできる。
【0074】
本方法の別の態様では、断層像再構成がデータに適用されて、試料の少なくとも一部分の3次元内部構造を明らかにする。
【0075】
本発明の別の態様では、データ取得中は、試料の実質的な部分が十分な不動性を維持することで、信頼性の高い断層像再構成を確保できるギャップを、実質的に平行な第1および第2の電子透過膜の間に有する液体セルデバイスを選択することさらに含む。
【0076】
信頼性の高い断層像再構成を可能にする、十分な不動性を維持する実質的な部分を構成するものは、特定の実験の要件、液体媒体と試料の性質、取得するデータのタイプに依存する。
【0077】
実質的に平行な第1および第2の電子透過性膜の間のギャップを有する液体セルデバイスを選択することは、単一の所与の膜ギャップを有する液体セルデバイスを選択すること、または単一の液体セルデバイスに存在する膜ギャップの範囲から単一の所与の膜ギャップを選択することを意味する。
【0078】
別の態様では、試料は、多数の結晶を含み、方法は、多様な結晶が少なくとも実質的にランダムな配向分布を持てるギャップを、実質的に平行な第1および第2の電子透過膜の間に有する液体セルデバイスを選択することをさらに含む。
【0079】
ランダムな配向分布は、より多くの逆格子空間のサンプリング量を可能とするため、対称性の低い結晶の回折分析に特に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図が、本発明を実施する異なる方法を示す限り、添付の請求項の組の範囲内にある、他の可能な実施形態を制限するものとして解釈されるべきではない。
【
図1】透過電子線機器で高角度断層撮影データを取得するための液体セルデバイスを示す概略図である。
【
図2A】透過電子線機器で高角度断層撮影データを取得するための液体セルデバイスの傾斜を示す概略図である。
【
図2B】透過電子線機器で高角度断層撮影データを取得するための液体セルデバイスの傾斜を示す概略図である。
【
図2C】透過電子線機器で高角度断層撮影データを取得するための液体セルデバイスの傾斜を示す概略図である。
【
図3】透過電子線機器で高角度断層撮影データを取得するための液体セルデバイスの製作の段階を示す概略図である。
【
図4A】透過電子線機器に搭載するために装着した高角度断層撮影データを取得するための液体セルデバイスを示す概略図である。
【
図4B】透過電子線機器に搭載するために装着した高角度断層撮影データを取得するための液体セルデバイスを示す概略図である。
【
図5A】透過電子線機器への搭載に備えて高角度断層撮影データを取得するために、液体セルデバイスへ液体媒体を導入する段階を示す概略図である。
【
図5B】透過電子線機器への搭載に備えて高角度断層撮影データを取得するために、液体セルデバイスへ液体媒体を導入する段階を示す概略図である。
【
図5C】透過電子線機器への搭載に備えて高角度断層撮影データを取得するために、液体セルデバイスへ液体媒体を導入する段階を示す概略図である。
【
図6A】透過電子線機器内の高角度断層撮影データを取得するために、概念実証用液体セルデバイスを製作する段階を示す概略図である。
【
図6B】透過電子線機器内の高角度断層撮影データを取得するために、概念実証用液体セルデバイスを製作する段階を示す概略図である。
【
図6C】透過電子線機器内の高角度断層撮影データを取得するために、概念実証用液体セルデバイスを製作する段階を示す概略図である。
【
図6D】透過電子線機器内の高角度断層撮影データを取得するために、概念実証用液体セルデバイスを製作する段階を示す概略図である。
【
図7】約140°の傾斜範囲にわたって概念実証用液体セルデバイスを使用して取得したミセラウォーターの一連のTEM画像を示す。
【
図8A】約140°の傾斜範囲にわたって概念実証用液体セルデバイスを使用して取得した水中の気泡の一連のTEM画像を示す。
【
図8B】
図8Aに示す水中の気泡の画像の断層像再構成を示す。
【
図9A】高角度断層撮影データを取得するための液体セルデバイスを示す概略図である。
【
図9B】高角度断層撮影データを取得するための液体セルデバイスを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0081】
以下では、透過電子線機器において高角度断層撮影データを取得するための液体セルデバイスを、「トモチップ」と称し、トモチップ内の液体媒体中の試料から高角度断層撮影データを取得する技術、およびそのようなデータの断層像再構成を、高角度液体電子断層撮影、またはHALETと称する。
【0082】
図1は、トモチップの実施形態を示す概略図である。本体101は、全体が矩形形状を有するように示されているが、一般的には、以下で詳細に説明するように、様々な異なる形状を有することができる。表現を容易にするために、
図1に示すサイズは、本体101のサイズも含み、視線と称する105で示す方向に沿って、拡大してある。当業者であれば、視線105に垂直な本体101の横方向サイズの上限は、透過電子線機器の標本ホルダの内寸に依存することを理解できよう。例えば、TEMおよびSTEM標本ホルダは、通常一般的に直径3mmの円盤が入るサイズであり、一方電子回折計は、より大きい試料を収容できる場合もある。TEMまたはSTEM機器の場合、本体101は、一般的に3mmのリング状または開口部状の支持体上に装着されるサイズとされ、典型的には、そのような機器では通常使用されるように、銅から作られるが、必ずしもそうでなくてもよい。対向する本体の第1および第2の表面102および103は、以下で説明する概念実証用トモチップで実証されているように、100μm前後離間してもよい。しかし、後にさらに述べるように、これらの表面の間の離間は、100μmより小さくても、大きくてもよい。
【0083】
対向する第1および第2の本体表面102および103は、長方形、平面、および平行であるように示されており、これにより、本体の製造と、支持体上への装着および電子線機器への搭載が容易になり得るが、一般的には、長方形、平面、平行の何れである必要もない。本体101は、例えば、下記に概説する「MEMS」技術を使用して製造して、外形がおよそ3mmの直径を有する円とし、それを、3mmリング状または開口部状の支持体を使用せずにTEMおよびSTEM標本ホルダに直接嵌合可能としてもよい。第1および第2の本体表面102および103の間を通る開口部104は、対称であり、第1および第2の本体表面において同じ長方形状を有し、単結晶シリコンをエッチングすることによって製造し得るような、同じサイズ、同じ角度で内方に傾斜する平坦な壁を有する対称的なプロファイルを有するが、一般的には、異なる形態も採用し得る。開口部104は、対向する本体第1および第2の本体表面102および103の間に概念的に直線状の視線である、視線105を提供し、この視線105は、液体アクセス可能容積106と交差する。容積106は、このように、本体で囲まれており、少なくとも部分的に開口部104内に含まれ、第1および第2の、少なくとも実質的に平面の電子透過膜109および110によって境界が定められ、各々が、開口部に広がっており、液体セルデバイスの外表面の一部を形成する外表面と、液体アクセス可能容積に接触する、対向する内表面と、を有する。
図1には示されていないが、液体アクセス可能容積106は、電子透過膜領域109および110をはるかに超えて本体101の表面(単数または複数)の1つ以上の開口(図示せず)まで本体101内に延びてもよい。
【0084】
第1および第2の電子透過膜109および110は、完全な長方形および平行に示されているが、他の膜形状を使用してもよく、膜は、実質的に長方形状であればよく、また、膜は、完全に平行でなくてもよい。第1および第2の電子透過膜109および110のアスペクト比は、原寸に対して比例させることを意図するもんではない。例えば、後述するように、液体セルデバイスの回転軸に垂直な平面との交線に平行な方向に沿って測定した長さが少なくとも350μmであり、その長さに垂直に測定した幅が90μm以下の、実質的に平行で実質的に重なった膜は、データ取得中に、過度な外方への膨らみを抑制するのに十分であり、100nm未満、または5000nmより大きいギャップ112で離間されており、適切なサイズの本体101を有することにより、十分に投影された視認可能領域を保持しながら高角度範囲にわたって傾斜できる場合もある。一般的に、液体セルデバイスの回転軸に対してこのように構成された長方形または長方形に近い膜は、その幅に対したさらに大きい割合を有することがあり、最大で100倍までにもなる。 例えば、長さが2000μmまでの長方形または長方形に近い膜が、本体内に収納されTEMまたはSTEM機器で通常使用される直径3mmの標本ホルダに収容され得るが、幅は20μmと、小さい。
【0085】
既に述べたように、電子透過膜109および110は、膜の過度な外方への膨らみを抑制する最大幅を90μmまで有していてもよく、従って、透過電子線機器内の試料を含む液体媒体の厚み領域がほぼ均一に維持され、それにより、高角度範囲にわたって使用可能な断層撮影データを取得できるようになる。膜の幅は、10、20、30、40、50、60、70、80、または90μm未満であってもよく、過度な外方への膨らみを抑制するには十分である。当業者であれば、使用可能な高角度範囲断層撮影データを作りあげているものは、液体媒体と試料の組成、膜の厚さと組成、取得したデータのタイプなど、採用した特定の実験条件によって異なることを理解できよう。例えば、液体媒体中に懸濁する試料から取得したEELSデータは、EDSや低倍率画像データよりも、透過する電子の経路長を増加させる外方への電子透過膜の膨らみに敏感である場合がある。
【0086】
当業者であれば、外方への膨らみを十分に抑制できる電子透過膜は、適切な低原子量、低密度の材料で構成できることをさらに理解できよう。このような材料の例として、酸化シリコン、窒化シリコン、グラフェンなどが揚げられるが、これらに限定されない。当業者はさらに、特定の電子透過膜が外方への膨らみを十分に抑制できるかどうかは、膜厚、形状、サイズなどの追加要因に依存することを理解できよう。例えば、このような膜は、30nm前後、あるいは10~50nm前後の厚さを有するSiNで構成することができる。例えば、このような電子透過膜は、長方形または概ね長方形の形状を有し、膜と液体セルデバイス回転軸に垂直な平面との交点に垂直な方向に沿って測定した幅が90μm以下であってもよい。後述する概念実証用トモチップでは、断層像再構成に使用する高角度範囲の断層撮影データの取得を実証しているが、SiN電子透過膜は厚さ30nm前後で、25×300μmの長方形である。その他の電子透過膜の形状やサイズも使用可能である。
【0087】
一方、カラクリナ他のナノレター第18巻10号、6286~6291頁(2018年)で使用した厚さ50nmのSiN膜は、それらの最狭部で90μmよりかなり広く、液体媒体で満たすと、膜間のギャップを2倍にするほど外方に膨らむ。このような外方への膨らみが激しいと、有用な高角度範囲のデータを取得することができない。カラクリナ他の6287頁の右欄から6288頁の左欄を参照されたい。さらに、このような液体セルデバイスから有用な高角度範囲の断層撮影データを取得できたとしても、膜の外方への膨らみが激しいため、本明細書で論じるタイプのギャップ選択を事実上妨げる。
【0088】
図1は示されていないが、液体アクセス可能容積106は、試料を含む液体媒体で容積を満たすことを可能にする少なくとも1本のチャネルによって、本体の表面における少なくとも1つの密閉可能な開口に液体接続されてもよく、液体媒体は一般的に毛細管現象によって進入するが、必ずしもそうでなくてもよい。例えば、液体アクセス可能容積106は、本体101の対向する表面上の2つの密閉可能な開口の間に延びる平行な辺の直線チャネル(図示せず)の一部を形成することができる。他の実施形態では、液体アクセス可能容積106には、電子透過膜109を含む本体101の可動部分を通してアクセス可能となっており、液体が導入されて、その後電子透過膜109が電子透過膜110上の所定の位置に固定されるようになっている。このような配列では、液体アクセス可能容積106内の液体媒体から電子透過膜109および110への内圧を緩和するために、本体101の表面へのチャネル(図示せず)を含むことが望ましい場合がある。
【0089】
液体アクセス可能容積106は、視線105と液体セルデバイスの実質的に垂直な回転軸108との間の交点107を含み、回転軸108は、第1および第2の電子透過膜109および110から実質的に等距離に配置されている。
図1に示すように、回転軸108はまた、第1および第2の本体表面102および103から実質的に等距離に配置されてもよい。
【0090】
視線105が、
図1に示すように、平行な第1および第2の電子透過膜109および110に対して垂直な表面の法線に配置された状態で、視線に沿った平行投影は、膜が
図1に示すように視線105に垂直かつ中心に整列されたときに電子透過膜109および110と同じ面積を有する、密閉可能な容積106の平行投影である投影視認可能領域111を画定する。膜112間のギャップは、電子透過膜109および110に垂直入射で入射する電子の液体アクセス可能容積106を通る経路長に対応することになる。
【0091】
図2Bは、例えば
図1の開口部104に対応する開口部204、
図1の電子透過膜209および210が
図1に示す電子透過膜109および110に対応する開口部を有するトモチップ本体を示しており、長方形の電子透過膜209および210の角部を通過する平行な視線221、231、241および251を有し、電子透過膜209および210と同じ面積を有する、例えば、
図1に示す投影視認可能領域111に対応する投影視認可能領域211を形成している。
図2Aに示すように、回転軸208周りを回転すると、211から218までの投影視認可能領域が減少し、角は、視線228、238、248および258に沿って投影され、
図2Cに示すように、反対に等量回転すると、それに対応して投影視認可能領域が211から219まで減少し、角が視線229、239、249および259に沿って投影される。
図2Aおよび
図2Cに示すように、視線241および221並びに251および231との交点に対応する電子透過膜209および210の短辺が開口部204の縁に影を落とし始めると、その減少は単なる幾何図法以上のものとなる。当業者であれば、液体セルデバイスが回転軸208周りを回転させられると、投影視認可能領域218および219が、幾何学的に連続的に減少することを理解できよう。例えば、電子透過膜209および210間のギャップを無視できるものとして扱い、60度の傾斜で面積211にcos(傾斜角)を乗じると、投影視認領域218および219は投影視認可能領域211の2倍前後、70度の傾斜では、3倍前後小さくなる。当業者はさらに、傾斜角が大きくなると、そのような幾何学的な減少とは無関係に、投影視認可能領域218および219は、最終的に、電子透過膜109および110の短辺から侵入する本体201の部分の影によって完全に見えなくなることが理解できよう。
【0092】
図1に戻ると、第1および第2の電子透過膜109および110、本体第1および第2の表面102および103並びに開口部104は、液体セルデバイスが少なくとも120度の角度範囲で回転軸108周りを回転する間、液体アクセス可能容積106の一部分を通る視線105が少なくとも10μm
2の投影視認可能領域111上に維持されるように構成、すなわちサイズ決めされ、形状決めされ、互いに相対して配置されてもよい。一般に、
図2に関連して上述したシャドウイング効果を念頭に置いて、開口部106の所与のプロファイルおよび第1および第2の本体表面102および103間の所与の離間に対して、電子透過膜109および110の長さを増加させると、10μm
2、または100μm
2の投影視認可能領域が維持できる、垂直入射から離れる方向の回転角度が増加する傾向がある。高角度範囲での傾斜を可能にする別のアプローチは、
図2に関連して上述したように、本体による影を減らすために、第1および第2の本体表面102および103の間の離間を減少させることである。現実問題として、剛性と機械的完全性を維持するために必要な、電子透過膜の望ましい最大幅と、TEMやSTEMで典型的な直径3mmの標本ホルダに利用可能な最大長を念頭に置くと、電子透過膜の幅と長さの比は一般に1対100を超えることはできない。
【0093】
液体セルデバイスが回転軸周りを少なくとも140度の角度範囲だけ回転する間、少なくとも100μm2の最小投影視認可能領域111が維持される、第1および第2の電子透過膜109および110、本体第1および第2の表面102および103並びに開口部104の構成の一例は、概念実証用トモチップに関連して以下に説明する。当業者であれば、以下に詳細に説明する以外にも、多くの構成が可能であることを理解できよう。
【0094】
幾何学的に、トモチップが垂直入射から離れる方向に回転するにつれて、液体アクセス可能容積106を横断する電子の経路長は、膜109と110の間のギャップ112の最小値から、連続的に増加する。当業者であれば、収集した断層撮影データのタイプ、液体媒体の組成、試料の組成と分布、および透過電子線機器の動作電圧を含む要素により、有用な最大経路長が異なることを理解できよう。例えば、EELSデータの取得は、EDSや低倍率の画像データの取得よりも短い経路長を必要とする場合がある。実施される実験に応じて、膜109および110に対して112として
図1に示される膜間のギャップは、100nm未満の試料を運ぶ液体媒体を侵入しやすくするために実現可能な限り小さく、また、有用なデータを提供できるだけ大きく、200、500、1000、2000、3000、4000、5000nmまたはそれ以上であってもよい。
【0095】
図3は、マイクロエレクトロニクスまたは一般に「MEMS」と呼ばれる微小電気機械システムの製造に一般的に適用される様々な技術を用いたトモチップの製造の例示的な工程の中の一段階を示す図である。自立膜309および310が、本体部分321および331並びに材料の追加の層327および337によって包囲された膜材料319および390の領域と共に示されている。本体表面の1つ以上の開口に液体接続された1本以上のチャネルは、図示されていない。
【0096】
例示的なプロセスにおいて、本体部分321は、典型的には、
図1に示す第1および第2の本体表面102および103間の距離の半分よりわずかに厚さが小さいシリコンウェハの部分から形成される。膜材料の連続層309および319は、本体部分321の前面上に堆積され、開口部324がその裏面322から開口された自立膜309の領域を露出させてもよい。膜材料領域319は、次に、自立膜309の領域に当接して空間306を囲む、典型的には酸化シリコンを含む材料327の追加の層で覆ってもよい。同様に、本体部分331は、典型的には、
図1に示す第1および第2の本体表面102および103間の距離の半分よりわずかに厚さが小さいシリコンウェハの部分から形成される。膜材料の連続層310および390は、本体部分331の前面上に堆積され、開口部334がその裏面333から開口された自立膜310の領域を露出させてもよい。次に、膜材料領域390を、自立膜310の領域に当接して空間306を囲む、典型的には酸化シリコンを含む材料337の追加の層で覆ってもよい。次に、点線の矢印で示すように、酸化シリコン部分327および337を接合し、よって、自立膜部分309および310を含む本体部分321および331も一緒に接続して、空間306から、
図1に示す例えば106に対応する液体アクセス可能容積を形成することによって、
図1における、例えば101に対応するトモチップ本体を組み立ててもよい。当業者であれば、本体部分321および331が、同じシリコンウェハの異なる領域から形成されてもよく、並行して処理されてもよいことを理解できよう。
【0097】
当業者であれば、さらに、MEMSの加工には、厚さ100μm程度の超薄型ウェハや、加工中にその厚さにまで薄くしたウェハを用いてもよいことは、理解できよう。 当業者はさらに、MEMS加工は、
図3に概略で示して上述した接合工程のような、異なるウェハ上または同じウェハの異なる領域上に形成された膜の接合を必要とせず、単一ウェハ加工を使用して、
図9Aおよび9Bに示されるものを含む、本明細書で議論されるものなどのような液体セルデバイスを製造してもよいことは、理解できよう。
【0098】
MEMS技術固有の高い精度から生まれる利点は、第1および第2の膜の相対的な整列を正確に行うことができ、その結果、投影視認可能領域を最大化することができるということである。MEMS加工のさらなる利点は、
図1および2に示すように、様々な形状を有する本体および液体アクセス可能容積(単数または複数)を有し、単一の長方形の覗き窓を画定する一対の長方形の電子透過膜よりも多いトモチップを形成することができるということである。
【0099】
図4Aは、等長直交長方形窓412と交差する長方形窓402を有する正方形の本体401を備えることにより、直交回転軸の周りで等傾斜できるいわゆる傾斜回転TEM標本ホルダに用いるのに適したトモチップを示しており、「窓」という用語は、電子線が、例えば
図1に示す電子透過膜109および110に相当する液体アクセス可能容積の少なくとも一部分を通過できるよう整列した一対の電子透過膜のことを指すものとして使用する。しかしながら、長方形窓402および412の長さは等しくなくてもよく、トモチップが、ある特定の回転軸の周りのみ傾斜範囲を大きく、直交軸の周りでは傾斜範囲をはるかに小さくすることが可能な、より標準タイプのTEM標本ホルダに使用するのに好適なものとしてもよい。
図4Aに示されるようなトモチップは、窓402および412の方向と平行に走る2つの直交軸を中心として、等しい傾斜範囲にわたって回転できるので、窓402および412の交点に配置された液体媒体中の試料から2つの直交回転軸周りの断層撮影データを得るために使用することができる。本体401は、壊れやすいトモチップを取り扱いやすくし、ほとんどのTEMおよびSTEM機器で使用されているタイプの標準の直径3mmの標本ホルダにぴったり嵌合する、リング状の支持体405上に装着して示されている。このような機器で使用する直径3mmの標本ホルダの限界を念頭に置いて、窓402および412の長さを約2mm以下に制限すればよい。最大窓長を約2,000μmとすれば、本体の厚さを200μm前後とすることができ、少なくとも10または100μm
2の投影視認可能領域を維持しながら、合計で120度、130度、または140度を超える高角度範囲にわたる傾斜が可能で、最大アクセス可能傾斜範囲は、精密な開口部のプロファイルにある程度依存する。
【0100】
図4Bは、下記の
図5に関連して説明する理由より、長方形窓402と、3つの等長直交窓412、422、および432を有する不規則な形状の本体401を有するトモチップを示す図である。このような構成により、液体媒体中の試料の3つの別々の領域に対しする直交軸断層撮影が可能となる。本体は、ここでも支持リング405上に装着して示されている。機能部471、472、473および474は、窓402、412、422および432の液体アクセス可能容積に液体接続されている本体401の表面における開口(図示せず)を密封してもよい。
図5に関連して後述するように、機能部471および473によって各々が密封された一対の開口(図示せず)は、3つの窓412、422および432全てに関連付けられた単一の液体アクセス可能容積を形成するのに十分な幅の単一のチャネルによって接続されてもよく、機能部472および474によってそれぞれ密封された一対の開口(図示せず)は、窓402の幅よりもかなり広い単一のチャネルによって接続されてもよい。
【0101】
図5は、3つの平行な長方形窓512、522および532を備えた本体501を有するトモチップを示し、窓という用語は、ここでも、一対の電子透過膜を指すために使用される。取り外し可能な充填部分565および585は、それぞれ、試料を含む液体媒体を受容するのに適したリザーバ569および589を収容する。リザーバ569および589は、開口(図示せず)を介して接続され、液体がリザーバから窓512、522、および532に流れることができるチャネルにつながっている。液体媒体が一方または両方のリザーバに導入されると、その液体媒体は毛細管現象によって、上記で詳細に説明したように、液体アクセス可能容積を収容する窓領域に引き込まれ、そこから断層撮影データを得てもよい。
図5Bは、取り外し可能な充填部分が機械的に取り外された状態を示しており、本体501とのそれらの交点においてそれらが狭小化されているため、そのような取り外しがし易くなっている。
図5Cは、延長部分が除去されたときに露出したチャネルの開放端を密閉する機能部571および572を示している。
図5には示されていないが、直線状であってもよい3本のチャネルの各々は、密閉機能部571によって塞がれた開口および密閉機能部572によって塞がれた開口に液体接続されてもよく、各チャネルの各端部に1つずつ、合計6つの開口を与え、3本のチャネルの各々は、3つの窓512、522および532の各々と関連付けられた液体アクセス可能容積を一部で形成している。代替案として、可変電子透過膜ギャップを有する実施形態に関連して後述するように、密閉機能部571によって塞がれた単一の開口と、密閉機能部572によって塞がれた単一の開口は、各々、3つの窓512、522および532に関連付けられた液体アクセス可能容積のそれぞれを部分的に形成する3本のチャネルに分割するチャネルに液体接続している。別の代替案として、単一のチャネルが、571および572における開口の間に延びてもよいが、3つの窓512、522および532の全てに関連付けられた単一の液体アクセス可能容積を形成するのに十分な幅としてもよい。当業者であれば、3つの平行な窓を有する実施形態と同様に、チャネルおよび開口は、他の構成が可能であることを理解できよう。
図5には示されていないが、充填可能な部分が2つのリザーバから構成され各々が、開口からなる各々が、各々の液体アクセス可能容積の異なる端部に液体接続されている、あるいは、単一のリザーバが一対の開口を備え、各々が液体アクセス可能容積の異なる端部に液体接続されている場合、取り外し可能な充填部分を一つしか持たないトモチップも使用することができる。
【0102】
このような取り外し可能な充填部分を使用する利点は、試料を含む液体媒体が誤って開口から本体を横切って流れ、液体媒体や試料で電子透過膜外表面を汚染することを回避することができることである。
【0103】
図9Aおよび
図9Bは、MEMS加工、特に単一ウェハMEMS加工によって製造されたマルチウインドウ型液体セルデバイスの概略上面図および角度図である。この「上」面は、透過電子線機器内の液体セルデバイスからデータを取得するときに上向きである必要はない。上述したように、
図1、
図2、
図4および
図5に関連して、本体901は、透過電子線機器でしばしば使用されるタイプの標準的な直径3mmの標本ホルダに直接嵌合できるサイズであればよい。本体901は八角形の形状を有するものとして示されているが、円形および円形に近い形状を含む他の形状を使用してもよい。典型的には、本体901はシリコンで構成されているが、必ずしもそうである必要はない。
【0104】
本体901は、約150μmの典型的に均一な厚さを有するエッジ部分912と、後述する場合を除いて典型的に均一な厚さを有する中央部分922と、エッジ部分912の上面から典型的に50~75μm前後下に凹んだ上面とから構成される。中央部分922の底面(不可視)も凹んでいてもよい。中央部分922は、その上面に、典型的には、ただし必ずしもそうではないが、窒化シリコンで構成されたトラック931および932を含み、各トラックは、その厚さ内に、4つの平行した長手の窓のうちの2つを含んでいる、すなわち、トラック931は905および909、トラック932は903および907を含んでいる。トラック931および932の上面は、中央部分922の表面より下に凹んでいても、上に盛り上がっていても、または平行であってもよい。窓という用語は、ここでも、本体の開口部にまたがって密閉され、ギャップによって離間され、液体アクセス可能容積の少なくとも一部を囲む、少なくとも実質的に平行で平面の一対の電子透過膜を指すために使用される。
図1に関連して上述したように、中央部分922の上面と下面との間の開口部は、異方性エッチング技術を使用して単結晶シリコンに形成されてもよく、従って、各々の表面から延びる4つの平面の、場合によっては傾斜した壁を有していてもよい。
【0105】
中央部分922およびトラック931および932は、エッジ部分921の上面および下面の間の中点に長手の窓903、905、907、および909を配置するように構成されてもよいが、必ずしもそうである必要はない。窓903、905、907および909に対応する、各々が本体901を通る視線を可能にする、中央部分922の上面と下面の間に延びる開口部は別として、中央部分922は、トラック931および932の下または近傍で厚さが減少してもよい。いずれにしても、長手の窓903、905、907および909の各々は、それらの長さの各々に沿って典型的には約半分の位置で回転軸908を含むように配置されてもよい。長手の窓903、905、907、および909内の電子透過膜は、通常、窒化シリコンで構成され、厚さは25nmまたは30nm前後であるが、10nm~100nm前後の厚さのものを使用してもよい。長手の窓903と905の電子透過膜間のギャップは、典型的には1μm前後でよく、長手の窓907と909のギャップは、典型的には0.12μm前後でよい。既に述べたように、他のギャップを採用してもよく、長手の窓907と909のギャップは互いに異なっていてもよく、長手の窓903と905のギャップも互いに異なっていてもよい。
【0106】
トラック931内では、第1の液体アクセス可能チャネルまたは容積(不可視)が、窓905内の第1の液体アクセス可能容積の一部を含む密閉可能開口943および945との間に延び、第2の液体アクセス可能容積(同じく不可視)が、窓909内の第2の液体アクセス可能容積の一部を含む密閉可能開口941および947の間に延びている。同様に、トラック932内では、第3の液体アクセス可能チャネルまたは容積(不可視)が、窓903内の第3の液体アクセス可能容積の一部を含む密閉可能開口944および946との間に延び、第4の液体アクセス可能容積(同じく不可視)が、窓907内の第4の液体アクセス可能容積の一部を含む密閉可能開口942および948の間に延びている。
【0107】
図9Aおよび9Bには示されていないが、隆起した障壁部分を設け、各対の液体アクセス可能開口941および943、945および947、942および944、ならびに946および948を囲む中央部分922の上面の領域を、長手の窓903、905、907および909、ならびに基準窓999(以下で説明)を含む、より薄い中央部分922の上面の残りの領域から離間してもよい。隆起した障壁部分は、それぞれの液体アクセス可能容積が充填されている間、および密閉可能な開口が密閉される前に、液体が電子透過膜上にこぼれて汚染されることを防ぐように構成されている。
図9Aおよび9Bに示される液体セルデバイスは、独立して充填可能な液体アクセス可能容積、密閉可能開口および窓の他の構成を含むように構成してもよい。また、
図9Aおよび
図9Bには示されていないが、密閉可能開口、および任意の隆起した障壁部分は、トラック931および932が視認可能な、より薄い中央部分922の同じ表面上に位置する必要はないが、反対側の表面上に位置してもよい。その場合、
図9Aおよび
図9Bに示されていない中央部分922の「底」面は、密閉可能開口の位置となり、各々が、典型的にはシリコンである中央部分922を通るチャネルを介して、対応する液体アクセス可能容積に接続されてもよい。当業者であれば、本体901の表面上のそれらの実際の位置とは無関係に、各対の密閉可能開口は、単一の液体滴の導入を収容するサイズであってよいことを理解できよう。
【0108】
トラック931内の第1および第2の液体アクセス可能なチャネルは、窓905および909を含む単一の液体アクセス可能チャネルを形成するように組み合わせてもよい。 同様に、トラック931内の第2および第3の液体アクセス可能なチャネルは、窓903および907を含む単一の液体アクセス可能チャネルを形成するように組み合わせてもよい。 そのような場合、密閉可能開口の対、941と943、945と947、942と944、および946と948は各々結合され、上述のように、トラック931および932の各々、または中央部分922の底面上に2つの密閉可能開口、計4つを形成してもよい。
【0109】
窓907および909は各々、幅10μm×長さ2000μm前後であってもよい。当業者であれば、約150μmのエッジ部分912の厚さおよび少なくともエッジ部分912の厚さの中点の比較的近くに位置する窓との組み合わせにより、液体セルデバイスが回転軸908周りに±80°(合計160°)の角度範囲だけ垂直入射から離れる方向に回転している間に、窓907および909において少なくとも10μm2の投影視認可能領域を維持可能であることを理解できよう。窓903および905は、各々、幅20μm×長さ800μmであってもよく、これにより、同様に、液体セルデバイスが回転軸908周りに±70°(合計140°)の角度範囲だけ垂直入射から離れる方向に回転している間に、窓903および905において少なくとも10μm2の投影視認可能領域を維持できる液体セルデバイスとなる。液体セルデバイスを回転させることができる角度範囲を減少させる作用があるが、より厚いエッジ部分912を使用してもよく、本体901による影を形成することなく、少なくとも10μm2の投影視認可能領域が維持される。
【0110】
液体アクセス可能容積に関連付けられていないが、任意で回転軸908と交差する基準窓999は、透過電子線機器を較正する目的で含まれてもよい。基準窓999は長方形である必要はなく、例えば、長辺が150μm前後の正方形であってもよく、一方または両方の電子透過膜が存在する必要はない。
【0111】
本明細書に記載された液体セルデバイスは、高角度傾斜範囲にわたって透過電子線機器で取得できる任意のタイプのデータを使用して、高角度液体電子断層撮影(「HALET」)を実行することができる。データのタイプは、特定の実験の要件に応じて選択することができ、特定の機器のデータ取得能力と利用可能な動作モードによってのみ制限される。例えば、断層撮影データは、X線EDSデータを含むことができ、またはEELSなどの試料を透過した電子、歳差電子回折を含む回折、または電気を示すホログラフィックデータを含む撮像データから取得することができる。
【0112】
このような高角度範囲データは、一般に、範囲の一端から他端までの高角度範囲を通して液体セルデバイスがその回転軸を中心に傾斜している間に得られる傾斜系列の形態で、断層像再構成に使用することが可能である。このような断層像再構成は、様々な独自/市販のソフトウェアパッケージ(IMOD、TomoJ、EM3D Amira、Image Pro Discoveryなど)を用いて行い、液体媒体中の試料の少なくとも一部の3次元内部構造を明らかにすることができる。以下の例で示すように、内部構造には、液体媒体中の試料オブジェクトの3次元分布と、それらの試料オブジェクトの内部構造が含まれる。トモチップを使用して調査できる試料のサイズは、ナノメートルサイズから、液体媒体を使用して導入して所与の電子透過膜ギャップに収容できる大きさまで様々である。
【0113】
トモチップの驚くべき利点は、電子透過膜ギャップを選択できるようにすることにより、高角度範囲でのデータ取得中は、液体媒体中の試料の実質的な部分の十分な不動性が維持されることが保証され、信頼性の高い断層像再構成が可能になることである。この能力は、通常ブラウン運動を呈する、または高角度傾斜時に移動することにより高角度断層撮影データの取得を阻害すると考えられるサイズの範囲を含む、nmからμmのサイズの形態をとる試料に対して特に有用であると考えられる。下記に於いて、これらの能力をさらに詳しく説明し、解説する。
【0114】
トモチップのさらなる利点は、少なくとも実質的にランダムな配向分布を有する多数の結晶試料の回折調査を可能にする電子透過膜ギャップを選択できることである。このような実質的にランダムな配向分布は、試料の完全性を維持するために液体媒体が必要かどうかにかかわらず、有機または無機の結晶試料の作製に有益であり、本質的に好ましい結晶配向またはテクスチャを生じさせる可能性がある固体の支持体を用いた試料作製よりも望ましい場合がある。このような実質的にランダムな配向分布は、高角度範囲のデータ取得と組み合わせて、低対称性結晶の調査、信頼性の高い構造解析を得るために、少なくとも120度の範囲での試料の傾斜など、大きな割合の逆格子空間のデータ取得が必要な、調査に特に有効となり得る。トモチップを用いることで、液体媒体に適合する、任意の適切なサイズの結晶性試料から、実質的にランダムな配向分布を得ることができる。このように、トモチップは、最近提案された電子回折計で調査された試料の配向ランダム化のための高分子埋め込み技術に対して、ある程度の優位性を持っている。ヴァンネマッヒャー(Wannemacher)ら、ネイチャーコミュニケーションズ第10版 記事番号3316(2019年)。
【0115】
図5A、
図5Bおよび
図5C、ならびに
図9に模式的に示すタイプのマルチウィンドウ・トモチップは、実質的な不動性または実質的にランダムな配向分布を保証するために、特定の試料に対して膜ギャップを選択しやすいように構成してもよい。例えば、複数の窓を持つトモチップは、液体媒体中の試料を導入するための単一の開口を持ち、その開口は、各々膜ギャップが異なる複数の平行な長方形窓に液体接続されるように構成することができる。このような構成にすることで、特定の試料の調査に最適なギャップの迅速な選択が可能となる。
概念実証用トモチップおよびHALET
【0116】
トモチップを作成し、液体媒体中の試料に対してHALETの調査を実施するために、台湾マーテック社から入手した概念実証用の市販のKキットセルを機械的に改造した。当該セルには、各々が25×300μmの一対のSiN長方形膜が、100~5000nmの固定ギャップで離間されている。一対の電子透過膜は、シリコン体の中央に配置されている。前述のように、このようなKキットをTEMで±40°前後に傾けると、シリコン体が電子透過膜の間にある液体媒体や試料の電子透過を完全に遮断してしまい、それ以上の傾斜角度ではデータを取得することができない。
【0117】
当業者であれば、厚さ30nm前後のSIN膜は壊れやすく、Kキットのシリコン体の機械的な改造は繊細かつ困難なプロセスであることを理解できよう。結果として得られたトモチップも、シリコン体表面の開口と液体接続された液体アクセス可能容積を含む、厚さ100μm前後のシリコン体を有しており、本質的に壊れやすい。
【0118】
図6A、
図6B、
図6C、および
図6Dは、Kキットを改造してトモチップを形成する段階を示す概略図である。
図6A~
図6Dの各々の断面は、それぞれ300μm前後の長さの電子透過膜609および610を有しているKキットセルの長さに沿ったものである。電子透過膜609と610の間の垂直方向のギャップ(印は付けていない)は、100~5000ナノメートルの間の固定距離であり、原寸に対して比例させることを意図するものではない。
【0119】
図6Aは、本体601からのシリコン材料の機械的除去の準備として、熱ワックス614、または同等のものに取り付けられ、表面616に固定されたKキットシリコン体601を通る断面を示す図である。当業者であれば、熱ワックスまたはそれと同等のものは、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコンのいずれとも相互作用しない溶媒を使用して除去するのに適したものでなければならないことを理解できよう。このようなワックスの例として、アレムコプロダクツ社製のCrystalbond
TM509があり、アセトンに可溶である。
図6Aに示す、未改造のKキットの垂直方向の高さ640は、800μm前後である。
【0120】
当業者であれば、さまざまな異なる精密研削/研磨システムを用いて、さまざまな方法で微細除去を行うことができることを理解できよう。
図6Bは、Kキットシリコン体601の約350μmと周囲の熱ワックス614を精密微小機械的に除去した後、Kキットシリコン体601の450μm前後の垂直厚620を残し、電子透過膜609および610が熱ワックス614内に包含されているKキットを示している。露出したシリコン表面602は、例えば、
図1に示す表面102に対応するトモチップの表面の一部を形成する。
【0121】
図6Bと
図6Cの間で、部分的に改造されたKキットを表面616から離間し、熱ワックス614をアセトンへの溶解によって除去し、任意で、KOH溶液、例えば室温で6~9分間30重量%のKOH水溶液を用いて電子透過膜609および610の表面に付着する任意の残留シリコンの断片を除去する。次に、改造したKキットを反転させ、電子透過膜609を下向きにして熱ワックス615の表面616に装着する。この段階では、応力を最小にするため、電子透過膜609の直下の表面616に照合溝(図示せず)を有する面を使用するのが有利である場合がある。
図6Dは、Kキットシリコン体601およびその周りの熱ワックス614を精密微小機械的にさらに約350μm除去し、Kキットシリコン体601の100μm未満の垂直厚630を残した結果を示している。露出したシリコン表面603は、トモチップの表面の一部を形成することになり、例えば、
図1に示す表面103に相当する。すると、トモチップを、表面616から離間し、熱ワックス615をアセトンへの溶解によって除去することができるようになり、任意で、KOH溶液を用いて電子透過膜609および610の表面に付着する任意の残留シリコンの断片を除去することができる。そして、洗浄されたトモチップは、前述の
図4および
図5に示したタイプのリング状または開口部状の支持体に装着することができる。
【0122】
図7は、上記のように作製され、膜ギャップが2000nmであるトモチップ内のミセラウォーターから取得された一連の8つの画像を示す。画像は、日本電子株式会社の1400プラスTEMを100kVで作動させて得たものである。
図7Aは、約140°の全傾斜範囲にわたる低倍率の図、
図7Bは高倍率の図であり、各画像は約20°の傾斜で離間されている。回転中に構造の詳細が変化し、傾斜範囲の両端では機能部が離間し、その範囲の中央では重なり合っていることがわかる。また、画像特徴も全傾斜範囲にわたって安定しているように見える。 このように140°の傾斜範囲で撮影された画像は、高解像度の断層像再構成に適している。
【0123】
図8は、上記のようにして作製した膜ギャップ200nmのトモチップを用いて、高集光電子線を試料に照射してその場で形成した液体水中の気泡の配列から取得した画像データの一例を示す図である。顕微鏡の電圧は100kVで、傾斜範囲はここでも約140°である。
図8Aは、約140°の全傾斜範囲にわたって取得した一連の画像IからVIIIを示し、各画像は約20°の傾斜によって離間されている。
図8Bは、データからの断層像再構成の一例を示す図であり、画像化された気泡の斜視図は、個々の気泡の形状やトモチップギャップの深さ内でのそれらの分布など、単一の画像投影図ではアクセスできない情報が構造的に詳細に示されている。
【0124】
本発明を特定の実施形態に関連して説明してきたが、本発明は提示された実施例に何ら限定されるものではないと解釈されるべきである。本発明の範囲は、添付の請求項の組によって、明確に説明している。特許請求の範囲の文脈において、「備えている」または「備える」という用語は、他の可能な要素またはステップを排除するものではない。また、「a」「an」などの表記は、複数のものを除外して解釈されるべきではない。また、図で示された要素に関する特許請求の範囲の参照符号の使用は、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。さらに、異なる請求項に記載されている個々の特徴は、有利に組み合わせられる可能性があり、異なる請求項にこれらの特徴が記載されていることは、特徴の組み合わせが可能でなく、有利でないことを排除するものではない。