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特許7591060ボールスプライン構造を有するドライブシャフト用管状シャフトのための熱処理方法およびそれにより製造された管状シャフト
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  • 特許-ボールスプライン構造を有するドライブシャフト用管状シャフトのための熱処理方法およびそれにより製造された管状シャフト 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】ボールスプライン構造を有するドライブシャフト用管状シャフトのための熱処理方法およびそれにより製造された管状シャフト
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/28 20060101AFI20241120BHJP
   F16D 3/20 20060101ALI20241120BHJP
   F16D 1/06 20060101ALI20241120BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20241120BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20241120BHJP
【FI】
C21D9/28 A
F16D3/20 Z
F16D1/06 210
C22C38/00 301Z
C22C38/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022548070
(86)(22)【出願日】2020-12-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 KR2020019472
(87)【国際公開番号】W WO2021157868
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】10-2020-0015023
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517442188
【氏名又は名称】イレ エイエムエス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】パク セ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ダル ス
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2011-0052967(KR,A)
【文献】韓国特許第10-0737602(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0008717(US,A1)
【文献】国際公開第2021/157869(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00- 9/44
F16D 1/00- 9/10
C23C 8/00-12/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジングのためのボールスプライン構造を有し、直径が減少したアンダーカット領域を有するドライブシャフト用管状シャフトであって、クロムモリブデン鋼で形成された管状シャフトのための熱処理方法において、
前記アンダーカット領域の深部硬度がHRC35~HRC50の範囲に属する値を有して、かつ、
前記アンダーカット領域の表面硬度が、HRC58~62の間の値であり、かつ、
前記アンダーカット領域の有効硬化深さが、前記アンダーカット領域の表面から0.6mm~2.0mmの間の値であり、かつ、
前記アンダーカット領域がベイナイト組織およびマルテンサイト組織を全て有するように、前記管状シャフトに浸炭-オーステンパリング処理を行う熱処理方法。
【請求項2】
前記深部硬度がHRC38~HRC48の範囲に属する値を有するように、前記管状シャフトに浸炭-オーステンパリング処理を行う、請求項1に記載の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールスプライン構造を有するドライブシャフトを構成する管状シャフトの熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力伝達系統に使用されるドライブシャフトは、両端に結合される等速ジョイントを通じて回転動力を伝達する装置である。ボールスプライン構造を適用して軸方向の長さ変化が可能なように構成されるドライブシャフトが使用されている。ボールスプライン構造は、管状シャフト(tubular shaft)と、これに挿入される中実シャフト(solid shaft)に具現され、管状シャフトの内面に形成される複数の外側グルーブ、複数の外側グルーブとそれぞれ対をなすように中実シャフトの外面に形成される複数の内側グルーブ、そして対をなす外側グルーブと内側グルーブにより形成される空間に配置される複数のボール(ball)を含む。一方では、外側グルーブと内側グルーブにより形成される空間に配置されるボールにより管状シャフトと中実シャフトの円周方向の相対回転が制限されて回転動力が伝達されることができ、他方では、ボールの転がり運動により管型グルーブと中実グルーブの長さ方向の相対移動、つまり、プランジング(plunging)が可能である。
【0003】
このようなボールスプライン構造によるプランジング機能を有するドライブシャフトの性能改善のために、長いプランジング距離およびジョイントの高切れ角(high articulation angle)性能が要求されている。高切れ角を達成するための方法として、等速ジョイントが結合される管状シャフトの端部の付近に直径が減少したアンダーカット(undercut)領域を形成する方法がある。切れ角のために管状シャフトが等速ジョイントのアウターレース(outer race)に対して相対回転する時、等速ジョイントが結合された端部付近の領域がアウターレースの開放側端部に接触することができ、最大切れ角を増加させるためにアウターレースが接触することができる端部付近の直径を減少させることによって最大切れ角を増加させている。
【0004】
最大切れ角の増大のために形成されるかかるアンダーカット領域は、ドライブシャフトの捩り強度を落とす副作用を有する。したがって、要求される大きい切れ角を確保しながらも、必要な捩り強度の確保のためには、アンダーカット領域に対する特別な強度補強が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平05-004128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、アンダーカット領域の強度補強を通じて要求される捩り強度を確保することができる管状シャフトの熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態によるプランジングをためのボールスプライン構造を有し、直径が減少したアンダーカット領域を有するドライブシャフト用管状シャフトのための熱処理方法によると、前記アンダーカット領域の深部硬度がHRC35~HRC50の範囲に属する値を有するように浸炭-オーステンパリングにより処理される。
【0008】
特に、前記深部硬度は、HRC38~HRC48の範囲に属する値を有することができる。
【0009】
前記浸炭-オーステンパリング処理は、前記アンダーカット領域がベイナイト組織およびマルテンサイト組織を全て有するように行われ得る。
【0010】
前記アンダーカット領域の有効硬化深さは、表面から0.6mm~2.0mmの間の値であり得る。
【0011】
本発明の実施形態によるドライブシャフト用管状シャフトは、前記熱処理方法のうちのいずれか一つにより製造される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、管状シャフトの深部硬度の管理を通じて要求される捩り強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態による熱処理方法により製造されたドライブシャフトを示す。
図2図1のII-II線に沿って切開した断面図である。
図3】等速ジョイントが切れ角となった状態で等速ジョイントのアウターレースとドライブシャフトの管状シャフトとの相対位置を示す図面である。
図4】本発明の実施形態による熱処理方法により製造された管状シャフトの断面図である。
図5図3のV-V線に沿って切開した断面図である。
図6】本発明の実施形態による熱処理方法により得られた管状シャフトの断面での硬度プロファイルを示すグラフである。
図7】本発明の実施形態による熱処理方法により得られた管状シャフトのアンダーカット領域の深部硬度の大きさによる捩り強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付した図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1はドライブシャフト10とその両側端にそれぞれ締結されている一対の等速ジョイント20を示す。異物流入防止およびグリース密封のためのブーツ40が等速ジョイント20とドライブシャフト10に締結され得る。
【0016】
図2に示されているように、ドライブシャフト10は、管状シャフト(tubular shaft)11と中実シャフト(solid shaft)12を備えることができる。管状シャフト11は、一側端が開放された収容空間111を備える管形態を有することができ、中実シャフト12の一側端部が管状シャフト11の収容空間111にプランジング機能のために移動可能に挿入される。
【0017】
等速ジョイント20は、固定式ジョイントであるルゼッパ(Rzeppa)ジョイントであり得、図2に示されているようにアウターレース(outer race)21、インナーレース(inner race)22、トルク伝達ボール23、およびボールケージ24を含むことができる。管状シャフト11と中実シャフト12は、等速ジョイント20のインナーレース22と共に回転するようにインナーレース22にスプライン結合され得る。管状シャフト11の端部には等速ジョイント20のインナーレース22のスプライン結合のためのスプライン構造117が形成され得る。
【0018】
管状シャフト11と中実シャフト12の軸方向の相対的な動き、つまり、プランジング動きが可能なようにするためのボールスプライン構造13が備えられる。ボールスプライン構造13は、管状シャフト11の内面に長さ方向と平行に形成される複数の外側グルーブ131、複数の外側グルーブ131とそれぞれ対をなすように中実シャフト12の外面に長さ方向と平行に形成される複数の内側グルーブ132、外側グルーブ131と内側グルーブ132により形成される複数の空間にそれぞれ配置される複数のボール133、及び複数のボールを収容するボールケージ134を含むことができる。ボール133が外側グルーブ131と内側グルーブ132により形成される空間で転がり運動をすることによって管状シャフト11と中実シャフト12が互いに近づいたり遠ざかったりするように移動する軸方向動き、つまり、プランジング動きをすることができる。
【0019】
等速ジョイント20が図3に示されているように最大切れ角となった状態、つまり、インナーレース22と結合されたドライブシャフト10がアウターレース21に対して最大に折れた状態にある場合、管状シャフト11の外面とアウターレース21の端部211との接触を防止するために、管状シャフト11は外面が半径方向内側に陥没するように形成されるアンダーカット領域112を含む。アンダーカット領域112の形成により等速ジョイント20の最大切れ角が増加することができる。
【0020】
図4を参照すると、管状シャフト11は、ステム部(stem portion)113、およびボールスプライン構造13の外側グルーブ131が形成されるグルーブ形成部114を含むことができる。グルーブ形成部114は、ステム部113よりも大きい直径を有するように形成され得、ステム部113とグルーブ形成部114を連結する傾斜連結部115が備えられ得る。ステム部113は、グルーブ形成部114に備えられる収容空間111と連通する貫通ホール116を備えることができる。
【0021】
本発明の実施形態によると、管状シャフト11のアンダーカット領域112に対する表面硬度、有効硬化深さ、深部硬度が最適に管理され、さらには製品の靭性を増大するためのベイナイト(Bainite)組織が生成され、管理される。例えば管状シャフト11は、0.15~0.25重量%の炭素を含有する合金で形成され得、このようなアンダーカット領域112の特性は浸炭-オーステンパリング(carburizing-austempering)処理により得られる。
【0022】
図6は本発明の実施形態により製造された管状シャフトのアンダーカット領域の断面において深さ(半径方向位置)による硬度プロファイルを示すグラフである。図5および図6で「A」は外側表面、「C」は内側表面、「B」は浸炭工程中の浸炭が行われていない深部領域を示す。例えば「A」および「C」の硬度はHRC58~62であり得、「B」領域の硬度、つまり、深部硬度はHRC35~50であり得る。深部硬度は、浸炭工程とオーステンパリング工程からなる浸炭-オーステンパリング工程中の浸炭工程により浸炭が行われず、オーステンパリング工程により硬化が行われた部品深部の領域の硬度を意味する。温度、維持時間、攪拌などオーステンパリング条件により部品深部の硬度値が変わり、本発明は深部硬度範囲による剛性差があるという事実の認知に基づいて深部硬度値の範囲を限定する。
【0023】
一方では、基準硬度は、浸炭硬化層内で硬化深さの基準とする特定硬度、つまり、有効硬化深さでの硬度であり得、例えばHRC55であり得る。有効硬化深さは、外側表面および内側表面からアンダーカット領域の厚さの10~15%に該当する位置(D、D)であり得、他方では、表面から0.6mm~2.0mmに該当する位置であり得る。
【0024】
次の表1は3個のサンプル(SPL1、SPL2、SPL3)で深部硬度による破断強度を評価した結果を示す。3個のサンプルはクロム-モリブデン鋼で管状シャフトを同一の方式で製造して得られた。
【0025】
【表1】
そして、図7は深部硬度による捩り強度を示すグラフであり、表1の結果をグラフで示したものである。図7を参照すると、深部硬度がHRC30からHRC45に増加する時、捩り強度は漸次に増加すると示され、深部硬度がHRC45を超えれば捩り強度は漸次に減少すると示された。図7の結果から、深部硬度がHRC35~HRC50である時、要求捩り強度が充足されると示された。一方、深部硬度は、HRC38~HRC48に管理されることもできる。次の表2は、ベイナイト存在の有無による捩り破断強度の評価結果を示す。3個のサンプルは、クロム-モリブデン鋼で管状シャフトを同一の方式で製造して得られており、浸炭熱処理をした場合、つまり、ベイナイトがない場合と、浸炭-オーステンパリング熱処理をした場合、つまり、ベイナイトがある場合に対して捩り破断強度をそれぞれ測定した。
【0026】
【表2】
表2の3個のサンプル(SPL1、SPL2、SPL3)共にベイナイトの存在によりさらに大きい捩り破断強度が得られると示された。これは浸炭-オーステンパリング熱処理の結果、マルテンサイト(Martensite)だけでなく、ベイナイト(Bainite)を形成することが捩り強度を増加させるということを意味する。
【0027】
以上で本発明の実施形態を説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されず、本発明の実施形態から本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者により容易に変更されて均等なものと認められる範囲の全ての変更および修正を含む。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、車両のドライブシャフト用管状シャフトの熱処理のための方法に関するものであるため、産業上の利用可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7