(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】ねじの製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20241120BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20241120BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20241120BHJP
C21D 1/20 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
C21D9/00 B
F16B35/00 Z
C21D1/06 A
C21D1/20
(21)【出願番号】P 2022554596
(86)(22)【出願日】2021-03-16
(86)【国際出願番号】 EP2021056712
(87)【国際公開番号】W WO2021185853
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】102020107194.9
(32)【優先日】2020-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】522357286
【氏名又は名称】エジョット エスイー アンド カンパニー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】EJOT SE & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】ヘルミヒ、ラルフ ヨット.
(72)【発明者】
【氏名】アーヘンバッハ、ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シモンセン、ファビアン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-506451(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0129446(US,A1)
【文献】特開2011-074427(JP,A)
【文献】特開平09-263875(JP,A)
【文献】特開2014-062324(JP,A)
【文献】特表2014-506287(JP,A)
【文献】特開2000-230527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00
F16B 35/00
C21D 1/06
C21D 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. 低合金炭素鋼製のねじワイヤを転造して、ねじ山を有するねじ(10)を製造するステップ;
b. 炭素雰囲気および/または窒素雰囲気下で、ねじ(10)全体をオーステナイト化温度まで加熱し、前記温度を維持するステップ;
c. ねじ(10)全体をベイナイト化温度まで急冷し、ねじがその断面にわたってベイナイト組織を有するまでベイナイト化温度を維持するステップ;
を有するねじ(10)の製造方法において、
d. その後、先端(22)をオーステナイト化温度まで加熱した後に、ねじ(10)をマルテンサイト開始温度(M
S)未満の温度まで急冷することによって、ねじ(10)は、その先端(22)で局所的に硬化されることを特徴とするねじの製造方法。
【請求項2】
炭素雰囲気がねじよりも高い炭素含有量を有すること、および/または、窒素雰囲気がねじよりも高い窒素含有量を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ねじの縁部領域(12、18)が中心部の炭素含有量より少なくとも0.2%高い炭素含有量を有するまで、ねじを炭素雰囲気中でオーステナイト化温度に保つことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ねじ(10)が焼戻しされていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに規定するねじの製造方法、及び請求項5のプリアンブルに規定する直接締結用のねじに関する。
【背景技術】
【0002】
EP 3 276 189 A1には、ねじ中心部に比べて、ねじシャフトに沿ったエッジ領域により柔らかいベイナイト組織を有するねじが記載されている。DE 10 2017 101 931 A1には、ベイナイト組織を有するねじが記載されており、ベイナイト組織は、ねじの頭部の方向に位置する中央領域よりもねじの先端における軸方向の硬度が低い。
【0003】
DE 10 2010 055 210 A1には、二重硬化した先端(double-hardened tip)を有するねじの製造方法が開示されており、先端は、ねじの焼戻しマルテンサイト軸領域よりも高い炭素含有量を有している。その結果、ねじの保持領域を有する軸は、ねじの硬化した先端よりも水素脆化しにくい。このため,低合金炭素ねじの先端を部分的に浸炭した後、ねじ全体を焼戻し、その後、先端を局所的に再硬化している。
【0004】
この方法は、ねじを部分的に浸炭させるため、複雑でコストがかかる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、ねじの先端において特に高い硬度を達成し、なおかつその頭部及び保持領域を有するシャフトにおいて低い硬度を達成し、その結果シャフトが水素脆化しにくい、より速い及び/又はより効率的なねじの製造方法を提供することである。本発明の「先端」という表現は、ねじの最前端からねじの頭部方向に延びるねじの前部領域を意味する。これは、特に高強度の金属材料からなる雌部品に、雌ねじ山を溝加工するように作られた領域であることが好ましい。
【0006】
本発明に係るねじは、特に合金元素の含有量が3%未満の低合金炭素鋼線からねじを形成することによって製造される。ねじ山は、ねじの製造中にねじに転造される。ねじワイヤ(又は、スクリューワイヤ;screw wire)に用いられる材料は、好ましくは23MnB4又は38B2である。
【0007】
その後、ねじは、オーステナイト化温度まで加熱される。オーステナイト化温度は、用いられるそれぞれの線材が、そのTTT線図のオーステナイト相領域にある温度である。具体的には、オーステナイト化温度は、線材のA3温度よりも高い。
【0008】
ねじをオーステナイト化温度まで加熱した後、ねじをベイナイト化温度まで急冷し、この温度は、具体的にはねじシャフトの断面にわたってねじがベイナイト組織を有するまで維持される。ベイナイト化温度は、線材がベイナイト相領域にあるときの温度である。具体的には、焼入れ時間(又は、急冷時間;quenching time)は、焼入れ中にフェライトとパーライトの両方が形成されないように選択される。具体的には、焼入れは、ねじをベイナイト化温度の溶融塩浴に浸漬することによって行われる。ベイナイト含有組織は、注目する組織部分が、具体的には25%を超える有意かつ測定可能なベイナイト含有量を有する場合に存在する。組織部分は、好ましくは0.05mm2のサイズを有する。
【0009】
本発明に係るねじにおいて、25%を超えるベイナイト含有量を有する組織部分の総面積は、ねじの断面積のうち特に80%を超える表面積割合を占める。
【0010】
本発明によれば、ねじはベイナイト化温度で所定の時間保持された後、ねじの先端をオーステナイト化温度まで再び局所的に加熱し、その後、マルテンサイト開始温度未満、具体的には室温まで冷却される。その後、フェライト、パーライト及びベイナイトの形成が大幅に抑制されるように選択された焼入れ時間で、少なくともねじの先端がマルテンサイト開始温度未満に再び急冷される。
【0011】
これにより、先端が局所的に、特にその縁部領域(又は、エッジゾーン;edge zone)で再硬化され、これは超硬先端を提供できることを意味する。
【0012】
これにより、本発明に従って製造されたねじは、シャフトの水素脆化が起こりにくく、かつ、先端が超硬質であることが保証される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、ねじをベイナイト化温度まで急冷する前のねじをオーステナイト化温度まで加熱することは、ねじの炭素含有量よりも高い炭素含有量を有する炭素雰囲気中で行ってもよく、その結果、ねじの縁部領域に中心部(又は、コア;core)よりも高い炭素含有量を有する層を形成し、ねじの縁部領域の炭素含有量をねじの中心部領域よりも少なくとも0.2%高くしてもよい。あるいは、ねじのいわゆる窒化を同様の方法で行ってもよい。これは、炭素含有量が0.4%未満の線材に特に有効である。
【0014】
オーステナイト化温度で炭素又は窒素をねじに導入し、続いてベイナイト化温度まで急冷するこのプロセスを、以下では肌焼きベイナイト化(case-hardening bainitizing)と呼ぶ。このようにして生成された組織を肌焼きベイナイト組織(case-hardened bainitic structure)と呼ぶ。
【0015】
このようにして製造されたねじは、そのシャフト及びその頭部領域の特に縁部領域において肌焼きベイナイト組織を有し、その先端、特にその先端の縁部領域において超硬マルテンサイト組織を有することができる。特に、縁部領域は、0.6%から1.5%の間の炭素含有量を有する。
【0016】
このように、直接締結に対して、本発明に係るねじは、その先端の高硬度とそのシャフトの高延性を両立し、さらにシャフトは水硬脆化しにくい。
【0017】
本発明のさらなる実施形態によれば、肌焼きベイナイト化後及び先端の硬化(又は、焼入れ;hardening)後に、ねじに焼戻しを行ってもよい。
【0018】
好ましくは、焼戻し工程は、コーティング工程と一緒に実施されてもよい。具体的には、コーティングは、亜鉛フレークコーティング(zinc flake coating)であってもよい。
【0019】
その別の態様において、本発明は、ねじの頭部を含むシャフトと、ねじの反対側の端部を含む先端とを有するねじに関し、シャフトはその断面にわたって実質的にベイナイト組織を有し、本発明によれば、ねじは、マルテンサイト縁部領域を含む先端を有する。
【0020】
特に、縁部領域は中心部よりも高い炭素含有量を有し、濃度の差は少なくとも0.2%である。
【0021】
シャフトは、その中心部に実質的に焼戻しされたベイナイト組織を有し、その縁部領域に焼戻し組織を有し、後者の組織は中心部よりも高い炭素含有量を有する。先端は、少なくともその縁部領域に焼戻し硬化マルテンサイト組織を有してもよい。
【0022】
本発明に係るねじは、好ましくは前述した方法で製造される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明のさらなる利点、特徴及び可能な用途は、図面に示された実施形態を参照する以下の説明から明らかになるであろう。
【0024】
【
図1】
図1は、ねじ山をシャフトに転造することによって製造された低合金炭素鋼ねじの概略断面図である;
【
図2】
図2は、肌焼きベイナイト化後のねじの概略断面図である;
【
図3】
図3は、先端を局所的に肌焼き(又は、表面焼入れ)させた後のねじの概略断面図である;
【
図4】
図4は、ねじを製造し、先端を肌焼きさせるための本発明に係る方法の概略的な温度-時間図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、プロセス工程後における従来のねじ鋼製の転造ねじ10の概略断面図である。ねじは、ねじ頭部を含むシャフト20と、ここでは先端22と称され、軸方向で頭部と反対側に位置する自由なねじ端とを有する。本発明に係るねじは、プロセスステップにおいて、合金元素の含有量が3%未満である低合金炭素鋼のねじワイヤからねじを成形することによって製造される。具体的には、ねじの製造は、ねじにねじ山を転造することを含む。好ましくは、ねじワイヤの材料は、23MnB4である。この種の鋼は、転造工程で良好に加工することができる。
【0026】
【0027】
図2に示される状態を達成するために、ねじ10を、ねじ10自体よりも高い炭素含有量を有する炭素雰囲気中でオーステナイト化温度まで加熱し、シャフトの縁部領域12及びねじ10の先端の縁部領域18における炭素含有量がねじの中心部におけるものよりも少なくとも0.2%高く、具体的には0.6%から1.5%の間に達するまでこの炭素雰囲気に暴露する。本図において、縁部領域12及び縁部領域18は、模式的に図示されているだけであり、深さは変化してもよい。浸炭に代えて、又は浸炭に加えて、窒化もまた同様に行われてもよい。
【0028】
縁部領域12及び縁部領域18において所望の炭素飽和に達した後、ねじ10は、具体的には溶融塩浴中でベイナイト化温度まで急冷される。ベイナイト化温度は、マルテンサイト開始温度M
Sより上である。ねじは、そのシャフトが実質的にその断面積にわたってベイナイト組織14を有するまで、ベイナイト化温度に保たれる。
図2に係るねじ10は、縁部層12及び縁部層18の炭素含有量が中心部よりも高い。実質的なベイナイト組織とは、断面積の少なくとも80%がベイナイト組織を有すると定義される。場合によっては、他の組織が存在してもよい。
【0029】
図3は、本発明に係るねじ10の概略断面図であり、ねじの先端22は、再び局所的にオーステナイト化温度まで加熱された後、マルテンサイト開始温度M
S未満の温度まで冷却されてマルテンサイトが形成され、炭素含有量が約1%の硬化マルテンサイト微細組織16が先端22、特に縁部層18に存在する。これにより、超硬先端が製造される。
【0030】
図4は、本発明に係る製造方法の概略温度-時間図である。まず、ねじをA
3温度より高いオーステナイト化温度まで加熱する。線材が0.6%から1.5%の間の十分な炭素含有量を有していない場合、かかる加熱を炭素濃縮雰囲気中で行ってもよい。炭素濃縮雰囲気は、線材よりも炭素濃度が高いので、加熱中に炭素雰囲気からねじの縁部領域に炭素が拡散する。
【0031】
その後、ねじは、ベイナイト化温度まで急冷される。ベイナイト化温度は、線材がその時間-温度線図のベイナイト相領域にあるときの温度である。焼入れ時間は、焼入れ中にフェライトとパーライトの両方が形成されないように選択される。ねじは、ねじの断面のかなりの部分がベイナイト組織となるまで、ベイナイト化温度で保持される。その後、室温まで冷却する。
【0032】
このようにして製造されたねじが室温RTまで冷却された後、その先端を局所的にオーステナイト化温度まで再加熱した後、マルテンサイト開始温度MS未満まで再び急冷することにより、少なくとも先端の縁部領域にマルテンサイト組織が形成される。