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特許7591076血圧測定装置、モデル設定装置、および血圧測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】血圧測定装置、モデル設定装置、および血圧測定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/021 20060101AFI20241120BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
A61B5/021
A61B5/02 A
A61B5/02 E
A61B5/02 310Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023033423
(22)【出願日】2023-03-06
(62)【分割の表示】P 2020569686の分割
【原出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2023060172
(43)【公開日】2023-04-27
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019017189
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】小川 莉絵子
(72)【発明者】
【氏名】足立 佳久
(72)【発明者】
【氏名】岩井 敬文
(72)【発明者】
【氏名】江戸 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】富澤 亮太
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-089829(JP,A)
【文献】米国特許第06527725(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0236025(US,A1)
【文献】特開2016-131825(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0007137(US,A1)
【文献】特開2000-225097(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098977(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/199631(WO,A1)
【文献】特開2009-213636(JP,A)
【文献】特開2000-237153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の脈波に基づき当該生体の第1血圧を測定する血圧測定装置であって、
上記生体の体表における所定の領域において少なくとも1つの脈波を取得する脈波取得部と、
上記少なくとも1つの脈波のみに基づき、少なくとも1つの脈波パラメータを算出する脈波パラメータ算出部と、
上記生体の第2血圧を取得する血圧取得部と、
上記第2血圧および上記生体の画像に基づき上記生体の血管状態に関連する情報である属性情報を取得する属性情報取得部と、
上記属性情報に含まれる上記生体の血管年齢を示す情報および上記生体の性別を示す情報に基づき、上記生体の属性を分類する属性分類部と、を備えており、
上記血圧測定装置は、上記属性の分類結果に該当する上記第1血圧を推定するための少なくとも1つの血圧推定モデルが予め保管されたモデル保管部と通信可能に接続されており、
上記血圧測定装置は、上記属性の分類結果に該当する上記少なくとも1つの血圧推定モデルを用いて、上記少なくとも1つの脈波パラメータおよび定数のみに基づき上記第1血圧を算出する第1血圧測定部をさらに備える血圧測定装置。
【請求項2】
上記モデル保管部には、さらに、上記少なくとも1つの血圧推定モデルのそれぞれの評価結果が予め保管されており、
上記第1血圧測定部は、上記少なくとも1つの血圧推定モデルのそれぞれの上記評価結果に基づき、当該少なくとも1つの血圧推定モデルの中から、上記第1血圧を算出するための測定モデルを選択するモデル選択部により選択された上記属性の分類結果に応じた上記測定モデルを用いて、上記少なくとも1つの脈波パラメータに基づき上記第1血圧を算出する、請求項1に記載の血圧測定装置。
【請求項3】
Nを2以上の整数として、
上記属性分類部は、上記属性を、第1属性から第N属性までのN通りのパターンに分類し、
kを1以上かつN以下の整数として、
上記モデル保管部には、第k属性に応じた上記少なくとも1つの上記血圧推定モデルである、少なくとも1つの第kモデルが予め保管されている、請求項1または2に記載の血圧測定装置。
【請求項4】
上記属性情報に含まれている分類指標の最新の算出から一定期間経っている場合に、上記生体に通知することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項5】
上記属性情報取得部は、上記第2血圧の値に基づき、少なくとも上記第1血圧の測定前に一度、上記属性情報を取得する、請求項1から4のいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項6】
上記属性情報には、上記生体の平均血圧を示す情報が含まれている、請求項1からのいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項7】
上記属性情報には、上記生体の脈圧を示す情報が含まれている、請求項1からのいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項8】
上記属性情報取得部は、上記属性情報をクラウドを介して取得することを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項9】
上記属性情報は、クラウド上で計算されることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項10】
上記属性情報取得部は、上記属性情報を手動で入力することで取得することを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項11】
上記属性情報には、上記生体の血管の動脈硬化の程度に関する情報が含まれている、請求項1から10のいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項12】
上記属性情報には、上記生体の見た目年齢を示す情報が含まれている、請求項1から11のいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項13】
上記属性情報には、上記少なくとも1つの脈波の波形特徴量を示す情報が含まれている、請求項1から12のいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項14】
上記属性情報には、上記所定の領域にむくみが生じているか否かを示す情報が含まれている、請求項1から13のいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項15】
上記所定の領域は、上記生体の顔である、請求項1から14のいずれか1項に記載の血圧測定装置。
【請求項16】
生体の脈波に基づき当該生体の第1血圧を測定する血圧測定装置を用いた血圧測定方法であって、
上記生体の体表における所定の領域において少なくとも1つの脈波を取得する脈波取得工程と、
上記少なくとも1つの脈波のみに基づき、少なくとも1つの脈波パラメータを算出する脈波パラメータ算出工程と、
上記生体の第2血圧を取得する血圧取得工程と、
上記第2血圧および上記生体の画像に基づき上記生体の血管状態に関連する情報である属性情報を取得する属性情報取得工程と、
上記属性情報に含まれる上記生体の血管年齢を示す情報および上記生体の性別を示す情報に基づき、上記生体の属性を分類する属性分類工程と、を含んでおり、
上記血圧測定装置は、上記属性の分類結果に該当する上記第1血圧を推定するための少なくとも1つの血圧推定モデルが予め保管されたモデル保管部と通信可能に接続されており、
上記血圧測定方法は、上記属性の分類結果に該当する上記少なくとも1つの血圧推定モデルを用いて、上記少なくとも1つの脈波パラメータおよび定数のみに基づき上記第1血圧を算出する第1血圧測定工程を含んでいる、血圧測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一態様は、生体の脈波に基づいて当該生体の血圧を測定する血圧測定装置に関する。
本願は、2019年2月1日に日本で出願された特願2019-17189号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体(例:被検体)の血圧を測定するための様々な技術が提案されている。一例として、特許文献1には、生体の血圧を簡便に測定(より厳密には、推定)することを目的とした技術が開示されている。具体的には、特許文献1の技術では、生体の年齢(実年齢)および性別に応じて予め定式化されたモデル(計算式)を用いて、当該生体の血圧が推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-220690号公報
【文献】特開2002-238867号公報
【文献】特開2015-40839号公報
【文献】特開2009-086901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、以下に述べるように、生体の血圧をより高精度に測定するための具体的な手法については、なお改善の余地がある。本開示の一態様の目的は、従来よりも高精度に生体の血圧を測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る血圧測定装置は、生体の脈波に基づき当該生体の第1血圧を測定する血圧測定装置であって、上記生体の体表における所定の領域において少なくとも1つの脈波を取得する脈波取得部と、上記少なくとも1つの脈波に基づき、少なくとも1つの脈波パラメータを算出する脈波パラメータ算出部と、上記生体の第2血圧を取得する血圧取得部と、上記生体の血管状態に関連する情報である属性情報を取得する属性情報取得部と、上記属性情報に基づき、上記生体の属性を分類する属性分類部と、を備えており、上記血圧測定装置は、上記属性の分類結果に該当する上記第1血圧を推定するための少なくとも1つの血圧推定モデルが予め保管されたモデル保管部と通信可能に接続されており、上記血圧測定装置は、上記属性の分類結果に該当する上記少なくとも1つの血圧推定モデルを用いて、上記少なくとも1つの脈波パラメータに基づき上記第1血圧を算出する第1血圧測定部をさらに備え、上記属性分類部は、上記血圧取得部が取得した第2血圧から算出された分類指標に基づき、上記生体の属性を分類する。
【0006】
また、上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るモデル設定装置は、生体の脈波に基づき当該生体の第1血圧を測定する血圧測定装置と通信可能に接続されたモデル設定装置であって、上記生体の第2血圧を測定する第2血圧測定部と、上記生体の体表における所定の領域において少なくとも1つの脈波を取得する脈波取得部と、上記少なくとも1つの脈波に基づき、少なくとも1つの脈波パラメータを算出する脈波パラメータ算出部と、上記生体の血管状態に関連する情報である属性情報を取得する属性情報取得部と、上記属性情報に基づき、上記生体の属性を分類する属性分類部と、を備えており、上記モデル設定装置は、上記属性の分類結果に該当する上記第1血圧を推定するための少なくとも1つの血圧推定モデルを保管可能なモデル保管部と通信可能に接続されており、上記モデル設定装置は、上記少なくとも1つの脈波パラメータと上記第2血圧とに基づき上記少なくとも1つの血圧推定モデルを作成し、当該少なくとも1つの血圧推定モデルを上記モデル保管部に保管するモデル作成部をさらに備えており、上記属性分類部は、上記血圧取得部が取得した第2血圧から算出された分類指標に基づき、上記生体の属性を分類することを特徴とする。
【0007】
また、上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る血圧測定方法は、生体の脈波に基づき当該生体の第1血圧を測定する血圧測定装置を用いた血圧測定方法であって、上記生体の体表における所定の領域において少なくとも1つの脈波を取得する脈波取得工程と、上記少なくとも1つの脈波に基づき、少なくとも1つの脈波パラメータを算出する脈波パラメータ算出工程と、上記生体の第2血圧を取得する血圧取得工程と、上記生体の血管状態に関連する情報である属性情報を取得する属性情報取得工程と、上記属性情報に基づき、上記生体の属性を分類する属性分類工程と、を含んでおり、上記血圧測定装置は、上記属性の分類結果に該当する上記第1血圧を推定するための少なくとも1つの血圧推定モデルが予め保管されたモデル保管部と通信可能に接続されており、上記血圧測定方法は、上記属性の分類結果に該当する上記少なくとも1つの血圧推定モデルを用いて、上記少なくとも1つの脈波パラメータに基づき上記第1血圧を算出する第1血圧測定工程を含んでおり、上記属性分類工程は、上記血圧取得工程が取得した第2血圧から算出された分類指標に基づき、上記生体の属性を分類する工程をさらに含んでいる。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様に係る血圧測定装置によれば、従来よりも高精度に生体の血圧を測定できる。本開示の一態様に係る血圧測定方法によっても、同様の効果を奏する。また、本開示の一態様に係るモデル設定装置によっても、同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1の血圧測定装置の要部の構成を示す機能ブロック図である。
図2】顔画像分割部の処理の一例について説明するための図である。
図3】(a)は血管年齢が低い被検体から取得された加速度脈波波形の一例を示す図であり、(b)は血管年齢が高い被検体から取得された加速度脈波波形の一例を示す図である。
図4】波形特徴量に基づいて複数の被検体を分類した結果の一例を示す図である。
図5】(a)は共通モデルにおける血圧真値と血圧予測値との間の関係の一例を示す図であり、(b)は属性別モデルにおける血圧真値と血圧予測値との間の関係の一例を示す図である。
図6】モデル評価部において測定モデルを設定するための処理の一例を説明するための図である。
図7】測定モデル設定方法の処理の流れを例示する図である。
図8】脈波信号のパワースペクトルの一例を示す図である。
図9】異なる属性を有する被検体のそれぞれについての、血圧とPWVとの間の関係の一例を示す図である。
図10】実施形態2の血圧測定装置の要部の構成を示す機能ブロック図である。
図11】平均血圧値と属性の一例を示す図である。
図12】血圧値の手動入力の一例を示す図である。
図13】(a)は被検体の名前と被検体の属性とが対応付けられた情報の一例であり、(b)は被検体のIDと被検体の属性とが対応付けられた情報の一例である。
図14】血圧測定装置の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図15】平均血圧と脈圧の散布図、および平均血圧と脈圧に対応する属性の一例を示す図である。
図16】クラウドを利用した変形例の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
実施形態1の血圧測定装置1について、以下に説明する。便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、以降の各実施形態では、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。公知技術と同様の事項についても、説明を適宜省略する。なお、各図に示されている装置構成は、説明の便宜上のための単なる一例である。また、明細書中において以下に述べる各数値も、単なる一例である。
【0011】
(血圧測定装置1の概要)
図1は、実施形態1の血圧測定装置1の要部の構成を示す機能ブロック図である。血圧測定装置1は、被検体H(生体)の脈波に基づいて、当該被検体Hの血圧(以下、単に血圧)を測定する。具体的には、血圧測定装置1は、以下に述べるモデル設定装置100において設定された血圧測定モデル(以下、単に「測定モデル」とも称する)を用いて、血圧を測定する。なお、本明細書では、後述する血圧推定モデルを、単に「推定モデル」とも称する。また、測定モデルおよび推定モデルを総称的に、単に「モデル」と称する場合もある。
【0012】
以下の説明では、非接触式の血圧測定装置(被検体Hに接触することなく血圧を測定可能な測定装置)としての血圧測定装置1について述べる。実施形態1では、被検体Hが人である場合を例示する。血圧測定装置1は、被検体Hの体表における所定の領域を、ROI(Region of Interest,関心領域)として取り扱うことで、血圧を測定する。以下の説明では、ROIが顔である場合を例示する。なお、本明細書では、被検体Hの顔を、単に「顔」とも称する。その他の表記についても、同様である。
【0013】
血圧測定装置1は、モデル設定装置100、モデル選択部60、脈波信号品質評価部150、血圧測定部160(第1血圧測定部)、および血圧測定結果出力部170を備えている。モデル設定装置100は、血圧取得部2(第2血圧測定部)と、脈波取得部10と、脈波パラメータ算出部20、血管年齢算出部21、性別検出部22、属性分類部23、モデル作成部30、モデル評価部40、およびモデル保管部55を備えている。
【0014】
図1の例では、モデル設定装置100は、血圧測定装置1の内部に設けられている。但し、モデル設定装置100を、血圧測定装置1の外部に設けることもできる(後述の実施形態2を参照)。
【0015】
血圧取得部2は、被検体Hの血圧を測定する。血圧取得部2は、接触式の血圧計(例:カフ血圧計)である。血圧取得部2によって測定された血圧(以下、BPm)は、モデル設定装置100におけるテスト用データ(あるいは訓練用データ)として用いられる。すなわち、BPmは、モデル設定装置100において(より具体的には、モデル評価部40において)測定モデルを設定するために用いられる。また、BPmは、モデル作成部30において少なくとも1つの推定モデルを作成するためにも用いられる。
【0016】
血圧取得部2は、モデル作成部30およびモデル評価部40(より具体的には、以下に述べるモデル評価指数算出部42)に、BPmを出力する。なお、血圧測定装置1における最終的な血圧測定結果(後述のP)を、第1血圧とも称する。また、当該第1血圧との区別のため、BPmを第2血圧とも称する。後述するように、Pは血圧測定部160によって測定(算出)される。
【0017】
(脈波取得部10)
脈波取得部10は、ROI(例:顔)における脈波を取得する。脈波取得部10は、撮像部11と、光源12と、光源調節部13と、顔画像取得部14と、顔画像分割部15と、肌領域抽出部16と、脈波算出部17とを備えている。
【0018】
撮像部11は、イメージセンサとレンズとを含むカメラである。当該イメージセンサとしては、例えば、CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)型またはCCD(Charge-Coupled Device)型のイメージセンサが用いられてよい。撮像部11は、所定のフレームレートによって(つまり、所定の時間間隔ごとに)、被検体Hを複数回撮像し、撮像した被検体Hの画像(以下、被検体画像)を顔画像取得部14へ出力する。一例として、上記フレームレートは、300fps(frames per second)である。
【0019】
撮像部11は、公知のカラーフィルタを含んでいてもよい。当該カラーフィルタは、血液量の増減を観察するために適した光学特性を有していることが好ましい。好適なカラーフィルタの例としては、(i)RGBCy(Red,Blue,Green,Cyan:赤,青,緑,シアン)カラーフィルタ、(ii)または、RGBIR(Red,Blue,Green,Infrared:赤,青,緑,赤外)カラーフィルタを挙げることができる。あるいは、カラーフィルタとして、ベイヤー配列のカラーフィルタを用いてもよい。このように、撮像部11は、RGBカメラであってもよいし、あるいはIRカメラであってもよい。
【0020】
光源12は、撮像部11が被検体Hを撮像する場合に、当該被検体Hに対して光を照射する。光源調節部13は、光源12を調節する。一例として、光源調節部13は、モデル設定装置100によって設定された測定モデルにおいて使用される領域間の脈波伝播時間(脈波パラメータの一例)を精度良く算出できるように、光源を調節することが好ましい。
【0021】
具体的には、光源調節部13は、該当する領域において一定の信号品質を有する脈波を検出できるように光源12を調節する。「一定の信号品質を有する脈波」とは、例えば、「SNR(Signal-to-Noise Ratio,信号対雑音比)が高い脈波」である。より具体的には、光源調節部13は、(i)光源12の光量、(ii)光源12の光スペクトル、および、(iii)被検体Hの肌に対する照射角度、のうちの少なくとも1つを調節する。
【0022】
なお、脈波取得部10には、光源12および光源調節部13は必ずしも設けられなくともよい。光源12および光源調節部13が設けられない場合、撮像部11は、周囲環境光のみを用いて被検体Hを撮像してもよい。
【0023】
顔画像取得部14は、撮像部11によって撮像された被検体画像から、被検体Hの顔領域を抽出する。顔画像取得部14は、顔領域が抽出された後の画像を、顔画像(被検体Hの顔が写った画像)として取得する。顔画像は、ROIの像を含む画像の一例である。一例として、顔画像取得部14は、被検体が写った動画像(複数の被検体画像によって構成される動画像)に対してフェイストラッキングを行うことにより、当該動画像の所定のフレーム間隔毎に、顔領域を抽出してもよい。
【0024】
但し、顔画像取得部14は、必ずしもフェイストラッキングを行わなくとも、顔領域を抽出できる。例えば、(i)予め設定された枠の中に被検体Hに顔を入れさせ、かつ、(ii)当該顔と撮像部11とが固定された状態で、撮像部11によって被検体画像を撮像してもよい。このような場合には、被検体画像における顔のブレを抑制できるので、フェイストラッキングは不要である。
【0025】
顔画像分割部15は、顔画像取得部14によって抽出された顔画像を複数の領域(部分領域)に分割する。以下の説明では、便宜上、顔画像を「IMG」とも称する。図2は、顔画像分割部15の処理の一例について説明するための図である。図2には、顔画像分割部15による分割後のIMGの一例が示されている。図2のIMGは、正面を向いた顔が写っている顔画像の一例である。
【0026】
図2の例では、顔画像分割部15は、IMGを、縦方向および横方向にそれぞれ10分割(例:それぞれ10等分)する。つまり、顔画像分割部15は、IMGを、100個の部分領域(部分領域1~100)に分割する。但し、顔画像分割部15によるIMGの分割方法は、図2の例に限定されない。例えば、各部分領域のサイズは、必ずしも同一でなくともよい。
【0027】
肌領域抽出部16は、各部分領域から肌領域(肌の少なくとも一部が写った領域)を抽出する。肌領域は、被覆物(例:髪の毛またはサングラス)によって肌が完全に覆い隠されていない領域である。肌領域は、脈波の検出(算出)が可能な領域とも表現できる。図2の例では、肌領域は、各部分領域のうち、網掛けが付されていない領域として示されている。図2の例において、肌領域抽出部16は、100個の部分領域から、52個(52箇所)の肌領域を抽出する。
【0028】
脈波算出部17は、肌領域抽出部16によって抽出された肌領域のそれぞれについて、脈波(より厳密には、脈波信号)を算出する。脈波算出部17における脈波の算出方法としては、公知の手法(例:独立成分分析を利用した手法)が適用されてよい。一例として、顔画像分割部15が設けられない場合には、脈波算出部17によって1つの脈波が算出されてもよい。脈波算出部17は、少なくとも1つの脈波を算出すればよい。
【0029】
脈波パラメータ算出部20は、脈波算出部17によって算出された各肌領域の脈波に基づき、脈波パラメータを算出する。本明細書において、「脈波パラメータ」とは、測定モデルに基づく血圧の測定(算出)において用いられる説明変数(独立変数とも称される)を総称的に意味する。脈波パラメータ算出部20は、少なくとも1つの脈波に基づき、少なくとも1つの脈波パラメータを算出すればよい。
【0030】
脈波パラメータの一例としては、各肌領域間における脈波伝播時間(Pulse Transit Time,PTT)を挙げることができる。そこで、実施形態1では、脈波パラメータ算出部20は、公知の手法を用いて、各肌領域の脈波に基づきPTTを算出する。なお、領域A(任意の1つの肌領域)と領域B(領域Aとは別の1つの肌領域)との間のPTTを、PTT(A-B)とも表す。例えば、図2の領域23・24間のPTTは、PTT(23-24)として表される。
【0031】
図2の例の場合、脈波パラメータ算出部20は、52個の肌領域から、任意の2つの肌領域の組み合わせを選択する。すなわち、脈波パラメータ算出部20は、総数で52=1326通りの組み合わせを選択する。そして、脈波パラメータ算出部20は、各組み合わせについて、PTTを算出する。このように、脈波パラメータ算出部20は、1326通りのPTT、すなわち、PTT(23-24)~PTT(96-97)を算出する。
【0032】
また、脈波パラメータの別の例としては、各肌領域における脈波の波形特徴量を挙げることもできる。そこで、脈波パラメータ算出部20は、公知の手法を用いて、波形特徴量を算出してもよい。一例として、波形特徴量は、(i)脈波波形、(ii)速度脈波波形(脈波信号を1回微分することで得られる波形)、または、(iii)加速度脈波波形(脈波信号を2回微分することで得られる波形)に基づいて、算出されてよい。
【0033】
一例として、脈波パラメータ算出部20は、脈波信号から加速度脈波波形を導出し、当該加速度脈波波形を解析することにより、波形特徴量を算出してよい。後述する図3には、加速度脈波波形の一例が示されている。図3のa~dは、加速度脈波波形の特徴点を示す。具体的には、
・特徴点a:加速度脈波波形の第1の極大点;
・特徴点b:加速度脈波波形の第1の極小点;
・特徴点c:加速度脈波波形の第2の極大点;
・特徴点d:加速度脈波波形の第2の極小点;
である。以下の説明では、簡単のため、特徴点aにおける加速度脈波波形の振幅を、単に「振幅a」(あるいは、単に「a」)とも称する。b~dについても同様である。
【0034】
一例として、脈波パラメータ算出部20は、(i)各振幅(a~d)を波形特徴量として算出してもよい。あるいは、脈波パラメータ算出部20は、各振幅の比(例:b/a)を波形特徴量として算出してもよい(図4も参照)。また、脈波パラメータ算出部20は、各特徴点間の時間差(例:特徴点aと特徴点bとの間の時間差)を、波形特徴量として算出してもよい。
【0035】
(血管年齢算出部21)
血管年齢算出部21は、脈波算出部17において算出された脈波に基づいて、被検体Hの血管年齢(以下、単に血管年齢)を算出する。例えば、血管年齢算出部21は、上記脈波を解析することにより、血管年齢を算出する。血管年齢の算出には、公知の手法(例えば、特許文献2を参照)が用いられてよい。
【0036】
血管年齢を示す情報(血管年齢情報)は、被検体Hの属性情報(以下、単に属性情報)の一例である。本明細書において、属性情報とは、被検体Hの血管状態に関連する情報(血管状態関連情報)を総称的に意味する。血管状態関連情報は、被検体H特有の性質(より具体的には、体質)に関連する情報の一例である。本明細書では、属性情報を取得する機能部を、総称的に属性情報取得部と称する。従って、血管年齢算出部21は、属性情報取得部の一例である。
【0037】
図3は、血管年齢と加速度脈波波形との間の関係の一例を示すグラフである(特許文献2も参照)。図3の(a)は、血管年齢が低い(若い)被検体から取得された加速度脈波波形の一例を示す。これに対し、図3の(b)は、血管年齢が高い(老いた)被検体から取得された加速度脈波波形の一例を示す。具体的には、血管年齢が低い被検体とは、動脈硬化があまり進行していない被検体を意味する。他方、血管年齢が高い被検体とは、動脈硬化がある程度進行している被検体を意味する。
【0038】
加速度脈波波形は、血管年齢に応じて変化することが知られている。図3の(a)に示されるように、血管年齢が若い場合には、振幅bは比較的大きく、振幅dは比較的小さい。これに対し、図3の(b)に示されるように、血管年齢が高くなるにつれて、振幅bは小さくなり、その一方で振幅dが大きくなる。
【0039】
そこで、血管年齢算出部21は、以下の波形指数(Waveform Index,WI)、
WI=d/a-b/a
を算出し、当該WIに基づいて、血管年齢を算出してよい。WIは、血管年齢を示す有効な指標の1つである。なお、血管年齢算出部21は、複数の肌領域においてWIを算出した場合には、各WIの代表値(例:平均値または中央値)を用いて血管年齢を算出してもよい。
【0040】
(性別検出部22)
性別検出部22は、被検体Hの性別を検出(判定)する。一例として、性別検出部22は、IMGを解析することによって、被検体Hの性別を判定する。実施形態1では、性別検出部22は、公知のディープラーニング技術を用いて、IMGに映っている被検体Hの性別が、男性または女性のいずれであるかを特定する。被検体Hの性別を示す情報(性別情報)は、属性情報の別の例である。従って、性別検出部22は、属性情報取得部の別の例である。
【0041】
(属性分類部23)
属性分類部23は、属性情報に基づき、被検体Hの属性(以下、単に属性)を分類(検出)する。本明細書における属性とは、「血管状態に応じた属性」を意味する。具体的には、属性分類部23は、当該属性が、予め設定された複数の属性に関するパターンのうちの、いずれのパターンに属するかを判定する。以下、パターンの総数をNとして表す。Nは、2以上の任意の整数である。また、各パターンを、パターンkとも称する。kは、1≦k≦Nを満たす整数である。
【0042】
一例として、属性分類部23は、被検体Hの血管年齢および性別に基づき、属性を分類してよい。例えば、属性分類部23は、複数の被検体Hを、血管年齢の年代および性別ごとに分類してよい。この場合、例えば、属性分類部23は、
・被検体HAの属性:血管年齢20代の男性;
・被検体HBの属性:血管年齢30代の女性;
として、2人の異なる被検体(被検体HA・HB)の属性を、異なるパターンに分類できる。
【0043】
但し、属性分類部23による属性分類方法は、上記の例に限定されない。例えば、属性分類部23は、脈波パラメータ算出部20によって算出された波形特徴量(脈波パラメータ算出部20による脈波の解析結果の一例)に基づいて、属性を分類してもよい。
【0044】
本例では、脈波パラメータ算出部20が、属性情報取得部として用いられていると言える。つまり、波形特徴量を示す情報(波形特徴量情報)を、属性情報として用いることもできる。このように、属性情報は、血管年齢情報および性別情報に限定されないことに留意されたい。
【0045】
一例として、本願の発明者ら(以下、単に発明者ら)は、脈波パラメータ算出部20によって、加速度脈波波形の振幅比「b/a」を波形特徴量として算出した。そして、発明者らは、属性分類部23によって、当該波形特徴量に基づき10人の被検体を分類した。図4は、当該分類結果の一例を示す表である。図4の表では、各被検体の振幅比が、降順に並べられている。
【0046】
図4の例では、属性分類部23は、各被検体の振幅比と所定の閾値とを比較することによって、当該各被検体を2通りに分類する。図4の例では、閾値は、「-0.600」として設定されている。具体的には、属性分類部23は、ある被検体の振幅比が上記閾値以上である場合には、当該被検体の属性を、「属性1」として分類する。これに対し、属性分類部23は、ある被検体の振幅比が上記閾値未満である場合には、当該被検体の属性を、「属性2」として分類する。属性1・2はそれぞれ、パターン1・2の一例である。なお、属性kを、「第k属性」とも称する。
【0047】
続いて、発明者らは、後述する方法により、属性1・2のそれぞれに応じた推定モデル(便宜上、属性別モデルと称する)を作成した。推定モデルとは、血圧を算出(推定)するための計算モデルである。
【0048】
また、発明者らは、属性別モデルとの対比のため、従来の推定モデルを作成した。従来の推定モデルは、属性別に作成されていない(全ての属性について共通である)という点において、属性別モデルとは異なる。このことから、従来の推定モデルは、共通モデルとも称される。
【0049】
そして、発明者らは、共通モデルと属性別モデルとの性能比較を行った。図5には、当該性能比較結果の一例が示されている。図5の(a)は、共通モデルにおける血圧真値と血圧予測値との間の関係の一例を示すグラフである。これに対し、図5の(b)は、属性別モデルにおける血圧真値と血圧予測値との間の関係の一例を示すグラフである。
【0050】
なお、図5における血圧真値とは、カフ血圧計(血圧取得部2)によって測定された、血圧(すなわちBPm)である。図5のBPmは、血圧の実測値(真値)の一例である。これに対し、図5における血圧予測値とは、測定モデルを用いてモデル評価部40(後述)によって算出された血圧(すなわちBPe)である。図5のBPeは、血圧の予測値の一例である。
【0051】
発明者らは、モデル評価部40を用いて、共通モデルと属性別モデルとのそれぞれについて、血圧真値と血圧予測値との標準偏差(すなわち、誤差の標準偏差)を算出した。その結果、共通モデルにおける標準偏差は、12.23mmHgであった。これに対し、属性別モデルにおける標準偏差は、9.25mmHgであった。
【0052】
また、発明者らは、モデル評価部40を用いて、共通モデルと属性別モデルとのそれぞれについて、血圧真値と血圧予測値との平均二乗誤差(Mean Square error,MSE)を算出した。その結果、共通モデルにおけるMSEは、149.64mmHgであった。これに対し、属性別モデルにおけるMSEは122.04mmHgであった。
【0053】
以上のように、属性別モデルによれば、共通モデルに比べて誤差を低減できることが確認された。このように、属性別モデルによれば、共通モデルに比べて血圧の測定精度を向上させることが可能である。
【0054】
(補足)
なお、図4の例においても、Nは2に限定されない。分類対象となる被検体の総数をNTとした場合、Nは、2≦N≦NT-1を満たす任意の自然数Nであればよい。図4の例では、図4の例では、NT=10であるので、2≦N≦9である。この場合、振幅比に関して、第1閾値から第N-1閾値までの、N-1個の閾値を設定することにより、NT人の被検体を、N通りのパターン(第1属性~第N属性)に分類できる。一例として、各閾値の大小関係は、「第1閾値>第2閾値>…>第N-1閾値」として、閾値番号順に設定されればよい。
【0055】
(モデル作成部30)
モデル作成部30は、推定モデルを作成する。具体的には、モデル作成部30は、(i)血圧取得部2において取得された被検体Hの血圧(BPm)と、(ii)脈波パラメータ算出部20において算出された脈波パラメータとを、訓練(学習)用データとして用いることにより、推定モデルを作成する。脈波パラメータは、PTTおよび波形特徴量の少なくともいずれかであってよい。
【0056】
図1に示されるように、モデル作成部30は、第1モデル作成部300-1、第2モデル作成部300-2、…、および第Nモデル作成部300-Nを有する。第kモデル作成部300-kは、第k属性(パターンk)に応じた推定モデルを作成する。kは、1≦k≦Nを満たす整数である。このように、モデル作成部30は、各属性に応じた推定モデルを作成できる。
【0057】
本明細書では、便宜上、第1モデル作成部300-1~第Nモデル作成部300-Nを総称的に、モデル作成部30とも称する。モデル作成部30についての説明は、任意の第kモデル作成部300-kに当てはまる。同様の趣旨により、本明細書では、後述する第1モデル評価用予測血圧算出部410-1~第Nモデル評価用予測血圧算出部410-Nを総称的に、評価用予測血圧算出部41とも称する。また、後述する第1モデル評価指数算出部420-1~第Nモデル評価指数算出部420-Nを総称的に、モデル評価指数算出部42とも称する。同様に、後述する第1モデル選択部600-1~第Nモデル選択部600-Nを総称的に、モデル選択部60とも称する。
【0058】
(推定モデルの作成方法の一例)
脈波が血管内を伝播する速度vは、Moens-Kortewegの式、すなわち、
【0059】
【数1】
【0060】
によって表される。式(1)において、Eは血管のヤング率であり、aは血管壁圧であり、Rは血管径であり、ρは血液密度である。
【0061】
血管のヤング率Eは、血圧Pに対して指数関数的に変化することが知られている。従って、P=0における血管のヤング率をE0とした場合、Eは、
【0062】
【数2】
【0063】
として表される。γは、血管に依存する定数である。
【0064】
また、血管経路の長さLは、
【0065】
【数3】
【0066】
として表される。Tは脈波伝播時間(PTT)であり、Lは血管経路の長さである。
【0067】
従って、式(1)~(3)から、
【0068】
【数4】
【0069】
が導かれる。
【0070】
式(4)に示されるように、Lが一定の場合、TはPと相関関係を有する。このため、モデル作成部30は、脈波パラメータ算出部20において算出されたPTT(脈波パラメータの一例)を用いて、Pの推定モデルを少なくとも1つ作成してよい。
【0071】
以下の説明では、簡単のため、脈波パラメータとしてPTTのみを用いる場合を例示する。但し、上述の通り、PTTに替えて波形特徴量のみを用いて、推定モデルを作成することもできる。あるいは、PTTと波形特徴量との両方を用いて、推定モデルを作成することもできる。
【0072】
まず、モデル作成部30は、複雑度1の推定モデルM1を作成する。本明細書における「複雑度」とは、推定モデルにおける説明変数の数(例:推定モデルにおいて用いられる脈波パラメータの数)を意味する。以下の例では、推定モデルM1では、説明変数として1つのPTTが用いられている。
【0073】
以下の説明では、脈波パラメータ算出部20において算出された1つのPTTを、PTT1として表す。PTT1は、任意の2つの肌領域間におけるPTTである。モデル作成部30は、PTT1とBPmとに対して、最小二乗法を用いた回帰分析を行う。モデル作成部30は、回帰分析の結果として、推定モデルM1を作成する。脈波パラメータ算出部20において算出された各PTT、および、血圧取得部2において取得されたBPmはいずれも、訓練(学習)用データの一例である。
【0074】
一例として、推定モデルM1が、
BP1=α1×PTT1+α2 …(5)
によって表される線形モデル(線形関数によって表現される計算モデル)である場合を考える。式(5)において、BP1は予測血圧であり、α1およびα2はそれぞれ定数である。この場合、モデル作成部30は、回帰分析を行うことにより、α1およびα2を算出する(すなわち、推定モデルM1を作成する)。
【0075】
以下では便宜上、図2の例における1326通りのPTTのそれぞれを、PTT1-1~PTT1-1326と称する。モデル作成部30は、PTT1-1~PTT1-1326を用いて、当該PTTと同数の推定モデルM1を作成する。便宜上、これらの推定モデルM1のそれぞれを、M1-1~M1-1326と称する。
【0076】
次に、モデル作成部30は、複雑度2の推定モデルM2を作成する。推定モデルM2では、説明変数として2つのPTTが用いられている。以下の説明では、脈波パラメータ算出部20において算出された互いに異なる2つのPTTを、PTT1およびPTT2として表す。
【0077】
モデル作成部30は、(i)PTT1およびPTT2と、(ii)BPmと、に対して、最小二乗法を用いた回帰分析を行う。モデル作成部30は、回帰分析の結果として、推定モデルM2を作成する。
【0078】
一例として、推定モデルM2が、
BP2=β1×PTT1+β2×PTT2+β3 …(6)
によって表される線形モデルである場合を考える。式(6)において、BP2は予測血圧であり、β1~β3はそれぞれ定数である。この場合、モデル作成部30は、回帰分析を行うことにより、β1~β3を算出する。
【0079】
図2の例では、モデル作成部30は、PTT1-1~PTT1-1326を用いて、当該PTTよりも多数の推定モデルM2を作成する。本例では、PTT1とPTT2の組み合わせは、878475通り(つまり、1326通り)である。従って、モデル作成部30は、878475個の推定モデルM2を算出する。
【0080】
ところで、上述の通り、PTTと波形特徴量との両方を用いて、推定モデルM2を作成することもできる。この場合、例えば、PTTを第1の説明変数、波形特徴量を第2の説明変数として、推定モデルM2が作成されてよい。
【0081】
以下同様にして、モデル作成部30は、複雑度3の推定モデルM3、複雑度4の推定モデルM4、…、複雑度zの推定モデルMzを作成する。zは、複雑度の上限値を示す。zは、モデル設定装置100の製造者によって、適宜設定されてよい。モデル作成部30は、作成した各推定モデルを、モデル評価部40(より具体的には、評価用予測血圧算出部41)に供給する。
【0082】
以上の説明の通り、第1モデル作成部300-1は、属性1に応じた推定モデル(以下、第1モデル)を作成する。第2モデル作成部300-2~第Nモデル作成部300-Nについても同様である。すなわち、第kモデル作成部300-kは、属性kに応じた推定モデル(以下、第kモデル)を作成する。
【0083】
このように、モデル作成部30は、第1モデル~第Nモデルを作成する。以下、第1モデル~第Nモデルを総称して、推定モデル群とも称する。図1の例では、モデル作成部30は、作成した推定モデル群を、モデル評価部40およびモデル保管部55にそれぞれ供給する。
【0084】
(モデル評価部40)
モデル評価部40は、モデル作成部30において作成された各推定モデルを評価し、その評価結果を出力する。具体的には、モデル評価部40は、以下に述べるPIを、評価結果として出力する。図1の例では、モデル評価部40は、モデル作成部30から推定モデル群を直接的に取得している。但し、モデル評価部40は、モデル保管部55に予め保管された推定モデル群を取得してもよい。
【0085】
モデル評価部40は、評価用予測血圧算出部41とモデル評価指数算出部42とを有する。評価用予測血圧算出部41は、第1モデル評価用予測血圧算出部410-1、第2モデル評価用予測血圧算出部410-2、…、および第Nモデル評価用予測血圧算出部410-Nを有する。また、モデル評価指数算出部42は、第1モデル評価指数算出部420-1、第2モデル評価指数算出部420-2、…、および第Nモデル評価指数算出部420-Nを有する。
【0086】
第kモデル評価用予測血圧算出部410-kおよび第kモデル評価指数算出部420-kはそれぞれ、第kモデルに応じた機能部である。第kモデル評価用予測血圧算出部410-kと第kモデル評価指数算出部420-kとを総称して、「第kモデル評価部」とも称する。
【0087】
評価用予測血圧算出部41は、モデル作成部30において作成された推定モデルにおける予測血圧(以下、BPe)を算出する。具体的には、評価用予測血圧算出部41は、当該推定モデルに対し、テスト用データとして脈波パラメータ算出部20によって算出された脈波パラメータを適用(具体的には代入)することにより、BPeを算出する。
【0088】
モデル評価指数算出部42は、上記推定モデルの評価指数(以下、PI)を算出する。モデル評価指数算出部42は、BPmとBPeとに基づき、PIを算出してよい。一例として、モデル評価指数算出部42は、BPmとBPeとのMSEを、PIとして算出する。モデル評価指数算出部42は、複雑度の小さい推定モデルから順番に、各推定モデルのPIを算出する。そして、モデル評価指数算出部42は、算出したPIをモデル保管部55に供給する。
【0089】
なお、PI(評価指数)は、MSEに限定されない。PIは、BPmとBPeとに基づいて算出できる限り、任意である(後述の実施形態2も参照)。一例として、BPmとBPeとの誤差の平均(例:平均絶対誤差)を、PIとして用いてもよい。または、BPmとBPeとの誤差の標準偏差を、PIとして用いることもできる。
【0090】
あるいは、BPmとBPeとに基づいて複数の所定のパラメータ(数値)を算出し、当該複数のパラメータを順位付けしてもよい(例:当該複数のパラメータの優劣を特定してもよい)。この場合、各パラメータの順位を示す数を、PIとして用いてもよい。
【0091】
以上の説明の通り、第1モデル評価用予測血圧算出部410-1は、第1モデルにおける予測血圧(第1モデル用予測血圧)を算出する。第2モデル評価用予測血圧算出部410-2~第Nモデル評価用予測血圧算出部410-Nについても同様である。すなわち、第kモデル評価用予測血圧算出部410-kは、第kモデル用予測血圧(以下、BPek)を算出する。このように、評価用予測血圧算出部41は、BPe1~BPeNを算出する。以下、BPe1~BPeNを総称して、予測血圧群とも称する。評価用予測血圧算出部41は、算出した予測血圧群を、モデル評価指数算出部42に供給する。
【0092】
続いて、第1モデル評価指数算出部420-1は、第1モデルにおける各PI(第1モデル評価指数セット)を算出する。第2モデル評価指数算出部420-2~第Nモデル評価指数算出部420-Nについても同様である。すなわち、第kモデル評価指数算出部420-kは、第kモデル評価指数セット(以下、PIk)を算出する。
【0093】
以下、PI1~PIkを総称して、評価指数セット群とも称する。モデル評価指数算出部42は、算出した評価指数セット群を、推定モデル群と関連付けて、モデル保管部55に供給する。
【0094】
(モデル評価部40による測定モデルの設定)
モデル評価部40は、当該モデル評価部40(より詳細には、モデル評価指数算出部42)による評価結果(各PI)に基づいて、少なくとも1つの測定モデルを設定(選択)する。具体的には、モデル評価部40は、モデル保管部55に保管された少なくとも1つの推定モデルの中から、少なくとも1つの測定モデルを選択する。一例として、図6を参照し、1つの測定モデルが選択される場合を説明する。図6は、モデル評価部において測定モデルを設定するための処理の一例を説明するための図である。
【0095】
図6に示すように、モデル評価部40は、各複雑度におけるMSE(PIの一例)が最も小さい血圧推定モデル同士をプロットしたときに、MSEが極小値となる推定モデルを測定モデルとして選択する。図6の例では、複雑度3の所定の1つの推定モデルが、測定モデルとして選択されている(図6の星形の凡例を参照)。
【0096】
また、血圧測定装置1では、モデル作成部30における血圧推定モデルの作成のためのデータ(訓練用データ)と、モデル評価部40における血圧推定モデルの評価のためのデータ(テスト用データ)とは、異なるデータであることが好ましい。この場合、モデル評価部40は、過学習に陥ることなくテスト用データへの当てはまりが良い、汎化性能に優れた測定モデルを選択することができる。
【0097】
なお、測定モデルの設定方法は、上記の例に限定されない。例えば、モデル評価部40は、少なくとも1つの推定モデルの中から、「PI(例:MSE)が所定の閾値以下となる推定モデル」を、測定モデル候補として抽出してよい。そして、モデル評価部40は、測定モデル候補の中から、少なくとも1つの測定モデルを選択してよい。一例として、モデル評価部40は、測定モデル候補の内、PIが最小となる推定モデルを、測定モデルとして選択してよい。あるいは、モデル評価部40は、測定モデル候補の内、複雑度が最も小さい推定モデルを、測定モデルとして選択してもよい。
【0098】
以上の説明の通り、モデル評価部40は、少なくとも1つの第1モデルから、少なくとも1つの測定モデル(第1モデル内測定モデル)を選択する。第2モデル~第Nモデルについても同様である。すなわち、モデル評価部40は、少なくとも1つの第kモデルから、少なくとも1つの測定モデル(第kモデル内測定モデル)を特定する。第kモデル内測定モデルとは、属性kの場合に、血圧測定部160において血圧(P)を測定するための計算モデルである。
【0099】
なお、第kモデル作成部300-kにおいて第kモデルが1つしか作成されていない場合には、モデル評価部40は、当該1つの第kモデルを、測定モデル(第kモデル内測定モデル)として選択すればよい。以下、第1モデル内測定モデル~第Nモデル内測定モデルを総称して、測定モデル群とも称する。モデル評価部40は、設定した測定モデル群をモデル保管部55に供給する。
【0100】
(モデル保管部55)
モデル保管部55は、各データを保管(格納)可能な公知の記憶装置であってよい。実施形態1では、モデル保管部55には、(i)モデル作成部30によって作成された推定モデル群が保管されている。加えて、モデル保管部55には、(i)モデル評価指数算出部42によって算出された評価指数セット群、および、(ii)モデル評価部40によって設定された測定モデル群が、さらに保管されることが好ましい。
【0101】
(測定モデル設定方法)
図7は、モデル設定装置100の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図7では、モデル設定装置100によって測定モデルを設定する方法(測定モデル設定方法)の一例が示されている。
【0102】
まず、撮像部11は、被検体画像を撮像する(S1)。顔画像取得部14は、撮被検体画像から顔画像(IMG)を取得する(S2)。顔画像分割部15は、IMGを複数の部分領域に分割する(S3)。肌領域抽出部16は、当該複数の部分領域から肌領域を抽出する(S4)。脈波算出部17は、肌領域のそれぞれについて、脈波(脈波信号)を算出する(S5)。S1~S5は、総称的に脈波取得工程とも称される。
【0103】
続いて、脈波パラメータ算出部20は、当該脈波に基づき、脈波パラメータを算出する。まず、脈波パラメータ算出部20は、各肌領域間におけるPTT(脈波伝播時間)を算出する(S6)。続いて、脈波パラメータ算出部20は、各肌領域における波形特徴量を算出する(S7)。S6およびS7は、総称的に脈波パラメータ算出工程とも称される。
【0104】
続いて、性別検出部22は、IMGを解析することによって、被検体Hの性別を検出する(S8)。血管年齢算出部21は、上記脈波に基づき、被検体Hの血管年齢を算出する(S9)。S8およびS9は、総称的に属性情報取得工程とも称される。
【0105】
そして、属性分類部23は、属性情報に基づき、被検体Hの属性を分類する(S10,属性分類工程)。本例では、属性分類部23は、血管年齢情報および性別情報に基づき、当該被検体Hの属性を分類する。例えば、属性分類部23は、被検体Hの属性を、属性1~Nのうちのいずれか1つの属性(属性k)に分類する。
【0106】
以下に述べる各処理は、属性kごとに行われる。まず、血圧取得部2は、被検体Hの血圧(BPm,第2血圧)を取得する(S11,第2血圧取得工程)。
【0107】
次に、モデル作成部30(より具体的には、第kモデル作成部300-k)は、訓練用データを用いて、属性kにおける少なくとも1つの推定モデル(第kモデル)を作成する。具体的には、モデル作成部30は、脈波パラメータとBPmとを用いて、各推定モデルを作成する(S12,モデル作成工程)。なお、S12において用いられるBPmは、被検体画像の撮像(S1)と同時に、血圧取得部2によって測定された血圧である。つまり、第2血圧測定工程は、S11に先立ち、S1と同時に予め1回実行されている。
【0108】
次に、評価用予測血圧算出部41(より具体的には、第kモデル評価用予測血圧算出部410-k)は、テスト用データを用いて、各推定モデルにおける予測血圧(BPe,より具体的にはBPek)を算出する。具体的には、評価用予測血圧算出部41は、各推定モデルに対し脈波パラメータを適用することにより、BPeを算出する(S13)。
【0109】
次に、モデル評価指数算出部42(より具体的には、第kモデル評価指数算出部420-k)は、推定モデルの評価指数(PI,より具体的にはPIk)を算出する。具体的には、モデル評価指数算出部42は、BPeとBPmとの平均二乗誤差(MSE)を、PIとして算出する(S14)。S13およびS14は、総称的にモデル評価工程とも称される。
【0110】
そして、モデル評価部40は、当該モデル評価部40による評価結果(各PI)に基づいて、各推定モデルから少なくとも1つの測定モデル(第kモデル内測定モデル)を選択する。例えば、モデル評価部40は、第kモデルのうち、MSEが最小となるモデルを、第kモデル内測定モデルとして設定する(S15,モデル設定工程)。
S11~S15を、分類1~Nのそれぞれに対して実行することにより、モデル設定装置100によって、第1モデル内測定モデル~第Nモデル内測定モデルを設定できる。
【0111】
(脈波信号品質評価部150)
続いて、血圧測定装置1の残りの機能部について述べる。脈波信号品質評価部150は、血圧測定装置1(より具体的には、血圧測定部160)によって血圧(P)を測定する場合に用いられる、各肌領域の脈波信号の品質を評価する。一例として、脈波信号品質評価部150は、脈波信号のSNRを、当該脈波信号の品質を示す指標として算出する。
【0112】
図8は、脈波信号のパワースペクトル(以下、単にパワースペクトル)の一例を示すグラフである。当該グラフにおいて、横軸は周波数を、縦軸は脈波信号のパワーを、それぞれ示す。脈波信号品質評価部150は、脈波信号に周波数解析を行うことにより、パワースペクトルを導出する。
【0113】
脈波は、心臓のポンプ作用によって動脈に伝わる波である。このため、脈波信号は、心拍に応じた一定の周期を有する。多くの場合、被検体Hの安静時には、1Hz前後の周波数帯において、パワースペクトルのピークが確認される。図8のPR(Pulse Rate)は、当該ピークの一例である。
【0114】
そこで、脈波信号品質評価部150は、所定の帯域幅において、信号成分(Signal)および雑音成分(Noise)を算出してよい。一例として、脈波信号品質評価部150は、PRを中心とする±0.05Hzの周波数帯を、信号帯域として設定してよい。そして、脈波信号品質評価部150は、当該信号帯域におけるパワースペクトルのパワー和を、Signalとして算出する。これに対し、脈波信号品質評価部150は、0.75~4.0Hzの周波数帯であって、かつ、Signal帯域を除いた周波数帯を、雑音帯域として設定してよい。そして、脈波信号品質評価部150は、当該雑音帯域におけるパワースペクトルのパワー和を、Noiseとして算出する。そして、脈波信号品質評価部150は、SNR=Signal/Noiseとして、SNRを算出する。
【0115】
ところで、一部の肌領域からは、一定の信号品質を有する脈波(高精度な脈波)を取得できない場合が考えられる。このような肌領域の例としては、(i)被覆物によってその一部が覆い隠されている肌領域、または、(ii)影がさしている肌領域を挙げることができる。従って、血圧測定精度の向上の観点からは、脈波信号品質評価部150による脈波信号の品質評価結果を用いて、このような肌領域の存在を考慮することが好ましい。
【0116】
一例として、脈波信号品質評価部150は、各肌領域を、(i)一定の信号品質を有する脈波を取得できた領域(以下、品質適合領域)と、(ii)その他の領域(以下、品質不適合領域)と、に分類してよい。品質不適合領域は、一定の信号品質を有する脈波を取得できなかった領域とも表現できる。一例として、「一定の信号品質」が、「SNR>0.15」として表現できる場合を考える。この場合、脈波信号品質評価部150は、各肌領域のうち、SNR>0.15である領域を、品質適合領域として特定する。
【0117】
(モデル選択部60)
モデル選択部60は、第1モデル選択部600-1、第2モデル選択部600-2、…、および第Nモデル選択部600-Nを有する。第kモデル選択部600-kは、第kモデルに応じた機能部である。モデル選択部60は、モデル設定装置100による処理の終了後に、血圧測定部160において血圧(P)を測定するために動作する。
【0118】
モデル選択部60は、モデル設定装置100(モデル評価部40)によって予め設定された測定モデル群を、モデル保管部55から読み出す。そして、モデル選択部60は、当該測定モデル群から、属性分類部23によって分類された被検体Hの属性に応じた測定モデルを選択する。すなわち、モデル選択部60は、属性k(パターンk)に応じた測定モデルを選択する。モデル選択部60によって選択される測定モデルは、血圧測定部160における血圧の測定に用いられる、少なくとも1つの測定モデル(血圧測定用モデル)である。以下の説明では、血圧測定用モデルが1つである場合を例示する。
【0119】
具体的には、第1モデル選択部600-1は、属性1に応じた少なくとも1つの測定モデル(第1モデル内測定モデル)から、1つの測定モデル(血圧測定用第1モデル)を選択する。第2モデル選択部600-2~第Nモデル選択部600-Nについても同様である。すなわち、第kモデル選択部600-kは、少なくとも1つの第kモデル内測定モデルから、1つの測定モデル(血圧測定用第kモデル)を選択する。
【0120】
以上の通り、モデル選択部60は、少なくとも1つの推定モデルのそれぞれの評価結果(各PI)に基づき、当該少なくとも1つの血圧推定モデルの中から測定モデルを選択する。
【0121】
なお、モデル評価部40において第kモデル内測定モデルが1つしか作成されていない場合には、第kモデル選択部600-kは、当該1つの第kモデル内測定モデルを、血圧測定用第kモデルとして選択すればよい。従って、脈波信号品質評価部150は、血圧測定装置1の必須の構成要素ではない点に留意されたい。
【0122】
但し、血圧測定装置1の測定結果(P)の精度向上のためには、脈波信号品質評価部150を設けることが好ましい。例えば、モデル選択部60は、脈波信号品質評価部150による脈波信号の品質評価結果に基づいて、血圧測定用測定モデルを選択してよい。例えば、第kモデル選択部600-kは、少なくとも1つの第kモデル内測定モデルのうち、脈波信号の品質が最も高いモデルを、血圧測定用第kモデルとして選択してよい。
【0123】
さらに、モデル選択部60は、測定モデル群のうち、品質適合領域のみが使用されているモデルのみを、血圧測定用モデルの候補として抽出してよい。これにより、血圧測定装置1の測定精度の低下を、より確実に防止できる。
【0124】
(血圧測定部160および血圧測定結果出力部170)
血圧測定部160は、属性kに応じた推定モデル(第kモデル)を用いて、脈波パラメータに基づき血圧(P)を測定する。より具体的には、血圧測定部160は、モデル選択部60によって選択された血圧測定用モデルを用いて、Pを測定する。すなわち、血圧測定部160は、当該血圧測定用モデルに、脈波パラメータ算出部20によって算出された脈波パラメータを適用することにより、Pを算出する。このように、血圧測定部160は、血圧測定用モデルを用いることにより、脈波パラメータに基づき、Pを算出する。
【0125】
上述のように、モデル選択部60は、属性kに応じた血圧測定用モデル(血圧測定用第kモデル)を選択する。このため、血圧測定部160において、被検体Hの属性に適した血圧測定用モデルを用いて、Pを算出できる。
【0126】
血圧測定結果出力部170は、血圧測定部160によって測定されたPを取得する。そして、血圧測定結果出力部170は、当該Pを血圧測定結果として出力する。血圧測定結果出力部170は、Pを任意の報知態様によって提示してよい。一例として、血圧測定結果出力部170は、ディスプレイであってよい。この場合、血圧測定結果出力部170は、Pを示す数値を表示することにより、血圧測定結果を被検体Hに視覚的に提示できる。
【0127】
なお、血圧測定結果出力部170は、各種の属性情報のうちの少なくとも一部(例:血管年齢情報)を、Pを示す数値とともに表示させてもよい。この場合、被検体Hの属性に応じた血圧測定が行われている旨を、当該被検体Hに示唆することができる。
【0128】
(血圧測定方法)
血圧測定装置1によって血圧を測定する方法(血圧測定方法)の一例について説明すれば、以下の通りである。血圧測定方法の各処理は、図7の全処理が完了した後に実行される。従って、以下の例では、血圧測定方法の各処理の開始に先立ち、モデル設定装置100によって導出された、推定モデル群と評価指数セット群と測定モデル群とが、予めモデル保管部55に保管されているものとする。
【0129】
まず、血圧測定方法では、図7のS1~S10と同様の処理が実行される。すなわち、血圧測定方法においても、モデル設定方法と同様に、脈波取得工程と脈波パラメータ算出工程と属性情報取得工程と属性分類工程とが実行される。
【0130】
その後、上述の通り、血圧測定部160は、第kモデルを用いて、脈波パラメータに基づきPを算出する(第1血圧測定工程)。より具体的には、第1血圧測定工程に先立ち、モデル選択部60は、属性kに応じた測定モデル(より厳密には、血圧測定用第kモデル)を選択する(モデル選択工程)。続いて、第1血圧測定工程では、血圧測定部160は、当該測定モデルを用いてPを算出する。
【0131】
(効果)
非接触式の血圧測定装置(例:血圧測定装置1)では、接触式の血圧測定装置(例:カフ血圧計としての血圧取得部2)とは異なり、被検体Hの血圧を物理量として直接的に取得することができない。このため、非接触式の血圧測定装置では、被検体Hの生体情報(例:脈波パラメータ)から血圧(P)を導出するためのモデルを設ける必要がある。
【0132】
しかしながら、図9に示されるように、血圧とPWV(Pulse Wave Velocity,脈波伝搬速度)との間の相関関係は、被検体Hの年齢および性別などの要素によって、有意に相違しうることが知られている。図9は、異なる属性を有する被検体のそれぞれについての、血圧とPWVとの間の関係の一例を示すグラフである。一例として、図9には、「ある血管年齢(血管年齢A)の男性」、「別の血管年齢(血管年齢B)の男性」、および「さらに別の血管年齢(血管年齢C)の女性」のそれぞれについての、血圧とPWVとの間の関係の一例が示されている。なお、PWVは、PTTと負の相関を有する。このため、図9のPWVは、PTTと読み替えられてもよい。
【0133】
このことから、ある被検体(例:血管年齢Aの男性)の血圧測定に適した1つのモデルは、別の被検体(例:血管年齢Bの男性または血管年齢Cの女性)の血圧測定にとっても好適であるとは、必ずしも言えない。従って、上述の共通モデルを用いた場合には、被検体Hの個人差(例:年齢および性別)を考慮できないので、Pの測定精度を十分に向上させるには至らない。
【0134】
以上の点を踏まえ、発明者らは、「被検体Hの属性に応じて設定された個別の測定モデルを用いて、Pを測定する」という新たな構成を想到した。より本質的には、発明者らは、「被検体Hの属性のそれぞれに応じた少なくとも1つの種類の推定モデルを作成する」という新たな構成を想到した。これらの構成によれば、被検体Hの個人差を考慮した血圧測定を行うことが可能となるので、従来に比べてPの測定精度を向上させることができる(図5も参照)。
【0135】
ところで、被検体Hの属性のそれぞれに応じた少なくとも1つの種類の推定モデルを作成する場合には、被検体Hの実年齢(以下、単に実年齢)に基づく属性分類を行うことも考えられる(参照:特許文献1)。しかしながら、実年齢は、被検体Hの血管状態を示す指標としては、必ずしも十分ではないとも考えられる。例えば、被検体Hの生活習慣(例:食習慣および運動習慣)によっては、実年齢が低くとも血管年齢が高い場合(あるいはその逆)もありうるためである。
【0136】
この点を踏まえると、Pの測定精度を向上させるためには、被検体Hの血管状態を示す指標として、実年齢に替えて血管年齢を用いることが好ましい。そこで、例えば図7の例では、血管年齢に基づく属性分類が行われている。このように属性分類を行うことにより、実年齢に基づく属性分類が行われた場合に比べ、被検体Hの実際の血管状態により即した推定モデルを作成できる。
【0137】
また、モデル設定装置100では、例えばIMGを解析することにより、属性情報を取得できる。このため、血圧測定装置1のユーザに、被検体Hに応じた測定モデルを手動で選択させることが不要となる。また、被検体Hに属性情報についての質問を行い、当該属性情報についての回答を当該被検体から直接的に取得することも不要となる。このように、血圧測定装置1によれば、従来よりも簡便かつ高精度にPを測定できる。
【0138】
(補足1)
特許文献3に示されるように、被検体Hの見た目年齢(以下、見た目年齢)は、血管年齢と強い相関性を有することが知られている。例えば、血管の老化に伴い、顔における、シミの拡大、毛穴の数の増加、および頬のたるみが顕著となる。このため、血管年齢が高くなるにつれて、見た目年齢も高くなる傾向にある。
【0139】
そこで、実施形態1では、血管年齢に替えて、見た目年齢に基づく属性分類が行われてもよい。この場合、属性情報取得部(例:血管年齢算出部21)は、血管年齢に替えて、見た目年齢を算出すればよい。見た目年齢の算出には、公知の手法(例えば、特許文献4を参照)が用いられてよい。例えば、属性情報取得部は、IMGを解析することにより、見た目年齢を算出する。このように、属性情報として、見た目年齢を示す情報(見た目年齢情報)を用いることもできる。
【0140】
なお、血管年齢と見た目年齢とを、総称的に血管関連年齢とも称する。また、血管関連年齢を示す情報を、血管関連年齢情報とも称する。血管年齢情報および見た目年齢情報はいずれも、血管関連年齢情報の一例である。
【0141】
血管関連年齢情報を属性情報として用いることにより、被検体Hの実際の血管状態を考慮できる。同様に、波形特徴量情報を属性情報として用いた場合にも、被検体Hの実際の血管状態を考慮できる。また、属性情報には、性別情報が含まれていることが望ましい。この場合、被検体Hの性差をさらに考慮できる。
【0142】
(補足2)
以上の通り、本開示の一態様に係る血圧測定装置の本質的なコンセプトは、「属性情報に基づき被検体Hを分類し、その分類結果に応じて、当該被検体Hに適した推定モデルを使用する」点にあると言える。このことから、当該血圧測定装置では、「各推定モデルの評価結果に基づく測定モデルの選択」は、必須の処理ではないことに留意されたい。すなわち、本開示の一態様に係る血圧測定装置から、選択部を取り除くことも可能である。
【0143】
以上のことから、モデル保管部には、評価指数セット群および測定モデル群は必ずしも予め保管されなくともよい。それゆえ、本開示の一態様に係るモデル設定装置から、モデル評価部を取り除くことも可能である。
【0144】
〔変形例〕
(1)ところで、一部の薬剤は、被検体Hの血管状態に大きく影響を及ぼす。このため、当該薬剤を摂取した場合、血管状態の変化に起因して、被検体Hの顔にむくみが生じる場合がある。そこで、属性情報取得部は、IMGを解析することにより、被検体Hの顔にむくみが生じているかを判定してよい。
【0145】
つまり、属性情報取得部は、IMGを解析することにより、被検体Hの顔にむくみが生じているか否かを示す情報(むくみ情報)を、属性情報として取得してよい。この場合、被検体Hの顔のむくみの有無に基づき、属性分類を行うことができる。換言すれば、被検体Hによる上記薬剤の服用の有無を考慮して、属性分類を行うことができる。このような属性分類によっても、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0146】
(2)当然ながら、上述した各種の個別の属性情報を組み合わせて、属性分類を行うこともできる。一例として、本開示の一態様に係る属性情報には、血管年齢情報、見た目年齢情報、性別情報、波形特徴量情報、および、むくみ情報の、少なくともいずれかが含まれていればよい。
【0147】
〔実施形態2〕
実施形態1では、脈波算出部17から算出された脈波信号に基づいて算出される血管年齢情報と、顔画像取得部14で取得された顔画像に基づき検出された性別情報を用いて、被験者の属性分類を行った。
【0148】
実施形態2では、実施形態1の代案、変形例として、脈波信号に基づいて算出される血管年齢情報に代わり、カフ血圧計等を用いて血圧を測定し、その結果に基づいて算出できる平均血圧(拡張期血圧+収縮期血圧×1/3で算出)に基づいて被験者の分類を行い、分類ごとにモデル設定、血圧測定を行う。
【0149】
図10は、実施形態2の血圧測定装置1の要部の構成を示す機能ブロック図である。実施形態1と異なる機能を持つ、血圧取得部2、血管年齢算出部21、属性分類部23について説明する。
血圧取得部2は、モデル作成部30およびモデル評価部40に加えて、血管年齢算出部21にBPmを出力する。
【0150】
血管年齢算出部21は、被検体Hに最適な血圧推定モデルを選択するため、被検体Hの属性情報として、血圧取得部2において取得された被験体Hの血圧に基づいて、被検体Hの血管年齢情報を算出する。血管年齢算出部21は、血圧取得部2で取得した血圧値(収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP))から平均血圧を算出する。平均血圧は、例えば、DBP+1/3*(SBP-DBP)で算出できる。血管年齢算出部21で算出した平均血圧は、属性分類部23に出力される。
【0151】
属性分類部23は、性別検出部22で検出された性別情報に加えて、カフ血圧値から算出された血管年齢情報を反映する平均血圧に基づいて、被検体Hを分類する。属性分類部23は、平均血圧の値(分類指標)に応じて、例えば図11のように属性を分類した場合、被測定者がどの属性に分類されるかを判定し、モデル選択部60に入力する。
【0152】
なお、被検体Hの属性分類は、血圧を測定する度に行う必要はなく、少なくとも測定前に一度実施すれば良いが、定期的に(例えば数ヶ月~数年に一度)実施することで、被検体Hの最新の血管状態を反映したモデルに更新できる。
【0153】
また、血圧取得部2、血管年齢算出部21、および属性分類部23は、必ずしも血圧測定装置1の内部に設けられていなくてもよい。例えば、血圧測定装置1としてスマートフォン内臓のカメラを用いて血圧測定を行うような場合には、血圧測定装置本体とは別機の接触式血圧計(例えば、カフ式血圧計)で測定した血圧値を図12のように手動で入力しても良い。
【0154】
血圧測定部160は、被検体Hの名前、ID、顔画像(顔認証)等の被検体H個人を特定できる情報と、被検体Hの属性、また属性に対応する少なくとも一つの推定モデルと、を対応付けて血圧測定部160に保存しておくことで(図13(a)、図13(b))、血圧測定の度にモデル選択を実施する必要がなく、モデル選択部60と通信可能に接続されていない状態でも測定できる。また、モデル選択部60は、血圧測定装置1内部に無くてもよく、血圧測定装置1と血圧測定装置1外部のモデル選択部60とが通信可能に接続されていてもよい。
【0155】
図14は、血圧測定装置の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図14では、血圧測定装置1によって血圧を測定する方法の一例が示されている。
【0156】
図14に示すように、血圧測定装置1による血圧測定方法では、血圧測定装置1は、血圧測定方法被測定者の推定モデルが選択されているか判定し(S20A)、血圧測定方法被測定者の推定モデルが選択されていない場合(S20A:No)、下記S21~S23を実施する。血圧測定装置1は、血圧測定方法被測定者の推定モデルが選択されている場合(S20A:Yes)、選択モデルを更新するか判定し(S20B)、既に選択されたモデルがある場合でも選択モデルを更新する場合(S20B:Yes)には、下記S21~S23を実施する。血圧測定装置1は、選択モデルを更新しない場合(S20B:No)には、下記S21~S23を実施せず、S24からの処理を実施する。
【0157】
まず、血圧取得部2が被測定者の血圧を取得する(S21)。次に、血管年齢算出部21が、血圧取得部が取得した血圧に基づいて分類指標(平均血圧)を算出する(S22)。次に、属性分類部が血管年齢算出部21で算出した分類指標に基づき、被測定者がいずれの属性に分類されるかを判別し、モデル選択部60は該当する属性の推定モデルを被測定者の最適モデルとして選択する(S23)。
【0158】
以降のS24~S30は、予測血圧を算出する度に実施する。
まず、撮像部11が被測定者の画像を撮像する(S24)。次に、顔画像取得部14が、撮像部11が撮像した被測定者の画像から被測定者の顔画像を取得する(S25)。
【0159】
次に、顔画像分割部15が、顔画像取得部14で抽出した顔画像から脈波を算出する領域を設定(分割)する(S26)。次に、肌領域抽出部16が、顔画像分割部15で設定した領域のうち肌が隠れていない領域を肌領域として抽出し、脈波算出部17が、肌領域抽出部16で抽出した肌領域のそれぞれについて、脈波を算出する(S27)。
【0160】
次に、脈波パラメータ算出部20が、脈波取得部10で算出した各肌領域の脈波から、脈波波形特徴量を脈波パラメータとして算出する(S28)。尚、S28において、脈波パラメータ算出部20は、脈波を算出した領域が複数ある場合には、脈波伝播時間を脈波パラメータとして算出しても良い。
【0161】
次に、血圧測定部160が脈波パラメータ算出部20で算出した脈波パラメータと、S21~S23で選択された被測定者の属性に合った血圧推定モデルから予測血圧を算出する(S29)。次に、血圧測定結果出力部170が、血圧測定部160で算出した予測血圧の結果を出力する(S30)。
【0162】
(効果)
実施形態2では、例えば、末梢の細い血管の動脈硬化の程度に関する情報を反映している平均血圧(参考:http://medica.sanyonews.jp/article/4523)に基づいて、被検体Hの属性を分類し、各属性の分類ごとに作成したモデルで血圧測定する。
【0163】
そのため、各被検体の推定モデルへの適合度を向上させることが可能となり、精度良い血圧値を予測できる。なお本実施形態では、モデル選択部60でカフ血圧計で取得した血圧値から算出した平均血圧の値と性別に応じて被検体に最適な血圧推定モデルを選択したが、これに限らず、被検体の実年齢、体重等でさらに細分類しても良い。
【0164】
〔変形例〕
実施形態2では、事前にカフ血圧計で取得した収縮期血圧と拡張期血圧から、末梢の細い血管の動脈硬化に関する情報を反映した平均血圧を被検体Hごとに算出し、その平均血圧に基づいて被検体Hの属性を分類し、適切なモデルを選択した。
【0165】
ここでは、平均血圧に加えて収縮期血圧と拡張期血圧の差から算出できる脈圧を、被検体の属性を判別する際の分類指標として用いる場合について説明する。
【0166】
実施形態2と全体の構成は変わらないが、血管年齢算出部21での機能が追加される。血管年齢算出部21は、血圧取得部2で取得した血圧値(SBPとDBP)から平均血圧と脈圧を算出する。脈圧はSBP-DBPで算出できる。血管年齢算出部21は、算出した平均血圧と脈圧を属性分類部23に出力する。
【0167】
平均血圧は末梢の細い血管の動脈硬化に関する情報を、脈圧は心臓に近い太めの血管の動脈硬化に関する情報を反映する(参考:http://medica.sanyonews.jp/article/4523)。また、動脈硬化は加齢に伴って、まず末梢の細い血管から起こり、やがて太い血管にも進行していくことが知られている。従って、まず最初に平均血圧が上昇し(末梢の細い血管の動脈硬化)、続いて50歳以降頃から次第に脈圧が大きくなっていく(心臓に近い太めの血管の動脈硬化)。
【0168】
そのため、図15に示すように、平均血圧と脈圧の大きさに応じて属性を4つに分類した場合、(3)(平均血圧が高い&脈圧が小さい)よりも、(4)(平均血圧が高い&脈圧が大きい)の方が、より動脈硬化が進んだ被検体データであることが分かる。
【0169】
これらの平均血圧、脈圧の値に基づいて、各被測定者を分類することで、動脈硬化の進行具合や、硬化している位置等の血管状態に関する個人差を考慮した血圧推定が可能になる。加齢に伴って、動脈硬化は進行(細い血管の硬化→太い血管の硬化)するが、同じ年齢でも、これまでの運動習慣や食習慣等の生活習慣によって、動脈硬化の進行度には個人差が生じるが、実際の血管状態に関する情報に基づいて分類できるため、年齢による分類よりもさらに、被測定者に適合したモデルでの血圧推定が可能になる。
【0170】
なお実施形態2では、カフ血圧計で得られたSBP、DBPに基づいて、平均血圧、脈圧を算出し、属性分類に用いる指標としたが、得られたSBP、DBPそのものを分類指標としても用いても良い。
【0171】
〔変形例〕
実施形態2では、各被検体の属性情報を判別するための血圧値は、ユーザが手動でスマートフォンに入力する場合について説明した。
【0172】
ここでは、病院や薬局等で血圧を測定する場合や、学校や会社等の健康診断等で血圧を測定した場合に、得られた血圧値を自動でクラウド上(詳細には、例えば、クラウド上のサーバ)に送り、被検体の属性判別に必要な指標をクラウド上(詳細には、例えば、クラウド上のサーバ)で計算し、各被検体側のハード(スマートフォン、PC等)へ、被検体の属性と、対応する推定モデルをダウンロードしてモデル選択、更新を行う(図16)。
【0173】
血圧取得部2がクラウドと通信可能なハードである場合には、血圧取得部2が取得した血圧値と、被検体の名前、ID、顔画像(顔認証)等の被検体個人を特定できる情報を紐づけて、クラウド上に送る。
【0174】
学校や会社等の健康診断での測定結果を、被検体のモデル選択、更新に用いる場合には、健康診断での測定値がまとめられたデータベースと連携し、得られた測定値に基づいて、被検体に最適なモデルを選択する。
【0175】
血圧測定装置1内部のモデル選択部60は、クラウド(詳細には、例えば、クラウド上のサーバ)と通信可能に接続されているような場合には、被検体の属性と対応するモデルを定期的に自動更新しても良く、あるいは被検体がモデルの更新を実施したいときに、クラウド(詳細には、例えば、クラウド上のサーバ)から被検体に最適な属性と対応するモデルをダウンロードする形でも良い。
【0176】
企業や学校では、少なくとも年に一度の健康診断を義務付けているところが多いため、その際の測定結果を利用することで、少なくとも年に一度、被測定者に最適な推定モデルを更新することが出来る。そのため、被測定者の血管状態を定期的に反映した推定モデルを用いて血圧を予測できるため、精度が悪化することなく、一定レベルで維持することが出来る。
【0177】
また、自宅でカフ血圧計を所有していないような場合にも、健康診断や病院等での測定結果を利用して、日々の変化をスマートフォンやPC等で精度よく血圧を測定することが出来る。なお、健康診断で血液検査が実施されるような場合には、血液の粘性等の指標を属性分類指標に用いても良い。
【0178】
血圧測定装置1は、被検体の最新の分類指標(平均血圧および/または脈圧)の算出が例えば一定期間経っている場合には、被検体に通知し、モデルの更新を促すような提示を行っても良い。これによって、被検体の現在の血管状態に基づいてモデルを選択し、その選択されたモデルを用いて血圧を測定できるため、一定の精度を確保することが出来る。
【0179】
〔実施形態3〕
(1)被検体Hは、人に限定されない。被検体Hは、本開示の一態様に係る血圧測定方法が適用可能な対象であればよい。例えば、被検体Hは、犬または猫等の動物であってもよい。
【0180】
(2)ROIは、顔に限定されない。ROIは、脈波を取得可能な生体の体表であればよい。ROIの別の例としては、首、胸、および掌等を挙げることができる。但し、ROIは、顔であることが好ましい。IMG(顔画像)を用いた場合、血圧の測定時における被検体Hに対する負担を少なくできる。すなわち、自然な状態(リラックスした状態)における被検体Hの血圧を測定しやすくなる。
【0181】
(3)血圧測定部160は、必ずしも1つの血圧測定用モデルのみを用いて、Pを算出しなくともよい。つまり、モデル選択部60は、複数の血圧測定用モデルを選択してもよい。一例として、血圧測定部160は、複数の血圧測定用モデルのそれぞれを用いて、複数の血圧を算出する。この場合、血圧測定部160は、当該複数の血圧の代表値(例:平均値または中央値)を算出し、当該代表値をPとして出力してよい。
【0182】
(4)属性情報は、必ずしも画像解析に基づいて取得されなくともよい。例えば、接触式のセンサを、属性情報取得部として用いることもできる。当該センサは、被検体Hに拘束感をなるべく与えないように構成されていればよい。このように、血圧測定装置1は、接触式の血圧測定装置であってもよい。
【0183】
(5)推定モデルは、線形モデルに限定されない。モデル作成部30は、回帰分析を行うことにより、非線形モデル(非線形関数によって表現される計算モデル)を作成してもよい。また、モデル作成部30は、最小二乗法以外の手法を用いて、推定モデルを作成してもよい。例えば、モデル作成部30は、L1正則化を導入したLasso回帰によって、線形モデルを作成してもよい。Lasso回帰を用いることにより、過学習の抑制を考慮した線形モデルを作成できる。
【0184】
(6)上述の通り、推定モデルの評価指数(PI)は、BPeとBPmとに基づいて算出されるパラメータであればよい。このため、PIは、誤差に関するパラメータに必ずしも限定されない。例えば、(i)自由度調整済み決定指数、および、(ii)AIC(Akaike's Information Criteria)を、PIとして用いることもできる。
【0185】
(7)脈波の信号品質の評価指標は、SNRに限定されない。例えば、各肌領域の画素値を、評価指標として用いることもできる。
【0186】
(8)モデル保管部55は、血圧測定装置1と通信可能に接続されていればよい。例えば、モデル保管部55は、血圧測定装置1の外部に設けられたサーバ装置であってもよい。このように、モデル保管部55は、必ずしも血圧測定装置1の内部に設けられていなくともよい。同様に、モデル保管部55は、必ずしもモデル設定装置100の内部に設けられていなくともよい。
【0187】
また、モデル保管部55を割愛することもできる。この場合、モデル選択部60は、モデル作成部30から各推定モデルを直接的に取得すればよい。また、モデル選択部60は、モデル評価部40から各PIを直接的に取得すればよい。但し、血圧測定装置1によるPの測定を高速化するためには、モデル保管部55を設けることが好ましい。
【0188】
(9)モデル設定装置100は、血圧測定装置1と通信可能に接続されていればよい。例えば、モデル設定装置100は、血圧測定装置1の外部に設けられたサーバ装置であってもよい。このように、モデル設定装置100は、必ずしも血圧測定装置1の内部に設けられていなくともよい。従って、血圧測定装置1は、公知の情報処理装置(例:スマートフォン、タブレット、またはパーソナルコンピュータ)によって実現されてよい。
【0189】
〔実施形態4〕
血圧測定装置1の制御ブロック(特に、モデル設定装置100、モデル選択部60、脈波信号品質評価部150、および血圧測定部160)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0190】
後者の場合、血圧測定装置1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本開示の一態様の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本開示の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0191】
〔付記事項〕
本開示の一態様は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の一態様の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成できる。
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