(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】プレス成形方法およびプレス成形装置
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20241120BHJP
B21D 5/01 20060101ALI20241120BHJP
B21D 37/08 20060101ALI20241120BHJP
B21D 22/30 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D5/01 D
B21D37/08
B21D22/30 B
(21)【出願番号】P 2023143069
(22)【出願日】2023-09-04
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】591214527
【氏名又は名称】株式会社ジーテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良裕
(72)【発明者】
【氏名】市村 康
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-039327(JP,A)
【文献】特開2002-172423(JP,A)
【文献】特許第6183468(JP,B2)
【文献】特表2020-514059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20 - 24/00
B21D 37/08
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板と両側の縦板とからなる帽子部の開口端にフランジ部を有する断面ハット状の成形品を予備成形用の金型によって前記帽子部の両側の肩部に成形代が残るように成形する予備成形工程と、
前記予備成形工程によって成形された予備成形品を本成形用の金型によって圧縮して最終形状の成形品を成形する本成形工程とを有し、
前記本成形用の金型は、
前記フランジ部の先端面が当接する壁と、前記帽子部の中に入る凸部と、前記壁と前記凸部との間に形成された凹部とを有し、前記最終形状の成形品の内面を成形する成形面を有する固定金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の前記天板側を前記固定金型の前記凸部との間に挟んで最終形状に成形する第1の可動金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の開口端側を含む前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部との間に挟んで最終形状に成形する第2の可動金型とを有し、
前記本成形工程は、
前記固定金型の前記凸部に前記予備成形品を載置する第1の本成形工程と、
前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部と前記第2の可動金型とによって挟む第2の本成形工程と、
前記予備成形品が前記第2の可動金型によって前記固定金型の前記凹部に押し付けられている状態で前記予備成形品を前記固定金型の前記凸部と前記第1の可動金型とによって最終形状に成形する第3の本成形工程とを有し、
前記第2の本成形工程で前記第2の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力は、前記第3の本成形工程で前記第1の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力より小さ
く、
前記固定金型と前記第2の可動金型とにおける、前記帽子部の前記縦板と前記フランジ部との接続部を成形する部分は、それぞれ湾曲した断面形状となる丸め部によって形成され、
前記第2の本成形工程において、前記第2の可動金型が成形終了位置に移動する過程で前記第2の可動金型の前記丸め部が前記予備成形品の前記縦板を前記固定金型に向けて押し、
前記固定金型の前記壁の先端部には面取部が形成され、
前記第2の本成形工程において、前記面取部に近接する位置を前記フランジ部の先端部分が通過することを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
天板と両側の縦板とからなる帽子部の開口端にフランジ部を有する断面ハット状の成形品を予備成形用の金型によって前記帽子部の両側の肩部に成形代が残るように成形する予備成形工程と、
前記予備成形工程によって成形された予備成形品を本成形用の金型によって圧縮して最終形状の成形品を成形する本成形工程とを有し、
前記本成形用の金型は、
前記フランジ部の先端面が当接する壁と、前記帽子部の中に入る凸部と、前記壁と前記凸部との間に形成された凹部とを有し、前記最終形状の成形品の内面を成形する成形面を有する固定金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の前記天板側を前記固定金型の前記凸部との間に挟んで最終形状に成形する第1の可動金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の開口端側を含む前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部との間に挟んで最終形状に成形する第2の可動金型とを有し、
前記本成形工程は、
前記固定金型の前記凸部に前記予備成形品を載置する第1の本成形工程と、
前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部と前記第2の可動金型とによって挟む第2の本成形工程と、
前記予備成形品が前記第2の可動金型によって前記固定金型の前記凹部に押し付けられている状態で前記予備成形品を前記固定金型の前記凸部と前記第1の可動金型とによって最終形状に成形する第3の本成形工程とを有し、
前記第2の本成形工程で前記第2の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力は、前記第3の本成形工程で前記第1の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力より小さく、
前記成形代は、前記帽子部の両側の肩部が部分的に前記帽子部の外側に膨らむ形状に成形された余肉部によって構成され、
前記固定金型は、
移動することができない本成形用下型と、
前記本成形用下型に固定され、前記フランジ部の先端面が当接する前記壁と、
前記本成形用下型に固定され、前記帽子部の中に入る前記凸部と、
前記壁と前記凸部との間に形成された前記凹部とを有し、
前記第2の可動金型は、前記帽子部の高さ方向であって前記第1の可動金型の移動方向と平行な方向のみに移動可能に構成され、
前記第3の本成形工程で前記帽子部の開口部分と前記フランジ部とが前記固定金型と前記第2の可動金型とによって拘束されて変位が規制された状態で、前記第1の可動金型によって前記予備成形品の前記余肉部が圧縮されることを特徴とするプレス成形方法。
【請求項3】
天板の両側に上方へ隆起する余肉部を介して一対の縦板が接続された帽子部の開口端にフランジ部を有する断面ハット状の予備成形品を予備成形用の金型によって前記帽子部の両側の肩部に余肉部からなる成形代が残るように成形する予備成形工程と、
前記予備成形工程によって成形された予備成形品を前記予備成形用の金型とは異なる本成形用の金型によって圧縮して最終形状の成形品を成形する本成形工程とを有し、
前記本成形用の金型は、
前記フランジ部の先端面が当接する壁と、前記帽子部の中に入る凸部と、前記壁と前記凸部との間に形成された溝凹部とを一体に形成し、前記最終形状の成形品の内面を成形する成形面を有する固定金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の前記天板側を前記固定金型の前記凸部との間に挟んで最終形状に成形する第1の可動金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の開口端側を含む前記予備成形品を前記固定金型の前記溝凹部との間に挟んで最終形状に成形する第2の可動金型とを有し、
前記本成形工程は、
前記固定金型の前記凸部に前記予備成形品を載置する第1の本成形工程と、
前記予備成形品を前記固定金型の前記溝凹部と前記第2の可動金型とによって挟む第2の本成形工程と、
前記予備成形品の前記フランジと前記縦板が前記第2の可動金型によって前記固定金型の前記溝凹部に押し付けられている状態で前記予備成形品の前記天板を前記固定金型の前記凸部と前記第1の可動金型とによって最終形状に成形する第3の本成形工程とを有し、
前記第2の本成形工程で前記第2の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力は、前記第3の本成形工程で前記第1の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力より小さくし、
前記第3の本成形工程は前記予備成形品を前記第1の可動金型が前記固定金型に向けて押すことにより、前記余肉部の一部が前記天板の中央側に寄せられ、前記天板の中央部が更に大きく湾曲するようになって前記予備成形品の前記天板と前記余肉部とが波板状に変形しながら圧縮されることを特徴とするプレス成形方法。
【請求項4】
請求項
2または請求項3に記載のプレス成形方法において、
前記固定金型と前記第2の可動金型とにおける、前記帽子部の前記縦板と前記フランジ部との接続部を成形する部分は、それぞれ湾曲した断面形状となる丸め部によって形成され、
前記第2の本成形工程において、前記第2の可動金型が成形終了位置に移動する過程で前記第2の可動金型の前記丸め部が前記予備成形品の前記縦板を前記固定金型に向けて押すことを特徴とするプレス成形方法。
【請求項5】
請求項
4に記載のプレス成形方法において、
前記固定金型の前記壁の先端部には面取部が形成され、
前記第2の本成形工程において、前記面取部に近接する位置を前記フランジ部の先端部分が通過することを特徴とするプレス成形方法。
【請求項6】
請求項1
ないし請求項3の何れか一つに記載のプレス成形方法において、
前記固定金型の前記壁は、前記固定金型の他の部分とは別体の金型部品によって形成されて着脱可能に構成され、
前記凹部の底面と前記壁との境界が直角形状となり、第3の本成形工程で前記フランジ部の先端面が前記壁に隙間なく当接することを特徴とするプレス成形方法。
【請求項7】
天板と両側の縦板とからなる帽子部の開口端にフランジ部を有する断面ハット状の成形品を前記帽子部の両側の肩部に成形代が残るように成形する予備成形用の金型と、
前記予備成形用の金型によって成形された予備成形品を圧縮して最終形状の成形品を成形する本成形用の金型とを
有し、
前記本成形用の金型は、
前記フランジ部の先端面が当接する壁と、前記帽子部の中に入る凸部と、前記壁と前記凸部との間に形成された凹部とを有し、前記最終形状の成形品の内面を成形する成形面を有する固定金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の前記天板側を前記固定金型の前記凸部との間に挟んで最終形状に成形する第1の可動金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の開口端側を含む前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部との間に挟んで最終形状に成形する第2の可動金型とを有し、
前記第1の可動金型は、前記第2の可動金型が前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部に押し付けている状態で前記予備成形品を前記固定金型の前記凸部に押し付けて最終形状に成形するものであり、
前記第2の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力は、前記第1の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力より小さ
く、
前記固定金型の前記壁の先端部には面取部が形成され、
前記面取部は、前記第2の可動金型が前記予備成形品を前記固定金型に押し付けることにより移動する前記フランジ部の移動軌跡の外に形成されていることを特徴とするプレス成形装置。
【請求項8】
天板と両側の縦板とからなる帽子部の開口端にフランジ部を有する断面ハット状の成形品を前記帽子部の両側の肩部に成形代が残るように成形する予備成形用の金型と、
前記予備成形用の金型によって成形された予備成形品を圧縮して最終形状の成形品を成形する本成形用の金型とを有し、
前記本成形用の金型は、
前記フランジ部の先端面が当接する壁と、前記帽子部の中に入る凸部と、前記壁と前記凸部との間に形成された凹部とを有し、前記最終形状の成形品の内面を成形する成形面を有する固定金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の前記天板側を前記固定金型の前記凸部との間に挟んで最終形状に成形する第1の可動金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の開口端側を含む前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部との間に挟んで最終形状に成形する第2の可動金型とを有し、
前記第1の可動金型は、前記第2の可動金型が前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部に押し付けている状態で前記予備成形品を前記固定金型の前記凸部に押し付けて最終形状に成形するものであり、
前記第2の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力は、前記第1の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力より小さく、
前記成形代は、前記帽子部の両側の肩部が部分的に前記帽子部の外側に膨らむ形状に成形された余肉部によって構成され、
前記固定金型は、
移動することができない本成形用下型と、
前記本成形用下型に固定され、前記フランジ部の先端面が当接する前記壁と、
前記本成形用下型に固定され、前記帽子部の中に入る前記凸部と、
前記壁と前記凸部との間に形成された前記凹部とを有し、
前記第2の可動金型は、前記帽子部の高さ方向であって前記第1の可動金型の移動方向と平行な方向のみに移動可能に構成され、
前記第1の可動金型は、前記帽子部の開口部分と前記フランジ部とが前記固定金型と前記第2の可動金型とによって拘束されて変位が規制された状態で、前記予備成形品の前記余肉部を圧縮するものであることを特徴とするプレス成形装置。
【請求項9】
天板の両側に上方に隆起する余肉部を介して一対の縦板が接続された帽子部の開口端にフランジ部を有する断面ハット状の成形品を前記帽子部の両側の肩部に余肉部からなる成形代が残るように成形する予備成形用の金型と、
前記予備成形用の金型によって成形された予備成形品を圧縮して最終形状の成形品を成形する、前記予備成形用の金型とは異なる本成形用の金型とを有し、
前記本成形用の金型は、
前記フランジ部の先端面が当接する壁と、前記帽子部の中に入る凸部と、前記壁と前記凸部との間に形成された溝凹部とを一体に形成し、前記最終形状の成形品の内面を成形する成形面を有する固定金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の前記天板側を前記固定金型の前記凸部との間に挟んで最終形状に成形する第1の可動金型と、
前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の開口端側を含む前記予備成形品を前記固定金型の前記溝凹部との間に挟んで最終形状に成形する第2の可動金型とを有し、
前記第1の可動金型は、前記第2の可動金型が前記予備成形品の前記フランジと前記縦板を前記固定金型の前記溝凹部に押し付けている状態で前記予備成形品の前記天板を前記固定金型の前記凸部に押し付けて最終形状に成形するものであり、
前記第2の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力は、前記第1の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力より小さくし、
前記予備成形品を前記第1の可動金型が前記固定金型に向けて押すことにより、前記余肉部の一部が前記天板の中央側に寄せられ、前記天板の中央部が更に大きく湾曲するようになって前記予備成形品の前記天板と前記余肉部とが波板状に変形しながら圧縮されることを特徴とするプレス成形装置。
【請求項10】
請求項
7~請求項9の何れか一つに記載のプレス成形装置において、
前記固定金型と前記第2の可動金型とにおける、前記帽子部の前記縦板と前記フランジ部との接続部を成形する部分は、それぞれ湾曲した断面形状となる丸め部によって形成されていることを特徴とするプレス成形装置。
【請求項11】
請求項
8または請求項9に記載のプレス成形装置において、
前記固定金型の前記壁の先端部には面取部が形成され、
前記面取部は、前記第2の可動金型が前記予備成形品を前記固定金型に押し付けることにより移動する前記フランジ部の移動軌跡の外に形成されていることを特徴とするプレス成形装置。
【請求項12】
請求項
7~請求項9の何れか一つに記載のプレス成形装置において、
前記固定金型の前記壁は、前記固定金型の他の部分とは別体の金型部品によって形成されて着脱可能に構成され、
前記凹部の底面と前記壁との境界が直角形状となり、最終形状の成形品の前記フランジ部の先端面が前記壁に隙間なく当接することを特徴とするプレス成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板を断面ハット状に曲げるプレス成形方法およびプレス成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のボディに用いられる鋼材として、高張力鋼より強度が高く、引張強さが1000MPaを超える超高張力鋼が用いられるようになってきた。この種の超高張力鋼は、冷間で曲げ加工されて所定の形状に成形されている。超高張力鋼は、一般的な高張力鋼に較べると曲げ加工後のスプリングバック量が多くなる。このため、従来は、スプリングバックを見越して目標とする寸法精度を得るために、金型の削り直しが行われている。
【0003】
金型の削り直しは多大な工数が必要であり、削り直しで対応できない場合は金型を作り直すこともある。そうすると金型の作り直しによって鉄の使用量が大きくなってしまい、環境にも良くない。このような金型の修正を可及的少なくするために、成形を複数回実施し、スプリングバックを修正して最終形状となるように成形を行うプレス成形方法が考えられている。
スプリングバックを修正する従来のプレス成形方法としては、例えば特許文献1に記載されている方法がある。特許文献1に示すプレス成形方法は、スプリングバックの発生を抑制しながら鋼板を断面ハット状に成形する方法である。断面ハット状とは、天板と両側の縦板とからなる帽子部の開口端にフランジ部が設けられた形状である。特許文献1に示すプレス成形方法は、鋼板を断面ハット状に成形するにあたって、予備成形工程と本成形工程との二つの工程で成形品を最終形状に成形する構成が採られている。
【0004】
予備成形工程においては、スプリングバックが生じることを許容して断面ハット状の予備成形品が成形される。本成形工程は、予備成形品の両側の縦壁と両端のフランジとを側方から横移動式のダイによって固定金型であるパンチに押圧しながら、帽子部をパッドとパンチとによって挟んで成形し、予備成形品が圧縮されて最終的な形状に成形されるように行っている。予備成形品が圧縮されることでスプリングバックの発生が抑制される。横移動式のダイは、帽子部を成形するパッドと連動するように、パッドを含む上型の上下方向への移動をカム機構によって水平方向への移動に変換して駆動されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示す成形方法では、横移動式のダイを駆動するためにカム機構が必要であるから、金型が複雑になるとともに大型化するという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、簡易な設備でワークに圧縮応力を付与してスプリングバックを防ぐことが可能なプレス成形方法およびプレス成形装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために本発明に係るプレス成形方法は、天板と両側の縦板とからなる帽子部の開口端にフランジ部を有する断面ハット状の成形品を予備成形用の金型によって前記帽子部の両側の肩部に成形代が残るように成形する予備成形工程と、前記予備成形工程によって成形された予備成形品を本成形用の金型によって圧縮して最終形状の成形品を成形する本成形工程とを有し、前記本成形用の金型は、前記フランジ部の先端面が当接する壁と、前記帽子部の中に入る凸部と、前記壁と前記凸部との間に形成された凹部とを有し、前記最終形状の成形品の内面を成形する成形面を有する固定金型と、前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の前記天板側を前記固定金型の前記凸部との間に挟んで最終形状に成形する第1の可動金型と、前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の開口端側を含む前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部との間に挟んで最終形状に成形する第2の可動金型とを有し、前記本成形工程は、前記固定金型の前記凸部に前記予備成形品を載置する第1の本成形工程と、前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部と前記第2の可動金型とによって挟む第2の本成形工程と、前記予備成形品が前記第2の可動金型によって前記固定金型の前記凹部に押し付けられている状態で前記予備成形品を前記固定金型の前記凸部と前記第1の可動金型とによって最終形状に成形する第3の本成形工程とを有し、前記第2の本成形工程で前記第2の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力は、前記第3の本成形工程で前記第1の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力より小さい方法である。
【0009】
本発明は、前記プレス成形方法において、前記固定金型と前記第2の可動金型とにおける、前記帽子部の前記縦板と前記フランジ部との接続部を成形する部分は、それぞれ湾曲した断面形状となる丸め部によって形成され、前記第2の本成形工程において、前記第2の可動金型が成形終了位置に移動する過程で前記第2の可動金型の前記丸め部が前記予備成形品の前記縦板を前記固定金型に向けて押してもよい。
【0010】
本発明は、前記プレス成形方法において、前記固定金型の前記壁の先端部には面取部が形成され、前記第2の本成形工程において、前記面取部に近接する位置を前記フランジ部の先端部分が通過してもよい。
【0011】
本発明は、前記プレス成形方法において、前記固定金型の前記壁は、前記固定金型の他の部分とは別体の金型部品によって形成されて着脱可能に構成され、前記凹部の底面と前記壁との境界が直角形状となり、第3の本成形工程で前記フランジ部の先端面が前記壁に隙間なく当接してもよい。
【0012】
本発明に係るプレス成形装置は、天板と両側の縦板とからなる帽子部の開口端にフランジ部を有する断面ハット状の成形品を前記帽子部の両側の肩部に成形代が残るように成形する予備成形用の金型と、前記予備成形用の金型によって成形された予備成形品を圧縮して最終形状の成形品を成形する本成形用の金型とを有し、前記本成形用の金型は、前記本成形用の金型は、前記フランジ部の先端面が当接する壁と、前記帽子部の中に入る凸部と、前記壁と前記凸部との間に形成された凹部とを有し、前記最終形状の成形品の内面を成形する成形面を有する固定金型と、前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の前記天板側を前記固定金型の前記凸部との間に挟んで最終形状に成形する第1の可動金型と、前記帽子部の高さ方向に移動可能に構成され、前記帽子部の開口端側を含む前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部との間に挟んで最終形状に成形する第2の可動金型とを有し、前記第1の可動金型は、前記第2の可動金型が前記予備成形品を前記固定金型の前記凹部に押し付けている状態で前記予備成形品を前記固定金型の前記凸部に押し付けて最終形状に成形するものであり、前記第2の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力は、前記第1の可動金型が前記予備成形品を押す際の押圧力より小さいものである。
【0013】
本発明は、前記プレス成形装置において、前記固定金型と前記第2の可動金型とにおける、前記帽子部の前記縦板と前記フランジ部との接続部を成形する部分は、それぞれ湾曲した断面形状となる丸め部によって形成されていてもよい。
【0014】
本発明は、前記プレス成形装置において、前記固定金型の前記壁の先端部には面取部が形成され、前記面取部は、前記第2の可動金型が前記予備成形品を前記固定金型に押し付けることにより移動する前記フランジ部の移動軌跡の外に形成されていてもよい。
【0015】
本発明は、前記プレス成形装置において、前記固定金型の前記壁は、前記固定金型の他の部分とは別体の金型部品によって形成されて着脱可能に構成され、前記凹部の底面と前記壁との境界が直角形状となり、最終形状の成形品の前記フランジ部の先端面が前記壁に隙間なく当接するものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な設備でワークに圧縮応力を付与してスプリングバックを防ぐことが可能なプレス成形方法およびプレス成形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に係るプレス成形方法を説明するためのフローチャートである。
【
図4】
図4は、予備成形用の金型を示す断面図である。
【
図5】
図5は、予備成形用の金型の一部を拡大して示す断面図である。
【
図6】
図6は、本成形用の金型を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本成形用の金型のパンチを示す断面図である。
【
図8】
図8は、本成形用の金型の固定金型の一部を拡大して示す断面図である。
【
図9】
図9は、第1の可動金型の一部を拡大して示す断面図である。
【
図10】
図10は、一方の第2の可動金型を拡大して示す断面図である。
【
図11】
図11は、第1の本成形工程を示す本成形用の金型の断面図である。
【
図12】
図12は、第2の本成形工程の初期段階を示す本成形用の金型の断面図である。
【
図13】
図13は、第2の本成形工程で第2の可動金型が縦板を押圧している状態を示す本成形用の金型の断面図である。
【
図14】
図14は、第2の本成形工程が終了した状態を示す本成形用の金型の断面図である。
【
図15】
図15は、本成形用の金型の一部を拡大して示す断面図である。
【
図16】
図16は、第3の本成形工程の初期段階を示す本成形用の金型の断面図である。
【
図17】
図17は、本成形用の金型の一部を拡大して示す断面図である。
【
図18】
図18は、引張応力と圧縮応力を模式的に示す成形品の一部の断面図である。
【
図19】
図19は、第3の本成形工程が終了した状態を示す本成形用の金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るプレス成形方法およびプレス成形装置の一実施の形態を
図1~
図19を参照して詳細に説明する。
本発明によるプレス成形方法は、
図1のフローチャートに示すように、予備成形工程S1と、本成形工程S2とをこの順序で実施する方法である。予備成形工程S1においては、高張力鋼や超高張力鋼からなる平板(図示せず)から
図2に示すような予備成形品1が成形される。予備成形品1は、天板2の両側に余肉部3を介して一対の縦板4が接続された帽子部5と、帽子部5の開口端にそれぞれ接続されたフランジ部6とを有する断面略ハット状に成形されている。余肉部3は、帽子部5の両側の肩部5aが部分的に帽子部5の外側に膨らむ形状に成形されている。この予備成形工程S1は、後述する予備成形用の金型11(
図4参照)によって実施される。
【0019】
本成形工程S2は、詳細は後述するが、第1~第3の本成形工程S2A~S2Cが実施されることにより、予備成形品1から
図3に示す最終形状の成形品12を成形する工程である。最終形状の成形品12は、予備成形品1のスプリングバックによる変形が修正されたもので、平坦な天板13と両側の直線的に延びる縦板14とからなる帽子部15と、帽子部15の開口端に接続された一対のフランジ部16とを有する断面ハット状に成形されている。
【0020】
最終形状の成形品12において、帽子部15の天板13と縦板14との接続部である肩部15aは、予備成形品1に設けられていた余肉部3が潰されて断面円弧状に成形されている。また、帽子部15の縦板14とフランジ部16との接続部15bは、成形品の表側から見て凹曲面となるように成形されている。
本成形工程S2は、
図6および
図7に示す本成形用の金型17によって実施される。この本成形用の金型17と、上述した予備成形用の金型11とによって、本発明に係るプレス成形装置18が構成される。
【0021】
予備成形用の金型11は、
図4に示すように、予備成形品1の内面を成形する断面山形状の予備成形用パンチ21と、予備成形品1の外面を成形する一対の予備成形用ダイ22,23および予備成形用パッド24とを備えている。
予備成形用パンチ21は、予備成形用下型25に固定されている。予備成形用下型25は、ベース部材26に固定されている。
図5に示すように、予備成形用パンチ21の先端部には、予備成形品1の天板2を成形する平板部21aと、余肉部3を成形するための膨出部21bとが形成されている。
【0022】
予備成形用ダイ22,23は、予備成形品1の余肉部3の外側半部を含む両側部を成形するものであり、予備成形用パッド24は、予備成形品1の余肉部3の内側半部と天板2を成形するものである。
予備成形用ダイ22,23と予備成形用パッド24には、予備成形用パンチ21の膨出部21bとの間に予備成形品1を挟む凹部22a,23a、24aが形成されている。
【0023】
予備成形用ダイ22,23と予備成形用パッド24は、予備成形用上型27に固定されている。予備成形用上型27は、予備成形品1の帽子部5の高さ方向(
図4においては上下方向であって、天板2やフランジ部6の厚み方向)に移動自在に構成されており、図示していない予備成形用加圧装置によって駆動される。予備成型時には、予備成形用加圧装置によって予備成形用上型27が下方に駆動され、予備成形用ダイ22,23と予備成形用パッド24が鋼板(図示せず)を予備成形用パンチ21に押し付ける。
【0024】
この予備成形用の金型11によって成形された予備成形品1は、
図2に示すように帽子部5の両方の肩部5aに余肉部3からなる成形代が残るとともに、スプリングバックが生じて帽子部5の開口側が両側方に向けて拡がるようになる。
【0025】
本成形用の金型17は、
図6に示すように、
図6において最も下に描かれている本成形用下型31を含む固定金型32と、
図6において最も上に描かれている本成形用上型33を含む可動金型34とを有している。
固定金型32は、断面山形状に形成された本成形用パンチ35と、本成形用パンチ35の両側に配置された一対の拘束駒36とを有している。本成形用パンチ35は、最終形状の成形品12の帽子部15の内面15c(
図3参照)およびこの内面15cに接続されたフランジ部16の一方の面16aを成形する金型である。本成形用パンチ35と拘束駒36は、本成形用下型31に固定されている。すなわち、固定金型32は、本成形用下型31と、本成形用パンチ35と、拘束駒36とによって構成されている。本成形用下型31は、移動することができないように構成されている。
【0026】
本成形用パンチ35は、
図7に示すように、
図7において最も上に描かれている第1の平面35aと、平面35aの両側に接続された凸曲面35bと、外側面35cと、第1の丸め部35dと、第2の平面35eなどを有している。
第1の平面35aは、最終形状の成形品12の帽子部15の天板13の内面を成形する成形面である。凸曲面35bは、帽子部15の両方の肩部15aの内面を成形する成形面である。外側面35cは、縦板14の内面を成形する成形面である。第1の丸め部35dは、帽子部15の縦板14とフランジ部16との接続部15bの内面を成形する成形面である。第2の平面35eは、フランジ部16の下面(一方の面16a)を成形する成形面である。この実施の形態においては、本成形用パンチ35における第1の平面35aから外側面35cに至る部分が本発明でいう「固定金型の凸部」に相当する。
【0027】
第1の丸め部35dは、湾曲した断面形状となる凹曲面によって形成されている。この本成形用パンチ35においては、第1の平面35aと、凸曲面35bと、外側面35cと、第1の丸め部35dと、第2の平面35eとが最終形状の成形品12の内面を成形する成形面となる。
拘束駒36は、本成形工程S2でフランジ部16の先端面16b(
図3参照)が当接する壁となるものであり、固定金型32の他の部分とは別体の金型部品として形成され、本成形用パンチ35の第2の平面35eより本成形用上型33側に突出している。拘束駒36は、本成形用下型31に着脱可能に取付けられている。
この拘束駒36における本成形用パンチ35と隣接する先端部(突出側端部)には、
図8に示すように、面取部37が形成されている。
【0028】
可動金型34は、
図6に示すように、本成形用上型33に第1の可動金型38と一対の第2の可動金型39とを組み付けて構成されている。本成形用上型33は、最終形状の成形品12の帽子部15の高さ方向(
図6においては上下方向)に移動可能に構成されており、図示していない本成形用加圧装置に接続されている。
第1の可動金型38は、帽子部15の天板13側を固定金型32(本成形用パンチ35)との間に挟んで最終形状に成形するもので、本成形用上型33に固定されており、本成形用上型33と一体に帽子部15の高さ方向に移動可能である。
図9に示すように、第1の可動金型38には、本成形用パンチ35の第1の平面35aとの間に成形品を挟む第3の平面38aと、本成形用パンチ35の凸曲面35bとの間に成形品を挟む凹曲面38bと、本成形用パンチ35の外側面35cとの間に成形品を挟む内側面38cとが形成されている。
【0029】
第2の可動金型39は、帽子部15の開口端側とフランジ部16を固定金型32との間に挟んで最終形状に成形するものである。この実施の形態による第2の可動金型39は、第1の可動金型38に複数のスプールリテーナー43によって第1の可動金型38に対して上下方向に移動可能な状態で吊り下げられている。なお、スプールリテーナー43の代わりにキーパープレート(図示せず)を使用することもできる。また、第2の可動金型39は、本成形用上型33にガススプリング40を介して接続されている。ガススプリング40は、本成形用上型33に固定されたシリンダ40aと、シリンダ40aから本成形用下型31に向けて突出するピストンロッド40bとを有している。ピストンロッド40bは、シリンダ40a内の圧縮されたガスの圧力で本成形用下型31に向けて付勢されている。ピストンロッド40bの先端部に第2の可動金型39が取付けられている。この実施の形態によるガススプリング40は、シリンダ40aが第1の可動金型38を貫通する状態で本成形用上型33に取付けられている。
ガススプリング40のばね力、すなわち第2の可動金型39を本成形用パンチ35に向けて押す押圧力は、本成形用加圧装置が本成形工程S2で本成形用上型33を本成形用パンチ35に向けて押す押圧力より小さい。
【0030】
第2の可動金型39は、
図10に示すように、本成形用上型33とは反対側に突出する凸部41と、本成形用パンチ35の外側面35cとの間に最終形状の成形品12の縦板14を挟む内側面39aとを有している。凸部41は、本成形用パンチ35と拘束駒36とによって形成された溝42(
図8参照)に嵌まる形状に形成されている。すなわち、凸部41には、本成形用パンチ35の第1の丸め部35dとの間に成形品を挟む第2の丸め部41aと、本成形用パンチ35の第2の平面35eとの間に成形品を挟む第4の平面41bとが形成されている。第2の丸め部41aは、湾曲した断面形状となる凸曲面によって形成されている。この実施の形態においては、溝42が本発明でいう「凹部」に相当する。
第4の平面41bは、予備成形品1のフランジ部6より小さくなるように形成されている。
【0031】
溝42の一方の側壁は、本成形用下型31や本成形用パンチ35とは別体の拘束駒36によって形成されている。このため、溝42の底面と一方の側壁との境界に直角形状を形成することができる。すなわち、予備成形品1から最終形状の成形品12を得る際に拘束壁36と予備成形品1のフランジ部6との間に隙間が生じることがないように、言い換えればフランジ部6の先端面が拘束壁36に正しく突き当たるように溝42を形成することができる。また、本成形用下型31は移動できないように構成されているため、より安定してフランジ部6の先端面が拘束壁36に正しく突き当たるようになる。
【0032】
次に、本成形用の金型17を使用して予備成形品1から最終形状の成形品12を得るための本成形工程S2について説明する。最終形状の成形品12を成形するにあたっては、先ず、第1の本成形工程S2Aが実施される。
第1の本成形工程S2Aにおいては、
図11に示すように、本成形用パンチ35に予備成形品1を載置する。このとき、予備成形品1の帽子部5の中に本成形用パンチ35を挿入する。予備成形品1を本成形用パンチ35に載置する工程が本成形工程S2の中の第1の本成形工程S2Aである。
【0033】
予備成形品1は、スプリングバックが生じているために、フランジ部6が本成形用パンチ35の外側面35cから大きく離れるようになる。
予備成形品1を本成形用パンチ35に載置した後、
図12に示すように、本成形用加圧装置を動作させて可動金型34を固定金型32に向けて移動させる。可動金型34がこのように移動すると、先ず、第2の可動金型39が予備成形品1の帽子部5の縦板4に接触する。可動金型34が更に移動すると、
図13に示すように、第2の可動金型39が予備成形品1の縦板4を本成形用パンチ35の外側面35cに押し付けるようになる。このときは、第2の可動金型39の第2の丸め部41aが縦板4に接触して滑りながら縦板4を本成形用パンチ35の外側面35cに向けて押す。
【0034】
縦板4が本成形用パンチ35に押し付けられることにより、フランジ部6が本成形用パンチ35に接近する。そして、
図14に示すように第2の可動金型39の凸部41が本成形用パンチ35と拘束駒36との間の溝42に挿入されて成形終了位置に達することにより、帽子部5の開口部分とフランジ部6とが溝42に収容される。このときのフランジ部6の先端の移動軌跡を
図15中に二点鎖線Lで示す。すなわち、フランジ部6の先端は、拘束駒36の溝側の面取部37の近傍を通過して拘束駒36に接触することなく溝42に入る。第2の可動金型39の凸部41の先端面(第4の平面41b)は、フランジ部6より小さくなるように形成されている。このため、凸部41がフランジ部6を押すときにフランジ部6の先端側は何も支えられていない状態となり、フランジ部6が拘束駒36の面取部37に接触するようなことがあったとしても、フランジ部6の先端部が撓みながら面取部37上で摺動する。
【0035】
本成形用上型33は、第2の可動金型39が溝42に入った後も引き続き固定金型32に向けて移動する。このときは、第2の可動金型39がガススプリング40のばね力で帽子部5の開口部分とフランジ部6とを固定金型32に押し付ける。
このように帽子部5の開口部分とフランジ部6とが第2の可動金型39と固定金型32とに挟まれることによって、これらが最終形状に近い形状に成形される。このように帽子部5の開口部分とフランジ部6とが固定金型32と第2の可動金型39とによって挟まれる工程が本成形工程S2の中の第2の本成形工程S2Bとなる。
【0036】
第2の本成形工程S2Bで第2の可動金型39が予備成形品1を固定金型32に押し付ける際には、縦板4の一部が余肉部3側に逃げるようになる。この結果、
図14に示すように、帽子部5の天板2が両側から押され、天板2の中央部が変形して上に凸となるように湾曲する。
【0037】
その後、本成形用上型33が更に移動すると、
図16に示すように第1の可動金型38が予備成形品1の余肉部3に接触し、これを本成形用パンチ35に向けて押すようになる。このように第1の可動金型38が予備成形品1に接触することにより、本成形工程S2の中の第3の本成形工程S2Cが開始される。
余肉部3は、第1の可動金型38によって押されることによって、平坦になるように変形し、
図17中に矢印Aで示すように、縦板4を帽子部5の開口側に向けて押すようになる。縦板4がこのように押圧されることにより、縦板4に接続されているフランジ部6も矢印Bで示すように先端側に向けて押される。
【0038】
ガススプリング40のばね力は第1の可動金型38が余肉部3を押す力より小さいから、フランジ部6が第2の可動金型39によって押されながら拘束駒36に向けて変位することは可能である。フランジ部6が縦壁側から押されて変位すると、フランジ部6の先端面6aが拘束駒36に当接し、フランジ部6のそれ以上の変位が規制される。言い換えれば、帽子部5の開口部分とフランジ部6とが固定金型32と第2の可動金型39とによって拘束される。
このようにフランジ部6の先端が拘束駒36に当接した状態で、第2の可動金型39が予備成形品1を固定金型32との間に挟み、押圧する。この状態で第1の可動金型38によって予備成形品1の余肉部3を圧縮すると、余肉部3からの材料流れがフランジ部6にまでおよび、予備成形品1の開いた形状が真っ直ぐとなるように予備成形品1を成形することができる。
【0039】
予備成形品1が第1の可動金型38によって押圧される直前の状態においては、予備成形品1の天板2と余肉部3の内部に
図18(A)において矢印で示すように引張応力P1と圧縮応力P2とが残存している。すなわち、成形により引き延ばされている部分には引張応力P1が残存し、成形により圧縮されている部分には圧縮応力P2が残存している。このような状態にある予備成形品1を第1の可動金型38が固定金型32に向けて押すことにより、余肉部3の一部が天板2の中央側に寄せられ、天板2の中央部が更に大きく湾曲するようになって予備成形品1の天板2と余肉部3とが波板状に変形しながら圧縮される。
【0040】
その後、
図19に示すように、第1の可動金型38が更に予備成形品1を押し、予備成形品1が第2の可動金型39によって固定金型32に押し付けられている状態で、第1の可動金型38の成形面(第3の平面38a、凹曲面38bおよび内側面38c)の全域が予備成形品1に密着してこれを本成形用パンチ35に押し付けるようになる。
第1の可動金型38が予備成形品1に密着することにより、
図18(B)に示すように、予備成形品1の天板2と余肉部3に引張応力P1が生じるように延ばされていた部分が圧縮される(圧縮応力P2が作用する)ようになる。また、圧縮応力P2が生じるように圧縮されていた部分が引き延ばされる(引張応力P1が作用する)ようになる。このような天板2と余肉部3が波板状に変形しながら最終形状に圧縮される過程、すなわち変形・圧縮の過程で引張応力P1と圧縮応力P2とが相殺され、スプリングバックが抑制される。
【0041】
このように第1の可動金型38が予備成形品1に密着することにより、予備成形品1の帽子部5とフランジ部6とに面方向に圧縮応力が生じる状態で帽子部5とフランジ部6とが最終形状の帽子部15とフランジ部16に成形される。
ここでいう「面方向」とは、厚み方向とは直交する方向であって、帽子部5の天板2およびフランジ部6においては左右方向であり、縦板4においては上下方向である。第1の可動金型38がそれ以上移動できなくなることにより、第3の本成形工程S2Cが終了する。第3の本成形工程S2Cが終了した後、可動金型34が固定金型32から離れるように移動し、最終形状の成形品12が得られる。最終形状の成形品12の肩部15aと、帽子部15の縦板14とフランジ部16との接続部15bとにおいては、湾曲部分の外周側に生じる引っ張り応力が低減される。このため、最終形状の成形品12は、スプリングバックの発生が著しく低く抑えられたものとなる。
【0042】
したがって、この実施の形態によるプレス成形方法およびプレス成形装置18によれば、第1および第2の可動金型38,39を帽子部15の高さ方向にのみ移動させることによって、予備成形品1を圧縮して最終形状の成形品12を成形することができる。この実施の形態によるプレス成形装置18は、従来のプレス成形装置で用いられていたカム機構を使用していないから、構造が簡単になる。
このため、この実施の形態によれば、簡易な設備でワークに圧縮応力を付与してスプリングバックを防ぐことが可能なプレス成形方法およびプレス成形装置を提供することができる。
【0043】
この実施の形態による固定金型32と第2の可動金型39とにおける、帽子部15の縦板14とフランジ部16との接続部15bを成形する部分は、それぞれ湾曲した断面形状となる第1の丸め部35d、第2の丸め部41aによって形成されている。第2の本成形工程S2Bにおいて、第2の可動金型39が成形終了位置に移動する過程で第2の可動金型39の第2の丸め部41aが予備成形品1の縦板4を固定金型32に向けて押す。このため、スプリングバックによって拡がった予備成形品1を第2の可動金型39によってフランジ部6に向けて絞るように成形することができる。
【0044】
この実施の形態による拘束駒36の先端部には面取部37が形成されている。第2の本成形工程S2Bにおいて、面取部37に近接する位置をフランジ部6の先端部分が通過する。このため、フランジ部6と拘束駒36との干渉を避けながら、拘束駒36を本成形用パンチ35との間にフランジ部6が嵌まるような位置に配置することができる。このため、第3の本成形工程S2Cを行うときに最終形状の成形品12が確実に圧縮されるようになり、スプリングバックの発生をより一層少なくすることができる。
【0045】
この実施の形態による拘束駒36は、固定金型32の他の部分とは別体の金型部品によって形成されて着脱可能に構成されている。溝42の底面と拘束駒36との境界は直角形状となっている。最終形状の成形品12のフランジ部16の先端面は、拘束壁36に隙間なく当接している。
拘束駒36に相当する突起を本成形用下型31に一体に形成する場合は、溝42の底面と突起との境界部分に丸め部が生じてしまう。この場合、第3の本成形工程S2Cでフランジ部16の先端面を壁に当てることができなくなるし、最終形状の成形品12のフランジ部16を正しい形状に形成することができなくなる。しかし、この実施の形態に示すように拘束駒36を固定金型32の他の部分とは別体に形成することにより、フランジ部16の先端面が隙間なく当接する壁(ワーク当て面)を直角形成部により容易に形成することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…予備成形品、2,13…天板、3…余肉部、4,14…縦板、5,15…帽子部、6,16…フランジ部、11…予備成形用の金型、12…最終形状の成形品、15a…肩部、15c…帽子部の内面、17…本成形用の金型、18…プレス成形装置、32…固定金型、35d,41a…丸め部、36…拘束駒(壁)、37…面取部、38…第1の可動金型、39…第2の可動金型、S1…予備成形工程、S2…本成形工程、S2A…第1の本成形工程、S2B…第2の本成形工程、S2C…第3の本成形工程。
【要約】
【課題】簡易な設備でワークに圧縮応力を付与してスプリングバックを防ぐことが可能なプレス成形方法を提供する。
【解決手段】断面ハット状の予備成形品1を肩部5aに成形代(余肉部3)を残して成形する予備成形工程と、最終的な形状に成形する本成形工程とを有する。本成形方法においては、帽子部5の高さ方向に移動する第2の可動金型39で予備成形品1の開口側端部を拘束した状態で、帽子部5の天板2側に第1の可動金型38を押し付けて成形する。第2の可動金型39を押す押圧力は、第1の可動金型38を押す押圧力より小さい。
【選択図】
図17