IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人京都工芸繊維大学の特許一覧

特許7591109吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法
<>
  • 特許-吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法 図1
  • 特許-吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法 図2
  • 特許-吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法 図3
  • 特許-吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法 図4
  • 特許-吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法 図5
  • 特許-吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法 図6
  • 特許-吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法 図7
  • 特許-吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法 図8
  • 特許-吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法 図9
  • 特許-吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法 図10
  • 特許-吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/20 20060101AFI20241120BHJP
   H01F 7/18 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
H01F7/20 H
H01F7/18 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023151520
(22)【出願日】2023-09-19
(62)【分割の表示】P 2019126452の分割
【原出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2023171808
(43)【公開日】2023-12-05
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】増田 新
(72)【発明者】
【氏名】田中 昂大
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-163996(JP,A)
【文献】特開2017-168562(JP,A)
【文献】特開2003-059716(JP,A)
【文献】特開平09-142769(JP,A)
【文献】特開平04-229605(JP,A)
【文献】特開平08-316025(JP,A)
【文献】特開昭48-064467(JP,A)
【文献】特開昭62-167193(JP,A)
【文献】特表2005-515080(JP,A)
【文献】特公昭46-011392(JP,B1)
【文献】実開昭62-117091(JP,U)
【文献】実開昭61-188316(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/20
H01F 7/18
H01F 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1保磁力を有する第1永久磁石と、
前記第1保磁力より低い第2保磁力を有する第2永久磁石と、
前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石を挟持し且つ磁性体に吸着する吸着面をそれぞれ有する少なくとも一対のヨークと、
前記第2永久磁石の磁化方向を反転させて、前記吸着面が磁性体に吸着する吸着状態と前記吸着面が磁性体に吸着しない離脱状態とのいずれかに前記吸着面を設定するコイルと、
前記コイルに電流パルスを供給する電流供給手段と、
前記吸着面が磁性体に接触してない状態で前記電流供給手段が前記コイルに電流パルスを供給し、前記吸着面を前記吸着状態に設定した後における前記コイルの誘導起電力の変化に基づいて、前記吸着面が磁性体に接触していることを検知する接触検知手段とを備え、
前記吸着面が当該吸着面に対して相対運動している磁性体に吸着する場合に、前記接触検知手段により前記吸着面が磁性体に接触していることが検知された状態で、前記電流供給手段が前記コイルに電流パルスを供給して前記吸着面を吸着状態に設定することを特徴とする吸着装置。
【請求項2】
前記接触検知手段は、前記コイルの誘導起電力が所定閾値を超えた後で0まで減少したとき以降において、前記吸着面が磁性体に接触していることを検知することを特徴とする請求項1に記載の吸着装置。
【請求項3】
前記接触検知手段は、前記コイルの誘導起電力が第1閾値を超えた後、前記第1閾値より小さい第2閾値を下回ったときに、前記吸着面が磁性体に接触していることを検知することを特徴とする請求項1に記載の吸着装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の吸着装置を備えることを特徴とする無人航空機。
【請求項5】
請求項1~3の何れかに記載の吸着装置を備えることを特徴とするロボット。
【請求項6】
第1保磁力を有する第1永久磁石と、前記第1保磁力より低い第2保磁力を有する第2永久磁石と、前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石を挟持し且つ磁性体に吸着する吸着面をそれぞれ有する少なくとも一対のヨークと、前記第2永久磁石の磁化方向を反転させて、前記吸着面が磁性体に吸着する吸着状態と前記吸着面が磁性体に吸着しない離脱状態とのいずれかに前記吸着面を設定するコイルとを備える吸着装置の前記吸着面を、当該吸着面に対して相対運動している磁性体に吸着する場合の吸着方法であって、
前記吸着面が磁性体に接触してない状態で前記コイルに電流パルスを供給する非接触磁化工程と、
前記コイルの誘導起電力の変化に基づいて前記吸着面が磁性体に接触していることを検知する接触検知工程と、
前記接触検知工程で前記吸着面が磁性体に接触していることが検知された状態で、前記コイルに電流パルスを供給して前記吸着面を前記吸着状態に設定する接触磁化工程とを備えることを特徴とする吸着装置の吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコイルに通電することにより吸着面が磁性体に吸着する吸着状態と吸着面が磁性体に吸着しない離脱状態とを切り替える吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着装置には、永久磁石と電磁石を併用する構成を採用し、励磁コイル内にアルニコ磁石等の比較的保磁力の低い永久磁石を配置し、励磁コイルへの瞬時の電流印加によって低保磁力永久磁石の磁化方向を反転させるように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記吸着装置は、板状ヨーク31,32間にアルニコ磁石等の低保磁力永久磁石33と希土類磁石等の高保磁力永久磁石35とを並列的に挟持するように構成されており、低保磁力永久磁石33に励磁コイル34を巻回している。ヨーク31,32の先端部は、磁性体である被吸着物を吸着する吸着面(吸着用磁極面)を形成している。
【0004】
上記吸着装置において、励磁コイル34に電流を印加し低保磁力永久磁石33を高保磁力永久磁石35と同一方向に磁化すると、励磁コイル34への電流をOFFした後でも永久磁石33,35によって被吸着物の吸着状態を維持することができる。また、励磁コイル34に逆方向の電流を印加し低保磁力永久磁石33を高保磁力永久磁石35と逆方向に磁化すると、励磁コイル34への電流をOFFした後には、吸着装置の外部に磁界が発生せず被吸着物を離脱することができる。
【0005】
上記吸着装置のように、外部磁場により磁化方向が容易に反転する永久磁石(例えばアルニコ磁石)と、外部磁場により磁化方向が容易に反転しない永久磁石(例えばネオジム磁石)とを組み合わせたものでは、電磁石と異なり、磁性体を吸着面に吸着させた状態を維持するために電力を必要としないため、吸着状態を長時間維持する必要がある用途(例えば電磁チャック、構造物の着脱など)に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-316025
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記吸着装置において、吸着対象物と吸着面との間にエアギャップがある状態で離脱状態から吸着状態に切り替えると、吸着力が著しく低下してしまう。そのため、吸着面が吸着対象物に対して静止している場合、両者を十分に近づけた状態を維持し、その状態で離脱状態から吸着状態に切り替えることで、吸着力が低下するのを抑制することが可能である。
【0008】
上記吸着装置の使用例として、例えば無人航空機に吸着装置を搭載し、その吸着装置により無人航空機を壁などの構造物(吸着対象物)に設置したり、ロボットハンドの先端部に吸着装置を取り付け、その吸着装置によりロボットハンドの先端部で吸着対象物を保持することが考えられる。しかしながら、吸着面が吸着対象物に対して相対運動している場合、両者を十分に近づけた状態を維持するのが困難である。
【0009】
そこで、本発明の発明者は、吸着面が吸着対象物に対して相対運動している場合において、吸着面が吸着対象物に高い吸着力で吸着可能とする吸着装置、吸着装置を備える無人航空機またはロボット、及び吸着装置の吸着方法について研究を行った。
【0010】
本発明者が、鋭意研究した結果、吸着面が吸着対象物に対して相対運動している場合に、吸着面が吸着対象物に向かって近づいて、吸着面が吸着対象物に接触したときに、吸着面を吸着状態にすることにより、吸着面が吸着対象物に高い吸着力で吸着することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0012】
すなわち、本発明に係る吸着装置は、第1保磁力を有する第1永久磁石と、前記第1保磁力より低い第2保磁力を有する第2永久磁石と、前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石を挟持し且つ磁性体に吸着する吸着面をそれぞれ有する少なくとも一対のヨークと、前記第2永久磁石の磁化方向を反転させて、前記吸着面が磁性体に吸着する吸着状態と前記吸着面が磁性体に吸着しない離脱状態とのいずれかに前記吸着面を設定するコイルと、前記コイルに電流パルスを供給する電流供給手段と、前記吸着面が磁性体に接触してない状態で前記電流供給手段が前記コイルに電流パルスを供給し、前記吸着面を前記吸着状態に設定した後における前記コイルの誘導起電力の変化に基づいて、前記吸着面が磁性体に接触していることを検知する接触検知手段とを備え、前記吸着面が当該吸着面に対して相対運動している磁性体に吸着する場合に、前記接触検知手段により前記吸着面が磁性体に接触していることが検知された状態で、前記電流供給手段が前記コイルに電流パルスを供給して前記吸着面を吸着状態に設定することを特徴とする。
【0013】
これにより、本発明に係る吸着装置では、吸着面が吸着対象物である磁性体に対して相対運動している場合に、吸着面が磁性体に接触していることが検知された状態で、コイルに電流を供給して吸着面を吸着状態に設定する。そのため、吸着面が磁性体に対して相対運動している場合でも、吸着面が磁性体に高い吸着力で吸着することが可能である。
【0014】
【0015】
これにより、本発明に係る吸着装置では、コイルの誘導起電力の変化に基づいて、吸着面が磁性体に接近していること、吸着面が磁性体に接触していること及び吸着面が磁性体から離脱したことを検知可能である。そのため、吸着装置は、吸着面が磁性体に接触していることを検知するためのセンサを備える必要がない。
【0016】
本発明に係る吸着装置において、前記接触検知手段は、前記コイルの誘導起電力が所定閾値を超えた後で0まで減少したとき以降において、前記吸着面が磁性体に接触していることを検知することを特徴とする。
【0017】
これにより、本発明に係る吸着装置では、磁束の時間的変化である誘導起電力が所定閾値を超えるまで増加し、その後、0まで減少したとき以降において、吸着面が磁性体に接触していることを検知するため、吸着面が磁性体に接触したことを確実に検知することが可能である。
【0018】
本発明に係る吸着装置において、前記接触検知手段は、前記コイルの誘導起電力が第1閾値を超えた後、前記第1閾値より小さい第2閾値を下回ったときに、前記吸着面が磁性体に接触していることを検知することを特徴とする。
【0019】
これにより、本発明に係る吸着装置では、誘導起電力が第1閾値を超えた後、第1閾値より小さい第2閾値を下回ったときに、吸着面が磁性体に接触していることを検知するため、吸着面が磁性体に接触したことを確実に検知することが可能である。
【0020】
本発明に係る無人航空機は、上記の何れかに記載の吸着装置を備えることを特徴とする。
【0021】
これにより、本発明に係る無人航空機では、吸着装置を搭載した無人航空機を磁性体で形成された壁などの構造物に対して高い吸着力で吸着させることが可能である。
【0022】
本発明に係るロボットは、上記の何れかに記載の吸着装置を備えることを特徴とする。
【0023】
これにより、本発明に係るロボットでは、吸着装置が取り付けられたロボットハンドにより磁性体で形成された吸着対象物を高い吸着力で保持することが可能である。
【0024】
本発明に係る吸着装置の吸着方法は、第1保磁力を有する第1永久磁石と、前記第1保
磁力より低い第2保磁力を有する第2永久磁石と、前記第1永久磁石及び前記第2永久磁
石を挟持し且つ磁性体に吸着する吸着面をそれぞれ有する少なくとも一対のヨークと、前
記第2永久磁石の磁化方向を反転させて、前記吸着面が磁性体に吸着する吸着状態と前記
吸着面が磁性体に吸着しない離脱状態とのいずれかに前記吸着面を設定するコイルとを備
える吸着装置の前記吸着面を、当該吸着面に対して相対運動している磁性体に吸着する場
合の吸着方法であって、前記吸着面が磁性体に接触してない状態で前記コイルに電流パル
スを供給する非接触磁化工程と、前記コイルの誘導起電力の変化に基づいて前記吸着面が
磁性体に接触していることを検知する接触検知工程と、前記接触検知工程で前記吸着面が磁性体に接触していることが検知された状態で、前記コイルに電流パルスを供給して前記吸着面を前記吸着状態に設定する接触磁化工程とを備えることを特徴とする。
【0025】
これにより、本発明に係る吸着装置の吸着方法では、吸着面が吸着対象物である磁性体に対して相対運動している場合に、吸着面が磁性体に接触していることが検知された状態で、コイルに電流を供給して吸着面を吸着状態に設定する。そのため、吸着面が磁性体に対して相対運動している場合でも、吸着面が磁性体に高い吸着力で吸着することが可能である。また、コイルの誘導起電力の変化に基づいて吸着面が磁性体Aに接触していることを検知可能であるため、吸着装置は、吸着面が磁性体に接触していることを検知するためのセンサを備える必要がない。
【発明の効果】
【0026】
以上、本発明によれば、吸着面が吸着対象物である磁性体に対して相対運動している場合でも、吸着面が高い吸着力で磁性体に吸着することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る吸着装置を搭載した無人航空機が構造物に設置される動作を説明する図である。
図2図2(a)は、吸着装置の斜視図であり、図2(b)は、図2(a)のa-a線における断面図である。
図3図1の吸着装置の制御ブロック図である。
図4図4(a)は、離脱状態における磁路を示す図であり、図4(b)は、吸着状態における磁路を示す図である。
図5】吸着装置の動作特性を検討するための模式図である。
図6】吸着面が磁性体に接触した状態で電流パルスを供給する接触磁化を行った場合の磁場の強さと磁束密度の関係を示す図である。
図7】吸着面が磁性体に接触した状態で電流パルスを供給する接触磁化を行った場合の磁路の変化を示す図である。
図8】吸着面が磁性体に接触してない状態で電流パルスを供給する非接触磁化を行った場合の磁場の強さと磁束密度の関係を示す図である。
図9】吸着面が磁性体に接触してない状態で電流パルスを供給する非接触磁化を行った場合の磁路の変化を示す図である。
図10】吸着面が磁性体に接触してない状態で電流パルスを供給する非接触磁化を行った後、吸着面が磁性体に近づいた場合の誘導起電力の変化を示す図である。
図11】吸着装置を搭載した無人航空機が構造物に設置される場合の手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態に係る吸着装置及び吸着方法について、図面を参照して説明する。
【0029】
以下の説明では、図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施形態の吸着装置1を搭載した無人航空機(ドローン)30が、吸着装置1により壁などの構造物50に設置される場合について説明する。
【0030】
無人航空機30は、図1(a)に示すように、構造物50に向かって飛行して近づいた場合に、構造物50と対向する面に配置された1または複数の吸着装置1を搭載している。壁などの構造物50において無人航空機30が設置される領域には、磁性体で形成された設置部が配置されており、図1(b)に示すように、吸着装置1により、無人航空機30を構造物50に設置可能である。
【0031】
本実施形態の吸着装置1は、図2(a)及び図2(b)に示すように、ネオジム磁石2と、アルニコ磁石3と、一対のヨーク4と、一対のヨーク4を支持する支持部材5と、コイル6とを備える。
【0032】
ネオジム磁石2及びアルニコ磁石3は、いずれも略直方体であり、略同一形状を有している。第1永久磁石としてのネオジム磁石3は、第1保磁力を有し、第2永久磁石としてのアルニコ磁石2は、第2保磁力を有しており、アルニコ磁石2の第2保磁力は、ネオジム磁石3の第1保磁力より低い。ネオジム磁石2は、その保磁力が比較的大きいため、外部磁場により磁化方向が容易に反転しない永久磁石であるのに対し、アルニコ磁石3は、その保磁力が比較的小さいため、外部磁場により磁化方向が容易に反転する永久磁石である。
【0033】
一対のヨーク4は、平行に配置された板状部材であり、磁性材料で形成されている。一対のヨーク4は、ネオジム磁石2及びアルニコ磁石3を並列に配置された状態で挟持している。ヨーク4の端面(図2では下端面)には、磁性体で形成された吸着対象物を吸着するための吸着面4aがそれぞれ形成される。ネオジム磁石2は、アルニコ磁石3より吸着面4aに近接して配置される。よって、吸着装置1は、ヨーク4の端面に形成される吸着面4aを有しており、図1に示すように、無人航空機30が構造物50に近づく場合、吸着面4aが構造物50に対向する状態となる。
【0034】
支持部材5は、非磁性体で形成されており、一対のヨーク4の側面を接続することにより、一対のヨーク4を支持している。
【0035】
コイル6は、ネオジム磁石2及びアルニコ磁石3の周囲に巻回されており、電流(電流パルス)が供給された場合に、ネオジム磁石2及びアルニコ磁石3のなかで、保磁力が比較的低いアルニコ磁石3の磁化方向を反転させる。
【0036】
吸着装置1の制御部10は、図3に示すように、接触検知手段としての接触検知部10aと、電流供給手段としての電流供給部10bとを有している。制御部10には、コイル6が接続されている。なお、本実施形態において、制御部10は、無人航空機30の制御部の一部となっているが、ネオジム磁石2、アルニコ磁石3、一対のヨーク4及びコイル6と共に吸着装置1を構成している。
【0037】
接触検知部10aは、吸着装置1の吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知する。具体的には、接触検知部10aは、吸着面4aが磁性体Aに接触してない状態でコイル6に電流を供給された後におけるコイル6の誘導起電力の変化に基づいて、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知する。
【0038】
本実施形態では、接触検知部10aは、コイル6の誘導起電力が所定閾値Aを超えた後で0まで減少したときに、吸着装置1の吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知する。
【0039】
電流供給部10bは、コイル6に供給される電流を制御する。具体的には、電流供給部10bは、コイル6に供給される電流パルスの振幅(電流値)を制御すると共に、その電流パルスがコイル6に供給されるタイミングを制御する。本実施形態では、電流供給部10bは、吸着装置1の吸着面4aが磁性体に吸着されない離脱状態と、吸着装置1の吸着面4aが磁性体Aに吸着される吸着状態とのいずれかを設定するときに、所定の振幅(電流値)を有する電流パルスをコイル6に供給する。
【0040】
吸着装置1においては、図4(a)に示すように、コイル6に電流パルスを供給し、アルニコ磁石3の磁化方向を反転させて、アルニコ磁石3の磁化方向をネオジム磁石2の磁化方向と反対方向である場合、ネオジム磁石2からの磁束及びアルニコ磁石3からの磁束が外部へ漏れ出されなくなり、吸着装置1の吸着面4aが磁性体Aに吸着されない離脱状態となる。なお、コイル6への電流パルスの供給が終了した後でも、ネオジム磁石2及びアルニコ磁石3によって磁性体Aが吸着されない状態が維持される。
【0041】
また、図4(b)に示すように、コイル6に電流パルスを供給し、アルニコ磁石3の磁化方向を反転させて、アルニコ磁石3の磁化方向をネオジム磁石2の磁化方向と同一方向にすると、ネオジム磁石2からの磁束及びアルニコ磁石3からの磁束が外部へ漏れ出して、吸着装置1の吸着面4aが磁性体Aに吸着される吸着状態となる。なお、コイル6への電流パルスの供給が終了した後でも、ネオジム磁石2及びアルニコ磁石3によって磁性体Aを吸着する状態が維持される。
【0042】
このように、図4(a)及び図4(b)に示すように、吸着装置1では、コイル6に電流パルスを供給し、アルニコ磁石3の磁化方向を反転させることにより、離脱状態及び吸着状態のいずれかを設定して、吸着装置1の吸着面4aに対する磁性体Aの脱着が可能である。
【0043】
本発明の発明者は、吸着対象物である磁性体Aが吸着面4aに対して相対運動している場合に、吸着面4aが磁性体Aに高い吸着力で吸着する吸着方法についての研究において、吸着装置1におけるアルニコ磁石3の磁場の強さと磁束密度との関係についての調査を実施した。
【0044】
(吸着装置の動作特性)
図5に基づいて、吸着装置1の動作特性を考える。図5には吸着装置1の磁路が描かれている。磁路a-a’は、ヨーク4からの漏れ磁路、磁路d-eおよび磁路e’-d’は、対象物である磁性体Aと吸着面4aの間のエアギャップ間の磁路、磁路e-e’は、対象物内である磁性体Aを通る磁路である。なお、以下の計算においてヨーク4および磁性体Aの磁気抵抗は、零であるとしている。まず、アンペールの法則より、下記の式が導出される。
【0045】
閉磁路b-a-a’-b’-bについて、下記の(式1)が導出される。

【数1】
【0046】
閉磁路b-d-e-e’-d’-b’-bについて、下記の(式2)が導出される。

【数2】
【0047】
閉磁路c-a-a’-c’-cについて、下記の(式3)が導出される。

【数3】
【0048】
また、ガウスの法則より、下記の(式4)が導出される。

【数4】
【0049】
空中の磁路、すなわち漏れ磁路の磁束密度とエアギャップ磁路の磁束密度については、下記の(式5)及び(式6)となる。

【数5】
【数6】
【0050】
さらに、ネオジム磁石の磁束密度については、下記の(式7)となる。

【数7】
【0051】
但し、
ND:ネオジム磁石の磁場の強さ
AL:アルニコ磁石の磁場の強さ
:漏れ磁路の磁場の強さ
:エアギャップ磁路の磁場の強さ
ND:ネオジム磁石の磁束密度
AL:アルニコ磁石の磁束密度
AL:アルニコ磁石の磁束密度
:漏れ磁路の磁束密度
:エアギャップ磁路の磁束密度
ND:ネオジム磁石の断面積
AL:アルニコ磁石の断面積
:漏れ磁路の等価断面積
:エアギャップ磁路の等価断面積
:漏れ磁路の経路長
:エアギャップ磁路の経路長
L:ネオジム磁石及びアルニコ磁石の長さ
N:コイルの巻き数
I:コイル電流
:ネオジム磁石の残留磁束密度
μ:真空の透磁率
である。
【0052】
よって、アルニコ磁石3の磁束密度BALは、下記の(式8)となる。

【数8】

但し、
=μ/L:漏れ磁路のパーミアンス
=μ/L:エアギャップ磁路のパーミアンス
である。
この数式が表す直線を動作線と呼ぶ。
【0053】
また、アルニコ磁石3の吸着力Fは、下記(式9)となる。

【数9】
【0054】
上述したように、アルニコ磁石3の磁場の強さHALと吸着装置1の周囲のパーミアンス係数とが分かれば、アルニコ磁石の磁束密度BAL及び吸着力Fが求まる。なお、(式8)において、アルニコ磁石3の磁場の強さHALの係数の絶対値が、吸着装置1の周囲のパーミアンス係数を示す。
【0055】
よって、(式8)が表す動作線と、アルニコ磁石3のB-H曲線とに基づいて、アルニコ磁石3の磁束密度BALを求めることが可能である。
【0056】
以下の説明では、吸着面4aが磁性体Aに接触した状態で電流パルスをコイル6に供給して吸着面4aを吸着状態に設定した場合(接触磁化を行った場合)と、吸着面4aが磁性体Aに接触してない状態で電流パルスをコイル6に供給して吸着面4aを吸着状態に設定した場合(非接触磁化を行った場合)とについて、アルニコ磁石3の磁束密度BALの変化について説明する。なお、説明の簡単のため、両磁石の残留磁束密度と断面積は等しいとする。
【0057】
(接触磁化を行った場合)
吸着面4aが磁性体Aに接触した状態で、吸着面4aを吸着状態に設定した場合について、図6及び図7に基づいて説明する。
【0058】
図6は、接触磁化を行った場合の(式8)とアルニコ磁石のB-H曲線との関係を示している。図6において、横軸は磁場の強さ、縦軸は磁束密度であり、曲線はアルニコ磁石3のB-H曲線を示し、直線Ta0は電流パルスがコイル6に供給されてないときのアルニコ磁石3の動作線を示し、直線Tn0は電流パルスがコイル6に供給されているときのアルニコ磁石3の動作線を示す。
【0059】
まず、図6に示した動作点aでは、電流パルスがコイル6に供給されてない状態であり、図7(a)に示すように、吸着面4aが磁性体Aに吸着しない離脱状態(磁化してない状態)である。そのとき、アルニコ磁石3の磁束密度は、図6に示すように、負の値である。吸着面4aが磁性体Aに接触した状態で、電流パルスをコイル3に供給すると、動作線がTa0からTn0に移動するため,動作点はB-H曲線に沿って、動作点aから動作点bに移動する。
【0060】
図6に示した動作点bの状態では、吸着面4aが磁性体Aに接触した状態で電流パルスを供給した状態であり、図7(b)に示すように、吸着面4aが磁性体Aに吸着する吸着状態である。そのとき、アルニコ磁石3の磁束密度は、図6に示すように、負の値から正の値に切り替わる。すなわち、アルニコ磁石3の磁化方向が反転し、ネオジム磁石2からの磁束及びアルニコ磁石3からの磁束が外部へ漏れ出して、吸着面4aが磁性体Aに吸着する吸着状態となる。その後、電流パルスがコイル6に供給されなくなると、B-H曲線に沿って、動作点bから動作点cに移動する。
【0061】
図6に示した動作点cの状態では、コイル6への電流パルスの供給が終了した後の状態であり、図7(c)に示すように、吸着面4aが磁性体Aに吸着する吸着状態が維持される。接触磁化を行った場合、図6に示すように、動作点cにおいて、アルニコ磁石3の磁束密度は、動作点bで正の値に切り替わった後、正の値に維持されている。そのため、吸着面4aが磁性体Aに吸着する吸着力は十分に大きい状態に維持される。
【0062】
(非接触磁化を行った場合)
これに対して、吸着面4aが磁性体Aに接触してない状態で、吸着面4aを吸着状態に設定した場合について、図8及び図9に基づいて説明する。
【0063】
図8は、非接触磁化を行った場合の(式8)とアルニコ磁石3のB-H曲線との関係を示している。図8において、横軸は磁場の強さ、縦軸は磁束密度であり、曲線はアルニコ磁石のB-H曲線を示し、直線Ta1は電流パルスがコイル6に供給されてないときのアルニコ磁石3の動作線を示し、直線Tn1は電流パルスがコイル6に供給されているときのアルニコ磁石3の動作線を示す。エアギャップの増大にともないパーミアンスPが零に近づくため、これらの動作線の傾きは図6のものより勾配が緩やかになる。なお、図8において、直線Ta0は電流パルスがコイル6に供給されてないときのアルニコ磁石3の動作線を示し、図6の直線Ta0と同一である。
【0064】
まず、図8に示した動作点aでは、電流パルスがコイル6に供給されてない状態であり、図9(a)に示すように、吸着面4aが磁性体Aに吸着しない離脱状態(磁化してない状態)である。そのとき、アルニコ磁石3の磁束密度は、図8に示すように、負の値である。吸着面4aが磁性体Aに接触してない状態で、電流パルスをコイル6に供給すると、B-H曲線に沿って、動作点aから動作点bに移動する。
【0065】
図8に示した動作点bの状態では、吸着面4aが磁性体Aに接触してない状態で電流パルスを供給した状態である。そのとき、図8に示すように、アルニコ磁石3の磁束密度は、負の値から正の値に切り替わる。すなわち、アルニコ磁石3の磁化方向が反転し、ネオジム磁石2からの磁束が外部へ漏れ出して、吸着面4aが磁性体Aに吸着可能な状態となる。なお、図9(b)では、吸着面4aが磁性体Aに吸着しない状態が図示されている。その後、電流パルスがコイル6に供給されなくなると、B-H曲線に沿って、動作点bから動作点cに移動する。
【0066】
図8に示した動作点cの状態では、コイル6への電流パルスの供給が終了した後の状態であり、図9(c)に示すように、吸着面4aが磁性体Aに接触してない状態であるが、吸着面4aが磁性体Aに吸着可能な状態が維持される。但し、非接触磁化を行った場合、図8に示すように、動作点cにおいて、アルニコ磁石3の磁束密度は、動作点bで正の値に切り替わった後、負の値に切り替わっている。そのため、吸着面4aが磁性体Aに吸着する吸着力は非常に小さい状態である。
【0067】
その後、磁性体Aを吸着面4aに近づけると、B-H曲線の内部ループに沿って、動作点cから動作点dに移動する。図8に示した動作点dでは、図9(d)に示すように、吸着面4aが磁性体Aに吸着する吸着状態となるが、アルニコ磁石3の磁束密度は0近くまで減少している。そのため、吸着面4aが磁性体Aに吸着する吸着力は非常に小さい状態が維持されており、十分な吸着力は得られない。
【0068】
図6図8とを比較すると、図6に示す直線Ta0の傾きの絶対値は、図8に示す直線Ta1の傾きの絶対値より大きい。すなわち、接触磁化を行った場合の吸着装置1の周囲のパーミアンスは、非接触磁化を行った場合の吸着装置1の周囲のパーミアンスより大きいことを示している。
【0069】
以上説明したように、本発明の発明者は、磁性体Aが吸着面4aに接触してない状態で電流パルスをコイル6に供給して、吸着面4aを吸着状態に設定する非接触磁化を行った場合、その後、吸着面4aを磁性体Aに近づけたとしても、アルニコ磁石3の磁束密度は小さい値に維持され、吸着装置1の吸着力として十分な吸着力は得られないが、吸着面4aが磁性体Aに接触した状態で電流パルスをコイル6に供給して、吸着面4aを吸着状態に設定する接触磁化を行った場合、電流パルスの供給が終了した後も、アルニコ磁石3の磁束密度は大きい値に維持され、吸着装置1の吸着力として十分な吸着力が得られることを見出した。
【0070】
したがって、本実施形態では、図1に示すように、吸着装置1を搭載した無人航空機30を構造物50に設置する場合を説明しているが、無人航空機30に搭載された吸着装置1の吸着面4aが構造物50に向かって近づいて、吸着装置1の吸着面4aが構造物50に接触したタイミングを検知して、そのタイミングで電流パルスをコイル6に供給して、吸着面4aを吸着状態に設定する接触磁化を行うことにより、吸着装置1の吸着力として十分な吸着力が得られることになる。
【0071】
吸着装置1の吸着面4aが構造物50に接触したタイミングを検知する方法としては、吸着装置1の構造物50と接触する面にセンサを配置する方法が考えられるが、本発明の発明者は、吸着装置1にセンサを配置しないで吸着面4aが構造物50に接触していることを検知する方法について研究した。
【0072】
その研究の結果、本発明の発明者は、コイル6の誘導起電力の変化に基づいて、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知可能であることを見出した。
【0073】
詳細に説明すると、無人航空機30に搭載された吸着装置1の吸着面4aが構造物50から離れた状態で、コイル6に電流パルスを予め供給すると、コイル6に誘導起電力が発生して、その状態で無人航空機30が構造物50に近づくと、コイル6の誘導起電力が変化する。具体的には、吸着装置1の吸着面4aが構造物50に近づいて構造物50に衝突する過程で、コイル6の誘導起電力は増加した後で減少するように変化する。そのため、所定閾値Aは、吸着装置1の吸着面4aが構造物50に衝突する過程で、コイル6の誘導起電力が増加した後で0近傍まで減少したことを検知可能な値であれば、任意に設定可能である。
【0074】
図10は、吸着装置1を搭載した無人航空機30が構造物50に近づいて、吸着装置1の吸着面4aが構造物50に衝突したときのコイル6の誘導起電力の変化を示している。図10に示すように、コイル6の誘導起電力の向き、すなわち、正の値及び負の値のいずれであるかにより、吸着装置1の吸着面4aが構造物50に接近しているのか、構造物50から離脱しているのかを判定可能である。
【0075】
図10に示すように、時刻tにおいて、吸着装置1の吸着面4aが構造物50から離れた状態で電流パルスがコイル6に供給された後(非接触磁化が行われた後)、吸着装置1の吸着面4aが構造物50に近づくと、パーミアンスの変化によりネオジム磁石2及びアルニコ磁石3を通過する磁束が増加して、コイル6に誘導起電力が発生する。
【0076】
吸着装置1の吸着面4aが構造物50にさらに近づくと、時刻tにおいて誘導起電力は急激に増加する。その後、時刻tにおいて誘導起電力がピーク値Aとなり、その後、誘導起電力が瞬時に減少した後で、急激に増加して、時刻tにおいて所定閾値Aを超えて、誘導起電力がピーク値Aとなる。そのため、時刻tにおいて誘導起電力が所定閾値Aを超えたことになる。
【0077】
時刻tにおいて誘導起電力がピーク値Aとなった後、誘導起電力が瞬時に0近傍まで減少して、時刻tにおいて誘導起電力が0となる。時刻tにおいて誘導起電力が0に戻った後、瞬時に増加した後で、時刻tにおいて誘導起電力が0となる。
【0078】
本実施形態では、図10に示した誘導起電力の変化に基づいて、コイル6の誘導起電力が所定閾値Aを超えた後で、時刻tにおいて誘導起電力が0まで減少したときに、吸着面4aが構造物50に接触していると判定する。
【0079】
そして、このように吸着面4aが構造物50に接触していると判定されると、コイル6に電流を供給して吸着面4aを吸着状態に設定する。
【0080】
本実施形態において、吸着装置1を搭載した無人航空機30が構造物50に設置される場合の手順について、図11に基づいて説明する。
【0081】
ステップS1において、吸着装置1を搭載した無人航空機30が構造物50に向かって接近する。
【0082】
ステップS2(非接触磁化工程)において、無人航空機30が構造物50近傍まで近づいたときに、無人航空機30の吸着装置1の吸着面4aと構造物50とが接触してない状態で、電流パルスをコイル6に供給する(非接触磁化が行われる)。そのとき、吸着面4aが構造物50に接触してない状態で電流パルスをコイル6に供給する非接触磁化であるため、吸着装置1の吸着力として十分な吸着力は得られていない。
【0083】
ステップS3において、非接触磁化が行われた後で、無人航空機30を構造物50に向かってさらに接近させる。
【0084】
ステップS4(接触検知工程)において、コイル6の誘導起電力が所定閾値Aを超えたか否かを判定する。コイル6の誘導起電力が所定閾値Aを超えたと判定された場合、ステップS5に進んで、コイル6の誘導起電力が0まで減少したか否かを判定する。
【0085】
ステップS5(接触検知工程)で、コイル6の誘導起電力が0まで減少したと判定された場合、吸着装置1の吸着面4aと構造物50との接触が完了したと判断する。すなわち、ステップS4及びS5では、コイルの誘導起電力の変化に基づいて、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知する。
【0086】
その後、ステップS6(接触磁化工程)において、無人航空機30の吸着装置1の吸着面4aと構造物50とが接触している状態で、電流パルスをコイル6に供給する(接触磁化が行われる)。そのとき、吸着面4aが構造物50に接触した状態で電流パルスをコイル6に供給する接触磁化が行われるため、吸着装置1の吸着力として十分な吸着力が得られる。
【0087】
以上説明したように、本実施形態の吸着装置1は、第1保磁力を有するネオジム磁石2と、第1保磁力より低い第2保磁力を有するアルニコ磁石3と、ネオジム磁石2及びアルニコ磁石3を挟持し且つ磁性体Aを吸着する吸着面4aをそれぞれ有する一対のヨーク4と、アルニコ磁石3の磁化方向を反転させて、吸着面4aが磁性体Aに吸着する吸着状態と吸着面4aが磁性体Aに吸着しない離脱状態とのいずれかに吸着面4aを設定するコイル6と、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知する接触検知部10aと、コイル6に電流を供給する電流供給部10bとを備え、吸着面4aが当該吸着面4aに対して相対運動している磁性体Aに吸着する場合に、接触検知部10aにより吸着面4aが磁性体Aに接触していることが検知された状態で、電流供給部10bがコイル6に電流を供給して吸着面4aを吸着状態に設定する。
【0088】
これにより、本実施形態の吸着装置1では、吸着面4aが吸着対象物である磁性体Aに対して相対運動している場合に、吸着面4aが磁性体Aに接触していることが検知された状態で、コイル6に電流を供給して吸着面4aを吸着状態に設定する。そのため、吸着面4aが磁性体Aに対して相対運動している場合でも、吸着面4aが磁性体Aに高い吸着力で吸着することが可能である。
【0089】
本実施形態の吸着装置1において、検知部10aは、吸着面4aが磁性体Aに接触してない状態で電流供給部10bがコイル6に電流を供給し、吸着面4aを吸着状態に設定した後におけるコイル6の誘導起電力の変化に基づいて、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知する。
【0090】
これにより、本実施形態の吸着装置1では、コイル6の誘導起電力の変化に基づいて、吸着面4aが磁性体Aに接近していること、吸着面4aが磁性体Aに接触していること及び吸着面4aが磁性体Aから離脱したことを検知可能である。そのため、吸着装置1は、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知するためのセンサを備える必要がない。
【0091】
本実施形態の吸着装置1において、接触検知部10aは、コイル6の誘導起電力が所定閾値Aを超えた後で0まで減少したときに、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知する。
【0092】
これにより、本実施形態の吸着装置1では、磁束の時間的変化である誘導起電力が所定閾値Aを超えた後で0まで減少したときに、吸着面が磁性体に接触していることを検知するため、吸着面4aが磁性体Aに接触したことを確実に検知することが可能である。
【0093】
本実施形態の無人航空機30は、吸着装置1を備える。
【0094】
これにより、本実施形態の無人航空機30では、吸着装置1を搭載した無人航空機30を磁性体で形成された壁などの構造物50に対して高い吸着力で吸着させることが可能である。
【0095】
本実施形態の吸着装置1の吸着方法は、第1保磁力を有するネオジム磁石2と、第1保磁力より低い第2保磁力を有するアルニコ磁石3と、ネオジム磁石2及びアルニコ磁石3を挟持し且つ磁性体Aに吸着する吸着面4aをそれぞれ有する少なくとも一対のヨーク4と、アルニコ磁石3の磁化方向を反転させて、吸着面4aが磁性体Aに吸着する吸着状態と吸着面4aが磁性体Aに吸着しない離脱状態とのいずれかに吸着面4aを設定するコイル6とを備える吸着装置1の吸着面4aを、吸着面4aに対して相対運動している磁性体Aに吸着する場合の吸着方法であって、吸着面4aが磁性体Aに接触してない状態でコイル6に電流を供給する非接触磁化工程と、コイル6の誘導起電力の変化に基づいて吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知する接触検知工程と、吸着面4aが磁性体Aに接触していることが検知された状態で、コイル6に電流を供給して吸着面4aを吸着状態に設定する接触磁化工程とを備える。
【0096】
これにより、本実施形態の吸着装置1の吸着方法では、吸着面4aが吸着対象物である磁性体Aに対して相対運動している場合に、吸着面4aが磁性体Aに接触していることが検知された状態で、コイル6に電流を供給して吸着面4aを吸着状態に設定する。そのため、吸着面4aが磁性体Aに対して相対運動している場合でも、吸着面4aが磁性体Aに高い吸着力で吸着することが可能である。また、コイル6の誘導起電力の変化に基づいて吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知可能であるため、吸着装置1は、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知するためのセンサを備える必要がない。
【0097】
以上、本発明の実施形態を説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0098】
上記実施形態では、接触検知部10aが、コイル6の誘導起電力が所定閾値Aを超えた後で、時刻tにおいて誘導起電力が0まで減少したときに、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知するが、接触検知部10aがコイル6の誘導起電力の変化に基づいて、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知する方法は、それに限られない。例えば、コイル6の誘導起電力が、所定閾値Aを超えた後で0まで減少した後において、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知してよい。
【0099】
例えば、接触検知部10aは、コイル6の誘導起電力が、時刻tにおいて所定閾値Aを超えた後であれば、吸着面4aと磁性体Aとの距離がほぼ0であり、吸着面4aが磁性体Aにほぼ接触している状態と考えられるため、時刻t以後であれば、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知してよい。よって、図10の時刻t3、または、時刻tから時刻tまでの間、または、時刻tの後において吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知してよい。
【0100】
また、接触検知部10aは、コイル6の誘導起電力が第1閾値を超えた後、第1閾値より小さい第2閾値を下回ったときに、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知してよい。第1閾値及び第2閾値は、上記実施形態の所定閾値Aと同様に、吸着装置1の吸着面4aが構造物50に衝突する過程で、コイル6の誘導起電力が増加した後で0近傍まで減少したことを検知可能な値であれば、任意に設定可能である。
【0101】
上記実施形態では、図10において、吸着装置1の吸着面4aが構造物50に接触した時刻tに電流パルスがコイル6に供給される(接触磁化が行われる)が、電流パルスがコイル6に供給されるタイミングは、それに限られない。即ち、吸着面4aが磁性体Aに接触していることが検知された状態で、コイル6に電流パルスを供給して吸着状態に設定されるものであれば、本発明の効果が得られる。
【0102】
上記実施形態では、吸着装置1が、保磁力が異なる2つの永久磁石として、ネオジム磁石2とアルニコ磁石3とを有しているが、保磁力が異なる2つの永久磁石である第1永久磁石及び第2永久磁石の種類は、それに限られない。すなわち、吸着装置1が、保磁力が異なる2つの永久磁石を有している場合に、本発明の効果が得られる。なお、本発明の吸着装置1は、保磁力が異なる少なくとも2つの永久磁石を有するものであればよく、保磁力が異なる3つ以上の永久磁石を有するものでもよい。
【0103】
上記実施形態では、コイル6がネオジム磁石2及びアルニコ磁石3の周囲に巻回されているが、コイル6の配置は、それに限られない。すなわち、コイル6は、電流(電流パルス)が供給された場合に、保磁力が比較的低いアルニコ磁石3の磁化方向を反転させるものであればよい。
【0104】
上記実施形態では、2つのヨーク4が平行に配置された板状部材である場合を説明したが、2つのヨーク4の形状は、それに限られない。
【0105】
上記実施形態では、ネオジム磁石2が、アルニコ磁石3より吸着面4aに近接して配置されるが、ネオジム磁石2とアルニコ磁石3との配置は、それに限られない。アルニコ磁石3が、ネオジム磁石2より吸着面4aに近接して配置されてよいし、ネオジム磁石2とアルニコ磁石3とを水平方向に並べて配置してよい。
【0106】
上記実施形態では、吸着装置1を搭載した無人航空機30が吸着装置1により構造物50に設置される場合について説明したが、吸着装置1の使用例は、それに限られない。例えば、ロボットのロボットハンドの先端部に吸着装置1を取り付け、その吸着装置1によりロボットハンドの先端部で磁性体の吸着対象物を吸着して保持する場合や、構造物に支持された片持ち梁の周辺において、片持ち梁の構造物から離れた部分と対向するように吸着装置1を配置し、その吸着装置1により振動する片持ち梁の構造物から離れた部分を吸着して保持する場合に、本発明は適用可能である。
【0107】
本変形例のロボットは、上記実施形態の吸着装置1を備える。
【0108】
これにより、本変形例のロボットでは、吸着装置1を取り付けたロボットハンドにより磁性体で形成された吸着対象物を高い吸着力で保持することが可能である。
【0109】
上記実施形態では、接触検知部10aがコイル6の誘導起電力の変化に基づいて吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知するが、吸着装置1が、吸着面4aが磁性体Aに接触していることを検知するためのセンサを有してよい。すなわち、吸着装置1が、例えば、吸着面4aと磁性体Aとの距離に基づいて、吸着面4aが磁性体Aに接触したときにオフ状態からオン状態に切り替わるセンサを有してよい。
【符号の説明】
【0110】
1 吸着装置
2 ネオジム磁石(第1永久磁石)
3 アルニコ磁石(第2永久磁石)
4 ヨーク
4a 吸着面
6 コイル
10a 接触検知部(接触検知手段)
10b 電流供給部(電流供給手段)
A 磁性体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11