(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】官能化メルカプタンを合成するための改善された方法
(51)【国際特許分類】
C07C 323/57 20060101AFI20241120BHJP
【FI】
C07C323/57
(21)【出願番号】P 2023504118
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 FR2021051300
(87)【国際公開番号】W WO2022018352
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-02-24
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フレミー、ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】レック、ジャン-クリストフ
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-007790(JP,A)
【文献】特表2014-503184(JP,A)
【文献】Robert H White,The biosynthesis of cysteine and homocysteine in Methanococcus jannaschii,Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - General Subjects,2003年,Vol.1624, No.1-3,pp. 46-53
【文献】ENZYME: 2.5.1.49,KEGG[online],2016年04月13日,[検索日:2024/01/29],<URL: https://web.archive.org/web/20160413013330/https://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?ec:2.5.1.49>,WEBアーカイブ使用
【文献】Humg-Yu Hsiao, et al.,Enzymatic synthesis of L-cysteine,Biotechnology and Bioengineering,1987年,Vol.30, No.7,pp. 875-881
【文献】ENZYME entry: EC 2.5.1.65,ExPASy[online],2020年05月07日,[検索日:2024/01/29],<URL: https://web.archive.org/web/20200507033711/https://enzyme.expasy.org/EC/2.5.1.65>,WEBアーカイブ使用
【文献】ENZYME entry: EC 2.5.1.47,ExPASy[online],2019年07月08日,[検索日:2024/01/30],<URL: https://web.archive.org/web/20190708074856/https://enzyme.expasy.org/EC/2.5.1.47>,WEBアーカイブ使用
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 323/57
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の下記一般式(I)の官能化メルカプタンを合成する方法であって:
R
2-X-C
*H(NR
1R
7)-(CH
2)
n-SH (I)
[式中、
R
1およびR
7は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれ水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖であり、
Xは、-C(=O)-、-CH
2-および-CNから選択され、
R
2は、
(i)Xが-CNである場合は存在しないか、
(ii)水素原子であるか、
(iii)-OR
3であるか〔R
3は、水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、または
(iv)-NR
4R
5であり〔R
4およびR
5は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれ水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、
nは1または2であり、
*は不斉炭素を表す。]
a)少なくとも1種の下記一般式(II)の化合物を提供する工程と;
R
2-X-C
*H(NR
1R
7)-(CH
2)
n-G (II)
[式中、
*、R
1、R
2、R
7、Xおよびnは、式(I)において定義されたとおりであり、
Gは、(i)R
6-C(O)-O-、(ii)(R
7O)(R
8O)-P(O)-O-、または(iii)R
9O-SO
2-O-を表し〔R
6は、水素原子であるか、または、1個もしくは複数個の芳香族基を含んでいてもよく、-OR
10、(=O)、-C(O)OR
11、および-NR
12R
13から選択される1個もしくは複数個の基で置換されていてもよい炭素原子数1~20個の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖であり、R
10、R
11、R
12およびR
13はそれぞれ独立にHまたは炭素原子数1~20個の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、
R
7およびR
8は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれプロトン、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニウムであり、
R
9は、プロトン、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびアンモニウムから選択される。]
b)少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH
2Sを提供する工程と;
c)前記少なくとも1種の式(II)の化合物と前記少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH
2Sとを、スルフヒドリラーゼから選択される少なくとも1種の酵
素の存在下、本質的に酸素の非存在
下で反応させる工程
、ここで、前記スルフヒドリラーゼはEC2.5.1.XX類のものである、前記工程と;
d)少なくとも1種の式(I)の官能化メルカプタンを得る工程と;
e)任意に、工程d)で得られた前記少なくとも1種の式(I)の官能化メルカプタンを分離する工程と;
f)任意に、工程d)またはe)で得られた前記式(I)の官能化メルカプタンをさらに官能化および/または脱保護する工程と、
を含み、
工程a)およびb)は同時に実施されてもよい、
合成方法。
【請求項2】
工程c)が、
反応混合物が前記反応混合物の総重量に対して0.0015重量%未満の酸素を含む反応器中で行われる、および/または、
反応器のガスヘッドスペースに含まれる気相が前記気相の総体積に対して21体積%未満の酸素を含む反応器中で行われる、
請求項1に記載の合成方法。
【請求項3】
前記ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH
2Sが
、前記式(II)の化合物に対して過剰である、請求項1に記載の合成方法。
【請求項4】
モル比[ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩]/[式(II)の化合物]、または、モル比H
2S/式(II)の化合物が
、1.5~1
0である、請求項1または請求項2に記載の合成方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩が、アンモニウムヒドロスルフィド、アルカリ金属ヒドロスルフィド、アルカリ土類金属ヒドロスルフィド、アルカリ金属スルフィドおよびアルカリ土類金属スルフィドからなる群より選択される、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の合成方法。
【請求項6】
工程c)における反応媒体のpHが4~
9である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の合成方法。
【請求項7】
前記式(II)の化合物が、O-ホスホ-L-ホモセリン、O-スクシニル-L-ホモセリン、O-アセチル-L-ホモセリン、O-アセトアセチル-L-ホモセリン、O-プロピオ-L-ホモセリン、O-クマロイル-L-ホモセリン、O-マロニル-L-ホモセリン、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-ホモセリン、O-ピメリル-L-ホモセリンおよびO-スルファト-L-ホモセリンからなる群より選択され
る、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項8】
前記式(II)の化合物がO-アセチル-L-ホモセリンである、請求項7に記載の合成方法。
【請求項9】
前記式(II)の化合物がO-アセチル-L-ホモセリンであり、使用される酵素がO-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼであり、前記式(I)の官能化メルカプタンがL-ホモシステインである、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項10】
請求項1に定義された式(II)の化合物と、
スルフヒドリラー
ゼと、
過剰なアンモニウムヒドロスルフィドNH
4SHまたはH
2Sと、
を含む組成物
であって、
前記スルフヒドリラーゼはEC2.5.1.XX類のものであり、
組成物の総重量に対して0.0015重量%未満の酸素を含む、
前記組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能化メルカプタンの合成方法に関し、特にこの方法を実行することを可能にする組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
メルカプタンは多くの産業分野で使用されており、アルコールの硫化、不飽和有機化合物への硫化水素の触媒的付加または光化学的付加、硫化水素を用いたハロゲン化物、エポキシド、または有機炭酸塩の置換など、多くの合成方法が知られている。
【0003】
しかしながら、これらの方法には多くの欠点があり、官能化メルカプタン、すなわちチオール基(-SH)以外の少なくとも1種の官能基を含むメルカプタンの合成に常に適しているとは限らない。この種のメルカプタンは、大きな可能性を秘めた化学ファミリー、特にチオール官能基(thiol function)を持つアミノ酸および誘導体、具体的にはホモシステインを構成する。官能化メルカプタンは、例えば化粧品産業の合成中間体として有用であり得る。しかしながら、現在のところ、特に汎用化学品(commodity chemicals)の分野に該当する用途に関しては、工業的に実行可能な官能化メルカプタンの製造に適した効率的な合成方法がない。
【0004】
例えば、従来の化学的手法のうち、硫化水素を用いた置換では高温および高圧が要求されることが多く、オレフィン、エーテル、スルフィドおよび/またはポリスルフィドの望ましくない副生成物をもたらす。不飽和化合物への硫化水素の触媒的付加または光化学的付加は一般にやや温和な条件下で行われるものの、同様に、出発物質の異性化、非位置選択的な付加、または、スルフィドおよび/もしくはポリスルフィドの生成につながる重付加(double addition)によって、多くの副生成物の形成を引き起こす。
【0005】
したがって、従来の合成方法における主な欠点は、目的のメルカプタンと共に、かなりの量の改善(upgrade)が困難な関連するスルフィドおよび/またはポリスルフィドが生成することである。これらの副反応により、選択性の低下ひいては収率の低下に起因して出発物質に関連する可変コスト(variable costs)が増加し、精製コストが増加し、副生成物の酷い破壊(expensive destruction)に起因して製造コストが増加する。
【0006】
生物学的ルートによる官能化メルカプタンの合成は、化学的ルートと並んで既知である。例えば、システインは現在、発酵ルートによって生物学的に製造されている(Maier T.,2003.Nature Biotechnology,21:422-427)。生物学的ルートはより穏和で多官能分子により適している。しかし、この場合でも、目的のメルカプタンと共に対応するスルフィドおよび/またはジスルフィドなどのポリスルフィドが生成する(国際公開第2012/053777号明細書)。
【0007】
したがって、特にスルフィドおよび/またはポリスルフィドなどの副生成物の形成を制限または防止することを可能にする、特に生物学的ルートによる官能化メルカプタンの改善された合成方法が必要とされている。安全で工業的に実施しやすい官能化メルカプタンの合成方法も必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術の方法の欠点を全体的または部分的に克服することを可能にする。
【0009】
本発明の1つの目的は、特に既知の方法と同等またはそれ以上の収率および/または選択性を示す、官能化メルカプタンを合成するための改善された方法を提供することである。
【0010】
本発明の1つの目的は、副生成物、具体的にはスルフィドおよび/またはポリスルフィドの共生成(coproduction)が無視できるかまたは全くない、官能化メルカプタンの合成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、以下に定義される式(I)の官能化メルカプタン(具体的にはL-ホモシステイン)が、以下に定義される式(II)の化合物と以下に定義されるヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩(以下、「塩」と表記)またはH2Sとを、スルフヒドリラーゼ酵素の存在下で、本質的に酸素の非存在下、または酸素の非存在下で反応させることによって有利に合成できることを見出した。
【0012】
こうして、本発明者らは、スルフィドおよび/またはポリスルフィド(具体的にはジスルフィド)の共生成を制限または防止することを可能にする式(I)の官能化メルカプタンの合成方法を見出した。
【0013】
より具体的には、本発明に係る方法は、L-ホモシスチンおよび/またはL-ホモシステインスルフィド(4,4’-スルファンジイルビス(2-アミノブタン酸)/L-ホモランチオニンともいう)の共生成を制限または防止するとともに、L-ホモシステインを製造することを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
【0015】
L-ホモシステインスルフィドは下記式を有する。
【化2】
【0016】
【0017】
また、不斉炭素原子の立体(configuration)は反応を通して保持されることが観察される。したがって、本発明の方法によって得られる式(I)の官能化メルカプタンはエナンチオピュアであり得る。
【0018】
本発明に係る方法は工業的に実施することも容易である。本発明に係る方法は穏和な温度および圧力条件下、溶液中で実施できる。塩を用いると、有毒ガスである硫化水素を操作者が扱うのを有利に回避することができる。
【0019】
得られる収率は、85%以上、好ましくは90%以上、例えば90%~100%であり得る。驚くべきことに、本発明に係る方法により特に100%の収率を得ることができる。すなわち、他の方法と比較して20%近く増加する。
【0020】
こうして、本発明は、少なくとも1種の下記一般式(I)の官能化メルカプタンを合成する方法であって:
R2-X-C*H(NR1R7)-(CH2)n-SH (I)
[式中、
R1およびR7は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれ水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖であり、
Xは、-C(=O)-、-CH2-および-CNから選択され、
R2は、
(i)Xが-CNである場合は存在しないか、
(ii)水素原子であるか、
(iii)-OR3であるか〔R3は、水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、または
(iv)-NR4R5であり〔R4およびR5は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれ水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、
nは1または2であり、
*は不斉炭素を表す。]
a)少なくとも1種の下記一般式(II)の化合物を提供する工程と;
R2-X-C*H(NR1R7)-(CH2)n-G (II)
[式中、
*、R1、R2、R7、Xおよびnは、式(I)において定義されたとおりであり、
Gは、(i)R6-C(O)-O-、(ii)(R7O)(R8O)-P(O)-O-、または(iii)R9O-SO2-O-を表し〔R6は、水素原子であるか、または、1個もしくは複数個の芳香族基を含んでいてもよく、-OR10、(=O)、-C(O)OR11、および-NR12R13から選択される1個もしくは複数個の基で置換されていてもよい炭素原子数1~20個の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖であり、R10、R11、R12およびR13はそれぞれ独立にHまたは炭素原子数1~20個の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、
R7およびR8は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれプロトン、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニウムであり、
R9は、プロトン、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびアンモニウムから選択される。]
b)少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2Sを提供する工程と;
c)少なくとも1種の式(II)の化合物と少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2Sとを、スルフヒドリラーゼから選択される少なくとも1種の酵素(好ましくは式(II)の化合物に関連するスルフヒドリラーゼ)の存在下、本質的に酸素の非存在下(好ましくは酸素の非存在下)で反応させる工程と;
d)少なくとも1種の式(I)の官能化メルカプタンを得る工程と;
e)任意に、工程d)で得られた少なくとも1種の式(I)の官能化メルカプタンを分離する工程と;
f)任意に、工程d)またはe)で得られた式(I)の官能化メルカプタンをさらに官能化および/または脱保護する工程と、
を含み、
工程a)およびb)は同時に実施されてもよい、
合成方法に関する。
【0021】
酸素は、具体的にはO2を意味すると理解される。
【0022】
このように、工程c)は、本質的に酸素の非存在下で、または酸素の非存在下で実施される。
【0023】
より具体的には、「本質的に酸素の非存在下」とは、生成するスルフィドおよび/またはポリスルフィドの量が生成する式(I)の化合物の総重量に対して5重量%以下となるような量で、酸素が反応混合物中および/または(反応器のガスヘッドスペースに含まれる)気相中に残存し得ることを意味すると理解される。
【0024】
好ましくは、「本質的に酸素の非存在下」とは、反応混合物が反応混合物の総重量に対して0.0015重量%未満(好ましくは厳密に0.0015重量%未満)の酸素を含有する、および/または、(反応器のガスヘッドスペースに含まれる)気相が気相の総体積に対して21体積%未満(好ましくは厳密に21体積%未満)の酸素を含有することを意味すると理解される。
【0025】
したがって、工程c)は以下のようであってもよい:
c)少なくとも1種の式(II)の化合物と少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2Sとを、スルフヒドリラーゼから選択される少なくとも1種の酵素(好ましくは式(II)の化合物に関連するスルフヒドリラーゼ)の存在下で反応させる工程であって、反応が、反応混合物が反応混合物の総重量に対して0~0.0015重量%(好ましくは厳密に0.0015重量%未満)の酸素を含む反応器中で行われるおよび/または反応器のガスヘッドスペースに含まれる気相が気相の総体積に対して0~21体積%(好ましくは厳密に21体積%未満)の酸素を含む反応器中で行われる工程。
【0026】
具体的には、反応混合物中および/または(ガスヘッドスペースに含まれる)気相中の酸素の量は、生成するスルフィドおよび/またはポリスルフィドの量が生成する式(I)の化合物の総重量に対して5重量%以下となるような量である。
【0027】
例えば、工程c)は、閉鎖反応器中で(すなわち、空気中から酸素を供給せずに)行うことができる。非常に好ましくは、特にH2Sが使用される場合、(ガスヘッドスペースに含まれる)気相は酸素を含まない。好ましくは、(ガスヘッドスペースに含まれる)気相が酸素を含まず、反応混合物が反応混合物の総重量に対して0~0.0015重量%(好ましくは厳密に0.0015重量%未満)の酸素を含む。
【0028】
実際、O2/H2S混合物は爆発する危険性があり、操作者の安全に危険を及ぼすことは明白である。
【0029】
具体的には、「ガスヘッドスペース」は、反応器中の反応混合物の上方(好ましくは液体反応混合物の上方)にある空間を意味すると理解される。より具体的には、「ガスヘッドスペース」は、液体反応混合物の液面と反応器の天井(すなわち、反応器の下部に液相が含まれる場合、気相が含まれる反応器上部)との間にある空間を意味すると理解される。ガスヘッドスペースは特に気相を含む。
【0030】
反応物質(reactants)は、具体的には、反応器に含まれる反応混合物の上方にガスヘッドスペースが設けられるような量で反応器に導入される。
【0031】
具体的には、H2Sが使用される場合、工程c)の反応が行われるようにH2Sの一部が反応混合物中に溶解されつつ、H2Sの残部が反応器のガスヘッドスペース中にガス形態で配される。
【0032】
より具体的には、少なくとも1種の式(II)の化合物、少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2S、および少なくとも1種のスルフヒドリラーゼが反応混合物(または媒体)を形成する。こうして、反応混合物は、
以下に定義される少なくとも1種の式(II)の化合物と、
以下に定義される少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩、またはH2Sと、
以下に定義される少なくとも1種のスルフヒドリラーゼと、
任意に、以下に定義されるその補因子(cofactor)と、
任意に、以下に定義される塩基と、
任意に、溶媒(好ましくは水)と、
を含み得る。
【0033】
反応混合物は、式(II)の化合物、ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2S、およびスルフヒドリラーゼを任意の順序で加えることによって調製することができる。
【0034】
例えば、最初に式(II)の化合物と塩またはH2Sとを混合し、次いでスルフヒドリラーゼを場合によりその補因子とともに加えて工程c)の反応を開始することが可能である。
【0035】
なお、反応の開始を可能にするのは3つめの成分の添加であり、それが何であるかは問わないが、特にスルフヒドリラーゼである。
【0036】
好ましくは、式(II)の化合物は溶液の形態であり、より好ましくは水溶液の形態である。
【0037】
好ましくは、ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩が使用される場合、これらは溶液の形態で使用され、より好ましくは水溶液の形態で使用される。
【0038】
H2Sが使用される場合、通常は気体の形態である。H2Sは、具体的にはバブリングによって反応混合物に導入され得る。バブリングは、H2Sを、不活性ガス、例えば窒素(dinitrogen)、アルゴンまたはメタン、好ましくは窒素と混合することによって行うことができる。こうして、H2Sは反応混合物中に溶解した形態で存在し得る。
【0039】
工程c)を本質的に酸素の非存在下で、または酸素の非存在下で行うために、従来の方法を使用することができる。
【0040】
一実施形態によれば、工程c)の前に、例えば脱気によって酸素が反応混合物から除去される。
【0041】
別の実施形態によれば、工程c)の前に、反応混合物を形成することになる成分のそれぞれから別々に、またはそれら成分の少なくとも2種の混合物から酸素が除去される。例えば、式(II)の化合物を含む溶液、ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩(使用される場合)を含む溶液、スルフヒドリラーゼを含む溶液、および場合により溶媒のそれぞれが脱気される。
【0042】
工程c)が行われる反応器のヘッドスペースから、好ましくは脱気によって酸素を除去することも可能である。
【0043】
反応器は、不活性ガス(窒素、アルゴンまたはメタンなど、好ましくは窒素)で不活性化することもできる。
【0044】
H2Sが使用される場合、H2Sは気体なので、当然ながらこの反応物質の脱気は行われない。H2Sは一般に酸素を含まない。
【0045】
種々の技術を互いに組み合わせてもよい。
【0046】
好ましくは、酸素の非存在は以下の方法で達成される:
反応器が不活性ガス(窒素、アルゴンまたはメタンなど、好ましくは窒素)で不活性化され;
式(II)の化合物を含む溶液、ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩(使用される場合)を含む溶液、スルフヒドリラーゼを含む溶液、および場合により溶媒のそれぞれが脱気される。
【0047】
工業的な脱気方法は周知であり、例えば以下のものが挙げられる:
減圧(真空脱気)、
温度調整(水性溶媒の場合は昇温、有機溶媒の場合は降温)、
膜脱気、
凍結脱気サイクル(freeze-pump-thaw cycles)を交互に行うことによる脱気、
不活性ガス(例えば、アルゴン、窒素またはメタン)をスパージングすることによる脱気。
【0048】
一実施形態によれば、工程c)において、酸素は、液体中に溶解した形態(具体的には反応混合物中に溶解した形態)でも気体の形態(具体的には工程c)が行われる反応器のヘッドスペース中の気体の形態)でも存在しない。
【0049】
好ましくは、ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2Sは、好ましくは工程c)の間、より好ましくは工程c)の全期間中、式(II)の化合物に対して過剰、好ましくはモル過剰である。
【0050】
したがって、ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2Sは、好ましくは工程c)の間、より好ましくは工程c)の全期間中、式(II)の化合物の量に対して超化学量論量であり得る。
【0051】
具体的には、モル比[ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩]/[式(II)の化合物]、または、モル比H2S/式(II)の化合物は、好ましくは工程c)の間、より好ましくは工程c)の全期間中、1.5~10、好ましくは2~8、例えば3.5~8、さらにより好ましくは3.5~5である。上記の比は、工程c)の全期間中、一定に保たれてもよい。
【0052】
工程c)は溶液中、特に水溶液中で行うことができる。例えば、溶液は、溶液の総重量に対して50重量%~99重量%の水、好ましくは75重量%~97重量%の水を含む。
【0053】
工程c)における反応混合物のpHは、特に反応混合物が水溶液である場合、4~9、例えば5~8、好ましくは6~7.5、より具体的には6.2~7.2であり得る。
【0054】
pHは、特に、選択されたスルフヒドリラーゼの作用最適性(operating optimum)に応じて上記の範囲内に調整することができる。pHは、従来既知の方法によって、例えばpHプローブを用いて決定することができる。
【0055】
好ましい実施形態によれば、工程c)は、以下の2つの工程c1)およびc2)に従って実施され得る:
c1)少なくとも1種の式(II)の化合物と少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2Sとを、スルフヒドリラーゼから選択される少なくとも1種の酵素(好ましくは式(II)の化合物に関連するスルフヒドリラーゼ)の存在下、本質的に酸素の非存在下(好ましくは酸素の非存在下)、溶液中で反応させる工程;
c2)4~9、例えば5~8、好ましくは6~7.5、より具体的には6.2~7.2のpHを得るように、塩基を加えることによって上記溶液のpHを調整する工程。
【0056】
工程c2)において、任意の塩基、好ましくは硫黄原子を含む塩基が使用され得る。塩基は、具体的には、7超のpH、好ましくは8~14のpHを有する化合物またはそれらの混合物であると理解される。塩基は、以下に定義されるヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびアンモニアから選択され得る。塩基は、特に、以下に定義されるヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩から選択され得る。好ましくは、塩基は、工程c1)で使用されるヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩である。好ましい塩基はヒアンモニウムヒドロスルフィド(NH4SH)である。
【0057】
塩基は、0.1~10M、好ましくは0.5~10M、より好ましくは0.5~5Mの濃度で添加され得る。特に、塩基を添加する際に反応混合物が希釈されるのを制限するために、濃縮された塩基が使用される。
【0058】
工程c)中の温度は、10℃~60℃、好ましくは20℃~40℃、より具体的には25℃~40℃であり得る。工程c)中の圧力は、一般に大気圧である。工程c)は、バッチ式で実施されてもよいし、半連続式(semi-continuously)で実施されてもよいし、連続式で実施されてもよい。どの方式の反応器も適し得る。
【0059】
分離工程e)は、当業者に既知の任意の技術によって行うことができる。具体的には、最終製品が固体の場合:
反応媒体に対して非混和性の溶媒を用いた抽出および/またはデカンテーションと、続く溶媒の蒸発によって行われる;
(溶媒の部分的な蒸発または目的化合物が溶解しにくい溶媒の添加による)沈殿によって行われる。沈殿後、一般に、当業者に既知の任意の方法に従った濾過工程が行われる。続いて、最終製品は乾燥され得る;または、
それぞれの化合物の溶解度の関数としてpHを調整することによる選択的沈殿によって行われる。
【0060】
ホモシステインは、具体的には固体の形態で回収され得る。
【0061】
最終生成物が液体の形態である場合、分離は、蒸留によって、または、液体/液体抽出後の蒸留もしくは蒸発によって実施することができる。
【0062】
さらなる官能化および/または任意の脱保護である工程f)は、従来の方法によってさらなる化学官能基(chemical functions)を得ることおよび/または特定の化学官能基を脱保護することを可能にする。例えば、X-R2がカルボキシル官能基を表す場合、後者のエステル化、アルデヒドへの還元、アルコールへの還元とそれに続くエステル化、アミド化、ニトリル化などを行うことができる。当業者は、式(I)の官能化メルカプタンにおいて意図される最終用途に応じてあらゆる官能基を取得および/または脱保護することができる。
【0063】
したがって、工程d)またはe)の結果として得られる式(I)の官能化メルカプタンは、1種または複数種の異なる官能基を有するメルカプタン誘導体を得るために、当業者に周知の1種または複数種のさらなる化学反応に供されてもよい。
【0064】
「X~X」という表現には、特に指定のない限り、記載された下限および上限(limits mentioned)が包含される。
【0065】
ヘテロ原子は、具体的には、O、N、S、Pおよびハロゲンから選択される原子であると理解される。
【0066】
不飽和炭化水素鎖は、2つの炭素原子間に少なくとも1つの二重結合または三重結合を含む炭化水素鎖であると理解される。
【0067】
一般式(I)の官能化メルカプタン:
本発明に係る方法は、下記一般式(I)の官能化メルカプタンを得ることを目標とする:
R2-X-C*H(NR1R7)-(CH2)n-SH (I)
式中、
R1およびR7は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれ水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖であり、
Xは、-C(=O)-、-CH2-および-CNから選択され、
R2は、
(i)Xが-CNである場合は存在しないか、
(ii)水素原子であるか、
(iii)-OR3であるか〔R3は、水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、または
(iv)-NR4R5であり〔R4およびR5は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれ水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、
nは1または2であり、
*は不斉炭素を表す。
【0068】
上記のメルカプタンは、化学官能基-SHに加えて少なくとも1種のアミン官能基-NR1R7も含むため、官能化と称する。
【0069】
好ましくは、nは2である。
【0070】
好ましくは、Xは-C(=O)-である。
【0071】
好ましくは、R2はOR3であり、R3は上記で定義されたとおりである。R3は、具体的には、水素原子であるかまたは炭素原子数1~10個(好ましくは炭素原子数1~5個)の直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素鎖であり得る。具体的には、R3はHである。
【0072】
R1およびR7は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれ好ましくは水素原子であるかまたは炭素原子数1~10個(好ましくは炭素原子数1~5個)の直鎖状もしくは分枝状の飽和炭化水素鎖である。好ましくは、R1およびR7はそれぞれHである。
【0073】
具体的には、Xは-C(=O)-であり、R2は-OR3であり、R3は上記で定義されたとおりである。
【0074】
式(I)の官能化メルカプタンは、ホモシステイン、システイン、およびこれらの誘導体からなる群より選択され得る。
【0075】
具体的には、式(I)の官能化メルカプタンは、L-ホモシステインまたはL-システインである。
【0076】
好ましい式(I)の官能化メルカプタンはホモシステインであり、具体的には下記式のL-ホモシステインである:
【化4】
【0077】
L-ホモシステインの場合、nが2であり、Xが-C(=O)-であり、R2が-OR3であり、R3がHであり、R1およびR7がそれぞれHである。
【0078】
式(I)の官能化メルカプタンはキラル化合物である。それは本発明に係る方法によってエナンチオピュアな形態で得られ得る。本明細書において、鏡像異性体の立体(enantiomeric form)が特定されていない場合、該当化合物は立体がどのようなものであれ包含される。
【0079】
一実施形態によれば、工程c)の終了時の反応混合物は、スルフィドまたはポリスルフィド、具体的には、得られた式(I)の官能化メルカプタンに対応するスルフィドまたはポリスルフィドを含まない。例えば、工程c)の終了時の反応混合物は、式(I)の化合物に変換された式(II)の化合物の総モル数に対して10mol%未満(好ましくは5mol%未満)のスルフィドおよびポリスルフィドを含む。
【0080】
スルフィドは、具体的には、式(I)の化合物に対応する下記式(III)のスルフィドであると理解される:
R2-X-C*H(NR1R7)-(CH2)n-S-(CH2)n-(NR1R7)C*H-X-R2 (III)
式中、*、R1、R2、R7、Xおよびnは上記で定義されたとおりである。
【0081】
ポリスルフィドは、具体的には、式(I)の化合物に対応する下記式(IV)のポリスルフィドであると理解される:
R2-X-C*H(NR1R7)-(CH2)n-(S)m-(CH2)n-(NR1R7)C*H-X-R2 (IV)
式中、*、R1、R2、R7、Xおよびnは上記で定義されたとおりであり、mは2~6の整数であり、例えば、mは2または3である。
【0082】
好ましくは、mは2である(ジスルフィドに相当する)。
【0083】
具体的には、式(I)の化合物がL-ホモシステインである場合、工程c)の終了時の反応混合物はL-ホモシステインスルフィドもL-ホモシスチンも含まない。
【0084】
好ましくは、工程c)における式(II)の化合物と少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2Sとの反応後、以下に定義される式(I)の官能化メルカプタン、および式(V)の化合物であるGH〔Gは上記に定義されるとおりである〕、すなわち(i’)R6-C(O)-OH、(ii’)(R7O)(R8O)-P(O)-OH、または(iii’)R9O-SO2-OH〔R6、R7、R8およびR9は以下に定義されるとおりである〕の化合物が得られる。具体的には、化合物(II)がO-アセチル-L-ホモセリンである場合、L-ホモシステインおよび酢酸が得られる。式(V)の化合物は、工程c)において反応混合物を酸性化させ得る。したがって、具体的には上述の工程c)の間、具体的には上記で定義された塩基を加えることにより、反応混合物のpHを4~9、例えば5~8、好ましくは6~7.5、より具体的には6.2~7.2に維持することが可能である。
【0085】
ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2S:
本発明は、ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩の存在下またはH2S(硫化水素)の存在下で実施することができる。
【0086】
上記の塩は、一般に、溶液の形態、好ましくは水溶液の形態で提供される。
【0087】
少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩は、アンモニウムヒドロスルフィド、アルカリ金属ヒドロスルフィド、アルカリ土類金属ヒドロスルフィド、アルカリ金属スルフィドおよびアルカリ土類金属スルフィドからなる群より選択され得る。
【0088】
アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウム、好ましくはナトリウムおよびカリウムであると理解される。
【0089】
アルカリ土類金属は、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウム、好ましくはカルシウムであると理解される。
【0090】
具体的には、少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩は、アンモニウムヒドロスルフィドNH4SH、ナトリウムヒドロスルフィドNaSH、カリウムヒドロスルフィドKSH、カルシウムヒドロスルフィドCa(SH)2、硫化ナトリウムNa2S、硫化アンモニウム(NH4)2S、硫化カリウムK2Sおよび硫化カルシウムCaSからなる群より選択され得る。好ましいヒドロスルフィドは、アンモニウムヒドロスルフィドNH4SHである。
【0091】
反応中に放出されたアンモニウムは、例えば、微生物、具体的には、スルフヒドリラーゼを発現(express)または過剰発現する微生物の増殖のための窒素源として再利用され得る。例えば、微生物は、大腸菌(Escherichia coli)またはバシラス属菌種(Bacillus sp.)またはシュードモナス(Pseudomonas)などの細菌の細胞、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはピキア・パストリス(Pichia pastoris)などの酵母菌の細胞、Aspergillus niger、Penicillium funiculosumまたはTrichoderma reeseiなどの真菌の細胞、Sf9細胞などの昆虫の細胞、またはHEK293、PER-C6またはCHO細胞株などの哺乳類(具体的には、ヒト)の細胞からなる群より選択され得る。より具体的には、細菌の細胞が使用され、さらに好ましくは、大腸菌の細胞が使用される。
【0092】
一般式(II)の化合物:
下記一般式(II)の化合物について:
R2-X-C*H(NR1R7)-(CH2)n-G (II)
式中、
*、R1、R2、R7、Xおよびnは、式(I)の化合物において定義されたとおりであり、
Gは、(i)R6-C(O)-O-、(ii)(R7O)(R8O)-P(O)-O-、または(iii)R9O-SO2-O-を表し〔R6は、水素原子であるか、または、1個もしくは複数個の芳香族基を含んでいてもよく、-OR10、(=O)、-C(O)OR11、および-NR12R13から選択される1個もしくは複数個の基で置換されていてもよい炭素原子数1~20個(好ましくは1~10個)の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖であり、R10、R11、R12およびR13はそれぞれ独立にHまたは炭素原子数1~20個(好ましくは1~10個)の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、
R7およびR8は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれプロトン、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニウム(好ましくはプロトンまたはアルカリ金属、より好ましくはH+またはNa+)であり、
R9は、プロトン、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびアンモニウム(好ましくはプロトンおよびアルカリ金属、より好ましくはプロトンH+およびNa+)から選択される。
【0093】
特に、GはR6-C(O)-O-またはR9O-SO2-O-のいずれかを表し、好ましくは、GはR6-C(O)-O-である。
【0094】
特に、R6は水素原子であるか、または、-OR10、(=O)、および-C(O)OR11〔R10およびR11はそれぞれ独立にHまたは炭素原子数1~10個(好ましくは1~5個)の直鎖状もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖から選択される〕から選択される1個もしくは複数個の基で置換されていてもよい炭素原子数1~10個(好ましくは1~5個)の直鎖状もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である。
【0095】
より具体的には、R10およびR11はそれぞれHである。具体的には、R12およびR13はそれぞれHである。
【0096】
芳香族基は、好ましくはフェニル基であると理解される。
【0097】
一般式(II)の化合物は、具体的にはセリンの誘導体(nが1である場合)またはホモセリンの誘導体(nが2である場合)であり、具体的にはL-セリンの誘導体またはL-ホモセリンの誘導体である。一般式(II)の化合物は、例えば、O-ホスホ-L-ホモセリン、O-スクシニル-L-ホモセリン、O-アセチル-L-ホモセリン、O-アセトアセチル-L-ホモセリン、O-プロピオ-L-ホモセリン、O-クマロイル-L-ホモセリン、O-マロニル-L-ホモセリン、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-ホモセリン、O-ピメリル-L-ホモセリン、O-スルファト-L-ホモセリン、O-ホスホ-Lセリン、O-スクシニル-L-セリン、O-アセチル-L-セリン、O-アセトアセチル-L-セリン、O-プロピオ-L-セリン、O-クマロイル-L-セリン、O-マロニル-L-セリン、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-セリン、O-ピメリル-L-セリンおよびO-スルファト-L-セリンからなる群より選択され得る。
【0098】
より具体的には、一般式(II)の化合物は、O-ホスホ-L-ホモセリン、O-スクシニル-L-ホモセリン、O-アセチル-L-ホモセリン、O-アセトアセチル-L-ホモセリン、O-プロピオ-L-ホモセリン、O-クマロイル-L-ホモセリン、O-マロニル-L-ホモセリン、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-ホモセリン、O-ピメリル-L-ホモセリンおよびO-スルファト-L-ホモセリンからなる群より選択され得る。
【0099】
一般式(II)の化合物は、O-ホスホ-L-ホモセリン、O-スクシニル-L-ホモセリン、O-アセチル-L-ホモセリン、O-スルファト-L-ホモセリンおよびO-プロピオ-L-ホモセリンからなる群より選択され得る。
【0100】
一般式(II)の化合物は、O-ホスホ-L-ホモセリン、O-スクシニル-L-ホモセリンおよびO-アセチル-L-ホモセリンからなる群より選択され得る。
【0101】
極めて好ましい式(II)の化合物は、O-アセチル-L-ホモセリン(OAHS)であり、これは、nが2であり、Xが-C(=O)-であり、R2が-OR3であり、R3がHであり、R1およびR7がそれぞれHであり、Gが-O-C(O)-R6であり、R6がメチルである場合の化合物である。
【0102】
式(II)の化合物は、市販されているか、または当業者に既知の任意の技術によって得られる。
【0103】
式(II)の化合物は、例えば国際公開第2008/013432号明細書に記載されているように、炭化水素および窒素源からの発酵プロセスによって得てもよい。
【0104】
式(II)の化合物は、例えば再生可能な出発物質の発酵によって得てもよい。再生可能な出発物質は、グルコース、スクロース、デンプン、糖液(molasses)、グリセロールおよびバイオエタノールから選択され得、好ましくはグルコースである。
【0105】
L-セリン誘導体はまた、L-セリンのアセチル化によって製造してもよく、L-セリン自体は再生可能な出発物質の発酵によって得ることができる。再生可能な出発物質は、グルコース、スクロース、デンプン、糖蜜、グリセロールおよびバイオエタノールから選択され得、好ましくはグルコースである。
【0106】
L-ホモセリン誘導体はまた、L-ホモセリンのアセチル化によって製造してもよく、L-ホモセリン自体は再生可能な出発物質の発酵によって得ることができる。再生可能な出発物質は、グルコース、スクロース、デンプン、糖液、グリセロールおよびバイオエタノールから選択され得、好ましくはグルコースである。
【0107】
スルフヒドリラーゼ:
上記少なくとも1種の式(II)の化合物と上記で定義された少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2Sとの反応は、スルフヒドリラーゼから選択される少なくとも1種の酵素(好ましくは式(II)の化合物に関連するスルフヒドリラーゼ)の存在下で行われる。式(II)の化合物に関連するスルフヒドリラーゼは、同様の名称を共有するので容易に特定可能である。例えば、O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ(OAHSスルフヒドリラーゼ)は、O-アセチル-L-ホモセリンに関連する。
【0108】
スルフヒドリラーゼは、特に、上記式(II)の化合物と上記の塩またはH2Sとの反応を触媒することが可能である。「触媒」は、一般に、反応を促進し反応の終了時に変化していない物質であると理解される。スルフヒドリラーゼおよび場合によりその補因子は、触媒量で使用することができる。「触媒量」は、具体的には、反応を触媒するのに十分な量であると理解される。より具体的には、触媒量で使用される試薬は、化学量論的比率で使用される試薬の重量に対してより少量で、例えば約0.01重量%~20重量%で使用される。
【0109】
スルフヒドリラーゼ酵素は、好ましくは、特にEC2.X.X.XX(またはEC2)に分類される転移酵素に属する。酵素番号(Enzyme Commission numbers)のEC分類は広く使用されており、ウェブサイトhttps://enzyme.expasy.org/で確認できる。具体的には、スルフヒドリラーゼ酵素は、メチル基以外のアルキル基またはアリール基を転移させる転移酵素を意味するEC2.5.X.XX類(またはEC2.5.)のスルフヒドリラ-ゼから選択される。
【0110】
スルフヒドリラーゼは、特にEC2.5.1.XX類のものである(XXは酵素の基質に応じて変化する)。
【0111】
例えば:
O-アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼはEC2.5.1.49型である。
O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼはEC2.5.1.65型である。
O-スクシニルホモセリンスルフヒドリラーゼはEC2.5.1.49型である。
【0112】
例えば:
O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼはEC2.5.1.49型である。
O-ホスホ-L-セリンスルフヒドリラーゼはEC2.5.1.65型である。
O-スクシニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼはEC2.5.1.49型である。
【0113】
したがって、特に、式(II)の化合物がL-ホモセリンの誘導体またはL-セリンの誘導体である場合、使用されるスルフヒドリラーゼは、O-ホスホ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-スクシニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-アセトアセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-プロピオ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-クマロイル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-マロニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-ピメリル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-スルファト-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-ホスホ-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-スクシニル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-アセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-アセトアセチル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-プロピオ-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-クマロイル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-マロニル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-セリンスルフヒドリラーゼ、O-ピメリル-L-セリンスルフヒドリラーゼおよびO-スルファトセリンスルフヒドリラーゼから選択され得る。
【0114】
特に、使用されるスルフヒドリラーゼは、O-ホスホ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-スクシニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-アセトアセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-プロピオ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-クマロイル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-マロニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-ピメリル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、およびO-スルファト-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼから選択され得る。
【0115】
特に、スルフヒドリラーゼは、O-ホスホ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-スクシニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-スルファト-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼおよびO-プロピオ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼから選択され得る。
【0116】
スルフヒドリラーゼは、O-ホスホ-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ、O-スクシニル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼおよびO-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼから選択され得る。
【0117】
特に好ましくは、酵素はO-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼ(OAHSスルフヒドリラーゼ)である。
【0118】
スルフヒドリラーゼ、具体的にはO-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼは、以下の細菌株:シュードモナス属菌種(Pseudomonas sp.)、クロモバクテリウム属菌種(Chromobacterium sp.)、レプトスピラ属菌種(Leptospira sp.)、またヒフォモナス属菌種(Hyphomonas sp.)に起源があり(originate)得るかまたは由来し(derived)得る。
【0119】
スルフヒドリラーゼは、当業者に十分知られているように、ピリドキサール5’-リン酸(PLPとしても知られる)またはその類縁体の1種(好ましくはピリドキサール5’-リン酸)などの補因子の存在下で機能することができる。
【0120】
補因子であるピリドキサールリン酸の類縁体として、α5-ピリドキサールメチルリン酸、5’-メチルピリドキサール-P、ピリドキサール5’-硫酸、α5-ピリドキサロ酢酸または任意の他の既知の誘導体が挙げられ得る(Gromanら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA Vol.69、No.11、pp.3297-3300、1972年11月)。
【0121】
一実施形態によれば、スルフヒドリラーゼの補因子が反応混合物に添加され得る。したがって、スルフヒドリラーゼの補因子(例えばピリドキサール5’-リン酸)は工程c)の前に提供されてもよいし、工程c)中に添加されてもよい。工程c)が水溶液中で実施される場合、溶液に添加される前に、酵素および場合によりその補因子が予め水に溶解され得る。
【0122】
別の実施形態によれば、細胞(例えば細菌の細胞または他の細胞)は、補因子を補給する工程を回避するように、スルフヒドリラーゼ酵素を同時発現または過剰発現させながら補因子を生産または過剰生産し得る。
【0123】
一実施形態によれば、スルフヒドリラーゼおよび場合によりその補因子は:
例えば水溶液中で単離および/または精製された形態であるか〔生成された酵素の単離および/または精製は、当業者に既知の任意の手段によって行うことができる。既知の任意の手段には、例えば、電気泳動、分子ふるい分け、超遠心分離、例えば硫酸アンモニウムを用いた示差沈殿、限外濾過、膜またはゲル濾過、イオン交換、疎水性相互作用による分離、または例えばIMAC型のアフィニティークロマトグラフィーから選択される技術を含まれ得る。〕;または、
粗抽出物、すなわち粉砕された(milled)細胞の抽出物(ライセート)に存在する〔目的の酵素は、以下で宿主細胞と称する細胞において過剰発現されてもよいしされなくてもよい。宿主細胞は、対応するコード遺伝子の発現から目的の酵素を生成するのに適した任意の宿主細胞であり得る。この遺伝子は、宿主のゲノムに位置するか、発現ベクターによって運ばれる。〕。
【0124】
本発明の目的のために、「宿主細胞」は、具体的には、原核生物の細胞または真核生物の細胞であると理解される。組換えタンパク質または非組換えタンパク質の発現に一般的に使用される宿主細胞には、具体的には、大腸菌(Escherichia coli)またはバシラス属菌種(Bacillus sp.)またはシュードモナス(Pseudomonas)などの細菌の細胞、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはピキア・パストリス(Pichia pastoris)などの酵母菌の細胞、Aspergillus niger、Penicillium funiculosumまたはTrichoderma reeseiなどの真菌の細胞、Sf9細胞などの昆虫の細胞、またはHEK293、PER-C6またはCHO細胞株などの哺乳類(具体的には、ヒト)の細胞が含まれる。
【0125】
好ましくは、目的の酵素および場合によりその補因子は大腸菌において発現される。好ましくは、目的の酵素は、大腸菌の株、例えば大腸菌BL21(DE3)の株において発現される。
【0126】
細胞溶解物は、超音波処理、圧力(フレンチプレス)、化学薬品(例えば、キシレン、トリトン)の使用など種々の既知の技術によって得ることができる。得られた溶解物は、粉砕された細胞の粗抽出物に相当する。
または、細胞全体に存在する。このために、細胞溶解工程を実行せずに、上記と同様の技術を使用することができる。
【0127】
一実施形態によれば、式(II)の化合物の質量に対するスルフヒドリラーゼ酵素を発現するバイオマスの量が0.1重量%~10重量%(好ましくは1重量%~5重量%)である、および/または、式(II)の化合物に対する補因子の量が0.1重量%~10重量%(好ましくは0.5重量%~5重量%)である。
【0128】
反応混合物はまた、
任意選択で、水、リン酸緩衝剤、Tris-HCl、Tris塩基、重炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、CHES(N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸)、もしくは、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの塩、またはそれらの混合物などの緩衝剤、から選択される1種または複数種の溶媒と、
任意選択で、特に1種または複数種の試薬または基質の溶解性を促進するための、界面活性剤などの添加剤と、
を含んでいてもよい。
【0129】
上記工程c)の反応に使用できる種々の成分は、容易に商業的に入手可能であるか、または当業者に周知の技術によって調製することができる。これらの種々の要素は、固体、液体または気体の形態であり得、非常に有利には、溶液にされ得るか、本発明の方法で使用される水または任意の他の溶媒に溶解され得る。使用される酵素は、支持体(support)にグラフトされていてもよい(支持された酵素の場合)。
【0130】
好ましい実施形態によれば、式(II)の化合物がO-アセチル-L-ホモセリンであり、使用される酵素がO-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼであり、得られる式(I)の官能化メルカプタンがL-ホモシステインである。
【0131】
好ましい実施形態によれば、式(II)の化合物がO-アセチル-L-ホモセリンであり、塩がアンモニウムヒドロスルフィドであり、使用される酵素がO-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼであり、得られる式(I)の官能化メルカプタンがL-ホモシステインである。
【0132】
本発明はまた、
上記で定義された式(II)の化合物と、
上記で定義されたスルフヒドリラーゼ(好ましくは式(II)の化合物に関連するスルフヒドリラーゼ)と、
過剰な上記で定義されたヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2S(好ましくは過剰なNH4SH)と、
を含む組成物、好ましくは水溶液に関する。
【0133】
好ましくは、上記組成物は、
O-アセチル-L-ホモセリンと、
O-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼと、
過剰なNH4SHまたはH2Sと、
を含む。
【0134】
上記組成物は、具体的には、上記で定義された反応混合物に対応する。
【0135】
状態、特性および任意の追加成分は、上記で定義された反応混合物について定義されたものと同様である。
【0136】
特に、本発明に係る組成物は溶存酸素を含まない。好ましくは、ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2Sは式(II)の化合物に対して過剰であり、好ましくはモル過剰である。したがって、ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH2Sは、式(II)の化合物の量に対して超化学量論量であり得る。
【0137】
具体的には、モル比[ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩]/[式(II)の化合物]、または、モル比H2S/式(II)の化合物は、1.5~10、好ましくは2~8、例えば3.5~8、さらにより好ましくは3.5~5である。
【0138】
組成物はまた、上記で定義されたスルフヒドリラーゼの補因子を含んでいてもよい。
【0139】
特に、本発明に係る組成物は、本発明に係る方法を実行することを可能にする。
【0140】
実施例
以下の実施例によって本発明を説明することが可能であるが、いかなる状況下においても限定的なものではない。
【0141】
変換率、選択性、および収率の通常の定義は以下のとおりである。
変換率=(初期状態の反応物質のモル数-反応後に残った反応物質のモル数)/(初期状態の反応物質のモル数)
選択性=目的の生成物に変換された反応物質のモル数/(初期状態の反応物質のモル数-反応後に残った反応物質のモル数)
収率=変換率×選択性
【0142】
実施例1:酸素の存在下およびOAHSに対して化学量論量のNaSHの存在下でのL-ホモシステインの比較合成プロセス。
【0143】
工程1
Sadamu Nadai著「O-アセチル-L-ホモセリンの合成」、Academic Press(1971)、vol.17、p.423-424に記載のプロトコルに従い、L-ホモセリンおよび無水酢酸からO-アセチル-L-ホモセリンを合成した。
【0144】
工程2
工程1)で得られた5.25g/lのO-アセチル-L-ホモセリン(この生成物は140mlの水に溶解している)をサーモスタット制御された250mlのガラス反応器に導入する。溶液を機械的に撹拌しながら37℃にする。次に、化学量論量のNaSH二水和物(すなわち、3g/l)を反応器に加える。アンモニア水溶液(4M)を用いて反応媒体のpHを6.5の値に調整し、次いで5g/lのOAHSスルフヒドリラーゼおよび0.4g/lのピリドキサールリン酸補因子を反応混合物に加える。アンモニア水溶液(4M)を用いてpHを6.5の設定値に維持する。
【0145】
電位差滴定、HPLC、およびNMRによる分析の結果、時間の経過とともに試薬(OAHSおよびNaSH)が徐々に消費されいくつかの生成物が徐々に生成することがわかる。こうして形成される化合物は主に次のとおりである:
L-ホモシステイン、
L-ホモシステインスルフィド(4,4’-スルファンジイルビス(2-アミノブタン酸)/L-ホモランチオニン)、および
L-ホモシスチン(ジスルフィド/L-4,4’-ジチオビス(2-アミノブタン酸))。
【0146】
最終時点での反応媒体の分析の結果、OAHSがわずかにすら検出できないことから、OAHSのすべてが反応終了時に消費されていることがわかった。
【0147】
変換されたOAHSに対して得られるモル選択性(すなわち、水、酢酸、およびPLP補因子を除く最終混合物に存在する種々の化合物のモル%で表される)は次のとおりである:
31%のL-ホモシステイン、および
69%のホモシステインスルフィド(L-ホモランチオニン/4,4’-スルファンジイルビス(2-アミノブタン酸))およびホモシスチン(ジスルフィド/L-4,4’-ジチオビス(2-アミノブタン酸))。
【0148】
L-ホモシステインのモル収率は31%である。
【0149】
実施例2:酸素の存在下およびOAHSに対して超化学量論量のNaSHの存在下でのL-ホモシステインの比較合成プロセス。
【0150】
工程1
Sadamu Nadai著「O-アセチル-L-ホモセリンの合成」、Academic Press(1971)、vol.17、p.423-424に記載のプロトコルに従い、L-ホモセリンおよび無水酢酸からO-アセチル-L-ホモセリンを合成した。
【0151】
工程2
工程1)で得られた5.25g/lのO-アセチル-L-ホモセリン(この生成物は140mlの水に溶解している)をサーモスタット制御された250mlのガラス反応器に導入する。溶液を機械的に撹拌しながら37℃にする。次に、超化学量論量のNaSH二水和物(×5、すなわち15g/l)を反応器に加える。反応媒体のpHを6.5の値に調整し、次いで5g/lのOAHSスルフヒドリラーゼおよび0.4g/lのピリドキサールリン酸補因子を反応混合物に加える。アンモニア水溶液(4M)を用いてpHを6.5の設定値に維持する。
【0152】
電位差滴定、HPLC、およびNMRによる分析の結果、時間の経過とともにOAHSが徐々に消費されいくつかの生成物が徐々に生成することがわかる。形成される主な化合物は、L-ホモシステインとかなりの割合のL-ホモシスチン(L-4,4’-ジチオビス(2-アミノブタン酸))である。
【0153】
これらの試験では、ホモシステインスルフィド(L-ホモランチオニン)が最終反応媒体中でわずかにすら検出できないことから、ホモシステインスルフィド(L-ホモランチオニン)は形成されない。
【0154】
最終時点での反応混合物の分析の結果、OAHSがわずかにすら検出できないことから、OAHSのすべてが反応終了時に消費されていることがわかった。
【0155】
変換されたOAHSに対して得られるモル選択性(実施例1に従って計算)は次のとおりである:
80%のL-ホモシステイン
20%のL-ホモシスチン(L-4,4’-ジチオビス(2-アミノブタン酸))。
【0156】
L-ホモシステインに換算した上記反応のモル収率は80%である。
【0157】
実施例3:本発明に係る、酸素の非存在下およびOAHSに対して超化学量論量のNaSHの存在下でのL-ホモシステインの合成プロセス
【0158】
工程1
Sadamu Nadai著「O-アセチル-L-ホモセリンの合成」、Academic Press(1971)、vol.17、p.423-424に記載のプロトコルに従い、L-ホモセリンおよび無水酢酸からO-アセチル-L-ホモセリンを合成した。
【0159】
工程2
溶存酸素を排除するように、OAHSの溶液、NaSHの溶液、およびOAHSスルフヒドリラーゼの溶液、ならびに水を(混合前に)反応温度での窒素スパージングによって事前に別々に脱気する。
反応器も窒素下で不活性化する。
【0160】
工程3
工程1)で得られた5.25g/lのO-アセチル-L-ホモセリン(この生成物は140mlの水に溶解している)をサーモスタット制御された250mlのガラス反応器に導入する。溶液を機械的に撹拌しながら37℃にする。次に、超化学量論量のNaSH二水和物(×5、すなわち15g/l)を反応器に加える。反応媒体のpHを6.5の値に調整し、次いで5g/lのOAHSスルフヒドリラーゼおよび0.4g/lのピリドキサールリン酸補因子を反応混合物に加える。アンモニア水溶液(4M)を用いてpHを6.5の設定値に維持する。
【0161】
電位差滴定、HPLC、およびNMRによる分析の結果、OAHSが徐々に消費されL-ホモシステインが徐々に生成することがわかる。これらの試験では、ホモシステインスルフィド(L-ホモランチオニン)およびジスルフィド(L-ホモシスチン)は形成されず、最終反応混合物中で検出されない。
【0162】
最終時点での反応混合物の分析の結果、OAHSがわずかにすら検出できないことから、OAHSのすべてが反応終了時に消費されていることがわかった。
【0163】
約100%の収率のL-ホモシステインが得られる。
[付記]
本開示は以下の態様<1>~<10>も含む。
<1>
少なくとも1種の下記一般式(I)の官能化メルカプタンを合成する方法であって:
R
2
-X-C
*
H(NR
1
R
7
)-(CH
2
)
n
-SH (I)
[式中、
R
1
およびR
7
は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれ水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖であり、
Xは、-C(=O)-、-CH
2
-および-CNから選択され、
R
2
は、
(i)Xが-CNである場合は存在しないか、
(ii)水素原子であるか、
(iii)-OR
3
であるか〔R
3
は、水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、または
(iv)-NR
4
R
5
であり〔R
4
およびR
5
は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれ水素原子であるかまたは1個もしくは複数個のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~20個の芳香族もしくは非芳香族の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、
nは1または2であり、
*は不斉炭素を表す。]
a)少なくとも1種の下記一般式(II)の化合物を提供する工程と;
R
2
-X-C
*
H(NR
1
R
7
)-(CH
2
)
n
-G (II)
[式中、
*、R
1
、R
2
、R
7
、Xおよびnは、式(I)において定義されたとおりであり、
Gは、(i)R
6
-C(O)-O-、(ii)(R
7
O)(R
8
O)-P(O)-O-、または(iii)R
9
O-SO
2
-O-を表し〔R
6
は、水素原子であるか、または、1個もしくは複数個の芳香族基を含んでいてもよく、-OR
10
、(=O)、-C(O)OR
11
、および-NR
12
R
13
から選択される1個もしくは複数個の基で置換されていてもよい炭素原子数1~20個の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖であり、R
10
、R
11
、R
12
およびR
13
はそれぞれ独立にHまたは炭素原子数1~20個の直鎖状、分枝状もしくは環式の飽和もしくは不飽和の炭化水素鎖である〕、
R
7
およびR
8
は、互いに同一であるかまたは異なり、それぞれプロトン、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニウムであり、
R
9
は、プロトン、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびアンモニウムから選択される。]
b)少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH
2
Sを提供する工程と;
c)前記少なくとも1種の式(II)の化合物と前記少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH
2
Sとを、スルフヒドリラーゼから選択される少なくとも1種の酵素(好ましくは前記式(II)の化合物に関連するスルフヒドリラーゼ)の存在下、本質的に酸素の非存在下(好ましくは酸素の非存在下)で反応させる工程と;
d)少なくとも1種の式(I)の官能化メルカプタンを得る工程と;
e)任意に、工程d)で得られた前記少なくとも1種の式(I)の官能化メルカプタンを分離する工程と;
f)任意に、工程d)またはe)で得られた前記式(I)の官能化メルカプタンをさらに官能化および/または脱保護する工程と、
を含み、
工程a)およびb)は同時に実施されてもよい、
合成方法。
<2>
工程c)が、
反応混合物が前記反応混合物の総重量に対して0.0015重量%未満の酸素を含む反応器中で行われる、および/または、
反応器のガスヘッドスペースに含まれる気相が前記気相の総体積に対して21体積%未満の酸素を含む反応器中で行われる、
<1>に記載の合成方法。
<3>
前記ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩またはH
2
Sが、(好ましくは工程c)の間)前記式(II)の化合物に対して過剰である、<1>に記載の合成方法。
<4>
モル比[ヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩]/[式(II)の化合物]、または、モル比H
2
S/式(II)の化合物が、(好ましくは工程c)の間)1.5~10(好ましくは2~8、さらにより好ましくは3.5~5)である、<1>または<2>に記載の合成方法。
<5>
前記少なくとも1種のヒドロスルフィド塩および/またはスルフィド塩が、アンモニウムヒドロスルフィド、アルカリ金属ヒドロスルフィド、アルカリ土類金属ヒドロスルフィド、アルカリ金属スルフィドおよびアルカリ土類金属スルフィドからなる群より選択される、<1>~<4>のいずれか1つに記載の合成方法。
<6>
工程c)における反応媒体のpHが4~9(例えば5~8、好ましくは6~7.5、より具体的には6.2~7.2)である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の合成方法。
<7>
前記式(II)の化合物が、O-ホスホ-L-ホモセリン、O-スクシニル-L-ホモセリン、O-アセチル-L-ホモセリン、O-アセトアセチル-L-ホモセリン、O-プロピオ-L-ホモセリン、O-クマロイル-L-ホモセリン、O-マロニル-L-ホモセリン、O-ヒドロキシメチルグルタリル-L-ホモセリン、O-ピメリル-L-ホモセリンおよびO-スルファト-L-ホモセリンからなる群より選択される(好ましくはO-アセチル-L-ホモセリンである)、<1>~<6>のいずれか一つに記載の合成方法。
<8>
前記式(II)の化合物がO-アセチル-L-ホモセリンであり、使用される酵素がO-アセチル-L-ホモセリンスルフヒドリラーゼであり、前記式(I)の官能化メルカプタンがL-ホモシステインである、<1>~<7>のいずれか一つに記載の合成方法。
<9>
前記スルフヒドリラーゼがE.C.2.型の転移酵素である、<1>~<8>のいずれか一つに記載の合成方法。
<10>
<1>に定義された式(II)の化合物と、
スルフヒドリラーゼ(好ましくは前記式(II)の化合物に関連するスルフヒドリラーゼ)と、
過剰なアンモニウムヒドロスルフィドNH
4
SHまたはH
2
Sと、
を含む組成物(好ましくは溶液)。