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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】発光素子および発光装置
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/115 20230101AFI20241120BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20241120BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20241120BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20241120BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20241120BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20241120BHJP
   H10K 59/35 20230101ALI20241120BHJP
【FI】
H10K50/115
G09F9/30 365
H05B33/14 Z
H05B33/22 A
H10K50/16
H10K59/10
H10K59/35
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023504906
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009200
(87)【国際公開番号】W WO2022190193
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】矢口 裕真
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105977393(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112397659(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108706625(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111244293(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111490171(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0112491(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110484233(CN,A)
【文献】Ikjun CHO et al.,“Multifunctional Dendrimer Ligands for High-Efficiency, Solution-Processed Quantum Dot Light-Emitting Diodes”,ACS Nano,2016年12月19日,Vol. 11, No. 1,p.684-692,DOI: 10.1021/acsnano.6b07028
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/115
G09F 9/30
H05B 33/14
H05B 33/22
H10K 50/16
H10K 59/10
H10K 59/35
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
第2電極と、
上記第1電極と上記第2電極との間に配置された発光層と、
上記第1電極と上記発光層との間に配置されたキャリア輸送層と、を備え、
上記キャリア輸送層は、キャリア輸送性を有する複数の無機ナノ粒子と、リガンドと、を含み、
上記リガンドは、上記無機ナノ粒子に配位するための少なくとも一種の配位性官能基を少なくとも2つ有するモノマーである発光素子を複数備える発光装置であって、
上記発光素子は、第1波長帯域の光を発する第1発光素子と、上記第1発光素子よりも発光ピーク波長が短い第2波長帯域の光を発する第2発光素子とを含み、
上記第1発光素子における上記キャリア輸送層の上記無機ナノ粒子の密度が、上記第2発光素子における上記キャリア輸送層の上記無機ナノ粒子の密度よりも小さいことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
上記第2発光素子における上記キャリア輸送層の上記リガンドの長さが、上記第1発光素子における上記キャリア輸送層の上記リガンドの長さよりも短いことを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
上記第2発光素子における上記キャリア輸送層の上記リガンドが、下記一般式(2)
・・・(2)
(式中、 および は、互いに独立して上記配位性官能基を表し、 は、置換または無置換の-(C ) m5 -基、または、置換または無置換の-((C m6 m7 -(C m8 -基を表し、 は極性結合基を表し、上記 と上記 との間の直鎖を構成する原子の数は、1~5の整数である)
で示されるリガンドからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
上記第1発光素子における上記キャリア輸送層の上記リガンドが、下記一般式(3)
・・・(3)
(式中、 および は、互いに独立して上記配位性官能基を表し、 は、置換または無置換の-((C m9 m10 -(C m11 -基を表し、 は極性結合基を表し、上記 と上記 との間の直鎖を構成する原子の数は、3~25の整数である)
で示されるリガンドからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
上記 が-(C ) m5 -基であり、上記m5が1~3の整数であることを特徴とする請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
上記m9および上記m11が1または2であり、上記m10が2~8の整数であることを特徴とする請求項3または4に記載の発光装置。
【請求項6】
上記m10が4~6の整数であることを特徴とする請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
上記第1発光素子が赤色発光素子であり、上記第2発光素子が青色発光素子であることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
上記発光素子は、上記第1発光素子よりも発光ピーク波長が短く、かつ、上記第2発光素子よりも発光ピーク波長が長い第3波長帯域の光を発する第3発光素子をさらに含み、
上記第3発光素子における上記キャリア輸送層の上記無機ナノ粒子の密度が、上記第1発光素子における上記キャリア輸送層の上記無機ナノ粒子の密度よりも大きく、上記第2発光素子における上記キャリア輸送層の上記無機ナノ粒子の密度よりも小さいことを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項9】
上記第3発光素子における上記キャリア輸送層の上記リガンドの長さが、上記第1発光素子における上記キャリア輸送層の上記リガンドの長さよりも短く、上記第2発光素子における上記キャリア輸送層の上記リガンドの長さよりも長いことを特徴とする請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
上記第3発光素子における上記キャリア輸送層の上記リガンドが、下記一般式(4)
・・(4)
(式中、 および は、互いに独立して上記配位性官能基を表し、 は、置換または無置換の-(C ) m12 -基、または、置換または無置換の-((C m13 m14 -(C m15 -基を表し、 は極性結合基を表し、上記 と上記 との間の直鎖を構成する原子の数は、2~15の整数である)
で示されるリガンドからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項9に記載の発光装置。
【請求項11】
上記第3発光素子が緑色発光素子であることを特徴とする請求項8~10の何れか1項に記載の発光装置。
【請求項12】
当該発光装置が表示装置であることを特徴とする請求項1~11の何れか1項に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、キャリア輸送性を有する無機ナノ粒子を含むキャリア輸送層を備えた、発光素子および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、キャリア輸送性材料に無機ナノ粒子を用いた発光素子が提案されている。例えば、特許文献1には、キャリア輸送性を有する無機ナノ粒子として無機酸化物ナノ粒子を含む、電子輸送層または正孔輸送層上に、発光層が設けられた発光素子が開示されている。
【0003】
しかしながら、このようにキャリア輸送性材料に無機ナノ粒子を用いる場合、無機ナノ粒子の粒径を小さくするほどバンドギャップが大きくなり、発光材料へのキャリア注入がし易くなる(例えば、非特許文献1参照)。このため、キャリア輸送効率の改善のために、粒径が小さい無機ナノ粒子の開発が進められており、キャリア輸送性材料に用いられる無機ナノ粒子の粒径は、年を追う毎に徐々に小さくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国公開特許公報「特開2019-157129号」
【非特許文献】
【0005】
【文献】Jiangyong Pan,外8名, Size Tunable ZnO Nanoparticles to Enhance Electron Injection in Solution Processed QLEDs, ACS Photonics, 2016, 3, p.215-222
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、無機ナノ粒子を含むキャリア輸送層は、無機ナノ粒子を溶媒に分散させて塗布することにより形成される。しかしながら、無機ナノ粒子の粒径を小さくすると、分散性が低下し、凝集し易くなる。
【0007】
そこで、無機ナノ粒子の分散性の改善のため、該無機ナノ粒子の表面にリガンドを配位させることが考えられる。
【0008】
しかしながら、量子ドット分散液に一般的に使用される公知のリガンドを用いて形成されたキャリア輸送層は、非極性溶媒(無極性溶媒)に対する耐液性が低い。
【0009】
発光材料の溶解(分散)または発光層の洗浄に使用される溶媒と、キャリア輸送性材料の溶解(分散)またはキャリア輸送層の洗浄に使用される溶媒とには、極性が異なる溶媒が使用される。一般的に、量子ドット分散液には、非極性溶媒(無極性溶媒)が使用される。例えば、特許文献1では、量子ドットを、非極性溶媒(無極性溶媒)であるオクタンに分散させて塗布することで、発光層を形成している。
【0010】
このため、例えば、特許文献1のように無機ナノ粒子を含むキャリア輸送層上に発光層を積層する場合に、上述したような公知のリガンドを用いて形成されたキャリア輸送層上に、非極性溶媒を用いた量子ドット分散液を塗布すると、キャリア輸送層が劣化したり溶解したりする。
【0011】
また、キャリア輸送性材料に用いられる無機ナノ粒子は、特別な処理を行っていない場合、水、エタノール等の極性溶媒に溶解する。
【0012】
したがって、何れにしても、キャリア輸送性材料に無機ナノ粒子を使用すると、キャリア輸送層上に発光層を積層する際、あるいは、キャリア輸送層そのものまたはその上層の発光層をパターン形成する際に、キャリア輸送層が劣化したり溶解したりするおそれがある。
【0013】
本開示の一態様は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、極性溶媒および非極性溶媒に対するキャリア輸送層の耐液性が高く、信頼性が高い発光素子および発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る発光素子は、第1電極と、第2電極と、上記第1電極と上記第2電極との間に配置された発光層と、上記第1電極と上記発光層との間に配置されたキャリア輸送層と、を備え、上記キャリア輸送層は、キャリア輸送性を有する複数の無機ナノ粒子と、リガンドと、を含み、上記リガンドは、上記無機ナノ粒子に配位するための少なくとも一種の配位性官能基を少なくとも2つ有するモノマーである。
【0015】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る発光装置は、本開示の一態様に係る上記発光素子を少なくとも1つ備えている。
【発明の効果】
【0016】
本開示の一態様によれば、極性溶媒および非極性溶媒に対するキャリア輸送層の耐液性が高く、信頼性が高い発光素子および発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態1に係る発光素子の概略構成の一例を、その要部を拡大して模式的に示す断面図である。
図2】実施形態2に係る発光素子の製造方法の概要の一例を示すフローチャートである。
図3】200~600nmの波長の光に対する、実施例1におけるサンプル(1)~(5)の吸光度を示すグラフである。
図4】200~600nmの波長の光に対する、実施例2におけるサンプル(6)~(9)の吸光度を示すグラフである。
図5】実施例1におけるサンプル(1)・(2)および実施例2におけるサンプル(6)・(7)並びにリファレンスとしてのZnO膜の(αhν)とバンドギャップとの関係を示すグラフである。
図6】実施形態2に係る発光素子の概略構成の一例を、その要部を拡大して模式的に示す断面図である。
図7】実施形態3に係る表示装置の要部の概略構成の一例を示す断面図である。
図8】実施形態3に係る表示装置の発光素子層における各色の発光素子の概略構成の一例を示す断面図である。
図9】リガンドを含まないZnO膜を電子輸送層に用いた各色の画素における、各色の発光素子の各層のエネルギーバンドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施形態1〕
本開示の実施の一形態について、図1図5に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、以下では、比較対象の層よりも先のプロセスで形成されている層を「下層」とし、比較対象の層よりも後のプロセスで形成されている層を「上層」とする。また、以下の説明において、2つの数AおよびBについての「A~B」という記載は、特に明示されない限り、「A以上かつB以下」を意味する。
【0019】
(発光素子の概略構成)
本開示に係る発光素子は、第1電極と、第2電極と、第1電極と第2電極との間に配置された発光層と、第1電極と発光層との間に配置されたキャリア輸送層と、を備え、上記キャリア輸送層が、キャリア輸送性を有する複数の無機ナノ粒子と、リガンドと、を含み、上記リガンドが、上記無機ナノ粒子に配位(吸着)するための少なくとも一種の配位性官能基(吸着基)を少なくとも2つ有している。本実施形態では、上記リガンドとして、分子量が1000以下の化合物であるモノマーを使用する。なお、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)等を利用してキャリア輸送層の質量分析を行うことで、該キャリア輸送層中に含まれるリガンドの分子構造を高精度に判別することが可能である。
【0020】
以下では、本実施形態に係る発光素子の一例として、第1電極が陰極であり、第2電極が陽極であり、陰極と陽極との間に、上記キャリア輸送層として電子輸送層を備えている場合を例に挙げて説明する。なお、本実施形態では、陰極と陽極との間の層を総称して機能層(「活性層」とも言う)と称する。また、以下、電子輸送層を「ETL」と記す。また、正孔輸送層を「HTL」と記し、発光層を「EML」と記す。
【0021】
図1は、本実施形態に係る発光素子ESの概略構成の一例を、その要部を拡大して模式的に示す断面図である。
【0022】
本実施形態に係る発光素子ESは、図1に示すように、少なくとも、陰極11と、陽極15と、陰極11と陽極15との間に配置されたEML13と、陰極11とEML13との間に配置されたETL12と、を備えている。図1に示すように、ETL12は、キャリア輸送性を有する無機ナノ粒子として、電子輸送性を有する無機ナノ粒子41を含むとともに、上記リガンドとして、リガンド42を含んでいる。
【0023】
本実施形態に係る発光素子ESは、EML13に電圧を印加することにより発光する電界発光素子である。なお、発光素子ESは、例えば、表示装置あるいは照明装置等の発光装置の光源として用いられてよい。陰極11および陽極15は、図示しない電源(例えば直流電源)と接続されることで、それらの間に電圧が印加されるようになっている。
【0024】
なお、発光素子ESは、陰極11と陽極15との間に、EML13、および、上述したキャリア輸送層としてのETL12以外の機能層を備えていてもよい。図1では、一例として、発光素子ESが、キャリア輸送性を有する複数の無機ナノ粒子と上記リガンドとを含むキャリア輸送層以外のキャリア輸送層として、後述するHTL14をさらに備えている場合を例に挙げて図示している。
【0025】
本実施形態では、陰極11から陽極15に向かう方向を上方向とし、その逆方向を下方向として説明する。図1に示す発光素子ESは、陰極11、ETL12、EML13、HTL14、陽極15が、基板10上に、該基板10側(言い替えれば、下層側)から、この順に互いに隣接して積層されている。
【0026】
なお、上述したように、基板10は、陰極11から陽極15までの各層を支持する。また、一般的に、発光素子が備える電極のうち、下層側の電極である下部電極は、発光素子を形成するための支持体としての基板上に形成される。したがって、発光素子ESは、陰極11から陽極15までの各層を形成するための支持体として、基板10を備えていてもよい。
【0027】
基板10は、例えば、ガラス基板であってもよく、プラスチック基板、プラスチックフィルム等のフレキシブル基板であってもよい。また、発光素子ESが、複数の発光素子ESを備えた発光装置の一部である場合、基板10は、駆動回路層として、これら発光素子ESを駆動する複数の薄膜トランジスタ(駆動素子)が設けられた薄膜トランジスタ層を有するアレイ基板であってもよい。この場合、下部電極(図1に示す例では陰極11)は、アレイ基板の薄膜トランジスタと電気的に接続される。
【0028】
基板10は、光透過性材料によって構成されてもよいし、光反射性材料によって構成されてもよい。但し、発光素子ESが、ボトムエミッション構造もしくは両面発光構造を有する場合、基板10には、光透過性材料からなる透光性基板が用いられる。
【0029】
陰極11は、例えば、仕事関数が比較的小さな材料によって構成される。当該材料としては、例えば、Al、銀(Ag)、Ba、イッテルビウム(Yb)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)-Al合金、Mg-Al合金、Mg-Ag合金、Mg-インジウム(In)合金、及びAl-酸化アルミニウム(Al)合金等が挙げられる。
【0030】
陽極15は、例えば、仕事関数が比較的大きな材料によって構成される。当該材料としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が挙げられる。これら材料は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いても構わない。
【0031】
EML13は、発光材料を含み、陰極11から輸送された電子と、陽極15から輸送された正孔との再結合により光を発する層である。
【0032】
発光素子ESは、例えば、QLED(量子ドット発光ダイオード)であってもよく、OLED(有機発光ダイオード、有機EL素子とも称される)または無機発光ダイオード(無機EL素子とも称される)であってもよい。
【0033】
発光素子ESがQLEDである場合、EML13は、複数の量子ドット(以下、「QD」と記す)と、リガンドと、を含む。
【0034】
QDは、価電子帯準位と伝導帯準位とを有する発光材料であり、半導体ナノ粒子とも称される。QDとしては、特に限定されるものではなく、公知の各種QDを用いることができる。
【0035】
EML13に含まれるリガンドは、QDをレセプタとしてQDの表面に配位することでQDの表面を修飾する表面修飾剤である。EML13に含まれるリガンドとしては、特に限定されるものではなく、例えば、公知の各種リガンドを用いることができる。
【0036】
発光素子ESがOLEDまたは無機EL素子である場合、EML13は、例えば、低分子蛍光(もしくは燐光)色素、金属錯体等の、有機発光材料または無機発光材料で形成される。
【0037】
発光素子ESがQLEDである場合、陰極11および陽極15間の駆動電流によって電子と正孔とがEML13内で再結合し、これによって生じたエキシトンが、QDの伝導帯準位から価電子帯準位に遷移する過程で光(蛍光または燐光)が放出される。
【0038】
発光素子ESがOLEDまたは無機EL素子である場合、陰極11および陽極15間の駆動電流によって電子と正孔とがEML13内で再結合し、これによって生じたエキシトンが基底状態に遷移する過程で光(蛍光または燐光)が放出される。なお、発光素子ESがOLEDまたは無機EL素子である場合、伝導帯準位、価電子帯準位は、順に、HOMO準位、LUMO準位で置き換えられる。
【0039】
ETL12は、陰極11から供給された電子をEML13に輸送する層である。上述したように、ETL12は、電子輸送性を有する複数の無機ナノ粒子41と、無機ナノ粒子41に配位(吸着)するための少なくとも一種の配位性官能基(吸着基)を少なくとも2つ有するリガンド42と、を含んでいる。リガンド42には、前述したように、分子量が1000以下の化合物であるモノマーを使用する。
【0040】
無機ナノ粒子41として用いられる電子輸送性材料としては、電子輸送性を有する、無機化合物からなるナノサイズの微粒子であれば、特に限定されるものではないが、例えば、n型半導体等の無機化合物が挙げられる。上記n型半導体としては、例えば、金属酸化物、II-VI族化合物半導体、III-V族化合物半導体、IV-IV族化合物半導体、非晶質半導体等が挙げられる。上記金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO、SnO)、酸化セリウム(CeO)等が挙げられる。上記II-VI族化合物半導体としては、例えば、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)等が挙げられる。上記III-V族化合物半導体としては、例えば、砒化アルミニウム(AlAs)、砒化ガリウム(GaAs)、砒化インジウム(InAs)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、燐化ガリウム(GaP)等が挙げられる。上記IV-IV族化合物半導体としては、例えば、シリコンゲルマニウム(SiGe)、シリコンカーバイド(SiC)等が挙げられる。上記非晶質半導体としては、例えば、例えば、n型水素化アモルファスシリコン、n型水素化アモルファス炭化シリコン等が挙げられる。これら電子輸送性材料は、一種類のみを用いてもよく、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0041】
これら電子輸送性材料は、耐久性に優れ、信頼性が高いとともに、塗布法で成膜が可能であり、成膜が容易である。そのなかでも、上記電子輸送性材料としては、金属酸化物ナノ粒子(つまり、金属酸化物または該金属酸化物の混晶系の微粒子)であることが望ましく、亜鉛(Zn、Zn原子)を含む半導体材料であることが、特に望ましい。Znを含む半導体材料、特に、ZnO、ZnMgO等のZnを含む金属酸化物は、バンドギャップが大きく、キャリア輸送性材料として一般的に知られているとともに、耐久性に優れ、信頼性が高いとともに、塗布法で成膜が可能であり、成膜が容易である。このため、強度が高く、機械強度が特に高い発光素子ESを提供することができる。
【0042】
無機ナノ粒子41は、その粒径が小さくなると、凝縮し易くなり、分散性が低下する一方、バンドギャップが大きくなり、発光材料へのキャリア注入がし易くなる。特に、無機ナノ粒子41の粒径が5nm以下になると、さらにその傾向が顕著になる。したがって、無機ナノ粒子41の粒径(直径)は、例えば1~15nmの範囲内であることが望ましく、1~5nmの範囲内であることがより望ましい。
【0043】
なお、本開示において、無機ナノ粒子の粒径(例えば無機ナノ粒子41の粒径)とは、該無機ナノ粒子の個数平均粒径を示す。無機ナノ粒子の個数平均粒径は、例えば、断面TEM画像を用いて測定することができる。なお、無機ナノ粒子の個数平均粒径とは、粒度分布における積算値50%における無機ナノ粒子の直径を示す。無機ナノ粒子の個数平均粒径を断面TEM画像から求める場合、例えば、以下のようにして求めることができる。まず、例えばTEMによる、近接する所定の個数(例えば30個)の無機ナノ粒子41の断面のそれぞれの外形から、それぞれの無機ナノ粒子41の断面の面積を求める。次に、これら無機ナノ粒子41を全て円と仮定して、それぞれの断面の面積に相当する円の面積となる直径をそれぞれ算出する。そして、その平均値を算出する。
【0044】
ETL12における無機ナノ粒子41の重なり層数は、例えば、1~10層である。ETL12の層厚は、従来公知の層厚を採用できるが、例えば1~150nmの範囲内である。
【0045】
電子輸送性を向上させるためには、このように、ETL12の層厚は、1nm以上であることが好ましい。また、後述するようにリガンド42を、ETL12を構成する無機ナノ粒子膜の上方から供給したときに、上記リガンド42を無機ナノ粒子膜の膜厚方向全体に十分に浸透させるためには、上記ETL12の層厚は、150nm以下であることが好ましい。
【0046】
リガンド42は、無機ナノ粒子41をレセプタとして無機ナノ粒子41の表面に配位(吸着)することで無機ナノ粒子41の表面を修飾する表面修飾剤である。
【0047】
リガンド42は、例えば、少なくとも2つの上記配位性官能基と、これら配位性官能基に結合して、これら配位性官能基間に位置する、スペーサ(スペーサ基)としての、置換または無置換のアルキレン基、または、置換または無置換の不飽和炭化水素基と、を含むモノマーであることが望ましい。なお、ここで、置換または無置換のアルキレン基とは、無置換であってもよく、置換基を有していてもよいアルキレン基を示す。同様に、置換または無置換の不飽和炭化水素基とは、無置換であってもよく、置換基を有していてもよい不飽和炭化水素基を示す。また、ここで、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合、および、メチレン基(-CH-)を2価の基で置換する場合、の両方を含む。
【0048】
上記アルキレン基は、鎖状であってもよく、環状であってもよい。また、上記不飽和炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。
【0049】
上記置換基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、水酸基、等が挙げられる。また、水素原子は、上記配位性官能基で置換されていてもよい。
【0050】
また、リガンド42は、少なくとも一種の配位性官能基を少なくとも2つ有するとともに、無機ナノ粒子41に配位する部位以外の部位に、少なくとも一種の極性結合基を少なくとも1つ有していてもよい。
【0051】
上記配位性官能基は、無機ナノ粒子41に配位可能な官能基であれば、特に限定されるものではないが、例えば、チオール(-SH)基、アミノ(-NR)基、カルボキシル(-C(=O)OH)基、ホスホン(-P(=O)(OR))基、ホスフィン(-PR)基、およびホスフィンオキシド(-P(=O)R)基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基が挙げられる。なお、上記R基は、互いに独立して、水素原子、または、アルキル基、アリール基等の任意の有機基を表す。上記アミノ基は、第1級、第2級、第3級の何れであってもよいが、そのなかでも、第1級アミノ(-NH)基が特に好ましい。また、上記ホスホン基、上記ホスフィン基、上記ホスフィンオキシド基も、それぞれ第1級、第2級、第3級の何れであってもよいが、これらホスホン基、ホスフィン基、およびホスフィンオキサイド基としては、それぞれ、上記R基がアルキル基である、第3級ホスホン(-P(=O)(OR))基、第3級ホスフィン(-PR)基、および第3級ホスフィンオキシド(-P(=O)R)基が特に好ましい。なお、これら第3級ホスホン基、第3級ホスフィン基、および第3級ホスフィンオキシド基における上記アルキル基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基が挙げられる。
【0052】
上記配位性官能基のなかでも、チオール基は、Znを含む半導体材料からなる無機ナノ粒子等、キャリア輸送性材料として一般的に用いられている無機ナノ粒子に対する配位性が高い。このため、リガンド42は、上記配位性官能基としてチオール基を有していることが望ましく、リガンド42に含まれる配位性官能基がそれぞれチオール基であることがより望ましい。リガンド42に含まれる配位性官能基がそれぞれチオール基である場合、リガンド42を介する無機ナノ粒子41同士の接合強度が高く、耐久性により優れた発光素子ESを提供することができる。
【0053】
また、上記極性結合基は、リガンド42に極性を付与する結合基(つまり、リガンド42に結合における電荷分布の偏りを付与する結合基)であれば、特に限定されるものではないが、例えば、エーテル結合(-O-)基、スルフィド結合基(-S-)、イミン結合(-NH-)基、エステル結合(-C(=O)O-)基、アミド結合(-C(=O)NR’-)基、およびカルボニル(-C(=O)-)基からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合基が挙げられる。なお、上記R’基は、水素原子、または、アルキル基、アリール基等の任意の有機基を表す。
【0054】
なお、このようにリガンド42が極性結合基を有する場合、リガンド42は、極性結合基と直接結合した炭素数1~4のアルキレン基を、スペーサ基として有していることが望ましい。後述するように単官能性のリガンドからリガンド42へのリガンド交換を行う場合、リガンド42のリガンド鎖が短く、さらに交換率が低いと、リガンド未配位箇所同士が近づくことになり、そこで無機ナノ粒子41の凝集が起こる可能性がある。しかしながら、上記スペーサ基を設けることで、無機ナノ粒子41の凝集を抑制することができる。
【0055】
上記リガンド42としては、例えば、主鎖の両末端に、それぞれ、互いに同じであっても異なっていてもよい上記配位性官能基を有しているリガンドが挙げられる。このようなリガンド42としては、例えば、下記一般式(1)で示されるリガンドからなる群より選ばれる、少なくとも一種のリガンドが挙げられる。
【0056】
-A-R・・・(1)
なお、上記一般式(1)中、RおよびRは、互いに独立して上記配位性官能基を表す。言い替えれば、RおよびRは、互いに同じ配位性官能基であってもよく、互いに異なる配位性官能基であってもよい。Aは、置換または無置換の-(CH)m1-基、または、置換または無置換の-((CHm2-Xm3-(CHm4-基を表す。また、Xは極性結合基を表し、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数は1~25の整数である。
【0057】
なお、ここで、-((CHm2-Xm3-における各Xは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0058】
また、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数とは、Aにおける、上記Rと上記Rとを繋ぐ、直鎖(つまり、水素原子以外の原子が枝分かれせずに連なっている構造)を構成する原子の数を表し、上記Rおよび上記Rで示される上記配位性官能基の原子の数およびAにおける水素原子の数を含まない。
【0059】
したがって、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数とは、置換または無置換の-(CH)m1-基、または、置換または無置換の-((CHm2-Xm3-(CHm4-基における、上記Rと上記Rとを繋ぐ直鎖を構成する原子の数を示す。このため、例えば、上記Aが置換または無置換の-(CH)m1-基である場合、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数はm1となり、m1=1~25の整数となる。
【0060】
例えば、上記リガンド42が、HS(CHCH(C)CHSHで示される構造を有している場合、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数は5個であり、この場合、m=5となる。
【0061】
また、上記リガンド42が、例えば、HS(CHCH(C)(CHCH(C17)CHSHで示される構造を有している場合、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数は9個であり、この場合、m=9となる。
【0062】
なお、水素原子が配位性官能基(つまり、RまたはR)に置換されている場合、各RとRとの間の直鎖を構成する原子の数が、それぞれ、1~25の整数であればよい。
【0063】
また、上記Aが置換または無置換の-((CHm2-Xm3-(CHm4-基である場合、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数は、Xにおける直鎖を構成する原子の数をX1とすると、(m2+X1)×m3+m4となる。したがって、この場合、1≦(m2+X1)×m3+m4≦25となる。
【0064】
なお、Xが、エーテル結合(-O-)基、スルフィド結合基(-S-)、イミン結合(-NH-)基、カルボニル(-C(=O)-)基の何れかである場合、X1=1となる。また、Xが、エステル結合(-C(=O)O-)基またはアミド結合(-C(=O)NR’-)基である場合、X1=2となる。
【0065】
このように上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数(例えばm1あるいは(m2+X1)×m3+m4)を1以上とすることで、リガンド42として、スペーサ基を介して、少なくとも両末端に上記配位性官能基を有する多官能性分子を提供することができる。これにより、複数の無機ナノ粒子41と、これら無機ナノ粒子41に配位するための少なくとも一種の配位性官能基を少なくとも2つ有するリガンド42を提供することができる。そして、本実施形態によれば、ETL12が、複数の無機ナノ粒子41と、上述したように配位性官能基を少なくとも2つ有するリガンド42と、を含むことで、上記リガンド42が複数の無機ナノ粒子41に配位しているETL12を形成することができる。
【0066】
このようなETL12は、後述するように、極性溶媒にも非極性溶媒にも溶解せず、極性溶媒および非極性溶媒に対する耐液性が高い。このため、該ETL12そのものまたはその上層のEML13をパターン形成する際に、該ETL12がこれら溶媒で溶解されたり劣化したりすることを抑制することができる。したがって、これら溶媒による吸光度の変化並びETL12のバンドギャップの変化を抑制することができる。
【0067】
また、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数を25以下とすることで、キャリア注入を阻害することなく、かつ、安定してキャリア注入を行うことができる。
【0068】
なお、Aが置換または無置換の-(CH)m1-基である場合、上記m1は、上述したように、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数が例えば1~25の整数となるように設定されていれば、特に限定されるものではない。このため、Aが置換または無置換の-(CH)m1-基である場合、m1は、上述したように例えば1≦m1≦25であればよいが、m1は、2以上であることが望ましく、4以上であることがより望ましい。また、m1は、18以下であることが望ましく、10以下であることがより望ましい。
【0069】
本実施形態によれば、リガンド42として上記一般式(1)で示されるリガンドを使用することで、上記配位性官能基を介して互いに結合された無機ナノ粒子41間の距離を、配位性官能基間のスペーサ基としての上記Aにおける直鎖の長さに応じた距離だけ離間させることができる。
【0070】
したがって、上記m1を2以上とすることで、無機ナノ粒子41の凝集を抑制し、無機ナノ粒子41間の距離を、m1=1のときよりも長い距離に維持することができる。また、上記m1を4以上とすることで、無機ナノ粒子41の凝集をさらに抑制し、無機ナノ粒子41間の距離を、より長い距離に維持することができる。
【0071】
本実施形態によれば、上述したようにリガンド鎖の長さ(言い替えれば、リガンド42におけるスペーサ基の直鎖の長さ)を変更することで、キャリアの注入効率を変更することができる。例えば、ETL12の層厚並びに無機ナノ粒子41の粒径が同じ場合、リガンド42におけるリガンド鎖の長さが長ければ長いほど、ETL12における無機ナノ粒子41の密度が低下し、その分、ETL12におけるキャリア輸送性が低下する。また、ETL12の層厚並びに無機ナノ粒子41の粒径が同じ場合、リガンド42におけるリガンド鎖の長さが長ければ長いほど、絶縁体が増加することで、キャリアが絶縁体によって通り難くなり、キャリア注入が阻害される。したがって、上記m1を、好適には18以下、より好適には10以下とすることで、無機ナノ粒子41の密度をより大きくすることができ、キャリア注入をより効率良く行うことができる。
【0072】
また、Aが置換または無置換の-((CHm2-Xm3-(CHm4-基である場合、m2、m3、m4、および、前記X1は、上述したように、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数が例えば1~25の整数となるように設定されていれば、特に限定されるものではない。このため、Aが置換または無置換の-((CHm2-Xm3-(CHm4-基である場合、m2、m3、m4、および前記X1は、上述したように1≦(m2+X1)×m3+m4≦25であればよく、m2、m3、およびm4のうち何れか1つまたは2つが0(ゼロ)であってもよい。しかしながら、m2およびm4は、互いに独立して1~4の整数であることが望ましく、m3は、1~10の整数であることが望ましい。
【0073】
また、Aが置換または無置換の-((CHm2-Xm3-(CHm4-基である場合、m2、m3、m4、および、前記X1は、(m2+X1)×m3+m4が2以上であることが望ましく、4以上であることがより望ましい。また、(m2+X1)×m3+m4は、18以下であることが望ましく、10以下であることがより望ましい。
【0074】
前述したように、本実施形態では、配位性官能基を介して互いに結合された無機ナノ粒子41間の距離を、配位性官能基間のスペーサ基としての上記Aにおける直鎖の長さに応じた距離だけ離間させることができる。
【0075】
したがって、上記(m2+X1)×m3+m4を2以上とすることで、無機ナノ粒子41の凝集を抑制し、無機ナノ粒子41間の距離を、(m2+X1)×m3+m4=1のときよりも長い距離に維持することができる。また、上記(m2+X1)×m3+m4を4以上とすることで、無機ナノ粒子41の凝集を抑制し、無機ナノ粒子41間の距離を、より長い距離に維持することができる。
【0076】
また、上記(m2+X1)×m3+m4を、好適には18以下、より好適には10以下とすることで、無機ナノ粒子41の密度をより大きくすることができ、キャリア注入をより効率良く行うことができる。
【0077】
上記リガンド42としては、前述したように、無機ナノ粒子41に配位するための少なくとも一種の配位性官能基を少なくとも2つ有するリガンドであれば、特に限定されるものではないが、一例として、具体的には、例えば、1,2-エタンジチオール、1,2-プロパンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,2-ブタンジチオール、1,3-ブタンジチオール、1,4-ブタンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、2-アミノベンゼンチオール、トルエン-3,4-ジチオール、ジチオエリトリトール、ジヒドロリポ酸、チオ乳酸、3-メルカプトプロピオン酸、1-アミノ-3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサヘンイコサン-21-酸、2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]酢酸、2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、2,2’-オキシジエタンチオール、(12-ホスホノドデシル)ホスホン酸、11-メルカプトウンデシルホスホン酸、11-ホスホノウンデカン酸、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。これらリガンドは、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0078】
これら例示のリガンドのなかでも、リガンド42としては、前述したように、該リガンド42に含まれる配位性官能基がそれぞれチオール基であることがより望ましい。したがって、上記リガンド42としては、上記例示のリガンドのなかでも、1,2-エタンジチオール、1,2-プロパンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,3-ブタンジチオール、1,4-ブタンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、2,2’-オキシジエタンチオール、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)からなる群より選ばれる少なくとも一種のリガンドであることがより望ましい。また、これらリガンドのなかでも、1,2-エタンジチオールおよび2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタンチオールがより一層望ましい。本実施形態によれば、このように無機ナノ粒子41に配位するリガンドとして、1,2-エタンジチオールあるいは2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール等のリガンド42を用いることで、無機ナノ粒子41の凝集を抑制することができるとともに、ZnO等の、単体での無機ナノ粒子41を溶解する、エタノール等の極性溶媒や、単体での上記リガンド42を溶解する、トルエン等の非極性溶媒(無極性溶媒)に不溶であり、極性溶媒に対しても非極性溶媒に対しても高い耐液性を有するETL12を形成することができる。
【0079】
ETL12における無機ナノ粒子41とリガンド42との含有比(無機ナノ粒子41:リガンド42)は、特に限定されるものではないが、重量比で、2:0.25~2:6の範囲内であることが望ましく、2:1~2:4の範囲内であることがより望ましい。これにより、無機ナノ粒子41同士が、リガンド42で結合され、極性溶媒および非極性溶媒に対する耐液性が高く、洗浄による吸光度の変化並びにバンドギャップの変化を十分に抑制することができるETL12を形成することができる。また、一般的に、リガンドは、分子骨格中の大半が有機物で構成されることから、絶縁性を示す場合が多い。このため、上記発光素子ESの発光特性におけるキャリア注入の観点から、ETL12に過剰量のリガンドが含まれていないことが望ましい。このため、上記含有比は、上記範囲内とすることが望ましい。
【0080】
HTL14は、陽極15から供給された正孔をEML13に輸送する層である。HTL14の材料としては、例えば、正孔輸送性を有する導電性の高分子材料(有機正孔輸送性材料)が挙げられる。
【0081】
HTL14は、上記高分子材料として、例えば、PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))、PEDOT‐PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸))、PVK(ポリ(N-ビニルカルバゾール))、TFB(ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(4-sec-ブチルフェニル))ジフェニルアミン)])、CBP(4,4’-ビス(9-カルバゾイル)-ビフェニル)、NPD(N,N’-ジ-[(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル]-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン)、または上記化合物の誘導体等の有機材料を含んでいてもよい。
【0082】
また、発光素子ESは、陰極11と陽極15との間に、HTL14以外にも、ETL12およびEML13以外の機能層を備えていてもよい。一例として、発光素子ESは、陰極11とETL12との間に電子注入層(EIL)を備えていてもよい。また、図1に示すように発光素子ESがHTL14を備えている場合、発光素子ESは、陽極15とHTL14との間に、正孔注入層(HIL)を備えていてもよい。
【0083】
EILは、電子輸送性を有し、EML13への電子注入効率を高める機能を有している。EILは、陰極11からETL12に電子を注入する。EILには、電子輸送性材料が用いられる。上記電子輸送性材料は、無機材料で形成されていてもよく、無機材料を含んでいてもよい。また、上記電子輸送性材料は、有機材料で形成されていてもよく、有機材料を含んでいてもよい。
【0084】
EILが電子輸送性材料として無機材料を含む場合、該無機材料としては、無機ナノ粒子41と同様の無機ナノ粒子を用いることができる。この場合、EILもリガンド42と同様のリガンドを含むことが望ましい。
【0085】
一方、EILが電子輸送性材料として有機材料を含む場合、該有機材料としては、例えば、1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBi)、3-(ビフェニル-4-イル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-4H-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、バソフェナントロリン(Bphen)、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)等が挙げられる。
【0086】
HILは、正孔輸送性を有し、EML13への正孔注入効率を高める機能を有している。HILは、陽極15からHTL14に正孔を注入する。HILには、例えば、前述した正孔輸送性材料を用いることができる。
【0087】
また、発光素子ESは、図示しない封止部材を備えていても構わない。
【0088】
(発光素子ESの製造方法)
次に、本実施形態に係る発光素子ESの製造方法の一例を示す。
【0089】
図2は、本実施形態に係る発光素子ESの製造方法の概要の一例を示すフローチャートである。
【0090】
図2に示すように、本実施形態に係る発光素子ESの製造工程では、一例として、例えば、まず、基板10上に、陰極11を形成する(ステップS1、陰極形成工程)。次いで、ETL12となる無機ナノ粒子層(ETL前駆体層)として、電子輸送性を有する無機ナノ粒子41からなるETL材料層を形成する(ステップS2、無機ナノ粒子層形成工程、ETL材料層形成工程)。次いで、ETL材料層上に、上記無機ナノ粒子41に配位するための少なくとも一種の配位性官能基を少なくとも2つ有するリガンド42を含むリガンド溶液を供給する(ステップS3、リガンド溶液供給工程)。次いで、上記リガンド溶液供給後の積層体(本実施形態では基板10~ETL材料層)を、加熱し(ステップS4、加熱工程)、洗浄した後(ステップS5、洗浄工程)、乾燥する(ステップS6、乾燥工程)。これにより、ETL材料層からなるETL12を形成する。その後、EML13を形成する(ステップS7、EML形成工程)。次いで、HTL14を形成する(ステップS8、HTL形成工程)。その後、陽極15を形成する(ステップS9、陽極形成工程)。
【0091】
なお、ステップS9の陽極15の形成後に、基板10上に形成された積層体(陰極11~陽極15)を、封止部材で封止しても構わない。上記封止部材としては、無機封止層および有機封止層を備えた封止膜であってもよく、封止ガラスであってもよい。以下に、上記各工程について、より詳細に説明する。
【0092】
ステップS1およびステップS9における陰極11および陽極15の形成には、例えば、スパッタリング法、フィルム蒸着法、真空蒸着法、物理的気相成長法(PVD)等が用いられる。陰極11または陽極15の形成には、図示しないマスクを用いてもよいし、それぞれの電極材料をベタ状に成膜した後、必要に応じて、所望の形状にパターニングしてもよい。例えば、発光素子ESが表示装置の一部である場合、陰極材料(電極材料)をベタ状に成膜した後、パターニングすることで、陰極11を画素毎に形成してもよい。
【0093】
ステップS2において、ETL材料層は、無機ナノ粒子41を含むETL材料コロイド溶液(ETL材料分散液)を塗布することで形成することができる。ETL材料コロイド溶液の塗布には、スピンコート法を用いることができる。
【0094】
上記ETL材料コロイド溶液としては、例えば、無機ナノ粒子41と溶媒とを含むコロイド溶液が用いられる。
【0095】
ETL材料に用いられる無機ナノ粒子41は、特別な処理を行っていない場合、水、エタノール等の極性溶媒に溶解(分散)する。このため、無機ナノ粒子41の溶解性(分散性)の観点からは、上記ETL材料コロイド溶液の溶媒としては、極性溶媒を用いることが望ましい。なお、本開示において、ナノ粒子を溶媒に溶解させるとは、ナノ粒子を、コロイド状になるまで溶媒に分散させることを示す。
【0096】
なお、分散性の改善のため、上記ETL材料コロイド溶液は、無機ナノ粒子41に配位(吸着)するための配位性官能基(吸着基)を1つ有する単官能性のリガンドをさらに含んでいてもよい。上記配位性官能基としては、前記例示の配位性官能基が挙げられる。上記単官能性のリガンドとしては、特に限定されるものではなく、例えば、従来、EMLとして用いられるQD含有膜の形成に用いられる単官能性のリガンドを用いることができる。上記単官能性のリガンドとしては、特に限定されるものではなく、例えば、モノマーであってもよく、オリゴマーであってもよい。
【0097】
上記ETL材料コロイド溶液における、無機ナノ粒子41の濃度は、従来と同様に設定すればよく、塗布可能な濃度あるいは粘度を有していれば、特に限定されるものではない。例えば、スピンコート法を用いる場合の無機ナノ粒子41の濃度は、実用的な膜厚を得るために、一般的には、5~20mg/mL程度に設定される。但し、上記例示は一例であり、成膜方法によって最適な濃度は異なる。
【0098】
また、上記ETL材料コロイド溶液における、上記単官能性のリガンドの濃度、無機ナノ粒子41に対する上記単官能性のリガンドの濃度は、例えば、QDコロイド溶液における、リガンドの濃度、QDに対するリガンドの濃度と同様に設定すればよく、塗布可能な濃度あるいは粘度を有していれば、特に限定されるものではない。
【0099】
なお、上記ETL材料層は、ステップS3におけるリガンド溶液の供給の前に乾燥されてもよく、ETL材料コロイド溶液の塗布後、乾燥することなく、ステップS3を行ってもよい。したがって、上記ETL材料層は、ETL材料コロイド溶液からなる溶液層であってもよく、ETL材料コロイド溶液を乾燥してなる固体層であってもよい。
【0100】
ETL材料コロイド溶液の塗布後、乾燥することなく、ステップS3を行うことで、ETL材料コロイド溶液の乾燥工程を省くことができる。
【0101】
また、例えば、無機ナノ粒子41の個数平均粒径が小さく、かつ、上記ETL材料コロイド溶液が、単官能性のリガンドを含まない場合、ETL材料コロイド溶液塗布後に、乾燥させることなく、リガンド42を例えばスピンコート塗布することで、無機ナノ粒子41の個数平均粒径が小さい場合でも、無機ナノ粒子41を均一に分散(分布)させることができる。
【0102】
なお、ETL材料コロイド溶液の乾燥には、例えば焼成等の加熱乾燥を用いることができる。乾燥温度(例えば焼成温度)は、溶媒の種類に応じて、ETL材料コロイド溶液に含まれる不要な溶媒を除去することができるように適宜設定すればよい。このため、乾燥温度は、特に限定されるものではないが、例えば、60~120℃の範囲内であることが望ましい。これにより、無機ナノ粒子41に熱ダメージを与えることなく、ETL材料コロイド溶液に含まれる不要な溶媒を除去することができる。なお、乾燥時間は、乾燥温度に応じて、ETL材料コロイド溶液に含まれる不要な溶媒を除去することができるように適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0103】
ステップS3において上記リガンド溶液を供給する方法としては、例えば、上記ETL材料層上に上記リガンド溶液を散布する方法が挙げられる。なお、上記リガンド溶液は、例えば噴霧することで霧状に散布してもよく、滴下することで滴状に散布してもよい。上記リガンド溶液の散布(供給)には、例えば、インクジェット法を用いてもよいし、ミスト噴霧装置を用いてもよい。また、上記ETL材料層に上記リガンド溶液を均一に塗布するため、上記ETL材料層上への上記リガンド溶液の供給(例えば散布)後、供給した上記リガンド溶液を、スピンコートにより上記ETL材料層の表面に塗布してもよい。
【0104】
上記リガンド溶液を上記ETL材料層に接触させると、上記ETL材料層における無機ナノ粒子41にリガンド42が配位する。なお、無機ナノ粒子41に単官能性のリガンドが配位している場合には、該無機ナノ粒子41に配位した単官能性のリガンドがリガンド42に交換(リガンド交換)される。
【0105】
上述したように上記ETL材料層上に上記リガンド溶液を供給すると、上記ETL材料層の上面側から下面側に向かって上記リガンド溶液が浸透する。このため、上記ETL材料層の上面側から下面側に向かってリガンド42の供給割合が小さくなる。この結果、図1に示すように、最終的に形成されるETL12における上層側のリガンド42の含有割合が、上記ETL12における下層側のリガンド42の含有割合よりも大きくなる。
【0106】
前述したように、リガンド42は、無機ナノ粒子41に配位するための少なくとも一種の配位性官能基を少なくとも2つ有している。このため、上記ETL材料層上に上記リガンド溶液を供給すると、図1に示すように、リガンド42によって、上記ETL材料層における複数の無機ナノ粒子41が互いに連結される。この結果、上記ETL材料層の無機ナノ粒子41が硬化し、溶媒に不溶化する。
【0107】
なお、無機ナノ粒子41にリガンド42を配位させるには、上記ETL材料層に、リガンド42と溶媒とを含むリガンド溶液を供給して接触させればよく、特段、加熱を行う必要はない。一般的なETLの層厚からすれば、上記ETL材料層に上記リガンド溶液を供給後すぐに該リガンド溶液が上記ETL材料層に浸透する。このため、リガンド42の配位のための時間の管理および制御も特には必要ない。
【0108】
なお、必要に応じて、上記リガンド溶液の浸透のための保持時間を設けてもよく、上記リガンド溶液供給直後の上記ETL材料層に含まれる不要な溶媒を除去し、リガンド42による無機ナノ粒子41同士の結合を促進するために、上述したように、加熱(加熱乾燥、ステップS4)を行ってもよい。
【0109】
なお、上記ステップS4における加熱温度並びに加熱時間は、上述したように上記不要な溶媒が除去されるように適宜設定すればよく、特に限定されるものはない。
【0110】
上記ステップS4~ステップS6は省略することも可能であるが、上記ETL材料層に対して上記リガンド溶液供給後に不要な溶媒を除去することで得られる無機ナノ粒子含有層には、不要なリガンドとして、無機ナノ粒子41に配位していない余剰のリガンド42が含まれる。また、ETL材料コロイド溶液が単官能性のリガンドを含んでいた場合、上記無機ナノ粒子含有層には、不要なリガンドとして、単官能性のリガンドも含まれる。例えば、上記無機ナノ粒子含有層は、リガンド交換によってリガンド42と交換された、無機ナノ粒子41に配位していない単官能性のリガンドを含む。
【0111】
そこで、ステップS5を行い、その後、ステップS6を行うことで、無機ナノ粒子41と、該無機ナノ粒子41に配位したリガンド42と、を含み、不要なリガンドが除去された(言い替えれば、不要なリガンドを実質的に含まない)ETL12を形成することができる。
【0112】
なお、上記洗浄方法としては、特に限定されるものではなく、公知の各種方法を用いることができる。例えば、上記無機ナノ粒子含有層に十分な量のリンス液を供給すればよく、後述する実施例に示すように、十分な量のリンス液を供給して塗布してもよい。
【0113】
なお、リガンド単体の溶解性と、リガンドが無機ナノ粒子41に配位した状態でのリガンドおよび無機ナノ粒子41の溶解性とは、やや異なる。そのため、上記ETL材料コロイド溶液が単官能性のリガンドを含まない場合、上記ETL材料コロイド溶液における溶媒としては、無機ナノ粒子41が溶解できる溶媒であれば、特に限定されるものではない。また、上記ETL材料コロイド溶液が単官能性のリガンドを含む場合、上記ETL材料コロイド溶液における溶媒としては、無機ナノ粒子41単体および上記単官能性のリガンド単体、並びに、上記単官能性のリガンドが無機ナノ粒子41に配位した状態での、無機ナノ粒子41および上記単官能性のリガンドが溶解できる溶媒であれば、特に限定されるものではない。一方、上記リガンド溶液の溶媒としては、該溶媒に、上記ETL材料層中の無機ナノ粒子41が溶解してしまう溶媒を使用すると、リガンド42が配位していない無機ナノ粒子41が溶解することで、上記ETL材料層の溶解が起きてしまう。したがって、上記リガンド溶液の溶媒としては、上記ETL材料層が溶解せず、かつ、リガンド42を溶解させることができる溶媒が使用される。なお、ここで、上記ETL材料層が溶解しない溶媒とは、上記ETL材料層が単官能性のリガンドを含まない場合、上記無機ナノ粒子41が溶解しない溶媒を示す。また、上記ETL材料層が単官能性のリガンドを含む場合、上記無機ナノ粒子41単体、および上記単官能性のリガンド単体、並びに、上記単官能性のリガンドが無機ナノ粒子41に配位した状態での、無機ナノ粒子41および上記単官能性のリガンドが溶解しない溶媒を示す。なお、無機ナノ粒子41にリガンド42が配位すると、該リガンド42が配位した無機ナノ粒子41は、不溶化し、どのような溶媒にも溶解しなくなる。したがって、上記リンス液として用いられる溶媒としては、上記ETL材料層が単官能性のリガンドを含まない場合、無機ナノ粒子41に配位していない余剰のリガンド42を溶解する溶媒であれば、特に限定されるものではない。一方、上記ETL材料層が単官能性のリガンドを含んでいた場合、上記リンス液として用いられる溶媒としては、無機ナノ粒子41に配位した単官能性のリガンドを溶解するとともに無機ナノ粒子41に配位していない、余剰のリガンド42および単官能性のリガンドを溶解する溶媒であれば、特に限定されるものではない。
【0114】
なお、前述したように、キャリア輸送性材料に用いられる無機ナノ粒子は、特別な処理を行っていない場合、エタノール等の極性溶媒に溶解する。このため、単官能性のリガンドを用いる場合、該単官能性のリガンドとしては、好適には、極性溶媒に溶解するリガンドが用いられる。また、リガンド42は、無機ナノ粒子41に配位していない単体の状態では、概ね、極性溶媒にも非極性溶媒にも溶解する。したがって、前述したように、ETL材料コロイド溶液の溶媒およびリンス液には、好適には、極性溶媒が用いられる。また、リガンド溶液に用いられる溶媒としては、リガンド42が前述した極性結合基を有する極性分子であるか、前述した極性結合基を有さない非極性分子であるかに拘らず、好適には、非極性溶媒が用いられる。
【0115】
上記非極性溶媒としては、例えば、Hildebrandの溶解度パラメータ(δ値)が9.3以下の溶媒であることが望ましく、上記δ値が7.3以上、9.3以下の溶媒であることがより望ましい。また、非極性溶媒としては、例えば、20℃~25℃付近で測定した比誘電率(ε値)が6.02以下の溶媒であることが望ましく、上記ε値が1.89以上、6.02以下の溶媒であることがより望ましい。無機ナノ粒子41は、上記非極性溶媒に溶解しない。また、リガンド42が配位した無機ナノ粒子41も上記非極性溶媒に溶解しない。
【0116】
上記非極性溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、トルエン、ヘキサン、オクタン、クロロベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒が挙げられる。トルエン、ヘキサン、オクタンは、上記δ値が7.3以上、9.3以下で、上記ε値が1.89以上、6.02以下の非極性溶媒であり、入手が容易である。クロロベンゼンは、上記ε値が6.02以下の非極性溶媒であり、入手が容易である。このため、上記非極性溶媒としては、上記溶媒を用いることが特に望ましい。
【0117】
一方、上記極性溶媒としては、例えば、上記δ値が9.3よりも大きい溶媒であることが望ましく、上記δ値が9.3を超えて12.3以下の溶媒であることがより望ましい。また、上記極性溶媒のδ値は、10以上であることがより望ましい。したがって、上記極性溶媒は、上記δ値が、10以上、12.3以下の溶媒であることがより一層望ましい。また、上記極性溶媒としては、例えば、上記ε値が6.02よりも大きい溶媒であることが望ましく、上記ε値が6.02を超えて46.7以下の溶媒であることがより望ましい。上記極性溶媒は、無機ナノ粒子41を劣化させず、また、リガンド42が配位した無機ナノ粒子41を溶解しない。このため、上記非極性溶媒としては、上記溶媒を用いることがより望ましい。
【0118】
上記極性溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、メタノール、エタノール、アセトニトリル、エチレングルコールからなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒が挙げられる。PGMEA、メタノール、エタノール、アセトニトリル、エチレングルコールからなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒は、溶媒度パラメータが10以上の極性溶媒であり、入手が容易であるとともに、分子数があまり大きくない。このため、無機ナノ粒子41を均一に溶解させることができる。
【0119】
なお、ステップS3で用いられるリガンド溶液に含まれるリガンド42の濃度は、特に限定されるものではないが、上記リガンド42の供給と、上記リガンド溶液へのリガンド42の溶解と、の兼ね合いから、0.01mol/L~2.0mol/Lの範囲内であることが望ましい。
【0120】
また、前述したように、ETL12における無機ナノ粒子41とリガンド42との含有比(無機ナノ粒子41:リガンド42)は、重量比で、2:0.25~2:6の範囲内であることが望ましく、2:1~2:4の範囲内であることがより望ましい。リガンド42の供給量は、例えば、該リガンド42が供給される無機ナノ粒子層の種類並びに膜厚、リガンド42の添加方法、発光領域のサイズ等によって変わる。しかしながら、無機ナノ粒子41一粒当たりで考えた場合、供給されるリガンド42の量は上記諸条件を問わず充分な量であるため、無機ナノ粒子41に実際に配位するリガンド42の量は、上記リガンド溶液に含まれるリガンド42の濃度に依存する傾向がある。そして、ステップS5では、リンス液によって、無機ナノ粒子41に配位していない、余剰のリガンド42が除去される。また、ステップS3では、ステップS5において余剰のリガンド42を除去することで最終的にETL12における無機ナノ粒子41とリガンド42との含有比が上記範囲内となるように、無機ナノ粒子41に対し、上述した、ETL12における無機ナノ粒子41とリガンド42との含有比よりも過剰のリガンド42が供給される。このため、上記リガンド溶液中のリガンド42の濃度を上述した範囲内にすれば、リガンド42による無機ナノ粒子41の表面修飾を行う無機ナノ粒子層全体に上記リガンド溶液が浸透するように上記リガンド溶液を供給することで、最終的に形成されるETL12において、上述した望ましい範囲の無機ナノ粒子41とリガンド42との含有比を得ることができる。これにより、複数の無機ナノ粒子41がリガンド42を介して互いに結合しており、極性溶媒および非極性溶媒に対する耐液性が高いETL12を形成することができる。
【0121】
また、上記リガンド溶液の粘度は、上記リガンド溶液の塗布を行う際の温度、圧力等を調節することにより、適宜所望の範囲に調整することができる。このため、上記リガンド溶液の粘度は、特に限定されるものではないが、0.5~500mPa・sの範囲内であることが望ましく、1~100mPa・sの範囲内であることがより望ましい。これにより、上記ETL材料層と上記リガンド溶液との接触ムラ並びに上記ETL材料層への上記リガンド溶液の浸透ムラを低減し、乾燥時の上記リガンド溶液の塗布ムラを低減させることができる。この結果、最終的に得られるETL12の層厚の調整を容易にすることができる。
【0122】
なお、粘度は、従来公知の回転粘度計、B型粘度計等を用いて測定できる。本実施形態では、CBCマテリアルズ株式会社製の振動式粘度計VM-10A-Lを用いて、「JIS 8803Z:2011 液体の粘度測定方法」に準拠して測定した値を示す。
【0123】
また、上記ETL材料層に散布されたリガンド溶液の液滴径は、10μm以上、1mm以下であることが望ましい。これにより、リガンド溶液の散布に、例えば、スプレー(ミスト噴霧装置)、インクジェット等を使用する場合、それらに使用可能な範囲で高精細な画素を形成することができる。
【0124】
なお、リガンド42が無機ナノ粒子41に配位していることは、リガンド42が配位した無機ナノ粒子41がリンス液に溶解しないことで、確認が可能である。
【0125】
また、配位するリガンドによっては、例えば、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)を用いた測定(以下、「FT-IR測定」と記す)で、配位の有無を確認することも可能である。例えば、無機ナノ粒子41に配位するリガンド42が、配位性官能基として-C(=O)OH基を有しているか、あるいは、-P(=O)基を有している場合、未配位の状態と配位した状態とで、FT-IR測定で見られる振動が微妙に異なり、検出ピークがシフトする。このため、これにより、無機ナノ粒子41への単官能性の非極性リガンドあるいはリガンド42の配位を確認することができる。
【0126】
また、ETL材料コロイド溶液が、単官能性のリガンドを含んでいた場合、リガンド交換後に、交換前の単官能性の非極性リガンドのピークが消失し、交換後のリガンド42のみに入れ替わっていることで、リガンド42が無機ナノ粒子41に配位していることを確認することもできる。
【0127】
さらに、単官能性のリガンドおよびリガンド42の少なくとも一方が、無機ナノ粒子41に配位する配位性官能基の他に特異なピークを示す官能基を有している場合、その検出量で配位を確認することもできる。そのような官能基としては、例えば、エーテル基、エステル基、オレイン酸のC=C結合等が挙げられる。特に、リガンド交換前に存在していた特異なピークが、リガンド交換後に消失した場合、あるいは、リガンド交換後に、新たな特異なピークが検出された場合、リガンド交換が行われたことが確認できる。
【0128】
ステップS7におけるEML13の形成には、EMLの形成方法として知られている公知の各種方法を用いることができる。発光素子ESがQLEDである場合、EML13は、QDを含むQDコロイド溶液(QD分散液)を塗布して乾燥させることで形成することができる。QDコロイド溶液の塗布には、スピンコート法を用いることができる。
【0129】
上記QDコロイド溶液には、例えば、QDと、該QDに配位(吸着)するための配位性官能基(吸着基)を有するリガンドと、溶媒とを含むコロイド溶液が用いられる。上記リガンドとしては、特に限定されるものではなく、公知の各種リガンドを用いることができる。
【0130】
例えば、市販のQDコロイド溶液は、一般的にリガンドを含む。QDの表面にリガンドを配位させることで、QD同士の凝集を抑制することができる。このため、上記QDコロイド溶液としては、市販のQDコロイド溶液を用いてもよい。このため、上記QDコロイド溶液に含まれるリガンドは、市販のQDコロイド溶液に含まれるリガンドであってもよい。
【0131】
なお、上記QDコロイド溶液に用いられる溶媒としては、上記QDコロイド溶液に用いられるQD単体およびリガンド単体、並びに、該リガンドがQDに配位した状態での、該QDおよび該リガンドが溶解できる溶媒であれば、特に限定されるものではない。
【0132】
QD等のナノ粒子は、通常、水で劣化し易い。また、上記QDコロイド溶液に用いられるQD単体およびリガンド単体、並びに、該リガンドがQDに配位した状態での、該QDおよび該リガンドは、非極性溶媒(無極性溶媒)に溶解する。このため、上記QDコロイド溶液における溶媒には、非極性溶媒(無極性溶媒)を用いることが望ましい。
【0133】
なお、上記QDコロイド溶液における、QDの濃度、リガンドの濃度、QDに対するリガンドの濃度は、従来と同様に設定すればよく、塗布可能な濃度あるいは粘度を有していれば、特に限定されるものではない。
【0134】
なお、QDコロイド溶液の乾燥には、例えば焼成等の加熱乾燥を用いることができる。乾燥温度(例えば焼成温度)は、溶媒の種類に応じて、QDコロイド溶液に含まれる不要な溶媒を除去することができるように適宜設定すればよい。また、乾燥時間は、乾燥温度に応じて、QDコロイド溶液に含まれる不要な溶媒を除去することができるように適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0135】
また、EML13は、上記リガンドの少なくとも一部が、リガンド42と同様のリガンドによってリガンド交換されていてもよい。
【0136】
また、発光素子ESがOLEDまたは無機EL素子である場合、EML13は、例えば、前述した有機発光材料または無機発光材料を、蒸着法あるいはインクジェット法等によって塗布して乾燥させることで形成することができる。
【0137】
ステップS8におけるHTL14の形成には、HTLの形成方法として知られている公知の各種方法を用いることができる。HTL14の形成には、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、PVD、スピンコート法、インクジェット法等が用いられる。
【0138】
次に、実施例および比較例を用いて、上記効果についてより詳細に説明する。
【0139】
〔実施例1〕
まず、無機ナノ粒子41として、個数平均粒径5nmのZnOナノ粒子(N-11、Sigma-Aldrich Co. LLC製)を2.5重量%の割合でエタノールに分散させてなるZnOコロイド溶液を調製した。次いで、上記ZnOコロイド溶液を、光学特性を測定するための支持体としてのガラス基板上に、2000rpmでスピンコートすることにより塗布した後、90℃で10分間加熱(焼成)することで溶媒を除去して乾燥させた。これにより、リガンドを含まない、ZnO膜を成膜した。
【0140】
次いで、上記ZnO膜の膜厚並びにバンドギャップ(バンドギャップエネルギー)を測定した。なお、上記ZnO膜の膜厚は、KLA-Tencor社製の膜厚段差計により測定した。上記ZnOの膜厚は50nmであった。また、バンドギャップは、UV-Vis(紫外可視)分光光度計により測定した。
【0141】
次いで、リガンド42として2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール(HSCHCHOCHCHOCHCHSH、以下「EtDiOx」と記す)を含む、濃度0.1mol/Lのトルエン溶液を、リガンド溶液として調製した。次いで、上記リガンド溶液200μLを、上記ZnO膜上に滴下し、10秒経過後に、滴下した上記リガンド溶液を、2000rpmでスピンコートにより塗布した。次いで、リガンド溶液を塗布した上記ZnO膜を、90℃で10分間焼成してトルエンを除去することにより乾燥させた。これにより、サンプル(1)として、上記ZnOナノ粒子と上記リガンドとを含むZnOナノ粒子含有膜を形成した。その後、測定波長を200~600nmの範囲内で変化させることにより、上記サンプル(1)の吸光度およびバンドギャップを、上記UV-Vis(紫外可視)分光光度計により測定した。
【0142】
次いで、上記サンプル(1)に対し、リンス試験(I)を行った。リンス試験(I)は、以下のようにして行った。まず、上記サンプル(1)に対し、リンス液として十分な量のエタノールを滴下し、10秒経過後に、滴下したエタノールを、2000rpmでスピンコートにより塗布することで、上記サンプル(1)をエタノール洗浄した。その後、上記エタノール洗浄を施したサンプル(1)を、90℃で10分間焼成してエタノールを除去することにより乾燥させた。なお、ここで、十分な量とは、使用する支持体の基板サイズに対して十分な量を示す。なお、本実施形態では、実施例および比較例に、一例として、上記支持体としてのガラス基板に、25mm×25mm×0.7mmのガラス基板を使用した。このため、十分な量のリンス液として、200μLのリンス液を使用した。
【0143】
次いで、上記リンス試験(I)後のサンプル(1)をサンプル(2)として、該サンプル(2)の吸光度およびバンドギャップを、サンプル(1)と同じ方法により測定した。
【0144】
次いで、上記サンプル(2)の経時変化を確認するため、上記リンス試験(I)後、24時間経過後のサンプル(2)をサンプル(3)として、該サンプル(3)の吸光度を、サンプル(1)の吸光度の測定と同じ方法により測定した。
【0145】
次いで、上記サンプル(3)に対し、リンス試験(II)を行った。リンス試験(II)は、以下のようにして行った。まず、上記サンプル(3)に対し、リンス液として十分な量のトルエンを滴下し、10秒経過後に、滴下したトルエンを、2000rpmでスピンコートにより塗布することで、上記サンプル(3)をトルエン洗浄した。その後、上記トルエン洗浄を施したサンプル(3)を、90℃で10分間焼成してトルエンを除去することにより乾燥させた。
【0146】
次いで、上記リンス試験(II)後のサンプル(3)をサンプル(4)として、該サンプル(4)の吸光度を、サンプル(1)の吸光度の測定と同じ方法により測定した。
【0147】
次いで、上記サンプル(4)に対し、リンス試験(III)として、リンス試験(I)と同様の洗浄、乾燥を行った。具体的には、上記サンプル(4)に対し、まず、リンス液として十分な量のエタノールを滴下し、10秒経過後に、滴下したエタノールを、2000rpmでスピンコートにより塗布することで、上記サンプル(4)をエタノール洗浄した。その後、上記エタノール洗浄を施したサンプル(4)を、90℃で10分間焼成してエタノールを除去することにより乾燥させた。
【0148】
次いで、上記リンス試験(III)後のサンプル(4)をサンプル(5)として、該サンプル(5)の吸光度を、サンプル(1)の吸光度の測定と同じ方法により測定した。
【0149】
〔実施例2〕
まず、実施例1で調製したZnOコロイド溶液を使用して、実施例1と同様にして、リガンドを含まない、ZnO膜を成膜した。実施例1と同じ方法で測定した上記ZnOの膜厚は50nmであった。
【0150】
次いで、リガンド42として1,2-エタンジチオール(HSCHCHSH、以下「EtT」と記す)を含む、濃度0.1mol/Lのトルエン溶液を、リガンド溶液として調製した。次いで、上記リガンド溶液200μLを、上記ZnO膜上に滴下し、10秒経過後に、滴下した上記リガンド溶液を、2000rpmでスピンコートにより塗布した。次いで、リガンド溶液を塗布した上記ZnO膜を、90℃で10分間焼成してトルエンを除去することにより乾燥させた。これにより、サンプル(6)として、上記ZnOナノ粒子と上記リガンドとを含むZnOナノ粒子含有膜を形成した。その後、測定波長を200~600nmの範囲内で変化させることにより、上記サンプル(6)の吸光度およびバンドギャップを、サンプル(1)と同じ方法により測定した。
【0151】
次いで、上記サンプル(6)に対し、リンス試験(I)を行った。つまり、本実施例では、まず、上記サンプル(6)に対し、リンス液として十分な量のエタノールを滴下し、10秒経過後に、滴下したエタノールを、2000rpmでスピンコートにより塗布することで、上記サンプル(6)をエタノール洗浄した。その後、上記エタノール洗浄を施したサンプル(6)を、90℃で10分間焼成してエタノールを除去することにより乾燥させた。
【0152】
次いで、上記リンス試験(I)後のサンプル(6)をサンプル(7)として、該サンプル(7)の吸光度を、サンプル(1)の吸光度の測定と同じ方法により測定した。また、上記サンプル(7)のバンドギャップを、リファレンスとしてのZnO膜のバンドギャップの測定と同じ方法により測定した。
【0153】
次いで、上記サンプル(7)の経時変化を確認するため、上記リンス試験(I)後、24時間経過後のサンプル(7)をサンプル(8)として、該サンプル(8)の吸光度を、サンプル(1)の吸光度の測定と同じ方法により測定した。
【0154】
次いで、上記サンプル(8)に対し、リンス試験(II)を行った。つまり、本実施例では、まず、上記サンプル(8)に対し、リンス液として十分な量のトルエンを滴下し、10秒経過後に、滴下したトルエンを、2000rpmでスピンコートにより塗布することで、上記サンプル(8)をトルエン洗浄した。その後、上記トルエン洗浄を施したサンプル(8)を、90℃で10分間焼成してトルエンを除去することにより乾燥させた。
【0155】
次いで、上記リンス試験(II)後のサンプル(8)をサンプル(9)として、該サンプル(9)の吸光度を、サンプル(1)の吸光度の測定と同じ方法により測定した。
【0156】
〔比較例1〕
まず、実施例1で調製したZnOコロイド溶液を使用して、実施例1と同様にして、リガンドを含まない、ZnO膜を成膜した。実施例1と同じ方法で測定した上記ZnOの膜厚は50nmであった。
【0157】
次いで、ZnO膜に対し、リンス試験(I)のエタノール洗浄を行ったところ、ZnO膜がエタノールに溶解した。このため、リンス試験(I)後のZnO膜の吸光度の測定を行うことはできなかった。
【0158】
以上の結果から、実施例1および実施例2によれば、無機ナノ粒子41であるZnOに、EtTあるいはEtDiOx等のリガンド42を配位させることで、比較例1に示すように単体でのZnOを溶解する、極性溶媒であるエタノールにも、非極性溶媒であるトルエンにも不溶であり、高い耐液性を有する、無機ナノ粒子含有膜としてのZnOナノ粒子含有膜を形成することができることが判る。
【0159】
また、図3は、200~600nmの波長の光に対する、実施例1におけるサンプル(1)~(5)の吸光度を示すグラフである。また、図4は、200~600nmの波長の光に対する、実施例2におけるサンプル(6)~(9)の吸光度を示すグラフである。
【0160】
図3および図4に示す結果から、上記ZnOナノ粒子含有膜は、極性溶媒に対しても非極性溶媒に対しても高い耐液性を有することで、リンス試験前とリンス試験後とで、吸光度に大きな差がないことが判る。
【0161】
また、表1に、実施例1におけるサンプル(1)・(2)および実施例2におけるサンプル(6)・(7)のバンドギャップを、リファレンスとしてのZnO膜のバンドギャップと併せて示す。
【0162】
【表1】
また、図5は、実施例1におけるサンプル(1)・(2)および実施例2におけるサンプル(6)・(7)並びにリファレンスとしてのZnO膜の(αhν)とバンドギャップとの関係を示すグラフである。なお、ここで、αは、光吸収係数を示し、hνは光エネルギー(h=プランク定数、ν=振動数)を示す。
【0163】
図5および表1に示す結果から、極性溶媒であるエタノールによる余剰リガンドの排除および溶媒に不溶化した状態とすることによるバンドギャップの変化が僅かに見受けられるものの、バンドギャップも、エタノールによるリンス試験前とリンス試験後とで、0.03~0.05eVしか変化がないことが判る。したがって、上記結果から、上記ZnOナノ粒子含有膜は、耐液性が改善され、ETLとして十分に利用可能であることが判る。
【0164】
以上のように、本実施形態によれば、キャリア輸送性を有する複数の無機ナノ粒子41と、該無機ナノ粒子41に配位するための少なくとも一種の配位性官能基を少なくとも2つ有するリガンド42と、を含み、極性溶媒に対しても非極性溶媒に対しても不溶で、高い耐液性を有するETL12を形成することができる。したがって、本実施形態によれば、極性溶媒および非極性溶媒に対するETL12の耐液性が高く、信頼性が高い発光素子ESを提供することができる。
【0165】
なお、上記効果は、リガンド42が上述したようにモノマーである場合に特有の効果である。ポリマーは、単位となる構造(モノマー)の多数回の繰り返しを有し、一般的に1000個程度以上の原子を有するか、または分子量が10000以上に高分子化されている。また、オリゴマーは、単位となる構造(モノマー)の少数回の繰返しを有し、一般的に、1000~10000の分子量を有する。ポリマー化あるいはオリゴマー化されたリガンドは、無機ナノ粒子(本実施形態では無機ナノ粒子41)に配位できるチオール等の配位性官能基を消費して、化学反応により鎖を繋げていくことから、分子が大きくなる程、無機ナノ粒子に配位可能な配位性官能基の量や密度が減少する。このため、ポリマー化あるいはオリゴマー化されたリガンドは、無機ナノ粒子に配位できる余地や確率、無機ナノ粒子同士を繋ぎ合わせる不溶化の効果発現の確率を大きく低下させる要因になる。
【0166】
〔実施形態2〕
本開示の実施の一形態について、図6に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、説明の便宜上、上記実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0167】
(発光素子の概略構成)
図6は、本実施形態に係る発光素子ESの概略構成の一例を、その要部を拡大して模式的に示す断面図である。
【0168】
本実施形態に係る発光素子ESは、以下の点を除けば、実施形態1に係る発光素子ESと同じである。
【0169】
実施形態1では、発光素子ESが、基板10上に陰極11が形成され、陽極15が、EML13を挟んで基板10とは反対側に形成されるインバーテッド構造を有している場合を例に挙げて説明した。インバーテッド構造を有する発光素子は、ETL12上にEML13を積層することから、ETL12の形成によってEML13が劣化することを抑制することができる。しかしながら、本開示に係る発光素子は、これに限定されるものではない。
【0170】
本実施形態にかかる発光素子ESは、基板10上に陽極15が形成され、陰極11が、EML13を挟んで基板10とは反対側に形成されるコンベンショナル構造を有する発光素子である。なお、本実施形態では、陽極15から陰極11に向かう方向を上方向とし、その逆方向を下方向として説明する。
【0171】
図6に示す発光素子ESは、陽極15、HTL14、EML13、ETL12、陰極11が、基板10上に、該基板10側から、この順に互いに隣接して積層されている。
【0172】
本実施形態では、第1電極が陽極であり、第2電極が陰極であり、陽極と陰極との間に、上記キャリア輸送層として正孔輸送層を備えている場合を例に挙げて説明する。なお、本実施形態でも、発光素子ESは、陰極11と陽極15との間に、EML13、および、上述したキャリア輸送層としてのHTL14以外の機能層を備えていてもよい。
【0173】
本実施形態に係る発光素子ESは、実施形態1に係る発光素子ESと同じく、EML13に電圧を印加することにより発光する電界発光素子である。本実施形態に係る発光素子ESも、実施形態1に係る発光素子ESと同じく、例えば、表示装置あるいは照明装置等の発光装置の光源として用いられてよい。また、本実施形態に係る発光素子ESは、実施形態1に係る発光素子ESと同じく、QLEDであってもよく、OLED、あるいは、無機EL素子であってもよい。
【0174】
本実施形態に係るHTL14は、キャリア輸送性を有する複数の無機ナノ粒子として、正孔輸送性を有する複数の無機ナノ粒子51を含むとともに、リガンドとして、上記無機ナノ粒子51に配位(吸着)するための少なくとも一種の配位性官能基(吸着基)を少なくとも2つ有するリガンド52を含んでいる。
【0175】
正孔輸送性を有する無機ナノ粒子に用いられる正孔輸送性材料としては、p型半導体等の無機化合物が挙げられる。上記p型半導体としては、例えば、金属酸化物、II-VI族化合物半導体、III-V族化合物半導体、IV-IV族化合物半導体、非晶質半導体、チオシアン酸化合物等が挙げられる。上記金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO、SnO)、酸化セリウム(CeO)等が挙げられる。上記II-VI族化合物半導体としては、例えば、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)等が挙げられる。上記III-V族化合物半導体としては、例えば、砒化アルミニウム(AlAs)、砒化ガリウム(GaAs)、砒化インジウム(InAs)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、燐化ガリウム(GaP)等が挙げられる。上記IV-IV族化合物半導体としては、例えば、シリコンゲルマニウム(SiGe)、シリコンカーバイド(SiC)等が挙げられる。上記非晶質半導体としては、例えば、p型水素化アモルファスシリコン、p型水素化アモルファス炭化シリコン等が挙げられる。上記チオシアン酸化合物としては、例えば、チオシアン酸銅等のチオシアン酸塩が挙げられる。これら正孔輸送性材料は、一種類のみを用いてもよく、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0176】
これら正孔輸送性材料は、耐久性に優れ、信頼性が高いとともに、塗布法で成膜が可能であり、成膜が容易である。そのなかでも、上記正孔輸送性材料としては、金属酸化物ナノ粒子(つまり、金属酸化物または該金属酸化物の混晶系の微粒子)であることが望ましく、亜鉛(Zn)原子を含む半導体材料であることが、特に望ましい。Znを含む半導体材料、特に、ZnO等のZnを含む金属酸化物は、バンドギャップが大きく、キャリア輸送性材料として好適であるとともに、耐久性に優れ、信頼性が高いとともに、塗布法で成膜が可能であり、成膜が容易である。ZnO等のZnを含む金属酸化物は、n型半導体になり易いことで知られているが、近年、p型半導体の製造技術の開発により、p型半導体としても製造できることが知られている。このように上記正孔輸送性材料としてZnを含む半導体材料を用いることで、強度が高く、機械強度が特に高い発光素子ESを提供することができる。
【0177】
無機ナノ粒子41と同じく、無機ナノ粒子51は、その粒径が小さくなると、凝縮し易くなり、分散性が低下する一方、バンドギャップが大きくなり、発光材料へのキャリア注入がし易くなる。特に、無機ナノ粒子51の粒径が5nm以下になると、さらにその傾向が顕著になる。したがって、無機ナノ粒子51の粒径(直径)は、無機ナノ粒子41の粒径(直径)と同じく、例えば1~15nmの範囲内であることが望ましく、1~5nmの範囲内であることがより望ましい。
【0178】
なお、本実施形態において、無機ナノ粒子51の粒径とは、無機ナノ粒子51の個数平均粒径を示す。無機ナノ粒子51の個数平均粒径は、無機ナノ粒子41の個数平均粒径と同様の方法で測定することができる。なお、無機ナノ粒子51の個数平均粒径とは、粒度分布における積算値50%における無機ナノ粒子51の直径を示す。
【0179】
なお、HTL14における無機ナノ粒子51の重なり層数は、例えば、1~10層である。HTL14の層厚は、従来公知の層厚を採用できるが、例えば1~150nmの範囲内である。
【0180】
正孔輸送性を向上させるためには、このように、HTL14の層厚は、1nm以上であることが好ましい。また、リガンド42同様、リガンド52を、HTL14を構成する無機ナノ粒子膜の上方から供給したときに、上記リガンド52を無機ナノ粒子膜の膜厚方向全体に十分に浸透させるためには、上記HTL14の層厚は、150nm以下であることが好ましい。
【0181】
リガンド52は、無機ナノ粒子51をレセプタとして無機ナノ粒子51の表面に配位(吸着)することで無機ナノ粒子51の表面を修飾する表面修飾剤である。リガンド52としては、リガンド42と同様のリガンドを用いることができる。なお、リガンド52は、実施形態1におけるリガンド42の説明において、「リガンド42」、「ETL12」、「無機ナノ粒子41」を、順に、「リガンド52」、「HTL14」、「無機ナノ粒子51」と読み替えることができる。このため、本実施形態では、リガンド52の詳細な説明を省略する。
【0182】
なお、本実施形態において、HTL14における無機ナノ粒子51とリガンド52との含有比(無機ナノ粒子51:リガンド52)は、特に限定されるものではないが、重量比で、2:0.25~2:6の範囲内であることが望ましい。これにより、無機ナノ粒子51同士が、リガンド52で結合され、極性溶媒および非極性溶媒に対する耐液性が高く、洗浄による吸光度の変化並びにバンドギャップの変化を十分に抑制することができるとともに、キャリア注入効率の低下が抑制されたHTL14を提供することができる。
【0183】
なお、本実施形態において、ETL12は必須ではない。また、本実施形態においてETL12に用いられる電子輸送性材料としては、例えば、電子輸送性を有する導電性の高分子材料(有機電子輸送性材料)が挙げられる。
【0184】
このように上記電子輸送性材料が有機電子輸送性材料である場合、該有機電子輸送性材料としては、例えば、1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBi)、3-(ビフェニル-4-イル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-4H-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、バソフェナントロリン(Bphen)、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)等が挙げられる。
【0185】
なお、ETL12が電子輸送性材料として無機ナノ粒子41を含む場合、ETL12は、リガンド42をさらに含むことが望ましい。
【0186】
また、発光素子ESは、陰極11と陽極15との間に、ETL12以外にも、HTL14およびEML13以外の機能層を備えていてもよい。本実施形態でも、発光素子ESは、例えば、陽極15とHTL14との間に、HILを備えていてもよい。
【0187】
HILに用いられる正孔輸送材料は、実施形態1で例示した通りである。なお、HTLが正孔輸送性材料として無機材料を含む場合、該無機材料としては、無機ナノ粒子51と同様の無機ナノ粒子を用いることができる。この場合、EILもリガンド52と同様のリガンドを含むことが望ましい。
【0188】
(発光素子ESの製造方法)
次に、本実施形態に係る発光素子ESの製造方法の一例を示す。本実施形態に係る発光素子ESの製造方法は、以下の点を除けば、実施形態1に係る発光素子ESの製造方法と同じである。
【0189】
本実施形態に係る発光素子ESの製造工程では、一例として、例えば、まず、基板10上に、陽極15を形成する(ステップS9、陽極形成工程)。次いで、HTL14となる無機ナノ粒子層(HTL前駆体層)として、正孔輸送性を有する無機ナノ粒子51からなるHTL材料層を形成する(ステップS8’、無機ナノ粒子層形成工程、HTL材料層形成工程)。次いで、HTL材料層上に、上記無機ナノ粒子51に配位するための少なくとも一種の配位性官能基を少なくとも2つ有するリガンド52を含むリガンド溶液を供給する(ステップS3’、リガンド溶液供給工程)。次いで、上記リガンド溶液供給後の積層体(本実施形態では基板10~HTL材料層)を、加熱し(ステップS4’、加熱工程)、洗浄した後(ステップS5’、洗浄工程)、乾燥する(ステップS6’、乾燥工程)。これにより、HTL材料層からなるHTL14を形成する。その後、EML13を形成する(ステップS7、EML形成工程)。次いで、ETL12を形成する(ステップS2’、ETL形成工程)。その後、陰極11を形成する(ステップS1、陰極形成工程)。
【0190】
なお、ステップS1の陰極11の形成後に、基板10上に形成された積層体(陽極15~陰極11)を、実施形態1に係る発光素子ESと同様に、封止部材で封止しても構わない。
【0191】
ステップS8’において、HTL材料層は、無機ナノ粒子51を含むHTL材料コロイド溶液(HTL材料分散液)を塗布することで形成することができる。HTL材料コロイド溶液の塗布には、スピンコート法を用いることができる。
【0192】
上記HTL材料コロイド溶液としては、例えば、無機ナノ粒子51と溶媒とを含むコロイド溶液が用いられる。
【0193】
ステップS8’は、ETL材料層に代えてHTL材料層を形成したことを除けば、実施形態1のステップS2と同じである。また、ステップS3’は、ETL材料層上に、リガンド42を含むリガンド溶液を供給する代わりに、HTL材料層上に、リガンド52を含むリガンド溶液を供給したことを除けば、実施形態1のステップS3と同じである。また、ステップS4’~ステップS15は、リガンド溶液供給後の積層体として、基板10~HTL材料層に対して、加熱、洗浄、乾燥を行ったことを除けば、実施形態1のステップS4~ステップS6と同じである。したがって、本実施形態では、ステップS8’~ステップS6’の説明を省略する。実施形態1のステップS2~ステップS6の説明において、「ステップS2」、「ステップS3」、「ステップS4」、「ステップS5」、「ステップS6」、「ETL材料層」、「無機ナノ粒子41」「ETL材料コロイド溶液(ETL材料分散液)」、「リガンド42」、「ETL12」、「図1」は、順に、「ステップS8’」、「ステップS3’」、「ステップS4’」、「ステップS5’」、「ステップS15」、「HTL材料層」、「無機ナノ粒子51」「HTL材料コロイド溶液(HTL材料分散液)」、「リガンド52」、「HTL14」、「図6」と読み替えることができる。
【0194】
したがって、本実施形態では、上記読み替えを行うことで判るように、上記HTL材料層上に上記リガンド溶液を供給することで、上記HTL材料層の上面側から下面側に向かって上記リガンド溶液が浸透する。このため、上記HTL材料層の上面側から下面側に向かってリガンド52の供給割合が小さくなる。この結果、図6に示すように、最終的に形成されるHTL14における上層側のリガンド52の含有割合が、上記HTL14における下層側のリガンド52の含有割合よりも大きくなる。
【0195】
ステップS2’におけるETL12の形成には、ETLの形成方法として知られている公知の各種方法を用いることができる。ETL12の形成には、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、PVD、スピンコート法、インクジェット法等が用いられる。
【0196】
本実施形態によれば、キャリア輸送性を有する複数の無機ナノ粒子51と、該無機ナノ粒子51に配位するための少なくとも一種の配位性官能基を少なくとも2つ有するリガンド52と、を含み、極性溶媒に対しても非極性溶媒に対しても不溶で、高い耐液性を有するHTL14を形成することができる。したがって、本実施形態によれば、極性溶媒および非極性溶媒に対するHTL14の耐液性が高く、信頼性が高い発光素子ESを提供することができる。
【0197】
なお、上述したようにキャリア輸送層にZnO等の無機ナノ粒子51を使用する場合、無機ナノ粒子51の粒径を小さくするためには、無機ナノ粒子51の凝集を抑制するために無機ナノ粒子51にリガンドを配位させる必要がある。
【0198】
本実施形態によれば、HTL14の層厚並びに無機ナノ粒子51の粒径が同じ場合、リガンド52におけるリガンド鎖の長さが長ければ長いほど、HTL14における無機ナノ粒子51の密度が低下し、その分、HTL14におけるキャリア輸送性が低下する。また、HTL14の層厚並びに無機ナノ粒子51の粒径が同じ場合、リガンド52におけるリガンド鎖の長さが長ければ長いほど、絶縁体が増加することで、キャリアが絶縁体によって通り難くなり、キャリア注入が阻害される。したがって、HTL14の層厚並びに無機ナノ粒子51の粒径が同じ場合、リガンド52のスペーサ基の直鎖を構成する原子の数は、小さい方が望ましい。
【0199】
〔実施形態3〕
本開示の実施の一形態について、図7図9に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、説明の便宜上、上記実施形態1、2にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0200】
前述したように、発光素子ESは、例えば、表示装置あるいは照明装置等の発光装置の光源として用いられてよい。
【0201】
図7は、本実施形態に係る表示装置2の要部の概略構成の一例を示す断面図である。
【0202】
表示装置2は、複数の画素を有している。各画素には、それぞれ発光素子ESが設けられている。各画素の間には、画素分離膜として、隣り合う画素を仕切る絶縁性のバンク23が設けられている。表示装置2は、基板10として、駆動素子層が形成されたアレイ基板を備え、該基板10上に、発光波長が異なる複数の発光素子ESおよび上記バンク23を含む発光素子層4、封止層5、機能フィルム39が、この順に積層された構成を有している。
【0203】
発光素子層4は、画素毎に設けられた、上記複数の発光素子ESを備え、基板10上に、これら発光素子ESの各層が積層された構造を有している。
【0204】
基板10は、発光素子ESの各層を形成するための支持体として機能する。基板10は、アレイ基板であり、基板10には、駆動素子層として、例えばTFT(薄膜トランジスタ)層が形成されている。TFT層には、副画素回路として、発光素子ESを駆動する、TFT等の駆動素子を含む駆動回路が設けられている。
【0205】
発光素子層4は、一例として、複数の陰極11と、陽極15と、陰極11と陽極15との間にそれぞれ設けられた機能層24と、基板10上に設けられた各下層電極(図7に示す例では陰極11)のエッジを覆う絶縁性のバンク23と、を備えている。各発光素子ESの下層電極は、基板10のTFTと電気的に接続されている。一方、上層電極は、共通電極として、全画素に共通して設けられている。
【0206】
図7では、下層電極が陰極11(パターン陰極)であり、上層電極が陽極15(共通陰極)であり、発光素子層4が、基板10上に、陰極11、バンク23、機能層24、陽極15の順に積層されている場合を例に挙げて図示している。しかしながら、本実施形態は、これに限定されるものではなく、下層電極が陽極15(パターン陽極)であり、上層電極が陰極11(共通陰極)であり、発光素子層4が、基板10上に、陽極15、バンク23、機能層24、陰極11の順に積層されていてもよい。
【0207】
バンク23は、パターン化された下層電極のエッジを覆うエッジカバーとして用いられるとともに、上述したように画素分離膜としても機能する。一例として、下層電極および機能層24は、バンク23によって、画素毎に分離(パターン形成)されている。これにより、発光素子層4には、画素に対応して、それぞれ発光素子ESが設けられている。
【0208】
発光素子層4は、封止層5で覆われている。封止層5は透光性を有し、例えば、下層側(つまり、発光素子層4側)から順に、第1無機封止膜26、有機封止膜27、および第2無機封止膜28を備えている。但し、これに限定されず、封止層5は、無機封止膜の単層、または、有機封止膜および無機封止膜の5層以上の積層体で形成されてもよい。また、封止層5は、例えば、封止ガラスであってもよい。発光素子ESが封止層5で封止されていることで、発光素子ESへの水、酸素等の浸透を防ぐことができる。
【0209】
第1無機封止膜26および第2無機封止膜28は、それぞれ、例えば、CVD(化学蒸着)法により形成される、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸窒化シリコン膜、またはこれらの積層膜で形成することができる。有機封止膜27は、第1無機封止膜26および第2無機封止膜28よりも厚い透光性有機膜であり、例えば、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂等の塗布可能な感光性樹脂で形成することができる。
【0210】
なお、表示装置2は、図7に示すように、封止層5上に、例えば、光学補償機能、タッチセンサ機能、保護機能の少なくとも1つを有する機能フィルム39を備えていてもよい。
【0211】
図7に示す表示装置2は、画素として、赤色光(第1波長帯域の光)を発する赤色画素PRと、緑色光(第3波長帯域の光)を発する緑色画素PGと、青色光(第2波長帯域の光)を発する青色画素PBとを含む。
【0212】
赤色画素PRには、発光素子ESとして、赤色光を発する赤色発光素子ESR(第1発光素子)が設けられている。緑色画素PGには、発光素子ESとして、緑色発光素子ESG(第3発光素子)が設けられている。青色画素PBには、発光素子ESとして、青色発光素子ESB(第2発光素子)が設けられている。なお、本実施形態では、赤色発光素子ESR、緑色発光素子ESG、および青色発光素子ESBを特に区別する必要がない場合、これら赤色発光素子ESR、緑色発光素子ESG、青色発光素子ESBを総称して、単に、「発光素子ES」と称する。
【0213】
赤色発光素子ESR、緑色発光素子ESG、および青色発光素子ESBは、一例として、実施形態1~3に係る発光素子ESと同様の構成を有している。以下では、赤色発光素子ESR、緑色発光素子ESG、および青色発光素子ESBが、実施形態1に係る発光素子ESと同様の構成を有している場合を例に挙げて説明する。
【0214】
図8は、本実施形態に係る表示装置2の発光素子層4における、赤色発光素子ESR、緑色発光素子ESG、青色発光素子ESBの概略構成の一例を示す断面図である。
【0215】
図8に示すように、赤色発光素子ESRは、陰極11として赤色画素陰極11Rを備えるとともに、機能層24として、赤色画素ETL12R、赤色画素EML13R、赤色画素HTL14Rを備えている。赤色発光素子ESRは、一例として、赤色画素陰極11R、赤色画素ETL12R、赤色画素EML13R、赤色画素HTL14R、および陽極15が、基板10上に、この順に積層された構成を有している。また、緑色発光素子ESGは、陰極11として緑色画素陰極11Gを備えるとともに、機能層24として、緑色画素ETL12G、緑色画素EML13G、緑色画素HTL14Gを備えている。緑色発光素子ESGは、一例として、緑色画素陰極11G、緑色画素ETL12G、緑色画素EML13G、緑色画素HTL14G、および陽極15が、基板10上に、この順に積層された構成を有している。青色発光素子ESBは、陰極11として青色画素陰極11Bを備えるとともに、機能層24として、青色画素ETL12B、青色画素EML13B、青色画素HTL14Bを備えている。青色発光素子ESBは、一例として、青色画素陰極11B、青色画素ETL12B、青色画素EML13B、青色画素HTL14B、および陽極15が、基板10上に、この順に積層された構成を有している。
【0216】
図7に示すように、赤色画素陰極11R、緑色画素陰極11G、および青色画素陰極11Bは、バンク23によって分離された、島状のパターン陰極である。赤色画素ETL12R、緑色画素ETL12G、および青色画素ETL12Bは、画素毎に塗り分けられており、バンク23によって、島状に分離されている。同様に、赤色画素EML13R、緑色画素EML13G、および青色画素EML13Bも、画素毎に塗り分けられており、バンク23によって、島状に分離されている。なお、図7では、赤色画素HTL14R、緑色画素HTL14G、および青色画素HTL14Bは、画素毎に塗り分けられており、バンク23によって、島状に分離されているが、全画素に共通な共通層として形成されていてもよい。上述したように、陽極15は、全画素に共通な共通陽極である。
【0217】
なお、本実施形態では、赤色画素陰極11R、緑色画素陰極11G、および青色画素陰極11Bを特に区別する必要がない場合、これら赤色画素陰極11R、緑色画素陰極11G、および青色画素陰極11Bを総称して、単に、「陰極11」と称する。同様に、赤色画素ETL12R、緑色画素ETL12G、および青色画素ETL12Bを特に区別する必要がない場合、これら赤色画素ETL12R、緑色画素ETL12G、および青色画素ETL12Bを総称して、単に、「ETL12」と称する。また、赤色画素EML13R、緑色画素EML13G、および青色画素EML13Bを特に区別する必要がない場合、これら赤色画素EML13R、緑色画素EML13G、および青色画素EML13Bを総称して、単に、「EML13」と称する。また、赤色画素HTL14R、緑色画素HTL14G、および青色画素HTL14Bを特に区別する必要がない場合、これら赤色画素HTL14R、緑色画素HTL14G、および青色画素HTL14Bを総称して、単に、「HTL14」と称する。
【0218】
上述したように、本実施形態に係る赤色発光素子ESR、緑色発光素子ESG、および青色発光素子ESBは、実施形態1に係る発光素子ESと同様の構成を有している。このため、赤色画素ETL12Rは、無機ナノ粒子41として無機ナノ粒子41Rを含むとともに、リガンド42として、無機ナノ粒子41Rに配位(吸着)するための少なくとも一種の配位性官能基(吸着基)を少なくとも2つ有するリガンド42Rを含んでいる。また、緑色画素ETL12Gは、無機ナノ粒子41として無機ナノ粒子41Gを含むとともに、リガンド42として、無機ナノ粒子41Gに配位(吸着)するための少なくとも一種の配位性官能基(吸着基)を少なくとも2つ有するリガンド42Gを含んでいる。青色画素ETL12Bは、無機ナノ粒子41として無機ナノ粒子41Bを含むとともに、リガンド42として、無機ナノ粒子41Bに配位(吸着)するための少なくとも一種の配位性官能基(吸着基)を少なくとも2つ有するリガンド42Bを含んでいる。
【0219】
無機ナノ粒子41R、無機ナノ粒子41G、および無機ナノ粒子41Bとしては、実施形態1で無機ナノ粒子41として例示した無機ナノ粒子を用いることができる。無機ナノ粒子41R、無機ナノ粒子41G、および無機ナノ粒子41Bは、同一の材料で形成されていてもよく、互いに異なる材料で形成されていてもよい。
【0220】
したがって、赤色画素ETL12Rにおける無機ナノ粒子41Rとリガンド42Rとの含有比(無機ナノ粒子41R:リガンド42R)、緑色画素ETL12Gにおける無機ナノ粒子41Gとリガンド42Gとの含有比(無機ナノ粒子41G:リガンド42G)、青色画素ETL12Bにおける無機ナノ粒子41Bとリガンド42Bとの含有比(無機ナノ粒子41B:リガンド42B)は、何れも、重量比で、2:0.25~2:6の範囲内であることが望ましく、2:1~2:4の範囲内であることがより望ましい。
【0221】
但し、図8に示すように、赤色画素ETL12Rにおける無機ナノ粒子41Rの密度と、緑色画素ETL12Gにおける無機ナノ粒子41Gの密度と、青色画素ETL12Bにおける無機ナノ粒子41Bの密度とは、無機ナノ粒子41Bの密度>無機ナノ粒子41Gの密度>無機ナノ粒子41Rの密度となるように設定されていることが望ましい。この理由について、以下に説明する。なお、本実施形態では、無機ナノ粒子41R、無機ナノ粒子41G、および無機ナノ粒子41Bを特に区別する必要がない場合、これら無機ナノ粒子41R、無機ナノ粒子41G、および無機ナノ粒子41Bを総称して、単に、「無機ナノ粒子41」と称する。また、リガンド42R、リガンド42G、およびリガンド42Bを特に区別する必要がない場合、これらリガンド42R、リガンド42G、およびリガンド42Bを総称して、単に、「リガンド42」と称する。
【0222】
ETL12からEML13への電子注入効率を改善するためには、ETL12の電子親和力を小さくし、無機ナノ粒子41のバンドギャップを拡大することが望ましい。
【0223】
バンドギャップを拡大する方法としては、無機ナノ粒子の粒径を小さくする方法が知られている。前述したように、無機ナノ粒子の粒径を小さくするほどバンドギャップが大きくなり、発光材料へのキャリア注入がし易くなる(例えば、非特許文献1参照)。
【0224】
しかしながら、実施形態1で説明したように、ETL12の層厚並びに無機ナノ粒子41の粒径が同じ場合、リガンド42の直鎖が長くなると、無機ナノ粒子41の密度が低下するとともに、絶縁体が増加することで、キャリアの注入性(輸送性)が低下する。なお、この傾向は、無機ナノ粒子41の粒径が5nm以下になると、より顕著になる。
【0225】
図9は、リガンドを含まないZnO膜をETLに用いた、赤色画素PR、緑色画素PG、青色画素PBにおける、各色の発光素子の各層のエネルギーバンドを示す図である。
【0226】
図9では、各色の発光素子における各EMLの各層のエネルギーバンド、赤色画素PRにおける各層のエネルギーバンド、緑色画素PGにおける各層のエネルギーバンド、青色画素PBにおける各層のエネルギーバンド、を、図9中、左側から順に並べて示している。
【0227】
なお、図9に示す例では、一例として、各色の発光素子におけるHTLにTFBを使用し、各色の発光素子におけるETLにZnOを使用している。また、各色の発光素子における陽極にITOを使用し、各色の発光素子における陰極にAl(アルミニウム)を使用している。また、赤色画素PRにおける赤色発光素子のEMLには、下記表2に示す材料からなるコアおよびシェルを有する赤色QD(以下「QDR」と記す)を使用している。緑色画素PGにおける緑色発光素子のEMLには、下記表2に示す材料からなるコアおよびシェルを有する緑色QD(以下「QDG」と記す)を使用している。青色画素PBにおける青色発光素子のEMLには、下記表2に示す材料からなるコアおよびシェルを有する青色QD(以下、「QDB」と記す)を使用している。なお、本実施形態において、イオン化ポテンシャルまたは電子親和力を説明する場合、何れも、真空準位を基準としたものとして説明を行う。
【0228】
【表2】
図9に示すように、陽極(ITO)のフェルミ準位は4.8eVであり、陰極(Al)のフェルミ準位は4.3eVである。また、HTL(TFB)のイオン化ポテンシャルは2.4eVであり、HTL(TFB)の電子親和力は5.3eVである。また、ETL(ZnO)のイオン化ポテンシャルは3.9eVであり、ETL(ZnO)の電子親和力は7.2eVである。また、CdZnSeからなるコアを有するQDRのイオン化ポテンシャルは3.4eVであり、上記QDRの電子親和力は5.4eVである。また、CdZnSeからなるコアを有するQDGのイオン化ポテンシャルは3.1eVであり、上記QDGの電子親和力は5.4eVである。また、CdZnSeからなるコアを有するQDBのイオン化ポテンシャルは2.7eVであり、上記QDBの電子親和力は5.4eVである。
【0229】
図9に示すように、QDの伝導帯準位(電子親和力に等しい)は、QDの発する光の波長に依存して変化する。特に、QDの伝導帯準位は、QDの発する光の波長が長いほど、エネルギー準位が深くなり、QDの発する光の波長が短いほど、エネルギー準位が浅くなる。これは、バンドギャップが小さいQDの方が、より伝導帯準位が深くなるためである。
【0230】
QDR、QDG、QDBの発光ピーク波長の長さは、QDB<QDG<QDRである。したがって、図9に示すように、QDR、QDG、およびQDBの電子親和力の大きさは、QDB<QDG<QDRとなり、QDR、QDG、およびQDBの電子親和力とZnOの電子親和力との差は、QDR<QDG<QDBとなる。このため、青色画素PBにおける青色発光素子のEMLからEML(QDB)への電子障壁が、赤色画素PRにおける赤色発光素子のEMLからEML(QDR)への電子障壁および緑色画素PGにおける緑色発光素子のEMLからEML(QDG)への電子障壁と比較して大きくなる。
【0231】
一方、QDの価電子帯準位(イオン化ポテンシャルに等しい)は、一般的に、同じ材料系の場合、QDの発する光の波長によらず実質的に同値である。これは、QDのコアを構成する元素の原子番号が小さい方が、閉殻軌道が少なく、閉殻軌道によって原子核が遮蔽されにくいため、価電子が、原子核の作る電場の影響を受け易く、一定のエネルギー準位にとどまる傾向にあるためである。したがって、価電子準位に関しても、QDの発光色に関わらず一定となり、粒径により大きく変化しない。同様に、ZnOのイオン化ポテンシャルも、粒径により大きく変化しない。
【0232】
したがって、赤色発光素子および緑色発光素子におけるETLよりも青色発光素子におけるETLのバンドギャップを大きくする必要がある。
【0233】
また、キャリアバランスをとるためには、青色発光素子における電子注入量を、赤色発光素子および緑色発光素子における電子注入量よりも増加させて、各発光素子の電子注入量のバランスをとる必要がある。特に、EMLの電子親和力とETLの電子親和力との差が最も大きい青色発光素子と、EMLの電子親和力とETLの電子親和力との差が最も小さい赤色発光素子とにおける電子注入量のバランスをとることが重要である。
【0234】
このため、図8に示すように、発光ピーク波長が最も短い青色発光素子ESBでは、無機ナノ粒子41Gの密度が、他の発光素子と比較して相対的に密であることが望ましく、発光ピーク波長が最も長い赤色発光素子ESRでは、無機ナノ粒子41Rの密度が、他の発光素子と比較して相対的に疎であることが望ましい。
【0235】
また、このように各発光素子ESにおけるETL12の無機ナノ粒子41の疎密を変える方法としては、リガンド42を介して結合される無機ナノ粒子41間の距離を変更することが望ましい。このためには、各発光素子ESにおけるETL12のリガンド42の2つの配位性官能基間の構成原子数を調整することが望ましい。
【0236】
具体的には、青色発光素子ESBでは、リガンド42Bの長さを、赤色発光素子ESRにおけるリガンド42Rの長さおよび緑色発光素子ESGにおけるリガンド42Gの長さよりも短くして電子注入効率を上げることが望ましい。逆に、赤色発光素子ESRでは、リガンド42Rの長さを、青色発光素子ESBにおけるリガンド42Bの長さおよび緑色発光素子ESGにおけるリガンド42Gの長さよりも長くして電子注入効率を下げることが望ましい。したがって、緑色発光素子ESGにおけるリガンド42Gの長さは、青色発光素子ESBにおけるリガンド42Bの長さよりも長く、赤色発光素子ESRにおけるリガンド42Rの長さよりも短いことが望ましい。
【0237】
なお、ここで、各リガンド42の長さは、上述したように、2つの配位性官能基間の構成原子数を示す。したがって、リガンド42Rの長さ、リガンド42Gの長さ、リガンド42Bの長さとは、順に、リガンド42Rの直鎖の長さ、リガンド42Gの直鎖の長さ、リガンド42Bの直鎖の長さを示す。
【0238】
このように発光素子ESによってリガンド42の長さを変えることで、リガンド42がそれぞれ配位する2つの無機ナノ粒子41間の距離を変更することが可能である。これにより、発光素子ESによってETL12における無機ナノ粒子41の密度を変えて、キャリア注入量(例えば電子注入量)をコントロールすることができる。
【0239】
リガンド42R、リガンド42G、およびド42Bとしては、実施形態1でリガンド42として例示したリガンドを用いることができる。したがって、リガンド42R、リガンド42G、およびド42Bとしては、例えば、実施形態1でリガンド42として例示したリガンドのなかから、上述したように、それらの長さが、リガンド42B<リガンド42G<リガンド42Rとなるように適宜選択すればよい。
【0240】
このため、リガンド42Bとしては、例えば、前記一般式(1)で示されるリガンドを用いることができるが、そのなかでも、下記一般式(2)で示されるリガンドからなる群より選ばれる、少なくとも一種のリガンドを用いることが望ましい。
【0241】
-A-R・・・(2)
なお、上記一般式(2)中、RおよびRは、互いに独立して配位性官能基を表す。言い替えれば、RおよびRは、互いに同じ配位性官能基であってもよく、互いに異なる配位性官能基であってもよい。RおよびRとしては、RおよびRと同じく、実施形態1で例示した配位性官能基が挙げられる。
【0242】
は、置換または無置換の-(CH)m5-基、または、置換または無置換の-((CHm6-Xm7-(CHm8-基を表す。また、Xは極性結合基を表す。Xとしては、Xと同じく、実施形態1で例示した極性結合基が挙げられ、-((CHm6-Xm7-における各Xは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0243】
但し、上記一般式(2)において、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数は、1~5の整数である。なお、ここで、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数とは、Aにおける、上記Rと上記Rとを繋ぐ、直鎖を構成する原子の数を表し、上記Rおよび上記Rで示される上記配位性官能基の原子の数およびAにおける水素原子の数を含まない。
【0244】
したがって、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数とは、置換または無置換の-(CH)m5-基、または、置換または無置換の-((CHm6-Xm7-(CHm8-基における、上記Rと上記Rとを繋ぐ直鎖を構成する原子の数を示す。このため、例えば、上記Aが置換または無置換の-(CH)m5-基である場合、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数はm5となり、m5=1~5の整数となる。また、上記Aが置換または無置換の-((CHm6-Xm7-(CHm8-基である場合、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数は、Xにおける直鎖を構成する原子の数をX2とすると、(m6+X2)×m7+m8となる。したがって、この場合、1≦(m6+X2)×m7+m8≦5となる。なお、水素原子が配位性官能基(つまり、RまたはR)に置換されている場合、各RとRとの間の直鎖を構成する原子の数が、それぞれ、1~5の整数であればよい。つまり、一般式(1)と一般式(2)とは、2つの配位性官能基間の構成原子数の範囲が異なる。
【0245】
なお、上記一般式(2)で示されるリガンドにおける直鎖を構成する原子の数は、1~3であることがより望ましい。また、上記一般式(2)で示されるリガンドのなかでも、上記Aが-(CH)m5-基であり、上記m5が1~3の整数であるリガンドが、より一層望ましい。
【0246】
同様に、リガンド42Rとしては、例えば、前記一般式(1)で示されるリガンドを用いることができるが、そのなかでも、下記一般式(3)で示されるリガンドからなる群より選ばれる、少なくとも一種のリガンドを用いることが望ましい。
【0247】
-A-R・・・(3)
なお、上記一般式(3)中、RおよびRは、互いに独立して配位性官能基を表す。言い替えれば、RおよびRは、互いに同じ配位性官能基であってもよく、互いに異なる配位性官能基であってもよい。RおよびRもまた、RおよびRと同じく、実施形態1で例示した配位性官能基が挙げられる。
【0248】
但し、Aは、置換または無置換の-((CHm9-Xm10-(CHm11-基を表す。また、Xは、極性結合基を表す。Xとしては、Xと同じく、実施形態1で例示した極性結合基が挙げられ、-((CHm9-Xm10-における各Xは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0249】
上記一般式(3)において、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数は、3~25の整数である。なお、ここで、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数とは、Aにおける、上記Rと上記Rとを繋ぐ、直鎖を構成する原子の数を表し、上記Rおよび上記Rで示される上記配位性官能基の原子の数およびAにおける水素原子の数を含まない。
【0250】
したがって、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数とは、置換または無置換の-((CHm9-Xm10-(CHm11-基における、上記Rと上記Rとを繋ぐ直鎖を構成する原子の数を示す。このため、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数は、Xにおける直鎖を構成する原子の数をX3とすると、(m9+X3)×m10+m11であり、一般式(3)では、3≦(m9+X3)×m10+m11≦25となる。なお、水素原子が配位性官能基(つまり、RまたはR)に置換されている場合、各RとRとの間の直鎖を構成する原子の数が、それぞれ、3~25の整数であればよい。但し、上述したように、リガンド42Rとリガンド42Bとは、それらの長さが、リガンド42B<リガンド42Rとなるように選択される。したがって、m5~m11は、m5=(m6+X2)×m7+m8<(m9+X3)×m10+m11である。
【0251】
なお、上記一般式(3)において、上記m9および上記m11が1または2であり、上記m10が2~8の整数であることがより望ましく、上記m10が4~6の整数であることがより一層望ましい。
【0252】
また、リガンド42Gとしては、例えば、前記一般式(1)で示されるリガンドを用いることができるが、そのなかでも、下記一般式(4)で示されるリガンドからなる群より選ばれる、少なくとも一種のリガンドを用いることが望ましい。
【0253】
-A-R・・・(4)
なお、上記一般式(4)中、RおよびRは、互いに独立して配位性官能基を表す。言い替えれば、RおよびRは、互いに同じ配位性官能基であってもよく、互いに異なる配位性官能基であってもよい。RおよびRとしては、RおよびRと同じく、実施形態1で例示した配位性官能基が挙げられる。
【0254】
は、置換または無置換の-(CH)m12-基、または、置換または無置換の-((CHm13-Xm14-(CHm15-基を表す。また、Xは極性結合基を表す。Xとしては、Xと同じく、実施形態1で例示した極性結合基が挙げられ、-((CHm13-Xm14-における各Xは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0255】
但し、上記一般式(4)において、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数は、2~15の整数である。なお、ここで、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数とは、Aにおける、上記Rと上記Rとを繋ぐ、直鎖を構成する原子の数を表し、上記Rおよび上記Rで示される上記配位性官能基の原子の数およびAにおける水素原子の数を含まない。
【0256】
したがって、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数とは、置換または無置換の-(CH)m12-基、または、置換または無置換の-((CHm13-Xm14-(CHm15-基における、上記Rと上記Rとを繋ぐ直鎖を構成する原子の数を示す。このため、例えば、上記Aが置換または無置換の-(CH)m12-基である場合、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数はm12となり、m12=2~15の整数となる。また、上記Aが置換または無置換の-((CHm13-Xm14-(CHm15-基である場合、上記Rと上記Rとの間の直鎖を構成する原子の数は、Xにおける直鎖を構成する原子の数をX4とすると、(m13+X4)×m14+m15となる。したがって、この場合、2≦(m13+X4)×m14+m15≦15となる。なお、水素原子が配位性官能基(つまり、RまたはR)に置換されている場合、各RとRとの間の直鎖を構成する原子の数が、それぞれ、2~15の整数であればよい。但し、前述したように、リガンド42R、リガンド42G、およびリガンド42Bは、それらの長さが、リガンド42B<リガンド42G<リガンド42Rとなるように選択される。したがって、m12~m15は、m5=(m6+X2)×m7+m8<m12=(m13+X4)×m14+m15<(m9+X3)×m10+m11である。
【0257】
なお、上記一般式(2)~(4)において、R~Rは、互いに同じ配位性官能基であってもよく、互いに異なる配位性官能基であってもよい。また、X~Xは、互いに同じ極性結合基であってもよく、互いに異なる極性結合基であってもよい。
【0258】
このように、2つの無機ナノ粒子41にそれぞれ配位している、各リガンド42における配位性官能基間の直鎖を構成する原子の数を、各ETL12の発光色に応じてそれぞれ変更することにより、各ETL12における各リガンド42の長さを、発光色毎に変更することができる。
【0259】
なお、本実施形態では、表示装置2が、第1波長帯域の光を発光する第1発光素子と、第1発光素子よりも発光ピーク波長が短い第2波長帯域の光を発光する第2発光素子と、第1発光素子よりも発光ピーク波長が短く、かつ、第2発光素子よりも発光ピーク波長が長い第3波長帯域の光を発光する第3発光素子として、順に、赤色発光素子ESR、青色発光素子ESB、緑色発光素子ESGが設けられている場合を例に挙げて説明した。
【0260】
しかしながら、本実施形態は、これに限定されるものではなく、表示装置2は、第1波長帯域の光、第2波長帯域の光、第3波長帯域の光として、赤、緑、青以外の波長帯域の光を発する発光素子ESを備えていても構わない。
【0261】
また、本実施形態では、本実施形態に係る発光装置が、複数の発光素子ESを備える表示装置2である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本実施形態は、これに限定されるものではない。本実施形態に係る発光装置は、発光素子ESを少なくとも1つ備えていればよい。
【0262】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0263】
2 表示装置(発光装置)
11 陰極
15 陽極
11R 赤色画素陰極(陰極)
11G 緑色画素陰極(陰極)
11B 青色画素陰極(陰極)
12 ETL(キャリア輸送層、電子輸送層)
12R 赤色画素ETL(キャリア輸送層、電子輸送層)
12G 緑色画素ETL(キャリア輸送層、電子輸送層)
12B 青色画素ETL(キャリア輸送層、電子輸送層)
13 EML(発光層)
14 HTL(キャリア輸送層)
41、41R、41G、41B、51 無機ナノ粒子
42、42R、42G、42B、52 リガンド
ES 発光素子
ESR 赤色発光素子(第1発光素子)
ESB 青色発光素子(第2発光素子)
ESG 緑色発光素子(第3発光素子)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9