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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】成型方法及び金型
(51)【国際特許分類】
   B29C 69/02 20060101AFI20241120BHJP
   B29C 33/02 20060101ALI20241120BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20241120BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20241120BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20241120BHJP
【FI】
B29C69/02
B29C33/02
B29C45/26
B29C45/14
B29C39/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023534577
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2021026894
(87)【国際公開番号】W WO2023286285
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390035909
【氏名又は名称】興国インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】西室 真紀也
(72)【発明者】
【氏名】平山 宏司
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-091726(JP,A)
【文献】特開2013-181551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 69/02
B29C 33/02
B29C 45/26
B29C 45/14
B29C 39/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の平面と、前記第1の平面に連続する傾斜部と、前記傾斜部に連続する前記第1の平面よりも高い第2の平面と、を有する基材の前記第1の平面にシール材を成型する成型方法であって、
前記シール材の原料が注入される溝を有する第1の金型に、前記原料が加硫しない温度で前記溝に前記原料を注入する第1の工程と、
前記溝に前記原料が注入された前記第1の金型と第2の金型との間に前記基材を挟み、前記原料が加硫する温度で前記原料を前記シール材として前記基材に成型する第2の工程と、
を備え、
前記第1の金型は、前記第2の工程において前記基材の前記第1の平面及び前記第2の平面を押さえたときに前記基材の前記傾斜部との間に空隙を生じる形状と、前記溝と前記形状とを連結する連結溝と、を有し、
前記第1の金型の前記溝は、前記形状の近傍に設けられる、成型方法。
【請求項2】
前記第2の平面は、前記基材の端部に設けられている、請求項1に記載の成型方法。
【請求項3】
前記基材は、金属、樹脂又は紙である、請求項1又は請求項2に記載の成型方法。
【請求項4】
前記原料は、ゴムである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の成型方法。
【請求項5】
第1の平面と、前記第1の平面に連続する傾斜部と、前記傾斜部に連続する前記第1の平面よりも高い第2の平面と、を有する基材の前記第1の平面にシール材を成型するための金型であって、
前記第1の平面、前記傾斜部及び前記第2の平面は、前記基材の中央から端部へ向かう方向に、前記第1の平面、前記傾斜部、前記第2の平面の順に形成されており、
前記傾斜部及び前記第2の平面は、前記端部に設けられており、
加硫しない温度で前記シール材の原料が注入される溝と、
前記溝に注入された前記原料を前記第1の平面に前記シール材として成型するために前記基材を押さえたときに、前記基材の前記傾斜部との間に空隙を生じる形状と、
前記溝と前記形状とを連結する連結溝と、
を備え、
前記溝は、前記形状の近傍に設けられる、金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材を基材に成型する成型方法及び金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属、樹脂又は紙等の基材にゴム等のシール材を成型する成型方法が提案されている。図6は従来のトランスファー成型を行う成型機1000の断面図であり、(a)は成型機1000のポット1022にゴム生地1050が装入されている状態を示す図、(b)は成型機1000において型締め及びゴム生地1050の射出が行われた状態を示す図である。成型機1000は、熱板1010、1012、金型1020、1032を有している。金型1020は、ゴム生地1050が装入されるポット1022、基材1040にシール材を成型するための溝1026、ゴム生地1050を溝1026に射出するためのゲート1024を有している。金型1032は、基材1040を配置するための凹部1033を有している。成型機1000は、ゴム生地1050の装入及び基材1040の配置後、型締めによりゴム生地1050に例えば1MPa~200MPaの圧力(以下、射出圧という)を加え、溝1026にゴム生地1050を射出(注入)する。成型機1000は、熱板1010により発生した例えば80℃~220℃の熱によってゴム生地1050を架橋することにより、セパレータ等の基材1040にシール材を成型する。
【0003】
また例えば、特許文献1には、燃料電池用セルのセパレータやハードディスクドライブにおけるトップカバー等に用いられるガスケット一体型プレートの製造方法が開示されている。なお、基材には、平板だけでなく、端部に傾斜部(以下、フランジ形状ともいう)を有するものがあり、基材のフランジ形状の近傍にシール材を成型する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-225721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の成型方法では、端部にフランジ形状を有する基材のフランジ形状の近傍にシール材を成形する際には、フランジ形状とシール材との間にある程度の距離が必要となる。このため、基材におけるシール材より内側の領域の面積を大きくするためには、基材全体の面積を大きくしなければならない。基材全体の面積を大きくすることは、基材を部品として用いる製品の大型化を招くおそれがある。このため、端部にフランジ形状を有する基材の全体の面積を大きくすることなく、シール材よりも内側の領域の面積を大きくするようにシール材を成型することが求められている。すなわち、シール材を可能な限りフランジ形状の近傍に成型することが求められている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、傾斜部を有する基材にシール材を成型する際に、基材の傾斜部とシール材との距離をより縮めることができる成型方法及び金型を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
(1)第1の平面と、前記第1の平面に連続する傾斜部と、前記傾斜部に連続する前記第1の平面よりも高い第2の平面と、を有する基材の前記第1の平面にシール材を成型する成型方法であって、
前記シール材の原料が注入される溝を有する第1の金型に、前記原料が加硫(架橋)しない温度で前記溝に前記原料を注入する第1の工程と、
前記溝に前記原料が注入された前記第1の金型と第2の金型との間に前記基材を挟み、前記原料が加硫(架橋)する温度で前記原料を前記シール材として前記基材に成型する第2の工程と、
を備え、
前記第1の金型は、前記第2の工程において前記基材の前記第1の平面及び前記第2の平面を押さえたときに前記基材の前記傾斜部との間に空隙を生じる形状と、前記溝と前記形状とを連結する連結溝と、を有し、
前記第1の金型の前記溝は、前記形状の近傍に設けられる、成型方法。
【0008】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、傾斜部を有する基材にシール材を成型する際に、基材の傾斜部とシール材との距離をより縮めることができる成型方法及び金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の予備成形工程を示す断面図であり、(a)成形機のポットにゴム生地が装入されている状態を示す図、(b)成形機において型締め及びゴム生地の注入が行われた状態を示す図
図2】実施形態の加硫成型工程における成型機の要部を示す断面図であり、(a)成型機に1対のキャビプレート及び基材が配置された状態を示す図、(b)成型機に複数対のキャビプレート及び基材が配置された状態を示す図、(c)成型後の基材を示す断面図、(d)プレートで基材の内側の領域を密閉した状態を示す図
図3】実施形態のキャビプレートの構成を示す図であり、(a)キャビプレートの溝が設けられている面を示す図、(b)(a)のA-A断面図、(c)(a)のB-B矢視断面における斜視図
図4】実施形態の(a)予備成形工程及び加硫成型工程を経てシール材を成型したフランジ形状を有する基材のシール材がある側の面を示す図、(b)(a)のC-C断面に対応するキャビプレートの断面図、(c)(a)のC-C断面に対応する加硫成型工程時のキャビプレート、基材、下型の断面図、(d)(a)のC-C断面図
図5】実施形態の(a)予備成形工程及び加硫成型工程を経てシール材を成型したフランジ形状を有する基材のシール材がある側の面を示す図、(b)(a)のD-D断面に対応するキャビプレートの断面図、(c)(a)のD-D断面に対応する加硫成型工程時のキャビプレート、基材、下型の断面図、(d)空隙Sp近傍の要部を示す図、(e)(a)のD-D断面図
図6】従来例の成型機の断面図であり、(a)成型機のポットにゴム生地が装入されている状態を示す図、(b)成型機において型締め及びゴム生地の射出が行われた状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照しながら実施形態について説明する。ここで、「成形」とは金型の使用を問わず架橋させない状態でゴムの形を作る工程をいい、「成型」とは金型を使用し架橋反応まで行ってゴムの形(架橋ゴム)を作る工程をいう。
【0012】
[実施形態]
<シール材付きの基材が完成するまでの流れ>
本実施形態の成形方法の基本的な流れを説明する。シール材が例えばゴムの場合、ゴム生地の材料が配合され混練される。使用されるゴムには、例えば、フッ素ゴム、EPDM、NBR、CR、シリコーン等の熱硬化性弾性体、熱可塑性弾性体、熱可塑性樹脂等が用いられる。次に、混練された材料に促入れが行われる。ここで促入れとは、加硫促進剤、加硫剤をゴムコンパウンドに入れ、混ぜて練ることをいう。なお、原料となるゴムと充填材や架橋剤(加硫剤)等の配合剤が均一に混合された状態もゴムコンパウンド(ゴム生地)という。次に、促入れが行われたゴム生地が分出・成形された後、後述するキャビプレートの溝にゴム生地が所定の圧力で注入(射出)され未加硫(未架橋)のまま成形が行われる。以下の説明において、未加硫(未架橋)のまま成形が行われる工程を予備成形工程という。
【0013】
予備成形工程においてゴムが注入されたキャビプレートと基材とが積層され一対となった状態で加硫(架橋)が行われる。以下の説明において加硫(架橋)が行われる工程を加硫成型工程という。なお、加硫成型工程には、シール材の原料となる物質が加硫(架橋)する温度で基材に成型される場合も含まれる。加硫(架橋)が終了し、シール材が転写(成型)された基材に例えば2次加硫が行われた後、最後に仕上げと検査等が行われ、一連の作業が終了し、シール材付きの基材が製品として完成する。
【0014】
(予備成形工程)
第1の工程である予備成形工程について説明する。図1は、本実施形態の予備成形工程における成形機100を示す断面図であり、(a)は成形機100のポット122に、基材に成形されるシール材の原料であるゴム生地150が装入されている状態を示す図、(b)は成形機100においてキャビプレート160の溝162にゴム生地150の注入が行われた状態を示す図である。図1には、上下方向を両矢印で示している。なお、図1図3では、説明のため基材は平板であるものとし、基材に応じて形状が決定するキャビプレート160も平板であるものとする。
【0015】
成形機100は、熱板110、112、金型120、130を有している。金型120は、ゴム生地150が装入されるポット122、ゴム生地150をキャビプレート160の溝162に注入するためのゲート124を有している。金型130は、キャビプレート160を配置するための凹部133を有している。
【0016】
第1の金型であるキャビプレート160は、ゴム生地150が注入される溝162、予備成形工程又は加硫成型工程において溝162からゴム生地150を逃がすための溝(以下、逃がし溝という)164を有している。また、キャビプレート160は後述する連結溝(不図示)も有している。
【0017】
成形機100では、図1(a)に示すように、ゴム生地150がポット122に装入され、金型130の凹部133にキャビプレート160が配置される。なお、金型120(ゲート124)と金型130(キャビプレート160の溝162)との位置決めは、公知の方法等によって実施されているものとする。その後、図1(b)に示すように、金型120、130に圧力(以下、型締め圧ともいう)が加えられて型締めされ、ポット122からゲート124を介してゴム生地150を注入するための圧力が加えられてキャビプレート160の溝162にゴム生地150が注入される。ゴム生地150の注入時に要する圧力を注入圧といい、例えば1~200MPaである。また、図1(b)に示す型締め時の熱板110、112において発生する熱の温度は、ゴム生地150が加硫(架橋)せず(言い換えれば、未加硫(未架橋)で)(シール材の原料となる物質が架橋せず)、かつ、流動性が維持される温度である。例えば、本実施形態では、予備成形工程を80℃の温度で実施する。この点、予備成形工程は未加硫成形工程ともいえる。なお、予備成形工程における温度は80℃に限定されず、例えばゴム生地150の粘度に応じて設定される。キャビプレート160の溝162へのゴム生地150の充填率は例えば90%~110%とするが、充填率もこの値に限定されない。
【0018】
(加硫成型工程)
第2の工程である加硫成型工程について説明する。図2は、本実施形態の加硫成型工程における成型機200の要部を示す断面図であり、(a)は成型機200に1対のキャビプレート160及び基材140が配置された状態を示す図、(b)は成型機200に複数対(例えば3対)のキャビプレート160及び基材140が配置された状態を示す図、(c)は成型後の基材140を示す断面図、(d)はプレート180で基材140の内側の領域を密閉した状態を示す図である。図2には、上下方向を両矢印で示している。なお、図2(b)では2対目、3対目は1対目と同じ構成であるため符号を省略している。
【0019】
成型機200は、熱板210、212、第2の金型222(以下、単に金型222という)を有している。基材140は、例えば金属、樹脂又は紙である。基材140は、シール材172が成形される面142と、面142とは反対側の面144とを有している。基材140の面142には、予備成形工程においてゴム生地150が溝162に注入されたキャビプレート160が合わせられ、面144には金型222が合わせられる。すなわち、基材140は金型としてのキャビプレート160と金型222との間に挟まれる。なお、キャビプレート160(ゴム生地150が充填された溝162)と基材140との位置決めは、公知の方法等によって実施されているものとする。
【0020】
この状態で、ゴム生地150が加硫(架橋)する(シール材の原料となる物質が架橋する)温度、例えば120℃~220℃で熱板210、212により加熱するとともに、上下方向に所定の圧力(例えば5MPa)が加えられる。ここで、ゴム生地150の溝162への注入は予備成形工程において完了しているため、所定の圧力には注入圧は含まれず型締め圧のみとなる。言い換えれば、加硫成型工程における注入圧は0MPaである。また、所定の圧力と熱が加えられたときに、溝162内のゴム生地150が後述する連結溝(不図示)を介して逃がし溝164に逃げる。なお、溝162内のゴム生地150は、予備成形工程時に逃がし溝164に逃げてもよい。
【0021】
なお、図2(a)はキャビプレート160と基材140の対を1対として加硫成型工程を実施した例であるが、これに限定されない。例えば、図2(b)に示すように、3対のキャビプレート160及び基材140を一度の加硫成型工程において成型する等、複数の対としてもよい。また、図2では、上にキャビプレート160、下に基材140としているが、上下が逆であってもよい。上下を逆にした場合、金型222は上型となる。
【0022】
以上のようにして、図2(c)に示すように、キャビプレート160の溝162に注入されていたゴム生地150がシール材172として基材140の面142に転写(成型)される。また、図2(d)に示すように、基材140のシール材172が成型された面142に対向するようにプレート180を合わせることで、シール材172によって内側の領域が密閉される。密閉された領域には、例えば気体や液体等が保持される。なお、逃がし溝164に逃げたゴム生地150部分が加硫(架橋)したものを、以下、サイドリップ174という。ここで、図1図2では、基材140の面142にシール材172を設けているが、基材140の面144や基材140の両面(面142及び面144)にシール材172を設けてもよい。
【0023】
(キャビプレート)
キャビプレート160の構成について説明する。図3はキャビプレート160の構成を示す図であり、(a)はキャビプレート160の溝162が設けられている面(以下、タッチ面という)168を示す図、(b)は(a)のA-A断面図、(c)は(a)のB-B矢視断面における斜視図である。キャビプレート160は、溝162、逃がし溝164、連結溝166を有している。
【0024】
溝162は、上述したようにゴム生地150が注入される溝である。例えば本実施形態では、基材140を2つの長辺と2つの短辺を有する矩形状とし、基材140の端部に沿って矩形の枠状となるようにシール材を成型するものとする。このため、図3(a)に示すように、キャビプレート160の溝162も同様に矩形の枠状となるように設けられている。溝162は、所定の深さD1(図3(c)参照)を有している。溝162の深さD1は、基材140に成型されるシール材の高さを決めるものでもある。なお、シール材を基材140のどの位置に、どのくらいの長さ、幅で成型するかについては、基材140及び/又はシール材の使用の目的に応じて決定されるものとし、図3に示した形状等に限定されない。
【0025】
逃がし溝164は、溝162に離間して平行に設けられているが、平行でなくともよい。逃がし溝164は、加硫成型工程(又は予備成形工程)において溝162に注入されたゴム生地150が、加熱時に膨張して溝162の体積を上回り余剰となった場合に、余剰となったゴムを逃がすための溝である。すなわち、逃がし溝164を設けることで、加硫成型工程後のバリの発生を抑制することができる。図3(a)に示すように、例えば本実施形態では、逃がし溝164は、溝162とキャビプレート160の4つの辺(端部)との間に設けられている。本実施形態では、逃がし溝164は連続して設けられ、溝162と同様に矩形の枠状である。
【0026】
なお、逃がし溝164は、不連続に設けられていてもよい。また、逃がし溝164は、シール材172が成型された基材140が使用される目的を阻害しない位置に設けられる。例えば、図3(a)のキャビプレート160を用いてシール材172が成型される基材140の場合、溝162により成型されるシール材172よりも内側の領域の密閉性を保持するためにシール材172が成型される。このため、キャビプレート160では、密閉性の保持が求められていないシール材172よりも外側の領域(すなわち、基材140の端部)に相当する位置に、逃がし溝164が設けられている。
【0027】
逃がし溝164は、所定の深さD2(図3(c)参照)を有している。逃がし溝164の深さD2は、サイドリップ174の高さを決めるものでもある。ここで、逃がし溝164の深さD2は溝162の深さD1よりも浅い(D2<D1)。言い換えれば、サイドリップ174の高さはシール材172の高さよりも低い。これは、シール材172の高さをサイドリップ174の高さよりも高くすることで、基材140にプレート180を合わせたときに、シール材172よりも内側の領域の密閉性を保持するためである(図2(d)参照)。逃がし溝164の深さD2や、連続とするか不連続とするか、不連続とする場合の長さ、幅、形状等については、図3に示したものに限定されず、基材140及び/又はシール材172の使用の目的やゴム生地150の粘度、注入量、注入圧等に応じて設定してもよい。
【0028】
連結溝166は、加硫成型工程(又は予備成形工程)において熱によって膨張したゴム生地150を逃がし溝164に逃がすための溝である。連結溝166は、例えば深さdが約0.005mm~約0.2mm、長さLが約1~6mmでタッチ面168よりも低くなるように形成されている。ここで、長さLは溝162に平行な方向の長さである。なお、連結溝166の深さdは溝162の深さD1及び逃がし溝164の深さD2よりも浅い(d<D2<D1)。
【0029】
連結溝166は、図3(a)に示すように、溝162と逃がし溝164との間に、離散的に設けられている。連結溝166を設ける位置、個数、幅(言い換えれば、溝162と逃がし溝164との間隔)、長さL、深さdは、基材140及び/又はシール材172の使用の目的や、溝162及び逃がし溝164の構成、ゴム生地150の粘性、ゲート124の位置等に応じて設定すればよい。
【0030】
キャビプレート160の材料としては、加硫成型工程における加硫時の温度(以下、加硫(架橋)温度という)に耐えることができ、かつ、熱伝導性の良い、例えば鉄、SUS、アルミ、銅等の金属が好適である。また、キャビプレート160の材料として、例えばセラミックや樹脂等も上述した条件を満たすものであれば使用することができる。また、キャビプレート160は、予備成形工程及び加硫成型工程において、変形を防ぎかつ剛性が保てる程度の厚さであるものとする。
【0031】
キャビプレート160の溝162及び逃がし溝164の体積は、キャビプレート160の設計時に既知の値であるため、余剰となるゴムの量を逃がし溝164で制御することが可能となり、バリの発生を低減することができる。また、予備成形工程においてゴム生地150の注入が行われるため、加硫成型工程においてゴム生地150を基材140に成型する際には注入圧がない。このため注入圧を起因とする基材140の変形や破損を低減することができる。また、加硫成型工程において注入圧がかからないため、従来バリの発生を抑えるために型締め圧に加えていた分の圧力を低減することができる。さらに、例えばトランスファー成型やインジェクション成型等ではゲート痕が残るが、本実施形態の予備成形工程では未加硫でゴム生地150をキャビプレート160の溝162に注入するためゲート痕を小さくする又は無くすことができる。
【0032】
<フランジ形状を有する基材について>
フランジ形状を有する基材にシール材を成型する場合について図4を用いて説明する。図4(a)は上述した予備成形工程及び加硫成型工程を経てシール材172を成形したフランジ形状を有する基材300のシール材172がある側の面を示す図であり、(b)は(a)のC-C断面に対応するキャビプレート410の断面図であり、(c)は(a)のC-C断面に対応する加硫成型工程時のキャビプレート410、基材300、金型420の断面図であり、(d)は(a)のC-C断面図である。
【0033】
図4に示すように、基材300は、第1の平面302(以下、単に平面302という)、平面302に連続する傾斜部304、傾斜部304に連続する第2の平面306(以下、単に平面306という)を有している。なお、図4(a)では、傾斜部304を二重破線で示している。基材300のフランジ形状は、平面302、傾斜部304、平面306によって形成されている。また、図4(a)に示すように、シール材172及びサイドリップ174は、基材300における二重破線で示す傾斜部304よりも内側の領域に成形(又はサイドリップ174の場合は形成)される。
【0034】
ここで、シール材172が成型されている面が上になるように基材300を置いたとき、平面306は、平面302を基準とすると平面302よりも高くなっている(図4(c)、(d)参照)。また平面306は、基材300の端部に設けられている。すなわち、基材300は、平面306を高さの基準とすると、フランジ形状よりも内側の領域が凹形状となっている。シール材172はこの凹形状の領域の密閉性を保持するために設けられている。
【0035】
図4(b)に示すように、キャビプレート410は、溝462、逃がし溝464、連結溝(不図示)、押圧部(タッチ面部)412を有している。溝462は、シール材172となるゴム生地150を充填(注入)するための溝である。逃がし溝464は、溝462からゴム生地150を逃がすための溝である。連結溝(不図示)は、図3で説明した連結溝166と同様の構成であり、溝462から逃がし溝464にゴム生地150を逃がすための溝である。なお、連結溝(不図示)を埋めたゴム生地150が加硫(架橋)したものを図4(a)には連結部176として示している。押圧部(タッチ面部)412は、加硫成型工程において基材300を押さえる部分である。
【0036】
図4(c)に示すように、金型420は、押圧部(タッチ面部)422を有している。押圧部(タッチ面部)422は、加硫成型工程において基材300を押さえる部分である。上述した加硫成型工程において、基材300はキャビプレート410と金型420(下型でもある)との間に挟まれて型締めされ成型が行われる。このとき、図4(c)に示すように、キャビプレート410及び金型420は、傾斜部304を避け、傾斜部304よりも内側、すなわち平面302を押さえる(破線楕円)。
【0037】
図4(d)に示すように、サイドリップ174は密閉性の保持や組付けられる機器の性能に影響を与えない領域、すなわちシール材172よりも外側の領域に形成される。このように、基材300がフランジ形状を有する場合には、傾斜部304の位置、キャビプレート410及び金型420の押さえ位置、サイドリップ174の位置を考慮する必要がある。これにより、基材300のフランジ形状、具体的には平面302と傾斜部304との接続部からシール材172の中央部までの距離としてS1(以下、距離S1とする)が必要となる。
【0038】
このため、図4に示す方法でシール材172を基材300に成形する場合に、基材300のシール材172より内側の凹形状の領域の密閉性を保持しつつ、シール材172より内側の凹形状の領域の面積を大きくするためには、基材300全体の面積を大きくしなければならない。例えば、基材300が燃料電池等のセパレータとして使用される場合、基材300全体の面積を大きくすることは、燃料電池の大型化を招くおそれがある。このため、基材300全体の面積を大きくすることなく、シール材172より内側の凹形状の領域の面積を大きくすることが求められる。
【0039】
<本実施形態のキャビプレートについて>
基材300全体の面積を大きくすることなく、シール材172より内側の凹形状の領域の面積を大きくすることができる成型方法及びキャビプレートについて図5を用いて説明する。なお、フランジ形状を有する基材300、シール材172、連結部176の構成は図4と同様であり、同じ符号を用い説明を省略する。図5(a)は本実施形態の予備成形工程及び加硫成型工程を経てシール材172を成型したフランジ形状を有する基材300のシール材172がある側の面を示す図であり、(b)は(a)のD-D断面に対応するキャビプレート510の断面図である。図5(c)は(a)のD-D断面に対応する加硫成型工程時のキャビプレート510、基材300、金型520の断面図であり、(d)は空隙Sp近傍の要部を示す図、(e)は(a)のD-D断面図である。
【0040】
本実施形態の第1の金型であるキャビプレート510は、図5(b)に示すように、溝562、空隙形成部564、連結溝(不図示)、押圧部(タッチ面部)512を有している。溝562は、シール材172となるゴム生地150を充填(注入)するための溝である。空隙形成部564は、図4(b)の逃がし溝464と同様に機能するものであり、加硫成型工程(又は予備成形工程)において溝562からゴム生地150を逃がすための後述する空隙Spを形成するための部分である。連結溝(不図示)は、図3で説明した連結溝166と同様の構成であり、溝562と空隙形成部564とを連結する溝である。連結溝(不図示)は、溝562からはみ出したゴム生地150を、空隙形成部564によって生じた空隙Spに逃がす。
【0041】
押圧部(タッチ面部)512は、加硫成型工程において基材300の平面306を押さえる部分である。なお、本実施形態では、押圧部(タッチ面部)512が基材300の平面306を押さえる構成としているが、これに限定されない。押圧部512は、基材300及びキャビプレート510を使用する目的、形状等、並びに、シール材172を配置する位置等に応じて、配置する位置や基材300と接触する面積等を設定すればよい。
【0042】
第2の金型520(以下、単に金型520という)は、例えば基材300の傾斜部304との間にクリアランスを設けつつフランジ形状に沿った形状であり、基材300を挟んでキャビプレート510の押圧部(タッチ面部)512に対向する位置に押圧部(タッチ面部)522を有している。なお、金型520の形状は、図5に示した形状に限定されず、基材300及びキャビプレート510の形状や加硫成型工程における型締め時の圧力や加熱時の温度等に応じて決定すればよい。
【0043】
上述した加硫成型工程において、基材300はキャビプレート510と金型520(下型でもある)との間に挟まれて型締めされ成型が行われる。このとき、図5(c)に示すように、キャビプレート510は、傾斜部304を避け、傾斜部304よりも外側、すなわち平面306を押圧部512によって押さえる(破線楕円)。キャビプレート510が基材300を押さえた状態のとき、図5(d)に示すように、空隙形成部564と基材300(具体的には、傾斜部304と平面302の一部)とによって囲まれた空隙Spが生じる。加硫成型工程(又は予備成形工程)時に、溝562に充填されていたゴム生地150が膨張し、連結溝(不図示)を介して空隙Spに逃げる。このように、本実施形態では、キャビプレート510に空隙形成部564を設け、基材300のフランジ形状(具体的には傾斜部304)を利用することで、逃がし溝として機能させる。空隙Spに逃げたゴム生地150は加硫成型工程後にサイドリップ190となる。サイドリップ190は基材300の傾斜部304及び平面302の一部に形成されるため、シール材172も傾斜部304により近い位置に成型することが可能となる。
【0044】
本実施形態の成型方法及びキャビプレート510を用いた場合、図5(d)に示すように、基材300のフランジ形状、具体的には平面302と傾斜部304との接続部からシール材172の中央部までの距離はS2(以下、距離S2とする)となる。距離S2は、図4で説明した距離S1よりも小さくなる(S2<S1)。これにより、図5に示すように、基材300の全体の面積を大きくすることなく、基材300のシール材172よりも内側の凹形状の領域の面積を大きくすることが可能となる。
【0045】
以上、本実施形態によれば、傾斜部を有する基材にシール材を成型する際に、基材の傾斜部とシール材との距離をより縮めることができる成型方法及び金型を提供することができる。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。
【0047】
例えば上述した実施形態では、端部にフランジ形状を有する基材300に対して成型方法及びキャビプレート510を適用したが、これに限定されない。例えば、基材300に成型されたシール材172よりも内側の凹形状の領域に、1つ又は複数の傾斜部がある場合に、1つ又は複数の傾斜部に対して適用することも可能である。
【0048】
また、例えば、本発明は以下の趣旨を含むものとする。
[趣旨1]
本発明の成型方法は、
第1の平面と、前記第1の平面に連続する傾斜部と、前記傾斜部に連続する前記第1の平面よりも高い第2の平面と、を有する基材の前記第1の平面にシール材を成型する成型方法であって、
前記シール材の原料が注入される溝を有する第1の金型に、前記原料が加硫(架橋)しない温度で前記溝に前記原料を注入する第1の工程と、
前記溝に前記原料が注入された前記第1の金型と第2の金型との間に前記基材を挟み、前記原料が加硫(架橋)する温度で前記原料を前記シール材として前記基材に成型する第2の工程と、
を備え、
前記第1の金型は、前記第2の工程において前記基材の前記第1の平面及び前記第2の平面を押さえたときに前記基材の前記傾斜部との間に空隙を生じる形状と、前記溝と前記形状とを連結する連結溝と、を有し、
前記第1の金型の前記溝は、前記形状の近傍に設けられる。
【0049】
[趣旨2]
前記第2の平面は、前記基材の端部に設けられていてもよい。
【0050】
[趣旨3]
前記基材は、金属、樹脂又は紙であってもよい。
【0051】
[趣旨4]
前記原料は、ゴムであってもよい。
【0052】
[趣旨5]
本発明の金型は、
第1の平面と、前記第1の平面に連続する傾斜部と、前記傾斜部に連続する前記第1の平面よりも高い第2の平面と、を有する基材の前記第1の平面にシール材を成型するための金型であって、
加硫(架橋)しない温度で前記シール材の原料が注入される溝と、
前記溝に注入された前記原料を前記第1の平面に前記シール材として成型するために前記基材を押さえたときに、前記基材の前記傾斜部との間に空隙を生じる形状と、
前記溝と前記形状とを連結する連結溝と、
を備え、
前記溝は、前記形状の近傍に設けられる。
【符号の説明】
【0053】
100、200、1000 成形機
110、112、210、212、1010、1012 熱板
120、130、222、420、520、1020、1032 金型
122、1022 ポット
133、1033 凹部
124、1024 ゲート
140、300、1040 基材
142、144 面
150、1050 ゴム生地
160、410、510 キャビプレート(第1の金型)
162、462、562、1026 溝
164、464 逃がし溝
166 連結溝
168 タッチ面
172 シール材
174、190 サイドリップ
176 連結部
180 プレート
302、306 平面
304 傾斜部
412、422、512、522 押圧部
564 空隙形成部
Sp 空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6