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特許7591149工事現場を通行する際の車両照明の調整方法および車両
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  • 特許-工事現場を通行する際の車両照明の調整方法および車両 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】工事現場を通行する際の車両照明の調整方法および車両
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/04 20060101AFI20241120BHJP
   B60Q 1/14 20060101ALI20241120BHJP
   B60Q 1/18 20060101ALN20241120BHJP
【FI】
B60Q1/04 E
B60Q1/14 Z
B60Q1/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023537170
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 EP2021078274
(87)【国際公開番号】W WO2022128200
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-08-14
(31)【優先権主張番号】102020007757.9
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】グート,カーステン
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-046374(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/225684(JP,A1)
【文献】特開2005-201741(JP,A)
【文献】特開2008-149909(JP,A)
【文献】特開2008-207738(JP,A)
【文献】特開2013-109911(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0280026(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/04
B60Q 1/14
B60Q 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工事現場(1)の通行が検知された場合、少なくとも1つの車両前照灯(2)から周辺に投射される、ハイビームと呼ばれる上方の光照射野(3.1)およびロービームと呼ばれる下方の光照射野(3.2)からなる光照射パターン(3)が、生成される前記光照射パターン(3)の光強度を変更することによって調整される、工事現場(1)を通行する際の車両照明の調整方法であって、
放射される前記ロービームの前記光強度を、前記工事現場(1)を通行する際に所定値まで増加させ
放射される前記ハイビームの前記光強度を、前記工事現場(1)を通行する際に低下させるか、または前記ハイビームを作動解除する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
工事現場(1)の通行が検知された場合、少なくとも1つの車両前照灯(2)から周辺に投射される、ハイビームと呼ばれる上方の光照射野(3.1)およびロービームと呼ばれる下方の光照射野(3.2)からなる光照射パターン(3)が、生成される前記光照射パターン(3)の光強度を変更することによって調整される、工事現場(1)を通行する際の車両照明の調整方法であって、
放射される前記ロービームの前記光強度を、前記工事現場(1)を通行する際に所定値まで増加させ、
前記工事現場(1)の通行は
ーダーシステムから提供されるセンサ信号の評価、
車両の現在地、特に全地球航法衛星システムによって特定された車両位置とマップデータとの比較、
現在の車速の評価、
及び/又は、
無線の工事現場警告信号、特にビークル・ツー・エックス通信インターフェースを介して送信される工事現場警告信号の評価、
の少なくとも1つによって検知される
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
工事現場(1)の通行が検知された場合、少なくとも1つの車両前照灯(2)から周辺に投射される、ハイビームと呼ばれる上方の光照射野(3.1)およびロービームと呼ばれる下方の光照射野(3.2)からなる光照射パターン(3)が、生成される前記光照射パターン(3)の光強度を変更することによって調整される、工事現場(1)を通行する際の車両照明の調整方法であって、
放射される前記ロービームの前記光強度を、前記工事現場(1)を通行する際に所定値まで増加させ、
路面状態、特に舗装に応じて、及び/又は、路面(4)で検出された濡れ(5)に応じて、前記所定値が変化する
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
前記路面状態を検知するため、少なくとも1つの車載カメラと少なくとも1つのレーザースキャナのセンサデータが融合される
ことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項5】
工事現場(1)の通行が検知された場合、少なくとも1つの車両前照灯(2)から周辺に投射される、ハイビームと呼ばれる上方の光照射野(3.1)およびロービームと呼ばれる下方の光照射野(3.2)からなる光照射パターン(3)が、生成される前記光照射パターン(3)の光強度を変更することによって調整される、工事現場(1)を通行する際の車両照明の調整方法であって、
放射される前記ロービームの前記光強度を、前記工事現場(1)を通行する際に所定値まで増加させ、
出口を検知する場合、光照射パターン中心点が前記出口に該当する周辺領域に移動するか、または前記光照射パターンの占める面積を拡張して、前記出口に該当する周辺領域を少なくとも領域ごとに照らすようにする
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
工事現場(1)の通行が検知された場合、少なくとも1つの車両前照灯(2)から周辺に投射される、ハイビームと呼ばれる上方の光照射野(3.1)およびロービームと呼ばれる下方の光照射野(3.2)からなる光照射パターン(3)が、生成される前記光照射パターン(3)の光強度を変更することによって調整される、工事現場(1)を通行する際の車両照明の調整方法であって、
放射される前記ロービームの前記光強度を、前記工事現場(1)を通行する際に所定値まで増加させ、
車両周辺に存在する少なくとも1つのその他の交通参加者(6)を検出した場合、前記光照射パターン(3)の少なくとも1つの特定領域(7)、特に前記下方の光照射野(3.2)の照明が適切に遮光される
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
工事現場(1)の通行が検知された場合、少なくとも1つの車両前照灯(2)から周辺に投射される、ハイビームと呼ばれる上方の光照射野(3.1)およびロービームと呼ばれる下方の光照射野(3.2)からなる光照射パターン(3)が、生成される前記光照射パターン(3)の光強度を変更することによって調整される、工事現場(1)を通行する際の車両照明の調整方法であって、
放射される前記ロービームの前記光強度を、前記工事現場(1)を通行する際に所定値まで増加させ、
前記光照射パターン(3)を放射するために、少なくとも1つのLEDヘッドライト、特にマトリックスヘッドライトが使用される
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
少なくとも1つの前照灯(9)と、少なくとも1つの周辺監視システムと、少なくとも1つの演算ユニットを備える車両(8)において、
前記演算ユニットは、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法を実行するために設けられている
ことを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段に詳述された種類の、工事現場を通行する際の車両照明の調整方法、ならびに請求項9の前段に詳述された種類の車両に関する。
【0002】
暗がり、例えば夜間においても車両を安全に運転できるようにするため、車両には、通常、照明装置が装備されている。そのような照明装置により、車両の周辺、特に車両の走行方向前方にある道路区間を照らすことができる。このとき、状況に応じて、照明装置から放射される光の輝度を調整することや、光を投射する照射方向およびその際に光が占める断面積を調整することが可能である。例えば車両の前照灯は、市街地では、通常、ロービームで作動され、郊外では、その他の交通参加者を眩惑する危険がない場合、ハイビームで作動される。これにより、車両を運転する人(運転手)には、暗がりでもより遠くを見ることが可能になる。これに加え、照明装置から放射される光の到達範囲の他に、光の輝度も増加させることにより、認識しにくい物体も、よりはっきと視認することができるようになる。
【0003】
このために、運転手は、ロービームとハイビームを手動で交互に切り替えることができる。さらに、いわゆる配光可変型ハイビームアシスタントが周知であり、これは、センサ信号に応じて、照明装置から放射される光の照射角度および/または輝度を自動的に調整するものである。現代の車両には、発光体としてLEDが、特にいわゆるマトリックスヘッドライトの形で使用されている。この場合、マトリックスヘッドライトの個々のLEDはピクセルとも呼ばれ、これを適切に制御することによってマトリックスヘッドライトから放射される光円錐の領域を遮光することができる。例えば、その他の道路利用者が存在している光円錐の領域を正確に遮光することが可能である。従って、ハイビームを放射すると同時に、その他の交通参加者の眩惑を回避することができる。さらに、例えばリフレクタおよび/または照射装置のレンズを動作させることによって、照明装置から放射された光の照射方向を移動させることも知られている。これにより、例えば配光可変型コーナリングライトを実現することが可能である。
【0004】
夜間における工事現場の通行は、要求の多い交通状況となる。例えば工事現場の領域では、しばしば道路幅が縮小されていることから、車両を安全に運転するためには、車両の運転手に高い注意力が要求される。このことは、夜間における視界条件の悪化によってさらに困難なものになる。道路標識および/または警告表示板など、周辺には比較的多くの反射物があり、これらに施されている再帰反射被膜により、照明装置から放射される光が車両方向または車両の運転手の方向に跳ね返り、運転手が眩惑される。さらに、新しい舗装(舗装された道路)は、古い舗装に比べて反射性が低下していることがあり、より多くの光が路面によって吸収されるので、工事現場領域の交通状況は一層暗く見える。これにより、周辺の物体、道路標示および出口を認識することが難しくなったり、容易に見落としてしまったりすることがあり得る。
【0005】
下記特許文献1から、照明装置を備える車両の作動方法が周知である。この文献において開示されている方法によれば、工事現場の通行が検知され、工事現場を通行する際に車両前照灯から放射される光の配光が自動的に調整される。例えば工事現場が検知された場合、静的側方照射灯を追加的に点灯するか、コーナリングライトを作動させ、コーナリングライトまたは静的側方照射灯の照射方向を車両から側方に離間する方向に向けることにより、路面の端部領域をより良く照らすことができるようにする。このとき、この文献において開示されている発明の実施形態によれば、放射される光出力も増加する。これにより、運転手には、路面端部および/または該当する領域に存在する物体がより見えやすくなるので、より安全な運転を実現することが可能になる。工事現場の通行を検知するために、カメラによって生成されたカメラ画像を評価すること、および/または、車両の現在地をマップデータと比較することで、工事現場領域がマップデータ内に表示される。追加または代替として、工事現場では、通常、低い速度制限が設けられているため、特定の車速によっても工事現場の通行を推測することができる。さらに、例えばビークル・ツー・エックス(Vehicle to X)通信インターフェースを介して、機能信号を車両に送信し、車両に工事現場についての情報を伝達することもできる。しかしながら、この場合、側方の道路端部を明るくすることにより、より多くの光が道路標識や警告表示板などの反射物に投射され、これによって運転手はさらに強い眩惑を受けるということが欠点である。
【0006】
下記特許文献2からも、車両照明システムが周知である。この文献では、現在の気象条件および/または道路表面の状態に応じて車両照明システムから放射する光を調整することが記載されている。このとき、一方では、車両照明システムから放射される光の照明方向および面積を調整することができ、他方では、放射される光の輝度および/または色を変化させることができる。ここでは、雨や霧、あるいは雪といった不利な気象条件の場合、周辺が特に明るく照らされる。この場合、照明調整は、道路表面で検出された水たまり等の濡れも考慮して行われる。車両の個々の前照灯および/またはリフレクタなどの前照灯の構成部品は旋回させることができる、および/または、フォグランプなどの補助灯を追加的に点灯させることができる。このとき、車両照明システムから放射される光の照射方向および/または道路占有面積の調整は、特に車両の操舵角に応じて、経路変化を推測するナビゲーションデータに応じて、およびカメラ画像の評価によって行われ、これにより、気象条件の分類以外に、その他の交通参加者も検知することが可能となる。従って、車両照明システムから放射される光をその他の交通参加者に応じて調整することで、その他の交通参加者も眩惑されないようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】独国特許出願公開第10 2011 014 455 A1号明細書
【文献】独国特許出願公開第199 22 735 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、工事現場を通行する際の車両照明の改善された調整方法を提供することであり、このとき、運転手は、工事現場を通行する際にそれほど眩惑されないようになり、且つこの調整方法以外では認識しにくい道路標示もより簡単に見えるようになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、本発明に基づき、請求項1の特徴を備える、工事現場を通行する際の車両照明の調整方法、ならびに請求項9の特徴を備える車両によって解決される。有利な実施形態および発展形態は、従属請求項から明らかである。
【0010】
冒頭に述べた種類の、工事現場を通行する際の車両照明の調整方法では、本発明に基づき、放射されるロービームの光強度を、工事現場を通行する際に所定値まで増加させる。
【0011】
特に夜間の暗がりにおいては、工事現場領域の視認性は制限されている。その原因は、例えば光を反射しにくい新しいアスファルト舗装、および比較的数の多い道路標識、および/または警告表示板などの周辺反射物である。これによって、場合により、車両の運転手は、関連する道路標示を認識することが難しくなり、その結果、運転手は車線の維持が困難になる。さらに、運転手は、場合により、周辺の物体を認識するのが難しくなる可能性があり、および/または、出口に気づくのが遅れて出口を通り過ぎてしまう可能性もある。これにより、道路交通における安全性が低下することがあり得る。しかし、本発明に基づく方法を用いることで、夜間に工事現場を通行する際も十分な視認性を達成することができる。ここでは、車両前方の進行方向にある近傍の比較的小さな一領域のみが特別に明るく照らし出される。光強度を増加させることにより、認識しにくい物体ならび道路標示も、よりはっきりと見えるようにすることが可能である。下方の光照射野、すなわちロービームの光強度だけを増加させることにより、車両前照灯から放射される光が周辺反射物に反射して、運転手に危険を及ぼすという可能性は低下する。
【0012】
このとき、ロービームの光強度の増加は、さまざまな仕方で可能である。例えば追加の発光体および/または照明を点灯させることや、例えばフォグランプおよび/または事前に作動解除されたマトリックスヘッドライトのLEDまたはピクセルを点灯させることができる。同様に、発光体に供給する電力を増加させることも考えられる。発光体と道路との間の光線経路内に遮断要素を配置し、光強度を増加させるために、遮断要素を少なくとも部分的に光線経路から外へ移動させることも可能である。このとき、光強度の増加は段階的にも無段階にも可能である。
【0013】
工事現場の通行とは、工事現場を通行する前、通行中、通行した後の任意の時点を意味している。例えば、光強度は、工事現場を示す道路標識に到達する前の所定距離においてすでに増加させることができるし、あるいは、車両が工事現場内の所定区間(所定距離)を進んだ後に増加させることもできる。また、工事現場が終了するまでの所定区間に応じて光強度を増加させ、工事現場領域を離れた時、または工事現場領域を離れた後の所定時間後または所定区間走行後に再び光強度を元の状態にリセットすることも可能である。ロービームの光強度の増加中に、ハイビームを車両前照灯から放射することも可能である。
【0014】
本方法の有利な発展形態では、放射されるハイビームの光強度を、工事現場を通行する際に低下させるか、またはハイビームを作動解除するようになっている。すでに言及したように、運転手は、周辺物体からの反射光によって眩惑される。ハイビームの輝度を下げるか、または特に有利には工事現場の通行時にハイビームを完全に作動解除することにより、運転手が、車両から放射される光によって眩惑される危険も軽減することができる。これにより、夜間の工事現場通行時における車両の運転をさらに安全なものにすることが可能である。
【0015】
本発明のさらなる有利な実施形態によれば、工事現場の通行は、以下の方式の少なくともいずれか1つによって検知される。
-車載カメラによって生成される少なくとも1つのカメラ画像の評価。
-レーダーシステムから提供されるセンサ信号の評価。
-車両の現在地、特に全地球航法衛星システムによって特定された車両位置とマップデータとの比較。
-現在の車速の評価。
-無線の工事現場警告信号、特にビークル・ツー・エックス通信インターフェースを介して送信される工事現場警告信号の評価。
【0016】
前述の方式を用いることにより、特に信頼性の高い工事現場の検出が可能である。このとき、車載カメラとしては、任意のカメラ、例えば多目的カメラを使用することができる。ここでのカメラは、単眼カメラまたはステレオカメラであってよい。特に、車載カメラは、可視光以外に赤外線も検知することができるので、暗がりでのさらに信頼性の高い画像認識が確保される。レーダーシステムにより、暗がりにおいても距離情報を確実に検知することが可能である。特に、低速時および短距離の場合、レーダーシステムに加えて、またはレーダーシステムの代わりに、超音波センサシステムも距離特定に使用することができる。ライダーのようなレーザースキャナによる距離特定も、同様に考えられる。先行技術と同様に、工事現場領域は、車両の現在地と、マップデータに登録されているいずれかの工事現場位置とのマッチングによっても比較することができる。同様に、工事現場領域の通行は、現在通行している道路の車速に対して一般的ではない車速、例えば高速道路での時速80kmなどによっても検知することができる。さらに、無線で送信される工事現場警告信号も工事現場を示唆することができ、工事現場警告信号と一緒に、例えば工事現場の長さなどの追加情報も伝達することができる。
【0017】
さらに、本方法のさらなる有利な実施形態では、路面状態、特に舗装に応じて、および/または路面で検出された濡れに応じて、所定値が変化するようになっている。路面状態に応じたロービームの光強度の変化により、さらに安全な工事現場領域の照明を確保することができる。例えば、舗装がどれくらい光を反射するかに応じて、ロービームの光強度を増加させることが可能である。例えば特定の工事現場で舗装が新しくされていない場合、この舗装は、車両前照灯から放射される光をそれほど強く吸収しない。この場合、ロービームの光強度をあまり増加させないようにする必要がある。このことは、路面に濡れがある状況にも当てはまる。例えば雨の場合、または路面に雪がある場合は、路面の反射性が上昇する。この場合も、ロービームの光強度をあまり増加させないようにすることで十分である。これにより、路面から道路標識および/または警告表示板などの周辺物体の方向に光が反射する危険性も軽減されることから、運転手の眩惑の危険をさらに低下させることができる。
【0018】
本方法のさらなる有利な実施形態によれば、路面状態を検知するため、少なくとも1つの車載カメラと少なくとも1つのレーザースキャナのセンサデータが融合される。センサの組み合わせにより、路面状態を特に確実に検知することができる。センサシステムが故障したり、異常なセンサ信号を送信したりする場合は、正常に機能しているセンサから提供されるセンサデータを考慮することで、誤検出を回避できる。このとき、センサの組み合わせにおいては、その他のセンサシステムを考慮することも可能である。例えば、路面状態を検知するために、追加的に超音波またはレーダーシステムから出力されるセンサ信号も、車載カメラおよびレーザースキャナのセンサデータと融合させることができる。
【0019】
さらに、本方法のさらなる有利な実施形態では、出口を検知する場合、光照射パターン中心点が出口に該当する周辺領域に移動するか、または光照射パターンの占める面積を拡張して、出口に該当する周辺領域を少なくとも領域ごとに照らすようになっている。工事現場領域の工事制限により、出口が移動していたり、車線幅が短縮および/または狭められたりすることが度々ある。そのため、工事現場付近では、しばしば出口を認識することが難しい。特に、夜間は、運転手が出口を通り過ぎる危険性が非常に高い。工事現場を通行する際に、出口をより明るく照らすことにより、運転手が出口により気づきやすくなる。これにより、運転手の意図に反して出口を通り過ぎるという危険性を低下させることができる。ここでは、車両前照灯から放射される光線を旋回させ、工事現場を照らすことができ、および/または、追加の前照灯または発光体を点灯させて、出口に該当する周辺領域を照らすこともできる。特に、運転手に、該当する出口から出ようとする意図がある場合にのみ、出口がより明るく照らされる。このことは、例えば方向指示器の操作によって確定することができる。さらに、所定の出口から出るという、運転手の意図は、計画されている走行ルート、例えば車両のナビゲーションシステムに入力された走行ルートによっても読み取ることができる。これにより、関係のない出口を不必要に照らすことが回避される。従って、工事現場を通行する際の車両または車両照明の、特に快適な作動を確保することができる。
【0020】
本方法のさらなる有利な実施形態によれば、車両周辺に存在する少なくとも1人のその他の交通参加者を検出した場合、光照射パターンの少なくとも1つの特定領域、特に下方の光照射野の照明が適切に遮光される。これにより、その他の交通参加者にとって好ましくない眩惑を回避することができる。このとき、車両周辺にいるその他の交通参加者は、カメラ画像の評価によって検出することが可能である。同様に、ビークル・ツー・ビークル(vehicle to vehicle)通信インターフェースを介して送られる信号の送受信によっても、その他の交通参加者を検出することができる。追加または代替として、例えばレーザースキャナおよび/または距離レーダーなどの距離検知システムを使って、車両とその他の交通参加者との間の相対位置または相対距離を特定することも可能である。これにより、遮光される光照射パターンまたは下方の光照射野のうち、車両前照灯から出力される光の放射を遮断したい領域を算出することが可能になる。このことは、一般的に、配光可変型ハイビームアシスタントによって周知である。しかし、路面に濡れがあると、その濡れが明るいロービームを反射して、その他の交通参加者が路面の方向から眩惑される可能性がある。車両のロービームの光強度は特別に増加されるので、その他の交通参加者は特に強く眩惑される。しかし、その他の交通参加者の車両に対する位置関係を評価し、車両前照灯と、路面と、その他の交通参加者との間の反射角を考慮することにより、路面に投射された明るいロービームの個別領域を遮光(除外)することで、その他の交通参加者が濡れた路面からの反射光によっても眩惑されないようにすることができる。これにより、道路交通における安全性をさらに向上させることが可能である。
【0021】
好ましくは、光照射パターンを放射するために、少なくとも1つのLEDヘッドライト、特にマトリックスヘッドライトが使用される。基本的に、光照射パターンを放射するには、任意の車両前照灯を使用することができる。この車両前照灯は、発光体として、例えば電球、ハロゲンランプ、またはキセノンランプを使用することが可能である。発光体としては、レーザーも考えられる。しかしながら、LEDは特に高い効率を有していることから、明るいロービームを生成できると同時に、エネルギー必要量も少なくすることが可能である。さらに、マトリックスヘッドライトを用いることにより、光照射パターンを周辺に投射する方向も、特に簡単に調整することができる。従って、そのために可動部品を取り付ける必要はないため、車両前照灯の構造が簡略化され、振動に対しても車両前照灯が堅牢になる。これにより、意図した方向に沿って周辺に光照射パターンが投射される信頼性を向上させることができる。
【0022】
少なくとも1つの前照灯と、少なくとも1つの周辺監視システムと、少なくとも1つの演算ユニットを備える車両では、演算ユニットは、本発明に基づき、前述した方法を実行するために設けられている。この車両は、乗用車、トラック、トランスポータ、バスなど、任意の車両であってよい。このとき、光照射パターンを放射するため、1つまたは複数の車両前照灯が使用されてよい。周辺監視システムとしては、さまざまなセンサシステムが考えられる。例えば、カメラ、レーダーシステム、レーザースキャナなどによって車両周辺を監視することが可能である。演算ユニットは、中央ボードコンピュータ、車両サブシステムの制御装置または本方法を実行するために別途設けられている制御コンピュータなどの任意の演算ユニットであってよい。ここでは、カメラ画像を、例えば畳み込みニューラルネットワークのような人工ニューラルネットワークの形で人工知能を使用して評価することも可能である。
【0023】
本発明に基づく方法のさらなる有利な実施形態は、以下に図を用いて詳しく説明する実施形態からも明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】運転手の視点から見た、夜間に工事現場を通行する車両を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、夜間に工事現場1を通行する車両8を示している。車両周辺を明るくするため、車両8は、複数の車両前照灯2(以下、前照灯9と呼ぶ)を備えている。このとき、前照灯9は、光照射パターン3を生成するために光を放射する。光照射パターン3は、上方の光照射野3.1および下方の光照射野3.2から構成されており、上方の光照射野3.1はハイビームに該当し、下方の光照射野3.2はロービームに該当する。図の中で、前照灯9は、下方の光照射野3.2を形成するための光だけを発している。
【0026】
工事現場1を通行する場合、しばしば工事現場1の視認性は制限される。なぜなら、新しくされた路面4の舗装は光を反射しにくく、また、工事現場1の領域には道路標識10および警告表示板11などの周辺反射物が多数設けられており、これらが運転手の方向に前照灯9から放射される光を反射して、運転手を眩惑するからである。本発明に基づき、工事現場領域1の視認性は、通常のロービームに比べ高い光強度を備えるロービームを前照灯9が放射することによって改善される。ロービームをより明るくすることで、光を吸収する舗装も明るく照らされ、これに加え、道路標識10および警告表示板11などの周辺反射物は照らされないことから、運転手の眩惑も回避することができる。このことから、運転手には、道路標示12がより見えやすくなるため、運転手にとって通行中の車線を維持することも容易になる。従って、工事現場を通行する際の走行快適性も改善される。
【0027】
このとき、路面4には、例えば濡れ5の形で反射領域が存在することがあり得る。ここで、前照灯9から放射される光は、濡れ5からその他の交通参加者6の方向に反射し、これにより、この交通参加者が眩惑される。本発明に基づく方法で放射されるロービームは特に明るいことから、その他の交通参加者6も強く眩惑される。このことを回避するため、光照射パターン3の個別の領域7、好ましくは下方の光照射野3.2を遮光(除外)することができる。これにより、その他の交通参加者6の眩惑を確実に回避することができる。遮光する領域7を計算するため、例えば、図に示されている場面のカメラ画像が生成され、評価される。これにより、その他の交通参加者6および濡れ5を検知することができ、かつ交通参加者6と、濡れ5と、車両8または前照灯9との間の位置関係を算出することができるので、結果的に、領域7を適合的に遮光することが可能になる。ここでは、さらに、レーダーまたはレーザースキャナシステムを使って得られた距離情報など、その他のセンサデータが考慮されてもよい。
図1