(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-19
(45)【発行日】2024-11-27
(54)【発明の名称】ハイブリッド駆動システム及び車両
(51)【国際特許分類】
F16H 3/66 20060101AFI20241120BHJP
F16H 3/72 20060101ALI20241120BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20241120BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20241120BHJP
B60K 6/365 20071001ALI20241120BHJP
B60K 6/40 20071001ALI20241120BHJP
【FI】
F16H3/66 A
F16H3/72 A
B60K6/48
B60K6/547
B60K6/365
B60K6/40
(21)【出願番号】P 2023570321
(86)(22)【出願日】2022-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2022059773
(87)【国際公開番号】W WO2022238075
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】102021002533.4
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】ツァイビッヒ,ヨナタン
(72)【発明者】
【氏名】ギット,カーステン
(72)【発明者】
【氏名】シルダー,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ハーン,ピーター
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102017006082(DE,A1)
【文献】特開2017-030375(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102018007154(DE,A1)
【文献】特開2009-001079(JP,A)
【文献】特開2005-147404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/66
F16H 3/72
B60K 6/48
B60K 6/547
B60K 6/365
B60K 6/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(2)と、電気機械(3)と、少なくとも1つの副軸(12)を介して出力する第1の平歯車副伝動装置(B)及び第2の平歯車副伝動装置(A)、並びに第1の太陽歯車(8.1.1)、第1の遊星キャリア(8.1.2)、第1のリングギヤ(8.1.3)を含む第1の遊星歯車セット(8.1)及び第2の太陽歯車(8.2.1)、第2の遊星キャリア(8.2.2)、第2のリングギヤ(8.2.3)を含む第2の遊星歯車セット(8.2)を有する4軸式の遊星歯車装置(8)を具備する伝動装置(4)と、を備えるハイブリッド駆動システム(1)であって、
前記電気機械(3)のロータが前記第2のリングギヤ(8.2.3)に相対回転不可能に結合されている、又は結合可能であり、
前記第1の遊星キャリア(8.1.2)が前記第2の遊星キャリア(8.2.2)に恒久的に相対回転不可能に接続され、且つ主回転軸を中心に回転可能な前記第1の平歯車副伝動装置(B)の第1の入力軸(9)が前記第2の遊星キャリア(8.2.2)に相対回転不可能に接続され、前記主回転軸を中心に回転可能な前記第2の平歯車副伝動装置(A)の第2の入力軸(10)が前記第2の太陽歯車(8.2.1)に相対回転不可能に接続され、
前記第1の平歯車副伝動装置と前記第2の平歯車副伝動装置(B、A)がそれぞれちょうど1つの平歯車対(11、14)を有し、前記遊星歯車装置(8)の前記4つの軸のうちの2つを相対回転不可能に接続するためのブロッキングシフト部材(SK)が設けられている、ハイブリッド駆動システム(1)
において、
前記第1のリングギヤ(8.1.3)が前記内燃機関(2)のクランク軸(5)に結合されている、又は結合可能であり、前記第1の太陽歯車(8.1.1)が前記第2のリングギヤ(8.2.3)に恒久的に相対回転不可能に接続されていることを特徴とするハイブリッド駆動システム(1)。
【請求項2】
前記ブロッキングシフト部材(SK)は、前記主回転軸に沿って見て、前記2つの平歯車対(11、14)の間に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド駆動システム(1)。
【請求項3】
前記主回転軸に対して平行に配置され、出力歯車(15)と相対回転不可能に接続されたちょうど1つの副軸(12)が設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のハイブリッド駆動システム(1)。
【請求項4】
前記出力歯車(15)は、前記主回転軸に沿って見て、前記遊星歯車装置(8)と前記平歯車対(11、14)との間に配置されていることを特徴とする、請求項3に記載のハイブリッド駆動システム(1)。
【請求項5】
前記内燃機関(2)の前記クランク軸(5)は、分離クラッチ(K0)を介して前記第1のリングギヤ(8.1.3)と結合可能であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動システム(1)。
【請求項6】
前記電気機械(3)及び/又は前記電気機械のロータと相対回転不可能に接続されたロータギヤ(6)が、軸方向(a)に見て、前記遊星歯車
装置(8)に対して重なるように配置されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動システム(1)。
【請求項7】
第1のシフト部材(SB)が前記少なくとも1つの副軸(12)と同軸に、且つ軸方向(a)において前記平歯車対(11、14)の間に配置されていることを特徴とする、請求項1
又は2に記載のハイブリッド駆動システム(1)。
【請求項8】
第2のシフト部材(SA)が前記少なくとも1つの副軸(12)と同軸に、且つ軸方向(a)において前記平歯車対(11、14)の間に配置されていることを特徴とする、請求項7に記載のハイブリッド駆動システム(1)。
【請求項9】
前記第1のシフト部材(SB)と前記第2のシフト部材(SA)が、結合シフト部材として形成され、且つ唯一の共通のシフトスリーブを用いて切替可能であることを特徴とする、請求項8に記載のハイブリッド駆動システム(1)。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のハイブリッド駆動システム(1)と、追加の電気駆動システム(22)とを備える車両(21)であって、前記ハイブリッド駆動システム(1)を介して第1の車両車軸(23)を駆動可能であり、前記電気駆動システム(22)を介して別の車両車軸(24)を駆動可能である、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と、電気機械と、少なくとも1つの副軸を介して出力する第1の平歯車副伝動装置及び第2の平歯車副伝動装置、並びに4軸式の遊星歯車装置を有する伝動装置と、を備えたハイブリッド駆動システムに関する。更に、本発明は、そのようなハイブリッド駆動システムを備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、及び特許文献5から、それぞれ遊星歯車装置と少なくとも1つの平歯車副伝動装置を備えたハイブリッド駆動システムが知られている。
【0003】
内燃機関と電気機械を備えた車両のための従来のハイブリッド駆動システムは、例えば本出願人の特許文献6に記載されている。そこでは、2つの遊星歯車セットを有する4軸式の遊星歯車装置が使用され、この4軸式の遊星歯車装置を介して、電気機械と内燃機関がハイブリッド駆動システムの伝動装置に結合され、4軸式の遊星歯車装置に平歯車副伝動装置が結合されている。
【0004】
上記の従来技術の構造は、多くの機能を実現して非常に複雑であり、そのため特に軸方向において、すなわち主伝動装置軸若しくは2つの平歯車副伝動装置の入力軸の方向に非常に大きい設置スペースを必要とする。
【0005】
本発明の課題は、多数の有用な伝動装置機能を備えた、簡潔で、特に軸方向において非常に小型の構造を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国特許出願公開第102018007154号公報
【文献】独国特許出願公開第102017203478号公報
【文献】独国特許出願公開第102016213709号公報
【文献】独国特許出願公表第112013006936T5号公報
【文献】独国特許出願公開第102018213876号公報
【文献】独国特許出願公開第102017006082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明によれば、この課題は、請求項1の特徴、ここでは特に請求項1の特徴部分に記載の特徴を備えたハイブリッド駆動システムによって解決される。本発明によるハイブリッド駆動システムの有利な構成及び発展形態は、従属請求項から明らかになる。請求項10には、更に、同様に上記課題を解決する、そのようなハイブリッド駆動システムを備えた車両が記載される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるハイブリッド駆動システムは、特に車両駆動部として用いられる。ハイブリッド駆動システムは、内燃機関と、少なくとも1つの電気機械と、2つの平歯車副伝動装置及び4軸式の遊星歯車装置を有する伝動装置とを備えている。遊星歯車装置には2つの遊星歯車セットが設けられ、第1の遊星歯車セットは、第1の太陽歯車、第1の遊星キャリア及び第1のリングギヤを含めて、第2の遊星歯車セットは、第2の太陽歯車、第2の遊星キャリア及び第1のリングギヤを含めて形成されている。その場合、第1のリングギヤは内燃機関のクランク軸に結合されているか、又は好ましくは分離クラッチを介して、及び場合によってはねじり振動ダンパを介して結合可能である。第1の太陽歯車は、第2のリングギヤに恒久的に相対回転不可能に接続され、且つ電気機械のロータと直接、又は別の伝動装置部材を介して間接的に相対回転不可能に結合されているか、又は結合可能であり、ロータ自体は第2のリングギヤに結合されているか、又は結合可能である。遊星歯車セットの2つの遊星キャリアは、恒久的に相対回転不可能に互いに接続され、更に、伝動装置の主回転軸を中心に回転可能な第1の平歯車副伝動装置の第1の入力軸と接続されている。伝動装置の主回転軸を中心に回転可能な第2の平歯車副伝動装置の第2の入力軸自体は、第2の太陽歯車と相対回転不可能に接続されている。その場合、第1及び第2の平歯車副伝動装置はそれぞれちょうど一対の平歯車を有し、それにより簡潔で小型な構造が実現される。更に、可能な限り多数のギヤ段の選択において高いフレキシビリティを可能にするために、遊星歯車装置の4つの軸のうちの2つを相対回転不可能に接続するためのブロッキングシフト部材が設けられている。その場合、特に、一方の平歯車副伝動装置の変速比を、もう一方の平歯車副伝動装置の変速比よりはるかに大きくすることができる。
【0009】
その場合、本発明において意図される相対回転不可能とは、回転可能に支承されている2つの部材の相対回転不可能な接続又は結合が、これらの2つの部材が互いに同軸に配置され、これらの2つの部材が同じ角速度で周回するように互いに接続されていることを意味すると理解されるべきである。本発明において意図される軸方向に、又は主回転軸に沿ってとは、常にこの主回転軸に対しての軸方向を意味し、この主回転軸はまた、平歯車副伝動装置の2つの同軸の入力軸の回転軸と一致する。
【0010】
その場合、本発明によるハイブリッド駆動システムの記載される構造によって、従来のコンセプトとの比較において、平歯車副伝動装置の逆接続が達成される。これによって、電気機械を強制的に逆回転動作させることが可能である。このことにより、最終的に電気機械の回転数の2つのゼロ点通過が生じ、これらを仮想ギヤの意味での追加段として最適に利用できる。
【0011】
強制された回転数の逆転はまた、その他に、中間ギヤにおける内燃機関と電気機械との間のあまり良くない回転数比を改善する。これまで2つの機械を最適には利用できなかったが、中間ギヤにおいて内燃機関と電気機械が同じ変速比を有することで、2つの機械を可能な限り良好に利用することができる設計を実装することが可能になる。
【0012】
更に、とりわけ上のギヤにおいて非常に良好な動力伝達効率を達成することができ、そのこともまた効率に、したがって最終的には本発明によるハイブリッド駆動システムの動力伝達効率及びエネルギー消費量に非常に有利に作用する。
【0013】
本発明によるハイブリッド駆動システムの非常に有利な発展形態では、それぞれ第1の平歯車副伝動装置及び第2の平歯車副伝動装置の2つの平歯車対が、それぞれの平歯車副伝動装置の2つの入力軸に沿って軸方向に見て2つの平歯車対の間に、遊星歯車装置のシャフトのうちの2つをブロックするためのブロッキングシフト部材が配置されるように、互いに配置されている。
【0014】
それによって、軸方向において極めて小型な構造が可能になり、非常に高い変速幅、すなわち最高速ギヤと最低速ギヤとの間の非常に大きく異なる変速比が可能になる。したがって、4軸式の遊星歯車装置、内燃機関、及び電気機械を上記の配置で使用することによって、本発明によるハイブリッド駆動システムを用いて多数の機能を簡単に、且つ効率的に実現することができる。
【0015】
本発明によるハイブリッド駆動装置の極めて有利な発展形態によれば、主回転軸に対して平行に配置され、出力歯車と相対回転不可能に接続されたちょうど1つの副軸が設けられていることを企図することができる。ちょうど1つの副軸は、軸方向に対して横方向に伝動装置の非常に小型な構造を可能にする。
【0016】
その場合、その非常に有利な発展形態によれば、軸方向において、すなわち主回転軸に沿って見て、遊星歯車装置と2つの平歯車副伝動装置との間に配置することができる。
【0017】
その場合、本発明によるハイブリッド駆動システムの有利な一実施形態によれば、内燃機関若しくはそのクランク軸は、すでに上記で示唆したように、分離クラッチを介して遊星歯車装置の第1のリングギヤに接続されていてもよい。ここで、追加で、又は分離クラッチとコンパクトに一体化させた形で、ねじり振動を減衰又は吸収するためのデュアルマスフライホールを設けることができる。ねじり振動ダンパの代替的な構造も考えられる。分離クラッチ自体は、伝動装置若しくは伝動装置の遊星歯車装置を内燃機関から分離することによって、純粋に電気的な動作を可能にし、そのことが、本発明によるハイブリッド駆動システムの機能性向上の可能性を相応に高める。ここで、分離クラッチ自体は、形状結合式に形成されていてもよいし、摩擦結合式に形成されていてもよい。特に、分離クラッチは、その構造がとりわけ簡潔で小型なものであるようにするために、同期を伴わない形状結合式に実現することもできる。必要とされる場合、電気機械を介して回転数の調整を行うことができる。
【0018】
その場合、電気機械又は電気機械のロータのロータギヤは、軸方向に見て遊星歯車セットに対して重なるように配置されている。好ましくは、2つの平歯車副伝動装置の入力軸及びクランク軸に対してとりわけ軸平行に配置されている電気機械のこの配置も、軸方向における非常に小型の構造を可能にする。有利な発展形態によれば、電気機械の接続は、ここでは別の伝動装置部材を介して、例えば平歯車伝動装置、ベルト駆動部、チェーン駆動部等を介して行うことができる。
【0019】
本発明によるハイブリッド駆動システムの非常に好適な発展形態では、第1の平歯車副伝動装置のためのシフト部材を、副軸に対して同軸に配置することができ、且つ軸について平歯車対の間に配置することができる。つまり、第1の平歯車副伝動装置のためのシフト部材の、副軸に対するそのような同軸の配置は、第1の平歯車対における入力軸の領域において固定歯車を用い、また相応に、少なくとも1つの副軸、上述の構成によればちょうど1つの副軸におけるアイドラ歯車を用いる。原理的には、そのようなシフト部材が、副軸におけるいずれの軸位置においても、これに同軸に配置することができる。特に有利には、シフト部材が2つの平歯車対の間に設けられている。この場合、第1のシフト部材は、軸方向においてブロッキングシフト部材と同じ設置スペースを利用し、それにより軸方向において追加の設置スペースは必要とされない。
【0020】
ここで、本発明において意図される同軸とは、回動可能に支承されている一方の部材が、回動可能に支承されている他方の部材、例えば軸に対して同軸に設けられており、それによって、それら2つの部材の回転軸がそれぞれ一致している、又は整列されていることと解される。更に、本発明によれば、歯車対又は平歯車対は、平行な回転軸を有し、且つそれらの回転軸に対して垂直な平面に関して、歯車セット平面と称される共通の平面に配置されている、相互に係合された2つの複数の歯車又は平歯車であると解される。
【0021】
極めて有利な発展形態によれば、第2のシフト部材も副軸と同軸に、且つ軸方向において平歯車対の間に位置する。したがって、他の平歯車対でも副軸にアイドラ歯車が配置されることになる。
【0022】
その場合、これらの着想の非常に有利な発展形態によれば、2つのシフト部材を結合シフト部材として形成することができ、且つ唯一の共通のシフトスリーブを用いて切替可能にすることができ、それにより一方では可能な限り簡潔な、且つ軸方向における小型な構造が実現され、他方で部品とアクチュエータ系に関する複雑さが更に低減される。
【0023】
したがって、本発明による車両では、車両が上記の実施形態のうちの1つによるハイブリッド駆動システムを有し、ハイブリッド駆動システムから機械的に独立して形成された電気駆動システムが追加で設けられている。それによって、駆動部を非常にフレキシブルに使用できるようになる。例えば、それにより電気的な後退ギヤを実現でき、それにより伝動装置にそのような電気的後退ギヤを設ける必要がない。その場合、更に、ハイブリッド駆動システムによって、車両の1つの車軸が駆動されるのに対して、電気駆動システムは、車両のもう1つの車軸を駆動し、それにより例えば、発進及び後退のために、純粋に電気的な動作で1つの車軸が利用され、ハイブリッド駆動システムを用いてもう1つの車軸が利用される。更に、必要な場合、両方の車軸を利用することができ、それにより例えば、乗用車に適用した場合、全輪駆動システムが得られる。
【0024】
この構造は、ハイブリッド駆動システムにおいて電気機械の発電機動作で生成された電力を純粋に電気的な駆動システムに送ることも可能にし、それによりこの駆動システムの動作は、バッテリの充電状態に依存しない。その場合、本発明によるハイブリッド駆動システムでは、ハイブリッド駆動システムの電気機械の発電機範囲が大きくなる。次に、第2の純粋に電気的に駆動される車軸と組み合わせて、前記範囲を内燃機関の追加の回転数調整のために利用することができる。その場合、前述したように、ハイブリッド駆動システムの電気機械から純粋に電気的に駆動される車軸の電気機械に電力を直接伝達することができる。その場合、構造全体がバッテリを用いることなく、又は前述したようにバッテリの充電状態に関係なく動作されるか、又は動作することもできる。更に、これによって、内燃機関の他の動作点を実現することができる。とりわけ車両のこの構造で明らかになる別の利点は、本発明によるハイブリッド駆動システムの伝動装置内の第1の固定ギヤから最後の固定ギヤまでの幅が比較的大きいことである。この固定ギヤ若しくは機械的ギヤの大きい幅と、これらのギヤの間に仮想ギヤの形態の追加のトルク段を提供する可能性とが、とりわけ純粋に電気的に駆動される車軸との組み合わせにより、例えばサイズや重量等が非常に大きく異なることから駆動部に対する要件が様々に異なる多数の異なった車両に、本発明によるハイブリッド駆動システムを実装することを可能にする。すなわち、本発明によるハイブリッド駆動システムは、設計上及び開発技術上の大幅な調整を必要とせずに、一連の異なる型式に対してフレキシブルに利用することができ、そのことがそのような車両における本発明によるハイブリッド駆動システムの使用を極めて効率的で、安価なものにする。
【0025】
本発明によるハイブリッド駆動システムの更に有利な構成は、各図を参照して以下において更に詳細に説明する2つの実施例からも明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明によるハイブリッド駆動システムの第1の可能な実施形態の模式図である。
【
図2】
図1の本発明によるハイブリッド駆動システムの可能な状態を説明するためのシフトテーブルである。
【
図3】ギヤ段に対するハイブリッド駆動システムの伝動装置の全変速比と電気機械の変速比の経過を示す図である。
【
図4】そのようなハイブリッド駆動システムと追加の電気駆動システムを備えた車両の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1では、内燃機関2と電気機械3を備えるハイブリッド駆動システム1が見て取れる。電気機械3のロータは、ロータギヤ6に相対回転不可能に接続され、ロータギヤは、伝動装置部材としての中間歯車7を介して、全体が4で示される伝動装置の4軸式の遊星歯車装置8に結合されている。その場合、伝動装置4は、その主回転軸に対して上半分のみが示されている。
【0028】
その場合、4軸式の遊星歯車装置8は、第1の遊星歯車セット8.1、及び軸方向にこれに隣接する第2の遊星歯車セット8.2を含む。第1の遊星歯車セット8.1は、第1の太陽歯車8.1.1、及び複数の遊星歯車を有するが、そのうちの1つのみが示されている第1の遊星キャリア8.1.2を含む。第1のリングギヤ8.1.3は、周方向で外側の末端を形成する。第2遊星歯車セット8.2の構造はこれに対応する。第2の遊星歯車セットは、第2の太陽歯車8.2.1、第2の遊星キャリア8.2.2、及び第2のリングギヤ8.2.3を有する。
【0029】
第1の遊星歯車セット8.1の第1のリングギヤ8.1.3は、分離クラッチK0と、任意のねじり振動ダンパ13とを介して内燃機関2のクランク軸5に接続可能である。好ましくは同期を伴わない形状結合式クラッチとして形成され得る分離クラッチK0が閉じられると、内燃機関2若しくはそのクランク軸5が必要な場合に第1のリングギヤ8.1.3に相対回転不可能に結合することができる。2つの遊星歯車キャリア8.1.2及び8.2.2は、一方では相対回転不可能に互いに結合され、他方で第1の入力軸9に結合されている。第1の入力軸9を介して、この第1の入力軸と同軸及び相対回転不可能に配置された第1の固定歯車FBが駆動され、この第1の固定歯車は、第1のアイドラ歯車LBを駆動し、固定歯車とアイドラ歯車は一緒に第1の平歯車対11を形成する。その場合、この第1の平歯車対11は、第1の平歯車副伝動装置Bの唯一の平歯車対であり、この歯車対の第1のアイドラ歯車LBは、副軸12と同軸に配置され、必要な場合に第1のシフト部材SBを介してこの副軸に相対回転不可能に接続することができる。第2の平歯車副伝動装置Aは、第1の入力軸9と同軸に位置する第2の入力軸10上に固定歯車FAを含む。第2の入力軸は、遊星歯車装置8の第2の遊星歯車セット8.2の第2の太陽歯車8.2.1に恒久的に相対回転不可能に接続されている。第2の入力軸10は、第1の入力軸9の周りに輪状歯車として形成されている。この場合、副軸12と同軸に配置された第2のアイドラ歯車LAは、第2の平歯車対14と、これに伴い第2の平歯車副伝動装置Aを補完し、第2のアイドラ歯車は、この1つの平歯車対、すなわち第2の平歯車対14のみを含む。第2のシフト部材SAを介して、第2のアイドラ歯車LAは、必要な場合に副軸12に相対回転不可能に接続可能である。
【0030】
遊星歯車装置8、第1の入力軸9、及び第2の入力軸10は、有利には全部が互いに同軸に配置されるか、若しくは同じ回転軸を有する。
【0031】
副軸12自体は、常に伝動装置4の主回転軸に関係する軸方向aにおいて一部分で出力歯車15を支持する。この出力歯車は、ここに模式的に示されたディファレンシャル16と噛合い、ハイブリッド駆動システム1を装備した車両21(
図4を参照)の従動車軸23がこのディファレンシャルを介して駆動される。
【0032】
その場合、出力歯車15は、遊星歯車装置8と第2の平歯車副伝動装置Aとの間に位置する。したがって、ディファレンシャル16は、少なくとも部分的に軸方向で電気機械3の隣にスライドすることができる。これらは軸方向に重なることもできるが、そのことを一平面に全部が示される歯車セット配置
図1に示すことはできない。ディファレンシャル16は、内燃機関2の可能な限り近くに寄ることができ、そのことが設置スペースに関して有利となる。
【0033】
それに代えて、遊星歯車装置8及び平歯車対11、14の直径が対応する場合、副軸12に相対回転不可能に接続された出力歯車15の配置を遊星歯車装置8に対して軸方向に重なるように形成することも考えられよう。このことによっても、ディファレンシャル16を内燃機関2の非常に近いところに寄せることができ、そのことが小型な構造と、車両21に典型的に存在する設置スペースの理想的な利用を有利に可能にする。
【0034】
2つの変形形態によって、特に、車両21の進行方向に対して横方向の取り付けが問題なく可能になる。
【0035】
ここに示される実施例では、第1のシフト部材SB及び第2のシフト部材SAは統合されて組み合わせ結合シフト部材とされている。これらの2つのシフト部材SA、SBの原理的に考えられる摩擦シフト部材としての実施形態と並んで、2つのシフト部材SA及びSBを唯一のアクチュエータを介して共通のシフトスリーブ及び形状結合式のシフト部との組み合わせシフト部材として形成するこの変形形態は理想的である。配置に関しては、このシフト部材は、好ましくは、ここに示すように第2の平歯車対14の、遊星歯車装置8とは反対側に、したがって副軸12上の2つの平歯車対11、14の間に配置されていてもよい。したがって、その場合、第1、第2、又は両方の平歯車対11、14を選択的に出力歯車15に接続することができる。
【0036】
遊星歯車装置8の部材のうちの2つ、ここに示される実施例では、2つの遊星歯車キャリア8.1.2及び8.2.2と、これらに相対回転不可能に接続された第1の入力軸9及び第2の入力軸10に相対回転不可能に接続された第2の太陽歯車8.2.1は、ここでも好ましくは同期を伴わない形状結合式のシフト部材として形成されているブロッキングシフト部材SKを介して互いに接続することができる。それらのエレメントが相応の回転数である場合、遊星キャリア8.1.2及び8.2.2を第2の太陽歯車8.2.1に接続することによって遊星歯車装置8のエレメント間の相対運動を実現することができる。その場合、遊星歯車装置8はブロックとして周回し、そのためシフト部材SKは一般にブロッキングシフト部材SKと称される。その場合、ブロッキングシフト部材SKは、2つの入力軸9、10、若しくは第2の入力軸10と、第1の入力軸9に相対回転不可能に接続された第1の平歯車副伝動装置Bの固定歯車FBとを互いに接続する。ブロッキングシフト部材は、2つのシフト部材SA、SBと同じ軸方向aの設置スペース内に位置するように配置されている。それによって、このブロッキングシフト部材SKのための追加の軸方向aの設置スペースを節約でき、それに対応して伝動装置4の構造全体を小型に実現することができる。
【0037】
その場合、2つの平歯車副伝動装置A、Bは、殊に非常に大きく異なる変速比を有することができ、第2の平歯車副伝動装置Aの変速比は、第1の平歯車副伝動装置Bの変速比よりはるかに大きくなる。このことは機械的ギヤの広い幅を可能にし、これによりハイブリッド駆動システム1の利用可能なギヤの幅を相応に広くすることを可能にする。
図2の図示にシフトテーブルが示されている。ここでは、第1の列にギヤ段が示されている。第1ギヤ段はG1で示される。これは機械的な固定ギヤであり、これには、後から更に詳しく説明されることになる電気機械3を相応に使用することによって達成できる中間ギヤとしての仮想ギヤ段として形成されている第2ギヤ段V2及び第3ギヤ段V3が続く。次に、第4ギヤ段G4が再び固定ギヤとして形成され、第5ギヤ段V5及び第6ギヤ段V6が再び仮想ギヤとして形成されている。更には、固定ギヤの形態の第7ギヤ段G7が続く。
【0038】
第2の列には、第1のリングギヤ8.1.3と副軸12との間、つまり内燃機関2のクランク軸5と出力部との間の内燃機関全変速比が略語iVMで示されている。第1ギヤ段G1では、この変速比は値14を有し、その後、第7ギヤ段G7の値2まで減少する。続く3つの列は、それぞれシフト部材SA、SB及びブロッキングシフト部材SKの位置を示す。その場合、「x」でシフト部材が係合されたことが示され、「-」でシフト部材が係合解除されたことが示される。すなわち、第1ギヤ段G1では、遊星歯車装置8が相応にブロックされ、第2の平歯車副伝動装置Aの第2のシフト部材SAが閉じ、それによりこれを介して出力される。次いで、第2ギヤ段V2と第3ギヤ段V3では、ブロッキングシフト部材SKが開かれ、第2ギヤ段V2及び第3ギヤ段V3が、シフト部材SA、SBの位置がそのまま変わらず、次の図をもとにして更に詳しく説明される電気機械3の相応の動作によって実施される。
【0039】
次いで、次の固定ギヤである第4ギヤ段G4では、第2のシフト部材SAに加えて、第1のシフト部材SBが係合される。続いて、第5ギヤ段V5では、第2のシフト部材SAが開かれ、電気機械を介して第5及び第6ギヤ段V5、V6が順番に実現される。次に、最後の固定ギヤである第7ギヤ段G7では、第1のシフト部材SBが閉じることに加えてブロッキングシフト部材SKも閉じられる。
【0040】
図3では、このシフト手順が再度示され、実線、及びこの場合も符号iVMで、
図2のテーブルに対応して内燃機関全変速比が示されるのに対して、破線、及び符号iEMで、第1の太陽歯車8.1.3、すなわち遊星歯車装置8における電気機械の接続部と、副軸12との間の全変速比が示されている。その場合、ハッチングされたブロックで、電気機械3の発電機動作が示され、クロスハッチングでモータ動作が示される。これは、実線で示される内燃機関全変速比を上記のテーブルの意味において取得するために、x軸上にプロットされた個々のギヤ段G1、G2、G3、G4、G5、G6、G87では、最初の2つのギヤ段G1及びV2において電気機械3が正方向に回転し、ハッチングされた帯によって示されるように、発電機として動作することを意味する。それに続いて、第3の仮想ギヤである第3ギヤ段V3では、電気機械が停止し、すなわち回転数がゼロであり、それに応じてy軸にプロットされるような対応する変速比を有する。第4ギヤである第4ギヤ段G4では、電気機械3が、クロスハッチングで示されるようにモータ動作であるが、負の、すなわち最初の2つのギヤ段G1及びV2とは逆の符号の回転方向で動作する。次いで、仮想の第5ギヤ段V5では、電気機械3は、引き続き逆の回転方向で再びその発電機動作に切り替わり、その後、再び第6の仮想ギヤ若しくは第6ギヤ段V6になり、続いて、第7ギヤ段G7で、モータ動作で、すなわち2つの最初のギヤ段G1及びV1における以前の発電機動作と同じ正の回転方向で動作する。
【0041】
したがって、y軸上のゼロ線よりも下の負の変速比の領域は負の回転方向を示し、負の回転方向では、電気機械3は、モータ動作及び発電機動作の両方で内燃機関2とは逆に回転するのに対して、ゼロ線より上の領域では、電気機械3は、同様にモータ動作及び発電機動作の両方で、内燃機関2の回転方向と同じ正の回転方向になる。
【0042】
次に、ハイブリッド駆動システム1は、特に
図4に示される車両21を駆動するために使用することができる。その場合、ハイブリッド駆動システム1の簡潔な、且つ必要な部品点数を減らした構造は、とりわけ、例えば後退ギヤを形成する、及び/又は発進を実現するか、或いはハイブリッド駆動システム1を補完する形で補助することができる純粋に電気的な追加の駆動システム22と組み合わせることで意味をなす。その場合、特に、ハイブリッド駆動システム1及び電気駆動システム22は、1つの、ここでは例えばハイブリッド駆動システム1が車両21の第1の従動車軸、例えばフロント車軸23を駆動し、電気駆動システム22がもう1つの従動車軸、ここではリア車軸24を駆動するように配置することができる。その場合、両頭矢印25で示される2つのシステム1、22の結合は、図示されない駆動制御装置及び同様に図示されないバッテリシステムを介して純粋に電気的に行われる。
【0043】
その場合、ハイブリッドシステム1を介してその電気機械3を発電機動作させることができ、それにより電気駆動システム22に電力が供給されるため、駆動部の電気的補助は、バッテリがほとんど空になってもなお可能である。